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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1366926
審判番号 不服2019-16810  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-12 
確定日 2020-10-08 
事件の表示 特願2014-231484「感熱記録体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月26日出願公開、特開2016- 93950〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2014-231484号(以下「本件出願」という。)は、平成26年11月14日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年 7月31日付け :拒絶理由通知書
平成30年10月 3日 :意見書の提出
平成30年10月 3日 :手続補正書の提出
平成31年 1月28日付け :拒絶理由通知書
平成31年 4月 5日 :意見書の提出
令和 元年 9月11日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年12月12日 :審判請求書の提出


第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?5に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開平8-25807号公報
引用文献2:特開2008-73858号公報
引用文献3:特開2004-29463号公報
(当合議体注:引用文献1は、主引用例であり、引用文献2は、副引用例であり、引用文献3は、周知技術を示す文献である。)


第3 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年10月3日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの、次のものである。
「 基材上に少なくとも感熱記録層とトップコート層とを備える感熱記録体であって、
前記基材が透明な熱収縮性フィルムからなり、
少なくとも前記感熱記録層及び前記トップコート層は、各層を構成する粒子表面における光の乱反射を抑制する乱反射抑制成分を含み、
前記感熱記録層と前記トップコート層との間に、中間層を備え、
前記中間層は、前記感熱記録層を構成する粒子表面における光の乱反射を抑制する乱反射抑制成分として、水溶性部分を有する樹脂を含む、
ことを特徴とする感熱記録体。」


第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、特開平8-25807号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付与したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。また、丸1等は数字を丸で囲ったものを表す。

