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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1367974
審判番号 不服2019-9247  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-10 
確定日 2020-11-11 
事件の表示 特願2017-122984「複数の蛍光体を備えるポンプLEDシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月24日出願公開、特開2017-208555〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2011(平成23年)8月19日(パリ条約による優先権主張:2010年(平成22年)8月19日、米国、2011年(平成23年)6月28日、米国)に出願した特願2013-525007号の一部を、2015年(平成27年)5月5日に新たな特許出願とした特願2015-94496号の一部を、さらに、2017年(平成29年)6月23日に新たな特許出願とした出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。

平成29年 7月24日 手続補正書
平成29年11月 1日 上申書
平成30年 6月25日付け 拒絶理由通知
平成30年10月 2日 意見書・手続補正書
平成31年 3月 4日付け 拒絶査定(同年3月12日送達)
令和 1年 7月10日 本件審判請求
令和 1年 8月22日 補正書
令和 1年 8月29日 上申書
令和 1年 8月29日 手続補足書


2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、平成30年10月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-12に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
基材と、
約405?約430nmの波長の電磁波を放射するように構成される活性領域を有する、前記基材の一部分上に設けられた少なくとも1つの発光ダイオード(LED)と、
蛍光体材料の混合物であって、第1の蛍光体材料、第2の蛍光体材料及び第3の蛍光体材料を含み、当該混合物は、前記少なくとも1つのLEDの近傍に配置され、前記電磁波と相互作用して、前記約405?約430nmの波長の電磁波を約440?約650nmの波長の電磁波に実質的に変換するように構成される、蛍光体材料の混合物と
を備え、
前記第1の蛍光体材料は、青色蛍光体を含み、前記青色蛍光体は、405?430nmの波長範囲に吸収ピークを有する、光学素子。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の原出願の優先権主張の日前に頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2006/068141号
周知例2:国際公開第2009/130636号
周知例3:特開平10-319877号公報

4 引用発明の認定
(1)引用文献1:国際公開第2006/068141号

(ア)
原査定において引用され、本願の原出願の優先日前に日本国内において頒布された国際公開第2006/068141号(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同様である。)

「請求の範囲
[1] 紫外線発光または紫色発光のダイオードと、青色、緑色、赤色を含む 3種類以上の可視光を発光する蛍光体とを具備する白色 LEDにおいて、その白色 LEDの発光スペクトルが波長 440nm以上 460nm以下の範囲の青色部、 510nm以上 530nm以下の範囲の緑色部、 620nm以上 640nm以下の範囲の赤色部にピーク値を有することを特徴とする白色 LED。」

「[0031] 図 1は本発明に係る白色LEDの一実施形態を示す断面図である。図 1に示す白色 LEDは、発光ダイオード aと、樹脂に埋め込まれた蛍光体層 bと、上記発光ダイオード a及び蛍光体層 bの発光を外部へ導く反射層 cと、発光部を支える樹脂枠 dとから構成される。 LEDランプに印加された電気エネルギーは発光ダイオード aにより紫外光あるいは紫色光に変換され、それらの光が発光ダイオード a上部の蛍光体層 bによつて、より長波長の光に変換され、総計として白色光が LEDランプ外へ放出される仕組みになっている。」

「[0048] 白色LEDの蛍光体層の製造方法は特に限定されないが、例えば、各色の蛍光体粉末をそれぞれ樹脂と混合した後、各色の樹脂との混合体を混ぜ合わせ混合蛍光体を作製する方法や、予め各色の蛍光体粉末同士を混合した後、樹脂と混ぜ合わせて混合蛍光体を調製する方法が挙げられる。」

「[0093] (実施例 1)
青色蛍光体としてのユーロピウム付活アルカリ土類クロ口リン酸塩 (Sr_(0.99) Eu_(0.01))_(10)(PO_(4))_(6) ・Cl_(2)と、緑色蛍光体としてのユーロピウム、マンガン付活アルミン酸塩蛍光体(Ba_(0.726) Eu_(0.274) ) (Mg_(0.55) Mn_(0.45))Al_(10)O_(17) と、赤色蛍光体としてのユーロピウム付活酸硫化ランタン (La_(0.833) Sb_(0.002) Eu_(0.115) )_(2)O_(2) Sとをそれぞれシリコーン樹脂と 30質量%の濃度で混合した。次にこれらのスラリーを 20.1%、19.5%、60.4%の割合(質量%)で混合した後、発光ダイオード上に塗布し、温度 140°Cの熱処理で樹脂を硬化せしめ、実施例 1に係る白色 LEDを調製した。」

