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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C23C
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 C23C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 取り消して特許、登録 C23C
管理番号 1366779
審判番号 不服2019-13495  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-09 
確定日 2020-10-28 
事件の表示 特願2016-565413「CVD又はPVDコーティング装置にプロセスガス混合物を供給するための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月12日国際公開、WO2015/169882、平成29年 8月10日国内公表、特表2017-522447、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)5月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年5月9日(DE)ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、平成31年1月17日付けで拒絶理由が通知され、同年3月14日付けの意見書及び手続補正書が提出されたが、令和元年6月25日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月9日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
理由1.(進歩性)この出願の平成31年3月14日付け手続補正に基づく特許請求の範囲の請求項1-6、8-11に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用文献1、2に記載された発明に基いて、また、同じく請求項7、12に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用文献1?4に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2003-142473号公報
2.米国特許出願公開第2013/0061759号明細書
3.特開平11-293465号公報(周知技術を示す文献)
4.特開昭59-49829号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
(1)補正の内容
審判請求時の補正は、以下の補正事項1?4を含む(下線は補正箇所であり、当審で付した)。
補正事項1:
請求項1が「前記第1混合室(12)では複数段の第1ガス偏向要素(13)がフロー方向に重なって配置されることにより、周方向において時計回りと反時計回りに行われる複数回の各ガス流の偏向及び各ガス流の混合が生じ、かつ、螺旋状で層状の流れが生じ」という発明特定事項を含むものとすること。
補正事項2:
請求項1が「前記第2混合室(15)にてフロー方向に重なって配置された複数段の第2ガス偏向要素(16)であって各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有しかつ一つが他の一つの上に置かれて支持された前記複数段の第2ガス偏向要素(16)により前記第1ガス流の複数回の偏向を生じ」という発明特定事項を含むものとすること。
補正事項3:
請求項8が「前記第1混合室(12)内でフロー方向に重なって配置された複数段の第1ガス偏向要素(13)を用いて各ガス流を、周方向において時計回りと反時計回りに複数回偏向しかつ各ガス流を混合し、かつ、螺旋状で層状の流れを生じさせるステップと、」という発明特定事項を含むものとすること。
補正事項4:
請求項8が「前記第2混合室(15)にてフロー方向に重なって配置された複数段の第2ガス偏向要素(16)であって各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有しかつ一つが他の一つの上に置かれて支持された前記複数段の第2ガス偏向要素(16)を用いて前記ガス流を複数回偏向させるステップと」という発明特定事項を含むものとすること。

(2)補正の適否
(2-1)補正の目的要件について
補正事項1は、「周方向において時計回りと反時計回りに行われる」との構成を直列的に付加する補正であり、「複数回の各ガス流の偏向及び各ガス流の混合が生じ、かつ、螺旋状で層状の流れが生じ」との構成を、概念的に、より下位の発明特定事項とする補正であるため、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。補正事項3についても同様に、概念的に、より下位の発明特定事項とする補正であるため、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正事項2は、「各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有しかつ一つが他の一つの上に置かれて支持された」との構成を直列的に付加する補正であり、「複数段の第2ガス偏向要素(16)」との構成を、概念的に、より下位の発明特定事項とする補正であるため、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。補正事項4についても同様に、概念的に、より下位の発明特定事項とする補正であるため、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、いずれにおいても、補正前後の発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるのは明らかであるといえる。
よって、補正は、特許法第17条の2第5項第2号に該当する。

(2-2)新規事項の追加の有無、単一性について
補正事項1、3は、当初明細書の段落0042等に記載されているものであるから、特許法第17条の2第3項の規定を満たすものである。
補正事項2、4は、当初明細書の段落0039等に記載されているものであるから、特許法第17条の2第3項の規定を満たすものである。
補正前後の発明が単一性を満たすのは明らかであるから、補正は、特許法第17条の2第4項の規定を満たすものである。

(2-3)独立特許要件について
後記する「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-12に係る発明は、特許法第17条の2第6項の規定で準用する同法第126条第7項で規定する独立特許要件を満たすものである。

