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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01Q
審判 全部申し立て 特29条の2  H01Q
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01Q
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01Q
管理番号 1366084
異議申立番号 異議2020-700014  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-14 
確定日 2020-08-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6546712号発明「車載用アンテナ装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6546712号の請求項3?5に係る特許を維持する。特許第6546712号の請求項1,2,6?13に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6546712号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?13に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)12月20日(優先権主張2017年12月20日、日本)を国際出願日とする出願であって、令和元年6月28日にその特許権の設定登録がされ、令和元年7月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年1月14日に特許異議申立人井上真一郎(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。当審は、請求項1,2,6?13に係る特許について、令和2年3月9日付けの取消理由を通知したが、その指定期間内に特許権者から応答がなかった。


第2 本件発明

本件特許の請求項1?13に係る発明は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
車両のルーフに取り付けられる車載用アンテナ装置であって、
アンテナベースと、
前記アンテナベースに上方から被せるアンテナケースと、
前記アンテナケースの内側に設けられたアンテナエレメントと、
を備え、
前記アンテナベースは、
前記ルーフに固定される金属ベースと、
前記金属ベースに電気的に接続された金属プレートと、
を有する、
車載用アンテナ装置。
【請求項2】
前記アンテナベースは、前記ルーフへの取り付け姿勢において前記車両の前後方向を長手方向とする形状を有し、
前記金属プレートは、前記取り付け姿勢における前記金属ベースの前端側及び/又は後端側に設けられ、
前記長手方向における前記金属ベースのみの電気長よりも前記金属ベース及び前記金属プレートを含めた電気長の方が長い、
請求項1に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項3】
前記金属プレートはミアンダ形状又は渦巻き形状を有する、
請求項1又は2に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項4】
前記アンテナベースは、前記金属ベースと前記金属プレートとの間に電気長を調整する電気長調整回路を有し、当該電気長調整回路を介して前記金属ベースと前記金属プレートとが電気的に接続された、
請求項1?3の何れか一項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項5】
前記金属ベースは、前記ルーフへの固定用の突起部を有し、
前記突起部を介して電気的に接続された前記ルーフと前記アンテナベースとにより生じる共振周波数が、前記アンテナエレメントの通信周波数帯域外となる、
請求項1?4の何れか一項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項6】
前記アンテナベースは、樹脂ベースを有し、
前記金属プレートは、前記樹脂ベースの上に配置される、
請求項1?5の何れか一項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項7】
前記樹脂ベースは、前記金属プレートの所定位置からの位置ずれを抑制する位置決め形状部を有する、
請求項6に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項8】
前記アンテナエレメントとは異なる第2のアンテナエレメント、
を備え、
前記第2のアンテナエレメントは、一部又は全部が前記金属プレートの上方に位置するように配置される、
請求項1?7の何れか一項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項9】
前記金属ベースと前記金属プレートとは材質が異なる、
請求項1?8の何れか一項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項10】
前記金属ベースと前記金属プレートとは材質が同じである、
請求項1?8の何れか一項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項11】
車両のルーフに取り付けられる車載用アンテナ装置であって、
前記ルーフに固定される金属プレートおよび樹脂ベースを有するアンテナベースと、
前記アンテナベースに上方から被せるアンテナケースと、
前記アンテナケースの内側に設けられたアンテナエレメントと、
を備え、
前記金属プレートは、前記樹脂ベースの上に配置される、
車載用アンテナ装置。
【請求項12】
前記アンテナエレメントは、一部又は全部が前記金属プレートの上に位置し、
前記金属プレートは、前記アンテナエレメントの下に位置する部分が部分的にくり抜かれて形成されている、
請求項1?11の何れか一項に記載の車載用アンテナ装置。
【請求項13】
前記アンテナベースは、前記ルーフへの取り付け姿勢において前記車両の前後方向を長手方向とする形状を有し、
前記金属プレートは、前記取り付け姿勢における前記アンテナベースの前方側および/又は後方側に設けられた、
請求項1?12の何れか一項に記載の車載用アンテナ装置。」


第3 取消理由の概要

当審において、請求項1,2,6?13に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1 請求項1,2,9,12,13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1,2,9,12,13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 請求項1,2,6,7,9,12,13に係る発明は、甲第1号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項1,2,6,7,9,12,13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 請求項8に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4 請求項11?13に係る発明は、甲第8号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項11?13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

5 請求項11?13に係る発明は、甲第8号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項11?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

6 請求項1,2,6?11,13に係る発明は、甲第10号証に記載された発明と同一であるから、請求項1,2,6?11,13に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

参考として上記1から6における請求項、取消理由及び証拠の対応関係を以下に示す。

請求項1 新規性進歩性 甲第1号証
拡大先願 甲第10号証
請求項2 新規性進歩性 甲第1号証
拡大先願 甲第10号証
請求項6 進歩性 甲第1号証
拡大先願 甲第10号証
請求項7 進歩性 甲第1号証
拡大先願 甲第10号証
請求項8 進歩性 甲第1号証、甲第2号証
拡大先願 甲第10号証
請求項9 新規性進歩性 甲第1号証
拡大先願 甲第10号証
請求項10 拡大先願 甲第10号証
請求項11 新規性進歩性 甲第8号証
拡大先願 甲第10号証
請求項12 新規性進歩性 甲第1号証
新規性進歩性 甲第8号証
請求項13 新規性進歩性 甲第1号証
新規性進歩性 甲第8号証
拡大先願 甲第10号証


第4 甲各号証の記載

1 甲第1号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第1号証(特開2005-20660号公報(平成17年1月20日出願公開))には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。図1および図2は、本実施形態のアンテナ装置10の概略構成を示す図であり、図1は分解斜視図、図2はA-A線断面図である。アンテナ装置10は、車両のルーフ後端付近に設置されるルーフアンテナである。また、アンテナ装置10は、電波の送受信を行うアンテナエレメント、このエレメントからの信号の増幅などの処理を行う回路が実装された基板を収納するケース12と、ケース12の下方の開口をふさぐシール14と、アンテナエレメントや基板を支持し、また当該アンテナ装置10を固定するための締結部材の一つとなる台座16を含む。
【0009】
シール14は、略板状で略中央に開口18を有する剛体の心材20と、心材の周縁および底面側に設けられたシール材22を含む。心材20は、ケース12の開口とほぼ同じ形状を有し、開口18を含め、プレス成形により作成することができる。また、開口18は、台座16の底面の形状と関連して、心材20と台座16の相対回転を防止する形状となっている。このような形状は、軸対称性を有さない形状により達成されるが、本実施形態においては、略四角形となっている。シール材22は、心材20の周縁部を縁取る部分22aを有し、この部分がケース12の開口の縁に当接して、ケースとシール14の接合部分の封止を行う。また、シール材22は、心材20の底面、すなわち車体に対向する面の側に、心材20と層をなすように配置される部分22bを有し、ここには心材の開口18と同じ位置に開口が設けられている。この心材20の底面側の位置するシール材22の部分は、アンテナ装置10と車体のパネル24の間の封止を行い、車体に設けられたアンテナ装置10を取り付けるための取付穴からの水などの浸入を防止する。
【0010】
図3は、台座16およびこれに付随する部品の構成を示す分解斜視図である。台座16は、板状の板部26とこれに立設されたいくつかのボス、またねじ穴を含む。板部26の図中上側の面には、回路基板を固定するための基板取付ボス28が立設されている。下側の面には、アンテナ装置10を車体に固定するためのねじが切られた車体結合ボス30が立設されている。また、略中央部には開口32が設けられている。車体結合ボス30は、軸直交断面が図4に示すような略C字形または略U字形となっており、内部に溝34が形成されている。台座に設けられた開口32は、この車体結合ボスの溝34に連通しており、アンテナエレメントと車室内に設置された送受信装置を接続する導線36が、これらの開口32、溝34を通って車室内に導かれる。
【0011】
導線36は、保持板38に、固定具39を介してビス止め固定される。保持板38にも、台座16の開口32に対向する位置に開口40が設けられ、導線36はこの開口40を通る。導線36の二つの先端は、先端保持部42に保持され、図中上方に突出する部分は被覆が剥がされている。この先端部分が台座16の図中上方に固定される基板の処理回路に接続される。保持板38は係合爪44およびビス46により、台座16に固定される。台座16の図中下面、車体結合ボスの周囲には、シール14の心材の開口18および車体のパネルに開けられた開口と係合する係合肩部48が設けられ、アンテナ装置10の位置決め、回り止めが行われる。図2に示すように車体結合ボス30を車体のパネル24に貫通させ、不図示のボルトをねじ結合させて、アンテナ装置10の固定が行われる。
【0012】
台座16は、基板取付ボス28、車体結合ボス30、開口32、車体のパネル等と係合するための係合肩部48などを有し、複雑な形状となっている。また、アンテナ装置10を車体に対し確実に固定するために、十分な剛性も必要であり、これらの理由から、金属製の鋳造品、例えばアルミダイキャスト品を用いている。シールの心材20は、柔軟なシール材22の形状を保持するために剛性が必要であり、金属の板、例えばプレス鋼板を用いている。鋳造品は、その型にかかるコストにより高価となるが、本実施形態の台座は、小形であり、鋳造型も小さく、型によるコストを低減することができる。また、本実施形態においては、シール14の剛性は心材20が担うため、台座16の形状は、シール14の形状とほぼ関連なく決定することができる。すなわち、アンテナ装置10の意匠に関わらず、台座16の形状を決定することができ、多種のアンテナ装置間で共用することが可能となる。
【0013】
以上の実施形態においては、アンテナエレメントをケース内に納めたアンテナ装置について説明したが、20?40cm程度のアンテナエレメントをケースより突出させた、いわゆる短ポールアンテナなどのアンテナ装置についても、本実施形態と同様、シールの心材と台座を分けることが可能である。また、ルーフ以外の車体部分、例えばトランクリッドの後端などに設けるアンテナ装置に適用することも可能である。」

(2)図1


(3)図2


(4)図3


(5)上記(1)から(4)の記載事項から、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。(以下、「甲1発明」という。)

「車両のルーフ後端付近に設置されるアンテナ装置10であって、(【0008】)
前記アンテナ装置10は、電波の送受信を行うアンテナエレメント、このエレメントからの信号の増幅などの処理を行う回路が実装された基板を収納するケース12と、ケース12の下方の開口をふさぐシール14と、アンテナエレメントや基板を支持し、また当該アンテナ装置10を固定するための締結部材の一つとなる台座16を含み、(【0008】)
前記シール14は、略板状で略中央に開口18を有する剛体の心材20と、心材の周縁および底面側に設けられたシール材22を含み、(【0009】)
前記心材20は、金属の板、例えばプレス鋼板を用いており、(【0012】)
前記シール材22は柔軟で、アンテナ装置10と車体のパネル24の間の封止を行い、車体に設けられたアンテナ装置10を取り付けるための取付穴からの水などの浸入を防止するものであり、心材20の周縁部を縁取る部分22aと、心材20の底面、すなわち車体に対向する面の側に、心材20と層をなすように配置される部分22bを有し、(【0009】、【0012】)
前記台座16は、金属製の鋳造品、例えばアルミダイキャスト品を用いており、下側の面には、アンテナ装置10を車体に固定するためのねじが切られた車体結合ボス30が立設されている、(【0010】、【0012】)
アンテナ装置10。」


2 甲第2号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第2号証(特開2013-110601号公報(平成25年6月6日出願公開))には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0001】
本発明は、車両に搭載するアンテナ装置に関し、特に車両のルーフ上に載置して用いる車載用アンテナ装置に関するものである。」

(2)「【0022】
車載用アンテナ装置100は、車両のルーフ上に固定されるベースプレート部110と、ベースプレート部110上に載置される回路基板120と、ベースプレート部110に立設されたスペーサ111で回路基板120の上方に配置された第1アンテナエレメント130と、第1アンテナエレメント130の後方(車両の後方側)に配置された第2アンテナエレメント140とを備えている。ベースプレート部110は、1枚の平板であってもよく、あるいは複数の平板に分割されていてもよい。また、回路基板120、第1アンテナエレメント130及び第2アンテナエレメント140は、レドーム150で覆われている。レドーム150は、その周端部がベースプレート部110の周縁に固定されて内部の回路基板120等を保護している。本実施形態の車載用アンテナ装置100では、ベースプレート部110とレドーム150とでアンテナケースを構成してシャークフィンアンテナを形成している。
(中略)
【0025】
ベースプレート部110は、底面側を車両のルーフに密接できるように形成されており、その長手方向が車両の前後方向となるようにルーフに固定される。車載用アンテナ装置100を車両のルーフに固定するために、ベースプレート部110の底面に固定部112を備えている。固定部112は、例えばルーフを貫通してナットで固定するためのボルト
であってよい。またベースプレート部110には、受信信号を伝送するケーブル160を車両内まで配索させるための貫通孔113が形成されている。」

(3)「【0045】
第2アンテナエレメント140は、誘導性デバイスであり、レドーム150に収納できる範囲で、可能な限り大きいことが望ましい。第2アンテナエレメントの具体的な形状は、細長い導体を螺旋状、または複数の折り返し構造に形成されており、誘導性のインピーダンスを持たせたヘリカルアンテナや、ミアンダアンテナである。チップインダクタを用いる場合は、所定間隔を持って複数の素子を配置することにより実効長を長くすると良い。いずれの誘導性デバイスを用いても、FM放送を高感度で受信できるように周波数調整することが可能である。」

