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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1368030
審判番号 不服2019-15029  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-08 
確定日 2020-11-10 
事件の表示 特願2018-524236「ネットワークハンドオーバ方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月18日国際公開、WO2017/079923、平成30年11月15日国内公表、特表2018-533886〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2015年(平成27年)11月11日を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯の概略は以下のとおりである。

平成30年 6月20日 :手続補正書の提出
平成31年 3月12日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月20日 :意見書,手続補正書の提出
令和 元年 7月 1日付け:拒絶査定
令和 元年11月 8日 :拒絶査定不服審判の請求,手続補正書の提


第2 補正の適否
令和元年11月8日でされた手続補正は,補正前の請求項3,8について,拒絶査定の「●理由4(特許法第36条第6項第2号)について」の「2.」の指摘に対応するための補正であり,「明りょうでない記載の釈明」に該当する。したがって,上記補正は,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる事項を目的とするものであり,同条第3項,同第4項の規定に違反するところはない。

第3 本願発明
本願の請求項に係る発明は,令和元年11月8日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項6に係る発明(以下,「本願発明」という。令和元年11月8日の手続補正では請求項6は実質的に補正されていない。)は,以下のとおりのものと認める。

「 端末であって,前記端末は,
アクセスポイントと通信するように構成されている通信インターフェースと,
現在接続されているアクセスポイントが伝送条件を満たすことができないことを検知し,前記現在接続されているアクセスポイントにあらかじめ関連付けられたアクセスポイントに,前記伝送条件を満たす少なくとも1つのアクセスポイントが存在することを見つけ,前記伝送条件を満たす少なくとも1つのアクセスポイントのうちの1つへの接続を確立するように構成されているプロセッサと,
を具備し,
前記現在接続されているアクセスポイントに関連付けられた前記アクセスポイントのカバレージは,前記現在接続されているアクセスポイントのカバレージよりも大きいことを特徴とする端末。」

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,
「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。」及び
「2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものであり,本願の請求項6に係る発明に対して,以下の引用例1が引用されている。

