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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G08C
審判 全部申し立て 2項進歩性  G08C
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  G08C
審判 全部申し立て 1項1号公知  G08C
管理番号 1367007
異議申立番号 異議2020-700460  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-07 
確定日 2020-10-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第6628572号発明「防爆式の計測機器、及び、防爆式の計測機器における検知部の交換方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6628572号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6628572号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年11月18日に出願され、令和元年12月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年7月7日に特許異議申立人理研計器株式会社(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。


第2 本件発明
特許第6628572号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件特許発明1」などという。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1?5は次のとおり記載されている。

「【請求項1】
電源に接続される本体部を外部から遮断して収容する本体室と、前記本体部と電気的に接続される検知部を外部から遮断して収容する検知室と、を備える防爆式の計測機器であって、
前記電源からの前記本体部への通電は維持した状態で、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断する検知部遮断制御を実行可能な制御部を備える防爆式の計測機器。
【請求項2】
操作に応じて前記制御部に前記検知部遮断制御を実行させる操作部を備える請求項1に記載の防爆式の計測機器。
【請求項3】
前記制御部に前記検知部遮断制御を実行させる信号を受信可能な通信部を備える請求項1又は2に記載の防爆式の計測機器。
【請求項4】
前記本体室と前記検知室とは、それぞれ独立した防爆構造を有する請求項1?3のいずれか一項に記載の防爆式の計測機器。
【請求項5】
電源に接続される本体部を外部から遮断して収容する本体室と、前記本体部と電気的に接続される検知部を外部から遮断して収容する検知室と、を備える防爆式の計測機器における検知部の交換方法であって、
前記電源からの前記本体部への通電は維持するとともに、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断した状態で、前記検知室を開放し、前記検知部を交換する交換方法。」


第3 申立人が申し立てた取消理由の概要及び証拠方法

1 申立人が申し立てた取消理由の概要
(1)取消理由1-1?ア
請求項1、2、4の特許に係る「物」の発明は、甲第1号証から甲第5号証、甲第7号証および甲第8号証にて構成が特定され、甲第6号証、甲第8号証により、本件特許出願前に取引先に出荷(譲渡、販売)されていたと認められる「スマートタイプガス検知部 SD-1シリーズ」(以下「申立人実施製品」という。)と同一であり、特許法29条1項1号の本件特許出願前に公然知られた発明に該当する。したがって、請求項1、2、4に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものであるから、請求項1、2、4に係る特許は取り消すべきものである。

(2)取消理由1-1-イ
請求項5の特許に係る「方法」の発明は、申立人実施製品の出荷に伴うセンサ交換作業により、特許法29条1項1号の本件特許出願前に公然知られた発明に該当する。したがって、請求項5に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものであるから、請求項5に係る特許は取り消すべきものである。

(3)取消理由1-2-ア
請求項1、2、4の特許に係る「物」の発明は、本件特許出願前に出荷(譲渡、販売)された申立人実施製品と同一であり、特許法29条1項2号の本件特許出願前に公然実施された発明に該当する。したがって、請求項1、2、4に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものであるから、請求項1、2、4に係る特許は取り消すべきものである。

(4)取消理由1-2-イ
請求項5の特許に係る「方法」の発明は、申立人実施製品の出荷に伴うセンサ交換作業により、特許法29条1項2号の本件特許出願前に公然実施された発明に該当する。したがって、請求項5に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものであるから、請求項5に係る特許は取り消すべきものである。

(5)取消理由1-3
請求項1、2、4、5の特許に係る発明は、申立人実施製品から容易に想到することができたものであり、また、請求項3に係る発明は、申立人実施製品及び甲第9号証及び甲第10号証に示される周知技術に基づいて容易に想到できたものである。したがって、請求項1?5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、請求項1?5に係る特許は取り消すべきものである。

(6)取消理由2-1
請求項1、2、4、5の特許に係る発明は、甲第8号証に記載の発明と同一であるから、請求項1、2、4、5に係る特許は特許法29条1項3号に該当する。したがって、請求項1、2、4、5に係る特許は特許法29条1項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。