(2-4)むすび
したがって、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

第4 本願発明
上記第3のとおりであるから、本願に係る発明は、審判請求時の令和元年10月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明12」という。)。
「 【請求項1】
プロセスチャンバ及びガス供給装置を有するCVD又はPVD反応炉であって、
前記ガス供給装置は、中心の周りにスター状に配置されそれぞれ気化ガスソース(21)と接続された各入口ダクト(22)を具備し、該各入口ダクト(22)はそれぞれ前記ガスソース(21)から供給された各ガス流を、中心の周りに環状円筒形にて配置された第1混合室(12)に供給し、
前記第1混合室(12)では複数段の第1ガス偏向要素(13)がフロー方向に重なって配置されることにより、周方向において時計回りと反時計回りに行われる複数回の各ガス流の偏向及び各ガス流の混合が生じ、かつ、螺旋状で層状の流れが生じ、
前記ガス供給装置はオーバーフロー障壁(14)を具備し、前記第1混合室(12)から出た全ての各ガス流からなる第1ガス流が前記オーバーフロー障壁(14)を超えて180°向きを変えさせられて前記第1混合室(12)の内側に配置された第2混合室(15)に流れ、前記第2混合室(15)にてフロー方向に重なって配置された複数段の第2ガス偏向要素(16)であって各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有しかつ一つが他の一つの上に置かれて支持された前記複数段の第2ガス偏向要素(16)により前記第1ガス流の複数回の偏向を生じ、
前記ガス供給装置はガス出口ダクト(8)を具備し、前記ガス出口ダクト(8)は前記第2混合室(15)からCVD又はPVDコーティング装置(1)のガス入口部材(5)への前記ガス流の出口のために中心に配置され、
2つの前記混合室(12,15)と前記気化ガスソース(21)とからなる前記ガス供給装置が前記プロセスチャンバ(2)の鉛直方向上方に配置され、かつ、
前記ガスソース(21)から前記ガス入口部材(5)までの各ガス流の有効行程長が互いに同じであることを特徴とする
CVD又はPVD反応炉。
【請求項2】
前記入口ダクト(22)が入口平面に配置されかつ共通の中心を向いており、前記ガス出口ダクト(8)が入口平面に対して交差する方向に延在することを特徴とする
請求項1に記載のCVD又はPVD反応炉。
【請求項3】
前記第1混合室(12)が予備混合室であり、かつ、前記第2混合室(15)が渦流生成室であって前記第2混合室(15)内に渦状の第2ガス流を生成するために第2ガス偏向要素(16)を具備することを特徴とする
請求項1又は2に記載のCVD又はPVD反応炉。
【請求項4】
第1又は第2の前記混合室(12、15)が、同心状の管(18,19)から形成されており、それらは反対方向に流れられ通過されることを特徴とする
請求項1?3のいずれかに記載のCVD又はPVD反応炉。
【請求項5】
第1又は第2の前記混合室(12,15)の直径が、第1又は第2の前記混合室(12,15)の軸方向高さより短いことを特徴とする
請求項1?4のいずれかに記載のCVD又はPVD反応炉。
【請求項6】
前記ガスソース(21)及び前記混合室(12,15)が、前記反応炉ハウジング(1)の上壁の真上に配置されていることを特徴とする
請求項1?5のいずれかに記載のCVD又はPVD反応炉。
【請求項7】
希釈ガス流の流入のための付加的なガス入口ダクト(22’)があることを特徴とする
請求項1?6のいずれかに記載のCVD又はPVD反応炉。
【請求項8】
CVD又はPVDコーティング装置のガス入口部材(5)にプロセスガスを供給するための方法であって、
複数のプロセスガスの各々をそれぞれのガスソース(21)に供給するステップと、
複数のプロセスガスの各々を各ガス流として他の各ガス流とは分離して各ガスソース(21)から、中心の周りにスター状に配置された各入口ダクト(22)をそれぞれ通って中心の周りに環状円筒形にて配置された第1混合室(12)に送るステップと、
前記第1混合室(12)内でフロー方向に重なって配置された複数段の第1ガス偏向要素(13)を用いて各ガス流を、周方向において時計回りと反時計回りに複数回偏向しかつ各ガス流を混合し、かつ、螺旋状で層状の流れを生じさせるステップと、
全ての各ガス流からなる第1ガス流を、オーバーフロー障壁(14)を超えさせ180°向きを変えさせて前記第1混合室(12)の内側に配置された第2混合室(15)にオーバーフローさせるステップと、
前記第2混合室(15)にてフロー方向に重なって配置された複数段の第2ガス偏向要素(16)であって各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有しかつ一つが他の一つの上に置かれて支持された前記複数段の第2ガス偏向要素(16)を用いて前記ガス流を複数回偏向させるステップと、
全ての各ガス流からなるガス流をガス出口ダクト(8)から前記ガス入口部材(5)に送出するステップと、を有し、
前記ガスソース(21)と前記ガス入口部材(5)の間の行程における前記ガスの有効滞在時間が最大で10ミリ秒異なることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記ガスソース(21)と前記ガス入口部材(5)の間の行程における前記ガスの有効滞在時間が、100ミリ秒より短いことを特徴とする
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2混合室(15)に配置された前記第2ガス偏向要素(16)が渦状の第2のガス流を生じることを特徴とする
請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記入口ダクト(22)におけるガス流は、各ガス流がそれぞれの入口ダクト(22)を同じ平均ガス速度で出るように設定されていることを特徴とする請求項8?10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
付加的な入口ダクト(22’)を通して希釈ガス流が供給されることを特徴とする
請求項8?11のいずれかに記載の方法。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、「ガス供給装置及びガス供給方法、及び成膜装置及び成膜方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0049】図5は本発明の実施の形態によるガス供給装置を有する成膜装置を示す概略構成図である。図5において、図1に示す構成部品と同等な部品には同じ符号を付す。図5に示す成膜装置は、PZT膜を化学的気相合成法(CVD)によりPZT膜を生成するCVD装置である。」
