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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A62C |
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管理番号 | 1367843 |
審判番号 | 不服2020-7080 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-05-25 |
確定日 | 2020-11-27 |
事件の表示 | 特願2016- 70019「消火器ケース」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月 5日出願公開、特開2017-176577、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年3月31日の出願であって、令和元年9月4日付け(発送日:令和元年10月1日)で拒絶理由通知がされ、令和元年11月28日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年2月28日付け(発送日:令和2年3月3日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して令和2年5月25日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともにその審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 (進歩性)本願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) 請求項1及び2に対して 引用文献1、4ないし7 <引用文献等一覧> 1.特開2002-336369号公報 4.実願平5-50082号(実開平7-19549号)のCD-ROM(周知技術を示す文献) 5.実願昭59-110115号(実開昭61-25471号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献) 6.特開昭55-78775号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献) 7.実願昭56-177932号(実開昭58-81269号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献;新たに引用された文献) 第3 本願発明 本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、令和2年5月25日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 建物の壁面に形成される開口部に収容され、前面側の開口及び前記開口の外周縁部から外側方向に折曲して設けられた鍔部を有する本体部と、 前記鍔部の外形形状と同等に形成され又は前記鍔部の外形形状より大きく形成され、前記開口を覆設し、開閉機構によって回動可能とされる扉と、 前記本体部と前記扉における前後方向の間隙を調整可能とする調整手段と、 を備え、 前記調整手段は、前後方向に形成される長孔を有する板状の固定部を介して前記本体部側に対して連結される前記開閉機構の本体側取付部と、前記扉の閉蓋状態において前記本体部と前記扉の開放端側とを固着し、前記本体部側に対して設置され扉に吸着される軸部を前後方向へ伸縮させる調整部を有する固着部とを前後方向へ可動させることで調整可能とする ことを特徴とする消火器ケース。 【請求項2】 前記本体側取付部と前記固着部は、相互に可動可能とされる請求項1に記載の消火器ケース。」 第4 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-336369号公報(以下「引用文献1」という。)には、「消火器ケース」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。 (1) 「【請求項1】 建物の壁面(W)に形成した凹部内に取付用ブラケット(5)を固定し、この取付用ブラケット(5)内に消火器ケース本体(1)を嵌入して取り付けた消火器ケースであって、取付用ブラケット(5)の前部に消火器ケース本体(1)が嵌入する大きさの枠体(5c)を設け、且つ前記枠体(5c)の前端を壁面(W)と面一に取り付けるようにしたことを特徴とする消火器ケース。」 (2) 「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、オフィスビル等の建物の壁面に埋め込んで使用される消火器ケースに関し、特に外観を良くした構造のものである。 【0002】【従来の技術】従来より、消火器ケースが邪魔にならないようにするために、壁面に埋め込んで使用するタイプのものがある。 【0003】この消火器ケースは、建物の壁面に形成した凹部内に取付用ブラケットを固定し、この取付用ブラケット内に消火器ケース本体を嵌入して取り付けるようにしたものであるが、壁面と取付用ブラケットの間に生ずる隙間は、消火器ケース本体の前端外周に形成した鍔部で覆い隠すようにしていた。 【0004】そのため、消火器ケースが実際よりも大きく感じるだけでなく、鍔部が露出しているため壁面とマッチせず違和感が生ずるという問題点があった。 【0005】【発明が解決しようとする課題】そこでこの発明では、上記の問題点を解決し、外部に露出する鍔部をなくし、外観を良くした消火器ケースを提供することを目的とする。」 (3) 「【0013】【発明の実施の形態】図1は、この発明の消火器ケースの壁面への取り付け状態を示す分解斜視図であり、図2はこの発明の消火器ケースの壁面への取り付け状態における正面図、図3は消火器ケースの左側部の構造を示す中央縦断面図、図4は消火器ケースの右側部の構造を示す中央縦断面図、図5は壁面への取り付け状態における横断面図である。 【0014】以下、これらの図面に基づき説明する。 【0015】符号1は、消火器ケース本体であり、左右の側面板と上面板と底面板と後面板からなる前方が開放された箱型をしており、金属板で形成されたものである。さらに、消火器ケース本体1の前端外周には鍔部1aを設けている。また、消火器ケース本体1の後面板には、消火器を吊り下げるフック1bを取り付けている。 【0016】消火器ケース本体1の前面には、アクリル樹脂や強化ガラスからなる透明な扉2をヒンジ3,3にて蝶着しており、他端側をマグネットラッチ4で係止している。ヒンジ3は、基端側が消火器ケース本体1に固定され、消火器ケース本体1より前方且つ水平に延設された腕部3aの先に扉固定部3bを回動自在に取り付けたものであり、扉2はヒンジ3により消火器ケース本体1より前方に突出した状態で取り付けられている。 【0017】マグネットラッチ4は、磁石の吸着力を利用した係止具であり、家具一般に使用されている公知の構造のものである。 【0018】この消火器ケース本体1は、建物の壁面Wに形成した凹部内に取付用ブラケット5を固定し、この取付用ブラケット5内に消火器ケース本体1を嵌入して取り付けるようになっている。」 (4) (3)の記載事項と併せて図1及び図5を参酌すると、消火器ケース本体1が建物の壁面Wに形成した凹部内に嵌入されることを視認できる。 (5) (3)の記載事項と併せて図1を参酌すると、消火器ケース本体1の前端外周に設けられた鍔部1aの形状に関して、消火器ケース本体1の箱型の解放領域よりも外側に折曲していることを視認できる。 (6) 図3ないし図5を参酌すると、扉2の横断面方向の長さが、鍔部1aを含む消火器ケース本体1の横断面方向の長さよりも小さいことを視認できる。 したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明1> 「建物の壁面Wに形成した凹部内に嵌入され、前方が解放された箱型をしており、箱型の解放領域よりも外側に折曲して前端外周に設けられた鍔部1aを有する消火器ケース本体1と、 横断面方向の長さが、鍔部1aを含む消火器ケース本体1の横断面方向の長さよりも小さく形成され、消火器ケース本体1の前面に、一端側をヒンジ3,3により回動自在に取り付け、他端側をマグネットラッチ4で係止している扉2と、 を備える消火器ケース。」 2 引用文献6について 原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として例示された特開昭55-78775号公報(以下「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されていると認められる。 (1) 「第1図及び第2図は本発明の一実施例を示すもので、1は箱本体Aの側板内面に固定される第1の部材、2は扉Bに固定される第2の部材、・・・である。前記第1の部材1には箱本体Aの奥行方向の位置調整を行うための長孔の取付孔1a・・・が形成されている。この第1の部材1は予め箱本体Aの側板内面に取付けられた高さ調整用のベース6に取付ねじ7により固定される。」(第1頁右欄第18行ないし第2頁左上欄第10行) (2) 第1図を参酌すると、第1の部材1が板状であることを視認できる。 