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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
管理番号 1366110
異議申立番号 異議2020-700299  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-27 
確定日 2020-09-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6601258号発明「バラストタンク用耐食鋼材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6601258号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6601258号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成28年2月22日に出願されたものであって、令和1年10月18日に特許の設定登録(特許掲載公報発行日 令和1年11月6日)がされ、令和2年4月27日に、その請求項1?6に係る特許に対して、特許異議申立人 豊田敦子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6601258号の請求項1?6に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項1?6に記載された発明を「本件発明1」?「本件発明6」という。)。

【請求項1】
質量%で、
C :0.03?0.25%、
Si:0.05?0.50%、
Mn:0.10?1.40%、
S :0.0001?0.020%、
Cu:0.05?1.00%、
Ni:0.03?1.00%、
Al:0.001?0.100%、
Ca:0.0001?0.0100%、及び、
O :0.0001?0.0100%
を含有し、更に、
Sb:0.010?0.300%、及び、
Sn:0.010?0.300%
の少なくとも一方を含有し、
P :0.025%以下
に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記(式1)によって求められるESSPが0.050以上であり、下記(式2)によって求められるCeqが0.300以上であり、圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織がフェライトと面積率で5?25%の硬質相とからなり、表面にエポキシ系塗膜を有することを特徴とするバラストタンク用耐食鋼材。
ESSP=[Ca]×(1-124×[O])/(1.25×[S])
・・・(式1)
Ceq =[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5
+([Cu]+[Ni])/15 ・・・(式2)
ただし、[S]、[O]、及び、[Ca]は、それぞれ、S、O、及び、Caの含有量[質量%]であり、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Cu]、及び、[Ni]は、それぞれ、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、及び、Niの含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0として計算する。
【請求項2】
更に、質量%で、
Cr:0.40%以下、
Mo:0.50%以下、及び、
W :1.00%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のバラストタンク用耐食鋼材。
【請求項3】
更に、質量%で、
Ti:0.100%以下、
Zr:0.10%以下、
Nb:0.20%以下、及び、
V :0.20%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のバラストタンク用耐食鋼材。
【請求項4】
更に、質量%で、
B :0.0030%以下
を含有することを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載のバラストタンク用耐食鋼材。
【請求項5】
更に、質量%で、
Mg:0.0100%以下、
REM:0.015%以下、及び、
Y :0.100%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載のバラストタンク用耐食鋼材。
【請求項6】
前記エポキシ系塗膜の下地にジンクプライマー塗膜を有することを特徴とする請求項1?5の何れか1項に記載のバラストタンク用耐食鋼材。

第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証?甲第4号証を提出し、以下の異議申立理由により、本件発明1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(新規性)
本件発明2は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性)
本件発明1?6は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、同発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

4 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2007-270198号公報
(2)甲第2号証:特開2010-222665号公報
(3)甲第3号証:特開2010-196113号公報
(4)甲第4号証:特許第6601258号公報(本件特許公報)

第4 当審の判断
1 甲第1、2号証に記載された発明の認定
(1)甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証の記載(【0001】、【0013】)によれば、甲第1号証には、海浜地域や融雪塩が散布される地域等で飛来塩分量が多い環境下でもミニマムメンテナンス材料として使用することができる耐候性、耐塗装剥離性に優れた鋼材の製造方法について記載されている。
そして、上記「鋼材」に着目すると、甲第1号証には、次のア?カのことが記載されている。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

ア 上記「鋼材」は、「バラストタンクを構成する鋼材」に適用しても耐候性、耐塗装剥離性の効果があること(【0011】)

イ 上記「鋼材」の製造方法は、「質量%で、C:0.001?0.15%、Si:2.5%以下、Mn:0.5?2.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05?1.0%、Ni:0.01?0.5%以下、Cr:0.01?3.0%、Al:0.003?0.2%およびN:0.001?0.1%、O(酸素)が0.005%以下、さらにSn:0.03?0.20%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブであって、Ni/Cuが0.5以下であるスラブの表面温度を1175?1325℃に加熱した後、900℃以上の温度域で、全圧下量のうち70%以上の圧延を終了し、700℃以上で圧延を終了させたのち、30℃/s以下の平均冷却速度で500℃以下の温度まで冷却する」(【請求項2】)、「500℃以下の温度まで冷却してから、650℃以下で熱処理する」(【請求項3】)、「さらに、スラブが、質量%で、Ti:0.3%以下、Nb:0.1%以下、Mo:1.0%以下、Co:1.0以下、W:1.0%以下、V:1.0%以下、Ca:0.1%以下、Zr:0.2以下、B:0.01以下、Mg:0.1%以下およびREM:0.02%以下よりなる群から選ばれた1種または2種以上を含有する」こと(【請求項4】)

ウ 実施例においては、「150kg真空溶解炉で表1のスラブ符号a?oに示す化学組成を有するスラブを作製した。スラブは放射温度計によりその表面温度を測定しながら加熱し、所定の表面温度になった後、圧延を開始して長さ約1000mm×幅約150mm×厚さ約4mmの寸法の鋼板を形成した。鋼板は放冷、空冷または水冷により冷却し、その後、いくつかの鋼板については熱処理を施した。このときの鋼板の製造条件を表2に示」されていること(【0056】)

エ さらに、「鋼板から幅方向の中央部、長手方向2箇所の計3箇所から15mm×60mmのサンプルを切り出し・・・エアースプレーにより変性エポキシ塗料(バンノー200:中国塗料製)を乾燥膜厚で150μmになるように塗装した」こと(【0057】)

オ 表1のスラブ符号iは、スラブ組成が質量%で、C:0.05%、Si:0.2%、Mn:1.12%、P:0.007%、S:0.002%、Cu:0.42%、Ni:0.15%、Cr:0.36%、Al:0.024%、N:0.004%、O:0.003%、Sn:0.16、Ca:0.008%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、Ni/Cu質量比が0.36であること(【表1】)