(4)「【0052】
(第4実施形態)
本発明の第4の実施形態に係る車載用アンテナ装置を、図9を用いて説明する。図9は、本実施形態の車載用アンテナ装置400の概略構成を示す断面図である。本実施形態の車載用アンテナ装置400は、ベースプレート410が1枚の平板でなく、2枚以上の平板に分割されている。図9に示す一例では、ベースプレート410が第1平板411及び第2平板412の2枚の平板を組み合わせて構成されている。第2平板412は、図9の断面図では左右2つに分かれているが、水平方向の一部でつながっており、一枚の平板となっている。ベースプレート410を構成する平板はこれに限定されず、さまざまな形状のものを用いることができる。
【0053】
ベースプレート410が2枚以上の平板に分割されることで、ベースプレート410の製造が容易となる。例えば、ベースプレート410を複雑な形状の部分と簡単な形状の部分とに分割して作製することで、それぞれの製造に用いる金型を簡素化しかつ小型化することができる。これにより、ベースプレート410のコストダウンを図ることができる。また、分割されたベースプレート410の一部を共通部品として別種類のアンテナ装置のベースプレートにも利用できるようにすることが可能であり、金型を減らす等により製造コストを低減することができる。」

(5)図1


(6)図9


(7)上記(1)から(6)の記載事項から甲第2号証には以下の技術事項が記載されているといえ、当該技術事項は周知である。

「車両のルーフ上に載置して用いる車載用アンテナ装置に複数のアンテナエレメントを備える」という技術事項。


3 甲第3号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第3号証(再公表特許第2011/033832号公報(平成25年2月7日発行))には次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0001】
本発明は、電池および無線通信機器に関するものであり、特に、内部に回路部材を備えている電池および該電池を搭載した無線通信機器に関するものである。」

(2)「【0021】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の一実施形態( 第1の実施形態)に係る電池100の概略構成を示す斜視図である。図1に示すように、電池100は、ケース102の内部に、セル104 、回路部材108および共振周波数調整部110を備えており、ケース102から露出する電池端子106を備えている。」

(3)「【0034】
これに対し、本実施形態に係る電池100では、回路部材108に共振周波数調整部110が接続されているため、その他の条件が上述したような共振周波数調整部110が存在しない場合と同等であったとしても、アンテナ特性の劣化を回避することができる。すなわち、回路部材108に共振周波数調整部110が接続され、共振周波数調整部110が電池端子106のグラウンド線と接続されていることにより、回路部材108および共振周波数調整部110からなるアンテナは、先端接地型のダイポールアンテナのように動作し、1/2λ 系となる。また、上記アンテナの電気長は、回路部材108のみの電気長と異なる。それゆえ、左記λすなわち共振周波数は、共振周波数調整部110が存在しない場合から大きく変化するため、アンテナ12の周波数帯域外にずらすことができ、アンテナ特性の劣化を回避することができる。
【0035】
以上を別の観点から述べれば、本発明は、一つの局面において、回路部材108の電気長が使用周波数の(1+2n)/4λに近く、アンテナ特性の劣化が生じ得る場合に、回路部材108に共振周波数調整部110を接続することにより、回路部材108および共振周波数調整部110からなるアンテナの電気長を、使用周波数の(1+2n)/2λからずらして、アンテナ特性の劣化を回避するものである。なお、(1+2n)/4λと(1+2n)/2λとは大きく異なることから、回避は容易である。」

(4)上記(1)から(3)の記載事項から甲第3号証には以下の技術事項が記載されているといえる。

「電池100に電気長を調整する共振周波数調整部110を備えることで、共振周波数をアンテナ12の周波数帯域外にずらし、アンテナ特性の劣化を回避する」という技術事項。


4 甲第4号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第4号証(特開2011-66647号公報(平成23年3月31日出願公開))には次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0001】
本発明は、2つの筐体を重畳させて用いる携帯型無線装置に関する。」

(2)「【0052】
このように、本発明は、電気長調整部としてスリットを形成させることにより、第2の導電部の電気長を容易に調整することができ、使用周波数帯域におけるアンテナの性能をより向上させることができる。
【0053】
なお、本発明における電気長調整部は、第2の導電部の電気長を、通信に使用する周波数帯域の各々に対応する波長の最大値の32分の9以上、または当該波長の最小値の32分の7以下に調整することが好ましい。第2の導電部の電気長を、周波数帯域の各々に対応する波長の最大値の32分の9以上にすることにより、第1の筐体と第2の筐体とが重畳した場合に、アンテナ特性が最も劣化する周波数を、使用周波数帯域よりも低周波数側にすることができ、使用周波数帯域におけるアンテナ特性が向上する。また、第2の導電部の電気長を、通信に使用する周波数帯域の各々に対応する波長の最小値の32分の7以下にすることにより、アンテナ特性が最も劣化する周波数を、使用周波数帯域よりも高周波数側にすることができ、使用周波数帯域におけるアンテナ特性が向上する。したがって、本発明は、使用周波数帯域におけるアンテナの利得を向上させることができる。
(中略)
【0057】
また、本実施形態においては、電気長調整部がスリット23である場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明の電気長調整部は、第2の導電部の電気長を調整できるものであればよい。例えば第2の筐体に含まれる第2の導電部を、上述したようなスリットの他、部品、基板パターン等、特定周波数の電流を遮断するものによって、2つに分割し、それぞれの間が特定周波数において高インピーダンスとなるようにしたものであってもよい。また、電気長調整部は、第2の導電部の電気長を延長させるものであってもよい。」

(3)上記(1)と(2)の記載事項から甲第4号証には以下の技術事項が記載されているといえる。

「2つの筐体を重畳させて用いる携帯型無線装置に電気長調整部を備えることで、アンテナ特性が最も劣化する周波数を、使用周波数帯域よりも低周波数側又は高周波数側にすることで、使用周波数帯域におけるアンテナの利得を向上させる」という技術事項。


5 甲第5号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第5号証(特開2011-151659号公報(平成23年8月4日出願公開))には次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0001】
本発明は、携帯電話機等の無線通信端末に関し、特に、第1筐体と、第2筐体と、第1筐体と第2筐体を回転自在に連結するヒンジ部とを備えた無線通信端末に関する。」

(2)「【0038】
このように本実施の形態の無線通信端末1によれば、フレキシブル部4を有する表示部8を無給電素子として利用する一方、一端をフレキシブル部4と接続し、他端を接続位置(一端とフレキシブル部4の接続位置)より筐体長手方向における筐体端部側で第1回路基板3のグランドパターン7と接続する結合調整部6を有し、結合調整部6によって表示部8の電気長を調整し、表示部8による共振周波数を表示部8のみのときよりも周波数の低い方へシフトさせるようにしたので、アンテナ素子11の近傍に専用の無給電素子を使用することなく広帯域化が図れる。また、アンテナ素子11の近傍に専用の無給電素子を配置しない分、端末本体のデザイン・設計の自由度が上がり小型・薄型化が図れるとともにコストの削減が図れる。
【0039】
また、本実施の形態の無線通信端末1によれば、結合調整部6のリアクタンス部63の値を調整することで表示部8の電気長の調整が可能であり、またこのリアクタンス部63を有することで表示部8の共振周波数がアンテナ素子11の帯域内である場合でもアンテナ帯域外近傍へ表示部の共振周波数を調整し広帯域化を図ることが可能となる。」

(3)上記(1)と(2)の記載事項から甲第5号証には以下の技術事項が記載されているといえる。

「第1筐体と第2筐体を回転自在に連結するヒンジ部とを備えた無線通信端末に表示部8の電気長の調整を可能とする結合調整部6を備えることで、表示部8の共振周波数がアンテナ素子11の帯域内である場合でもアンテナ帯域外近傍へ表示部の共振周波数を調整し広帯域化を図る」という技術事項。


6 甲第6号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第6号証(特開2005-110144号公報(平成17年4月21日出願公開))には次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0001】
本発明は、インピーダンスマッチングを行うためのマッチング回路、及びこのマッチング回路を備えたアンテナ装置に関する。」

(2)「【0034】
給電線211,212は、所定の導体の表面にレジスト箔が塗布されたものであり、電源30とアンテナ素子10におけるアンテナ給電端11とを接続することにより、電源30によって発生される電力をアンテナ素子10に対して給電する。また、グラウンド221,222は、給電線211,212と同様に、所定の導体の表面にレジスト箔が塗布されたものであり、アンテナ素子10における図示しないアンテナグラウンド端に接続される。マッチング回路20においては、これら給電線211,212及びグラウンド221,222の組み合わせによって伝送路を構成する。」
(中略)
【0039】
すなわち、マッチング回路20においては、給電線211,212に対して直列及び/又は並列にマッチング素子を実装する際に、アンテナ素子10から少なくとも並列のマッチング素子までの距離を変化させることにより、インダクタンス成分の微調整を図り、インピーダンス及び共振周波数の微調整を行うことができる。」

(3)上記(1)と(2)の記載事項から甲第6号証には以下の技術事項が記載されているといえる。

「アンテナ装置にマッチング回路20を備え、アンテナ素子10からマッチング素子までの距離を変化させることにより共振周波数の微調整を行う」という技術事項。


7 甲第7号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第7号証(特開2016-32166号公報(平成28年3月7日出願公開))には次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0001】
本発明は、車両の例えばルーフに取り付けられる車載用アンテナ装置に関する。
(中略)
【0004】
特許文献1の構造では、金属製ベースと車体(例えばルーフ)との間に樹脂製ベースが入り込み、LTE等の広帯域のアンテナを統合した場合には、金属製ベースが車体(グランド)との距離に応じた共振点を持ち、この不要な共振が所要の周波数帯域内に発生してアンテナ利得が低下することがあった。
【0005】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、金属製ベースと車体との間の不要な共振によるアンテナ利得の低下を防止することの可能な車載用アンテナ装置を提供することにある。」

(2)「【0045】
(1)樹脂製ベース70の、金属製ベース60の配置面とは反対側の面に、導体板90を設けているため、金属製ベース60が車体ルーフ(グランド)との距離に応じた共振点を持つことによる不要な共振が所要の周波数帯域内に発生してアンテナ利得が低下することを防止できる。」

(3)上記(1)と(2)の記載事項から甲第7号証には以下の技術事項が記載されているといえる。

「車両のルーフに取り付けられる車載用アンテナ装置において、樹脂製ベース70の金属製ベース60の配置面とは反対側の面に導体板90を設けることで、金属製ベース60が車体ルーフ(グランド)との距離に応じた共振点を持つことによる不要な共振が所要の周波数帯域内に発生してアンテナ利得が低下することを防止する」という技術事項。


