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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09B |
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管理番号 | 1366040 |
異議申立番号 | 異議2019-700969 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-11-29 |
確定日 | 2020-07-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6521600号発明「耐酸性を有するクチナシ色素製剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6521600号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6521600号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6521600号の請求項1に係る特許についての出願は、平成26年10月2日(優先権主張 平成25年10月2日)に特許出願され、令和1年5月10日に特許権の設定登録がされ、令和1年5月29日にその特許公報が発行され、令和1年11月29日に、その請求項1に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 奥谷 宏邦(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の手続の経緯は以下のとおりである。 令和 2年 1月31日付け 取消理由通知 同年 4月 2日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 4月10日付け 通知書 令和 2年 5月11日 意見書(特許異議申立人) 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和2年4月2日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。その訂正内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1の「ガティガム及び/又はアラビアガムを添加することを特徴とする、クチナシ青色素を含有し、色価が5以上500以下であるクチナシ色素製剤に耐酸性を付与する方法」を、訂正後の請求項1の「ガティガムを添加することを特徴とする、クチナシ青色素を含有し、色価が5以上500以下であるクチナシ色素製剤に耐酸性を付与する方法」と訂正する。(審決注:下線は訂正部分を示す。) 2 訂正の適否 (1)訂正事項1は、クチナシ色素製剤に添加する成分について、訂正前の請求項1に記載されていた「ガティガム及び/又はアラビアガム」という選択肢から、「アラビアガム」を削除して、「ガティガム」に限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)訂正事項1は、クチナシ色素製剤に添加する成分について、訂正前の請求項1に記載されていた「ガティガム及び/又はアラビアガム」から、選択肢である「アラビアガム」を削除したものであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたものといえ、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正事項1は、前記(1)のとおり特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーを変更するものではないので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1についての訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正により訂正された請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 ガティガムを添加することを特徴とする、 クチナシ青色素を含有し、色価が5以上500以下であるクチナシ色素製剤に耐酸性を付与する方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について I 取消理由の概要 訂正前の請求項1に係る発明に対して、令和2年1月31日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 (サポート要件)本件特許の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 訂正前の請求項1に係る発明の、クチナシ青色素製剤に添加する成分が、本件明細書の実験例2で実施され、クチナシ青色素製剤に耐酸性を付与することが客観的に確認されているガティガム以外については、本件発明の課題を解決できるとはいえない。 II 当審の判断 検討するにあたり、本件発明に記載の「クチナシ色素製剤」が、クチナシ青色素以外のクチナシ色素を含むものであるか否かを、先ず明らかにしておく必要があると認められることから、この点について、先に検討する。 1 本件発明に記載の「クチナシ色素製剤」は、クチナシ青色素以外のクチナシ色素を含むものであるか否かについて (1)本件発明に記載の「クチナシ色素製剤」は、「色価が5以上500以下である」という、「色価」で特定されているものである。本件明細書の段落【0015】より、「色価」は「色価E^(10%)_(1cm)」を意味し、10%(w/v)の色素含有溶液を調製した場合において、光路長が1cmの測定セルを用いて、可視光領域における極大吸収波長(λmax)の吸光度を測定することで、算出される値である。 