(7)取消理由2-2
請求項1、2、4、5の特許に係る発明は、甲第8号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3の特許に係る発明は、甲第8号証に記載の発明及び甲第9号証、甲第10号証及び甲第11号証に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項1?5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?5に係る特許は取り消すべきものである。

2 証拠方法

申立人は、上記取消理由の主張を裏付ける証拠として、次のものを挙げている。

(1)甲第1号証 「スマートタイプガス検知部 SD-1シリーズ カタログ」の写し、2013年7月、理研計器株式会社
(2)甲第1号証の1 「理研計器株式会社HP アーカイブスの印刷物」、2020年7月2日、彩都総合特許事務所
(3)甲第2号証 「メンテナンス資料型式SD-1(GP)」の写し、2010年6月28日、理研計器株式会社
(4)甲第3号証 「GPメイン基板(SD-1)回路設計図」の写し、2009年11月9日、理研計器株式会社
(5)甲第4号証 「内部詳細図(SD-1)」の写し、2012年11月14日、理研計器株式会社
(6)甲第5号証 「SD-1(TYPE GP)ソフトウェア機能書」の写し、2009年9月24日制定、理研計器株式会社
(7)甲第6号証 「出荷指図書(製品)」の写し、2014年8月26日発行、理研計器株式会社
(8)甲第7号証 「SD-1の動作を説明する写真」、2020年6月30日作成、理研計器株式会社
(9)甲第8号証 「理研計器株式会社信号変換器付ガス検知部 SD-1 取扱説明書(PT2-160)(PT2E-160)」の写し、2015年11月5日リリース、理研計器株式会社
(10)甲第8号証の1 「取扱説明書 更新履歴」の写し、2020年6月30日作成、理研計器株式会社
(11)甲第9号証 特開平10-143782号公報の写し、1998年5月29日公開
(12)甲第10号証 特開2007-241834号公報の写し、2007年9月20日公開
(13)甲第11号証 「理研計器株式会社信号変換器付ガス検知部 SD-1RI(TYPE HS) 取扱説明書(PT2-195)(PT2E-195)(INS-1907 Ver.5)」の写し、2015年8月28日リリース、理研計器株式会社
(14)甲第11号証の1 「取扱説明書 更新履歴」の写し、2020年7月6日作成、理研計器株式会社
(15)甲第11号証の2 「HART協会 登録証明書」の写し、2014年12月18日発行、HART協会
(16)甲第12号証 「Polytron 8000 取扱説明書 Edition 02」の写し、2012年10月、Draeger社(システム上の制約があるため、「a」のウムラウトを「ae」で表記した。)
(17)甲第13号証 「耐圧防爆型吸引式ガス検知部 SD-D58モデルカタログ」の写し、2015年9月発行、理研計器株式会社
(18)甲第13号証の1 「SD-D58シリーズ メンテナンス資料」の写し、2012年11月2日、理研計器株式会社
(19)甲第14号証 「ガス漏洩検知警報設備検査成績表および作業報告書」の写し、2013年4月25日作成、姫路SS
(20)甲第14号証の1 「センサ交換方法の証明」の写し、2020年7月7日作成、姫路SS井上友哲


第4 当審の判断

1 取消理由1-2-アについて(特許法29条1項2号、「物」の発明)
「物」の特許発明が、特許法29条1項2号、いわゆる、「公用発明」に該当するというためには、(1)当該特許発明の実施品に相当する物が、(2)守秘義務を有しない者が当該特許発明の内容を理解し得る態様で実施されたという、具体的事実が立証されることが必要である。そこで、以下では、申立人実施製品が、(1)本件特許発明1、2、4の実施品に相当することが特許異議申立人の提出した証拠で立証されているといえるか、及び、(2)守秘義務を有しない者が本件特許発明1、2、4の内容を理解し得る態様で実施されたことが特許異議申立人の提出した証拠で立証されているといえるかという点について、順次検討する。