引用例1:特開2010-21765号公報

第5 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-21765号公報には,図面とともに,以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「【0002】
無線LAN(Local Area Network)の規格であるIEEE802.11では,基地局(アクセスポイント(以下,APという))と端末局(ステーション(以下,STAという))とが相互に無線通信を行うシステムが規定されている。APは,配置された空間を管理する親局であり,APに接続するSTAを複数台管理して,APとSTAとの間の通信を制御する。
【0003】
APからの電波の届く物理的範囲に限界が存在するため,STAがAPを見失わないようにするために,境界付近で電波範囲がオーバーラップするように,複数のAPが設置されるのが一般的である。これにより,例えばモバイル用途のPC(パーソナルコンピュータ)が,あるAP(AP1)から別のAP(AP2)の方向に移動しながらデータ通信を行う場合に,APを切り替えるローミングを行って,データ通信が途切れないようにすることができる。
【0004】
各APはSSID(Service Set Identifier)と呼ばれる識別情報を所持している。このSSIDは,STAが接続可能な無線通信ネットワークを識別する識別情報である。複数のAPは,同一のSSIDを使用することが可能である。例えば,あるビルの3階で使用するネットワークに対して「Floor3」というSSIDを決定し,この階に設置するすべてのAPに「Floor3」を付与することが可能である。
(中略)
【0061】
次に,STA10の構成の詳細について図8を用いて説明する。図8は,第1の実施の形態にかかるSTA10のブロック図である。同図に示すように,STA10は,アンテナ101と,RF(Radio Frequency)部102と,ベースバンド信号処理部110と,プロトコル制御部120と,を備えている。
【0062】
アンテナ101は,AP20などの外部装置との間で無線通信を行うための電波を送受信する。RF部102は,周波数変換および電力増幅などを行う。
(中略)
【0072】
なお,スキャン処理部121は,利用可能なすべてのチャンネルでスキャンを実行する。チャンネルは,IEEE802.11でも規定されているように,各国の法律にしたがって利用可能な帯域が規定されている。したがって,スキャン処理部121は,2.4GHz帯と5GHz帯とを合わせて26チャンネルをスキャンする。
【0073】
スキャン結果判定部122は,スキャン結果記憶部132のリストを参照し,接続中のAP20との接続が維持できるかを判定する。上述のように,リスト2は,スキャンされたAP20のうち,識別情報記憶部131に記憶されている接続中のAP20のSSIDおよびBSSIDと一致するAP20のリストを表す。したがって,スキャン結果判定部122は,リスト2に情報が保存されているか否かを判定することによって,接続中のAP20との接続が維持できるかを判定することができる。
(中略)
【0076】
なお,同図では省略しているが,STA10は,システム全体を制御するプロセッサ(CPU),CPUがワークエリアとして利用可能なSRAM(Static Random Access Memory),およびCPUで実行されるプログラムを格納する記憶部であるROMなどを備えている。
【0077】
そして,例えば,SRAMを,同図のスキャン結果記憶部132および識別情報記憶部131として機能させてもよい。また,ROMに保存されたプログラムをロードして実行することにより,CPUを,同図のスキャン処理部121,スキャン結果判定部122,ローミング判定部123,および接続要求部124として機能させてもよい。すなわち,上記の各機能をソフトウェアで実現してもよいし,各機能をハードウェア回路で実現してもよい。
【0078】
次に,このように構成された第1の実施の形態にかかるSTA10によるローミング処理について説明する。図11は,第1の実施の形態におけるローミング処理の全体の流れを示すフローチャートである。
(中略)
【0083】
次に,スキャン結果判定部122が,接続中のAP20の情報がリスト2に存在するか否かを判断する(ステップS1104)。通常,接続中のAP20の情報は,リスト2に格納される。しかし,電波状態が悪化した場合などには,接続中のAP20からのProbeResponseフレームが受信できず,リスト2に接続中のAP20の情報が格納されないことがある。
【0084】
接続中のAP20の情報がリスト2に存在する場合は(ステップS1104:YES),プロトコル制御部120は,接続中のAP20との接続を維持する(ステップS1105)。
【0085】
接続中のAP20の情報がリスト2に存在しない場合は(ステップS1104:NO),ローミング判定部123が,接続可能なAP20がリスト1に存在するか否かを判断する(ステップS1106)。
(中略)
【0092】
第2の実施の形態では,識別情報記憶部1231に記憶する情報,スキャン処理部1221の機能,および,プロトコル制御部1220にチャンネル選択部1225を追加したことが第1の実施の形態と異なっている。その他の構成および機能は,第1の実施の形態にかかるSTA10の構成を表すブロック図である図8と同様であるので,同一符号を付し,ここでの説明は省略する。
(中略)
【0104】
次に,このように構成された第2の実施の形態にかかるSTA1200によるローミング処理について説明する。図13は,第2の実施の形態におけるローミング処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0105】
まず,スキャン処理部1221は,SSIDが一致する接続可能なAP20をスキャンする(ステップS1301)。具体的には,スキャン処理部1221は,まず,接続中のAP20のSSIDを指定してProbeRequestフレームを生成し,送受信部121aによって送信する。そして,スキャン処理部1221は,送受信部121aによって,ProbeRequestフレームを受信したAP20のそれぞれから,ProbeResponseフレームを受信する。なお,スキャン処理部1221は,使用可能なすべてのチャンネルでSSIDを指定したスキャンを実行する。
【0106】
次に,スキャン処理部1221は,受信したProbeRequestに含まれる情報を参照し,現在接続中のAP20とSSIDが一致するAP20のリストであるリスト1を作成する(ステップS1302)。
【0107】
次に,スキャン処理部1221は,SSIDおよびBSSIDが一致する接続可能なAP20をスキャンする(ステップS1303)。具体的には,スキャン処理部1221は,まず,接続中のAP20のSSIDおよびBSSIDを指定してProbeRequestフレームを生成し,送受信部121aによって送信する。そして,スキャン処理部1221は,送受信部121aによって,ProbeRequestフレームを受信したAP20のそれぞれから,ProbeResponseフレームを受信する。
【0108】
