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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G09F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G09F 審判 全部申し立て 2項進歩性 G09F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G09F |
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管理番号 | 1366961 |
異議申立番号 | 異議2019-700310 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-19 |
確定日 | 2020-08-31 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6412195号発明「画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6412195号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6412195号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 特許第6412195号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6412195号(以下「本件特許」という。)の請求項1-5に係る特許についての出願は、平成29年3月30日に出願され、平成30年10月5日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月24日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 平成31年4月19日 : 特許異議申立人浜俊彦による請求項1-5に係る特許に対する特許異議の申立て 令和元年7月10日付け : 取消理由通知書 令和元年9月12日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和元年10月24日 : 特許異議申立人浜俊彦による意見書の提出 令和元年12月26日付け: 取消理由通知書(決定の予告) 令和2年3月9日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和2年3月31日付け : 訂正拒絶理由通知書 令和2年5月1日 : 特許権者による意見書の提出 令和2年6月18日 : 特許異議申立人浜俊彦による意見書の提出 なお、令和2年3月9日に訂正請求書の提出がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和元年9月12日に提出された訂正請求書に係る訂正の請求は取り下げられたものとみなされる。 第2 訂正の適否1 本件訂正の内容 令和2年3月9日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件訂正前(本件特許の特許権の設定の登録の時をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5についての訂正である。そして、本件訂正前の請求項2ないし請求項5は、本件訂正前の請求項1の記載を引用して記載されているから、本件訂正前の請求項1ないし請求項5は、一群の請求項である。 したがって、本件訂正の請求は、本件訂正前の請求項1ないし請求項5について請求項ごとにする訂正の請求であり、かつ、本件訂正前の請求項1ないし請求項5からなる一群の請求項ごとにする訂正の請求である。 (1)本件訂正前後の特許請求の範囲の記載 本件訂正前及び本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5の記載は、以下のとおりである。下線は、訂正箇所を示すために当合議体が付した。 ア 本件訂正前 「【請求項1】 表示セルと、第1の位相差層と、第2の位相差層と、偏光子と、をこの順に備え、 該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?142nmまたは151nm?160nmであり、 非点灯状態における正面反射色相a値の初期値をa_(0)、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をa_(1)、正面反射色相b値の初期値をb_(0)、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をb_(1)としたとき、 前記a_(0)が-10.00?-1.00または1.00?10.00であり、前記b_(0)が-10.00?-1.50または-0.20?10.00であり、 周辺部の正面反射色相が下記式(1)および(2)を満足する、画像表示装置: a_(0)×a_(1)>0 ・・・(1) b_(0)×b_(1)>0 ・・・(2)。 【請求項2】 前記偏光子の前記第2の位相差層と反対側に、防湿層をさらに備える、請求項1に記載の画像表示装置。 【請求項3】 前記a値について85℃の環境下に250時間置いた後の値をa_(2)、前記b値について85℃の環境下に250時間置いた後の値をb_(2)としたとき、下記式(3)および(4)を満足する、請求項1または2に記載の画像表示装置: a_(0)×a_(2)>0 ・・・(3) b_(0)×b_(2)>0 ・・・(4)。 【請求項4】 前記第1の位相差層がnz>nx≧nyの屈折率特性を示し、前記第2の位相差層がnx>ny≧nzの屈折率特性を示す、請求項1から3のいずれかに記載の画像表示装置。 