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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1367722
審判番号 不服2019-14225  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-25 
確定日 2020-10-29 
事件の表示 特願2015-165101「発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月25日出願公開、特開2016-154205〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成27年8月24日(優先権主張 平成27年2月13日)を出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。

平成30年11月 7日付け 拒絶理由の通知
平成30年12月26日 意見書・手続補正書の提出
平成31年 4月 1日付け 拒絶理由の通知
令和 元年 5月28日 意見書・手続補正書の提出
令和 元年 8月29日付け 拒絶査定
令和 元年10月25日 本件審判請求・手続補正書の提出


第2 令和元年10月25日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年10月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のように補正された(下線は補正箇所であり、請求人が付与したものである。)。
「【請求項1】
440nm以上460nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と、
640nm以上670nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が10%以下である発光スペクトルを有し、下記組成式(I)で表される第一の蛍光体と、520nm以上544nm未満の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が30%以下である蛍光を発する第二の蛍光体とを含み、前記第一の蛍光体の前記第二の蛍光体に対する含有比が重量基準で0.1以上1以下である蛍光部材と、を備え、
440nm以上460nm以下の範囲における最大発光強度を100%とする場合に、
590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が7.5%以下である発光スペクトルを有し、
CIE1931に規定されるxy色度座標がx=0.220以上0.340以下且つy=0.160以上0.340以下の範囲である光を発する発光装置。
M^(a)_(x)M^(b)_(y)Al_(3)N_(z):Eu(I)
(式(I)中、M^(a)は、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M^(b)は、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ、0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1.2、及び3.5≦z≦4.5を満たす。)」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
440nm以上460nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と、
640nm以上670nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が10%以下である発光スペクトルを有し、下記組成式(I)で表される第一の蛍光体と、520nm以上550nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が30%以下である蛍光を発する第二の蛍光体とを含み、前記第一の蛍光体の前記第二の蛍光体に対する含有比が重量基準で0.1以上1以下である蛍光部材と、を備え、
440nm以上460nm以下の範囲における最大発光強度を100%とする場合に、
590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が7.5%以下である発光スペクトルを有し、
CIE1931に規定されるxy色度座標がx=0.220以上0.340以下且つy=0.160以上0.340以下の範囲である光を発する発光装置。
M^(a)_(x)M^(b)_(y)Al_(3)N_(z):Eu(I)
(式(I)中、M^(a)は、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M^(b)は、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ、0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1.2、及び3.5≦z≦4.5を満たす。)」

2 補正の目的
(1)
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、本件補正前(令和元年5月28日付け手続補正書)の特許請求の範囲の請求項1に、「第二の蛍光体」について
「520nm以上550nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、」とあったものを、
本件補正後の請求項1では
「520nm以上544nm未満の範囲に発光ピーク波長を有し、」
と補正する内容を含むものである。
(2)
上記(1)の補正内容は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な「第二の蛍光体」の「ピーク波長の範囲」を、「520nm以上550nm以下」から「520nm以上544nm未満」と減縮するものであって、その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(3)
よって、本件補正後の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められることから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を、以下検討する。

3 独立特許要件
(1) 本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)「本件補正後の特許請求の範囲の記載」に、本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(2) 各引用文献の記載、及び、引用発明の認定
ア 引用文献1:特開2010-10039号公報
(ア) 引用文献1の記載事項
a
原査定において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2010-10039号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審で付加。以下同様。)
「【請求項1】
励起光を発する半導体発光素子と、
前記励起光を吸収して緑色光を発するEu賦活β型サイアロン蛍光体と、
前記励起光を吸収して赤色光を発する赤色蛍光体と
を含む半導体発光装置を含み、青色光と緑色光と赤色光との混色により白色光を発することのできる画像表示装置であって、
前記青色光の発光スペクトルにおいて、発光強度の最大値をPI(max)とし、波長500nmにおける発光強度をPI(500)とし、波長520nmにおける発光強度をPI(520)とすると、PI(max)、PI(500)およびPI(520)が以下の条件式(1)、(2)を満たすことを特徴とする画像表示装置。
PI(500)/PI(max)≦0.60 (1)
PI(520)/PI(max)≦0.19 (2)
・・・(中略)・・・
【請求項4】
前記Eu賦活β型サイアロン蛍光体の発光スペクトルのピーク波長が520nm?535nmであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記Eu賦活β型サイアロン蛍光体の発光スペクトルの半値幅が55nm以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の画像表示装置。
・・・(中略)・・・
【請求項7】
前記半導体発光素子の発光スペクトルのピーク波長が440?460nmであることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項8】
前記赤色蛍光体の発光スペクトルのピーク波長が620?670nmであることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項9】
前記赤色蛍光体の発光スペクトルの半値幅が110nm以下であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項10】
前記赤色蛍光体の発光スペクトルの半値幅が95nm以下であることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項11】
前記赤色蛍光体がEu賦活CaAlSiN_(3)を含むことを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載の画像表示装置。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子と蛍光体と液晶表示装置とを用いた画像表示装置に関する。
【0002】
近年、小型液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)用バックライトの開発競争が激化している。この分野においては、様々な方式のバックライト光源が提案されているが、明るさと色再現性(NTSC比)とを同時に満足する方式は見つかっていないのが現状である。ここで、NTSC比とは、NTSC(National Television System Comittee)が定めた赤、緑、青各色のCIE1976色度図上の色度座標(u’,v’)(赤(0.498,0.519)、緑(0.076,0.576)、青(0.152,0.196))を結んで得られる三角形の面積に対する、CIE1976色度図における色度座標(u’,v’)の赤、緑、青各色の色度座標を結んで得られる三角形の面積の比率である。」