なお,2回目のスキャンでは,スキャン処理部1221は,接続中のAP20が使用するチャンネルでSSIDを指定したスキャンを実行する。具体的には,まず,チャンネル選択部1225が,識別情報記憶部1231から現在接続中のAP20が使用するチャンネルを,2回目のスキャンで使用するチャンネルとして取得する。そして,スキャン処理部1221は,チャンネル選択部1225が取得したチャンネルで2回目のスキャンを実行する。
【0109】
次に,スキャン処理部1221は,受信したProbeRequestに含まれる情報を参照し,現在接続中のAP20とSSIDおよびBSSIDが一致するAP20のリストであるリスト2を作成する(ステップS1304)。
【0110】
ステップS1305からステップS1308までの,接続性判定処理は,第1の実施の形態にかかるSTA10におけるステップS1104からステップS1107までと同様の処理なので,その説明を省略する。
(中略)
【0119】
図14は,第3の実施の形態にかかるSTA1400の構成を示すブロック図である。同図に示すように,STA1400は,アンテナ101と,RF部102と,ベースバンド信号処理部1410と,プロトコル制御部1420と,を備えている。
【0120】
第2(当審註:「第2」は「第3」の誤記と考えられる)の実施の形態では,ベースバンド信号処理部1410に電波強度検出部1413を追加したこと,プロトコル制御部1420に算出部1426を追加したこと,スキャン処理部1421の機能,およびスキャン結果判定部1422の機能が第2の実施の形態と異なっている。その他の構成および機能は,第2の実施の形態にかかるSTA1200の構成を表すブロック図である図12と同様であるので,同一符号を付し,ここでの説明は省略する。
(中略)
【0125】
次に,このように構成された第3の実施の形態にかかるSTA1400によるローミング処理について説明する。図15は,第3の実施の形態におけるローミング処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0126】
ステップS1501からステップS1505までの,リスト作成処理,およびリスト判定処理は,第2の実施の形態にかかるSTA1200におけるステップS1301からステップS1305までと同様の処理なので,その説明を省略する。
【0127】
ただし,本実施の形態では,2回目のスキャン(ステップS1503)を複数回実行し,そのときの電波強度を検出し,算出部1426が,複数の電波強度の平均値を算出するものとする(同図では省略)。
【0128】
ステップS1505で,接続中のAP20の情報がリスト2に存在すると判断された場合(ステップS1505:YES),スキャン結果判定部1422は,さらに,接続中のAP20から受信した電波の電波強度の平均値が予め定められた閾値より大きいか否かを判断する(ステップS1506)。そして,電波強度の平均値が閾値より大きい場合は(ステップS1506:YES),プロトコル制御部1420は,接続中のAP20との接続を維持する(ステップS1507)。
【0129】
一方,電波強度の平均値が閾値より大きくない場合は(ステップS1506:NO),ローミング判定部123が,接続可能なAP20がリスト1に存在するか否かを判断する(ステップS1508)。
【0130】
接続可能なAP20がリスト1に存在しない場合は(ステップS1508:NO),ローミング可能な他のAP20が存在しないため,プロトコル制御部1420は,接続中のAP20との接続を維持する(ステップS1507)。
【0131】
接続可能なAP20がリスト1に存在する場合は(ステップS1508:YES),接続要求部124が,接続可能なAP20に対して接続を要求してローミングする(ステップS1509)。
【0132】
このように,第3の実施の形態では,接続中のAP20からの電波の電波強度が予め設定した閾値を下回る場合には,接続中のAP20がSTA1400から遠ざかっている(実際にはSTA1400がAP20から離れている)と判断してローミングを積極的に行うように動作させることができる。これにより,データ通信の安定化を実現できる。
(中略)
【0136】
(変形例5) 本変形例では,電波強度が所定の閾値より小さい場合に,他のAPのうち,電波強度が閾値より大きいAPへローミングする。図16は,第3の実施の形態の変形例5にかかるSTA1600の構成を示すブロック図である。同図に示すように,STA1600は,アンテナ101と,RF部102と,ベースバンド信号処理部1410と,プロトコル制御部1620と,を備えている。
【0137】
本変形例では,プロトコル制御部1620のローミング判定部1623の機能が第3の実施の形態と異なっている。その他の構成および機能は,第3の実施の形態にかかるSTA1400の構成を表すブロック図である図14と同様であるので,同一符号を付し,ここでの説明は省略する。
【0138】
ローミング判定部1623は,リスト1に含まれるAP20のうち,電波強度が所定の閾値より大きいAP20をローミング先として決定する。
【0139】
次に,このように構成された第3の実施の形態の変形例5にかかるSTA1600によるローミング処理について説明する。図17は,第3の実施の形態の変形例5におけるローミング処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0140】
本変形例は,ステップS1608のローミング先判定処理が,第3の実施の形態のローミング処理を表す図15のステップS1508と異なっている。他の処理は,第3の実施の形態にかかるSTA1400と同様の処理なので,その説明を省略する。
【0141】
ステップS1608では,ローミング判定部1623が,電波強度>閾値を満たす接続可能なAP20がリスト1に存在するか否かを判断する(ステップS1608)。
【0142】
このように,本変形例では,1回目のスキャンで検出したローミング候補となるAPの電波強度を,ローミング先の判定に使用している。すなわち,2回目のスキャンの結果に応じてローミングを試みる場合,ローミング候補のAPの電波強度が閾値に達した場合にのみローミングを行うようにする。そして,ローミング候補のAPの電波強度が閾値に達しない場合にはローミングしない。これにより,さらにデータ通信を安定化させることができる。
(中略)
【0145】
第1?第3の実施の形態にかかる通信装置は,CPUなどの制御装置と,ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶装置と,HDD(Hard Disk Drive),CDドライブ装置などの外部記憶装置と,ディスプレイ装置などの表示装置と,キーボードやマウスなどの入力装置を備えており,通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。
(中略)
【0149】
第1?第3の実施の形態にかかる通信装置で実行される通信プログラムは,上述した各部(スキャン処理部,スキャン結果判定部,ローミング判定部,および接続要求部等)を含むモジュール構成となっており,実際のハードウェアとしてはCPU(プロセッサ)が上記記憶媒体から通信プログラムを読み出して実行することにより上記各部が主記憶装置上にロードされ,上記各部が主記憶装置上に生成されるようになっている。