これは極大吸収波長という単波長の吸光度を測定しており、単色光すなわち単色の波長の吸光度測定により算出される値であるから、単色素に関する値と理解される。 (2)本件発明の「クチナシ青色素を含有」する「クチナシ色素製剤」との記載に関し、検討する。 本件明細書には「【0009】本発明は・・クチナシ赤色素又はクチナシ青色素を含有するクチナシ色素製剤に耐酸性を付与する方法」(審決注:下線は当審が付与。以下同様。)と記載されており、本件明細書全体を通じて、「及び/又は」という記載と、「又は」という記載が区別して記載されている(例えば、本件明細書の「【0008】・・クチナシ赤色素又はクチナシ青色素に対し、ガティガム及び/又はアラビアガムを添加する・・」という記載を参照。)ことから、本件明細書で、上記例示を用いると、ガティガム「及び/又は」アラビアガムという記載は、ガティガム、アラビアガム、又は、ガティガム及びアラビアガムを意味し、クチナシ赤色素「又は」クチナシ青色素という記載は、クチナシ赤色素又はクチナシ青色素いずれか一方を意味するもの、と理解される。 そうすると、本件明細書には「【0009】本発明は・・クチナシ赤色素又はクチナシ青色素を含有するクチナシ色素製剤・・」と記載されていることから、本件明細書においては「クチナシ色素製剤」は、クチナシ赤色素、又は、クチナシ青色素いずれかを含有するものであると理解すべきである。 そして、本件は、平成30年11月26日付けで拒絶査定されたところ、平成31年3月8日付けの手続補正により、「クチナシ色素製剤」を、「クチナシ赤色素又はクチナシ青色素を含有」するものから、クチナシ赤色素を削除し、「クチナシ青色素を含有」するものに限定する補正をすることによって、特許査定となったものである。 したがって、本件明細書全体の記載からみて、本件発明に記載の「クチナシ青色素を含有」する「クチナシ色素製剤」とは、クチナシ色素として、クチナシ青色素のみを含有するものであって、クチナシ赤色素を含有しないものと理解すべきである。 なお、仮に、本件発明に記載の「クチナシ色素製剤」には、クチナシ色素として、クチナシ青色素のみならず、クチナシ赤色素をも含有するものであるとしても、クチナシ赤色素を含有するクチナシ色素製剤に、ガティガムを添加すると、当該色素製剤に耐酸性が付与されることは、本件明細書の実験例1及び3(【0043】?【0048】、【0052】?【0054】)より客観的に確認されていることから、後記するサポート要件の結論に影響しない。 (3)以上を踏まえると、本件発明に記載の「クチナシ色素製剤」は、クチナシ色素として、クチナシ青色素のみを含むものであり、クチナシ青色素以外のクチナシ色素を含まないものと解すべきである。 2 取消理由の理由(特許法第36条第6項第1号)について (1)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、請求項の内容の実質的な繰り返し記載の他、以下の記載がある。 ア 背景技術の記載 「【背景技術】 【0002】 クチナシ赤色素は、クチナシの果実から得られるイリドイド配糖体のエステル分解物とタンパク質分解物の混合物に、β-グルコシダーゼを添加して調製できる水溶性の赤系色素である。また、クチナシ青色素は、イリドイド配糖体及びタンパク質分解物の混合物にβ-グルコシダーゼを添加して調製できる水溶性の青系色素である。これらクチナシ赤色素及び青色素は天然色素であるため、天然素材を望む需要者の志向に応じた製品設計を可能とし、飲食品、医薬部外品、医薬品等の各種組成物に利用されている。しかし、一般的に、クチナシ赤色素及び青色素は、耐酸性を有さないという問題を有する。具体的には、クチナシ赤色素及び青色素は、pH3.5以下の酸性条件下で色素が凝集物を形成し、色素製剤や着色対象となる組成物の色価が低下してしまう。さらに当該凝集物が増加すると沈殿が生じ、色素製剤や組成物としての商品価値を失ってしまう。そのため、クチナシ赤色素及び青色素は、酸性組成物(例えば、酸性飲食品等)の着色に利用できないという問題を有している。 ・・・・・ 」 イ 発明が解決しようとする課題の記載 「【0007】 上記従来技術に鑑み、本発明では、従来技術では達成できなかった、原料となるクチナシ色素(色素自体)を製造する際の製造条件に制限を受けることなく、水溶性色素であるクチナシ赤色素又は青色素を含有するクチナシ色素製剤に、簡便に耐酸性を付与する方法、並びに耐酸性が付与されたクチナシ色素製剤を提供することを目的とする。」 ウ 発明の効果に関する記載 「【発明の効果】 【0011】 本発明によれば、クチナシ赤色素又はクチナシ青色素を含有する色素製剤に、簡便に耐酸性を付与できる。本発明のクチナシ色素製剤は、pH3.5以下の酸性条件下においても色素の沈殿が顕著に抑制されているため、酸性飲食品等の各種組成物を安定して着色できる。更に、本発明の方法は、原料となるクチナシ色素製造時の製造条件(クチナシ色素自体を製造する際の条件)に何ら制限を受けず、耐酸性を付与できるので、非常に汎用性が高い技術である。」 エ 「色価」に関する実施の態様の記載 「【0015】 本明細書中、「色価」とは「色価^(E10%)_(1cm)」を意味し、「色価E^(E10%)_(1cm)」とは、10%(w/v)の色素含有溶液を調製した場合において、光路長が1cmの測定セルを用いて、可視光領域における極大吸収波長(λmax)の吸光度を測定することで、算出される値である。「色価(10%E)」と表記する場合もある。具体的な色価の算出方法は、色価は第8版食品添加物公定書(厚生労働省)に記載の方法に従う。 【0016】 極大吸収波長は、使用するクチナシ色素原料によって異なるため、クチナシ色素製剤の色価を算出する際は、色素製剤に用いたクチナシ色素原料毎に極大吸収波長を測定し、当該極大吸収波長における吸光度を測定する。極大吸収波長の目安を例示すると、クチナシ赤色素は520?545nmであり、クチナシ青色素は570?610nmである。 ・・・・・ 【0032】 本発明のクチナシ色素製剤の色価は、5以上500以下の範囲で、着色用途に応じて適宜調整することができる。クチナシ色素製剤の好ましい色価は5?300であり、より好ましい色価は20?200である。」 