「【0007】
しかし、特許文献4に記載のβ型サイアロン蛍光体の発光スペクトルは、短波長側の500nm辺りにも発光スペクトルが広がっていることから、青色光と組み合わせて画像表示を形成した際に、特許文献4に記載のβ型サイアロン蛍光体の発光スペクトルの短波長側が、青色光の発光スペクトルと重なってしまい、青色光の一部に緑色光が混色してしまうことから、青色光の色再現性が悪くなるという問題がある。すなわち、青色光と組み合わせて特許文献4に記載のβ型サイアロン蛍光体を用いる場合、特許文献4に記載のβ型サイアロン蛍光体の発光スペクトルと青色光の発光スペクトルとの重なりが少なくできる青色光を選ばない限り、色再現性(NTSC比)のより高い画像表示装置を得られない。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的とするところは、ディスプレイに用いられる、半導体発光装置およびこれを用いた色再現性のより高い画像表示装置を提供することである。」

「【0046】
得られたEu賦活βサイアロン蛍光体の粉末を450nmの光で励起した際の発光スペクトルをF-4500(日立製作所製)を用いて測定した結果、図5に示される発光スペクトルが得られた。図5において縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図5に示す発光スペクトルの色度座標は(u’,v’)=(0.129,0.570)、ピーク波長は540nm、半値幅は55nmであった。また、燃焼法による酸素窒素分析計(LECO社製TC436型)を用いて、これらの合成粉末中に含まれる酸素および窒素量を測定したところ、酸素含有量は1.12質量%であった。」

「【0050】
得られたEu賦活βサイアロン蛍光体の粉末を450nmの光で励起した際の発光スペクトルをF-4500(日立製作所製)を用いて測定した結果、図6に示される発光スペクトルが得られた。図6において縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図6に示す発光スペクトルの色度座標は(u’,v’)=(0.110,0.577)、ピーク波長は528nm、半値幅は51nmであった。また、燃焼法による酸素窒素分析計(LECO社製TC436型)を用いて、これらの合成粉末中に含まれる酸素および窒素量を測定したところ、酸素含有量は0.4質量%であった。
・・・(中略)・・・
【0053】
図7は、得られた赤色蛍光体粉末の発光スペクトルを示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。なお、図7に示す赤色蛍光体粉末の発光スペクトルも、F-4500(日立製作所製)を用いて測定した結果である。なお、図7に示す発光スペクトルは、450nmの光で励起した際のものである。図7に示す発光スペクトルの色度座標は(u’,v’)=(0.460,0.530)、ピーク波長は650nm、半値幅は94nmであった。」

「【0058】
【表2】


「【0061】
【表3】


「【0073】
上述した表3には、実施例1?8、比較例1?4に示される画像表示装置において、画面上表示光のCIE1976色度座標でのNTSC比、白色点、赤色点、緑色点、青色点の色度座標が併せて示されている。ここで、赤色点、緑色点、青色点とはディスプレイ上にそれぞれ、赤色カラーフィルタ、緑色カラーフィルタ、青色カラーフィルタを透過する光のみを表示させた際のディスプレイ上の色度点であり、白色点とは全てのカラーフィルタをフルオープンにした際のディスプレイ上の色度点である。なお、表3に示されるNTSC比は大塚電子製MCPD-2000を用いて測定した。」

b
図5,6は以下のものである。


c
(a)
図5において、ピーク波長における発光強度(最大発光強度)は、0.9程度であり、590nm?610nmにおける発光強度は、0.2?0.1程度であることが見て取れる。ここで、最大発光強度を100%とした場合の30%の発光強度の値は、0.27であり、590nm?610nmにおける発光強度は、この波長帯域のすべての区間で0.27以下であるから、平均発光強度も0.27以下である。
そうすると、図5に記載の「Eu賦活βサイアロン蛍光体」は、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が30%以下であるといえる。
(b)
図6に記載の「Eu賦活βサイアロン蛍光体」も、同様に最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が30%以下であるといえる。
(c)
したがって、引用文献1に記載の「Eu賦活βサイアロン蛍光体」は、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が30%以下であるといえる。


(イ) 引用発明
以上の記載から、引用文献1には、以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。
「励起光を発する半導体発光素子と、
前記励起光を吸収して緑色光を発するEu賦活β型サイアロン蛍光体と、
前記励起光を吸収して赤色光を発する赤色蛍光体と
を含む半導体発光装置であって、(【請求項1】)
前記Eu賦活β型サイアロン蛍光体の発光スペクトルのピーク波長が520nm?535nmであり、(【請求項4】)
前記Eu賦活β型サイアロン蛍光体の発光スペクトルの半値幅が55nm以下であり、(【請求項1】)
前記Eu賦活βサイアロン蛍光体は、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が30%以下であり、(上記(ア)c(c))
前記半導体発光素子の発光スペクトルのピーク波長が440?460nmであり、(【請求項7】)
前記赤色蛍光体の発光スペクトルのピーク波長が620?670nmであり、(【請求項8】)
前記赤色蛍光体の発光スペクトルの半値幅が95nm以下であり、(【請求項10】)
前記赤色蛍光体がEu賦活CaAlSiN_(3)を含む(【請求項11】)
半導体発光装置。」(【請求項1】)


