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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1367008
異議申立番号 異議2020-700212  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-25 
確定日 2020-10-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第6581659号発明「カメラモジュール用液晶性樹脂組成物及びそれを用いたカメラモジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6581659号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6581659号(請求項の数4。以下、「本件特許」という。)は、2016年(平成28年)8月10日(優先権主張 平成27年9月1日)を国際出願日とする出願に係る特許であって、令和1年9月6日に設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は同年9月25日である。)。
その後、令和2年3月25日に、本件特許の請求項1?4に係る特許に対して、特許異議申立人である森田弘潤(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
請求項1?4に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項1?4に係る発明を、順に「本件発明1」等という。)。
「【請求項1】
(A)液晶性樹脂、
(B)繊維状ウォラストナイト、
(C)エポキシ基含有共重合体、及び
(D)板状充填剤
を含有し、
(A)成分の含有量が62?70質量%、(B)成分の含有量が2.5?25質量%、(C)成分の含有量が1.0?4.5質量%、(D)成分の含有量が10?30質量%、(B)成分と(D)成分との合計の含有量が20?35質量%であるカメラモジュール用液晶性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)エポキシ基含有共重合体は、(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体及び(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物からなるカメラモジュール用部品。
【請求項4】
請求項3に記載の部品を備えるカメラモジュール。」

第3 特許異議申立ての申立理由
請求項1?4に係る発明は、下記1?3のとおりの取消理由があるから、本件特許の請求項1?4に係る特許は、特許法第113条第2号又は第4号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、下記5の甲第1号証?甲第10号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出する。

1 申立理由1(明確性要件)
本件発明1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
本件発明1?4の「繊維状ウォラストナイト」は、「アスペクト比、即ち、平均繊維長/平均繊維径の値が8以上であるウォラストナイト」(【0030】)であるが、「平均繊維径」及びその「平均」という用語の意味が明確でないから、本件発明1?4は不明確である。

2 申立理由2(サポート要件)
本件発明1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
(1)申立理由2-1
実施例1?5及び比較例1?10は、その実験の条件がほとんど揃えられておらず、様々な要素が同時に変更されているから、具体的に何がどの効果に繋がっているのか、全く理解することができない(申立書19頁10行?25頁8行)。
(2)申立理由2-2
実施例及び比較例で用いられる「(C)エポキシ基含有共重合体」は、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の1例であり、その含有量は2質量%と4質量%のみであるから、本件発明1の「(C)エポキシ基含有共重合体」という規定、及び「(C)成分の含有量が1.0?4.5質量%」は、本件明細書の記載と比較して明らかに広範である。(申立書25頁9行?31頁末行)
(3)申立理由2-3
ア 「(B)繊維状ウォラストナイト」に関して、繊維状ウォラストナイトを用いた実施例4と球状ウォラストナイトを用いた比較例7を比べても本件発明の課題に対してどちらが優れているか不明である。(申立書32頁1?16行)
イ 比較例7で用いられた粒状ウォラストナイトの算出したアスペクト比は10(平均繊維長50μm/平均繊維径5μm)であり、繊維状ウォラストナイトに分類されるものである。(申立書32頁17?24行)
ウ 【0030】には、「上記アスペクト比は、成形体表面の起毛抑制効果等の観点から・・・より好ましくは15?20である」と記載されているが、実施例で用いられる繊維状ウォラストナイトはアスペクト比17のもののみであり、「繊維状ウォラストナイト」の「平均繊維長/平均繊維径の比が8以上」という規定は本件明細書の記載と比較して明らかに広範である。(申立書32頁25行?36頁19行)

3 申立理由3(甲1を主引用文献とする進歩性違反)
請求項1?4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲1に記載された発明、甲1?甲10に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4 申立理由4(甲2を主引用文献とする進歩性違反)
請求項1?4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲2に記載された発明、甲1?甲10に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

5 証拠方法
甲1:国際公開第2014/076971号公報
甲2:国際公開第2014/087842号公報
甲3:関西マテック株式会社のウェブサイト、“ウォラストナイトについて”、[online]、[2020年3月15日出力]、インターネット、

甲4:ウィキペディアのウェブサイト、“三斜晶系”、[online]、
[2020年3月24日出力]、インターネット、

甲5:巴工業株式会社のウェブサイト、“米国産ウォラストナイト(ワラストナイト) [和名:珪灰石]”、[online]、[2020年3月16日出力]、インターネット、

甲6:特開2001-106923号公報
甲7:特開昭63-146959号公報
甲8:特開2009-242453号公報
甲9:特開2008-291234号公報
甲10:特開2015-108037号公報

第4 本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項
発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
1 「【0002】
ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)は、機械的性質や耐薬品性に優れることに加え、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートなどの一般的なポリエステルに比べて熱変形温度が高い。そのため、耐熱性の要求される電気・電子機器部品、自動車部品および機械部品などの用途に対して展開が期待されている。
【0003】
しかしながら、PCTは成形時に重合度が低下しやすいことから、機械物性が短時間の成形滞留で低下しやすく、成形材料としては実用化が困難であった。また、PCTは靭性が低いために脆く、製品使用上に問題が発生する懸念があった。」

2 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らの検討では、特許文献1に記載されるカメラモジュール用液晶性樹脂組成物では成形体表面の起毛抑制が不十分であり、より一層、成形体表面が起毛しにくい成形体を製造するためのカメラモジュール用液晶性樹脂組成物が求められる。
【0008】
また、本発明者らの検討によれば、従来のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物を成形して、レンズホルダー等の成形体を製造した場合、そり変形が大きく、カメラモジュール組み立て時に不具合をきたすことがあった。
【0009】
更に、近年、カメラモジュールを搭載するとともに、非接触型ICカードと同等の機能を搭載した携帯電話が普及している。このような携帯電話は、情報の読み取り及び書き込みの際、非接触型読み取り機にかざされる。その際、上記携帯電話が強い力で非接触型読み取り機に衝突する場合があるため、上記携帯電話中のカメラモジュールが不具合を来しにくいよう、機械強度が高い成形体を製造するためのカメラモジュール用液晶性樹脂組成物が求められる。
【0010】
加えて、カメラモジュールの加工時及び使用時の不具合を生じにくくする観点から、耐熱性に優れる成形体を製造するためのカメラモジュール用液晶性樹脂組成物が求められる。
【0011】
そのほかに、カメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、成形性の観点から、溶融時の流動性が高いことが求められる。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、表面が起毛しにくく、そり変形が抑制され、機械強度が高く、耐熱性に優れるカメラモジュール用部品を製造するために用いられ、溶融時の流動性が高いカメラモジュール用液晶性樹脂組成物を提供することにある。」

3 「【0018】
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、溶融時の流動性が高く、この組成物を原料として、カメラモジュール用部品を製造すれば、表面が起毛しにくく、そり変形が抑制され、機械強度が高く、耐熱性に優れるカメラモジュール用部品が得られる。」

4 「【0022】
[(A)液晶性樹脂]
本発明で使用する(A)液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0023】
上記のような(A)液晶性樹脂の種類としては特に限定されず、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル及び/又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。(A)液晶性樹脂としては、60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、更に好ましくは2.0?10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが好ましく使用される。
【0024】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドは、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、及び芳香族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する繰り返し単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
【0025】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0026】
本発明に適用できる(A)液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p-アミノフェノール、p-フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】

(X:アルキレン(C_(1)?C_(4))、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO_(2)-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である)
【化2】

【化3】

(Y:-(CH_(2))n-(n=1?4)及び-O(CH_(2))_(n)O-(n=1?4)より選ばれる基である。)
・・・
【0029】
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物において、(A)液晶性樹脂の含有量は、55?95.5質量%である。(A)成分の含有量が55質量%以上であれば流動性、成形体表面の起毛抑制という理由で好ましく、(A)成分の含有量が95.5質量%以下であれば耐熱性という理由で好ましい。また、(A)成分の好ましい含有量は、60?80質量%であり、(A)成分のより好ましい含有量は、62?70質量%である。」

5 「【0030】
[(B)繊維状ウォラストナイト]
本明細書において、(B)繊維状ウォラストナイトとは、アスペクト比、即ち、平均繊維長/平均繊維径の値が8以上であるウォラストナイトをいう。上記アスペクト比は、成形体表面の起毛抑制効果等の観点から、好ましくは10?25であり、より好ましくは15?20である。なお、本明細書において、アスペクト比が8未満であるウォラストナイトを粒状ウォラストナイトという。
【0031】
(B)繊維状ウォラストナイトとしては、特に限定されず、例えば、公知の繊維状ウォラストナイトを用いることができる。(B)繊維状ウォラストナイトは、1種単独で使用してもよく、アスペクト比、平均繊維長、平均繊維径等が異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
(B)繊維状ウォラストナイトの平均繊維径は好ましくは3.0?50μmであり、より好ましい平均繊維径は4.5?40μmである。上記平均繊維径が3.0μm以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度及び荷重たわみ温度が確保されやすい。上記平均繊維径が50μm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。なお、本明細書において、平均繊維径としては、実体顕微鏡画像をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により測定された値を採用する。
【0033】
(B)繊維状ウォラストナイトの平均繊維長は好ましくは30?800μmであり、より好ましい平均繊維長は50?600μmである。上記平均繊維長が30μm以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度及び荷重たわみ温度が確保されやすい。上記平均繊維長が800μm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。なお、本明細書において、平均繊維長としては、実体顕微鏡画像をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により測定された値を採用する。
【0034】
(B)成分の含有量は、本発明のカメラモジュール用液晶性組成物において、2.5?25質量%である。(B)成分の含有量が2.5質量%以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度及び荷重たわみ温度が確保されやすい。(B)成分の含有量が25質量%以下であると、組成物の溶融時の流動性が向上しやすく、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすく、成形体のそり変形抑制効果が高くなりやすい。より好ましい上記含有量は5?20質量%である。」

6 「【0035】
[(C)エポキシ基含有共重合体]
(C)エポキシ基含有共重合体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。(C)エポキシ基含有共重合体としては、特に限定されず、例えば、(C1)エポキシ基含有オレフィン系共重合体及び(C2)エポキシ基含有スチレン系共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。(C)成分をカメラモジュール用液晶性樹脂組成物に配合させることが、当該組成物を成形してなる成形体を超音波洗浄したときの、成形体表面の起毛を抑えることに寄与する。
起毛を抑える理由については明確になっているわけではないが、ある一定量配合させることにより、成形体表面状態を変化させ、その変化が起毛を抑えることに寄与していると考えられる。
・・・
【0047】
(C)エポキシ基含有共重合体の含有量は、本発明のカメラモジュール用樹脂組成物において、1.0?4.5質量%である。(C)成分の含有量が1.0質量%以上であることは、成形体表面の起毛抑制の点で必要であり、4.5質量%以下であることは流動性を損なわず、良好な成形体を得るという理由で必要である。より好ましい上記含有量は2.0?4.0質量%である。」

7 「【0048】
[(D)板状充填剤]
(D)板状充填剤は、平均粒子径が20?50μmであることが好ましい。上記平均粒子径が20μm以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度及び荷重たわみ温度が確保されやすく、成形体のそり変形抑制効果が高くなりやすい。上記平均粒子径が50μm以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。好ましい上記平均粒子径は23?30μmである。なお、本明細書において、平均粒子径としては、レーザ回折/散乱式粒度分布測定法で測定した値を採用する。
【0049】
(D)板状充填剤としては、特に限定されず、例えば、マイカ、タルク、ガラスフレーク、黒鉛、各種の金属箔(例えば、アルミ箔、鉄箔、銅箔)等が挙げられる。(D)成分として2種以上を用いてもよい。本発明においては(D)成分として、マイカ及びタルクを使用することが好ましく、マイカを使用することがより好ましい。
【0050】
(D)成分の含有量は、本発明のカメラモジュール用液晶性組成物において、10?35質量%である。(D)成分の含有量が10質量%以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度及び荷重たわみ温度が確保されやすく、成形体のそり変形抑制効果が高くなりやすい。(D)成分の含有量が35質量%以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。好ましい上記含有量は15?30質量%である。
【0051】
更に、(B)成分と(D)成分との合計の含有量は、本発明のカメラモジュール用液晶性組成物において、20?37.5質量%であり、好ましくは25?35質量%である。上記合計の含有量が20質量%以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度及び荷重たわみ温度が確保されやすい。上記合計の含有量が37.5質量%以下であると、組成物の溶融時の流動性が向上しやすく、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすく、成形体の耐衝撃性が高くなりやすい。」

