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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1366055
異議申立番号 異議2018-700824  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-10 
確定日 2020-07-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6309553号発明「高吸水性樹脂」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6309553号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-6]、[7]について、訂正することを認める。 特許第6309553号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第6309553号(設定登録時の請求項の数は7。以下、「本件特許」という。)は、平成28年1月8日(パリ条約による優先権主張 2015年(平成27年)1月16日 大韓民国)を出願日とする特願2016-2559号に係るものであって、平成30年3月23日に設定登録され、同年4月11日に特許掲載公報が発行された。
特許異議申立人 株式会社日本触媒(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成30年10月10日、本件特許の請求項1ないし7に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成30年12月12日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、平成31年3月14日に、訂正請求書及び意見書を提出し、当審から、同年3月25日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、特許権者は、令和1年5月16日に意見書を提出した。
当審において、令和1年6月6日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者は、同年9月6日に、訂正請求書及び意見書を提出したので、異議申立人に対して120条の5の通知をしたところ、異議申立人から、同年10月21日に意見書が提出された。
当審において、令和2年1月6日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者は、同年4月7日に、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書を提出した。
なお、上記令和2年1月6日付け取消理由<決定の予告>は、令和1年9月6日に提出された訂正請求書による訂正の請求によって特許請求の範囲が訂正されたことにより、新たに生じた、異議申立書には記載のない取消理由のみを通知しているものであって、異議申立人には、すでに意見書の提出の機会が与えられており、令和2年4月7日にされた訂正の請求によって、特許請求の範囲が相当程度減縮され、本件特許異議申立事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても、下記第2ないし7のとおり、特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断したことから、異議申立人に対して上記訂正の請求に対する意見書を提出する機会を与えない。
また、平成31年3月14日及び令和1年9月6日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1ないし10である。下線については、訂正箇所を示すものであり、当審において付与した。

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ベース樹脂粒子を表面架橋させた表面架橋重合体粒子、および水可溶成分を含む高吸水性樹脂であって、前記ベース樹脂は水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から光重合されたものであり、」と記載されているのを、「ベース樹脂粒子を表面架橋させた表面架橋重合体粒子、および水可溶成分を含む高吸水性樹脂であって、前記ベース樹脂は陰イオン性単量体またはその塩である水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から光重合されたものであり、」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記水可溶成分は、前記高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、」と記載されているのを、「前記水可溶成分は、前記高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「分子量(M)が100,000?300,000g/molである水可溶成分の比率(dwt/d(log M))が0.9以下であり、」と記載されているのを、「分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(logM))がそれぞれ0.86以下であり、」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に、「27?31g/gの保持能(CRC)を有する、高吸水性樹脂」と記載されているのを、「27?31g/gの保持能(CRC)を有し、150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「Ts(単位:秒)は、0.2gの高吸水性樹脂粉末を0.9%塩水(NaCl)溶液で30分間膨潤させて塩水-吸収高吸水性樹脂を準備し、0.3psiの圧力下で0.9%の塩水溶液が前記塩水-吸収高吸水性樹脂を透過するのにかかる時間を意味し、To(単位:秒)は、前記塩水-吸収高吸水性樹脂なしに0.3psiの圧力下で0.9%の塩水溶液が透過するのにかかる時間を意味する。」と記載されているのを、「高吸水性樹脂の中で、300?600μmの粒径を有する粒子サンプル0.2gを取ってシリンダー(Φ20mm)に投入する。この時、シリンダーの一端にはストップコック(stopcock)を含み、上限線および下限線が表示され、前記シリンダーの上限線は40mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示され、下限線は20mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示される。50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じられた状態の前記シリンダーに投入して30分間放置する。
その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(level)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。
その次に、塩水-吸収高吸水性樹脂を含むシリンダーに0.3psiの荷重を加えて1分間放置する。
以降、シリンダーの下に位置したストップコック(stopcock)を開けて0.9%塩水溶液がシリンダーに表示された前記上限線から前記下限線を通過する時間を測定する。
測定は24±1℃の温度および50±10%の相対湿度下で実施する。前記上限線から下限線を通過する時間をそれぞれのサンプル(Ts)に対して、そして高吸水性樹脂の投入なしに(To)測定して、上記式1により透過率を計算する。」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「ベース樹脂粒子を表面架橋させた表面架橋重合体粒子、および水可溶成分を含む高吸水性樹脂であって、前記ベース樹脂は水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から光重合されたものであり、」と記載されているのを、「ベース樹脂粒子を表面架橋させた表面架橋重合体粒子、および水可溶成分を含む高吸水性樹脂であって、前記ベース樹脂は陰イオン性単量体またはその塩である水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から光重合されたものであり、」に訂正する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「前記水可溶成分は、前記高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、」と記載されているのを、「前記水可溶成分は、前記高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、」に訂正する。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に「分子量(M)が100,000?300,000g/molである水可溶成分の比率(dwt/d(log M))が0.9以下であり、」と記載されているのを、「分子量(M)が100,000?300、000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(logM))がそれぞれ0.86以下であり、」に訂正する。

(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7に、「27?31g/gの保持能(CRC)を有する、高吸水性樹脂の製造方法であって、」と記載されているのを、「27?31g/gの保持能(CRC)を有し、150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂の製造方法であって、」に訂正する。

(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項7に「Ts(単位:秒)は、0.2gの高吸水性樹脂粉末を0.9%塩水(NaCl)溶液で30分間膨潤させて塩水-吸収高吸水性樹脂を準備し、0.3psiの圧力下で0.9%の塩水溶液が前記塩水-吸収高吸水性樹脂を透過するのにかかる時間を意味し、
To(単位:秒)は、前記塩水-吸収高吸水性樹脂なしに0.3psiの圧力下で0.9%の塩水溶液が透過するのにかかる時間を意味する。」と記載されているのを、「高吸水性樹脂の中で、300?600μm粒径を有する粒子サンプル0.2gを取ってシリンダー(Φ20mm)に投入する。この時、シリンダーの一端には、ストップコック(stopcock)を含み、上限線及び下限線が表示され、前記シリンダーの上限線は40mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示され、下限線は20mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示される。
50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じられた状態の前記シリンダーに投入して30分間放置する。その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(1evel)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。
その次に、塩水-吸収高吸収性樹脂を含みシリンダーに0.3psiの荷重を加えて1分間放置する。
以降、シリンダーの下に位置したストップコック(stopcock)を開けて0.9%塩水溶液がシリンダーに表示された前記上限線から前記下限線を通過する時間を測定する。
測定は24±1℃の温度および50±10%の相対湿度下で実施する。
前記上限線から下限線を通過する時間をそれぞれのサンプル(Ts)に対して、そして高吸水性樹脂の投入なしに(To)測定して、上記式1により透過率を計算する。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1) 請求項1に係る訂正事項1ないし5について
ア 訂正事項1について

(ア) 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、水溶性エチレン系不飽和単量体を陰イオン性単量体またはその塩であるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 訂正事項1に関する事項について、願書に添付した明細書中の段落【0043】には、「前記水溶性エチレン系不飽和単量体は、高吸水性樹脂の製造に通常用いられる任意の単量体を特別な制限なく用いることができる。ここには陰イオン性単量体とその塩、非イオン系親水性含有単量体およびアミノ基含有不飽和単量体およびその4級化物からなる群より選択されるいずれか一つ以上の単量体を用いることができる。」との記載がなされているから、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ) 訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

イ 訂正事項2について

(ア) 訂正前の請求項1に係る発明では、水可溶成分を測定する際の高吸水性樹脂の粒子径や粒度分布が明瞭でない。これに対して、訂正後の請求項1に記載の水可溶成分を測定する際の高吸水性樹脂は、「前記高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する」ものに限定することで、粒子径及び粒度分布を明瞭にするものである。したがって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ) 訂正事項2に関して、願書に添付した明細書の段落【0120】には、「実施例および比較例で製造された高吸水性樹脂の中で、150?850μmの粒径を有する試料1.0gを250mLの三角フラスコに入れた後、200mLの0.9%NaCl溶液に入れて250rpmで攪拌しながら1時間にかけて自由膨潤(free swelling)させた後、フィルターペーパー(filter paper)で水溶液を濾過した。濾過された溶液を0.1Nの苛性ソーダー溶液でpH10まで1次滴定した後、0.1Nの塩化水素溶液でpH2.7まで逆滴定を実施して得られた滴定量からEDANA法WSP270.3に従って高吸水性樹脂内の水可溶成分の含量(重量%)を計算した。」と記載されている。したがって、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ) 訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

ウ 訂正事項3について

(ア) 訂正前の請求項1に係る発明では、200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時の水可溶成分の比率を測定する際の分子量が100,000?300,000との記載であった。これに対して、訂正後の請求項1に記載の水可溶成分の比率は、「分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域にわたる」ものとすることで、その範囲を明確とするものである。
また、訂正前の請求項1において、水可溶成分の比率が「0.9以下」であったものを、訂正後に、「0.86以下」に限定するものである。
したがって、訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 訂正事項3に関し、願書に添付した明細書中の段落【0026】には、「高吸水性樹脂は、膨潤されながら樹脂内の水可溶成分が溶出する。初期には低分子量の水可溶成分が溶出し、溶出時間が長くなるほど高分子量の水可溶成分が溶出するようになるが、特に、1時間膨潤時には100,000?300,000g/mol範囲の分子量を有する水可溶成分が最も多く溶出する。したがって、1時間膨潤時の水可溶成分量に主要な影響を与える分子量100,000?300,000g/molの水可溶成分の量を調節することによって、1時間膨潤時の水可溶成分量を減少させることができるという事実を発見して本発明に至るようになった。」と記載されている。また、この水可溶成分の比率として、段落【0034】には、「より具体的に、本発明の高吸水性樹脂工gを250mLの三角フラスコに入れた後、0.9%NaCl溶液200mLに25℃で500rpmで攬絆する条件で1時間にかけて自由膨潤させた後、GPCを用いて分子量分布を測定した時、分子量が100,000?300,000g/molである水可溶成分の分子量(M)に対する比率(dwt/d(log M))が約0.9以下、好ましくは0.86以下、より好ましくは約0.8以下である。」と記載されている。
したがって、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ) 訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