【請求項5】 有機エレクトロルミネセンス表示装置である、請求項1から4のいずれかに記載の画像表示装置」 イ 本件訂正後 「【請求項1】 表示セルと、第1の位相差層と、第2の位相差層と、偏光子と、をこの順に備え、 該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?142nmまたは151nm?160nmであり、該第2の位相差層がRe(450)<Re(550)の関係を満たし、 非点灯状態における正面反射色相a値の初期値をa_(0)、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をa_(1)、正面反射色相b値の初期値をb_(0)、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をb_(1)としたとき、 前記a_(0)が-10.00?-1.00または1.00?10.00であり、前記b_(0)が-10.00?-1.50または-0.20?10.00であり、前記a_(1)が-1.49以下または0.63以上であり、前記b_(1)が-0.95以下または-0.44以上であり、 周辺部の正面反射色相が下記式(1)および(2)を満足する、画像表示装置: a_(0)×a_(1)>0 ・・・(1) b_(0)×b_(1)>0 ・・・(2)。 【請求項2】 前記偏光子の前記第2の位相差層と反対側に、防湿層をさらに備える、請求項1に記載の画像表示装置。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記第1の位相差層がnz>nx≧nyの屈折率特性を示し、前記第2の位相差層がnx>ny≧nzの屈折率特性を示す、請求項1または2に記載の画像表示装置。 【請求項5】 有機エレクトロルミネセンス表示装置である、請求項1、2または4に記載の画像表示装置」 (2)訂正事項 本件訂正は、以下の訂正事項を内容とするものである。 ア 訂正事項1-1 特許請求の範囲の請求項1における「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?142nmまたは151nm?160nmであり、」との記載を、「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?142nmまたは151nm?160nmであり、該第2の位相差層がRe(450)<Re(550)の関係を満たし、」と訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項2、4および5を同様に訂正する。) イ 訂正事項1-2 特許請求の範囲の請求項1における「前記a_(0)が-10.00?-1.00または1.00?10.00であり、前記b_(0)が-10.00?-1.50または-0.20?10.00であり、」との記載を「前記a_(0)が-10.00?-1.00または1.00?10.00であり、前記b_(0)が-10.00?-1.50または-0.20?10.00であり、前記a_(1)が-1.49以下または0.63以上であり、前記b_(1)が-0.95以下または-0.44以上であり、」と訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項2、4および5を同様に訂正する。) ウ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 エ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4における「請求項1から3のいずれかに記載の画像表示装置。」との記載を、「請求項1または2に記載の画像表示装置。」と訂正する。 オ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5における「請求項1から4のいずれかに記載の画像表示装置。」との記載を、「請求項1、2または4に記載の画像表示装置。」と訂正する。 なお、下線は訂正箇所を示す。 2 本件訂正についての当合議体の判断 本件訂正は、本件訂正前の請求項1ないし請求項5について請求項ごとに請求されたものであり、かつ、本件訂正前の請求項1ないし請求項5からなる一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第3項及び第4項に規定する要件を満たしている。 これらの請求項は、いずれも特許異議の申立てがされた請求項であるから、本件訂正に特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(独立特許要件)が課されることはない。 その他の訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否)についての判断は、以下のとおりである。 (1)請求項1について ア 訂正事項1-1 上記訂正事項1-1は、第2の位相差層がRe(450)<Re(550)の関係を満たすことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 次に、明細書の発明の詳細な説明には、 「【0028】 第2の位相差層は、いわゆる逆分散の波長依存性を示す。具体的には、その面内位相差は、Re(450)<Re(550)の関係を満たす。このような関係を満たすことにより、優れた反射色相を達成することができる。Re(450)/Re(550)は、好ましくは0.8以上1未満であり、より好ましくは0.8以上0.95以下である。」 とあり、「第2の位相差層がRe(450)<Re(550)の関係を満た」すことは本件特許の願書に添付した明細書に記載されているものであって、訂正事項1-1に係る訂正は新規事項の追加に該当しない。 そして、訂正事項1-1に係る訂正は明細書に記載された事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮をするものであるから、明らかに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。。 