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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F |
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管理番号 | 1366669 |
審判番号 | 不服2019-15885 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-11-26 |
確定日 | 2020-09-24 |
事件の表示 | 特願2015-111792号「貫通孔内遮蔽構造」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月28日出願公開、特開2016-223954号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)6月1日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。 平成31年 2月25日付け:拒絶理由通知 平成31年 4月15日 :意見書、手続補正書 令和元年 8月27日付け:拒絶査定(送達日:同年9月4日、以下「原査定」という。) 令和元年11月26日 :審判請求 2.本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、平成31年4月15日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。なお、A?Fは、本願発明を分説するために当審で付した。)。 「A 放射線を利用する放射線施設を構成する外周壁に設けられ、外部まで貫通する貫通孔の遮蔽構造において、 B 前記貫通孔の貫通軸は、直線又は略直線の線形であり、 C 前記貫通孔内に、該貫通孔の貫通軸方向に並ぶ2以上の遮蔽体が設置され、 D 前記遮蔽体は、断面形状が半円であって、同じ断面形状が軸方向に連続するとともに断面寸法に比して軸方向寸法が大きい筒形であり、 E 2以上の前記遮蔽体は、半円面の断面形状が前記貫通孔の貫通軸方向と平行又は略平行となる姿勢で、前記貫通孔を形成する内壁のうち上面と下面に交互に配置され、又は左側面と右側面に交互に配置された、 F ことを特徴とする貫通孔内遮蔽構造。」 3.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由のうち、請求項1に係る発明についての拒絶の理由は次のとおりである。 この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(なお、引用文献2は、請求項4に係る発明に対する周知技術としての文献である。)。 引用文献1.実願昭60-190138号(実開昭62-97999号)のマイクロフィルム 引用文献2.特開平8-136694号公報(周知技術を示す文献) 4.引用文献1の記載及び引用発明 (1)引用文献1の記載 引用文献1(上記3.)には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。 ア 「『産業上の利用分野』 本考案は、高い放射線遮蔽能力を有する放射線遮蔽壁の貫通孔部構造に関するものである。」(1頁10?12行) イ 「『作用』 流体は放射線遮蔽壁の貫通孔内の遮蔽体に当たり蛇行し、放射線遮蔽壁は、貫通孔のない放射線遮蔽壁相当の放射線遮蔽能力を発揮する。 『実施例』 以下、本考案の一実施例を第1図及び第2図に基づいて説明する。第1図中11は原子力建屋のコンクリートからなる放射線遮蔽壁であり、この放射線遮蔽壁11には貫通孔11aが設けられ、この貫通孔11aには鉄材からなる直状の筒体(角筒)12が設けられている。筒体12の内面には長方形の鉄板からなる複数(この実施例では4枚)の遮蔽体13,14が設けられている。これら遮蔽体13,14はそれぞれ放射線遮蔽壁11の板厚方向4等分位置に筒体12の軸線15の両側に交互に位置させられ、かつ筒体12の内面に対してθ°傾斜させられて設けられている。遮蔽体13の先端面16は軸線15を超えて、遮蔽体14の基端部側に位置させられ、遮蔽体14の先端面17は軸線15を超えて遮蔽体13の基端部側に位置させられている。