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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1367001
異議申立番号 異議2020-700455  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-30 
確定日 2020-10-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6632350号発明「光学フィルム用粘着剤、粘着剤層、光学部材および画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6632350号の請求項1ないし22に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6632350号の請求項1?22に係る特許についての出願は、平成27年11月27日の出願であって、令和元年12月20日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月22日に特許掲載公報が発行された。その後、令和2年6月30日に特許異議申立人前田洋志(以下、単に「申立人」ともいう。)が、請求項1?22に係る特許に対して特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6632350号の請求項1?22の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明22」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を含む、光学フィルム用粘着剤であって、
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、
(a1)アルキル(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位 9.9質量%以上99.9質量%以下と;
(a2)重合性官能基を有するマクロモノマー由来の構成単位 0.1質量%以上15質量%以下と;
(a3)ラジカル重合性官能基を複数個有しない(メタ)アクリル酸誘導体モノマーである官能基含有モノマー由来の構成単位 0質量%以上20質量%以下と;
(a4)前記(a1)、(a2)および(a3)以外の(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位 0質量%以上90質量%以下と;
を含み、
前記(a1)、(a2)、(a3)および(a4)由来の構成単位の合計量が、100質量%であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体の、ガラス転移温度が-70℃以上-57℃以下であり、かつ、重量平均分子量が100万を超えて250万以下である、光学フィルム用粘着剤。
【請求項2】
前記ガラス転移温度が、-70℃以上-60℃未満である、請求項1に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項3】
前記重量平均分子量が、120万を超える、請求項1または2に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項4】
前記(a3)ラジカル重合性官能基を複数個有しない(メタ)アクリル酸誘導体モノマーである官能基含有モノマーが、ヒドロキシル基、アシル基またはエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーである、請求項1?3のいずれか1項に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項5】
前記(a1)アルキル(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、アルキル基の炭素数が1以上18以下である、請求項1?4のいずれか1項に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項6】
前記(a1)アルキル(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位が、60質量%以上90質量%以下である、請求項1?5のいずれか1項に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、ヒドロキシル基を含有する、請求項1?6のいずれか1項に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項8】
架橋剤(B)をさらに含む、請求項1?7のいずれか1項に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項9】
前記架橋剤(B)が、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対して、0.001質量部以上20質量部以下含まれる、請求項8に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項10】
前記架橋剤(B)が、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、多官能アクリル酸エステルモノマー、過酸化物、チタンカップリング剤、ジルコニウム化合物、金属アルミキレート、ヒドラジド化合物および熱酸発生剤からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項8または9に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項11】
シランカップリング剤(C)が、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下含まれる、請求項1?10のいずれか1項に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項12】
前記(a2)重合性官能基を有するマクロモノマーが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、スチレン、アクリロニトリル、ヒドロキシ(メタ)アクリレートおよびエチルヘキシルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の単独重合体もしくは共重合体、またはポリオルガノシロキサンを含む、請求項1?11のいずれか1項に記載の光学フィルム用粘着剤。
【請求項13】
請求項1?12のいずれか1項に記載の光学フィルム用粘着剤から形成されてなる、粘着剤層。
【請求項14】
-20℃での貯蔵弾性率(G’(-20))が、1×10^(5)Pa以下であり、かつ、85℃での貯蔵弾性率(G’(85))が、1×10^(4)Pa以上である、請求項13に記載の粘着剤層。
【請求項15】
G’(-20)/G’(85)が1.0以上5.0以下である、請求項13または14に記載の粘着剤層。
【請求項16】
光学フィルムの少なくとも片側に、請求項13?15のいずれか1項に記載の粘着剤層が形成されてなる、光学部材。
【請求項17】
前記光学フィルムと、前記粘着剤層との間に、易接着層を有する、請求項16に記載の光学部材。
【請求項18】
前記易接着層が、コロナ処理層、プラズマ処理層またはプライマー層である、請求項17に記載の光学部材。
【請求項19】
前記光学フィルムが偏光板を含み、
前記偏光板の厚みが、100μm以下である、請求項16?18のいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項20】
前記光学フィルムが導電層を有し、前記導電層を形成する材料が、インジウムスズ酸化物、銀ナノワイヤ、インジウム亜鉛酸化物、酸化インジウム-酸化亜鉛複合物、ポリチオフェン、カーボンナノチューブ、アルミニウム亜鉛酸化物、ガリウム亜鉛酸化物、フッ素亜鉛酸化物、フッ素インジウム酸化物、アンチモンスズ酸化物、フッ素スズ酸化物およびリンスズ酸化物からなる群から選択される、少なくとも一種である、請求項16?19のいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項21】
請求項16?20のいずれか1項に記載の光学部材を、少なくとも1つ用いた、画像表示装置。
【請求項22】
曲面ディスプレイまたはフレキシブルディスプレイである、請求項21に記載の画像表示装置。」