カ 表2の試験番号9においては、上記スラブ符号iを用いて、スラブの表面温度を1200℃に加熱した後、900℃以上の温度域で、全圧下量のうち80%の圧延を終了し、725℃で圧延を終了させたのち、0.1℃/secの平均冷却速度で冷却してから、575℃で熱処理したこと(【表2】)

キ 上記ア?カによれば、甲第1号証には、請求項3、4のほか、特に実施例の試験番号9に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。

「バラストタンクを構成する耐候性、耐塗装剥離性に優れた鋼材であって、
質量%で、C:0.05%、Si:0.2%、Mn:1.12%、P:0.007%、S:0.002%、Cu:0.42%、Ni:0.15%、Cr:0.36%、Al:0.024%、N:0.004%、O:0.003%、Sn:0.16、Ca:0.008%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブであって、Ni/Cuが0.36であるスラブの表面温度を1200℃に加熱した後、900℃以上の温度域で、全圧下量のうち80%の圧延を終了し、725℃で圧延を終了させたのち、0.1℃/secの平均冷却速度で500℃以下の温度まで冷却してから、575℃で熱処理し、
エアースプレーにより変性エポキシ塗料(バンノー200:中国塗料製)を乾燥膜厚で150μmになるように塗装した鋼材。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証に記載された発明の認定
甲第2号証には、「原油タンク用耐食形鋼材」について記載されている(【請求項1】)。
そして、上記「原油タンク用耐食形鋼材」に着目すると、甲第2号証には、次のア?カのことが記載されている。

ア 上記「原油タンク用耐食形鋼材」の成分組成は、「C:0.001?0.16mass%、Si:1.5mass%以下、Mn:0.1?2.5mass%、P:0.03mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.005?0.1mass%、N:0.001?0.008mass%、Cu:0.008?0.35mass%、Cr:0.1mass%超0.5mass%以下、Mo:0.01mass%以下、Sn:0.005?0.3mass%を含有し・・・残部がFeおよび不可避的不純物からなり」(【請求項1】)、「さらに、Ni:0.005?0.4mass%を含有し」(【請求項2】)、「さらに、W:0.001?0.5mass%およびSb:0.005?0.3mass%のうちから選ばれる1種または2種を含有し、下記(3)式に定義するB3の値が0以下である・・・B3=28×C+2000×P^(2)+27000×S^(2)+0.0083×(1/Cu)+2×Ni+0.027×(1/Cr)+95×Mo+0.00098×(1/Sn)+0.0019×(1/(Sb+W))-6.5・・・(3)ここで、上記式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(mass%)」(【請求項3】)、「さらに、Ca:0.0002?0.005mass%およびREM:0.0005?0.015mass%のうちから選ばれる1種または2種を含有する」こと(【請求項5】)

イ また、同「原油タンク用耐食形鋼材」のミクロ組織は、「加工フェライトを全組織に対して面積率で10%以上含むフェライトおよびパーライトからなるミクロ組織を有する」こと(【請求項1】)

ウ さらに、同「原油タンク用耐食形鋼材」の表面には、「金属ZnあるいはZn化合物を含む塗膜が形成されてなる」こと(【請求項7】)

エ 実施例においては、「表1-1および表1-2に示したNo.1?35の成分組成を有する鋼を真空溶解炉または転炉で溶製してブルームとし、このブルームを加熱炉で1300℃の温度に加熱後、表2-1および表2-2に示したAr_(3)変態点以下での累積圧下率を40%、圧延仕上温度を730℃とする熱間圧延後、空冷して、断面寸法が350×100×11/17mmの不等辺不等厚山形鋼(NAB)を製造した」こと(【0070】)

オ また、「No.1?35の形鋼の短辺部から、長さ50mm×幅25mm×厚さ4mmの小片を切り出し、その表面にショットブラストを施した後、無機系のジンクプライマーの塗装を施さない裸状態の試験片(塗膜厚0μm)と、塗膜厚を5?10μm、15?25μm、50?70μmの3水準に塗布した試験片の合計4種類の腐食試験片を作製した」こと(【0073】)

カ 表2-2の形鋼No.23-1は、No.23の成分組成(C:0.10mass%、Si:0.31mass%、Mn:1.16mass%、P:0.016mass%、S:0.004mass%、Al:0.031mass%、N:0.0024mass%、Cu:0.100mass%、Cr:0.15mass%、Mo:0.01mass%以下、Sn:0.026mass%、Ni:0.068mass%、W:0.06mass%、Sb:0.08mass%、Ca:0.0026mass%)を有し、ミクロ組織がフェライトの面積分率が88%、加工フェライトの面積分率が40%、パーライトの面積分率が12%であること(【表1-1】、【表1-2】、【表2-2】)

キ 上記ア?カによれば、甲第2号証には、請求項5、7のほか、特に実施例の形鋼No.23-1に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。

「C:0.10mass%、Si:0.31mass%、Mn:1.16mass%、P:0.016mass%、S:0.004mass%、Al:0.031mass%、N:0.0024mass%、Cu:0.100mass%、Cr:0.15mass%、Mo:0.01mass%以下、Sn:0.026mass%、Ni:0.068mass%、W:0.06mass%、Sb:0.08mass%、Ca:0.0026mass%を含有し、下記(3)式に定義するB3の値が-2.3であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
全組織に対する面積率で、40%の加工フェライト、88%のフェライトおよび12%のパーライトからなるミクロ組織を有し、
表面に無機系のジンクプライマーの塗装を塗膜厚を5?10μm、15?25μm、50?70μmの3水準に塗布した原油タンク用耐食形鋼材。
B3=28×C+2000×P^(2)+27000×S^(2)+0.0083×(1/Cu)+2×Ni+0.027×(1/Cr)+95×Mo+0.00098×(1/Sn)+0.0019×(1/(Sb+W))-6.5・・・(3)
ここで、上記式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(mass%)」(以下、「甲2発明」という。)

