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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1366984
異議申立番号 異議2020-700371  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-01 
確定日 2020-10-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6615431号発明「リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6615431号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6615431号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願(特願2014-92062)は,平成26年 4月25日の出願であって,令和 1年11月15日にその特許権の設定の登録がされ,同年12月 4日に特許掲載公報が発行された。その後,令和 2年 6月 1日に特許異議申立人 岡村 英紀(以下「申立人」という。)により,請求項1ないし3に係る特許に対して,特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は,各々,その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ケイ素酸化物粒子の表面の一部又は全部に炭素を有してなり、前記炭素が5質量%?10質量%で含まれ、CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記回折ピークから算出されるケイ素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nmであり、
前記炭素は、R値が0.5以上であり、
但し、リチウム、マグネシウム又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
集電体と
前記集電体上に設けられる、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を含む負極材層と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
正極と、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。」

3 申立ての理由の概要
申立人は,甲第1号証ないし甲第5号証を提示し,本件特許の請求項1ないし3に係る発明は,甲第1号証ないし甲第3号証に記載された各発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するか,上記各発明に基いてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,請求項1ないし3に係る特許は,同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証 特開2004-47404号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証 特開2004-327190号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証 特開2012-151129号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証 長田 実 外1名,「ラマン分光法による炭素材料の評価-最近の測定技術とナノカーボンへの応用-」,炭素,2007年第228号,第174?184頁(以下「甲4」という。)
甲第5号証 特開2001-332263号公報(以下「甲5」という。)

4 甲第1号証ないし甲第5号証について
(1)甲1には,「導電性珪素複合体及びその製造方法並びに非水電解質二次電池用負極材」(発明の名称)に関して,次の記載がある。下線は当審が付した(以下同様。)。

ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする導電性珪素複合体。
【請求項2】
平均粒子径0.01?30μm、BET比表面積0.5?20m^(2)/g、被覆炭素量3?70重量%である請求項1記載の導電性珪素複合体。
【請求項3】
珪素微結晶の大きさが1?500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着していることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性珪素複合体。
【請求項4】
X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1?500nmであり、被覆炭素量が5?70重量%であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の導電性珪素複合体。
【請求項5】(略)
【請求項6】
ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の導電性珪素複合体。
【請求項7】?【請求項13】(略)」

イ「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質として有用とされる導電性を付与した導電性珪素複合体粉末、その製造方法及び該粉末を用いた非水電解質二次電池用負極材に関する。」

ウ「【0014】
この場合、本発明の導電性珪素複合体は、下記性状を有していることが好ましい。
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu-Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径が好ましくは1?500nm、より好ましくは2?200nm、更に好ましくは2?20nmである。珪素の微粒子の大きさが1nmより小さいと、充放電容量が小さくなる場合があるし、逆に500nmより大きいと充放電時の膨張収縮が大きくなり、サイクル性が低下するおそれがある。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。
ii.?iii.(略)
iv.粒子の表面部分を透過電子顕微鏡で観察すると、カーボンが層状に整列し、これによって導電性が高まり、更に、その内側は二酸化珪素との融合状態にあることによって、カーボン層の脱落防止ができ、安定した導電性が確保される。
v.ラマン分光スペクトルより、1580cm^(-1)付近にグラファイトに帰属されるスペクトルを有することより、炭素の一部又はすべてがグラファイト構造である。」

エ「【0019】
次に、本発明における導電性珪素複合体の製造方法について説明する。
本発明の導電性珪素複合体粉末は、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなる、好ましくは0.01?30μm程度の平均粒子径を有するものであれば、その製造方法は特に限定されるものではないが、例えば下記I?IIIの方法を好適に採用することができる。
I:一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末を原料として、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下900?1400℃、好ましくは1000?1400℃、より好ましくは1050?1300℃、更に好ましくは1100?1200℃の温度域で熱処理することにより、原料の酸化珪素粉末を珪素と二酸化珪素の複合体に不均化すると共に、その表面を化学蒸着する方法、
II:一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末をあらかじめ不活性ガス雰囲気下900?1400℃、好ましくは1000?1400℃、より好ましくは1100?1300℃で熱処理を施して不均化してなる珪素複合物、シリコン微粒子をゾルゲル法により二酸化珪素でコーティングした複合物、シリコン微粉末を煙霧状シリカ、沈降シリカのような微粉状シリカと水を介して凝固させたものを焼結して得られる複合物、又は珪素及びこの部分酸化物もしくは窒化物等の好ましくは0.1?50μmの粒度まで粉砕したものをあらかじめ不活性ガス気流下で800?1400℃で加熱したものを原料に、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、800?1400℃、好ましくは900?1300℃、より好ましくは1000?1200℃の温度域で熱処理して表面を化学蒸着する方法、
III:一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末をあらかじめ500?1200℃、好ましくは500?1000℃、より好ましくは500?900℃の温度域で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理したものを原料として、不活性ガス雰囲気下900?1400℃、好ましくは1000?1400℃、より好ましくは1100?1300℃の温度域で熱処理を施して不均化する方法。
【0020】(略)
【0021】
上記I又はIIの方法に関し、800?1400℃(好ましくは900?1400℃、特に1000?1400℃)の温度域での化学蒸着処理(即ち、熱CVD処理)において、熱処理温度が800℃より低いと、導電性炭素皮膜と珪素複合物との融合、炭素原子の整列(結晶化)が不十分であり、逆に1400℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、リチウムイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。
【0022】(略)
【0023】
なお、上記IIIの方法においては、CVD処理した後に酸化珪素の不均化を900?1400℃、特に1000?1400℃で行うために、化学蒸着(CVD)の処理温度としては800℃より低い温度域での処理でも最終的には炭素原子が整列(結晶化)した導電性炭素皮膜と珪素複合物とが表面で融合したものが得られるものである。」