「【0050】図5に示す成膜装置は、原料ガスを供給するためのガス供給装置60と、原料ガスを酸化剤ガスと反応させるための成膜室62と、ガス供給装置60から供給された原料ガスを成膜室62に導入するためのシャワーヘッド64とを有する。成膜室62内には、プラチナ(Pt)基板が配置され、原料ガスと酸化剤ガスとを成膜室62に導入することによりPt電極上にPZT膜が生成される。成膜後の原料ガスと酸化剤ガスは真空ポンプ等の排気手段により成膜室62から排気される。」
「【0071】PZTの成膜では、Pb,Zr,Tiの混合ガスを処理ガスとしてシャワーヘッド64に供給し、且つ酸化剤ガスとしてNO_(2)を成膜室62に供給する。すなわち、Pb原料、Zr原料、Ti原料を、Pb溶液原料タンク12、Zr溶液原料タンク14、Ti溶液原料タンク16から夫々の気化器72-1,72-2,72-3に送出して個別に気化した後、気化したPb原料、Zr原料、Ti原料をガス混合部76に供給する。気化したPb原料、Zr原料、Ti原料はガス混合部76を通過する際に均一に拡散混合され、Pb原料、Zr原料、Ti原料の混合ガスがシャワーヘッド64を介して成膜室62に導入される。これにより、成膜室62内のPt基板上に形成されたPTO核上にPZT膜が形成される。」
「【0079】図7はガス混合部76の好ましい実施例を示す簡略断面図である。図8は図7におけるVIII-VIII断面である。また、図9は図7に示すガス混合部のガス供給通路を示す簡略図である。」
「【0080】図7に示すガス混合部100は、筒状の本体102と、本体102の下部に設けられた基部104とを有する。本体102の中央には筒状の混合ガス通路106が形成されている。混合ガス通路106と本体102との間には空間が形成されており、この空間に複数の拡散板108-1,108-2が本体102の長手方向に所定の間隔で整列している。」
「【0081】拡散板108-1,108-2の各々は、図8に示すように半円状の板部材である。図7において拡散板108-1には斜線が施してある。拡散板108-1は、図7において本体102と混合ガス通路106との空間の右側部分に配置される。拡散板108-2は、図7において本体102と混合ガス通路106との空間の左側部分に配置される。また、拡散板108-1,108-2は、本体102の長手方向に交互に配列される。」
「【0082】上述のようなガス混合部の構成において、複数の種類の原料ガス(原料ガス1、原料ガス2、原料ガス3)は、基部104から本体102へと導入される。図7に示す構成では、原料ガス1,2,3は各々異なる位置から基部104に供給されるが、図9に示すように基部104の中で一つの通路にまとめられて本体102に導入される。」
「【0083】本体102に入った原料ガス1,2,3は、長手方向に交互に整列した拡散板108-1,108-2により進路が変えられながら本体102の上端部分まで到達する。この際、拡散板108-1,108-2により原料ガスが上端まで到達するまでの通路の長さは長くなり、且つガスの流れる方向が何回も180度変えられるので、原料ガスは拡散混合され、均一に混合された混合ガスとなる。」
「【0084】本体102の上端部分に達した原料ガス(混合ガス)は、混合ガス通路106内をK番104の方向へと流れ、シャワーヘッド64へと供給される。混合ガスは混合ガス通路106内を流れる間にも拡散作用によりより均一に混合される。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「【0080】図7に示すガス混合部100は、筒状の本体102と、本体102の下部に設けられた基部104とを有する。本体102の中央には筒状の混合ガス通路106が形成されている。混合ガス通路106と本体102の間には空間が形成されており、この空間に複数の拡散板108-1,108-2が本体102の長手方向に所定の間隔で整列している。」と記載され、図7には、混合ガス通路106と本体102の間の空間を流れている原料ガスが、筒状の混合ガス通路106と、混合ガス通路106と本体102の間の空間との間の壁を超えて、180°向きを変えさせられて混合ガス通路106に導入されていることが示されている。
また、図8からは、筒状の本体と筒状の混合ガス通路の間にある空間は、環状円筒形であることが見て取れる。
また、本体102の中央には筒状の混合ガス通路106が設けられていることから、混合ガス通路106からシャワーヘッドに接続される混合ガス通路106の下端も、本体102の中央に設けられていると認められる。
引用文献1の段落0084の「K番104」は「基部104」の誤記と認める。
そこで、上記(1)の記載された事項を「CVD装置」に注目して整理すると、引用文献1には、
「ガス供給装置60と、成膜室62と、ガス供給装置60から供給された原料ガスを成膜室62に導入するためのシャワーヘッド64を有するCVD装置において、
ガス供給装置60は、気化器72-1、72-2、72-3から複数の気化した原料をガス混合部76の基部104に異なる位置で供給し、複数の気化した原料ガスは、ガス混合部76の基部104から本体102へと導入され、混合ガス通路106と本体102との間の環状円筒形の空間に導入され、
混合ガス通路106と本体102との間の空間では、複数の拡散板108-1、108-2が本体102の長手方向に所定の間隔で整列されることにより、本体102に入った原料ガス1、2、3が進路を変えられながら本体102の上端部分まで到達する際、ガスの流れる方向が何回も180度変わり、
ガス供給装置60は、筒状の混合ガス通路と、混合ガス通路106と本体102の間の空間との間の壁を備え、本体102の上端部分に達した原料ガス(混合ガス)は、筒状の混合ガス通路と、混合ガス通路106と本体102の間の空間との間の壁を超えて、180°向きを変えさせられて混合ガス通路106内を基部104の方向へと流れ、シャワーヘッド64へと供給され、
ガス供給装置60は、本体102の中央に混合ガス通路106が形成され、混合ガス通路106では拡散作用によりより均一に混合され、本体102の中央の混合ガス通路106の下端はシャワーヘッド64へと供給される
CVD装置。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているということができる。