イ 引用文献2:特開2010-93132号公報
原査定において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2010-93132号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子と蛍光体とを備える半導体発光装置およびそれを用いた画像表示装置、液晶表示装置に関する。」

「【0023】
上記Eu賦活βサイアロン蛍光体は、赤色蛍光体として特開2006-16413号公報に示されるEu賦活CaAlSiN_(3)蛍光体を用いる組み合わせで発光装置を構成した場合、緑色蛍光体と赤色蛍光体の発光スペクトルの重なりが大きく、画像表示装置に用いた際に、色再現域が狭くなってしまう。しかし、本発明においては、赤色蛍光体としてMn^(4+)賦活Mgフルオロジャーマネート蛍光体およびMn^(4+)賦活K_(2)MF_(6)(M=Si、Ge、Ti)蛍光体のようなMn^(4+)賦活蛍光体を用いているため、このような赤色蛍光体と緑色蛍光体のスペクトルの重なりの問題は緩和される。これは、本発明において用いている赤色蛍光体が、Eu賦活CaAlSiN_(3)蛍光体と比較して発光スペクトルの半値幅が狭いことに起因する。」


ウ 引用文献3:特開2010-177656号公報
原査定において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2010-177656号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオードユニットに関し、より詳細には、色再現性が高く、寿命を延長することができる発光ダイオードユニット及びこれを含む表示装置に関する。」

「【0028】
図2を参照すると、既存の蛍光物質を利用した発光ダイオードユニットは、波長の大きさに従って、青色ピークBL、緑色ピークGF、赤色ピークRFが順次に現れる。青色、緑色、赤色ピークBL、GF、RFは、全てがカラーフィルタを使用した時より半値幅が狭い。
特に、青色ピークBLは、半値幅がカラーフィルタを使用した時より相対的に非常に狭いだけではなく、既存の発光ダイオードユニットの他の色の色ピーク、緑色ピークGF、或いは赤色ピークRFよりも狭い。これによって、狭い範囲で強い強度に現れるので、色再現性が他の色に比べて優秀である。これは、既存発明の発光ダイオードユニットは、青色発光ダイオードを基本に実装しているので、青色ピークBLは、発光ダイオード光源の半値幅を有する。
【0029】
ところが、従来の発光ダイオードユニットにおいて、グラフから分かるように緑色ピークGFと赤色ピークRFは、カラーフィルタを使用した時より、相対的に半値幅が狭いが、青色ピークBLよりは、半値幅が広く、強度も青色ピークBLより弱い。これは、緑色ピークGFと赤色ピークRFは、青色発光ダイオードから発光された光を吸収して異なる波長の光を発光する蛍光体からの発光された光であるためである。
【0030】
これによって、青色ピークBLより半値幅が相対的に広く、隣接した他の色ピークと重なる。即ち、半値幅が広い蛍光体を適用した場合は、グラフから分かるように赤色ピークRFと緑色ピークGFが重なって、580nm附近の黄色領域の光の密度を高めるようになり、赤色と緑色のカラーフィルタを全て透過して純粋な赤色と緑色を具現することができないという問題が発生する。その結果、このような隣接光の間の混色によって白色光の品質が落ちるようになる。」

エ 引用文献4:国際公開第2013/175336号
(ア)
原査定において引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である国際公開第2013/175336号(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。日本語訳は引用文献4のファミリー文献である特表2015-526532号公報を参考に当審で作成した。
a


」(CLAIMS:1)
「日本語訳:
【請求項1】
光源光を生成する光源と、前記光源光の少なくとも一部を発光材料光に変換する発光材料とを有する照明ユニットであって、前記光源は発光ダイオード(LED)を有し、
前記発光材料は蛍光体を有し、前記蛍光体は、化学式
M_(1-x-y-z)Z_(z)A_(a)B_(b)C_(c)D_(d)E_(e)N_(4-n)O_(n):ES_(x),RE_(y) (I)
を有し、
Mは、Ca、Sr及びBaから成る群より選択され、
Zは、一価のNa、K及びRbから成る群より選択され、
Aは、二価のMg、Mn、Zn及びCdから成る群より選択され、
Bは、三価のB、Al及びGaから成る群より選択され、
Cは、四価のSi、Ge、Ti及びHfから成る群より選択され、
Dは、一価のLi及びCuから成る群より選択され、
Eは、P、V、Nb及びTaから成る群より選択され、
ESは、二価のEu、Sm及びYbから成る群より選択され、
REは、三価のCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びTmから成る群より選択され、
0≦x≦0.2;0≦y≦0.2;0<x+y≦0.4;
0≦z<1;
0≦n≦0.5;
0≦a≦4;0≦b≦4;0≦c≦4;0≦d≦4;0≦e≦4;
a+b+c+d+e=4及び
2a+3b+4c+d+5e=10-y-n+z
である、当該照明ユニット。」

