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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G03G
管理番号 1366038
異議申立番号 異議2019-700960  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-28 
確定日 2020-07-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6520854号発明「正帯電積層型電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び画像形成装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6520854号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正することを認める。 特許第6520854号の請求項1?16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6520854号の請求項1?16に係る特許についての出願は、平成28年7月25日に特許出願され、令和元年5月10日にその特許権の設定登録がされ、令和元年5月29日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、令和元年11月28日に特許異議申立人菊池和江(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和2年1月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和2年3月16日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)があり、その訂正の請求に対して異議申立人から令和2年4月17日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、「特許第6520854号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?16について訂正することを求める。」というものである。

2 訂正の内容
本件訂正の訂正内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記第一バインダー樹脂の質量に対する2種以上の前記電子輸送剤の合計質量の比率は、0.45以上であり、」
と記載されているのを、
「前記第一バインダー樹脂の質量に対する2種以上の前記電子輸送剤の合計質量の比率は、0.45以上0.80以下であり、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?16も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「前記電荷発生層の質量に対する前記第一バインダー樹脂の質量の比率は、0.50未満である」
と記載されているのを、
「前記電荷発生層の質量に対する前記第一バインダー樹脂の質量の比率は、0.40以上0.50未満である」
に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4?16も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に
「前記第一バインダー樹脂の質量に対する2種又は3種の前記電子輸送剤の合計質量の比率は、0.60以上であり、」
と記載されているのを、
「前記第一バインダー樹脂の質量に対する2種又は3種の前記電子輸送剤の合計質量の比率は、0.60以上0.80以下であり、」
に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7?16も同様に訂正する。)。

(4)一群の請求項
本件訂正請求は、一群の請求項〔1?16〕に対して請求されたものである。

3 訂正の目的の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、第一バインダー樹脂の質量に対する2種以上の電子輸送剤の合計質量の比率について、「0.80以下」とする限定を付加する訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、電荷発生層の質量に対する第一バインダー樹脂の質量の比率について、「0.40以上」とする限定を付加する訂正である。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、第一バインダー樹脂の質量に対する2種又は3種の前記電子輸送剤の合計質量の比率について、「0.80以下」とする限定を付加する訂正である。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

4 新規事項の有無
(1)訂正事項1について
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0048】に、「第一バインダー樹脂の質量(M_(RESIN))に対する2種以上(好ましくは2種又は3種)の電子輸送剤の合計質量(M_(ETM))の比率(M_(ETM)/M_(RESIN))は、0.45以上であることが好ましい。転写メモリーの発生を更に抑制するためには、比率(M_(ETM)/M_(RESIN))は、0.60以上であることがより好ましい。転写メモリーの発生及び電荷発生層の結晶化を一層抑制するためには、比率(M_(ETM)/M_(RESIN))は、0.60以上0.80以下であることが更に好ましく、0.70以上0.80以下であることが特に好ましい。」と記載されている。当該記載に基づけば、本件特許の願書に添付した明細書には、第一バインダー樹脂の質量に対する2種以上の電子輸送剤の合計質量の比率について、「0.80以下」とすることが記載されていたといえる。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0050】に、「電荷発生層の質量(M_(L))に対する第一バインダー樹脂の質量(M_(RESIN))の比率(M_(RESIN)/M_(L))は、0.55以下であることが好ましく、0.50未満であることがより好ましく、0.40以上0.50未満であることが更に好ましい。」と記載されている。当該記載に基づけば、本件特許の願書に添付した明細書には、電荷発生層の質量に対する第一バインダー樹脂の質量の比率について、「0.40以上」とすることが記載されていたといえる。
したがって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
本件特許の願書に添付した明細書の上記段落【0048】の記載に基づけば、本件特許の願書に添付した明細書には、第一バインダー樹脂の質量に対する2種以上の電子輸送剤の合計質量の比率について、「0.80以下」とすることが記載されていたといえる。
したがって、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

5 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1?3による訂正は、いずれも数値範囲を減縮するものであるから、事実上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1?3による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

6 むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正は、前記第2のとおり、認められることになったので、本件特許の請求項1?16に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明16」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
導電性基体と電荷輸送層と電荷発生層とを備える正帯電積層型電子写真感光体であって、
前記導電性基体の上に前記電荷輸送層が備えられ、前記電荷輸送層の上に前記電荷発生層が備えられ、
前記電荷発生層は、電荷発生剤と電子輸送剤と第一正孔輸送剤と第一バインダー樹脂とを含有し、
前記電子輸送剤は、下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの2種以上を含み、
前記第一バインダー樹脂の質量に対する2種以上の前記電子輸送剤の合計質量の比率は、0.45以上0.80以下であり、
2種以上の前記電子輸送剤の合計質量は、前記第一正孔輸送剤の質量よりも多い、正帯電積層型電子写真感光体。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

前記一般式(1)、(2)及び(3)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(8)、R^(9)、R^(10)、R^(11)、R^(12)、R^(13)及びR^(14)は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数2以上6以下のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基又は置換基を有してもよい炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル基を表し、
前記一般式(4)中、R^(6)及びR^(7)は、各々独立して、
炭素原子数1以上6以下のアルキル基を少なくとも1つ有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、
フェニルカルボニル基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、
炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、
炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基を有してもよい炭素原子数1以上8以下のアルキル基、及び
炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基
からなる群より選択される基を表し、選択される前記基は1つ以上のハロゲン原子で置換されてもよい。
【請求項2】
前記第一正孔輸送剤の質量に対する2種以上の前記電子輸送剤の合計質量の比率は、1.00より大きく1.60以下である、請求項1に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項3】
前記電荷発生層の質量に対する前記第一バインダー樹脂の質量の比率は、0.40以上0.50未満である、請求項1又は2に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項4】
前記一般式(1)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、各々独立して、炭素原子数6以上14以下のアリール基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、水素原子、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又は炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル基を表し、
前記一般式(2)中、R^(8)、R^(9)、R^(10)及びR^(11)は、各々独立して、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又は炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル基を表し、
前記一般式(3)中、R^(12)及びR^(13)は、各々独立して、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表し、R^(14)は、ハロゲン原子を表し、
前記一般式(4)で表される化合物は、下記条件(4-A)又は(4-B)を満たす、請求項1?3の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
(4-A)R^(6)及びR^(7)は、各々独立して、
炭素原子数1以上6以下のアルキル基を少なくとも1つ有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、又は
炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基を有してもよい炭素原子数1以上8以下のアルキル基を表す。
(4-B)R^(6)及びR^(7)は、各々独立して、
炭素原子数1以上6以下のアルキル基を少なくとも1つ有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、
フェニルカルボニル基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、
炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、
炭素原子数1以上8以下のアルキル基、及び
炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基
からなる群より選択される基を表し、選択される前記基は1つ以上のハロゲン原子で置換されてもよく、R^(6)及びR^(7)のうち少なくとも一方が1つ以上のハロゲン原子を有する。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記化学式(ET1-3)、(ET1-6)又は(ET1-12)で表される化合物であり、
前記一般式(2)で表される化合物は、下記化学式(ET2-4)、(ET2-6)又は(ET2-7)で表される化合物であり、
前記一般式(3)で表される化合物は、下記化学式(ET3-1)、(ET3-2)又は(ET3-3)で表される化合物であり、
前記条件(4-A)を満たす前記一般式(4)で表される化合物は、下記化学式(ET4-1)、(ET4-2)又は(ET4-4)で表される化合物であり、
前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物は、(ET4-5)、(ET4-6)又は(ET4-7)で表される化合物である、請求項4に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【請求項6】
2種以上の前記電子輸送剤は、2種又は3種の前記電子輸送剤であり、
前記第一バインダー樹脂の質量に対する2種又は3種の前記電子輸送剤の合計質量の比率は、0.60以上0.80以下であり、
前記電子輸送剤が2種であるとき、2種の前記電子輸送剤は、
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物、
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物、
前記一般式(2)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物、
前記条件(4-A)を満たす前記一般式(4)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物、
前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物、又は
前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物のうちの2種であり、
前記電子輸送剤が3種であるとき、3種の前記電子輸送剤は、前記一般式(1)で表される化合物、前記一般式(2)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物である、請求項4又は5に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項7】
2種以上の前記電子輸送剤は、2種の前記電子輸送剤であり、
2種の前記電子輸送剤は、
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物、又は
前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物のうちの2種である、請求項4?6の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項8】
2種以上の前記電子輸送剤は、2種の前記電子輸送剤であり、
2種の前記電子輸送剤の少なくとも1種は、前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物である、請求項4?7の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項9】
前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物は、下記化学式(ET4-5)、(ET4-6)又は(ET4-7)で表される化合物である、請求項8に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【化20】