また、上記(1)の記載された事項を、シャワーヘッドへの原料ガスを導入するための方法に注目して整理すると、引用文献1には、
「CVD装置のシャワーヘッド64に原料ガスを導入するための方法であって、
原料ガス1,2,3をそれぞれの気化器72-1、72-2、72-3に供給するステップと、
気化器72-1、72-2、72-3から複数の気化した原料をガス混合部76の基部104に異なる位置で供給し、複数の気化した原料ガスは、ガス混合部76の基部104から本体102へと導入され、混合ガス通路106と本体102との間の環状円筒形の空間に導入され、
混合ガス通路106と本体102の間の空間では、複数の拡散板108-1、108-2が本体102の長手方向に所定の間隔で整列されることにより、本体102に入った原料ガス1、2、3が進路を変えられながら本体102の上端部分まで到達する際、ガスの流れる方向が何回も180度変わり、
本体102の上端部分に達した原料ガス(混合ガス)は、筒状の混合ガス通路と混合ガス通路106と本体102との間の空間との間の壁を超えて、180°向きを変えさせられ、
本体102の中央に形成された混合ガス通路106内を基部104の方向へと流れ、混合ガス通路106では拡散作用によりより均一に混合され、
混合ガスを本体102の中央の混合ガス通路106の下端からシャワーヘッド64へと供給される
方法」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているということができる。

