• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1367559
審判番号 不服2020-8818  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-25 
確定日 2020-11-10 
事件の表示 特願2016- 86833「シラノール基密度を算出する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 2日出願公開、特開2017-198458、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年4月25日の出願であって、令和元年10月21日付けで拒絶理由が通知され、同年12月18日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年2月19日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年3月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月24日付けで拒絶査定(原査定)がされたところ、これに対し、同年6月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(令和2年4月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1 本願の請求項1ないし5に係る発明は、以下の2点で明確でないから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

(1)「特定元素」が何を意味するのか不明である。

(2)「シランカップリング剤結合量(重量%)」及び「特定元素定量値(重量%)」における「重量%」が、何を基準とした百分率であるのか不明である。

2 本願の請求項1ないし8に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2001-278615号公報
2.特開2008-232877号公報


第3 本願発明

本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、令和2年6月25日にされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である(下線は補正により追加された箇所を示す。)。

「【請求項1】
シラノール基を有する物質のシラノール基に、分子内にシラノール基と反応する官能基を一つ有するシランカップリング剤を結合させ、その結合量の測定値から下記式(I)、式(II)にてシラノール基密度(mol/g)を算出する方法。
式(I):
シランカップリング剤結合量(重量%)=特定元素定量値(重量%)×(シランカップリング剤のシラノール基への結合部分の式量)/(特定元素原子量×シランカップリング剤のシラノール基結合部分中の特定元素含有個数)
ここで、特定元素は、シラノール基を有する物質には含まれないが、シラノール基を有する物質に結合したシランカップリング剤部分に含まれる元素である。
シランカップリング剤結合量(重量%)は、シランカップリング剤に結合したシラノール基を有する物質中の特定元素定量値(重量%)、シラノール基を有する物質のシラノール基に結合したシランカップリング剤の構造式、特定元素原子量、および、シランカップリング剤のシラノール基結合部分中の特定元素含有個数から計算される、シランカップリング剤が結合したシラノール基を有する物質中の、シラノール基に結合したシランカップリング剤の重量百分率である。
式(II):
シラノール基密度(mol/g)=(シランカップリング剤結合量(重量%)/100)/((1-シランカップリング剤結合量(重量%)/100)×シランカップリング剤のシラノール基への結合部分の式量)
ここで、シラノール基の密度(mol/g)は、シランカップリング剤結合量(重量%)、および、シラノール基を有する物質のシラノール基に結合したシランカップリング剤の構造式から計算される、シランカップリング剤が結合したシラノール基を有する物質のシラノール基の密度である。」

なお、本願発明2ないし5は、本願発明1を減縮した発明である。


第4 引用文献、引用発明等

1 引用文献1について

(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審において付加した。引用文献の記載において以下同様。)。

(引1-ア)「【0018】○球状シリカ
本発明により得られる球状シリカは、シラノール基を有している。球状シリカにおけるシラノール基は、カップリングとの反応性に富むため、本発明の球状シリカとカップリング剤を混合すると速やかに反応が進み、球状シリカの表面はカップリング剤で被覆される。好ましいシラノール基の量は、球状シリカ1g当たり6μmol以上5mmol以下であり、より好ましくは10μmol以上1mmol以下である。6μmol/g未満ではシラノール基による効果が不十分であり、5mmol/gを超えると、吸湿性が高くなるために電子材料としては不向きである。
【0019】シラノール基の定量は、シランカップリング剤との反応量から測定する方法が簡便である。これはシランカップリング剤を溶解したベンゼン等の非水溶媒にシリカを分散し、シランカップリング剤の濃度変化をガスクロマトグラフなどで定量して反応したシラノール量を推定する方法であり、化学反応可能な活性シラノールを選択的に測定できる点では優れている。しかし、化学反応を利用するため1mmol/g以下の低濃度の領域では測定誤差が大きくなるため、1mmol/g以下の領域では、シラノールの赤外線吸収により分光学的に測定する方法がより好ましく利用される。具体的には拡散反射法やペースト法などの既知の粉体試料測定法により、FT-IR,FT-NIR等の赤外吸光分光分析装置によってシラノールによる特定波長の吸収量を測定し、シラノール量を決定する方法である。このうち拡散反射法は粉体を直接測定でき、粉体表面の組成をより選択的に測定できる方法として好ましく利用できる。また、シラノールは幾つかの吸収波長域に赤外吸収を持っていることは公知の事実であるが、このうち、3740?3750cm^(-1)あるいは7300?7350 cm^(-1)等に現れるいわゆるフリーシラノールの吸収は水分の影響を受け難く、シラノールの定量には好ましく用いられる。」