「[0109] (実施例 11?15)
次に、発光ダイオードの発光波長を表 2のように変えた点以外は実施例1と同様に処理して実施例11?15に係る白色 LEDを作製し、同様に色再現域および輝度の測定を行った。但し、青色、緑色、赤色発光の各蛍光体の配合比率は色度が x=0. 250-0. 255, y=0. 235-0. 240の範囲内となるように調整した。
[表2]




(イ)
図1は以下のとおりである。


(ウ)上記表2には、実施例14は、発光ダイオードの発光波長が410nmであることが記載されている。


以上の記載から、引用文献1には、実施例14に示す白色LEDについて、以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。

「紫色発光のダイオードと、青色、緑色、赤色を含む 3種類以上の可視光を発光する蛍光体とを具備する白色LEDにおいて、その白色LEDの発光スぺクトルが波長440nm以上460nm以下の範囲の青色部、510nm以上530nm以下の範囲の緑色部、620nm以上640nm以下の範囲の赤色部にピーク値を有し、(請求の範囲[1])
紫色発光のダイオードの発光波長は410nmであり、([0109])
蛍光体層は発光ダイオード上部に備えられ、([0031])
白色LEDの蛍光体層は、各色の蛍光体粉末をそれぞれ樹脂と混合した後、各色の樹脂との混合体を混ぜ合わせ混合蛍光体としたものであり、([0048])
青色蛍光体は、ユーロピウム付活アルカリ土類クロ口リン酸塩 (Sr_(0.99) Eu_(0.01))_(10)(PO_(4))_(6) ・Cl_(2)、緑色蛍光体はユーロピウム、マンガン付活アルミン酸塩蛍光体(Ba_(0.726) Eu_(0.274)) (Mg_(0.55) Mn_(0.45))Al_(10)O_(17) 、赤色蛍光体はユーロピウム付活酸硫化ランタン(La_(0.833) Sb_(0.002) Eu_(0.115) )_(2) O_(2)Sである、_( )([0093])
白色LED。」


(2)周知例2:国際公開第2009/130636号
原査定において引用され、本願の原出願の優先日前に外国において頒布された国際公開第2009/130636号(以下「周知例2」という。)には、以下の記載がある。日本語訳は周知例2のファミリー文献である特表2011-519159号公報を参考に当審で作成した。
「FIELD OF THE INVENTION
The present invention relates to the field of lighting devices, in particular to a luminous device, comprising a light sourcefor emitting source light of a source wavelength, wherein the intensity of thesource light is arranged to be controllable by a signal. Furthermore, the present invention relates to a lighting system, an LED bulb and a LED package,comprising a luminous device according to embodiments of the present invention.」(第1頁第1-6行)
「日本語訳:
技術分野
本発明は、発光装置の分野、特に、ある光源波長の光源光を発する光源を含む発光装置であって、光源光の強度が信号によって制御されるように構成される発光装置に関する。更に、本発明は、本発明の実施例に従う発光装置を含む発光システム、LEDバルブ、及びLEDパッケージに関する。」(【0001】)

「It is to be noted that the first and second phosphor material are matched to the wavelength of the lightsource. It is matched in such a manner that for achange in temperature of the phosphor material or a change of the wavelength of light incident on the phosphor material, a change in conversion efficiency of the phosphor material is obtained. For example, garnet fluorescent materialactivated by cerium, yttrium-aluminum-garnet fluorescent material activated by cerium, or the like may be used in the present luminous device. Other examplesare cerium-doped calcium- aluminum- silicate and cerium-doped orpreasodymium-doped lutetium-aluminum-garnet. Advantageously, by selecting suitable phosphor materials, the effect of the conversion efficiency change,due to change of a property that is dependent on the intensity of the source light, may be increased.」(第4頁第13-22行)
「日本語訳:第1及び第2蛍光体材料は光源の波長へ一致されることを特記されるべきである。このことは、蛍光体材料の温度における変化又は蛍光体材料における入射光の波長の変化に対して、蛍光体材料の変換効率の変化が得られるように、一致される。例えば、セリウムによって活性化されるガーネット蛍光体材料、又はセリウムによって活性化されるイットリウム-アルミニウム-ガーネット蛍光体材料などが、本発明の発光装置において使用され得る。他の例は、セリウム混入カルシウム-アルミニウム-シリケート及びセリウム混入又はプラセオジム混入ルテチウム-アルミニウム-ガーネットである。有利には、適切な蛍光体材料を選択することによって、光源光の強度に依存する特性の変化による変換効率の変化の効果は、増加され得る。」(【0015】)
「In contrast to the luminous device according to embodiments of the present invention, for prior art white LED systems, the combination of phosphor materials and LED emission wavelengthis chosen such that the phosphor has a maximum efficiency, and as a result a wavelength shift in the LED emission output wavelength results in a wavelength shift that is as low as possible. Thus, prior art white LED systems are using an LED emission wavelength that is as close as possible to a phosphor absorption peak (i.e. where the phosphor has a, possibly local, maximum absorption value).」(第4頁第23-29行)
「日本語訳:本発明の実施例に従う発光装置とは対照的に、従来技術の白色LEDシステムに関して、蛍光体材料及びLED放射波長の組み合わせは、蛍光体が最大効率を有するように選択され、結果として、波長は、LED放射出力波長における波長シフトが可能な限り低い波長シフトを生じさせる。したがって、従来技術の白色LEDシステムは、蛍光体吸収ピーク(すなわち、蛍光体が可能な局所的な最大吸収値を有するような範囲)へ可能な限り近くであるLED放射波長を用いている。」(【0016】)