2.引用文献2について
引用文献2には、段落0024、0033、0034、図1の記載からみて、CVD装置等のガス供給システムにおいて、S字状のガス供給管内の入口側にミキシングフィン、出口側にサイクロンフィンを有する構成が記載され、当該サイクロンフィンは、気流に対して傾斜している部材を備え、前駆体ガスに比較的滑らかな回転流を導入しているとの構成を備えるという技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
引用文献3には、段落0015、0023、図1、4の記載からみて、CVD装置において、気化装置から反応室に接続される配管にバルブを介してベントを行う構成という技術的事項が記載されていると認められる。

4.引用文献4について
引用文献4には、3ページ左上欄9-15行目の記載からみて、混合流体管において、流体を導入する管の他に予備の管を設けるという技術的事項が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ガス供給装置60」、「成膜室62」、「CVD装置」、「気化器72-1、72-2、72-3」、「気化器72-1、72-2、72-3から複数の気化した原料をガス混合部76の基部104に異なる位置」、「混合ガス通路106と本体102との間の空間」、「複数の拡散板108-1、108-2」、「混合ガス通路106」、「筒状の混合ガス通路と空間の間の壁」、「本体102の中央の混合ガス通路106の下端」、「シャワーヘッド64」は、それぞれ本願発明1の「ガス供給装置」、「プロセスチャンバ」、「CVD又はPVD反応炉」、「気化ガスソース(21)」、「各入口ダクト(22)」「前記第1混合室(12)」、「複数段の第1ガス偏向要素(13)」、「第2混合室(15)」、「オーバーフロー障壁(14)」、「ガス出口ダクト(8)」、「ガス入口部材(5)」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明1とは、
「プロセスチャンバ及びガス供給装置を有するCVD又はPVD反応炉であって、
前記ガス供給装置は、」「それぞれ気化ガスソース(21)と接続された各入口ダクト(22)を具備し、該各入口ダクト(22)はそれぞれ前記ガスソース(21)から供給された各ガス流を、中心の周りに環状円筒形にて配置された第1混合室(12)に供給し、
前記第1混合室(12)では複数段の第1ガス偏向要素(13)がフロー方向に重なって配置されることにより、」「複数回の各ガス流の偏向及び各ガス流の混合が生じ、」
「前記ガス供給装置はオーバーフロー障壁(14)を具備し、前記第1混合室(12)から出た全ての各ガス流からなる第1ガス流が前記オーバーフロー障壁(14)を超えて180°向きを変えさせられて前記第1混合室(12)の内側に配置された第2混合室(15)に流れ、」
前記ガス供給装置はガス出口ダクト(8)を具備し、前記ガス出口ダクト(8)は前記第2混合室(15)からCVD又はPVDコーティング装置(1)のガス入口部材(5)への前記ガス流の出口のために中心に配置され」る、
「CVD又はPVD反応炉。」である点で一致し、次の相違点1-5で相違する。

(相違点1)
気化ガスソース(21)と接続された各入口ダクト(22)が、本願発明1は「中心の周りにスター状に配置され」ているのに対して、引用発明1は「基部104に供給される位置が異なる」点。

(相違点2)
第1混合室(12)の複数回の各ガス流の偏向及び各ガス流の混合について、本願発明1は「周方向において時計回りと反時計回りに行われる」、「かつ、螺旋状で層状の流れが生じ」るのに対して、引用発明1は「進路を変えられながら本体102の上端部分まで到達する際、ガスの流れる方向が何回も180度変わる」点。

(相違点3)
第2混合室(15)について、本願発明1は「前記第2混合室(15)にてフロー方向に重なって配置された複数段の第2ガス偏向要素(16)であって各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有しかつ一つが他の一つの上に置かれて支持された前記複数段の第2ガス偏向要素(16)により前記第1ガス流の複数回の偏向を生じ」るのに対して、引用発明1は「拡散作用によりより均一に混合される」点。