オ 「ガティガム」に関する実施の態様の記載 「【0017】 本発明で用いるガティガムは、ガティノキ(Anogeissuslatifolia Wallich)の樹液(分泌液)から得られる多糖類であり、通常、常温?加温条件下で、30質量%程度まで水に溶解する水溶性多糖類である。商業上入手可能なガティガム製品としては、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の「ガティガムSD」等が挙げられる。 ・・・・・ 【0019】 クチナシ色素製剤に対するガティガム及び/又はアラビアガムの添加量は特に制限されない。耐酸性付与の観点からは、クチナシ色素製剤におけるガティガム及び/又はアラビアガム含量が、少なくとも下記(式1)?(式3)のいずれかを満たすように、ガティガム及び/又はアラビアガムを添加することが好ましい; (式1)ガティガム含量(質量%) ≧(クチナシ色素製剤の色価)×0.005、 ・・・・・ 【0020】 (式1)ガティガム含量(質量%) ≧(クチナシ色素製剤の色価)×0.005 (式1)は、例えば、色価100のクチナシ赤色素又はクチナシ青色素製剤であれば、製剤中にガティガムを0.5質量%以上含有させることを意味する。クチナシ赤色素又はクチナシ青色素製剤に含まれる色素含量が増加するに伴い、耐酸性を付与するために必要なガティガムの添加量が増加する傾向がある。そのため、色素含量を示す指標である色価が増加するにつれ、ガティガム含量を増加させることが好ましいことを(式1)は示している。(式1)中、「クチナシ色素製剤の色価」とは、クチナシ赤色素又はクチナシ青色素に由来する色価を示す。色価は前述のとおり、第8版食品添加物公定書(厚生労働省)に記載の方法に従って算出できる。 本発明では、上記(式1)を満たすことでクチナシ色素製剤に耐酸性を付与できるが、色素製剤における、より好ましいガティガム含量は、ガティガム含量(質量%)≧(クチナシ色素製剤の色価)×0.01であり、更に好ましくはガティガム含量(質量%)≧(クチナシ色素製剤の色価)×0.02であり、特に好ましくはガティガム含量(質量%)≧(クチナシ色素製剤の色価)×0.04である。 【0021】 クチナシ色素製剤におけるガティガム含量の上限は特に制限されない。例えば、ガティガム含量(質量%)≦(クチナシ色素製剤の色価)×0.8であり、好ましくはガティガム含量(質量%)≦(クチナシ色素製剤の色価)×0.6であり、より好ましくはガティガム含量(質量%)≦(クチナシ色素製剤の色価)×0.5である。」 カ クチナシ色素製剤が耐酸性に優れるか否かに関する実施の態様の記載 「【0027】 クチナシ色素製剤が耐酸性に優れるか否かの判断は、例えば、下記吸光度A及びBの比(A/B)を求めることで確認できる; A:pH3.0のMcIlvaine緩衝液に、クチナシ色素製剤を添加したときの、極大吸収波長における吸光度、 B:pH5.0のMcIlvaine緩衝液に、クチナシ色素製剤を前記Aと同量添加したときの、極大吸収波長における吸光度。 【0028】 前記吸光度A及びBの比(A/B)の具体的な算出方法は、以下のとおりである。 (手順1)pH3.0及び5.0のMcIlvaine緩衝液を用意する。McIlvaine(マッキルベイン)緩衝液は、古くから広く利用されてきた緩衝液である。pH3.0のMcIlvaine緩衝液は、0.04mol/Lのリン酸一水素ナトリウムと、0.08mol/Lのクエン酸を用いて調製できる。pH5.0のMcIlvaine緩衝液は、0.103mol/Lのリン酸一水素ナトリウムと、0.0485mol/Lのクエン酸を用いて調製できる。 【0029】 (手順2)pH3.0及び5.0のMcIlvaine緩衝液にクチナシ色素製剤を同量ずつ添加し、5℃で1日間経過後の極大吸収波長における吸光度を測定する(沈殿物がある場合は、沈殿物を除いた上澄み液の極大吸収波長における吸光度を測定する)。pH3.0のMcIlvaine緩衝液における、極大吸収波長での吸光度をA、pH5.0のMcIlvaine緩衝液における、極大吸収波長での吸光度をBとする。なお、McIlvaine緩衝液に対するクチナシ色素製剤の添加量は特に制限されないが、前記吸光度Bが0.3?0.7の範囲に入るように、クチナシ色素製剤の添加量を調整することが望ましい。例えば、色価50?100のクチナシ色素製剤であれば、McIlvaine緩衝液に対する添加量は通常、0.03?0.15質量%である。 【0030】 (手順3)測定した前記吸光度A及びBの比(A/B)を算出する。pH5では、クチナシ赤色素又はクチナシ青色素は安定であるため、pH3.0のMcIlvaine緩衝液における、極大吸収波長での吸光度Aと、pH5.0のMcIlvaine緩衝液における、極大吸収波長での吸光度Bの値が近いほど、すなわち、吸光度A及びBの比(A/B)の数値が1に近い程、そのクチナシ色素製剤が耐酸性に優れることを意味する。 【0031】 本発明のクチナシ色素製剤は、前記吸光度A及びBの比(A/B)が0.5以上であることが好ましく、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上、更により好ましくは0.8以上である。一方、従来から市場に流通している一般的なクチナシ色素製剤の前記吸光度比(A/B)は、0.1以下である。」 キ 耐酸性を有するクチナシ色素製剤の製造方法に関する実施の態様の記載 「【0038】 (IV.耐酸性を有するクチナシ色素製剤の製造方法) 本発明のクチナシ色素製剤は、クチナシ赤色素又はクチナシ青色素と、 少なくとも下記(式1)?(式3)のいずれかを満たすガティガム及び/又はアラビアガムを混合することで製造できる; (式1)ガティガム含量(質量%) ≧(クチナシ色素製剤の色価)×0.005、 ・・・・・ 【0039】 クチナシ赤色素又はクチナシ青色素と、ガティガム及び/又はアラビアガムの混合方法は、特に制限されない。好ましくは、前記クチナシ色素と、ガティガム及び/又はアラビアガムを、溶液中で混合する工程を有することが望ましい。