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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21K
管理番号 1366920
審判番号 不服2019-14780  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-05 
確定日 2020-10-08 
事件の表示 特願2018-513212「ターゲット、ターゲットの製造方法、及び中性子発生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月26日国際公開、WO2017/183693〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)4月20日(優先権主張 平成28年4月21日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成30年 8月 6日 :手続補正書の提出
令和 元年 6月27日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 8月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 9月26日付け:拒絶査定
令和 元年11月 5日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和元年11月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年11月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1、5の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
少なくとも、ベリリウム材料またはリチウム材料から構成される金属膜と、グラファイト膜から構成される基板と、を有し、加速された陽子を前記金属膜及び前記基板の面に衝突させて中性子を発生させるためのターゲットであって、
前記グラファイト膜の膜面方向の熱伝導度は、1500W/(m・K)以上であり、膜面方向の熱伝導度が膜厚方向の熱伝導度の100倍以上であり、
前記グラファイト膜の厚さは、1μm以上、100μm以下であり、
前記金属膜の厚さは、20μm以上、0.5mm以下であることを特徴とするターゲット。」

「【請求項5】
前記基板は、前記グラファイト膜が複数枚積層されたグラファイト積層体から構成され、
前記基板の厚さは、100μm以上、20mm以下であることを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載のターゲット。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和元年8月19日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、5の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
少なくとも、ベリリウム材料またはリチウム材料から構成される金属膜と、グラファイト膜から構成される基板と、を有し、加速された陽子を前記金属膜及び前記基板の面に衝突させて中性子を発生させるためのターゲットであって、
前記グラファイト膜の膜面方向の熱伝導度は、1500W/(m・K)以上であり、膜面方向の熱伝導度が膜厚方向の熱伝導度の100倍以上であり、
前記グラファイト膜の厚さは、1μm以上、100μm以下であることを特徴とするターゲット。」

「【請求項5】
前記基板は、前記グラファイト膜が複数枚積層されたグラファイト積層体から構成され、
前記基板の厚さは、100μm以上、20mm以下であることを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載のターゲット。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「金属膜」について、「前記金属膜の厚さは、20μm以上、0.5mm以下であ」ると限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明1」という。)又は請求項5に記載される発明(以下「本件補正発明5」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明1、5
本件補正発明1、5は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用された優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「特開2013-54889号公報」(以下「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。

「【請求項1】
陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、ベリリウム材料及びリチウム材料のいずれか一つの材料と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体であることを特徴とする複合型ターゲット。」

「【0030】
・・・(中略)・・・上記本発明における結晶配向性炭素材料のうち、単結晶黒鉛は、通常、グラファイト面における熱伝導率の値が、1500Wm^(-1)K^(-1)、熱拡散率(比熱容量当たりの熱伝導率で与えられる)が、3.4m^(2)h^(-1)程度である。・・・(中略)・・・」

「【0036】
本発明において、ターゲットをベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体とする理由は、ターゲットで発生する熱を上記結晶配向性炭素材料が持つ高い熱伝導率・熱拡散率を利用して系外に排熱するために両材料の重ね合わせが有効であるためである。例えば、結晶配向性炭素材料として単結晶黒鉛のようなグラファイト面の熱伝導性がグラファイト面に直交する面の熱伝導性よりも桁違いに高い材料を用いる場合には、単結晶黒鉛のグラファイト面とベリリウム材料(又はリチウム材料)を重ね合わせて成る複合体とすることによって、ターゲットで発生する熱をグラファイト層に沿って速やかにターゲット表面に伝導・拡散させることが可能である。・・・(中略)・・・」

