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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C10K
管理番号 1366670
審判番号 不服2019-17063  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-18 
確定日 2020-09-24 
事件の表示 特願2015-154961「合成ガス生成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 9日出願公開、特開2017- 31367〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年8月5日を出願日とする特許出願であって、令和元年7月10日付けの拒絶理由に対し、同年9月12日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年9月19日付けの拒絶査定に対し、同年12月18日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和元年12月18日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和元年12月18日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
令和元年12月18日付け手続補正(以下「第2補正」という。)は、令和元年9月12日付け手続補正(以下「第1補正」という。)による補正後の請求項1の
「【請求項1】
原料をガス化して合成ガスを生成するガス化炉と、
前記ガス化炉で生成された合成ガス中のタールを改質する改質炉と、
を備え、
前記改質炉は、
前記合成ガスが流通する流通路と、
前記タールの改質を促進する触媒を前記流通路内に保持する触媒保持部と、
量論比以上の酸素で燃料を燃焼させることで生じた燃焼排ガスを、前記流通路における前記触媒保持部の上流側に設けられた排ガス供給口を通じて該流通路内に供給する燃焼排ガス供給部と、
前記合成ガスを旋回させて、前記流通路における前記排ガス供給口と前記触媒保持部との間に、前記合成ガスの旋回流を形成させる旋回手段と、
前記流通路における前記排ガス供給口と前記触媒保持部との間に設けられ、該排ガス供給口から該触媒保持部に向かって流路断面積を狭める絞部と、
前記流通路における前記排ガス供給口と前記触媒保持部との間に設けられ、該排ガス供給口から該触媒保持部に向かって流路断面積を広げる拡大部と、
を備えたことを特徴とする合成ガス生成装置。」
との記載を、第2補正による補正後の請求項1の
「【請求項1】
燃焼炉において燃料を燃焼させることで加熱された流動媒体が有する熱によって原料をガス化して合成ガスを生成するガス化炉と、
前記ガス化炉で生成された合成ガス中のタールを改質する改質炉と、
を備え、
前記改質炉は、
前記合成ガスが流通する流通路と、
前記タールの改質を促進する触媒を前記流通路内に保持する触媒保持部と、
前記燃焼炉で生じた燃焼排ガスを、前記流通路における前記触媒保持部の上流側に設けられた排ガス供給口を通じて該流通路内に供給する燃焼排ガス供給部と、
前記合成ガスを旋回させて、前記流通路における前記排ガス供給口と前記触媒保持部との間に、前記合成ガスの旋回流を形成させる旋回手段と、
前記流通路における前記排ガス供給口と前記触媒保持部との間に設けられ、該排ガス供給口から該触媒保持部に向かって流路断面積を狭める絞部と、
前記流通路における前記排ガス供給口と前記触媒保持部との間に設けられ、該排ガス供給口から該触媒保持部に向かって流路断面積を広げる拡大部と、
を備えたことを特徴とする合成ガス生成装置。」
との記載に改める補正を含むものである(補正箇所に下線を付した。)。