(引1-イ)「【0023】
【実施例】以下に実施例によって、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]200L反応器にドデシルベンゼン90kg、乳化剤(日光ケミカル(株)製ヘキサグリンPR-15)0.8kg、純水30kgおよび氷酢酸0.2kgを仕込み、W/O型乳化系を形成させた後、120rpmで攪拌しつつメトキシポリシロキサン(多摩化学(株)製 Mシリケート51)21.5kg、メタノール8.2kgを30分で供給した。その後、2時間保持した後、120℃まで加温した。そして、反応液をろ別、アセトンにより洗浄し、600℃で4時間焼成して白色粉体を得た。この粉末を走査型電子顕微鏡で観察したところそれぞれ独立した真球状であった。
【0024】この粉末を純水に分散してレーザー回折式粒度分布計(堀場製作所(株)製粒度分布計LA500)によって粒度分布を測定したところ、平均粒径は4.9μmでσは1.4であり、カップリング剤(γーグリシドキシプロピルトリメトキシシラン)との反応により測定したシラノール基の含有量は、1.4mmol/gであった。」

(2)引用文献1に記載された発明

ア 上記(引1-イ)の段落【0024】の「カップリング剤(γーグリシドキシプロピルトリメトキシシラン)との反応により測定したシラノール基の含有量は、1.4mmol/gであった」との記載から、上記(引1-ア)の段落【0019】に記載された「シラノール基の定量」は、「シラノール基の含有量(mmol/g)」を測定することであるといえる。

イ また、上記(引1-ア)の段落【0019】に記載された「シランカップリング剤」として、上記(引1-イ)の段落【0024】に記載された「γーグリシドキシプロピルトリメトキシシラン」を用いることが読み取れる。
なお、「γーグリシドキシプロピルトリメトキシシラン」の「γー」は、「γ-」の誤記と認められることから、以下、「γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」と表記する。

ウ 上記ア及びイを踏まえると、上記(引1-ア)及び(引1-イ)の記載から、引用文献1には、

「 シラノール基を有している球状シリカのシラノール基の含有量(mmol/g)を、シランカップリング剤との反応量から測定する方法であって、
シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を溶解したベンゼン等の非水溶媒に球状シリカを分散し、シランカップリング剤の濃度変化をガスクロマトグラフなどで定量して反応したシラノール量を推定する方法。」

の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

2 引用文献2について

(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2には、以下の記載がある。

(引2-ア)「【0009】
本発明によれば、ケイ素を含有する炭素質膜を備える、生体分子の固定用材料が提供される。
【0010】
本固定用材料は、前記炭素質膜は、表面にシラノール基を備えていてもよい。この態様において、前記シラノール基は、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクリルジメチルクロロシラン(FOCS)によって誘導体化後にXPS分析する誘導体化XPS法によってフッ素として検出されるものとすることもできる。」

(引2-イ)「【0038】
炭素質膜4表面のシラノール基を検出するには、例えば、末端基にハロゲンを持つシランカップリング剤を用いてシラノール基に化学修飾を行ったのちXPS分析する方法や、着目する官能基(シラノール基)と指標となる元素を含んだ試薬との置換反応の後にXPS分析して指標元素を検出することによりシラノール基を検出する誘導体化XPS法等により行うことができる。好ましくは、誘導体化XPS法である。この手法によれば、微量のシラノール基であっても高感度に検出することができる。
【0039】
誘導体化XPS法は、具体的には以下の手順で行うことができる。すなわち、まず、指標となる元素(フッ素など)を含む誘導体化試薬をクロロホルム等の溶媒で例えば1%希釈した溶液中に試料を誘導化するのに十分な時間(例えば、1時間)浸漬し、その後、適当な溶媒、例えば、試薬を溶解した前記溶媒で洗浄する。洗浄にあたっては、超音波洗浄等により残存する誘導体化試薬をできるだけ除去することが好ましい。次いで、洗浄後の試料をXPS装置内に入れ、指標元素の定量を行う。これにより、炭素質膜4の表面に存在するSi-OH基の生成量を間接的に求めることができる。なお、ケイ素を含まない以外は試料と同一組成の対照試料を準備して、試料と同等の条件で指標元素を定量し、対照試料について得られた指標元素量を試料について得られた指標元素量から差分した数値を指標元素量とすることで、測定値の精度及び再現性を確保することが好ましい。
【0040】
誘導体化XPS法によりシラノール基を検出する場合、誘導体化試薬としては、例えば、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル-1,1,1-トリクロロシランやトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)を用いることができる。好ましくは、FOCSである。FOCSは、反応部位が1ヶ所であるために重合反応がおきにくく、且つフッ素を複数含むことで微量のシラノール基をより高感度に検出することができる。」

