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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1366494
審判番号 不服2020-1237  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-29 
確定日 2020-10-14 
事件の表示 特願2015-257374「セラミック電子部品」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月 6日出願公開、特開2017-120854、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年12月28日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和1年 5月21日付け:拒絶理由通知書
令和1年 6月27日 :意見書の提出
令和1年10月31日付け:拒絶査定
令和2年 1月29日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和2年 4月16日 :上申書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和1年10月31日付け拒絶査定)の拒絶の理由は、本願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2006-287045号公報
引用文献2:特開2012-129508号公報

第3 審判請求時の補正について
令和2年1月29日の審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
請求項1における「粒界相の平均厚み」について「1.5nm以下」という事項を追加する補正は、「粒界相の平均厚み」の上限値を特定するものであるから、同条第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。また、当該「1.5nm以下」という事項は、当初明細書の【0018】に記載されており、当該補正は当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、同条第3項の要件に適合する。さらに、当該補正は同条第4項の要件に適合する。
そして、「第4 本願発明」ないし「第6 対比・判断」で説示するように、補正後の請求項1ないし4に係る発明は、独立して特許を受けることができるものであるから、同条第6項の要件に適合する。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和2年1月29日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
誘電体層および電極層を有するセラミック電子部品であって、
前記誘電体層は、複数のセラミック粒子および前記複数のセラミック粒子間に存在する粒界相を有し、
前記セラミック粒子の主成分はチタン酸バリウムであり、
前記粒界相の平均厚みが1.0nm以上1.5nm以下、かつ、前記粒界相の厚みバラツキσが0.1nm以下であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記誘電体層は、チタン酸バリウム、イットリウム、マグネシウム、クロム、バナジウム、カルシウムおよびケイ素を含み、
前記チタン酸バリウムの含有量をBaTiO_(3)換算で100モル部とした場合に、前記イットリウムの含有量がY_(2)O_(3)換算で1.0?1.5モル部、前記マグネシウムの含有量がMgO換算で1.8?2.5モル部、前記クロムの含有量がCr_(2)O_(3)換算で0.2?0.7モル部、前記バナジウムの含有量がV_(2)O_(5)換算で0.05?0.2モル部、前記カルシウムの含有量がCaO換算で0.5?2.0モル部、前記ケイ素の含有量がSiO_(2)換算で1.65?3.0モル部である請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記セラミック粒子のd50が0.47μm以下である請求項1または2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記誘電体層は希土類元素Rおよびケイ素を含有し、R_(2)O_(3)換算した前記Rの含有量をSiO_(2)換算した前記ケイ素の含有量で割った値が0.40以上、0.79以下である請求項1?3のいずれかに記載のセラミック電子部品。」

第5 引用文献
1.引用文献1について
引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
(1)「【請求項1】
チタン酸バリウムを主成分とする誘電体層を有する電子部品であって、
前記誘電体層を形成する複数のセラミック粒子のうち、隣接するセラミック粒子間に存在する結晶粒界の厚さが1nm以下である粒子の割合が全体の30%以上95%以下であることを特徴とする電子部品。」

(2)「【0029】
図1に示すように、本発明の電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両側端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。内部電極層3は、各側端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。」

(3)「【0036】
図2に示すように、本実施形態の誘電体層2は、複数の誘電体粒子(セラミック粒子)20を有する。誘電体粒子20の平均粒子径が0.3μm以下である。粒子径が小さくなることにより良好な信頼性を得ることができるが、誘電体粒子のサイズ効果により、高い誘電率を得ることが困難になる。従って、粒子径の下限は特に定義されない。しかしながら、小さい粒子径を得るためには小さい原料を用いる必要があり、その原料粉末が小さくなればなるほどその取り扱いが困難になるため、通常、セラミック粒子の平均粒子径は0.05μm程度を下限とする。
【0037】
誘電体粒子20と誘電体粒子20との間には、結晶粒界22が存在し、本実施形態では、隣接するセラミック粒子間に存在する結晶粒界22の厚さが1nm以下である粒子の割合が全体の30%以上95%以下である。好ましくは、隣接するセラミック粒子間に存在する結晶粒界の厚さが0.75nm以下である粒子の割合が全体の40%以上90%以下である。」