8 甲第8号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第8号証(特開2012-204996号公報(平成24年10月22日出願公開))には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0021】
本発明の実施例にかかるアンテナ装置1の構成を図1ないし図4に示す。ただし、図1は本発明にかかるアンテナ装置1の構成を示す斜視図であり、図2は本発明にかかるアンテナ装置1の構成を示す側面図であり、図3は本発明にかかるアンテナ装置1の構成を示す上面図であり、図4は本発明にかかるアンテナ装置1の構成を示す正面図である。
これらの図に示すように、本発明の実施例にかかるアンテナ装置1は、車両のルーフに取り付けられるアンテナ装置とされており、アンテナベース11が下面に嵌合されたアンテナケース10を備えている。アンテナケース10は電波透過性の合成樹脂製とされており、先端に行くほど細くなると共に、側面も内側に絞った曲面とされた流線型の外形形状(「シャークフィン形状」という)とされている。アンテナベース11が下面に嵌合されたアンテナケース10内に、後述するアンテナアセンブリが収納されている。アンテナベース11の下面からはアンテナ装置1を車体に取り付けるためのボルト部21aが突出するよう形成されている。このアンテナ装置1の長さは約151mm、幅が約63mm、高さが約66mmの小型で低姿勢のアンテナ装置とされ、AM放送とFM放送を受信することが可能とされている。
【0022】
本発明の実施例にかかるアンテナ装置1の内部構成を図5および図6に示す。ただし、図5は本発明にかかるアンテナ装置1の内部構成をA-A断面図で示す側面図であり、図6は本発明にかかるアンテナ装置1の内部構成を半断面図で示す斜視図である。なお、図6においては、コイル14を省略して示している。
本発明の実施例にかかるアンテナ装置1は、AMラジオ帯と、76?90MHzあるいは88?108MHzのFMラジオ帯とを受信できるアンテナ装置とされている。アンテナ装置1は、樹脂製のアンテナケース10と、このアンテナケース10の下面に嵌合されている樹脂製の絶縁ベース20と金属製の導電ベース21とからなるアンテナベース11とを備えている。アンテナベース11において、導電ベース21は絶縁ベース20より一回り小さく長さが短く形成されており、絶縁ベース20上の前側から中央の若干後側までの位置に配置されて、絶縁ベース20に対して導電ベース21の後端が前後に若干移動可能に固着されている。アンテナベース11の上面の中央から後側には、樹脂製の矩形状の枠からなるエレメントホルダー12が立設して取り付けられていると共に、導電ベース21上にアンプ基板16がほぼ水平に取り付けられている。
【0023】
アンテナベース11における導電ベース21の下面からは、アンテナ装置1を車両に取り付けるためのボルト部21aが突出するよう形成されている。このボルト部21aの貫通孔と、その後側に形成されたケーブル引出口から、受信信号等を出力する複数本のケーブルが導出される。エレメントホルダー12は矩形状の枠部から構成され、枠部の上部には傘型エレメント13を支持する挟持部が形成されている。また、エレメントホルダー12の前側の立設している枠の内側に、傘型エレメント13に直列に接続されてFM周波数に共振させるための1μH?3μH程度のコイル14が保持されている。このコイル14の上端から導出されているリード線は傘型エレメント13の端子に接続され、コイル14の下端から導出されているリード線は給電ターミナル15に接続されている。給電ターミナル15は、図示するように折曲されており上部がエレメントホルダー12の前側の立設している枠のコイル14に対向する面に固着されており、下端の端子がアンプ基板16の入力端子に接続されている。これにより、コイル14が直列に接続された傘型エレメント13で受信されたAM/FM受信信号がアンプ基板16に組まれたアンプで増幅されるようになる。なお、傘型エレメント13とコイル14とからなるアンテナは、AMラジオ帯においては非共振アンテナとして動作する。
【0024】
図5,図6に示すようにアンテナケース10の下部には外側周壁部と内側周壁部とが二重に形成されており、内側周壁部の下端面が絶縁ベース20の外周の上面に当接するようになる。この当接する内側周壁部の下端面と絶縁ベース20の上面とがレーザーにより溶着あるいは接着剤を塗布して接着される。これにより、下面が絶縁ベース20により閉塞されたアンテナケース10の内部は防水構造となる。この絶縁ベース20の周側面にゴム製またはエラストマー製の紐状とされているスキマカバー18が巻回されている。また、絶縁ベース20の中央部には導電ベース21に形成されているボルト部21aが挿通される中央切欠部が形成されており、中央切欠部の内側を防水構造とするリング状シール17が、絶縁ベース20の下面に中央切欠部を囲むように形成されている環状部に嵌入されている。
本発明のアンテナ装置1にかかるアンテナアセンブリ2にアンテナケース10を被嵌する状態を図7に示す。図7に示す状態からアンテナケース10の内側周壁部をアンテナベース11の絶縁ベース20に嵌合すると、図5,図6に示す状態となる。なお、アンテナアセンブリ2は、絶縁ベース20と導電ベース21からなるアンテナベース11上に組み付けられたエレメントホルダー12と、傘型エレメント13と、コイル14と、給電ターミナル15と、アンプ基板16とから構成されている。
(中略)
【0026】
これらの図に示す絶縁ベース20は合成樹脂の成型品とされており、前側に向かって幅が次第に細くなり前端と後端が丸みを帯びた形状の本体部20aから構成され、本体部20aの外周縁より若干内側に上面から突出して所定高さの周壁部20cが外周縁に沿って形成されている。また、本体部20aの上面において、前側のほぼ中央に係合ボス部20dが形成されている。この係合ボス部20dはほぼ円筒状とされ、縦方向に3つスリットが形成され先端の外側にくさび状に突出する係合部が形成されて、径方向に弾性を有している。本体部20aの中央部にはほぼ楕円形の中央切欠部20fが形成され、中央切欠部20fの後側に一対の板状の係合片20eが形成されている。一対の係合片20eの先端の外側面には、くさび状の係合部が形成されている。また、本体部20aの周壁部20cの後部内側にコ字状の断面形状とされた収納部20jが形成されており、本体部20aの後端に一対の小さい係合突起20gが外側に向かって形成されている。また、本体部20aの下面には中央切欠部20fを囲むように環状溝20hが形成されている。環状溝20hは、リング状シール17が嵌入される溝であり、嵌入されたリング状シール17が抜け出ないように環状溝20hの上端から内側に突出して複数の押さえ片20iが形成されている。」

(2)「【0028】
ここで、アンプ基板16の構成を示す斜視図を図36に示す。この図に示すように、アンプ基板16は後部から前部にかけて次第に幅が狭くなる基板本体16aから構成され、前部のほぼ中央と後部の両側にそれぞれ挿通孔16bが形成されている。この挿通孔16bは2等辺三角形の頂点にそれぞれ形成されており、挿通孔16bに挿通されたネジが3つの第2ボス21hに螺着されることで、導電ベース21にアンプ基板16が固着される。また、基板本体16aの後部に接続孔16cが形成されており、この接続孔16cはアンプ基板16に組まれているアンプの入力端子に電気的に接続されている。
図19ないし図21に戻り、導電ベース21の上面の中央より若干後側の両側に一対の第1ボス21gが形成されている。さらに、上面の後端のほぼ中央に矩形の係止孔21fが形成されており、係止孔21fの両側に一対の板状の立設片21jが長軸にほぼ平行に形成されている。また、本体部21bの下面の中央より後部にボルト部21aが突出して形成されている。ボルト部21aには挿通孔21eが形成されており、ボルト部21aの側面に切欠21iが形成されている。アンプ基板16から導出されたケーブルは、ボルト部21aの挿通孔21eに上から挿通されて挿通孔21eの下の切欠21iからケーブルを導出することができる。
【0029】
次に、絶縁ベース20と導電ベース21とからなるアンテナベース11の構成を図22ないし図26に示す。ただし、図22はアンテナベース11の組み立ての構成を示す斜視図であり、図23は組み立てられたアンテナベース11の構成を示す斜視図であり、図24は組み立てられたアンテナベース11の構成を示す下面図であり、図25は組み立てられたアンテナベース11の構成を示す正面図であり、図26は組み立てられたアンテナベース11の構成をD-D断面図で示す正面図である。
図22に示すように、絶縁ベース20上に導電ベース21を配置し、次いで、導電ベース21を絶縁ベース20上に載置する。そして、導電ベース21の係合孔21dに絶縁ベース20の係合ボス部20dを嵌挿すると共に、絶縁ベース20の一対の係合片20eを導電ベース21の係止孔21fに挿入する。これにより、係合孔21dの上端の周囲に係合ボス部20dの先端の係合部が係止されると共に、係合片20eの先端に形成されている係止部が導電ベース21の立設片21jの上面に係合して、絶縁ベース20から導電ベース21が抜け出ないように固着される。この係合ボス部20dが係合孔21dへ係合する第1係合部は位置決めのための係合部であり、係合片20eが立設片21jに係合する第2係合部は、長手軸線方向に摺動可能な係合部とされている。これにより、導電ベース21と絶縁ベース20との熱膨張率の相異により両者の相対的な長さが変化しても、その長さの違いを第2係合部により吸収することができる。導電ベース21が絶縁ベース20上に固着されたアンテナベース11の構成が図23ないし図26に示されている。」

(3)図5


(4)図6


(5)図8


(6)図19


(7)図20


(8)図22


(9)上記(1)から(8)の記載事項から、甲第8号証には、以下の発明が記載されているといえる。(以下、「甲8発明」という。)

「車両のルーフに取り付けられるアンテナ装置1であって、(【0021】)
前記アンテナ装置1は、樹脂製のアンテナケース10と、このアンテナケース10の下面に嵌合されている樹脂製の絶縁ベース20と金属製の導電ベース21とからなるアンテナベース11とを備え、(【0022】)
前記導電ベース21は、絶縁ベース20上の前側から中央の若干後側までの位置に配置され、(【0022】)
前記導電ベース21には、アンテナ装置1を車両に取り付けるためのボルト部21a、係止孔21f及び挿通孔21eが形成されており、(【0023】、【0028】)
前記アンテナケース10内にはアンテナアセンブリ2が収納され、(【0021】)
前記アンテナアセンブリ2は、絶縁ベース20と導電ベース21からなるアンテナベース11上に組み付けられたエレメントホルダー12と、傘型エレメント13とコイル14とからなるアンテナ、給電ターミナル15と、アンプ基板16とから構成されている、(【0023】、【0024】)
アンテナ装置1。」


9 甲第9号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第9号証(特開2009-49553号公報(平成21年3月5日出願公開))には次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0001】
本発明は車両およびアンテナ装置に係り、特にアンテナエレメントを備えた車両および車両に設けられるアンテナ装置に関する。」

(2)「【0005】
金属材料を含んだエンブレム124が樹脂製のトランクリッド122に設けられている場合、当該エンブレム124は車体とは電気的に接続されておらず電気的に共振して電波を吸収しうる。このため、エンブレム124の付近にアンテナエレメント130が存在すると、エンブレム124による電波吸収によって、アンテナ装置の受信状態、換言すれば受信利得が低下する場合がある。つまり、エンブレム124がアンテナ装置による受信を妨害する場合がある。」

(3)「【0027】
トランクリッド22は樹脂等の絶縁性材料で構成されている。エンブレム24はその一部または全部が金属等の導電性材料で構成されている。すなわち、エンブレム24は少なくとも一部が導電性を有している。例えば金属板を打ち抜き加工等することによって、エンブレム24全体が導電性材料で構成される。また、樹脂部品に金属板または金属箔を貼り付けることによって、または、樹脂部品に金属粉入り材料をメッキすることによって、エンブレム24の一部が導電性材料で構成される。
(中略)
【0033】
付加部材32は、トランクリッド22の内面(トランクルーム側の面)、すなわち意匠面の裏側に付加されており、トランクリッド22を介してエンブレム24に重ねて設けられている。付加部材32は、例えば鉄等の金属を含んで構成され、導電性を有している。付加部材32は、例えば板状部材やフィルム状部材で構成可能であり、当該部材のネジ止めや貼り付け等によって設置可能である。また、導電性のペーストや液体等の流動性材料をトランクリッド22に塗布・印刷することによって、付加部材32を形成することも可能である。この場合、上記導電性を有する流動性材料が固化してできた膜が付加部材32を構成する。また、上記例示の板状部材、フィルム状部材、流動性材料の固化膜等を種々に組み合わせて、付加部材32を構成してもよい。

(4)「【0037】
ここでは付加部材32とエンブレム24とが絶縁性のトランクリッド22の介在によって直接、接触していない場合を例示しているが、付加部材32をエンブレム24に直接重ねても一体的な共振は可能である。しかし、付加部材32は車両20の通常使用時において視認されない箇所、換言すれば車両20の外装および内装から隠れた箇所に設けるのが好ましい。かかる設置形態によれば付加部材32の付加によっても車両20の意匠的価値が低減することがない。
【0038】
付加部材32によれば、エンブレム24との一体的な共振によって、エンブレム24のみによる共振作用を低減することが可能である。これにより、アンテナエレメント30の受信周波数帯域内におけるエンブレム24の共振作用、換言すればエンブレム24による受信妨害を低減することが可能である。
(中略)
【0041】
上記の周波数シフトは付加部材32の長さL32の調整によって可能である。具体的には、付加部材32の長さL32は、上記の一体的に共振する部材34の長さL34がアンテナエレメント30の受信電波の1/2波長よりも長くなるように、設定されている。これにより、エンブレム24が共振する波長(換言すれば周波数)を、エンブレム24のみが共振する場合に比べて長波長側(換言すれば低周波側)にシフトさせることができる。
(中略)
【0043】
図5に付加部材32による周波数シフトを説明するアンテナ受信感度グラフを示す。図5において、特性線(a)は付加部材32が無い場合を示し、特性線(b)および(c)は一体的に共振する部材34の長さL34が約0.273mおよび約0.309mの場合をそれぞれ示している。特性線(a)から、エンブレム24のみによる共振周波数は約590MHzであることが分かる。また、特性線(b)および(c)から、エンブレム24と付加部材32とによる一体的な共振は約550MHzおよび約485MHzにおいてそれぞれ生じ、付加部材32によって上記の周波数シフトが可能であることが分かる。また、一体的に共振する部材34の長さL34すなわち付加部材32の長さL32が長いほど、共振周波数が低周波側へシフトすることが分かる。」

(5)上記(1)から(4)の記載事項から甲第9号証には以下の技術事項が記載されているといえる。

「車両の導電性を有するエンブレム24に導電性を有する付加部材32を設け、エンブレム24の長さを長くすることで、エンブレム24が共振する周波数を低周波側にシフトさせ、アンテナエレメント30の受信周波数帯域内におけるエンブレム24による受信妨害を低減する」という技術事項。


10 甲第10号証

本件特許の優先日よりも前の特許出願(出願日:平成29年1月6日)であって、本件特許出願後に発行された出願公開である甲第10号証(特願2017-1324号(特開2018-113507号公報(平成30年7月19日出願公開)))には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0018】
図1は、本実施形態に係るアンテナ装置の斜視図である。図2は、本実施形態に係るアンテナ装置の内部を示す概略斜視図である。図1及び図2に示されるアンテナ装置1は、車両のルーフ上に取り付けられる車載用アンテナ装置である。アンテナ装置1は、カバー2と、アンテナ3と、回路基板4と、ベース5と、パッド6と、シールドカバー7上に載置されるアンテナ8とを備えている。以下の説明では、アンテナ装置1及びこれを構成する部品において、車両の前方方向を先端側とし、車両の後方方向を後端側とする。また、アンテナ装置1及びこれを構成する部品において、車両に取り付けられる側を下側とする。なお、以下では車両の前後方向を単に「前後方向」とし、車両の上下方向を単に「上下方向」とし、車両の幅方向を単に「幅方向」とする。
【0019】
カバー2は、少なくともアンテナ3と、回路基板4と、ベース5と、シールドカバー7と、アンテナ8とを覆う保護部材である。カバー2は、例えば電波を透過する樹脂から形成される。カバー2は、その後端側から先端側に向かって徐々に高さが低くなる流線形状(シャークフィン形状)を有している。カバー2の両側面の距離は、その上端から中心部付近までほぼ一定であり、当該中心部付近から下端にかけて徐々に広がっている。カバー2は、例えば複数のねじを用いることによって、ベース5に取り付けられている。カバー2の内部空間に水等が浸入することを抑制する観点から、カバー2の縁2aは、パッド6に密着している。」