2.補正の適否
上記請求項1の補正は、第2補正による補正前の「量論比以上の酸素で燃料を燃焼させることで生じた燃焼排ガス」との記載部分を、補正後の「前記燃焼炉で生じた燃焼排ガス」との記載に改める補正(以下「改変補正」という。)を含むものである。
しかるに、補正前の「燃焼排ガス」が「量論比以上の酸素で燃料を燃焼させることで生じた」ものに特定されていたのに対して、補正後の「燃焼排ガス」は「前記燃焼炉で生じた」ものとして特定されるのみであって、補正前の「量論比以上の酸素で燃料を燃焼させることで生じた」ものに限られないものとなっているので、当該「改変補正」が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当するとは認められない。
また、補正前の「量論比以上の酸素で燃料を燃焼させることで生じた燃焼排ガス」との記載自体に不明瞭な点はなく、当該記載が不明瞭である旨の拒絶の理由も示されておらず、当該記載を補正後の「前記燃焼炉で生じた燃焼排ガス」との記載に改変することが単なる「釈明」であるともいえないことから、当該「改変補正」が同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当するとは認められない。
さらに、補正前の「量論比以上の酸素で燃料を燃焼させることで生じた燃焼排ガス」との記載が、もともと「前記燃焼炉で生じた燃焼排ガス」という範囲を意図していたといえる事情は見当たらないから、当該「改変補正」が同3号に掲げる「誤記の訂正」に該当するとは認められない。
そして、当該「改変補正」によって「請求項の削除」がなされるとはいえないから、当該「改変補正」が同1号に掲げる「第36条第5項に規定する請求項の削除」を目的とするものに該当するとは認められない。
してみると、当該「改変補正」は、目的要件を満たすものではなく、第2補正は、目的要件違反があるという点において特許法第17条の2第5項の規定に違反する。
したがって、第2補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本1発明
第2補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明は、第1補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)は、上記『第2 1.』に示したとおりである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は「この出願については、令和1年7月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
そして、令和1年7月10日付け拒絶理由通知書には、理由2として「2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示されるとともに、その「記」には、次のとおりの指摘がなされている。
「●理由2について ・請求項1?5 ・引用文献1?5 …
<引用文献等一覧>
1.特開2012-224819号公報
2.特開2003-336079号公報
3.特開平11-21564号公報
4.特開2015-59158号公報
5.特開2006-231301号公報」

さらに、原査定の備考欄には、次のとおりの指摘がなされている。
「●理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項1,2
・引用文献1?5
上記拒絶理由通知書に記載したとおり、引用文献1には、原料をガス化して合成ガスを生成するガス化炉と、前記ガス化炉で生成された合成ガス中のタールを改質する改質炉と、を備え、前記改質炉は、前記合成ガスが流通する流通路と、前記タールの改質を促進する触媒を前記流通路内に保持する触媒保持部と、理論酸素量(理論酸素比1)の酸素で燃料を燃焼させることで生じた燃焼排ガスを、前記流通路における前記触媒保持部の上流側に設けられた排ガス供給口を通じて該流通路内に供給する燃焼排ガス供給部と、を備えた合成ガス生成装置が記載されており、燃焼排ガス供給部が、気体燃料を酸素で燃焼させることで生じた燃焼排ガスを流通路に供給することも記載されている。
また、引用文献2には、原料をガス化して合成ガスを生成するガス化炉と、前記ガス化炉で生成された合成ガス中のタールを改質する改質炉と、を備え、前記改質炉は、前記合成ガスが流通する流通路と、バーナの燃焼空気比を1以上として酸素で燃料を燃焼させることで生じた燃焼排ガスを、前記流通路における上流側に設けられた排ガス供給口を通じて該流通路内に供給する燃焼排ガス供給部とを備えた合成ガス生成装置が記載されており、合成ガス中のタールの改質を促進するために、触媒を用いることは、引用文献1,3に記載されているとおり普通に知られているから、引用文献2に記載された発明において、流通路内にタールの改質を促進する触媒を保持する触媒保持部を設けることは、当業者が容易に為し得ることである。
そして、合成ガス中のタールを改質する装置において、合成ガスを旋回させて旋回流を形成させる旋回手段を設ける構成、及び、流通路において流路断面積を狭める絞部や流路断面積を広げる拡大部を設ける構成は、引用文献4,5に、それぞれ記載されているとおり公知であるから、引用文献1,2に記載された発明において、これらの構成を適用することは、当業者が格別困難なく為し得ることである。
ここで、出願人は意見書において「しかし、引用文献4の技術は、改質炉内においてガス化ガスに酸化剤を供給し、ガス化ガスの一部を燃焼させて昇温しタールを改質する技術です。燃焼は、混合せずとも順次進行するため、燃焼によってガス化ガスを昇温する引用文献4の技術では、旋回手段のみで効率よく燃焼を促進できるという目的を達成することができます。つまり、引用文献4の技術は、旋回手段のみを備えるだけで、ガス化ガスと酸化剤との混合を促進できるというものです。
同様に、引用文献5の技術も、改質炉内においてガス化ガスに酸素を供給し、ガス化ガスの一部を燃焼させて昇温しタールを改質する技術です。燃焼は、混合せずとも順次進行するため、燃焼によってガス化ガスを昇温する引用文献5の技術では、邪魔板のみで効率よく燃焼を促進できるという目的を達成することができます。つまり、引用文献5の技術は、邪魔板のみを備えるだけで、ガス化ガスと酸素との混合を促進できるというものです。
したがいまして、引用文献4、5の技術では、旋回手段および邪魔板を両方とも備える必要性がなく、旋回手段および邪魔板を両方とも備えるという思想はありません。」と主張している。
しかしながら、当該技術分野において、ガスの混合を効率よく行うことは当然の課題であるところ、引用文献4,5に記載された上記構成は、いずれも混合を促進するための構成であるから、両者の構成を組み合わせて更なる混合の効率化を図ることは、当業者であれば当然に行う創作の範囲内のことである。
そうすると、引用文献1,2に記載された発明において、合成ガスと燃焼排ガスとの混合を促進するために、引用文献4,5に記載された上記構成を組み合わせて適用することは、当業者が容易に為し得ることであるといわざるを得ない。
したがって、請求項1,2に係る発明は、引用文献1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

