• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1368053
異議申立番号 異議2019-700439  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-28 
確定日 2020-09-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6431340号発明「封止用熱硬化性樹脂シート及び中空パッケージの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6431340号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、6について訂正することを認める。 特許第6431340号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6431340号の請求項1-6に係る発明についての出願は、平成26年11月7日(優先権主張 平成25年11月28日、平成25年11月28日、平成25年11月28日、平成26年2月28日)に出願され、平成30年11月9日にその特許権が設定登録され、平成30年11月28日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次の通りである。
令和1年 5月28日:特許異議申立人栗原喜子により請求項1-6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和1年 7月26日付け:取消理由通知
令和1年 9月26日 :特許権者による意見書の提出
令和1年10月21日付け:審尋
令和1年12月27日 :特許異議申立人栗原喜子による回答書の提出
令和2年 2月12日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和2年 4月16日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和2年 6月12日 :特許異議申立人栗原喜子による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年4月16日付けの訂正請求の趣旨は、特許第6431340号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らかいことを特徴とする封止用熱硬化性樹脂シート。」とあるのを、「前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らかく、前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む、ことを特徴とする封止用熱硬化性樹脂シート。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に「前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らかい中空パッケージの製造方法。」とあるのを、「前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らかく、前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む、中空パッケージの製造方法。」に訂正する。

(3)一群の請求項
上記訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1-5について、請求項2-5はそれぞれ請求項1を引用しているものであるから、本件訂正前の請求項1-5に対応する本件訂正の請求項1-5は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正前の請求項1に記載されていた「封止用熱硬化性樹脂シート」を、「前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
明細書の段落【0055】には「熱硬化性樹脂シート11は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。」、段落【0059】には「熱可塑性樹脂は、官能基を有することが好ましい。海島構造を容易に形成できるという理由から、官能基としては、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、メルカプト基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。」と、熱硬化性樹脂シート11が、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含むことが記載されている。
そうすると、訂正事項1の「封止用熱硬化性樹脂シート」を、「前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項1は、「封止用熱硬化性樹脂シート」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正前の請求項6に記載されていた「封止用熱硬化性樹脂シート」を、「前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
明細書の段落【0055】には「熱硬化性樹脂シート11は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。」、段落【0059】には「熱可塑性樹脂は、官能基を有することが好ましい。海島構造を容易に形成できるという理由から、官能基としては、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、メルカプト基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。」と、熱硬化性樹脂シート11が、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含むことが記載されている。
そうすると、訂正事項2の「封止用熱硬化性樹脂シート」を、「前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項2は、「封止用熱硬化性樹脂シート」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号
に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-5]、6について訂正することを認める。

第3 本件発明
特許第6431340号(以下、「本件特許」という。)の請求項1-6に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明6」という。)は、次の事項により特定されるものである。なお、下線は訂正した箇所を示す。

「【請求項1】
中空パッケージを製造するために使用する封止用熱硬化性樹脂シートであって、
前記封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物が、
第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を備え、
前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らかく、
前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む、ことを特徴とする封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項2】
前記硬化物が前記マトリックス部中に分散されたフィラーをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項3】
熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含み、
前記第1の樹脂成分は、前記熱可塑性樹脂であり、
前記第2の樹脂成分は、前記熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項4】
前記ドメイン部の最大粒径が0.01μm?5μmであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項5】
熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂の酸価が1mgKOH/g?100mgKOH/gであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項6】
被着体及び前記被着体に実装された電子デバイスを備えるデバイス実装体、並びに前記デバイス実装体上に配置された封止用熱硬化性樹脂シートを備える積層体を加圧して、前記被着体、前記被着体に実装された前記電子デバイス及び前記電子デバイスを覆う前記封止用熱硬化性樹脂シートを備える封止体を形成する工程を含み、
前記封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物が、
第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を備え、
前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らかく、
前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む、中空パッケージの製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和2年2月12日に特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

1.(新規性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2.(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

