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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M |
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管理番号 | 1366997 |
異議申立番号 | 異議2020-700094 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-02-20 |
確定日 | 2020-10-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6562184号発明「電解質組成物、二次電池、及び電解質シートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6562184号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件の特許第6562184号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?13に係る特許についての出願は、2018年(平成30年) 5月31日(優先権主張 平成29年 6月1日、2件)を国際出願日とする出願であって、令和 1年 8月 2日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?13(全請求項)に係る特許について、令和 2年 2月20日に特許異議申立人である安井総一(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和 2年 5月25日付けで取消理由が通知され、これに対して、令和 2年 7月28日付けで特許権者から意見書が提出されたものである。 第2 特許異議の申立てについて 1 本件特許発明 本件特許の請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明13」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 1種又は2種以上のポリマと、 無機酸化物粒子と、 リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の電解質塩と、 下記式(1)で表されるグライム及びイオン液体からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒と、を含有する電解質組成物であって、 前記1種又は2種以上のポリマを構成する構造単位の中には、四フッ化エチレン及びフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる第1の構造単位と、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる第2の構造単位とが含まれ、 前記1種又は2種以上のポリマの含有量は、前記電解質組成物に含まれるポリマ全量基準で、90質量%を超え、 前記1種又は2種以上のポリマにおいて、前記第2の構造単位の含有量に対する前記第1の構造単位の含有量の質量比は、50/50以上である、電解質組成物。 R^(1)O-(CH_(2)CH_(2)O)_(k)-R^(2) (1) [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に、炭素数4以下のアルキル基又は炭素数4以下のフルオロアルキル基を表し、kは1?6の整数を表す。] 【請求項2】 前記ポリマとして、前記第1の構造単位と前記第2の構造単位との両方を含むコポリマを含有する、請求項1に記載の電解質組成物。 【請求項3】 前記ポリマとして、前記第1の構造単位を含む第1のポリマと、前記第2の構造単位を含む第2のポリマとの少なくとも2種のポリマを含有する、請求項1に記載の電解質組成物。 【請求項4】 前記ポリマの含有量が、前記電解質組成物全量を基準として3?50質量%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の電解質組成物。 【請求項5】 前記無機酸化物粒子が、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、AlOOH、MgO、CaO、ZrO_(2)、TiO_(2)、Li_(7)La_(3)Zr_(2)O_(12)、及びBaTiO_(3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子である、請求項1?4のいずれか一項に記載の電解質組成物。 【請求項6】 前記無機酸化物粒子の含有量が、前記電解質組成物全量を基準として、5?40質量%である、請求項1?5のいずれか一項に記載の電解質組成物。 【請求項7】 前記溶媒が前記式(1)で表されるグライムである、請求項1?6のいずれか一項に記載の電解質組成物。 【請求項8】 前記溶媒が前記イオン液体である、請求項1?6のいずれか一項に記載の電解質組成物。 【請求項9】 前記イオン液体が、カチオン成分として、鎖状四級オニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、及びイミダゾリウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、 前記イオン液体が、アニオン成分として、下記式(2)で表されるアニオン成分の少なくとも1種を含有する、請求項1?8のいずれか一項に記載の電解質組成物。 N(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))(SO_(2)C_(n)F_(2n+1))^(-) (2) [m及びnは、それぞれ独立に0?5の整数を表す。] 【請求項10】 前記電解質塩と前記溶媒との合計の含有量が、前記電解質組成物全量を基準として、25?70質量%である、請求項1?9のいずれか一項に記載の電解質組成物。 【請求項11】 シート状に形成された、請求項1?10のいずれか一項に記載の電解質組成物。 【請求項12】 正極と、 負極と、 前記正極及び前記負極の間に設けられた、請求項1?11のいずれか一項に記載の電解質組成物からなる電解質層と、を備える二次電池。 【請求項13】 1種又は2種以上のポリマと、無機酸化物粒子と、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である電解質塩と、下記式(1)で表されるグライム及びイオン液体からなる群より選ばれる少なくとも1種である溶媒と、分散媒と、を含有するスラリを基材上に配置する工程と、 前記分散媒を揮発させて前記基材上に電解質層を形成する工程と、を備え、 前記1種又は2種以上のポリマを構成する構造単位の中には、四フッ化エチレン及びフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる第1の構造単位と、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる第2の構造単位とが含まれ、 前記1種又は2種以上のポリマの含有量は、前記スラリの固形分に含まれるポリマ全量基準で、90質量%を超え、 前記1種又は2種以上のポリマにおいて、前記第2の構造単位の含有量に対する前記第1の構造単位の含有量の質量比は、50/50以上である、電解質シートの製造方法。 R^(1)O-(CH_(2)CH_(2)O)_(k)-R^(2) (1) [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に、炭素数4以下のアルキル基又は炭素数4以下のフルオロアルキル基を表し、kは1?6の整数を表す。]」 2 異議申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、後記する甲第1?3号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1?13に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 (1)異議申立理由1(サポート要件) ア 異議申立理由1-1 本件特許発明1?13は、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる第2の構造単位の含有量に対する、四フッ化エチレン及びフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる第1の構造単位の含有量の質量比が50/50以上であれば、導電率が高く、平滑性に優れた電解質シートが得られる電解質組成物を実現するという課題を解決できるものであるが、一方、発明の詳細な説明には、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比が「50/50」付近の具体例として、実施例1-28の1通りが記載されるのみで、残りの無数の1種又は2種以上のポリマについても「50/50」を臨界点として実施例1-28と同じ結果が得られるという具体例や説明は記載されていない。 したがって、本件特許発明1?13は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 イ 異議申立理由1-2 本件特許発明の課題を解決するにあたって、どのような理由・根拠に基づき四フッ化エチレンとフッ化ビニリデンとを1つの群とし、どのような理由・根拠に基づきヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート及びメチルメタクリレートを1つの群としたのかが、発明の詳細な説明に理論的に説明されておらず、実験的に示されているものでもなく、また、本件特許発明の出願時ないし優先日当時の技術常識に照らしても当業者にとって理解できるものではない。 