オ「【0032】
本発明で得られた導電性珪素複合体の粉末は、これを負極材(負極活物質)として、高容量でかつサイクル特性の優れた非水電解質二次電池、特に、リチウムイオン二次電池を製造することができる。」

カ「【0037】
[実施例1]
本発明で得られた導電性珪素複合体の構造について、一例として、酸化珪素(SiO_(x))を原料として用いて得られた導電性珪素複合体について説明する。
【0038】?【0039】(略)
【0040】
また、図2は、X線回折(Cu-Kα)による酸化珪素粉末を原料にして、熱CVD(メタンガス)をして得られた導電性珪素複合体と原料酸化珪素粉末の比較で、酸化珪素は2θ=24°付近に均質でかつ無定形であることを示す極めてブロードなピークが観察されるのみであるのに対して、本発明による導電性珪素複合体では2θ=28.4°付近に結晶性の珪素(ダイヤモンド構造)のSi(111)と帰属されるピークが観察される。この半価幅よりシェーラー法を用いて求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは、約11nmである。
【0041】
図3の導電性珪素複合体粉末及びその表面部の透過電子顕微鏡写真から、最外殻部では炭素原子が層状に配列していることが分かる。また、図4の導電性珪素複合体のラマンスペクトルは、1580cm^(-1)付近のスペクトルより炭素の一部あるいは全部がグラファイト構造であることを示している。結晶性がよいと1330cm^(-1)付近のスペクトルが減少する。」

キ「【0043】
[実施例2]
酸化珪素(SiO_(x):x=1.02)を、ヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた懸濁物をろ過し、窒素雰囲気下で脱溶剤後、平均粒子径が約0.8μmの粉末を得た。この酸化珪素粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン-アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で酸化珪素の不均化と同時に熱CVDを行った。こうして得られたものは、蒸着炭素量が16.5%であり、水酸化カリウム水溶液との反応による水素量より求めたゼロ価の珪素である活性珪素は26.7%であった。また、X線回折(Cu-Kα)を行い、2θ=28.4°のSi(111)に帰属される回折線の半価幅からシェーラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは約11nmであった。熱CVD後、導電性珪素複合体をらいかい器で解砕し、平均粒子径が約2.8μmの粉末を得た。これを用いて下記方法で電池評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
[電池評価]
リチウムイオン二次電池負極活物質としての評価はすべての実施例、比較例ともに同一で、以下の方法・手順にて行った。
まず、得られた導電性珪素複合体に人造黒鉛(平均粒子径D50=5μm)を加え、人造黒鉛の炭素と蒸着した導電性珪素複合体中の炭素が合計40%となるように加え、混合物を製造した。この混合物にポリフッ化ビニリデンを10%加え、更にN-メチルピロリドンを加え、スラリーとし、このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には2cm^(2)に打ち抜き、負極とした。
【0045】
ここで、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートと1,2-ジメトキシエタンの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレーターに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。」

ク「【図2】

【図3】

【図4】



ケ 上記ア?ク,特に,摘示ア(請求項1?4,6),摘示イ(段落【0001】)及び摘示オ(段落【0032】)の記載よりみて,甲1には次の発明が記載されているといえる。

「珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなり、
平均粒子径0.01?30μm、BET比表面積0.5?20m^(2)/g、被覆炭素量3?70重量%であり、
珪素微結晶の大きさが1?500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着しており、
X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1?500nmであり、被覆炭素量が5?70重量%であり、
ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する、
導電性珪素複合体粉末を用いた、リチウムイオン二次電池用負極活物質。」(以下「甲1発明」という。)

(2)甲2には,「非水電解質二次電池用電極材及びその製造方法」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末であり、黒鉛被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
【請求項2】
リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項3】
複合構造粒子における珪素の微粒子の大きさが1?500nmであり、かつその表面が黒鉛と融合していることを特徴とする請求項2記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項4】
複合構造粒子における珪素系化合物が二酸化珪素であることを特徴とする請求項2又は3記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項5】?【請求項8】(略)」

イ「【0001】
【発明の属する技術の分野】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた際に高い充放電容量及び良好なサイクル特性を有する非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法に関する。」

ウ「【0010】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明においてリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料としては、Si、珪素(Si)と二酸化珪素(SiO_(2))との複合分散体、SiO_(x)(1.0≦x<1.6、特に1.0≦x<1.3)といった金属珪素、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した微細な構造を有する粒子、珪素低級酸化物(いわゆる酸化珪素)等の珪素系物質の他に、下記式
MO_(a)
(式中、MはGe,Sn,Pb,Bi,Sb,Zn,In,Mgから選ばれる少なくとも1種であり、a=0.1?4の正数である。)
で表される珪素を含まない金属酸化物、もしくは、下記式
LiM_(b)O_(c)
(式中、MはGe,Sn,Pb,Bi,Sb,Zn,In,Mg,Siから選ばれる少なくとも1種であり、b=0.1?4の正数、c=0.1?8の正数である。)
で表される(珪素を含んだものであってもよい)リチウム複合酸化物であり、具体的には、…(中略)…等が挙げられるが、特に理論充放電容量の大きなSi(金属珪素)、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した微細な構造を有する粒子及び酸化珪素を用いた場合に本発明がより効果的である。」

エ「【0012】
また、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した微細な構造を有する粒子において、珪素系化合物については、不活性なものが好ましく、製造しやすさの点において二酸化珪素が好ましい。またこの粒子は、下記性状を有していることが好ましい。
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu-Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径が好ましくは1?500nm、より好ましくは2?200nm、更に好ましくは2?20nmである。珪素の微粒子の大きさが1nmより小さいと、充放電容量が小さくなる場合があるし、逆に500nmより大きいと充放電時の膨張収縮が大きくなり、サイクル性が低下するおそれがある。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。
ii.(略)」