【化21】

【化22】

【請求項10】
前記電荷輸送層は、第二正孔輸送剤と第二バインダー樹脂とを含有する、請求項1?9の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項11】
前記電荷発生層は、最表面層として備えられる、請求項1?10の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項12】
請求項1?11の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体を備える、プロセスカートリッジ。
【請求項13】
請求項1?11の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体と、帯電部と、露光部と、現像部と、転写部とを備える画像形成装置であって、
前記帯電部は、前記正帯電積層型電子写真感光体の表面を正極性に帯電し、
前記露光部は、帯電された前記正帯電積層型電子写真感光体の前記表面を露光して、前記正帯電積層型電子写真感光体の前記表面に静電潜像を形成し、
前記現像部は、前記静電潜像にトナーを供給して、前記静電潜像をトナー像として現像し、
前記転写部は、前記正帯電積層型電子写真感光体から被転写体へ前記トナー像を転写する、画像形成装置。
【請求項14】
前記現像部は、供給ローラーと、現像ローラーと、規制ブレードとを備え、
前記供給ローラーは、非磁性一成分現像剤である前記トナーを、現像ローラーに供給し、
前記現像ローラーは、前記現像ローラーの表面に、前記トナーを含むトナー層を保持し、
前記規制ブレードは、前記現像ローラーの前記表面に保持された前記トナー層の厚さを規制し、
厚さが規制された前記トナー層に含まれる前記トナーが、前記現像ローラーの前記表面から前記静電潜像に供給されて、前記静電潜像が前記トナー像として現像される、請求項13に記載の画像形成装置。
【請求項15】
前記現像部は、前記正帯電積層型電子写真感光体の前記表面を清掃する、請求項13又は14に記載の画像形成装置。
【請求項16】
前記被転写体へ前記トナー像が転写された前記正帯電積層型電子写真感光体の前記表面の領域は、除電されることなく前記帯電部によって再び帯電される、請求項13?15の何れか一項に記載の画像形成装置。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和2年1月22日付けで通知した取消理由の概要は、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。

2 当審の判断
本件訂正により、「前記第一バインダー樹脂の質量に対する2種以上の前記電子輸送剤の合計質量の比率」の上限値、「前記電荷発生層の質量に対する前記第一バインダー樹脂の質量の比率」の下限値、「前記第一バインダー樹脂の質量に対する2種又は3種の前記電子輸送剤の合計質量の比率」の上限値が特定された。その結果、本件訂正後の特許請求の範囲に、上限又は下限だけを示すような数値範囲限定はなくなった。
本件特許発明は明確であるということができるから、上記取消理由によっては、もはや本件特許を取り消すことはできない。

3 異議申立人の意見について
異議申立人は、令和2年4月17日付けの意見書において、「訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、依然として、電子輸送剤の合計質量が、第一正孔輸送剤の質量に対して制限なく多いもの、つまり、第一正孔輸送剤の質量が0に近いものも文言上含むものであり、取消理由通知書に記載されているとおり、そのような質量比率で各構成を含む場合においてまで、形成された層が、正帯電積層型電子写真感光体の電荷発生層として必要十分な特性を備えたものと言えるか不明であるため、訂正後の本件特許の請求項1に係る発明の記載は明確であるとはいえない。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明は、「正帯電積層型電子写真感光体」に関する発明(本件特許発明1?11)、又は、本件特許発明1?11の「正帯電積層型電子写真感光体」を備える「プロセスカートリッジ」(本件特許発明12)もしくは「画像形成装置」(本件特許発明13?16)であるから、数値範囲の特定のない各構成については、通常の「正帯電積層型電子写真感光体」等として機能するものと理解できる。
したがって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、ということはできない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第2項
(1)特許異議申立理由の概略
異議申立人がした、特許法第29条第2項についての特許異議申立理由の概略は、本件特許発明1?16は、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明から想到容易であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

(2)当審の判断
ア 甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
(ア)甲第1号証の記載事項
本件特許の出願前の平成26年8月14日に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2014-146005号公報)には、(図面とともに)以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。以下の文献についても同様である。

a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体上に、(I)少なくとも正孔輸送材料とバインダー樹脂からなる電荷輸送層、(II)少なくとも電荷発生材料、電子輸送材料、正孔輸送材料、及びバインダー樹脂を同一層内に含む電荷発生・輸送層が、少なくともこの順で積層された正帯電型の電子写真感光体において、前記電荷輸送層と、前記電荷発生・輸送層におけるバインダー樹脂が異なるものであり、どちらか一方にポリビニルアセタール樹脂を含有することを特徴とする正帯電型電子写真感光体。

(中略)

【請求項4】
像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための帯電部と、
帯電された前記像担持体の表面を露光して前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写部と、を備え、前記像担持体が、請求項1?3のいずれか1項に記載の正帯電型電子写真感光体である、画像形成装置。」

b 「【技術分野】
【0001】
本発明は、正帯電型電子写真感光体及びそれを用いた画像形成装置に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、単層型の電子写真感光体は電荷発生材料を均一に感光層全体に分散させるため、電荷発生領域は感光層の表層及びその近傍が主であり、それ以外の領域の電荷発生材料はかえって電荷輸送の妨げとなるという問題があった。そのため、従来の単層型感光体は感度の点で十分なものとはいえなかった。
【0008】
本発明は、従来の正帯電単層型電子写真感光体よりも、更に高感度化した正帯電型電子写真感光体を提供することを目的とする。また、本発明は、当該正帯電型電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、電荷輸送機能を有する材料とバインダー樹脂からなる第1層と電荷発生材料、電子輸送材料、正孔輸送材料、及びバインダー樹脂を同一層内に含む第2層の間に特定の樹脂を含有する中間層を設けることにより、浸漬塗工が可能であり、電荷輸送速度が速く高感度であることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0010】
本発明の第一の態様の正帯電型電子写真感光体は、導電性基体上に、(I)少なくとも正孔輸送材料とバインダー樹脂からなる電荷輸送層、(II)少なくとも電荷発生材料、電子輸送材料、正孔輸送材料、及びバインダー樹脂を同一層内に含む電荷発生・輸送層が、少なくともこの順で積層された正帯電型の電子写真感光体において、前記電荷輸送層と、前記電荷発生・輸送層におけるバインダー樹脂が異なるものであり、どちらか一方にポリビニルアセタール樹脂を含有することを特徴とする。

(中略)

【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の正帯電単層型電子写真感光体よりも、更に高感度化した正帯電型電子写真感光体を提供することができる。また、本発明によれば、当該正帯電型電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置を提供することができる。」

c 「【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0016】
[第一実施態様]
本発明の第一の態様の正帯電型電子写真感光体は、導電性基体上に、(I)少なくとも正孔輸送材料とバインダー樹脂からなる電荷輸送層、(II)少なくとも電荷発生材料、電子輸送材料、正孔輸送材料、及びバインダー樹脂を同一層内に含む電荷発生・輸送層が、少なくともこの順で積層された正帯電型の電子写真感光体において、前記電荷輸送層と、前記電荷発生・輸送層におけるバインダー樹脂が異なるものであり、どちらか一方にポリビニルアセタール樹脂を含有することを要する。

(中略)

【0020】
〔導電性基体〕
導電性基体は、電子写真感光体の導電性基体として用いることができるものであれば、特に限定されない。

(中略)

【0022】
〔電荷輸送層〕
電荷輸送層は、少なくとも正孔輸送材料(HTM)とバインダー樹脂を含有する。ここで、使用される正孔輸送材料としては、通常の電子写真感光体の感光層に含まれる正孔輸送材料として用いることができるものであれば、特に限定されない。

(中略)

【0023】
バインダー樹脂としては、電子写真感光体の感光層に含まれるバインダー樹脂として用いることができるものであれば、特に限定されない。

(中略)

【0027】
〔電荷発生・輸送層〕
電荷発生・輸送層は、電荷輸送層上に設けられ、同一層内に少なくとも電荷発生材料(CGM)、電子輸送材料(ETM)、正孔輸送材料(HTM)及びバインダー樹脂を含む。ここで使用される電荷発生材料、電子輸送材料、正孔輸送材料及びバインダー樹脂は、従来から電子写真感光体の感光層の調製に使用されているものであれば、特に限定されることなく使用することができる。

(中略)

【0029】
電荷発生・輸送層に使用される電子輸送材料(ETM)の具体例としては、ナフトキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、アントラキノン誘導体、アゾキノン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体等のキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7-テトラニトロ-9-フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8-トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。電子輸送材料は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。

(中略)

【0034】
電荷発生・輸送層中の電荷発生材料(CGM)、電子輸送材料(ETM)、正孔輸送材料(HTM)、及びバインダー樹脂の各含有量は、適宜選定され特に限定されない。具体的には、例えば、電荷発生材料の含有量は、バインダー樹脂に対して、1wt%以上20wt%以下であることが好ましく、2wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。電子輸送材料(ETM)の含有量は、バインダー樹脂に対して、15wt%以上120wt%以下であることが好ましく、30wt%以上100wt%以下であることがより好ましい。正孔輸送材料(HTM)の含有量は、バインダー樹脂に対して、15wt%以上120wt%以下であることが好ましく、20wt%以上90wt%以下であることがより好ましい。各材料の使用料がこの範囲内であれば、感光体を正に帯電して本発明の条件で測定した電位の絶対値差を小さくでき、転写メモリが発生しにくくなる