●理由1(新規性)について
・請求項1-4、6
・引用文献等1

●理由2(進歩性)について
・請求項5
・引用文献等1、3

<引用文献一覧>
1.特開2013-127034号公報(甲第1号証)
3.特開2011-103440号公報(甲第3号証)

2 刊行物の記載事項、引用発明
(1) 引用文献の記載事項・引用発明
ア 引用文献1
取消理由通知において引用した引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同様。)。
「【請求項1】
電子部品を封止する際に用いられるシート状エポキシ樹脂組成物であって、シートの厚みが150μm?1mmであり、上記エポキシ樹脂組成物が、下記の(A)?(D)成分とともに、下記の(E)成分を含有することを特徴とするシート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物。
(A)エポキシ樹脂。
(B)フェノール樹脂。
(C)エラストマー。
(D)無機質充填剤。
(E)5-ニトロイソフタル酸と下記の式(1)で表されるイミダゾール化合物からなる包摂錯体、5-ニトロイソフタル酸と下記の式(2)で表されるイミダゾール化合物からなる包摂錯体、および、5-ニトロイソフタル酸と下記の式(3)で表されるイミダゾール化合物からなる包摂錯体からなる群から選ばれた少なくとも一つの包摂錯体。
【化1】

【化2】

【化3】



「【請求項3】
(D)成分の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体の60?80重量%である請求項1または2記載のシート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物。」

「【請求項5】
(C)成分であるエラストマーが、(A)成分であるエポキシ樹脂と反応する官能基を有するものである請求項1?4のいずれか一項に記載のシート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか一項に記載のシート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物を用いて、電子部品を樹脂封止してなる電子部品装置。」

「【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、良好な保存安定性を備えるとともに、硬化時のアウトガス発生量が低減されてなるシート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた電子部品装置の提供をその目的とする。」

「【0020】
〈B:フェノール樹脂〉
上記エポキシ樹脂(A成分)とともに用いられるフェノール樹脂(B成分)は、上記エポキシ樹脂(A成分)との間において硬化反応を生起させるものであればよく、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、クレゾールノボラック樹脂、レゾール樹脂等があげられる。これらフェノール樹脂は単独でもしくは2種以上併せて用いられる。そして、これらフェノール樹脂の中でも、上記エポキシ樹脂(A成分)との反応性の観点から、水酸基当量が70?250、軟化点が50?110℃のものを用いることが好ましく、中でも硬化反応性が高いという観点から、フェノールノボラック樹脂を好適に用いることができる。また、信頼性の観点から、フェノールアラルキル樹脂やビフェニルアラルキル樹脂のような低吸湿性のものを好適に用いることができる。
【0021】
上記エポキシ樹脂(A成分)とフェノール樹脂(B成分)の配合割合は、硬化反応性という観点から、エポキシ樹脂(A成分)中のエポキシ基1当量に対して、フェノール樹脂(B成分)中の水酸基の合計が0.5?1.3当量となるように配合することが好ましく、より好ましくは0.7?1.1当量である。
【0022】
〈C:エラストマー〉
上記A成分およびB成分とともに用いられるエラストマー(C成分)は、シート状エポキシ樹脂組成物に柔軟性および可撓性を付与するものであり、このような作用を奏する各種エラストマーが用いられる。例えば、ポリアクリル酸エステル等の各種アクリル系重合体、スチレンアクリレート系共重合体、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)、イソプレンゴム、アクリロニトリルゴム等のゴム質重合体等を用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも、上記エポキシ樹脂(A成分)に対して分散させやすく、かつ上記エポキシ樹脂(A成分)と反応する官能基を有するものが好適に用いられる。すなわち、エポキシ樹脂(A成分)中のエポキシ基と反応することにより、エラストマー(C成分)がエポキシ樹脂組成物の硬化物中の3次元ネットワークに取り込まれることで、硬化後に封止材として耐熱性、強度(強靱性)、接着性に優れた性能が発揮され、結果として信頼性の高い電子部品装置を得ることができる。
【0023】
上記エポキシ樹脂(A成分)と反応する官能基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、イミダゾール基、フェノキシ基、メルカプト基、酸無水物基等があげられる。また、上記エポキシ樹脂(A成分)と反応する官能基が、エポキシ基、アミノ基等、触媒ホストのカルボキシル基との反応性を有する官能基である場合、触媒ホストのカルボキシル基とエポキシ樹脂(A成分)との反応によって、本来あるべきエポキシ樹脂(A成分)-フェノール樹脂(B成分)間の硬化反応が阻害されるのを防止することができる。」