(1)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は感熱記録体の製法に関し、特に透明性に優れた感熱記録体を得るものである。
・・・(中略)・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、透明性に優れた感熱記録体を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、透明なフィルム上に、発色剤、呈色剤、パラフィンまたは脂肪族アミドとを含有する記録層、および水溶性樹脂を含む保護層を順次設けた感熱記録体の製造方法において、記録層を設けた後および/または保護層を設けた後、感熱記録体を、表面温度が70?200℃の金属ロールを有するキャレンダーで処理することより、上記の課題が解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
【作用】感熱記録体の透明性を向上させるためには、記録層に使用される構成物質の粒子径を小さくするのが望ましいが、記録層中の存在する粒子と空隙により光が散乱されて記録層が不透明になる。従って、透明性を向上させるには、できる限り粒子(0.7μm以下)を細かくし、空隙を埋める必要がある。本発明は、透明なフィルム上に、記録層を設けた後および保護層を順次設けた感熱記録体の透明性を高めるために、記録層および/または保護層を設けた後、感熱記録体を、表面温度が70?200℃の金属ロールを有するキャレンダーで少なくとも一回以上処理することにより、記録層中に添加されたパラフィンまたは脂肪族アミドが熱と圧の作用で記録層中の点在する空隙に挿入され、その結果、記録層に対する光の乱反射が減少して記録層の透明性が改良されると推測される。
【0007】金属ロールの表面温度が70℃未満になると記録層中に添加にされたパラフィンまたは脂肪族アミドが記録層中の空隙に挿入され難くなり、所望の透明性が得られず、200℃を越えるとパラフィンまたは脂肪族アミドが溶融され記録層に強いカブリが発生する。金属ロール表面のより好ましい温度としては80?150℃の範囲である。
【0008】キャレンダーロール組み合わせとしては、その表面層の材質が金属ロールと金属ロール、或いは金属ロールとウール、コットン、ウレタンゴム等の弾性ロール等がある。感熱記録体のキャレンダー処理条件としては、線圧30?250Kg/cm、速度3?200m/分、好ましくは10?150m/分の範囲で調節するのが望ましい。
【0009】感熱記録層に使用されるパラフィンまたは脂肪族アミドとしては、常温で固体であれば特に限定されないが、融点が35?120℃以下の範囲のものが特に好ましい。かかる脂肪族アミドの具体例としては、例えばステアリン酸アミド、メトキシカルボニル-N-ステアリン酸ベンズアミド、N-ベンゾイルステアリン酸アミド、N-エイコサン酸アミド、エチレンビステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、N-メチロールステアリン酸アミド等が挙げられる。また、パラフィンまたは脂肪族アミドの使用割合としては特に限定されないが、記録層中の全固形量に対して2?20重量%の範囲で調節するのが望ましい。
【0010】本発明において、記録層を構成する発色剤と呈色剤の組合せについては特に限定されるものではなく、熱によって両者が接触して呈色反応を起こすような組合せなら何れも使用可能であり、例えば無色ないしは淡色の塩基性染料と酸性物質との組合せ、ステアリン酸第二鉄等の高級脂肪酸多価金属塩と没食子酸のようなフェノール類との組合せ、更にはジアゾニウム化合物、カプラー、および塩基性物質との組合せ等が例示できる。特に本発明は、記録層が塩基性染料と酸性物質との組合せにおいて優れた効果を発揮し、以後塩基性染料と酸性物質からなる感熱記録体について詳細に述べる。
・・・(中略)・・・
【0015】また、塗液中には必要に応じて各種の助剤を添加することができ、例えばジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、脂肪酸金属塩等の分散剤、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレンワックス、カルナバロウ、パラフィンワックス、エステルワックス等のワックス類、消泡剤、蛍光染料、着色染料等が適宜添加される。
・・・(中略)・・・
【0017】また、効果を損なわない限り目的に応じて記録像の保存性を更に高めるために、保存性改良剤を併用することもできる。
・・・(中略)・・・
【0018】本発明の保護層は、水性樹脂を主成分として構成されるが、かかる水性樹脂の具体例としては、例えば酸化澱粉、酵素変性澱粉、カチオン変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉類、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、完全(又は不完全)鹸化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール,珪素変成ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸アミド・アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸アミド・アクリル酸エステル・メタクリル酸共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、カゼイン等の水溶性高分子、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリル酸エステル、ポリブチルメタクリレート、スチレン・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、スチレン・ブタジエン・アクリル系共重合体等のラテックスが挙げられる。これらの内でも、記録像の保存性に優れた効果を発揮する完全(又は不完全)鹸化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール,珪素変成ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類が特に好ましい。
【0019】更に、保護層中にはエポキシ基、カルボキル基、アミノ基、メタクリル基、ポリエーテル基等で変性されたシリコンオイルをエマルジョンの形態で保護層の固形量に対し5?30重量%、好ましくは10?20重量%添加することにより、特に透明性および記録時の走行性が向上する。30重量%を越えると保護層の表面強度が低下して記録時にサーマルヘッドに粕が付着して記録障害をおこす。
【0020】保護層用の塗液は、水を分散媒体とし、水溶性樹脂を混合・攪拌して調製される。かかる塗液中には、必要に応じて分散剤、消泡剤、着色染料、蛍光染料、硬化剤、紫外線吸収剤等の助剤、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、カルナバロウ,パラフィンワックス、エステルワックス等の滑剤、カオリン、微粒子シリカ、コロイダルシリカ等の無機顔料を併用することも可能である。特に、保護層中にコロイダルシリカとシリコンオイルを併用すると透明性を低下させずに、記録時の走行性が著しく改良される。
【0021】記録層および保護層の形成方法については特に限定するものではなく、例えばエヤーナイフコーティング、バリバーブレードコーティング、ピュアーブレードコーティング、ロッドブレードコーティング、ショートドウェルコーティング、カーテンコーティング、ダイコーティング等の適当な塗布方法により記録層用の塗液を支持体上に塗布・乾燥する等の方法により形成される。なお、支持体としては、透明なプラスチィクフィルムを適宜選択して使用される。また、記録層用塗液の塗布量は乾燥重量で1?10g/m^(2)、好ましくは2?6g/m^(2)の範囲で調節される。」