「21. An LCD display device comprising the lighting unit according any one of claims 1-9 configured as backlighting unit.」(CLAIMS:21)
「日本語訳:
【請求項21】
バックライティングユニットとして請求項1ないし9のいずれか一項に記載の照明ユニットを有する、LCD表示装置。」

b
「FIELD OF THE INVENTION
The invention relates to a class of new phosphors, as well as individual members thereof, and to a lighting unit comprising one or more of such phosphors, and optionally one or more other phosphors, for generating luminescence.」(第1頁第1-4行)
「日本語訳:【技術分野】
本発明は、発光を作り出す新規蛍光体及びその個々の要素並びにそのような蛍光体の1つ以上を有する照明ユニットと、オプションで、1つ以上の他の蛍光体の分野に関する。」(【0001】)

c
「Requirements for a red phosphor component in a white LED may be that a color rendering of Ra8 > 90 is obtained and that (optionally in combination with other phosphors) a correlated color temperature in the 2500-5000 K range can be obtained. Ideally, the red phosphor component should show an emission peak in the 605 - 635 nm wavelength range with a full-width-half-maximum (FWHM) less than 80 nm. Requirements for a red phosphor component in a white LED may be that in a display backlighting configuration a color gamut of > 90% of the NTSC standard is obtained and that (optionally in combination with other phosphors) a correlated color temperature in the 7000-11000 K range can be obtained. Ideally, the red phosphor component should show an emission peak in the 630 - 655 nm wavelength range with a full-width-half-maximum (FWHM) less than 80 nm.
However, as indicated above, also phosphors having other characteristics may be of interest.
The present invention advantageously provides alternative phosphors, which amongst others may advantageously have one or more of the following properties: (1) emitting in one or more parts of the visible spectrum, at least in one or more of the green, yellow and the red, especially the red, (2) having a good efficiency,(3) having a narrow band width (in the red), (4) having a high colorrendering Ra (assuming a red phosphor), and (5) having other advantageous(optical) properties (such as a long life time / high stability).」(第4頁第14-31行)
「日本語訳:
白色LEDにおける赤色蛍光体成分の必要条件は、Ra8>90の演色が得られ、(オプションで他の蛍光体と組み合わせて)2500ないし5000Kの範囲の相関色温度が得られることである。理想的には、赤色蛍光体成分は、80nmよりも小さい半値全幅(FWHM)で605ないし635nmの波長範囲内に発光ピークを示すべきである。白色LEDにおける赤色蛍光体成分の必要条件は、ディスプレイのバックライトの構成においてNTSC規格の90%よりも大きい色域が得られ、(オプションで他の蛍光体と組み合わせて)7000ないし11000Kの範囲の相関色温度が得られることである。理想的には、この赤色蛍光体成分は、80nmよりも小さい半値全幅(FWHM)で630ないし655nmの波長範囲内に発光ピークを示すべきである。
しかしながら、上記に示したように、他の特性を有する蛍光体も対象である。
本発明は、以下の性質、すなわち、(1)可視スペクトルの1つ以上の部分、少なくとも緑、黄及び赤の1つ以上、特に、赤で発光する、(2)優れた効率を有する、(3)(赤において)狭帯域幅を有する、(4)(赤色蛍光体を仮定して)高い演色性Raを有する及び(5)(長い寿命/高い安定性のような)他の有利な(光学的)性質を有する性質の1つ以上を有利に有する代替の蛍光体を有利に提供する。」(【0012】-【0014】)

