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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1367295 |
審判番号 | 不服2019-8653 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-06-27 |
確定日 | 2020-10-15 |
事件の表示 | 特願2016-145787「液晶硬化膜、液晶硬化膜を含む光学フィルム、及び表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 2日出願公開、特開2017- 27058〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は平成28年7月25日(先の出願に基づく優先権主張 平成27年7月24日)の出願であって、平成30年11月21日付けで拒絶理由が通知され、平成31年1月23日に意見書が提出され、同年3月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し令和元年6月27日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。 その後、令和2年3月31日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月4日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。 2 本件発明 本願の請求項1?11に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりである。 「 重合性液晶化合物と、光重合開始剤組成物とを含む組成物を硬化してなる液晶硬化膜であって、 前記光重合開始剤組成物は、分子内にオキシム構造を有する光重合開始剤を含み、 前記重合性液晶化合物は、式(I): L-G-D-Ar-D-G-L (I) (式(I)中、Arは置換基を有する又は無置換の芳香族複素環を表す。Dは、それぞれ独立に、単結合または二価の連結基である。Gは、それぞれ独立に、2価の脂環式炭化水素基を表す。Lは、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、少なくとも1つが重合性基を有する。) で表される化合物であって、波長300nm以上、380nm以下の範囲に極大吸収波長を有し、 前記液晶硬化膜が、300nm以上、380nm以下の範囲に極大吸収波長を有し、 式(Y)を満たす液晶硬化膜。 93≧(1-P’/P0)×100≧73 …(Y) (式中、P’は液晶硬化膜の厚さ方向に対して垂直な2つの面におけるP値のうち、値が小さい方の面におけるP値を表す。 P0は上記重合性液晶化合物のP値を表す。 P値は、I(1)/I(2)で表される。 I(1)は赤外全反射吸収スペクトル測定によるエチレン性不飽和結合の面内変角振動由来のピーク強度を表し、I(2)は赤外全反射吸収スペクトル測定による芳香環の不飽和結合の伸縮振動由来のピーク強度を表す。)」 3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は、本願の請求項1?11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 なお、引用文献1は主引用発明が記載された文献として引用されたものであり、引用文献2は、技術常識を示す文献として引用されたものであり、引用文献3は周知技術を示す文献として引用されたものである。 引用文献1:特開2012-21068号公報 引用文献2:大和真樹,「光重合開始剤の現状と課題」,日本印刷学会誌, 社団法人日本印刷学会,2003年,第40巻,第3号, 第168?175頁 (https://doi.org/10.11413/nig1987.40.168) 引用文献3:特開2015-69157号公報 4 引用文献の記載事項及び引用発明 (1)引用文献1の記載事項 当審拒絶理由において、主引用発明が記載された文献として引用され、先の出願前の平成24年2月2日に頒布された刊行物である、特開2012-21068号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。その他の文献についても同様である。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、組成物及び光学フィルムに関する。 (中略) 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 従来の光学フィルムでは、高湿高温の条件で保管した場合の耐性(耐湿熱性)について必ずしも十分満足できるものではなかった。 【課題を解決するための手段】 【0005】 上記課題を解決することができた本発明の組成物は、式(A)で表される化合物、酸化防止剤及び光重合開始剤を含むことを特徴とする。 【0006】 【化1】 [式(A)中、X^(1)は、-S-、-O-又は-NR^(1)-を表す。R^(1)は、水素原子又は炭素数1?6のアルキル基を表す。 Y^(1)は、炭素数6?12の芳香族炭化水素基、又は、炭素数3?12の芳香族複素環式基を表す。 