イ 訂正事項1-2 上記訂正事項1-2は、画像表示装置の色相を表すa値及びb値の範囲を限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 ここで、「前記a_(1)が-1.49以下または0.63以上であり、前記b_(1)が-0.95以下または-0.44以上であり、」との記載により特定されるa_(1)及びb_(1)の範囲は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に明示されているものではない。 しかしながら、明細書の段落【0066】の表1には、a_(1)b_(1)座標系におけるa_(1)及びb_(1)値の組合せ(座標点)として、実施例1の(-3.15,-2.35)、(-1.49,-0.95)、(-1.75,-1.10)という3つの点と、実施例2の(0.63,-0.28)、(1.74,-0.37)、(1.94,-0.44)という3つの点の、合わせて6つの点が記載されている。それぞれが互いに異なる位置に関するこれらの値は、a_(1)及びb_(1)の数値の範囲を直接的に特定するものではないが、上記記載のうち「前記a_(1)が-1.49以下であり、前記b_(1)が-0.95以下であり、」という部分は、変化後の色範囲として、a_(1)b_(1)座標系の第3象限に属する実施例1の3点のうち、a_(1)及びb_(1)の値がいずれも最大である点(-1.49,-0.95)の値を用いて、実施例1の3点が含まれるような範囲を特定するものであり、上記記載のうち「前記a_(1)が0.63以上であり、前記b_(1)が-0.44以上であり、」という部分は、変化後の色範囲として、a_(1)b_(1)座標系の第4象限に属する実施例2の3点のうち、a_(1)の値が最小である点(0.63,-0.28)のa_(1)の値と、b_(1)の値が最小である点(1.94,-0.44)のb_(1)の値とを用いて、実施例2の3点が含まれるような範囲を特定するものである。 そして、「前記a_(1)が-1.49以下または0.63以上であり、前記b_(1)が-0.95以下または-0.44以上であ」ることによって、新たな効果の主張や技術上の意義の主張を伴うものではない。 そうすると、上記「前記a_(1)が-1.49以下または0.63以上であり、前記b_(1)が-0.95以下または-0.44以上であり、」との記載を追加する訂正は、数値範囲の一部を対象外として、実施例が含まれる数値範囲に限定する、単なる数値範囲の限定にすぎず、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、訂正事項1-2に係る訂正は新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項1-2に係る訂正は、上記のとおり単なる数値範囲の限定にすぎないものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、請求項1についての上記訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)請求項3について 請求項3に係る訂正事項2は、本件訂正前の請求項3を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。そして、請求項を削除する訂正であることから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることが明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。したがって、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)請求項4,5について 請求項4,5に係る訂正事項3,4はいずれも、当該請求項が引用する請求項から請求項3を削除するものであって、引用する請求項の数を減らす訂正である。 したがって、上記訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。そして、記載を引用する請求項を減らす訂正であることから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることが明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。したがって、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 3 訂正拒絶理由について (1)訂正拒絶理由の概要 「前記a_(1)が-1.49以下または0.63以上であり、前記b_(1)が-0.95以下または-0.44以上であり、」との記載を追加する訂正事項1-2により訂正された請求項1の記載により特定されるa_(1)及びb_(1)の範囲は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載も示唆もされていない。 よって、本件訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものではないから、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。 (2)判断 上記2(1)のイで説示したとおり、上記「前記a_(1)が-1.49以下または0.63以上であり、前記b_(1)が-0.95以下または-0.44以上であり、」との記載を追加する訂正は、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 4 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、上記結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし請求項5について訂正することを認める。 第3 本件特許に係る発明 前記第2のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1ないし請求項5は、本件訂正後の特許請求の範囲(前記第2の1(1)イ)の記載のとおりである。