(2)「【0022】
ベース5は、アンテナ3、回路基板4、及びシールドカバー7を支持する基台であり、平面視にて略卵形状を呈している。ベース5は、樹脂ベース部21と、樹脂ベース部21上に載置される金属ベース部22と、樹脂ベース部21に取り付けられるシール部23とを有している。樹脂ベース部21の密度は、金属ベース部22の密度よりも小さい。このため、ベース5の軽量化の観点から、ベース5における樹脂ベース部21の割合は、高いほど好ましい。
【0023】
図3は、アンテナ装置におけるベース5の一部及びシールドカバー7を示す概略要部拡大図である。図2及び図3に示されるように、樹脂ベース部21は、ベース5において金属ベース部22が載置される部分であり、絶縁性を有している。コスト等の観点から、樹脂ベース部21は、例えばガラス繊維を含有するポリプロピレン等の樹脂材料によって形成されている。樹脂ベース部21は、例えば射出成形等によって形成される。樹脂ベース部21は、本体部21aと、突起部21bと、枠部21cと、縁部21dと、柱状部21eとを有している。また、図示しないが、樹脂ベース部21には、金属ベース部22の一部が入り込む開口部が設けられている。なお、樹脂ベース部21には、カバー2を位置合わせするための突起部又は開口部、アンテナ台13を取り付けるための突起部又は開口部等が設けられてもよい。
【0024】
本体部21aは、金属ベース部22に加えて、アンテナ3及びシールドカバー7が載置される部分である。本体部21aは、平面視にてカバー2の縁2a内に収まる大きさを有している。突起部21bは、樹脂ベース部21上における金属ベース部22の位置を規定するために設けられる部分であり、上側に向かって突出している。突起部21bにおける後端側の上端には、金属ベース部22と係合する爪部21fが設けられている。枠部21cは、シール部23に被覆される部分であり、平面視にて金属ベース部22及び回路基板4を囲む枠形状を呈している。縁部21dは、パッド6を掛止する部分であり、本体部21aの縁全体に設けられている。パッド6を補強する観点から、縁部21dの厚さは、本体部21aの厚さよりも大きくなっている。柱状部21eは、シールドカバー7と係合する部分であり、本体部21aにおいて金属ベース部22及びシールドカバー7が載置される表面上に設けられている。また、柱状部21eは、枠部21cの内側であって金属ベース部22及びシールドカバー7よりも先端側に設けられている。柱状部21eの具体的な構造については、後述する。
【0025】
金属ベース部22は、樹脂ベース部21の中央部上に載置される部分であって、導電性を有している。金属ベース部22は、アースである車体に接地されるように、樹脂ベース部21上に載置されている。このため、金属ベース部22は、アンテナ3に対するアースとして機能する部材となっている。金属ベース部22は、例えば金属又は合金によって構成されている。金属ベース部22は、例えば鋳造等によって形成される。金属ベース部22は、一対の第1雌ねじ部22aと、一対の第2雌ねじ部22bと、突起部22cと、開口部22dとを有している。」

(3)「【0030】
シールドカバー7は、アンテナ8を載置すると共に電磁ノイズを低減する部材であり、導電性を有している。シールドカバー7は、樹脂ベース部21上であって金属ベース部22よりも先端側に位置しており、金属ベース部22に電気的に接続されている。このため、シールドカバー7は、アンテナ8に対するアースとして機能し得る。シールドカバー7は、例えば一枚の板状部材を加工することによって形成される。具体例としては、シールドカバー7は、一枚の金属板又は合金板をプレス加工することによって形成される。シールドカバー7は、本体部31と、本体部31から後端側に突出する一対の第1突出部32と、本体部31から先端側に突出する第2突出部33とを有している。第1突出部32と第2突出部33とのそれぞれは、前後方向に沿って延在している。」

(4)図1


(5)図2


(6)図3


(7)図4


(8)上記(1)から(7)の記載事項から、甲第10号証には、以下の発明が記載されているといえる。(以下、「甲10発明」という。)

「車両のルーフ上に取り付けられる車載用アンテナ装置1であって、(【0018】)
前記アンテナ装置1は、カバー2と、アンテナ3と、回路基板4と、ベース5と、パッド6と、シールドカバー7上に載置されるアンテナ8とを備え、(【0018】)
前記カバー2は、少なくともアンテナ3と、回路基板4と、ベース5と、シールドカバー7と、アンテナ8とを覆う保護部材であり、(【0019】)
前記ベース5は、樹脂ベース部21と、樹脂ベース部21上に載置される金属ベース部22と、樹脂ベース部21に取り付けられるシール部23とを有しており、(【0022】)
前記樹脂ベース部21は、樹脂材料によって形成されており、シールドカバー7と係合する柱状部21eを有し、(【0023】、【0024】)
前記金属ベース部22は、金属又は合金によって構成されており、アースである車体に接地されるように、樹脂ベース部21上に載置され、(【0025】)
前記シールドカバー7は、一枚の金属板又は合金板をプレス加工することによって形成されており、樹脂ベース部21上であって金属ベース部22よりも先端側に位置しており、金属ベース部22に電気的に接続されている、(【0030】)
車載用アンテナ装置1。」


11 甲第11号証

本件特許の優先日よりも後に頒布された文献である甲第11号証(特開2019-80095号公報(令和元年5月23日出願公開))には次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0023】
以下、本実施形態について、図を用いて説明する。本実施形態におけるアンテナ装置1は、ルーフなど車両の上面に取り付けられ、アンテナケース2、第1アンテナ素子4、第1アンテナ素子ホルダー4a、第1回路基板6、第2アンテナ素子7、第2アンテナ素子ホルダー7a、GNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)アンテナ8、第2回路基板9、シールドカバー10、同軸ケーブル11(第1同軸ケーブル111、第2同軸ケーブル112、第3同軸ケーブル113)、金属ベース12、パッド13、仮固定部材14を備える(図1?図9、図11?図17参照)。」

(2)「【0095】
金属ベース12は、第1回路基板6と第2回路基板9を保持する金属プレートであり、周縁部には、アンテナケース2やパッド13とネジ止めするための第1取付孔12aが設けられ、中央部には、第1同軸ケーブル111?第3同軸ケーブル113を上下に通すための第1ケーブル孔12bが設けられる。
また、金属ベース12の下部には、プリロックなどの仮固定部材14が設けられ、仮固定部材14を介して、ルーフなど車両の上面に仮固定される。」


12 甲第12号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第12号証(特開2012-10409号公報(平成24年1月12日出願公開))には次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0001】
本発明は、AM放送とFM放送を受信可能な車両に取り付けられる低姿勢のアンテナ装置に関するものである。」

(2)「【0016】
次に、アンテナ装置1を構成している各部の構成を示す。図12ないし図14にアンテナケース10の構成を示す。ただし、図12はアンテナケース10の構成を示す平面図であり、図13はアンテナケース10の構成を示す正面図であり、図14はアンテナケース10の構成を示す左側面図である。
これらの図に示すように、アンテナケース10は電波透過性の合成樹脂製とされており、先端に行くほど細くなる流線型の外形形状とされている。アンテナケース10内には、立設されたアンテナ基板30およびアンテナ基板30の上部に配置されたトップ部31を収納できる空間と、アンプ基板34を横方向に収納できる空間が形成されている。
【0017】
図15ないし図18にトップ部31の構成を示す。ただし、図15はトップ部31の構成を示す平面図であり、図16はトップ部31の構成を示す正面図であり、図17はトップ部31の構成を示す下面図であり、図18はトップ部31の構成を示す右側面図である。
これらの図に示すトップ部31は、金属板を加工して形成されており、前方に向かって緩やかに降下する曲面とされた頂部を有し、頂部から両側に傾斜した第1側部31aと第2側部31bが形成されている。第1側部31aと第2側部31bの斜面は急傾斜の斜面とされている。第1側部31aと第2側部31bには3つずつスリット31fが形成されて、それぞれの側部31a、31bは4つの片からなっている。この片の内のほぼ中央よりの一対の片が接触片31cとされている。接触片31cは、中途からほぼ垂直なるよう折曲されて形成されている。また、トップ部31の頂部には平坦部31eが2カ所形成されて、平坦部31eにそれぞれネジ孔31dが形成されている。このネジ孔31dにそれぞれネジ40が挿通されて、アンテナケース10の頂部の内側に螺着されることにより、トップ部31がアンテナケース10に内蔵されるようになる。
【0018】
トップ部31の長さをL20、後端の幅をw20、前端の幅をw21、高さをh20とした際に、例えば長さL20は約106mm、後端の幅w20は約28mm、前端の幅w21は約19mm、高さh20は約28mmとされる。また、トップ部31の頂部の細い幅w22は約4mmとされる。トップ部31の第1側部31aと第2側部31bの斜面を急傾斜の斜面とするのは、アンテナケース10の内側の断面形状にあわせるためでもあるが、主に、トップ部31とアンテナベース20との対面する面積を低減させて、トップ部31とアンテナベース20間の浮遊容量を減少させるためである。この浮遊容量は、アンテナ容量の内の無効容量となってアンテナのゲインを低減させる要因となる。また、トップ部31の後部は斜めに切り取られてアンテナベース20との対向面積を極力低減させている。」

(3)「【0034】
本発明のアンテナ装置1においてはトップ部31をアンテナベース20の後端より後方へ突出すると平均利得およびS/N比が向上するようになる。そこで、トップ部31をアンテナベース20の後端より後方へ突出させた際の基礎実験におけるアンテナ装置1の態様を図40ないし図43に示し、その際に得られた基礎実験データを図44ないし図50に示す。ただし、アンテナ装置1にはGPSアンテナ32を取り付けていない。
図40は基礎実験に用いたアンテナ装置1の構成を示す平面図であり、図41は基礎実験に用いたアンテナ装置1の構成を示す正面図であり、図42は基礎実験に用いたアンテナ装置1の構成を示す右側面図である。これらの図に示すように、アンテナ装置1におけるトップ部31-1の形状は実施例のトップ部31と若干異なっているが長さや幅の寸法はほぼ同様とされており、アンテナエレメントとしてはほぼ同様の電気的性能を奏している。トップ部31-1は、頂部がほぼ平坦に形成されて両側部は下方へ向かって急傾斜の斜面とされている。トップ部31-1の後部は斜めに切り取られてアンテナベース20との対向面積を極力低減させている。このトップ部後方突出長さの基礎実験では、図40,図41に示すように標準の位置からのトップ部31-1の移動量LをL1,L2,L3,L4と後方へ移動しており、ここでは、移動量L1,L2,L3,L4をそれぞれ約10mm、約20mm、約30mm、約40mmとしている。なお、図43はトップ部31-1の移動量Lを約40mm(L4)とした際の構成を示す正面図とされている。
【0035】
標準の位置からのトップ部31-1の後方への移動量LをL1,L2,L3,L4と後方へ移動した際のFM波帯における平均利得の周波数特性を図44に示す。図44に示す平均利得の周波数帯域は76MHz?90MHzのFM波帯の周波数帯域とされている。図44を参照すると、トップ部31-1の移動量Lを0mmから約10mm、約20mm、約30mm、約40mmと後方にトップ部31-1が移動されるにつれて平均利得の周波数特性が向上していくようになる。トップ部31-1の後方の移動量が0mmの場合と約40mmとの場合とを対比すると、移動量を約40mmの場合はFM波帯の周波数帯域内において最大約4dB、平均利得の周波数特性が向上するようになる。」

(4)図40


(5)図41


(6)図44


(7)上記(1)から(6)の記載事項から甲第12号証には以下の技術事項が記載されているといえる。

「車両に取り付けられる低姿勢のアンテナ装置において、トップ部31とアンテナベース20との対面する面積を低減させることで、アンテナのゲインを低減させる要因となるトップ部31とアンテナベース20間の浮遊容量を減少させる」という技術事項。


13 甲第13号証

本件特許の優先日よりも前に頒布された文献である甲第13号証(特開2017-108395号公報(平成29年6月15日出願公開))には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【0001】
本発明は低背型アンテナ装置に関し、特に、車両用の低背型アンテナ装置に関する。」