Q^(1)及びQ^(2)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?20の脂肪族炭化水素基、炭素数3?20の脂環式炭化水素基、1価の炭素数6?20の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、-NR^(2)R^(3)又は-SR^(2)を表し、Q^(1)及びQ^(2)は、互いに結合して芳香環又は芳香族複素環を形成していてもよい。R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基を表す。 D^(1)及びD^(2)は、それぞれ独立に、単結合、-CO-O-、-CS-O-、-CR^(4)R^(5)-、-CR^(4)R^(5)-CR^(6)R^(7)-、-O-CR^(4)R^(5)-、-CR^(4)R^(5)-O-CR^(6)R^(7)-、-CO-O-CR^(4)R^(5)-、-O-CO-CR^(4)R^(5)-、-CR^(4)R^(5)-O-CO-CR^(6)R^(7)-、-CR^(4)R^(5)-CO-O-CR^(6)R^(7)-、-NR^(4)-CR^(5)R^(6)-又は-CO-NR^(4)-を表す。 R^(4)、R^(5)、R^(6)及びR^(7)は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又は炭素数1?4のアルキル基を表す。 G^(1)及びG^(2)は、それぞれ独立に、炭素数5?8の2価の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基に含まれる-CH_(2)-は、-O-、-S-又は-NH-で置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基に含まれる-CH(-)-は、-N(-)-で置き換っていてもよい。 L^(1)及びL^(2)は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、L^(1)及びL^(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種が、重合性基を有する基を表す。] (中略) 【発明の効果】 【0012】 本発明によれば、耐湿熱性に優れた光学フィルムを得ることができる。」 イ 「【発明を実施するための形態】 【0014】 1.組成物 本発明の組成物は、式(A)で表される化合物(以下「化合物(A)」という場合がある)、酸化防止剤(B)及び光重合開始剤(C)を含む。 【0015】 1-1.化合物 本発明の組成物は、化合物(A)を含む。 (中略) 【0196】 1-2.酸化防止剤(B) 本発明の組成物は、酸化防止剤(B)を含む。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤およびアミン系酸化防止剤が挙げられる。中でも、光学フィルムの着色が少ないという点で、フェノール系酸化防止剤が好ましい。 【0197】 前記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、 (中略) 等が挙げられる。 (中略) 【0206】 1-3.光重合開始剤(C) 本発明の組成物は光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、光の作用により活性ラジカルを発生し、化合物(A)の重合を開始しうる化合物である。光重合開始剤としては、アルキルフェノン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、オキシム化合物等が挙げられる。 【0207】 前記アルキルフェノン化合物としては、α-アミノアルキルフェノン化合物、α-ヒドロキシアルキルフェノン化合物、α-アルコキシアルキルフェノン化合物が挙げられる。前記α-アミノアルキルフェノン化合物としては、2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルスルファニルフェニル)プロパン-1-オン、2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジルブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-(4-メチルフェニルメチル)ブタン-1-オン等が挙げられ、好ましくは2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルスルファニルフェニル)プロパン-1-オン、2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジルブタン-1-オン等が挙げられる。前記α-アミノアルキルフェノン化合物は、 イルガキュア(登録商標)369、379EG、907(以上、BASFジャパン(株)製)、セイクオール(登録商標)BEE(精工化学社製)等の市販品を用いてもよい。 【0208】 前記α-ヒドロキシアルキルフェノン化合物としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパン-1-オンのオリゴマー等が挙げられる。