(中略)

【0052】
本発明の画像形成装置としては、周知のものが特に限定されることなく採用できる。なかでも、モノクロ画像形成装置や、後述するような複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が好ましい。より具体的には、例えば、後述するような複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が挙げられる。ここでは、タンデム方式のカラー画像形成装置について説明する。

(中略)

【0054】
図2は、本発明の実施形態にかかる正帯電型電子写真感光体を備えた画像形成装置の構成を示す概略図である。ここでは、画像形成装置としては、カラープリンター1を例に挙げて説明する。
【0055】
このカラープリンター1は、図2に示すように、箱型の機器本体1aを有している。この機器本体1a内には、用紙Pを給紙する給紙部2と、この給紙部2から給紙された用紙Pを搬送しながら当該用紙Pに画像データ等に基づくトナー像を転写する画像形成部3と、この画像形成部3で用紙P上に転写された未定着トナー像を用紙Pに定着する定着処理を施す定着部4とが設けられている。更に、機器本体1aの上面には、定着部4で定着処理の施された用紙Pが排紙される排紙部5が設けられている。

(中略)

【0058】
画像形成部3は、画像形成ユニット7と、この画像形成ユニット7によってその表面(接触面)にコンピューター等から電送された画像データに基づくトナー像が1次転写される中間転写ベルト31と、この中間転写ベルト31上のトナー像を給紙カセット121から送り込まれた用紙Pに2次転写させるための2次転写ローラー32とを備えている。
【0059】
画像形成ユニット7は、上流側(図2では右側)から下流側に向けて順次配設されたブラック用ユニット7Kと、イエロー用ユニット7Yと、シアン用ユニット7Cと、マゼンタ用ユニット7Mとを備えている。各ユニット7K,7Y,7C及び7Mは、それぞれの中央位置に像担持体としての正帯電型電子写真感光体37(以下、感光体37)が矢符(時計回り)方向に回転可能に配置されている。そして、各感光体37の周囲には、帯電部39、露光部38、現像部71、不図示のクリーニング部及び除電部としての除電器等が、回転方向上流側から順に各々配置されている。本発明においては、除電器による除電工程を有さないものも良好に画像を形成できるので、省スペース化を図ることが可能である。
【0060】
帯電部39は、矢符方向に回転されている電子写真感光体37の周面を均一に帯電させる。帯電部39は、電子写真感光体37の周面を均一に帯電させることができれば特に制限されず、非接触方式であっても接触方式であってもよい。帯電部の具体例としては、コロナ帯電装置、帯電ローラー、帯電ブラシ等が挙げられ、帯電ローラー、帯電ブラシ等の接触方式の帯電装置がより好ましい。接触方式の帯電部39を使用することにより、帯電部39から発生するオゾンや窒素酸化物等の活性ガスの排出を抑え、活性ガスによる電子写真感光体の感光層の劣化を防止するとともに、オフィス環境等に配慮した設計をすることができる。

(中略)

【0064】
露光部38は、いわゆるレーザー走査ユニットであり、帯電部39によって均一に帯電された感光体37の周面に、上位装置であるパーソナルコンピューター(PC)から入力された画像データに基づくレーザー光を照射し、感光体37上に画像データに基づく静電潜像を形成する。現像部71は、静電潜像が形成された感光体37の周面にトナーを供給することで、画像データに基づくトナー像を形成させる。そして、このトナー像が中間転写ベルト31に1次転写される。クリーニング部は、中間転写ベルト31へのトナー像の1次転写が終了した後、感光体37の周面に残留しているトナーを清掃する。クリーニング部によって清浄化処理された感光体37の周面は、新たな帯電処理のために帯電部へ向かい、新たな帯電処理が行われる。

(中略)

【0065】
中間転写ベルト31は、無端状のベルト状回転体であって、表面(接触面)側が各感光体37の周面にそれぞれ当接するように駆動ローラー33、従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36等の複数のローラーに架け渡されている。また、中間転写ベルト31は、各感光体37と対向配置された1次転写ローラー36によって感光体37に押圧された状態で、複数のローラーによって無端回転するように構成されている。駆動ローラー33は、ステッピングモータ等の駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト31を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36は、回転自在に設けられ、駆動ローラー33による中間転写ベルト31の無端回転に伴って従動回転する。これらのローラー34,35,36は、駆動ローラー33の主動回転に応じて中間転写ベルト31を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト31を支持する。
【0066】
1次転写ローラー36は、1次転写バイアス(トナーの帯電極性とは逆極性)を中間転写ベルト31に印加する。そうすることによって、各感光体37上に形成されたトナー像は、各感光体37と1次転写ローラー36との間で、駆動ローラー33の駆動により矢符(反時計回り)方向に周回する中間転写ベルト31に重ね塗り状態で順次転写(1次転写)される。本発明においては、印加電流は8μA以上で使用することが可能である。
【0067】
2次転写ローラー32は、トナー像と逆極性の2次転写バイアスを用紙Pに印加する。そうすることによって、中間転写ベルト31上に1次転写されたトナー像は、2次転写ローラー32とバックアップローラー35との間で用紙Pに転写され、これによって、用紙Pにカラーの転写画像(未定着トナー像)が転写される。

(中略)

【0071】
カラープリンター1は、以上のような画像形成動作によって、用紙P上に画像形成を行う。そして、上記のような画像形成装置では、像担持体として、本発明の実施形態にかかる正帯電型電子写真感光体が備えられているので、転写メモリーの影響のない好適な画像を形成することができる。」

d 「【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0073】
〔感光体の作製〕
[電荷輸送層用塗布液の調整]
下表1に記載の種類及び量の正孔輸送材料(HTM)、下表1に記載の種類及び量の粘度平均分子量25000のバインダー樹脂、及びテトラヒドロフラン800質量部を、表1のとおりの配合量でボールミルに加え、10時間、混合し電荷輸送層用の塗布液CT1-1?CT1-8及びCT2-1?CT2-9を調製した。ここで、CT2-1?9は、バインダー樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂が添加された塗布液である。

(中略)

【0079】
[電荷発生・輸送層用塗布液の調整]
それぞれ下表2に記載の種類及び量である電荷発生材料(CGM)、正孔輸送材料(HTM)、電子輸送材料(ETM)、及び粘度平均分子量40000のバインダー樹脂と、テトラヒドロフラン1000質量部とを、ボールミルに加え、50時間、混合、分散処理し、電荷発生・輸送層用の塗布液GT1-1?GT1-17及びGT2-1及びGT2-6を調製した。ここで、GT2-1?6は、バインダー樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂が添加された塗布液である。
【0080】
【表2】


(中略)

【0083】
(電子輸送材料(ETM))
【化5】

【0084】
[実施例1?49及び比較例1?7]
表3?5に記載の種類の塗布液をディップコート法により塗布して、表3?5に記載の膜厚である、第一電荷輸送層、第二電荷輸送層、及び電荷発生・輸送層のうちの1以上の層を導電性基体上に形成して、実施例1?49及び比較例1?7の二層型又は三層型の正帯電型電子写真感光体を得た。」

(イ)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の記載事項cに基づけば、甲第1号証には、第一の態様の正帯電型電子写真感光体として、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていたと認められる。
「導電性基体上に、(I)少なくとも正孔輸送材料とバインダー樹脂からなる電荷輸送層、(II)少なくとも電荷発生材料、電子輸送材料、正孔輸送材料、及びバインダー樹脂を同一層内に含む電荷発生・輸送層が、少なくともこの順で積層された正帯電型の電子写真感光体において、
前記電荷輸送層と、前記電荷発生・輸送層におけるバインダー樹脂が異なるものであり、どちらか一方にポリビニルアセタール樹脂を含有し、
電荷発生・輸送層に使用される電子輸送材料(ETM)の具体例としては、ナフトキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、アントラキノン誘導体、アゾキノン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体等のキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7-テトラニトロ-9-フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8-トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が挙げられ、電子輸送材料は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、
電子輸送材料(ETM)の含有量は、バインダー樹脂に対して、30wt%以上100wt%以下であることがより好ましく、正孔輸送材料(HTM)の含有量は、バインダー樹脂に対して、20wt%以上90wt%以下であることがより好ましく、感光体を正に帯電して本発明の条件で測定した電位の絶対値差を小さくでき、転写メモリが発生しにくくなる、
正帯電型電子写真感光体。」

(ウ)甲第2号証の記載事項
本件特許の出願前の平成26年9月8日に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2014-164275号公報)には、以下の記載事項がある。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子輸送材料と、特定の構造の化合物の群から選択される2種以上の正孔輸送材料とを組み合わせて感光層中に含む正帯電単層型電子写真感光体と、当該正帯電単層型電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置とに関する。

(中略)


【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、転写メモリーを抑制することにより画像不良の発生を抑制できる正帯電単層型電子写真感光体を提供することを目的とする。また、本発明は前述の正帯電単層型電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、正帯電単層型電子写真感光体の感光層に、特定の構造の化合物の群から選択される2種以上の化合物を含む電子輸送材料を含有させることにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0012】
本発明の第一の態様は、
導電性基体上に、少なくとも電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、及びバインダー樹脂を含む単層構造の感光層が形成されており、
前記電子輸送材料が、下記式(1)?(4):
【化2】