「【0039】
本発明複合型ターゲットにおけるベリリウム材料(又はリチウム材料)の厚さは、陽子の衝突による中性子発生反応を結晶配向性炭素材料にも分担させることが可能なので、特に限定するものではないが、ベリリウム材料(又はリチウム材料)中での陽子の理論的飛程よりもかなり薄くすることができる。なぜなら、結晶配向性炭素材料がベリリウム材料(又はリチウム材料)の支持材及び冷却材として機能するからである。また、上記理由により各材料が負担する熱負荷を軽減されるからである。上記理論的飛程は、陽子の入射エネルギーと物質の阻止能によって計算できる。例えば、ターゲット材料がベリリウムの場合、11MeVの陽子のベリリウム中での理論的飛程は、約0.94mmであるので、従来のベリリウムだけから構成されているターゲットの場合には、1mm以上の厚みが必要であった。しかし、本発明ターゲットにおけるベリリウムは、1mmよりもかなり薄くすることが可能である。本発明ターゲットにおけるベリリウム材料がベリリウムである場合のベリリウムの厚さは、好ましくは、0.01mm以上であり1mm未満である。さらに好ましくは、ベリリウムの厚さは0.1mm以上であり0.5mm以下である。ベリリウムの厚さが0.01mm未満であると耐熱性が著しく低下するので0.01mm以上であることが好ましい。また、陽子の衝突による核反応の一部をベリリウムで分担させるためには、ベリリウムの厚さは1mm未満であることが好ましい。同様にしてターゲット材料がリチウムの場合、11MeVの陽子のリチウム中での理論的飛程は、約2mmであるので、従来のリチウムだけから構成されているターゲットの場合には、2mm以上の厚みが必要であった。しかし、本発明複合型ターゲットにおけるリチウム材料がリチウムである場合のリチウムの厚みは、2mmよりもかなり薄くすることが可能である。本発明複合型ターゲットにおけるリチウムの厚さは、好ましくは、0.01mm以上、1mm以下である。さらに好ましくは、0.05mm以上0.5mm以下である。リチウムの厚さが0.01mm未満であると耐熱性が低下するので0.01mm以上であることが好ましい。また、陽子の衝突による反応の一部をリチウムで分担させるためにはリチウムの厚さは1mm以下であることが好ましい。耐熱性を維持し、且つ陽子の衝突による核反応の一部をリチウムで分担させるためには、リチウムの厚さは0.05mm以上であり0.5mm以下であることがより好ましい。
【0040】
本発明複合型ターゲットは、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料の厚さ方向の比率を限定するものではない。本発明複合型ターゲットは、当該比率を用いるターゲット材料や照射陽子の加速エネルギーに応じて適宜設定することが可能であり、通常は結晶配向性炭素材料の厚さをベリリウム材料(又はリチウム材料)の厚さの10倍以上に設定する。この主な理由は、結晶配向性炭素材料の中性子発生効率が、通常、ベリリウム材料(又はリチウム材料)の中性子発生効率に比べて一ケタ以上小さいことによる。」

「【0047】
陽子を衝突させて中性子を発生させるための本実施形態に係る複合型ターゲットは、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体とする複合型ターゲットである。該複合型ターゲットにおける各材料は、界面を介して接している構造を有する。このようなターゲットとしては、下記のような形状を有するターゲットが可能である。例えば、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶性配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体をターゲット形状に成形したターゲット、該複合体を複数個積層させて成る複合体をターゲット形状に成形したターゲット、等を例示することができるが、これらに限定するものではない。結晶配向性炭素材料は、単一材料でもよいし、複数の結晶配向性炭素材料を複合した炭素系複合材料とすることもできる。また、前記複合型ターゲットが真空シールを付帯した複合型ターゲット、前記複合型ターゲットが真空シールを付帯し、且つ、冷媒流路を有する冷却機構を付帯するカートリッジ型構造の複合型ターゲットとすることが可能である。また、必要に応じて、複合型ターゲットにおけるベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料との剥離防止等のために複合型ターゲットの表面に切り込み溝を入れることが可能であり、ターゲットで発生する熱を冷却機構に確実に伝導させるために冷却機構とターゲットの中間に伝熱板を設けることも可能である。」

イ したがって、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲットが、ベリリウム材料及びリチウム材料のいずれか一つの材料と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体である複合型ターゲットであって、
結晶配向性炭素材料の単結晶黒鉛は、通常、グラファイト面における熱伝導率の値が、1500Wm^(-1)K^(-1)であり、結晶配向性炭素材料として単結晶黒鉛のようなグラファイト面の熱伝導性がグラファイト面に直交する面の熱伝導性よりも桁違いに高い材料を用い、
ベリリウム及びリチウムの厚さは、0.01mm以上で0.5mm以下であり、
複合型ターゲットは、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料の厚さ方向の比率を限定するものではなく、本発明複合型ターゲットは、当該比率を用いるターゲット材料や照射陽子の加速エネルギーに応じて適宜設定することが可能であり、通常は結晶配向性炭素材料の厚さをベリリウム材料(又はリチウム材料)の厚さの10倍以上に設定し、
結晶配向性炭素材料は、単一材料でもよいし、複数の結晶配向性炭素材料を複合した炭素系複合材料とすることもできる
複合型ターゲット。」