2 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)についての判断
(1)甲第1号証を主たる引用例とする申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「鋼」は「N」を「0.004%」含有するところ、甲第1号証の記載「Nは不純物として存在する。・・・N含有量は少なければ少ないほどよいが、0.001%未満とするには経済的コストが大きく、また、0.1%以下であればその有害性が小さく、許容できる。」(【0033】)によれば、Nの含有量が0.1%以下であれば有害性が小さく、不純物といえるから、甲1発明の「N」は、本件発明2の「不可避的不純物」に相当する。
したがって、甲1発明の「鋼」と、本件発明2の「鋼」とは、いずれも、C、Si、Mn、S、Cu、Ni、Al、Ca、O、Sn、P、Crを含み、残部がFe及び不可避的不純物である点で共通し、これら各成分の含有量(質量%)も重複一致する。

(イ)甲1発明において、本件発明2の「ESSP」及び「Ceq」を算出すると、それぞれ、
ESSP=[Ca:0.008]×(1-124×[O:0.003]) /(1.25×[S:0.002])
=2.01
Ceq =[C:0.05]+[Mn:1.12]/6+([Cr:0. 36]+[Mo:0]+[V:0])/5+([Cu:0.4 2]+[Ni:0.15])/15
=0.347
である。
したがって、甲1発明の「鋼」と、本件発明2の「鋼」とは、「(式1)によって求められるESSPが0.050以上」、「(式2)によって求められるCeqが0.300以上」である点で一致する。

(ウ)甲1発明の「変性エポキシ塗料(バンノー200:中国塗料製)」は、本件発明2の「エポキシ系塗膜」に相当する。
また、甲1発明の「耐候性」とは、甲第1号証の記載「通常、耐候性鋼材を大気腐食環境中に暴露すると、その表面に保護性のあるさび層が形成され、それ以降の鋼材腐食が抑制される。」(【0002】)によれば、大気腐食環境中の鋼材腐食に対する耐食性のことであるから、甲1発明の「耐候性、耐塗装剥離性に優れた鋼材」と、本件発明2の「耐食鋼材」とは、「耐食鋼材」である点で一致する。
したがって、甲1発明の「バラストタンクを構成する耐候性、耐塗装剥離性に優れた鋼材であって・・・エアースプレーにより変性エポキシ塗料(バンノー200:中国塗料製)を乾燥膜厚で150μmになるように塗装した鋼材」と、本件発明2の「表面にエポキシ系塗膜を有する」「バラストタンク用耐食鋼材」とは、「表面にエポキシ系塗膜を有する」「バラストタンク用耐食鋼材」である点で一致する。

(エ)以上によれば、本件発明2と甲1発明とは、
「質量%で、
C :0.03?0.25%、
Si:0.05?0.50%、
Mn:0.10?1.40%、
S :0.0001?0.020%、
Cu:0.05?1.00%、
Ni:0.03?1.00%、
Al:0.001?0.100%、
Ca:0.0001?0.0100%、及び、
O :0.0001?0.0100%
を含有し、更に、
Sb:0.010?0.300%、及び、
Sn:0.010?0.300%
の少なくとも一方を含有し、
更に、
Cr:0.40%以下、
Mo:0.50%以下、及び、
W :1.00%以下
の1種又は2種以上を含有し、
P :0.025%以下
に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記(式1)によって求められるESSPが0.050以上であり、下記(式2)によって求められるCeqが0.300以上であり、表面にエポキシ系塗膜を有するバラストタンク用耐食鋼材。
ESSP=[Ca]×(1-124×[O])/(1.25×[S])・ ・・(式1)
Ceq =[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5
+([Cu]+[Ni])/15 ・・・(式2)
ただし、[S]、[O]、及び、[Ca]は、それぞれ、S、O、及び、Caの含有量[質量%]であり、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Cu]、及び、[Ni]は、それぞれ、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、及び、Niの含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0として計算する。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」について、本件発明2では、「フェライトと面積率で5?25%の硬質相とからな」るのに対し、甲1発明では、その金属組織が不明である点。

イ 相違点1の検討
上記相違点1について検討すると、甲第1号証には、「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」については記載されていない。
そこで、製造方法の点から、甲1発明において、「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」が「フェライトと面積率で5?25%の硬質相」であるか否かについて検討する。