オ「【0021】
本発明におけるリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料表面を被覆する黒鉛被覆膜は、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルを有することが必須である。この黒鉛皮膜を有する導電性材料を非水電解質二次電池用負極材として用いることで電池特性が飛躍的に向上する。この原因については、不明であるが、結果として、上記構造を有することにより、充放電時に伴う電極材料の膨張・収縮による電極破壊を防止できることで、黒鉛皮膜が、強度を維持する外殻の役割を果たしていることが推測できる。」

カ「【0027】
また、化学蒸着処理を行う原料については、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料単独、若しくはリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料を有機珪素系表面処理剤で処理した処理物に黒鉛を添加した混合物が挙げられる。ここで、黒鉛を添加する理由はより導電性を向上させるためである。いずれにしても、本発明においては、表面の黒鉛皮膜がラマン分光スペクトルによりラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する結晶性の高い黒鉛皮膜で被覆されていることが必須であり、上記第1の方法あるいは第2の方法で製造されたもののうち、上記特性を満足するもののみを選定して負極材料に適用することが重要である。」

キ「【0041】
[実施例1]
平均粒子径4μmの一般式SiO_(x)(x=1.02)で表される酸化珪素粉末200gを流動層型処理装置内に仕込んだ。その後、Arガスを2NL/min流入しながら、300℃/hrの昇温速度で1150℃まで昇温、保持した。次に、CH4ガスを1NL/min追加流入し、5時間の黒鉛被覆処理を行った。処理後は降温し、約240gの黒色粉末を得た。得られた黒色粉末は、平均粒子径=4.2μm、BET比表面積=15.2m^(2)/g、黒鉛被覆量22重量%の導電性粉末であった。なお、ラマン分光スペクトル(図1参照)により、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルを有していた。
【0042】
○電池評価
次に、以下の方法で、得られた導電性粉末を負極活物質として用いた電池評価を行った。
まず、得られた導電性粉末に人造黒鉛(平均粒子径5μm)を炭素の割合が40重量%となるように加え、混合物を製造した。この混合物にポリフッ化ビニリデンを10重量%加え、更にN-メチルピロリドンを加えてスラリーとし、このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には20mmに打ち抜き、負極とした。
ここで、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートと1,2-ジメトキシシエタンの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。」

ク「【図1】



ケ 上記ア?ク,特に,摘示ア(請求項1?4),摘示イ(段落【0001】),摘示エ(段落【0012】)の記載よりみて,甲2には次の発明が記載されているといえる。

「リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末であり、黒鉛被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有し、
リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子であり、
X線回折(Cu-Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の微粒子の大きさが1?500nmであり、かつその表面が黒鉛と融合しており、
複合構造粒子における珪素系化合物が二酸化珪素である、
リチウムイオン二次電池用負極材。」(以下「甲2発明」という。)

(3)甲3には,「非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法およびこれによって得られる非水電解質二次電池用負極活物質」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

ア「【要約】
【課題】 高容量である非水電解質二次電池の負極活物質およびこれを用いて高容量電池を提供することができる。
【解決手段】 本発明は、微細なSi相および、SiO_(2)と炭素質物の三層を含む化合物であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質を用いることを特徴としている。この負極活物質は、SiOxと炭素質物原料を焼成することによって、製造することができる。」

イ「【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径範囲が1μm以上50μm以下の粉末状のSiOx(0.8≦X≦1.5)と、アセチレンブラック、カーボンブラック、ハードカーボンブラック、ピッチ、樹脂、およびポリマーからなる群から選ばれた少なくとも1種の炭素質原料とを混合し、800℃以上1600℃以下の温度で、3時間以上12時間以下、焼成することを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の負極活物質の製造方法において、SiOx(0.8≦X≦1.5)と炭素質原料とを800℃以上1400℃以下の温度で、炭化焼成する工程と、
得られた焼成体を粉砕して前駆体を製作する工程と、
この前駆体を、850℃以上1600℃以下の温度で焼成する工程とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記請求項1または2に記載の方法によって製造されることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項4】
粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークの半値幅が1.5°以上、8.0°以下であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項5】(略)」

ウ「【0018】
本発明の負極活物質の望ましい態様は、SiとSiO_(2)と炭素質物の三相からなり、かつこれらが細かく複合化されたものである。Si相は多量のリチウムの挿入脱離し、負極活物質の容量を大きく増進させる。Si相への多量のリチウムの挿入脱離による膨張収縮を、Si相を他の2相のなかに分散することにより緩和して活物質粒子の微粉化を防ぐとともに、炭素質物相は負極活物質として重要な導電性を確保し、SiO_(2)相はSiと強固に結合し微細化されたSiを保持するバッファーとして粒子構造の維持に大きな効果がある。」

エ「【0021】
炭素質物は、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、アモルファス炭素またはアセチレンブラックなどが良く、1つ又は数種からなり、好ましくはグラファイトとハードカーボンまたはソフトカーボンの混合物が良い。グラファイトは活物質の導電性を高める点で好ましく、ハードカーボン、ソフトカーボンは活物質全体を被覆し膨張収縮を緩和する効果が大きい。炭素質物はSi相、SiO_(2)相を内包する形状となっていることが好ましい。」

オ「【0024】
Si相、SiO_(2)相、炭素質物相の比率は、Siと炭素のモル比が0.2≦Si/炭素≦2の範囲であることが好ましい。Si相とSiO_(2)相の量的関係はモル比が0.6≦Si/SiO_(2)≦1.5であることが、負極活物質として大きな容量と良好なサイクル特性を得ることができるため望ましい。」