(相違点4)
本願発明1には、「2つの前記混合室(12,15)と前記気化ガスソース(21)とからなる前記ガス供給装置が前記プロセスチャンバ(2)の鉛直方向上方に配置され」のに対して、引用発明1は、「混合ガス通路106と本体102との間の空間」及び「混合ガス通路106」と、「気化器72-1、72-2、72-3」との配置について記載されていない点。

(相違点5)
本願発明1には、「前記ガスソース(21)から前記ガス入口部材(5)までの各ガス流の有効行程長が互いに同じである」のに対して、引用発明1は、気化器72-1、72-2、72-3からシャワーヘッド64までの有効行程長について記載されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、先ず相違点2について検討する。
引用文献1には、「【0083】本体102に入った原料ガス1,2,3は、長手方向に交互に整列した拡散板108-1,108-2により進路が変えられながら本体102の上端部分まで到達する。この際、拡散板108-1,108-2により原料ガスが上端まで到達するまでの通路の長さは長くなり、且つガスの流れる方向が何回も180度変えられるので、原料ガスは拡散混合され、均一に混合された混合ガスとなる。」と記載されている。この「ガスの流れる方向が何回も180度変えられる」とは、長手方向に交互に整列した拡散板によって、進路が変更されていることであり、周方向において時計回りと反時計回りに行われるとは認められない。
そうすると引用文献1においては、周方向において時計回りと反時計回りに行われる」、「かつ、螺旋状で層状の流れが生じ」ることについて記載も示唆もない。
また、引用文献2?4においても、「周方向において時計回りと反時計回りに行われる」、「かつ、螺旋状で層状の流れが生じ」ることについて記載も示唆もない。
そして、ガス混合部において、ガス偏向要素を用いて「周方向において時計回りと反時計回りに行われる」、「かつ、螺旋状で層状の流れが生じ」る構成が、当業者の技術常識であったと認めるに足る証拠もない。
そうすると、引用発明1おいて、混合ガス通路106と本体102との間の空間に「周方向において時計回りと反時計回りに行われる」、「かつ、螺旋状で層状の流れが生じ」る構成を採用することを、当業者が容易に想到し得たことである、ということはできない。
次に、相違点3について検討する。
引用文献1には、「【0084】本体102の上端部分に達した原料ガス(混合ガス)は、混合ガス通路106内をK番104の方向へと流れ、シャワーヘッド64へと供給される。混合ガスは混合ガス通路106内を流れる間にも拡散作用によりより均一に混合される。」と記載されており、「混合ガス通路106」内において、「複数段の第2ガス偏向要素(16)」に対応する部材は記載されていない。
引用文献2には、CVD装置等のガス供給システムにおいて用いるサイクロンフィンを有する構成が記載されているものの、当該サイクロンフィンが「各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有し」「一つが他の一つの上に置かれて支持された」との構成であるとは認められない。
また、引用文献3、4においても、「前記第2混合室(15)にてフロー方向に重なって配置された複数段の第2ガス偏向要素(16)であって各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有しかつ一つが他の一つの上に置かれて支持された前記複数段の第2ガス偏向要素(16)により前記第1ガス流の複数回の偏向を生じ」ることについて記載も示唆もない。
そして、「前記第2混合室(15)にてフロー方向に重なって配置された複数段の第2ガス偏向要素(16)であって各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有しかつ一つが他の一つの上に置かれて支持された前記複数段の第2ガス偏向要素(16)により前記第1ガス流の複数回の偏向を生じ」る構成が、当業者の技術常識であったと認めるに足る証拠もない。
そうすると、引用発明1において、混合ガス通路106内に「フロー方向に重なって配置された複数段の第2ガス偏向要素(16)」及び「各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有しかつ一つが他の一つの上に置かれて支持された前記複数段の第2ガス偏向要素(16)」を備える構成を採用することを、当業者が容易に想到し得たことである、ということはできない。