d
「Fig. 4a: Photoluminescence spectrum of Sr[LiAl_(3)]N_(4) doped with 1 % Europium in comparison with CaSiAlN_(3):Eu(dashed); also the reflectance spectra (r) are shown;」(第25頁第17-19行)
「日本語訳:図4aは、CaSiAlN_(3):Eu(破線)と比較した1%ユーロピウムがドープされたSr[LiAl_(3)]N_(4)の蛍光スペクトルであり、反射スペクトル(r)も示されている。」(【0105】)
e
「SrLiAl_(3)N_(4):Eu(l%)
The phosphor is synthesized by using a conventional solid-state reaction in nitrogen atmosphere. The mixture of the starting compounds SrH_(2), Li_(3)N, Al, and EuF_(3) is fired at 1250°C for at least 5 hours. The calculated doping level of Europium is 1 mol%. The photo luminescence spectrum excited at 444 nm shows a peak emission at about 656 nm and a FWHM of approximately 49 nm, as shown in figure 4a. Low temperature emission measurements (Fig. 4b) show that the zero phonon line is located at 633 nm (15798 cm^(-1)) and the observed Stokes shift is 1014 cm^(-1). Fig. 4b shows low T emission spectra of SrLiAl_(3)N_(4):Eu(l%) at an excitation wavelength of 450 nm. Fig. 4c shows a comparison of emission properties of claimed phosphors with state of the art red emitting phosphor materials. On the x-axis, the emission band width (FWHM; full width half maximum) in cm^(-1) is displayed, and on the y-axis the Stokes shift in cm^(-1).Calculated values are in the high T approximation (see Henderson, Imbusch:Optical Spectroscopy of Inorganic Solids,Clarendon Press, 1989) given by FWHM =sqr(81n2)*sqr(2kT)*sqr(SS/2), with SS ?2S*h/27i*(D.
The lattice constants obtained from a Rietveld refinement are as follows:
Crystal system: Triclinic
Space group: P-l
a (A): 10.3303
b (A): 7.474
c (A): 5.8713
A 100.56°
B 110.50°
Γ 90.38°
Volume of cell (10^(6) pm^(3)): 416.2」(第30頁第3-23行)
「日本語訳:SrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)
窒素雰囲気下において通常の固体反応を用いて蛍光体が合成された。出発化合物SrH_(2)、Li_(3)N、Al及びEuF_(3)の混合物が、1250℃で少なくとも5時間焼成された。計算されたユーロピウムのドーピングレベルは、1モル%であった。図4aに示されているように、444nmで励起した蛍光体のフォトルミネセンススペクトルは、約656nmにおけるピーク発光及び約49nmのFWHMを示した。低温発光測定値(図4b)は、ゼロフォノン線が633nm(15798cm^(-1))に位置し、観察されたストークスシフトは1014cm^(-1)であることを示している。図4bは、450nmの励起波長においてSrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)の低いT発光スペクトルを示している。図4cは、請求項に係る蛍光体と従来の赤色発光蛍光体材料との発光特性の比較を示している。x軸については、cm^(-1)の単位の発光帯幅(FWHM;半値全幅)が示され、y軸については、cm^(-1)の単位のストークスシフトが示されている。計算値は、SS ? 2S*h/2π*ωでFWHM=sqr(8ln2)*sqr(2kT)*sqr(SS/2)により高温近似で与えられている(Henderson, Imbusch: Optical Spectroscopy of Inorganic Solids, Clarendon Press, 1989を参照されたい。)。
リートベルト解析から得られた格子定数は、以下の通りであった。

」(【0128】-【0129】)
(イ)
図4Aは以下のものである。

(ウ)
a
図4Aには、上記(ア)dの記載から、「SrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)」と「CaSiAlN_(3):Eu」について、それぞれ、蛍光スペクトルと反射スペクトルが描かれていると認められるところ、上記(ア)dには「CaSiAlN_(3):Eu(破線)」と記載されているのみで、どの線が、どのスペクトルを示すのか引用文献4には明記されていないので、この点について検討する。
まず、蛍光体は、一般に、蛍光スペクトルは反射スペクトルより波長依存性が強く、特に引用文献4に記載の蛍光体は、液晶表示装置に用いた際に色再現性を高めるために発光帯域を狭帯域としたものであるから(上記(ア)cを参照のこと。)、発光スペクトルのピークが鋭いものである。
そうすると、650nm?660nm付近にピークを有する点線と破線が、蛍光スペクトルを示し、実線と一点鎖線が、反射スペクトルを示すものであると解される。このことは、上記(ア)eの「図4aに示されているように、444nmで励起した蛍光体のフォトルミネセンススペクトルは、約656nmにおけるピーク発光」を示した旨の記載とも整合することから、妥当なものといえる。
そして、上記(ア)eには「蛍光体のフォトルミネセンススペクトル」について、「約49nmのFWHMを示した。」とも記載されており、(ア)eの記載は、そのタイトルの記載からわかるとおり「SrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)」を説明する記載であるから、図4Aの点線と破線のうち、「約49nmのFWHM」であるものが「SrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)」と解される。
そして、図4Aの破線は、そのFWHMが50nmであることが見て取れ、また、点線は、そのFWHMが50nmよりも大きく80?90nmであることが見て取れる。
そうすると、図4Aにおいては、破線が「SrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)」の蛍光スペクトルを示すと解され、上記(ア)dの「CaSiAlN_(3):Eu(破線)」という記載は誤記と認められる。

b
図4Aの破線は、650nm?660nm付近にピークを有し、その縦軸(I/R)のピーク値は略1であり、590nm?610nmの全ての区間において、縦軸の値は明らかに0.1以下であることが見て取れる。
したがって、「SrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)」の蛍光スペクトルは、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が10%以下である発光スペクトルを有すると認められる。

c
以上の記載から、引用文献4には、以下の技術事項が記載されているものと認められる。
「組成式がSrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)であり、
発光スペクトルの特性は、ピーク波長が約656nm、半値幅が49nmであり(上記(ア)e)、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が10%以下であり、(上記b)
LCD表示装置に用いる、(【請求項21】)
蛍光体。」

(3) 対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)
本願発明の「440nm以上460nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と、」との特定事項について
a
引用発明は「励起光を発する半導体発光素子」を備え、「前記半導体発光素子の発光スペクトルのピーク波長が440?460nm」である。
b
したがって、引用発明の「半導体発光素子」は、本願発明の上記特定事項を備える。