先端面16,17はそれぞれ軸線15と平行とされている。これにより、放射線遮蔽壁11に通路18が設けられている。」(3頁6行?4頁8行) ウ 「なお、前記実施例においては、筒体12の内面に板部材からなる遮蔽体13,14を設けたが、これに限られることなく、第3図に示すように筒体12の内面に、筒体12の軸線15の両側に位置させて複数の断面山形の突起からなる遮蔽体21,22を交互に間隔をあけて設けてもよい。」(6頁6?11行) エ 「4.図面の簡単な説明」 第1図は本考案の一実施例を示す要部の縦断面図、第2図はその要部の平面図、第3図は本考案の他の実施例を示す要部の縦断面図・・・」(7頁3?6行) オ 第1図ないし第3図は次のとおりである。 カ 上記アないしエの記載を踏まえて、上記オの第3図を見ると、遮蔽体21,22は、2以上であって、貫通孔11aに設けられた直状の筒体(角筒)12の内面を形成する一方の面と当該一方の面と対向する他方の面に交互に配置されていることが見てとれる。 キ 「本考案の他の実施例を示す要部の縦断面図」(上記エ)である上記オの第3図の要部の平面図は、上記アないしエの記載及び上記オの第1図及び第2図を踏まえると、下記参考図1のように記号をふることができる。 ここで、下記参考図1、2のとおり、断面山形の遮蔽体21,22の筒体12の内面からの断面山形の山の高さをH、筒体12の内面に接する断面山形の山の底面の軸線15方向の幅をWとし、筒体(角筒)12の軸線15に垂直な断面における前記遮蔽体21,22の高さHの方向の断面の内面の幅X、筒体(角筒)12の軸線15に垂直な断面における前記幅Xに直行する方向の、断面の内面の幅及び遮蔽体21,22の長さをYとすると、 Y>H であることが見てとれる。 (2)上記(1)によれば、引用文献1には下記の各事項が記載されていると認められる。 ア 「原子力建屋のコンクリートからなる放射線遮蔽壁」は、「貫通孔のない放射線遮蔽壁相当の放射線遮蔽能力を発揮する」(上記「(1)」「イ」)、「高い放射線遮蔽能力を有する放射線遮蔽壁の貫通孔部構造」(上記「(1)」「ア」)であるところ、「原子力建屋のコンクリートからなる放射線遮蔽壁」の外側は通常「外部」であるから、原子力建屋を構成する放射線遮蔽壁に設けられ、外部まで貫通する貫通孔の遮蔽構造であるといえる。 イ 「貫通孔11aには鉄材からなる直状の筒体(角筒)12が設けられてい」(上記「(1)」「イ」)るから、貫通孔に設けられた筒体(角筒)の軸線は、直状であるといえる。 ウ 「実施例」において、「筒体12の内面には長方形の鉄板からなる複数(この実施例では4枚)の遮蔽体13,14が設けられてい」て、「これら遮蔽体13,14はそれぞれ放射線遮蔽壁11の板厚方向4等分位置に筒体12の軸線15の両側に交互に位置させられ、かつ筒体12の内面に対してθ°傾斜させられて設けられている」(上記「(1)」「イ」)ところ、「前記実施例においては、筒体12の内面に板部材からなる遮蔽体13,14を設けたが、これに限られることなく、」「筒体12の内面に、筒体12の軸線15の両側に位置させて複数の断面山形の突起からなる遮蔽体21,22を交互に間隔をあけて設けてもよい」(上記「(1)」「ウ」)から、貫通孔の筒体の内面に、筒体の軸線の両側に位置させて複数の断面山形の突起からなる複数の遮蔽体が交互に間隔をあけて設けられているといえる。 エ 「遮蔽体21,22」は「断面山形の突起からなる」(上記「(1)」「ウ」)ところ、当該「遮蔽体21,22」が途中で「断面山形」以外の形状となることは通常想定できないから、「断面山形」がY方向(上記「(1)」「キ」)に連続する形状であることは明らかである。 したがって、遮蔽体は、断面形状が山形であって、同じ断面形状が遮蔽体の軸方向に連続するものであるといえる。 また、「断面山形の遮蔽体21,22の筒体12の内面からの断面山形の山の高さをH、筒体12の内面に接する断面山形の山の底面の軸線15方向の幅をWとし、筒体(角筒)12の軸線15に垂直な断面における前記遮蔽体21,22の高さHの方向の断面の内面の幅X、筒体(角筒)12の軸線15に垂直な断面における前記幅Xに直行する方向の、断面の内面の幅及び遮蔽体21,22の長さをYとすると、Y>Hである」(上記「(1)」「キ」)から、遮蔽体は、遮蔽体の山の高さ(H)と比較して遮蔽体の長さ(Y)が大きいといえる。 