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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
管理番号 1366085
異議申立番号 異議2020-700352  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-20 
確定日 2020-08-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第6607193号発明「ポリイミド前駆体、ポリイミド、及びポリイミドフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6607193号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6607193号(請求項の数16。以下、「本件特許」という。)は、平成27年10月23日(優先権主張:平成26年10月23日(日本))を国際出願日とする出願であって、令和1年11月1日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和1年11月20日である。)。
その後、令和2年5月20日に、本件特許の請求項1?16に係る特許に対して、特許異議申立人である堀江玲子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 特許請求の範囲の記載
特許第6607193号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?16に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?16に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明16」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
下記化学式(1A)で表される繰り返し単位と、下記化学式(2A)で表される繰り返し単位とを含むことを特徴とするポリイミド前駆体。
【化1】

(式中、A_(1)は、芳香族環を有する2価の基であり、R_(1)、R_(2)はそれぞれ独立に水素、炭素数1?6のアルキル基、または炭素数3?9のアルキルシリル基である。)
【化2】

(式中、A_(2)は、芳香族環を有する2価の基であり、R_(3)、R_(4)はそれぞれ独立に水素、炭素数1?6のアルキル基、または炭素数3?9のアルキルシリル基である。)
【請求項2】
前記化学式(1A)で表される繰り返し単位と、前記化学式(2A)で表される繰り返し単位の合計含有量が、全繰り返し単位に対して、90?100モル%であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体。
【請求項3】
前記化学式(1A)で表される繰り返し単位の含有量が、全繰り返し単位に対して、10?90モル%であり、
前記化学式(2A)で表される繰り返し単位の含有量が、全繰り返し単位に対して、10?90モル%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリイミド前駆体。
【請求項4】
A_(1)が下記化学式(A-1)で表される基である前記化学式(1A)の繰り返し単位を少なくとも1種含み、且つ
A_(2)が下記化学式(A-1)で表される基である前記化学式(2A)の繰り返し単位を少なくとも1種含むことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【化3】

(式中、mは0?3を、nは0?3をそれぞれ独立に示す。Y_(1)、Y_(2)、Y_(3)はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基よりなる群から選択される1種を示し、Q、Rはそれぞれ独立に直接結合、または 式:-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-で表される基よりなる群から選択される1種を示す。)
【請求項5】
A_(1)が前記化学式(A-1)で表される基である前記化学式(1A)で表される繰り返し単位と、A_(2)が前記化学式(A-1)で表される基である前記化学式(2A)で表される繰り返し単位の合計含有量が、全繰り返し単位に対して、70?100モル%であることを特徴とする請求項4に記載のポリイミド前駆体。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のポリイミド前駆体を含むポリイミド前駆体組成物。
【請求項7】
下記化学式(1)で表される繰り返し単位と、下記化学式(2)で表される繰り返し単位とを含むことを特徴とするポリイミド。
【化4】

(式中、A_(1)は、芳香族環を有する2価の基である。)
【化5】

(式中、A_(2)は、芳香族環を有する2価の基である。)
【請求項8】
前記化学式(1)で表される繰り返し単位と、前記化学式(2)で表される繰り返し単位の合計含有量が、全繰り返し単位に対して、90?100モル%であることを特徴とする請求項7に記載のポリイミド。
【請求項9】
前記化学式(1)で表される繰り返し単位の含有量が、全繰り返し単位に対して、10?90モル%であり、
前記化学式(2)で表される繰り返し単位の含有量が、全繰り返し単位に対して、10?90モル%であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のポリイミド。
【請求項10】
A_(1)が下記化学式(A-1)で表される基である前記化学式(1)の繰り返し単位を少なくとも1種含み、且つ
A_(2)が下記化学式(A-1)で表される基である前記化学式(2)の繰り返し単位を少なくとも1種含むことを特徴とする請求項7?9のいずれかに記載のポリイミド。
【化6】

(式中、mは0?3を、nは0?3をそれぞれ独立に示す。Y_(1)、Y_(2)、Y_(3)はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基よりなる群から選択される1種を示し、Q、Rはそれぞれ独立に直接結合、または 式:-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-で表される基よりなる群から選択される1種を示す。)
【請求項11】
A_(1)が前記化学式(A-1)で表される基である前記化学式(1)で表される繰り返し単位と、A_(2)が前記化学式(A-1)で表される基である前記化学式(2)で表される繰り返し単位の合計含有量が、全繰り返し単位に対して、70?100モル%であることを特徴とする請求項10に記載のポリイミド。
【請求項12】
請求項1?5のいずれかに記載のポリイミド前駆体、又は請求項6に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミド。
【請求項13】
請求項1?5のいずれかに記載のポリイミド前駆体、又は請求項6に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルム。
【請求項14】
請求項7?12のいずれかに記載のポリイミドから主としてなるフィルム。
【請求項15】
請求項7?12のいずれかに記載のポリイミド、又は請求項13又は請求項14に記載のポリイミドフィルムを含むことを特徴とするディスプレイ表示面のカバーシート。
【請求項16】
請求項7?12のいずれかに記載のポリイミド、又は請求項13又は請求項14に記載のポリイミドフィルムを含むことを特徴とするディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
申立人は、後記2の証拠を提出した上で、以下の理由を申立てている。
1 申立理由の概要
(1)申立理由1
本件発明1?3、6?9、12?14及び16は、本件優先日前に頒布された以下の刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件発明1?3、6?9、12?14及び16に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)申立理由2
本件発明1?16は、本件優先日前に頒布された以下の刊行物である甲第1号証に記載された発明及び技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?16の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(3)申立理由3
本件の特許請求の範囲の請求項3及び9の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件の請求項3及び9に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

本件発明3又は9は、本件発明1又は7の繰り返し単位である化学式(1A)及び(2A)又は化学式(1)及び(2)の合計含有量が非常に小さい態様まで包含されているが、実施例では繰り返し単位である化学式(1A)及び(2A)又は化学式(1)及び(2)の合計含有量が100%の態様のみが記載されているだけである。そして、特定の繰り返し単位の合計含有量が及びポリイミドの特性に影響することは当業者にとり周知であるから、本件発明3及び9は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

2 証拠方法
・甲第1号証 特開2013-105063号公報
以下、「甲第1号証」を「甲1」という。

第4 特許異議申立の理由についての当審の判断
1 申立理由1及び2について
(1)甲1の記載
甲1には以下の事項が記載されている。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式(1)中、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立にメチレン基またはエチレン基であり、R^(3)、R^(4)およびR^(5)はそれぞれ独立に炭素数1?6のアルキル基であり、aおよびbはそれぞれ独立に0または1であり、c、d及びeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、fは0または1である。)
で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環して得られるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有することを特徴とする液晶配向剤。
【請求項2】
前記テトラカルボン酸二無水物として、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物のうちの少なくともいずれかをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項4】
請求項3に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。」

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、少ない液量を採用した場合であっても優れた印刷性を示し、且つ液晶配向性および長期耐熱性に優れる液晶配向剤を与える液晶配向剤を提供することにある。
本発明の別の目的は、長期にわたって表示品位に優れる信頼性を有する液晶表示素子を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明の液晶配向剤は、液晶配向性および耐熱性に優れる液晶配向膜を与えることができるとともに印刷性にも優れる。かかる本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備する本発明の液晶表示素子は、長期にわたって表示品位に優れる信頼性を有するものである。
本発明の液晶配向剤は、TN型、STN型、IPS型、VA型、PSA(Polymer Sustained Alignment)型などの種々の液晶表示素子に好適に適用することができる。」

(1c)「【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の液晶配向剤は、上記式(1)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環して得られるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有する。
<ポリアミック酸>
本発明におけるポリアミック酸は、上記式(1)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより合成することができる。
[テトラカルボン酸二無水物]
上記式(1)で表される化合物のR^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立にメチレン基またはエチレン基であり、メチレン基であることが好ましい。
R^(3)、R^(4)およびR^(5)はそれぞれ独立に炭素数1?6のアルキル基である。
aおよびbはそれぞれ独立に0または1であり、1であることが好ましい。aまたはbが0の時はそこに結合が存在していないことを意味する。
c、d及びeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、0であることが好ましい。
fは0または1であり、0であることが好ましい。
【0010】
上記式(1)で表される化合物としては、具体的には下記式(1-1)?(1-4)で表される化合物を挙げることができ、(1-1)または(1-3)で表される化合物が好ましく、特に(1-3)で表される化合物が好ましい。
【0011】
【化2】

上記式(1)で表される化合物を用いて得られたポリアミック酸およびポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体は後述する有機溶媒に対する溶解性に優れる利点を有する。この利点は、前記重合体としてイミド化率の高いポリイミドを適用した場合であっても損なわれることはないため、本発明の液晶配向剤は、高度の印刷性と得られる配向膜の高い耐熱性とを両立することができるのである。
本発明においては、テトラカルボン酸二無水物として上記式(1)で表される化合物のみを用いてもよく、あるいは上記式(1)で表される化合物と他のテトラカルボン酸二無水物とを併用してもよい。
【0012】
ここで使用することのできる他のテトラカルボン酸二無水物としては、例えば上記(1)で表される化合物以外の脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
・・・
【0014】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、3-オキサビシクロ[3.2.1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、4,9-ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン-3,5,8,10-テトラオン等が挙げられる。
・・・
【0016】
これらのテトラカルボン酸二無水物のうち、上記(1)で表される化合物以外の脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましく、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物がより好ましく、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物又は2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物が特に好ましい。
本発明におけるテトラカルボン酸二無水物は、上記式(1)で表される化合物を、全テトラカルボン酸二無水物に対して、20モル%以上含むものであることが好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましく、特に80モル%以上含むものであることが好ましい。かかる割合で上記式(1)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物を用いることにより、耐熱性により優れる液晶配向膜を与えることができるとともに印刷性により優れる液晶配向剤とすることができることとなり、好ましい。」

(1d)「【0017】
ジアミン化合物としては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン、芳香族ジアミン等が挙げられる。これらジアミン化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
・・・
【0021】
芳香族ジアミンとしては、例えばp-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7-ジアミノフルオレン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノアクリジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N-エチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N-フェニル-3,6-ジアミノカルバゾール、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-N,N’-ジメチルベンジジン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、3,5-ジアミノ安息香酸、ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ドデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、4-(4’-トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、2,4-ジアミノーN,N-ジアリルアニリン、4-アミノベンジルアミン、3-アミノベンジルアミン及び下記式(A-1)で表されるジアミン化合物等が挙げられる。
【0022】
【化3】

(式(A-1)中、X^(I)は炭素数1?3のアルキル基、*-O-、*-COO-又は*-OCO-である。但し、*を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。rは0又は1である。sは0?2の整数である。tは1?20の整数である。)」

(1e)「【0023】
ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の使用割合としては、ジアミン化合物に含まれるアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2当量?2当量が好ましく、0.3当量?1.2当量がより好ましい。
【0024】
合成反応は、有機溶媒中において行うことが好ましい。反応温度としては、-20℃?150℃が好ましく、0℃?100℃がより好ましい。反応時間としては、0.5時間?24時間が好ましく、2時間?12時間がより好ましい。
【0025】
有機溶媒としては、合成されるポリアミック酸を溶解できるものであれば特に制限はなく、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド等の非プロトン系極性溶媒;m-クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノール等のフェノール系溶媒が挙げられる。
【0026】
有機溶媒の使用量(a)としては、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の総量(b)と有機溶媒の使用量(a)の合計(a+b)に対して、0.1質量%?50質量%が好ましく、5質量%?30質量%がより好ましい。」

(1f)「【0028】
[ポリイミド]
ポリイミドは、上記ポリアミック酸の有するアミック酸構造を脱水閉環してイミド化することにより製造できる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有しているアミック酸構造の全てを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存している部分イミド化物であってもよい。」

(1g)「【0043】
・・・
【実施例】
【0044】
合成例1(ポリイミドの合成例)
テトラカルボン酸二無水物として上記式(1-3)で表される化合物13.5gおよび、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物7.9gならびにジアミンとしてp-フェニレンジアミン6.1gおよび3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル7.4gをN-メチル-2-ピロリドン140gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。このポリアミック酸溶液の溶液粘度は2,060mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN-メチル-2-ピロリドン300gを追加し、ピリジン32gおよび無水酢酸25gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶剤を新たなN-メチル-2-ピロリドンで溶剤置換(本操作にて脱水閉環反応に使用したピリジンおよび無水酢酸を系外に除去した。以下同じ。)することにより、イミド化率約90%のポリイミド(PI-1)を20重量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、N-メチル-2-ピロリドンで希釈して重合体濃度6.0重量%の溶液として測定した溶液粘度は23mPa・sであった。」

(2)甲1に記載された発明
甲1には、その特許請求の範囲の請求項1に、「下記式(1)
【化1】

(式(1)中、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立にメチレン基またはエチレン基であり、R^(3)、R^(4)およびR^(5)はそれぞれ独立に炭素数1?6のアルキル基であり、aおよびbはそれぞれ独立に0または1であり、c、d及びeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、fは0または1である。)
で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環して得られるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有することを特徴とする液晶配向剤。」が記載され(摘記(1a))、また、同【0011】には、上記式(1)で表される化合物と他のテトラカルボン酸二無水物とを併用してもよいことが記載され(摘記(1c))、同【0016】には、他のテトラカルボン酸二無水物として、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物がより好ましいことが記載されている(摘記(1c))。

ここで、甲1の特許請求の範囲の請求項1に記載された上記液晶配向剤のうちのポリアミック酸及びポリアミック酸を脱水閉環して得られるポリイミドに着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認める。
「下記式(1)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物

及び2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から選ばれるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸」(以下「甲1発明A-1」という。)

「甲1発明A-1を脱水閉環して得られるポリイミド」(以下「甲1発明A-2」という。)

また、甲1に記載された合成例1に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認める。
「テトラカルボン酸二無水物として式(1-3)

で表される化合物13.5gおよび、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物7.9gならびにジアミンとしてp-フェニレンジアミン6.1gおよび3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル7.4gをN-メチル-2-ピロリドン140gに溶解し、60℃で6時間反応を行って得られる溶液粘度が2,060mPa・sである溶液に20重量%含まれるポリアミック酸」(以下「甲1発明B-1」という。)

「甲1発明B-1を含む溶液にN-メチル-2-ピロリドン300gを追加し、ピリジン32gおよび無水酢酸25gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行い、脱水閉環反応後、系内の溶剤を新たなN-メチル-2-ピロリドンで溶剤置換することにより得られた溶液に20重量%含有されたイミド化率約90%のポリイミドであって、上記溶液をN-メチル-2-ピロリドンで希釈し重合体濃度6.0重量%の溶液粘度が23mPa・sであるポリイミド」(以下「甲1発明B-2」という。)

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明A-1との対比・判断
a 対比
(a)甲1発明A-1は、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物(式(1)の記載は省略する。以下同じ。)と2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から選ばれるテトラカルボン酸二無水物という2種類のテトラカルボン二酸無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸であるところ、まず、甲1発明A-1のうち、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸を、本件発明1のポリイミド前駆体のうち、化学式(2A)で表される繰り返し単位と対応させて検討する。

テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物の2つの酸無水物基が開環することで、1つの酸無水物基から2つのカルボキシル基が生じ、このうちの1つのカルボキシル基はジアミンのうちの一つのアミノ基と反応しアミド結合が生じて繰り返し単位を構成し、もう1つのカルボキシル基はカルボキシル基のままの化学構造であることが技術常識であるといえる。

そうすると、甲1発明A-1の式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸は、本件発明1の化学式(2A)で表される繰り返し単位のうち、テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造を有する限りで一致し、また、A_(2)がジアミンの残基である限りで一致する。

(b)次に、甲1発明A-1のうち、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から選ばれるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸を、本件発明1のポリイミド前駆体のうち、化学式(1A)で表される繰り返し単位と対応させて検討する。

テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸の化学構造は、上記(a)で述べたとおりであるから、甲1発明A-1の2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から選ばれるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸は、本件発明1の化学式(1A)で表される繰り返し単位のうち、テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造を有する限りで一致し、また、A_(1)がジアミンの残基である限りで一致する。

そして、甲1発明A-1の「ポリアミック酸」は、本件発明1の「ポリイミド前駆体」に相当することは明らかである。

そうすると、本件発明1と甲1発明A-1とでは、
「テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造とジアミンの残基とを有する繰り返し単位と、テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造とジアミンの残基とを有する繰り返し単位とを含むことを特徴とするポリイミド前駆体。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造が、本件発明1では、化学式(1A)で表される化学構造の一部である

であるのに対し、甲1発明A-1では、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から選ばれるテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造である点

(相違点2)
テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造が、本件発明1では、化学式(2A)で表される化学構造の一部である

であるのに対して、甲1発明A-1では、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造である点

(相違点3)
ジアミン残基が、本件発明1では、芳香族環を有する2価の基であるのに対して、甲1発明A-1では、芳香族環を有する2価の基であるのか明らかでない点

b 判断
(a)まず、新規性について検討する。
相違点1が実質的な相違点であるか否かを検討する。
甲1には、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と併用できる他のテトラカルボン酸二無水物として、特に好ましいのは、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物又は2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物であると記載されている(摘記(1c))だけであり、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の記載はない。また、実施例において、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とを併用した具体例の記載もない。
そうすると、相違点1に関し、甲1発明A-1が1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物であるとはいえないから、相違点1は実質的な相違点であるといえ、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明A-1でない。

(b)次に、容易想到性について検討する。
本件発明は、透明性に優れ、引張弾性率及び破断点荷重などの機械的特性に優れたポリイミドを提供することを課題とし、請求項7に記載された化学式(1)で表される繰り返し単位と、化学式(2)で表される繰り返し単位とを含むポリイミドを発明特定事項として含むものである。そして、実施例においては、化学式(1)で表される繰り返し単位のみからなるポリイミドや、化学式(1)で表される繰り返し単位と、化学式(2)とは異なる繰り返し単位とを含むポリイミドと比べて、このポリイミドが透明性に優れ、引張弾性率及び破断点荷重などの機械的特性に優れることが具体的なデータとともに記載されている。

この上で、以下、上記相違点1及び2について検討する。
相違点1について、甲1発明A-1では、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から選ばれるテトラカルボン酸二無水物から選択するとされ、これらのテトラカルボン酸二無水物のうち1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造が、本件発明1の化学式(1A)のうちテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造に相当する。

また、相違点2について、甲1には、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の具体例として、段落【0010】及び【0011】には、式(1-1)?(1-4)で表される具体的な化合物が記載され、特に式(1-3)が好ましいことが記載されており(摘記(1c))、式(1-3)のテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造は本件発明1の(2A)のうちテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造に相当する。

このように、甲1発明A-1においては、相違点1及び2の各々については、本件発明1に対応する化学構造が選択肢の1つとして存在するといえる。しかしながら、甲1には、相違点1について、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を選択し、同時に、相違点2について、式(1-3)のテトラカルボン酸二無水物を選択して組み合わせたポリイミドが、印刷性、液晶配向性、耐候性に優れることを示唆する記載はないし、また、このことが技術常識でもないから、甲1発明A-1において、相違点1及び2について本件発明1で特定する化学構造を選択してポリアミック酸とすることは、当業者が容易に想到できたものではない。

そして、本件発明1から得られるポリイミドは、上記したように、化学式(1)で表される繰り返し単位だけからなるポリイミドや、化学式(1)で表される繰り返し単位と、化学式(2)とは異なる繰り返し単位とを含むポリイミドと比べて、透明性に優れ、引張弾性率および破断点荷重などの機械的特性に優れることは明らかであり、本件発明1のポリイミド前駆体は、このようなポリイミドを製造するための前駆体として有用なものであるといえる。

してみると、甲1に、相違点1について、化学式(1A)で表されるテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造を有する繰り返し単位が具体的に示され、相違点2について、化学式(2A)で表されるテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造を有する繰り返し単位が具体的に記載されていても、これらはおのおのの相違点において、それぞれ具体的に示されているだけであるといえ、これら具体的に示された繰り返し単位を組み合わせてポリイミド前駆体とする動機付けがあるとはいえない。

したがって、甲1発明A-1及び甲1に記載された技術的事項から、相違点1及び2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
よって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(イ)本件発明1と甲1発明B-1との対比・判断
a 対比
甲1発明B-1は、式(1-3)

で表されるテトラカルボン酸二無水物と2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物という2種類のテトラカルボン二酸無水物とp-フェニレンジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸である。そうすると、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸の化学構造は、上記(ア)a(a)で述べたとおりであり、また、甲1発明B-1のp-フェニレンジアミンの残基が芳香族環を有するジアミン残基は、芳香族環を有するジアミン残基であるA_(2)に相当する。
よって、甲1発明B-1のうち、式(1-3)

で表されるテトラカルボン酸二無水物とp-フェニレンジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸は、本件発明1の化学式(2A)で表される繰り返し単位に相当する。

また、甲1発明B-1のうち、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物とp-フェニレンジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸を、本件発明1の化学式(1A)で表される繰り返し単位に対応させると、上記のとおり、甲1発明B-1のp-フェニレンジアミンの残基は、芳香族環を有するジアミン残基であるから、本件発明1のA_(1)に相当する。
さらに、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物とp-フェニレンジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸のうち、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物から生じる化学構造は、本件発明1の化学式(1A)のうちテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造を有する限りで一致する。

そして、甲1発明B-1の「ポリアミック酸」は、本件発明1の「ポリイミド前駆体」に相当することは明らかである。

そうすると、本件発明1と甲1発明B-1とでは、
「テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造と芳香族ジアミンの残基とを有する繰り返し単位と、下記化学式(2A)で表される繰り返し単位とを含むことを特徴とするポリイミド前駆体

(式中、A_(2)は、芳香族環を有する2価の基であり、R_(3)、R_(4)はそれぞれ独立に水素、炭素数1?6のアルキル基、または炭素数3?9のアルキルシリル基である。)」で一致し、次の点で相違する。

(相違点4)
テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造が、本件発明1では、化学式(1A)で表される化学構造の一部である

であるのに対し、甲1発明B-1では、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物から生じる化学構造である点

b 判断
甲1の特許請求の範囲の請求項1には、「下記式(1)

(式(1)中、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立にメチレン基またはエチレン基であり、R^(3)、R^(4)およびR^(5)はそれぞれ独立に炭素数1?6のアルキル基であり、aおよびbはそれぞれ独立に0または1であり、c、d及びeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、fは0または1である。)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環して得られるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有することを特徴とする液晶配向剤。」が記載され、甲1の段落【0011】及び【0016】には、上記式(1)で表される化合物と併用してもよい他のテトラカルボン酸二無水物のうち、特に好ましいテトラカルボン酸二無水物として、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物が記載されている(摘記(1c))ことからすると、合成例1は、この記載に基づく具体例であるといえ、甲1発明B-1は、上記式(1)で表される化合物を併用してもよい他のテトラカルボン酸二無水物として、特に好ましい化合物である2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を使用した発明であるといえる。
そうすると、甲1に、上記式(1)で表される化合物と併用してもよい他のテトラカルボン酸二無水物のうち、より好ましいテトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物がいくら記載されていたとしても、上記甲1発明B-1において、特に好ましいテトラカルボン酸二無水物である2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物に代えて1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を使用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明B-1及び甲1に記載された技術的事項から、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(ウ)申立人の主張の検討
a 申立人の主張
申立人は、甲1には、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物(CpODA)と、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)から選択される脂環式テトラカルボン酸二無水物と、p-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸という発明が記載されていることを前提とした上で、この1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)が本件発明1の化学式(1A)で表される繰り返し単位に相当するから、この点は実質的な相違点ではなく、本件発明1は新規性を有さない旨を主張し、また、本件発明1が顕著な効果を奏さないから、進歩性を有さない旨を主張する(以下「主張(a)」という。)。
また、申立人は、甲1の合成例1において、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物に代えて1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とすることは格別の困難性はない旨を主張する(以下「主張(b)」という。)。

b 申立人の主張の検討
(a)主張(a)について
上記(2)で述べたとおり、甲1の特許請求の範囲の請求項1には、「下記式(1)

(式(1)中、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立にメチレン基またはエチレン基であり、R^(3)、R^(4)およびR^(5)はそれぞれ独立に炭素数1?6のアルキル基であり、aおよびbはそれぞれ独立に0または1であり、c、d及びeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、fは0または1である。)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環して得られるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有することを特徴とする液晶配向剤。」が記載され、段落【0009】?【0011】には、式(1)で表される化合物として、特に下記(1-3)で表される化合物が好ましいことが記載されている。

また、同【0011】には、上記式(1)で表される化合物と他のテトラカルボン酸二無水物とを併用してもよいことが記載され(摘記(1c))、同【0016】には、他のテトラカルボン酸二無水物として、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物がより好ましいことが記載されている(摘記(1c))。

以上の記載からすると、甲1には、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含み、ジアミンと反応させて得られるポリアミック酸が記載されている上で、このポリアミック酸の具体例の一つとして、式(1-3)で表されるテトラカルボン酸二無水物が特に好ましいことが記載されており、また、別な具体例の一つとして、他のテトラカルボン酸二無水物とを併用してもよいことが記載され、他のテトラカルボン酸二無水物として、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物がより好ましいことが記載されていると解することが適切である。そして、甲1には、上記した2つの具体例同士を組み合わせることに関する記載はなく、技術常識があるとはいえない。

そうすると、甲1には、申立人が主張するような、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物として、式(1-3)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用い、また、テトラカルボン酸二無水物として、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を併用する発明が記載されているとはいえない。

仮に、申立人が主張するような発明が記載されていたとしても、上記(ア)b(a)で述べたように、相違点1は実質的な相違点であり、また、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物残基を選択し、同時に、式(1-3)のテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造を選択し、両者を組み合わせることに動機付けはないから、申立人の主張(a)は採用できない。

(b)主張(b)について
上記(イ)bで述べたとおりであり、申立人の主張(b)は採用できない。

(エ)小括
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

イ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2、3及び6は、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、甲1に記載された発明であるといえず、また、本件発明2?6は、甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 本件発明7について
(ア)本件発明7と甲1発明A-2との対比・判断
a 対比
甲1発明A-2は、甲1発明A-1を脱水閉環して得られるポリイミドであるところ、甲1発明A-1のポリアミック酸のうち、アミド基とカルボキシル基が閉環してイミド環が生じて得られたポリイミドが甲1発明A-2であるといえる。
一方、本件発明7は、化学式(1)で表される繰り返し単位(式(1)の記載は省略する。)と化学式(2)で表される繰り返し単位(式(2)の記載は省略する。)とを含むポリイミドであるところ、この化学式(1)及び(2)の記載からみて、本件発明1のポリイミド前駆体が脱水閉環して得られたポリイミドであるといえる。

この前提のもと、上記ア(ア)aで述べたことを参照した上で、甲1発明A-2と本件発明7とを対比すると、本件発明7と甲1発明A-2とでは、
「テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造とジアミンの残基とを有する繰り返し単位と、テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造とジアミンの残基とを有する繰り返し単位とを含むことを特徴とするポリイミド」で一致し、次の点で相違する。

(相違点5)
テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造が、本件発明7では、化学式(1)で表される化学構造

から、左端の「-N」、及び右端の「N-A_(1)」を除いた化学構造であるのに対し、甲1発明A-2では、式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造である点

(相違点6)
テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造が、本件発明7では、化学式(2)で表される化学構造

から、左端の「-N」、及び右端の「N-A_(2)」を除いた化学構造であるのに対して、甲1発明A-2では、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物又は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から選ばれるテトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造である点

(相違点7)
ジアミン残基が、本件発明7では、芳香族環を有する2価の基であるのに対して、甲1発明A-2では、芳香族環を有する2価の基であるのか明らかでない点

b 判断
まず、新規性について検討するが、上記ア(ア)b(a)で述べたとおり、相違点5は、実質的な相違点であるといえ、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は甲1発明A-2でない。

次に、容易想到性について検討するが、上記ア(ア)b(b)で述べたとおり、相違点5及び6を組み合わせて本件発明7のポリイミドとする動機付けがあるとはいえない。
したがって、本件発明7は、甲1発明A-2及び甲1に記載された技術的事項から、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(イ)本件発明7と甲1発明B-2との対比・判断
a 対比
甲1発明B-2は、甲1発明B-1を脱水閉環して得られるポリイミドであるところ、甲1発明B-1のポリアミック酸のうち、アミド基とカルボキシル基が閉環してイミド環が生じて得られたポリイミドが甲1発明B-2であるといえる。

この前提のもと、上記ア(イ)aで述べたことを参照した上で、甲1発明B-2と本件発明7とを対比すると、本件発明7と甲1発明B-2とでは、

「テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造と芳香族ジアミンの残基とを有する繰り返し単位と、下記化学式(2)で表される繰り返し単位とを含むことを特徴とするポリイミド前駆体

(式中、A_(2)は、芳香族環を有する2価の基である。)」で一致し、次の点で相違する。

(相違点8)
テトラカルボン酸二無水物から生じる化学構造が、本件発明7では、化学式(1)で表される化学構造

から、左端の「-N」、及び右端の「N-A_(1)」を除いた化学構造であるのに対し、甲1発明B-2では、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物から生じる化学構造である点

b 判断
上記ア(イ)bで述べたとおり、甲1発明B-2において、相違点8を本件発明7とする動機付けがあるとはいえない。

したがって、本件発明7は、甲1発明B-2及び甲1に記載された技術的事項から、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(ウ)小括
よって、本件発明7は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

エ 本件発明8?11について
本件発明8?11は、本件発明7を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明8及び9は、上記「ウ」で示した理由と同じ理由により、甲1に記載された発明であるといえず、また、本件発明8?11は、甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

オ 本件発明12及び13について
本件発明12は、本件発明1?5のいずれかのポリイミド前駆体、又は本件発明6のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドであり、本件発明13は、本件発明1?5のいずれかのポリイミド前駆体、又は本件発明6のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムである。

本件発明12及び13のポリイミドは、本件発明1?5のポリイミド前駆体を脱水閉環して得られるポリイミドであるといえるところ、本件発明12及び13のポリイミドと甲1発明A-2及び甲1発明B-2との対比・判断は、上記ウ(ア)及び(イ)で述べたとおりであるから、本件発明12及び13は、甲1に記載された発明であるといえず、また、甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

カ 本件発明14?16について
本件発明14は、本件発明7?12のいずれかのポリイミドから主としてなるフィルムであり、本件発明15は、本件発明7?12のいずれかのポリイミド、又は本件発明13又は14のポリイミドフィルムを含むディスプレイ表示面のカバーシート、本件発明16は、本件発明7?12のいずれかのポリイミド、又は本件発明13又は14のポリイミドフィルムを含むディスプレイ用、タッチパネル用または太陽電池用の基板である。

このように、本件発明14?16のポリイミドは、本件発明7?11のポリイミドまたは本件発明1?6のポリイミド前駆体から得られるポリイミドであるところ、本件発明14?16のポリイミドと甲1発明A-2及び甲1発明B-2との対比・判断は、上記ウ(ア)及び(イ)で述べたとおりであるから、本件発明14?16は、甲1に記載された発明であるといえず、また、甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1及び2によっては、本件発明1?16に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3について
(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性に優れ、機械的特性にも優れたポリイミド、ポリイミドフィルム、及び、その前駆体に関する。」

(b)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、透明性に優れ、機械的特性にも優れたポリイミド、及びポリイミドフィルムを提供することを目的とする。また、本発明は、透明性に優れ、機械的特性にも優れたポリイミドが得られるポリイミド前駆体を提供することも目的とする。」

(c)「【発明の効果】
【0027】
本発明によって、透明性に優れ、機械的特性、例えば、引張弾性率および破断点荷重などにも優れたポリイミド、及びポリイミドフィルムを提供することができる。また、本発明によって、透明性に優れ、機械的特性、例えば、引張弾性率および破断点荷重などにも優れたポリイミドが得られるポリイミド前駆体を提供することができる。
【0028】
本発明のポリイミド、及び、本発明のポリイミド前駆体から得られるポリイミド(以下、まとめて「本発明のポリイミド」と言うこともある。)は、透明性が高く、且つ引張弾性率、破断点荷重などの機械的特性にも優れる。また、本発明のポリイミドは、通常、比較的低線熱膨張係数である。そのため、本発明のポリイミドから主としてなるフィルム(本発明のポリイミドフィルム)は、例えば、ディスプレイ表示面のカバーシート(保護フィルム)として、また、ディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板として好適に用いることができる。」

(d)「【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のポリイミド前駆体は、前記化学式(1A)で表される繰り返し単位と前記化学式(2A)で表される繰り返し単位とを含む。ただし、本発明のポリイミド前駆体は、全体として、前記化学式(1A)で表される繰り返し単位および前記化学式(2A)で表される繰り返し単位を含めばよく、前記化学式(1A)で表される繰り返し単位のみを含むポリイミド前駆体と、前記化学式(2A)で表される繰り返し単位のみを含むポリイミド前駆体とを含むものであってもよい。
【0030】
前記化学式(1A)で表される繰り返し単位は、テトラカルボン酸成分が1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸類等である繰り返し単位であり、前記化学式(2A)で表される繰り返し単位は、テトラカルボン酸成分がノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸類等である繰り返し単位である。テトラカルボン酸成分が1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸類等である繰り返し単位[前記化学式(1A)で表される繰り返し単位]からなるポリイミド前駆体は、透明性に優れ、機械的特性にも優れたポリイミドを与えるが、テトラカルボン酸成分がノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸類等である繰り返し単位[前記化学式(2A)で表される繰り返し単位]を共重合させることにより、換言すれば、テトラカルボン酸成分としてノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸類等を併用することにより、十分な機械的特性や、その他の特性を保ったまま、得られるポリイミドフィルムのYI(黄色度)を低くすることができ、透明性を向上させることができる。」

(e)「【0032】
本発明のポリイミド前駆体は、前記化学式(1A)で表される繰り返し単位の含有量が全繰り返し単位に対して10?90モル%であり、前記化学式(2A)で表される繰り返し単位の含有量が全繰り返し単位に対して10?90モル%であることが好ましく、前記化学式(1A)で表される繰り返し単位の含有量が全繰り返し単位に対して30?90モル%であり、前記化学式(2A)で表される繰り返し単位の含有量が全繰り返し単位に対して10?70モル%であることがより好ましく、前記化学式(1A)で表される繰り返し単位の含有量が全繰り返し単位に対して50?90モル%であり、前記化学式(2A)で表される繰り返し単位の含有量が全繰り返し単位に対して10?50モル%であることが特に好ましい。」

(f)「【0089】
本発明のポリイミドは、前記化学式(1)で表される繰り返し単位と前記化学式(2)で表される繰り返し単位とを含むものである。換言すれば、本発明のポリイミドは、本発明のポリイミド前駆体から得られるものであり、より具体的には、本発明のポリイミド前駆体を含むポリイミド前駆体組成物を加熱等して得られるものである。
【0090】
本発明のポリイミドは、前記のような本発明のポリイミド前駆体をイミド化する(すなわち、ポリイミド前駆体を脱水閉環反応する)ことで得ることができる。イミド化の方法は特に限定されず、公知の熱イミド化、または化学イミド化の方法を好適に適用することができる。得られるポリイミドの形態は、フィルム、ポリイミドフィルムと他の基材との積層体、コーティング膜、粉末、ビーズ、成型体、発泡体などを好適に挙げることができる。
【0091】
なお、本発明のポリイミドは、本発明のポリイミド前駆体を得るために使用した、前記のテトラカルボン酸成分とジアミン成分を使用して得られるものであり、好ましいテトラカルボン酸成分とジアミン成分も前記の本発明のポリイミド前駆体と同様である。」

(g)「【0112】
・・・
【実施例】
【0113】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0114】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0115】
<ポリイミドフィルムの評価>
[400nm光透過率]
紫外可視分光光度計/V-650DS(日本分光製)を用いて、ポリイミドフィルムの波長400nmにおける光透過率を測定した。
【0116】
[YI]
紫外可視分光光度計/V-650DS(日本分光製)を用いて、ASTEM E313の規格に準拠して、ポリイミドフィルムのYIを測定した。光源はD65、視野角は2°とした。
【0117】
[ヘイズ]
濁度計/NDH2000(日本電色工業製)を用いて、JIS K7136の規格に準拠して、ポリイミドフィルムのヘイズを測定した。
【0118】
[引張弾性率、破断点伸度、破断点荷重]
ポリイミドフィルムをIEC-540(S)規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片(幅:4mm)とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間長30mm、引張速度2mm/分で、初期の引張弾性率、破断点伸度、破断点荷重を測定した。
【0119】
[線熱膨張係数(CTE)]
ポリイミドフィルムを幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、TMA/SS6100 (エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用い、チャック間長15mm、荷重2g、昇温速度20℃/分で500℃まで昇温した。得られたTMA曲線から、100℃から250℃までの線熱膨張係数を求めた。
【0120】
[5%重量減少温度]
ポリイミドフィルムを試験片とし、TAインスツルメント社製 熱重量測定装置(Q5000IR)を用い、窒素気流中、昇温速度10℃/分で25℃から600℃まで昇温した。得られた重量曲線から、5%重量減少温度を求めた。
【0121】
[耐溶剤性試験]
ポリイミドフィルムを試験片とし、N-メチル-2-ピロリドン中に1時間浸漬させ、ポリイミドフィルムの溶解や白濁等の変化が無かったものを○、変化があったものを×とした。
【0122】
以下の各例で使用した原材料の略称、純度等は、次のとおりである。
【0123】
[ジアミン成分]
m-TD:2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル〔純度:99.85%(GC分析)〕
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン〔純度:99.83%(GC分析)〕
PPD:p-フェニレンジアミン〔純度:99.9%(GC分析)〕
4,4’-ODA:4,4’-オキシジアニリン〔純度:99.9%(GC分析)〕
BAPB:4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル〔純度:99.93%(HPLC分析)〕
TPE-Q:1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
[テトラカルボン酸成分]
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物〔純度:99.9%(GC分析)〕
CpODA:ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸無水物
【0124】
[イミダゾール化合物]
1,2-ジメチルイミダゾール
1-メチルイミダゾール
イミダゾール
【0125】
[溶媒]
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0126】
表1-1に実施例、比較例で使用したテトラカルボン酸成分、表1-2に実施例、比較例で使用したジアミン成分、表1-3に実施例、比較例で使用したイミダゾール化合物の構造式を記す。
【0127】
【表1ー1】

【0128】
【表1ー2】

【0129】
【表1ー3】

【0130】
〔実施例1〕
窒素ガスで置換した反応容器中にm-TD 2.12g(10ミリモル)を入れ、DMAcを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が 16質量%となる量の22.43gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にCBDA 1.76g(9ミリモル)とCpODA 0.38g(1ミリモル)を徐々に加えた。室温で12時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0131】
PTFE製メンブレンフィルターでろ過したポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)、そのままガラス基板上で室温から300℃まで加熱して熱的にイミド化を行い、無色透明なポリイミドフィルム/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミドフィルム/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、乾燥して、膜厚が50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0132】
このポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表2-1に示す。」

本件明細書に記載された実施例2?37、比較例1?4及び参考例1?6におけるポリイミドフィルム製造方法の記載の摘記は省略する。

(h)「【0298】
【表2ー1】

【0299】
【表2ー2】

【0300】
【表2ー3】

【0301】
【表2ー4】

【0302】
【表2ー5】



(4)本件発明の課題について
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】及び発明の詳細な説明全体の記載からみて、本件発明1?5の課題は、透明性に優れ、機械的特性にも優れたポリイミドが得られるポリイミド前駆体を提供することであり、また、本件発明7?11の課題は、透明性に優れ、機械的特性にも優れたポリイミド、及びポリイミドフィルムを提供することであると認める。

(5)判断
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0029】には、本発明のポリイミド前駆体は、前記化学式(1A)で表される繰り返し単位と前記化学式(2A)で表される繰り返し単位とを含めばよいことが記載されており(摘記(d))、また、同【0032】には、本発明のポリイミド前駆体は、化学式(1A)で表される繰り返し単位の含有量が全繰り返し単位に対して10?90モル%であり、化学式(2A)で表される繰り返し単位の含有量が全繰り返し単位に対して10?90モル%であることが好ましいことが記載され(摘記(e))、さらに、同【0030】には、テトラカルボン酸成分が1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸類等である繰り返し単位[前記化学式(1A)で表される繰り返し単位]からなるポリイミド前駆体は、透明性に優れ、機械的特性にも優れたポリイミドを与えるが、テトラカルボン酸成分がノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸類等である繰り返し単位[前記化学式(2A)で表される繰り返し単位]を共重合させることにより、十分な機械的特性や、その他の特性を保ったまま、得られるポリイミドフィルムのYI(黄色度)を低くすることができ、透明性を向上させることができることが記載されている(摘記(d))。そして、同【0112】以降に記載の実施例においては、化学式(1A)で表される繰り返し単位と、化学式(2A)で表される繰り返し単位とを共重合させることにより得られたポリイミド前駆体から製造されたポリイミドは、十分な機械的特性を保ちつつ、400nm光透過率が高く、YI(黄色度)を低くすることができ、ヘイズが小さいという透明性が向上したことが具体的なデータとともに記載されている。

そうすると、本件明細書には、本件発明1であるポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸成分として1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸類等である繰り返し単位[化学式(1A)で表される繰り返し単位]とノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸類等である繰り返し単位[化学式(2A)で表される繰り返し単位]を共重合させることにより、十分な機械的特性や、その他の特性を保ったまま、得られるポリイミドフィルムのYI(黄色度)を低くすることができ、透明性を向上させることができることが記載され、また、本件明細書には、本件発明1のポリイミド前駆体は、前記化学式(1A)で表される繰り返し単位と前記化学式(2A)で表される繰り返し単位とを含めばよいことが記載されており、具体例として、本件発明1の課題が解決できたことが具体的なデータとともに記載されているから、本件発明1及び本件発明7が、発明の詳細な説明の記載や本願出願時の技術常識に基づき、当業者が本件発明の課題が解決できると認識できる範囲であるといえる。

(6)申立人の主張
申立人は、本件発明3は、ポリイミド前駆体の全繰り返し単位に対して、化学式(1A)で表される繰り返し単位の含有量が10?90モル%であり、化学式(2A)で表される繰り返し単位の含有量が10?90モル%であるから、化学式(1A)で表される繰り返し単位と化学式(2A)で表される繰り返し単位の合計含有量が非常に小さい態様まで包含しており、及び、本件発明9は、ポリイミドの全繰り返し単位に対して、化学式(1)で表される繰り返し単位の含有量が10?90モル%であり、化学式(2)で表される繰り返し単位の含有量が10?90モル%であるから、化学式(1)で表される繰り返し単位と化学式(2)で表される繰り返し単位の合計含有量が非常に小さい態様まで包含しているが、実施例においては、ポリイミド前駆体に関しては、化学式(1A)で表される繰り返し単位と化学式(2A)で表される繰り返し単位の合計含有量が100モル%の態様のみであり、ポリイミドに関しては、化学式(1)で表される繰り返し単位と化学式(2)で表される繰り返し単位の合計含有量が100モル%の態様のみであり、特定の繰り返し単位の合計含有量がポリイミドの特性に影響することは当業者にとり周知であるから、本件発明3や本件発明9における繰り返し単位の合計含有量が非常に小さい態様まで実施例と同様の効果が奏されるとは認められない旨の主張をする。

しかしながら、本件発明1及び本件発明7が、発明の詳細な説明の記載や技術常識に基づいて本件発明の課題が解決できると認識できる範囲であるといえることは、上記(5)で述べたとおりであり、本件発明1及び本件発明7を直接又は間接的に引用して限定した本件発明3及び本件発明9も、発明の課題が解決できると認識できる範囲であるといえる。
これに対して、申立人は、具体的な反証を挙げた上で発明の課題が解決できるといえないことを主張している訳ではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(7)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由3によっては、本件発明3及び9に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由によっては、本件発明1?16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-08-20 
出願番号 特願2016-555417(P2016-555417)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08G)
P 1 651・ 113- Y (C08G)
P 1 651・ 121- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保 道弘  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 佐藤 健史
橋本 栄和
登録日 2019-11-01 
登録番号 特許第6607193号(P6607193)
権利者 宇部興産株式会社
発明の名称 ポリイミド前駆体、ポリイミド、及びポリイミドフィルム  
代理人 伊藤 克博  
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