上記(2)によれば、電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とを有する。
そして、上記(3)によれば、誘電体層2は、複数の誘電体粒子(セラミック粒子)20を有する。また、誘電体粒子20と誘電体粒子20との間には結晶粒界22が存在する。すなわち、セラミック粒子20とセラミック粒子20との間には結晶粒界22が存在する。
ここで、誘電体層2は、上記(1)によれば、チタン酸バリウムを主成分とするから、誘電体層2が有するセラミック粒子20の主成分はチタン酸バリウムであるといえる。
さらに、上記(3)によれば、結晶粒界22の厚さが1nm以下である粒子の割合が全体の30%以上95%以下である。

以上によれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「誘電体層2と内部電極層3とを有し、
誘電体層2は、複数のセラミック粒子20を有し、セラミック粒子20とセラミック粒子20との間には結晶粒界22が存在し、
セラミック粒子20の主成分はチタン酸バリウムであり、
結晶粒界22の厚さが1nm以下である粒子の割合が全体の30%以上95%以下である、積層セラミックコンデンサ1。」

2.引用文献2について
引用文献2には、積層型セラミック電子部品に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
(1)「【0031】
<積層セラミックコンデンサ1>
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。」

(2)「【0046】
<誘電体粒子および粒界>
図2に示すように、誘電体層2は、誘電体粒子20と、隣接する複数の誘電体粒子20間に形成された粒界22と、を含む。本実施形態では、誘電体粒子20は、主成分粒子(ABO_(3)粒子)に対し、R元素、MgやSiなどの副成分元素が固溶(拡散)した粒子であってもよい。」

(3)「【0061】
本実施形態では、粒界22の厚みの測定値の平均値は、好ましくは0 .3?0.9nm、より好ましくは0.3?0.7nmである。また、粒界22の厚みの平均値と粒界の厚みの標準偏差とから、粒界22の厚みのバラツキを示す指標であるC.V.値を算出したときに、C.V.値が好ましくは25以下、より好ましくは20以下である。なお、C.V.値は、下記に示す式より求められる。
C.V.値=(標準偏差/平均値)×100

・・・(略)・・・

【0146】
<粒界の厚みの平均値およびそのC.V.値>
まず、コンデンサ試料を誘電体層に対して垂直な面で切断した。この切断面について、STEM観察を行い、誘電体粒子と粒界との判別を行った。次いで、誘電体粒子とは異なるコントラストを有する領域の厚みを画像処理により算出した。この測定を、40個の粒界について行い、各測定点における粒界の厚みの測定値から平均値を算出し、これを粒界の厚みの平均値とした。さらに粒界の厚みの測定値から標準偏差を求め、この標準偏差と平均値とから、下記に示す式を用いて、粒界の厚みのバラツキを示す指標となるC.V.値を算出した。
C.V.値=(標準偏差/平均値)×100
結果を表4に示す。
【0147】
【表4】

【0148】
表4より、粒界の厚みの平均値が上述した範囲外である場合には(試料番号24)、m値が悪化する傾向にあることが確認できた。
【0149】
これに対し、粒界の厚みの平均値および粒界の厚みについてのC.V.値が上述した範囲内である場合には(試料番号4、22、23、25?27)、良好なm値が得られることが確認できた。」

上記(1)によれば、積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とを有する。
また、上記(2)によれば、誘電体層2は、誘電体粒子20と、隣接する複数の誘電体粒子20間に形成された粒界22とを含む。
そして、上記(3)によれば、粒界22の厚みの測定値の平均値は、好ましくは0 .3?0.9nmであり、C.V.値が好ましくは25以下であるが、試料番号24として、粒界の厚みの平均値が1.0nm、C.V.値が15であるコンデンサ試料が記載されている。ここで、C.V.値=(標準偏差/平均値)×100であるから、試料番号24の標準偏差は前記平均値とC.V.値とから0.15nmと求まる。

以上によれば、引用文献2には、次の技術事項が記載されている。
「積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体層は隣接する複数の誘電体粒子20間に形成された粒界を含み、粒界の厚みの平均値が1.0nmであり、標準偏差が0.15nmであること。」