オ 「遮蔽体21,22は、2以上であって、貫通孔11aに設けられた直状の筒体(角筒)12の内面を形成する一方の面と当該一方の面と対向する他方の面に交互に配置されている」(上記「(1)」「カ」)から、2以上の遮蔽体は、貫通孔に設けられた筒体の内面を形成する一方の面と当該一方の面と対向する他方の面に交互に配置されているといえる。 (3)上記(1)及び(2)によれば、引用文献1には下記の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(aないしfは、構成AないしFに対応させて当審が付した。)。 「a 原子力建屋を構成する放射線遮蔽壁に設けられ、外部まで貫通する貫通孔の遮蔽構造において(上記「(2)」「ア」)、 b 前記貫通孔に設けられた筒体(角筒)の軸線は、直状であり(上記「(2)」「イ」)、 c 前記貫通孔の筒体の内面に、前記筒体の軸線の両側に位置させて複数の断面山形の突起からなる遮蔽体が交互に間隔をあけて設けられ(上記「(2)」「ウ」)、 d 前記遮蔽体は、断面形状が山形であって、同じ断面形状が遮蔽体の軸方向に連続するとともに、山の高さ(H)と比較して遮蔽体の長さ(Y)が大きく(上記「(2)」「エ」)、 e 2以上の前記遮蔽体は、前記貫通孔に設けられた前記筒体の内面を形成する一方の面と当該一方の面と対向する他方の面に交互に配置された(上記「(2)」「オ」)、 f 貫通孔の遮蔽構造(上記「(2)」「ア」)。」 5.対比・判断 (1)対比 本願発明と引用発明を対比する。 ア 「原子力建屋」の中の原子炉は「放射線を利用する放射線施設」であるといえるから、引用発明の「原子力建屋を構成する放射線遮蔽壁に設けられ、外部まで貫通する貫通孔の遮蔽構造」(構成a)は、本願発明の「放射線を利用する放射線施設を構成する外周壁に設けられ、外部まで貫通する貫通孔の遮蔽構造」(構成A)に相当する。 イ 引用発明の「前記貫通孔に設けられた筒体(角筒)の軸線は、直状であ」(構成b)ることは、本願発明の「前記貫通孔の貫通軸は、直線の線形であ」(構成B)ることに相当する。 ウ 引用発明の「前記貫通孔の筒体の内面に、前記筒体の軸線の両側に位置させて複数の断面山形の突起からなる遮蔽体が交互に間隔をあけて設けられ」(構成c)ることは、本願発明の「前記貫通孔内に、該貫通孔の貫通軸方向に並ぶ2以上の遮蔽体が設置され」(構成C)ることに相当する。 エ 断面が「山形」であることと断面が「半円」であることは、断面が凸形状である点で一致するから、引用発明の「前記遮蔽体は、断面形状が山形であって、同じ断面形状が遮蔽体の軸方向に連続するとともに、山の高さ(H)と比較して遮蔽体の長さ(Y)が大き」(構成d)いことは、本願発明の「前記遮蔽体は、断面形状が半円であって、同じ断面形状が軸方向に連続するとともに断面寸法に比して軸方向寸法が大きい筒形であ」(構成D)ることと、「前記遮蔽体は、断面形状が凸形状であって、同じ断面形状が軸方向に連続する形であ」(構成D´)る点で一致する。 オ 本願発明で特定する「断面形状が前記貫通孔の貫通軸方向と平行」とは、本願の発明の詳細な説明における「遮蔽体40は、貫通孔30を構成する内壁に設置される。このとき、図2に示すように、遮蔽体40の断面の向きが貫通軸方向と略平行(平行含む)となるよう設置される。」(【0027】)との記載及び下記図2(a)の記載に照らして、引用発明における、断面山形の断面の方向と貫通孔の軸線方向との関係(上記「4.」「(1)」「オ」第3図)と同じであると認められるから、引用発明の「2以上の前記遮蔽体は、前記貫通孔に設けられた前記筒体の内面を形成する一方の面と当該一方の面と対向する他方の面に交互に配置され」(構成e)ていることは、本願発明の「2以上の前記遮蔽体は、半円面の断面形状が前記貫通孔の貫通軸方向と平行又は略平行となる姿勢で、前記貫通孔を形成する内壁のうち上面と下面に交互に配置され、又は左側面と右側面に交互に配置され」(構成E)ることと、「2以上の前記遮蔽体は、凸形状の断面形状が前記貫通孔の貫通軸方向と平行又は略平行となる姿勢で、前記貫通孔を形成する内壁のうち一方の面と当該一方の面と対向する他方の面に交互に配置され」(構成E´)る点で一致する。 ・【図2】(a)は次のとおりである。 カ 引用発明の「貫通孔の遮蔽構造」(構成f)は、本願発明の「貫通孔内遮蔽構造」(構成F)に相当する。 