(3)本件補正発明1について
ア 引用発明との対比
本件補正発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「ベリリウム材料及びリチウム材料のいずれか一つの材料」は、本件補正発明1の「少なくとも、ベリリウム材料またはリチウム材料から構成される金属膜」に、
引用発明の「結晶配向性炭素材料の単結晶黒鉛」は、本件補正発明1の「グラファイト膜から構成される基板」に、
引用発明の「陽子を衝突させて中性子を発生させるためのターゲット」は、本件補正発明1の「加速された陽子を前記金属膜及び前記基板の面に衝突させて中性子を発生させるためのターゲット」に、
引用発明の「ベリリウム及びリチウムの厚さは、0.01mm以上で0.5mm以下であり」は、本件補正発明1の「前記金属膜の厚さは、20μm以上、0.5mm以下である」に、
引用発明の「複合型ターゲット」は、本件補正発明1の「ターゲット」に、
それぞれ相当する。

(イ)引用発明の「結晶配向性炭素材料の単結晶黒鉛は、通常、グラファイト面における熱伝導率の値が、1500Wm^(-1)K^(-1)であり」は、本件補正発明1の「前記グラファイト膜の膜面方向の熱伝導度は、1500W/(m・K)以上であり」と、「前記グラファイト膜の膜面方向の熱伝導度は、1500W/(m・K)であり」の点で一致する。

(ウ)以上のことから、本件補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「少なくとも、ベリリウム材料またはリチウム材料から構成される金属膜と、グラファイト膜から構成される基板と、を有し、加速された陽子を前記金属膜及び前記基板の面に衝突させて中性子を発生させるためのターゲットであって、
前記グラファイト膜の膜面方向の熱伝導度は、1500W/(m・K)であり、
前記金属膜の厚さは、20μm以上、0.5mm以下であるターゲット。」

【相違点1】
グラファイト膜について、本件補正発明1では「膜面方向の熱伝導度が膜厚方向の熱伝導度の100倍以上であ」るのに対し、引用発明では「結晶配向性炭素材料として単結晶黒鉛のようなグラファイト面の熱伝導性がグラファイト面に直交する面の熱伝導性よりも桁違いに高い材料を用い」ている点。
【相違点2】
グラファイト膜の厚さについて、本件補正発明1では「1μm以上、100μm以下であ」るのに対し、引用発明では「ベリリウム材料(又はリチウム材料)の厚さの10倍以上に設定し」ている点。

イ 判断
以下、上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
a 膜面方向の熱伝導度が膜厚方向の熱伝導度の100倍以上であるグラファイト膜は、周知技術(必要ならば、国際公開第2015-045641号(特に、[0006]参照。)、特開2014-133669号公報(特に、【0018】、【0031】参照。)を参照されたい。)である。

b そして、引用発明は「結晶配向性炭素材料として単結晶黒鉛のようなグラファイト面の熱伝導性がグラファイト面に直交する面の熱伝導性よりも桁違いに高い材料を用い」と特定されているので、上記周知技術を考慮すれば、引用発明の結晶配向性炭素材料として単結晶黒鉛もグラファイト面の熱伝導性がグラファイト面に直交する面の熱伝導性の100倍以上である蓋然性が高い。
そうすると、相違点1は、実質的な相違点ではない。
仮にそこまで言えないとしても、桁違いに高い材料として100倍以上の材料を採用することは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。