カ「【0028】
炭化前の前駆体はSiOxおよび炭素質物を混合し調製するが、炭素質物としてピッチを用いる際には溶融ピッチ中にSiOxおよびグラファイト等を混合し冷却固化後、粉砕して表面を酸化し不融化した後、炭化焼成に供する。また、ポリマーを用いる場合にはモノマー中にグラファイト等およびSiOxを分散した状態で重合し固化したものを炭化焼成に供する。
【0029】
炭化焼成は、Ar中等の不活性雰囲気下にて行なわれる。炭化焼成においては、ポリマーまたはピッチが炭化されると共に、SiOxは不均化反応によりSiとSiO_(2)の2相に分離する。x=1のとき反応は下の式(1)で表される。
【0030】
2SiO → Si +SiO_(2) ・・・(1)
この不均化反応は800℃より高温で進行し、微小なSi相とSiO_(2)相に分離する。反応温度が上がるほどSi相の結晶は大きくなり、Si(220)のピークの半値幅は小さくなる。好ましい範囲の半値幅が得られる焼成温度は850℃?1600℃の範囲である。また、不均化反応により生成したSiは1400℃より高い温度では炭素と反応してSiCに変化する。SiCはリチウムの挿入に対して全く不活性であるためSiCが生成すると活物質の容量は低下する。従って、炭化焼成の温度は850℃以上1400℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは900℃以上1100℃以下である。焼成時間は、1時間から12時間程度の間が好ましく、特に3時間から12時間の範囲がさらに好ましい。
【0031】(略)
【0032】
以下、本発明の負極活物質を用いた非水電解質二次電池の作製について詳述する。
1)正極
正極は、活物質を含む正極活物質層が正極集電体の片面もしくは両面に担持された構造を有する。
【0033】
前記正極活物質層の片面の厚さは1.0μm?150μmの範囲であることが電池の大電流放電特性とサイクル寿命の保持の点から望ましい。従って正極集電体の両面に担持されている場合は正極活物質層の合計の厚さは20μm?300μmの範囲となることが望ましい。片面のより好ましい範囲は30μm?120μmである。この範囲であると大電流放電特性とサイクル寿命は向上する。
【0034】
正極活物質層は、正極活物質の他に導電剤を含んでいてもよい。
【0035】
また、正極活物質層は正極材料同士を結着する結着剤を含んでいてもよい。
【0036】
正極活物質としては、種々の酸化物、例えば二酸化マンガン、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えばLiCoO_(2))、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えばLiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2))、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn_(2)O_(4)、LiMnO_(2))を用いると高電圧が得られるために好ましい。
【0037】
導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などを挙げることができる。
【0038】
結着材の具体例としては例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ弗化ビニリデン(PVdF)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。
【0039】
正極活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、正極活物質80?95重量%、導電剤3?20%、結着剤2?7重量%の範囲にすることが、良好な大電流放電特性とサイクル寿命を得られるために好ましい。
【0040】
集電体としては、多孔質構造の導電性基板かあるいは無孔の導電性基板を用いることができる。集電体の厚さは5?20μmであることが望ましい。この範囲であると電極強度と軽量化のバランスがとれるからである。
2)負極
負極は、負極材料を含む負極活物質が負極集電体の片面もしくは両面に担持された構造を有する。」

キ「【0044】
集電体としては、多孔質構造の導電性基板か、あるいは無孔の導電性基板を用いることができる。これら導電性基板は、例えば、銅、ステンレスまたはニッケルから形成することができる。集電体の厚さは5?20μmであることが望ましい。この範囲であると電極強度と軽量化のバランスがとれるからである。
3)電解質
電解質としては非水電解液、電解質含浸型ポリマー電解質、高分子電解質、あるいは無機固体電解質を用いることができる。
【0045】
非水電解液は、非水溶媒に電解質を溶解することにより調製される液体状電解液で、電極群中の空隙に保持される。
【0046】
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC)とPCやECより低粘度である非水溶媒(以下第2溶媒と称す)との混合溶媒を主体とする非水溶媒を用いることが好ましい。
【0047】
第2溶媒としては、例えば鎖状カーボンが好ましく、中でもジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ-ブチロラクトン(BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、トルエン、キシレンまたは、酢酸メチル(MA)等が挙げられる。これらの第2溶媒は、単独または2種以上の混合物の形態で用いることができる。特に、第2溶媒はドナー数が16.5以下であることがより好ましい。
【0048】
第2溶媒の粘度は、25℃において2.8cmp以下であることが好ましい。混合溶媒中のエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートの配合量は、体積比率で1.0%?80%であることが好ましい。より好ましいエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートの配合量は体積比率で20%?75%である。
【0049】
非水電解液に含まれる電解質としては、例えば過塩素酸リチウム(LiClO_(4))、六弗化リン酸リチウム(LiPF_(6))、ホウ弗化リチウム(LiBF_(4))、六弗化砒素リチウム(LiAsF_(6))、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF_(3)SO_(3))、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)]等のリチウム塩(電解質)が挙げられる。中でもLiPF_(6)、LiBF_(4)を用いるのが好ましい。
【0050】
電解質の非水溶媒に対する溶解量は、0.5?2.0mol/Lとすることが望ましい。」

ク「【実施例】
【0059】
以下に本発明の具体的な実施例を挙げ、その効果について述べる。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0060】
原料にはSiOxとして、平均粒径30μmの非晶質SiO、炭素質物として平均粒径6μmのグラファイトおよびフルフリルアルコールを用いた。混合比は重量比でSiO:グラファイト:フルフリルアルコールを3:0.5:5とした。フルフリルアルコールに対してその1/10重量の水を加えグラファイト、次いでSiOを加えてそれぞれ撹拌した。その後、希塩酸をフルフリルアルコールの1/10重量加え撹拌後放置し重合固化させた。
【0061】
得られた固形物を表1に示す温度・時間でAr中にて焼成し室温まで冷却後、粉砕機により粉砕し30μm径のふるいをかけて活物質を得た。この活物質について、後述するX線回折試験を行った。また、得られた活物質について負極活物質として、後述する充放電試験を行なった。
【0062】
【表1】