キ 上記アないしカによれば、本願発明と引用発明は、 「A 放射線施設を構成する外周壁に設けられ、外部まで貫通する貫通孔の遮蔽構造において、 B 前記貫通孔の貫通軸は、直線の線形であり、 C 前記貫通孔内に、該貫通孔の貫通軸方向に並ぶ2以上の遮蔽体が設置され、 D´ 前記遮蔽体は、断面形状が凸形状であって、同じ断面形状が軸方向に連続する形であり、 E´ 2以上の前記遮蔽体は、凸形状の断面形状が前記貫通孔の貫通軸方向と平行又は略平行となる姿勢で、前記貫通孔を形成する内壁のうち一方の面と当該一方の面と対向する他方の面に交互に配置された、 F 貫通孔内遮蔽構造。」 である点で一致し、下記の各点で相違する。 (ア)相違点1 遮蔽体の断面形状が、本願発明は「半円」であり「断面寸法に比して軸方向寸法が大きい筒形」であるのに対して、引用発明は「山形」であり「山の高さ(H)と比較して遮蔽体の長さ(Y)が大き」い点。 (イ)相違点2 2以上の前記遮蔽体が、本願発明では、貫通孔を形成する内壁のうち「上面と下面」又は「左側面と右側面」に交互に配置されるのに対して、引用発明は「一方の面と当該一方の面と対向する他方の面」に交互に配置される点。 (2)判断 ア 相違点1 (ア)引用発明の「断面山形の突起からなる」「遮蔽体」は、引用文献1に、「『作用』 流体は放射線遮蔽壁の貫通孔内の遮蔽体に当たり蛇行し、放射線遮蔽壁は、貫通孔のない放射線遮蔽壁相当の放射線遮蔽能力を発揮する。」(上記「4.」「(1)」「イ」)と記載されていることに照らして、「貫通孔のない放射線遮蔽壁相当の放射線遮蔽能力を発揮」しつつ、「流体は放射線遮蔽壁の貫通孔内の遮蔽体に当たり蛇行」するよう作用するものであると解される。 なお、「貫通孔」は「原子力建屋を構成する放射線遮蔽壁」に設けられるから、「流体」は実体的には空気であると解される。 (イ)そうすると、引用発明を実施するに際して、遮蔽体の具体的形状は、流体(空気)が「放射線遮蔽壁の貫通孔内の遮蔽体に当たり蛇行」できる「断面山形の突起からなる」形状の範囲で適宜定められるところ、「山形」は、一般的には「山に似た形。中央が高く両側に低くなる形。」(大辞林 第三版)であって、「山」は必ずしも角部を有しないといけないわけではなく丸みを有する形状も含み得ることは一般常識であり、半円も含み得ることは明らかである。 また、半円という形状は一般的な形状であるから、「断面山形の突起からなる」「遮蔽体」として、「半円」の形状を選択することは当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。 そして、半円と例えば引用文献1の第3図(上記「(1)」「オ」)に記載された山形の形状を比較しても、必ずしも半円の方が流体が流れやすいと言えるものではなく、半円という形状を選択したことにより生じる効果は、当業者が予測し得る程度のものにすぎない。 (ウ)ここで、本願発明における「断面寸法に比して軸方向寸法が大きい」「形」の意味するところが曖昧であるが、本願の発明の詳細な説明の「断面寸法に比して軸方向寸法が大きい(長い)」(【0025】)の記載を参酌すれば、上記「(1)」「オ」の図2における断面形状が半円の高さ(半円の半径)又は底面の幅(半円の直径)に比して断面半円が連続する方向の長さが大きい形を特定しているものと解される。 そして、引用発明における「山の高さ(H)と比較して遮蔽体の長さ(Y)が大き」いとの構成は、上記本願発明の「断面寸法に比して軸方向寸法が大きい」との構成に相当することは明らかである。 (エ)また、「断面山形の突起からなる」「遮蔽体」を「半円」であって「断面寸法に比して軸方向寸法が大きい形」となすに際して、当該「遮蔽体」を筒形とすることは、部材を構成するにあたって通常用いられる形状の一つにすぎず、筒形とするか充実体とするかは発明を実施するに際して当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。 なお、引用発明は「断面山形の突起からなる」「遮蔽体」の素材は特定しないが、引用文献の、「一実施例」として「筒体12の内面には長方形の鉄板からなる複数(この実施例では4枚)の遮蔽体13,14が設けられている」(上記「4.」「(1)」「イ」)との記載、及び、「なお、前記実施例においては、筒体12の内面に板部材からなる遮蔽体13,14を設けたが、これに限られることなく、第3図に示すように筒体12の内面に、筒体12の軸線15の両側に位置させて複数の断面山形の突起からなる遮蔽体21,22を交互に間隔をあけて設けてもよい。」