(1)本件特許発明の実施品の相当性について
申立人は、甲第1号証から甲第5号証、甲第7号証及び甲第8号証で示される同一の形式「SD-1」で特定される製品が、甲第6号証、甲第8号証により本件特許出願前に取引先に出荷(譲渡、販売)されていたこと(以下「主張事実A」という。)、及び、出荷(譲渡、販売)されていた製品が本件特許発明1、2、4と同一の構成を有すること(以下「主張事実B」という。)を理由に、申立人実施製品は本件特許発明1、2、4の実施品に相当すると主張しているので、当該主張について以下検討する。

ア 主張事実Aについて
(ア)甲第6号証には、品番SD-1(TypeGP)の製品1台が、2014年8月27日に出荷されたことが示されている。しかしながら、当該出荷された製品が、甲第1号証から甲第5号証、甲第7号証及び甲第8号証によって構成が特定される製品と同一内容の製品であることについては立証されているとは認められない。以下理由を示す。
甲第8号証には、「SD-1」及び「取扱説明書」との記載があり、「SD-1」の取扱説明書であることが理解できる。しかし、申立人の説明によれば、甲第8号証の取扱説明書は2015年11月5日に変更リリースされている。申立人の主張には、2014年8月27日に出荷されたものに添付されていた取扱説明書と同一の内容の取扱説明書を証拠として提出していない不自然さが見られる。
この点も踏まえると、甲第1号証から甲第5号証、甲第8号証には、「SD-1」という表記がされており、品番SD-1の製品に関するものであるとはいえるが、一般に、製品の仕様・機能、特にソフトウェアについては、初期バージョンが販売された以降も適宜変更されることがあり得ることを考慮すると、上記甲第8号証の取扱説明書の改訂は、製品のバージョンアップに起因したものである可能性を否定することはできない。
したがって、同じ「SD-1」という品番の表記であるという事実だけでは、2014年8月27日に販売された品番SD-1(TypeGP)の製品が、甲第1号証から甲第5号証、甲第7号証及び甲第8号証に示されたのと同じ構成を有する製品であることまでは、経験則に照らして全証拠を総合検討した結果、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものである程度に十分に立証されているとは認められない。
(イ)申立人は、甲第8号証は申立人実施製品の販売に際して添付される取扱説明書であり、申立人実施製品が本件特許出願前に販売されたことを示す証拠であると主張しているので、次にこの点について検討する。
甲第8号証の第1頁右上には「PT2-1605」と記載されており、甲第8号証の1に示されている表には、取扱Noが「PT2-160」で、リビジョンが「5」のものが、状態が「リリース」で、状態設定日時が2015年11月5日であることが示されており、申立人は、甲第8号証の1は、申立人の社内システムで管理されている取扱説明書の変更履歴の一覧であると主張する。
しかし、当該主張において、「リリース」の意味する内容が不明であるが、その点は置いておくとしても、当該主張から、甲第8号証の取扱説明書が本件特許の出願日である平成27年11月18日よりも前に販売された製品に実際に添付されていた事実は認められない。もし甲第8号証の取扱説明書が添付された製品が販売されていたならば、当該製品の販売を示す、甲6号証に相当する証拠が提出されていないことは不自然である。
以上のとおり、甲第8号証で示す取扱説明書があるからといって、本件特許の出願日である平成27年11月18日よりも前に実際に製品に添付された事実があったかどうかについては不明の域を出ないと言わざるを得ない。

(ウ)上記「(ア)」及び「(イ)」で検討したとおり、主張事実Aについては、申立人が提出した証拠のみからでは立証できるとは認められない。


イ 主張事実Bについて
上記「ア」の「(ア)」で検討したとおり、甲第6号証で示された申立人実施製品が、甲第1号証から甲第5号証、甲第7号証及び甲第8号証にて構成が特定される製品と同一内容の製品であることについては十分に立証されておらず、かつ上記各甲号証で特定される構成の全てが当該製品に搭載されていたとの立証も十分にされていないが、仮にそれらが立証されたと仮定して(以下「前提条件A」という。)、出荷(譲渡、販売)されていた製品が本件特許発明1、2、4と同一の構成を有し、本件特許発明1、2、4の実施品に相当するか否かの点について検討する。