第3 申立理由の概要

申立人は、下記の甲第1号証を提出し、次の点について主張している(以下、甲1号証は単に「甲1」と記載する)。

1 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2項)に関する申立理由
本件発明1?16、19は、甲1に記載された発明である。
2 同法第29条第2項(同法第113条第2項)に関する申立理由
本件発明1?22は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

<刊行物一覧>
甲1:国際公開第2015/141382号

3 同法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)に関する申立理由
本件の請求項1では「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)」が、「(a2)重合性官能基を有するマクロモノマー由来の構成単位 0.1質量%以上15質量%以下」を有することが規定されているのに対して、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明には、具体的な実施例として、重合性官能基を有するマクロモノマー由来の構成単位を1質量%以上有するものしかなく、出願時の技術常識に照らしても、当該実施例の記載から「(a2)重合性官能基を有するマクロモノマー由来の構成単位 0.1質量%以上15質量%以下」を有する請求項の範囲まで、拡張乃至一般化できるとはいえないため、本件特許発明1?22は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むものである。

第4 当審の判断

1 特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に係る申立理由について

(1) 甲1の記載

摘記1a: 請求の範囲
「[請求項1](A)アルキル基の炭素数が4?18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび重合性マクロモノマーを含む共重合成分を共重合して得られ、かつゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/多角度レーザー光散乱検出器(GPC-MALS)により測定される分岐度が0.55以下である(メタ)アクリル系共重合体
を含有する偏光板用粘着剤組成物であり、
前記組成物より形成された粘着剤のゲル分率が30質量%以下である
ことを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。
[請求項2]前記(メタ)アクリル系共重合体(A)が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび重合性マクロモノマーとともに、さらに極性基含有モノマーを共重合して得られた共重合体である、請求項1記載の偏光板用粘着剤組成物。
[請求項3]前記共重合における極性基含有モノマーの使用量が、共重合成分100質量%中、10質量%以下である、請求項1または2記載の粘着剤組成物。
[請求項4]前記(メタ)アクリル系共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される重量平均分子量(Mw)が、20万?150万である、請求項1?3のいずれか1項記載の偏光板用粘着剤組成物。
・・・略・・・」
摘記1b:
「[0010]本発明の課題は、液晶セルの反り(ベンディング)を抑制でき、かつ耐久性に優れた粘着剤層を形成することが可能な偏光板用粘着剤組成物、前記組成物より形成された粘着剤層、前記粘着剤層を有する偏光板用粘着シート、および前記粘着剤層を有する粘着剤層付き偏光板を提供することにある。」
摘記1c:
「[0072](メタ)アクリル系共重合体(A)のGPC法により測定される分子量分布(Mw/Mn)は、通常50以下であり、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
(メタ)アクリル系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、例えば、当該重合体を構成するモノマー単位およびその含有割合から、Foxの式により算定することができる。例えば、Foxの式により求めたガラス転移温度(Tg)が通常-70?0℃、好ましくは-60?-30℃となるように、(メタ)アクリル系共重合体(A)を合成することができる。このようなガラス転移温度(Tg)を有する(メタ)アクリル系共重合体(A)を用いることにより、常温で粘着性に優れた粘着剤組成物を得ることができる。
Foxの式:1/Tg=(W_(1)/Tg_(1))+(W_(2)/Tg_(2))+…+(W_(m)/Tg_(m))
W_(1)+W_(2)+…+W_(m)=1
式中、Tgは(メタ)アクリル系共重合体(A)のガラス転移温度であり、Tg_(1),Tg_(2),…,Tg_(m)は各モノマーからなるホモポリマーのガラス転移温度であり、W_(1),W_(2),…,W_(m)は各モノマー由来の構成単位の前記共重合体(A)における重量分率である。」
摘記1d:
「[0122]以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
[0123]〔GPCおよびGPC-MALS〕
(メタ)アクリル系共重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、下記条件で、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/多角度レーザー光散乱検出器(GPC-MALS)により、下記条件で、分岐度を求めた。
・測定装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
・GPCカラム構成:以下の4連カラム(すべて東ソー(株)製)
(1)TSKgel HxL-H(ガードカラム)
(2)TSKgel GMHxL
(3)TSKgel GMHxL
(4)TSKgel G2500HxL
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・サンプル濃度:1.5%(w/v)(テトラヒドロフランで希釈)
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・検出器:DAWN HELEOS(MALS検出器)+Optilab rEX(RI検出器)
・標準ポリスチレン換算(MwおよびMnを測定する場合)
[0124][合成例1]
撹拌機、還流冷却器、温度計および窒素導入管を備えた反応装置に、n-ブチルアクリレート98部、末端にメタクリロイル基を有するメチルメタクリレートマクロモノマー(商品名:AA-6、東亜合成(株)製、Tg:105℃、Mn:6,000)1部、4-ヒドロキシブチルアクリレート1部、および酢酸エチル溶媒100部を仕込み、窒素ガスを導入しながら80℃に昇温した。次いで、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル0.1部を加え、窒素ガス雰囲気下、80℃で6時間重合反応を行った。反応終了後、酢酸エチルにて希釈し、固形分濃度30質量%のポリマー溶液を調製した。得られた(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)は70万であり、分子量分布(Mw/Mn)は7.2であり、分岐度は0.54であり、酸価は0mgKOH/gであった。
[0125][合成例2?14]
重合反応に用いた共重合成分および重合開始剤を表1に記載したとおりに変更したこと以外は合成例1と同様に行い、固形分濃度30質量%のポリマー溶液を調製した。結果を表1に示す。
[0126]表1中、MMAマクロモノマーは、末端にメタクリロイル基を有するメチルメタクリレートマクロモノマー(商品名:AA-6、東亜合成(株)製、Tg:105℃、Mn:6,000)を、BAマクロモノマーは、末端にアクリロイル基を有するブチルアクリレートマクロモノマー(商品名:AB-6、東亜合成(株)製、Tg:-50℃、Mn:6,000)を示す。
[0127]
[表1]