そうすると、本件特許発明1?13に係る1種又は2種以上のポリマについて、発明の詳細な説明の表1-表4に実施例及び比較例が記載されていても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 したがって、本件特許発明1?13は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 ウ 異議申立理由1-3 本件特許発明の課題を解決するためには、ポリマと分散媒との組合せも重要であるにもかかわらず、本件特許発明1?13においては、分散媒の有無および分散媒の種類は特定されておらず、発明の詳細な説明の実施例及び比較例では分散媒としてNMPを用いることが記載されていても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 したがって、本件特許発明1?13は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 エ 異議申立理由1-4 発明の詳細な説明に記載された実施例1-28のポリマにおける、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比は正しくは「49/51」であるから、実施例1-28は本件特許発明1?13の構成要件を充足しない例であり、そのため、唯一記載されていたPVDF-HFP+PMMA(フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマとポリメチルメタクリレートとの混合物)についても、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比「50/50」を臨界点として課題が解決されることが実験的に示されておらず、本件特許発明1?13の範囲まで、発明の詳細な説明の内容を拡張ないし一般化できない。 したがって、本件特許発明1?13は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)異議申立理由2(実施可能要件) ア 異議申立理由2-1 発明の詳細な説明に記載された実施例1-28は、1種又は2種以上のポリマにおいて、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比が「49/51」であり、該質量比は、請求項1の記載と整合せず、不明確である。 したがって、本件特許についての出願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が本件特許発明1?13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 イ 異議申立理由2-2 スラリのゲル化を抑制して平滑性に優れた電解質シートを得るには、ポリマ等の分散媒に対する相互の溶解性が重要であると解されるところ、ポリマの溶解性は一般に、ポリマの分子量が大きくなると低下することが知られており、本件特許発明1?13の1種又は2種以上のポリマは、材料を特定するだけでは不十分で、ポリマの分子量または重合度も併せて特定する必要がある。 しかし、発明の詳細な説明には、ポリマの分子量や重合度が記載されておらず、したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 ウ 異議申立理由2-3 発明の詳細な説明には、電解質塩と溶媒の合計含有量(A)+(B)が同じ値である実施例1-1と実施例1-4であっても導電率に0.05mS/cmの差が生じることが記載されており、0.05mS/cmの差は誤差であると考えられるところ、実施例1-29と比較例1-2の導電率の差も0.05mS/cmであり、誤差であると考えられるので、実施例1-29が課題を解決できる具体例といえるのか不明確である。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3)異議申立理由3 本件特許発明1?13は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2011-70793号公報 甲第2号証:貝谷康治、”高校講座テレビ学習メモ 分子の極性”、[online]、2019年10月、NHK、[令和2年2月14日検索] <http://www.nhk.or.jp/kokokoza/library/tv/kagakukiso/> 甲第3号証:大枝一成、”テフロン(登録商標)(フッ素樹脂)の特性“、[online]、2006年10月、株式会社パッキンランド、[令和2年2月14日検索]、 インターネット<URL:http://www.packing.co.jp/PTFE/ptfe_tokusei1.htm> 3 取消理由通知書に記載した取消理由の概要 請求項1?13に係る特許に対して、当審が令和 2年 5月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)取消理由1(実施可能要件違反;異議申立理由2-2に対応) ア 本件特許発明13に使用される「スラリ」を生産するに当たって、発明の詳細な説明には、その原材料である「1種又は2種以上のポリマ」の分子量や重合度が記載されておらず、しかも、ポリマの分散媒への溶解性については、ポリマの分子量乃至重合度等が影響し、一般に、その分子量や重合度が大きくなると溶解性が低下するとの技術常識が存在している状況では、スラリとして十分に機能するように分散媒に対して溶解する「1種又は2種以上のポリマ」を選択するためには、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤、複雑高度な実験等を要すると言わざるを得ない。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明13について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 イ 本件特許発明1?12に係る「電解質組成物」を構成する「1種又は2種以上のポリマ」についても、その選択には、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤、複雑高度な実験等を要すると言わざるを得ない。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1?12について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 4 取消理由についての当審の判断 当審は、令和 2年 7月28日付け意見書における特許権者の主張を踏まえて検討した結果、上記3の取消理由はいずれも解消したと判断したところ、その理由は以下のとおりである。 (1)本件明細書の記載事項 本件明細書には、以下の記載がある(下線は当審が付したものである。以下同様。)。 ア 「【0009】 そこで本発明は、導電率の高い電解質組成物であって、平滑性に優れた電解質シートを得ることが可能な電解質組成物を提供することを目的とする。」 イ 「【0010】 本発明の第1の態様は、1種又は2種以上のポリマと、酸化物粒子と、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の電解質塩と、溶媒と、を含有する電解質組成物であって、1種又は2種以上のポリマを構成する構造単位の中には、四フッ化エチレン及びフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる第1の構造単位と、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる第2の構造単位とが含まれ、1種又は2種以上のポリマの含有量は、電解質組成物に含まれるポリマ全量基準で、90質量%を超え、1種又は2種以上のポリマにおいて、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比は、50/50 以上である、電解質組成物である。 【0011】 この電解質組成物は、導電率に優れ、平滑性に優れた電解質シートが得られる。また、この電解質組成物はシート状に形成する際のスラリの調製に好適であり、この電解質組成物をシート状に形成した場合、得られる電解質シートは引張強度に優れる。この電解質組成物によれば、放電レート特性に優れ、また、初期の放電容量(初期容量)が設計容量にできる限り近い、いわゆる初期特性の高いリチウム二次電池を作製することができる。」 ウ 「【0055】 電解質層7は、電解質組成物からなっている。電解質組成物は、1種又は2種以上のポリマと、酸化物粒子と、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の電解質塩と、溶媒と、を含有する。本明細書において、電解質塩及び溶媒をまとめて「電解質」と呼び、電解質を除く電解質組成物の成分をまとめて「電解質支持材」と呼ぶことがある。 【0056】 1種又は2種以上のポリマを構成する構造単位(モノマ単位)の中には、四フッ化エチレン及びフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる第1の構造単位(モノマ単位)と、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる第2の構造単位(モノマ単位)とが含まれる。 【0057】 第1の構造単位及び第2の構造単位は、1種のポリマに含まれてコポリマを構成してもよい。すなわち、電解質組成物は、一実施形態において、第1の構造単位と第2の構造単位との両方を含む少なくとも1種のコポリマを含有する。