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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
管理番号 1366374
審判番号 不服2019-8395  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-25 
確定日 2020-09-17 
事件の表示 特願2017-236975「複合基板」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月14日出願公開、特開2018- 93496〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2013年12月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年12月26日,米国)を国際出願日とする特願2014-554494号の一部を,平成29年12月11日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年10月30日付け: 拒絶理由通知書
平成30年12月21日: 意見書の提出
平成31年 3月26日付け: 拒絶査定
令和 元年 6月25日: 拒絶査定不服審判の請求
令和 2年 2月27日付け: 拒絶理由通知書
令和 2年 4月10日: 意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明
令和2年4月10日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「支持基板と,
前記支持基板に接合された圧電基板と,
前記圧電基板の表面に形成されたダメージ層と,を備えた直径4インチの複合基板であって,
前記圧電基板の厚みは,3μm以下で,その厚みの最大値と最小値の差は前記圧電基板の全平面で60nm以下であり,
前記圧電基板は,X線回折により得られるロッキングカーブの半値幅が100arcsec以下の結晶性を示し,
前記ダメージ層の厚みは,3?10nmである,
複合基板。」

第3 拒絶の理由
1 当審が通知した令和2年2月27日付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうちの理由1の概要は,次のとおりである。
(進歩性)請求項1-4に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開平9-208399号公報

2 また,当審拒絶理由のうちの理由4の概要は,次のとおりである。
(実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
請求項1には,「前記圧電基板の厚みは,3μm以下で,その厚みの最大値と最小値の差は前記圧電基板の全平面で60nm以下であり」と記載されており,請求項3にも同様の記載がある。
しかしながら,発明の詳細な説明は,上記のように特定される数値の厚みを有する「圧電基板」を実施することができる程度に記載されているとは認められない。

第4 引用文献の記載,引用発明
1 引用文献1の記載
(1)当審拒絶理由で引用された引用文献1(特開平9-208399号公報)には,図面とともに,以下の記載がある(下線は当審による。以下同様。)。

ア 「【0014】
【発明の実施の形態】本発明の圧電基体は,基板となる非圧電性単結晶や圧電性単結晶の単結晶基板上へ所望の圧電性単結晶板を積層する工程において,従来のように圧電性単結晶薄膜を気相や液相状態から基板の単結晶上で結晶成長せしめることにより成膜し,積層するのではなく,固相反応を利用する工程,すなわち,例えば超精密研磨加工により接合面を光学研磨仕上げを施した後に,単結晶基板と圧電性単結晶板とを貼り合わせ高温下で接合せしめるものである。そして,積層した圧電性単結晶板に対して無歪み超精密平坦化加工を行い,薄膜化することで,積層型の高品質な単結晶の圧電基体を得ることができる。
【0015】本発明によれば,単結晶基板に圧電性単結晶板をバルク状態で固相反応を利用して接合するので,互いの接合面はその平坦度が平均線粗さでλ/10以下とするような超精密研磨加工を施しているため,完全に近いオプティカル・コンタクトが実現される。
【0016】したがって,これを加熱処理を行うことで理想的な接合が得られる。また,接合する圧電性単結晶の熱膨張率や格子サイズを接合面の欠陥密度を最小限に抑制でき,これにより高品質な積層が可能となる。さらに,接合後,所定の厚さまで圧電性単結晶の薄膜化を行うが,この場合,約10μmまでは高精度平面研削,その後約3μmまではCMP(Chemical Mechanical Polishing)によりミクロ平坦化を行い,さらに薄膜化が必要な場合は,PACE(Plasma Assisted ChemicalPolishing)によるサブミクロン平坦化を行うことで,極めて加工変質層の少ない薄膜加工が可能なため,バージン結晶の結晶品質がほとんど損なわれることなく,高品質な圧電膜が得られる。
【0017】そして,このような圧電基体に弾性表面波を励振させる電極を形成した弾性表面波装置によれば,従来の弾性表面波装置より温度係数,伝搬速度,電気機械結合係数などの特性の優れたものを得ることができる。」