[0128][実施例1]
(1)粘着剤組成物の調製
合成例1で得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液(固形分濃度30質量%)と、当該溶液に含まれる(メタ)アクリル系ポリマー100部(固形分量)に対して、イソシアネート化合物として綜研化学(株)製「TD-75」(固形分75質量%、酢酸エチル溶液)0.08部(固形分量)と、シランカップリング剤として信越化学工業(株)製「KBM-403」(固形分100%)0.2部と、帯電防止剤として第一工業製薬(株)製「AS-804」(固形分100%)1部とを混合して、粘着剤組成物を得た。
[0129](2)粘着シートの作製
泡抜け後、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に、上記(1)で得られた粘着剤組成物をドクターブレードを用いて塗布し、90℃で3分間乾燥して、乾燥膜厚20μmの塗膜を形成した。塗膜の前記PETフィルムの貼付面とは反対面に、剥離処理されたPETフィルムをさらに貼り合わせ、23℃/50%RH環境下で7日間静置して熟成させて、2枚のPETフィルムに挟まれた厚さ20μmの粘着剤層を有する粘着シートを得た。
[0130](3)粘着剤層付き偏光板の作製
泡抜け後、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に、上記(1)で得られた粘着剤組成物をドクターブレードを用いて塗布し、90℃で3分間乾燥して、乾燥膜厚20μmの塗膜を有するシートを得た。前記シートと偏光板(厚さ:110μm、層構成:トリアセチルセルロースフィルム/ポリビニルアルコールフィルム/トリアセチルセルロースフィルム)とを、前記塗膜と偏光板とが接するように貼り合わせ、23℃/50%RHの条件で7日間静置して熟成させて、PETフィルムと厚さ20μmの粘着剤層と偏光板とを有する粘着剤層付き偏光板を得た。
[0131][実施例2?14、比較例1?3]
実施例1において、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を合成例2?14で得られたポリマー溶液に変更し、および/または配合組成を表2に記載したとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、粘着剤組成物、粘着シートおよび粘着剤層付き偏光板を得た。表2中、M-12ATは、金属キレート化合物である綜研化学(株)製「M-12AT」(固形分10質量%、トルエン、アセチルアセトン溶液)を示す。
[0132][評価]
〔ゲル分率〕
実施例・比較例で得られた粘着シートから、粘着剤約0.1gをサンプリング瓶に採取し、酢酸エチル30mLを加えて4時間振盪した後、このサンプル瓶の内容物を200メッシュのステンレス製金網で濾過し、金網上の残留物を100℃で2時間乾燥して乾燥重量を測定した。次式により、粘着剤のゲル分率を求めた。
・ゲル分率(%)=(乾燥重量/粘着剤採取重量)×100(%)
[0133]〔Creep値〕
実施例・比較例で得られた粘着剤層付き偏光板(PETフィルム/粘着剤層/偏光板からなる積層体)を幅10mm×長さ100mmにカットし、前記剥離処理されたPETフィルムを剥がして、アルカリ処理ガラス板上に、前記粘着剤層が前記ガラス板に接するように、かつ10mm×10mmの貼り合わせ面積になるように貼り合わせて、評価用粘着加工偏光板試験片を得た。