そして、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、本件発明1、2、4及び5を併せて「本件発明」という。)は、各請求項に記載された事項によって特定されるとおりのものである。 また、本件発明2、本件発明4及び本件発明5は、いずれも本件発明1の構成を全て含む。 第4 本件取消理由の概要 令和元年12月26日付けの取消理由通知書(決定の予告)の取消理由(以下「本件取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。 理由3 本件特許は、請求項1,3及びこれらを直接または間接的に引用する請求項2,4,5の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由4 本件特許は、請求項3及び請求項3を直接または間接的に引用する請求項4,5の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 新たな取消理由 理由a 請求項1,3,5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1,3,5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由b 請求項1-5に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 理由c 本件特許は、請求項1及び請求項1を直接または間接的に引用する請求項2-5の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 引用文献一覧 甲第5号証:特開2004-226838号公報(以下「甲5」という。) 第5 当合議体の判断1 理由3及び理由c(サポート要件違反)について 本件訂正前の請求項3が本件訂正により削除された結果、理由3及び理由cのうち、請求項3に係る特許に関する部分は、その対象が存在しないものとなった。 本件特許の請求項1,2,4,5に係る特許について検討すると、以下のとおりである。 (1)理由3について ア 理由3の概要 請求項1において、 「…65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をa_(1)、…65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をb_(1)としたとき、…周辺部の正面反射色相が下記式(1)および(2)を満足する…」 として、 「a_(0)×a_(1)>0 ・・・(1)」 「b_(0)×b_(1)>0 ・・・(2)」 との条件が記載されているが、該条件においてはa_(1),b_(1)の値の上限は何ら定められていない。 一方、本件明細書の発明の詳細な説明から、本件発明1の解決しようとする課題は、位相差層付偏光板の色ムラを目立たないようにすることであるといえる。 しかしながら、請求項1に記載の上記条件はa_(1),b_(1)の値の上限が定められておらず、例えばa_(0)=1.00,a_(1)=60.00といった、明瞭な色ムラを呈するであろう組合せを許容するものであるから、請求項1の記載は上記課題を解決することができない条件の範囲を含むものとなっており、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 イ 判断 請求項1において、初期値である、a_(0)とb_(0)については、「a_(0)が-10.00?-1.00または1.00?10.00であり」、「b_(0)が-10.00?-1.50または-0.20?10.00であ」ることが特定されている。a_(1)及びb_(1)は、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の、正面反射色相のa値及びb値であるところ、請求項1に係る発明は「画像表示装置」であり、これが実用に供するためには、これらの値が、その初期値であるa_(0)及びb_(0)から大きく離れた値になってはならないことは大前提であり、技術常識であるということができる。してみれば、当該分野における技術常識を参酌すれば、そのa_(1)値およびb_(1)値が極端な着色を呈するものを含まないことが前提とされていると認識できるものであるといえる。 そうすると、請求項1及びこれを直接または間接的に引用する請求項2,4,5に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとまではいえない。 (2)理由cについて ア 理由cの概要 請求項1において、 「・・・該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?142nmまたは151nm?160nmであり、」 と記載されているが、該「Re(550)」の具体的な値としては、本願明細書の発明の詳細な説明の【表1】において実施例1,2として「151」及び「142」の2つの値が示されているのみである。 上記2つの値の近傍においては所望の効果が奏されることが推測できるとしても、同じ【表1】においては「147」(上記Reの数値範囲に含まれる120よりも142に近い値)及び「149」(同様に160よりも151に近い値)の2つの値は色相変化が目立つ比較例として挙げられており、上記の数値範囲が発明を実施可能な値として発明の詳細な説明に実質的に記載されているとは認められない。 また、請求項1には、 「前記a_(0)が-10.00?-1.00または1.00?10.00であり、前記b_(0)が-10.00?-1.50または-0.20?10.00であり、」 とも記載されているが、これらの数値に関しても実施例としては【表1】に、a_(0)が-2.55?-2.34または1.47?1.65、b_(0)が-2.20?-2.02または-0.10?-0.08の範囲の値が示されているのみであって、同様である。 