エ 訂正事項4について

(ア) 訂正事項4は、訂正前の請求項1において、高吸水性樹脂の粒径は特定されていなかったものを、150?850μmの粒径を有するものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 訂正事項4に関する事項について、願書に添付した明細書中の段落【0120】には、「<実験例> 水可溶成分の分析 実施例および比較例で製造された高吸水性樹脂の中で、150?850μmの粒径を有する試料1.0gを250mLの三角フラスコに入れた後、200mLの0.9%NaCl溶液に入れて250rpmで攪拌しながら1時間にかけて自由膨潤(free swelling)させた後、フィルターペーパー(filter paper)で水溶液を濾過した。濾過された溶液を0.1Nの苛性ソーダー溶液でpH10まで1次滴定した後、0.1Nの塩化水素溶液でpH2.7まで逆滴定を実施して得られた滴定量からEDANA法WSP270.3に従って高吸水性樹脂内の水可溶成分の含量(重量%)を計算した。」との記載がなされているから、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ) 訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

オ 訂正事項5について

(ア) 訂正前の請求項1に係る発明では、式1で計算される透過率を測定する際の塩水溶液の量が明瞭でない。これに対して、訂正後の請求項1に記載の式1で計算される透過率を測定する際の塩水溶液の量は、「50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じられた状態の前記シリンダーに投入して30分間放置」し、「その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(level)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。」ものに限定することで、塩水溶液の量を明瞭にするものであるから、訂正事項5は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ) 訂正事項5に関し、願書に添付した明細書中の段落【0130】?【0132】には、「より具体的な測定方法について説明すると、実施例および比較例で製造された高吸水性樹脂(以下、サンプルという)の中で、300?600μmの粒径を有する粒子0.2gを取ってシリンダー(Φ20mm)に投入した。この時、シリンダーの一端にはストップコック(stopcock)を含み、上限線および下限線が表示され、前記シリンダーの上限線は40mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示され、下限線は20mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示される。」、「50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じされた状態の前記シリンダーに投入し、30分間放置した。その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(level)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。その次に、塩水一吸収高吸氷性樹脂を含むシリンダーに0.3psiの荷重を加えて1分間放置しか。以降、シリンダーの下に位置したストップコック(stopcock)を開けて0.9%塩水溶液がシリンダーに表示された前記上限線から前記下限線を通過する時間を測定した。すべての測定は241±1℃の温度および50±10%の相対湿度下で実施した。)及び「前記上限線から下限線を通過する時間をそれぞれのサンプル(Ts)に対して、そして高吸水性樹脂の投入なしに(To)測定して、下記式1により透過率を計算した。」と記載されている。したがって、当該訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ) 訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

カ まとめ

以上のことから、請求項1に係る訂正事項1ないし5は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

キ 訂正事項1ないし5の請求項1の訂正に伴って訂正される請求項2ないし6についても同様である。

(2) 請求項7に係る訂正事項6ないし10について

ア 訂正事項6について

(ア) 訂正事項6は、訂正前の請求項7において、水溶性エチレン系不飽和単量体を陰イオン性単量体またはその塩であるものに限定するものであるから、当該訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 訂正事項6に関する事項について、願書に添付した明細書中の段落【0043】の記載から、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ) 訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

イ 訂正事項7について

(ア) 訂正前の請求項7に係る発明では、水可溶成分を測定する際の高吸水性樹脂の粒子径や粒度分布が明瞭でない。これに対して、訂正後の請求項7に記載の水可溶成分を測定する際の高吸水性樹脂は、「前記高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する」ものに限定することで、粒子径及び粒度分布を明瞭にするものである。したがって、訂正事項7は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ) 訂正事項7に関して、願書に添付した明細書の段落【0120】の記載から、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ) 訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

ウ 訂正事項8について

(ア) 訂正前の請求項7に係る発明では、200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時の水可溶成分の比率を測定する際の分子量が100,000?300,000との記載であった。これに対して、訂正後の請求項7に記載の水可溶成分の比率は、「分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における」ものとすることで、水可溶成分の比率を測定する分子量の範囲を明確にするものである。
また、訂正前の請求項7において、水可溶成分の比率が「0.9以下」であったものを、訂正後に、「0.86以下」に限定するものである。
したがって、訂正事項8は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 訂正事項8は、願書に添付した明細書中の段落【0026】、【0034】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ) 訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

エ 訂正事項9について

(ア) 訂正事項9は、訂正前の請求項7において、製造される高吸水性樹脂の粒径は特定されていなかったものを、150?850μmの粒径のものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 訂正事項9に関する事項について、願書に添付した明細書中の段落【0120】の記載から、当該訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ) 訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

オ 訂正事項10について

(ア) 訂正前の請求項7に係る発明では、式1で計算される透過率を測定する際の塩水溶液の量が明瞭でない。これに対して、訂正後の請求項7に記載の式1で計算される透過率を測定する際の塩水溶液の量は、「50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じられた状態の前記シリンダーに投入して30分間放置」し、「その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(level)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。」ものに限定することで、塩水溶液の量を明瞭にするものであるから、訂正事項10は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ) 訂正事項10は、願書に添付した明細書中の段落【0130】?【0132】の記載から、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ) 訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

カ まとめ

以上のことから、請求項7に係る訂正事項6ないし10は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3) 一群の請求項に係る訂正について

訂正前の請求項2ないし6は訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし6は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし5は、それらについてされたものであり、訂正事項6ないし8は、訂正前の請求項7という請求項についてなされたものであるから、訂正事項1ないし5は、一群の請求項ごとにされたものであり、訂正事項6ないし10は、請求項ごとにされたものであって、特許法第120条の5第3及び4項の規定に適合する。

3 むすび

以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、訂正後の請求項[1-6]、[7]について、訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、[7]について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、総称して「本件発明」という。)は、令和2年4月7日に提出された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ベース樹脂粒子を表面架橋させた表面架橋重合体粒子、および水可溶成分を含む高吸水性樹脂であって、前記ベース樹脂は陰イオン性単量体またはその塩である水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から光重合されたものであり、
前記水可溶成分は、前記高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、高吸水性樹脂の全体重量に対して5重量%以下で存在し、
下記式1で計算される透過率が41秒以下であり、200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))がそれぞれ0.86以下であり、27?31g/gの保持能(CRC)を有し、
150?850μmの粒径を有する
高吸水性樹脂。
[式1]
透過率(秒)=T_(S)-T_(0)
(高吸水性樹脂の中で、300?600μmの粒径を有する粒子サンプル0.2gを取ってシリンダー(Φ20mm)に投入する。この時、シリンダーの一端にはストップコック(stopcock)を含み、上限線および下限線が表示され、前記シリンダーの上限線は40mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示され、下限線は20mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示される。
50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じられた状態の前記シリンダーに投入して30分間放置する。
その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(level)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。
その次に、塩水-吸収高吸水性樹脂を含むシリンダーに0.3psの荷重を加えて1分間放置する。
以降、シリンダーの下に位置したストップコック(stopcock)を開けて0.9%塩水溶液がシリンダーに表示された前記上限線から前記下限線を通過する時間を測定する。
測定は24±1℃の温度および50±10%の相対湿度下で実施する。
前記上限線から下限線を通過する時間をそれぞれのサンプル(Ts)に対して、そして高吸水性樹脂の投入なしに(T_(0))測定して、上記式1により透過率を計算する。)
【請求項2】
20?26g/gの加圧吸収能(0.7psiAUL)を有する、請求項1に記載の高吸水性樹脂。
【請求項3】
前記ベース樹脂は、重合体粒子の内部に存在する重合体を架橋させる内部架橋剤の存在下に重合される、請求項1または2に記載の高吸水性樹脂。
【請求項4】
前記内部架橋剤は、前記単量体組成物に対して0.1?0.5重量%で存在する、請求項3に記載の高吸水性樹脂。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項の高吸水性樹脂を含む衛生用品。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか一項の高吸水性樹脂を含むおむつ。
【請求項7】
ベース樹脂粒子を表面架橋させた表面架橋重合体粒子、および水可溶成分を含む高吸水性樹脂であって、前記ベース樹脂は陰イオン性単量体またはその塩である水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から光重合されたものであり、
前記水可溶成分は、前記高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、高吸水性樹脂の全体重量に対して5重量%以下で存在し、
下記式1で計算される透過率が41秒以下であり、
200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))がそれぞれ0.86以下であり、27?31gの保持能(CRC)を有し、
150?850μmの粒径を有する
高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む
単量体組成物に光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記含水ゲル状重合体を粉砕する段階;
粉砕された重合体に表面架橋剤および水を含む表面架橋溶液を混合して180?200℃で加熱して表面架橋反応を行う段階;とを含む製造方法。
[式1]
透過率(秒)=T_(S)-T_(0)
(高吸水性樹脂の中で、300?600μmの粒径を有する粒子サンプル0.2gを取ってシリンダー(Φ20mm)に投入する。この時、シリンダーの一端にはストップコック(stopcock)を含み、上限線および下限線が表示され、前記シリンダーの上限線は40mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示され、下限線は20mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示される。
50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じられた状態の前記シリンダーに投入して30分間放置する。
その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(level)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。
その次に、塩水-吸収高吸水性樹脂を含むシリンダーに0.3psiの荷重を加えて1分間放置する。
以降、シリンダーの下に位置したストップコック(stocock)を開けて0.9%塩水溶液がシリンダーに表示された前記上限線から前記下限線を通過する時間を測定する。
測定は24±1℃の温度および50±10%の相対湿度下で実施する。
前記上限線から下限線を通過する時間をそれぞれのサンプル(T_(s))に対して、そして高吸水性樹脂の投入なしに(T_(0))測定して、上記式1により透過率を計算する。)」