前記α-ヒドロキシアルキルフェノン化合物は、イルガキュア184、2959、127(以上、BASFジャパン(株)製)、セイクオールZ(精工化学社製)等の市販品を用いてもよい。前記α-アルコキシアルキルフェノン化合物としては、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。前記α-アルコキシアルキルフェノン化合物は、イルガキュア651(以上、BASFジャパン(株)製)等の市販品を用いてもよい。 【0209】 前記アルキルフェノン化合物としては、α-アミノアルキルフェノン化合物が好ましく、式(C-1)で表される化合物がより好ましい。これらの化合物であると、得られる光学フィルムの耐熱性、耐湿熱性に優れる。 【0210】 【化128】 [式(C-1)中、Q^(3)は、水素原子又はメチル基を表す。] 【0211】 前記ベンゾイン化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。 前記ベンゾフェノン化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(tert-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン等が挙げられる。 前記オキシム化合物としては、N-ベンゾイルオキシ-1-(4-フェニルスルファニルフェニル)ブタン-1-オン-2-イミン、N-ベンゾイルオキシ-1-(4-フェニルスルファニルフェニル)オクタン-1-オン-2-イミン、N-アセトキシ-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタン-1-イミン、N-アセトキシ-1-[9-エチル-6-{2-メチル-4-(3,3-ジメチル-2,4-ジオキサシクロペンタニルメチルオキシ)ベンゾイル}-9H-カルバゾール-3-イル]エタン-1-イミン等が挙げられる。イルガキュアOXE-01、OXE-02(以上、BASFジャパン社製)、N-1919(ADEKA社製)等の市販品を用いてもよい。 【0212】 前記光重合開始剤は、前記アセトフェノン化合物、前記ベンゾイン化合物、前記ベンゾフェノン化合物、前記オキシム化合物等を、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも光重合開始剤としてアセトフェノン化合物を用いることが好ましい。前記アセトフェノン化合物の使用量は、光重合開始剤全量に対して、90質量部以上であることが好ましく、光重合開始剤全量がアセトフェノン化合物であることがより好ましい。 (中略) 【0229】 1-5.有機溶剤 本発明の組成物は、溶媒を含んでいてもよい。有機溶剤としては、化合物(A)等、組成物の構成成分を溶解し得る有機溶剤であり、重合反応に不活性な溶剤であればよく、具体的には、 (中略) ;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤; (中略) ;等が挙げられる。 (中略) 【0231】 本発明の組成物は、必要に応じて、光増感剤、レベリング剤、カイラル剤等の添加剤を含んでいてもよい。 (中略) 【0233】 1-7.レベリング剤 レベリング剤としては、有機変性シリコーンオイル系、ポリアクリレート系、パーフルオロアルキル系等が挙げられる。具体的には、例えば、 (中略) 、BM-1000、BM-1100、BYK-352、BYK-353、BYK-361N(いずれも商品名:BM Chemie社製)等が挙げられる。これらレベリング剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 (中略) 【0236】 2.光学フィルム 本発明の光学フィルムは、上述した本発明の組成物に含まれる重合性成分を重合してなるものである。本発明の光学フィルムは、光を透過し得るフィルムであって、光学的な機能を有するフィルムである。光学的な機能とは、屈折、複屈折等を意味する。 (中略) 【0244】 2-2.光学フィルムの製造方法 前記光学フィルムは、基材の上に組成物を塗布し、乾燥し、組成物に含まれる化合物(A)を重合することにより製造することができる。以下、光学フィルムの製造方法の一例を説明する。 【0245】 2-2-1.未重合フィルムの作製 基材の上に、組成物を塗布し、乾燥すると、未重合フィルムが得られる。該基材上には、配向膜が形成されていてもよい。未重合フィルムがネマチック相等の液晶相を示す場合、モノドメイン配向による複屈折性を有する。 【0246】 基材への塗布方法としては、例えば、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、CAPコーティング法、ダイコーティング法等が挙げられる。また、ディップコーター、バーコーター、スピンコーター等のコーターを用いて塗布する方法等が挙げられる。 【0247】 前記基材としては、例えば、ガラス、プラスチックシート、プラスチックフィルム、透光性フィルムが好ましい。 (中略) 【0249】 本発明の光学フィルムを製造する際には、前記基材上に配向膜を形成させた後、該配向膜の上に組成物を塗布することが好ましい。このような配向膜を用いれば、光学フィルムに対して延伸による屈折率制御を行う必要がないため、複屈折の面内ばらつきが小さくなる。そのため、フラットパネル表示装置(FPD)の大型化にも対応可能な大きな光学フィルムを提供できる。 