(2)「【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の低背型アンテナ装置を説明するための一部断面概略側面図である。図示の通り、本発明の低背型アンテナ装置は、ベースプレート10と、回路基板20と、基台30と、トップロードエレメント40と、コイル50とから主に構成されている。本発明の低背型アンテナ装置は、例えばFM周波数帯とAM周波数帯の両方の信号を受信可能な複合アンテナとして構成されれば良い。
【0022】
ベースプレート10は、車両に固定されるものである。ベースプレート10は、具体的には、例えば樹脂等の絶縁体で形成される所謂樹脂ベースであっても良いし、金属等の導電体で形成されてる所謂金属ベースであっても良い。また、ベースプレート10は、樹脂と金属のコンポジットベースであっても良い。ベースプレート10には、例えばねじボス11が設けられている。車両のルーフ等に設けられた孔にねじボス11が挿入され、車両室内からナットを用いてルーフ等を挟み込むようにしてベースプレート10が固定される。ねじボス11には、車両内部とアンテナ装置とを接続するケーブル等が挿通される。また、ベースプレート10は、アンテナカバー1により覆われるように構成されている。アンテナカバー1は、エレメントや回路等を収容する内部空間を有するものであり、低背型アンテナ装置の外形を画定するものである。
【0023】
回路基板20は、ベースプレート10に対して平行にベースプレート10上に配置されるものである。図2に、本発明の低背型アンテナ装置に用いられる回路基板を示す。図2は、本発明の低背型アンテナ装置に用いられる回路基板を説明するための概略図であり、図2(a)がその上面図であり図2(b)がその底面図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を示している。図示の通り、回路基板20は、アンプ回路21が載置されるものである。アンプ回路21は、受信信号を増幅するのに用いられる。例えば、本発明の低背型アンテナ装置が、FM周波数帯とAM周波数帯の両方の信号を受信可能な複合アンテナとして構成された場合、アンプ回路21も、複数の周波数帯、即ち、FM周波数帯及びAM周波数帯に応じて設けられる複数の周波数帯別アンプ回路を具備すれば良い。アンプ回路21は、回路基板20の表面側に載置されている。なお、本明細書では、ベースプレート10側を裏面側と称し、それに対向する面を表面側と称する。ここで、本発明の回路基板20は、図2(b)に示されるように、裏面側にベタアースエリア22と空白エリア23とを有している。ベタアースエリア22は、所謂ベタアースが存在するエリアであり、基板に銅箔等の金属薄膜が面状に存在し回路基板のグラウンドとなるものである。また、空白エリア23は、ベタアースが存在しないエリアである。即ち、金属薄膜がエッチング除去されているエリアである。
(中略)
【0026】
そして、コイル50は、トップロードエレメント40と回路基板20のアンプ回路21との間に接続されている。コイル50は、トップロードエレメント40と共に所望のターゲット周波数に合わせるために用いられるものであり、例えばFM周波数帯で共振アンテナとして機能するようにインダクタが選択されれば良い。即ち、コイル50は、トップロードエレメント40とコイル50の直列回路により、例えばFM周波数帯の中心周波数で共振アンテナとして機能するように調整されれば良い。これは、アンプ回路21に接続されない状態(パッシブアンテナ)でトップロードエレメント40とコイルの直列回路が所望のターゲット周波数になるように調整される。また、コイル50は、回路基板20の空白エリア23に対向する回路基板20の表面側に配置される。即ち、コイル50は回路基板20上に配置されるが、この際、回路基板の金属薄膜が存在しない空白エリア23に対応する位置に配置される。これにより、コイル50の性能劣化を防止している。そして、コイル50の軸方向が回路基板20に対して平行に配置されている。即ち、コイル50は回路基板20に対して垂直方向に立てる必要はなく、簡単に載置可能な方向に配置される。なお、図示例では、コイル50はその軸方向が低背型アンテナ装置の長手方向に平行に配置される例を示したが、本発明はこれに限定されず、回路基板20に平行に配置されていれば、短辺方向に平行に配置されても良いし、斜め方向に配置されても良い。」

(3)「【0030】
さらに、コイル50は、ベースプレート10に対しても金属等の導電体から離した位置に配置されることで、より性能劣化を抑えることが可能となる。具体的には、ベースプレート10が金属ベースの場合には、ベースプレート10のコイル50が配置される位置に対応して切欠き部を設けて空白エリア状に構成しても良い。また、ベースプレート10が樹脂ベースやコンポジットベースの場合には、絶縁体の存在する位置に対応してコイル50が配置されれば良い。なお、図示例とは反対に、回路基板20のベースプレート10側にアンプ回路21が載置され、ベタアースエリア22と空白エリア23とがベースプレート10と対向する面に配置されても良い。この場合、コイル50は空白エリア23内に配置されれば良い。即ち、コイル50は、回路基板20の空白エリア23に対向する面側に配置されても良いし、空白エリア23内に配置されても良い。」

(4)図1


(5)図2


(6)上記(1)から(5)の記載事項から甲第13号証には以下の技術事項が記載されているといえる。

「車両用の低背型アンテナ装置において、金属ベースのベースプレート10のコイル50が配置される位置に対応して切欠き部を設け、共振アンテナとして機能するコイル50の性能劣化を抑える」という技術事項。


第5 当審の判断

1 取消理由通知に記載した取消理由について

(1)甲第1号証を主な引用文献とする場合の理由

ア 請求項1に係る発明について

(ア)対比

請求項1に係る発明と甲1発明とを対比する。

a 甲1発明は「車両のルーフ後端付近に設置されるアンテナ装置10」であるから、請求項1でいう『車両のルーフに取り付けられる車載用アンテナ装置』といえる。

b 特許6546712号公報の段落【0041】の『アンテナベース11とアンテナケース13との間には、収容空間が画成されており、アンテナエレメント15と、アンテナ用の各種回路を搭載した基板17と、を内蔵する。』との記載、段落【0043】の『本実施形態のアンテナベース11は、樹脂ベース20と、金属ベース30と、金属プレート40と、を有する。』との記載、及び【図1】を踏まえると、請求項1における『アンテナベース』は『アンテナケース』とともに『アンテナエレメント』を収容する空間を画成し、『樹脂ベース20』、『金属ベース30』及び『金属プレート40』を有するものである。

一方、甲1発明は、「電波の送受信を行うアンテナエレメント、このエレメントからの信号の増幅などの処理を行う回路が実装された基板を収納するケース12と、ケース12の下方の開口をふさぐシール14と、アンテナエレメントや基板を支持し、また当該アンテナ装置10を固定するための締結部材の一つとなる台座16を含」むものであり、甲第1号証の【図1】や【図2】も参酌すると、甲1発明においても、“「ケース12」”は、当該「ケース12」の下方の開口に位置する“「台座16」や「シール14」”とともに「アンテナエレメント」を収容する空間を画成するものである。

ここで、甲1発明の「台座16」は、「金属製の鋳造品、例えばアルミダイキャスト品を用いており、下側の面には、アンテナ装置10を車体に固定するためのねじが切られた車体結合ボス30が立設されている」ものであり、甲1発明が「車両のルーフ後端付近に設置されるアンテナ装置10」であることを踏まえると、「台座16」は車両のルーフ部分に固定される金属製の部材である。
してみると、甲1発明の「台座16」は、請求項1でいう『ルーフに固定される金属ベース』に相当する。

また、甲1発明の「シール14」は、「金属の板、例えばプレス鋼板を用い」た「心材20」を含んでおり、甲第1号証の【図2】に図示されるように、「心材20」は「台座16」と一部が重なるように配置されている。そして、「心材20」と「台座16」は共に金属であることから、「心材20」と「台座16」が接することで電気的に接続されることは自明である。
してみると、甲1発明の「シール14」に含まれる「心材20」は、請求項1でいう『金属ベースに電気的に接続された金属プレート』に相当する。

以上のことから、甲1発明における「台座16」と「心材20を含むシール14」とからなる構成は、「ケース12」と共に「アンテナエレメント」を収容する空間を画成するものであり、「台座16」は、請求項1でいう『ルーフに固定される金属ベース』に相当し、「心材20」は、請求項1でいう『金属ベースに電気的に接続された金属プレート』に相当するのであるから、請求項1でいう『アンテナベース』であって、『前記ルーフに固定される金属ベースと、前記金属ベースに電気的に接続された金属プレートと、を有する』との構成に相当する。

c 甲1発明における「ケース12」は、甲第1号証の【図1】や【図2】から明らかなように、「台座16」と「シール14」に上方から被せるように設置するものであるから、請求項1でいう『アンテナベースに上方から被せるアンテナケース』に相当する。

d 甲1発明における「電波の送受信を行うアンテナエレメント」は、甲第1号証の【図1】や【図2】に図示されるように、「ケース12」内に収納されているから、請求項1でいう『アンテナケースの内側に設けられたアンテナエレメント』に相当する。


(イ)判断

上記(ア)aからdで対比した様に、請求項1に係る発明と甲1発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項1に係る発明が奏する効果は、甲1発明にも内在しているものである。
したがって、請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


イ 請求項2に係る発明について

請求項2に係る発明と甲1発明とを対比する。なお、請求項2は、請求項1を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

(ア)甲第1号証には「アンテナ装置10」の車両のルーフへの具体的な取付け姿勢については明記されていないが、流線形のアンテナを車両に取り付ける際に、車両前方から車両後方にかけて流線形を有するように流線形のアンテナを取り付けることは技術常識(必要であれば、特開2015-46789号公報(特に、段落【0028】、【図5】)を参照されたい。)である。したがって、甲1発明は、「ケース12」の先細った部分が車両前方を向くように車両のルーフに取り付けられるものと認められる。
してみると、甲第1号証の【図1】から、「台座16」と「シール14」からなる構成が車両の前後方向を長手方向をとする形状を有していることが見てとれるから、甲1発明における「台座16」と「シール14」とからなる構成は、請求項2でいう『前記ルーフへの取り付け姿勢において前記車両の前後方向を長手方向とする形状を有』する『アンテナベース』に相当する。

(イ)請求項1について言及したように、甲1発明における「心材20」と「台座16」は、ぞれぞれ、請求項1における『金属プレート』と『金属ベース』に相当するものである。そして、上記(1)で言及した取付け姿勢において、甲第1号証の【図1】に図示されるように、「心材20」は「台座16」の前後に位置している。また、「心材20」と「台座16」の配置関係から、長手方向における「台座16」の電気長よりも「心材20」及び「台座16」を含めた電気長の方が長いことは自明である。
してみると、甲1発明は、請求項2でいう『前記金属プレートは、前記取り付け姿勢における前記金属ベースの前端側及び/又は後端側に設けられ、前記長手方向における前記金属ベースのみの電気長よりも前記金属ベース及び前記金属プレートを含めた電気長の方が長い』との構成を備えているといえる。

(ウ)上記(ア)と(イ)で対比した様に、請求項2に係る発明と甲1発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項2に係る発明が奏する効果は、甲1発明にも内在しているものである。
したがって、請求項2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


ウ 請求項6に係る発明について

(ア)対比

請求項6に係る発明と甲1発明とを対比する。なお、請求項6は、請求項1(ないし5)を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

請求項1について言及したように、甲1発明の「シール14」に含まれる「心材20」は請求項1における『金属プレート』に相当するものである。そして、「シール14」はさらに、「心材20の底面、すなわち車体に対向する面の側に、心材20と層をなすように配置される部分22bを有」する「シール材22」を含んでいる。ただし、甲第1号証には「シール材22」の素材については明示されていない。
してみると、請求項6に係る発明と甲1発明とは、『アンテナベース』が『金属プレート』を載せるための部材(請求項6でいう『樹脂ベース』、甲1発明における「シール材22」の「部分22b」)を有するという点で一致するものの、請求項6に係る発明では当該部材が『樹脂ベース』、すなわち樹脂製であるのに対し、甲1発明では、「シール材22」の素材が明らかでない点で相違する。


(イ)判断

甲1発明の「シール材22」は「柔軟で」、「車体に設けられたアンテナ装置10を取り付けるための取付穴からの水などの浸入を防止するものであ」るから、柔軟かつ防水目的で利用可能な素材として樹脂素材を用いることは、証拠を示すまでもなく、当業者にとって慣用技術であるから、甲1発明において、「シール材22」の素材として樹脂素材を用いて、請求項6に係る発明とすることは、当業者が容易になし得るものである。
したがって、請求項6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


エ 請求項7に係る発明について

請求項7に係る発明と甲1発明とを対比する。なお、請求項7は、請求項6を引用する従属項であり、引用先である請求項6の構成については、請求項6について言及したとおりである。

甲1発明の「シール材22」は「心材20」の周縁部を縁取る「部分22a」を有しており、甲第1号証の【図2】に図示される「部分22a」の形状から、「部分22a」が「心材20」の位置ずれを抑制する機能を発揮することは明らかである。
したがって、甲1発明の「シール材22」は、請求項7でいう『前記金属プレートの所定位置からの位置ずれを抑制する位置決め形状部』を有するといえる。
してみると、請求項7に係る発明と甲1発明との相違点は、請求項6について言及した点と同じであるから、甲1発明に基づいて、請求項7に係る発明とすることは、当業者が容易になし得るものである。
したがって、請求項7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


オ 請求項8に係る発明について

(ア)対比

請求項8に係る発明と甲1発明とを対比する。なお、請求項8は、請求項1(ないし7)を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

請求項8に係る発明と甲1発明との間には次の相違点が存在する。

請求項8に係る発明が『アンテナエレメントとは異なる第2のアンテナエレメント』であって、『(一部又は全部が前記金属プレートの上方に位置するように配置される)第2のアンテナエレメント』を備えるのに対し、甲1発明は「アンテナエレメント」を備える点。