(ア)本件特許明細書には以下の記載がある。

「【0021】
・・・本発明のバラストタンク用耐食鋼材(以下、「本発明の耐食鋼材」という)では、Sb、Snの一方又は両方を含有し、更に、Caを添加して、上記(式1)によって求められるESSPが0.050以上である成分組成にすることとした。また、必要に応じて、Cu、Ni、Cr、Mo、及び、Wの1種又は2種以上を添加すると、更に優れた耐食性が得られる。
【0022】
次に、バラストタンク用耐食鋼材の強度及び金属組織について検討を行った。強度を確保するためには、フェライト以外の硬い相、即ち、硬質相を利用することが有効である。本発明では、硬質相は、ベイナイト、マルテンサイト、及び、パーライトの1種又は2種以上とする。そして、適正な強度を有するバラスト用耐食鋼材は、圧延方向と平行となる板厚断面で、硬質相の面積率が5?25%であり、残部がフェライトからなる金属組織に制御されていることがわかった。
【0023】
硬質相を生成させるには、焼入れ性を高める元素を添加することが必要であり、安価なMnが利用されることが多い。しかし、MnはMnSを形成する元素であるため、Mn量を1.40%以下に制限する必要がある。そこで、本発明では、焼入れ性を高める元素であるCuを0.05%以上、Niを0.03%以上、同時に添加する。Cuは、鋼材の表面性状を損なう元素であるが、Niを同時に添加することによって、表面性状の劣化を抑制することもできる。
【0024】
また、本発明者らの検討により、硬質相を確保するためには、焼入れ性の指標であるCeqを0.300以上にする必要があることがわかった。Ceqは、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、及び、Niの含有量[質量%]([C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Cu]、及び、[Ni])から、下記(式2)によって求めることができる。なお、下記(式2)では、選択元素を含有しない場合は0として計算する。
【0025】
Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5
+([Cu]+[Ni])/15 ・・・(式2)」
「【0049】
次に、本発明のバラストタンク用耐食鋼材の金属組織について説明する。本発明のバラストタンク用耐食鋼材は、圧延方向と平行な板厚断面の金属組織がフェライトと硬質相(パーライト、ベイナイト、及び、マルテンサイトの1種又は2種以上)からなる。硬質相は、強度を確保するために面積率で5%を必要とする。好ましくは7%以上、より好ましくは10%以上とする。一方、硬質相の面積率が25%を超えると母材の延性や靭性が劣化するため、上限を25%以下とする。好ましくは20%以下とする。」
「【0051】
次に、本発明のバラストタンク用耐食鋼材の製造方法について説明する。
【0052】
本発明のバラストタンク用耐食鋼材は表面にエポキシ系塗膜を有するが、母材は常法で製造することができる。
例えば、溶鋼を転炉、電気炉等の公知の方法で溶製し、連続鋳造法、造塊法等の公知の方法でスラブやビレット等の鋼素材とし、熱間圧延に供する。なお、溶鋼に、取鍋精錬や真空脱ガス等の処理を付加してもよい。
【0053】
そして、鋼素材を、好ましくは1050?1250℃の温度に加熱し、所望の寸法形状に熱間圧延する。鋳造や造塊後の鋼材をそのまま熱間圧延してもよい。熱間圧延後は、空冷してもよいが、加速冷却を行ってもよい。なお、熱間圧延では、金属組織を制御して強度を確保するために、適正な条件で熱間圧延及びその後の冷却を行うことが好ましい。
【0054】
熱間仕上圧延の終了温度は700℃以上が好ましく、熱間仕上圧延の終了後の冷却は、空冷するか、又は、冷却速度を15℃/s以下とする加速冷却を行ってもよい。冷却速度が速いと、ベイナイトやマルテンサイトの硬質相が増加することがあり、10℃/s以下が好ましい。更に、焼戻しなどの熱処理を施し、強度や靱性などの機械特性を調整することができる。」
「【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した1条件例であり、本発明は、この1条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0057】
表1に示した成分組成を有する鋼を真空溶解炉又は転炉で溶製して、鋳塊又は鋼スラブとし、これらを表2に示すいずれかの加熱、熱間圧延によって20mm厚の厚鋼板を製造した。表2に示す加熱温度は加熱炉内の温度であり、加熱炉内での保持時間を2時間以上とした。表2に示す冷却速度は、加速冷却の開始温度(780℃)から、停止温度(550?600℃の範囲内)の冷却速度である。なお、熱間仕上圧延の終了温度は800℃であり、加速冷却の停止後は空冷を行った。熱間仕上圧延の終了温度、加速冷却の開始温度及び停止温度は、製造中の厚鋼板の表面の温度を放射温度計で測定し、伝熱計算によって求めた板厚中心部の温度である。冷却速度は加速冷却の開始温度、停止温度及び所要時間から計算した。
【0058】
得られた厚鋼板の板厚の4分の1に当たる部位で、金属組織中の硬質相の面積率を調査した。100倍の倍率で、任意の5視野の金属組織を光学顕微鏡によって観察し、硬質相(パーライト、ベイナイト、マルテンサイト)の面積率を測定して平均値を求め、硬質相の面積率とした。・・・」
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】


「【0063】
表3に腐食試験、引張試験、衝撃試験の結果を示す。本発明の成分組成を満たす発明例のNo.1?26の鋼は、ベース鋼(No.27)に対する塗装膨れの最大長さの比率が50%以下であり、良好な耐食性を有していることがわかる。また、発明例にジンクプライマーを塗布した鋼材は、ベース鋼(No.27)に対する塗装膨れの最大長さの比率が25%以下であり、良好な耐食性を有していることがわかる。
【0064】
これに対して、本発明の成分組成の条件を満たさないNo.28?32鋼は、ベース鋼(No.27)に対する塗装膨れの最大長さの比率がいずれも50%を超えている。No.33鋼は、ベース鋼(No.27)に対する塗装膨れの最大長さの比率が50%以下であるが、Ceqが0.30以上ではなく、硬質相の面積率も5%未満であるために必要な母材の強度が得られない。No.34?37鋼は硬質相が25%を超えているために必要とする母材の延性が得られず、母材靭性も低下している。
【0065】
【表3】



(イ)上記(ア)によれば、「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」が「フェライトと面積率で5?25%の硬質相」である「バラストタンク用耐食鋼材」は、以下のa及びbの各要件を備える製造方法によって製造できるものである。

a 「次の製造工程を含むこと
・鋳造工程:所定の成分組成を有する鋼を真空溶解炉又は転炉で溶製して、 鋳塊又は鋼スラブとする。
・熱間圧延工程:鋳塊又は鋼スラブを1050?1250℃の温度に加熱炉 で加熱すし、熱間圧延する。熱間仕上圧延の終了温度は700℃以上とす る。
・冷却工程:熱間仕上圧延の終了後の冷却について、冷却速度を空冷以上と する。また、冷却速度の上限は10℃/s以下が好ましい。冷却停止温度 は550?600℃の範囲内とする。」(以下、「製造工程要件」という。)
b 「上記aの鋼は、本件請求項1?5のいずれかに記載の鋼組成と重複した成分組成を有する鋼であること」(以下、「成分組成要件」という。)

(ウ)そこで、甲1発明の製造方法が上記各要件を備えるか否かについて検討すると、前記アにて検討したとおり、甲1発明の「鋼」は、本件請求項2に記載の鋼組成と重複した成分組成を有するものであるから、甲1発明の製造方法は上記成分組成要件を備えるものである。
また、甲1発明の製造方法は、以下の製造工程を含むものである。

・熱間圧延工程:スラブの表面温度を1200℃に加熱した後、900℃以 上の温度域で、全圧下量のうち80%の圧延を終了し、725℃で圧延を 終了する。
・冷却工程:0.1℃/secの平均冷却速度で500℃以下の温度まで冷 却する。
・熱処理工程:575℃で熱処理する。

ここで、上記冷却工程について、甲第1号証には以下の記載がある。

「【0056】
・・・鋼板は放冷、空冷または水冷により冷却し、その後、いくつかの鋼板については熱処理を施した。このときの鋼板の製造条件を表2に示す。」
「【表2】