第4 特許異議申立書に記載した申立て理由の概要

平成30年10月10日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立て理由の概要は次のとおりである。

(1) 申立理由1(明確性実施可能要件、サポート要件)

本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号、同6項第1号、同4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

ア 請求項1及び7の「光重合により」の記載。
イ 請求項1及び7の「水可溶分」の測定方法。
ウ 請求項1及び7の「水可溶分の比率」に関する記載。
エ 請求項1及び7の「透過率」の測定方法。
オ 請求項1及び7の「高吸水性樹脂」との記載。

(2) 申立理由2(甲第1号証を主引用文献とする新規性進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3) 申立理由3(甲第2号証を主引用文献とする進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明及び甲第10号証に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4) 申立理由4(甲第3号証を主引用文献とする進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第3号証に記載された発明及び甲第10号証に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5) 申立理由5(甲第4号証を主引用文献とする新規性進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(6) 申立理由6(甲第5号証を主引用文献とする進歩性)

本件特許の請求項1、3ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第5号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(7) 申立理由7(甲第6号証を主引用文献とする進歩性)

本件特許の請求項1、3、5ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第6号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3、5ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(8) 証拠方法

甲第1号証 : 特表2009-531467号公報
甲第2号証 : 特開2007-314794号公報
甲第3号証 : 特開2007-284675号公報
甲第4号証 : 特表2006-522181号公報
甲第5号証 : 特開2013-132433号公報
甲第6号証 : 特開2008-178667号公報
甲第7号証 : 特開昭63-43912号公報
甲第8号証 : 特表2009-531467号公報の実施例2を追試した実験成績証明書
甲第9号証 : 特表2006-522181号公報の例1を追試した実験成績証明書
甲第10号証: 特開昭62-54751号公報
甲第11号証: Standrd Test Methods for the Nonwovens Industry

なお、文献名等の表記は特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第5 取消理由<決定の予告>の概要

本件訂正前の請求項1ないし7に係る特許に対して、当審が令和2年1月6日付けで特許権者に通知した取消理由<決定の予告>の概要は、以下のとおりである。

「本件特許の請求項1ないし7についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

・・・
(1) 水可溶成分量を測定する150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂の全体に占める量について
本件発明1は、上記第3に記載のとおりであって、高吸水性樹脂の1時間膨潤時の水可溶成分量について「前記水可溶成分は、前記高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、高吸水性樹脂の全体重量に対して5重量%以下で存在し」と特定されているが、高吸水性樹脂中の150?850μmの粒径を持つ樹脂粒子が高吸水性樹脂全体にどの程度存在しているかの特定はないから、本件発明1の高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有するものにおける水可溶成分量は樹脂全体に対して5重量%以下であるとはいえても、高吸水性樹脂が150μm以下及び850μmより大きな粒子を多量に含んでいる時には、それらの粒子に水可溶成分がいくら多く含まれていても本件発明1に包含されることになり、そのような高吸水性樹脂が上記本件発明1の課題を解決できないことは明らかである。 本件特許明細書の実施例の記載を確認しても、表面架橋を行う前の重合体粒子が分級され、粒径が150?850μm範囲となった重合体粒子を、重合体100重量部に対してエチレンカーボネート0.4重量部、メタノール5重量部、水4重量部を混合した溶液で表面架橋して得られた高吸水性樹脂における150?850μmの粒子についての含水率を測定しているものが記載されているのみで
あって、150?850μm以外の粒径のものがいくら含まれていても、本件発明1の課題が解決できたことは確認されていないし、150?850μm以外の粒径のものがいくら含まれていても、本件発明1の課題が解決できることが、当業者の技術常識であるとも認められない。
してみれば、本件発明1で特定される高吸水性樹脂が、本件発明1の課題を解決できると当業者は認識できない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明において当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とすることはできない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし6も同様である。
(2) 水可溶成分の比率(dwt/d(log M))について
本件発明1は、上記第3に記載のとおりであって、高吸水性樹脂の水可溶成分の比率(dwt/d(log M))について「200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000、200,000、300,000g/molである水可溶成分の比率(dwt/d(log M))がそれぞれ0.86以下であり」と特定されており、これらの特定の分子量以外の分子量での水可溶成分の比率については特定されていないから、例えば分子量150,000g/molでの水可溶成分の比率が0.86を大きく上回るものも包含することになり、本件発明1が「1時間膨潤時の水可溶成分量に主要な影響を与える分子量100,000?300,000g/molの水可溶成分の量を調節することによって、1時間膨潤時の水可溶成分量を減少させることができるという事実」(上記2エ)に基づいてなされたものであることからすると、そのような高吸水性樹脂が上記本件発明1の課題を解決できないことは明らかである。
本件特許明細書の実施例及び比較例の記載を確認しても、発明の詳細な説明の段落【0120】?【0125】(上記2カ)には、分析結果として、「log M値をM値で換算して100,000、200,000、300,000の各分子量に対するdwt/d(log M)値を得た」とされて具体的な数値が表1に記載されているが、発明の詳細な説明の段落【0024】?【0026】(上記2エ)の記載を踏まえている当業者は、100,000?300,000の範囲の水可溶成分量を全範囲では確認できないから、前期の記載は100,000?300,000のうちの代表的な3点で確認しているものと理解するし、測定していない範囲、例えば、150,000の時の水可溶成分量が極端に多いものが記載されているということはできないし、そのようなものが、本件発明1の課題を解決できるとの技術常識があるとも認められない。
そうすると、本件発明1の水可溶成分の比率で特定される高吸水性樹脂が、本件発明1の課題を解決できると当業者は認識できない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明において当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものであるから、本件発明1は、この点においても発明の詳細な説明に記載された発明とすることはできない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし6も同様である。
4 本件発明7についてのサポート要件の判断
・・・
(1) 水可溶成分量を測定する150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂の全体に占める量について
本件発明7は、上記第3に記載のとおりであって、高吸水性樹脂の1時間膨潤時の水可溶成分量について「前記水可溶成分は、前記高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、高吸水性樹脂の全体重量に対して5重量%以下で存在し」と特定されているが、高吸水性樹脂中の150?850μmの粒径を持つ樹脂粒子が高吸水性樹脂全体にどの程度存在しているかの特定はないから、本件発明7で製造される高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有するものにおける水可溶成分量は樹脂全体に対して5重量%以下であるとはいえても、製造された高吸水性樹脂が150μm以下及び850μmより大きな粒子を多量に含んでいる時には、それらの粒子に水可溶成分がいくら多く含まれていても本件発明7に包含されることになり、そのような高吸水性樹脂の製造方法が上記本件発明7の課題を解決できないことは明らかである。
本件特許明細書の実施例の記載を確認しても、表面架橋を行う前の重合体粒子が分級され、粒径が150?850μm範囲となった重合体粒子を、重合体100重量部に対してエチレンカーボネート0.4重量部、メタノール5重量部、水4重量部を混合した溶液で表面架橋して得られた高吸水性樹脂における150?850μmの粒子についての含水率を測定しているものが記載されているのみであって、150?850μm以外の粒径のものがいくら含まれていても、本件発明7の課題が解決できたことは確認されていないし、150?850μm以外の粒径のものがいくら含まれていても、本件発明7の課題が解決できることが、当業者の技術常識であるとも認められない。
してみれば、本件発明7で特定される高吸水性樹脂の製造方法が、本件発明7の課題を解決できると当業者は認識できない。
よって、本件発明7は、発明の詳細な説明において当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものであるから、本件発明7は、発明の詳細な説明に記載された発明とすることはできない。
(2) 水可溶成分の比率(dwt/d(log M))について
本件発明7は、上記第3に記載のとおりであって、製造された高吸水性樹脂の水可溶成分の比率(dwt/d(log M))について「200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000、200,000、300,000g/molである水可溶成分の比率(dwt/d(log M))がそれぞれ0.86以下であり」と特定されており、これらの特定の分子量以外の分子量での水可溶成分の比率については特定されていないから、例えば分子量150,000g/molでの水可溶成分の比率が0.86を大きく上回るものも包含することになり、本件発明7が「1時間膨潤時の水可溶成分量に主要な影響を与える分子量100,000?300,000g/molの水可溶成分の量を調節することによって、1時間膨潤時の水可溶成分量を減少させることができるという事実」(上記2エ)に基づいてなされたものであることからすると、そのような高吸水性樹脂の製造方法が、上記本件発明7の課題を解決できないことは明らかである。
本件特許明細書の実施例及び比較例の記載を確認しても、発明の詳細な説明の段落【0120】?【0125】(上記2カ)には、分析結果として、「log M値をM値で換算して100,000、200,000、300,000の各分子量に対するdwt/d(log M)値を得た」とされて具体的な数値が表1に記載されているが、発明の詳細な説明の段落【0024】?【0026】(上記2エ)の記載を踏まえている当業者は、100,000?300,000の範囲の水可溶成分量を全範囲では確認できないから、前記記載は100,000?300,000のうちの代表的な3点で確認しているものと理解するし、測定していない範囲、例えば、150,000の時の水可溶成分量が極端に多いものが記載されているということはできないし、そのようなものが、本件発明7の課題を解決できるとの技術常識があるとも認められない。
そうすると、本件発明7の水可溶成分の比率で特定される高吸水性樹脂の製造方法が、本件発明7の課題を解決できると当業者は認識できない。
よって、本件発明7は、発明の詳細な説明において当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものであるから、本件発明7は、この点においても発明の詳細な説明に記載された発明とすることはできない。」