3.理由2(進歩性)について
(1)引用文献1及び4?5の記載事項
上記「引用文献1」には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「【請求項1】可燃性ガスであるガス化ガス中に含まれるタール分を金属系触媒によって分解するタール分解方法であって、
前記金属系触媒が配置された反応容器内に、酸化剤と可燃性ガスとの混合ガスを供給することで、前記金属系触媒および/または前記ガス化ガスの温度を昇温するタール分解方法。」

摘記1b:段落0002?0003及び0009
「【0002】木屑や下水汚泥のような有機物を含む廃棄物(有機系廃棄物)やバイオマス等をガス化する設備では、タールを分解するための触媒充填層式タール分解設備が設置される。この触媒は適正な温度(例えば700?950℃)があり、運転中に適性温度以下になった場合、酸化剤(空気、酸素、酸素富化空気など)を供給し、ガス化ガスを燃焼させ昇温し、その温度を適正範囲に制御するようにしている。ガス分解設備に酸化剤を供給して、ガス化ガスを燃焼させるタール分解設備がある(特許文献1)。
【0003】しかし、ガス化ガスは還元性気体であり、ガス化ガス中に酸化剤を供給する場合、酸化剤とガス化ガスとの混合が十分でない場合は、すすが発生する。特にガス化ガス中はすすの前駆体といわれている芳香族系炭化水素類(ベンゼン、トルエン、ナフタレン、アントラセンなど)がタールとして存在し、すすが発生しやすい雰囲気になっている。このように、酸化剤の供給方法によっては、すすの発生を招き、触媒自体に付着して、タール分解性能の低下を引き起こしたり、さらに触媒層にすすが堆積すれば、触媒層の閉塞を引き起こす。
・・・
【0009】この構成によって、混合ガス(酸化剤および可燃性ガス)をガス化ガス中に供給し、安定かつ良好な燃焼(予混合燃焼)を行えるので、すすの発生を抑制できる。さらに、安定かつ良好な燃焼を維持できるため、金属系触媒の触媒効果が有効に発揮される反応温度域を安定に維持することができ、タール分解効率を飛躍的に向上できる。」