上記表2には、冷却速度(℃/sec)が「0.1」、「1」、「10」、「20」、「35」のいずれかであることが示されているところ、通常、放冷、空冷、水冷の順で冷却速度が速くなるものであるから、冷却速度0.1℃/secは放冷のことであると認められる。
したがって、甲1発明の製造方法において、その冷却工程は放冷によって行われるものである。
また、上記冷却工程では、500℃以下の温度まで冷却するものである。
そうすると、甲1発明の製造方法は、少なくとも、冷却工程の冷却速度及び冷却停止温度の点で上記製造工程要件を備えるとはいえないから、甲1発明は「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」が「フェライトと面積率で5?25%の硬質相」であるとは認められない。

(エ)以上のとおり、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明ではない。

ウ 相違点1に係る容易想到性の検討
次に、相違点1に係る容易想到性について検討する。

(ア)甲第1号証には、「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」については記載されておらず、また、甲1発明のように製造して得られた鋼材であれば、必ず、上記金属組織が「フェライトと面積率で5?25%の硬質相」となることが技術常識であるともいえない。
そうすると、甲1発明において、「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」を「フェライトと面積率で5?25%の硬質相」とすることが動機付けられるとはいえない。

(イ)一方、本件特許明細書の前記【0022】、【0049】によれば、本件発明2は、バラストタンク用耐食鋼材において、「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」を「フェライトと面積率で5?25%の硬質相」とすることにより、適正な強度を確保しつつ、延性や靭性の劣化を回避できるものと解することができる。
そして、本件特許明細書の前記表3には、上記金属組織を充足する発明例No.1?26が、上記金属組織を充足しない比較例No.33?37に対して、適正な母材機械特性(引張特性、衝撃特性)にあることが示されている。
したがって、本件発明2は、「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」を「フェライトと面積率で5?25%の硬質相」とすることにより、適正な強度を確保しつつ、延性や靭性の劣化を回避できるものと認められる。

(ウ)他方、甲第2号証には、原油タンク用耐食形鋼材について、ミクロ組織をフェライトの面積分率が88%、加工フェライトの面積分率が40%、パーライトの面積分率が12%とした実施例が記載されている(表2-2の形鋼No.23?1)。
また、甲第3号証には、鋼材の強度を確保するため、熱間仕上圧延終了後の冷却は、空冷または冷却速度150℃/s以下の加速冷却を行うことが好ましいと記載されている(【0088】)。
しかしながら、これら記載を参酌しても、甲1発明において、適正な強度を確保しつつ、延性や靭性の劣化を回避するために、「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」を「フェライトと面積率で5?25%の硬質相」とすることの指針となる記載を見いだすことはできない。
したがって、甲1発明において、「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織」を「フェライトと面積率で5?25%の硬質相」とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

エ 申立人の主張について
申立人は、甲1発明の製造方法において、熱間圧延後の冷却を0.1℃/sec(空冷に相当)で行っているから、本件発明2と同様の金属組織が得られている旨、及び、甲第2号証には、甲1発明と同様の化学組成を有するスラブを圧延仕上温度730℃、圧延後の冷却方法を空冷とした場合、フェライト88%、パーライト12%となることが示されているから、甲1発明においても同程度のフェライトとパーライトの割合であることは明らかである旨主張する。
しかしながら、前記イにて検討したとおり、甲1発明の製造方法において、熱間圧延後の冷却は放冷によって行われている。
また、甲第2号証の記載「・・・熱間圧延に続く冷却は、空冷(放冷)とする。これにより、圧延後の冷却不均一から生じる曲がりや反りといった形状変化を低減することができ、圧延後の製品に対する矯正負担を軽減することができる。放冷の際の冷却速度は、板厚にもよるが、0.4?1.0℃/sec程度である。・・・」(【0066】)によれば、甲第2号証に記載された空冷(放冷)について、その冷却速度は、0.4?1.0℃/sec程度であるから、甲1発明の製造方法の冷却速度とは異なるものである。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、同発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 本件発明1、3?6についての検討
本件発明1、3?6のいずれかと甲1発明とを対比すると、上記相違点1と同様の相違点が認定され、その判断において、上記イ?エの判断は同様に妥当する。
したがって、本件発明1、3?6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(2)甲第2号証を主たる引用例とする申立理由2(進歩性)について
ア 対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。

(ア)甲2発明の「鋼」は「N」を「0.0024%」含有するところ、本件発明2の「鋼」についてはNの含有量は不明である。
ここで、甲第1号証の前記【0033】の記載によれば、通常、鋼にはNが0.001?0.1%の範囲で不可避的に含有されるものである。
そうすると、本件発明2の「鋼」においてもNが上記範囲にて不可避的に含有されていると認められるから、甲2発明の「鋼」と、本件発明2の「鋼」とは、「N」含有量の点で相違するものではない。
したがって、甲2発明の「鋼」と、本件発明2の「鋼」とは、いずれも、C、Si、Mn、S、Cu、Ni、Al、Ca、Sb、Sn、P、Cr、Mo、Wを含み、残部がFe及び不可避的不純物である点で共通し、これら各成分の含有量(質量%)も重複一致する。

(イ)甲2発明において、本件発明2の「Ceq」を算出すると、
Ceq =[C:0.10]+[Mn:1.16]/6+([Cr:0. 15]+[Mo:0]+[V:0])/5+([Cu:0.1 00]+[Ni:0.068])/15
=0.335
である。
したがって、甲2発明の「鋼」と、本件発明2の「鋼」とは、「(式2)によって求められるCeqが0.300以上」である点で一致する。