イ 「【0018】
【実施例】以下に本発明に係る具体的な実施例について説明する。
〔実施例1〕図1に示すように,直径2インチ,厚み500μm,平均線粗さが約60nmで面方位が(01-12)の単結晶基板であるサファイア基板1と,同一サイズ,平均線粗さが約100nmで面方位が(10-10)の圧電性単結晶板であるLiNbO_(3)単結晶基板を用意した。なおここで,面方位における-1とは1の反転を示すものとする。これを室温下,重しを載せるなどして荷重200g/cm^(2)の下で貼り合わせ,しかる後に約1100℃で10時間の熱処理を施し接合させた。
【0019】その後,LiNbO_(3)単結晶の表面を高精度平面研削盤で厚さが約10μmになるまで研削した。そして,さらにCMP装置を用いて平均線粗さが約5μmになるまで平坦化し,LiNbO_(3)の薄膜化を行って圧電基体S1を完成させた。
【0020】得られたLiNbO_(3)薄膜2の結晶性を調べるために,X線ロッキングカーブを測定した結果,この膜はバルクのLiNbO_(3)単結晶ウエハと同じ7arc secであり,結晶性も良好であった。」

ウ 「【0024】〔実施例3〕図2に示すように,1インチサイズで厚み約400μm,平均線粗さが50nmのYカット水晶基板と(10-10)のLiNbO_(3)単結晶基板3を用意した。これらを室温下,100g/cm^(2)の荷重下で貼り合わせた後,真空度10^(-5)Torrの条件下,1000℃で8時間の熱処理を行い接合した。しかる後に,水晶基板4を実施例1と同様な薄膜化を行い,最終的に厚み約3μmとして圧電基体S2を完成させた。」

エ 「【0026】〔実施例4〕図3に示すように,10mmサイズで厚み約450μm,で平均線粗さが10nmのSTカットの水晶基板5と128°回転YカットのLiNbO_(3)単結晶基板を用意した。これを室温下で貼り合わせた後,実施例3と同様にLiNbO_(3)単結晶基板の薄膜化を行い,最終的にはPACE装置にて0.5μmまで超薄膜化を行った。
【0027】このようにして得られた圧電基体S3のLiNbO_(3)薄膜6の表面に,弾性表面波を励振させる通常のすだれ状電極を形成し弾性表面波装置を作製した。そして,その圧電特性の評価を行ったところ,伝搬速度と電気機械結合係数とはそれぞれ3900m/sec,5.4%と128°回転YカットLiNbO_(3)単結晶とほぼ同一であったものの,その温度係数は従来の-74ppm/℃から-5ppm/℃と大幅な改善が見られた。」

(2)上記(1)の記載について,以下のことがいえる。
ア 段落【0026】,【0027】に記載されている「実施例4」は,10mmサイズで平均線粗さが10nmの水晶基板と,LiNbO_(3)単結晶基板とを貼り合わせた後,「実施例3」と同様にLiNbO_(3)単結晶基板の薄膜化を行い,最終的にPACE装置にて0.5μmまで超薄膜化を行って得られる圧電基体であるところ,段落【0016】の記載によれば,PACE装置にて超薄膜化を行うことはPACEによるサブミクロン平坦化を行うことであり,その結果,極めて加工変質層が少なく,バージン結晶の結晶品質がほとんど損なわれることがない圧電基体が得られるものである。

イ 「実施例3」について段落【0024】に「水晶基板4を実施例1と同様な薄膜化を行い」と記載されていることから,「実施例4」における「実施例3」と同様のLiNbO_(3)単結晶基板の薄膜化は,「実施例1」について段落【0019】に記載されているとおり,「高精度平面研削盤」により「研削」し,さらに「CMP装置」を用いて「平坦化」することにより行われるものである。

2 引用発明
上記1(1)及び(2)の「実施例4」に着目すると,引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「10mmサイズで平均線粗さが10nmの水晶基板と,LiNbO_(3)単結晶基板とを貼り合わせた後,LiNbO_(3)単結晶基板を,高精度平面研削盤により研削し,さらにCMP装置を用いて平坦化することにより薄膜化を行い,最終的にPACE装置にて0.5μmまで超薄膜化を行って得られる,PACEによるサブミクロン平坦化を行うことで,極めて加工変質層が少なく,バージン結晶の結晶品質がほとんど損なわれることがない,圧電基体。」

第5 当審の判断
1 本願発明の進歩性(当審拒絶理由の理由1)について
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「水晶基板」,「貼り合わせ」ること,「LiNbO_(3)単結晶基板」,「圧電基体」,は,それぞれ本願発明の「支持基板」,「接合された」こと,「圧電基板」,「複合基板」に相当する。