第6 上記取消理由<決定の予告>についての判断

1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

2 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲は、上記「第3 本件発明」に記載のとおりである。

3 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
・・・
【0002】
本発明は、高吸水性樹脂に関する。より詳細には、他の物性の低下なしに優れた通液性を有する高吸水性樹脂に関する。」

イ 「【背景技術】
・・・
【0006】
一方、高吸水性樹脂の製造過程で架橋化されなかった高分子である水可溶成分が生成されるが、このような水可溶成分の含量が高い場合、高吸水性樹脂の溶液吸収特性を高める長所がある反面、高吸水性樹脂が液体と接触時、簡単に溶出されて表面がねばねばになるか、または接触する皮膚に悪い影響を与える原因にもなる。また、水可溶成分の含量が高い場合、溶出された水可溶成分が高吸水性樹脂の表面の大部分に存在するようになって高吸水性樹脂をねばねばにして溶液を他の高吸水性樹脂へ迅速に伝達する能力である通液性が減少するようになる。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような従来技術の問題点を解決するために、本発明の一実施形態は、保持能または加圧吸収能の低下なく、且つ膨潤時にも通液性に優れた高吸水性樹脂を提供することを目的とする。」

ウ 「【発明の効果】
【0013】
本発明の高吸水性樹脂によれば、向上した透過率を有しながらも、保持能または加圧吸収能の低下がなく、且つ膨潤時にも通液性に優れた高吸水性樹脂を提供することができる。」

エ 「【発明を実施するための形態】
・・・
【0024】
本発明の発明者は、特に1時間にかけて自由膨潤させた後、溶出される水可溶成分の含量が重要に作用することに着眼した。従来は水可溶成分の含量を16時間にかけて自由膨潤させた後、溶出される量で高吸水性樹脂の品質を判断したが、これは水可溶性成分の全体含量を意味する数値である。しかし、本発明の実験結果は1時間自由膨潤させた後の結果を土台にする。少なくとも一部実験結果において、16時間膨潤後の水可溶成分の含量および分子量分布と、1時間膨潤後の水可溶成分の含量および分子量分布は直接的な比較が不可能なことがある。例えば、本発明のSAPは16時間膨潤後に測定した時、他のSAPと類似の結果を示すことがある。しかし、本発明のSAPは1時間膨潤後に測定した時、他のSAPと類似の結果を示さないことがある。さらに、通液性をはじめとして高吸水性樹脂の大部分の物性は1時間膨潤時を基準に測定されるため、高吸水性樹脂の品質に大きい影響を与える物性は1時間自由膨潤させた後の水可溶成分の含量であるのを見出した。
【0025】
そこで、本発明の高吸水性樹脂は、前記水可溶成分の全体含量および前記水可溶成分の分子量に応じた含量分布を調節することによって、高い保持能および優れた通液性を有し、膨潤時に溶出される水可溶成分の含量が最小化して不快感が減少することができる。
【0026】
高吸水性樹脂は、膨潤されながら樹脂内の水可溶成分が溶出する。初期には低分子量の水可溶成分が溶出し、溶出時間が長くなるほど高分子量の水可溶成分が溶出するようになるが、特に、1時間膨潤時には100,000?300,000g/mol範囲の分子量を有する水可溶成分が最も多く溶出する。したがって、1時間膨潤時の水可溶成分量に主要な影響を与える分子量100,000?300,000g/molの水可溶成分の量を調節することによって、1時間膨潤時の水可溶成分量を減少させることができるという事実を発見して本発明に至るようになった。」

オ 「【0101】
<実施例>
[実施例1]
アクリル酸(水溶性エチレン系不飽和単量体)100重量部、NaOH30重量部、potassium igacure 651(光重合開始剤)0.03重量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(架橋剤)0.5重量部、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(架橋剤)0.1重量部、および溶媒の水110重量具を含む単量体組成物を準備した。アクリル酸以外の他の成分の含量は前記アクリル酸100重量部に対する重量部で定義した。前記単量体組成物を10cmの幅、2mの長さを有し、50cm/minの速度で回転するコンベヤーベルト上に、500mL/min?2,000mL/minの供給速度で供給した。
【0102】
前記単量体組成物を供給する間に、10mW/cm^(2)の強さを有する紫外線を照射して、60秒間重合反応を進行した。重合反応の進行後、結果物をミートチョッパー(meat chopper)で切断し、コンベクションオーブン(convection oven)を用いて160℃で5時間乾燥した。以降、粉砕、分級して粒径が150?850μm範囲である重合体を得た。
【0103】
前記重合体100重量部に対してエチレンカーボネート0.4重量部、メタノール5重量部、水4重量部を混合してコンベクションオーブンを用いて190℃で40分間表面処理反応を行うことによって高吸水性樹脂を製造した。
【0104】
[実施例2]
実施例1の重合体100重量部に対して、エチレンカーボネート0.4重量部、メタノール5重量部、水4重量部を混合してコンベクションオーブンを用いて200℃で40分間表面処理反応を行ったことを除いては、実施例1と同様な方法で高吸水性樹脂を製造した。
【0105】
[実施例3]
実施例1の重合体100重量部に対して、エチレンカーボネート0.4重量部、メタノール5重量部、水4重量部を混合してコンベクションオーブンを用いて180℃で80分間表面処理反応を行ったことを除いては、実施例1と同様な方法で高吸水性樹脂を製造した。
【0106】
[実施例4]
アクリル酸(水溶性エチレン系不飽和単量体)100重量部、NaOH30重量部、potassium igacure651(光重合開始剤)0.03重量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(架橋剤)0.5重量部、および溶媒の水110重量部を含む単量体組成物を準備した。アクリル酸以外の他の成分の含量は前記アクリル酸100重量部に対する重量部で定義した。前記単量体組成物を10cmの幅、2mの長さを有し、50cm/minの速度で回転するコンベヤーベルト上に、500mL/min?2,000mL/minの供給速度で供給した。
【0107】
前記単量体組成物を供給する間に、10mW/cm^(2)の強さを有する紫外線を照射して、60秒間重合反応を進行した。重合反応の進行後、結果物をミートチョッパーで切断し、コンベクションオーブンを用いて160℃で5時間乾燥した。以降、粉砕、分級して粒径が150?850μm範囲である重合体を得た。
【0108】
前記重合体100重量部に対してエチレンカーボネート0.4重量部、メタノール5重量部、水4重量部を混合してコンベクションオーブンを用いて190℃で40分間表面処理反応を行うことによって高吸水性樹脂を製造した。
【0109】
[実施例5]
実施例4の重合体100重量部に対して、エチレンカーボネート0.4重量部、メタノール5重量部、水4重量部を混合してコンベクションオーブンを用いて200℃で40分間表面処理反応を行ったことを除いては、実施例4と同様な方法で高吸水性樹脂を製造した。
【0110】
[実施例6]
実施例4の重合体100重量部に対して、エチレンカーボネート0.4重量部、メタノール5重量部、水4重量部を混合してコンベクションオーブンを用いて180℃で80分間表面処理反応を行ったことを除いては、実施例4と同様な方法で高吸水性樹脂を製造した。」

カ 「【0120】
<実験例>
水可溶成分の分析
実施例および比較例で製造された高吸水性樹脂の中で、150?850μmの粒径を有する試料1.0gを250mLの三角フラスコに入れた後、200mLの0.9%NaCl溶液に入れて250rpmで攪拌しながら1時間にかけて自由膨潤(freeswelling)させた後、フィルターペーパー(filterpaper)で水溶液を濾過した。濾過された溶液を0.1Nの苛性ソーダー溶液でpH10まで1次滴定した後、0.1Nの塩化水素溶液でpH2.7まで逆滴定を実施して得られた滴定量からEDANA法WSP270.3に従って高吸水性樹脂内の水可溶成分の含量(重量%)を計算した。
【0121】
また、フィルターペーパーを通過させた水溶液中の100μLを取ってGPC装置に注入してdwt/d(log M)の比率を測定した。
【0122】
GPCは、WyattDAWN EOS、Wyatt OptilabDSP、Waters、Wyatt社機器を用い、カラムはUltrahydrogelLinear X2、溶媒としては0.1MのNaNO_(3)/0.02Mのリン酸緩衝液(phosphatebuffer)を用いて、流速0.8mL/min、温度60℃の条件でStandardにポリアクリル酸(polyacrylicacid)が用いられた。
【0123】
分析結果はlog M(Mは溶出された水可溶成分の分子量)に対するdwt/d(log M)で出力され、log M値をM値で換算して100,000、200,000、300,000の各分子量に対するdwt/d(log M)値を得た。
【0124】
前記実施例および比較例の水可溶成分の測定結果を下記表1に示した。
【0125】
【表1】