8 「【0059】
上記のようにして得られた本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、溶融粘度が50Pa・sec未満であることが好ましい。溶融時の流動性が高く、成形性に優れる点も本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物の特徴の一つである。本明細書において、溶融粘度としては、液晶性樹脂の融点よりも10?20℃高いシリンダー温度、せん断速度1000sec^(-1)の条件で、ISO 11443に準拠した測定方法で得られた値を採用する。
【0060】
本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物は、荷重たわみ温度が240℃以上であることが好ましい。耐熱性に優れる点も本発明のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物の特徴の一つである。なお、荷重たわみ温度はISO 75-1,2に準拠した方法で測定された値を採用する。」

9 「【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0074】
<液晶性樹脂>
・液晶性ポリエステルアミド樹脂
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に340℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で2時間の熱処理を行って、目的のポリマーを得た。得られたポリマーの融点は334℃、溶融粘度は14.0Pa・sであった。なお、上記ポリマーの溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
(I)4-ヒドロキシ安息香酸;188.4g(60モル%)
(II)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸;21.4g(5モル%)
(III)テレフタル酸;66.8g(17.7モル%)
(IV)4,4’-ジヒドロキシビフェニル;52.2g(12.3モル%)
(V)4-アセトキシアミノフェノール;17.2g(5モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);15mg
アシル化剤(無水酢酸);226.2g
【0075】
<液晶性樹脂以外の材料>
・繊維状ウォラストナイト:NYGLOS 8(NYCO Materials社製、アスペクト比17、平均繊維長136μm、平均繊維径8μm)
・粒状ウォラストナイト:NYAD 325(NYCO Materials社製、アスペクト比5、平均繊維長50μm、平均繊維径5μm)
・ガラス繊維:PF70E-001(日東紡(株)製、ミルドファイバー、平均繊維径10μm、平均繊維長70μm)
・エポキシ基含有オレフィン系共重合体:ボンドファースト2C(住友化学(株)製、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、グリシジルメタクリレートの含有量6質量%)
・エポキシ基不含有共重合体:タフテックM1913(旭化成(株)製、無水マレイン酸
変性水添スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体)
・板状充填剤1:AB-25S((株)山口雲母工業製、マイカ、平均粒子径24μm)
・板状充填剤2:クラウンタルクPP(松村産業(株)製、タルク、平均粒子径12.8μm、平均アスペクト比6)
・カーボンブラック:VULCAN XC305(キャボットジャパン(株)製、平均粒子径20nm、粒子径50μm以上の粒子の割合が20ppm以下)
【0076】
<カメラモジュール用液晶性樹脂組成物の製造>
上記成分を、表1又は表2に示す割合で二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて、シリンダー温度350℃にて溶融混練し、カメラモジュール用液晶性樹脂組成物ペレットを得た。
【0077】
<溶融粘度>
実施例及び比較例のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物の溶融粘度を、上記ペレットを用いて測定した。具体的には、キャピラリー式レオメーター(東洋精機製キャピログラフ1D:ピストン径10mm)により、シリンダー温度350℃、せん断速度1000sec^(-1)の条件での見かけの溶融粘度をISO 11443に準拠して測定した。測定には、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いた。結果を表1及び表2に示す。
【0078】
<荷重たわみ温度>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、測定用試験片(4mm×10mm×80mm)を得た。この試験片を用いて、ISO 75-1,2に準拠した方法で荷重たわみ温度を測定した。なお、曲げ応力としては、1.8MPaを用いた。結果を表1及び表2に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 80℃
背圧: 2.0MPa
射出速度: 33mm/sec
【0079】
<曲げ試験>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、130mm×13mm×0.8mmの曲げ試験片を作製した。この試験片を用いて、ASTM D790に準拠し、曲げ強度、曲げ弾性率、及び破断歪を測定した。結果を表1及び表2に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 90℃
射出速度: 33mm/sec
保圧: 50MPa
【0080】
<シャルピー衝撃試験>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で測定用試験片(4mm×10mm×80mm)に成形した。この試験片を用いて、ISO 179-1に準拠した方法でシャルピー衝撃強度を測定した。結果を表1及び表2に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 80℃
背圧: 2.0MPa
射出速度: 33mm/sec
【0081】
<平面度>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE-100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×80mm×1mmの平板状試験片を5枚作製した。1枚目の平板状試験片を水平面に静置し、(株)ミツトヨ製のCNC画像測定機(型式:QVBHU404-PRO1F)を用いて、上記平板状試験片上の9箇所において、上記水平面からの高さを測定し、得られた測定値から平均の高さを算出した。高さを測定した位置は、平板状試験片の主平面上に、この主平面の各辺からの距離が3mmとなるように、一辺が74mmの正方形を置いたときに、この正方形の各頂点、この正方形の各辺の中点、及びこの正方形の2本の対角線の交点に該当する位置である。上記水平面からの高さが上記平均の高さと同一であり、上記水平面と平行な面を基準面とした。上記9箇所で測定された高さの中から、基準面からの最大高さと最小高さとを選択し、両者の差を算出した。同様にして、他の4枚の平板状試験片についても上記の差を算出し、得られた5個の値を平均して、平面度の値とした。結果を表1及び表2に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 80℃
射出速度: 33mm/sec
保圧: 60MPa
【0082】
<ダスト発生数>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業社製 「SE30DUZ」)を用いて、以下の成形条件で成形し、12.5mm×120mm×0.8mmの成形体を得た。この成形体を試験片として使用した。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 90℃
射出速度: 80mm/sec
〔評価〕
上記試験片を3分間、室温の水中で超音波洗浄機(出力300W、周波数45kHz)にかけた。その後、パーティクルカウンター(RION(株)製 液中微粒子計数器KL-11A(PARTICLECOUNTER))にて、上記水中に存在する2μm以上の粒子数を測定し、ダスト発生数として評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
表1及び表2に記載の結果から明らかなように、実施例のペレットを用いて製造した成形体は、超音波洗浄してもダストの発生数が少ないことが確認された。また、上記成形体は、平面度の数値が小さかった。これらの結果から、実施例のペレットを成形してなる成形体は、比較例等の通常の液晶性樹脂組成物ペレットを成形してなる成形体と比較して、表面状態が大きく異なり、そり変形が抑制されているといえる。
【0086】
また、実施例のペレットを用いて製造した成形体は、耐熱性に優れることが確認された。
【0087】
更に、実施例のペレットを用いて製造した成形体は、曲げ強度、耐衝撃性等の機械強度が高いことが確認された。よって、実施例のペレットを成形することで、機械強度が高く、具体的には、例えば、非接触型読み取り機等との衝突の際の衝撃や駆動の衝撃によって割れてしまう不具合が起こりにくいカメラモジュール用部品を製造することができる。
【0088】
加えて、実施例のペレットは、溶融時の流動性が高く、成形性に優れることが確認された。」

第5 甲号証に記載された事項
1 甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(1)「[請求項16] 融点もしくはガラス転移温度が250℃以上であるポリエステル樹脂(A)と、
オレフィン由来の構造単位、α、β-不飽和カルボン酸エステル由来の構造単位および環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位を有する共重合体(C)と、を含む、摺動部材用ポリエステル樹脂組成物。
[請求項17] カーボンブラック(G)および繊維状の無機充填材(D)の少なくとも一つをさらに含む、請求項16に記載の摺動部材用ポリエステル樹脂組成物。
[請求項18] 前記ポリエステル樹脂(A)30?80質量部と、
前記共重合体(C)0.5?5質量部と、
前記カーボンブラック(G)0.5?5質量部と、
前記繊維状の無機充填材(D)20?50質量部と、を含む(ただし、(A)、(C)、(G)および(D)の合計は100質量部である)、請求項16に記載の摺動部材用ポリエステル樹脂組成物。
[請求項19] 前記ポリエステル樹脂(A)が、
テレフタル酸から誘導されるジカルボン酸成分単位30?100モル%と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位0?70モル%を含むジカルボン酸成分単位(a1)と、
炭素原子数4?20の脂環族ジアルコール成分単位を含むジアルコール成分単位(a2)と、を含む、請求項16に記載の摺動部材用ポリエステル樹脂組成物。
[請求項20] 前記ポリエステル樹脂(A)に含まれるジアルコール成分単位(a2)が、シクロヘキサン骨格を有する成分単位を含む、請求項19に記載の摺動部材用ポリエステル樹脂組成物。
[請求項21] オレフィン由来の構造単位および芳香族炭化水素構造を有し、かつデカリン中135℃で測定した極限粘度[η]が0.04?1.0dl/gである熱可塑性樹脂(B)をさらに含む、請求項17に記載の摺動部材用ポリエステル樹脂組成物。
[請求項22] 前記熱可塑性樹脂(B)を0.1?10質量部含む(ただし、(A)、(C)、(G)および(D)の合計は100質量部である)、請求項21に記載の摺動部材用ポリエステル樹脂組成物。
[請求項23] 前記繊維状の無機充填材(D)が、ワラストナイトおよびチタン酸カルシウムから選ばれる少なくとも一種類である、請求項16に記載の摺動部材用ポリエステル樹脂組成物。
[請求項24] 前記共重合体(C)が、エチレン・メチルアクリレート・グリシジルメタクリレート共重合体である、請求項16に記載の摺動部材用ポリエステル樹脂組成物。
[請求項25] 請求項16に記載の摺動部材用ポリエステル樹脂組成物を含むカメラモジュール」

(2)「[0002] ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)は、機械的性質や耐薬品性に優れることに加え、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートなどの一般的なポリエステルに比べて熱変形温度が高い。そのため、耐熱性の要求される電気・電子機器部品、自動車部品および機械部品などの用途に対して展開が期待されている。
[0003] しかしながら、PCTは成形時に重合度が低下しやすいことから、機械物性が短時間の成形滞留で低下しやすく、成形材料としては実用化が困難であった。また、PCTは靭性が低いために脆く、製品使用上に問題が発生する懸念があった。」

(3)「[0011] しかしながら、本発明者らが検討したところ、PCTに対して、上記特許文献1?3などで示される公知の多官能官能基を有する化合物の添加技術を用いたいずれの方法も改善すべき課題が残されていた。即ち、樹脂組成物(コンパウンド)の調製段階や成形段階において、分岐構造を持ったポリマーが生成され過ぎたり、分岐反応が起こりにくい状態が経時的に繰り返されたりして、良好な成形性(流動性など)を有し、かつ良好な機械特性(強度や靱性など)を有する成形物を得ることが可能な、物性バランスに優れた樹脂組成物が得られない傾向があった。従って、ポリエステル樹脂の機械特性の向上と成形性の向上を図ることが求められている。
[0012] また、PCTは溶融張力が低いために、UL規格おいて規定される燃焼試験において、樹脂の溶融によるドリップが発生しやすかった。それにより、V-2になる場合があり、V-0規格を安定して達成できない場合があった。一方で、特許文献2などで報告されている多官能エポキシ基を有する化合物を添加する方法では、ドリップなどの難燃性に対する詳細な開示がなく、多官能エポキシ基を有する化合物がPCTの難燃性に及ぼす影響については未知であった。従って、ポリエステル樹脂の機械特性の向上と成形性の向上に加えて、さらに難燃性の向上を図ることが求められている。
[0013] ・・・
[0014] 一方で、液晶性樹脂からなる構成部品を超音波洗浄すると、フィブリル化が生じてしまうことから、パーティクルの発生が顕著となり大きな問題となっている。粉の脱落は該部材を組み込んだ製品の使用中にも生じるおそれがあり、同様に大きな問題として捉えられている。
[0015]・・・
[0016] 近年では、さらなる処理画素数の増大に応えるべく、バレルやホルダに益々高い寸法安定性が求められている。そのため、従来の液晶性樹脂や半芳香族ポリアミドでは、それら要求に対応できないという問題がある。
[0017]・・・
[0018] 本発明者らの検討でも、従来の液晶性樹脂組成物ではパーティクルの発生が問題となり、長鎖ジアミンを用いた半芳香族ポリアミドでは、寸法安定性(特に、吸湿に伴う寸法変化)が十分でなく、さらなる向上が必要であることがわかった。
[0019] 本発明の目的は、ポリエステル樹脂の機械特性と成形性の向上を図ることであり、好ましくはさらに難燃性の向上を図ることである。また、本発明の他の目的は、特に耐熱性と低パーティクル性に優れ、しかも寸法安定性(特に、吸湿に伴う寸法変化)が極めて良好な、カメラモジュール部材などの摺動部材に成形可能な熱可塑性樹脂組成物とそれを含むカメラモジュールなどの摺動構造を有する部品を提供することである。」