「【0025】
上記エラストマー(C成分)の含有量は、好ましくはエポキシ樹脂組成物全体の5?40重量%であり、より好ましくは10?35重量%、特に好ましくは15?30重量%である。すなわち、エラストマー(C成分)の含有量が少な過ぎると、エポキシ樹脂組成物の柔軟性および可撓性を得るのが困難となるとともに、電子部品の周端部上にあるエポキシ樹脂組成物の硬化体が凸状に形成されにくくなる傾向がみられる。また、エラストマー(C成分)の含有量が多過ぎると、エポキシ樹脂組成物の溶融粘度が高くなるため、電子部品と実装基板の間のギャップにエポキシ樹脂組成物が充填され難くなるとともに、エポキシ樹脂組成物の硬化体の強度が不足する傾向がみられ、耐熱性が低下する傾向がみられる。さらには、電子部品の周端部上にあるエポキシ樹脂組成物の硬化体が凸状に形成されるが、この凸部の段差が大きくなりすぎるために、ダイシング後の電子部品装置のピックアップや搬送に支障が生じる場合がある。」

「【0053】
つぎに、本発明のシート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物を用いた封止方法の一例について述べる。すなわち、本発明のシート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物を用いての基板上に搭載されたチップ型デバイスの封止は、例えば、つぎのようにして行なわれる。まず、基板上の所定位置にチップ型デバイスが搭載された封止対象製品を準備した後、上記搭載されたチップ型デバイス表面を覆うようにシート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物をチップ型デバイス表面に配置し、所定の封止条件にて、シートを加熱硬化することにより、基板と、この基板上に搭載したチップ型デバイスとの空間を中空に保持した状態でチップ型デバイスを樹脂封止する。
【0054】
上記封止条件としては、例えば、温度80?100℃、圧力100?500kPaにて0.5?5分間真空プレスを行なった後、大気開放して、温度150?190℃にて30?120分間加熱するという封止条件があげられる。」

「【実施例】
【0057】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0058】
まず、エポキシ樹脂組成物の作製に先立って、下記に示す各成分を準備した。
【0059】
〔エポキシ樹脂〕
ビスフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量173:DIC社製、EPICRON EXA-850CRP)
【0060】
〔フェノール樹脂〕
ノボラック型フェノール樹脂(水酸基当量105:昭和高分子社製、ショウノール ND-564)
【0061】
〔エラストマーc1〕
アクリル系共重合体(ブチルアクリレート:アクリロニトリル:グリシジルメタクリレート=85重量%:8重量%:7重量%からなる共重合体、重量平均分子量80万)
上記アクリル系共重合体は、つぎのようにして合成した。すなわち、重合開始剤として2,2′-アゾビスイソブチロニトリルを用い、ブチルアクリレート,アクリロニトリル,グリシジルメタクリレートを85:8:7の仕込み重量比率にて配合し、メチルエチルケトン中にて窒素気流下、70℃で5時間、さらに80℃で1時間のラジカル重合を行なうことにより、目的とするアクリル系共重合体を合成した。
・・・
【0066】
〔無機質充填剤〕
球状溶融シリカ粉末(平均粒径0.5μm)
【0067】
〔顔料〕
カーボンブラック(三菱化学社製、カーボンブラック #20)」