イ 判断 請求項1に係る発明は、「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)」の値だけを特定するものではなく、「該第2の位相差層がRe(450)<Re(550)の関係を満た」すこと、及び、「a_(0)が-10.00?-1.00または1.00?10.00であり、前記b_(0)が-10.00?-1.50または-0.20?10.00であ」ることも特定している。そして、前記、第5の1の(1)のイに示すように、請求項1に係る発明は「画像表示装置」であり、これが実用に供するためには、これらの値が、その初期値であるa_(0)及びb_(0)から大きく離れた値になってはならないことは大前提であり、技術常識であるということができる。 以上を考慮すると、請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に実質的に記載されているとは認められないとまではいうことができない。 したがって、請求項1及びこれを直接または間接的に引用する請求項2,4,5に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとまではいえない。 2 理由4(明確性要件違反)について 本件訂正前の請求項3が本件訂正により削除された結果、請求項3に係る特許についての取消理由である理由4は、その対象が存在しないものとなった。 3 理由a(新規性欠如)及び理由b(進歩性欠如)について 本件訂正前の請求項3が本件訂正により削除された結果、理由a,bのうち、請求項3に係る特許に関する部分は、その対象が存在しないものとなった。 本件特許の請求項1,2,4,5に係る特許について検討すると、以下のとおりである。 (1)引用文献に記載された発明等 甲5には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、光学フィルムに関する。本発明の光学フィルムは、単独でまたは他の光学フィルムと組み合わせて、位相差板、視角補償フィルム、光学補償フィルム、楕円偏光板、輝度向上フィルム等の各種光学フィルムとして使用できる。特に、本発明の光学フィルムは、偏光板と積層して楕円偏光板として用いる場合に有用である。また本発明は前記光学フィルム、楕円偏光板等を用いた液晶表示装置、有機EL(エレクトロルミネセンス)表示装置、PDP等の画像表示装置に関する。本発明の積層光学フィルム、楕円偏光板は、上記の通り、各種液晶表示装置等に適用できるが、特に携帯型情報通信機器、パーソナルコンピュータなどに実装され得る反射半透過型液晶表示装置等に特に好適に利用される。」(下線は当審による。以下同様。) 「【0013】 上記本発明の光学フィルムは、ホメオトロピック配向液晶層(1)と位相差板(2)とを積層したものであり、ホメオトロピック配向液晶層(1)によって厚み方向の位相差も制御が可能であり、斜めから見たときの色見の変化を抑制することができる。また、位相差板(2)は、可視光領域における上記各波長の分散特性が、上記関係を有しており、1層の高分子配向フィルムにより可視光の広帯域領域を補償できる。そのため、複数枚のフィルムを光軸をあわせて積層する必要がなく、簡便かつ低コストで、広帯域、広い視野角を持った光学フィルムを提供することができる。」 「【0023】 【発明の実施の形態】 以下に本発明の光学フィルムを図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本発明の光学フィルムは、ホメオトロピック配向液晶層(1)と、位相差板(2)とが積層されている。また前記光学フィルムには、偏光板(P)を積層して、楕円偏光板とすることができる。図2は、図1に示す光学フィルムのホメオトロピック配向液晶層(1)側に偏光板(P)を積層した楕円偏光板である。なお、前記光学フィルムに対する偏光板(P)の積層位置は特に制限されないが、液晶表示装置に実装した時に、より視野角が広がる点から、図2のようにホメオトロピック配向液晶層(1)側に積層するのが好ましい。」 「【0128】 電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。」 「【0134】 ・・・ホメオトロピック配向液晶層の厚み方向位相差は、-70nmであった。 【0135】 (位相差板) 広帯域位相差板として、帝人(株)製のWRF(正面位相差138nm,550nmにおける位相差)を用いた。これは、R(400)<R(500)<R(600)<R(700)<R(800)を満足するものであった。各波長における位相差は、順に、117nm、133nm、142nm、147nm、151nmであった。 【0136】 また、R(450):120nm、R(550):138nm、R(650):145nm、であり、0.6<{R(450)/R(550)}<0.95、を満足し、かつ、1.0<{R(650)/R(550)}<1.3、を満足するものであった。」 上記記載から、甲5には以下の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。 「ホメオトロピック配向液晶層(1)と、位相差板(2)とが積層された光学フィルムに偏光板(P)を積層した楕円偏光板を用いた有機EL表示装置(【0001】、【0023】)において、 前記光学フィルムに対する偏光板(P)の積層位置は特に制限されず(【0023】)、有機発光層の表面側に透明電極を備える有機EL表示装置において、 透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設け(【0128】)、 ホメオトロピック配向液晶層の厚み方向位相差は、-70nmであり、(【0134】) 位相差板の550nmにおける正面位相差であるR(550)が138nmであり、0.6<{R(450)/R(550)}<0.95、を満足する(【0135】、【0136】)、有機EL表示装置。」 (2)本件発明1について(特許法第29条第1項第3号、同第2項) ア 対比 本件発明1と引用発明5とを、主たる構成要件毎に、順次対比する。 