4 サポート要件の判断
上記3ア?オの記載から、本件発明1は、「保持能または加圧吸収能の低下なく、且つ膨潤時にも通液性に優れた高吸水性樹脂を提供すること」を発明が解決しようとする課題としており、「本発明の発明者は、特に1時間にかけて自由膨潤させた後、溶出される水可溶成分の含量が重要に作用することに着眼した。・・・通液性をはじめとして高吸水性樹脂の大部分の物性は1時間膨潤時を基準に測定されるため、高吸水性樹脂の品質に大きい影響を与える物性は1時間自由膨潤させた後の水可溶成分の含量であるのを見出した。」、「初期には低分子量の水可溶成分が溶出し、溶出時間が長くなるほど高分子量の水可溶成分が溶出するようになるが、特に、1時間膨潤時には100,000?300,000g/mol範囲の分子量を有する水可溶成分が最も多く溶出する。したがって、1時間膨潤時の水可溶成分量に主要な影響を与える分子量100,000?300,000g/molの水可溶成分の量を調節することによって、1時間膨潤時の水可溶成分量を減少させることができるという事実を発見して本発明に至るようになった。」(上記3エ)ことにより発明されたものであって、その具体的な実施例の記載において、高吸水性樹脂について特定条件で測定した水可溶分の含量と水可溶分の比率が確認されている。(上記3オ、カ)
そうすると、上記記載に触れた当業者は、1時間膨潤時の水可溶成分の含量を所定以下とするとともに、1時間膨潤時の水可溶成分量に主要な影響を与える分子量100,000?300,000g/molの水可溶成分の比率を調整することにより、上記課題が解決できるものと理解する。
そして、本件発明1においては、発明特定事項として「水可溶成分は、150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂・・・1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、高吸水性樹脂の全体重量に対して5重量%以下で存在し、・・・1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))がそれぞれ0.86以下であ」る点が特定されていることから、当該発明特定事項を含む本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できるといえる。
してみれば、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2ないし6についても同様である。さらに、本件発明7についても同様である。
よって、上記取消理由<決定の予告>には、理由がない。

第7 特許異議申立て理由についての判断

1 申立理由1(明確性実施可能要件、サポート要件)について

本件訂正後の請求項1ないし7に係る特許に関し、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として判断すれば、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確とはいえない。なお、「光重合により」との表現には、不可能非実際的事情があると認められる。
また、物の発明について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
さらに、上記第6での検討のとおり、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる。
よって、申立理由1には、理由がない。

2 申立理由2(甲1を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1) 甲1に記載された発明
甲1の段落【0192】?【0197】、【0242】の表2には、内部構造が改善された吸水性樹脂である具体的な実施例2として記載されている吸水性樹脂(2-45A)として、次のとおりの発明(以下「甲1樹脂発明」という。)が記載されていると認める。

「シグマ型羽根を2本有する内容積10リットルのジャケット付きステンレス型双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中で、アクリル酸436.4g、37質量%アクリル酸ナトリウム水溶液4617.9g、純水377.5g、ポリエチレングリコールジアクリレート(重量平均分子量(Mw)523)10.13gを溶解させて反応液とし、次にこの反応液を窒素ガス雰囲気下で、20分間脱気し、続いて、反応液に10質量%過硫酸ナトリウム水溶液33.91gおよび0.1質量%L-アスコルビン酸水溶液24.22gを攪拌しながら添加したところ、およそ25秒後に重合が開始し、そして、生成したゲルを粉砕しながら、25℃以上95℃以下で重合を行い、重合が開始して30分後に含水ゲル状架橋重合体を取り出し、このとき、重合が開始してから最高温度に達するまでの時間は15分以内であり、得られた含水ゲル(含水ゲル状架橋重合体)は、その径が約5mm以下に細分化されているものであって、この含水ゲルの熱分解性ラジカル開始剤量Ci(質量%)は0.0504質量%であり、含水ゲルの固形分量Cm(質量%)は41.2質量%であり、熱分解性ラジカル開始剤含有指数は45.5であり、この細分化された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で45分間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに分級操作によって目開き710μmのJIS標準篩を通過した粒子を、さらに目開き175μmのJIS標準篩で分級し、通過した微粒子を除去することにより、質量平均粒子径(D50)340μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.33の不定形破砕状の吸水性樹脂(2)を得、当該吸水性樹脂(2)の遠心分離機保持容量(CRC)は34.7(g/g)、水可溶分量は7.5質量%、目開き150μmの篩を通過できる大きさの粒子の割合は1.6質量%であり、得られた吸水性樹脂(2)100質量部に1,4-ブタンジオール0.38質量部、プロピレングリコール0.63質量部、純水3.39質量部、過硫酸ナトリウム0.1質量部の混合液からなる表面架橋剤を均一に混合した後、混合物を212℃で加熱処理し、混合物の加熱時間を45分としたものをそれぞれ作製し、その後、得られた粒子をそれぞれ目開き710μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、この表面が架橋された吸水性樹脂(2-45)の100質量部に、硫酸アルミニウム27.5質量%水溶液(酸化アルミニウム換算で8質量%)0.40質量部、乳酸ナトリウム60質量%水溶液0.134質量部、プロピレングリコール0.002質量部からなる混合液を添加し、添加後、無風条件下、60℃で1時間乾燥した後、これらの粒子をそれぞれ目開き710μmのJIS標準篩を通過するまで解砕して得られた粒子であり、CRCは28.8g/gであり、AAP=24.8である、吸水性樹脂(2-45A)。」

また、甲1樹脂発明の吸水性樹脂(2-45A)を製造する方法として、次のとおりの発明(以下「甲1製造方法発明」という。)が記載されていると認める。

「シグマ型羽根を2本有する内容積10リットルのジャケット付きステンレス型双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中で、アクリル酸436.4g、37質量%アクリル酸ナトリウム水溶液4617.9g、純水377.5g、ポリエチレングリコールジアクリレート(重量平均分子量(Mw)523)10.13gを溶解させて反応液とし、次にこの反応液を窒素ガス雰囲気下で、20分間脱気し、続いて、反応液に10質量%過硫酸ナトリウム水溶液33.91gおよび0.1質量%L-アスコルビン酸水溶液24.22gを攪拌しながら添加したところ、およそ25秒後に重合が開始し、そして、生成したゲルを粉砕しながら、25℃以上95℃以下で重合を行い、重合が開始して30分後に含水ゲル状架橋重合体を取り出し、このとき、重合が開始してから最高温度に達するまでの時間は15分以内であり、得られた含水ゲル(含水ゲル状架橋重合体)は、その径が約5mm以下に細分化されているものであって、この含水ゲルの熱分解性ラジカル開始剤量Ci(質量%)は0.0504質量%であり、含水ゲルの固形分量Cm(質量%)は41.2質量%であり、熱分解性ラジカル開始剤含有指数は45.5であり、この細分化された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で45分間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに分級操作によって目開き710μmのJIS標準篩を通過した粒子を、さらに目開き175μmのJIS標準篩で分級し、通過した微粒子を除去することにより、質量平均粒子径(D50)340μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.33の不定形破砕状の吸水性樹脂(2)を得、当該吸水性樹脂(2)の遠心分離機保持容量(CRC)は34.7(g/g)、水可溶分量は7.5質量%、目開き150μmの篩を通過できる大きさの粒子の割合は1.6質量%であり、得られた吸水性樹脂(2)100質量部に1,4-ブタンジオール0.38質量部、プロピレングリコール0.63質量部、純水3.39質量部、過硫酸ナトリウム0.1質量部の混合液からなる表面架橋剤を均一に混合した後、混合物を212℃で加熱処理し、混合物の加熱時間を45分としたものをそれぞれ作製し、その後、得られた粒子をそれぞれ目開き710μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、この表面が架橋された吸水性樹脂(2-45)の100質量部に、硫酸アルミニウム27.5質量%水溶液(酸化アルミニウム換算で8質量%)0.40質量部、乳酸ナトリウム60質量%水溶液0.134質量部、プロピレングリコール0.002質量部からなる混合液を添加し、添加後、無風条件下、60℃で1時間乾燥した後、これらの粒子をそれぞれ目開き710μmのJIS標準篩を通過するまで解砕して得られた粒子であり、CRCは28.8g/gであり、AAP=24.8である、吸水性樹脂(2-45A)の製造方法。」

(2) 本件発明1と甲1樹脂発明との対比・判断
本件発明1と甲1樹脂発明とを対比する。
甲1樹脂発明の「質量平均粒子径(D50)340μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.33の不定形破砕状の吸水性樹脂(2)」、「目開き150μmの篩を通過できる大きさの粒子の割合は1.6質量%であり、得られた吸水性樹脂(2)100質量部に1,4-ブタンジオール0.38質量部、プロピレングリコール0.63質量部、純水3.39質量部、過硫酸ナトリウム0.1質量部の混合液からなる表面架橋剤を均一に混合した後、混合物を212℃で加熱処理し、混合物の加熱時間を45分としたものをそれぞれ作製し、その後、得られた粒子をそれぞれ目開き710μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、この表面が架橋された吸水性樹脂(2-45)の100質量部に、硫酸アルミニウム27.5質量%水溶液(酸化アルミニウム換算で8質量%)0.40質量部、乳酸ナトリウム60質量%水溶液0.134質量部、プロピレングリコール0.002質量部からなる混合液を添加し、添加後、無風条件下、60℃で1時間乾燥した後、これらの粒子をそれぞれ目開き710μmのJIS標準篩を通過するまで解砕して得られた粒子である、吸水性樹脂(2-45A)」は、それぞれ、本件発明1の「ベース樹脂粒子」、「表面架橋重合体粒子である高吸水性樹脂」に相当する。
そして、甲1樹脂発明の「吸水性樹脂(2)」は、アクリル酸及びアクリル酸ナトリウムから重合されたものであるから、甲1樹脂発明の「吸水性樹脂(2)」(ベース樹脂)についても、本件発明1と同様、陰イオン性単量体またはその塩である水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から重合されたものといえる。
甲1樹脂発明のポリマー特性として、CRC=28.8g/gであるから、本件発明1の27?31g/gの保持能(CRC)を満足している。
そうすると、本件発明1と甲1樹脂発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