【0250】 配向膜は、組成物の塗布時に溶解しない溶剤耐性を持つこと、溶剤の除去や液晶の配向の加熱処理に対する耐熱性をもつこと、ラビング時に、摩擦等による剥がれ等が起きないことが好ましく、配向性ポリマー又は配向性ポリマーを含有する組成物からなることが好ましい。 【0251】 前記配向性ポリマーとしては、例えば、分子内にアミド結合を有するポリアミドやゼラチン類、分子内にイミド結合を有するポリイミド及びその加水分解物であるポリアミック酸、ポリビニルアルコール、アルキル変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾール、ポリエチレンイミン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びポリアクリル酸エステル類等のポリマーを挙げることができる。 (中略) 【0254】 前記基材上に配向膜を形成する方法としては、例えば、前記基材上に、市販の配向膜材料や配向膜の材料となる化合物を溶液にして塗布し、その後、アニールすることにより、前記基材上に配向膜を形成することができる。 (中略) 【0256】 また、前記配向膜には、必要に応じて、ラビングもしくは偏光UV照射のような配向処理を施してもよい。これらの配向処理を施すことにより、化合物(A)を所望の角度及び方向により配向させることができる。 (中略) 【0257】 2-2-2.未重合フィルムの重合 得られた未重合フィルムに含まれる重合性成分を重合させることにより、光学フィルムが得られる。 光学フィルムは、化合物(A)の配向が固定されており、熱による複屈折の変化の影響を受けにくい。 【0258】 未重合フィルムを重合させる方法には、光重合法が用いられる。光重合法によれば、低温で未重合フィルムを重合させることができ、基材の耐熱性の選択幅が広がる。光重合反応は、未重合フィルムに、可視光、紫外光またはレーザー光を照射することにより行われる。取り扱いの点で、紫外光が特に好ましい。 【0259】 なお、溶剤の除去は、重合反応と並行して行ってもよいが、重合反応を行う前に、ほとんどの溶剤を除去することが、成膜性の点で好ましい。その除去方法としては、自然乾燥、通風乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥等の方法が挙げられる。加熱して溶剤を除去する際の温度は、0℃?250℃が好ましく、より好ましくは50℃?220℃、さらに好ましくは80℃?170℃である。加熱時間は、10秒間?60分間が好ましく、より好ましくは30秒間?30分間である。加熱温度および加熱時間が上記範囲内であれば、基材として、耐熱性が必ずしも十分ではないものを用いることができる。 【0260】 化合物(A)を重合させた後、基材を剥離することにより、配向膜と本発明の光学フィルムとが積層されたフィルムが得られ、さらに、配向膜を剥離して、本発明の光学フィルムを得ることができる。また、他の基材を、本発明の光学フィルムに貼合し、先に積層していた基材を剥離する、あるいは、先に積層していた基材および配向膜を剥離することにより、転写を行うこともできる。」 ウ 「【実施例】 【0270】 以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、質量%及び質量部である。 (中略) 【0280】 2.組成物の調製 表1に示す各成分を混合し、得られた溶液を80℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却して組成物を調製した。 (合議体注:上記「表1」は、「表2」の誤記である。) 【0281】 【表2】 【0282】 表中のA11-1、v-1、B-1、B-2、C-1?C-10、BYK361Nは以下の化合物を表す。 【0283】 化合物(A); A11-1:合成例1で得られた化合物(A11-1) v-1:式(v-1)で表される化合物 【0284】 【化134】 【0285】 光重合開始剤(B); B-1:式(B-1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製) 【0286】 【化135】 (中略) 【0289】 酸化防止剤(C); C-1:2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール(東京化成工業製) (中略) レベリング剤; BYK361N(ビックケミージャパン社製) 【0290】 3.光学フィルムの作製 ガラス基板に、ポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール1000完全ケン化型、和光純薬工業(株)製)の2質量%水溶液をスピンコート法により塗布した後、120℃で60分加熱乾燥し、ガラス基板上に厚さ89nmのポリビニルアルコール膜を得た。続いて、ポリビニルアルコール膜の表面にラビング処理を施した。得られたポリビニルアルコール膜に、組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレート上140℃で1分間乾燥させた。その後、80℃に加熱しながらUV露光装置(ユニキュア;ウシオ電機(株)製)を用いて2400mJ/cm^(2)(365nm基準)を照射して、光学フィルムを得た。 【0291】 3-1.