(2)「【0022】
【実施例】以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。また、特に断らない限り例中の部および%はそれぞれ重量部及び重量%を示す。
【0023】〔実施例1〕
丸1 A液調製
3-ジ(n-ブチル)アミノ-6-メチル-7-フェニルアミノフルオラン10部、1,2-ジ(3-メチルフェノキシ)エタン20部、メチルセルロースの5%水溶液30部、および水60部からなる組成物をサンドミルで平均粒子径が0.4μmになるまで粉砕した。
【0024】丸2 B液調製
4-ヒドロキシ-4′-イソプロポキシジフェニルスルフォン20部、メチルセルロースの5%水溶液20部、および水40部からなる組成物をサンドミルで平均粒子径が0.4μmになるまで粉砕した。
【0025】丸3 記録層用塗液の調製
A液120部、B液80部、固形濃度30%のコロイダルシリカ(平均粒子径20nm)70部、固形濃度50%のスチレン-ブタジエン系ラテックス58部、ジオクチルスルホコハク酸ソーダの10%水溶液1部、30%パラフィン系ワックスエマルジョン(融点54℃、ハイドリンP-7、中京油脂製)30部、および水75部からなる組成物を混合攪拌して記録層用塗液を得た。
【0026】丸4 保護層用塗液の調製
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの10%水溶液150部、固形濃度30%のコロイダルシリカ(平均粒子径20nm)5部、ジオクチルスルホコハク酸ソーダの10%水溶液1部、固形濃度30%のエポキシ変性シリコンエマルジョン8部からなる組成物を混合攪拌して保護層用塗液を得た。
【0027】丸5 記録層および保護層の形成
コロナ処理された厚さ100μmの二軸延伸透明PETフィルム上に、上記の記録層用塗液および保護層用塗液を乾燥後の塗布量がそれぞれ3g/m^(2) 、2g/m^(2) となるように順次塗布乾燥した後、金属ロールの表面温度が90℃、線圧150Kg/m、スピード80m/分、且つ保護層面側に金属ロールが接するように熱スーパーカレンダー処理して、感熱記録体を得た。」

2 引用発明
引用文献1には、【0001】の「透明性に優れた感熱記録体」として、【0023】?【0027】に実施例1として記載された次の発明(以下「引用発明」いう。)が記載されていると認められる。

「 3-ジ(n-ブチル)アミノ-6-メチル-7-フェニルアミノフルオラン10部、1,2-ジ(3-メチルフェノキシ)エタン20部、メチルセルロースの5%水溶液30部、および水60部からなる組成物をサンドミルで平均粒子径が0.4μmになるまで粉砕してA液を調製し、
4-ヒドロキシ-4′-イソプロポキシジフェニルスルフォン20部、メチルセルロースの5%水溶液20部、および水40部からなる組成物をサンドミルで平均粒子径が0.4μmになるまで粉砕してB液を調製し、
A液120部、B液80部、固形濃度30%のコロイダルシリカ(平均粒子径20nm)70部、固形濃度50%のスチレン-ブタジエン系ラテックス58部、ジオクチルスルホコハク酸ソーダの10%水溶液1部、30%パラフィン系ワックスエマルジョン(融点54℃、ハイドリンP-7、中京油脂製)30部、および水75部からなる組成物を混合攪拌して記録層用塗液を得、
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの10%水溶液150部、固形濃度30%のコロイダルシリカ(平均粒子径20nm)5部、ジオクチルスルホコハク酸ソーダの10%水溶液1部、固形濃度30%のエポキシ変性シリコンエマルジョン8部からなる組成物を混合攪拌して保護層用塗液を得、
コロナ処理された厚さ100μmの二軸延伸透明PETフィルム上に、記録層用塗液および保護層用塗液を乾燥後の塗布量がそれぞれ3g/m^(2) 、2g/m^(2) となるように順次塗布乾燥した後、金属ロールの表面温度が90℃、線圧150Kg/m、スピード80m/分、且つ保護層面側に金属ロールが接するように熱スーパーカレンダー処理して、記録層および保護層を形成して得た、
透明性に優れた感熱記録体。」

3 引用文献2及び引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、本件出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、特開2008-73858号公報(以下、同じく「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付与したものであり、引用文献2に記載された事項の認定に活用した箇所を示す。

(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子供与性呈色性化合物と電子受容性化合物との間の発色反応等を利用した感熱記録媒体に関するものであり、特にX線、MRIやCT等の画像の診断や及び参照することを目的とした、銀塩フィルムと同レベルの高い画質、光沢性、高濃度、高階調性を持ちつつ、優れたヘッドマッチング性および画像保存性が得られ、特に医療用画像形成シートとして好適な、感熱記録媒体である。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電子供与性呈色性化合物と電子受容性化合物との間の発色反応等を利用した感熱記録媒体に関するものであり、高光沢性を維持しつつ、ヘッドカス付着による画像の欠陥がなく、更には印画によるスティッキングが良好で、また耐水、耐溶剤性すぐれた、特に医療用途に好適な反射型の感熱記録媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、トレードオフの関係になり勝ちな高光沢性と良好ヘッドマッチング性の双方を同時に満足させるには、感熱記録層と最上層を設けてなる感熱記録媒体において、最上層中に少なくとも水溶性アクリル系樹脂であるシェルと疎水性アクリル樹脂エマルションであるコア部からなるコア/シェル型エマルションを架橋剤にて架橋せしめてなる樹脂成分を含有し、更に体積平均粒径が0.005?0.5μmである無機顔料及び体積平均粒径が0.01?0.9μmである滑剤を含有することが非常に有効であることを知見し、さらに検討を重ねて本発明に至った。」