イ 引用発明において,LiNbO_(3)単結晶基板の薄膜化の工程でその表面にダメージが生じ得ることは,技術上必然のことであって,引用発明の「加工変質層」は本願発明の「ダメージ層」に相当する。

ウ 引用発明の「LiNbO_(3)単結晶基板」の「超薄膜化」を「0.5μmまで」行うことは,その厚みが「0.5μm」であることであって,本願発明の「圧電基板の厚み」が「3μm以下」であることに含まれる。

エ 以上のことから,本願発明と引用発明とは,
「支持基板と,
前記支持基板に接合された圧電基板と,
前記圧電基板の表面に形成されたダメージ層と,を備えた複合基板であって,
前記圧電基板の厚みは,3μm以下である,
複合基板。」
である点で一致する。

オ また,両者は以下の点で相違する。
(相違点1)「複合基板」が,本願発明は「直径4インチ」のものであるのに対し,引用発明は「水晶基板」に関して「10mmサイズ」であるものの,「圧電基体」のサイズの特定はない点。

(相違点2)本願発明では,「前記圧電基体の厚み」の「最大値と最小値の差は前記圧電基板の全平面で60nm以下」であるのに対し,引用発明では,「LiNbO_(3)単結晶基板」の厚みがどの程度均一であるかの特定がない点。

(相違点3)本願発明では,「圧電基体」の「結晶性」が「X線回折により得られるロッキングカーブの半値幅が100arcsec以下」であるのに対し,引用発明では,「LiNbO_(3)単結晶基板」の結晶性の程度についての特定がない点。

(相違点4)本願発明では,「ダメージ層の厚み」が「3?10nm」であるのに対し,引用発明の「加工変質層」の厚みの特定がない点。

(2)判断
各相違点について,以下,検討する。

審査基準第III部第2章第4節「6.2 進歩性の判断」によれば,「実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは,通常,当業者の通常の創作能力の発揮といえる」ため,「請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合において,主引用発明との相違点がその数値限定のみにあるときは,通常,その請求項に係る発明は進歩性を有していない」とされているが,限定された数値の範囲内において,引用発明と比較して,当業者が予測できない際だって優れた効果が生じている場合,すなわち有利な効果が顕著性を有している場合には進歩性を有していると判断される。つまり,「請求項に係る発明と主引用発明との相違が数値限定の有無のみで,課題が共通する場合は,いわゆる数値限定の臨界的意義として,有利な効果の顕著性が認められるためには,その数値限定の内と外のそれぞれの効果について,量的に顕著な差異がなければならない」とされている。

ア 相違点1

本願発明において,「複合基板」が「直径4インチの複合基板」であるとは,複合基板のサイズを数値で表したものである。
相違点1は,複合基板のサイズの数値限定の有無のみの相違であるから,上記(2)の冒頭に記載した審査基準第III部第2章第4節「6.2 進歩性の判断」に基づいて検討を行う。

本願明細書において,複合基板のサイズを4インチと異なるサイズとした場合については記載されていないため,「基板のサイズ」を「4インチ」とするか,「4インチでないサイズ」とするかで,得られる効果に顕著な差異が生じると理解することができないから,本願発明の上記数値範囲には臨界的意義がない。
本願発明は引用発明における「圧電基体のサイズ」を好適化したにすぎず,具体的に,4インチの圧電基体とすることは,当業者が適宜になし得たものである。

イ 相違点2
本願発明において,「前記圧電基板の厚み」の「最大値と最小値の差は前記圧電基板の全平面で60nm以下」であるとは,圧電基板の厚みの均一性を数値範囲で表したものである。
相違点2は,圧電基板の厚みの数値限定の有無のみの相違であるから,上記(2)の冒頭に記載した審査基準第III部第2章第4節「6.2 進歩性の判断」に基づいて検討を行う。