[0134]評価用粘着加工偏光板試験片について、オートクレーブ処理(50℃、5atm)を行い、23℃/50%RH雰囲気下で24時間静置した。次に前記試験片を、微少クリープ測定機のチャンバーBOX内に固定用チャック部分の長さ15mmにてセットした。引張荷重800g、引張時間1000秒にて、前記試験片における前記評価用粘着加工偏光板を、当該偏光板と前記ガラス板との接着面に平行にかつ前記偏光板の長さ方向に引っ張り、前記試験片における前記ガラス板と偏光板との貼り合わせ部分のズレの距離(μm)をクリープ値として測定した。
[0135]〔粘着力の測定〕
実施例・比較例で得られた粘着剤層付き偏光板(PETフィルム/粘着剤層/偏光板からなる積層体)を70mm×25mmの大きさに裁断して試験片を作成した。試験片からPETフィルムを剥離し、ラミネーターロールを用いて、粘着剤層/偏光板からなる積層体を厚さ2mmのガラス板の片面に、粘着剤層とガラス板とが接するように貼着した。得られた積層体を、50℃/5気圧に調整されたオートクレーブ中に20分間保持した。次いで23℃/50%RH環境下に1時間放置した後、ガラス板面に対して90°方向に300mm/minの速度で偏光板端部を引っ張り、粘着力(剥離強度)を測定した。
[0136]〔ベンディング(反り)〕
実施例・比較例で得られた粘着剤層付き偏光板(PETフィルム/粘着剤層/偏光板からなる積層体)を35mm×400mm(延伸軸方向)の大きさに裁断して試験片を作成した。試験片からPETフィルムを剥離し、ラミネーターロールを用いて、粘着剤層/偏光板からなる積層体を厚さ0.7mm、40mm×410mmのガラス板の片面に、粘着剤層とガラス板とが接するように貼着した。得られた積層体を、23℃/50%RH環境下に24時間放置した後、60℃のオーブン中に72時間保持した。片方の末端を床面に対して垂直な壁面に固定し、逆側末端の浮き上がり量を定規で測定した。オーブンから取り出し直後、および24時間後に測定を実施した。
[0137]〔耐久性試験〕
実施例・比較例で得られた粘着剤層付き偏光板(PETフィルム/粘着剤層/偏光板からなる積層体)を150mm×250mmの大きさに裁断して試験片を作成した。試験片からPETフィルムを剥離し、ラミネーターロールを用いて、粘着剤層/偏光板からなる積層体を厚さ2mmのガラス板の片面に、粘着剤層とガラス板とが接するように貼着した。得られた積層体を、50℃/5気圧に調整されたオートクレーブ中に20分間保持して、試験板を作成した。同様の試験板を2枚作成した。前記試験板を、温度80℃の条件下(耐熱性)または温度60℃/湿度90%RHの条件下(耐湿熱性)で500時間放置し、以下の基準で粘着剤層における発泡および断裂の発生を観察して評価した。発泡は凝集力不足の場合に発生し、断裂は応力緩和不足の場合に発生する。
[0138](発泡)
・AA:発泡が全く見られない。
・BB:発泡の面積が全体の5%未満である。
・CC:発泡の面積が全体の5%以上である。
[0139](断裂)
・AA:断裂が全く見られない。
・BB:断裂の面積が全体の5%未満である。
・CC:断裂の面積が全体の5%以上である。
[0140]
[表2]