(4)「[0028] 1-1.ポリエステル樹脂(A)
ポリエステル樹脂(A)は、芳香族ジカルボン酸由来の成分単位を含むジカルボン酸成分単位(a1)と、脂環状骨格を有するジアルコール由来の成分単位を含むジアルコール成分単位(a2)とを有する構造であることが好ましい。」

(5)「[0041] ポリエステル樹脂(A)は、溶融液晶性を示さないポリエステル樹脂でありうる。溶融液晶性とは、溶融相において光学異方性(液晶性)を示す特性をいう。液晶性ポリマーの成形物はフィブリル化しやすく、パーティクルのような微細粒子を発生させやすいおそれがある。一方で、溶融液晶性を示さないポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物は、成形物のフィブリル化が抑制され、パーティクルのような微細粒子の発生も抑制されうる。
[0042] また、ポリエステル樹脂組成物は、必要に応じて、複数の物性の異なるポリエステル樹脂(A)を含んでいてもよい。また、本発明の目的の範囲内であれば、他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
[0043] 本発明のポリエステル樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)、共重合体(C)および無機充填材(D)の合計量100質量部に対して30?85質量部であることが好ましく、30?80質量部であることがより好ましい。ポリエステル樹脂(A)の含有率が上述の上限値と下限値の範囲内であれば、成形性を損なうことなく、はんだリフロー工程に耐え得る耐熱性に優れた樹脂組成物を得ることができるからである。
[0044] また、本発明のポリエステル樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)、共重合体(C)、カーボンブラック(G)および無機充填材(D)の合計量100質量部に対して30?80質量部であることが好ましく、35?75質量部であることがより好ましい。」

(6)「[0045] 1-2.共重合体(C)
共重合体(C)は、オレフィン由来の構造単位と、α,β-不飽和カルボン酸エステル由来の構造単位と、環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位とを有する共重合体である。共重合体(C)は、非液晶性ポリエステル樹脂(A)の末端基であるヒドロキシル基もしくはカルボニル基と反応して、ポリエステル樹脂(A)の分子量の低下を抑制する。したがって、樹脂組成物の靱性の向上を図れるエラストマーであれば特に制限なく用いることができる。」

(7)「[0081] 1-4.無機充填材(D)
無機充填材(D)は、公知の無機充填材を用いることができる。具体的には、繊維状、粉状、粒状、板状、針状、クロス状またはマット状であり、かつ高いアスペクト比を有する無機充填材を用いることが好ましい。具体的には、ガラス繊維、カルボニル構造を有する無機化合物(例えば、炭酸カルシウムなどの炭酸塩のウィスカーなど)、ハイドロタルサイト、チタン酸カリウム等のチタン酸塩、ワラストナイト、ゾノトライト、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、セピオライト、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバー、カットファイバーなどを挙げることができる。これらのうちの1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
[0082] なかでも、繊維状の無機充填材(繊維状強化材ともいう)が好ましく、その例には、ガラス繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、セピオライト、ゾノトライト、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバー、カットファイバーなどが含まれる。
・・・
[0084] また、ポリエステル樹脂組成物の成形物の表面平滑性を高める観点では、繊維状の無機充填材は、好ましくはワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカーからなる群から選ばれる少なくとも1種でありうる。ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカーは、繊維径が比較的小さいためである。成形物の表面平滑性を高めるためには、使用する繊維状の無機充填材のサイズを可能な限り小さくすることが好ましく、特に繊維径が小さいことが望ましい。成形物の表面平滑性を悪化させる要因の一つに、樹脂成分と繊維状の無機充填材の収縮率差が挙げられ、繊維状の無機充填材の繊維径が小さければ、表面平滑性は損なわれ難い傾向を示す。成形物の表面平滑性が高いポリエステル樹脂組成物は、例えば後述するようなカメラモジュール用ポリエステル樹脂組成物として好適である。
[0085] 無機充填材(D)の平均長さは、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは300μm以下、特に好ましくは100μm以下、最も好ましくは50μm以下である。例えば、当該平均長さが300μm以下であると、本発明のポリエステル樹脂組成物の成形物の寸法安定性が高まりやすく、寸法変化の異方性が低く、表面平滑性が高まりやすい。また、当該樹脂組成物をカメラモジュール用ポリエステル樹脂組成物として用いた場合に、成形物からのパーティクルの発生が抑制される。無機充填材(D)の平均長さの下限値に特に制限はないが、好ましくは0.1μmであり、より好ましくは10μmでありうる。
・・・
[0087] 無機充填材(D)のアスペクト比(L平均繊維長/D平均繊維径)は、1?500であることが好ましく、10?350であることがより好ましく、1?100であることがさらに好ましく、5?70であることが特に好ましい。このような範囲にある無機充填材を使用すると、成形物の強度の向上や線膨張係数の低下などの面で好ましい。
[0088] 無機充填材(D)は、異なる長さや異なるアスペクト比を有する二種以上の無機充填材を組み合わせて用いてもよい。
[0089] 長さやアスペクト比が相対的に大きい無機充填材(DL)として、具体的には、前述のガラス繊維、ワラストナイト(珪酸カルシウム)等の珪酸塩、チタン酸カリウムウィスカーなどのチタン酸塩等を挙げることができる。これらの中でもガラス繊維が好ましい。」

(8)「[0094] 本発明のポリエステル樹脂組成物における無機充填材(D)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)、共重合体(C)および無機充填材(D)の合計量100質量部に対して、1?50質量部であることが好ましく、10?50質量部であることがより好ましい。無機充填材(D)の含有量が上述の下限値以上であれば、射出成形時やはんだリフロー工程で成形物が変形することが無くなる傾向があるからである。また上述の上限値以下であれば、成形性および外観が良好な成形品を得ることができるからである。
[0095] 本発明のポリエステル樹脂組成物における繊維状の無機充填材(D)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)、共重合体(C)、カーボンブラック(G)および繊維状の無機充填材(D)の合計量100質量部に対して、20?50質量部の範囲内であり、25?45質量部の範囲内であることが好ましい。樹脂組成物のリフロー耐熱性を高め、成形物の低異方性を改善することができる。また、成形物の表面を平滑にし、低埃性を改善する。
[0096] 本発明のポリエステル樹脂組成物が無機充填材(D)をさらに含むことで、成形物の機械的強度や耐熱性を高めることができる。さらに、長さやアスペクト比が異なる無機充填材(DL)と無機充填材(DS)を組み合わせるとベースポリマーへの無機充填材の分散性が改良され、またベースポリマーと無機充填材との親和性が向上することにより、耐熱性、機械強度などを効率的に向上させると考えられる。」

(9)「実施例
・・・
[0126] ポリエステル樹脂(A)
(ポリエステル樹脂(A)の製造)
ジメチルテレフタレート106.2部、1,4-シクロヘキサンジメタノール(シス/トランス比:30/70)94.6部にテトラブチルチタネート0.0037部を加え、150℃から300℃まで3時間30分かけて昇温して、エステル交換反応をさせた。
[0127] 前記エステル交換反応終了時に、1,4-シクロヘキサンジメタノールに溶解した酢酸マグネシウム・四水塩0.066部を加えて、引き続きテトラブチルチタネート0.1027部を導入して重縮合反応を行った。重縮合反応は、常圧から1Torrまで85分かけて徐々に減圧し、同時に所定の重合温度300℃まで昇温し、温度と圧力を保持した。所定の撹拌トルクに到達した時点で反応を終了して、生成した重合体を取り出した。さらに、得られた重合体を260℃、1Torr以下で3時間固相重合を行なった。得られた重合体(ポリエステル樹脂(A))の[η]は0.6dl/g、融点は290℃であった。」

(10)「[0130] 熱可塑性樹脂(B)
・・・
(B2)低分子量熱可塑性樹脂:公知の固体状チタン触媒成分で得られたエチレン重合体系ワックスとスチレンとの混合物を、公知のラジカル発生剤の存在下に反応させて、以下の低分子量熱可塑性樹脂(B2)を得た。
デカリン中135℃で測定した粘度 :0.11dl/g
140℃での溶融粘度 :1,200mPs・s
スチレン単位含有率 :20質量%
・・・
[0131] 共重合体(C)
エチレン・メチルアクリレート・グリシジルメタクリレート共重合体(アルケマ社製 ロタダーAX8900)
[0132] 無機充填材(D)
・・・
無機充填材(D2):ワラストナイト(NYCO社製 NYGLOS 4W)」

(11)「[0153] (実施例12)
ポリエステル樹脂(A1)、共重合体(B)、カーボンブラック(G)、繊維状の無機充填材(D)、熱可塑性樹脂(E)を、表3に示す割合でタンブラーブレンダーを用いて混合した。混合物を、二軸押出機(株)日本製鋼所製 TEX30αにてシリンダー温度を樹脂の融点より15℃高い温度で原料を溶融混錬後、ストランド状に押出し、水槽で冷却後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状組成物を得た。すなわち良好なコンパウンド性を示した。」

(12)「[表3]



2 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
(A)液晶性樹脂、
(B1)繊維状非導電性充填剤及び(B2)非繊維状非導電性充填剤から選択される少なくとも1種の(B)非導電性充填剤、
(C1)オレフィン系共重合体及び(C2)スチレン系共重合体から選択される少なくとも1種の(C)共重合体、並びに
(D1)繊維状導電性充填剤及び(D2)非繊維状導電性充填剤からなる(D)導電性充填剤
を含有し、
(A)成分の含有量が55?91質量%、(B)成分の含有量が5?20質量%、(C)成分の含有量が2?10質量%、(D1)成分の含有量が1?5質量%、(D2)成分の含有量が1?15質量%であり、
前記(B1)繊維状非導電性充填剤は、平均繊維径が1.0μm以下、且つ平均繊維長が5?50μmであり、
前記(B2)非繊維状非導電性充填剤は、平均粒子径が50μm以下の、板状充填剤及び粒状充填剤から選択される少なくとも1種であり、
前記(C1)オレフィン系共重合体は、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとから構成され、
前記(C2)スチレン系共重合体は、スチレン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとから構成され、
前記(D1)繊維状導電性充填剤は、平均繊維長が50μm以上であり、
前記(D2)非繊維状導電性充填剤は、平均粒子径が20nm?50μmの、板状充填剤及び粒状充填剤から選択される少なくとも1種であり、
体積抵抗率が1×10^(4)?1×10^(14)Ω・cmであるカメラモジュール用液晶性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物からなるカメラモジュール用部品。」