〔式(1)?(4)中、R^(1)?R^(12)は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもより複素環基からなる群より選択される基であり、
R^(13)は、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもより複素環基からなる群より選択される基である。〕
で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を含む、正帯電単層型電子写真感光体である。

(中略)

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、転写メモリーを抑制することにより画像不良の発生を抑制できる正帯電単層型電子写真感光体と、前述の正帯電単層型電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置と、を提供することができる。」

b 「【0022】
〔感光層〕
正帯電単層型電子写真感光体が備える感光層は、少なくとも電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、及びバインダー樹脂を含む単層構造の感光層である。単層構造の感光層に含まれる電子輸送材料は、下記式(1)?(4):
【化3】

〔式(1)?(4)中、R^(1)?R^(12)は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもより複素環基からなる群より選択される基であり、
R^(13)は、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもより複素環基からなる群より選択される基である。〕
で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を含有する。
【0023】
正帯電単層型電子写真感光体の感光層に、式(1)?(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を含む電子輸送材料を含有させることで、画像形成工程の転写工程において発生する転写メモリーを抑制することができる。以下、画像形成工程において発生する転写メモリーについて説明する。
【0024】
一般に、電子写真方式を利用した画像形成工程は、帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程、除電工程等を含む。最初の工程である帯電工程においては、像担持体表面である正帯電単層型電子写真感光体の表面は、一様に一定電位まで帯電されることにより、正の電荷を有することとなる。次に、露光工程においては、一定電位まで帯電された正帯電単層型電子写真感光体の表面は、露光され、これにより静電潜像が形成される。
【0025】
さらに、現像工程においては、上記露光された部分にトナーが付与されることにより、トナー像が形成され、静電潜像が可視化される。そして、転写工程においては、正帯電単層型電子写真感光体の表面に形成されたトナー像は、中間転写体に転写される。ここで、上記トナー像を上記中間転写体に転写する工程では、この中間転写体に正帯電単層型電子写真感光体の電荷と逆極性である負極性のバイアスが印加される。
【0026】
上記中間転写体に負極性のバイアスが印加される際に、上記露光された部分は、その表面にトナー像を構成するトナーを有するため、上記負極性のバイアスが印加されても帯電時の極性(正極性)を維持する。しかしながら、露光されなかった部分は、その表面にトナー像を構成するトナーを有しないため、負極性のバイアスにより、帯電と逆極性(負極性)の電荷を有してしまうこととなる。その結果、正帯電単層型電子写真感光体上の露光された部分と露光されなかった部分とは、異なる極性の電位を有することとなり、この電位差が、以降の画像形成時において転写メモリー発生の原因となる。
【0027】
そこで、本発明においては、転写メモリーの原因となっている上記露光されなかった部分の負極性の電荷を、式(1)?(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を含む電子輸送材料を感光層に含有させることにより消失させ、転写工程において発生する転写メモリーを抑制する。」

c 「【0050】
電子輸送材料は、式(1)?(4)で表される化合物のみからなるのが好ましいが、本発明の目的を阻害しない範囲で、式(1)?(4)で表される化合物以外の他の電子輸送材料を含んでいてもよい。式(1)?(4)で表される化合物以外の他の電子輸送材料好適な電子輸送材料の具体例としては、ナフトキノン誘導体、式(1)で表される化合物の他のジフェノキノン誘導体、アントラキノン誘導体、式(4)で表される化合物の他のアゾキノン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体等のキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7-テトラニトロ-9-フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8-トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、及びジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。
【0051】
電子輸送材料が式(1)?(4)で表される化合物以外の他の電子輸送材料を含んでいる場合、電子輸送材料中の式(1)?(4)で表される化合物の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0052】
式(1)?(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物の還元電位は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。式(1)?(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物の、それぞれの還元電位は、典型的には-1.05?-0.80V(vs. Ag/Ag^(+))であるのが好ましい。還元電位の値がかかる範囲内である式(1)?(4)で表される化合物を2種以上組み合わせて用いる場合、特に、転写メモリーを良好に抑制でき、ゴースト等の不具合のない良好な画像を形成できる。還元電位は、以下の方法により測定できる。」

d 「【0062】
(正帯電単層型電子写真感光体の製造方法)
正帯電単層型電子写真感光体の製造方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。正帯電単層型電子写真感光体の製造方法の好適な例としては、感光層用の塗布液を導電性基体上に塗布して感光層を形成する方法が挙げられる。具体的には、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、バインダー樹脂、及び必要に応じて各種添加剤等を溶剤に溶解又は分散させた塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、感光層を製造することができる。塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコーター、アプリケーター、スプレーコーター、バーコーター、ディップコーター、ドクターブレード等を用いる方法が挙げられる。また、導電性基体上に形成された塗膜の乾燥方法としては、例えば、80?150℃で15?120分間の条件で熱風乾燥する方法等が挙げられる。
【0063】
正帯電単層型電子写真感光体において、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、及びバインダー樹脂の各含有量は、適宜選定され、特に限定されない。具体的には、例えば、電荷発生材料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.1?50質量部が好ましく、0.5?30質量部がより好ましい。電子輸送材料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5?100質量部が好ましく、10?80質量部がより好ましい。正孔輸送材料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5?500質量部であることが好ましく、25?200質量部であることがより好ましい。また、正孔輸送材料と電子輸送材料との総量、すなわち、電荷輸送材料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、20?500質量部であることが好ましく、30?200質量部であることがより好ましい。」

e 「【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0090】
実施例、及び比較例では、以下の電子輸送材料(ETM-1?11)を使用した。
【0091】
<電子輸送材料>
【化8】

【化9】


(中略)

【0096】
実施例及び比較例では、電荷発生材料として式(I)で表されるX型無金属フタロシアニン(X-H_(2)Pc)を用いた。
【0097】
また、実施例及び比較例では、バインダー樹脂として、以下のResin-1と、正孔輸送材料として、以下のHTM-1とを用いた。
【0098】
<バインダー樹脂>
【化10】

【0099】
<正孔輸送材料>
【化11】

【0100】
〔実施例1?31、及び比較例1?10〕
実施例1?31、及び比較例1?10では、電子輸送材料として、表2及び表3に記載の2種類の電子輸送材料ETM-A及びETM-Bを用いた。これらの電子輸送材料は、ETM-Bの質量(W_(B))に対する、ETM-Aの質量(W_(A))の割合(W_(A)/W_(B))が、表2の記載の数値となるように配合して用いた。
【0101】
電子輸送材料35質量部、電荷発生材料5質量部、バインダー樹脂(Resin-1)100質量部、正孔輸送材料(HTM-1)50質量部、及びテトラヒドロフラン800質量部をボールミルに加え、50時間、混合、分散処理し、感光層用の塗布液を調製した。得られた塗布液を導電性基板上にディップコート法により塗布し、100℃で40分間処理して塗膜よりテトラヒドロフランを除去して、膜厚30μmの感光層を備える正帯電単層電子写真感光体を得た。

(中略)

【0103】
<画像評価>
実施例及び比較例で得られた正帯電単層型電子写真感光体を、直流電圧を印加する帯電ローラーを帯電部として備えるプリンター(FS-5250DN、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製)に装着し、転写バイアスをオフした時の白紙部電位と転写バイアスをオンした時の白紙部電位との差を転写メモリーとして評価した。なお、評価に用いたプリンターは、帯電部としては、帯電性ゴムのローラー(エピクロルヒドリン樹脂に導電性カーボンを分散させたもの)を用い、転写方式としては、ドラム上のトナー像を転写ベルトに転写し、その後紙媒体にトナー像を転写する、中間転写方式を採用する。また1時間耐久印刷した後、評価用画像を印刷し、画像不良について評価した。帯電部に直流電圧を印加する帯電ローラーを備えた評価用プリンターを用いて、1時間耐久印刷した後
、印字画像を観察し画像不良の発生の有無を観察した。画像不良の有無を、下記基準に従って評価し、◎、及び○の評価を合格とした。転写メモリー電位(V)と、画像の評価結果とを表2に示す。
◎:画像不良が観察されない。
○:画像不良として、1辺10mmの白抜け部分がハーフトーン部にゴーストとして観察される。
△:画像不良として、1辺10mmの白抜け部分がハーフトーン部にゴーストとして観察され、且つ、明確に読み取れないが、1辺3mmのアルファベット型の白抜けがゴーストとして観察される。
×:画像不良として、1辺3mmのアルファベット型の白抜けがゴーストとして明確に読み取れる。
【0104】
【表2】

【0105】
【表3】

【0106】
実施例1?31によれば、感光層中に、式(1)?(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を電子輸送材料として含む正帯電単層型電子写真感光体であれば、転写メモリーを抑制でき、ゴーストのような画像不良のない良好な画像を形成できることが分かる。」