【表1】


表1の実施例1は【0061】の記載を考慮すれば、エポキシ樹脂(A)の含有量が11.4重量%、フェノール樹脂(B)の含有量が6.9重量%、エラストマー(C)(c1:グリシジル基含有のアクリル系共重合体)の含有量が5.6重量%、硬化促進剤成分(E)の含有量が0.3重量%、無機質充填剤(D)(球状溶融シリカ粉末)の含有量が75重量%、顔料の含有量が0.8重量%である。
ここで、無機質充填剤(D)(球状溶融シリカ粉末)以外の全成分の含有量が25重量%で、エラストマー(C)(c1:グリシジル基含有のアクリル系共重合体)の含有量が5.6重量%であるので、球状溶融シリカ粉末以外の全成分100重量%中のグリシジル基含有のアクリル系共重合体の含有量は22.4重量%である。

(ア)引用発明1
シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物に着目すると、上記記載より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用文献1の記載箇所を示す。)。
「基板上にチップ型デバイスを搭載し、シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物をチップ型デバイス表面に配置し、シートを加熱硬化することにより、基板と、この基板上に搭載したチップ型デバイスとの空間を中空に保持した状態でチップ型デバイスを樹脂封止するためのシート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物であって(【0053】)、
シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物が、
ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、グリシジル基含有のアクリル系共重合体及び球状溶融シリカ粉末を含み(【実施例】)、
球状溶融シリカ粉末以外の全成分100重量%中のグリシジル基含有のアクリル系共重合体の含有量が22.4重量%である(表1)、
シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物。」

(イ)引用発明2
チップ型デバイスを樹脂封止するための製造方法に着目すると、上記記載より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用文献1の記載箇所を示す。)。
「基板上にチップ型デバイスを搭載し、シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物をチップ型デバイス表面に配置し、シートを真空プレスの後に加熱硬化することにより、基板と、この基板上に搭載したチップ型デバイスとの空間を中空に保持した状態でチップ型デバイスを樹脂封止するための製造方法であって(【0053】、【0054】)、
シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物が、
ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、グリシジル基含有のアクリル系共重合体及び球状溶融シリカ粉末を含み(【実施例】)、
球状溶融シリカ粉末以外の全成分100重量%中のグリシジル基含有のアクリル系共重合体の含有量が22.4重量%である(表1)、
チップ型デバイスを樹脂封止するための製造方法。」

イ 引用文献3
取消理由通知において引用した引用文献3には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0022】
前記ダイボンドフィルム3の構成材料としては、熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂とにより形成されるものが好ましい。更に、前記熱可塑性樹脂には、酸価が好ましくは10?40mgKOH/g、より好ましくは20?40mgKOH/g、更に好ましくは25?35mgKOH/gのものが含まれているのが好ましい。酸価が10mgKOH/g未満であると、120℃、1時間の熱処理後のせん断接着力が不足する場合がある。その一方、酸価が40mgKOH/gより大きいと、保存性が悪化する場合がある。」

上記記載より、引用文献3には次の技術が記載されている。
「熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂とにより形成されたダイボンドフィルムにおいて、接着力と保存性を考慮して、熱可塑性樹脂の酸価を10?40mgKOH/gとする技術。」