【0063】
(充放電試験)
得られた試料にアセチレンブラック5wt%、 ポリテトラフルオロエチレン3wt%を加えシート状としステンレスメッシュに圧着し、150℃で真空乾燥し試験電極とした。対極および参照極を金属Li、電解液を1MLiPF6のEC・MEC(体積比1:2)溶液とした電池をアルゴン雰囲気中で作製し充放電試験を行った。充放電試験の条件は、参照極と試験電極間の電位差0.01Vまで1mA/cm^(2)の電流密度で充電、さらに0.01Vで8時間の定電圧充電を行い、放電は1mA/cm^(2)の電流密度で3Vまで行った。
(X線回折測定)
得られた粉末試料について粉末X線回折測定を行い、Si(220)面のピークの半値幅を測定した。測定は株式会社マック・サイエンス社製X線回折測定装置(型式M18XHF22)を用い、以下の条件で行った。
【0064】
対陰極:Cu
管電圧:50kv
管電流:300mA
走査速度:1°(2θ)/min
時定数:1sec
受光スリット:0.15mm
発散スリット:0.5°
散乱スリット:0.5°
回折パターンより、d=1.92Å(2θ=47.2°)に現れるSiの面指数(220)のピークの半値幅(°(2θ))を測定した。また、Si(220)のピークが活物質中に含有される他の物質のピークと重なりをもつ場合には、ピークを単離し半値幅を測定した。
(比較例3)
実施例2におけるSiOを平均粒径0.5μmのSi粉末とし、Si:グラファイト:フルフリルアルコールを1:0.5:5の重量比で実施例と同様に合成した。この際、焼成温度は1000℃とした。得られた試料について、充放電試験およびX線回折測定を行なった。この得られた資料を負極活物質として使用した対極Li試験電池を実施例と同様に形成した。
【0065】
表2に充放電試験における1サイクル目の放電容量および50サイクル後の放電容量維持率、粉末X線回折から得たSi(220)ピークの半値幅を示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に挙げた結果から本発明の負極活物質は大きな放電容量および良好なサイクル特性を有することが理解される。すなわち、比較例1では焼成温度を700℃としたためSiOはSiとSiO_(2)に分離せず、そのため容量およびサイクル特性も低下した。比較例2では焼成温度を1400℃としたため、Si(220)ピークの半値幅は小さくなりサイクル特性が低下するとともに、生成したSiがCと反応しLiを吸蔵しないSiCとなったため容量が大幅に低下した。比較例3ではSi粒子が大きく小さい半値幅を有し、またSiO_(2)が存在しないためにサイクル特性が大幅に低下した。」

ケ 上記ア?ク,特に,摘示ア(請求項1,4)の記載よりみて,甲3には次の発明が記載されているといえる。

「粒径範囲が1μm以上50μm以下の粉末状のSiOx(0.8≦X≦1.5)と、アセチレンブラック、カーボンブラック、ハードカーボンブラック、ピッチ、樹脂、およびポリマーからなる群から選ばれた少なくとも1種の炭素質原料とを混合し、800℃以上1600℃以下の温度で、3時間以上12時間以下、焼成して製造され、
粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークの半値幅が1.5°以上、8.0°以下である、非水電解質二次電池用負極活物質。」(以下「甲3発明」という。)

(4)甲4には,「ラマン分光法による炭素材料の評価」(論文題目)に関して,次の記載がある。

「3 炭素同素体のラマンスペクトル
炭素材料の格子振動,力学的性質の大部分は,その基本構造である炭素ネットワークの性質に支配される。Fig.2にAr^(+)514.5nm線により測定したさまざまな炭素材料のラマンスペクトルを示す。併せて,Table1に炭素材料のラマン活性モードの周波数とその帰属をまとめた。炭素の基本構造であるカルビン,グラファイト,ダイヤモンドは,sp,sp^(2),sp^(3)の炭素の配位状態を反映し,それぞれ固有のラマンスペクトルを示す。
(中略)
sp^(2)配位のグラファイトは,欠陥,黒鉛化度,結晶子サイズ,励起波長などさまざまな因子によりスペクトルが変化する^(2),4),5))。完全な構造を有するグラファイトは2重縮退したE_(g)モードがラマン活性であり,42cm^(-1)と1580cm^(-1)に面内モードが観測される^(25),26))。グラファイト構造に乱れが生じると,1580cm^(-1)のラマンバンドに加え,1360cm^(-1)と1620cm^(-1)に本来不活性なバンドが出現する。これらのバンドは,構造の乱れが大きくなるとともにブロードな構造に変化し,1581cm^(-1)のGバンドとの相対強度が増大する^(2),4),5))。1360cm^(-1)と1620cm^(-1)のバンドは,構造の乱れ(Disorder)や欠陥に起因するものとして,グラファイト本来のGバンド(1580cm^(-1))に対して,Dバンド(1360cm^(-1))やD’バンド(1620cm^(-1))と略称されている^(27))。特に,D’バンド(1620cm^(-1))は,グラファイトの結晶子サイズが小さい場合やグラフェンシートのエッジが多く存在する場合に現れるものと考えられている^(27),28))。また,Dバンド(1360cm^(-1))とGバンド(1580cm^(-1))の相対強度比(I_(D)/I_(G))はR値と呼ばれ,グラファイト,DLC,グラッシーカーボンをはじめ種々の炭素材料の評価に用いられ,様々な解釈が提案されている^(2),4),5),25),29))。」(第176頁左欄?第177頁左欄)

(5)甲5には,「二次電池および炭素系負極材料の製造方法」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