(エ)甲第3号証の記載事項
本件特許の出願前の平成26年7月7日に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2014-126610号公報)には、以下の記載事項がある。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体及び画像形成装置に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題点を克服する方法として、塗布液中の分散状態を安定して保持できる希薄な塗布液を用いることが、生産性向上の点で有利であることが知られていた。
【0008】
しかしながら、浸漬塗布法においては、塗膜の膜厚が塗工液の粘度のべき乗に比例して大きくなることから、感光層形成に希薄で粘度の低い塗布液を使用する場合は、必然的に薄膜のものが形成されることになる。そのため、このような塗工液を用いて製作した電子写真感光体を用いた場合、膜厚が薄いことに起因し、感光層の耐光性の低下という問題があった。感光層の膜厚が薄いと、外光が感光層深部まで侵入しやすいからである。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、高感度で且つ耐光性に優れる薄膜感光層を有する電子写真感光体と、当該電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置との提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、単層型の感光層に450nm-550nmの間に最大吸収ピークをもたない電荷輸送材料の正孔輸送材料を含有させ、電荷輸送材料に電子輸送材料として特定の化合物を含ませることにより、高感度で且つ耐光性に優れる薄膜感光層を有する電子写真感光体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
本発明の第1の態様の電子写真感光体は、支持基体上に少なくとも電荷発生材料、電荷輸送材料、及び結着樹脂からなる膜厚25μm以下の単層型の感光層を備え、前記電荷発生材料がフタロシアニン系顔料であると共に、前記電荷輸送材料の正孔輸送材料が450nm-550nmの間に最大吸収極大ピークをもたず、且つ、前記電荷輸送材料の電子輸送材料として下記一般式(1)で表される化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする。
【化1】

(一般式(1)中、R_(1)及びR_(2)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数1?20の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数6?20の置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のアミノ基からなる群より選択される基を表す。)

(中略)

【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高感度で耐光性に優れた薄膜感光層を有す電子写真感光体と、当該電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置とを提供することとができる。」

b 「【0017】
以下、第1の実施形態に係る電子写真感光体について、更に詳しく説明する。本願発明の電子写真感光体は、図1に示すような、感光層支持体11上に単層型の感光層を備えるいわゆる単層型電子写真感光体である。例えば、図1(a)に示すように、単層型電子写真感光体20は、感光層支持体11と、感光層支持体11上に特定の溶剤を含有する感光層塗布液を用いて形成された、電荷発生材料、電荷輸送材料、及び結着樹脂を含有する単層の感光層21とが備えられたものである。ここで、単層型電子写真感光体20は、感光層支持体11と感光層21とを備えていれば、特に限定されない。具体的には、例えば、感光層支持体11上に感光層21を直接備えていてもよいし、図1(b)に示すように単層型電子写真感光体20’は、感光層支持体11と感光層21との間に中間層14を備えていてもよい。また、感光層21が最外層となって露出していてもよいし、感光層21上に不図示の保護層を備えていてもよい。

(中略)

【0024】
(電荷輸送材料)
本発明に使用される電荷輸送材料は、正孔輸送材料(HTM)及び電子輸送材料(ETM)から選択される1種以上の材料を含む。

(中略)

【0038】
(正孔輸送材料)
正孔輸送材料(HTM)としては、電子写真感光体の感光層に含まれる正孔輸送材料として用いることができ、450nm-550nmの間に最大吸収ピークを有さないものであれば、特に限定されない。

(中略)

【0040】
(電子輸送材料)
電子輸送材料(ETM)は、上記一般式(1)で表される化合物を必須で含む。電子輸送剤量は、本発明の目的を阻害しない範囲で、450nm-550nmの間に最大吸収ピークを有さない、一般式(1)で表される化合物以外の他の電子輸送材料を含んでいてもよい。450nm-550nmの間に最大吸収ピークを有さない化合物であって、一般式(1)で表される化合物以外の他の電子輸送材料の例としては、ナフトキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、アントラキノン誘導体、アゾキノン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体等のキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7-テトラニトロ-9-フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8-トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。電子輸送材料は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記の正孔輸送材料及び電子輸送材料を選択する際には、正孔輸送材料の移動度が、電界強度が3×10^(5)V/cmにおいて、5×10^(-7)cm^(2)/V・s以上であり、且つ、電子前記電子輸送材料の移動度が電界強度が5×10^(5)V/cmにおいて、1×10^(-9)cm^(2)/V・s以上となるようにすることが好ましい。感光層の電子輸送性を高めることができるため、正帯電使用時に転写工程における感光層に生じる露光部と非露光部の電位差を平坦化することができるため、転写メモリーの発生を抑制できるからである。」

c 「【実施例】
【0071】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0072】
〔感光体作成〕
表1に示すフタロシアニン系顔料、正孔輸送剤と、電子輸送剤、結着樹脂(粘度平均分子量30000)100質量部をテトラヒドロフラン800質量部と共にボールミルにいれ、50時間混合して分散させて単層感光体用塗布液を作成した。次いで、この塗布液をφ30のアルミニウム素管上にディップコート法により塗布し、その後100℃で40分間熱風乾燥し、感光層膜厚20μmの感光体を得た。
【0073】
なお、電荷発生材料(CGM)、正孔輸送材料(HTM)、電子輸送材料(ETM)及び結着樹脂はそれぞれ下記したものを用いた。検討電子輸送材料のうち、ET12のみ、450?500nmの間に吸収極大ピークを有すが、その他のものに同波長領域内の吸収極大ピークは存在しない。
【0074】
<電荷発生材料(CGM)>
CG1: x-H_(2)Pc
CG2: y-TiOPc
CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角2θ±0.2°=27.2°に最大のピークを有すると共に、26.2°にピークを有さない、オキソチタニルフタロシアニン結晶。
CG3: k-TiOPc
CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角2θ±0.2°=27.2°に最大のピークを有すると共に、26.2°にピークを有さず、示差走査熱量分析において、吸着水の気化に伴うピーク以外は270℃から400℃に1つピークを有するチタニルフタロシアニン結晶。
【0075】
<正孔輸送材料(HTM)>
以下の各記号のあとに示されるΛmaxは最大級収ピークの波長を示す。
HT1:(Λmax:393nm)
【化8】


(中略)

【0080】
<電子輸送材料(ETM)>
ET1:(Λmax:358nm)
【化13】


(中略)

【0088】
ET9:(Λmax:422nm)
【化21】

【0089】
ET10:(Λmax:400nm)
【化22】

【0090】
ET11:(Λmax:420nm)
【化23】

【0091】
ET12:(Λmax:490nm)
【化24】

【0092】
ET13:(Λmax:490nm)
【化25】

【0093】
<結着樹脂>
R1: ビスフェノールZに由来する単位からなるポリカーボネート樹脂
【化26】

【0094】
作製した感光体を下記方法により評価し、その結果を表1に示した。
<感度測定方法>
GENTEC社製ドラム感度試験機を用いて表面電位を+700Vに帯電させた状態でハロゲンランプの白色光からバンドパスフィルターを用いて取り出した波長780nmの単色光(光強度0.8μJ/cm^(2))を感光体表面に照射し、露光開始から0.1秒経過した時点での表面電位を感度として測定した。
○: 150V未満、 ×: 150V以上
【0095】
<耐光性評価方法>
パナソニック社製ハイライトFL15W白色蛍光灯を1000Lxの強度下で2時間光照射し、照射部と非照射部の感度差(感度測定方法と同じ方法)、1d2s画像(1ドット2スペースのハーフトーン画像)における濃度ムラを確認した。濃度ムラの評価は、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の除電部を持たない構成である画像形成装置(「FS-5300DN」改造機)に、各実施例及び比較例の電子写真感光体を取り付けて行った。
ΔVL ○: 20V未満、 ×: 20V以上
濃度ムラ ○: なし?かすかに見える程度、 ×: 顕著にムラが確認できる
【0096】
<総合判定>
感度の評価と、耐光性に関する感度差の評価と、耐光性に関する濃度ムラの評価とで、×判定がなかったものを○と判定し、1つ以上の×判定があったものを×と判定した。
【0097】
【表1】


【0098】
本発明の実施態様1である実施例1?15の単層電子写真感光体を使用した場合、感度の高い感光体が得られると共に、耐光性も優れていることが確認できた。これに対し、比較例1?5に示すように感光層における特定の電荷輸送材料を含まない単層感光体を使用した場合、いずれも白色蛍光灯の光照射による感光体の劣化が確認された。」

(オ)甲第4号証の記載事項
本件特許の出願前の2013年(平成25年)2月14日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献である甲第4号証(国際公開第2013/021430号)には、以下の記載事項がある。

a 「技術分野
[0001] 本発明は電子写真用感光体(以下、単に「感光体」とも称する)、その製造方法およびそれを用いた電子写真装置に関し、詳しくは、電子写真方式のプリンタや複写機、ファクシミリなどに用いられる電子写真用感光体、その製造方法およびそれを用いた電子写真装置に関する。

(中略)