コポリマは、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマ、フッ化ビニリデンとマレイン酸とのコポリマ、フッ化ビニリデンとメチルメタクリレートとのコポリマ等であってよい。コポリマは、第1の構造単位及び第2の構造単位のみからなっていてもよいし、第1の構造単位及び第2の構造単位以外の構造単位を更に含有してもよい。電解質組成物は、コポリマを含有する場合、第1の構造単位及び第2の構造単位を含むコポリマのみを含有してもよいし、その他のポリマを更に含有していてもよい。 【0058】 第1の構造単位及び第2の構造単位は、それぞれ別のポリマに含まれて、第1の構造単位を有する第1のポリマと、第2の構造単位を有する第2のポリマとの少なくとも2種のポリマを構成していてもよい。すなわち、電解質組成物は、一実施形態において、第1の構造単位を含む第1 のポリマと、第2の構造単位を含む第2のポリマとの少なくとも2種以上のポリマを含有する。電解質組成物は、第1のポリマ及び第2のポリマを含有する場合、第1のポリマ及び第2のポリマのみを含有してもよいし、その他のポリマを更に含有していてもよい。 【0059】 第1のポリマは、第1の構造単位のみからなるポリマであってもよく、第1の構造単位に加えてその他の構造単位を更に有するポリマであってもよい。その他の構造単位は、エチレンオキシド(-CH_(2) CH_(2) O-)、カルボン酸エステル(-CH_(2) COO-)等の含酸素炭化水素構造であってよい。第1のポリマは、ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、又は、これらの分子構造の内部に前記含酸素炭化水素構造が導入されたポリマであってよい。 【0060】 第2のポリマは、第2の構造単位のみからなるポリマであってもよく、第2の構造単位に加えてその他の構造単位を更に有するポリマであってもよい。その他の構造単位は、エチレンオキシド(-CH_(2) CH_(2) O-)、カルボン酸エステル(-CH_(2) COO-)等の含酸素炭化水素構造であってよい。 【0061】 第1のポリマと第2のポリマとの組合せとしては、ポリフッ化ビニリデンとポリアクリル酸、ポリ四フッ化エチレンとポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデンとポリメチルメタクリレート等が挙げられる。 【0062】 電解質組成物のゲル化を抑制し、電解質組成物をシート状に形成した際の凹凸の発生を抑制する観点から、1種又は2種以上のポリマは、好ましくは、構造単位(モノマ単位)として、アクリロニトリル及び塩化ビニルの一方又は両方を含まない。すなわち、電解質組成物は、アクリロニトリル及び塩化ビニルの一方又は両方を構造単位(モノマ単位)として含むポリマを含有しなくてよい。電解質組成物が第1の構造単位及び第2の構造単位を含むコポリマを含有する場合、コポリマは、構造単位(モノマ単位)として、アクリロニトリル及び塩化ビニルの一方又は両方を含まなくてよい。電解質組成物が2種以上のポリマを含有する場合、第1のポリマ及び第2のポリマは、構造単位(モノマ単位)として、アクリロニトリル及び塩化ビニルの一方又は両方を含まなくてよく、また、第1のポリマ及び第2のポリマ以外のその他のポリマは、構造単位(モノマ単位)として、アクリロニトリル及び塩化ビニルの一方又は両方を含まなくてよい。 【0063】 第1の構造単位の含有量は、電解質組成物をシート状にした場合の強度を更に向上させる観点から、第1の構造単位及び第2の構造単位の含有量の合計を基準として、好ましくは、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上である。第1の構造単位の含有量は、電解質組成物が溶媒を含有する場合の溶媒との親和性を更に向上させる観点から、第1の構造単位及び第2の構造単位の含有量の合計を基準として、好ましくは、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、又は96質量%以下である。 【0064】 第1の構造単位の含有量は、電解質組成物をシート状にした場合の強度を更に向上させる観点から、ポリマを構成する構造単位全量を基準として、好ましくは、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、又は90質量%以上である。第1の構造単位の含有量は、電解質組成物が溶媒を含有する場合の溶媒との親和性を更に向上させる観点から、ポリマを構成する構造単位全量を基準として、好ましくは、98質量%以下、95質量%以下、又は90質量%以下である。 【0065】 第2の構造単位の含有量は、電解質組成物が溶媒を含有する場合の溶媒との親和性を更に向上させる観点から、第1の構造単位及び第2の構造単位の含有量の合計を基準として、好ましくは、1質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上である。第2の構造単位の含有量は、電解質組成物をシート状にした場合の強度を更に向上させる観点から、第1の構造単位及び第2の構造単位の含有量の合計を基準として、好ましくは、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下である。 【0066】 第2の構造単位の含有量は、電解質組成物が溶媒を含有する場合の溶媒との親和性を更に向上させる観点から、ポリマを構成する構造単位全量を基準として、好ましくは、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上である。第2の構造単位の含有量は、電解質組成物をシート状にした場合の強度を更に向上させる観点から、ポリマを構成する構造単位全量を基準として、好ましくは、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下である。 【0067】 1種又は2種のポリマにおいて、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比(第1の構造単位の含有量(質量)/第2の構造単位の含有量(質量))は、50/50以上である。第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比は、好ましくは、60/40以上、70/30以上、80/20以上、85/15以上、90/10以上、93/7以上、又は95/5以上である。第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比は、99/1以下、97/3以下、又は95/5以下であってよい。 【0068】 1種又は2種以上のポリマの含有量は、電解質組成物の導電率を向上させる観点から、電解質組成物に含まれるポリマ全量基準で、90質量%を超える。1種又は2種以上のポリマの含有量は、電解質組成物に含まれるポリマ全量基準で、好ましくは92質量%以上であり、より好ましくは94質量%以上であり、更に好ましくは96質量%以上である。電解質組成物に含まれるポリマは、1種又は2種以上のポリマのみからなっていてもよい。 【0069】 ポリマの含有量は、電解質組成物をシート状にした場合の強度を更に向上させる観点から、電解質組成物全量を基準として、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上であり、最も好ましくは25質量%以上である。ポリマの含有量は、導電率を更に向上させる観点から、電解質組成物全量を基準として、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量% であり、更に好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは30質量%以下であり、最も好ましくは28質量%以下である。 【0070】 ポリマの含有量は、電解質組成物をシート状にした場合の強度と導電率を両立させる観点から、電解質組成物全量を基準として、好ましくは、3?60質量%、3?50質量%、3?40質量%、3?30質量%、3?28質量%、5?60質量%、5?50質量%、5?40質量%、5?30質量%、5?28質量%、10?60質量%、10?50質量%、10?40質量%、10?30質量%、10?28質量%、20?60質量%、20?50質量%、20?40質量%、20?30質量%、20?28質量%、25?60質量%、25?50質量%、25?40質量%、25?30質量%、又は25?28質量%である。 【0071】 本実施形態に係るポリマは、電解質組成物に含まれる溶媒との親和性に優れるため、溶媒中の電解質を保持する。これにより、電解質組成物に荷重が加えられた際の溶媒の液漏れが抑制される。」 エ 「【0125】 電解質シート13Aは、例えば、電解質層7に用いる材料(固形分)を分散媒に分散させてスラリを得た後、これを基材14上に塗布してから分散媒を揮発させることにより作製される。分散媒は、好ましくは水、NMP、トルエン等である。」 オ 「【0144】 <試験例1> (実施例1-1) ポリマであるフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとのコポリマ(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロピレン(質量比)=95/5。以下、PVDF-HFPとも称する。)を26質量% と、酸化物粒子であるSiO_(2)粒子(平均粒径0.1μm)を13質量%と、電解質塩であるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Li[FSI])を34.5質量%と、溶媒であるテトラグライムを26.5質量%とを、分散媒であるNMPに分散させ、電解質組成物を含むスラリを調製した。