ア「【要約】
【課題】 負極表面に生じる不可逆容量を低減した二次電池、およびこの二次電池に用いて好適な炭素系負極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 二次電池の負極を、表面増強ラマン分光スペクトルにおけるG_(s)値(G_(s)=H_(sg)/H_(sd))が10以下の黒鉛、または微分TG曲線上に少なくとも2つのピークを有する黒鉛、または飽和タップ密度が1.0g/cc以上の黒鉛、または充填性指標が0.42以上の黒鉛、または加圧成型時の加圧前後での比表面積比が2.5以下である黒鉛によって形成する。このような黒鉛材料は、炭素系材料とピッチ等の被覆材料とを混合するか、炭素系材料を酸素雰囲気中で熱処理をした後に、黒鉛化を施すことによって得られる。」

イ「【特許請求の範囲】
【請求項1】 正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は表面増強ラマン分光スペクトルにおいて下記の式で表されるG_(s)が10以下である黒鉛を含むことを特徴とする電池。
G_(s)=H_(sg)/H_(sd)
(式中、H_(sg)は1580cm^(-1)以上かつ1620cm^(-1)以下の範囲にピークを有するシグナルの高さであり、H_(sd)は1350cm^(-1)以上かつ1400cm^(-1)以下の範囲にピークを有するシグナルの高さである。)
【請求項2】?【請求項38】(略)」

ウ「【0021】本実施の形態では、黒鉛材料の表面活性と相関する表面電子構造を表す物性値を規定するように、アルゴンレーザ光を用いた表面増強ラマンスペクトルから求められるG_(s)を一定の範囲内の値に規定したので、この黒鉛材料を負極に用いた電池は、後述の実験結果に示したように初充電時の不可逆容量を大きく低減することができる。なお、G_(s)の値としては、さらに0.4以上、6以下が好ましく、0.7以上、4以下がより好ましい。」

5 当審の判断
当審は,次のとおり,申立人が提示した特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

(1)甲1を主引例とした場合
ア 請求項1に係る発明について
(ア)本件特許の請求項1に係る発明と,甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子」は,その具体的実施例において「二酸化珪素中に分散した珪素の結晶」(上記4(1)キ段落【0043】)とあることから,「珪素が二酸化珪素中に分散した構造を有する粒子」といえるので,甲1発明の「珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子」「の表面を炭素でコーティングしてな」る点は,請求項1に係る発明の「ケイ素酸化物粒子」「の表面の一部又は全部に炭素を有してな」る点に相当する。

b また,甲1発明の「X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され」る点は,請求項1に係る発明の「CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有」する点に相当する。

c そして,甲1発明の「リチウムイオン二次電池用負極活物質」は,請求項1に係る発明の「リチウムイオン二次電池用負極材料」に相当する。

d 更に,甲1発明の「リチウムイオン二次電池用負極活物質」は,リチウム、マグネシウム又はカルシウムのドープを明示するものではないから,請求項1に係る発明の「但し、リチウム、マグネシウム又はカルシウムがドープされたものを除く」に相当する。

e 上記a?dより,両者は,
「ケイ素酸化物粒子の表面の一部又は全部に炭素を有してなり、
CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、
但し、リチウム、マグネシウム又はカルシウムがドープされたものを除く
リチウムイオン二次電池用負極材料」
である点で一致するものの,次の相違点を有する。

(相違点1)
炭素に関して,請求項1に係る発明では「炭素が5質量%?10質量%で含まれ」,かつ,「R値が0.5以上であ」るのに対し,甲1発明では「被覆炭素量3?70重量%であ」り,かつ,「ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する」ものの,R値が不明である点。

(相違点2)
ケイ素の結晶子に関して,請求項1に係る発明では「回折ピークから算出されるケイ素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nmであ」るのに対し,甲1発明では「回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1?500nmである」点。

f 上記相違点1のうち,炭素量は,5?10質量%の範囲で重複するものの,甲1に当該範囲の具体的開示はなく(上記4(1)キ段落【0043】では16.5質量%である。),また,R値が0.5以上である点は,甲1には記載も示唆もされていない。更に,相違点2のケイ素結晶子の大きさも,2.0?8.0nmの範囲で重複するものの,甲1に当該範囲の具体的開示はない(上記4(1)キ段落【0040】では11.0nmである。)。
よって,少なくとも上記相違点1の「R値が0.5以上であ」る点は,実質的な相違点であるといえるから,本件特許の請求項1に係る発明は,甲1に記載された発明ではなく,新規性を有する。
なお,「R値」は次の(イ)で詳述する。

(イ)そこで,相違点1の「R値が0.5以上であ」る点について,更に検討する。
a 本件特許の請求項1に係る発明において,R値が0.5以上であるのは,ケイ素酸化物粒子の表面に有する炭素が低結晶性であることを規定するものであり,レーザーラマン分光測定により求めたプロファイルの中で,1360cm^(-1)付近に現れるピークの強度Idと,1580cm^(-1)付近に現れるピークの強度Idとの両ピーク強度比Id/Ig(D/Gとも表記する)をR値とした際,R値が0.5?1.5であると,炭素結晶子が乱配向した低結晶炭素で粒子表面が被覆されるため,電解液との反応性が低減でき,サイクル特性が改善する傾向があるとの説明に対応するものである(段落【0033】)。

b これに対し,甲1ないし甲3のいずれにも,表面炭素のR値について何ら示されておらず,R値が0.5以上であることの動機付けを見いだすことができない。

(a)甲1には,「ラマン分光スペクトルより、1580cm^(-1)付近にグラファイトに帰属されるスペクトルを有することより、炭素の一部又はすべてがグラファイト構造である」(上記4(1)ウ段落【0014】),「1580cm^(-1)付近のスペクトルより炭素の一部あるいは全部がグラファイト構造であることを示している。結晶性がよいと1330cm^(-1)付近のスペクトルが減少する」(上記4(1)カ段落【0041】)のように,炭素についてはグラファイト構造が推奨されるに止まり,R値を特定することについては何ら示されていない。