[0014] そこで、本発明の目的は、上記問題を解消して、高解像度かつ高速の正帯電方式の電子写真装置に適用され、動作安定性に優れるとともに、画像メモリーや、接触部材または油脂若しくは皮脂による汚染で生ずるクラックに起因する画像欠陥の発生がなく、安定して高画像品質が得られる、高感度でかつ高耐久な電子写真用感光体、その製造方法およびそれを用いた電子写真装置を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0015] 本発明者らは、単層型有機感光体と比較して感光体の表面層に含有させる電荷輸送材料の量を少なくでき、結着樹脂の比率を大きくすることができる上記積層型正帯電有機感光体において、皮脂によるクラックが発生する原因につき鋭意検討した結果、残留溶媒の量および電荷輸送材料の量による影響が大きいことを見出した。

(中略)

[0020] すなわち、本発明の電子写真用感光体は、導電性支持体上に、少なくとも正孔輸送材料および結着樹脂を含む電荷輸送層と、少なくとも電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料および結着樹脂を含む電荷発生層とが順次積層されてなる積層型正帯電の電子写真用感光体において、
前記電荷発生層および前記電荷輸送層に含まれる残留溶媒の合計量が、50μg/cm^(2)以下であることを特徴とするものである。

(中略)

発明の効果
[0024] 本発明によれば、上記構成としたことにより、高解像度かつ高速の正帯電方式の電子写真装置に適用され、動作安定性に優れるとともに、画像メモリーや、接触部材または油脂若しくは皮脂による汚染で生ずるクラックに起因する画像欠陥の発生がなく、安定して高画像品質が得られる、高感度でかつ高耐久な電子写真用感光体、その製造方法およびそれを用いた電子写真装置を実現することが可能となった。」

b 「[0038][電荷発生層]
電荷発生層3は、前述したように、電荷発生材料の粒子を、正孔輸送材料および電子輸送材料が溶解した結着樹脂中に分散させた塗布液を塗布するなどの方法により形成される。電荷発生層3は、光を受容してキャリアを発生する機能をもつとともに、発生した電子を感光体表面に運び、正孔を上記電荷輸送層2に運ぶ機能を有する。電荷発生層3は、キャリアの発生効率が高いことと同時に、発生した正孔の電荷輸送層2への注入性が重要であり、電場依存性が少なく、低電場でも注入の良いことが望ましい。

(中略)

[0042](電荷輸送材料(電子輸送材料))
電子輸送材料としては、高移動度の材料であるほど好ましく、ベンゾキノンやスチルベンキノン、ナフトキノン、ジフェノキノン、フェナントレンキノン、アゾキノン等のキノン系材料が好ましい。これらは、電荷輸送層への注入性や結着樹脂との相溶性から、単独で用いる他、2種以上の材料を用いて、析出を抑えつつ、電子輸送材料の含有量を増加させることも好ましい。

(中略)

[0045](組成)
電荷発生層3における各々の機能材料(電荷発生材料、電子輸送材料および正孔輸送材料)の配分量については、以下のように設定される。まず、本発明においては、電荷発生層3中の電荷発生材料の含有率が、電荷発生層3中の1?2.5質量%、特には1.3?2.0質量%であることが好ましい。また、電荷発生層3における機能材料(電荷発生材料、電子輸送材料および正孔輸送材料)の和と結着樹脂との質量比率は、所望の特性を得るために35:65?65:35の範囲で設定されるが、耐久性を確保しつつ、部材汚染、油脂汚染および皮脂汚染を抑制する観点から、上記質量比率を50以下:50以上として、結着樹脂の量を多くすることが好ましい。

(中略)

[0047] 電子輸送材料と正孔輸送材料との質量比率は、1:5?5:1の範囲で変えることができるが、本発明においては、電荷発生層3の下層に正孔輸送機能をもつ電荷輸送層2が存在するので、単層型有機感光体における一般的な上記質量比率の範囲である1:5?2:4の正孔輸送材料リッチの組成とは逆に、5:1?4:2の範囲が好適となり、特には、4:1?3:2の範囲が、総合的な特性面でより好ましい。このように、本発明に係る積層型感光体では、下層である電荷輸送層2中に正孔輸送材料を多量に配合できるので、単層型感光体とは異なり、上層である電荷発生層3において、皮脂付着によるクラック発生の一要因である正孔輸送材料の含有量を低く抑えることができる。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

a 正帯電積層型電子写真感光体
甲1発明の「導電性基体」、「電荷輸送層」及び「電荷発生・輸送層」は、技術的にみて、それぞれ本件特許発明1の「導電性基体」、「電荷輸送層」及び「電荷発生層」に相当する。
また、甲1発明の「正帯電型の電子写真感光体」は、「導電性基体上に、(I)少なくとも正孔輸送材料とバインダー樹脂からなる電荷輸送層、(II)少なくとも電荷発生材料、電子輸送材料、正孔輸送材料、及びバインダー樹脂を同一層内に含む電荷発生・輸送層が、少なくともこの順で積層された」ものである。そうすると、甲1発明の「正帯電型の電子写真感光体」は、本件特許発明1の「正帯電積層型電子写真感光体」に相当し、本件特許発明1の「前記導電性基体の上に前記電荷輸送層が備えられ、前記電荷輸送層の上に前記電荷発生層が備えられ」るとする要件を満たしている。

b 電荷発生層
甲1発明の「電荷発生・輸送層」は、「少なくとも電荷発生材料、電子輸送材料、正孔輸送材料、及びバインダー樹脂を同一層内に含む」ものである。そうすると、甲1発明の「電荷発生材料」、「電子輸送材料」、「正孔輸送材料」及び「バインダー樹脂」は、それぞれ、本件特許発明1の「電荷発生剤」、「電子輸送剤」、「第一正孔輸送剤」及び「第一バインダー樹脂」に相当する。

c 一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲1発明とは、
「導電性基体と電荷輸送層と電荷発生層とを備える正帯電積層型電子写真感光体であって、
前記導電性基体の上に前記電荷輸送層が備えられ、前記電荷輸送層の上に前記電荷発生層が備えられ、
前記電荷発生層は、電荷発生剤と電子輸送剤と第一正孔輸送剤と第一バインダー樹脂とを含有する、
正帯電積層型電子写真感光体。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]電子輸送剤が、本件特許発明1は、「一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの2種以上」を含むものであるのに対し、甲1発明は、「ナフトキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、アントラキノン誘導体、アゾキノン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体等のキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7-テトラニトロ-9-フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8-トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が挙げられ、電子輸送材料は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく」とされるものである点。
[相違点2]第一バインダー樹脂の質量に対する電子輸送剤の合計質量の比率が、本件特許発明1は「0.45以上0.80以下」であるのに対し、甲1発明は「電子輸送材料(ETM)の含有量は、バインダー樹脂に対して、30wt%以上100wt%以下」、つまり、上記比率が0.30以上1.00以下である点。
[相違点3]本件特許発明1は、「2種以上の前記電子輸送剤の合計質量は、前記第一正孔輸送剤の質量よりも多い」のに対し、甲1発明は、正孔輸送材料の質量に対する電子輸送材料の質量の多少を特定していない点。

(イ)判断
事案に鑑みて、上記[相違点1]及び[相違点3]について検討する。

a 甲1発明の電荷発生・輸送層に使用される「電子輸送材料」として挙げられている化合物には、本件特許発明1の一般式(1)?(4)で表される化合物が含まれるものの、一般式(1)?(4)に包含されない化合物も含まれている。また、「電子輸送材料」は、何れかの化合物を単独で用いてもよいものである。そして、甲第1号証には、本件特許発明1の一般式(1)?(4)で表される化合物の中から2種以上の電子輸送剤を選択して用いることについて、何ら記載されていない。そうすると、甲第1号証には、電子輸送材料について、「一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物」のうちの「2種以上」を含むものとすることについて記載も示唆もされていたとはいえない。
また、甲1発明は、「電子輸送材料(ETM)の含有量は、バインダー樹脂に対して、30wt%以上100wt%以下」であり「正孔輸送材料(HTM)の含有量は、バインダー樹脂に対して、20wt%以上90wt%以下」とされているものの、電子輸送材料及び正孔輸送材料の含有量は、バインダー樹脂に対して、それぞれ独立して調整されるものであるから、電子輸送材料の含有量が必ずしも正孔輸送材料の含有量よりも多くなるように含まれるものではない。このことは、甲第1号証の実施例の「電荷発生・輸送層用塗布液」に含まれる電子輸送材料は50又は20質量部であって、いずれも正孔輸送材料の70質量部よりも少ない(表2)ことからも理解できる。
以上より、甲第1号証には、上記[相違点1]及び[相違点3]について、本件特許発明1の構成とすることについて記載や示唆があったということはできない。