【図11】


【図13】


【図15】


【図16】



【図17】




上記の記載,並びに当業者の技術常識を考慮すると,

1 【0002】には,端末局のことをSTAということ,アクセスポイントのことをAPということが記載されている。
また,【0061】,【0062】には,第1の実施の形態にかかるSTAは,APとの間で無線通信を行うための電波を送受信するアンテナ101と,周波数変換及び電力増幅を行うRF部102を備えていることが記載されている。
そして,【0092】,【0120】,【0136】,【0137】の記載,及び図16によれば,第3の実施の形態の変形例5にかかるSTAが,第1の実施の形態にかかるSTAと同様に,アンテナ101と,RF部102を備えているといえる。
したがって,引用例1には,第3の実施の形態の変形例5について,「端末局であるSTAであって,前記STAは,
アクセスポイントであるAPとの間で無線通信を行うための電波を送受信するアンテナと,周波数変換及び電力増幅を行うRF部」を備えることが記載されていると認める。

2 図16から,第3の実施の形態の変形例5にかかるSTAは,プロトコル制御部に含まれる,スキャン処理部,スキャン結果判定部,ローミング判定部,接続要求部を備えることがみてとれる。このことは,【0136】,【0137】の記載とも整合する。
そして,【0076】,【0077】,【0145】,【0149】の記載から,第3の実施の形態の変形例5にかかるSTAがCPU(プロセッサ)を備え,CPUをスキャン処理部,スキャン結果判定部,ローミング判定部,接続要求部として機能させることは明らかである。
したがって,引用例1には,第3の実施の形態の変形例5について,STAは,「CPU(プロセッサ)を備え,
CPUをスキャン処理部,スキャン結果判定部,ローミング判定部,接続要求部として機能させ」ることが記載されていると認める。