例えば、クチナシ色素を含有する溶液に、ガティガム及び/又はアラビアガムを添加し、混合する方法;ガティガム及び/又はアラビアガムを溶解した溶液に、クチナシ色素を添加し、混合する方法;溶液にクチナシ色素と、ガティガム及び/又はアラビアガムを添加し、混合する方法等である。溶液に使用する溶媒は、クチナシ色素と、ガティガム及び/又はアラビアガムが溶解可能な溶媒であれば特に制限されない。好ましくは水である。 【0040】 溶液中でクチナシ色素と、ガティガム及び/又はアラビアガムを混合する手段としては、各種手段を使用できる。混合機として例えば、ホモジナイザー(例えば、高圧ホモジナイザー、ホモディスパー、ホモミキサー、ポリトロン式撹拌機、コロイドミル、ナノマイザー等)、プロペラ撹拌機、パドル式撹拌機等が挙げられる。好ましくは、ホモジナイザーを用いて混合する方法である。 【0041】 本発明のクチナシ色素製剤は、前記クチナシ色素と、ガティガム及び/又はアラビアガムの混合溶液をそのまま製剤化しても良く、必要に応じて、希釈、濃縮、又は粉末化しても良い。」 ク 実施例に関する記載 「【0043】 実験例1 クチナシ赤色素を含有する色素製剤に対する耐酸性付与(1) (クチナシ赤色素製剤の調製) 表1に示す処方に従い、クチナシ赤色素製剤(実施例1-1?1-5及び比較例1-1)を調製した。クチナシ赤色素製剤は、原料として、色価200のクチナシ赤色素製剤(水及びクチナシ赤色素を含有する色素製剤)、水、並びに実施例はガティガム又はアラビアガムを使用した。そして、クチナシ赤色素製剤におけるガティガム又はアラビアガム含量が表1に示す濃度となるように、また、クチナシ赤色素製剤の色価が50となるように、これらをTKホモディスパー(プライミクス株式会社製)を用いて回転数3200rpmにて15分間混合することで、クチナシ赤色素製剤を調製した。 【0044】 (耐酸性試験) 調製したクチナシ赤色素製剤(実施例1-1?1-5及び比較例1-1)について、耐酸性試験を行なった。耐酸性試験は、pH3.0及び5.0のMcIlvaine緩衝液に、クチナシ赤色素製剤を0.08質量%ずつ添加し、5℃で5日間静置後のクチナシ赤色素の凝集及び沈殿を、沈殿量を観察することで評価した。また、pH3.0及びpH5.0のMcIlvaine緩衝液における、極大吸収波長(530?537nm)での吸光度A及びBを各々測定し、両者の吸光度A及びBの比(A/B)を算出した。なお、pH3.0のMcIlvaine緩衝液における、極大吸収波長での吸光度Aは、沈殿物がある場合は、それを除いた上澄み液の吸光度を測定した。結果を表1及び図1?3に示す。 【0045】 【表1】 【0046】 (沈殿量の評価基準):非常に多い+++(基準:図1のpH3.0における沈殿量)/多い++(基準:図1のpH3.2における沈殿量)/やや有り+/わずかに有り±/無し- 【0047】 ガティガム又はアラビアガムを使用しなかった場合(比較例1-1)は、pH3.0のMcIlvaine緩衝液にクチナシ赤色素製剤を0.08質量%添加し、5℃で1日間経過した時点で、ほぼ全てのクチナシ赤色素が沈殿していた。また、5℃で5日間静置後の吸光度の比(A/B)は0.09と極めて低い数値を示した。また、比較例1-1のクチナシ赤色素製剤を、pH2.2?5.0に調整したMcIlvaine緩衝液に0.08質量%ずつ添加し、5℃で5日間静置した後の液外観を、図1に示す。pH5.0では凝集などがなく安定であるが、pH3.3付近から凝集物が生じ、沈殿量が次第に増加しているのが分かる。 【0048】 一方、ガティガム又はアラビアガムを添加した本発明のクチナシ赤色素製剤は、耐酸性が著しく改善されていた。具体的には、実施例1-1?1-5のクチナシ赤色素製剤は、5℃で5日間静置後の吸光度比(A/B)がいずれも0.64以上と、高い数値を示した(表1)。特に、ガティガムを3質量%以上添加した実施例1-2?1-4、及びアラビアガムを15質量%添加した実施例1-5は、吸光度比(A/B)がいずれも0.8以上と、極めて高い数値を示した。ガティガムを7.5質量%添加した実施例1-3、及びアラビアガムを15質量%添加した実施例1-5のクチナシ赤色素製剤を、pH2.2?5.0に調整したMcIlvaine緩衝液に0.08質量%ずつ添加し、5℃で5日間静置した後の液外観を、図2及び図3に示す。図から明らかなように、実施例1-3及び実施例1-5のクチナシ赤色素製剤は、pH3においてもクチナシ赤色素が凝集、沈殿することなく、耐酸性に極めて優れていることが分かる。更に、実施例1-3のクチナシ赤色素製剤は、pH2.2においてもクチナシ赤色素の凝集や沈殿が確認されなかった。 【0049】 実験例2 クチナシ青色素の耐酸性付与試験 (クチナシ青色素製剤の調製) 表2に示す処方に従い、クチナシ青色素製剤(実施例2及び比較例2)を調製した。クチナシ青色素製剤は、原料として、色価200のクチナシ青色素製剤(水及びクチナシ青色素を含有する色素製剤)、水、並びに実施例はガティガムを使用した。そして、クチナシ青色素製剤におけるガティガム含量が表2に示す濃度となるように、また、クチナシ青色素製剤の色価が50となるように、これらをTKホモディスパー(プライミクス株式会社製)を用いて回転数3200rpmにて15分間混合することで、クチナシ青色素製剤を調製した。 (耐酸性試験) 調製したクチナシ青色素製剤(実施例2及び比較例2)について、耐酸性試験を行なった。耐酸性試験は、pH3.0及び5.0のMcIlvaine緩衝液に、クチナシ青色素製剤を0.08質量%ずつ添加し、5℃で5日間静置後のクチナシ青色素の凝集及び沈殿を、沈殿量を観察することで評価した。また、pH3.0及びpH5.0のMcIlvaine緩衝液における、極大吸収波長(590?600nm)での吸光度A及びBを各々測定し、両者の吸光度の比(A/B)を算出した。なお、pH3.0のMcIlvaine緩衝液における、極大吸収波長での吸光度Aは、沈殿物がある場合は、それを除いた上澄み液の吸光度を測定した。結果を表2及び図4?5に示す。 