得られたスラリを、ポリエチレンテレフタレート製の基材に塗布し、加熱して分散媒を揮発させることにより電解質シートを得た。得られた電解質シートにおける電解質層の厚さは、25±2μmであった。」 カ 「【0149】 (実施例1-17?1-18) 実施例1の電解質シートにおいて、ポリマ中のヘキサフルオロプロピレンの含有量を表2に示した含有量に変更した以外は、実施例1と同様の方法により電解質シートを作製した。」 キ 「【0151】 (実施例1-23?1-30) 実施例1の電解質シートにおいて、ポリマの種類を表3に示したものに変更した以外は、実施例1と同様の方法により電解質シートを作製した。表3において、ポリマの略称は以下のものを示し、ポリマの混合比は質量比を意味する。 PVDF+PA:ポリフッ化ビニリデンとポリアクリル酸との混合物 PVDF-MA:フッ化ビニリデンとマレイン酸とのコポリマ PTFE+PMMA:ポリ四フッ化エチレンとポリメチルメタクリレートとの混合物 PVDF+PMMA:ポリフッ化ビニリデンとポリメチルメタクリレートとの混合物 PVDF-HFP+PMMA:フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとのコポリマと、ポリメチルメタクリレートとの混合物 PVDF-HFP+PAN:フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとのコポリマと、ポリアクリロニトリルとの混合物 PVDF-HFP+PVC:フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとのコポリマと、ポリポリ塩化ビニルとの混合物」 ク 「【0153】 (比較例1-2?1-8) 実施例1-1の電解質シートにおいて、ポリマの種類及び/又は混合比を表4に示したものに変更した以外は、実施例1と同様の方法により電解質シートを作製した。表4において、ポリマの略称は以下のものを示し、ポリマの混合比は質量比を意味する。 PVDF:ポリフッ化ビニリデン PVDF-HFP+PAN+PVC:フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとのコポリマと、ポリアクリロニトリルと、ポリ塩化ビニルとの混合物」 ケ 「【表1】 」 コ 「【表2】 」 サ 「【表3】 」 シ 「【表4】 」 ス 「【0160】 (スラリの性状) 電解質シートの調製工程におけるスラリの性状について、ゲル化の有無を目視により確認した。スラリ作製後に、ドライルーム内にてスラリを放置し、5時間経過後、スラリの少なくとも一部が固化(ゲル化)していない場合は、ゲル化していないと判定し、少なくとも一部が固化していれば、ゲル化していると判定した。スラリのゲル化は、ポリマと、電解質塩と、溶媒について、分散媒に対する相互の溶解性が低い場合に生じうる。ゲル化が生ずると電解質シートを薄層化することが困難になるため、ゲル化が生じない方がよい。表5においては、ゲル化したものを+、ゲル化しなかったものを-と示した。」 セ 「【0173】 第2の構造単位を含有しないポリマを使用した比較例1-2、及び、第1の構造単位及び第2 の構造単位が含まれるポリマの含有量が、ポリマ全量基準で90質量%以下である比較例1-3?1-7の導電率は、実施例1-1?1-30より劣っていた。また、比較例1-2?1-7におけるスラリはゲル化し、電解質組成物の表面に凹凸が生じた。液漏れに関しては、第1の構造単位を含有するポリマ(PVDF-HFP)の含有量が大きいほど、液漏れがしにくいが、比較例1-6のように含有量が少なくなると、液漏れが生じた。第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比が50/50より小さい比較例1-8においては、電解質組成物の表面に凹凸が生じた。」 ソ 「【0174】 <試験例2> (実施例2-1) [電解質シートの作製] PVDF-HFP(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロピレン(質量比)=95/5)を21質量%と、酸化物粒子であるSiO_(2)粒子(平均粒径0.1μm)を14質量%と、電解質塩であるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li[TFSI])をイオン液体(N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(DEME-TFSI)に、電解質塩が1.5mol/Lの濃度となるように溶解させた電解質溶液65質量%とを、分散媒であるNMPに分散させ、電解質組成物を含むスラリを調製した。得られたスラリを、ポリエチレンテレフタレート製の基材に塗布し、加熱して分散媒を揮発させることにより電解質シートを得た。得られた電解質シートにおける電解質層の厚さは、25±2μmであった。以下、電解質塩を溶解させたイオン液体の組成を表す際に、「リチウム塩の濃度/リチウム塩の種類/イオン液体の種類」のように表記することがある。」 タ 「【0179】 (実施例2-2?2-3) 電解質シートにおいて、電解質支持材(電解質塩及び溶媒以外の材料)の含有量に対する電解質(電解質塩及び溶媒)の含有量の質量比(電解質の含有量/電解質支持材の含有量)を表6に示したものに変更した以外は、実施例2-1と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0180】 (実施例2-4?2-5) 電解質シートにおいて、電解質における電解質塩の濃度を表6に示したものに変更した以外は、実施例2-1と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0181】 (実施例2-6?2-7) 電解質シートにおいて、電解質における電解質塩及び溶媒を表6に示したものに変更した以外は、実施例2-1と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0182】 (実施例2-8) 電解質シートにおいて、酸化物粒子の平均粒径を表6に示したものに変更した以外は、実施例2-1と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0183】 (実施例2-9?2-10) 電解質シートにおいて、酸化物粒子の含有量に対するポリマの含有量の質量比(ポリマの含有量/酸化物粒子の含有量)を表6に示したものに変更した以外は、実施例2-1と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0184】 (実施例2-11?2-12) 電解質シートにおいて、ポリマにおける構造単位の質量比を表7に示したものに変更した以外は、実施例2-1と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0185】 (実施例2-13) 電解質シートにおいて、酸化物粒子の平均粒径、電解質塩の種類、溶媒の種類、及び、電解質の含有量/電解支持材の含有量を表7に示したものに変更した以外は、実施例2-1と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0186】 (実施例2-14) 電解質シートにおいて、酸化物粒子の平均粒径を表7に示したものに変更した以外は、実施例2-13と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0187】 (実施例2-15) 電解質シートにおいて、電解質の含有量/電解支持材の含有量(質量比)を表7に示したものに変更した以外は、実施例2-13と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0188】 (実施例2-16?2-17) 電解質シートにおいて、ポリマの含有量/酸化物粒子の含有量(質量比)、及び、電解質の含有量/電解支持材の含有量(質量比)を表7に示したものに変更した以外は、実施例2-13と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0189】 (実施例2-18) 電解質シートにおいて、イオン液体の種類を表7に示したものに変更した以外は、実施例2-13と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0190】 (実施例2-19) 電解質シートにおいて、酸化物粒子の平均粒径を表7に示したものに変更した以外は、実施例2-18と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。 【0191】 (実施例2-20) 電解質シートにおいて、電解質の含有量/電解支持材の含有量を表7に示したものに変更した以外は、実施例2-18と同様の方法によりリチウムイオン二次電池を作製した。」 チ 「【表6】 」 ツ 「【表7】 」 テ 「【表8】 」 ト 「【0198】 (参考例3-1) [電解質シートの作製] PVDF-HFP(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロピレン(質量比)=95/5)と、酸化物粒子であるSiO_(2)粒子(平均一次粒径約1μm、製品名:AEROSIL SO-C4、日本アエロジル株式会社製)と、乾燥アルゴン雰囲気下で乾燥したリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)をテトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル、G4)に、電解質塩が2.3mol/Lの濃度となるように溶解させた電解質溶液とを、分散媒であるNMPに分散させ、電解質組成物を含むスラリを調製した。