(b)甲2には,「ラマン分光スペクトルより,ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルを有することが必須である」(上記4(2)オ段落【0021】),「表面の黒鉛皮膜がラマン分光スペクトルによりラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する結晶性の高い黒鉛皮膜で被覆されていることが必須であり」(上記4(2)カ段落【0027】)のように,グラファイト構造特有のスペクトルを有する結晶性の高い黒鉛皮膜が推奨されるに止まり、R値を特定することについては何ら示されていない。

(c)甲3には,炭素質物としてグラファイト,ハードカーボン,ソフトカーボン,アモルファス炭素又はアセチレンブラックなどが良く,1つ又は数種からなり,好ましくはグラファイトとハードカーボン又はソフトカーボンの混合物が好ましい旨(上記4(3)エ段落【0021】)が示されるに止まり,R値を特定することについては何ら示されていない。

(d)なお,甲4には,炭素のラマンスペクトルに関する一般的知見が示されるに止まるものである(上記4(4))。また,甲5には,R値の逆数に対応するG_(s)値を特定した黒鉛を含む負極材料が記載されているが(上記4(5)),甲5は「炭素系負極材料」すなわち負極材料として黒鉛のみを用いるものであって,本件特許の請求項1に係る発明のようにケイ素酸化物粒子の表面に炭素を有するような複合材料ではない。

c 申立人は,甲1の図4を見ると,明らかに1330cm^(-1)付近のピーク強度の方が,1580cm^(-1)付近のピーク強度より大きいこと,したがって,R値が0.5以上であることを具備していることが明らかである旨主張する(特許異議申立書第17頁)。
しかしながら,図4をみても具体的なR値を算出ことはできず,また,甲1にR値が特定することが示されていないことは上記b(a)で検討したとおりであり,しかも,甲2ないし甲5を参酌しても,R値が0.5以上であることの動機付けを見いだすことができないことは上記b(b)?(d)で検討したとおりである。

(ウ)よって,相違点2について検討するまでもなく,本件特許の請求項1に係る発明は,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,進歩性を有する。

イ 請求項2ないし3に係る発明について
本件特許の請求項2に係る発明は,請求項1に係るリチウムイオン二次電池用負極材料を引用してリチウムイオン二次電池用負極を特定し,また,請求項3に係る発明は,請求項2に係るリチウムイオン二次電池用負極を引用してリチウムイオン二次電池を特定したものであるから,いずれも,少なくとも上記ア(ア)の相違点を有する点で,甲1に記載された発明に対して新規性を有する。
そして,上記相違点については,上記ア(イ)のとおりであるから,本件特許の請求項2ないし3に係る発明はいずれも,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,進歩性を有する。

(2)甲2を主引例とした場合
ア 請求項1に係る発明について
(ア)本件特許の請求項1に係る発明と,甲2発明とを対比する。

a 甲2発明において,「リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料」は「珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子」であり,かつ,「珪素系化合物」は「二酸化珪素」である。
よって,甲2発明の「リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料」「の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末」は,請求項1に係る発明の「ケイ素酸化物粒子」「の表面の一部又は全部に炭素を有してな」るものに相当する。

b また,甲2発明の「X線回折(Cu-Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され」る点は,請求項1に係る発明の「CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有」する点に相当する。

c そして,甲2発明の「リチウムイオン二次電池用負極材」は,請求項1に係る発明の「リチウムイオン二次電池用負極材料」に相当する。

d 更に,甲2発明の「リチウムイオン二次電池用負極材」は,リチウム、マグネシウム又はカルシウムのドープを明示するものではないから,請求項1に係る発明の「但し、リチウム、マグネシウム又はカルシウムがドープされたものを除く」に相当する。

e 上記a?dより,両者は,
「ケイ素酸化物粒子の表面の一部又は全部に炭素を有してなり、
CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、
但し、リチウム、マグネシウム又はカルシウムがドープされたものを除く
リチウムイオン二次電池用負極材料」
である点で一致するものの,次の相違点を有する。

(相違点3)
炭素に関して,請求項1に係る発明では「炭素が5質量%?10質量%」で含まれ,かつ,「R値が0.5以上であ」るのに対し,甲2発明では「黒鉛被覆量が3?40重量%」であり,かつ,「黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有」するものの,R値が不明である点。

(相違点4)
ケイ素の結晶子に関して,請求項1に係る発明では「回折ピークから算出されるケイ素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nmであ」るのに対し,甲2発明では「シェーラーの式によって求めた珪素の微粒子の大きさが1?500nmであ」る点。

f 上記相違点3のうち,炭素量は,5?10質量%の範囲で重複するものの,甲2に当該範囲の具体的開示はなく(上記4(2)キ段落【0041】では22重量%である。),また,R値が0.5以上である点は,甲2には記載も示唆もされていない。
更に,相違点2のケイ素結晶子の大きさも,2.0?8.0nmの範囲で重複するものの,甲2に当該範囲の具体的開示は何ら記載されていない。
よって,少なくとも上記相違点3の「R値が0.5以上であ」る点は,実質的な相違点であるといえるから,本件特許の請求項1に係る発明は,甲2に記載された発明ではなく,新規性を有する。

(イ)そこで,相違点3の「R値が0.5以上であ」る点について,更に検討すると,これは,上記(1)ア(ア)で検討した相違点1と同様である。
そして,上記(1)ア(イ)で検討したとおり,甲1ないし甲3のいずれにも,表面炭素のR値について何ら示されておらず,甲4,甲5を参酌しても,R値が0.5以上であることの動機付けを見いだすことができない。

(ウ)よって,相違点4について検討するまでもなく,本件特許の請求項1に係る発明は,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,進歩性を有する。