(イ)相違点2について
a まず、相違点2を判断するにあたり、本件補正発明1の「グラファイト膜の厚さは、1μm以上、100μm以下」の技術的意義について検討する。
本件補正発明1の従属項の本件補正発明5には「前記基板は、前記グラファイト膜が複数枚積層されたグラファイト積層体から構成され」と特定されている。そうすると、本件補正発明1のグラファイト膜は、1枚のものだけではなく、複数枚のものも含むと解される。
そして、本願の明細書の【0008】には「基板を厚くし、等方性グラファイトの場合では2mm?50mm程度の厚さの基板を用いる必要があった。」、【0009】には「従来よりも遥かに薄いターゲット、ターゲットの製造方法、及び中性子発生装置を実現することにある。」旨、【発明が解決しようとする課題】に記載されているように、本願の【発明が解決しようとする課題】は、従来の等方性グラファイトの2mm?50mm程度の厚さの基板よりも薄い基板を実現することにあると認められるものの、請求項1を引用する請求項5には「前記基板の厚さは、100μm以上、20mm以下である」と記載されている。そうすると、本件補正発明1は、グラファイト膜の厚さを1μm以上、100μm以下と特定するものの、基板の厚さが100μm以上、20mm以下のものも含むと解される。
以上から、本件補正発明1は、グラファイト膜が複数枚のものも含み、基板の厚さが100μm以上、20mm以下のものも含むと解され、グラファイト膜の1枚毎の厚さを規定することに技術的意義あるとは解せない。

b 本件補正発明1の「グラファイト膜から構成される基板」の特定において、グラファイト膜が複数枚の場合。
(a)本件補正発明1が、グラファイト膜が複数枚のものも含み、基板の厚さが100μm以上、20mm以下のものも含む場合であって、引用発明において、ベリリウム及びリチウムの厚さが、0.02mm以上で0.5mm以下の場合に、引用発明の「ベリリウム及びリチウムの厚さは、0.01mm以上で0.5mm以下であり、」「通常は結晶配向性炭素材料の厚さをベリリウム材料(又はリチウム材料)の厚さの10倍以上に設定し」は、本件補正発明5の「前記基板の厚さは、100μm以上、20mm以下である」と、「前記基板の厚さは、200μm以上、20mm以下である」の点で一致する。

(b)また、グラファイト膜において、グラファイト膜の厚さが、1μm以上、100μm以下のものは、周知技術(必要ならば、国際公開第2015-045641号(特に、[0022]参照。)、特開2014-133669号公報(特に、【0017】参照。)、特開2013-157599号公報(特に、【0097】、【0126】参照。)、特開2010-195609号公報(特に、【0114】参照。)を参照されたい。)である。

(c)そして、引用発明は「結晶配向性炭素材料は、」「複数の結晶配向性炭素材料を複合した炭素系複合材料とすることもできる」と特定されている。
ここで、引用文献において、材料を複合することは、引用文献の請求項1には「ベリリウム材料及びリチウム材料のいずれか一つの材料と結晶配向性炭素材料を重ね合わせて成る複合体」と記載されているように、材料を重ね合わせて複合することとして記載されている。

(d)そうすると、引用発明において、結晶配向性炭素材料の単結晶黒鉛を重ね合わせて複合した炭素系複合材料とし、結晶配向性炭素材料の単結晶黒鉛の厚さが1μm以上、100μm以下のものを選択することは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

c 本件補正発明1の「グラファイト膜から構成される基板」の特定において、グラファイト膜が1枚の場合。
引用発明において「複合型ターゲットは、ベリリウム材料(又はリチウム材料)と結晶配向性炭素材料の厚さ方向の比率を限定するものではなく、本発明複合型ターゲットは、当該比率を用いるターゲット材料や照射陽子の加速エネルギーに応じて適宜設定することが可能であり」と特定されていること、上記周知技術及び上記イ(イ)aで説示したとおり、グラファイト膜の1枚毎の厚さを規定することに技術的な意義がない点から、結晶配向性炭素材料の単結晶黒鉛が1枚の場合においても、用いるターゲット材料や照射陽子の加速エネルギーに応じて結晶配向性炭素材料の単結晶黒鉛の厚さが1μm以上、100μm以下のものを選択することは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

(ウ)そして、相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明1の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(エ)したがって、本件補正発明1は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件補正発明5について
ア 引用発明との対比
本件補正発明5と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明において、ベリリウム及びリチウムの厚さが、0.02mm以上で0.5mm以下の場合に、引用発明の「ベリリウム及びリチウムの厚さは、0.01mm以上で0.5mm以下であり、」「通常は結晶配向性炭素材料の厚さをベリリウム材料(又はリチウム材料)の厚さの10倍以上に設定し」は、本件補正発明5の「前記基板の厚さは、100μm以上、20mm以下である」と、「前記基板の厚さは、200μm以上、20mm以下である」の点で一致する。