比較例2の組成物では、分岐度が0.59の(メタ)アクリル系共重合体を用いており、またゲル分率が57質量%と高く設計されているため、24時間後のベンディング評価が悪く(5.0mm以上)、また耐久性評価において発泡は認められなかったものの、断裂が多く発生した。
[0141]比較例3の組成物では、分岐度が0.59の(メタ)アクリル系共重合体を用いており、かつゲル分率が0質量%に設計されているため、耐久性評価において発泡が多く発生した。
[0142]比較例1の組成物では、分岐度が0.54の(メタ)アクリル系共重合体を用いているが、ゲル分率が65質量%と高く設計されているため、24時間後のベンディング評価が満足のいくものではなく(5.0mm以上)、また耐久性評価において発泡は認められなかったものの、断裂が多く発生した。
[0143]一方実施例の組成物では、(メタ)アクリル系マクロモノマー由来の構成単位を有し、分岐度が0.55以下の(メタ)アクリル系共重合体を用いており、かつゲル分率が30質量%以下に設計されているため、24時間後のベンディング評価が高く(3.5mm以下)、また耐久性評価において発泡および断裂の発生は許容できる範囲にあった。」

(2)甲1に記載された発明
甲1の摘記1aの請求項1?3を全て引用する請求項4は、次のように書き改めることができる。
「(A)アルキル基の炭素数が4?18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび重合性マクロモノマーとともに、さらに極性基含有モノマー共重合して得られ、かつゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/多角度レーザー光散乱検出器(GPC-MALS)により測定される分岐度が0.55以下であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される重量平均分子量(Mw)が、20万?150万である(メタ)アクリル系共重合体
を含有する偏光板用粘着剤組成物であることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。」

そして、甲1の摘記1d([0127]の合成例9による共重合体I)には、上記の(メタ)アクリル系共重合体の具体例として、n-ブチルアクリレート96部、MMAマクロモノマーを3部、4-ヒドロキシブチルアクリレートを1部を共重合して得られるMw130万の(メタ)アクリル系共重合体Iが記載されており、同摘記1d([0140]の実施例9)において、共重合体Iが用いられているから、甲1には、「n-ブチルアクリレート96部、MMAマクロモノマーを3部、4-ヒドロキシブチルアクリレートを1部を共重合して得られるMw130万の(メタ)アクリル系共重合体を含有する偏光板用粘着剤組成物であることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。」(甲1発明)が記載されているといえる。