b 一方、本件特許の明細書には、「電荷発生層33に電子輸送剤として、一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの2種以上を含有させることで、電荷発生層33を形成するための溶剤に対する電子輸送剤の溶解性を向上させる」ことができ、これにより、「電荷発生層33を形成するための溶剤に多くの電子輸送剤を溶解させること」ができ、その結果、「電荷発生層33において、2種以上の電子輸送剤の合計質量を第一正孔輸送剤の質量よりも多くする」ことができ、これにより、「電化発生層33の結晶化を抑制しつつ、転写メモリーの発生を抑制することができる。」(段落【0041】)と記載されている。当該記載に基づけば、本件特許発明1は、電子輸送剤が「一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの」2種以上を含むものであるという要件と「2種以上の前記電子輸送剤の合計質量は、前記第一正孔輸送剤の質量よりも多い」という要件の双方を備えることによって、「電化発生層33の結晶化を抑制しつつ、転写メモリーの発生を抑制することができる」という効果を奏することが理解できる。

c 上記[相違点1]及び[相違点3]に係る本件特許発明の構成とすることが本件特許の出願前に知られていたかについて検討する。
甲第2号証の記載事項aには、「転写メモリーを抑制することにより画像不良の発生を抑制できる正帯電単層型電子写真感光体を提供する」という課題を解決するための手段として、電子輸送材料が、「式(1)?(4)・・・で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を含む、正帯電単層型電子写真感光体」が記載されており、甲第2号証における「式(3)」、「式(1)」及び「式(4)」で表される化合物は、その化学構造からみて、それぞれ、本件特許発明1における「一般式(1)」、「一般式(2)」及び「一般式(3)」で表される化合物に相当する。また、甲第2号証の記載事項eには、実施例及び比較例に使用した電子輸送材料が記載されており、そのうち、「ETM-5」は、本件特許発明1の「一般式(1)」で表される化合物に相当し、「ETM-1」、「ETM-2」、「ETM-7」及び「ETM-8」は、本件特許発明1の「一般式(2)」で表される化合物に相当し、「ETM-6」は、本件特許発明1の「一般式(3)」で表される化合物に相当し、「ETM-10」は、本件特許発明1の「一般式(4)」で表される化合物に相当する。そうすると、甲第2号証の実施例4、5、8、9、15、16、及び、比較例2は、本件特許発明1の、電子輸送剤が「一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの」2種以上を含むものであるという要件を満たしている。一方、甲第2号証の記載事項dには、「正帯電単層型電子写真感光体において、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、及びバインダー樹脂の各含有量は、適宜選定され、特に限定されない。」と記載されており、記載事項eには、実施例及び比較例について、「電子輸送材料35質量部、電荷発生材料5質量部、バインダー樹脂(Resin-1)100質量部、正孔輸送材料(HTM-1)50質量部、及びテトラヒドロフラン800質量部をボールミルに加え、50時間、混合、分散処理し、感光層用の塗布液を調製した。」と記載されている。そうすると、甲第2号証には、本件特許発明1の「2種以上の前記電子輸送剤の合計質量は、前記第一正孔輸送剤の質量よりも多い」という要件を備えることについて、記載も示唆もされていない。
甲第3号証の記載事項cには、実施例10として、電子輸送材料が「ET1」を20部及び「ET9」を20部、正孔輸送材料が「HT1」を60部含む単層感光体溶塗布液を塗布して得た感光体が記載されており、「ET1」は本件特許発明1の「一般式(4)」で表される化合物に相当し、「ET9」は本件特許発明1の「一般式(2)」で表される化合物に相当する。同様に、実施例11の「ET1」及び「ET10」は、それぞれ、本件特許発明1の「一般式(4)」及び「一般式(3)」で表される化合物に相当し、実施例12の「ET1」及び「ET11」は、それぞれ、本件特許発明1の「一般式(4)」及び「一般式(2)」で表される化合物に相当し、比較例2の「ET1」及び「ET12」は、それぞれ、本件特許発明1の「一般式(4)」及び「一般式(1)」で表される化合物に相当し、比較例3の「ET2」及び「ET12」は、それぞれ、本件特許発明1の「一般式(4)」及び「一般式(1)」で表される化合物に相当する。そうすると、甲第3号証には、本件特許発明1の、電子輸送剤が「一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの」2種以上を含むものであるという要件を満たす実験例が記載されているものの、本件特許発明1の「2種以上の前記電子輸送剤の合計質量は、前記第一正孔輸送剤の質量よりも多い」という要件を備えることについて、記載も示唆もされていない。
甲第4号証の記載事項bの「電子輸送材料としては、高移動度の材料であるほど好ましく、ベンゾキノンやスチルベンキノン、ナフトキノン、ジフェノキノン、フェナントレンキノン、アゾキノン等のキノン系材料が好ましい。これらは、電荷輸送層への注入性や結着樹脂との相溶性から、単独で用いる他、2種以上の材料を用いて、析出を抑えつつ、電子輸送材料の含有量を増加させることも好ましい。」との記載に基づけば、甲第4号証には、電子輸送剤を2種以上を含むものとすることにより析出を抑えることが示唆されているといえる。また、記載事項bの「電子輸送材料と正孔輸送材料との質量比率は、・・・本発明においては、・・・5:1?4:2の範囲が好適となり、特には、4:1?3:2の範囲が、総合的な特性面でより好ましい。このように、本発明に係る積層型感光体では、下層である電荷輸送層2中に正孔輸送材料を多量に配合できるので、単層型感光体とは異なり、上層である電荷発生層3において、皮脂付着によるクラック発生の一要因である正孔輸送材料の含有量を低く抑えることができる。」との記載に基づけば、甲第4号証には、電荷発生層における正孔輸送材料の含有量を低く抑えることにより、電子輸送材料を正孔輸送材料より多いものとすることが示唆されている。
以上より、甲第2号証及び甲第3号溶の記載事項に基づけば、電荷発生層における電子輸送剤が「一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの」2種以上を含むものとすることは、本件特許の出願前において周知技術であったといえる。しかしながら、甲第2号証及び甲第3号証には、電子輸送剤の合計質量について、正孔輸送剤の質量よりも多くすることについて、記載も示唆もされていない。また、甲第4号証の記載に基づけば、電荷発生層における正孔輸送材料の含有量を低く抑えることにより、電荷発生層における電子輸送剤の質量を正孔輸送剤の質量よりも多くすることが示唆されているものの、電荷発生層を形成するための溶剤に多くの電子輸送剤を溶解させて、電荷発生層において電子輸送剤の質量を増加させるものではない。

d そうすると、上記周知技術に基づいて、電荷発生層における電子輸送剤が「一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの」2種以上を含むものとすることが、当業者にとって容易であったとしても、さらに、電荷発生層を形成するための溶剤に多くの電子輸送剤を溶解させて、「2種以上の前記電子輸送剤の合計質量は、前記第一正孔輸送剤の質量よりも多い」ものとすることを、当業者が容易になし得たということができない。
そして、本件特許発明1は、「一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの」2種以上を含むとともに、「2種以上の前記電子輸送剤の合計質量は、前記第一正孔輸送剤の質量よりも多い」ものとすることで、「電化発生層33の結晶化を抑制しつつ、転写メモリーの発生を抑制することができる」という効果を奏するものである。そうすると、本件特許発明1の奏する効果は、甲第1号証?甲第4号証の記載に基づいて当業者が予測できた範囲のものということもできない。

(ウ)むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたということはできない。

ウ 本件特許発明2?16について
本件特許発明2?16は、本件特許発明1と同じ「一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの2種以上を含み」、「2種以上の前記電子輸送剤の合計質量は、前記第一正孔輸送剤の質量よりも多い」とする構成を具備するものである。そうすると、本件特許発明2?16も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたということはできない。

エ むすび
以上より、本件特許発明1?16は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。

2 特許法第36条第4項第1号
(1)特許異議申立理由の概略
異議申立人がした、特許法第36条第4項第1号についての特許異議申立理由の概略は、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?16を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、本件の特許請求の範囲の記載には不備があり、本件特許発明1?16は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。

(2)当審の判断
本件特許の明細書には、感光層の結晶化の抑制及び転写メモリーの発生の抑制を両立させることができる理由として、「転写バイアスの影響によって、感光体30の表面30aにおいて、前の周の非露光領域に対応する領域の帯電電位が、前の周の露光領域に対応する領域よりも低下する現象を、転写メモリーという」(段落【0039】)こと、「電荷発生層33に含有される2種以上の電子輸送剤の合計質量を電荷発生層33に含有される第一正孔輸送剤の質量よりも多くすることで、転写メモリーの発生を抑制できること」(段落【0040】)こと、「電荷発生層33に電子輸送剤として、一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの2種以上を含有させることで、電荷発生層33を形成するための溶剤に対する電子輸送剤の溶解性を向上させる」ことができ、これにより、「電荷発生層33を形成するための溶剤に多くの電子輸送剤を溶解させること」ができ、その結果、「電荷発生層33において、2種以上の電子輸送剤の合計質量を第一正孔輸送剤の質量よりも多くすることができる」(段落【0041】)こと、「電化発生層33に電子輸送剤として、一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの2種以上を含有させることで、電荷発生層33に含有されるバインダー樹脂(即ち、第一バインダー樹脂)と電子輸送剤との相溶性が向上する。これにより、電荷発生層33の結晶化を抑制しつつ、第一バインダー樹脂の質量に対する2種以上の電子輸送剤の合計質量の比率を0.45以上にすることができる。その結果、電荷発生層33の結晶化を抑制しつつ、転写メモリーの発生を抑制することができる。」(段落【0042】)ことが記載されている。
これらの記載に基づけば、一般式(1)?(4)で表される化合物の具体的な化学構造の違いやその組合せの如何によらず、本件特許発明1?16の構成を採用することにより、多くの電子輸送剤を溶剤に溶解させることができ、電荷発生層の結晶化を抑制しつつ、転写メモリーの発生を抑制できることが、理解できる。
そうすると、本件特許発明1?16を実施するにあたり、一般式(1)?(4)で表される数多くの化合物のあらゆる組合せについて試行錯誤する必要があるとはいえないから、本件特許の明細書の記載は、当業者が本件特許発明1?16を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載には不備があり、本件特許発明1?16は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。