(ウ)甲2発明の「ミクロ組織」について、甲第2号証の記載「組織観察用の試料を採取し、板厚1/4部の組織を顕微鏡で倍率200倍にて観察し、2相域圧延で生成した扁平化した加工フェライトをトレースし、ミクロ組織中に占める面積を画像解析により定量化し、フェライト、加工フェライトおよびパーライトの面積率を求めた。」(【0070】)によれば、圧延方向と平行となる板厚断面を観察したものである。
また、甲2発明の「加工フェライト」とは、甲第2号証の記載「加工フェライトとは、Ar_(3)変態点以下の(α+γ)2相域での熱間圧延によって形成された転位密度の高いフェライトのことであり」(【0059】)によれば、転位密度の高いフェライトのことである。
そして、本件発明2の「硬質相」とは、本件特許明細書の前記【0022】によれば、ベイナイト、マルテンサイト、及び、パーライトの1種又は2種以上である。
したがって、甲2発明の「全組織に対する面積率で、40%の加工フェライト、88%のフェライトおよび12%のパーライトからなるミクロ組織を有」することと、本件発明2の「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織がフェライトと面積率で5?25%の硬質相とからな」ることは、「圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織がフェライトと面積率で5?25%の硬質相とからな」る点で一致する。

(エ)甲2発明の「表面に無機系のジンクプライマーの塗装を・・・塗布した」ことは、本件発明2の「表面に・・・塗膜を有すること」に相当する。
また、甲2発明の「原油タンク用耐食形鋼材」と、本件発明2の「バラストタンク用耐食鋼材」とは、「耐食鋼材」である点で一致する。

(オ)以上によれば、本件発明2と甲2発明とは、

「質量%で、
C :0.03?0.25%、
Si:0.05?0.50%、
Mn:0.10?1.40%、
S :0.0001?0.020%、
Cu:0.05?1.00%、
Ni:0.03?1.00%、
Al:0.001?0.100%、
Ca:0.0001?0.0100%、及び、
を含有し、更に、
Sb:0.010?0.300%、及び、
Sn:0.010?0.300%
の少なくとも一方を含有し、
P :0.025%以下
に制限し、
更に、質量%で、
Cr:0.40%以下、
Mo:0.50%以下、及び、
W :1.00%以下
の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記(式2)によって求められるCeqが0.300以上であり、圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織がフェライトと面積率で5?25%の硬質相とからなり、表面に塗膜を有する鋼材。
Ceq =[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5
+([Cu]+[Ni])/15 ・・・(式2)
ただし、[S]、[O]、及び、[Ca]は、それぞれ、S、O、及び、Caの含有量[質量%]であり、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Cu]、及び、[Ni]は、それぞれ、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、及び、Niの含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0として計算する。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点A)
本件発明2では、「O」を「0.0001?0.0100%」含有し、「(式1)によって求められるESSPが0.050以上」であるのに対し、甲2発明では、O含有量が不明であり、また、O含有量を用いて算出されるESSPの値も不明である点。

(相違点B)
鋼材の用途について、本件発明2では、「バラストタンク用」であるのに対し、甲2発明では、「原油タンク用」である点。

(相違点C)
表面の塗膜について、本件発明2では、「エポキシ系塗膜」であるのに対し、甲2発明では、「ジンクプライマーの塗装の塗膜」である点。

イ 相違点Aの検討
上記相違点Aが実質的な相違点かどうかについて検討すると、甲第2号証には以下の記載がある。

「【0053】
なお、本発明の形鋼材は、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなるものである。ただし、本発明の形鋼材は、上記本発明の作用効果を害さない範囲であれば、他の元素の含有を拒むものではなく、例えば、Oであれば0.008mass%以下を含有することができる。」

そこで、仮に甲2発明がOを0.008mass%含有するものとすると、ESSPは、
ESSP=[Ca:0.0026]×(1-124×[O:0.008] )/(1.25×[S:0.004])
=0.0042
であり、「0.050以上」を充足しない。ESSPが「0.050以上」を充足するためには、O含有量を0.007mass%以下とする必要があるが、上記記載を参酌しても、甲2発明のO含有量が、実際に0.007mass%以下であるかどうかは不明である。
したがって、相違点1は実質的な相違点である。

ウ 相違点Aに係る容易想到性の検討
(ア)次に、相違点1に係る容易想到性について検討すると、上記記載にあるとおり、甲第2号証には、O含有量を0.008mass%以下とすることが示唆されている。
また、甲第1号証には、Cr含有鋼においては孔食の起点となりやすいCaO、MgO、Al_(2)O_(3)などの酸化物系非金属介在物を形成して耐食性を劣化させるため、また、過剰なOは靱性・溶接性をも劣化させるため、Oの含有量を0.005%以下とすることが記載されている(【0034】)。
以上のとおり、甲第1、2号証には、O含有量を低減することが示唆されている。

(イ)ここで、本件特許明細書には以下の記載がある。

「【0018】
一方、Sn、Sbの一方又は両方を添加した耐食鋼材のうち、Caを添加したものの一部は、塗装欠陥部の塗膜膨れや腐食が著しく抑制されていることが判明した。そして、塗膜欠陥部の塗膜膨れが著しく抑制された耐食鋼材は、下記(式1)によって求められるESSPが0.050以上であることがわかった。
【0019】
ESSP=[Ca]×(1-124×[O])/(1.25×[S])・ ・・(式1)
ここで、[S]、[O]、及び、[Ca]は、それぞれ、S(硫黄)、O(酸素)、及び、Caの含有量[質量%]である。
【0020】
また、塗装欠陥部の塗膜膨れや腐食が著しく抑制された耐食鋼材に生じている介在物を調査した結果、CaSが形成されていることがわかった。これらの結果から、Sn、及び、Sbの一方又は両方を含有し、上記(式1)のESSPが0.050以上である耐食鋼材では、塗膜欠陥部で、鋼中のCaSが溶け出し、鋼材の表面にCa化合物が形成され、いわゆるエレクトロコーティングによって腐食の進展が著しく抑制されたのではないかと推定している。」