(3) 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「n-ブチルアクリレート」、「MMAマクロモノマー」、「4-ヒドロキシブチルアクリレート」、「Mw130万」はそれぞれ「(a1)アルキル(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位」、「重合性官能基を有するマクロモノマー由来の構成単位」、「ラジカル重合性官能基を複数個有しない(メタ)アクリル酸誘導体モノマーである官能基含有モノマー由来の構成単位」、「重量平均分子量が100万を超えて250万以下」にそれぞれ相当する。
また、「n-ブチルアクリレート」の含有量96部、「MMAマクロモノマー」の含有量3部、「ラジカル重合性官能基を複数個有しない(メタ)アクリル酸誘導体モノマーである官能基含有モノマー由来の構成単位」の含有量1部は、「n-ブチルアクリレート」と「MMAマクロモノマー」、「4-ヒドロキシブチルアクリレート」の合計量100部(100質量%)に対して、「9.9質量%以上99.9質量%以下」、「0.1質量%以上15質量%以下」、「0質量%以上20質量%以下」に相当するものである。
また、本件明細書【0172】には、光学フィルムが偏光板を含むと記載されているから、甲1発明の「偏光板」は本件発明1の「光学フィルム」に相当する。
また、(メタ)アクリル系共重合体Iのガラス転移温度(以下Tgとする。)は、n?ブチルアクリレートのTgを-45℃、4-ヒドロキシブチルアクリレートのTgを-40℃(本件明細書【0214】)、MMAマクロモノマーのTgを105℃とすると、FOXの式から-42.2℃であると計算される。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を含む、光学フィルム用粘着剤であって、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、
(a1)アルキル(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位 9.9質量%以上99.9質量%以下と;
(a2)重合性官能基を有するマクロモノマー由来の構成単位 0.1質量%以上15質量%以下と;
(a3)ラジカル重合性官能基を複数個有しない(メタ)アクリル酸誘導体モノマーである官能基含有モノマー由来の構成単位 0質量%以上20質量%以下と;
を含み、
前記(a1)、(a2)、(a3)および(a4)由来の構成単位の合計量が、100質量%であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体の、重量平均分子量が100万を超えて250万以下である、光学フィルム用粘着剤。」という点において一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本件発明1の「(メタ)アクリル酸エステル共重合体」が「ガラス転移温度が-70℃以上-57℃以下であるのに対して、甲1発明の(メタ)アクリル系ポリマーが「ガラス転移温度が-70℃以上-57℃以下」でない点

(4) 判断
上記相違点1について検討する。
甲1には、Tgを通常-70?0℃、好ましくは-60℃?30℃とすることによって、常温で粘着性に優れた粘着剤組成物を得ることができることは記載されているものの(摘記1c[0072])、特にTgを「-70℃以上-57℃以下」の範囲内とすることについては記載されていない。

また、本件明細書に記載される実施例と比較例(特に比較例2(Tg:-45.8℃)、比較例4(Tg:-40.1℃))を対比すると、「ガラス転移温度が-70℃以上-57℃以下であり、かつ、重量平均分子量が100万を超えて250万以下」とすることで種々の折り曲げ耐性(折り曲げ時の耐久性)が好ましいものとなるという効果に臨界的意義が認められるところ、甲1発明の解決しようとする課題は液晶セルの反り(ベンディング)を抑制でき、耐久性に優れた粘着剤層を形成することが可能な組成物を得ることであって(摘記1b)、本件発明の有する効果は、甲1には、記載も示唆もされていないから、甲1発明の有する効果とは、異質且つ顕著なものであると認められる。