(イ)
本願補正発明の「640nm以上670nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が10%以下である発光スペクトルを有し、下記組成式(I)で表される第一の蛍光体と」、及び、「M^(a)_(x)M^(b)_(y)Al_(3)N_(z):Eu(I) (式(I)中、M^(a)は、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M^(b)は、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ、0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1.2、及び3.5≦z≦4.5を満たす。)」との特定事項について
a
本願補正発明の「第一の蛍光体」は、その発光特性が「640nm以上670nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下」であるから、赤色蛍光体であるといえる。
そうすると、引用発明における「赤色蛍光体」は、本願補正発明の「第一の蛍光体」に相当する。
b
したがって、引用発明は、本願補正発明と、「第一の蛍光体」を備えることで共通する。

(ウ)
本願補正発明の「520nm以上550nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が30%以下である蛍光を発する第二の蛍光体とを含み」との特定事項について
a
引用発明の「Eu賦活β型サイアロン蛍光体」は、「励起光を吸収して緑色光を発する」から、本願補正発明の「第二の蛍光体」に相当する。
そして、引用発明の「Eu賦活β型サイアロン蛍光体」は、「ピーク波長が520nm?535nm」であり「発光スペクトルの半値幅が55nm以下」であるから、本願補正発明の「520nm以上550nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下」との特定事項を備えている。
さらに、引用発明の「Eu賦活βサイアロン蛍光体」は、「最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が30%以下」との特定事項を備えている。
b
したがって、引用発明の「Eu賦活βサイアロン蛍光体」は、本願補正発明の上記特定事項を備える。

(エ)
本願補正発明の「前記第一の蛍光体の前記第二の蛍光体に対する含有比が重量基準で0.1以上1以下である蛍光部材と、を備え」との特定事項について、引用発明において、赤色蛍光体と緑色蛍光体との含有比は、どの程度が望ましいのか特定されていない。

(オ)
本願補正発明の「440nm以上460nm以下の範囲における最大発光強度を100%とする場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が7.5%以下である発光スペクトルを有し、」との特定事項について、引用発明の半導体発光装置は、上記特定事項を備えていない。

(カ)
本願補正発明の「CIE1931に規定されるxy色度座標がx=0.220以上0.340以下且つy =0.160以上0.340以下の範囲である光を発する」との特定事項について、引用発明の半導体発光装置は、上記特定事項を備えていない。

(キ)
本願補正発明の「発光装置。」との特定事項について、引用発明の「半導体発光装置」は、本願補正発明の「発光装置」に相当する。
したがって、引用発明は、本願補正発明の上記特定事項を備える。


イ 以上から、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
(一致点)
「440nm以上460nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と、第一の蛍光体と、520nm以上544nm未満の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が30%以下である蛍光を発する第二の蛍光体とを含む蛍光部材と、を備える発光装置。」


ウ 一方、両者は以下の各点で相違する。
(相違点1)
第一の蛍光体につき、本願補正発明は、「640nm以上670nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が10%以下である発光スペクトルを有し、下記組成式(I)で表される」、「M^(a)_(x)M^(b)_(y)Al_(3)N_(z):Eu(I)(式(I)中、M^(a)は、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M^(b)は、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ、0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1.2、及び3.5≦z≦4.5を満たす。」ことが特定されているのに対し、引用発明では、ピーク波長が620?670nmであり、半値幅が95nm以下である点。

(相違点2)
本願補正発明は、「前記第一の蛍光体の前記第二の蛍光体に対する含有比が重量基準で0.1以上1以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明では、赤色蛍光体と緑色蛍光体との含有比は、どの程度が望ましいのか特定されていない点。

(相違点3)
本願補正発明は、「440nm以上460nm以下の範囲における最大発光強度を100%とする場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が7.5%以下である発光スペクトルを有」することが特定されているのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。

(相違点4)
本願補正発明は、「CIE1931に規定されるxy色度座標がx=0.220以上0.340以下且つy=0.160以上0.340以下の範囲である光を発する」することが特定されているのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。

(4) 判断
ア 相違点1
(ア)
引用発明は、引用文献1の【0002】、【0008】の記載から明らかなように、画像表示装置において、色再現性を向上させようというものであるところ、その解決手段は、【請求項1】の記載からもわかるとおり、500nm及び520nmにおける発光、すなわち、青色光と緑色光の混色成分を減らすことで、実現していると認められ、これは、【0007】に記載の従来技術の課題である「青色光の一部に緑色光が混色してしまうことから、青色光の色再現性が悪くなる」という記載からも理解できるものである。
(イ)
このように、引用発明は、青色光と緑色光の混色を減らして色再現性を向上させるものであるところ、引用文献2の【0023】、引用文献3の【0030】に記載されているように、赤色光と緑色光との混色も同様に、色再現性を悪くするものであることは周知技術であるから、引用発明において、赤色光と緑色光との混色を防ぐために、赤色蛍光体や緑色蛍光体についても、発光スペクトルの半値幅を狭いものとすることは、当業者にとって容易に想到することである。
そして、引用文献4には、半値幅が49nmである赤色蛍光体として、「SrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)」が開示されており、ここで、「SrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)」の半値幅49nmは、引用発明で用いられている赤色蛍光体の半値幅である「95nm以下」(請求項10)ないし、「94nm」(【0053】)よりも狭いものであるから、引用発明の赤色蛍光体に引用文献4に記載のSrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)を採用することは、当業者にとって容易になしえることである。
(ウ)
ここで、引用文献4に記載の「SrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)」は、相違点1に係る第一の蛍光体の構成を備えるものであり、すなわち、発光スペクトルの特性は、ピーク波長が約656nm、半値幅が49nmであり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が10%以下である発光スペクトルを有するものである(上記(2)エ(ウ)c)から、相違点1に係る「640nm以上670nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が10%以下である発光スペクトルを有」するものであり、また、組成式は、「M^(a)_(x)M^(b)_(y)Al_(3)N_(z):Eu(I)」で表したときに、M^(a)がSr、xが1、M^(b)がLi、yが1、zが4であり、これは、「M^(a)は、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M^(b)は、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ、0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1.2、及び3.5≦z≦4.5」を満たすものである。
(エ)
そうすると、引用発明の第一の蛍光体として、引用文献4に記載の「SrLiAl_(3)N_(4):Eu(1%)」を採用することで、相違点1に係る構成を得ることは、当業者にとって容易になしえることである。
(オ)
したがって、引用発明において、上記周知技術、及び、引用文献4に記載の技術事項に基づいて、相違点1に係る構成を得ることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。