3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1を対比する。
a 引用発明1の「基板上にチップ型デバイスを搭載し、シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物をチップ型デバイス表面に配置し、シートを加熱硬化することにより、基板と、この基板上に搭載したチップ型デバイスとの空間を中空に保持した状態でチップ型デバイスを樹脂封止するためのシート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」は、本件発明1の「中空パッケージを製造するために使用する封止用熱硬化性樹脂シート」に相当する。
b 引用発明1の「シートを加熱硬化」したものは、本件発明1の「前記封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物」に相当する。
c 引用発明1の「ビスフェノール型エポキシ樹脂」及び「ノボラック型フェノール樹脂」は熱硬化性樹脂であり、「アクリル系共重合体」は熱可塑性樹脂である。ここで、本件特許の明細書(表1-表4)に示された実施例1-9は、本件発明1の「ドメイン部」に対応する「島相」の主成分が「熱硬化性樹脂」であり、本件発明1の「マトリックス部」に対応する「海相」の主成分が「熱可塑性樹脂」であるので、引用発明1の「ビスフェノール型エポキシ樹脂」及び「ノボラック型フェノール樹脂」が本件発明1の「第2の樹脂成分」、「アクリル系共重合体」が「第1の樹脂成分」であるといえる。
そして、上記bを踏まえると、引用発明1の「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物が、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、グリシジル基含有のアクリル系共重合体」「を含」むことと、本件発明1の「前記封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物が、第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を備え」ることとは、「前記封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物が、第1の樹脂成分及び第2の樹脂成分を含む」ことで共通する。
但し、封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物について、本件発明1は、「第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を備え、前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らか」いのに対して、引用発明1は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂及びグリシジル基含有のアクリル系共重合体を含むがそのような特定がない。
d 引用発明1の「アクリル系共重合体」は熱可塑性樹脂であり、本件発明1の「第1の樹脂成分」に相当するから(上記c)、引用発明1の「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物が、」「グリシジル基含有のアクリル系共重合体」「を含」むことと、本件発明1の「前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む」ことは、「前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、熱可塑性樹脂を含む」ことで共通する。
但し、熱可塑性樹脂が、本件発明1は、「カルボキシル基を有する」のに対して、引用発明1は、グリシジル基を含むがそのような特定がない。

すると、本件発明1と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「中空パッケージを製造するために使用する封止用熱硬化性樹脂シートであって、
前記封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物が、
第1の樹脂成分及び第2の樹脂成分を含み、
前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、熱可塑性樹脂を含む、封止用熱硬化性樹脂シート。」

(相違点1)
封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物について、本件発明1は、「第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を備え、前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らか」いのに対して、引用発明1は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂及びグリシジル基含有のアクリル系共重合体を含むがそのような特定がない点。
(相違点2)
熱可塑性樹脂が、本件発明1は、「カルボキシル基を有する」のに対して、引用発明1は、グリシジル基を含むがそのような特定がない点。

イ 判断
上記相違点1について判断する。
引用文献1の段落【0022】に記載されてるように、引用発明1の「グリシジル基含有のアクリル系共重合体」(エラストマー(C成分))は、エポキシ樹脂(A成分)中のエポキシ基と反応することにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物中の3次元ネットワークに取り込まれるので、「ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂」と共に、エポキシ樹脂組成物の硬化物中に3次元ネットワークを形成するものである。
そうすると、引用発明1の「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」を加熱硬化したものは、「グリシジル基含有のアクリル系共重合体」と「ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂」が一体となって結合した3次元ネットワークを形成しているといえるので、第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を形成しているとは認められない。
したがって、本件発明1と引用発明1は、上記相違点1で相違するので、本件発明1は引用文献1に記載された発明ではない。

よって、本件発明1は、上記相違点2について判断するまでもなく、引用文献1に記載された発明ではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に対して、さらに「前記硬化物が前記マトリックス部中に分散されたフィラーをさらに含む」という技術的事項を追加したものであるところ、上記「(1)」で判断した上記相違点1に係る構成を備えたものである。
そうすると、上記「(1)」と同様の理由により、本件発明2は、引用文献1に記載された発明ではない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1に対して、さらに「熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含み、前記第1の樹脂成分は、前記熱可塑性樹脂であり、前記第2の樹脂成分は、前記熱硬化性樹脂である」という技術的事項を追加したものであるところ、上記「(1)」で判断した上記相違点1に係る構成を備えたものである。
そうすると、上記「(1)」と同様の理由により、本件発明3は、引用文献1に記載された発明ではない。

(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1に対して、さらに「前記ドメイン部の最大粒径が0.01μm?5μmである」という技術的事項を追加したものであるところ、上記「(1)」で判断した上記相違点1に係る構成を備えたものである。
そうすると、上記「(1)」と同様の理由により、本件発明4は、引用文献1に記載された発明ではない。