(ア)本願明細書には,以下の記載がある(下線は当審による。以下同様。)。
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CVD,スマートカットの両者とも非常に均一な厚みを持つ薄膜を得られるが,それぞれ次のような問題点がある。
1)CVD
・結晶性が非常に悪い。
・結晶軸の方向が限定される。
2)スマートカット
・イオン注入によるダメージが十分に回復できず,結晶欠陥が残る。
【0005】
上記二つの手法のほかに,圧電膜を薄く削る方法も試してみたが,研磨途中で割れが生じたり,膜厚が均一にならないなどの問題点があった。
【0006】
本発明はこのような問題を鑑みてなされたもので,結晶性が高く,任意の結晶軸を持つ,均一な厚みの圧電単結晶薄膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合基板の製法は,
(a)圧電基板と支持基板とを接合してなる直径4インチ以上の貼り合わせ基板の圧電基板側を,前記圧電基板の厚みが3μm以下になるまで鏡面研磨する工程と,
(b)前記鏡面研磨した圧電基板の厚み分布のデータを作成する工程と,
(c)前記厚み分布のデータに基づいてイオンビーム加工機で加工を行うことにより,前記圧電基板の厚みが3μm以下,その厚みの最大値と最小値の差が全平面で60nm以下,X線回折により得られるロッキングカーブの半値幅が100arcsec以下の結晶性を示す複合基板を得る工程と,
を含むものである。
【0008】
この製法によれば,CVDやスマートカットの問題点が解消され,結晶性が高く,任意の結晶軸を持つ,均一な厚みの圧電単結晶薄膜を得ることができる。」

上記記載によれば,本願発明の解決しようとする課題には,均一な厚みの圧電単結晶薄膜を得ることが含まれており,「厚み分布のデータに基づいてイオンビーム加工機で加工を行う」等の工程を含む特定の製法によって上記課題が解決されて,「圧電基板の厚みが3μm以下,その厚みの最大値と最小値の差が全平面で60nm以下」が達成されることが理解できる。
したがって,本願発明において「前記圧電基板の厚み」の「最大値と最小値の差は前記圧電基板の全平面で60nm以下」であるとは,均一な厚みの圧電単結晶薄膜を得るとの課題に対応する,達成すべき圧電基板の厚みの均一性を数値範囲で表したものである。

一方,本願明細書には,圧電基板の厚みに関する具体的なデータは記載されておらず,「前記圧電基板の厚み」の「前記圧電基板の全平面」での「最大値と最小値の差」の境界値「60nm」の内と外で,得られる効果に顕著な差異が生じると理解することができないから,本願発明の上記数値範囲には臨界的意義がない。

(イ)引用発明は,「10mmサイズで平均線粗さが10nmの水晶基板」に「貼り合わせた」,「LiNbO_(3)単結晶基板」を,「LiNbO_(3)単結晶基板を高精度平面研削盤により研削した後にCMP装置を用いて平坦化することにより薄膜化を行い,最終的にPACE装置にて0.5μmまで超薄膜化を行って得られる」ものであって,「PACEによるサブミクロン平坦化を行う」ものであるから,表面粗さが極めて小さく平坦度が高い「水晶基板」上において,「LiNbO_(3)単結晶基板」を「サブミクロン平坦化」したものである。
ここで,「水晶基板」の平坦度が高くても,「LiNbO_(3)単結晶基板」の厚みが均一でなければ「LiNbO_(3)単結晶基板」は平坦化できないことから,引用発明は「LiNbO_(3)単結晶基板」の厚みを均一化すべき課題を有するものであり,当該課題は本願発明の上記(ア)の課題と共通しているといえる。

(ウ)上記(ア),(イ)によれば,相違点2に係る本願発明の数値範囲に関して,本願発明と引用発明とは圧電基板の厚みを均一化すべきとの課題が共通している一方,当該数値範囲には臨界的意義がないから,本願発明は引用発明における「LiNbO_(3)単結晶基板」の厚みの均一性を好適化したにすぎず,具体的に,LiNbO_(3)単結晶基板の厚みを,最大値と最小値の差が前記基板の全平面で60nm以下とすることは,当業者が適宜になし得たものである。

ウ 相違点3
本願発明において,「前記圧電基板は,X線回折により得られるロッキングカーブの半値幅が100arcsec以下の結晶性を示」すとは,圧電基板が示す結晶性を数値範囲で表したものである。
相違点3は,圧電基板が示す結晶性の数値限定の有無のみの相違であるから,上記(2)の冒頭に記載した審査基準第III部第2章第4節「6.2 進歩性の判断」に基づいて検討を行う。