イ 相違点2
(ア)
引用文献1の【0058】の【表2】には、製造例10-21の半導体発光装置について、緑色蛍光体重量/赤色蛍光体重量が示されているところ、これを本願補正発明の「第一の蛍光体の第二の蛍光体に対する含有比」に倣い、赤色蛍光体の緑色蛍光体に対する含有比に直すと、以下のとおりである。なお、小数第4位を四捨五入した。

(イ)
上記(ア)によれば、引用文献1に記載の製造例は、赤色蛍光体の緑色蛍光体に対する含有比が0.081ないし0.122であり、製造例10-21の平均値をとれば、おおむね0.1程度である。
そして、赤色蛍光体の緑色蛍光体に対する含有比は、各蛍光体の発光効率や密度などにより適宜決定されるものであるところ、本願補正発明において、「前記第一の蛍光体の前記第二の蛍光体に対する含有比が重量基準で0.1以上」であることの、臨界的意義は明細書に特に記載されておらず、技術的意義が認められないことから、引用発明において、第一の蛍光体(赤色蛍光体)の第二の蛍光体(緑色蛍光体)に対する含有比が重量基準で0.1以上1以下とすることは、当業者が適宜なしえた事項である。

(ウ)
したがって、引用発明において、相違点2に係る構成を得ることは、当業者にとって適宜なしえた事項である。

ウ 相違点3
(ア)
上記ア(ア)及び(イ)で示したとおり、引用文献1-3に記載のとおり表示装置に用いる発光装置において、色再現性を向上させることは周知の課題であり、引用文献2,3に記載されているように、赤色光と緑色光との混色を減らすことで、上記課題を解決できることも周知技術といえる。
(イ)
ここで、相違点3に係る「590nm以上610nm以下の範囲」は、赤色光と緑色光との混色を意味するから、上記周知技術によれば、「590nm以上610nm以下の範囲」の発光を減らせば、色再現性を向上させることができることとなる。
そうすると、相違点3に係る構成は、色再現性を向上させるために、赤色光と緑色光との混色を十分に減らすという、当業者にとって周知の事項を、「440nm以上460nm以下の範囲における最大発光強度」を基準として、「590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が7.5%以下」まで減らすと表現したに過ぎず、この表現自体に技術的意義を有するものではない。
(ウ)
さらに、本願補正発明において、相違点3に係る構成は、本件の明細書の【0057】の「カラーフィルターとして、青色LEDとYAG:Ce蛍光体を用いた発光装置に適用した場合に、NTSC比が70%程度になる一般的なカラーフィルターを用いた場合についてシミュレーションを行い、各発光装置のNTSC比を算出した。結果を下表2に示す。」という記載から、「一般的なカラーフィルタを用いた場合」の平均発光強度であると認められるところ、この「一般的なカラーフィルタ」の特性について、本件の明細書には明記されていない。また本願補正発明には、カラーフィルタについて、発明特定事項とされていない。
そして、上記「平均発光強度」の値は、カラーフィルタの透過特性と蛍光体の発光特性次第で、すなわち、カラーフィルタの透過ピーク波長と蛍光体の発光ピーク波長のずれなどで、異なる値が得られるものと認められるところ、本件の明細書において、そのような検証などは行われていない。
そうすると、「7.5%以下」といった数値が技術的意義を有するとは認められない。
(エ)
以上(ア)ないし(ウ)をふまえると、相違点3に係る構成は、技術的意義を有するものではなく、当業者が適宜なしえる事項と認められる。
したがって、引用発明において、相違点3に係る構成を得ることは、当業者が適宜なしえることである。