(ア)各甲号証から読み取れる技術事項
甲第1号証及び甲第1-1号証には、申立人実施製品が耐圧防爆構造のガス検知部であることが開示されている。
甲第2号証の第2?3頁には、環境設定詳細として、モード「No.2-4.0」の項目が「センサ電源ON/OFF」であること、及び、センサ交換を行う場合にヒータ電圧の調整を行うことが示されている。特に、第3頁には、メンテナンスモードの「2-4.0」を選択し、「on」が表示されたら、AL/SETキーを押すと、「PoFF」表示となることが示されている。
甲第3号証には、SD-1のメイン基板の回路図が示されており、CN1という回路とIC11という回路が接続関係にあることが見て取れる。ただし、CN1がセンサであり、IC11が電源回路であることまでは読み取れない。
甲第4号証には、SD-1の内部詳細図であって、SD-1の外観と各断面図が示されている。
甲第5号証は、SD-1のソフトウェア機能書であって、「2-4 環境設定」の「2-4.0 センサ交換」の項目には、「SET」キーを押すとセンサ電源をOFFして「PoFF」表示となること、「PoFF」表示中にセンサ交換を行うことが示されている。
甲第7号証は、センサの電源オフ操作を行ったときのセンサ電圧の遷移をテスタで測定したときの実機写真であり、PoFF状態のときに、テスタの測定値が0Vであることが示されている。ただし、甲第7号証において実機写真とされている実機について、外観が「SD-1」と似ているとまではいえたとしても、「SD-1」であることは立証されていない。
甲第8号証について、第1頁にはSD-1の取扱説明書であること、第7頁には、「MENU/ESCキー」、「SETキー」、「▲キー」、「▼キー」がSD-1に備えられており、メンテナンスモードへの切替えや、メンテナンスモード時の操作を行うのに用いること、第20頁には、メンテナンスモードの各種環境設定の一つとして、「2-4-0 センサ電源ON/OFF」があることが記載されている。また、第35頁には、「2-4-0」について「工場出荷時に予め設定されますので、通常お客様においては使用しません。」と記載されており、第38頁には、「<センサの交換> 弊社サービス員によるセンサ交換及びガス校正が必要になります。弊社営業部までお問合せ下さい。」と記載されている。そして、第41頁の使用一覧から、SD-1が「耐圧防爆構造」であることが読み取れる。


(イ)以上を総合すると、前提条件Aが立証され、かつ、甲第7号証において実機写真とされている実機が「SD-1」であることが立証されたならば、上記各甲号証からみて、申立人実施製品(SD-1)について、以下の事項が認められる。

・申立人実施製品が、耐圧防爆構造を有するガス検知部であること。
・申立人実施製品に備えられている各種キーにより、センサ電源をオフする機能が搭載されていること。
・センサ交換作業は、センサ電源をOFFして「PoFF」表示として、「PoFF」表示中に行われること。

また、上記事項から、センサ電源をOFFして「PoFF」表示を行っており、表示を行うには本体部の電源はONである必要があるから、申立人実施製品は「電源からの前記本体部への通電は維持した状態で」、電源と「前記検知部との間の電気的接続を遮断する検知部遮断制御を実行可能な制御部」を有していることが認められる。
しかしながら、電源と検知部との間の電気的接続の遮断について、本件特許発明1、2、4では、「前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断」しているのに対し、申立人実施製品では、電源と検知部との間の遮断が、本体部と検知部との間の電気的接続の遮断によって行われているか不明な点で相違している。
以上検討のとおり、本件特許発明1、2、4と申立人実施製品は、構成上同一であることについて十分に立証されているとはいえず、申立人実施製品は本件特許発明1、2、4の実施品に相当するという主張について十分に立証されているとは認められない。したがって、主張事実Bは認めることができない。


ウ 本件特許発明1、2、4の実施品の相当性についてのまとめ
以上検討のとおり、申立人の主張事実A及び主張事実Bはいずれも認められず、申立人実施製品は本件特許発明1、2、4の実施品に相当するという主張について十分に立証されているとは認められないから、これら事実の存在は認められない。