(2)「発明が解決しようとする課題
[0007] しかし、本発明者らの検討では、特許文献1に記載されるカメラモジュール用液晶性樹脂組成物では成形体表面の起毛抑制が不十分であり、より一層、成形体表面が起毛しにくい成形体を製造するためのカメラモジュール用液晶性樹脂組成物が求められる。
[0008] ところで、カメラモジュールにおいて、レンズホルダーは、レンズホルダーに巻かれたコイルが発生する磁力とコイルの周囲に配置された永久磁石との作用によって、レンズホルダーの台座となるガイド上を上下することで、レンズの焦点を合わせる。ここで、通常、レンズホルダーは、液晶性樹脂を含む材料から構成されているのに対し、ガイドは、液晶性樹脂以外の樹脂、例えば、ナイロンを含む材料から構成されている。このように、通常、レンズホルダーとガイドは異種材料から構成されているため、レンズホルダーがガイド上を上下する際に静電気が発生しやすく、レンズホルダーの動作不良の原因となっている。
[0009] 本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、表面が起毛しにくく、帯電しにくいカメラモジュール用部品を製造するための、カメラモジュール用液晶性樹脂組成物を提供することにある。」

(3)「[0021] 本発明に適用できる(A)液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドは、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、及び芳香族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する繰り返し単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
[0022] より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。」

(4)「[0027]
・・・
[0030] 以上の形状を満足する繊維状非導電性充填剤であれば、何れの繊維を用いることもできるが、(B1)繊維状非導電性充填剤としては、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維等の無機質繊維状物質が挙げられる。(B1)成分として2種以上の繊維状非導電性充填剤を用いてもよい。本発明においては(B1)成分として、チタン酸カリウム繊維を使用することが好ましい。
・・・
[0032] 以上の形状を満足する非繊維状非導電性充填剤であれば、何れの充填剤を用いることができるが、板状充填剤としては、タルク、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。また、粒状充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイト等の硅酸塩;酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩;炭化硅素;窒化硅素;窒化硼素等が挙げられる。(B2)成分として2種以上を用いてもよい。本発明においては(B2)成分として、板状充填剤のタルク、マイカ、粒状充填剤のシリカを使用することが好ましく、板状充填剤のタルク、マイカを使用することがより好ましい。
[0033] (B)成分の含有量(上記(B1)成分の含有量と、上記(B2)成分の含有量との合計)は、本発明のカメラモジュール用液晶性組成物において、5?20質量%である。(B)成分の含有量が5質量%以上であると、カメラモジュールとして必要な機械強度、荷重たわみ温度が確保されやすく、20質量%以下であると、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすい。より好ましい上記含有量は10?20質量%である。」

(5)「[0047] [(D)導電性充填剤]
・・・
[0055] (D2)非繊維状導電性充填剤は、平均粒子径が20nm?50μmの、板状充填剤及び粒状充填剤から選択される少なくとも1種である。上記平均粒子径が20nm以上であることは、流動性の低下を抑制する点で必要である。上記平均粒子径が50μm以下であることは、表面の平滑性の悪化を抑制する点で必要である。
[0056] 以上の形状を満足する非繊維状導電性充填剤であれば、何れの充填剤を用いることができるが、板状充填剤としては、黒鉛、板状金属粉(例えば、アルミ、鉄、銅)等が挙げられる。また、粒状充填剤としては、カーボンブラック、粒状金属粉(例えば、アルミ、鉄、銅)、粒状導電性セラミックス(例えば、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムスズ)等が挙げられる。(D2)成分として2種以上を用いてもよい。本発明においては(D2)成分として、黒鉛、カーボンブラックを使用することが好ましい。
[0057] (D2)成分が黒鉛である場合、平均粒子径は5?50μmであることが好ましく、厚みは0.5?10μmであることが好ましい。 (D2)成分がカーボンブラックである場合、平均粒子径は20?100nmであることが好ましい。
[0058] (D2)成分の含有量は、本発明のカメラモジュール用樹脂組成物において、1?15質量%である。(D2)成分の含有量が1質量%以上であることは、導電性のばらつきを抑え、安定した帯電防止性を発現させる点で必要であり、15質量%以下であることは、流動性の低下を抑制する点で必要である。より好ましい上記含有量は2?10質量%である。」

(6)「実施例
[0079] 以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
[0080]<材料>
・液晶性樹脂(液晶性ポリエステルアミド樹脂):ベクトラ(登録商標)E950i(ポリプラスチックス(株)製)
・オレフィン系共重合体:住友化学(株)製 ボンドファースト2C(エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(グリシジルメタクリレートを6質量%含有))
・繊維状導電性充填剤:東邦テナックス(株)製 HTC432(PAN系炭素繊維、平均繊維径10μm、平均繊維長6mm)
・非繊維状導電性充填剤1:日本黒鉛工業(株)製 CP(黒鉛、平均粒子径10μm、板状)
・非繊維状導電性充填剤2:キャボットジャパン(株)製 VULCAN XC305(カーボンブラック、平均粒子径20nm、粒状)
・繊維状非導電性充填剤:大塚化学(株)製 ティスモN-102(チタン酸カリウム繊維、平均繊維径0.3?0.6μm、平均繊維長10?20μm)
・非繊維状非導電性充填剤:松村産業(株)製 クラウンタルクPP(タルク、平均粒子径12.8μm、平均アスペクト比6、板状)
[0081]<カメラモジュール用液晶性樹脂組成物の製造>
上記成分を、表1に示す割合で二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて、シリンダー温度350℃にて溶融混練し、カメラモジュール用液晶性樹脂組成物ペレットを得た。
[0082]<溶融粘度>
実施例及び比較例のカメラモジュール用液晶性樹脂組成物の溶融粘度を、上記ペレットを用いて測定した。具体的には、キャピラリー式レオメーター(東洋精機製キャピログラフ1D:ピストン径10mm)により、シリンダー温度350℃、せん断速度1000sec^(-1)の条件での見かけの溶融粘度をISO 11443に準拠して測定した。測定には、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いた。結果を表1に示す。
[0083]<曲げ試験>
上記ペレットから130mm×13mm×0.8mmの曲げ試験片を作製し、これを用いて、ASTM D790に準拠し、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。結果を表1に示す。
[0084]<荷重たわみ温度>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業社製 「SE100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、測定用試験片(4mm×10mm×80mm)を得た。その後、ISO 75-1,2に準拠した方法で荷重たわみ温度を測定した。なお、曲げ応力としては、1.8MPaを用いた。結果を表1に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 80℃
背圧: 2.0MPa
射出速度: 33mm/sec
[0085]<体積抵抗率>
φ100mm×3mmtの平板試験片を用い、ASTM D257に準拠して、体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
[0086]<成形体表面の起毛状態(表面起毛抑制効果)の評価>
実施例及び比較例のペレットを、成形機(住友重機械工業社製 「SE30DUZ」)を用いて、以下の成形条件で成形し、12.5mm×120mm×0.8mmの成形体を得た。この成形体を半分に切断したものを試験片として使用した。
〔成形条件〕
シリンダー温度: 350℃
金型温度: 90℃
射出速度: 80mm/sec
〔評価〕
半分に切断した成形体を3分間、室温の水中で超音波洗浄機(出力300W、周波数45kHz)にかけた。その後、超音波洗浄機にかける前後の成形体を比較して、成形体表面の毛羽立った部分の面積(起毛面積)を画像測定器((株)ニレコ製LUZEXFS)にて評価した。なお、評価面積は750mm^(2)(12.5mm×60mm)であり、上記評価面積に対する上記起毛面積の割合(%)を結果として用いた。結果を表1に示す。
起毛面積が少ないほど、起毛抑制効果が高い評価となる。
[0087][表1]



3 甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「ウォラストナイトの一般的物性 General Property of Wollastonite

真比重 2.80?2.95
融点(℃) 約1500℃
硬度 4.5?5.0
結晶系 三斜晶系
・・・
アスペクト比 3?20」

4 甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
「結晶系は、3つのベクトルで表現できる。三斜晶系では、直方晶系のように異なる長さのベクトルで表される。さらに、互いに直交するベクトルはない。14個のブラベー格子の中で最も対称性が低いものであり、全ての格子が持つ最小限の対称性のみ持つ。」

5 甲5に記載された事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
「代表分析表
GRADE 繊維長 繊維径 アスペクト比
[μm] [μm] [L/D]
・・・
NYAD 325 50 10 5
・・・
NYAD 1250 9 3 3
NYGLOS 4W 50 4.5 11
・・・」

6 甲6に記載された事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 液晶性ポリマー(A) 100 重量部に、下記の式(1) 及び(2) を満足し、平均粒子径が0.5 ?100 μm である板状充填材(B) を5?100 重量部配合してなる液晶性ポリマー組成物。
D/W≦5 (1)
3≦W/H≦200 (2)
[但し、Dは板状充填材(B) の最大粒子径であり、その方向をx方向とする。Wはx方向と直角方向(y方向)の粒子径である。Hはxy面に垂直なz方向の粒子厚である。]
【請求項2】 更に平均繊維径5?20μm 且つ平均アスペクト比15以上の繊維状充填材(C) を液晶性ポリマー(A) 100 重量部に対し5?100 重量部配合してなる請求項1記載の液晶性ポリマー組成物。」

(2)「【0003】
【課題を解決するための手段】本発明者等は上記問題点に鑑み、低そり性に関し優れた特性を有する素材について鋭意探索、検討を行ったところ、液晶性ポリマーに特定の板状充填材を特定量配合することにより、機械的性質を大きく低下させることなく低そり性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(3)「【0008】本発明に適用できる液晶性ポリマー(A) としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0009】より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくととと1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミドなどが挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。」

(4)「【0014】本発明で用いる板状充填材(B) は、下記の式(1) 及び(2) を満足することを必要とする。即ち、2方向への広がりを持ち、残りの1方向へは広がりを持たない円盤状、方形板状、短冊状、不定形板状であるようなものを指す。その平均粒子径が0.5 ?100 μm である。
【0015】D/W≦5 (1)
3≦W/H≦200 (2)
[但し、Dは板状充填材(B) の最大粒子径であり、その方向をx方向とする。Wはx方向と直角方向(y方向)の粒子径である。Hはxy面に垂直なz方向の粒子厚である。]
このような板状充填材としては、具体的には、タルク、マイカ、カオリン、クレー、グラファイト、バーミキュライト、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、長石粉、酸性白土、ロウ石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、ガラスフレーク、スレート粉、シラン等の珪酸塩、炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、バライト粉、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム等の硫酸塩、水和アルミナ等の水酸化物、アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、酸化チタン、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土等の酸化物、二硫化モリブデン等の硫化物、板状のウォラストナイト、金属粉粒体等の材質からなるものである。
・・・
【0018】また、機械特性を向上させるために、更に平均繊維径5?20μm 且つ平均アスペクト比15以上の繊維状充填材(C) を含有させることもできる。
【0019】繊維状充填材(C) としては、ガラス繊維、炭素ミルドファイバー、繊維状のウォラストナイト、ウィスカー、金属繊維、無機系繊維および鉱石系繊維等が使用可能である。炭素ミルドファイバーとしては、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系、ピッチを原料とするピッチ系繊維が用いられる。」

7 甲7に記載された事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
(1)「1 異方性溶融相を形成しうる溶融加工性ポリエステル99.5?30重量%と板状粉体0.5?70重量%とを構成要素とすることを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物。
2 板状粉体がマイカ、ガラス、セリサイト、タルク、カオリナイト、パイロフィライト、グラファイト及び金属からなる群より選ばれる1種又は2種以上の板状粉体である特許請求の範囲第1項記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
3 板状粉体と共に繊維状物質が配合されている特許請求の範囲第1項記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。」(特許請求の範囲第1項?第3項)

(2)「〔問題点を解決するための手段〕
本発明者らは、新規に開発された異方性溶融相を形成しうる溶融加工性ポリエステル(以下「液晶性ポリエステル」と略す)の成形収縮現象について種々検討した結果、液晶性ポリエステルは他の樹脂に比して成形収縮は小さいが、その高強度、高剛性を生かす精密成形品の場合には、成形収縮率の異方性が大きく無視し得ないことを見出した。そこで本発明者等は別物質の配合の面からその解決を検討し、板状粉体が液晶性ポリエステルの分子配向するのを抑える効果を有し、その他の物性面からも最も釣合いのとれた充填剤あることを見出し、中でも繊維状物質を板状粉体と併用すれば強度と変形の両面で物性のバランスの良い成形品が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。」(第2頁左下欄9行?同頁右下欄4行)