摘記1c:段落0011?0013
「【0011】都市ガス、LPガスは市場で流通しているため供給確保が容易である。バイオガスとしては、例えば、メタン発酵や下水汚泥の消化ガスが挙げられる。タール分解設備でタール分解処理された後のガス化ガスを、還流経路(配管)を通じて混合ガス成分である可燃性ガスに用いることができる。また、タール分解設備の下流に配置されるガス精製設備で精製されたガス化ガスを、還流経路(配管)を通じて混合ガス成分である可燃性ガスに用いることができ、かかる場合、ガス化ガスの温度がタール分解処理後のガス化ガスよりも低温になるため、制御装置などの設置を容易にできるので好ましい。
【0012】上記方法の実施態様として、前記混合ガス中の前記可燃性ガスの混合量が、理論酸素比の1以下である。理論酸素比は、一定量の可燃性ガスを完全燃焼(酸化反応)させるのに必要な酸素量比である(可燃性ガスを1とする)。別の表現でいえば、前記混合ガス中の前記可燃性ガスの混合量が、当該可燃性ガスが完全燃焼するのに必要な理論酸素量に対して1倍以上である。その理由は、運転状態、燃料、装置形状などの要因により、混合する可燃性ガス(例えば外部燃料、処理対象のガス化ガス)の混合量を理論酸素比(あるいは理論空気比)の1以下で調整することが好ましいからである。
【0013】上記方法の実施態様として、前記混合ガス中の前記可燃性ガスに、タール分解処理されたガス化ガス、または、タール分解処理かつガス精製処理されたガス化ガスを用いる場合において、当該供給される可燃性ガスの量が、当該ガス化ガス中の可燃成分を測定し、当該測定結果に基づいて理論酸素量を演算し、理論酸素比の1以下になるように当該ガス化ガスの送り込みを行う。なお、「理論酸素比の1以下」を別の表現でいえば、「理論酸素量に対し1倍以上」である。」

摘記1d:段落0026?0031、0035及び0042
「【0026】本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明に係る一実施形態に係るタール分解設備10の概略を示す。以下に各構成要素について説明する。
【0027】先ず、ガス化設備1は、例えば、流動層ガス化炉、循環流動層ガス化炉等で構成される。ガス化設備1は、例えば、バイオマス燃料、石炭、コークス、廃油、その他の有機性化合物を、熱分解等の方法でガス化し、ガス化ガスGを生成する。この生成されたガス化ガスGは後段の高温集塵設備2に送給される。
【0028】高温集塵設備2は、ガス化設備1とタール分解設備10の間に設置され、セラミックフィルターなどから構成され、ガス化ガスG中のダスト等を集塵・除去することができる。なお、この高温集塵設備2は必須ではなく省略される構成もある。
【0029】タール分解設備10は、ガス化設備1によって生成されたガス化ガスG(約800?900℃程度)中のタール成分を金属系触媒によって処理する機能を有している。タール分解設備10は、触媒層12を反応容器10a内に配置している。反応容器10aは、例えば、断熱型固定床反応容器で構成されている。なお、触媒層12は、単層構造でもよく、2層以上の構造でもよい。また、複数のタール分解設備10を直列に配置してタール分解処理を多段階に行うように構成してもよく、あるいは、複数のタール分解設備10を並列に配置して、それぞれ交互にタール分解処理を行うように構成してもよい。
【0030】触媒層12の金属系触媒は、例えば、ニッケル系触媒、コバルト系触媒、鉄系触媒、クロム系触媒および銅系触媒から選択される単体構成あるいは複数の組合せ構成が挙げられる。ニッケル系触媒としては、例えば、Ni/Al_(2)O_(3)、Ni/MgO、Ni/MgO・CaO等が例示され、ニッケル、マグネシアおよびカルシアを含む複合酸化物の改質触媒がより好ましい。これらの金属系触媒の反応温度は、金属系触媒の劣化温度未満であり、例えば、700℃以上950℃未満の範囲であり、好ましくは800℃以上900℃未満の範囲である。本発明においては金属系触媒の反応温度域を維持できるように各種の制御が実行される。
【0031】タール分解設備10に導入(供給)されたガス化ガスGは、触媒層12の金属系触媒によってガス化ガス中のタールが分解される。その後、ガス化ガスGは、ガス精製設備3に送給されガス化ガスが精製され、ガス利用設備4に送給され燃焼等に提供される。ガス精製設備3は、例えば、ガス冷却装置、バグフィルター等の低温集塵装置、湿式ガス精製設備等を単独であるいはそれらの組合せで構成できる。ガス利用設備4は、例えば、ボイラ等の燃焼設備、ガスタービン、ガスエンジン等の発電設備等を単独であるいはそれらの組合せで構成される。
・・・
【0035】混合ガス生成手段23に供給される酸化剤は、酸化剤調節装置21によって、単位時間当たりの供給量、流速が調整される。酸化剤は、酸化剤の貯留容器(不図示)からコンプレッサー等で供給される。酸化剤調節装置21は、流量計、流量調節弁、流速計、流速調整のための流速調節機能を備える。酸化剤調節装置21は後述する制御装置20からの指令に応じて酸化剤の供給制御を行う。
・・・
【0042】制御装置20(制御手段に相当する)は、温度測定手段14で測定された触媒層12の温度を当該触媒の反応温度範囲(例えば700℃以上950℃未満)になるように、酸化剤調節装置21および外部燃料調節装置22を制御する。また、制御装置20は、混合ガス中の外部燃料と酸化剤の配合比が、理論酸素比(あるいは理論空気比)の1以下になるように酸化剤調節装置21および外部燃料調節装置22を制御する。また、制御装置20は、ガス組成測定器16で測定されたガス化ガスの組成およびその濃度に基づいて、酸化剤調節装置21および外部燃料調節装置22を制御する。」