(2)公然実施について
次に、仮に申立人実施製品が本件特許発明の実施品に相当するとしたとして、当該実施品が、守秘義務を有しない者が本件特許発明1、2、4の内容を理解し得る態様で実施されていたか否かについて検討する。
本件特許発明1、2、4が共通に備える構成のうち、「前記電源からの前記本体部への通電は維持した状態で、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断する検知部遮断制御を実行可能な制御部を備える」という構成は、申立人実施製品を外部から観察するだけでは理解することができない。
通常、特許発明の実施品に相当する物が不特定多数の者に販売等された場合には、外部から観察するだけでは製品の技術内容を理解することができない場合であっても、リバースエンジニアリング等により発明の内容を理解し得るから、当該特許発明は公然知られうる状況で実施された発明に相当するということはできる。
しかしながら、甲第6号証によると、このとき販売された数量は1つであり、分解・分析を行えば使用不能になるから、このような状況では、一つしかない製品を実際に購入しかつ使用する者がリバースエンジニアリング等を行うことは期待できない。さらに、甲第8号証によれば、センサ交換などのメンテナンス作業がサービス員によるものとされており、当該販売が分解・分析を許容する契約によるものであったか否かも判然としない。したがって、甲第6号証で示される当該製品の販売・譲渡の事実から、本件特許発明の内容が直ちに知られ得る状況にあったとは認められない。
進んで、申立人実施製品を購入した顧客が使用することにより、本件特許発明の内容を知り得る状況にあったのか否かについて検討する。甲8号証38頁には「弊社サービス員によるセンサ交換及びガス校正が必要になります。」と記載されていることから、申立人実施製品におけるセンサ交換作業は、申立人のサービス員により行われることが理解される。また、甲第14号証には、2013年4月25日に、申立人実施製品のセンサ交換を、バイオガス供給設備、ボイラー室にて行ったことが示されており、さらに甲第14号証の1によると、姫路SSの井上友哲さんが本体電源の通電を維持したままセンサへ供給する電源を遮断してセンサ交換作業を実施した事実があることが主張されており、申立人実施製品において行うセンサ交換作業は、申立人と同一視し得る申立人の関連会社のサービス員により行われるものであることが理解される(ただし、作業者本人の署名又は押印がないので、その成立性は必ずしも十分に立証されてはいない。)。そして、上記「イ 主張事実Bについて」において示したとおり、「2-4-0 センサ電源ON/OFF」の設定は、工場出荷時に予め行われるもので、顧客が行うものではないことも併せて考慮すれば、顧客が、センサ電源をOFFとし、センサ交換作業を行うようなことはなかったと認められる。また、顧客が操作によりたまたまセンサ電源をOFFするようなことがあったとしても、センサ電源をOFFとする際、表示部には「PoFF」と表示されるのみであるから、この表示のみから、申立人実施製品が、「前記電源からの前記本体部への通電は維持した状態で、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断する検知部遮断制御を実行可能な制御部」を有していることを、顧客が知り得ることは考えにくい。
なお、センサ交換作業を行ったサービス員である、姫路SSの井上友哲さんが、申立人実施製品のうち本件特許発明1の内容について、具体的に説明を行ったという事実は認められないし、当該作業が、顧客の従業員が立ち会うなどして、申立人実施製品が特許発明1の内容を備えることを顧客が知り得る状況で行われていたことを示す事実も確認できない。

以上を総合すると、仮に、申立人実施製品が本件特許発明1、2、4の実施品に相当するものであったとしても、「前記電源からの前記本体部への通電は維持した状態で、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断する検知部遮断制御を実行可能な制御部を備える」という構成は、守秘義務を有しない者が理解し得る状況で実施されていたということはできないから、本件特許発明1、2、4は、本件特許出願前に公然に実施された発明に該当するとはいえない。