このスラリに、電解質溶液を更に添加して混合し、ポリマと、酸化物粒子と、電解質溶液との質量比を、ポリマ:酸化物粒子:電解質溶液=30:20:50とした。その後、NMPを更に加えて粘度を調節し、このスラリをポリエチレンテレフタレート製の基材(製品名:テオネックスR-Q51、帝人デュポンフィルム株式会社製、厚さ38μm)上にアプリケータを用いて塗布した。塗布したスラリを100℃で2時間加熱乾燥することにより、分散媒を揮発させて、電解質シートを得た。」 (2)「1種又は2種以上のポリマ」の分散媒への溶解性について ア 上記(1)ア?トに摘記したとおり、本件明細書には、本件特許発明1?12に係る「電解質組成物」を構成する「1種又は2種以上のポリマ」、及び本件特許発明13に係る「電解質シートの製造方法」に用いられる「スラリ」を構成する「1種又は2種以上のポリマ」について、 (ア)これらを構成する構成単位の中に「四フッ化エチレン及びフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる第1の構造単位」と、「ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる第2の構造単位」とが含まれること、 (イ)第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比(第1の構造単位の含有量(質量)/第2の構造単位の含有量(質量))は、50/50以上であること、 (ウ)1種又は2種以上のポリマの含有量は、電解質組成物の導電率を向上させる観点から、電解質組成物に含まれるポリマ全量基準で、90質量%を超えること、及び (エ)試験例1?3において、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとのコポリマ(PVDF-HFP)等を用いていること、 は記載されているが、それらの分子量や重合度は全く記載されていない。 イ まず、本件特許発明13に係る「電解質シートの製造方法」について検討する。 (ア)発明の詳細な説明の記載が、物を生産する方法の発明について、実施可能要件を満たしているというためには、「その方法により物を生産できる」ように記載されていなければならないところ、本件特許発明13に係る「電解質シートの製造方法」については、基材上に配置される「スラリ」を「1種又は2種以上のポリマ」、「分散媒」等から作る必要があることから、発明の詳細な説明の記載が、本件特許に係る出願時の技術常識に照らして、上記「スラリ」を生産できるように記載されたものといえる必要がある。 (イ)ここで、ポリマの分散媒への溶解性については、ポリマの分子量乃至重合度等が影響し、一般に、その分子量や重合度が大きくなると溶解性が低下するとの技術常識が存在する。 (ウ)また、上記(1)スに摘記したとおり、発明の詳細な説明の【0160】には、スラリのゲル化は、ポリマと、電解質塩と、溶媒について、分散媒に対する相互の溶解性が低い場合に生じうること、及びゲル化が生ずると電解質シートを薄層化することが困難になるため、ゲル化が生じない方がよいことが記載されている。 (エ)そこで検討するに、上記【0160】の記載からすると、本件特許発明13に係るポリマは、電解質塩や溶媒とともに分散媒に対して溶解する必要があるとも解されるが、一方で、上記(1)エに摘記されるように、発明の詳細な説明の【0125】の「電解質シート13Aは、例えば、電解質層7に用いる材料(固形分)を分散媒に分散させてスラリを得た後、これを基材14上に塗布してから分散媒を揮発させることにより作製される。」との記載からすると、本件特許発明13に使用される「スラリ」の生産に使用される「1種又は2種以上のポリマ」が、「溶媒」や「分散媒」に溶解するものである必要はなく、むしろ、上記【0125】の記載に従って、分散媒に分散するものであれば足りることが理解できる。 (オ)そうすると、本件特許発明13に使用される「スラリ」を生産するに当たって、発明の詳細な説明にその原材料である「1種又は2種以上のポリマ」の分子量や重合度が記載されていないことや、上記(イ)の技術常識の存在を考慮したとしても、上記【0125】の記載に従って、「1種又は2種以上のポリマ」を分散媒に分散させればよいのであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明13について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。 ウ 次に、本件特許発明1?12に係る「電解質組成物」及び「二次電池」について検討するに、発明の詳細な説明の記載が、物の発明について、実施可能要件を満たしているというためには、「その物を作れる」ように記載されていなければならないところ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記イ(オ)で検討したとおり、本件特許発明1?12に係る「電解質組成物」及び「二次電池」についても、その物を作れるように記載したものといえるから、本件特許発明1?12について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。 (3)小括 以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 5 取消理由としなかった異議申立理由について (1)異議申立理由1について ア 異議申立理由1-1について (ア)上記4(1)アの摘記事項からすると、本件特許発明の解決しようとする課題は、「導電率の高い電解質組成物であって、平滑性に優れた電解質シートを得ることが可能な電解質組成物を提供すること」(以下、「本件課題」という。)にあるといえる。 (イ)そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件課題を解決するための手段に関して、上記4(1)イに摘記したとおり、1種又は2種以上のポリマと、酸化物粒子と、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の電解質塩と、溶媒と、を含有する電解質組成物であって、1種又は2種以上のポリマを構成する構造単位の中には、四フッ化エチレン及びフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる第1の構造単位と、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる第2の構造単位とが含まれ、1種又は2種以上のポリマの含有量は、電解質組成物に含まれるポリマ全量基準で、90質量%を超え、1種又は2種以上のポリマにおいて、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比は、50/50以上である、電解質組成物を採用することで、導電率に優れ、平滑性に優れた電解質シートが得られることが記載されている。 (ウ)また、上記4(1)オ?テに摘記したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記(イ)の電解質組成物を用いて作製された電解質シートに該当する実施例1-1?1-27、1-29?1-30、実施例2-1?2-20、及び第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比が「50/50」付近の具体例である実施例1-28について、これらの導電率が、比較例1-1?1-8の導電率よりも優れており、電解質組成物の表面が、平滑で凹凸がないものであることが記載されている。 (エ)そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲は、上記(イ)の電解質組成物を採用することであるということができる。 (オ)一方、本件特許発明1?13は、いずれも、上記(イ)の電解質組成物を採用するものであることが特定された発明であるから、上記(エ)の「当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲」を超えているとはいえないものである。 (カ)この点につき、申立人は、発明の詳細な説明には、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比が「50/50」付近の具体例として、実施例1-28の1通りが記載されるのみで、残りの無数の1種又は2種以上のポリマについても「50/50」を臨界点として実施例1-28と同じ結果が得られるという具体例や説明は記載されていないと主張しているので、以下検討する。 a.まず、本件課題は、上記(ア)に記載したとおりのものであるから、導電率の高い電解質組成物であって、平滑性に優れた電解質シートを得ることが可能な電解質組成物を提供することであって、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比が「50/50」を臨界点として、同質量比が「50/50以上」であれば本件課題を解決できるが、「50/50未満」であれば解決できないということまで求めているわけではなく、同質量比が「50/50以上」のときに本件課題を解決できていれば足りるといえる。したがって、申立人による上記主張は、「50/50」を臨界点として認識する点で、前提を欠くものといわざるを得ない。 b.次に、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比が「50/50」付近の具体例として、実施例1-28の1通りが記載されるのみであることについて検討するに、上記4(1)オ?