(引2-ウ)「【0062】
2.シラノール基の検出
実施例1,2及び比較例1の各試料表面におけるシラノール基の存在を確認するために、誘導体化XPS法によりシラノール分析を行った。具体的には、まず、誘導体化試薬であるトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)をクロロホルムで1%に希釈した溶液中に各試料を1時間浸漬した。次に、クロロホルムにより2回繰り返し洗浄し、2分間超音波洗浄を行った。その試料をXPS装置(アルバック・ファイ(株)製、型番:PHI-5500-MC)内に入れ、フッ素量を求めた。その結果を表1に示す。なお、表1におけるフッ素量は、対照試料としての比較例1のフッ素量を差分した値を示す。」

(引2-エ)「【0059】
・・・
【表1】



(2)引用文献2に記載された発明

ア 上記(引2-イ)の段落【0039】の「誘導体化XPS法は、・・・指標となる元素(フッ素など)を含む誘導体化試薬を・・・XPS装置内に入れ、指標元素の定量を行う」及び(引2-ウ)の段落【0062】の「誘導体化試薬であるトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)を・・・XPS装置・・・内に入れ、フッ素量を求めた」との記載から、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)はフッ素を指標元素とする誘導体化試薬であることが読み取れる。

イ 上記(引2-エ)の【表1】中の「フッ素量[at%]」との記載から、上記(引2-ア)の段落【0010】に記載された「フッ素として検出」は、「フッ素量(at%)として検出」することであるといえる。

ウ 上記(引2-ア)の段落【0010】に記載された「トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクリルジメチルクロロシラン(FOCS)」は、上記(引2-イ)の段落【0040】及び上記(引2-ウ)の段落【0062】に記載された「トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)」と同じ略称が用いられていることから、「トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)」であると認める。

エ 上記アないしウを踏まえると、上記(引2-ア)ないし(引2-エ)の記載から、引用文献2には、

「 表面にシラノール基を備えている、ケイ素を含有する炭素質膜を備える、生体分子の固定用材料の、炭素質膜表面のシラノール基を、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)によって誘導体化後にXPS分析する誘導体化XPS法によってフッ素量(at%)として検出する方法であって、
フッ素を指標元素とする誘導体化試薬であるトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)をクロロホルムで1%に希釈した溶液中に試料を1時間浸漬し、
次に、クロロホルムにより2回繰り返し洗浄し、2分間超音波洗浄を行い、
その試料をXPS装置内に入れ、フッ素量(at%)を求める、
方法。」

の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。


第5 対比・判断

1 本願発明1について

(1)本願発明1と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「シラノール基を有している球状シリカ」は、本願発明1の「シラノール基を有する物質」に相当する。

イ 引用発明1の「シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)」は、3つの「メトキシ」がシラノール基と反応するものであるから、引用発明1の「シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)」と、本願発明1の「分子内にシラノール基と反応する官能基を一つ有するシランカップリング剤」とは、「分子内にシラノール基と反応する官能基を有するシランカップリング剤」で共通する。

ウ 引用発明1は「シラノール基を有している球状シリカのシラノール基の含有量(mmol/g)を、シランカップリング剤との反応量から測定する方法」であるところ、「シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を溶解したベンゼン等の非水溶媒に球状シリカを分散」させることにより、球状シリカのシラノール基にシランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)が結合することは明らかである。
よって、引用発明1の「シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を溶解したベンゼン等の非水溶媒に球状シリカを分散し」は、本願発明1の「シラノール基を有する物質のシラノール基に」「シランカップリング剤を結合させ」に相当する。