3 【0106】には,第2の実施の形態におけるローミング処理において,S1302で,スキャン処理部は,現在接続中のAPとSSIDが一致するAPのリストであるリスト1を作成することが記載されている。
そして,【0125】,【0126】の記載,及び図13,図15から,S1302とS1502が同様の処理であることがみてとれ,【0139】,【0140】の記載,及び図15,図17から,S1502とS1602が同様の処理であることがみてとれる。
そうすると,S1302,S1502,S1602は全て同様の処理であるといえるから,第3の実施の形態の変形例5においても,S1602で,第2の実施の形態のS1302と同様の処理が行われるといえる。
また,【0004】には,SSIDはSTAが接続可能な無線通信ネットワークを識別する識別情報であることが記載されている。
したがって,引用例1には,第3の実施の形態の変形例5について,「スキャン処理部が,現在接続中のAPとSSIDが一致するAPのリストであるリスト1を作成し,SSIDはSTAが接続可能な無線通信ネットワークを識別する識別情報であ」ることが記載されていると認める。

4 【0109】には,第2の実施の形態におけるローミング処理において,S1304で,スキャン処理部は,現在接続中のAPとSSID及びBSSIDが一致するAPのリストであるリスト2を作成することが記載されている。
そして,【0125】,【0126】の記載,及び図13,図15から,S1304とS1504が同様の処理であることがみてとれ,【0139】,【0140】の記載,及び図15,図17から,S1504とS1604が同様の処理であることがみてとれる。
そうすると,S1304,S1504,S1604は全て同様の処理であるといえるから,第3の実施の形態の変形例5においても,S1604で,第2の実施の形態のS1304と同様の処理が行われるといえる。
したがって,引用例1には,第3の実施の形態の変形例5について,「スキャン処理部が,現在接続中のAPとSSID及びBSSIDが一致するAPのリストであるリスト2を作成」することが記載されていると認める。

5 【0073】,【0083】,【0085】の記載によれば,第1の実施の形態におけるローミング処理において,S1104で,スキャン結果判定部が,接続中のAPの情報がリスト2に存在するか否かを判断することによって,接続中のAPとの接続が維持できるかを判定すること,接続中のAPの電波状態が悪化した場合,リスト2に接続中のAPの情報が格納されないこと,接続中のAPの情報がリスト2に存在しない場合,ローミング判定部が後続の処理を行うことが記載されているといえる。
そして,【0104】,【0110】の記載,及び図11,図13から,S1104とS1305が同様の処理であることがみてとれ,【0125】,【0126】の記載,及び図13,図15から,S1305とS1505が同様の処理であることがみてとれ,【0139】,【0140】の記載,及び図15,図17から,S1505とS1605が同様の処理であることがみてとれる。
そうすると,S1104,S1305,S1505,S1605は全て同様の処理であるといえるから,第3の実施の形態の変形例5においても,S1605で,第1の実施の形態のS1104と同様の処理が行われるといえる。
したがって,引用例1には,第3の実施の形態の変形例5について,「スキャン結果判定部が,接続中のAPの情報がリスト2に存在するか否かを判断することによって,接続中のAPとの接続が維持できるかを判定し,接続中のAPの電波状態が悪化した場合,リスト2に接続中のAPの情報が格納されない」ことが記載されていると認める。

6 【0141】には,第3の実施の形態の変形例5におけるローミング処理において,S1608で,ローミング判定部が,電波強度>閾値を満たす接続可能なAPがリスト1に存在するか否かを判断することが記載されている。
そして,図17から,S1608は,S1605でNoである場合,すなわち接続中のAPの情報がリスト2に存在しない場合に行われる処理であることがみてとれる。
更に,【0138】,【0142】の記載から,ローミング判定部は,リスト1に含まれるAPのうち,電波強度が所定の閾値より大きいAPをローミング先として決定するといえる。
したがって,引用例1には,第3の実施の形態の変形例5について,「接続中のAPの情報がリスト2に存在しない場合,
ローミング判定部が,電波強度>閾値を満たす接続可能なAPがリスト1に存在するか否かを判断するとともに,リスト1に含まれるAPのうち,電波強度が所定の閾値より大きいAPをローミング先として決定」することが記載されていると認める。