テの摘記事項からすると、発明の詳細な説明には、上記質量比が「90/10以上」である実施例1-28以外の各実施例により本件課題が解決されることが示され、かつ、上記質量比が「50/50」付近である実施例1-28でも本件課題が解決されることが示されているといえることから、上記質量比が「50/50以上」の全範囲において、本件課題が解決されることは、十分に推認されるといえ、本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても、この点に合理的な疑義を生じるような事情は見当たらない。 c.したがって、申立人による上記主張は採用しない。 (キ)よって、本件特許発明1?13は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 イ 異議申立理由1-2について (ア)本件特許発明1?13が、発明の詳細な説明に記載された「当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲」を超えているとはいえないものであることは、上記ア(ア)?(オ)において述べたとおりである。 (イ)この点につき、申立人は、本件課題を解決するにあたって、どのような理由・根拠に基づき四フッ化エチレンとフッ化ビニリデンとを1つの群とし、どのような理由・根拠に基づきヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート及びメチルメタクリレートを1つの群としたのかが、発明の詳細な説明に理論的に説明されておらず、実験的に示されているものでもなく、また、本件特許発明の出願時ないし優先日当時の技術常識に照らしても当業者にとって理解できるものではないから、本件特許発明1?13に係る1種又は2種以上のポリマについて、発明の詳細な説明の表1-表4に実施例及び比較例が記載されていても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできないと主張しているので、以下検討する。 a.確かに、上記4(1)ウに摘記したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の【0056】?【0071】には、1種又は2種以上のポリマを構成する構造単位の中に、四フッ化エチレンとフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる第1の構造単位と、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる第2の構造単位とが含まれることは記載されているものの、これらがどのような理由、根拠に基づいてグループ化されたのかについての理論的な説明はない。 b.しかしながら、上記4(1)オ?テの摘記事項からすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1?13の実施例である実施例1-1?1-27、1-29?1-30、実施例2-1?2-20として、i)第1の構造単位として「フッ化ビニリデン(PVDF)」を採用し、第2の構造単位として「ヘキサフルオロプロピレン(HFP)」を採用したもの(実施例1-1?1-22、1-29、1-30、2-1?2-20)、ii)第1の構造単位として「フッ化ビニリデン(PVDF)」を採用し、第2の構造単位として「ポリアクリル酸(PA)」を採用したもの(実施例1-23)、iii)第1の構造単位として「フッ化ビニリデン(PVDF)」を採用し、第2の構造単位として「マレイン酸(MA)」を採用したもの(実施例1-24)、iv)第1の構造単位として「ポリ四フッ化エチレン(PTFE)」を採用し、第2の構造単位として「ポリメチルメタクリレート(PMMA)」を採用したもの(実施例1-25)、v)第1の構造単位として「フッ化ビニリデン(PVDF)」を採用し、第2の構造単位として「ポリメチルメタクリレート(PMMA)」を採用したもの(実施例1-26)、及びvi)第1の構造単位として「フッ化ビニリデン(PVDF)」を採用し、第2の構造単位として「ヘキサフルオロプロピレン(HFP)」と「ポリメチルメタクリレート(PMMA)」を採用したもの(実施例1-27)、のそれぞれについて、本件課題を解決し得たことが記載されている。 c.そうすると、1種又は2種以上のポリマを構成する構造単位を、四フッ化エチレンとフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる第1の構造単位と、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる第2の構造単位とにグループ化することについては、実験的に十分裏付けられているといえ、本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても、この点に合理的な疑義を生じるような事情は見当たらない。 d.したがって、申立人による上記主張は採用しない。 (ウ)よって、本件特許発明1?13は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 ウ 異議申立理由1-3について (ア)本件特許発明1?13が、発明の詳細な説明に記載された「当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲」を超えているとはいえないものであることは、上記ア(ア)?(オ)において述べたとおりである。 (イ)この点につき、申立人は、本件課題を解決するためには、ポリマと分散媒との組合せも重要であるにもかかわらず、本件特許発明1?13においては、分散媒の有無および分散媒の種類は特定されておらず、発明の詳細な説明の実施例及び比較例では分散媒としてNMPを用いることが記載されていても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできないと主張しているので、以下検討する。 a.本件明細書の発明の詳細な説明には、上記4(1)エに摘記したとおり、電解質シートが電解質層に用いる材料(固形分)を分散媒に分散させてスラリを得た後、これを基材上に塗布してから分散媒を揮発させることにより作製されたものであり、分散媒の好ましい例として、水、NMP、トルエン等が記載されており、また、上記4(1)オ?テに摘記したとおり、実施例及び比較例においては、上記分散媒としてNMPを用いることが記載されている。 b.そして、これらの記載からは、スラリを得るために電解質組成物が分散し、得られたスラリを基材上に塗布した後に揮発するように機能する分散媒であれば、実施例や比較例に用いられるNMPのみならず、好適なものとして例示される水、トルエンを含め、通常使用されるものを採用できるといえ、本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても、この点に合理的な疑義を生じるような事情は見当たらない。 c.そうすると、分散媒の有無、種類が特定されていない本件特許発明1?13の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することは十分可能である。 d.したがって、申立人による上記主張は採用しない。 (ウ)よって、本件特許発明1?13は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 エ 異議申立理由1-4について (ア)本件特許発明1?13が、発明の詳細な説明に記載された「当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲」を超えているとはいえないものであることは、上記ア(ア)?(オ)において述べたとおりである。 (イ)この点につき、申立人は、発明の詳細な説明に記載された実施例1-28のポリマにおける、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比は正しくは「49/51」であるから、実施例1-28は本件特許発明1?13の構成要件を充足しない例であり、そのため、唯一記載されていたPVDF-HFP+PMMA(フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマとポリメチルメタクリレートとの混合物)についても、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比「50/50」を臨界点として課題が解決されることが実験的に示されておらず、本件特許発明1?13の範囲まで、発明の詳細な説明の内容を拡張ないし一般化できないと主張しているので、以下検討する。 a.ここで、上記ア(カ)においては、第2の構造単位の含有量に対する第1の構造単位の含有量の質量比が「50/50」付近の具体例として、実施例1-28の1通りが記載されるのみであることを前提として検討したが、その検討結果は、上記実施例1-28のポリマにおける上記質量比が正しくは「49/51」であって、実施例1-28が本件特許発明1?13の構成要件を充足しない例であるとしても同様に妥当するものである。 b.したがって、申立人による上記主張は採用しない。 (ウ)よって、本件特許発明1?13は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 (2)異議申立理由2について ア 異議申立理由2-1について (ア)上記4(2)イ(ア)、ウに記載したとおり、発明の詳細な説明の記載が、物の発明について実施可能要件を満たしているというためには、「その物を作れる」ように記載されていなければならず、また、物を生産する方法の発明について実施可能要件を満たしているというためには、「その方法により物を生産できる」ように記載されていなければならないことから、この観点で以下検討する。 a.