したがって、引用文献6には次の技術的事項(以下、「引用文献6技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 <引用文献6技術的事項> 「扉Bと箱本体Aとの間の奥行方向の位置調整を行うために、長孔の取付孔1aが形成された板状の第1の部材1を箱本体Aの側板内面に固定すること。」 3 引用文献7について 原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として例示された実願昭56-177932号(実開昭58-81269号)のマイクロフィルム(以下「引用文献7」という。)には、次の事項が記載されていると認められる。 (1) 「従来から、本体側板に対する扉の取付位置を調整するために、一方の取付部材は、座金あるいは調整板などの調整手段を備えており、この調整手段を介して枠フレームが取付けられる構造となつている。」(第2頁第13行ないし第17行) (2) 「第1図に示すように、直付フレームcは、上面部dと、その両側から垂設された両側部e,eと、両側部e,eから側方へ垂直に延ばした一対の直付片f,fとから構成され、対の直付片f,fにはそれぞれ長穴g,gが設けられている。これによれば、他方の取付部材iを埋設した扉Aを保持した状態で側板Bに直付フレームcを位置決めした後に、直付フレームcの位置を狂わせないように保持状態を維持しつつ、一方の長穴gにねじhをねじ込み作業する必要があつた。このねじhは、前後微調整のために長穴g内で仮止めされている」(第3頁第6行ないし第16行) (3) 第1図を参酌すると、直付フレームcが板状であることを視認できる。 したがって、引用文献7には次の技術的事項(以下、「引用文献7技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 <引用文献7技術的事項> 「本体側板Bに対するに対する扉Aの取付位置を調整するために、板状の直付フレームcに前後微調整のための長穴gを設け、長穴gにねじhをねじ込んで直付フレームcを本体側板Bに固定すること。」 4 引用文献4について 原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として例示された実願平5-50082号(実開平7-19549号)のCD-ROM(以下「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されていると認められる。 (1) 「【0004】 【考案が解決しようとする課題】 しかしながら、従来のマグネットブッシュラッチは、目的部に一度設置すると磁着ホルダーを、扉等に対して進退方向に調整する事ができないものであった。そのため、取り付けミス、工作精度の誤差、柱枠、窓枠に変形等が生じて、扉等の閉まり具合が悪くなった場合には、目的部からマグネットブッシュラッチを取り外し、設置位置の再調整を行う必要があった。このため、マグネットブッシュラッチの位置決めに多くの手間が掛かり、作業性が極めて悪いものとなっていた。」 (2) 「【0025】 また、磁着ホルダー(5)は、図3、図4に示す如く、押圧発条(21)の付勢方向の先端側に挿入開口(22)を形成し、この挿入開口(22)に、磁石等の磁性体(23)を挿入固定している。また、磁着ホルダー(5)は、磁性体(23)の外面に接触させた状態でスチール等の磁着体(24)を形成し、この先端の磁着体(24)を介して扉、窓等への磁着を可能としている。」 (3) 「【0030】 上述の如く構成したものに於て、家具、建築物等の柱枠、窓枠等の目的部にマグネットブッシュラッチ(35)を固定するには、装着枠(1)の両側に突出する固定フランジ(2)の挿入口(3)に螺子、釘等を挿入し、この螺子、釘等をドライバー等の工具を用いて回動し、目的部に設置固定する。」 【0031】 また、装着枠(1)からの磁着ホルダー(5)の突出量を調整するには、まず、磁着ホルダー(5)に軸支した係合ピン(18)の先端を、図1、図2に示す如く、予め案内溝(8)の係合溝部(14)に位置しておく。この係合ピン(18)を設けた磁着ホルダー(5)は、押圧発条(21)によって外部方向に押圧付勢されているが、摺動基板(7)の案内溝(8)に係合ピン(18)を係合させているため、突出方向への移動を停止している。 【0032】 そして、図2に示す状態から、磁着ホルダー(5)の突出量を大きくする方向に調整するには、装着枠(1)に装着した回動カム(26)を一方に回動し、この回動カム(26)のカム部(32)に係合凹部(33)を係合させた摺動基板(7)を、磁着ホルダー(5)の突出方向に移動させる。