まず、引用発明5における「ホメオトロピック配向液晶層」、「位相差板」及び「偏光板」は、それぞれ本件発明1における「第1の位相差層」、「第2の位相差層」及び「偏光子」に相当する。 また、引用発明5の「有機EL表示装置」は、本件発明1における「画像表示装置」に相当し、「有機EL表示装置」のうち、「有機発光層」や「透明電極」を備え、楕円偏光板を含まない部分が本願発明における「表示セル」に相当する。 さらに、引用発明5において「位相差板」が「0.6<{R(450)/R(550)}<0.95、を満足する」ことは、本件発明1において「第2の位相差層がRe(450)<Re(550)の関係を満た」すことに相当する。 してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 (一致点) 「表示セルと、第1の位相差層と、第2の位相差層と、偏光子と、を備え、 第2の位相差層がRe(450)<Re(550)の関係を満たす、画像表示装置」 (相違点) 相違点1 本件発明1においては、「表示セルと、第1の位相差層と、第2の位相差層と、偏光子と、を」「この順に備え」るとされているのに対し、引用発明5は「有機EL表示装置」のうち、「有機発光層」や「透明電極」を備え、楕円偏光板を含まない部分、「ホメオトロピック配向液晶層」、「位相差板」及び「偏光板」(本件発明1の「表示セルと、第1の位相差層と、第2の位相差層と、偏光子」に相当。)を備え、また「有機EL表示装置において」「透明電極と偏光板との間に位相差板を設け」るとされているが、「ホメオトロピック配向液晶層」と「位相差板」(本件発明1の「第1の位相差層」と「第2の位相差層」と、に相当。)がこの順に備えられているかどうかは不明である点。 相違点2 本件発明1においては、「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?142nmまたは151nm?160nmであり、」とされているのに対し、引用発明5においては、「位相差板の550nmにおける正面位相差であるR(550)が138nm」とされているが、「ホメオトロピック配向液晶層」との積層体である「光学フィルム」の正面位相差(面内位相差)の値は明示されていない点。 相違点3 本件発明1においては、 「非点灯状態における正面反射色相a値の初期値をa_(0)、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をa_(1)、正面反射色相b値の初期値をb_(0)、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をb_(1)としたとき、 前記a_(0)が-10.00?-1.00または1.00?10.00であり、前記b_(0)が-10.00?-1.50または-0.20?10.00であり、前記a_(1)が-1.49以下または0.63以上であり、前記b_(1)が-0.95以下または-0.44以上であり、 周辺部の正面反射色相が下記式(1)および(2)を満足する」 「a_(0)×a_(1)>0 ・・・(1)」 「b_(0)×b_(1)>0 ・・・(2)」 という色特性を備えるのに対し、引用発明5がそのような色特性を有するとはされていない点。 イ 相違点についての判断 (ア)相違点1について 引用発明5においては、「偏光板(P)」は最表面側にあることは明らかであるところ、「前記光学フィルムに対する偏光板(P)の積層位置は特に制限されず」とされており、「ホメオトロピック配向液晶層」と「位相差板」のどちらを「偏光板(P)」側に配置するかは設計事項といえる。 また、本件発明1において、「表示セルと、第1の位相差層と、第2の位相差層と、偏光子と、を」「この順に備え」ることにより、「表示セルと、」「第2の位相差層と、」「第1の位相差層と、」「偏光子」の順に備えた場合に比べて、当業者が容易に予想し得ない特段の効果が生じるとも認められない。 (イ)相違点2について 一般に、「ホメオトロピック配向液晶層」は一軸性の屈折率構造を有するものであって、その面内位相差は実質的に考慮すべき必要のない程度の値であるといえる。 このことは、例えば特開2014-191028号公報において、 「【0001】 本発明は、積層偏光板および有機EL素子に関し、特に斜め方向でも視認性に優れた視野角特性の良好な有機EL素子に関する。」 「【0133】 (第2の光学異方性層) ・・・PVA配向基板上に液晶層からなる第2の光学異方性層を形成させた。・・・得られた積層体をクロスニコルにした偏光顕微鏡下で観察すると、・・・正の一軸性屈折率構造を有するホメオトロピック配向であることがわかった。このフィルムを傾けて斜めから光を入射し、同様にクロスニコルで観察したところ、光の透過が観測された。また、同積層体の光学位相差を測定した結果、本第2の光学異方性層単独の面内のリターデーション値Re2(550)は0nm、厚さ方向のリターデーション値Rth2(550)は-81nmであった。なお、第2の光学異方性層の波長550nmにおけるnx2は1.541、ny2は1.541、nz2は1.725であった。」 と記載され、また特開2016-106241号公報においても、 「【0034】 次に、第2の光学異方性層について説明する。 第2の光学異方性層は、正の一軸性を示す液晶材料を液晶状態においてホメオトロピック配向させた後、配向固定化したホメオトロピック配向液晶フィルムからなることが望ましい。・・・」 「【0065】 すなわち、ホメオトロピック配向液晶フィルム面内のリターデーション値Re2(550)は、-10nm?10nmであることが必要であり、好ましくは0nm?10nm、さらに好ましくは0nm?5nmの範囲である。・・・」 と記載されていることから明らかである。 甲5においても、 「【0013】 上記本発明の光学フィルムは、ホメオトロピック配向液晶層(1)と位相差板(2)とを積層したものであり、ホメオトロピック配向液晶層(1)によって厚み方向の位相差も制御が可能であり、・・・」 「【0134】 ・・・ホメオトロピック配向液晶層の厚み方向位相差は、-70nmであった。」 