(ア)本願明細書の上記イ(ア)の記載によれば,本願発明の解決しようとする課題には,結晶性が高い圧電単結晶薄膜を得ることが含まれており,「厚み分布のデータに基づいてイオンビーム加工機で加工を行う」等の工程を含む特定の製法によって上記課題が解決されて,「X線回折により得られるロッキングカーブの半値幅が100arcsec以下の結晶性」が達成されることが理解できる。
したがって,本願発明において「前記圧電基板は,X線回折により得られるロッキングカーブの半値幅が100arcsec以下の結晶性を示」すとは,結晶性が高い圧電単結晶薄膜を得るとの課題に対応する,達成すべき結晶性を数値範囲で表したものである。

一方,本願明細書には,圧電基板の結晶性に関する具体的なデータは記載されておらず,「前記圧電基板」が示す「X線回折により得られるロッキングカーブの半値幅」の境界値「100arcsec」の内と外で,得られる効果に顕著な差異が生じると理解することができないから,本願発明の上記数値範囲には臨界的意義がない。

(イ)上記第4の1(2)イのとおり,引用文献1に記載されている「実施例4」のLiNbO_(3)単結晶基板の薄膜化は,「実施例1」と同様に高精度平面研削盤により研削し,さらにCMP装置を用いて平坦化するものであるところ,引用文献1には,「実施例1」について,「得られたLiNbO_(3)薄膜2の結晶性を調べるために,X線ロッキングカーブを測定した結果,この膜はバルクのLiNbO_(3)単結晶ウエハと同じ7arc secであり,結晶性も良好であった。」(段落【0019】)と記載されているから,引用発明は「LiNbO_(3)単結晶基板」の結晶性を良好なものとすべき課題を有するものであり,「バージン結晶の結晶品質がほとんど損なわれることがない」ことは当該課題に対応していることが明らかであって,本願発明の上記(ア)の課題と共通しているといえる。

(ウ)上記(ア),(イ)によれば,相違点3に係る本願発明の数値範囲に関して,本願発明と引用発明とは圧電基板の結晶性を良好なものとすべきとの課題が共通している一方,当該数値範囲には臨界的意義がないから,当該数値範囲は結晶性の程度を好適化したにすぎず,具体的に,LiNbO_(3)単結晶基板の結晶性がX線回折により得られるロッキングカーブの半値幅が100arcsec以下とすることは,当業者が適宜になし得たものである。

エ 相違点4
本願発明における,「ダメージ層の厚みは,3?10nmである」とは,ダメージ層の厚みについて数値範囲で表したものである。
相違点4は,ダメージ層の厚みの数値限定の有無のみの相違であるから,上記(2)の冒頭に記載した審査基準第III部第2章第4節「6.2 進歩性の判断」に基づいて検討を行う。

(ア)本願明細書には,以下の記載がある。
「【0032】
実施例1と実施例2の圧電基板の表面付近の断面をTEMで観察したところ,それぞれの表面にダメージ層が見受けられた。図1は実施例1の断面写真,図2は実施例2の断面写真である。実施例1のダメージ層(表面の黒い層)の厚みは10nm,実施例2のダメージ層の厚みは3nmであった。このことから,DC励起型Arビーム源を備えたイオンビーム加工機の方が,プラズマ励起型Arビーム源を備えたイオンビーム加工機に比べて,表面へのダメージが少ないことが分かった。
【0033】
ダメージ層の素子特性への影響を推し量るため,実施例1,2の複合基板の圧電基板上にSAW共振器の電極を作成した。電極ピッチは4μmとした。約930MHzの中心周波数を持つ共振器特性は,通常の圧電基板上に作成された共振器との間で差異は見られなかった。すなわち,厚み10nm程度のダメージ層は特性に影響を与えないことが分かった。」

本願明細書の上記記載によれば,本願発明の解決しようとする課題には,圧電基板のダメージ層の厚みを,SAW共振器の特性に影響しない程度に小さくすることが含まれており,ダメージ層の厚みが,DC励起型Arビーム源を備えたイオンビーム加工機による加工工程を経た「実施例1」では「3nm」である一方,プラズマ励起型Arビーム源を備えたイオンビーム加工機による加工工程を経た「実施例2」では「10nm」であるものの,その程度ではSAW共振器の特性に影響がなく,「実施例1」,「実施例2」のいずれにおいても上記課題が解決されることが理解できる。
したがって,本願発明において「ダメージ層の厚みは,3?10nmである」とは,圧電基板のダメージ層の厚みを,SAW共振器の特性に影響しない程度に小さくするとの課題に対応する,許容される圧電基板のダメージ層の厚みを数値範囲で表したものである。