【0050】 【表2】 【0051】 ガティガムを使用しなかった場合(比較例2)は、pH3.0のMcIlvaine緩衝液にクチナシ青色素製剤を0.08質量%添加し、5℃で1日間経過した時点で、ほぼ全てのクチナシ青色素が沈殿していた。また、5℃で5日間静置後の吸光度の比(A/B)は0.27と極めて低い数値を示した。 比較例2のクチナシ青色素製剤を、pH2.2?5.0に調整したMcIlvaine緩衝液に0.08質量%ずつ添加し、5℃で5日間静置した後の液外観を、図4に示す。図から明らかなように、ガティガムを使用しなかった場合(比較例2)は、pH3.5でクチナシ青色素が凝集物を形成し、沈殿したことが分かる。 一方、実施例2のガティガムを配合したクチナシ青色素製剤の場合は、原料として、同じクチナシ青色素を用いているにも関わらず、pH2.2においても色素の凝集及び沈殿が有意に抑制され、極めて優れた耐酸性を有していた(図5)。また、吸光度の比(A/B)も0.85と高い数値を示した。 【0052】 実験例3 クチナシ赤色素を含有する色素製剤に対する耐酸性付与(2) (クチナシ赤色素製剤の調製) 表3に示す処方に従い、クチナシ赤色素製剤(実施例3-1?3-3)を調製した。クチナシ赤色素製剤は、原料として、色価200のクチナシ赤色素製剤(水及びクチナシ赤色素を含有する色素製剤)、水、並びに、ガティガム又はアラビアガムを使用した。そして、クチナシ赤色素製剤におけるガティガム又はアラビアガム含量が表3に示す濃度となるように、また、クチナシ赤色素製剤の色価が50となるように、これらをTKホモディスパー(プライミクス株式会社製)を用いて回転数3200rpmにて15分間混合することで、クチナシ赤色素製剤を調製した。 【0053】 (耐酸性試験) 調製したクチナシ赤色素製剤(実施例3-1?3-3)について、耐酸性試験を行なった。耐酸性試験は、pH3.0及び5.0のMcIlvaine緩衝液に、クチナシ赤色素製剤を添加し、5℃で5日間静置後のクチナシ色素の凝集及び沈殿を、沈殿量を観察することで評価した。クチナシ赤色素製剤は、McIlvaine緩衝液におけるクチナシ赤色素含量が、実験例1の耐酸性試験と同添加量になるように添加した(実施例3-1:0.06質量%、実施例3-2及び実施例3-3:0.04%質量)。また、pH3.0及びpH5.0のMcIlvaine緩衝液における、極大吸収波長(536?541nm)での吸光度A及びBを各々測定し、両者の吸光度の比(A/B)を算出した。なお、pH3.0のMcIlvaine緩衝液における、極大吸収波長での吸光度Aは、沈殿物がある場合は、それを除いた上澄み液の吸光度を測定した。結果を表3に示す。 【0054】 【表3】 【0055】 実施例3-1?3-3のクチナシ赤色素製剤は、ガティガム又はアラビアガム無添加区(比較例1-1)と比較して、pH3.0における沈殿量が有意に少なくなり、クチナシ赤色素製剤に耐酸性が付与されていることが確認された。」 (2)本件発明の課題について 発明の詳細な説明の、背景技術の記載(【0002】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0007】)及び実施例の記載(【0049】?【0051】)からみて、本件発明の解決しようとする課題は、クチナシ青色素(色素自体)を製造する際の製造条件に制限を受けることなく、水溶性色素であるクチナシ青色素を含有するクチナシ色素製剤に、簡便に耐酸性を付与する方法を提供することであると認める。 (3)特許請求の範囲の記載 前記第3に記載したとおりである。 (4)判断 ア 本件訂正により、クチナシ青色素を含有するクチナシ色素製剤に添加する成分は、ガティガムのみに限定された。 イ 発明の詳細な説明には、本件発明の実施例として実験例2(【0049】?【0051】)に、クチナシ青色素を含有するクチナシ色素製剤に添加する成分として、ガティガムを添加すると、該クチナシ色素製剤に耐酸性が付与されることが客観的に確認されている。 ウ そうすると、水溶性色素であるクチナシ青色素を含有するクチナシ色素製剤に、ガティガムを添加することにより、簡便に耐酸性を付与することができることから、本件発明の前記課題である、クチナシ青色素(色素自体)を製造する際の製造条件に制限を受けることなく、水溶性色素であるクチナシ青色素を含有するクチナシ色素製剤に、簡便に耐酸性を付与する方法を提供するという課題を解決できると認識するといえる。 エ したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 オ 令和2年5月11日付け意見書に記載の特許異議申立人の主張について (ア) 特許異議申立人は、当該意見書の「3-2 サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について」において、クチナシ青色素に関する具体的な実施例は実験例2の一例のみであり、 a 表2によれば、ガティガム濃度は10重量%のみで、ガティガム濃度が10重量%以外の濃度であっても同様の効果が得られるのか分からない、 b 実験例2で調製されたのは、色価200のクチナシ青色素製剤、水及びガティガムを用いて調製した色価50のクチナシ色素製剤であり、それ以外の色価5以上500以下であるクチナシ色素製剤であっても同様の効果が得られるのか分からない、及び、 c 実験例2に記載の混合条件[TKホモディスパー(プライミクス株式会社製)を用いて回転酢3200rpmにて15分間混合]以外の条件であっても同様の効果が得られるのか分からない、 それ故、実験例2の一例のみをもって本件発明の全範囲にわたって、本件発明の前記課題を解決し得るとはいえない旨、主張する。 (イ) しかしながら、発明の詳細な説明には、一般的な実施の態様の記載として、前記aのガティガム濃度及び前記bのクチナシ色素製剤の色価については、「【0019】クチナシ色素製剤に対するガティガム・・の添加量は特に制限されない。