として、「ホメオトロピック配向液晶層」は「厚み方向の位相差」を制御するものとして挙げられ、「厚み方向位相差」は「ホメオトロピック配向液晶層」に関してのみ記載され、一方、面内位相差については「位相差板」に関してのみ記載されていることからみても、引用発明5の「光学フィルム」(本件発明1の「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体」に相当。)において、その面内位相差の値は実質的に、「位相差板」(本件発明1の「第2の位相差層」に相当。)のR値により決定されているものであるといえる。 したがって、上記相違点2は実質的な相違点ではない。 (ウ)相違点3について 本件特許の願書に添付した明細書において、 「【0006】 本発明によれば、画像表示装置において、初期の反射色相を青方向または赤方向にシフトさせて設定することにより、高温高湿環境下における色ムラが目立たない画像表示装置を実現することができる。」 「【0043】 E.第1の位相差層と第2の位相差層との積層体 第1の位相差層と第2の位相差層との積層体の面内位相差Re(550)は、上記のとおり、120nm?142nmまたは151nm?160nmである。積層体の面内位相差をこのような範囲とすることにより、初期の反射色相(代表的には、a値およびb値の初期値a_(0)およびb_(0))をニュートラルな色相から青方向または赤方向にシフトさせて設定することができる。その結果、上記のように、高温高湿環境下における反射色相の変化を目立たなくすることができる。」 と記載されており、これらの記載によれば、本件発明1は、高温高湿環境下における反射色相の変化を目立たなくするために、面内位相差Reの値を特定の範囲とすることによって初期の非点灯状態における画像表示装置の反射色相をシフトさせるようにしたとも考えられる。しかしながら、初期の非点灯状態における画像表示装置の反射色相には、位相差層のほか、表示セルの反射特性、偏光子の波長依存性などにも依存すると考えるのが技術常識であるから、どのような場合においても同一の面内位相差Reの値であれば、画像表示装置の初期の反射色相が同一の値であるとまでいうことはできない。 そうすると、引用発明5は、本件発明1と実質的に同一のRe(R)値を有するとはいえ、引用発明5の画像表示装置が上記相違点3の色特性と同一の色特性を有することが当然であるとまではいえない。 したがって、相違点3に係る本件発明1の構成は、甲5に記載されたものであるとも、引用発明5に基づいて、当業者が容易に思い付くものであるともいうことはできない。 したがって、本件発明1は、甲5に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 また、本件発明1は、引用発明5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。 (3)本件発明2、本件発明4及び本件発明5について 本件発明2、本件発明4及び本件発明5は、いずれも本件発明1の構成を全て含むから、少なくとも上記相違点3において引用発明5と相違する。そして、前記(2)イ(ウ)で述べたとおり、相違点3に係る本件発明1の構成は、甲5に記載されたものであるとも、引用発明5に基づいて、当業者が容易に思い付くものであるともいうことはできないから、相違点3に係る本件発明2、本件発明4及び本件発明5の構成も同様である。 したがって、本件特許の請求項2、請求項4及び請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。また、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいうことはできない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立理由の概要 本件特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。 申立理由1 本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条1項3号に該当する。 よって、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきである。 申立理由2 本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。または、下記の甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきである。 申立理由3 本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 よって、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、取り消されるべきである。 記 甲第1号証:再公表特許第2009/025170号 甲第2号証:特開2012-237965号公報 甲第3号証:特開2010-72471号公報 2 判断 (1)申立理由1,2について 甲第1号証の段落【0001】、【0016】、【0023】、【0025】、【0231】、【0281】-【0284】、【0294】-【0298】、【0320】、【0357】、図6及び図10の記載から、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「陰極306、発光層307、陽極305、及び透明基板304からなる表示部と、垂直配向液晶層及び位相差を有する基材フィルムからなる位相差フィルム302と、吸収型直線偏光子301と、をこの順に備え、位相差フィルムのRoが138nmである、有機EL素子の画像表示装置。」 