(3)取消理由1-2-アについてのまとめ
以上検討したとおり、申立人実施製品は、本件特許発明1、2、4の実施品に相当するものであるということはできず、また、仮にこれが立証されたとしても、守秘義務を有しない者が本件特許発明1、2、4の内容を理解し得る態様で実施されていたということはできない。
したがって、本件特許発明1、2、4は、特許法29条1項2号の本件特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえないから、請求項1、2、4に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものではない。


2 取消理由1-2-イについて(特許法29条1項2号、「方法」の発明)
上記「1」の「(2)」で示したように、申立人実施製品において行うセンサ交換作業は、申立人の関連会社のサービス員により行われるものであるから、申立人実施製品を使用している者が「前記電源からの前記本体部への通電は維持するとともに、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断した状態で、前記検知室を開放し、前記検知部を交換する」という作業は行っていないし、通常の使用によりこのような方法を知り得る状況にあったとは認められない。
甲第14号証及び甲第14号証の1により、井上友哲さんが、実際に本体電源は通電を維持したまま、センサへ供給する電源を遮断してセンサの交換をした事実があることは推認できるものの、このような作業が、顧客の従業員などが立ち会うなどして、守秘義務を有しない者がその技術内容を理解し得る状況で行われたことを示す事実は確認できない。
また、実際に本体電源は通電を維持したまま、センサへ供給する電源を遮断してセンサの交換をした事実に関する証拠が1件しかなく、このような方法が多数回行われ、不特定の者が知り得る状況で実施されたことは主張も立証もされていないことから、このような方法での交換は実際には非常に少ないのではないかとも推測できる。
以上総合するに、「前記電源からの前記本体部への通電は維持するとともに、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断した状態で、前記検知室を開放し、前記検知部を交換する」という方法が、本件特許の出願前に公然知られうる状況で実施された事実の存在は、申立人が提出した証拠だけでは立証できるとはいえない。したがって、本件特許発明5は、特許法29条1項2号の本件特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえないから、請求項5に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものではない。


3 取消理由1-1について(特許法29条1項1号)
上記「1」及び「2」において検討したとおり、申立人が提示する各甲号証からは、守秘義務を有しない者が知り得るような態様で実施が行われておらず、その他、具体的に本件特許発明1、2、4、5に相当する内容について守秘義務を有しない者が実際に知ったという事実の主張もされていない以上、本件特許発明1、2、4、5が特許法29条1項1号に該当するとは認められない。
なお、甲第5号証には、2009年9月24日に制定されたソフトウェア機能書であること、センサ電源をオフしてから交換作業を行うことが示されているが、各頁右上には「機密情報/Confidential」と記載されており、当該資料の内容が対外的に秘密のものであることを認識している社員限りの資料であったと認められる。また、甲第14号証及び甲第14号証の1において、センサ交換を行った者は、上記「1」の「(2)」において示したとおり、申立人と同一視し得る関連会社の社員であり、申立人に対して守秘義務を有する者であると考えるのが自然である。したがって、本件特許発明1、2、4、5がこれらの者に知られていたとしても、これらの発明は公然知られた発明には該当しない。
したがって、本件特許発明1、2、4、5は、特許法29条1項1号の本件特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明であるとはいえないから、請求項1、2、4、5に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものではない。


4 取消理由1-3について(特許法29条2項)
上述のとおり、「電源からの本体部への通電は維持した状態で、本体部と検知部との間の電気的接続を遮断する検知部遮断制御を実行可能な制御部を備える」という構成、及び、「電源からの本体部への通電は維持した状態で、本体部と検知部との間の電気的接続を遮断する」という構成は、本件特許出願前に、公然知られた発明又は公然実施された発明(を構成する一部の構成)となっておらず、この点について容易に想到し得たという理由もほかに存在しないから、本件特許発明1、2、4、5は、29条1項1号及び2号に掲げる発明から容易に想到することができたものであるとは認められない。