この摺動基板(7)の移動に伴い、案内溝(8)の係合溝部(14)も磁着ホルダー(5)の突出方向に同時に移動する。また、磁着ホルダー(5)は、上述の如く、押圧発条(21)によって外部方向に押圧付勢されているため、案内溝(8)の係合溝部(14)の移動量分だけ係合ピン(18)を突出方向に移動するそのため、磁着ホルダー(5)は、図1、図3に示す如く、装着枠(1)からの突出量を大きくする方向に調整する事が可能となる。 【0033】 また、上記では、装着枠(1)からの磁着ホルダー(5)の突出量を大きくする方向に調整したが、図1に示す状態から、磁着ホルダー(5)の突出量を小さくする方向に調整するには、回動カム(26)を、上記とは逆の方向に回動する。この回動によって、回動カム(26)のカム部(32)に係合凹部(33)を係合させた摺動基板(7)は後退する。この摺動基板(7)の移動に伴い、案内溝(8)の係合溝部(14)は、係合ピン(18)を係合させたまま磁着ホルダー(5)の後退方向に移動する。そのため、磁着ホルダー(5)は、図2、図4に示す如く、押圧発条(21)の付勢力に抗して案内溝(8)の係合溝部(14)の移動量分だけ後退し、装着枠(1)からの突出量を小さくする方向に調整する事が可能となる。 【0034】 このように、マグネットブッシュラッチ(35)は、装着枠(1)に形成した回動カム(26)を回動する事により、装着枠(1)からの磁着ホルダー(5)の突出量を容易に調整する事ができ、誰でも簡易な調整作業が可能となる。」 したがって、引用文献4には次の技術的事項(以下、「引用文献4技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 <引用文献4技術的事項> 「工作精度の誤差等が生じて、扉の閉まり具合が悪くなった場合に対応するため、目的部に固定されたマグネットブッシュラッチ(35)における、扉に先端が磁着される磁着ホルダー(5)に関して、装着枠(1)に形成した回動カム(26)を回動する事により、装着枠(1)からの磁着ホルダー(5)の突出量を、大きくする方向又は小さくする方向に調整すること。」 5 引用文献5について 原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として例示された実願昭59-110115号(実開昭61-25471号)のマイクロフィルム(以下「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されていると認められる。 (1) 「通常、ステレオラツク等に使用されるドアキヤツチヤーは摺動部の先端部にマグネツトが設けられると共に、ドアの裏面に固定された鉄片等の強磁性と前記マグネツトが抵触することによつて磁力で該鉄片を介してドアを吸引、固定するように構成されている。更にこのドアキヤツチヤーはドアが更に押された場合に摺動部が後方に摺動し、ラツチ機構によつてラツチする様に構成されているのではあるが、斯様なドアキヤツチヤーではラツチ機構の構造上、ラツチ機能及びラツチ解除機能が正常に動作する範囲が非常に小さい為にラツク等の製品に組付ける場合、組付、調整に時間がかかる。即ち、キヤビネツト及びラツク等の製作時に製造、組立誤差力が生じ、この誤差が前記ラツチ機構のラツチ機能及びラツチ解除機能が正常に動作する範囲以上である場合には、ドアキヤツチヤーの再取付けや再調整が必要となり作業時間の浪費にもつながる。更に、前記誤差が大きい場合には再調整等によつても補正することが出来ないため、ラツク本体とドアとの間に隙間が生じて甚だ不便なものであつた。 「考案が解決しようとする課題」 本考案は上記事情に鑑み、製品取付後の調整が非常に簡便でしかも、製品に製造誤差等が生じた場合にも該誤差を容易に吸収することが出来るドアキヤツチヤーを提供することを目的とする。」(第2頁第4行ないし第3頁第11行) (2) 「 第1図に本考案に係るドアキヤツチヤーを側面図にて示す。本ドアキヤツチヤーは、周面の対向する位置にマグネツト3aを挟持する如くヨーク3b、3bが固定されるラツチ機能3dを有する摺動部3と、摺動部3を内部で前後方向に摺動可能に支持し、外周面に雄ネジ2aが螺設され且つ内部に摺動部と共に構成されるラツチ機構3dを有するキヤツチヤー本体2と、前記雄ネジ2aを係合する雌ネジが内部に螺設され、キヤツチヤー本体2を回動可能に支持するステー1とから成る。」(第4頁第6行ないし第16行) (3) 「 第7図に示す如く、ドア11を閉じた状態でラツク本体10とドア11との間に隙間tが生じた際には、キヤツチヤー本体2を回わして、ステー1に対しキヤツチヤー本体2を後退させ、これにより隙間tが生じないに調節し、又逆にステー1に対しキヤツチヤー本体2が後退し過ぎて、ヨーク3a、3bの先端とドア11の裏面に添着された鉄板12との間に隙間が生じた時は、キヤツチヤー本体2を逆に回わして、ステー1に対しキヤツチヤー本体2を前進させて、この隙間を無くすように調節する。」