・ 一致点

「ベース樹脂粒子を表面架橋させた表面架橋重合体粒子である高吸水性樹脂であって、前記ベース樹脂は陰イオン性単量体またはその塩である水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から重合されたものであり、
27?31g/gの保持能(CRC)を有する、
高吸収性樹脂。」である点

・ 相違点1

ベース樹脂に関し、本件発明1は、「光重合された」ものと特定するのに対し、甲1発明においては、この点を特定しない点。

・ 相違点2

高吸収性樹脂に特性に関し、本件発明1は、「水可溶分を含む」と特定すると共に、「前記水可溶成分は、高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する前記高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、高吸水性樹脂の全体重量に対して5重量%以下で存在し」と特定するのに対し、甲1樹脂発明は、この点を特定しない点。

・ 相違点3

高吸収性樹脂に特性に関し、本件発明1は、「下記式1で計算される透過率が41秒以下であり、
[式1]
透過率(秒)=T_(S)-T_(0)
(高吸水性樹脂の中で、300?600μmの粒径を有する粒子サンプル0.2gを取ってシリンダー(Φ20mm)に投入する。この時、シリンダーの一端にはストップコック(stopcock)を含み、上限線および下限線が表示され、前記シリンダーの上限線は40mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示され、下限線は20mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示される。
50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じられた状態の前記シリンダーに投入して30分間放置する。その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(level)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。
その次に、塩水-吸収高吸水性樹脂を含むシリンダーに0.3psの荷重を加えて1分間放置する。
以降、シリンダーの下に位置したストップコック(stopcock)を開けて0.9%塩水溶液がシリンダーに表示された前記上限線から前記下限線を通過する時間を測定する。
測定は24±1℃の温度および50±10%の相対湿度下で実施する。
前記上限線から下限線を通過する時間をそれぞれのサンプル(Ts)に対して、そして高吸水性樹脂の投入なしに(T_(0))測定して、上記式1により透過率を計算する。)

・ 相違点4

高吸収性樹脂の特性に関し、本件発明1は、「200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))が0.86以下であり」と特定するのに対し、甲1樹脂発明は、この点を特定しない点。

・ 相違点5

高吸水性樹脂の粒径に関し、本件発明1は、「150?850μmの粒径を有する」と特定するのに対し、甲1樹脂発明は、この点を特定しない点。

以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点4について検討する。
本件発明1における「200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))」については、甲1には記載も示唆もなく、また、甲1樹脂発明が、相違点4に係る本件発明1の特性を満足する蓋然性が高いともいえない。さらに、異議申立人の提示した甲8(甲1の実験成績証明書)をみても、甲1樹脂発明が相違点4に係る本件発明1の特性を満足しているとはいえないから、相違点4は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲1樹脂発明であるとはいえない。

次に相違点4の容易想到性について検討する。
実験成績証明書を除き、異議申立人の提示したいずれの証拠にも、相違点4に係る、特に1時間という短い時間の、水可溶成分の比率を0.86以下とすることについて、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1樹脂発明において、相違点4に係る本件発明1の特定事項とする動機はないから、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件発明1は「保持能または加圧吸収能の低下なく、且つ膨潤時にも通液性に優れ」るという格別顕著な効果を奏するものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1樹脂発明であるとはいえないし、甲1樹脂発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3) 本件発明2ないし6と甲1樹脂発明との対比・判断
本件発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲1樹脂発明であるとはいえないし、甲1樹脂発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4) 本件発明7と甲1製造方法発明との対比・判断
本件発明7と甲1製造方法発明とを対比すると、両者の間には上記(2)と同様の相当関係が成り立つから、少なくとも上記(2)における相違点4で相違しており、当該相違点4の判断は、上記(2)のとおりであるから、本件発明7は、甲1製造方法発明であるとはいえないし、甲1製造方法発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5) まとめ
以上のとおりであるから、異議申立人の甲1に基づく申立理由2には、理由がない。

3 申立理由3(甲2を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1) 甲2に記載された発明
甲2には、その特許請求の範囲の記載から、次のとおりの発明(以下「甲2樹脂発明」という。)が記載されていると認める。

「アクリル酸およびアクリル酸の水溶性塩類からなる群より選ばれる少なくとも一種類のアクリル酸塩系単量体を主成分として含む不飽和単量体を架橋剤の存在下で重合させてなる吸水性樹脂と、無機粉末とを含んでなることを特徴とする吸水性樹脂組成物であって、
生理食塩水(0.9重量%塩化ナトリウム水溶液)に対する60分間での保水能が20g/g以上であり、生理食塩水に対する吸水速度が120秒以下であり、加圧下の通液速度が200秒以下であり、
上記吸水性樹脂の表面が共有結合で架橋されている、
上記吸水性樹脂の平均粒子径が200μm?600μmの範囲内である、
吸水性樹脂組成物。」

また、甲2樹脂発明の吸水性樹脂組成物を製造する方法として、次のとおりの発明(以下「甲2製造方法発明」という。)が記載されていると認める。

「甲2樹脂発明の吸水性樹脂組成物を製造する方法であって、
アクリル酸およびアクリル酸の水溶性塩類と架橋剤を含む単量体水溶液に平均粒子径1μm?1000μmの範囲内の固体の発泡剤を均一に分散させた後、該単量体水溶液を重合させるステップと、上記ステップの後に、吸水性樹脂の表面を架橋するステップとを含んでいる
甲2樹脂発明の吸水性樹脂組成物の製造方法。」

(2) 本件発明1と甲2樹脂発明と対比・判断
本件発明1と甲2樹脂発明とを対比すると、少なくとも、上記2(2)における相違点4(下記に再掲)で相違し、当該相違点の判断は、上記2(2)のとおりである。

<相違点4>
高吸収性樹脂の特性に関し、本件発明1は、「200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))が0.86以下であり」と特定するのに対し、甲2樹脂発明は、この点を特定しない点。

したがって、本件発明1は甲2樹脂発明であるとはいえないし、本件発明1は、甲2樹脂発明、すなわち、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3) 本件発明2ないし6と甲2樹脂発明との対比・判断
本件発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲2樹脂発明であるとはいえないし、甲2樹脂発明、すなわち、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4) 本件発明7と甲2製造方法発明との対比・判断
本件発明7と甲2製造方法発明とを対比すると、両者の間には上記(2)と同様に、少なくとも上記(2)における相違点4で相違しており、当該相違点4の判断は、上記(2)のとおりであるから、本件発明7は、甲2製造方法発明であるとはいえないし、甲2製造方法発明、すなわち、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

4 申立理由4(甲3を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1) 甲3に記載された発明
甲3には、その特許請求の範囲の記載から、次のとおりの発明(以下「甲3樹脂発明」という。)が記載されていると認める。

「アクリル酸(塩)を70?99.999モル%および架橋剤0.001?5モル%を繰り返し単位とする吸水性樹脂粒子であって、下記(1)?(6)を満たす吸水性樹脂粒子。
(1)吸収倍率(CRC)が20?40g/gである。
(2)加圧下吸収倍率(AAP)が20?40g/gである。
(3)吸収速度(FSR)が0.25?1.0g/g/secである。
(4)嵩比重(JIS K 3362)が0.50?0.80g/mlである。
(5)残存モノマーが0?400ppmである。
(6)850?150μmの粒子(JIS Z8801-1)が95?100重量%である。」

また、甲3樹脂発明の吸水性樹脂粒子を製造する方法として、次のとおりの発明(以下「甲3製造方法発明」という。)が記載されていると認める。

「甲3樹脂発明の吸水性樹脂粒子を製造する方法であって、
酸基含有不飽和単量体の水溶液を重合する吸水性樹脂の製造方法であって、水不溶性の固形物の存在下で静置重合し、かつ重合の開始温度を40℃以上または重合時の最高温度を100℃以上に制御するものであり、前記固形物が水不溶性粒子であって、前記静置重合が連続ベルト装置で行なわれ、前記固形物が吸水性樹脂の乾燥粉末または膨潤ゲル粒子であり、前記固形物の含有量が酸基含有不飽和単量体に対して0.1?50重量%であり、前記固形物の90重量%以上が標準篩5mm通過物であって、前記単量体がアクリル酸(塩)を70?99.999モル%および架橋剤0.001?5モル%を含み、前記固形物が、生理食塩水に対する吸収倍率(CRC)5?20g/gである吸水性樹脂である
甲3樹脂発明の吸水性樹脂粒子の製造方法。」

(2) 本件発明1と甲3樹脂発明と対比・判断
本件発明1と甲3樹脂発明とを対比すると、少なくとも、上記2(2)における相違点4(下記に再掲)で相違し、当該相違点の判断は、上記2(2)のとおりである。

<相違点4>
高吸収性樹脂の特性に関し、本件発明1は、「200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))が0.86以下であり」と特定するのに対し、甲3樹脂発明は、この点を特定しない点。