5 取消理由2-1について(特許法29条1項3号)
(1)甲第8号証に係る文書の本件特許出願前の公知刊行物該当性について
甲第8号証の取扱説明書が本件特許出願前に公知の刊行物であったかどうかについては、甲第8号証の第1頁右上には「PT2-1605」と記載されており、甲第8号証の1に示されている表には、取扱Noが「PT2-160」で、リビジョンが「5」のものが、状態が「リリース」で、状態設定日時が2015年11月5日であることが示されており、申立人は、甲第8号証の1は、申立人の社内システムで管理されている取扱説明書の変更履歴の一覧であると主張するが、甲第8号証の1が、取扱説明書の変更履歴の一覧であることを裏付ける証拠が何も示されていないし、仮にそうであったとしても、リリースが、守秘義務を有しない者に頒布されたことを意味するとの根拠について何も示していない。
さらに、甲第8号証の第53頁のCE適合証明書の一番下の日付が、CEマークを2015年7月31日に貼付したことを示すものであるとしても、貼付した事実は、甲第8号証の取扱説明書が2015年11月5日に守秘義務のない者に頒布されたことを示すものとはいえない。
そして、甲第8号証の取扱説明書が製品の本件特許出願前の販売に際して顧客に譲渡された事実は認められない。
以上のとおりであるから、甲第8号証が、本件特許出願前に頒布された刊行物であったとは、認められない。

(2)甲第8号証に係る文書に記載された発明と本件特許発明1、2、4、5の相違点について
仮に、甲第8号証が本件特許出願前に頒布された刊行物であったとしても、甲第8号証の第20、29頁には、メンテナンスモードとして、センサ電源をON/OFFするモードがあることが記載されているのみで、センサ電源をOFFするという記載から、本体の通電は維持したままセンサ電源をOFFにするという事項は読み取れるとしても、上記「イ 主張事実Bについて」において示したとおり、本件特許発明1、5の「前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断」する点までは読み取れない。したがって、甲第8号証には、本件特許発明1、2、4、5の構成の全てが記載されているとは認められない。

(3)取消理由2-1について(特許法29条1項3号)のまとめ
以上検討のとおり、甲第8号証は、本件特許出願前に頒布された刊行物とはいえないし、仮に本件特許出願前に頒布された刊行物であったとしても、本件特許発明1、2、4、5と甲第8号証に記載の発明とは同一であるとはいえない。したがって、請求項1、2、4、5に係る特許は、理由2-1に基づいては特許法29条1項3号に該当するとはいえず、同法29条1項の規定に違反してされたものであるとは認められない。

(4)甲第1号証、甲第1号証の1、及び甲第11?13号証について
甲第1号証、甲第1号証の1、甲第11?13号証について、申立人は、29条1項3号の主引用例とした場合の取消理由を有するとの主張はしていないが、念のために以下検討する。なお、甲第2?5号証、甲第13号証の1については、「機密情報/Confidential」と記載されているように、対外的に秘密の内容であると認識している社員限りの資料であると認められ、公衆に対し頒布により公開することを目的とする刊行物に該当しないことから検討対象から除外する。