3 特許法第36条第6項第1号
(1)特許異議申立理由の概略
異議申立人がした、特許法第36条第6項第1号についての特許異議申立理由の概略は、本件明細書の実施例には、電子輸送剤として、一般式(1)?(4)で表される数多くの化合物のうち一部のものを、2種または3種の特定の組合せで用いた場合に発明の効果が得られることしか記載されていないから、本件の特許請求の範囲の記載には不備があり、本件特許発明1?16は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。

(2)当審の判断
本件特許発明1?16が解決しようとする課題は、本件特許の明細書の段落【0005】の記載に基づけば、「感光層の結晶化の抑制及び転写メモリーの発生の抑制を両立できる正帯電積層型電子写真感光体を提供すること」及び「感光層の結晶化の抑制及び転写メモリーの発生の抑制を両立できるプロセスカートリッジ及び画像形成装置を提供すること」であるといえる。
一方、本件特許の明細書の段落【0039】?【0041】には、前記2(2)に示したとおりの記載があり、当該記載に基づけば、本件特許発明1?16の構成を採用することにより、上記課題を解決できることが理解できる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載には不備があり、本件特許発明1?16は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立理由に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と電荷輸送層と電荷発生層とを備える正帯電積層型電子写真感光体であって、
前記導電性基体の上に前記電荷輸送層が備えられ、前記電荷輸送層の上に前記電荷発生層が備えられ、
前記電荷発生層は、電荷発生剤と電子輸送剤と第一正孔輸送剤と第一バインダー樹脂とを含有し、
前記電子輸送剤は、下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物のうちの2種以上を含み、
前記第一バインダー樹脂の質量に対する2種以上の前記電子輸送剤の合計質量の比率は、0.45以上0.80以下であり、
2種以上の前記電子輸送剤の合計質量は、前記第一正孔輸送剤の質量よりも多い、正帯電積層型電子写真感光体。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

前記一般式(1)、(2)及び(3)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(8)、R^(9)、R^(10)、R^(11)、R^(12)、R^(13)及びR^(14)は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数2以上6以下のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基又は置換基を有してもよい炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル基を表し、
前記一般式(4)中、R^(6)及びR^(7)は、各々独立して、
炭素原子数1以上6以下のアルキル基を少なくとも1つ有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、
フェニルカルボニル基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、
炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基を有してもよい炭素原子数1以上8以下のアルキル基、及び
炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基
からなる群より選択される基を表し、選択される前記基は1つ以上のハロゲン原子で置換されてもよい。
【請求項2】
前記第一正孔輸送剤の質量に対する2種以上の前記電子輸送剤の合計質量の比率は、1.00より大きく1.60以下である、請求項1に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項3】
前記電荷発生層の質量に対する前記第一バインダー樹脂の質量の比率は、0.40以上0.50未満である、請求項1又は2に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項4】
前記一般式(1)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、各々独立して、炭素原子数6以上14以下のアリール基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、水素原子、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又は炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル基を表し、
前記一般式(2)中、R^(8)、R^(9)、R^(10)及びR^(11)は、各々独立して、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又は炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル基を表し、
前記一般式(3)中、R^(12)及びR^(13)は、各々独立して、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表し、R^(14)は、ハロゲン原子を表し、
前記一般式(4)で表される化合物は、下記条件(4-A)又は(4-B)を満たす、請求項1?3の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
(4-A)R^(6)及びR^(7)は、各々独立して、
炭素原子数1以上6以下のアルキル基を少なくとも1つ有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、又は
炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基を有してもよい炭素原子数1以上8以下のアルキル基を表す。
(4-B)R^(6)及びR^(7)は、各々独立して、
炭素原子数1以上6以下のアルキル基を少なくとも1つ有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、
フェニルカルボニル基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、
炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、
炭素原子数1以上8以下のアルキル基、及び
炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基
からなる群より選択される基を表し、選択される前記基は1つ以上のハロゲン原子で置換されてもよく、R^(6)及びR^(7)のうち少なくとも一方が1つ以上のハロゲン原子を有する。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記化学式(ET1-3)、(ET1-6)又は(ET1-12)で表される化合物であり、
前記一般式(2)で表される化合物は、下記化学式(ET2-4)、(ET2-6)又は(ET2-7)で表される化合物であり、
前記一般式(3)で表される化合物は、下記化学式(ET3-1)、(ET3-2)又は(ET3-3)で表される化合物であり、
前記条件(4-A)を満たす前記一般式(4)で表される化合物は、下記化学式(ET4-1)、(ET4-2)又は(ET4-4)で表される化合物であり、
前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物は、(ET4-5)、(ET4-6)又は(ET4-7)で表される化合物である、請求項4に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【請求項6】
2種以上の前記電子輸送剤は、2種又は3種の前記電子輸送剤であり、
前記第一バインダー樹脂の質量に対する2種又は3種の前記電子輸送剤の合計質量の比率は、0.60以上0.80以下であり、
前記電子輸送剤が2種であるとき、2種の前記電子輸送剤は、
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物、
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物、
前記一般式(2)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物、
前記条件(4-A)を満たす前記一般式(4)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物、
前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物、又は
前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物のうちの2種であり、
前記電子輸送剤が3種であるとき、3種の前記電子輸送剤は、前記一般式(1)で表される化合物、前記一般式(2)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物である、請求項4又は5に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項7】
2種以上の前記電子輸送剤は、2種の前記電子輸送剤であり、
2種の前記電子輸送剤は、
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物、又は
前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物のうちの2種である、請求項4?6の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項8】
2種以上の前記電子輸送剤は、2種の前記電子輸送剤であり、
2種の前記電子輸送剤の少なくとも1種は、前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物である、請求項4?7の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項9】
前記条件(4-B)を満たす前記一般式(4)で表される化合物は、下記化学式(ET4-5)、(ET4-6)又は(ET4-7)で表される化合物である、請求項8に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【化20】

【化21】

【化22】

【請求項10】
前記電荷輸送層は、第二正孔輸送剤と第二バインダー樹脂とを含有する、請求項1?9の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項11】
前記電荷発生層は、最表面層として備えられる、請求項1?10の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体。
【請求項12】
請求項1?11の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体を備える、プロセスカートリッジ。
【請求項13】
請求項1?11の何れか一項に記載の正帯電積層型電子写真感光体と、帯電部と、露光部と、現像部と、転写部とを備える画像形成装置であって、
前記帯電部は、前記正帯電積層型電子写真感光体の表面を正極性に帯電し、
前記露光部は、帯電された前記正帯電積層型電子写真感光体の前記表面を露光して、前記正帯電積層型電子写真感光体の前記表面に静電潜像を形成し、
前記現像部は、前記静電潜像にトナーを供給して、前記静電潜像をトナー像として現像し、
前記転写部は、前記正帯電積層型電子写真感光体から被転写体へ前記トナー像を転写する、画像形成装置。
【請求項14】
前記現像部は、供給ローラーと、現像ローラーと、規制ブレードとを備え、
前記供給ローラーは、非磁性一成分現像剤である前記トナーを、現像ローラーに供給し、
前記現像ローラーは、前記現像ローラーの表面に、前記トナーを含むトナー層を保持し、
前記規制ブレードは、前記現像ローラーの前記表面に保持された前記トナー層の厚さを規制し、
厚さが規制された前記トナー層に含まれる前記トナーが、前記現像ローラーの前記表面から前記静電潜像に供給されて、前記静電潜像が前記トナー像として現像される、請求項13に記載の画像形成装置。
【請求項15】
前記現像部は、前記正帯電積層型電子写真感光体の前記表面を清掃する、請求項13又は14に記載の画像形成装置。
【請求項16】
前記被転写体へ前記トナー像が転写された前記正帯電積層型電子写真感光体の前記表面の領域は、除電されることなく前記帯電部によって再び帯電される、請求項13?15の何れか一項に記載の画像形成装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-07-01 
出願番号 特願2016-145408(P2016-145408)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G03G)
P 1 651・ 121- YAA (G03G)
P 1 651・ 536- YAA (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 井口 猶二
宮澤 浩
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6520854号(P6520854)
権利者 京セラドキュメントソリューションズ株式会社
発明の名称 正帯電積層型電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び画像形成装置  
代理人 前井 宏之  
代理人 前井 宏之  

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