したがって、本件発明1は甲3樹脂発明であるとはいえないし、本件発明1は、甲3樹脂発明、すなわち、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3) 本件発明2ないし6と甲3樹脂発明との対比・判断
本件発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲3樹脂発明であるとはいえないし、甲3樹脂発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4) 本件発明7と甲3製造方法発明との対比・判断
本件発明7と甲3製造方法発明とを対比すると、両者の間には上記(2)と同様に、少なくとも上記(2)における相違点4で相違しており、当該相違点4の判断は、上記(2)のとおりであるから、本件発明7は、甲3製造方法発明であるとはいえないし、甲3製造方法発明、すなわち、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5) まとめ
以上のとおりであるから、異議申立人の甲3に基づく申立理由4には、理由がない。

5 申立理由5(甲4を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1) 甲4に記載された発明
甲4の段落【0094】、【0095】、【0100】?【0101】に、色安定性高吸水性ポリマー粒子である具体的な実施例の例1に記載のポリマー粒子が記載されているから、甲4には、次のとおりの発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

「アクリル酸(92.4g)、トリメチロールプロパントリアクリレート0.026gおよび脱塩水87.2gを混合し、炭酸ナトリウム(40.4g)を添加し、かつ中和反応の間、モノマー溶液の温度を30℃以下に維持し、次いで2,2′-アゾビスアミジノプロパンジヒドロクロリド0.081g、DAROCUR (R) 1173 0.018gおよび過酸化水素0.040gをモノマー混合物中に混合し、モノマー混合物を62℃に加熱し、受け皿に注ぎ、次いで脱塩水5g中に溶解した亜硫酸ナトリウム0.015gを添加して重合を開始し、重合の熱により、水の大部分は反応の間に蒸発し、かつ重合の終了時に、約15質量%の残留湿分を有するポリマー材料が得られ、該ポリマー材料をUV光(UV強度=20mW/cm^(2))下に8分間おき、次いで乾燥炉中120℃で乾燥させ、粉砕し、かつ106?850μmの粒径分布に分級し、次いで粉末に対してエチレングリコールジグリシジルエーテルを0.12質量%、粉末に対して水を3.35質量%、および粉末に対してイソプロパノールを1.65質量%含有する溶液を粉末粒子上に噴霧し、次いで150℃で1時間硬化させることにより、乾燥粉末を表面架橋させて得られたポリマー粒子であって、得られたポリマー特性は、CRC=29.8g/g、AUL 0.7psi=23.5g/gである、ポリマー粒子。」

また、甲4樹脂発明のポリマー粒子を製造する方法として、次のとおりの発明(以下「甲4製造方法発明」という。)が記載されていると認める。

「甲4樹脂発明を製造する方法であって、アクリル酸(92.4g)、トリメチロールプロパントリアクリレート0.026gおよび脱塩水87.2gを混合し、炭酸ナトリウム(40.4g)を添加し、かつ中和反応の間、モノマー溶液の温度を30℃以下に維持し、次いで2,2′-アゾビスアミジノプロパンジヒドロクロリド0.081g、DAROCUR (R) 1173 0.018gおよび過酸化水素0.040gをモノマー混合物中に混合し、モノマー混合物を62℃に加熱し、受け皿に注ぎ、次いで脱塩水5g中に溶解した亜硫酸ナトリウム0.015gを添加して重合を開始し、重合の熱により、水の大部分は反応の間に蒸発し、かつ重合の終了時に、約15質量%の残留湿分を有するポリマー材料が得られ、該ポリマー材料をUV光(UV強度=20mW/cm^(2))下に8分間おき、次いで乾燥炉中120℃で乾燥させ、粉砕し、かつ106?850μmの粒径分布に分級し、次いで粉末に対してエチレングリコールジグリシジルエーテルを0.12質量%、粉末に対して水を3.35質量%、および粉末に対してイソプロパノールを1.65質量%含有する溶液を粉末粒子上に噴霧し、次いで150℃で1時間硬化させることにより、乾燥粉末を表面架橋させて得る甲樹脂発明のポリマー粒子の製造方法。」

(2) 本件発明1と甲4樹脂発明との対比・判断
本件発明1と甲4樹脂発明とを対比する。
甲4樹脂発明の「乾燥炉中120℃で乾燥させ、粉砕し、かつ106?850μmの粒径分布に分級した粉末」、「表面架橋させて得られたポリマー粒子」は、それぞれ、本件発明1の「ベース樹脂粒子」、「表面架橋重合体粒子」に相当する。
また、甲4樹脂発明の「乾燥炉中120℃で乾燥させ、粉砕し、かつ106?850μmの粒径分布に分級した粉末」(ベース樹脂)は、アクリル酸を重合させて得られるものであって、甲4樹脂発明の「DAROCUR(R) 1173」は、甲4の段落【0058】?【0064】の記載から、光開始剤であって、ポリマー材料にUV光を照射して得ているから、本件発明1の「ベース樹脂は陰イオン性単量体またはその塩である水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から光重合されたもの」といえる。
甲4樹脂発明のポリマー特性として、CRC=29.8g/gであるから、本件発明1の27?31g/gの保持能(CRC)を満足している。
そうすると、本件発明1と甲4樹脂発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

・ 一致点

「ベース樹脂粒子を表面架橋させた表面架橋重合体粒子である高吸水性樹脂であって、前記ベース樹脂は陰イオン性単量体またはその塩である水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から光重合されたものであり、
27?31g/gの保持能(CRC)を有する、
高吸収性樹脂。」である点

・ 相違点6

高吸収性樹脂に特性に関し、本件発明1は、「水可溶分を含む」と特定すると共に、「前記水可溶成分は、高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する前記高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、高吸水性樹脂の全体重量に対して5重量%以下で存在し」と特定するのに対し、甲4樹脂発明は、この点を特定しない点。

・ 相違点7

高吸収性樹脂に特性に関し、本件発明1は、「下記式1で計算される透過率が41秒以下であり、
[式1]
透過率(秒)=T_(S)-T_(0)
(高吸水性樹脂の中で、300?600μmの粒径を有する粒子サンプル0.2gを取ってシリンダー(Φ20mm)に投入する。この時、シリンダーの一端にはストップコック(stopcock)を含み、上限線および下限線が表示され、前記シリンダーの上限線は40mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示され、下限線は20mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示される。
50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じられた状態の前記シリンダーに投入して30分間放置する。
その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(level)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。
その次に、塩水-吸収高吸水性樹脂を含むシリンダーに0.3psiの荷重を加えて1分間放置する。
以降、シリンダーの下に位置したストップコック(stocock)を開けて0.9%塩水溶液がシリンダーに表示された前記上限線から前記下限線を通過する時間を測定する。
測定は24±1℃の温度および50±10%の相対湿度下で実施する。
前記上限線から下限線を通過する時間をそれぞれのサンプル(T_(s))に対して、そして高吸水性樹脂の投入なしに(T_(0))測定して、上記式1により透過率を計算する。)
」と特定するのに対し、甲4樹脂発明は、この点を特定しない点。

・ 相違点8

高吸収性樹脂の特性に関し、本件発明1は、「200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(logM))が0.86以下であり」と特定するのに対し、甲4樹脂発明は、この点を特定しない点。

・ 相違点9

高吸水性樹脂の粒径に関し、本件発明1は、「150?850mの粒径を有する」と特定するのに対し、甲4樹脂発明は、この点を特定しない点。

以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点8について検討する。
甲4樹脂発明における「200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))」については、甲4には記載も示唆もなく、また、甲4樹脂発明が、相違点8に係る本件発明1の特性を満足する蓋然性が高いともいえない。さらに、異議申立人の提示した甲9(甲4の実験成績証明書)をみても、下記の理由から当該実験成績証明書の数値が採用できないことから、甲4樹脂発明が相違点4に係る本件発明1の特性を満足しているとはいえず、相違点8は、実質的な相違点である。
<甲9が採用できない理由>
甲4の例1に記載された方法で製造した吸水性樹脂(甲4樹脂発明)の保持能(CRC)についての甲9での値(27.8)が、甲4に記載されている保持能(CRC)の値(29.8)と比較して2g/gずれており、実験成績証明書の内容に疑義が生じたため、甲9は採用できない。
なお、異議申立人は、甲9においては、本件特許明細書に記載のCRC測定方法で測定したために生じたものであり、測定方法の違いから当業者が予測できるから、実験成績証明書の再現性及び信憑性は何ら否定されるものではない旨主張するが、測定方法の違いで測定値がどの程度変化するのかが当業者の技術常識とはいえず、測定方法のちがいにより測定値がどの程度変化するのかが理解できる証拠も提出されていないから、異議申立人の主張は採用できない。

したがって、本件発明1は甲4樹脂発明であるとはいえない。
次に相違点4の容易想到性について検討する。
実験成績証明書を除き、異議申立人の提示したいずれの証拠にも、相違点4に係る、特に1時間という短い時間の、水可溶成分の比率を0.86以下とすることについて、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲4樹脂発明において、相違点4に係る本件発明1の特定事項とする動機はないから、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件発明1は「保持能または加圧吸収能の低下なく、且つ膨潤時にも通液性に優れ」るという格別顕著な効果を奏するものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4樹脂発明であるとはいえないし、甲4樹脂発明、すなわち、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3) 本件発明2ないし6と甲4樹脂発明との対比・判断
本件発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲4樹脂発明であるとはいえないし、甲4樹脂発明、すなわち、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4) 本件発明7と甲4製造方法発明との対比・判断
本件発明7と甲4製造方法発明とを対比すると、上記(2)と同様な相当関係が成り立つから、少なくとも上記(2)における相違点8で相違しており、当該相違点8の判断は、上記(2)のとおりであるから、本件発明7は、甲4製造方法発明であるとはいえないし、甲4製造方法発明、すなわち、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5) まとめ
以上のとおりであるから、異議申立人の甲4に基づく申立理由5には、理由がない。