(2)「【0028】
また、感熱記録層と最上層の間に樹脂を主体とする中間層を設ける手段も有効であり、樹脂の比率の高い層とすることで非常に高い光沢性を達成することが可能となる。
これらの中間層を設ける場合、高光沢性を達成するために水溶性樹脂及びまたは水分散性樹脂が主体であることが好ましい。更に水、溶剤に対するバリヤー機能を持たせるために架橋剤との併用が望ましい。
更に効果を持たせるためには最上層で使用されるアクリルアミド系樹脂であるシェルとアクリル系樹脂であるコア部からなるコアシェル型エマルションと架橋剤としアジリジン化合物を含有することが望ましい。
【0029】
中間層の塗工方法は、特に制限はなく、従来公知の方法で塗工することができる。好ましい厚みは0.1?20μm、より好ましくは0.5?10μmである。中間層が薄すぎると、光沢性へ、耐水、耐溶剤性の機能が不充分であり、厚すぎると記録材料の熱感度が低下するのに加え、コスト的にも不利である。
・・・(中略)・・・
【0044】
本発明で使用する支持体としては、従来のロイコ型感熱記録媒体に用いられるものが適用可能であるが、例えば、プラスチックフィルム、紙、プラスチック樹脂ラミネート紙、合成紙、等が使用できる。透過型の感熱記録媒体に場合には、透明支持体を用いることが必要である。透明支持体の具体例としては、三酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリスチレンあるいはこれらを貼り合わせたフィルム等が挙げられ、好ましくはポリプロピレン樹脂を主体とした合成紙であるが、これらに限られるものではない。これらの中で反射画像での用途での画質のコントラストを考慮すると、不透明性、白色度が高いものが好ましい。また表面の光沢性、印画の再現性、高精彩性等を考慮すると支持体表面が平滑であり光沢性が高いものが好ましい。」

(3)引用文献2に記載された事項
上記(1)及び(2)より、引用文献2には、「感熱記録層と最上層の間に樹脂を主体とする中間層を設け、高光沢性を達成し、更に水、溶剤に対するバリヤー機能を持たせるために架橋剤と併用し、更に効果を持たせるためにアクリルアミド系樹脂であるシェルとアクリル系樹脂であるコア部からなるコアシェル型エマルションと架橋剤としアジリジン化合物を含有すること。」(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されている。


第5 当審の判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)基材
引用発明の「感熱記録体」は、「コロナ処理された厚さ100μmの二軸延伸透明PETフィルム上に、記録層用塗液および保護層用塗液を乾燥後の塗布量がそれぞれ3g/m^(2) 、2g/m^(2) となるように順次塗布乾燥した後、金属ロールの表面温度が90℃、線圧150Kg/m、スピード80m/分、且つ保護層面側に金属ロールが接するように熱スーパーカレンダー処理して、記録層および保護層を形成して得た」ものである。
上記の構成から理解される引用発明の「二軸延伸透明PETフィルム」の機能からみて、引用発明の「二軸延伸透明PETフィルム」は、本願発明の「基材」に相当する。また、引用発明の「二軸延伸透明PETフィルム」と本願発明の「基材」は、「透明な」「フィルムからなり」という構成を具備する点で共通する。

(2)感熱記録層
引用発明の「記録層」の材料は、前記2に記載したとおりのものである。また、引用発明の「記録層」は、前記(1)で述べた工程により形成されるものである。
引用発明の「記録層」の材料及び形成方法からみて、引用発明の「記録層」は、本願発明の「感熱記録層」に相当する。

また、引用発明の「記録層用塗布液」における「パラフィン系ワックスエマルジョン」は、その物性及び感熱記録体の形成方法からみて、引用発明の「A液」及び「B液」における「粒子」の空隙に挿入されて光の乱反射を減少させる機能を具備するものである(当合議体注:このことは、引用文献1の【0006】の記載からも確認できる。)。
そうしてみると、引用発明の「記録層」は、本願発明の「感熱記録層」「を構成する粒子表面における光の乱反射を抑制する乱反射抑制成分を含」むとの要件を満たす。