7 【0131】には,第3の実施の形態におけるローミング処理において,S1509で,接続要求部が,接続可能なAPに対して接続を要求してローミングすることが記載されている。
そして,【0139】,【0140】の記載,及び図15,図17から,S1509とS1609が同様の処理であることがみてとれる。
そうすると,第3の実施の形態の変形例5においても,S1609で,第3の実施の形態のステップS1509と同様の処理が行われるといえる。
また,【0003】によれば,STAは,ローミングを行うことで,APを切り替えることが記載されているといえる。
したがって,引用例1には,第3の実施の形態の変形例5について,「接続要求部が,接続可能なAPに対して接続を要求してローミングし,APを切り替える」ことが記載されていると認める。

以上を総合すると,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「 端末局であるSTAであって,前記STAは,
アクセスポイントであるAPとの間で無線通信を行うための電波を送受信するアンテナと,周波数変換及び電力増幅を行うRF部と,
CPU(プロセッサ)を備え,
CPUをスキャン処理部,スキャン結果判定部,ローミング判定部,接続要求部として機能させ,
ここで,スキャン処理部が,現在接続中のAPとSSIDが一致するAPのリストであるリスト1を作成し,SSIDはSTAが接続可能な無線通信ネットワークを識別する識別情報であり,
更に,スキャン処理部が,現在接続中のAPとSSID及びBSSIDが一致するAPのリストであるリスト2を作成し,
スキャン結果判定部が,接続中のAPの情報がリスト2に存在するか否かを判断することによって,接続中のAPとの接続が維持できるかを判定し,接続中のAPの電波状態が悪化した場合,リスト2に接続中のAPの情報が格納されず,
接続中のAPの情報がリスト2に存在しない場合,
ローミング判定部が,電波強度>閾値を満たす接続可能なAPがリスト1に存在するか否かを判断するとともに,リスト1に含まれるAPのうち,電波強度が所定の閾値より大きいAPをローミング先として決定し,
接続要求部が,接続可能なAPに対して接続を要求してローミングし,APを切り替える,
STA。」

第6 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,

1 引用発明の「STA」は,本願発明の「端末」に相当する。また,本願発明の「アクセスポイント」と,引用発明の「AP」は,双方ともアクセスポイントである点で共通する。

2 引用発明の「アクセスポイントであるAPとの間で無線通信を行うための電波を送受信するアンテナと,周波数変換及び電力増幅を行うRF部」が,本願発明の「アクセスポイントと通信するように構成されている通信インターフェース」に含まれることは,当業者にとって明らかである。

3 本願発明の「伝送条件」が,接続中のAPから受信した電波の電波強度が閾値より大きいことを含むことは明らかであり,これは本願明細書の【0021】,【0022】の
「【0021】
伝送条件は,以下の少なくとも1つを含む。
【0022】
1:端末により受信された信号の強度が,第1しきい値より大きい。第1しきい値は,-75db(decibel, デシベル)であり得る。」との記載とも整合する。
ここで,引用発明の「接続中のAPの電波状態が悪化した場合」において,「接続中のAPから受信した電波の電波強度」が所定の閾値より大きくないことは明らかであるから,引用発明の「接続中のAPの電波状態が悪化した場合」は,本願発明の「伝送条件を満たすことができないこと」に含まれる。
ここで,引用発明は,「現在接続中のAPとSSID及びBSSIDが一致するAPのリストであるリスト2を作成し」,「接続中のAPの情報がリスト2に存在するか否かを判断することによって,接続中のAPとの接続が維持できるかを判定」するものであるところ,引用発明において,「接続中のAPの電波状態が悪化した場合」,接続中のAPとの接続が維持できないと判定する,すなわち,接続中のAPの情報がリスト2に存在しないと判断することは明らかであるから,引用発明の「接続中のAPの電波状態が悪化した場合,リスト2に接続中のAPの情報が格納されず」との事項は,接続中のAPの電波状態が悪化した場合,リスト2に接続中のAPの情報が存在しないようにすることを含むといえる(すなわち,接続中のAPの電波状態が悪化した場合,電波状態が悪化する前はリスト2に存在した接続中のAPの情報を削除することを含むといえる)。
そうすると,「接続中のAPの電波状態が悪化した場合」,リスト2に接続中のAPの情報が存在しないから,引用発明の「スキャン処理部が,現在接続中のAPとSSID及びBSSIDが一致するAPのリストであるリスト2を作成し」,「スキャン結果判定部が,接続中のAPの情報がリスト2に存在するか否かを判断することによって,接続中のAPとの接続が維持できるかを判定」することは,本願発明の「現在接続されているアクセスポイントが伝送条件を満たすことができないことを検知」することに含まれる。