第6 対比・判断
1.請求項1について
(1)対比
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「積層セラミックコンデンサ1」は、本願発明の「セラミック電子部品」に相当する。

イ 引用発明の「積層セラミックコンデンサ1」は「誘電体層2と内部電極層3とを有」するところ、「誘電体層2」と「内部電極層3」は、本願発明の「誘電体層」と「電極層」に相当する。したがって、引用発明と本願発明の「セラミック電子部品」は「誘電体層および電極層を有する」点で共通する。

ウ 引用発明の「誘電体層2は、複数のセラミック粒子20を有し、セラミック粒子20とセラミック粒子20との間には結晶粒界22が存在」するところ、「セラミック粒子20」は、本願発明の「セラミック粒子」に相当する。また、引用発明の「結晶粒界22」はセラミック粒子20とセラミック粒子20との間に存在するから、本願発明の「粒界相」に相当する。したがって、引用発明と本願発明は「前記誘電体層は、複数のセラミック粒子および前記複数のセラミック粒子間に存在する粒界相を有」する点で共通する。

エ 引用発明の「セラミック粒子20の主成分はチタン酸バリウムであ」ることは、本願発明の「前記セラミック粒子の主成分はチタン酸バリウムであ」ことに相当する。

オ 本願発明は「前記粒界相の平均厚みが1.0nm以上1.5nm以下、かつ、前記粒界相の厚みバラツキσが0.1nm以下である」のに対して、引用発明の厚さが1nm以下である粒子の割合が全体の30%以上95%以下である「結晶粒界22」について、平均厚みが1.0nm以上1.5nm以下であるのかどうか不明であり、また、厚みバラツキσが特定されていない点で相違する。

したがって、本願発明と引用発明は
「誘電体層および電極層を有するセラミック電子部品であって、
前記誘電体層は、複数のセラミック粒子および前記複数のセラミック粒子間に存在する粒界相を有し、
前記セラミック粒子の主成分はチタン酸バリウムであることを特徴とするセラミック電子部品。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明は「前記粒界相の平均厚みが1.0nm以上1.5nm以下、かつ、前記粒界相の厚みバラツキσが0.1nm以下である」のに対して、引用発明の厚さが1nm以下である粒子の割合が全体の30%以上95%以下である「結晶粒界22」について、平均厚みが1.0nm以上1.5nm以下であるのかどうか不明であり、また、厚みバラツキσが特定されていない点。

(2)相違点についての判断
引用発明の「結晶粒界22」は、厚さが1nm以下である粒子の割合が全体の30%以上95%以下であるところ、例えば厚さが1nm以下である粒子の割合が50%以下、すなわち厚さが1nm以上の割合が50%以上であっても、厚さの分布次第で必ずしも平均厚みが1nm以上になるとは限らない。そうすると、引用発明の「結晶粒界22」について、平均厚みが1.0nm以上1.5nm以下であるとまではいえない。仮に1.0nm以上1.5nm以下の範囲にあるとしても厚みバラツキσについて特定されていない。
この点について、引用文献2には、積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体層に含まれる粒界の厚みの平均値が1.0nmであり、標準偏差が0.15nmであることが記載されている。
そして、本願明細書の【0022】によれば「粒界相20の厚みの標準偏差が厚みバラツキσである」から、引用文献2に記載されている積層セラミックコンデンサの粒界の標準偏差は厚みバラツキσといえる。しかし、当該厚みバラツキσは0.1nmを超えるものである。
したがって、たとえ引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用することができたとしても、相違点に係る構成を導き出すことはできない。
よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.請求項2ないし4について
請求項2ないし4は、請求項1を引用しているから、請求項2ないし4に係る発明は、本願発明の発明特定事項を全て含むものである。したがって、本願発明と同じ理由により、請求項2ないし4に係る発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものとはいえない。

第7 原査定について
上記「第4 本願発明」ないし「第6 対比・判断」で説示したように、本願の請求項1ないし4に係る発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。したがって、原査定の拒絶の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-09-29 
出願番号 特願2015-257374(P2015-257374)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 五十嵐 努
石川 亮
発明の名称 セラミック電子部品  
代理人 前田・鈴木国際特許業務法人  

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