耐酸性付与の観点からは、クチナシ色素製剤におけるガティガム・・含量が、少なくとも下記(式1)・・のいずれかを満たすように、ガティガム・・を添加することが好ましい;(式1)ガティガム含量(質量%)≧(クチナシ色素製剤の色価)×0.005・・・【0020】・・・(式1)は、例えば、色価100の・・・クチナシ青色素製剤であれば、製剤中にガティガムを0.5質量%以上含有させることを意味する。・・・クチナシ青色素製剤に含まれる色素含量が増加するに伴い、耐酸性を付与するために必要なガティガムの添加量が増加する傾向がある。そのため、色素含量を示す指標である色価が増加するにつれ、ガティガム含量を増加させることが好ましいことを(式1)は示している。・・・本発明では、上記(式1)を満たすことでクチナシ色素製剤に耐酸性を付与できる・・・【0021】クチナシ色素製剤におけるガティガム含量の上限は特に制限されない。・・・」及び「【0032】本発明のクチナシ色素製剤の色価は、5以上500以下の範囲で、着色用途に応じて適宜調整することができる」と記載され、並びに、前記cの混合条件については、「【0039】・・クチナシ青色素と、ガティガム・・の混合方法は、特に制限されない。・・【0040】溶液中でクチナシ色素と、ガティガム及び/又はアラビアガムを混合する手段としては、各種手段を使用できる。混合機として・・・好ましくは、ホモジナイザーを用いて混合する方法である」と記載されている。 そして、それらの記載の裏付けとして、実験例2には、前記のように、色価200のクチナシ青色素製剤に対し、製剤中にガティガムを、前記(式1)により算出される1質量%以上である10質量%含有するよう添加し、クチナシ色素製剤の色価「5以上500以下の範囲」内である色価50のクチナシ色素製剤を、任意の混合方法のうち、好ましい混合手段のホモジナイザーを用いて混合して調製したことが記載され、表2には該クチナシ色素製剤への耐酸性の付与という効果が奏されたことが記載されていると認められるところ、表2の記載から、この耐酸性の効果は色素製剤の沈殿を抑制することでもたらされることが理解できる。そして、一般に、多糖類は分散剤として機能することが知られており、このような技術常識を考慮すると、多糖類であるガティガムの濃度、クチナシ青色素の色価及び混合条件の違いにより失われることはないといえる。 そうすると、本件明細書の記載及び技術常識を勘案し、当業者であれば、ガティガムを添加し、「色価が5以上500以下である」クチナシ色素製剤を、クチナシ青色素とガティガムの混合条件を、任意の混合方法により適宜調整して、クチナシ色素製剤を調製することにより、クチナシ青色素(色素自体)を製造する際の製造条件に制限を受けることなく、水溶性色素であるクチナシ青色素を含有するクチナシ色素製剤に、簡便に耐酸性を付与する方法を提供し得ると理解でき、本件発明の前記課題を解決できると認識するといえる。 したがって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。 (5)まとめ 以上のとおり、発明の詳細な説明には、本件発明が記載されているといえ、特許法第36条第6項第1号に適合しないということはできない。 よって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立人が主張する取消理由について I 特許異議申立人が主張する取消理由の概要 取消理油通知で採用しなかった特許異議申立人が主張する取消理由の概要は、以下のとおりである。 1 (サポート要件)訂正前の請求項1に係る発明は 、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 2 (明確性)訂正前の請求項1に係る発明は 、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 3 (新規性)訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当するから、訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。 4 (進歩性)訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、訂正前の請求項1に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものである。 甲第2号証:2008年1月15日付けの、製品名「ミラクルブルーMII」(食品添加物着色料製剤 クチナシ青色素製剤)の品質規格書 (以下「甲2」という。) II 当審の判断 1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について (1)取消理由通知で採用しなかった、特許異議申立人が申し立てた取消理由1(特許法第36条第6項第1号)の概要は、 ア 本件発明の「色価が5以上500以下である」について、本件発明の唯一の実施例である実験例2に示されているのは、色価200のクチナシ青色素製剤(水及びクチナシ青色素を含有する色素製剤)を使用した色価50のクチナシ色素製剤のみであり、この一例をもって色価が5?500の全範囲にわたり、クチナシ青色素製剤に耐酸性を付与することができるかは不明であり、課題が解決可能か否か不明な部分を包含しているから、サポート要件を満たさない、 イ クチナシ色素製剤を調製する上で、その混合条件は、クチナシ色素製剤の安定性に多大な影響を与えるものであることは容易に推察され、実験例2の結果はそのように混合したたけに得られたものであるにもかかわらず、本件発明には混合条件が反映されていないことから、どのような混合条件も含まれる本件発明は本件明細書に記載した範囲を超えるものであり、サポート要件を満たさない、 ウ 実験例2には、異なるクチナシ色素を含むクチナシ色素製剤の実施例はなく、異なる色のクチナシ色素を含むクチナシ色素製剤全体にわたり、課題解決可能か否か不明であり、訂正前の請求項1に係る発明は、課題が解決可能か否か不明な部分を包含しているから、サポート要件を満たさない、 というものである。 (2)前記(1)ア及びイについて 前記(1)ア及びイは、前記第4 II 2(4)オ(ア)で述べた、令和2年5月11日付け意見書に記載の特許異議申立人の主張b及びcと同じであるから、前記第4 II 2(4)オ(イ)で述べたとおりであり、本件明細書の記載及び技術常識を勘案し、当業者であれば、ガティガムを添加し、「色価が5以上500以下である」クチナシ色素製剤を、クチナシ青色素とガティガムの混合条件を適宜調整して、クチナシ色素製剤を調製することにより、クチナシ青色素(色素自体)を製造する際の製造条件に制限を受けることなく、水溶性色素であるクチナシ青色素を含有するクチナシ色素製剤に、簡便に耐酸性を付与する方法を提供し得ると理解でき、本件発明の前記課題を解決できると認識するといえる。 (3)前記(1)ウについて 本件発明に記載の「クチナシ色素製剤」は、前記第4 II 1で述べたとおり、クチナシ色素として、クチナシ青色素のみを含むものであり、クチナシ青色素以外のクチナシ色素を含まないものと解される。そして、クチナシ色素としてクチナシ青色素のみを含む本件発明のクチナシ色素製剤については、本件明細書の実験例2において、耐酸性が付与されたことが客観的に確認されている。 したがって、本件発明は、前記課題を解決し得るといえる。 (4)まとめ したがって、発明の詳細な説明には、本件発明が記載されているといえ、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないということはできない。 よって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 2 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について 取消理由通知で採用しなかった、特許異議申立人が申し立てた取消理由2(特許法第36条第6項第2号)の概要は、本件発明に記載の「クチナシ色素製剤」が、クチナシ青色素以外のクチナシ色素を含むものであるのか否か分からず、明確でない、というものである。 この点については、前記第4 II 1で述べたとおり、本件発明に記載の「クチナシ色素製剤」は、クチナシ色素として、クチナシ青色素のみを含むものであり、クチナシ青色素以外のクチナシ色素を含まないものと解されるから、本件発明に記載の「クチナシ色素製剤」は、明確であるといえる。 したがって、本件発明は明確であるといえ、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しないということはできない。 よって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 3 取消理由3(特許法第29条第1項第3号)及び取消理由4(同法同条第2項)について (1)甲2に示された事項 甲2a「 2008年1月15日 ■■■御中 品 質 規 格 書 ・・・・・ ヤエガキ醗酵技研株式会社 製 品 名 ミラクルブルーMII (食品添加物 着色料製剤 クチナシ青色素製剤)」(1?8行) 甲2b 「規格項目 規格値 試験方法 性状 暗褐色のやや粘度のある液体で特異なにおいがある 官能検査 純度試験 確認試験(1) 適合(色素原体について) 食品添加物公定書 確認試験(2) 適合(色素原体について) 食品添加物公定書 確認試験(3) 適合(色素原体について) 食品添加物公定書 確認試験(4) 適合(色素原体について) 食品添加物公定書 純度試験 (1)重金属 20μg/g以下(Pbとして) 食品添加物公定書 (2)鉛 8.0μg/g以下(Pbとして) 食品添加物公定書 (3)ヒ素 2.0μg/g以下(As_(2)O_(3)として) 食品添加物公定書 (4)メタノール 0.1%以下(色価50に換算) 食品添加物公定書 色価(E10%,1cm,600nm) 9.0?11.0 精製水-NNジメチルホルム アミド希釈法 微生物試験 (1)一般生菌数 1000個/g以下 標準観点培地法 (2)カビ・酵母数 100個/g以下 PDA寒天培地法 (3)大腸菌 陰性 BGLB法 タール系色素 不検出 食品添加物公定書 成分重量 クチナシ青色素(色価80) 10% アラビアガム 22% グリセリン脂肪酸エステル 16% プロピレングリコール 10% 水 42% 保管方法 1)遮光して5℃?10℃に保管して下さい。 品質保証期間 製造後60日(保管条件下) 注意事項 1)動植物油を含有しますので火気に注意して下さい。 2)本品は経時により濃度低下、色調が変化します。 3)開封後は経時変化が促進される恐れがありますので、 密封し冷蔵保存し、お早めにご使用下さい。 4)本品の取り扱いに関しましては、MSDS等をご参照下さい。」(下から12?末行) (2)甲2について 甲2a及び甲2bに示されている事項より、甲2は、「製品名 ミラクルブルーMII (食品添加物 着色料製剤 クチナシ青色素製剤)」の品質規格書(2008年1月15日付け)と認められるが、この品質規格書が、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であるのかは、甲2に示されている事項(甲2a、甲2b)を踏まえても、明らかでない。 それ故、甲2は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるとは認められない。 したがって、本件発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明であるとはいないし、該刊行物に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)仮に、甲2が、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である場合について、以下検討する。 ア 甲2に記載された発明 甲2は、2008年(平成20年)1月15日付けの、製品名「ミラクルブルーMII」(食品添加物着色料製剤 クチナシ青色素製剤)の品質規格書である(甲2a)。 