4 引用発明の「SSID」は「STAが接続可能な無線通信ネットワークを識別する識別情報」であるから,引用発明の「現在接続中のAP」と「現在接続中のAPとSSIDが一致するAP」は,双方とも,SSIDによって識別されるSTAが接続可能な無線通信ネットワークに関連するAPである。
してみると,引用発明の「現在接続中のAPとSSIDが一致するAP」は,本願発明の「前記現在接続されているアクセスポイントにあらかじめ関連付けられたアクセスポイント」に相当する。
更に,引用発明の「電波強度>閾値を満たす」ことは,本願発明の「伝送条件を満たす」ことに含まれる。
そうすると,引用発明の「スキャン処理部が,現在接続中のAPとSSIDが一致するAPのリストであるリスト1を作成し」,「ローミング判定部が,電波強度>閾値を満たす接続可能なAPがリスト1に存在するか否かを判断するとともに,リスト1に含まれるAPのうち,電波強度が所定の閾値より大きいAPをローミング先として決定」することは,本願発明の「前記現在接続されているアクセスポイントにあらかじめ関連付けられたアクセスポイントに,前記伝送条件を満たす少なくとも1つのアクセスポイントが存在することを見つけ」ることに含まれる。

5 引用発明は,「リスト1に含まれるAPのうち,電波強度が所定の閾値より大きいAPをローミング先として決定」するものであるから,電波強度が所定の閾値より大きいAPを対象として,「接続要求部が,接続可能なAPに対して接続を要求してローミングし,APを切り替え」ていることは明らかである。
してみると,引用発明の「接続要求部が,接続可能なAPに対して接続を要求してローミングし,APを切り替える」ことは,本願発明の「前記伝送条件を満たす少なくとも1つのアクセスポイントのうちの1つへの接続を確立する」ことに相当する。

6 「3」?「5」の検討から,引用発明の「スキャン処理部が,現在接続中のAPとSSIDが一致するAPのリストであるリスト1を作成し,SSIDはSTAが接続可能な無線通信ネットワークを識別する識別情報であり,
更に,スキャン処理部が,現在接続中のAPとSSID及びBSSIDが一致するAPのリストであるリスト2を作成し,
スキャン結果判定部が,接続中のAPの情報がリスト2に存在するか否かを判断することによって,接続中のAPとの接続が維持できるかを判定し,接続中のAPの電波状態が悪化した場合,リスト2に接続中のAPの情報が格納されず,
接続中のAPの情報がリスト2に存在しない場合,
ローミング判定部が,電波強度>閾値を満たす接続可能なAPがリスト1に存在するか否かを判断するとともに,リスト1に含まれるAPのうち,電波強度が所定の閾値より大きいAPをローミング先として決定し,
接続要求部が,接続可能なAPに対して接続を要求してローミングし,APを切り替える」ことは,
本願発明の「現在接続されているアクセスポイントが伝送条件を満たすことができないことを検知し,前記現在接続されているアクセスポイントにあらかじめ関連付けられたアクセスポイントに,前記伝送条件を満たす少なくとも1つのアクセスポイントが存在することを見つけ,前記伝送条件を満たす少なくとも1つのアクセスポイントのうちの1つへの接続を確立する」ことに含まれる。
そして, 引用発明は「CPUをスキャン処理部,スキャン結果判定部,ローミング判定部,接続要求部として機能させ」るものであるから,引用発明の「CPU(プロセッサ)」が,本願発明の「プロセッサ」に含まれることは明らかである。