摘記1e:段落0055?0056
「【0055】(実施形態3)
図3に示す、実施形態3の混合ガス供給手段111は、着火装置(不図示)を備えるバーナとして構成される。酸化剤と可燃性ガスが予め混合された混合ガスが供給される雰囲気が、例えば700℃以下の低温雰囲気の場合では、供給した混合ガス中の燃料の酸化反応が促進されないため、供給ノズル単体よりも着火装置を備えたバーナから供給することが好ましい。着火装置で混合ガスを燃焼(火炎)させてガス化ガスを昇温する。図3に示すように、混合ガス生成手段23から送られた混合ガスは、バーナ室112で着火装置によって着火され、燃焼した状態で反応容器10a内に送られる。
【0056】図3では、混合ガス供給手段111は、反応容器10aの外壁部に付属設置したバーナ室112に設置されているが、これに制限されず、反応容器10a内に設置されていてもよい。可燃性ガスとしては、外部燃料に限らず、実施形態2の還流ガス化ガスを用いてもよい。」

摘記1f:図3




上記「引用文献4」には、次の記載がある。
摘記4a:段落0016
「【0016】本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)請求項1に示した構成を有するガス化ガス中のタールの改質装置は、タールを含むガス化ガスをガス化ガス供給ノズルから改質炉内に吹き込んで、該改質炉内に軸心方向の一端側から他端側に向かう旋回流を形成させるときに、上記ガス化ガス供給ノズルに予め吹き込んで旋回させながら改質炉内に吹き込まれる酸化剤により、ガス化ガスの流れに螺旋渦を形成させることができる。
(2)このため、改質炉内へ供給されるガス化ガスに対する酸化剤の混合を促進させることができて、上記ガス化ガス中に含まれるタールの改質処理の処理効率の向上化を図ることができる。
(3)請求項5に示した構成を有するガス化ガス中のタールの改質方法によれば、上記(1)(2)と同様の効果を得ることができる。」

摘記4b:図1(a)