上記記載によれば、本件発明2は、バラストタンク用耐食鋼材において、「(式1)によって求められるESSPが0.050以上」であることにより、塗膜欠陥部の塗膜膨れを著しく抑制できるものと解することができる。
そして、本件特許明細書の前記表3には、「(式1)によって求められるESSPが0.050以上」である発明例No.1?26が、上記値が0.012である比較例No.30に対して、塗膜欠陥部の塗膜膨れが抑制できたことが示されている。
したがって、本件発明2は、「(式1)によって求められるESSPが0.050以上」であることにより、塗膜欠陥部の塗膜膨れを著しく抑制できるものと認められる。
一方、甲第1、2号証の上記記載を参酌しても、甲2発明において、塗膜欠陥部の塗膜膨れを著しく抑制するために、「(式1)によって求められるESSP」を「0.050以上」とすることの指針となる記載を見いだすことはできない。
よって、甲2発明において、O含有量を0.007mass%以下まで低減し、「(式1)によって求められるESSPが0.050以上」とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

エ 相違点Bの検討
(ア)上記相違点Bについて検討すると、本件特許明細書には以下の記載がある。

「【0003】
バラストタンクの最上部付近、特に上甲板の裏側は、海水の飛沫が付着した状態で、日中の温度上昇と夜間の温度低下が繰り返されるため、非常に厳しい腐食環境となる。・・・」
「【0012】
本発明のバラストタンク用耐食鋼材は、適正な強度を有し、かつ、バラストタンク内の腐食環境下で優れた塗装耐食性を示すので、過酷な腐食環境に曝されるバラストタンクヘ適用した場合、初期コスト及び補修再塗装等の保守費用を大幅に削減することができる。
・・・
【0015】
耐食性は、複合サイクル試験によって評価した。バラストタンクの環境に合わせるために、腐食液には、5%NaCl水溶液ではなく、人工海水を用いた。サイクル条件は、腐食液噴霧(温度35℃)1時間、乾燥(60℃、湿度20?30%)2時間、湿潤(50℃、湿度95%以上)1時間とした。・・・」
「【0062】
これらの試験片の中央を幅2mmのエンドミルで地鉄表面まで達する50mm長さの疵を横方向に一文字状に付与し、人工海水を用いて複合サイクル試験を行った。サイクル条件は、腐食液噴霧(温度35℃)1時間、乾燥(60℃、湿度20?30%)2時間、湿潤(50℃、湿度95%以上)1時間とした。・・・」

上記記載によれば、本件発明2の「バラストタンク」に求められる耐食性とは、海水の飛沫が付着した状態で、日中の温度上昇と夜間の温度低下が繰り返される腐食環境下における耐食性のことであると認められる。

(イ)甲第2号証には以下の記載がある。

「【0002】
タンカーの原油タンクの内面、特に上甲板裏面および側壁部上部に用いられている鋼材には、全面腐食が生じることが知られている。全面腐食が起こる原因としては、
(1)昼夜の温度差による鋼材面への結露と乾湿の繰り返し、
(2)原油タンク内に防爆用に封入されたイナートガス(O_(2)約5vol%、CO_(2)約13vol%、SO_(2)約0.01vol%、残部N_(2)を代表組成とするボイラあるいはエンジンの排ガス)中のO_(2)、CO_(2)、SO_(2)の結露水への溶け込み、
(3)原油から揮発するH_(2)S等の腐食性ガスの結露水への溶け込み、
(4)原油タンクの洗浄に使用される海水の残留、
などが挙げられる。これらは、実際のドック検査時における調査で、強酸性の結露水と、硫酸イオンおよび塩化物イオンが検出されていることからも窺い知ることができる。」
「【0014】
原油タンク内に防爆のために封入されるイナートガスには水蒸気が含まれる。そのため、航海中の昼夜の温度差でタンク内壁の形鋼材表面に結露を生じる。この結露水には、イナートガス成分であるCO_(2)(二酸化炭素)やO_(2)(酸素),SO_(2)(二酸化硫黄)および原油からの揮発成分であるH_(2)S(硫化水素)等が溶け込み、硫酸イオンを含む腐食性の酸性溶液を生成する。また、原油タンクの海水洗浄によって持ち込まれる塩化物イオンも考慮する必要がある。これらの成分が溶け込んだ腐食性の酸性溶液は、形鋼材温度が上昇する過程で濃化し、形鋼材表面に全面腐食を生じさせる。さらに、形鋼材表面に形成した鉄さびを触媒として、H2SからS(硫黄)が析出し、鉄さびと硫黄が層状となったさび層を形成するため、形鋼材表面のさび層は、脆く保護性のないものとなり、腐食が継続的に進行する。
【0015】
そこで、発明者等は、硫酸イオンおよび塩化物イオンを含有した結露水が存在する環境下での形鋼材表面の全面腐食に及ぼす各種合金元素の影響について調査した。・・・」
「【0074】
上記腐食試験片について、原油タンク上甲板裏の環境を模擬した全面腐食環境を再現できる図1に示した腐食試験装置を用いて、耐全面腐食性を評価した。
この腐食試験装置は、腐食試験槽2と、温度制御プレート3から構成されており、腐食試験槽2には、飽和蒸気圧に保つために水6が注入され、温度が30℃に保持されている。また、腐食試験槽2の内部には、原油タンク内の腐食環境を模擬するため、CO_(2):13vol%、O_(2):5vol%、SO_(2):0.01vol%、H_(2)S:0.3vol%、残部がN_(2)の混合ガス4を導入し、飽和水蒸気圧の下に充満させている。試験片1は、上記腐食試験槽の上部に設置された温度制御プレート3の下方に取り付け、ヒーターと冷却装置によって25℃×1時間/50℃×5時間、昇温、降温時間:各1時間を1サイクル(8時間)とし、これを28日間付与することにより、結露水による全面腐食を模擬できるようにした。
なお、試験片の表面(被試験面)には、硫酸イオンおよび塩化物イオンを与えるため、硫酸イオン1000massppmおよび塩化物イオン10000massppmに相当する硫酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを混合した水溶液を500μL塗布・乾燥後、試験に供した。また、試験開始後は、硫酸イオンおよび塩化物イオンを一週間ごとに供給した。」

上記記載、特に【0074】の記載によれば、甲2発明の「原油タンク」が有する耐食性とは、硫酸イオンおよび塩化物イオンを含有した結露水が存在する環境下での耐食性のことであると認められる。