(3)まとめ
したがって、上記相違点2及び3に係る本願発明1の発明特定事項は、引用文献1?4に記載された事項並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たということはできず、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び引用文献1?4に記載された事項並びに技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2?7について
本願発明2?7は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様な理由から、引用発明1及び引用文献1?4に記載された事項並びに技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.本願発明8について
(1)対比
本願発明8と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「CVD装置」、「気化器72-1、72-2、72-3」、「気化器72-1、72-2、72-3から複数の気化した原料をガス混合部76の基部104に異なる位置」、「混合ガス通路106と本体102との間の空間」、「複数の拡散板108-1、108-2」、「混合ガス通路106」、「筒状の混合ガス通路と空間との間の壁」、「本体102の中央の混合ガス通路106の下端」、「シャワーヘッド64」は、それぞれ本願発明8の「CVD又はPVDコーティング装置」、「ガスソース(21)」、「各入口ダクト(22)」「前記第1混合室(12)」、「複数段の第1ガス偏向要素(13)」、「第2混合室(15)」、「オーバーフロー障壁(14)」、「ガス出口ダクト(8)」、「ガス入口部材(5)」に相当する。
そうすると、本願発明8と引用発明2とは、
「CVD又はPVDコーティング装置のガス入口部材(5)にプロセスガスを供給するための方法であって、
複数のプロセスガスの各々をそれぞれのガスソース(21)に供給するステップと、
複数のプロセスガスの各々を各ガス流として他の各ガス流とは分離して各ガスソース(21)から、」「各入口ダクト(22)をそれぞれ通って中心の周りに環状円筒形にて配置された第1混合室(12)に送るステップと、
前記第1混合室(12)内でフロー方向に重なって配置された複数段の第1ガス偏向要素(13)を用いて」「各ガス流を混合」する「ステップと、
全ての各ガス流からなる第1ガス流を、オーバーフロー障壁(14)を超えさせ180°向きを変えさせて前記第1混合室(12)の内側に配置された第2混合室(15)にオーバーフローさせるステップと、」
「全ての各ガス流からなるガス流をガス出口ダクト(8)から前記ガス入口部材(5)に送出するステップと、を有」する「ことを特徴とする方法。」である点で一致し、次の相違点6-9で相違する。

(相違点6)
各入口ダクト(22)が、本願発明8は「中心の周りにスター状に配置され」ているのに対して、引用発明2は「基部104に供給される位置が異なる」点。

(相違点7)
第1混合室(12)内の各ガス流について、本願発明8は「周方向において時計回りと反時計回りに複数回偏向し」、「かつ、螺旋状で層状の流れが生じ」させるのに対して、引用発明2は「進路を変えられながら本体102の上端部分まで到達する際、ガスの流れる方向が何回も180度変わる」点。

(相違点8)
第2混合室(15)について、本願発明8は「前記第2混合室(15)にてフロー方向に重なって配置された複数段の第2ガス偏向要素(16)であって各々が曲がった部分を有する平板材料から形成された同じ構成を有しかつ一つが他の一つの上に置かれて支持された前記複数段の第2ガス偏向要素(16)を用いて前記ガス流を複数回偏向させるステップと」するのに対して、引用発明2は「拡散作用によりより均一に混合される」点。

(相違点9)
本願発明8には、「前記ガスソース(21)と前記ガス入口部材(5)の間の行程における前記ガスの有効滞在時間が最大で10ミリ秒異なる」のに対して、引用発明2は、気化器72-1、72-2、72-3からシャワーヘッド64までの行程における原料ガスの有効滞在時間について記載されていない点。

(2)相違点についての判断
相違点7は、上記1.で検討した相違点2と同様であり、相違点8は、上記1.で検討した相違点3と同様であるから、これらに係る本願発明8の発明特定事項は、引用文献1?4に記載された事項並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たということはできず、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明8は、引用発明1及び引用文献1?4に記載された事項並びに技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.本願発明9?12について
本願発明9?12は、本願発明8の発明特定事項を全て含むものであるから、同様に、引用発明2及び引用文献1?4に記載された事項並びに技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定について
上記第4から第6に示すように、審判請求時の補正により、本願発明1は補正事項1、2、本願発明8は補正事項3、4を有するものとなっており、本願発明1?12は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?4に記載された発明と技術常識とに基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本願発明1?6、8?11は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえず、また本願発明7、12も引用文献1?4に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえないから、原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2020-10-13 
出願番号 特願2016-565413(P2016-565413)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C23C)
P 1 8・ 572- WY (C23C)
P 1 8・ 575- WY (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神▲崎▼ 賢一  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 菊地 則義
川村 裕二
発明の名称 CVD又はPVDコーティング装置にプロセスガス混合物を供給するための装置及び方法  
代理人 小島 高城郎  

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