エ 引用発明1は、「シランカップリング剤の濃度変化をガスクロマトグラフなどで定量して反応したシラノール量を推定する」ものであるが、定量した「シランカップリング剤の濃度変化」から、どのようにして「反応したシラノール量」を求めるのかは特定されていない。
しかしながら、引用発明1は、「シラノール基の含有量(mmol/g)を、シランカップリング剤との反応量から測定する」ものであり、「シランカップリング剤の濃度変化」は「反応したシランカップリング剤量」に相関することから、引用発明1は、「シランカップリング剤の濃度変化」から「反応したシランカップリング剤量」を求め、それにより「反応したシラノール量」を求めるものといえる。
そして、引用発明1において、使用する「シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)」、「ベンゼン等の非水溶媒」及び「球状シリカ」の量は既知であるといえるから、「シランカップリング剤の濃度変化」から「反応したシランカップリング剤」の「総量」を求めることができ、反応したシランカップリング剤のmol数が計算可能であり、それにより反応したシラノール基のmol数も計算可能であることから、引用発明1は、シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)に結合したシラノール基を有している球状シリカ中の特定元素定量値(重量%)や、シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)が結合したシラノール基を有する球状シリカ中の、シラノール基に結合したシランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)の重量百分率であるシランカップリング剤結合量(重量%)を求める必要がないものである。
なお、引用発明1の球状シリカが炭素を含有している場合は、シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)には、本願発明1の「シラノール基を有する物質には含まれないが、シラノール基を有する物質に結合したシランカップリング剤部分に含まれる元素である」「特定元素」に相当する元素は存在しない。

オ 引用発明1の「シラノール基の含有量(mmol/g)」は、本願発明1の「シラノール基密度(mol/g)」に含まれるといえる。

カ 上記エ及びオを踏まえると、引用発明1の「シラノール基の含有量(mmol/g)を、シランカップリング剤との反応量から測定する方法」と、本願発明1の「その結合量の測定値から下記式(I)、式(II)にてシラノール基密度(mol/g)を算出する方法」とは、「その結合量の測定値からシラノール基密度(mol/g)を算出する方法」で共通する。

(2)そうすると、本願発明1と引用発明1とは、

「 シラノール基を有する物質のシラノール基に、分子内にシラノール基と反応する官能基を有するシランカップリング剤を結合させ、その結合量の測定値からシラノール基密度(mol/g)を算出する方法。」

の発明である点で一致し、次の2点において相違する。

(相違点1)
シラノール基を有する物質のシラノール基に結合させるシランカップリング剤について、その分子内に有する、シラノール基と反応する官能基の数が、本願発明1においては、「一つ」であるのに対し、引用発明1においては、トリメトキシの「3つ」である点。

(相違点2)
シランカップリング剤の結合量の測定値からシラノール基密度(mol/g)を算出する際に、本願発明1においては、「下記式(I)、式(II)にて」算出するのに対し、引用発明1においては、「下記式(I)、式(II)」を用いない点。
式(I):
シランカップリング剤結合量(重量%)=特定元素定量値(重量%)×(シランカップリング剤のシラノール基への結合部分の式量)/(特定元素原子量×シランカップリング剤のシラノール基結合部分中の特定元素含有個数)
ここで、特定元素は、シラノール基を有する物質には含まれないが、シラノール基を有する物質に結合したシランカップリング剤部分に含まれる元素である。
シランカップリング剤結合量(重量%)は、シランカップリング剤に結合したシラノール基を有する物質中の特定元素定量値(重量%)、シラノール基を有する物質のシラノール基に結合したシランカップリング剤の構造式、特定元素原子量、および、シランカップリング剤のシラノール基結合部分中の特定元素含有個数から計算される、シランカップリング剤が結合したシラノール基を有する物質中の、シラノール基に結合したシランカップリング剤の重量百分率である。
式(II):
シラノール基密度(mol/g)=(シランカップリング剤結合量(重量%)/100)/((1-シランカップリング剤結合量(重量%)/100)×シランカップリング剤のシラノール基への結合部分の式量)
ここで、シラノール基の密度(mol/g)は、シランカップリング剤結合量(重量%)、および、シラノール基を有する物質のシラノール基に結合したシランカップリング剤の構造式から計算される、シランカップリング剤が結合したシラノール基を有する物質のシラノール基の密度である。

(3)判断

ア 上記相違点1について検討する。

(ア)引用発明2の「誘導体化試薬であるトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)」は、「クロロ」がシラノール基と反応するものであるから、本願発明1の「分子内にシラノール基と反応する官能基を一つ有するシランカップリング剤」に相当する。

(イ)上記(引2-イ)の段落【0040】の「誘導体化XPS法によりシラノール基を検出する場合、誘導体化試薬としては、・・・好ましくは、FOCSである。FOCSは、反応部位が1ヶ所であるために重合反応がおきにくく」との記載から、反応部位を複数有する誘導体化試薬は、シラノール基と反応する以外に誘導体化試薬同士で重合反応することから、シラノール基と反応した誘導体化試薬量を正確に測定できない問題を有していることが読み取れる。
そして、この問題は、誘導体化XPS法においてのみならず、シラノール基と反応した試薬量を測定する技術に共通する問題であると認められる。