(3)周知例3:特開平10-319877号公報
原査定において引用され、本願の原出願の優先日前に日本国内において頒布された特開平10-319877号公報(以下「周知例3」という。)には、以下の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、画像表示装置及び発光装置に関する。より詳しくは、本発明は、小型で高性能且つ高信頼性を有する画像表示装置及びこのような画像表示装置の光源或いはその他の種々の用途に用いて好適な発光装置に関する。」

「【0170】次に、本発明による画像表示装置の光源の具体例について説明する。図46は、本発明による画像表示装置の光源の第1の具体例を表す概略断面図である。同図に示した光源22Aは、発光素子110とその表面に堆積された波長変換材料112とを備える。また、発光素子110の電極部114は、ワイア・ボンディングを施すために、波長変換材料112が堆積されていない領域を有する。
【0171】発光素子110は、所定の発光波長ピークを有する半導体素子である。また、その構造は、いわゆる発光ダイオードでも、半導体レーザでも良い。発光素子110の材料は、必要とされる発光波長帯に応じて適宜決定される。例えば、RGB各色の発光を実現するためには、図4に関して説明したような窒化ガリウムを発光層に有し、紫外線領域の発光波長を有する発光ダイオードであることが望ましい。
【0172】また、波長変換材料112は、発光素子110の発光波長と合致した吸収励起ピークを有するものであることが望ましい。例えば、発光素子が窒化ガリウムを用いた素子である場合は、波長変換材料112は、図5に示したような吸収ピークを有するものであることが望ましい。」

5 対比、一致点及び相違点
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)本願発明の「基材と」との特定事項について検討する。
(イ)引用発明において、本願発明における「基材」に相当する部材は記載されていないところ、LEDを基材に取り付けることは慣用的に行われており、引用発明においても、紫色発光のダイオードは基材に設けられていることは、記載されているに等しい事項である。
(ウ)したがって、引用発明は上記特定事項を備えるものである。


(ア)本願発明の「約405?約430nmの波長の電磁波を放射するように構成される活性領域を有する、前記基材の一部分上に設けられた少なくとも1つの発光ダイオード(LED)と」との特定事項について検討する。
(イ)引用発明における「紫色発光のダイオード」は、「発光波長が410nm」であるから、本願発明における「発光ダイオード(LED)」に相当する。
(ウ)したがって、引用発明は上記特定事項を備えるものである。


(ア)本願発明の「蛍光体材料の混合物であって、第1の蛍光体材料、第2の蛍光体材料及び第3の蛍光体材料を含み、当該混合物は、前記少なくとも1つのLEDの近傍に配置され、前記電磁波と相互作用して、前記約405?約430nmの波長の電磁波を約440?約650nmの波長の電磁波に実質的に変換するように構成される、蛍光体材料の混合物と」との特定事項について検討する。
(イ)引用発明の蛍光体は、「各色の蛍光体粉末をそれぞれ樹脂と混合した後、各色の樹脂との混合体を混ぜ合わせ混合蛍光体としたもの」であるから、蛍光体材料の混合物である。
そして、引用発明は、「発光ダイオード上部」に「蛍光体層 」を備えるから、蛍光体材料の混合物は、発光ダイオードの近傍に配置されているといえる。
また、引用発明は、「青色、緑色、赤色を含む3種類以上の可視光を発光する蛍光体」の混合物により、「紫色発光のダイオード」から照射される「410nm」の光を「440nm以上460nm以下の範囲の青色部、510nm以上530nm以下の範囲の緑色部、620nm以上640nm以下の範囲の赤色部にピーク値を有」する光に変換するものである。
(ウ)したがって、引用発明は上記特定事項を備えるものである。