位相差値の測定 得られた光学フィルムの正面位相差値を、測定機(KOBRA-WR、王子計測機器社製)を用いて測定した。尚、基材に使用したガラス基板には、複屈折性が無いため、ガラス基板付きフィルムを測定機で計測することにより、ガラス基板上に作製した光学フィルムの正面位相差値を得ることができる。得られた光学測定正面位相差値は、波長451nm、549nm、及び628nmにおいて、それぞれ測定し、[Re(451)/Re(549)](αとする)及び[Re(628)/Re(549)](βとする)を算出した。 【0292】 3-2.色度の測定 紫外可視赤外分光光度計(UV-3150;島津製作所製)を用いて、得られた光学フィルムの透過率を測定した。測定した透過率とC光源の等色関数とから、L^(*)a^(*)b^(*)(CIE)表色系における色度a^(*)及びb^(*)、並びにこれらの絶対値である|a^(*)|及び|b^(*)|を算出した。 【0293】 3-3.光学フィルムの耐湿熱性試験 得られた光学フィルムを、温度60℃湿度90%のオーブン中で1000時間保管した。保管前後の位相差値および色度を測定した。保管前のαに対する試験後のαの差を△α、保管前の|a^(*)|に対する保管後の|a^(*)|の差をΔ|a^(*)|、保管前の|b^(*)|に対する保管後の|b^(*)|の差をΔ|b^(*)|として算出した。△αが-0.2以上+0.2以下、かつΔ|a^(*)|およびΔ|b^(*)|が-3.0以上+3.0以下であれば、光学フィルムの耐湿熱性は良好であると判断できる。位相差値の測定結果を表2に、色度の測定結果を表3に示す。 【0294】 【表3】 【0295】 【表4】 【0296】 実施例の光学フィルムは、△α、Δ|a^(*)|及びΔ|b^(*)|が小さく、耐湿熱性に優れることが示された。また、実施例の中でも、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤を含有する実施例1?6の光学フィルムは、特にΔ|b^(*)|が小さく、耐湿熱性により優れることが示された。」 (2)引用文献1に記載された発明 引用文献1の記載事項ウの表2に基づけば、実施例1に係る光学フィルムは、化合物(A)として、「A11-1」を27質量%、光重合開始剤(B)として「B-1」を2.7質量%、酸化防止剤(C)として「C-1」を0.3質量%、レベリング剤として「BYK361N」を0.1質量%、溶剤として「シクロペンタノン」を69.9質量%の各成分を混合して得られた組成物を用いて作製されたものと理解できる。 そうすると、引用文献1の記載事項ウに基づけば、引用文献1には、実施例1に係る光学フィルムに関する発明として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ガラス基板に、ポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール1000完全ケン化型、和光純薬工業(株)製)の2質量%水溶液をスピンコート法により塗布した後、120℃で60分加熱乾燥し、ガラス基板上に厚さ89nmのポリビニルアルコール膜を得て、続いて、ポリビニルアルコール膜の表面にラビング処理を施し、得られたポリビニルアルコール膜に、以下に示す各成分を混合し、得られた溶液を80℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却して調製した組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレート上140℃で1分間乾燥させ、その後、80℃に加熱しながらUV露光装置を用いて2400mJ/cm^(2)(365nm基準)を照射して得た、光学フィルム。 化合物(A);以下の化合物であるA11-1を27質量% 光重合開始剤(B);B-1:式(B-1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)を2.7質量% 酸化防止剤(C);C-1:2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール(東京化成工業製)を0.3質量% レベリング剤;BYK361N(ビックケミージャパン社製)を0.1質量% 溶剤;シクロペンタノンを69.9質量%」 5 対比 本件発明と引用発明とを対比する。 (1)重合性液晶化合物 引用発明の「化合物(A);以下の化合物であるA11-1」は、その化学構造からみて、本件発明の「重合性液晶化合物」に相当する。また、引用発明の「化合物(A);以下の化合物であるA11-1」は、本件発明の「前記重合性液晶化合物は、式(I)・・・で表される化合物」とする要件を満たしている。 (2)光重合開始剤 引用発明の「光重合開始剤(B);B-1:式(B-1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)」は、技術的にみて、本件発明の「光重合開始剤」に相当する。また、引用発明は、「光重合開始剤(B);B-1:式(B-1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)」を含むものであるから、本件発明の「光重合開始剤を含み」とされる「光重合開始剤組成物」を含んでいるといえる。 (3)組成物 引用発明の「組成物」は、上記「化合物(A);以下の化合物であるA11-1」及び「光重合開始剤(B);B-1:式(B-1)で表される化合物(イルガキュア369;BASFジャパン(株)製)」を含むものである。そうすると、引用発明の「組成物」は、本件発明の「重合性液晶化合物と、光重合開始剤組成物とを含む組成物」に相当する。 (4)液晶硬化膜 引用発明の「光学フィルム」は、「組成物」を「塗布」し、「乾燥」させ、「UV露光装置を用いて2400mJ/cm^(2)(365nm基準)を照射して得た」ものである。そうすると、引用発明の「光学フィルム」は、技術的にみて、本件発明の「重合性液晶化合物と、光重合開始剤組成物とを含む組成物を硬化してなる液晶硬化膜」に相当する。 (5)一致点及び相違点 以上より、本件発明と引用発明とは、 「重合性液晶化合物と、光重合開始剤組成物とを含む組成物を硬化してなる液晶硬化膜であって、 前記光重合開始剤組成物は、光重合開始剤を含み、 前記重合性液晶化合物は、式(I): L-G-D-Ar-D-G-L (I) (式(I)中、Arは置換基を有する又は無置換の芳香族複素環を表す。Dは、それぞれ独立に、単結合または二価の連結基である。Gは、それぞれ独立に、2価の脂環式炭化水素基を表す。Lは、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、少なくとも1つが重合性基を有する。) で表される化合物である液晶硬化膜。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。 [相違点1]光重合開始剤組成物に含まれる光重合開始剤に、本件発明は、「分子内にオキシム構造を有する光重合開始剤」を含むのに対し、引用発明は、分子内にオキシム構造を有する光重合開始剤を含んでいない点。 [相違点2]本件発明は、重合性液晶化合物が「波長300nm以上、380nm以下の範囲に極大吸収波長を有し」ており、液晶硬化膜が「300nm以上、380nm以下の範囲に極大吸収波長を有し」ているのに対し、引用発明は、光重合開始剤(B)及び光学フィルムの極大吸収波長が明らかでない点。 [相違点3]本件発明は、以下の「式(Y)」を満たすのに対し、引用発明は、式(Y)を満たすものであるか、明らかでない点。 93≧(1-P’/P0)×100≧73 …(Y) (式中、P’は液晶硬化膜の厚さ方向に対して垂直な2つの面におけるP値のうち、値が小さい方の面におけるP値を表す。 P0は上記重合性液晶化合物のP値を表す。 P値は、I(1)/I(2)で表される。 I(1)は赤外全反射吸収スペクトル測定によるエチレン性不飽和結合の面内変角振動由来のピーク強度を表し、I(2)は赤外全反射吸収スペクトル測定による芳香環の不飽和結合の伸縮振動由来のピーク強度を表す。) 6 判断 (1)[相違点1]について 引用文献1の記載事項ウには、「本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。」(段落【0270】)と記載されている。また、引用文献1の記載事項イには、光重合開始剤について、「本発明の組成物は光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、光の作用により活性ラジカルを発生し、化合物(A)の重合を開始しうる化合物である。光重合開始剤としては、アルキルフェノン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、オキシム化合物等が挙げられる。」(段落【0206】)、「前記オキシム化合物としては、N-ベンゾイルオキシ-1-(4-フェニルスルファニルフェニル)ブタン-1-オン-2-イミン、N-ベンゾイルオキシ-1-(4-フェニルスルファニルフェニル)オクタン-1-オン-2-イミン、N-アセトキシ-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタン-1-イミン、N-アセトキシ-1-[9-エチル-6-{2-メチル-4-(3,3-ジメチル-2,4-ジオキサシクロペンタニルメチルオキシ)ベンゾイル}-9H-カルバゾール-3-イル]エタン-1-イミン等が挙げられる。イルガキュアOXE-01、OXE-02(以上、BASFジャパン社製)、N-1919(ADEKA社製)等の市販品を用いてもよい。」(段落【0211】)、「前記光重合開始剤は、前記アセトフェノン化合物、前記ベンゾイン化合物、前記ベンゾフェノン化合物、前記オキシム化合物等を、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。」(段落【0212】)と記載されている。上記示唆に基づいて、引用発明の光重合開始剤として、オキシム化合物を併用して光重合開始剤組成物とすることや、イルガキュア369の代わりにオキシム化合物を選択することにより、本件発明の上記[相違点1]に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。 (2)[相違点2]について 引用発明の「化合物(A);以下の化合物であるA11-1」は、本願の明細書段落【0158】?【0160】の記載に基づけば、本願の実施例及び比較例において用いられる「重合性液晶A」と同一の化学構造を有するものであって、極大吸収波長λ_(max)(LC)が、「350nm」であるといえる。