(5)本件発明5について
上記「(1)ア」で対比した点を踏まえると、本件発明5と引用発明1は次の点で相違する。
(相違点1)
封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物について、本件発明5は、「第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を備え、前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らか」いのに対して、引用発明1は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂及びグリシジル基含有のアクリル系共重合体を含むがそのような特定がない点。
(相違点2)
熱可塑性樹脂が、本件発明5は、「カルボキシル基を有する」のに対して、引用発明1は、グリシジル基を含むがそのような特定がない点。
(相違点3)
本件発明5は、熱可塑性樹脂の酸価が1mgKOH/g?100mgKOH/gであるのに対して、引用発明1には、そのような特定がない点。

上記相違点1について判断する。
上記「(1)イ」で判断したとおり、引用発明1の「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」を加熱硬化したものは、第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を形成しているとは認められない。
また、引用文献1の段落【0022】に記載されてるように、引用発明1は「グリシジル基含有のアクリル系共重合体」と「ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂」が3次元ネットワークを形成することにより、「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」が、「硬化後に封止材として耐熱性、強度(強靱性)、接着性に優れた性能」を発揮するものである。そして、引用発明1の「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」を、その硬化物が海島構造となるような樹脂組成物に変更することで、3次元ネットワークを形成することによる上記性能を改善できるかどうかは不明であり、あえてそのようなことをする理由はない。
そして、引用文献3には、熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂とにより形成されたダイボンドフィルムにおいて、接着力と保存性を考慮して、熱可塑性樹脂の酸価を10?40mgKOH/gとする技術が記載されている(上記「2 (1) イ」)が、海島構造については記載されていない。

したがって、上記相違点1に係る構成は、引用発明1及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たことではない。

よって、本件発明5は、上記相違点2、3について判断するまでもなく、引用発明1及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と引用発明2を対比する。
a 引用発明2の「基板」、「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」は、それぞれ、本件発明6の「被着体」、「封止用熱硬化性樹脂シート」に相当する。
b 引用発明2の「基板上にチップ型デバイスを搭載し」たものは、本件発明6の「前記被着体に実装された電子デバイスを備えるデバイス実装体」に相当する。
c 引用発明2の「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物をチップ型デバイス表面に配置し、シートを真空プレスの後に加熱硬化することにより、基板と、この基板上に搭載した」「チップ型デバイスを樹脂封止する」ことは、本件発明6の「前記デバイス実装体上に配置された封止用熱硬化性樹脂シートを備える積層体を加圧して、前記被着体、前記被着体に実装された前記電子デバイス及び前記電子デバイスを覆う前記封止用熱硬化性樹脂シートを備える封止体を形成する工程」に相当する。
d 引用発明2の「基板上に搭載したチップ型デバイスとの空間を中空に保持した状態でチップ型デバイスを樹脂封止するための製造方法」は、本件発明6の「中空パッケージの製造方法」に相当する。

ここで、上記「(1)ア」で対比した点を踏まえると、本件発明6と引用発明2とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「被着体及び前記被着体に実装された電子デバイスを備えるデバイス実装体、並びに前記デバイス実装体上に配置された封止用熱硬化性樹脂シートを備える積層体を加圧して、前記被着体、前記被着体に実装された前記電子デバイス及び前記電子デバイスを覆う前記封止用熱硬化性樹脂シートを備える封止体を形成する工程を含み、
前記封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物が、
第1の樹脂成分及び第2の樹脂成分を含み、
前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、熱可塑性樹脂を含む、中空パッケージの製造方法。」

(相違点4)
封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物について、本件発明6は、「第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を備え、前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らか」いのに対して、引用発明2は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂及びグリシジル基含有のアクリル系共重合体を含むがそのような特定がない点。
(相違点5)
熱可塑性樹脂が、本件発明6は、「カルボキシル基を有する」のに対して、引用発明2は、グリシジル基を含むがそのような特定がない点。