(イ)判断

甲第2号証に記載された「車両のルーフ上に載置して用いる車載用アンテナ装置に複数のアンテナエレメントを備える」という周知の技術事項を甲1発明に適用して、甲1発明に第2のアンテナエレメントを追加するとともに、当該第2のアンテナエレメントを、甲1発明の収容空間の大部分を占める「心材20」の上方に配置するようにして、請求項8に係る発明とすることは、当業者が容易になし得るものである。
したがって、請求項8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証、甲第2号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


カ 請求項9に係る発明について

請求項9に係る発明と甲1発明とを対比する。なお、請求項9は、請求項1(ないし8)を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

請求項1について言及したように、甲1発明における「心材20」と「台座16」は、ぞれぞれ、請求項1における『金属プレート』と『金属ベース』に相当するものである。そして、甲1発明において、「心材20は、金属の板、例えばプレス鋼板を用いており」、「台座16は、金属製の鋳造品、例えばアルミダイキャスト品を用いて」いることから、「心材20」と「台座16」は材質が異なっているといえる。
してみると、甲1発明は、請求項9でいう『金属ベースと前記金属プレートとは材質が異なる』との構成を備えているといえる。
したがって、請求項9に係る発明と甲1発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項9に係る発明が奏する効果は、甲1発明にも内在しているものである。
よって、請求項9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


キ 請求項12に係る発明について

請求項12に係る発明と甲1発明とを対比する。なお、請求項12は、請求項1(ないし11)を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

請求項1について言及したように、甲1発明における「心材20」は請求項1における『金属プレート』に相当するものである。この「心材20」には「開口18」、すなわち「心材20」をくり抜いた部分が形成されている。甲第1号証の【図1】や【図2】には、「アンテナエレメント」自体は図示されていないものの、当該「アンテナエレメント」を支持する「台座16」が「心材20」の「開口18」部分に位置することが示されており、このことから、甲1発明における「アンテナエレメント」は「心材20」の「開口18」の上方に位置しているものと認められる。
してみると、甲1発明は、請求項12でいう『前記アンテナエレメントは、一部又は全部が前記金属プレートの上に位置し、前記金属プレートは、前記アンテナエレメントの下に位置する部分が部分的にくり抜かれて形成されている』との構成を備えているといえる。
したがって、請求項12に係る発明と甲1発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項12に係る発明が奏する効果は、甲1発明にも内在しているものである。
よって、請求項12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


ク 請求項13に係る発明について

請求項13に係る発明と甲1発明とを対比する。なお、請求項13は、請求項1(ないし12)を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

(ア)甲第1号証には「アンテナ装置10」の車両のルーフへの具体的な取付け姿勢については明記されていないが、流線形のアンテナを車両に取り付ける際に、車両前方から車両後方にかけて流線形を有するように流線形のアンテナを取り付けることは技術常識(必要であれば、特開2015-46789号公報(特に、段落【0028】、【図5】)を参照されたい。)である。したがって、甲1発明は、「ケース12」の先細った部分が車両前方を向くように車両のルーフに取り付けられるものと認められる。
してみると、甲第1号証の【図1】から、「台座16」と「シール14」からなる構成が車両の前後方向を長手方向をとする形状を有していることが見てとれるから、甲1発明における「台座16」と「シール14」からなる構成は、請求項13でいう『前記ルーフへの取り付け姿勢において前記車両の前後方向を長手方向とする形状を有』する『アンテナベース』に相当する。

(イ)請求項1について言及したように、甲1発明における「心材20」は、請求項1における『金属プレート』に対応するものである。そして、甲第1号証の【図1】に図示されるように、上記(1)で言及した取付け姿勢において、「心材20」は「シール14」の前方側および後方側に設けられている。
してみると、甲1発明は、請求項13でいう『前記金属プレートは、前記取り付け姿勢における前記アンテナベースの前方側および/又は後方側に設けられた』との構成を備えているといえる。

(ウ)上記(ア)と(イ)で対比した様に、請求項13に係る発明と甲1発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項13に係る発明が奏する効果は、甲1発明にも内在しているものである。
したがって、請求項13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


(2)甲第8号証を主な引用文献とする場合の理由

ア 請求項11に係る発明について

(ア)対比

請求項11に係る発明と甲8発明とを対比する。

a 甲8発明は「車両のルーフに取り付けられるアンテナ装置1」であるから、請求項11でいう『車両のルーフに取り付けられる車載用アンテナ装置』といえる。

b 甲8発明における「導電ベース21」には「アンテナ装置1を車両に取り付けるためのボルト部21a」が形成されている。また、甲第8号証の【図19】と【図20】に図示されるように、「導電ベース21」は板状、すなわちプレート状であるから、甲8発明における「導電ベース21」は、請求項11でいう『ルーフに固定される金属プレート』に相当する。
また、甲8発明における「樹脂製の絶縁ベース20」は「導電ベース21」とともに「アンテナベース11」を構成するものであるから、請求項11でいう『樹脂ベース』に相当する。
してみると、甲8発明における「樹脂製の絶縁ベース20と金属製の導電ベース21とからなるアンテナベース11」は、請求項11における『ルーフに固定される金属プレートおよび樹脂ベースを有するアンテナベース』に相当する。

c 甲8発明は「樹脂製のアンテナケース10と、このアンテナケース10の下面に嵌合されている樹脂製の絶縁ベース20と金属製の導電ベース21とからなるアンテナベース11とを備え」るものであり、甲第8号証の【図6】に図示されるように、「アンテナケース10」は「アンテナベース11」に上方から被せるように配置されているから、甲8発明における「アンテナケース10」は、請求項11でいう『アンテナベースに上方から被せるアンテナケース』に相当する。

d 甲8発明の「アンテナアセンブリ2」は、「傘型エレメント13とコイル14とからなるアンテナ」をその構成に含み、かつ「アンテナケース10」内に収納されるものであるから、請求項11でいう『アンテナケースの内側に設けられたアンテナエレメント』に相当する。

e 甲8発明の「導電ベース21」は、「絶縁ベース20上の前側から中央の若干後側までの位置に配置され」るものであるから、甲8発明は、請求項11でいう『金属プレートは、前記樹脂ベースの上に配置される』との構成を備えている。


(イ)判断

上記(ア)aからeで対比した様に、請求項11に係る発明と甲8発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項11に係る発明が奏する効果は、甲8発明にも内在しているものである。
したがって、請求項11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第8号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第8号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


イ 請求項12に係る発明について

請求項12は請求項1ないし11を引用する従属項であるが、以下では請求項11の記載を引用した請求項12に係る発明と甲8発明とを対比する。引用先である請求項11の構成については、請求項11について言及したとおりである。

請求項11について言及したように、甲8発明における「導電ベース21」と「アンテナアセンブリ2」は、それぞれ、請求項11でいう『金属プレート』と『アンテナエレメント』に対応するものである。
「アンテナアセンブリ2」は、「絶縁ベース20と導電ベース21からなるアンテナベース11上に組み付けられ」るものであり、甲第8号証の【図8】などからも明らかなように、「導電ベース21」の上に位置するものである。
また、「導電ベース21」には「係止孔21f」や「挿通孔21e」といったくり抜かれた部分が形成されており、これら「係止孔21f」や「挿通孔21e」が「アンテナアセンブリ2」の下に位置することも、甲第8号証の【図8】や【図19】から見てとれる。
してみると、甲8発明は、請求項12でいう『前記アンテナエレメントは、一部又は全部が前記金属プレートの上に位置し、前記金属プレートは、前記アンテナエレメントの下に位置する部分が部分的にくり抜かれて形成されている』との構成を備えているといえる。
したがって、上記1で対比した様に、請求項12に係る発明と甲8発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項12に係る発明が奏する効果は、甲8発明にも内在しているものである。
よって、請求項12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第8号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第8号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


ウ 請求項13に係る発明について

請求項13は請求項1ないし12を引用する従属項であるが、以下では請求項11の記載を引用した請求項13に係る発明と甲8発明とを対比する。引用先である請求項11の構成については、請求項11について言及したとおりである。

(ア)甲第8号証には「アンテナ装置1」の車両のルーフへの具体的な取付け姿勢については明記されていないが、流線形のアンテナを車両に取り付ける際に、車両前方から車両後方にかけて流線形を有するように流線形のアンテナを取り付けることは技術常識(必要であれば、特開2015-46789号公報(特に、段落【0028】、【図5】)を参照されたい。)である。したがって、甲8発明は、「アンテナケース10」の先細った部分が車両前方を向くように車両のルーフに取り付けられるものと認められる。
してみると、甲第8号証の【図6】などから、「アンテナベース11」が車両の前後方向を長手方向をとする形状を有していることが見てとれるから、甲8発明における「アンテナベース11」は、請求項13でいう『前記ルーフへの取り付け姿勢において前記車両の前後方向を長手方向とする形状を有』する『アンテナベース』に相当する。

(イ)甲8発明の「導電ベース21」は、「絶縁ベース20上の前側から中央の若干後側までの位置に配置され」るものであり、甲第8号証の【図22】に図示されるように、「アンテナベース11」の前方側に設けられている。
してみると、甲8発明は、請求項13でいう『前記金属プレートは、前記取り付け姿勢における前記アンテナベースの前方側および/又は後方側に設けられた』との構成を備えているといえる。

(ウ)上記(ア)と(イ)で対比した様に、請求項13に係る発明と甲8発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項13に係る発明が奏する効果は、甲8発明にも内在しているものである。
したがって、請求項13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第8号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第8号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


(3)甲第10号証を主な引用文献とする場合の理由

ア 請求項1に係る発明について

(ア)対比

請求項1に係る発明と甲10発明とを対比する。

a 甲10発明は「車両のルーフ上に取り付けられる車載用アンテナ装置1」であるから、請求項1でいう『車両のルーフに取り付けられる車載用アンテナ装置』といえる。

b 特許6546712号公報の段落【0041】の『アンテナベース11とアンテナケース13との間には、収容空間が画成されており、アンテナエレメント15と、アンテナ用の各種回路を搭載した基板17と、を内蔵する。』との記載、段落【0043】の『本実施形態のアンテナベース11は、樹脂ベース20と、金属ベース30と、金属プレート40と、を有する。』との記載、及び【図1】を踏まえると、請求項1における『アンテナベース』は『アンテナケース』とともに『アンテナエレメント』を収容する空間を画成し、『樹脂ベース20』、『金属ベース30』及び『金属プレート40』を有するものである。

一方、甲10発明は、甲第10号証の【図1】や【図2】から明らかなように、「ベース5」は「カバー2」とともに「アンテナ3」や「アンテナ8」を収容する空間を画成するものであり、そして、「ベース5」は、「樹脂ベース部21」と「アースである車体に接地されるように、樹脂ベース部21上に載置され」た「金属ベース部22」とを有しており、「樹脂ベース部21」上には「シールドカバー7」も載置されている。

ここで、甲10発明が「車両のルーフ上に取り付けられる車載用アンテナ装置1」であること、及び、甲10発明の「金属ベース部22」は、「アースである車体に接地されるように、樹脂ベース部21上に載置」されるものであること、を踏まえると、「金属ベース部22」と「ルーフ」とが物理的に接続、すなわち固定されている必要がある。
してみると、甲10発明における「金属ベース部22」は、請求項1でいう『ルーフに固定される金属ベース』に相当する。

また、甲10発明の「シールドカバー7」は、「金属ベース部22に電気的に接続されて」いるから、請求項1でいう『金属ベースに電気的に接続された金属プレート』に相当する。

以上のことから、甲10発明における「金属ベース部22を含むベース5」と「シールドカバー7」からなる構成は、「カバー2」と共に「アンテナ3」や「アンテナ8」を収容する空間を画成するものであり、「金属ベース部22」は、請求項1でいう『ルーフに固定される金属ベース』に相当し、「シールドカバー7」は、請求項1でいう『金属ベースに電気的に接続された金属プレート』に相当するのであるから、請求項1でいう『アンテナベース』であって、『前記ルーフに固定される金属ベースと、前記金属ベースに電気的に接続された金属プレートと、を有する』との構成に相当する。

c 甲10発明における「カバー2」は、「少なくともアンテナ3と、回路基板4と、ベース5と、シールドカバー7と、アンテナ8とを覆う保護部材」であり、甲第10号証の【図1】や【図2】からは、「カバー2」が「ベース5」や「シールドカバー7」に上方から被せるものであることが見てとれる。
してみると、甲10発明における「カバー2」は、請求項1でいう『アンテナベースに上方から被せるアンテナケース』に相当する。

d 甲10発明の「カバー2」は「少なくともアンテナ3と、回路基板4と、ベース5と、シールドカバー7と、アンテナ8とを覆う」から、甲10発明における「アンテナ3」と「アンテナ8」は、請求項1でいう『アンテナケースの内側に設けられたアンテナエレメント』に相当する。


(イ)判断

上記(ア)aからdで対比した様に、請求項1に係る発明と甲10発明との間に相違点はない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項1に係る発明が奏する効果は、甲10発明にも内在しているものである。
したがって、請求項1に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた特許出願(甲第10号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、請求項1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。


イ 請求項2に係る発明について

請求項2に係る発明と甲10発明とを対比する。なお、請求項2は、請求項1を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