(第10頁第2ないし第12行) したがって、引用文献5には次の技術的事項(以下、「引用文献5技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 <引用文献5技術的事項> 「製造誤差等が生じた場合にも該誤差を容易に吸収するため、ドアを磁力で吸引固定するドアキヤツチヤーに関して、マグネツト3aを挟持するヨーク3a、3bが支持された摺動部3を内部に有する、キヤツチヤー本体2を回わして、ステー1に対しキヤツチヤー本体2を後退又は前進させ、ラック本体10とドア11との間、又は、ヨーク3a、3bの先端とドア11の裏面に添着された鉄板12との間に生じた隙間を無くすように調節すること。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について 本願発明1と引用発明1とを対比する。 第1に、引用発明1における消火器ケース本体1が建物の壁面Wに形成した凹部内に嵌入されるという事項は、本願発明1における「建物の壁面に形成される開口部に収容され」という事項に相当する。また、引用発明1は前方が解放された箱型をしていることから、前記「箱型」の「解放された」部分は、本願発明1における「開口」に相当する。さらに、引用発明1における鍔部1aは、前記「箱型」の解放領域よりも外側に折曲して前端外周に設けられているから、本願発明1における「鍔部」に相当する。 以上から、引用発明1における消火器ケース本体1は、本願発明1における「本体部」に相当する。 第2に、引用発明1におけるヒンジ3,3は、扉2の一端側を回動自在に取り付けているから、本願発明1における「開閉機構」に相当する。また、「消火器ケース」の機能を踏まえると、(消火器ケース内に収容される消火器の)不使用時には、扉2は消火器ケース本体1の箱型の解放領域を覆っていると把握できる。 以上から、引用発明1における扉2は、本願発明1における「扉」に相当する。 第3に、引用発明1におけるヒンジ3,3の基端側は、消火器ケース本体1に固定されているから、本願発明1における「固定部」及び「本体側取付部」に相当する。 第4に、本願発明1における「固着部」について、本願明細書(【0019】)を参酌すると、具体例としてマグネットラッチが挙げられ、「調整部」を備えている点を除けば一般的なマグネットラッチと同様であることが把握できる。そうすると、引用発明1におけるマグネットラッチ4は扉2の開放端側である他端側を係止し、また、マグネットラッチの機能を踏まえると、扉2に吸着される軸部を有していると認められる。 以上から、引用発明1におけるマグネットラッチ4は、本願発明1における「固着部」に相当する。 したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 <一致点> 「 建物の壁面に形成される開口部に収容され、前面側の開口及び前記開口の外周縁部から外側方向に折曲して設けられた鍔部を有する本体部と、 開口を覆設し、開閉機構によって回動可能とされる扉と、 を備え、 固定部を介して本体部側に対して連結される開閉機構の本体側取付部と、扉の閉蓋状態において本体部と扉の開放端側とを固着し、本体部側に対して設置され扉に吸着される軸部を有する固着部を有する消火器ケース。」 <相違点1> 「扉」に関して、本願発明1は「前記鍔部の外形形状と同等に形成され又は前記鍔部の外径形状より大きく形成されている」のに対して、引用発明1は横断面方向の長さが、鍔部1aを含む消火器ケース本体1の横断面方向の長さよりも小さく形成されている点。 <相違点2> 本願発明1は「前記本体部と前記扉における前後方向の間隙を調整可能とする調整手段と、を備え、前記調整手段は、前後方向に形成される長孔を有する板状の固定部を介して前記本体部側に対して連結される前記開閉機構の本体側取付部と、前記扉の閉蓋状態において前記本体部と前記扉の開放端側とを固着し、前記本体部側に対して設置され扉に吸着される軸部を前後方向へ伸縮させる調整部を有する固着部とを前後方向へ可動させることで調整可能とする」のに対して、引用発明1は開閉機構の本体側取付部と固着部とにそのような構成を備えていない点。 上記相違点1について検討する。 上記相違点1に係る本願発明1の構成である「扉」が「前記鍔部の外形形状と同等に形成され又は前記鍔部の外形形状より大きく形成されている」とは、図3及び4、6ないし8と併せて段落【0015】を参酌すると、扉の寸法が、横断面方向(図2のA-A線断面;図3及び図6)における左右の鍔部外縁間の寸法、又は、縦断面方向(図2のB-B線断面;図4及び図7)における上下の鍔部外縁間の寸法と同等以上に形成されることであると把握できる。 