そうすると、引用発明の「化合物(A);以下の化合物であるA11-1」は、本件発明の「波長300nm以上、380nm以下の範囲に極大吸収波長を有し」ているとする要件を満たしている。 また、引用発明の「光学フィルム」は、上記「化合物(A);以下の化合物であるA11-1」を含む「組成物」を「塗布」し、「乾燥」させ、「UV露光装置を用いて2400mJ/cm^(2)(365nm基準)を照射して得た」ものである。そうすると、引用発明の「光学フィルム」も、本件発明の「300nm以上、380nm以下の範囲に極大吸収波長を有し」ているとする要件を満たしていると考えられる。 したがって、上記[相違点2]は実質的な相違点ではない。 (3)[相違点3]について ア 引用発明の「光学フィルム」は、「UV露光装置を用いて2400mJ/cm^(2)(365nm基準)を照射して得た」ものである。この重合条件からみれば、引用発明は、重合反応が十分に行われたものといえる。また、引用文献1の記載事項ウには、「実施例の光学フィルムは、△α、Δ|a^(*)|及びΔ|b^(*)|が小さく、耐湿熱性に優れることが示された。」(段落【0296】)と記載されており、ここで「△α」は、「ガラス基板上に作製した光学フィルムの正面位相差値」を「波長451nm、549nm」において、それぞれ測定し、[Re(451)/Re(549)]をαとしたとき(段落【0291】)の、「光学フィルムを、温度60℃湿度90%のオーブン中で1000時間保管」した「保管前のαに対する試験後のαの差」(段落【0293】)である。さらに、引用文献1の記載事項アにも、「本発明によれば、耐湿熱性に優れた光学フィルムを得ることができる。」(段落【0012】)と記載されている。これらの記載に基づけば、引用発明は、湿熱環境下においても、位相差値の変化が小さいものであることが理解できる。 一方、本願の明細書には、「重合性液晶化合物の重合により形成される液晶硬化膜における重合度を、式(Y)を用いて算出できる。」(段落【0032】)、「式(Y)にて算出される値は、73以上、好ましくは83以上である。式(Y)にて算出される値は、高温環境下に晒されても位相差値が低下しない範囲であれば、高い数値であることが好ましい。式(Y)にて算出される値の上限値は、例えば、97未満であってもよく、93以下であってもよい。」(段落【0033】)、「式(Y)にて算出される値が上述の範囲であることは、液晶硬化膜が高温に加熱された場合の位相差値の低下量(変化量)が低減される点において好ましい。」(段落【0034】)と記載されている。これらの記載を参酌すれば、耐湿熱性に優れるとされ、湿熱環境下においても位相差値の変化が小さいとされる引用発明も、本件発明における「式(Y)」の要件を満たす蓋然性が高いといえる。 したがって、上記[相違点3]は実質的な相違点ではない。 イ 仮に、上記[相違点3]が実質的な相違点であるとしても、引用発明は、引用文献1の記載事項アにおける「従来の光学フィルムでは、高湿高温の条件で保管した場合の耐性(耐湿熱性)について必ずしも十分満足できるものではなかった。」(段落【0004】)という課題を解決しようとするものである。そして、記載事項ウに「光学フィルムは、化合物(A)の配向が固定されており、熱による複屈折の変化の影響を受けにくい。」(段落【0258】)と記載されていることから、化合物(A)の配向が固定されることにより、熱による複屈折の変化の影響を受けにくくなり、耐湿熱性が満足できるものとなるといえる。そうすると、引用発明の「光学フィルム」を得るにあたり、化合物(A)の配向が固定される程度に硬化を行えばよいことが理解できる。一方、「光学フィルム」を得るにあたり、コスト等の観点から製造工程を簡略なものとすることは技術常識であるといえる。そうすると、引用発明において「光学フィルム」を得るにあたり、耐湿熱性が満足するように、化合物(A)の配向が固定されるのに必要十分な重合度にとどめ、本件発明における「式(Y)」の要件を満たすものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。 (4)効果について 本件発明の奏する効果は、明細書の段落【0027】の記載に基づけば、「高温環境に晒された場合の位相差値の低下量を低減することができる」というものであると認められる。 一方、引用文献1には、記載事項アに、「本発明によれば、耐湿熱性に優れた光学フィルムを得ることができる。」(段落【0012】)と記載されており、記載事項ウにも、「実施例の光学フィルムは、△α、Δ|a^(*)|及びΔ|b^(*)|が小さく、耐湿熱性に優れることが示された。」(段落【0296】)と記載されている。これらの記載に基づけば、引用発明も、耐湿熱性に優れ、△αが小さい、つまり、耐湿熱性試験前後の位相差値の変化が小さいものである。 したがって、本件発明の効果は、引用発明の効果と同様の効果であって、格別なものということができない。 7 請求人の主張 (1)審判請求人は、令和2年6月4日の意見書において、上記[相違点1]について、引用文献1に列挙された光重合開始剤から、「オキシム化合物」を選択すること、および、そのことによって、「高温環境に晒された場合に、その位相差値の低下量を低減する」との課題を解決できることが、引用文献1には記載も示唆もされていないから、種々の光重合開始剤の中から、「高温環境に晒された場合に、その位相差値の低下量を低減する」ことができる光重合開始剤として、オキシム化合物を選択することを当業者に動機付ける記載は存在しないと主張している。 