(5) 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書で、甲1には、「(c1-1)(メタ)アクリル系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が-70?0℃」、「(c2-1)前記(メタ)アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が、20万?150万である。」ことが記載されており、甲1における(c1-1)、(c2-1)は、それぞれ、本件発明1における(C1)「ガラス転移温度が-70℃以上-57℃以下であり、かつ」、(C2)「重量平均分子量が100万を超えて250万以下である」ものに相当するため、甲1には、本件発明1が開示されていること、あるいは甲1に基づけば、本件発明1は容易に想到し得ると主張している(特許異議申立書(4-3)本件特許発明1?22と甲第1号証に記載の発明との対比)。
しかしながら、ガラス転移温度として甲1に記載された「-70?0℃」から特に「-70℃以上-57℃以下」を選択すること、重量平均分子量として「20万?150万」から特に「100万を超えて250万以下」を選択することは、いずれも記載されているとは認められず、共重合体を、「ガラス転移温度が-70℃以上-57℃以下であり、かつ、重量平均分子量が100万を超えて250万以下」とすることの動機付けも見当たらないから当業者が容易に想到し得るということはできない。
また、第4の1の(4)で判断したように、ガラス転移温度や重量平均分子量が、本件発明に規定の数値範囲を満足することで、種々の折り曲げ耐性(折り曲げ時の耐久性)が好ましいものとなるという効果は、引用発明に開示されない異質なものであり、出願時の技術常識から当業者が予測できたものでないと認められる。
してみれば、異議申立人の特許法第29条に関する主張は採用することができない。

(6) まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明であるとすることはできないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
同様に、本件発明1を引用する本件発明2?16、19は、甲1発明であるとすることはできないし、本件発明1を引用する本件発明2?22は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
したがって、本件発明1?16、19は、特許法第29条第1項第3号の発明に該当せず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではなく、本件発明1?22に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。

2 特許法第36条第6項第1号に係る申立理由について

本件発明の課題は、【0014】の記載から、「光学フィルム等に対する接着力に優れ、また、貼合したフィルムを変形させた状態で長時間保持または繰り返し折り曲げても剥がれや浮きが発生することがほとんどない、光学フィルム用粘着剤、粘着剤層、光学部材および画像表示装置を提供すること」であると認められる。
そして、本件明細書【0044】の「かようなモノマーを用いて重合した共重合体(A)が粘着剤に含まれることで、折り曲げ耐性が向上する。そのメカニズムは、マクロモノマーのポリマー鎖部分のガラス転移温度によって異なると考えられる。具体的には、ポリマー鎖部分のガラス転移温度が高い場合、ポリマー鎖部分が粘着剤中でハードなセグメントを形成することにより、粘着剤に凝集力が生まれる。これにより、基材への接着力が高まることで、折り曲げ耐性が向上すると考えられる。一方、マクロモノマーのポリマー鎖部分のガラス転移温度が低い場合、粘着剤が柔軟になり、基材への追従性が高まることで、折り曲げ耐性が向上すると考えられる。」との記載から、マクロモノマー((a2)成分)由来の構成単位によって、その含有量にかかわらず、粘着剤組成物の折り曲げ耐性が向上することが理解でき、本件明細書【表2】、【表3】に記載されるマクロモノマー由来の構成単位を含む共重合体を用いる実施例1とマクロモノマー由来の構成単位を含まない共重合体を用いる比較例3との対比などから、共重合体にマクロモノマー由来の構成単位が含まれていることにより折り曲げ耐性に差異が生じることは実施例において確認されていると認められる。

また、前記第3の3に記載したように、異議申立人は主張するものの、具体的な根拠は示されていない。

そうすると、本件特許に係る特許請求の範囲の記載が本件発明の課題を解決するものではない、ということはできず、申立人の特許法第36条第6項第1号に係る申立理由には、理由がなく、本件特許を特許法第113条第4項の規定により取り消すことはできない。

第5 むすび

したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論の通り決定する。


 
異議決定日 2020-10-06 
出願番号 特願2015-232022(P2015-232022)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09J)
P 1 651・ 113- Y (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男櫛引 智子  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 古妻 泰一
川端 修
登録日 2019-12-20 
登録番号 特許第6632350号(P6632350)
権利者 三星エスディアイ株式会社
発明の名称 光学フィルム用粘着剤、粘着剤層、光学部材および画像表示装置  
代理人 八田国際特許業務法人  

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