一方,本願明細書には,ダメージ層の厚みとSAW共振器の特性との関係についての詳細なデータは記載されておらず,「ダメージ層の厚み」が「3?10nm」の範囲内であるか否かで,得られる効果に顕著な差異が生じると理解することができないから,本願発明の上記数値範囲には臨界的意義がない。

(イ)引用発明は,「LiNbO_(3)単結晶基板」が「極めて加工変質層が少なく」された「圧電基体」であるところ,引用文献1には,「このような圧電基体に弾性表面波を励振させる電極を形成した弾性表面波装置によれば,従来の弾性表面波装置より温度係数,伝搬速度,電気機械結合係数などの特性の優れたものを得ることができる」(段落【0017】)と記載されているから,引用発明は,「加工変質層」すなわちダメージ層を特性の優れた弾性表面波装置が得られる程度に小さくすべき課題を有するものである。
そして,SAW共振器は弾性表面波装置の一種であるから,上記課題は本願発明の上記(ア)の課題と共通しているといえる。

(ウ)上記(ア),(イ)によれば,相違点4に係る本願発明の数値範囲に関して,本願発明と引用発明とは,特性の優れたSAW共振器等の弾性表面波装置が得られる範囲で,圧電基板のダメージ層を小さくすべきとの課題が共通している一方,当該数値範囲には臨界的意義がないから,当該数値範囲は,許容されるダメージ層の厚みを好適化したにすぎず,加工変質層の厚みを3?10nmとすることは,当業者が適宜になし得たものである。

(3)そして,本願発明の作用効果は,引用発明から当業者が予測できる程度のものである。

(4)請求人の主張について
請求人は,意見書において,「被加工物を平坦化加工する場合,被加工物が大判化するに従って平坦化が困難になること(平坦度を示す指標が悪化し易くなること)」という技術常識に基づけば,引用文献1記載の発明は10mmサイズであるため,それを直径4インチ(101.6mm)サイズに大判化した場合,PACEによってサブミクロン平坦化を行おうとしても,10mmサイズと同様の平坦化が困難であることは,当業者にとって自明であるから,引用文献1記載の発明の10mmサイズを直径4インチサイズに大判化して10mmサイズと同様の平坦化を得ることは,当業者といえども容易に想到し得ないことである旨,主張する。
引用発明の「圧電基体」のサイズを直径4インチとした場合,「圧電基体」を「水晶基板」と同じ「10mmサイズ」とする場合よりも平坦化が困難になると考えられることは,請求人の指摘するとおりであるが,本願発明は「困難な平坦化」を克服するための製造方法の工夫については記載されておらず,「圧電基板がどの程度平坦であるか」という数値範囲の好適化にすぎない。
上記(2)イ(イ)のとおり,引用発明は「LiNbO_(3)単結晶基板」の厚みを均一化すべき課題を有するものであるから,所望の程度まで均一化するためにPACE等による平坦化の加工精度を確保して,「最大値と最小値の差は前記圧電基板の全平面で60nm以下」の「LiNbO_(3)単結晶基板」を得ることは,審査基準第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(1) 設計変更等」に「(ii)一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化」が例示されているように,当業者が適宜なし得ることである。
よって,請求人の上記主張は採用できない。

2 実施可能要件(当審拒絶理由の理由4)について
(1)上記第2のとおり,請求項1には「前記圧電基板の厚みは,3μm以下で,その厚みの最大値と最小値の差は前記圧電基板の全平面で60nm以下であり」と記載されているところ,発明の詳細な説明は,上記のように特定される数値の厚みを有する「圧電基板」を実施することができる程度に記載されているか,検討する。

(2)発明の詳細な説明には,「厚みの最大値と最小値の差は前記圧電基板の全平面で60nm以下である」圧電基板を得る加工工程に関して,以下の記載がある。
ア 「レーザーの干渉を用いた光学式膜厚測定器で圧電基板の厚みを測定したところ,その厚みは0.8μmを中心として圧電基板の全面で±0.1μmの範囲に収まっていた。測定点は,圧電基板の面取りがされた端部を除く全平面で合計80点とした。」(段落【0025】)