エ 相違点4
相違点4に係る「CIE1931に規定されるxy色度座標がx=0.220以上0.340以下且つy=0.160以上0.340以下の範囲である光」のうち、x=0.34、y=0.34であれば、おおむね白色光であり、一方で、引用発明の「半導体発光装置」も、青色光、緑色光、赤色光の混色を出力するものであるから、その色は白色光となるから、両者は一致する蓋然性が高いものである。
仮にそうでないとしても、引用文献1の【0061】の【表3】には、バックライト光源の実施例1-8及び比較例1-4が開示されており、この【表3】から、バックライト光源の白色点は、CIE1976色度図上で、(u’,v’)=(0.1903,0.4399)程度とすることが理解できる。ここで、CIE1976色度図上で、(u’,v’)=(0.1903,0.4399)を本件で用いられているCIE1931色度図の(x、y)に、下記の変換式を用いて変換すると、(x、y)=(0.28,0.29)となる。
(変換式)
x=9u’/(6u’-16v’+12)
y=4v’/(6u’-16v’+12)
そうすると、引用発明も光源としては、(0.28,0.29)が望ましいと考えられるから、引用発明においても、このような色に近づくように、赤色蛍光体及び緑色蛍光体の量を調整し、相違点4に係る構成を得ることは、当業者にとって容易になしえることである。
したがって、相違点4は実質的ではないか、引用発明において相違点4に係る構成を得ることは、当業者にとって容易になしえることである。

オ 小活
以上検討したとおり、引用発明において、相違点1?4に係る構成を備えることは、いずれも当業者にとって容易に想到し得たことである。
したがって、本願補正発明は、当業者が引用発明、引用文献4に記載の技術事項、及び、周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

カ 請求人の主張
(ア)
請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「(4)本願発明と刊行物に記載の発明との対比」において、「ここで、引用文献4には、赤色蛍光体の半値幅が80nm以下であると記載され、実施例として半値幅が50nm程度の赤色蛍光体が記載されている。一方、引用文献2には半値幅が30nm以下の赤色蛍光体が記載され、引用文献3には半値幅が35nm以下の赤色蛍光体が記載されている。そうすると、引用文献1から3に記載及び示唆されているように緑色光と赤色光のスペクトルの重なりを小さくするために、半値幅の小さい赤色蛍光体を採用するとすれば、引用文献2及び3に記載の赤色蛍光体よりも半値幅が広い引用文献4に記載の赤色蛍光体を敢えて採用する動機付けが当業者にあったということはできない。」と主張している。
しかしながら、上記3(4)アでも検討したとおり、本審決は、あくまで引用発明に引用文献4に記載の技術事項を適用することに動機付けがあるとしたものであり、引用文献2及び3に記載の赤色蛍光体が引用文献4に記載の赤色蛍光体よりも半値幅が狭いからといって、引用発明に引用文献4に記載の技術事項を適用する動機付けがないことにはならない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(イ)
また、請求人は「第一の蛍光体が発光ピーク波長に対して長波長側が幅広になる非対称な発光スペクトルを有することで、赤色から深赤色の発光成分も得られるようになり、色度座標における赤色領域の色再現性の範囲が拡大して相対NTSC比が向上すると考えられる。」とも主張している。
しかしながら、本願補正発明は上記のような特定事項を備えておらず、上記主張は請求項の記載に基づいたものとはなっていない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(5) 独立特許要件のむすび
上記(1)-(4)のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1(2)において、本件補正前の請求項1に係る発明として記載したとおりのものである。
念のため、本願発明を再掲すると、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
440nm以上460nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と、
640nm以上670nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が10%以下である発光スペクトルを有し、下記組成式(I)で表される第一の蛍光体と、520nm以上550nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、半値幅が70nm以下であり、最大発光強度を100%とした場合に、590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が30%以下である蛍光を発する第二の蛍光体とを含み、前記第一の蛍光体の前記第二の蛍光体に対する含有比が重量基準で0.1以上1以下である蛍光部材と、を備え、
440nm以上460nm以下の範囲における最大発光強度を100%とする場合に、
590nm以上610nm以下の範囲における平均発光強度が7.5%以下である発光スペクトルを有し、
CIE1931に規定されるxy色度座標がx=0.220以上0.340以下且つy=0.160以上0.340以下の範囲である光を発する発光装置。
M^(a)_(x)M^(b)_(y)Al_(3)N_(z):Eu(I)
(式(I)中、M^(a)は、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M^(b)は、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ、0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1.2、及び3.5≦z≦4.5を満たす。)」

2 引用文献
引用文献の記載事項及び引用発明は、上記第2の3(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2で進歩性を検討した本願補正発明と、「第二の蛍光体」について、
本願発明では、
「520nm以上550nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、」とあるのに対し、
本願補正発明では
「520nm以上544nm未満の範囲に発光ピーク波長を有し、」とあるものであり、その他の事項において、両者は相違しないものである。
そして、「第二の蛍光体」について、本願発明より発光ピーク波長の範囲が狭く、その他の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、上記第2で示したとおり、当業者が引用発明、引用文献4に記載の技術事項、及び、周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるならば、本願発明も、同様の理由により、当業者が引用発明、引用文献4に記載の技術事項、及び、周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものといえる。
そうすると、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 まとめ
よって、本願発明は、当業者が引用発明、引用文献4に記載の技術事項、及び、周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。




 
審理終結日 2020-08-20 
結審通知日 2020-08-25 
審決日 2020-09-09 
出願番号 特願2015-165101(P2015-165101)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 野村 伸雄
田中 秀直
発明の名称 発光装置  
代理人 言上 惠一  
代理人 柳橋 泰雄  
代理人 山尾 憲人  
代理人 膝舘 祥治  

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