(3)「本発明で使用する液晶性ポリエステルは、溶融加工性ポリエステルで、溶融状態でポリマー分子鎖が規則的な平行配列をとる性質を有している。分子がこのように配列した状態をしばしば液晶状態または液晶性物質のネマチック相という。このようなポリマー分子は、一般に細長く、偏平で、分子の長軸に沿ってかなり剛性が高く、普通は同軸または平行のいずれかの関係にある複数の連鎖伸長結合を有しているようなポリマーからなる。
異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージにのせた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。上記ポリマーは光学的に異方性である。すなわち、直交偏光子の間で検査したときに光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、たとえ静止状態であっても偏光は透過する。
上記の如き異方性溶融相を形成するポリマーの構成成分としては
1○(当審注:丸付き数字) 芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸の1つまたはそれ以上からなるもの
2○ 芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールの1つまたはそれ以上からなるもの
3○ 芳香族ヒドロキシカルボン酸の1つまたはそれ以上からなるもの
4○ 芳香族チオールカルボン酸の1つまたはそれ以上からなるもの
5○ 芳香族ジチオール、芳香族チオールフェノールの1つまたはそれ以上からなるもの
6○ 芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの1つまたはそれ以上からなるもの
等から選ばれ、異方性溶融相を形成するポリマーは
I)1○と2○からなるポリエステル
II)3○だけからなるポリエステル
III)1○と2○と3○からなるポリエステル
IV)4○だけからなるポリチオールエステル
V)1○と5○からなるポリチオールエステル
VI)1○と4○と5○からなるポリチオールエステル
VII)1○と3○と6○からなるポリエステルアミド
VIII)1○と2○と3○と6○からなるポリエステルアミド等の組み合わせから構成される異方性溶融相を形成するポリエステルである。」(第2頁右下欄9行?第3頁右上欄15行)

(4)「本発明に於いて板状粉体とは厚みに対して相当大きな平面的広がりを持つものを意味し、多少凹凸、彎曲はあっても巨視的には板状と見なしうるものを含む。・・・
本発明に用いられる板状粉体の具体的材質としてはマイカ、ガラス、セリサイト、タルク、カオリナイト、パイロフィライト、グラファイト及び金属等の主として無機物が挙げられる。
本発明の組成物は上記板状粉体と共に繊維状物質が共存していることが物性上のバランスからより好ましい。
本発明において用いられる繊維状物質としては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト化繊維、ウィスカー、金属繊維、無機系繊維、合成繊維、鉱石系繊維及び天然繊維等の各種有機繊維が使用可能である。
・・・
鉱石系繊維としては、アスベスト、ウォラストナイト等が使用され、天然繊維としてはセルロースファイバー、麻糸等が用いられる。」(第5頁右上欄3行?同頁右下欄19行)

8 甲8に記載された事項
甲8には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
液晶ポリエステル100質量部に対して、数平均粒径が10?50μmのタルク50?110質量部、カーボンブラック2?100質量部配合してなり、荷重たわみ温度が220℃以上、せん断速度100sec^(-1)、370℃における溶融粘度が10?150Pa・Sであることを特徴とするカメラモジュール用液晶ポリエステル樹脂組成物。」

(2)「【0005】
従来、液晶ポリエステル樹脂成形品の異方性、反り、耐熱性の改良のためにタルクを充填することが知られており(例えば、特許文献4-6参照)、その表面外観について言及した文献(特許文献7参照)もあるが、本用途のような厳しい成形体の表面転写性-表面(から)の脱落物発生を極力減少させる-を有する樹脂組成物については、まったく述べられていない。
・・・
【0007】
本発明は、このような現在未解決であるが、重要な問題を解決しようとするものであり、良好な剛性、耐熱性、薄肉加工性、をバランスよく有し、しかも、カメラモジュール組立工程中および使用中の粉(パーティクル)の発生量の少ない、カメラモジュール部材に適した液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題を解決するため、種々検討した結果、特定粒径のタルクを特定粘度範囲の液晶ポリエステル樹脂に特定量添加することで、射出成形品の表面転写性に優れ、モジュールの組立加工時、使用時において、表面の脱落物の発生が少ない材料を得ることができ、該組成物から形成されたカメラモジュール部材は、粉塵の発生の少ないことを見出し、本発明に至った。」

(3)「【0013】
本発明で用いる液晶ポリエステル樹脂とは、異方性溶融体を形成するものであり、これらの中で、実質的に芳香族化合物のみの重縮合反応によって得られる全芳香族液晶ポリエステルが好ましい。
【0014】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を構成する液晶ポリエステル樹脂の構造単位としては、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸との組み合わせからなるもの、異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるもの、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせからなるもの、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの等が挙げられ、具体的構造単位としては、例えば下記のものが挙げられる。」

(4)「【0026】
<タルクについて>
本発明に用いるタルクは、樹脂組成物を構成する材料として使用されている公知のタルクであれば化学組成上、特に制限は無い。
・・・
本発明においては、鱗片状でなめらかな物理的形状が剛性、低摩耗性に係る特性バランスに関与していると考えるが、これらのバランスが最も効果的に発揮できるのは、レーザー回折法による数平均粒径が10?50μmの範囲の範囲にあるものである。10μm未満であるとコンパウンド時のハンドリングが難しく、かつ、成形品表面からの脱落物が多くなる。また、50μmを超えると、成形品中での分散性が悪くなると共に、その表面が粗くなり、成形品表面からの脱落物が多くなる。このため、平均粒径としては、10?50μmであることが好ましい。
タルクの配合量としては、液晶ポリエステル100質量部に対して50?110質量部の範囲が好ましい。タルクの配合量が110質量部を超えると場合は、本発明組成物の強度及び耐衝撃性が低下する。また、タルクの配合量が、50質量部未満の場合は、配合効果が不十分であり、表面転写性の改善による成形品表面からの脱落物低減という本発明の目的を達成することができない。」

9 甲9に記載された事項
甲9には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
液晶ポリマー100重量部に対して、軟化点が550℃以下である低温軟化性の無機ガラス0.01重量部以上、1重量部未満を含んでなる液晶ポリマー組成物。
【請求項2】
低温軟化性の無機ガラスが、P2O5およびZnOを構成成分に含むものである、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
・・・
【請求項4】
さらに、液晶ポリマー100重量部に対して、1?200重量部の繊維状の充填材、および/または板状または粉状の充填材を含んでなる、請求項1または2に記載の液晶ポリマー組成物。
・・・
【請求項8】
繊維状の充填材が、ガラス繊維、楕円型ガラス繊維、まゆ型ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびウォラストナイトからなる群より選択される1種以上のものであり、板状または粉状の充填材が、タルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタン、および珪藻土からなる群より選択される1種以上のものである、請求項4?7何れかに記載の液晶ポリマー組成物。」

(2)「【0005】
しかし、タルクは微量の水分を含有しているために、タルクを含有する液晶ポリマー組成物においては、成形品の反りの発生は抑制されるものの、ブリスターの発生がより増加しやすくなる問題を有するものである。」

(3)「【0011】
本発明の目的は、成形品のブリスターの発生が少ない液晶ポリマー組成物を提供することにある。」

(4)「【0013】
本発明において用いる液晶ポリマーは、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に制限されない。
【0014】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0015】
本発明に用いる液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位などが挙げられる。」

(5)「【0052】
本発明の液晶ポリマー組成物には、成形品の機械物性や、表面特性を改良する目的などで、低温軟化性の無機ガラスの他に、繊維状の充填材、および/または板状または粉状の充填材を含んでいてもよい。
【0053】
本発明において使用される繊維状充填材の具体例としては、ガラス繊維、楕円型ガラス繊維、まゆ型ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびウォラストナイトかなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。
・・・
【0059】
本発明の液晶ポリマー組成物における、充填材の組み合わせとしては、機械物性が優れることから、ガラス繊維、楕円型ガラス繊維、まゆ型ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびウォラストナイトからなる群より選択される1種以上の繊維状充填材を含むものが好ましく、中でもコストと物性のバランスに優れることから、これらの中でも、液晶ポリマー組成物の物性とコストのバランスが優れることから、ガラス繊維、楕円型ガラス繊維、およびまゆ型ガラス繊維からなる群より選択される1種以上の繊維状充填材を含むものがより好ましい。
また、上記の繊維状充填材を含む液晶ポリマー組成物の中でも、得られる成形品の反りの発生を抑制する目的などので、板状または粉状の充填材としてタルクを含有するものが特に好ましい。」

10 甲10に記載された事項
甲10には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
液晶ポリエステルアミド50?80質量%、ウィスカー10?30質量%、カーボンブラック1?5質量%、タルク0?20質量部、沈降性硫酸バリウム0?20質量部、(以上、合わせて100質量%とする。)を溶融混練して得られる、荷重たわみ温度が220℃以上、かつ、せん断速度100sec-1、測定温度370℃における溶融粘度が10?100Pa・Sであることを特徴とする、液晶ポリエステルアミド樹脂組成物。
・・・
【請求項4】
前記ウィスカーが、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛の少なくともいずれか1種であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の液晶ポリエステルアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の液晶ポリエステルアミド樹脂組成物の射出成形体を構成部材として含んでなることを特徴とする、カメラモジュール部品。

(2)「【0040】
カメラモジュール用液晶ポリエステルアミド樹脂組成物の「パーティクル耐脱離性」は、前記、特定配合からなる樹脂組成物中の繊維状充填剤として、ウィスカーを含有させることで著しく向上する。
本発明者らは、その理由についてはいまだ解明に至っていないが、繊維状充填剤の代表例としてのガラス繊維との比較において想定ができる。」

(3)「【0043】
本発明において使用できるウィスカーには、制限はない。好ましくは、ウィスカーの中でも、靱性を有する平均径5μm以下が適する。具体的には、(i)チタン酸カリウム(化学式;K2O・nTiO2(nは6または8、真比重 3.4?3.6、平均繊維径0.3?0.6μm。例えば、市場から、商品名「ティスモ」(大塚化学(株)製)として入手できるもの)、(ii)ケイ酸カルシウム(化学式;CaSiO3、真比重 2.5?2.6、繊維径1?5μm。例えば、市場から「ワラストナイト」として入手できるもの)、(iii)炭酸カルシウム(化学式;CaCO3、真比重 2.8、平均繊維径0.5?1μm。例えば、市場から商品名「ウィスカル」(丸尾カルシウム(株)製)として入手できるもの)、(iv)酸化亜鉛、(化学式;ZnO、真比重 5.78、平均繊維径0.2?3μm。例えば、市場から商品名「パナテトラ」(パナソニック(株)製)として入手できるもの)が挙げられ、これらの中でも、混練工程でのハンドリングし易さ、マトリックスを構成する液晶ポリエステル中の分散し易さの観点から、比較的繊維径が大きく、また、液晶ポリエステルとの比重差が小さく、良分散が容易である、(ii)および(iii)が好ましい。これらは、単独で使用しても、2種類以上を任意の配合で混合して使用してもよい。本発明における樹脂組成物においては、ウィスカーの含有率を、10?30質量%の範囲とすることが好ましい。10質量%未満であると添加の効果が十分でなく。30質量%を超えると良好な流動性を得ることが困難となることがある。」

(4)「【0045】
<タルク>
本発明においては、液晶ポリエステルアミド樹脂組成物は、タルクを含有することが好ましい。タルクは、ほぼ、楕円球状を有する、比較的表面が平滑な充填材で、異方性低減により成形品に寸法安定性を与えることから、カメラモジュール部品の長期使用下でもパーティクルの耐脱離性等の信頼性を高めることができる。本発明における樹脂組成物においては、タルクを添加する場合、その含有率を、0?20質量%の範囲とすることが好ましい。20質量%を超えると良好な流動性を得ることが困難となることがある。」