上記「引用文献5」には、次の記載がある。
摘記5a:段落0027及び0029
「【0027】次に、改質炉3の構成について詳細に説明する。図2は、本発明を適用してなる廃棄物ガス化装置の改質炉3の一例を示し、(a)は上断面図、(b)は横断面図を表している。
・・・
【0029】容器41の内部には、生成ガスが流れるガス流路が形成され、このガス流路には、生成ガスの流れを妨げる邪魔板48が、内壁の周方向全体からガス流路の断面中心に向かって突出して形成されている。このため、容器41内を流れる生成ガスは、邪魔板48によって流れ方向が乱されるため、例えば、生成ガス中のタール分のショートパスを抑制することができる。また、邪魔板48を形成することにより、輻射効果を大きくできるため、熱ロスが低減され、タール分の分解効率を向上させることができる。」

摘記5b:図2(a)




(2)刊行物1に記載された発明
摘記1dの「ガス化設備1は、例えば、バイオマス燃料、石炭、コークス、廃油、その他の有機性化合物を、熱分解等の方法でガス化し、ガス化ガスGを生成する。…
タール分解設備10は、ガス化設備1によって生成されたガス化ガスG(約800?900℃程度)中のタール成分を金属系触媒によって処理する機能を有している。タール分解設備10は、触媒層12を反応容器10a内に配置している。…
タール分解設備10に導入(供給)されたガス化ガスGは、触媒層12の金属系触媒によってガス化ガス中のタールが分解される。その後、ガス化ガスGは、ガス精製設備3に送給されガス化ガスが精製され、ガス利用設備4に送給され燃焼等に提供される。…
混合ガス生成手段23に供給される酸化剤は、酸化剤調節装置21によって、単位時間当たりの供給量、流速が調整される。…
制御装置20は、混合ガス中の外部燃料と酸化剤の配合比が、理論酸素比(あるいは理論空気比)の1以下になるように酸化剤調節装置21および外部燃料調節装置22を制御する。」との記載、
摘記1eの「図3に示す、実施形態3の混合ガス供給手段111は、着火装置(不図示)を備えるバーナとして構成される。…着火装置で混合ガスを燃焼(火炎)させてガス化ガスを昇温する。図3に示すように、混合ガス生成手段23から送られた混合ガスは、バーナ室112で着火装置によって着火され、燃焼した状態で反応容器10a内に送られる。」との記載、及び
摘記1fの「図3」の記載からみて、引用文献1には、
『バイオマス燃料、石炭、コークス、廃油、その他の有機性化合物を、熱分解等の方法でガス化し、ガス化ガスGを生成するガス化設備1と、
ガス化設備1によって生成されたガス化ガスG中のタール成分を金属系触媒によって処理する機能を有し、触媒層12を反応容器10a内に配置しているタール分解設備10と、
触媒層12の金属系触媒によってガス化ガス中のタールが分解されたガス化ガスGを精製するガス精製設備3とを備え、
制御装置20により、混合ガス中の外部燃料と酸化剤の配合比が、理論酸素比(あるいは理論空気比)の1以下になるように酸化剤調節装置21および外部燃料調節装置22を制御して供給される混合ガス生成手段23から送られた混合ガスが、
着火装置を備えるバーナとして構成される実施形態3の混合ガス供給手段111により供給され、
バーナ室112で着火装置によって着火され、燃焼した状態で反応容器10a内に送られる、ガス化ガスGを生成する設備。』についての発明(以下「引1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本1発明と引1発明とを対比する。
引1発明の「バイオマス燃料、石炭、コークス、廃油、その他の有機性化合物を、熱分解等の方法でガス化し、ガス化ガスGを生成するガス化設備1」は、その「バイオマス燃料、石炭、コークス、廃油、その他の有機性化合物」が本1発明の「原料」に対応し、その「ガス化設備1」が本1発明の「ガス化炉」(116)に対応するので、本1発明の「原料をガス化して合成ガスを生成するガス化炉」に相当する。
引1発明の「ガス化設備1によって生成されたガス化ガスG中のタール成分を金属系触媒によって処理する機能を有し、触媒層12を反応容器10a内に配置しているタール分解設備10」は、その「触媒層12」が本1発明の「タールの改質を促進する触媒を前記流通路内に保持する触媒保持部」(220)に対応し、その「ガス化ガスG」が「反応容器10a内」の触媒と接触するように流通できる経路を備えていることが明らかであるから、本1発明の「前記ガス化炉で生成された合成ガス中のタールを改質する改質炉」(200)に相当するとともに、本1発明の「前記合成ガスが流通する流通路」(216)と「前記タールの改質を促進する触媒を前記流通路内に保持する触媒保持部」(220)を備えた「改質炉」(200)に相当する。
引1発明の「混合ガス中の外部燃料と酸化剤の配合比が、理論酸素比(あるいは理論空気比)の1以下になるように…制御して供給される混合ガス生成手段23から送られた混合ガスが、…混合ガス供給手段111により…燃焼した状態で反応容器10a内に送られる」は、その「1以上」は1を含むから、「理論酸素比(あるいは理論空気比)の1」に制御して「燃焼した状態」で送られる「混合ガス」が本1発明の「量論比以上の酸素で燃料を燃焼させることで生じた燃焼排ガス」に一致し、引用文献1の図3(摘記1f)において「反応容器10a」の左上に配置された「混合ガス供給手段111」が本1発明の「前記触媒保持部の上流側に設けられた排ガス供給口を通じて該流通路内に供給する燃焼排ガス供給部」(230)に対応するので、本1発明の「量論比以上の酸素で燃料を燃焼させることで生じた燃焼排ガスを、前記流通路における前記触媒保持部の上流側に設けられた排ガス供給口を通じて該流通路内に供給する燃焼排ガス供給部」(230)に相当する。