イ 「このようにして得られた貼り合わせ基板を,プラズマ励起型Arビーム源を備えたイオンビーム加工機にセットした。次いで,前述した光学式膜厚測定器で測定した圧電基板の厚みデータをイオンビーム加工機にインポートして,圧電基板の各測定点における加工量,ここではArビームの照射時間を決定した。ビームの照射時間は,貼り合わせ基板の送り速度によって調整した。そして,貼り合わせ基板の送り速度を変化させながら,圧電基板の全面に出力一定のArビームを照射した。」(段落【0026】)

ウ 「加工後の貼り合わせ基板(本実施例の複合基板)の圧電基板の厚みを再度測定したところ,中心膜厚が0.76μmで厚みの最大値と最小値の差は全面で24nmであった。」(段落【0027】)

(3)上記(2)の記載によれば,「レーザーの干渉を用いた光学式膜厚測定器」による「圧電基板の面取りがされた端部を除く全平面で合計80点」の測定値が,「イオンビーム加工機」による加工前に,「0.8μmを中心として圧電基板の全面で±0.1μmの範囲に収まっていた」ところ,加工後において,「圧電基板の厚みを再度測定」した測定値が「中心膜厚が0.76μmで厚みの最大値と最小値の差は全面で24nm」となったことが理解できる。

(4)ここで,「圧電基板の面取りがされた端部を除く全平面で合計80点」の「測定点」に関して「0.8μmを中心として圧電基板の全面で±0.1μmの範囲に収まっていた」とは,「80点」存在する圧電基板の厚みの測定値の「中心」すなわち中央値が0.8μmであって,数値が最大の測定点が0.8μmより0.1μm大きい0.9μmであり,最小の測定点が0.8μmより0.1μm小さい0.7μmであり,他の測定点がそれらの間にあることを意味するというべきである。

(5)一方,加工後における「圧電基板の厚みを再度測定」した測定値が「中心膜厚が0.76μmで厚みの最大値と最小値の差は全面で24nm」であるとは,測定値の中央値が0.76μm,最小の測定値が0.748μmであることを意味する。

(6)そうすると,膜厚を減少させることができるだけであって増加させることはできないイオンビーム加工を行ったにもかかわらず,加工後において圧電基板の厚みの最小の測定値が0.7μmから0.748μmに増加しているから,当該測定値を有する圧電基板を如何にして得るのか不明である。
したがって,発明の詳細な説明は,「厚みの最大値と最小値の差は前記圧電基板の全平面で60nm以下」の「圧電基板」を実施することができる程度に記載されているとは認められない。

(7)請求人は,令和2年4月10日提出の意見書において,「0.8μmを中心として圧電基板の全面で±0.1μmの範囲に収まっていた」との記載は,圧電基板の厚みの測定値が最も薄い箇所で0.7μm,最も厚い箇所で0.9μmだったことを意味するわけではない旨主張し,その理由として,圧電基板の厚みの測定値が最も薄い箇所で0.75μm,最も厚い箇所で0.82μmだった場合や,最も薄い箇所で0.78μm,最も厚い箇所で0.88μmだった場合も,0.8μmを中心として±0.1μmの範囲に収まっていることを挙げている。
しかしながら,「0.8μmを中心として圧電基板の全面で±0.1μmの範囲に収まっていた」との記載は上記(4)のとおりに解するのが通常である。
複数回の実験を行うことが一般的であることを考慮すれば,個々の実験結果として「0.75?0.82μm」や「0.78?0.88μm」であった場合が含まれる可能性があることは否定しないものの,複数回の実験全体として加工前の厚みが「0.7?0.9μm」であると解される。
同様に,複数回の実験全体として加工後の厚みが「0.748?0.784μm」であると理解される。
したがって,複数回の実験全体として,最も薄い加工前の厚みが0.7μmであった基板が,加工後の厚みは少なくとも0.748μmとなっていると解されるから,イオンビーム加工前より基板の厚みが増加しているといわざるを得ず,請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
また,本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-07-07 
結審通知日 2020-07-14 
審決日 2020-07-28 
出願番号 特願2017-236975(P2017-236975)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H03H)
P 1 8・ 536- WZ (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 徳浩  
特許庁審判長 吉田 隆之
特許庁審判官 富澤 哲生
中野 浩昌
発明の名称 複合基板  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  
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