(5)「【0059】
本発明に係る実施例および比較例に用いた各種充填剤の特性を以下に示す。
(1)ウィスカー:
(i) チタン酸カリウム:化学式;K2O・nTiO2:nは6または8、真比重 3.4?3.6、繊維径0.3?0.6μm(商品名「ティスモ」、大塚化学(株)製)
(ii) ケイ酸カルシウム:化学式;CaSiO3、真比重 2.5?2.6、平均繊維径1?5μm(市場から、「ワラストナイト」の名称で入手できるもの)
(iii) 炭酸カルシウム:化学式;CaCO3、真比重 2.8、平均繊維径0.5?1μm(商品名「ウィスカル」、丸尾カルシウム(株)製)
(iv) 酸化亜鉛:(化学式;ZnO 真比重 5.78 平均繊維径0.2?3μm(商品名「パナテトラ」、(株)アムテック製)
(2)カーボンブラック(CB):キャボット(株)社製、「REGAL 660」(1次粒子径24nm)
(3)沈降性硫酸バリウム:堺化学工業(株)製、「BMH-40」(平均粒子径1μm,比重4.5)
(4)タルク:日本タルク(株)社製、「MS-KY」(数平均粒径23μm)
(5)ガラスファイバー。
日東紡績(株)社製、PF100E-001SC(数平均繊維長100μm、数平均繊維径10μm)」

(6)「【表1】



第6 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(明確性)について
(1)本件発明1について
本件発明1の「繊維状ウォラストナイト」に関して、本件明細書には、「アスペクト比、即ち、平均繊維長/平均繊維径の値が8以上であるウォラストナイトという」、「本明細書において、平均繊維径としては、実体顕微鏡画像をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により測定された値を採用する。」及び「本明細書において、平均繊維長としては、実体顕微鏡画像をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により測定された値を採用する。」と記載されており(上記(1)エの【0030】、【0032】及び【0033】)、繊維状ウォラストナイトを判別するための「アスペクト比」、当該「アスペクト比」を算出するための「平均繊維長」及び「平均繊維径」の測定方法が明確に定義されているから、「平均繊維長/平均繊維径」により算出されるアスペクト比が8以上であることは明確に定義されており、本件発明1における「繊維状ウォラストナイト」も明確に把握できるといえる。

(2)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(2)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明2?4も明確である。

(3)申立人の主張に対して
申立人は、申立書(14頁12行?15頁16行)において、ウォラストナイトは三斜晶であり、対称性が非常に小さいため、どのような角度で切った断面を基に繊維径を測定すべきか、どの長さをもって繊維径とすべきか、その定義が明らかでないから、本件発明の「平均繊維径」の定義が不明確である旨を主張する。
しかしながら、申立書を見ても、ウォラストナイトのミクロ構造である結晶形態が、「繊維状ウォラストナイト」の外形寸法である繊維径の測定に与える影響を理解することはできず、ウォラストナイトの結晶形態が三斜晶であることによって、「繊維状ウォラストナイト」の繊維径を測定するときの断面が定義されないことの因果関係を理解できるように説明されているとは解せない。
そして、上記(1)で述べたように、「平均繊維径」の測定方法は明確に定義されているし、実施例で使用された繊維状ウォラストナイト(「NYGLOS 8(NYCO Materials社製)の「平均繊維径」は8μmであり(第1の9の【0075】)、三斜晶である繊維状ウォラストナイトの「平均繊維径」を技術的な支障なく測定されている。
そうすると、申立人の上記主張を採用することができない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?4は明確であるから、申立理由1によっては、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。


2 申立理由2(サポート要件)について
(1)特許法第36条第6項第1号について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。そこで、この点について、以下に検討する。

(2)本件発明1が解決しようとする課題
発明の詳細な説明の第4の2によると、本件発明1が解決しようとする課題は、「表面が起毛しにくく、そり変形が抑制され、機械強度が高く、耐熱性に優れるカメラモジュール用部品を製造するために用いられ、溶融時の流動性が高いカメラモジュール用液晶性樹脂組成物を提供すること」であると解される。このことから、本件発明1は、成形体表面の起毛抑制、そり変形抑制、機械強度、耐熱性、及び流動性のバランスがよい液晶性樹脂組成物を指向したものであるといえる。
そして、発明の詳細な説明には、上記流動性及び耐熱性の好ましい目安として、溶融粘度は50Pa・sec未満であり、荷重たわみ温度は240℃以上であることも記載されている(第4の8の【0059】及び【0060】)。

(3)本件発明1について
発明の詳細な説明には、本件発明1の(A)成分?(D)成分の含有量、及び、(B)成分と(D)成分との合計の含有量に関して、(A)成分を上記含有量とすることにより、流動性、成形体表面の起毛抑制、耐熱性の面で好ましく、(B)成分を上記含有量とすることにより、カメラモジュールとして必要な機械強度、荷重たわみ温度、流動性、成形体表面の起毛抑制、成形体のそり変形抑制の面で好ましく、(C)成分を上記含有量とすることにより、成形体表面の起毛抑制、流動性の面で好ましく、(D)成分を上記含有量とすることにより、カメラモジュールとしての必要な機械強度及び荷重たわみ温度、成形体表面の起毛抑制の面で好ましいことが記載されている(第4の4?7)。
そして、発明の詳細な説明には、実施例及び比較例とそれらの各種特性が記載されており(第4の9の【0073】?【0088】、表1及び表2)、本件発明1の特定事項を満たすことにより、成形体表面の起毛抑制、そり変形抑制、機械強度、耐熱性、及び流動性のバランスに優れた液晶性樹脂組成物となり、溶融粘度は50Pa・sec未満であり、荷重たわみ温度は240℃以上となることを具体的に確認することができる。例えば、実施例4と比較例7を見比べると、(B)成分を含有する実施例4の荷重たわみ温度は240℃以上となっている。また、実施例1と比較例8を見比べると、(C)成分を含む実施例1は成形体表面の起毛抑制に優れている。実施例2と比較例1を見比べると、(D)成分を含み、かつ(B)成分を所定量で含有する実施例2は、溶融粘度が50Pa・sec未満であり、起毛抑制及びそり変形抑制にも優れるものである。
これらのことから、発明の詳細な説明は、本件発明1が上記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されているということができ、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものである。

(4)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(3)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明2?4は発明の詳細な説明に記載したものである。

(5)申立理由2-1について
申立人は、実施例1?5及び比較例1?10は、その条件がほとんど揃えられておらず、様々な要素が同時に変更されているから、具体的に何がどの効果に繋がっているのか、全く理解することができない旨の主張をするが、上記(3)で述べたように、上記実施例及び比較例から、本件発明1の特定事項を満たすことにより、上記課題を解決することを理解することができる。
よって、上記主張を採用することはできない。

(6)申立理由2-2について
申立人は、実施例及び比較例の「(C)エポキシ基含有共重合体」として、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体を2質量%又は4質量%としたもののみであるから、本件発明1の(C)成分に関する特定事項は、本件明細書の記載と比べて広範である旨を主張する。
しかしながら、発明の詳細な説明には、「(C)エポキシ基含有共重合体としては、特に限定され」ないこと、「(C)成分をカメラモジュール用液晶性樹脂組成物に配合させることが、当該組成物を成形してなる成形体を超音波洗浄したときの、成形体表面の起毛を抑えることに寄与する。起毛を抑える理由については明確になっているわけではないが、ある一定量配合させることにより、成形体表面状態を変化させ、その変化が起毛を抑えることに寄与していると考えられる。」(第4の6の【0035】)と記載されており、(C)成分はエポキシ基含有共重合体であればよく、(C)成分の添加により成形体表面の起毛抑制効果があることが理解できる。また、(C)成分の含有量に関して、「(C)成分の含有量が1.0質量%以上であることは、成形体表面の起毛抑制の点で必要であり、4.5質量%以下であることは流動性を損なわず、良好な成形体を得るという理由で必要である。」(第4の6の【0047】)と記載されており、1.0?4.5質量%の含有量とすることにより、成形体表面の起毛抑制及び流動性に優れることが理解できる。そして、上記(3)で述べたように、実施例1と比較例8を見比べると、(C)成分を4質量%含有する実施例1は、溶融粘度が40Pa・sec未満であり、成形体表面の起毛抑制に優れることが具体的に示されている。
また、申立人は、(C)成分として特定のエポキシ基含有共重合体を用いる場合に、上記課題を解決することができないことについて具体的な証拠を示して説明していない。
そうすると、申立人の上記主張を採用することはできない。

(7)申立理由2-3について
ア 申立人は、繊維状ウォラストナイトを用いた実施例4と球状ウォラストナイトを用いた比較例7を比べても本件発明の課題に対してどちらが優れているか不明である旨を主張する(上記申立理由2-3ア)。
しかしながら、上記(3)で述べたように、本件発明1は、成形体表面の起毛抑制、そり変形抑制、機械強度、耐熱性、及び流動性のバランスに優れるものであり、好ましくは、溶融粘度が50Pa・sec未満であり、荷重たわみ温度は240℃以上であるものである。そして、実施例4と比較例7を見比べると、(B)成分を含有する実施例4の荷重たわみ温度は240℃であるのに対して、比較例7は230℃であって好ましい耐熱性の指標を満たさないものである。また、シャルピー衝撃強度は、比較例7はきわめて高いものの、実施例4が他の実施例及び比較例と比べて劣るとはいえないし、曲げ弾性率は、実施例4は比較例7よりも有意に優れるといえる。

イ 申立人は、比較例7で用いられた粒状ウォラストナイトの算出したアスペクト比は10であり、繊維状ウォラストナイトに分類されるものである旨を主張する(上記申立理由2-3イ)。
しかしながら、発明の詳細な説明には、比較例7は粒状ウォラストナイトを5質量%含有するものであること(第4の9の表2)、及び、「粒状ウォラストナイト:NYAD 325(NYCO Materials社製、アスペクト比5、平均繊維長50μm、平均繊維径5μm)」(第4の9の【0075】)が記載されており、「NYAD 325」は粒状ウォラストナイトであり、アスペクト比は5であると解される。
また、甲5には、「NYAD 325」のアスペクト比が5(繊維長50μm、繊維径10μm)であることが記載されており(第5の5)、「NYAD 325」は、アスペクト比が8以上の「繊維状ウォラストナイト」でなく、8未満の「粒状ウォラストナイト」であると推察される。
そうすると、申立人の上記主張を採用することはできない。

ウ 申立人は、繊維状ウォラストナイトに関して、発明の詳細な説明には、「上記アスペクト比は、成形体表面の起毛抑制効果等の観点から、好ましくは10?25であり、より好ましくは15?20である」(第4の5の【0030】)と記載されているが、実施例ではアスペクト比17のもののみが用いられており、本件発明1の「繊維状ウォラストナイト」が「平均繊維長/平均繊維径の比が8以上」という規定は、本件明細書の記載と比較して広範である旨を主張する(上記申立理由2-3ウ)。
しかしながら、上記(3)で述べたように、発明の詳細な説明には、(B)成分を2.5?25質量%の量で含有することにより、カメラモジュールとして必要な機械強度、荷重たわみ温度、流動性、成形体表面の起毛抑制、成形体のそり変形抑制の面で好ましいことが記載されており、(B)成分である「繊維状ウォラストナイト」は成形体表面の起毛抑制のためだけでなく、荷重たわみ温度(耐熱性)等の特性も改善するものである。
そして、上記【0030】の記載は、このような(B)成分の添加目的を前提にして、成形体表面の起毛抑制効果を更に向上するためのアスペクト比の範囲を説明したものにすぎず、上記【0030】の記載を根拠に、本件発明1が上記課題を解決することができないとはいえない。
なお、申立人は、(B)成分のアスペクト比が10?25の範囲外である場合に、上記課題を解決することができないことも、アスペクト比が8?10及び25超のものが本件出願時の技術常識であることも、具体的な証拠を示して説明していない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。

(8)小括
以上のとおり、本件発明1?4は発明の詳細な説明に記載したものであるから、申立理由2-1?申立理由2-3によっては、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。