(ア)本願発明の「前記第1の蛍光体材料は、青色蛍光体を含み、前記青色蛍光体は、405?430nmの波長範囲に吸収ピークを有する」との特定事項について検討する。
(イ)引用発明は、「青色」を発光する蛍光体を含む。
(ウ)したがって、引用発明は、上記特定事項のうち「第1の蛍光体材料は、青色蛍光体を含」む点で共通する。

(2)一致点
以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
「基材と、
約405?約430nmの波長の電磁波を放射するように構成される活性領域を有する、前記基材の一部分上に設けられた少なくとも1つの発光ダイオード(LED)と、
蛍光体材料の混合物であって、第1の蛍光体材料、第2の蛍光体材料及び第3の蛍光体材料を含み、当該混合物は、前記少なくとも1つのLEDの近傍に配置され、前記電磁波と相互作用して、前記約405?約430nmの波長の電磁波を約440?約650nmの波長の電磁波に実質的に変換するように構成される、蛍光体材料の混合物と
を備え、
前記第1の蛍光体材料は、青色蛍光体を含む光学素子。」

(3)相違点
一方、両者は以下の点で相違する。
(相違点)
青色蛍光体について、本願発明は「405?430nmの波長範囲に吸収ピークを有する」ことが特定されている一方、引用発明の青色蛍光体の吸収ピークは、どの波長範囲にあるのか不明である点。

6 判断
(1)相違点について、検討する。

上記4(2)及び(3)に示したとおり、LEDから照射された光を、別の波長に変換する波長変換材料において、LEDから照射された光の波長と、波長変換材料の吸収波長を合わせる(重ねる)ことは、周知技術である。上記周知技術の技術的な背景は以下のとおりである。
ポンプLEDと蛍光体とを用いた白色LED光源において、ポンプLEDは、特定の波長の光を照射し、蛍光体は、その特定の波長の光を吸収し、異なる波長の光へと変換するものである。そのため、蛍光体の吸収波長がポンプLEDの照射する光の波長とより重なるようにすれば、ポンプLEDが照射する当該光を、蛍光体が有効に吸収することができるので、蛍光体は効率良く動作できるということである。
そして、光抽出効率の向上は白色LEDにおいて周知の課題であり、蛍光体が効率よく動作すれば、白色LEDの光抽出効率が向上するわけであるから、引用発明において上記周知技術を採用する動機付けは存在する。


また、引用発明において、青色蛍光体はユーロピウム付活アルカリ土類クロロリン酸塩 (Sr_(0.99) Eu_(0.01) )_(10)(PO_(4))_(6)・Cl_(2 )であり、これは、本件の発明の詳細な説明において、【0039】に例示されている「Sr_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)」と同等の組成であるから、その特性においても類似のものと解される。したがって、引用発明の青色蛍光体は、本願発明の青色蛍光体のように405?430nm近傍に吸収ピークを有する蓋然性が高い材料であるといえる。


そうすると、引用発明において、本願発明の青色蛍光体と同等の組成の引用発明の青色蛍光体について、光抽出効率を向上するために上記周知技術を採用して、青色蛍光体の吸収ピークをポンプLEDの照射する光の波長と重なるように調整することは、当業者が容易になし得たことである。そして、上記周知技術を採用するに際し、相違点に係る構成である(ポンプLEDの波長範囲に)「吸収ピークを有する」ように調整すること、つまり、引用発明において「紫色発光のダイオードの発光波長は410nm」であるならば、青色蛍光体の吸収ピークも410nmとすることは、周知例3においても記載されているように、LEDから照射された光の波長と波長変換材料の吸収波長を合わせるに際して、適宜採用しうる事項にすぎず、格別なことではない。


したがって、引用発明において、上記周知技術に基づいて、相違点に係る本願発明の構成を得ることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。