発明の詳細な説明に記載された実施例1-28における1種又は2種以上のポリマは、第1の構造単位である「ポリフッ化ビニリデン」と、第2の構造単位である「ヘキサフルオロプロピレン」とをそれぞれ「98/2」の質量比で含むコポリマである「PVDF-HFP(98/2)」と、第2の構造単位である「ポリメチルメタクリレート(PMMA)」とを「50/50」の質量比で混合したものであるから、当該混合物における第1の構造単位と第2の構造単位との質量比は、「49/51」であるから、当該実施例1-28は、上記質量比を「50/50以上」と特定する本件特許発明1?13の実施例にはなっていない。 b.しかしながら、このことから直ちに、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件特許発明1?12に係る「電解質組成物」及び「二次電池」を作れるように記載したものでないとか、本件特許発明13に係る「電解シートの製造方法」により物を生産できるとように記載したものでないとはいえず、むしろ、実施例1-28以外の実施例の記載や、発明の詳細な説明のその他の記載を参照すれば、本件特許発明1?13は、十分実施可能であるといえる。 (イ)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 イ 異議申立理由2-3について (ア)本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件特許発明1?13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであることは、上記ア(イ)で述べたとおりである。 (イ)この点につき、申立人は、発明の詳細な説明には、電解質塩と溶媒の合計含有量(A)+(B)が同じ値である実施例1-1と実施例1-4であっても導電率に0.05mS/cmの差が生じることが記載されており、0.05mS/cmの差は誤差であると考えられるところ、実施例1-29と比較例1-2の導電率の差も0.05mS/cmであり、誤差であると考えられるので、実施例1-29が課題を解決できる具体例といえるのか不明確であると主張している。 しかし、上記実施例1-1と、上記実施例1-4とは、「電解質塩と溶媒の合計含有量[(A)+(B)]」が同じ値ではあるものの、ポリマの含有量と酸化物粒子の含有量が相互に異なるものであるから(上記4(1)ケの【表1】参照)、これらの導電率に差が生じることは自然なことであり、この差である「0.05mS/cm」が誤差であるとはいえず、このことを前提とした上記主張は採用しない。 (ウ)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 (3)異議申立理由3について ア 甲第1号証の記載、及び甲第1号証記載の発明 (ア)本件特許についての出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証(特開2011-70793号公報)には、以下の記載がある(なお、「・・・」は記載の省略を表す。)。 a.「【特許請求の範囲】 【請求項1】 スピネル型リチウムチタン酸化物を含有するリチウムチタン複合酸化物粒子(A)、イオン液体(B)、支持電解質塩(C)および高分子化合物(D)を含有することを特徴とする、二次電池用電解質組成物。 ・・・ 【請求項4】 正電極および負電極を有し、該正電極および該負電極の間に、請求項1から3のいずれか1項に記載の二次電池用電解質組成物からなる電解質層を具備することを特徴とする二次電池。」 b.「【0001】 本発明は、二次電池の電解質層に用いられる電解質組成物に関するものであり、特にリチウムイオン二次電池の電解質層に用いられる電解質組成物に関する。」 c.「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明の目的は、イオン伝導度が高く、かつ長期の間、充電状態においても自己放電ロスが小さく放電特性に優れる電解質組成物およびそれを用いた二次電池を提供することにある。」 d.「【0018】 スピネル型リチウムチタン酸化物以外の構成物としては、ルチル型TiO_(2)、アナターゼ型TiO_(2)、Li_(2)TiO_(3)およびラムステライド型リチウムチタン酸化物(Li_(2)Ti_(3)O_(7))などが挙げられる。」 e.「【0028】 二次電池用電解質組成物中の本発明に係るリチウムチタン複合酸化物粒子の含有量は、5?40質量%であることが好ましく、特に、10?30質量%であることが好ましい。」 f.「【0033】 (イオン液体(B)) イオン液体は、室温溶融塩である。イオン液体としては、例えば下記一般式(1)、一般式(A)で表される化合物を好ましく用いることができる。 【0034】 【化1】 」 g.「【0059】 (高分子化合物(D)) 本発明における高分子化合物とは正電極-電解質層-負電極の構成を有する二次電池を最終的に形成した時点で高分子になっている物質を指す。本発明における高分子化合物は、電解質組成物の前駆体を調製した段階で既に高分子であっても良いし、重合性モノマーやオリゴマーのような低分子化合物を使用して電解質組成物の前駆体を調製し、二次電池を形成する際、またはその前に高分子化するものであっても良い。 【0060】 電解質組成物前駆体を調製した段階で既に高分子であるものとしては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が使用できる。 【0061】 例えば、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフルオレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体を挙げることができる。 【0062】 この中で好ましいのはポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)である。 ・・・ 【0066】 二次電池用電解質組成物中の高分子化合物の配合量は、5?40質量%とすることが好ましく、特に、10?30質量%とすることが好ましい。」 h.「【0067】 (溶媒) 本発明の二次電池用電解質組成物は、上記の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、溶媒を含有することができる。 【0068】 溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ブチロラクトン等のγ-ラクトン類、1,2-ジエトキシエタン、1-エトキシ-1-メトキシエタン等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3-プロパンサルトン、アニソール、N-メチルピロリドン、などの非プロトン性有機溶媒の一種又は二種以上を混合して使用したものが挙げられる。」 i.「【0069】 (電解質組成物の製造方法) 本発明の電解質組成物は、上記(A)、(B)、(C)および(D)を、混合攪拌することで得られ、ゲル状、または、固体状であることが好ましい態様である。 【0070】 本発明の電解質組成物をゲル状にする方法としては、加熱融解、または、有機溶剤を添加することにより行うことができる。二次電池を形成する際には、ゲル状、または固体状の電解質組成物をシート状にしてから、正極、負極に挟んで、場合により加熱しながら、圧着して形成しても良いし、電解質組成物を正極、または/及び負極に塗布し、加熱、放射線照射、または、乾燥後に両電極を貼合して、場合により加熱しながら、圧着して形成しても良い。」 j.「【0073】 (二次電池) 本発明の二次電池は、正電極と負電極との間に、本発明の二次電池用電解質組成物からなる電解質層を有するリチウムイオン二次電池である。」 k.「【0082】 塗布液としては、例えば、必要に応じ、上記導電助剤、バインダおよびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、水、トルエンなどの分散媒を含むスラリー状の塗布液が用いられる。」 l.「【実施例】 【0102】 以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。 【0103】 (電解質組成物の作製) 酸素濃度10ppm以下、露点-60℃以下の乾燥アルゴングローブボックス内にて60質量%の1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(イオン液体、B-1)に支持電解質塩として10質量%のLiN(SO_(2)CF_(3))_(2)を溶解後、20質量%のスピネル型のリチウムチタン複合酸化物粒子(Li_(4)Ti_(5)O_(12)/Li_(2)Ti_(3)O_(7)/Li_(2)TiO_(3)/TiO_(2);構成比92/0/5/3)を添加混合してスラリーを作製した。 【0104】 これにさらに10質量%相当のポリフッ化ビニリデン(高分子化合物、数平均分子量:240,000)のN-メチルピロリドン溶液を添加混合し電解質組成物前駆体1を得た。 【0105】 さらに同様にして表1記載の、各成分を用い、電解質組成物前駆体2?18、及び比較1?3を調製した。ただし、17、18については混合物自身が液体なので、そのまま添加した。 【0106】 (リチウムイオン伝導度の測定) 得られた電解質組成物前駆体前駆体1?18、及び比較1?3を用い、各々電解質組成物1?18、及び比較1?3を形成した。 【0107】 電解質組成物1?16、及び比較1?3は溶剤乾燥、電解質組成物17は加熱重合、実施例18は放射線照射重合により硬化させて固体状にしてから、25℃で上記で使用したのと同じアルゴングローブボックス内にて金属リチウム電極で挟み、交流インピーダンス法(0.1V、周波数1Hz?10MHz)により膜抵抗を測定し、イオン伝導度を算出した。」 