そうすると、本件発明1と引用発明1とは、少なくとも、本件発明1においては、 「非点灯状態における正面反射色相a値の初期値をa_(0)、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をa_(1)、正面反射色相b値の初期値をb_(0)、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をb_(1)としたとき、 前記a_(0)が-10.00?-1.00または1.00?10.00であり、前記b_(0)が-10.00?-1.50または-0.20?10.00であり、前記a_(1)が-1.49以下または0.63以上であり、前記b_(1)が-0.95以下または-0.44以上であり、 周辺部の正面反射色相が下記式(1)および(2)を満足する」 「a_(0)×a_(1)>0 ・・・(1)」 「b_(0)×b_(1)>0 ・・・(2)」 という色特性を備えるのに対し、引用発明1がそのような色特性を有するとはされていない点で相違する。(以下、「相違点4」という。) そして、前記第5の3(2)イ(ウ)において相違点3について判断した理由と同様の理由により、相違点4に係る本件発明1の構成は、甲第1号証に記載されたものであるとも、引用発明1に基づいて、当業者が容易に思い付くものであるともいうことはできない。 また、該相違点4に係る構成は、甲第2号証及び甲第3号証において記載も示唆もされていない。 したがって、本件特許の請求項1、請求項2、請求項4及び請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。また、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいうことはできない。 (1)申立理由3について ア 申立理由3の概要 請求項1における正面反射色相a値及びb値は、表示セルを含めた画像表示装置全体としての値を特定するものであるが、明細書の記載から、具体的にどのようにして該a値及びb値を請求項1における値とすることができるのかを当業者が理解することができない。 イ 判断 画像表示装置の位相差層以外の構成要素が正面反射色相に影響を及ぼすものであるとしても、画像表示装置における技術常識をふまえれば、必ずしも全ての構成要素の色相特性を調整する必要はなく、位相差層の調整によって画像表示装置全体としての所望の色相を実現することが可能であると認められるから、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるとまではいえない。 したがって、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、本件取消理由、及び特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1,2,4,5に係る特許を取り消すべきであるということはできない。そして、他に本件特許の請求項1,2,4,5に係る特許を取り消すべきであるとする理由を発見しない。 また、本件特許の請求項3に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により請求項3が削除された結果、申立ての対象が存在しないものとなった。したがって、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下するべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 表示セルと、第1の位相差層と、第2の位相差層と、偏光子と、をこの順に備え、 該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?142nmまたは151nm?160nmであり、該第2の位相差層がRe(450)<Re(550)の関係を満たし、 非点灯状態における正面反射色相a値の初期値をa_(0)、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をa_(1)、正面反射色相b値の初期値をb_(0)、65℃および90%RHの環境下に250時間置いた後の値をb_(1)としたとき、 前記a_(0)が-10.00?-1.00または1.00?10.00であり、前記b_(0)が-10.00?-1.50または-0.20?10.00であり、前記a_(1)が-1.49以下または0.63以上であり、前記b_(1)が-0.95以下または-0.44以上であり、 周辺部の正面反射色相が下記式(1)および(2)を満足する、画像表示装置: a_(0)×a_(1)>0 ・・・(1) b_(0)×b_(1)>0 ・・・(2)。 【請求項2】 前記偏光子の前記第2の位相差層と反対側に、防湿層をさらに備える、請求項1に記載の画像表示装置。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記第1の位相差層がnz>nx≧nyの屈折率特性を示し、前記第2の位相差層がnx>ny≧nzの屈折率特性を示す、請求項1または2に記載の画像表示装置。 【請求項5】 有機エレクトロルミネセンス表示装置である、請求項1、2または4に記載の画像表示装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-08-17 |
出願番号 | 特願2017-66855(P2017-66855) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(G09F)
P 1 651・ 536- YAA (G09F) P 1 651・ 537- YAA (G09F) P 1 651・ 113- YAA (G09F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 石本 努 |
特許庁審判長 |
岡田 吉美 |
特許庁審判官 |
中塚 直樹 濱野 隆 |
登録日 | 2018-10-05 |
登録番号 | 特許第6412195号(P6412195) |
権利者 | 日東電工株式会社 |
発明の名称 | 画像表示装置 |
代理人 | 籾井 孝文 |
代理人 | 籾井 孝文 |