イ 請求項2ないし3に係る発明について
本件特許の請求項2に係る発明は,請求項1に係るリチウムイオン二次電池用負極材料を引用してリチウムイオン二次電池用負極を特定し,また,請求項3に係る発明は,請求項2に係るリチウムイオン二次電池用負極を引用してリチウムイオン二次電池を特定したものであるから,いずれも,少なくとも上記ア(ア)の相違点を有する点で,甲2に記載された発明に対して新規性を有する。
そして,上記相違点については,上記ア(イ)のとおりであるから,本件特許の請求項2ないし3に係る発明はいずれも,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,進歩性を有する。

(3)甲3を主引例とした場合
ア 請求項1に係る発明について
(ア)本件特許の請求項1に係る発明と,甲3発明とを対比する。

a 甲3発明の「粒径範囲が1μm以上50μm以下の粉末状のSiOx(0.8≦X≦1.5)」と「アセチレンブラック、カーボンブラック、ハードカーボンブラック、ピッチ、樹脂、およびポリマーからなる群から選ばれた少なくとも1種の炭素質原料」とを「混合し」「焼成して製造され」たものは,「炭素質物はSi相、SiO_(2)を内包する形状となっている」(摘示エ段落【0021】)ことよりみて,請求項1に係る発明の「ケイ素酸化物粒子」「の表面の一部又は全部に炭素を有してな」るものに相当する。

b また,甲3発明の「粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークの半値幅が1.5°以上、8.0°以下である」点は,請求項1に係る発明の「CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有」する点と,Siに関する回折ピークを有する点において共通する。

c そして,甲3発明の「非水電解質二次電池用負極活物質」は,非水電解質二次電池としてリチウムイオン二次電池は典型的なものであることを踏まえれば,請求項1に係る発明の「リチウムイオン二次電池用負極材料」に相当する。

d 更に,甲3発明の「リチウムイオン次電池用負極材」は,リチウム、マグネシウム又はカルシウムのドープを明示するものではないから,請求項1に係る発明の「但し、リチウム、マグネシウム又はカルシウムがドープされたものを除く」に相当する。

e 上記a?dより,両者は,
「ケイ素酸化物粒子の表面の一部又は全部に炭素を有してなり、CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSiに帰属される回折ピークを有し、
但し、リチウム、マグネシウム又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料」
である点で一致するものの,次の相違点を有する。

(相違点5)
本件特許の請求項1に係る発明は,「CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し」,かつ「前記回折ピークから算出されるケイ素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nm」であるのに対して,甲3発明は,「粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピーク」を有し,かつその「半値幅が1.5°以上、8.0°以下であ」る点。

(相違点6)
ケイ素酸化物粒子の表面の一部または全部の炭素について,本件特許の請求項1に係る発明は,「炭素が5質量%?10質量%で含まれ」,かつ,「R値が0.5以上」であるのに対して,甲3発明は,炭素の含有量が特定されておらず,かつ,R値も不明である点。

f 上記相違点5は,Siに関する回折ピークを有する点において共通するものの,回折ピークの帰属において実質的に相違するものである(なお,上記4(3)ク段落【0066】表2における「Si(111)ピーク半値幅(°)」との記載は,前後の記載内容より見て,「Si(220)ピーク半値幅(°)」の誤記と認める。)。また,相違点6の炭素量,R値のいずれも,本件特許の請求項1に係る発明と重複する開示は何ら記載されていない。
よって,少なくとも上記相違点5の「CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し」,かつ「前記回折ピークから算出されるケイ素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nm」である点は,実質的な相違点であるといえるから,本件特許の請求項1に係る発明は,甲3に記載された発明ではなく,新規性を有する。

(イ)そこで,相違点5の「CuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し」,かつ「前記回折ピークから算出されるケイ素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nm」である点について,更に検討する。

a 甲3には,Si(111)に帰属される回折ピークについては何ら記載も示唆もされていない。
一方,甲1,甲2には,Si(111)に帰属される回折ピークについて記載され,結晶子についても記載されているが,Si(220)との関係については記載も示唆もされていない。また,甲4,甲5についても同様である。

b 申立人は,甲3の請求項4,段落【0063】,【0064】の記載を用いて,シェーラーの式から,甲3における珪素の結晶子の大きさを求めると,1.1?5.8nmになる旨主張する(特許異議申立書第28?30頁)。
しかしながら,シェーラーの式から結晶子の大きさを計算するためには,標準ケイ素(Si)の測定半値幅による補正が必要であるところ,甲3には当該値が記載されていない。
そうすると,回折ピークの帰属が異なるうえ,甲3開示の測定条件における標準ケイ素の測定データも示されていない現状においては,結局,標準ケイ素による補正を行うことができない。
申立人による上記主張は,上記補正を考慮せずに計算したものであるから,採用できない。

(ウ)よって,相違点6について検討するまでもなく,本件特許の請求項1に係る発明は,甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,進歩性を有する。

イ 請求項2ないし3に係る発明について
本件特許の請求項2に係る発明は,請求項1に係るリチウムイオン二次電池用負極材料を引用してリチウムイオン二次電池用負極を特定し,また,請求項3に係る発明は,請求項2に係るリチウムイオン二次電池用負極を引用してリチウムイオン二次電池を特定したものであるから,いずれも,少なくとも上記ア(ア)の相違点を有する点で,甲3に記載された発明に対して新規性を有する。
そして,上記相違点については,上記ア(イ)のとおりであるから,本件特許の請求項2ないし3に係る発明はいずれも,甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,進歩性を有する。

6 むすび
以上のとおりであるから,申立人が提示した特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-09-30 
出願番号 特願2014-92062(P2014-92062)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 知宏  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 平塚 政宏
中澤 登
登録日 2019-11-15 
登録番号 特許第6615431号(P6615431)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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