m.「【0108】 (二次電池の製造) 正電極の製造:リン酸鉄リチウム(LiFePO_(4))90質量%と、補助導電材としてグラファイト粉末6質量%とを混合し、これに、ポリフッ化ビニリデン共重合体4質量%とN-メチルピロリドンとを加えて、混合してスラリーを調製した。 【0109】 このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔上に塗布乾燥し、ロールプレスすることにより正電極を作製した。 【0110】 負電極の製造:グラファイト96質量%とポリフッ化ビニリデン共重合体4質量%とN-メチルピロリドンとを加えて、混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmの銅箔上に塗布乾燥し、ロールプレスすることにより負電極を作製した。下述する二次電池比較2用としてグラファイトのかわりに表2に示すチタン酸リチウムを用い、同様にして電極を作製した。 【0111】 上記で得られた正電極、及び、負電極を温度150℃、圧力10torr以下で8時間、加熱減圧乾燥した。その後、上記アルゴングローブボックス内で、表2に示す負電極上に上記で調製した電解質組成物前駆体を塗布後、二次電池1?16、及び比較1?3は溶剤乾燥、17は加熱重合、18は放射線照射重合させ、電解質層を形成した後、上記で得られた正電極を上記で作製した電解質層と接触させ、対向ローラーを用いて加熱圧着して密着させ二次電池1?18、比較1?3を作製した。」 n.「【0112】 (自己放電ロスの評価) 得られた二次電池を25℃環境下において、0.1mAで定電流充電した後、0.1mAの定率放電を行い、「保存前放電容量」を出した。続いて前記と同1条件による充電後、60℃に設定し恒温槽内にそれぞれの電池を保存した。7日後、電池を取り出し、前記と同1条件による放電を行い、その測定値を「保存後放電容量」とした。各電池について、「自己放電率(%)」=(「保存後放電容量」×100/「保存前放電容量」)を算出し自己放電ロスを評価した。ほぼ80%以上が実用上良好な範囲である。」 o.「【表1】 」 p.「【表2】 」 q.「【0116】 上記結果から本発明の電解質組成物は、イオン伝導度が高く、またこれを用いた二次電池は、長期の間、充電状態においても自己放電ロスが少なく放電特性に優れることが分かる。」 (イ)上記(ア)a.?q.の記載事項を総合勘案し、特に、実施例として記載された電解質組成物前駆体1に着目すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。 「60質量%の1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(イオン液体、B-1)に支持電解質塩として10質量%のLiN(SO_(2)CF_(3))_(2)を溶解後、20質量%のスピネル型のリチウムチタン複合酸化物粒子(Li_(4)Ti_(5)O_(12)/Li_(2)Ti_(3)O_(7)/Li_(2)TiO_(3)/TiO_(2);構成比92/0/5/3)を添加混合してスラリーを作製し、これにさらに10質量%相当のポリフッ化ビニリデン(高分子化合物、数平均分子量:240,000)のN-メチルピロリドン溶液を添加混合し得た電解質組成物前駆体。」(以下、「甲1発明」という。) イ 本件特許発明1について (ア)そこで、本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「スピネル型のリチウムチタン複合酸化物粒子(Li_(4)Ti_(5)O_(12)/Li_(2)Ti_(3)O_(7)/Li_(2)TiO_(3)/TiO_(2);構成比92/0/5/3)」、「支持電解質塩」としての「LiN(SO_(2)CF_(3))_(2)」、「1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(イオン液体、B-1)」、及び「電解質組成物前駆体」は、それぞれ本件特許発明1の「無機酸化物粒子」、「リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の電解質塩」、「イオン液体」からなる「溶媒」、及び「電解質組成物」に相当する。 (イ)また、甲1発明の「ポリフッ化ビニリデン(高分子化合物、数平均分子量:240,000)」は、本件特許発明1の「1種又は2種以上のポリマ」に対応するとともに、本件特許発明1と甲1発明とは、「1種又は2種以上のポリマ」の含有量が、電解質組成物に含まれるポリマ全量基準で90質量%を超えている点で一致する。 (ウ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、 「1種又は2種以上のポリマと、無機酸化物粒子と、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の電解質塩と、下記式(1)で表されるグライム及びイオン液体からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒と、を含有する電解質組成物であって、前記1種又は2種以上のポリマの含有量は、前記電解質組成物に含まれるポリマ全量基準で、90質量%を超える、電解質組成物。 R^(1)O-(CH_(2)CH_(2)O)_(k)-R^(2) (1) [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に、炭素数4以下のアルキル基又は炭素数4以下のフルオロアルキル基を表し、kは1?6の整数を表す。]」 の点で一致し、次の点で相違する。 相違点: 本件特許発明1の「1種又は2種以上のポリマ」は、これを構成する構造単位の中に、四フッ化エチレン及びフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる第1の構造単位と、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなる群より選ばれる第2の構造単位とが含まれ、上記第2の構造単位の含有量に対する上記第1の構造単位の含有量の質量比が、50/50以上であるのに対し、甲1発明の「1種又は2種以上のポリマ」は、「ポリフッ化ビニリデン(高分子化合物、数平均分子量:240,000)」である点。 (エ)そこで、上記相違点について検討する。 a.上記ア(ア)g.の摘記事項からすると、甲第1号証の【0061】には、電解質組成物前駆体に含有される「高分子化合物(D)」の例として様々なものが列挙され、その中には、本件特許発明1における「第1の構造単位」と「第2の構造単位」とが含まれる「フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体」も含まれているが、甲第1号証の記載を参酌しても、甲1発明における「ポリフッ化ビニリデン」を上記「フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体」に替えるとともに、その中の「ヘキサフルオロプロピレン」の含有量に対する「フッ化ビニリデン」の含有量の質量比を「50/50以上」とする動機付けがあるとはいえない。 b.また、本件特許発明1が、「導電率の高い電解質組成物であって、平滑性に優れた電解質シートを得ることが可能な電解質組成物を提供することができる」との効果を奏するものであるのに対して、甲1発明は、「イオン伝導度が高く、またこれを用いた二次電池は、長期の間、充電状態においても自己放電ロスが少なく放電特性に優れることが分かる。」(上記(ア)q.参照)との効果を奏するものではあるといえるものの、これに係る電解質組成物を電解質シートにしたときの表面平滑性については何ら検討されていないことから、本件特許発明1の効果は、甲1発明から予測可能な範囲のものとはいえない。 (オ)したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件特許発明2?13について 本件特許発明2?12は、本件特許発明1の特定事項を全て含むものであり、また、本件特許発明13の「スラリ」は、本件特許発明1に係る電解質組成物と同じ組成物を含むものである。 そうすると、上記エ(オ)で検討したとおり、本件特許発明1が、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件特許発明2?13についても同様に、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1?13は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-09-28 |
出願番号 | 特願2019-510989(P2019-510989) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M) P 1 651・ 536- Y (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 瀧 恭子 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
井上 猛 粟野 正明 |
登録日 | 2019-08-02 |
登録番号 | 特許第6562184号(P6562184) |
権利者 | 日立化成株式会社 |
発明の名称 | 電解質組成物、二次電池、及び電解質シートの製造方法 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 平野 裕之 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 中塚 岳 |
代理人 | 水木 佐綾子 |