以上を総合すると,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(一致点)
「 端末であって,前記端末は,
アクセスポイントと通信するように構成されている通信インターフェースと,
現在接続されているアクセスポイントが伝送条件を満たすことができないことを検知し,前記現在接続されているアクセスポイントにあらかじめ関連付けられたアクセスポイントに,前記伝送条件を満たす少なくとも1つのアクセスポイントが存在することを見つけ,前記伝送条件を満たす少なくとも1つのアクセスポイントのうちの1つへの接続を確立するように構成されているプロセッサと,
を具備する端末。」

(相違点)
「現在接続されているアクセスポイントにあらかじめ関連付けられたアクセスポイント」に関し,本願発明は「前記現在接続されているアクセスポイントに関連付けられた前記アクセスポイントのカバレージは,前記現在接続されているアクセスポイントのカバレージよりも大きいこと」が特定されているのに対し,引用発明の「現在接続中のAPとSSIDが一致するAP」は,そのような特定がされていない点。

上記相違点について検討する。

本願発明は,「端末」であるところ,本願発明の「前記現在接続されているアクセスポイントに関連付けられた前記アクセスポイントのカバレージは,前記現在接続されているアクセスポイントのカバレージよりも大きいこと」との発明特定事項は,「アクセスポイント」の動作を特定する一方で,「端末」の動作等を何ら特定していないから,上記発明特定事項は,サブコンビネーションの発明である「端末」を特定するための意味を有しないものである。
したがって,上記相違点は実質的な相違点ではない。

更に言えば,引用例1の【0072】の「なお,スキャン処理部121は,利用可能なすべてのチャンネルでスキャンを実行する。(中略)したがって,スキャン処理部121は,2.4GHz帯と5GHz帯とを合わせて26チャンネルをスキャンする。」との記載によれば,引用例1に記載されたSTA(端末局)が,5GHz帯を用いるAP(アクセスポイント)から,2.4GHz帯を用いるAPへローミングすること(APを切り替えること)は,引用例1に記載された技術において,当然に想定される処理といえる。そして,通信に利用する帯域以外の条件を同一とした場合に,2.4GHz帯を用いるAPのカバレッジが,5GHz帯を用いるAPのカバレッジよりも広いことは,当業者に一般的に知られている周知の事項である。
そうすると,引用例1の【0072】の記載及び上記の周知の事項に基づいて, STAが,5GHz帯を用いるAPから,5GHz帯を用いるAPよりもカバレッジが広い2.4GHz帯を用いるAPへローミングすること(APを切り替えること),すなわち「前記現在接続されているアクセスポイントに関連付けられた前記アクセスポイントのカバレージは,前記現在接続されているアクセスポイントのカバレージよりも大きいこと」は,当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明に基づいて当業者が予測し得る範囲のものであり,格別なものではない。
したがって,本願発明は,引用例1に記載された発明であり,また,引用例1に記載された発明に基づき,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法第29条第1項第3号,同条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1に記載された発明であり,また,引用例1に記載された発明に基づき,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法第29条第1項第3号,同条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-06-04 
結審通知日 2020-06-08 
審決日 2020-06-24 
出願番号 特願2018-524236(P2018-524236)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H04W)
P 1 8・ 537- Z (H04W)
P 1 8・ 16- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深津 始  
特許庁審判長 岩間 直純
特許庁審判官 望月 章俊
相澤 祐介
発明の名称 ネットワークハンドオーバ方法及び装置  
代理人 実広 信哉  
代理人 木内 敬二  
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