3 申立理由3(甲1を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲1発明
甲1には、請求項16及び17に係る摺動部材用ポリエステル樹脂組成物が記載されており(上記第5の1(1))、請求項16を引用する請求項17に係る発明を独立形式で記載すると次のとおりになる。
「融点もしくはガラス転移温度が250℃以上であるポリエステル樹脂(A)と、
オレフィン由来の構造単位、α、β-不飽和カルボン酸エステル由来の構造単位および環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位を有する共重合体(C)と、
カーボンブラック(G)および繊維状の無機充填材(D)の少なくとも一つを含む、摺動部材用ポリエステル樹脂組成物。」
一方、発明の詳細な説明には、実施例12として、ポリエステル樹脂(A)70質量%、共重合体(C)2質量%、カーボンブラック(G)1質量%、繊維状無機充填材(D2)25質量%、熱可塑性樹脂(B2)2質量%からなるポリエステル樹脂組成物が記載されており、上記ポリエステル樹脂(A)の融点は290℃であり、共重合体(C)はエチレン・メチルアクリレート・グリシジルメタクリレート共重合体であり、繊維状無機充填材(D2)は、ワラストナイト(NYCO社製 NYGLOS 4W)であるから(第5の1(8)及び(9))、実施例12のポリエステル樹脂組成物は、請求項16を引用する請求項17に記載された事項を満たし、その具体例であるといえる。

そうすると、甲1には、実施例12に着目して、次の発明が記載されているといえる。
「ジメチルテレフタレート106.2部、1,4-シクロヘキサンジメタノール(シス/トランス比:30/70)94.6部にテトラブチルチタネート0.0037部を加え、150℃から300℃まで3時間30分かけて昇温して、エステル交換反応をさせ、前記エステル交換反応終了時に、1,4-シクロヘキサンジメタノールに溶解した酢酸マグネシウム・四水塩0.066部を加えて、引き続きテトラブチルチタネート0.1027部を導入して、常圧から1Torrまで85分かけて徐々に減圧し、同時に所定の重合温度300℃まで昇温し、温度と圧力を保持した、所定の撹拌トルクに到達した時点で重縮合反応を終了して、生成した重合体を取り出し、さらに、得られた重合体を260℃、1Torr以下で3時間固相重合を行なって得られたポリエステル樹脂(A)70質量%、
エチレン・メチルアクリレート・グリシジルメタクリレート共重合体(アルケマ社製 ロタダーAX8900)である共重合体(C)2質量%、
カーボンブラック(G)1質量%、
公知の固体状チタン触媒成分で得られたエチレン重合体系ワックスとスチレンとの混合物を、公知のラジカル発生剤の存在下に反応させて得られた低分子量熱可塑性樹脂(B2)2質量%、
ワラストナイト(NYCO社製 NYGLOS 4W)である繊維状無機充填材(D2)25質量%、からなる摺動部材用ポリエステル樹脂組成物」(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「エチレン・メチルアクリレート・グリシジルメタクリレート共重合体」は、本件発明1の「エポキシ基含有共重合体」に相当し、その含有量も一致する。
甲1発明の「ワラストナイト(NYCO社製 NYGLOS 4W)」のアスペクト比は11であり(甲5参照。繊維長50μm、繊維径4.5μm)、本件発明1の「繊維状ウォラストナイト」は、本件明細書において定義される平均繊維径及び平均繊維長(第4の5の【0032】及び【0033】)を用いて算出される平均繊維長/平均繊維径の値であるアスペクト比が8以上であるウォラストナイトであり(上第4の5の【0030】)、両者のアスペクト比の定義が異なることを示す具体的な証拠はないから、甲1発明の「ワラストナイト(NYCO社製 NYGLOS 4W)」は、本件発明1の「繊維状ウォラストナイト」に相当し、その含有量も一致する。
また、本件発明1の「液晶性樹脂」は、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを包含し(第4の4の【0023】?【0026】)、甲1発明の「ポリエステル樹脂(A)」とポリエステル樹脂である限りで共通する。そして、甲1発明の「ポリエステル樹脂組成物」と本件発明1の「液晶性樹脂組成物」は、ポリエステル樹脂組成物である限りで共通する。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「(A)ポリエステル樹脂、
(B)繊維状ウォラストナイト、及び
(C)エポキシ基含有共重合体、
を含有し、
(B)成分の含有量が2.5?25質量%、(C)成分の含有量が1.0?4.5質量%、であるポリエステル樹脂組成物」で一致し、次の点で相違する。

相違点1a:本件発明1は、「(A)液晶性樹脂」を含有し、「(A)成分の含有量が62?70質量%」であるのに対して、甲1発明は、「ジメチルテレフタレート106.2部、1,4-シクロヘキサンジメタノール(シス/トランス比:30/70)94.6部にテトラブチルチタネート0.0037部を加え、150℃から300℃まで3時間30分かけて昇温して、エステル交換反応をさせ、前記エステル交換反応終了時に、1,4-シクロヘキサンジメタノールに溶解した酢酸マグネシウム・四水塩0.066部を加えて、引き続きテトラブチルチタネート0.1027部を導入して、常圧から1Torrまで85分かけて徐々に減圧し、同時に所定の重合温度300℃まで昇温し、温度と圧力を保持した、所定の撹拌トルクに到達した時点で重縮合反応を終了して、生成した重合体を取り出し、さらに、得られた重合体を260℃、1Torr以下で3時間固相重合を行なって得られたポリエステル樹脂(A)」を含有し、当該ポリエステル樹脂(A)の含有量が70質量%である点。
相違点1b:本件発明1は、「(D)板状充填剤」を含有し、「(D)成分の含有量が10?30質量%、(B)成分と(D)成分との合計の含有量が20?35質量%」であるのに対して、甲1発明は、板状充填剤を含有しない点。
相違点1c:本件発明1は、「カメラモジュール用液晶性樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明は、「摺動部材用ポリエステル樹脂組成物」である点。

イ 検討
事案に鑑みて、相違点1bから検討する。
(ア)相違点1bについて
a 甲1には、無機充填材として、繊維状、粉状、粒状、板状、針状、クロス状又はマット状であり、かつ高いアスペクト比を有するものが好ましいと記載され、ガラス繊維や炭酸塩のウィスカーなど繊維状又は針状の充填材は具体的に例示されているが、板状の充填材は具体的に例示されておらず(第5の1(7)の[0081])、実施例も繊維状の充填材が単独使用されたものばかりである。さらに、甲1には、繊維状ウォラストナイトと板状の充填材とを組み合わせて使用することは勿論、繊維状と板状の充填材を組み合わせて使用することも、これらの成分の各含有量も何ら具体的に記載されていない。これらのことから、甲1発明において、甲1に記載された事項に基づいて、繊維状ウォラストナイトと板状充填材を併用すること、及び、板状充填材の含有量及び繊維状ウォラストナイトと板状充填材との合計の含有量が、本件発明1の規定を満たす範囲とすることが動機付けられるとはいえない。

b 甲6、甲7、甲9には、繊維状及び板状の充填材を配合することにより、液晶性樹脂組成物の機械的強度を向上し、そり変形を抑制できることが記載されているが(第5の6(4)、7(2)、9(5))、甲1には、摺動部材用ポリエステル樹脂組成物に求められる特性として、低パーティクル性、温度や湿度に伴う寸法安定性を向上することは記載されているものの(第5の1(3)の[0011]?[0018])、成形体のそり変形(平面度)を改善するとの課題は記載されていない。また、甲6、甲7及び甲9には、上記繊維状の充填材としてウォラストナイトが挙げられているが、単なる例示にすぎず、繊維状のウォラストナイトと板状の充填材との組み合わせることやその実施例は記載されていない。更に、また、甲1発明における各成分の配合比率を変えることなく、本件発明1で特定された「(D)成分の含有量が10?30質量%、(B)成分と(D)成分との合計の含有量が20?35質量%」を満たすためには、板状充填材の含有量を約11?13質量%という狭い範囲にする必要があるが、甲6、甲7及び甲9には、そのような範囲に限定することを動機付ける記載は見当たらない。
一方、甲8には、特定粒径のタルクを液晶ポリエステル樹脂に添加することにより射出成形品の表面転写性に優れ、粉塵の発生が少なくなることが記載されているが、繊維状の充填材とタルクとを併用することは記載されていない。また、甲8は、液晶ポリエステル100質量部に対してタルクを50?110質量部を添加するものであり、液晶ポリエステルの含有量を本件発明1の「62?70質量部」に対する含有量に換算すると31質量部以上添加することとなり、本件発明1の「10?30質量部」を超える。
そうすると、甲1発明において、甲6?甲9に記載された事項に基づいて、繊維状ウォラストナイトと板状充填剤を併用すること、並びに、板状充填剤の配合割合及び繊維状ウォラストナイトと板状充填剤の合計量の割合をそれぞれ本件発明1で特定する量とすることが動機付けられるとはいえない。

c また、以下に述べるように、甲1の記載を見ても、甲1発明の「ポリエステル樹脂(A)」が液晶性樹脂であると推認することはできないから、甲6?甲9に液晶性樹脂と板状の充填材を含む液晶性樹脂組成物が記載されているとしても、甲6?甲9の記載に基づいて、甲1発明の樹脂組成物に板状充填剤を添加することが動機付けられるとはいえない。
すなわち、甲1発明の「ポリエステル樹脂(A)」は、ジメチルテレフタレート及び1,4-シクロヘキサンジメタノールを原料とし、エステル交換反応、重縮合反応、固相重合を行って得られたものであるが、甲1には、甲1発明の「ポリエステル樹脂(A)」が液晶性樹脂であることは明示的に記載されていない。なお、甲1には、ポリエステル樹脂(A)は溶融液晶性を示さないポリエステル樹脂でありうること、溶融液晶性を示さないポリエステル樹脂(A)を含む樹脂組成物は、パーティクルの微細粒子の発生が抑制されることが記載されている(第5の1(4)の[0041])。
また、甲2、甲6?甲9の記載(特に、第5の2(3)、同6(3)、同7(3)、同8(3)及び同9(4))を見ても、甲1発明の「ポリエステル樹脂(A)」が、その繰り返し単位及び原料から液晶性樹脂であると解することはできない。
そうすると、甲1発明の「ポリエステル樹脂(A)」が液晶性樹脂であると推認することはできず、甲6?甲9の記載に基づいて、甲1発明に板状充填剤を添加することが動機づけられるとはいえない。

d 他に、甲2?甲5及び甲10の記載(第4の2?5及び10)を精査しても、甲1発明において、相違点1bに係る本件発明1の構成を採用することを動機付ける根拠は見当たらず、相違点1bに係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

ウ 本件発明1の効果について
本件発明1は、「溶融時の流動性が高く、この組成物を原料として、カメラモジュール用部品を製造すれば、表面が起毛しにくく、そり変形が抑制され、機械強度が高く、耐熱性に優れるカメラモジュール用部品が得られる」(第4の3の【0018】)という優れた効果を奏し、上記効果は、実施例1?5の評価特性により具体的に確認することができる。
また、本件発明1は、(B)成分と(D)成分との合計の含有量を20?35質量%にすることにより、カメラモジュールとして必要な機械強度及び荷重たわみ温度が確保されやすく、溶融時の流動性が向上しやすく、成形体表面の起毛抑制効果が高いという効果を奏するものであり(第4の7の【0051】)、実施例2と比較例1は、いずれも繊維状ウォラストナイトと板状充填剤の合計の含有量は30質量%であるが、「(D)成分の含有量が10?30質量%」を満たす実施例2は、機械強度及び荷重たわみ温度を良好に維持しながら、流動性が高く、そり変形及び成形体表面の起毛が抑制されることを理解できる。
なお、実施例ではないが、比較例1及び比較例9は、繊維状充填剤の種類が異なること以外は、各成分の含有量がほぼ同じものであるが、繊維状充填剤として繊維状ウォラストナイトを用いた比較例1は、ガラス繊維を用いた比較例9よりも、溶融粘度、機械強度、起毛抑制の面で優れており、繊維状ウォラストナイトを用いることによる効果を推認できるといえる。
また、甲1?甲10には、本件発明1の(C)成分による起毛抑制や(D)成分によるそり変形の抑制については記載されているが、甲1?甲10のいずれの記載からも、本件発明1で特定される量の(A)成分?(D)成分を含有する液晶性樹脂組成物は、溶融時の流動性が高く、当該組成物により製造したカメラモジュール用部品は、起毛及びそり変形が抑制され、機械強度が高く、耐熱性が高いという物性バランスに優れる効果は、当業者であっても予測し得ないものである。