してみると、本1発明と引1発明は『原料をガス化して合成ガスを生成するガス化炉と、
前記ガス化炉で生成された合成ガス中のタールを改質する改質炉と、
を備え、
前記改質炉は、
前記合成ガスが流通する流通路と、
前記タールの改質を促進する触媒を前記流通路内に保持する触媒保持部と、
量論比以上の酸素で燃料を燃焼させることで生じた燃焼排ガスを、前記流通路における前記触媒保持部の上流側に設けられた排ガス供給口を通じて該流通路内に供給する燃焼排ガス供給部と、
を備えた合成ガス生成装置。』という点において一致し、次の(α)及び(β)の点において相違する。

(α)改質炉が、本1発明は「前記合成ガスを旋回させて、前記流通路における前記排ガス供給口と前記触媒保持部との間に、前記合成ガスの旋回流を形成させる旋回手段」を備えるのに対して、引1発明は当該「旋回手段」を備えるものではない点。

(β)改質炉が、本1発明は「前記流通路における前記排ガス供給口と前記触媒保持部との間に設けられ、該排ガス供給口から該触媒保持部に向かって流路断面積を狭める絞部と、前記流通路における前記排ガス供給口と前記触媒保持部との間に設けられ、該排ガス供給口から該触媒保持部に向かって流路断面積を広げる拡大部」を備えるのに対して、引1発明は当該「絞部」と「拡大部」を備えるものではない点。

(4)判断
先ず、上記(α)の相違点について、引用文献4の段落0016(摘記4a)の「タールを含むガス化ガスをガス化ガス供給ノズルから改質炉内に吹き込んで…旋回流を形成させ…改質炉内へ供給されるガス化ガスに対する酸化剤の混合を促進させ…タールの改質処理の処理効率の向上化を図ることができる。」との記載にあるように、タールの改質処理の技術分野において「合成ガスの旋回流を形成させる旋回手段」を「改質炉」に設けて「混合」の促進と「タールの改質処理の処理効率の向上」を図ることは知られているので、引1発明に引用文献4記載の発明を組み合わせて、上記(α)の相違点に係る構成を具備するようにすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。