甲第10号証の段落【0018】の「以下の説明では、アンテナ装置1及びこれを構成する部品において、車両の前方方向を先端側とし、車両の後方方向を後端側とする。」との記載、段落【0019】の「カバー2は、その後端側から先端側に向かって徐々に高さが低くなる流線形状(シャークフィン形状)を有している。」との記載、【図1】及び【図2】から、甲10発明における「ベース5」がルーフへの取付け姿勢において車両の前後方向を長手方向とする形状を有していることは明らかである。
また、甲10発明における「シールドカバー7」は「樹脂ベース部21上であって金属ベース部22よりも先端側に位置しており、金属ベース部22に電気的に接続されている」から、「シールドカバー7」は「金属ベース部22」の前端側に設けられているといえ、また、長手方向における「金属ベース部22」よりも「シールドカバー7」及び「金属ベース部22」を含めた電気長の方が長いことはその構成から自明である。
してみると、甲10発明は、請求項2でいう『前記アンテナベースは、前記ルーフへの取り付け姿勢において前記車両の前後方向を長手方向とする形状を有し、前記金属プレートは、前記取り付け姿勢における前記金属ベースの前端側及び/又は後端側に設けられ、前記長手方向における前記金属ベースのみの電気長よりも前記金属ベース及び前記金属プレートを含めた電気長の方が長い』との構成をすべて備えているといえる。
したがって、請求項2に係る発明と甲10発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項2に係る発明が奏する効果は、甲10発明にも内在しているものである。
よって、請求項2に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた特許出願(甲第10号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、請求項2に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。


ウ 請求項6に係る発明について

請求項6に係る発明と甲10発明とを対比する。なお、請求項6は、請求項1(ないし5)を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

甲10発明の「ベース5」は「樹脂ベース部21と、樹脂ベース部21上に載置される金属ベース部22」を有しており、「樹脂ベース部21」は、請求項6でいう『金属プレート』が上に配置される『樹脂ベース』に相当する。
したがって、請求項6に係る発明と甲10発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項6に係る発明が奏する効果は、甲10発明にも内在しているものである。
よって、請求項6に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた特許出願(甲第10号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、請求項6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。


エ 請求項7に係る発明について

請求項7に係る発明と甲10発明とを対比する。なお、請求項7は、請求項6を引用する従属項であり、引用先である請求項6の構成については、請求項6について言及したとおりである。

甲10発明の「樹脂ベース部21」は「シールドカバー7と係合する柱状部21eを有し」ており、「柱状部21e」が「シールドカバー7」の位置ずれを抑制する機能を発揮することは、甲第10号証の【図3】と【図4】からも明らかであるから、「柱状部21e」は、請求項7でいう『前記金属プレートの所定位置からの位置ずれを抑制する位置決め形状部』に相当する。
したがって、請求項7に係る発明と甲10発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項7に係る発明が奏する効果は、甲10発明にも内在しているものである。
よって、請求項7に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた特許出願(甲第10号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、請求項7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。


オ 請求項8に係る発明について

請求項8に係る発明と甲10発明とを対比する。なお、請求項8は、請求項1(ないし7)を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

甲10発明における「アンテナ3」と「シールドカバー7上に載置されるアンテナ8」は、それぞれ、請求項8でいう『アンテナエレメント』と『第2のアンテナエレメント』に対応している。
したがって、請求項8に係る発明と甲10発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項8に係る発明が奏する効果は、甲10発明にも内在しているものである。
よって、請求項8に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた特許出願(甲第10号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、請求項8に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。


カ 請求項9に係る発明について

請求項9に係る発明と甲10発明とを対比する。なお、請求項9は、請求項1(ないし8)を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

甲10発明における「金属ベース部22」は、「金属又は合金によって構成されており」、「シールドカバー7」は、「一枚の金属板又は合金板をプレス加工することによって形成されて」いる。
ここで、例えば、「金属ベース部22」を「金属」で構成し、「シールドカバー7」を「合金板」で形成した場合には、「金属ベース部22」と「シールドカバー7」とは材質が異なるといえる。
したがって、請求項9に係る発明と甲10発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項9に係る発明が奏する効果は、甲10発明にも内在しているものである。
よって、請求項9に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた特許出願(甲第10号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、請求項9に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。


キ 請求項10に係る発明について

請求項10に係る発明と甲10発明とを対比する。なお、請求項10は、請求項1(ないし8)を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

甲10発明における「金属ベース部22」は、「金属又は合金によって構成されており」、「シールドカバー7」は、「一枚の金属板又は合金板をプレス加工することによって形成されて」いる。
ここで、例えば、「金属ベース部22」を「合金」で構成し、「シールドカバー7」を「合金板」で形成した場合には、「金属ベース部22」と「シールドカバー7」とは材質が同じであるといえる。
したがって、請求項10に係る発明と甲10発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項10に係る発明が奏する効果は、甲10発明にも内在しているものである。
よって、請求項10に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた特許出願(甲第10号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、請求項10に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。


ク 請求項11に係る発明について

(ア)対比

請求項11に係る発明と甲10発明とを対比する。

a 甲10発明は「車両のルーフ上に取り付けられる車載用アンテナ装置1」であるから、請求項11でいう『車両のルーフに取り付けられる車載用アンテナ装置』といえる。

b 特許6546712号公報の段落【0041】の『アンテナベース11とアンテナケース13との間には、収容空間が画成されており、アンテナエレメント15と、アンテナ用の各種回路を搭載した基板17と、を内蔵する。』との記載、段落【0043】の『本実施形態のアンテナベース11は、樹脂ベース20と、金属ベース30と、金属プレート40と、を有する。』との記載、及び【図1】を踏まえると、請求項1における『アンテナベース』は『アンテナケース』とともに『アンテナエレメント』を収容する空間を画成し、『樹脂ベース20』、『金属ベース30』及び『金属プレート40』を有するものである。

一方、甲10発明は、甲第10号証の【図1】や【図2】から明らかなように、「ベース5」は「カバー2」とともに「アンテナ3」や「アンテナ8」を収容する空間を画成するものであり、そして、「ベース5」は、「樹脂ベース部21」と「樹脂ベース部21上に載置される金属ベース部22」とを有している。

ここで、甲10発明の「樹脂ベース部21」は、請求項11でいう『樹脂ベース』に相当することは明らかである。

また、甲10発明の「金属ベース部22」は、甲第10号証の【図2】や【図3】に図示されるように、板状、すなわちプレート状である。そして、甲10発明が「車両のルーフ上に取り付けられる車載用アンテナ装置1」であることを踏まえると、甲10発明の「金属ベース部22」が車両と接地される部分は「ルーフ」部分であると認められ、「車体に接地される」ためには「金属ベース部22」と「ルーフ」とが物理的に接続、すなわち固定されている必要があるといえる。
してみると、甲10発明における「金属ベース部22」は、請求項11でいう『ルーフに固定される金属プレート』に相当する。

以上のことから、甲10発明における「樹脂ベース部21」と「樹脂ベース部21上に載置される金属ベース部22」とを有する「ベース5」は、「カバー2」と共に「アンテナ3」や「アンテナ8」を収容する空間を画成するものであり、「樹脂ベース部21」は、請求項11でいう『樹脂ベース』に相当し、「金属ベース部22」は、請求項11でいう『ルーフに固定される金属プレート』に相当するのであるから、請求項11でいう『前記ルーフに固定される金属プレートおよび樹脂ベースを有するアンテナベース』に相当する。

c 甲10発明の「カバー2」は、「少なくともアンテナ3と、回路基板4と、ベース5と、シールドカバー7と、アンテナ8とを覆う保護部材」であり、甲第10号証の【図1】や【図2】からは、「カバー2」が「ベース5」などに上方から被せるものであること見てとれるから、甲10発明の「カバー2」は、請求項11でいう『アンテナベースに上方から被せるアンテナケース』に相当する。

d 甲10発明における「カバー2」は「少なくともアンテナ3と、回路基板4と、ベース5と、シールドカバー7と、アンテナ8とを覆う」から、甲10発明における「アンテナ3」と「アンテナ8」は、請求項11でいう『アンテナケースの内側に設けられたアンテナエレメント』に相当する。

e 甲10発明における「金属ベース部22」は「樹脂ベース部21上に載置され」るものであるから、甲10発明は、請求項11でいう『金属プレートは、前記樹脂ベースの上に配置される』との構成を備えている。


(イ)判断

上記(ア)aからeで対比した様に、請求項11に係る発明と甲10発明との間に相違点はない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項11に係る発明が奏する効果は、甲10発明にも内在しているものである。
したがって、請求項11に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた特許出願(甲第10号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、請求項11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。


ケ 請求項13に係る発明について

請求項13に係る発明と甲10発明とを対比する。なお、請求項13は、請求項1(ないし12)を引用する従属項であり、引用先である請求項1の構成については、請求項1について言及したとおりである。

甲第10号証の段落【0018】の「以下の説明では、アンテナ装置1及びこれを構成する部品において、車両の前方方向を先端側とし、車両の後方方向を後端側とする。」との記載、段落【0019】の「カバー2は、その後端側から先端側に向かって徐々に高さが低くなる流線形状(シャークフィン形状)を有している。」との記載、【図1】及び【図2】から、甲10発明における「ベース5」がルーフへの取付け姿勢において車両の前後方向を長手方向とする形状を有していることは明らかである。
また、甲第10号証の【図2】や【図3】には、甲10発明における「シールドカバー7」が取り付け姿勢における「ベース5」の前方側に設けられることが図示されている。
してみると、甲10発明は、請求項13でいう『前記アンテナベースは、前記ルーフへの取り付け姿勢において前記車両の前後方向を長手方向とする形状を有し、前記金属プレートは、前記取り付け姿勢における前記アンテナベースの前方側および/又は後方側に設けられた』との構成をすべて備えているといえる。
したがって、請求項13に係る発明と甲10発明との間に相違点は存在しない。また、両発明の構成に相違点は存在しないのであるから、請求項13に係る発明が奏する効果は、甲10発明にも内在しているものである。
よって、請求項13に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた特許出願(甲第10号証)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、請求項13に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。


2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

(1)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由

特許異議申立人が申し立てたが、当審が取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。


ア 特許異議申立理由1

請求項3に係る発明は、甲第1,2号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


イ 特許異議申立理由2

請求項4に係る発明は、甲第1,3?6号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


ウ 特許異議申立理由3

請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項5に係る発明は、甲第1,7,9号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


エ 特許異議申立理由4

請求項10に係る発明は、甲第1号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


オ 特許異議申立理由5

請求項11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項11に係る発明は、甲第1号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


カ 特許異議申立理由6

請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項1に係る発明は、甲第2号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


キ 特許異議申立理由7

請求項2,8?10に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項2,8?10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項2,8?10に係る発明は、甲第2号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項2,8?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


ク 特許異議申立理由8

請求項3に係る発明は、甲第2号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


ケ 特許異議申立理由9

請求項4に係る発明は、甲第2?6号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


コ 特許異議申立理由10

請求項5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項5に係る発明は、甲第2,7,9号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


サ 特許異議申立理由11

請求項6,7に係る発明は、甲第2,8号証より容易に発明をすることができたものであるから、請求項6,7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


シ 特許異議申立理由12

請求項1?13に係る発明は、特許請求の範囲が発明の詳細な説明に記載したものでないか、または明確でない。このため、請求項1?13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号または同項2号に規定する要件を満たさない出願に対してされたものであるから、同法113条1項4号に該当し、取り消されるべきものである。


(2)当審の判断

上記(1)アからシについての当審の判断は次のとおりである。

ア 特許異議申立理由1について

特許異議申立人は、請求項3に係る発明について、特許異議申立書(第24頁)において、
「引用文献1には、「金属プレートはミアンダ形状又は渦巻き形状を有する」点について記載されていない。
しかしながら、電気長(実効長)を長くするためにミアンダ形状等を選択することは、例えば引用文献2の段落【0045】にも記載のように当業者に周知の設計事項である。
したがって、本件特許発明3は、引用文献1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。」
と主張している。
しかしながら、甲第1号証(引用文献1)に記載された甲1発明が有する「心材20」(請求項3に係る発明における『金属プレート』に相当)は、シール14の剛性を担うためのものである(甲第1号証の段落【0012】参照)から、特許異議申立人が主張するように「電気長(実効長)を長くするためにミアンダ形状等を選択すること」が「当業者に周知の設計事項」あったとしても、電気長(実効長)を長くするために「心材20」の形状としてミアンダ形状又は渦巻き形状を選択し、請求項3に係る発明とする動機付けは見当たらない。
したがって、請求項3に係る発明は、甲第1,2号証より容易に発明をすることができたものではない。
よって、上記(1)アの特許異議申立理由を採用することはできない。


イ 特許異議申立理由2について

特許異議申立人は、請求項4に係る発明について、特許異議申立書(第24,25頁)において、
「引用文献1には、「前記アンテナベースは、前記金属ベースと前記金属プレートとの間に電気長を調整する電気長調整回路を有し、当該電気長調整回路を介して前記金属ベースと前記金属プレートとが電気的に接続された」点について記載されていない。
しかしながら、金属部材間に電気長調整回路を設けて電気長を調整することは、例えば引用文献3の段落【0035】、引用文献4の段落【0053】【0057】、引用文献5の段落【0038】【0039】、引用文献6の段落【0034】【0039】にも記載のように車載アンテナに限らず、アンテナ一般について周知の設計事項である。
したがって、本件特許発明4は、引用文献1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。」
と主張している。
しかしながら、甲第1号証(引用文献1)に記載された甲1発明では、高価な「台座16」(請求項4に係る発明における『金属ベース』に相当)を小型化するために、シール14の剛性を担う「心材20」(請求項4に係る発明における『金属プレート』に相当)が用いられていることから(甲第1号証の段落【0012】参照)、特許異議申立人が主張するように「金属部材間に電気長調整回路を設けて電気長を調整すること」が「周知の設計事項」であったとしても、「台座16」と「心材20」との電気長を問題としていない甲1発明において、「台座16」と「心材20」との間に電気長調整回路を設けて請求項4に係る発明とする動機付けは見当たらない。
したがって、請求項4に係る発明は、甲第1,3?6号証より容易に発明をすることができたものではない。
よって、上記(1)イの特許異議申立理由を採用することはできない。


ウ 特許異議申立理由3について

特許異議申立人は、請求項5に係る発明について、特許異議申立書(第25頁)において、
「引用文献1には、「前記突起部を介して電気的に接続された前記ルーフと前記アンテナベースとにより生じる共振周波数が、前記アンテナエレメントの通信周波数帯域外となる、」点について明示されていない。
しかしながら、不要共振の共振周波数をアンテナエレメントの通信周波数帯域外とすることは、甲7号証(本件特許明細書に記載の先行技術文献)の段落【0004】【0005】にも記載のように、当業者にとって自明な課題であり、実用上不可欠の設計事項である。電気長を長くして共振周波数をアンテナエレメントの通信周波数帯域外とすることも、引用文献9の段落【0038】【0043】に記載のように当業者にとって周知の設計事項である。
したがって、本件特許発明5は、引用文献1に記載された発明であるか、少なくともこれに基づいて当業者が容易に発明できたものである。」
と主張している。
しかしながら、甲第1号証には、「台座16」及び「心材20」と「車両のルーフ」との間の不要な共振に関して何ら記載されておらず、請求項5に係る発明が甲第1号証に記載された発明であるとする根拠を甲第1号証の記載から見いだすことはできない。
また、特許異議申立人が主張するように、本件特許の優先日よりも前に、車載用アンテナ装置において車体ルーフとの不要な共振が所要の周波数帯域内に発生してアンテナ利得が低下することを防止することが公知の課題であったとしても、当該課題を解決する手段としては様々なものが考えられる。例えば、甲第7号証には「車両のルーフに取り付けられる車載用アンテナ装置において、樹脂製ベース70の金属製ベース60の配置面とは反対側の面に導体板90を設けることで、金属製ベース60が車体ルーフ(グランド)との距離に応じた共振点を持つことによる不要な共振が所要の周波数帯域内に発生してアンテナ利得が低下することを防止するという技術事項が記載されている。
そうすると、特許異議申立人が主張するように「電気長を長くして共振周波数をアンテナエレメントの通信周波数帯域外とすること」が「当業者にとって周知の設計事項」であったとしても、「台座16」及び「心材20」と「車両のルーフ」との間の不要な共振を問題としていない甲1発明において、不要な共振の周波数を「アンテナエレメント」の通信周波数帯域外するために、「台座16」と「心材20」の電気長を調整するという手段を選択的に適用して、請求項5に係る発明とする動機付けは見当たらない。
よって、上記(1)ウの特許異議申立理由を採用することはできない。


エ 特許異議申立理由4について

特許異議申立人は、請求項10に係る発明について、特許異議申立書(第27頁)において、「本件特許発明10における「材質」の意義が必ずしも明確ではないところ、引用文献1には、台座16(金属ベース)と心材20(金属プレート)との材質が同じ点について明示されていないが、両者の材質を同じにするか否かは設計事項である。」と主張している。
しかしながら、甲第1号証(引用文献1)に記載された甲1発明では、高価な「台座16」(請求項4に係る発明における『金属ベース』に相当)を小型化するために、シール14の剛性を担う「心材20」(請求項4に係る発明における『金属プレート』に相当)が用いられていることから(甲第1号証の段落【0012】参照)、「台座16」と「心材20」とを同じ材質とすることには阻害要因があるといえる。
したがって、請求項10に係る発明は、甲第1号証より容易に発明をすることができたものではないから、上記(1)エの特許異議申立理由を採用することはできない。


オ 特許異議申立理由5について

特許異議申立人は、請求項11に係る発明について、特許異議申立書(第27、28頁)において、「引用文献1の段落【0008】【0009】【0012】【0013】および図1,2の記載によれば、引用発明1に係るアンテナ装置10は、車両のルーフに取り付けられる(段落【0008】)。そして、心材20およびシール材22が「アンテナベース」を構成し、心材20が「金属プレート」に相当する。シール材22は防水機能を有する柔軟な絶縁部材であることから(段落【0009】【0012】)、「樹脂ベース」に相当することは自明である。」と主張しており、甲第1号証(引用文献1)に記載された甲1発明における「心材20」は請求項11でいう「金属プレート」に相当するとしている。
しかしながら、請求項11でいう「金属プレート」は「ルーフに固定される金属プレート」であるところ、甲1発明において車両のルーフに固定されるのは「台座16」であって、「心材20」ではない。したがって、請求項11に係る発明は甲第1号証に記載された発明ではない。
また、甲1発明において、「台座16」と「シール材22」によって挟持固定される「心材20」を車両のルーフに直接固定されるようにして、請求項11に係る発明とする動機付けは見当たらない。したがって、請求項11に係る発明は、甲第1号証より容易に発明をすることができたものでもない。
よって、上記(1)オの特許異議申立理由を採用することはできない。


カ 特許異議申立理由6について

特許異議申立人は、請求項1に係る発明について、特許異議申立書(第32頁)において、「引用文献2の段落【0052】および図9の記載によれば、ベースプレート部410が第1平板411および第2平板412を有する。段落【0053】には、ベースプレート410を複雑な形状の部分(第1平板411)と簡単な形状の部分(第2平板412)とに分割して作製することで、ベースプレート410の一部を共通部品とできる旨が記載されている。相対的に形状が複雑な第1平板411が「金属ベース」に相当し、相対的に形状が簡単な第2平板412が「金属プレート」に相当する。」と主張している。
しかしながら、甲第2号証(引用文献2)には、「ベースプレート410」を構成する「第1平板411」や「第2平板412」の材質が金属であることは記載されていない。したがって、請求項1に係る発明は甲第2号証に記載された発明ではない。
また、甲第2号証に記載された発明において、「第1平板411」や「第2平板412」の材質として金属を選択し、かつ、「第2平板412」を「第1平板411」に電気的に接続して、請求項1に係る発明とする動機付けは見当たらない。したがって、請求項1に係る発明は甲第2号証より容易に発明をすることができたものでもない。
よって、上記(1)カの特許異議申立理由を採用することはできない。


キ 特許異議申立理由7?11について

上記(1)キからサの特許異議申立理由は請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?10に対するものであって、甲第2号証を主な引用文献とするものである。したがって、上記カと同様の理由により、上記(1)キからサの特許異議申立理由を採用することはできない。


ク 特許異議申立理由12について

(ア)特許異議申立人は、特許異議申立書(第45,46頁)において、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0094】の「金属ベース30,300は、例えばアルミニウム合金のダイキャスト品とされるとして説明したが、板金により作成されることとしてもよい。」との記載や段落【0095】の「兼用金属プレート400Cは、金属ベースと金属プレートとを併用一体化させた兼用プレートである。よって、兼用金属プレート40は、上述した実施形態の金属プレートの機能を備えた金属ベースと言うこともできる。」との記載、本件特許の特許権者を出願人とする公開特許公報(甲第11号証)の段落【0095】の「金属ベース12は、第1回路基板6と第2回路基板9を保持する金属プレートであり」との記載などを根拠に請求項1の記載における「金属ベース」と「金属プレート」の区別が困難であるから、請求項1に係る発明及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?10に係る発明は不明確であると主張している。
しかしながら、請求項1において「金属ベース」は「ルーフに固定される」ものであって、「金属プレート」は「金属ベースに電気的に接続され」ものであることがそれぞれ特定されており、「金属ベース」と「金属プレート」は明確に区別されて用いられている。また、上記段落【0094】に「金属ベース」が「板金」、いわゆる板状(プレート状)のものから作成されることが記載されているからといって、請求項1において「金属ベース」と「金属プレート」の区別が困難とはならない。
また、上記段落【0095】の記載は、請求項1に係る発明とは異なる「金属ベースと金属プレートとを併用一体化させた兼用プレート」を用いた例(第3適用例)に関する記載であるから、請求項1の記載における「金属ベース」と「金属プレート」の区別が困難であると主張することの根拠とはならない。
さらに、甲第11号証が本件特許の特許権者を出願人とする公開特許公報であったとしても、用語の定義などは文献ごとに異なり得るから、本件特許公報とは異なる甲第11号証の記載を根拠として請求項1における「金属ベース」と「金属プレート」の区別が困難であるとすることはできない。
したがって、請求項1に係る発明及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?10に係る発明は明確であるから特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(イ)特許異議申立人は、請求項1に係る発明について、特許異議申立書(第46頁)において、「金属ベースと金属プレートとの位置関係について全く特定されていないので・・・(中略)・・・請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、本件特許発明の課題を解決できていない。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明の課題は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0010】に「本発明が解決しようとする課題は、金属ベースとルーフとの間に導体板を設ける以外の方法で、不要共振によるアンテナ利得の低下を防ぐ車載用アンテナ装置を実現するための技術を提供することである」と記載されているとおりであって、当該課題を解決するために、本件特許発明は、「金属ベース」に「金属プレート」を電気的に接続することによって電気長を調整し、不要共振の共振周波数を通信周波数帯域外とするものであるから、「金属ベース」と「金属プレート」が電気的に接続されていることは特定されている必要であるものの、「金属ベース」と「金属プレート」との位置関係について具体的に特定されている必要はない。
したがって、請求項1に係る発明及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?10に係る発明は「発明の詳細な説明に記載した範囲を超えた」ものでもなく、「本件特許発明の課題を解決できていない」ものでもないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、請求項11の記載について、特許異議申立書(第46,47頁)において、
「「金属プレート」については請求項1と同様に意義が不明である。また上述のとおり、段落【0044】に「樹脂ベース20は、アンテナ装置10の主たる平坦な底面を形成する不導体性の樹脂で成形された板状体である。」とあり、「樹脂ベース」がいかなる態様のものであるかも不明である。
さらに、段落【0030】には請求項11に記載の発明に関する作用効果の記載があるところ、「第1の態様と同様の作用効果を奏する」とされている。これは、請求項1に記載の作用効果(段落【0011】)と同様であることを意味するが、本項においては「金属ベース」が要件とされていないことから、その意味内容が全く不明である。
したがって、本件特許の請求項11およびこれを引用する請求項12,13についても、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないか、または明確でない。」
と主張している。
しかしながら、請求項11に係る発明における「金属プレート」は「ルーフに固定される」ものであることから、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0095】以降に記載された「金属ベースと金属プレートとを併用一体化させた兼用プレート」を用いた例(第3適用例)に対応するものであるといえる。
したがって、特許異議申立人の上記「「金属プレート」については請求項1と同様に意義が不明である。」との主張及び、「段落【0030】には請求項11に記載の発明に関する作用効果の記載があるところ、「第1の態様と同様の作用効果を奏する」とされている。これは、請求項1に記載の作用効果(段落【0011】)と同様であることを意味するが、本項においては「金属ベース」が要件とされていないことから、その意味内容が全く不明である。」との主張を採用することはできない。
また、請求項11に係る発明では「アンテナケース」を「ルーフに固定される金属プレートおよび樹脂ベースを有するアンテナベース」に上方から被せること及び、「金属プレート」が「樹脂ベースの上に配置される」ことが特定されており、請求項11に係る発明の「樹脂ベース」が本件特許の発明の詳細な説明の段落【0044】でいうところの「アンテナ装置10の主たる平坦な底面を形成する」ものであることは理解できるから特許異議申立人の上記「「樹脂ベース」がいかなる態様のものであるかも不明である。」との主張も採用することはできない。
以上のとおりであるから、請求項11に係る発明及び請求項11を引用する請求項12,13に係る発明は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないか、または明確でない」とはいえない。

(エ)上記(ア)から(ウ)のとおりであるから、上記(1)シの特許異議申立理由を採用することはできない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、請求項1,2,9,11?13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
また、請求項1,2,6?9,11?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
さらに、請求項1,2,6?11,13に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
請求項3?5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-06-30 
出願番号 特願2019-512333(P2019-512333)
審決分類 P 1 651・ 537- ZC (H01Q)
P 1 651・ 121- ZC (H01Q)
P 1 651・ 16- ZC (H01Q)
P 1 651・ 113- ZC (H01Q)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 米倉 秀明  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 岡本 正紀
衣鳩 文彦
登録日 2019-06-28 
登録番号 特許第6546712号(P6546712)
権利者 株式会社ヨコオ
発明の名称 車載用アンテナ装置  
代理人 黒田 泰  
代理人 井上 一  
代理人 野中 剛  
代理人 竹腰 昇  

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