(ウ)また、上記(引1-ア)の段落【0019】に「化学反応を利用するため1mmol/g以下の低濃度の領域では測定誤差が大きくなるため、1mmol/g以下の領域では、シラノールの赤外線吸収により分光学的に測定する方法がより好ましく利用される」と測定誤差を問題にする旨の記載があることから、球状シリカのシラノール基の含有量を測定する引用発明1において、測定精度の向上は自明の課題であるといえる。

(エ)してみると、引用発明1において、球状シリカのシラノール基の含有量の測定精度を向上させるために、シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)に代えて引用発明2のトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)を用い、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ 次に、上記相違点2について検討する。

(ア)上記(1)エでも述べたように、引用発明1において、使用する「シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)」、「ベンゼン等の非水溶媒」及び「球状シリカ」の量は既知であるといえるから、「シランカップリング剤の濃度変化」から「反応したシランカップリング剤」の「総量」を求めることができ、反応したシランカップリング剤のmol数が計算可能であり、それにより反応したシラノール基のmol数も計算可能であることから、引用発明1は、シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)に結合したシラノール基を有している球状シリカ中の特定元素定量値(重量%)や、シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)が結合したシラノール基を有する球状シリカ中の、シラノール基に結合したシランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)の重量百分率であるシランカップリング剤結合量(重量%)を求める必要がないものである。

(イ)そして、引用発明1において、球状シリカのシラノール基の含有量(mmol/g)を測定するために、シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)に結合したシラノール基を有している球状シリカ中の特定元素定量値(重量%)や、シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)が結合したシラノール基を有する球状シリカ中の、シラノール基に結合したシランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)の重量百分率であるシランカップリング剤結合量(重量%)を求めるようにすることを動機付ける特段の事情があるとも認められない。

(ウ)また、一般に、球状シリカにフッ素は含有されていないことから、引用発明1で用いる場合の引用発明2の「トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)」に含まれる「フッ素」は、本願発明1の「シラノール基を有する物質には含まれないが、シラノール基を有する物質に結合したシランカップリング剤部分に含まれる元素である」「特定元素」に相当する。

(エ)しかしながら、シランカップリング剤の濃度変化を定量するためにフッ素濃度の変化を定量するようにした場合であっても、それから「反応したシランカップリング剤」の「総量」を求めることができるのであるから、「特定元素」が存在することが、本願発明1の「特定元素定量値(重量%)」や「シランカップリング剤結合量(重量%)」を求めるようにする動機付けとなるものではない。

(オ)さらに、引用発明1のシランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)に代えて引用発明2のトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(FOCS)を用いるとともに、シラノール基の測定に引用発明2の「誘導体化XPS法」を採用する場合について検討してみても、球状シリカの表面に存在するフッ素(本願発明1の「特定元素」に相当。)量(at%)が求まるものであって、フッ素の重量%が求まるものではない。

(カ)したがって、引用文献1及び2に接した当業者といえども、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとはいえない。

ウ よって、本願発明1は、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし5について

本願発明2ないし5も、本願発明1の式(I)、式(II)にてシラノール基密度(mol/g)を算出する(式(I)、式(II)省略)ことと同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 原査定について

1 理由1(特許法第36条第6項第2号)について

(1)審判請求時の補正により、「特定元素」について、請求項1の記載において、「ここで、特定元素は、シラノール基を有する物質には含まれないが、シラノール基を有する物質に結合したシランカップリング剤部分に含まれる元素である。」と特定された。

(2)審判請求時の補正により、「シランカップリング剤結合量(重量%)」及び「特定元素定量値(重量%)」について、請求項1の記載において、それぞれ、「シランカップリング剤が結合したシラノール基を有する物質中の、シラノール基に結合したシランカップリング剤の重量百分率である」及び「シランカップリング剤に結合したシラノール基を有する物質中の特定元素定量値(重量%)」と特定された。

(3)したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

2 理由2(特許法第29条第2項)について

本願発明1ないし5は、「式(I)、式(II)にてシラノール基密度(mol/g)を算出する」(式(I)、式(II)省略)という事項を有するものであり、上記第5で検討したとおり、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1及び2に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由2を維持することはできない。


第7 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-10-26 
出願番号 特願2016-86833(P2016-86833)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
P 1 8・ 537- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 倉持 俊輔  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 伊藤 幸仙
渡戸 正義
発明の名称 シラノール基密度を算出する方法  
代理人 一條 力  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