ここで、消火器ケース本体1の横断面を考えたとき、引用発明1における扉2の横断面方向の長さを、鍔部1aを含む消火器ケース本体1の横断面方向の長さと同等に形成しようとすると、図3ないし図5を参酌する限り、扉2の開閉に支障が生じることが明らかである。 また、引用発明1における扉2の横断面方向の長さを、鍔部1aを含む消火器ケース本体1の横断面方向の長さよりも大きく形成しようとすると、図3ないし図5を参酌する限り、建物の壁面Wと面一にすることができない。 そうすると、引用発明1において、扉2の横断面方向の長さを、鍔部1aを含む消火器ケース本体1の横断面方向の長さと同等以上に形成しようとすることは、阻害要因がある。 したがって、引用発明1の「扉2の横断面方向の長さが、鍔部1aを含む消火器ケース本体1の横断面方向の長さよりも小さく形成されている」という事項を、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項に変更することは、当業者が適宜になし得た設計変更とはいえないし、当業者が容易になし得たことともいえない。 上記相違点2について検討する。 引用文献6及び引用文献7技術的事項より、箱本体に対する扉の位置を調整するために、長孔の取付孔が形成された板状の固定部を箱本体の側板内面に固定するという技術的事項は、本願出願前において周知技術(以下、「周知技術1」という。)であったといえる。 そうすると、上記相違点2に係る本願発明1における「前後方向に形成される長孔を有する板状の固定部を介して前記本体部側に対して連結される前記開閉機構の本体側取付部」を前後方向へ可動させるという点は、周知技術1であるといえる。 一方、引用文献4及び引用文献5技術的事項より、製造誤差に対応するため、扉の閉蓋状態において本体部と扉の開放端側とを固着し、本体部側に対して設置され扉に吸着される軸部を前後方向へ伸縮させる調整部を有する固着部を備えるという技術的事項は、本願出願前において周知技術(以下、「周知技術2」という。)であったといえる。 しかしながら、上記相違点2に係る本願発明1における「前記扉の閉蓋状態において前記本体部と前記扉の開放端側とを固着し、前記本体部側に対して設置され扉に吸着される軸部を前後方向へ伸縮させる調整部を有する固着部とを前後方向へ可動させること」という構成は、「固着部」が軸部を前後方向へ伸縮させる調整部を有するだけでなく、「固着部」自身が前後方向に可動する構成であるから、このような構成は、周知技術2であるといえない。 そして、他に、上記相違点2に係る本願発明1の上記構成が本願出願前に公知であったというべき証拠や根拠もない。 ゆえに、引用発明1のマグネットラッチ4を上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項に変更することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1並びに上記周知技術1及び2に基いて容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明2について 本願の特許請求の範囲における請求項2は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく直接引用して記載されたものであるから、本願発明2は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。 したがって、本願発明2は、本願発明1について述べたものと同様の理由により、引用発明1並びに上記周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 小括 そうすると、本願発明1及び2は、引用発明1並びに上記周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-11-12 |
出願番号 | 特願2016-70019(P2016-70019) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A62C)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 楠永 吉孝 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
高島 壮基 渡邊 豊英 |
発明の名称 | 消火器ケース |
代理人 | 辻本 希世士 |