6 申立理由6(甲5を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1) 甲5に記載された発明
甲5には、その特許請求の範囲の記載から、次のとおりの発明(以下「甲5樹脂発明」という。)が記載されていると認める。

「下記(a)?(d)の要件を満足し、
(a)嵩密度:0.45g/ml?0.62g/ml
(b)ボルテックス法による吸収速度:20秒?50秒
(c)荷重下通液速度:10秒以下
(d)吸湿ブロッキング率:5%以下
吸収倍率が、40g/g?55g/gであり、
保水量が、20g/g?45g/gであって、
(a1)水溶性エチレン性不飽和モノマーおよび/または加水分解により(a1)水溶性エチレン性モノマーを生成する(a2)加水分解性モノマーと、(b)内部架橋剤とを含有する単量体組成物を重合してなる(A)架橋重合体を、(B)表面改質剤で処理して得られたものである吸水性樹脂粉末。」

また、甲5樹脂発明の吸水性樹脂粉末を製造する方法として、次のとおりの発明(以下「甲5製造方法発明」という。)が記載されていると認める。

「甲5樹脂発明の吸水性樹脂粉末を製造する方法。」

(2) 本件発明1と甲5樹脂発明と対比・判断
本件発明1と甲5樹脂発明とを対比すると、少なくとも、上記2(2)における相違点4(下記に再掲)で相違し、当該相違点の判断は、上記2(2)のとおりである。

<相違点4>
高吸収性樹脂の特性に関し、本件発明1は、「200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))が0.86以下であり」と特定するのに対し、甲5樹脂発明は、この点を特定しない点。

したがって、本件発明1は甲5樹脂発明であるとはいえないし、本件発明1は、甲5樹脂発明、すなわち、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3) 本件発明3ないし6と甲5樹脂発明との対比・判断
本件発明3ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲5樹脂発明であるとはいえないし、甲5樹脂発明、すなわち、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4) 本件発明7と甲5製造方法発明との対比・判断
本件発明7と甲5製造方法発明とを対比すると、両者の間には上記(2)と同様に、少なくとも上記(2)における相違点4で相違しており、当該相違点4の判断は、上記(2)のとおりであるから、本件発明7は、甲5製造方法発明であるとはいえないし、甲5製造方法発明、すなわち、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5) まとめ
以上のとおりであるから、異議申立人の甲5に基づく申立理由6には、理由がない。

7 申立理由7(甲6を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1) 甲6に記載された発明
甲6には、その特許請求の範囲の記載から、次のとおりの発明(以下「甲6樹脂発明」という。)が記載されていると認める。

「吸水性ポリマーのボルテックス法による吸水速度が20秒以下、2.0kPaでの加圧下通液速度が60ml/min以上であり、前記吸水性ポリマーの遠心脱水法による吸水量が20g/g以上である、吸水性ポリマー。」

また、甲6樹脂発明の吸水性ポリマーを製造する方法として、次のとおりの発明(以下「甲6製造方法発明」という。)が記載されていると認める。

「甲6樹脂発明の吸水性ポリマーを製造する方法。」

(2) 本件発明1と甲6樹脂発明と対比・判断
本件発明1と甲6樹脂発明とを対比すると、少なくとも、上記2(2)における相違点4(下記に再掲)で相違し、当該相違点の判断は、上記2(2)のとおりである。

<相違点4>
高吸収性樹脂の特性に関し、本件発明1は、「200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))が0.86以下であり」と特定するのに対し、甲6樹脂発明は、この点を特定しない点。

したがって、本件発明1は甲6樹脂発明であるとはいえないし、本件発明1は、甲6樹脂発明、すなわち、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3) 本件発明3、5及び6と甲6樹脂発明との対比・判断
本件発明3、5及び6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲6樹脂発明であるとはいえないし、甲6樹脂発明、すなわち、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4) 本件発明7と甲6製造方法発明との対比・判断
本件発明7と甲6製造方法発明とを対比すると、両者の間には上記(2)と同様に、少なくとも上記(2)における相違点4で相違しており、当該相違点4の判断は、上記(2)のとおりであるから、本件発明7は、甲6製造方法発明であるとはいえないし、甲6製造方法発明、すなわち、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5) まとめ
以上のとおりであるから、異議申立人の甲6に基づく申立理由7には、理由がない。

第8 むすび

上記第6のとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、取消理由<決定の予告>で取り消すことはできないし、上記第7のとおり、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっても取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7についての特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。



 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂粒子を表面架橋させた表面架橋重合体粒子、および水可溶成分を含む高吸水性樹脂であって、前記ベース樹脂は陰イオン性単量体またはその塩である水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から光重合されたものであり、
前記水可溶成分は、前記高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、高吸水性樹脂の全体重量に対して5重量%以下で存在し、
下記式1で計算される透過率が41秒以下であり、
200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))が0.86以下であり、
27?31g/gの保持能(CRC)を有し、
150?850μmの粒径を有する
高吸水性樹脂。
[式1]
透過率(秒)=T_(S)-T_(0)
(高吸水性樹脂の中で、300?600μmの粒径を有する粒子サンプル0.2gを取ってシリンダー(Φ20mm)に投入する。この時、シリンダーの一端にはストップコック(stopcock)を含み、上限線および下限線が表示され、前記シリンダーの上限線は40mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示され、下限線は20mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示される。
50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じられた状態の前記シリンダーに投入して30分間放置する。
その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(level)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。
その次に 塩水-吸収高吸水性樹脂を含むシリンダーに0.3psiの荷重を加えて1分間放置する。
以降、シリンダーの下に位置したストップコック(stopcock)を開けて0.9%塩水溶液がシリンダーに表示された前記上限線から前記下限線を通過する時間を測定する。
測定は24±1℃の温度および50±10%の相対湿度下で実施する。
前記上限線から下限線を通過する時間をそれぞれのサンプル(T_(S))に対して、そして高吸水性樹脂の投入なしに(T_(0))測定して、上記式1により透過率を計算する。)
【請求項2】
20?26g/gの加圧吸収能(0.7psi AUL)を有する、請求項1に記載の高吸水性樹脂。
【請求項3】
前記ベース樹脂は、重合体粒子の内部に存在する重合体を架橋させる内部架橋剤の存在下に重合される、請求項1または2に記載の高吸水性樹脂。
【請求項4】
前記内部架橋剤は、前記単量体組成物に対して0.1?0.5重量%で存在する、請求項3に記載の高吸水性樹脂。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項の高吸水性樹脂を含む衛生用品。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか一項の高吸水性樹脂を含むおむつ。
【請求項7】
ベース樹脂粒子を表面架橋させた表面架橋重合体粒子、および水可溶成分を含む高吸水性樹脂であって、前記ベース樹脂は陰イオン性単量体またはその塩である水溶性エチレン系不飽和単量体を含む単量体組成物から光重合されたものであり、
前記水可溶成分は、前記高吸水性樹脂の中で150?850μmの粒径を有する高吸水性樹脂を0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に測定した時、高吸水性樹脂の全体重量に対して5重量%以下で存在し、
下記式1で計算される透過率が41秒以下であり、
200mlの0.9%NaCl溶液で1時間にかけて自由膨潤させた後に溶出する溶液から測定した時、分子量(M)が100,000?300,000g/molの全域における水可溶成分の比率(dwt/d(log M))が0.86以下であり、27?31gの保持能(CRC)を有し、
150?850μmの粒径を有する
高吸水性樹脂の製造方法であって、
水溶性エチレン系不飽和単量体、重合開始剤、および内部架橋剤を含む単量体組成物に光重合を行って含水ゲル状重合体を形成する段階;
前記含水ゲル状重合体を乾燥する段階;
前記含水ゲル状重合体を粉砕する段階;
粉砕された重合体に表面架橋剤および水を含む表面架橋溶液を混合して180?200℃で加熱して表面架橋反応を行う段階;とを含む製造方法。
[式1]
透過率(秒)=T_(S)-T_(0)
(高吸水性樹脂の中で、300?600μmの粒径を有する粒子サンプル0.2gを取ってシリンダー(Φ20mm)に投入する。この時、シリンダーの一端にはストップコック(stopcock)を含み、上限線および下限線が表示され、前記シリンダーの上限線は40mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示され、下限線は20mLの(塩水)溶液が満たされた時の位置に表示される。
50gの0.9%塩水(NaCl)溶液(saline solution)をストップコックが閉じられた状態の前記シリンダーに投入して30分間放置する。
その次に、必要であれば、追加的に塩水溶液を投入して塩水溶液のレベル(level)が前記シリンダーの上限線までに至るようにする。
その次に、塩水-吸収高吸水性樹脂を含むシリンダーに0.3psiの荷重を加えて1分間放置する。
以降、シリンダーの下に位置したストップコック(stopcock)を開けて0.9%塩水溶液がシリンダーに表示された前記上限線から前記下限線を通過する時間を測定する。
測定は24±1℃の温度および50±10%の相対湿度下で実施する。
前記上限線から下限線を通過する時間をそれぞれのサンプル(T_(S))に対して、そして高吸水性樹脂の投入なしに(T_(0))測定して、上記式1により透過率を計算する。)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-07-01 
出願番号 特願2016-2559(P2016-2559)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大村 博一  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
渕野 留香
登録日 2018-03-23 
登録番号 特許第6309553号(P6309553)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 高吸水性樹脂  
代理人 実広 信哉  
代理人 特許業務法人池内アンドパートナーズ  
代理人 実広 信哉  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 特許業務法人池内アンドパートナーズ  

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