次に、上記(β)の相違点について、引用文献5の段落0029(摘記5a)の「容器41内を流れる生成ガスは、邪魔板48によって流れ方向が乱されるため、例えば、生成ガス中のタール分のショートパスを抑制することができる。また、邪魔板48を形成することにより、輻射効果を大きくできるため、熱ロスが低減され、タール分の分解効率を向上させることができる。」との記載、及び図2(摘記5b)の邪魔板48の形状の図示にあるように、タールの改質処理の技術分野において「流路断面積を狭める絞部」と「流路断面積を広げる拡大部」を「改質炉」に設けて「生成ガス中のタール分のショートパス」を抑制し「タール分の分解効率を向上」させることは知られているので、引1発明に引用文献5記載の発明を組み合わせて、上記(β)の相違点に係る構成を具備するようにすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。

そして、本1発明の効果について検討するに、本願明細書の段落0016には「本発明によれば、煤の発生を回避しつつ、合成ガスの温度を上昇させることが可能となる。」という効果が記載されているところ、
引用文献1の段落0002?0003及び0009(摘記1b)には「酸化剤とガス化ガスとの混合」を十分にすることで「すすの発生を抑制」するとともに「タールを分解するための触媒」の「適正な温度」にまで「昇温」させることで「金属系触媒の触媒効果が有効に発揮される反応温度域を安定に維持」することができ「タール分解効率を飛躍的に向上できる」ということが記載されているので、本1発明の上記効果が格別予想外であるとはいえない。
また、本願明細書の段落0041には「旋回過程において…合成ガスX1と燃焼排ガスとが効率よく混合される」ことが記載され、同段落0043には「流路断面積変更部240を備える構成により…合成ガスX1と燃焼排ガスの混合を促進することが可能となる」ことが記載されているところ、
引用文献4の段落0016(摘記4a)には「旋回流」を形成させることで「ガス化ガスに対する酸化剤の混合を促進」させて「タールの改質処理の処理効率の向上」を図ることができることが記載され、
引用文献5の段落0029(摘記5a)には「邪魔板48」を形成することで「生成ガス中のタール分のショートパスを抑制」して「タール分の分解効率を向上」できることが記載されているので、本1発明の上記効果が格別予想外であるとはいえない。

したがって、本1発明は、引用文献1及び4?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)審判請求人の主張について
令和元年9月12日付けの意見書の4.において、審判請求人は「引用文献4、5の技術では、旋回手段および邪魔板を両方とも備える必要性がなく、旋回手段および邪魔板を両方とも備えるという思想はありません。このため、仮に引用文献1、2に引用文献4を組み合わせることができたとしても、旋回手段を備えるだけの構成となります。また、仮に引用文献1、2に引用文献5を組み合わせることができたとしても、邪魔板を備えるだけの構成となります。」との主張をしているが、引1発明に、引用文献4及び5の各々に記載の技術を組み合わせることは、当業者にとって「先行技術の単なる寄せ集め」にすぎないから、本1発明を想到することが当業者にとって格別困難なことであったとは認められず、上記意見書の主張は採用できない。

また、令和元年12月18日付けの審判請求書の3.(3)において、審判請求人は「補正後の請求項1に係る発明は、合成ガスの温度を上昇させるために混合する燃焼排ガスとして、合成ガスの生成において燃焼炉で副次的に生じた燃焼排ガスを利用することができ、燃焼排ガスを生成するための燃料や酸素、装置等を省略することが可能となり、低コストで合成ガスの温度を上昇させることができるという特段の効果を奏する。」との主張をしているが、第2補正は上記のとおり却下されているので、上記審判請求書の主張も採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献1及び4?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、原査定に誤りはなく、その余の理由及び請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-07-14 
結審通知日 2020-07-21 
審決日 2020-08-04 
出願番号 特願2015-154961(P2015-154961)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10K)
P 1 8・ 572- Z (C10K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 天野 斉
木村 敏康
発明の名称 合成ガス生成装置  
代理人 特許業務法人青海特許事務所  

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