(上記「4.」「(1)」「ウ」)との記載を踏まえれば、「断面山形の突起からなる」「遮蔽体」を「筒形」とすることに格別の阻害要因は認められない。 (オ)したがって、引用発明において、本願発明における上記相違点1の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。 イ 相違点2 (ア)引用発明の「遮蔽体」は、「前記貫通孔に設けられた前記筒体の内面を形成する一方の面と当該一方の面と対向する他方の面に交互に配置された」(構成e)ものであるところ、当該筒体(角筒)の内面を形成する一方の面と他方の面を、上面と下面ないしは左側面と右側面とするかは筒体をどの方向から見るか程度の差異にすぎないから、実質的な相違点ではない。 (イ)また、仮に当該「上面と下面ないしは左側面と右側面」が貫通孔の形成される向きを特定するものであったとしても、貫通孔を原子力建屋の天井部分あるいは側壁部分に設けることは、原子力建屋における使用形態に応じて当業者が適宜選択し得ることにすぎず、本願発明における上記相違点2の構成となすことに格別の技術的困難性は認められない。 (3)請求人の審判請求書での主張について ア 請求人は審判請求書の「三. 本願発明が特許されるべき理由」「2.理由2(特許法第29条第2項)について」「a) 引用発明1との対比」において 「まず上記した手順(1)にあるように、本願発明と主引用発明(引用発明1)との間の相違点について検討する。 既述したとおり本願発明は、『断面形状が半円である筒形の遮蔽体が貫通孔内に設置される』という技術的特徴と、『半円断面が貫通軸方向と略平行(平行含む)となる姿勢で遮蔽体は配置される』という技術的特徴を備えている。本願発明の貫通孔のような管路(ダクト)内を流れる気体の圧力損失は、気体の流速vと密度γ、損失係数ζによって求められる。このうち損失係数ζは、管路の形状によって決定される定数であって、この値が小さいほど圧力損失を小さくすることができ、換言すればこの値が小さいほど気体は管路内を円滑に流れることができる。そして、管路が曲がる場合、『曲管(円弧上にカーブする部分)』の損失係数ζの方が、『折り継ぎ(直角に曲がる部分)』の損失係数ζよりも小さくなり、また、『円形管』の損失係数ζの方が、『矩形管』の損失係数ζよりも小さくなることが知られている。つまり、気体の流れを遮る障害物があったとしても、矩形など角が多い形状のものより円形など曲線形状のものの方が、その損失係数ζを小さくすることができるわけである。そのため、本願発明の遮蔽体は、矩形など角が多い形状とせず、表面が滑らかである半円の断面形状を採用している。また、半円の断面形状を生かすべく(つまり、空気等が遮蔽体を乗り越えやすいように)、この半円断面が貫通孔の貫通軸方向に対して垂直となる配置ではなく、半円断面が貫通孔の貫通軸方向に対して平行となる配置としている。 一方、引用発明1では、長方形の鉄板からなる遮蔽体13、14と、断面山形の突起からなる遮蔽体21、22を開示している。なお引用発明1では、筒体12が『鉄材からなる直状の筒体(角筒)』であることは示されているものの、遮蔽体13、14や遮蔽体21、22が筒形であることに関しては明示もなく示唆すらもされていない。 このように、『遮蔽体の断面形状が半円である』という点、『遮蔽体が筒状である』という点、そして『半円断面が貫通軸方向に対して平行となるように遮蔽体を配置する』という点において、本願発明と引用発明1は相違している。なお引用発明1では、貫通孔のないコンクリートからなる放射線構造壁と同様に遮蔽される遮蔽体の設計例を示しており、遮蔽体の先端面の長さtsをパラメータとする算定式によって遮蔽体の板厚tiを求めることとしている。つまり、引用発明1の遮蔽体には『先端面』を設ける必要があり、『先端面』がない半円断面の遮蔽体についてはそもそも引用発明1では考えられていないわけである。」 「また本願発明が設定した『放射線の遮蔽』と『空気等の円滑な流れ』の両方を実現するという解決課題は、従来にはなかった新規な課題である。審査基準では、『請求項に係る発明の解決すべき課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものである場合は、請求項に係る発明と主引用発明とは、解決すべき課題が大きく異なることが通常である。