(イ)以上のことから、本件補正発明5と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「少なくとも、ベリリウム材料またはリチウム材料から構成される金属膜と、グラファイト膜から構成される基板と、を有し、加速された陽子を前記金属膜及び前記基板の面に衝突させて中性子を発生させるためのターゲットであって、
前記グラファイト膜の膜面方向の熱伝導度は、1500W/(m・K)であり、
前記金属膜の厚さは、20μm以上、0.5mm以下であり、
前記基板の厚さは、200μm以上、20mm以下であるターゲット。」

【相違点1】
グラファイト膜について、本件補正発明5では「膜面方向の熱伝導度が膜厚方向の熱伝導度の100倍以上であ」るのに対し、引用発明では「結晶配向性炭素材料として単結晶黒鉛のようなグラファイト面の熱伝導性がグラファイト面に直交する面の熱伝導性よりも桁違いに高い材料を用い」ている点。
【相違点2】
グラファイト膜の厚さについて、本件補正発明5では「1μm以上、100μm以下であ」るのに対し、引用発明では「ベリリウム材料(又はリチウム材料)の厚さの10倍以上に設定し」ている点。
【相違点3】
基板について、本件補正発明5では「前記グラファイト膜が複数枚積層されたグラファイト積層体から構成され」ているのに対し、引用発明ではそのようなものか明らかでない点。

イ 判断
以下、上記相違点について検討する。
(ア)相違点1、2について
上記(3)イで検討したとおりである。

(イ)相違点3について
「前記基板は、前記グラファイト膜が複数枚積層されたグラファイト積層体から構成され」については、上記(3)イ(イ)bで、検討したとおりである。

(ウ)そして、相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明5の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(エ)したがって、本件補正発明5は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、令和元年11月5日付けで提出された審判請求書において、「本願の新請求項1に係る発明は、意見1および意見2にて説明いたしましたように、引用文献1から容易に想到し得ない構成を備えているが故に、意見3にて説明いたしましたように、引用文献1からは予測できない有利な効果を奏します。したがいまして、本願の新請求項1に係る発明は、進歩性を有しています。本願の新請求項2?11は、本願の新請求項1の従属請求項です。したがいまして、本願の新請求項2?11に係る発明も、本願の新請求項1に係る発明と同様に、進歩性を有しています。」旨、主張している。

イ 上記主張について以下検討する。
本願の明細書の【0008】には「基板を厚くし、等方性グラファイトの場合では2mm?50mm程度の厚さの基板を用いる必要があった。」、【0009】には「従来よりも遥かに薄いターゲット、ターゲットの製造方法、及び中性子発生装置を実現することにある。」、【0104】には「前記基板は、前記グラファイト膜が複数枚積層されたグラファイト積層体から構成されているので、熱伝導特性を損なうことなく、より厚い基板を実現することができる。このような、複数枚のグラファイト膜からなる基板は、従来の等方性グラファイトからなる基板よりも薄いにも関わらず、十分な耐久性を有している。」旨記載されているように、本件補正発明1又は5の基板は、従来の等方性グラファイトからなる基板よりも薄ければよく、例えば、基板の厚さが、100μm以上、20mm以下である厚い基板も想定している。
そうすると、上記(3)、(4)で検討したとおりである。
してみれば、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年11月5日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和元年8月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1、5に係る発明(以下、「本願発明1」、「本願発明5」という。)は、その請求項1、5に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-11に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2013-54889号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明1、5は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明1、5の「金属膜」について、「前記金属膜の厚さは、20μm以上、0.5mm以下であ」るとの限定事項を削除したものである。

そうすると、本願発明1、5の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明1、5が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1、5も、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明1、5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-07-22 
結審通知日 2020-07-28 
審決日 2020-08-18 
出願番号 特願2018-513212(P2018-513212)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G21K)
P 1 8・ 121- Z (G21K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 太郎右▲高▼ 孝幸藤本 加代子  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 野村 伸雄
田中 秀直
発明の名称 ターゲット、ターゲットの製造方法、及び中性子発生装置  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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