(3)トップコート層
引用発明の「保護層」の材料は、前記2に記載したとおりのものである。また、引用発明の「保護層」は、前記(1)で述べた工程により形成されるものである。
引用発明の「保護層」の材料及び形成方法からみて、引用発明の「保護層」は、本願発明の「トップコート層」に相当する。

(4)感熱記録体
上記(1)ないし(3)より、引用発明の「感熱記録体」は、本願発明の「感熱記録体」に相当する。また、引用発明の「感熱記録体」は、本願発明の「感熱記録体」における、「基材上に少なくとも感熱記録層とトップコート層とを備える」という構成を具備する。

2 一致点・相違点
(1)一致点
以上の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。
「 基材上に少なくとも感熱記録層とトップコート層とを備える感熱記録体であって、
前記基材が透明なフィルムからなり、
少なくとも前記感熱記録層は、前記感熱記録層を構成する粒子表面における光の乱反射を抑制する乱反射抑制成分を含む、
感熱記録体。」

(2)相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「基材」が、本願発明は、「熱収縮性」フィルムであるのに対して、引用発明の「二軸延伸透明PETフィルム」は、そのような特定がなされていない点。

(相違点2)
「トップコート層」が、本願発明は、「トップコート層」「を構成する粒子表面における光の乱反射を抑制する乱反射抑制成分を含」むのに対して、引用発明の「保護層」は、一応、これが明らかでない点。

(相違点3)
「感熱記録体」が、本願発明は、「前記感熱記録層と前記トップコート層との間に、中間層を備え」、「前記中間層は、前記感熱記録層を構成する粒子表面における光の乱反射を抑制する乱反射抑制成分として、水溶性部分を有する樹脂を含む」のに対して、引用発明は、中間層を備えない点。

3 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
透明である熱収縮性フィルムは、周知技術(例えば、特開平7-223365号公報の【0007】、特開2004-29463号公報の【0009】参照。)である。そして、引用発明は透明性に優れた感熱記録体であるから、商品等の中身が見えるようにする包装用に引用発明の感熱記録体を用いることに何ら困難性はない。
そうしてみると、引用発明の基材を熱収縮性フィルムとして上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、念のため付言すると、引用文献1に用いられるパラフィン系ワックスエマルジョンの融点は54℃(引用文献1の【0025】)であり、金属ロールの表面温度は90℃(引用文献1の【0027】)であるところ、引用発明の「透明」な「フィルム」として熱収縮性フィルムを適用する際に、熱収縮性フィルムに影響を及ぼさない金属ロールの表面温度となる、パラフィンと熱収縮性フィルムの組み合わせとすることは、当業者が設計可能な範囲内の事項である。

(2)相違点2について
引用発明の「保護層」は、その材料組成からみて、「コロイダルシリカ(平均粒子径20nm)」を含む。また、引用文献1の【0020】には、「保護層中にコロイダルシリカとシリコンオイルを使用すると、透明性を低下させずに、記録時の層構成が著しく改良される」ことが記載されている。そして、本件出願の明細書の【0017】及び【0018】の記載からみて、「コロイダルシリカ」(粒子径が小さいもの)は、「乱反射抑制成分」に該当する。
そうしてみると、相違点2は、実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、引用文献1の上記【0020】の記載を考慮した当業者ならば、引用発明の「保護層」についてさらに透明性を高めることを考慮するといえるから、引用発明の「保護層」に適宜の乱反射抑制成分を含有させることによって、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
ア 動機付けについて
引用文献1の【0018】には、「本発明の保護層は、水性樹脂を主成分として構成される・・・(中略)・・・これらの内でも記録像の保存性に優れた効果を発揮する完全(又は不完全)鹸化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール,珪素変成ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類が特に好ましい。」、また、引用文献1の【0019】には、「更に、保護層中にはエポキシ基、カルボキル基、アミノ基、メタクリル基、ポリエーテル基等で変性されたシリコンオイルをエマルジョンの形態で保護層の固形量に対し5?30重量%、好ましくは10?20重量%添加することにより、特に透明性および記録時の走行性が向上する。」と記載されていて、保護層は水性樹脂を含むことが記載されている。
ところで、引用文献2の【0028】には、「感熱記録層と最上層の間に樹脂を主体とする中間層を設ける手段も有効であり、樹脂の比率の高い層とすることで非常に高い光沢性を達成することが可能となる。これらの中間層を設ける場合、高光沢性を達成するために水溶性樹脂及びまたは水分散性樹脂が主体であることが好ましい。」と記載されている(引用発明と共通する「感熱記録体」の技術分野において、引用文献1の【0018】に示唆されている「水性樹脂」を用いる構成が開示されている。)。
ここで、引用発明の「感熱記録体」は、「記録像の保存性に優れ」(引用文献1の【0018】)、「透明性および記録時の走行性が向上する」(引用文献1の【0019】)ものである。また、引用文献2の【0029】には、「中間層が薄すぎると、光沢性へ、耐水、耐溶剤性の機能が不充分」と記載されていて、引用文献2の中間層には耐水、耐溶剤性といった保護層としての機能が示唆されている。
そうしてみると、技術分野の共通性及び保護といった課題の共通性といった観点から、引用発明の「記録層」と「保護層」の間に、引用文献2に記載された水溶性樹脂や水分散性樹脂を含む中間層を採用することは、動機付けがあるといえる(なお、引用文献2の【0044】に「透過型の感熱記録媒体の場合には、透明支持体を用いることが必要である。」と記載されていて、引用文献2に記載された事項は、反射型に限られるものではない。)。