(2)請求人の主張について

請求人は、令和1年8月22日に提出された手続補正書に記載の「請求の理由」の((2)本願が特許されるべき理由 (2-1)理由2について)において「引用文献1は、本願発明に係る青色蛍光体(Sr_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):E又はSr_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+) )と基本的な構成が類似する青色蛍光体((Sr_(0.99)Eu_(0.01))_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2) ))を開示するのみであり、引用文献1の青色蛍光体が本願発明に係る蛍光体と同じ構成を備えている訳ではありません。それどころか、同じ元素組成の化合物は、その性能によって定義されるように異なる構造を持つ場合があります。蛍光体の特性は、例えば、結晶構造、形態、不純物濃度、不純物組成、合成方法、粒子サイズ、粒子分布などの多くの要因に依存し得るものです。これらの要因はいずれも、蛍光体の元素組成によって示されません。」と主張しているので、この点について検討する。


上記(1)で示したとおり、引用発明において、LEDから照射された光の波長と、波長変換材料の吸収波長を合わせることの動機付けがあり、波長変換材料の吸収波長をポンプLEDの波長範囲に吸収ピークを有するようにすることは、適宜採用しうる事項であるから、仮に「引用文献1の青色蛍光体が本願発明に係る蛍光体と同じ構成を備えている」と厳密な意味で言えないとしても、進歩性の判断にかわりはないものである。


また、「蛍光体の特性は、例えば、結晶構造、形態、不純物濃度、不純物組成、合成方法、粒子サイズ、粒子分布などの多くの要因に依存し得る」との主張によれば、本願発明で使用される青色蛍光体は、引用発明で用いられているような一般的な青色蛍光体に対して「結晶構造、形態、不純物濃度、不純物組成、合成方法、粒子サイズ、粒子分布など」を調整することで、初めて得られる蛍光体ということになる。
そして、そのような調整により得られる蛍光体が一般的なものであると判断できる本件明細書の記載はなく、また、そのような技術常識も明らかでないことから、そのような蛍光体がいかなるものか、本件の明細書において説明することが求められるところ、本件の明細書は、波長変換材料(蛍光体)について、【0039】、【0041】にその組成が記載されているにとどまり、上記の「結晶構造、形態、不純物濃度、不純物組成、合成方法、粒子サイズ、粒子分布」などの条件はなんら記載されていない。
したがって、上記主張は、明細書等の記載に基づくものとはいえない。
さらに、上記主張に従い、仮に、本願発明が、特別な「結晶構造、形態、不純物濃度、不純物組成、合成方法、粒子サイズ、粒子分布」などの条件を含むものであるとしても、そのような条件が本件明細書に記載されていないことから、本件の明細書は、そのような一般的でない蛍光体について、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとも言い得るものであり、そのような観点からも上記主張は採用できないものである。


付言すれば、拒絶査定において示された理由の(理由3)実施可能要件について、請求人は、請求の理由の((2)本願が特許されるべき理由(2-2)理由3について)において、「当業者は、蛍光体の特定を、その元素組成に基づくのではなく、その性能に基づき行っています。・・・(中略)・・・したがって、蛍光体の分野では、発光効率と吸収端の観点から蛍光体構造を特定することが一般的であり、当業者は、過度の実験をすること無く、にそのような蛍光体を開発することができます。」と主張している。
上記ウで検討した請求人の主張によれば、本願発明で使用される青色蛍光体は、特別な「結晶構造、形態、不純物濃度、不純物組成、合成方法、粒子サイズ、粒子分布」などの条件を含むものであるように解されるが、上記実施可能要件に対する主張では、「過度の実験をすること無く」「そのような蛍光体を開発することができ」るとされており、特別な態様ではないようにも解される。
上記実施可能要件に対する主張のように本願発明の蛍光体が特別な態様ではないようなものであるとすれば、上記(1)イで示したとおり、引用発明の青色蛍光体と本願発明の青色蛍光体は同等の組成であり、引用発明の青色蛍光体の吸収ピークを調整し、蛍光体の吸収ピークをポンプLEDの照射する光の波長と重なるよう構成することは当業者が容易に想到し得ることであるとした判断が妥当であることを示しているものであるともいえる。


したがって、請求人の主張は採用できない。

(3)小活
以上検討したとおり、引用発明において、相違点に係る構成を備えることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 むすび
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2020-06-05 
結審通知日 2020-06-09 
審決日 2020-06-26 
出願番号 特願2017-122984(P2017-122984)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高椋 健司  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 田中 秀直
瀬川 勝久
発明の名称 複数の蛍光体を備えるポンプLEDシステムおよび方法  
代理人 舛谷 威志  

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