しかしながら、引用文献1には、前記6(1)に記載したとおりであるから、「オキシム化合物」を選択することについて示唆されている。 また、「高温環境に晒された場合に、その位相差値の低下量を低減する」との課題を解決できることについて、本願明細書には、「重合性液晶化合物の重合により形成される液晶硬化膜における重合度を、式(Y)を用いて算出できる。」(段落【0032】)及び「式(Y)にて算出される値が上述の範囲であることは、液晶硬化膜が高温に加熱された場合の位相差値の低下量(変化量)が低減される点において好ましい。」(段落【0034】)と記載されており、当該記載に基づけば、重合性液晶化合物の重合により形成される液晶硬化膜における重合度が特定の範囲であることによって、上記課題が解決されると理解できる。そして、本件明細書の「重合開始剤としては、光重合開始剤が好ましく、光照射によりラジカルを発生する光重合開始剤がより好ましい」(段落【0070】)「重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、ベンジルケタール化合物、α-ヒドロキシケトン化合物、α-アミノケトン化合物、トリアジン化合物、ヨードニウム塩及びスルホニウム塩が挙げられる。」(段落【0071】)及び「光重合開始剤としては、その分子内にオキシム構造を有することが特に好ましい。」(段落【0072】)との記載によれば、オキシム構造を有する光重合開始剤が特に好ましいとされるものの、必ずしもオキシム構造であることが必要ではなく、段落【0071】に列記されるいずれの化合物でもよいものと理解できる。そして、本件明細書の段落【0074】の記載に基づけば、本件発明は、光重合開始剤が、「20nm<λ(B)-λ_(max)(LC)」又は「20nm<λ_(max)(LC)-λ(A)」の式を満たす2つの極大吸収波長を有することにより、「重合性液晶化合物の光吸収に阻害されることなく、光重合開始剤組成物に含まれる光重合開始剤の光吸収が行われ、重合反応を開始するのに十分な量のラジカルが発生するため、重合反応を好適に行うことができる」のであるから、本件発明において、「オキシム化合物」を選択することは、「高温環境に晒された場合に、その位相差値の低下量を低減する」との課題を解決するための必要条件ではない。 そうすると、審判請求人の上記主張を採用することはできない。 (2)また、審判請求人は、令和2年6月4日の意見書において、上記[相違点3]について、「本願発明にかかる液晶硬化膜は、単に、重合度が高く、上記式(Y)にて算出される値が大きい液晶硬化膜ではなく、上記式(Y)にて算出される値が93以下であり、重合度が過剰に高くならないように制御されています。」、「また、本願の参考例2に、重合度が過剰に高い場合には、高温環境に晒された場合の波長分散性の変化が大きくなることが示されています。このことから、単純に重合度が高ければ光学フィルムとして機能するというものではないことを、当業者であれば理解することができます(本願明細書の[0224]および[0225]の表1を参照)。」、「一方、液晶硬化膜における重合度が過剰に高くならないように抑制(制御)すること、および、そのことによって、液晶硬化膜が高温環境に晒された場合の波長分散性の変化を小さくすることができることは、引用文献1には一切記載も示唆もされていません。」とし、引用文献1?3の記載に基づいて、特に、上記式(Y)にて算出される値を93以下に制御して上記「式(Y)の要件」を充足することに想到することは、当業者にとっても容易ではないと主張している。 しかしながら、前記6(3)イに記載したとおり、引用発明は、「光学フィルム」を得るにあたり、化合物(A)の配向が固定される程度に硬化を行えばよいものであり、コスト等の観点から製造工程を簡略なもの(例えば、露光時間を必要以上にしない等)とすることは技術常識であるといえる。そうすると、引用発明において「光学フィルム」を得るにあたり、耐湿熱性が満足するように、化合物(A)の配向が固定されるのに必要十分な重合度にとどめ、本件発明における「式(Y)」の要件を満たすものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。 したがって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。 8 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1の記載事項及び上記技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-07-31 |
結審通知日 | 2020-08-04 |
審決日 | 2020-08-25 |
出願番号 | 特願2016-145787(P2016-145787) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 清水 督史、後藤 大思 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
神尾 寧 宮澤 浩 |
発明の名称 | 液晶硬化膜、液晶硬化膜を含む光学フィルム、及び表示装置 |
代理人 | 鶴田 健太郎 |
代理人 | 長谷川 和哉 |