イ 乱反射抑制成分について
引用文献2に記載された事項においては、乱反射を抑制するかどうかは、一応、明らかではない。しかしながら、引用発明は、「透明性に優れた感熱記録体」であり、引用文献1の【0006】には、「記録層に対する光の乱反射が減少して記録層の透明性が改良される」と記載されていて、引用発明の「感熱記録体」を含む感熱記録シートにおいて透明性を高めるために乱反射を抑制することは周知の課題であるといえる。また、上記課題を解決するために、引用文献1の【0006】には、「記録層中に添加されたパラフィンまたは脂肪族アミドが熱と圧の作用で記録層中の点在する空隙に挿入され、その結果、記録層に対する光の乱反射が減少して記録層の透明性が改良される」と記載されていて、引用発明の「記録層」における乱反射を抑制する手段も記載されている。
そうしてみると、引用発明の「記録層」と「保護層」との間に引用文献2に記載された事項を適用する当業者ならば、引用発明の「記録層」における乱反射についても十分配慮した上で、適切なコアシェル型エマルション(シェルが水溶性であり、コアが疎水性である合成樹脂エマルション)を含んでなる中間層用の組成物を調整することは明らかである。

ウ まとめ
以上から、引用発明の「記録層」と「保護層」との間に引用文献2に記載された事項を適用して上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

4 効果についての検討
本件出願明細書の【0008】、【0019】の「透明な熱収縮性フィルムからなる基材上の少なくとも感熱記録層及びトップコート層は、各層を構成する粒子の乱反射を抑制する乱反射抑止成分を含んでいるので、粒子の表面での乱反射が抑制されて透明性に優れた熱収縮性の感熱記録体を得ることができる」、また、本件出願明細書の【0014】の「中間層は水溶性部分を有する樹脂を含んでいるので、この中間層形成用の塗液を、感熱記録層上に塗布して乾燥する際に、水溶性を有する樹脂が、感熱記録層へ染み込んで平滑な中間層が形成されるので、感熱記録層での乱反射が抑制されて透明性が一層向上する」という効果は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術から予測できる範囲内のものである。

5 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和元年12月12日提出の審判請求書において、「本願発明は、透明性に優れた熱収縮性の感熱記録体を提供することを目的としています。かかる目的を達成するために、透明な熱収縮性フィルムからなる基材は、本願発明の必須の構成であり、「透明性」と「熱収縮性」とを、別々に分離して評価できるものではなく、両者は、一体として、本願発明の技術効果を奏するものです。」、「光の乱反射を抑制して透明性を向上させる引用文献1に、反射率を高めて光沢を上げる引用文献2を組合せる合理的理由がありません。特に、光沢性は最表面層の平滑性等に依存するものであり、したがって、光沢性を向上させるために、引用文献2の中間層を、引用文献1に適用するのは容易であるとする審査官のご認定には到底承服できません」と主張している。
しかしながら、上記3、4で示したように、審判請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

6 小括
本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、本件出願前の当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-07-31 
結審通知日 2020-08-04 
審決日 2020-08-21 
出願番号 特願2014-231484(P2014-231484)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 亮  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 井口 猶二
神尾 寧
発明の名称 感熱記録体  
代理人 岡田 和秀  

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