(ウ)そうすると、甲2発明の「原油タンク用耐食形鋼材」が、上記「バラストタンク」に求められる耐食性を有するかは不明である。
また、原油タンク用耐食形鋼材であれば、必ず、バラストタンク用耐食鋼材に転用可能であることが技術常識であるともいえない。
したがって、甲2発明において、「原油タンク用耐食形鋼材」を「バラストタンク用耐食鋼材」に転用することが動機付けられるとはいえない。
また、甲第3号証には、バラストタンクに用いられる鋼材の防食には、ジンクリッチプライマー塗膜とエポキシ系塗膜の2層構造とすることが記載されているものの(【0002】、【0003】)、第3号証は、上記のような転用を動機付けるものではない。
よって、甲2発明の「原油タンク用耐食形鋼材」を「バラストタンク用耐食鋼材」に転用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

オ 申立人の主張について
申立人は、甲第1号証の前記【0034】の記載から、甲2発明において、耐食性を向上させるためにO含有量を0.005%以下とすることは、当業者が適宜なし得ることであると主張するが、この点については前記ウにて検討したとおりである。
また、申立人は、甲第2号証の「原油タンクの海水洗浄によって持ち込まれる塩化物イオンも考慮する必要がある。」(【0014】)との記載から、甲2発明の「原油タンク用耐食形鋼材」を海水を入れるバラストタンク用耐食鋼材に転用することは、当業者が適宜なし得ることであると主張するが、前記エにて検討したとおり、甲2発明の「原油タンク用耐食形鋼材」が前記「バラストタンク」に求められる耐食性を有するかは不明である。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。

カ 小括
以上のとおりであるから、相違点Cについて検討するまでもなく、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 本件発明1、3?6についての検討
本件発明1、3?6のいずれかと甲2発明とを対比すると、上記相違点A、Bと同様の相違点が認定され、その判断において、上記イ?オの判断は同様に妥当する。
したがって、本件発明1、3?6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ク まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(サポート要件)についての判断
特許法第36条第6項第1号に規定されるサポート要件適合性については、「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」(知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10042号)と解される。
そこで、以下検討する。

(1)本件発明1について
ア 本件発明1は、所定の成分組成及び金属組織からなり、表面にエポキシ系塗膜を有するバラストタンク用耐食鋼材に関するものである。
そして、本件特許明細書の記載(【0008】)によれば、本件発明1の課題は、船舶用鋼として十分な強度を有し、バラストタンク内の腐食環境下における塗装耐食性に優れたバラストタンク用耐食鋼材を提供することであると認められる。

イ ここで、本件特許明細書の記載によれば、上記課題は、バラストタンク用耐食鋼材において、以下の(ア)?(エ)の各要件を備えることによって、解決できるとされている。

(ア)鋼の成分組成について、C:0.03?0.25%、Si:0.05?0.50%、Mn:0.10?1.40%、S:0.0001?0.020%、Cu:0.05?1.00%、Ni:0.03?1.00%、Al:0.001?0.100%、Ca:0.0001?0.0100%、及び、O:0.0001?0.0100%を含有し、更に、Sb:0.010?0.300%、及び、Sn:0.010?0.300%の少なくとも一方を含有し、P :0.025%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物とすること(【0027】?【0037】、【0046】)
(イ)さらに、下記(式1)によって求められるESSPが0.050以上とし、下記(式2)によって求められるCeqが0.300以上とすること(【0038】、【0039】)
ESSP=[Ca]×(1-124×[O])/(1.25×[S])・ ・・(式1)
Ceq =[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5
+([Cu]+[Ni])/15 ・・・(式2)
ただし、[S]、[O]、及び、[Ca]は、それぞれ、S、O、及び、Caの含有量[質量%]であり、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Cu]、及び、[Ni]は、それぞれ、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、及び、Niの含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0として計算する。
(ウ)圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織をフェライトと面積率で5?25%の硬質相とからなるものとすること(【0049】)
(エ)表面にエポキシ系塗膜を有すること(【0047】)

ウ また、本件特許明細書の実施例には、各種のバラストタンク用耐食鋼材を製造した例が記載されているところ(【0056】?【0065】、【表1】?【表3】)、これら例のうち、発明例であるNo.1?26は、上記イ(ア)?(エ)の各要件を備えるものである。
そして、表3によれば、上記発明例No.1?26は、船舶用鋼として十分な強度を有し、バラストタンク内の腐食環境下における塗装耐食性に優れたバラストタンク用耐食鋼材であることが理解できる。
そうすると、当業者であれば,これらの発明例以外の場合であっても、上記イ(ア)?(エ)の各要件を備えるバラストタンク用耐食鋼材であれば、上記発明例の場合と同様に、船舶用鋼として十分な強度を有し、バラストタンク内の腐食環境下における塗装耐食性に優れたバラストタンク用耐食鋼材を得られることが理解できるといえる。

エ 以上のとおり、本件特許明細書の記載を総合すれば、上記イ(ア)?(エ)の各要件を備える本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
以上のとおりであるから、本件発明1については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(2)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を引用するものであるが、上記(1)で本件発明1について述べたのと同様の理由により、本件発明2?6についても、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(3)申立人の主張について
申立人は、実施例に記載されているSiの含有量は、0.20?0.27%という極めて限定された範囲であり、0.20%未満の場合、「船舶用鋼として十分な強度を有する」という課題を解決することができるかどうか不明であり、また、0.27%を超える場合、鋼の靭性を劣化されることがないのかどうか不明であるから、本件請求項1に記載のSi含有量の特定は、「発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えていると主張する。
しかしながら、本件発明1?6について、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは、上記(1)、(2)のとおりである。
これに対して、申立人は、上記主張の裏付けとなる具体的な根拠を何ら示していない。
したがって、申立人の上記主張を採用することができない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由3(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-09-07 
出願番号 特願2016-30809(P2016-30809)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 本多 仁
井上 猛
登録日 2019-10-18 
登録番号 特許第6601258号(P6601258)
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 バラストタンク用耐食鋼材  
代理人 福地 律生  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
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