したがって、請求項に係る発明の課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものであることは、進歩性が肯定される方向に働く一事情になり得る。』としていることから、この点においても本願発明の進歩性が肯定されるべきと考える。 c) 有利な効果 審査基準では、『進歩性が肯定される方向に働く要素』として、『引用発明と比較した有利な効果』を挙げている。そこで、『引用発明と比較した有利な効果』について検討してみる。 出願時明細書(段落番号〔0037〕?[0040])の記載にもあるように、ここで示した条件で計算された本願発明の圧力損失Pは、64.8Paである。これに対して、従来技術(ガラリ設置)の圧力損失Pは、288.4Paであった。つまり本願発明の貫通孔内遮蔽構造は、空気等が大きな圧力損失を受けることなく、換言すれば空気等が極めて円滑に、貫通孔内を流れることができるとい効果であることは明らかであり、しかも従来技術に比して際立って優れた効果であって、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではない。審査基準では、このような効果を有する場合は、『進歩性が肯定される方向に働く有力な事情になる。』としている。したがって本願発明は、主引用発明に対して進歩性が肯定されるべきである。」 等主張する。 イ まず、本願明細書(段落番号【0037】?【0040】)の記載においては、本願発明の遮蔽体(図2(a)の半円筒形の遮蔽体または図2(b))角柱形の遮蔽体)を設置した場合(【0038】)と、ガラリを設置した場合(【0039】)を比較して、効果がある旨記載されているにとどまり、半円筒形の遮蔽体と引用発明の「断面山形の突起からなる」「遮蔽体」と比較して効果があるとは記載していない。また、上記「(2)」「ア」「(イ)」でも説示したように、半円の形状と山形の形状を比較しても、必ずしも半円の方が流体が流れやすいと言えるものではない。 したがって、本願発明が引用発明に比して「有利な効果」があるとの上記アの請求人の主張は採用できない。 ウ また、断面形状が半円の遮蔽体が容易に想到し得たことである点については上記(2)で述べた通りである。 エ 引用文献1には、先端面を備えた遮蔽体(第1図)に係る実施例(第3頁11行?第6頁第5行)と、これに限られることなく断面山形の突起からなる遮蔽体21、22(第3図)に係る実施例(第6頁第6?11行)が記載されており、断面山形の突起も想定されていることは明らかであるから、「引用発明1の遮蔽体には『先端面』を設ける必要があり、『先端面』がない半円断面の遮蔽体についてはそもそも引用発明1では考えられていない」との上記アの請求人の主張は採用できない。 オ さらに、上記アで請求人が主張する、「本願発明が設定した『放射線の遮蔽』と『空気等の円滑な流れ』の両方を実現するという解決課題」については、引用文献1に、「『作用』 流体は放射線遮蔽壁の貫通孔内の遮蔽体に当たり蛇行し、放射線遮蔽壁は、貫通孔のない放射線遮蔽壁相当の放射線遮蔽能力を発揮する。」(上記「4.」「(1)」「イ」)と記載されており、引用発明も「貫通孔のない放射線遮蔽壁相当の放射線遮蔽能力を発揮する」ために貫通孔を設けるものであって、貫通孔を設ける以上は円滑な流体(空気)の流れを企図するものであるから、「放射線の遮蔽」と「空気の円滑な流れ」の両方を実現するものである点で相違するものとはいえない。 カ したがって、請求人の主張は採用できない。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-07-16 |
結審通知日 | 2020-07-21 |
審決日 | 2020-08-05 |
出願番号 | 特願2015-111792(P2015-111792) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G21F)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小野 健二 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
野村 伸雄 松川 直樹 |
発明の名称 | 貫通孔内遮蔽構造 |
代理人 | 甲斐 哲平 |