甲第1号証は「スマートタイプガス検知部 SD-1シリーズ カタログ」の写しであるところ、第4頁の右下に「PC2-0341-130730」との表示があり、申立人はこの表示は、甲第1号証のカタログを2013年7月に3000部印刷したことを示すものであると主張する。しかしながら、「130730」が2013年7月に3000部印刷したことを示すことについて客観的には何も立証されていないから、当該主張は採用できない。また、甲第1号証からは、SD-1が耐圧防爆構造であること、センサ部と表示部の箇所が示された外観図については見て取れるが、「電源からの前記本体部への通電は維持した状態で、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断する」構成については何も示されていない。
甲第1号証の1は、申立人のHPにおいて、遅くとも2011年1月4日までに、SD-1という製品が、可燃性ガスを検知対象とすること、耐圧防爆構造であること、ガスリークによる爆発防止を用途とすることについて、当該製品の画像と一緒に、掲載されたことを開示するものと認められる。また、SD-1の製品カタログのPDFファイルへのリンクも掲載されており、当該カタログが本件特許出願前に存在していたことが認められる。しかしながら、HPで掲載された内容は、上記のものにとどまり、リンク先のカタログの内容についても証拠としては提示されておらず、「電源からの前記本体部への通電は維持した状態で、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断する」構成については何も示されていない。
甲第11号証は「理研計器株式会社信号変換器付ガス検知部 SD-1RI(TYPE HS) 取扱説明書(PT2-195)(PT2E-195)(INS-1907 Ver.5)」の写しであり、第1頁右上には「PT2-2230」と記載されており、甲第11号証の1に示されている表には、取扱Noが「PT2-223」で、リビジョンが「0」のものが、状態が「リリース」で、状態設定日時が2015年8月28日であることが示されていること、第41頁に添付されているCE適合証明書のCEマークの貼付日付が2015年4月20日であることを申立人は主張しているが、これらの事実は、本件特許出願前に頒布された刊行物であることを示すものとはいえないことは、甲第8号証において検討したとおりである。また、甲第11号証の2は、HART協会によるSD-1シリーズ(SD-1RI)の登録証明書であり、SD-1シリーズがHARTプロトコルを使用した通信を行えることが2014年12月18日付けで、HART協会により承認されたものを示すものであるが、その事実が、甲第11号証の取扱説明書が、2014年12月18日に守秘義務のない者に頒布された刊行物であったことを示すものではない。そして、仮に本件特許出願前に守秘義務のない者に頒布された刊行物であったとしても、甲第11号証には、甲第8号証と同様、「電源からの前記本体部への通電は維持した状態で、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断する」構成については何も示されていない。
甲第12号証については、第29頁には、「The sensor can be replaced in the hazardous, classified area, without interrupting the power supply.」と記載されているが、この記載から読み取れるのは、電源供給を中断することなく、センサが交換可能であることのみであり、本体部と検知部との間の電気的接続が遮断されているかどうかまでは示されていない。また、甲第12号証のその他の箇所の記載をみても、当該構成についてはみあたらない。
甲第13号証の「耐圧防爆型吸引式ガス検知部 SD-D58モデルカタログ」の写しについては、第1頁の中央下に「PC2-0353-150950」との表示があり、申立人はこの表示は、甲第13号証のカタログを2015年9月に印刷したことを示すものであると主張する。しかしながら、「1509」が2015年9月に印刷したことを示すことについては何も立証されていないから、当該主張は採用できない。また、甲第13号証からは、SD-D58が耐圧防爆構造であること、表示部等の箇所が示された外観図については見て取れるが、「電源からの前記本体部への通電は維持した状態で、前記本体部と前記検知部との間の電気的接続を遮断する」構成については何も示されていない。

以上のとおり、甲第1、11、13号証は本件特許出願前に公知の刊行物であったとは認められないし、本件特許発明1、2、4、5は、甲第1号証、甲第1号証の1、甲第11?13号証に記載された発明と同一でない。


6 取消理由2-2について(特許法29条2項)
上述のとおり、甲第8号証は本件特許出願前に頒布された刊行物であるとは認められず、29条1項3号に掲げる特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に該当しない。したがって、「電源からの本体部への通電は維持した状態で、本体部と検知部との間の電気的接続を遮断する検知部遮断制御を実行可能な制御部を備える」という構成、及び、「電源からの本体部への通電は維持した状態で、本体部と検知部との間の電気的接続を遮断する」という構成は、本件特許出願前に頒布された刊行物には記載されておらず、この点について容易に想到し得たという理由もほかに存在しないから、本件特許発明1?5は容易に想到することができたものであるとは認められない。


第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。




 
異議決定日 2020-10-12 
出願番号 特願2015-225576(P2015-225576)
審決分類 P 1 651・ 111- Y (G08C)
P 1 651・ 113- Y (G08C)
P 1 651・ 121- Y (G08C)
P 1 651・ 112- Y (G08C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 卓弥  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱本 禎広
岡田 吉美
登録日 2019-12-13 
登録番号 特許第6628572号(P6628572)
権利者 新コスモス電機株式会社
発明の名称 防爆式の計測機器、及び、防爆式の計測機器における検知部の交換方法  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 佐原 雅史  
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