エ 小括
以上のとおりであるから、相違点1a及び相違点1cについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び甲1?甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(2)において本件発明1について述べたのと同じ理由により、甲1発明、及び甲1?甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1?4は、甲1に記載された発明、甲1?甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由3(甲1を主引用文献とする進歩性)によっては、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由4(甲2を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲2発明
甲2には、請求項1に係るカメラモジュール用液晶性樹脂組成物として、次の発明が記載されている。
「(A)液晶性樹脂、
(B1)繊維状非導電性充填剤及び(B2)非繊維状非導電性充填剤から選択される少なくとも1種の(B)非導電性充填剤、
(C1)オレフィン系共重合体及び(C2)スチレン系共重合体から選択される少なくとも1種の(C)共重合体、並びに
(D1)繊維状導電性充填剤及び(D2)非繊維状導電性充填剤からなる(D)導電性充填剤
を含有し、
(A)成分の含有量が55?91質量%、(B)成分の含有量が5?20質量%、(C)成分の含有量が2?10質量%、(D1)成分の含有量が1?5質量%、(D2)成分の含有量が1?15質量%であり、
前記(B1)繊維状非導電性充填剤は、平均繊維径が1.0μm以下、且つ平均繊維長が5?50μmであり、
前記(B2)非繊維状非導電性充填剤は、平均粒子径が50μm以下の、板状充填剤及び粒状充填剤から選択される少なくとも1種であり、
前記(C1)オレフィン系共重合体は、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとから構成され、
前記(C2)スチレン系共重合体は、スチレン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとから構成され、
前記(D1)繊維状導電性充填剤は、平均繊維長が50μm以上であり、
前記(D2)非繊維状導電性充填剤は、平均粒子径が20nm?50μmの、板状充填剤及び粒状充填剤から選択される少なくとも1種であり、
体積抵抗率が1×10^(4)?1×10^(14)Ω・cmであるカメラモジュール用液晶性樹脂組成物。」
(以下、「甲2発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明と本件発明1は、いずれも「液晶性樹脂」を含有する「カメラモジュール用液晶性樹脂組成物」である。
甲2発明の「(C1)オレフィン系共重合体及び(C2)スチレン系共重合体から選択される少なくとも1種の(C)共重合体」であって「(C1)オレフィン系共重合体は、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとから構成され、前記(C2)スチレン系共重合体は、スチレン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとから構成」されるものは、本件発明1の「(C)エポキシ基含有共重合体」に相当する。
本件発明1の「(B)繊維状ウォラストナイト」は絶縁体であるから、甲2発明の「(B1)繊維状非導電性充填剤」と、繊維状充填剤である限りにおいて共通する。
また、甲2発明において、「(B)非導電性充填剤」は、「(B1)繊維状非導電性充填剤及び(B2)非繊維状非導電性充填剤から選択され」、その中の上記(B2)成分は、「平均粒子径が50μm以下の、板状充填剤及び粒状充填剤から選択される少なくとも1種」であり、また、「(D2)非繊維状導電性充填剤」は、「平均粒子径が20nm?50μmの、板状充填剤及び粒状充填剤から選択される少なくとも1種」であり、上記「平均粒子径が50μm以下の、板状充填剤」及び「平均粒子径が20nm?50μmの、板状充填剤」が選択される場合に限り、本件発明1の「板状充填剤」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「(A)液晶性樹脂、
(C)エポキシ基含有共重合体、及び
を含有するカメラモジュール用液晶性樹脂組成物」において一致し、次の点で相違する。

相違点2a:液晶性樹脂の含有量が、本件発明1では「62?70質量%」であるのに対して、甲2発明では「55?91質量%」である点
相違点2b:繊維状充填剤に関して、本件発明1は、「繊維状ウォラストナイト」を含み、その含有量が「2.5?25質量%」であるのに対して、甲2発明では、「平均繊維径が1.0μm以下、且つ平均繊維長が5?50μm」である「(B1)繊維状非導電性充填剤」であって、「(B1)繊維状非導電性充填剤及び(B2)非繊維状非導電性充填剤から選択される少なくとも1種の(B)非導電性充填剤」の中から選択される場合に含有されるものであって、「(B)成分の含有量が5?20質量%」である点
相違点2c:エポキシ基含有共重合体の含有量が、本件発明1では「1.0?4.5質量%」であるのに対して、甲2発明では「2?10質量%」である点
相違点2d:板状充填剤に関して、本件発明1では、その含有量が「10?30質量%」であるのに対して、甲2発明では、「(B2)非繊維状非導電性充填剤」及び「(D2)非繊維状導電性充填剤」であり、「(B1)繊維状非導電性充填剤及び(B2)非繊維状非導電性充填剤から選択される少なくとも1種の(B)非導電性充填剤」及び上記(D2)成分の含有量がそれぞれ「5?20質量%」及び「1?15質量%」である点
相違点2e:繊維状ウォラストナイトと板状充填剤との合計の含有量が、本件発明では「20?35質量%」であるのに対して、甲2発明では不明である点

イ 検討
事案に鑑みて、相違点2bから検討する。
(ア)相違点2bについて
a 甲2発明の課題は、表面が起毛しにくく、帯電しにくいカメラモジュール用部品を製造するための液晶性樹脂組成物の提供であると解される(第5の2(2))。
甲2発明において、「(B)非導電性充填剤」は「(B1)繊維状非導電性充填剤及び(B2)非繊維状非導電性充填剤から選択される少なくとも1種」であり、(B1)成分と(B2)成分の含有量の合計が5?20質量%であると、カメラモジュールとして必要な機械強度、荷重たわみ温度が確保されやすく、成形体表面の起毛抑制効果が高くなりやすいものであり(第5の2(4)の[0033])、(B)成分は(B1)成分及び(B2)成分のいずれであってもよく、繊維状の(B1)成分を必須成分とするものではない。また、(B1)成分として、「平均繊維径が1.0μm以下、且つ平均繊維長が5?50μm」であれば何れの繊維であってもよく、シリカ繊維等の種々の無機質繊維も例示されているが(第5の2(4))、繊維状ウォラストナイトを用いることは具体的に記載されていない。
一方、甲1には、融点もしくはガラス転移温度が250℃以上であるポリエステル樹脂(A)、オレフィン由来の構造単位、α,β-不飽和カルボン酸エステル由来の構造単位および環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位を有する共重合体(C)、及び無機充填剤(D)を含有するポリエステル樹脂組成物が記載され(第5の1(1))、上記無機充填剤(D)として、繊維状、粉状、粒状、板状、針状、クロス状またはマット状であり、かつ高いアスペクト比を有する無機充填剤を用いることが好ましいこと、成形物の表面平滑性を高める観点で、ウォラストナイトやチタン酸カリウムウィスカーが好ましいことが記載されている(第5の1(7)の[0084])。
しかしながら、甲2発明の課題は、上記のとおり、表面が起毛しにくく、帯電しにくいカメラモジュール用部品を製造するための液晶性樹脂組成物の提供であって、成形体の表面平滑性(表面粗度)を高めることを指向したものではなく、他に、甲1には、甲2発明における「(B)非導電性充填剤」」として、種々の「(B1)繊維状非導電性充填剤及び(B2)非繊維状非導電性充填剤」の中から、繊維状ウォラストナイトを選択して使用することを動機付ける記載は見当たらない。
そうすると、甲2発明において、甲1及び甲2の記載に基づき、「(B)非導電性充填剤」として繊維状ウォラストナイトを用いることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b 甲10には、液晶ポリエステルアミド50?80質量%、ウィスカー10?30質量%、カーボンブラック1?5質量%、タルク0?20質量部、沈降性硫酸バリウム0?20質量部、(以上、合わせて100質量%とする。)を溶融混練して得られる液晶ポリエステルアミド樹脂組成物において、上記ウィスカーが、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛の少なくともいずれか1種である上記組成物が記載されており(第5の10(1))、上記ウィスカーの添加によって上記組成物のパーティクル耐脱離性を向上するものである(第5の10(2)、同(6)の表1の実施例1と比較例6の対比)。
以下では、甲10に記載のウィスカーが本件発明1の「繊維状ウォラストナイト」に相当するか検討する。
甲10には、上記ウィスカーに用いられるケイ酸カルシウムについて、「本発明において使用できるウィスカーには、制限はない。好ましくは、ウィスカーの中でも、靱性を有する平均径5μm以下が適する。具体的には、・・・(ii)ケイ酸カルシウム(化学式;CaSiO3、真比重 2.5?2.6、繊維径1?5μm。例えば、市場から「ワラストナイト」として入手できるもの)・・・が挙げられ、これらの中でも、混練工程でのハンドリングし易さ、マトリックスを構成する液晶ポリエステル中の分散し易さの観点から、比較的繊維径が大きく、また、液晶ポリエステルとの比重差が小さく、良分散が容易である、(ii)・・・が好ましい」(第5の10(3))と記載され、ワラストナイトであるケイ酸カルシウムウィスカーの繊維径が1?5μmであることまでは理解できるが、そのアスペクト比は不明であって、本件発明1の「繊維状」(本件明細書の【0030】によれば、アスペクト比が8以上であるといえる。)に相当するか明らかとはいえない。ここで、甲5を参照してみるが、繊維径が1?5μmのウォラストナイトには、アスペクト比が3のもの(NYAD 1250)と11のもの(NYGLOS 4W)があり、甲10に記載の「ワラストナイト」が、本件発明1で「繊維状」であるとされるアスペクト比8以上の繊維状ウォラストナイトを意味するとはいえない。
そうすると、甲2発明において、甲10の記載に基づき、「(B)非導電性充填剤」として繊維状ウォラストナイトを選択して使用することが動機付けられるとはいえず、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

c 他に、甲3?甲10の記載(第5の3?10)を精査しても、甲2発明において、相違点2bに係る本件発明1の構成を採用することを動機付ける根拠は見当たらず、相違点2bに係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

(イ)本件発明1の効果について
上記3(2)ウで述べたとおり、本件発明1は、「溶融時の流動性が高く、この組成物を原料として、カメラモジュール用部品を製造すれば、表面が起毛しにくく、そり変形が抑制され、機械強度が高く、耐熱性に優れるカメラモジュール用部品が得られる」(第4の3の【0018】)という優れた効果を奏し、上記効果は、実施例1?5の評価特性により具体的に確認することができる。また、甲1?甲10のいずれの記載からも、本件発明1で特定される量の(A)成分?(D)成分を含有する液晶性樹脂組成物は、溶融時の流動性が高く、当該組成物により製造したカメラモジュール用部品は、起毛及びそり変形が抑制され、機械強度が高く、耐熱性が高いという物性バランスに優れる効果は、当業者であっても予測し得ないものである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、相違点2a、2c?2eについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、甲1?甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(2)で述べたのと同じ理由により、本件発明2?4は、甲2に記載された発明、及び、甲1?甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1?4は、甲2に記載された発明、甲1?甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由4(甲2を主引用文献とする進歩性)によっては、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。

第7 結び
以上のとおりであるから、請求項1?4に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-10-12 
出願番号 特願2017-537705(P2017-537705)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保 道弘  
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 近野 光知
安田 周史
登録日 2019-09-06 
登録番号 特許第6581659号(P6581659)
権利者 ポリプラスチックス株式会社
発明の名称 カメラモジュール用液晶性樹脂組成物及びそれを用いたカメラモジュール  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  

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