この「ミラクルブルーMII」(食品添加物着色料製剤 クチナシ青色素製剤)は、成分重量として、「クチナシ青色素(色価80)10% アラビアガム22% グリセリン脂肪酸エステル16% プロピレングリコール10% 水42%」(甲2b)と記載されていることから、クチナシ青色素(色価80)10%、アラビアガム22%、グリセリン脂肪酸エステル16%、プロピレングリコール10%及び水42%を含有するものといえる。 さらに、この「ミラクルブルーMII」(食品添加物着色料製剤 クチナシ青色素製剤)は、性状として、「色価(E10%,1cm,600nm) 9.0?11.0」(甲2b)と記載されていることから、色価(E10%,1cm,600nm)が9.0?11.0であるものといえる。 したがって、甲2には、 「クチナシ青色素(色価80)10%、アラビアガム22%、グリセリン脂肪酸エステル16%、プロピレングリコール10%及び水42%を含有し、色価(E10%,1cm,600nm)が9.0?11.0である、ミラクルブルーMII(食品添加物着色料製剤 クチナシ青色素製剤)」 の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 イ 甲2発明との対比 (ア)甲2発明の「クチナシ青色素(色価80)10%」「を含有する、ミラクルブルーMII(食品添加物着色料製剤 クチナシ青色素製剤)」は、本件発明の「クチナシ青色素を含有」する「クチナシ色素製剤」に相当する。 (イ)甲2発明の「色価(E10%,1cm,600nm) が9.0?11.0である」は、色価E^(10%)_(1cm)で吸収波長600nmの吸光度の測定により算出された値が9.0?11.0であることを意味すると理解される。 そうすると、甲2発明の「色価(E10%,1cm,600nm) が9.0?11.0である」は、本件発明の「色価が5以上500以下である」に相当する。 (ウ)そうすると、両者は、 「クチナシ青色素を含有し、色価が5以上500以下であるクチナシ色素製剤」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:クチナシ色素製剤に、本件発明では、ガティガムを添加しているのに対し、甲2発明では、ガティガムは添加されていない点 相違点2:本件発明は、クチナシ色素製剤に耐酸性を付与する方法の発明であるのに対し、甲2発明は、クチナシ色素製剤の発明である点 ウ 判断 (ア)新規性について 相違点1について、甲2発明のクチナシ青色素製剤には、ガティガムは添加されていないから、相違点1は実質的な相違点である。 したがって、相違点2を検討するまでもなく、本件発明は、甲2に示された発明であるとはいえない。 (イ)進歩性について a 事案に鑑み、相違点1及び2を纏めて検討する。 甲2発明のクチナシ青色素製剤において、耐酸性が付与されているかについては、甲2に明示も示唆もなく、不明である。 甲2発明は、アラビアガムを含有するものであるが、甲2には、アラビアガムを含有することにより、クチナシ青色素製剤に耐酸性が付与されることについては、記載も示唆もなく、本件優先日当時の技術常識を勘案しても、そのような技術常識があったものとも認められない。 また、甲2に示される事項及び本件優先日当時の技術常識を参酌しても、一般に、ガティガムを添加することにより、クチナシ青色素製剤に耐酸性が付与されるといえる具体的な根拠があるとも認められない。 そうすると、甲2発明のクチナシ青色素製剤において、ガティガムを添加して、クチナシ青色素製剤に耐酸性を付与する方法とすることは、当業者といえども、容易に想到し得たとはいえない。 b 本件発明の効果について 本件発明の効果は、本件明細書の段落【0011】の記載及び実験例2(【0049】?【0051】)の実験結果により裏付けられているように、クチナシ青色素製剤に、簡便に耐酸性を付与できることと認められ、そのような効果は、甲2に記載された事項並びに本件優先日当時の技術常識を参酌しても、当業者が予測し得たものとはいえない。 c したがって、本件発明は、甲2に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)まとめ 以上(1)?(3)より、本件発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲2)に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、該頒布された刊行物(甲2)に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 よって、本件発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立ての理由並びに証拠によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ガティガムを添加することを特徴とする、 クチナシ青色素を含有し、色価が5以上500以下であるクチナシ色素製剤に耐酸性を付与する方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-06-30 |
出願番号 | 特願2014-203802(P2014-203802) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C09B)
P 1 651・ 113- YAA (C09B) P 1 651・ 121- YAA (C09B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鈴木 雅雄 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
瀬良 聡機 齊藤 真由美 |
登録日 | 2019-05-10 |
登録番号 | 特許第6521600号(P6521600) |
権利者 | 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 |
発明の名称 | 耐酸性を有するクチナシ色素製剤 |
代理人 | 特許業務法人ユニアス国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |