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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F16G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 F16G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 F16G |
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管理番号 | 1366102 |
異議申立番号 | 異議2020-700007 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-01-08 |
確定日 | 2020-09-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6603350号発明「ローエッジVベルト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6603350号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6603350号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成30年3月30日に出願され、令和1年10月18日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日 令和1年11月6日)がされ、令和2年1月8日に特許異議申立人堀居健一(以下、「異議申立人」という。)により請求項1?8に対して特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?8の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ベルト幅方向の両側にプーリ接触面が構成されたゴム製のVベルト本体と、 前記Vベルト本体に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設された心線と、 を備えた変速用のローエッジVベルトであって、 前記心線は、各々、2000dtex以上3000dtex以下のポリエステル繊維のフィラメント束が一方向に下撚りされた複数本の下撚り糸が引き揃えられ、前記複数本の下撚り糸が前記下撚りとは逆方向に上撚りされた諸撚り糸で構成されており、 120℃の温度雰囲気に1時間保持したときに、ベルト長さ300mm当たりに発生する前記心線を形成するポリエステル繊維1dtex当たりの収縮力が0.0015N以上であるローエッジVベルト。 【請求項2】 請求項1に記載されたローエッジVベルトにおいて、 前記下撚り糸の本数が2本以上4本以下であるローエッジVベルト。 【請求項3】 請求項1又は2に記載されたローエッジVベルトにおいて、 前記心線のベルト幅方向の配設ピッチが1.30mm以下であるローエッジVベルト。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載されたローエッジVベルトにおいて、 前記心線のベルト幅方向の外径が0.7mm以上1.3mm以下であるローエッジVベルト。 【請求項5】 請求項1乃至4のいずれかに記載されたローエッジVベルトにおいて、 前記心線の下撚り係数が2.0以上3.0以下であるローエッジVベルト。 【請求項6】 請求項1乃至5のいずれかに記載されたローエッジVベルトにおいて、 前記心線の上撚り係数が2.3以上3.5以下であるローエッジVベルト。 【請求項7】 請求項1乃至6のいずれかに記載されたローエッジVベルトにおいて、 前記心線の上撚り係数の下撚り係数に対する比が0.8以上1.8以下であるローエッジVベルト。 【請求項8】 請求項1乃至6のいずれかに記載されたローエッジVベルトにおいて、 前記心線は、上撚り係数が下撚り係数よりも大きいローエッジVベルト。」 第3 申立理由の概要 異議申立人は、主たる証拠として国際公開第2015/121907号(以下、「引用文献1」という。)及び従たる証拠として特開2009-91681号公報(以下、「引用文献2」という。)、特開2007-120526号公報(以下、「引用文献3」という。)、特許第6313991号公報(以下、「引用文献4」という。)を提出し、本件発明1?2、5?8は引用文献1に記載された発明と同一であって、特許法第29条第1項第3号に該当する発明である旨主張し、 また、本件発明1?2、5?8は引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3、4は引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する旨主張する。 そしてまた、異議申立人は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は不備があり、特許法第36条第4項第1号の規定に違反する旨主張する。 第4 引用文献の記載 1 引用文献1・引用発明 本件特許の出願前に頒布された引用文献1には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。以下同様。) (1)「[0002] 2輪車(スクーター)の無段変速機には、ゴム製のベルトが用いられている。変速機に用いるベルトには、高い耐屈曲性が求められる。また、燃費低減の要求に答えるために高い伝動効率も求められている。 [0003] 高い耐屈曲性と伝動効率とが両立するベルトとして、外周面及び内周面に一定のピッチでコグが設けられたダブルコグドVベルトが注目されている(例えば、特許文献1を参照。)。ベルト内周側にコグを形成することにより、ベルトの曲げ剛性を抑え、ベルトの自己発熱を抑制することができると共に、ベルトの曲げ歪みを低減してクラックの発生を抑止することができる。また、ベルト外周側にもコグを形成することにより、ベルトの側圧による座屈変形を防止することができる。このため、ダブルコグドVベルトは高い耐屈曲性と、高い伝動効率とを両立させることが可能となる。」 (2)「[0011] 図1及び図2に示すように本実施形態のダブルコグドVベルト100は、エンドレスの心線埋設部110と、心線埋設部110の内周側に一体に設けられた下コグ形成部120と、心線埋設部110の外周側に一体に設けられた上コグ形成部130とを有している。 [0012] 心線埋設部110は、ゴム組成物からなる心線埋設部本体111と、それにベルト幅方向に所定ピッチの螺旋を形成するように埋設された心線112とを含む。(省略)」 (3)「[0013]心線112は、120℃で1時間処理した際の収縮率が1.2%以上、2.0%以下である。心線112の材質は例えばポリエステルとすることができる。(省略)」 (4)「[0014] 下コグ形成部120は、ゴム組成物からなる下コグ形成部本体122と、その表面に接着された帆布123とを含む。(省略)」 (5)「[0017] 上コグ形成部130を構成するゴム組成物は、クロロプレンゴム(CR)、エチレン・プロピレン・ジエン・ターポリマーゴム(EPDM)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴム(ACSM)、又は水素添加NBR(H-NBR)等により形成することができる。(省略)」 (6)「[0027] <心線> -心線1- 1100dtexの太さのポリエステル繊維を2本集めて下撚り係数2.6で下撚りし、その下撚りしたものを5本集めて下撚り方向とは逆方向に上撚り係数2.9で上撚りしたトータル11000dtexの太さの心線を心線1とした。心線1はレゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス(RFL)処理をして用いた。」 (7)「[0033] -伝動効率- 伝動効率は、駆動プーリと従動プーリとの間にベルトを掛け渡し、駆動プーリを3000rmpで回転させることにより測定した。(省略)」 (8)[図2](b)の断面図において、心線埋設部本体111及び下コグ形成部本体122の側面全体と、上コグ形成部130の下寄りの傾斜した側面とは、ベルト幅方向の両側が対称となるように、同じ傾斜の連続した直線で描かれており、この直線で描かれた部分が、駆動プーリ及び従動プーリから側圧を受ける面であることが見て取れる。 上記記載事項及び図示内容を総合し、本件発明1の記載振りに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 [引用発明] 「ベルト幅方向の両側に駆動プーリ及び従動プーリから側圧を受ける面が構成されたゴム組成物からなる心線埋設部本体111、下コグ形成部本体122及び上コグ形成部130と、 前記心線埋設部本体111に、ベルト幅方向に所定ピッチの螺旋を形成するように埋設された心線112と、 を備えた変速機用のダブルコグドVベルト100であって、 前記心線112は、各々、1100dtexのポリエステル繊維を2本集めて下撚りしたものを5本集めて下撚りとは逆方向に上撚りした心線で構成されており、 120℃で1時間の熱処理による心線112の収縮率が1.2%以上2.0%以下であるダブルコグドVベルト100。」 2 引用文献2 本件特許の出願前に頒布された引用文献2には、以下の事項が記載されている。 「【0037】 [実施例1] 総繊度1100dtexのポリエチレンテレフタレート繊維(PET)(帝人ファイバー(株)製、P952NL)を2本まとめて下撚数220T/mで撚糸した。同じく総繊度1100dtexのポリエチレンナフタレート繊維(PEN)(帝人ファイバー(株)製、Q904M)を2本まとめて下撚数220T/mで撚糸した。前者の下撚コード2本、後者の下撚コード1本を、上撚数95T/mで撚糸し、1100/2/3のコードを得た。 該コードに、接着処理剤としてエポキシ/イソシアネートを付着せしめた後、150℃にて120秒間、240℃にて60秒間熱処理を実施し、さらにRFL(レゾルシン-ホルマリン-ラテックス)を付着せしめて、170℃にて120秒間、240℃にて60秒間熱処理を実施した。 【0038】 得られたコードを、0.1N/texの初期張力(66N)下で、100℃で2時間保持した後の張力(N/tex)Aは0.072、100℃で48時間保持した後の張力から2時間保持した後の張力を引いた値A-B(N/tex)は0.003、150℃で30分保持した際の乾熱収縮率(%)Cは2.3%、40℃雰囲気下で100時間後のコード長さの収縮率は0.8%であった。 得られたコードを心線として用いて、図1に示すVベルト1を製造した。得られたVベルトのベルト張力維持率、ベルト寸法変化率及び耐疲労性を表1に示す。」 3 引用文献3 本件特許の出願前に頒布された引用文献3には、以下の事項が記載されている。 (1)「【0025】 このとき用いるカバー層のゴムシートに代えてゴムコート帆布を用いることもでき、このカバー層のゴムシート、ゴムコート帆布や接着層のゴムおよび抗張体には、伝動ベルトに用いられる一般的なゴム、帆布、および抗張体を用いることができる。 なお、本実施形態においては、Vリブドベルトを例に説明したが、本発明においては伝動ベルトをVリブドベルトに限定するものではなく、一般的なVベルト、平ベルト、丸ベルトなどの伝動ベルトに用いることができる。」 (2)「【0032】 (騒音抑制性能評価) (Vリブドベルトの作成) まず、各実施例、比較例の伝動ベルトに用いる圧縮層、接着層、カバー層の配合に基づき材料を配合し、バンバリーミキサーにより混練し、カレンダーロールにより圧縮層用未加硫シート(0.8mm厚さ)、接着層用未加硫シート(0.4mm厚さ)、カバー層用未加硫シート(0.6mm厚さ)を作成した。 次いで、円筒状成形ドラムにカバー層用未加硫シート1プライを巻き付けた上に、接着層用未加硫シート1プライを巻き付け、抗張体(心線)をらせん状にスピニングし、さらに圧縮層用未加硫シートを4プライ巻きつけて未加硫積層体を作成する。 なお、このとき圧縮層用未加硫シートとカバー層用未加硫シートは、伝動ベルトの幅方向がカレンダー列理方向となるように円筒状成形ドラムに巻き付け、接着層用未加硫シートは伝動ベルトの周方向がカレンダー列理方向となるように円筒状成形ドラムに巻き付けて未加硫積層体を作成した。 また、前記抗張体には、1100dtex/2×3の構成のポリエチレンテレフタレート製の心線にレゾルシノールホルムアルデヒドラテックス(RFL)処理したものを用いた。なお、この心線は、下撚りがS撚りで撚りピッチ16回/10cm、上撚りがZ撚りで撚りピッチ10回/10cmのものを用いた。 その後、この未加硫積層体を加硫缶中で加硫し、脱型して筒状予備成形体を得る。そして、この筒状予備成形体の表面に研削砥石を用いてリブ形状を形成し3リブ分の幅で切り出して図1と略同一の断面形状を有するVリブドベルトを作成した。 なお、このVリブドベルトの総厚さ(図1のh1)は、4.3mmでリブ高さ(図1のh2)は、2.0mm、ベルト周長1740mmであった。」 4 引用文献4 本件特許の出願前に頒布された引用文献4には、以下の事項が記載されている。 「【0014】 心線112は、ダブルコグドVベルトに用いられる通常の心線を用いることができる。例えば、接着処理が施されたアラミド繊維又はポリエステル繊維等を用いることができる。心線112は所定外径d(例えば、d=0.8?1.6mm)を有している。例えば、心線112は、マルチフィラメントを下撚りし、この下撚りされたマルチフィラメントを数本束ねて下撚り方向とは逆方向に上撚りした、太さが6000dtex以上、例えば6600dtexであるポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET))繊維の撚り糸により形成することができる。この撚り糸にはレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液に浸漬した後に乾燥させる接着処理を施すことができる。心線112の太さを6600dtex以上とすることにより、心線112を縦弾性率の低いPET繊維により形成してもベルト100の伝動能力が低下しないようにすることができる。ポリエチレンテレフタレート繊維に代えてポリエチレンナフタレート(PEN)繊維とすることもできる。」 第5 当審の判断 1 新規性及び進歩性について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「駆動プーリ及び従動プーリから側圧を受ける面」は、本件発明1の「プーリ接触面」に相当し、 以下同様に 「心線埋設部本体111、下コグ形成部本体122及び上コグ形成部130」は「Vベルト本体」に、 「心線112」は「心線」に、 「ダブルコグドVベルト100」は「ローエッジVベルト」に、それぞれ相当する。 また、引用発明の「ゴム組成物からなる」構成は、本件発明1の「ゴム製の」構成に、 引用発明の「変速機用の」構成は、本件発明1の「変速用の」構成に、それぞれ相当する。 そして、引用発明の「心線埋設部本体111」は、「心線埋設部本体111、下コグ形成部本体122及び上コグ形成部130」の一部であるから、引用発明の「心線埋設部本体111に、ベルト幅方向に所定ピッチの螺旋を形成するように埋設」することは、本件発明1の「Vベルト本体に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設」することに相当する。 そしてまた、1100dtexのポリエステル繊維を2本集めると2200dtexのポリエステル繊維の束となり、「2000dtex以上3000dtex以下のポリエステル繊維のフィラメント束」の範疇となるから、引用発明の「1100dtexのポリエステル繊維を2本集めて下撚りしたものを5本集めて下撚りとは逆方向に上撚りした心線」は、本件発明1の「各々、2000dtex以上3000dtex以下のポリエステル繊維のフィラメント束が一方向に下撚りされた複数本の下撚り糸が引き揃えられ、前記複数本の下撚り糸が前記下撚りとは逆方向に上撚りされた諸撚り糸」に相当する。 したがって、本件発明1と引用発明とは以下の一致点及び相違点を有する。 [一致点] 「ベルト幅方向の両側にプーリ接触面が構成されたゴム製のVベルト本体と、 前記Vベルト本体に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設された心線と、 を備えた変速用のローエッジVベルトであって、 前記心線は、各々、2000dtex以上3000dtex以下のポリエステル繊維のフィラメント束が一方向に下撚りされた複数本の下撚り糸が引き揃えられ、前記複数本の下撚り糸が前記下撚りとは逆方向に上撚りされた諸撚り糸で構成されているローエッジVベルト。」 [相違点] 本件発明1は「120℃の温度雰囲気に1時間保持したときに、ベルト長さ300mm当たりに発生する前記心線を形成するポリエステル繊維1dtex当たりの収縮力が0.0015N以上である」のに対し、引用発明は、「120℃で1時間の熱処理による心線112の収縮率が1.2%以上2.0%以下」である点。 イ 検討 以下、上記相違点について検討する。 120℃で1時間の熱処理による心線の、収縮率の大小関係と、収縮力の大小関係が、必ずしも対応していないことは、本件特許の明細書の【表1】の、「実施例」と、従来技術にあたる「【特許文献1】WO2015/121907」(本件特許の明細書の段落【0003】参照。引用文献1と同じ文献。)に相当する「比較例」の、「収縮率」と「収縮力」の数値において、大小関係が逆転していることからも把握できる。 このため、「120℃で1時間の熱処理による心線112の収縮率が1.2%以上2.0%以下」のものに、「ベルト長さ300mm当たりに発生する前記心線を形成するポリエステル繊維1dtex当たりの収縮力が0.0015N以上」のものが含まれるとまではいえない。 したがって、本件発明1は引用発明と同一の発明ではない。 また、「120℃で1時間の熱処理による心線112の収縮率が1.2%以上2.0%以下」のものから「ベルト長さ300mm当たりに発生する前記心線を形成するポリエステル繊維1dtex当たりの収縮力が0.0015N以上」とすることが容易であったとする理由はないし、心線を形成するポリエステル繊維の単位太さ当たりの収縮力について、引用文献2?4には記載も示唆もされていないので、引用発明に引用文献2?4に記載された事項を組み合わせても、上記相違点に係る本件発明1の構成に至らないし、本件発明1の作用・効果も、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項から当業者が予測し得たものではない。 したがって、本件発明1は、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2?8について 本件発明2?8は、本件発明1の構成を全て含む発明であるから、上記(1)と同様の理由により、引用発明と同一の発明でなく、また、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (3)小括 上記(1)及び(2)のとおりであるから、本件発明1?2、5?8は、引用発明と同一ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当する発明でない。 また、本件発明1?2、5?8は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、本件発明3、4は、引用発明及び引用文献2?4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから本件発明1?8は、特許法第29条第2項の規定に違反しない発明である。 2 記載不備について 異議申立人は、「ベルトを1周する中で心線を構成する下撚り糸には1回の撚りもないことになり、『無撚り』と同然になります。」とし、また、「ベルトを1周する中で心線の上撚りには1回の撚りもないことになり、『無撚り』と同然になります。」とし、「変速ベルトでほぼ『無撚り』の心線は現実的に適合しない」として、「この観点で、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?8を担保する実施例のベルトを再現できるだけの明瞭性に欠けています。」(異議申立書第10ページ第24?36行)と主張している。 また、異議申立人は、「0.0015N以上とする根拠が検証されていません」とし「各請求項で特定している数値の上下限に対して、臨界的意義がサポートされていません。」(異議申立書第11ページ第1?5行)と主張している。 しかしながら、本件特許の明細書の段落【0029】には、実施例に係る撚る前のポリエステル繊維、下撚り糸、及び上撚りした諸撚り糸に関する具体的数値が詳細に記載されており、異議申立人も計算しているとおり(異議申立書の10ページ第19?30行参照。)、800mmあたりの下撚り及び上撚りの撚り回数は、それぞれ0.46回及び0.299回であって、いずれも0ではないので、撚りが存在していることが明確に理解できる。 また、段落【0030】にはVベルト本体のゴム、ゴム以外の含有物及び各種寸法が具体的に記載され、段落【0034】には収縮力の具体的な測定の仕方が記載されており、段落【0032】の【表1】からは、「実施例」と「比較例」との比較によって、収縮力がレシオ変化率の減少に寄与していることが把握できる。 そして、この【表1】の「ベルト」の「収縮力」の欄の、実施例の「0.0018N」との数値及び従来技術に相当する比較例の「0.0010N」との数値並びに【図4】の右下がりの曲線及び横軸の0.0015の位置の破線及び「良好なレシオ設定可能領域」との記載を参酌すれば、請求項1の「0.0015N以上」という数値は、実施例と比較例の間の数値であって、本件特許の明細書の段落【0025】の「120℃の温度雰囲気に1時間保持したときに、ベルト長さ300mm当たりに発生する心線20を形成するポリエステル繊維1dtex当たりの収縮力が0.0015N以上であることにより、図4に示すように、経時的なトランスミッションレシオの変化を抑えることができる。」との記載に基づいていることが、当業者であれば理解できる。 この外にも、本件特許の請求項1?8に特定された数値に関して、本件特許の明細書は、当業者が再現できる程度に記載されている。 また、臨界的意義の記載がないからといって、ただちに当業者が発明を実施することができないとまではいえない。 そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合する。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-08-31 |
出願番号 | 特願2018-68458(P2018-68458) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(F16G)
P 1 651・ 121- Y (F16G) P 1 651・ 536- Y (F16G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡本 健太郎 |
特許庁審判長 |
平田 信勝 |
特許庁審判官 |
井上 信 内田 博之 |
登録日 | 2019-10-18 |
登録番号 | 特許第6603350号(P6603350) |
権利者 | 本田技研工業株式会社 バンドー化学株式会社 |
発明の名称 | ローエッジVベルト |
代理人 | 特許業務法人前田特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人前田特許事務所 |