イ 判断
上記相違点4について判断すると、本件発明1において、相違点1で判断したとおりであるから(上記「(1)イ」)、本件発明6と引用発明2は、上記相違点4で相違するので、本件発明6は引用文献1に記載された発明ではない。
よって、本件発明6は、上記相違点5について判断するまでもなく、引用文献1に記載された発明ではない。

(7)小活
以上のとおり、当該消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由により、本件発明1-6に係る特許を取り消すことはできない。

(8)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人栗原喜子(以下、「特許異議申立人」という。)は、令和2年6月12日付けの意見書において、新たに甲第5号証-甲第8号証を提出すると共に、概略、次のように主張をしている。
甲第5号証:特開2008-285593号公報
甲第6号証:テイサンレジン、[online]、ナガセケムテックス株式会社、[令和2年6月4日検索]、インターネット<URL:http://www.nagasechemtex.co.jp/products/function_chemistry/teisanresin.html>
甲第7号証:岸肇、エポキシ樹脂系ポリマーブレンドの相構造と機能発現、日本接着学会誌、2012年、第49巻、第1号、第24頁-第30頁
甲第8号証:岸肇、外5名、CTBN/エポキシアロイ樹脂の制振性と接着強さ、日本接着学会誌、20006年、第42巻、第7号、第264頁-第271頁

(ア)新規性について(第4頁第13行-第28頁第11行)
甲第6号証の記載を参酌すると、本件発明1-5は、甲第5号証に記載された甲5-1発明であると主張している。
同様に、本件発明6は、甲第5号証に記載された甲5-2発明であると主張している。
a 甲5-1発明
「基板上に搭載されたチップ型デバイスを中空封止するために用いられるエポキシ樹脂組成物製の封止用熱硬化型接着シートであって、前記エポキシ樹脂組成物が(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、アクリル共重合体(ナガセケムテックス社製、テイサンレジン SG-70L)等の(C)エラストマーおよび(E)硬化促進剤を含有し、前記(C)エラストマーはエポキシ樹脂組成物の全有機成分中15?70重量%を含む、封止用熱硬化型接着シート。」

b 甲5-2発明
「基板上の所定位置にチップ型デバイスを搭載した後、搭載したチップ型デバイスを覆うように封止用熱硬化型接着シートを配置し、真空プレスを行う工程を含み、
前記封止用熱硬化型接着シートは、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、アクリル共重合体(ナガセケムテックス社製、テイサンレジン SG-70L)等の(C)エラストマーおよび(E)硬化促進剤を含む、チップ型デバイスと基板との空間を中空に保持した状態の樹脂封止物の製造方法。」

c 甲第6号証には、ナガセケムテックス社製、テイサンレジン SG-70Lが、カルボキシル基を有するアクリル酸エステル系ポリマーであって、酸価が5mgKOH/gである点が記載されている。(第17頁第1-3行)

(イ)進歩性について(第30頁第5行-第32頁第8行)
甲第7号証及び甲第8号証には、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との組成物において、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂がマトリックス部(海相)を形成し、熱硬化性樹脂がドメイン部(島相)を形成した構造を取り得る周知技術が記載されている。
よって、甲1発明の熱可塑性樹脂として、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を用いることは、当業者が適宜なし得るものである。以上のとおり、訂正発明1?6は、甲第1号証および周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると主張している。

イ 当審の判断
(ア)新規性について
特許異議申立書における新規性についての主張は、本件発明1-4、6は、引用文献1(甲第1号証)に記載された発明であるというものである。
ここで、令和2年4月16日付けの訂正請求における訂正事項1、2(上記「第2 1(1)」「第2 1(2)」)は、訂正前の請求項1、6に記載されていた「封止用熱硬化性樹脂シート」を、「前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む」との限定を付加するものである。
そうすると、特許異議の申立ての期間の終了後に提出される新たな証拠は、上記訂正事項1、2に対応した、引用発明1の「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」が、第1の樹脂成分となるカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含むことを示す証拠とすべきである。
しかしながら、新たな証拠である甲第5号証は、本件発明1-6は、甲第5号証に記載された発明であるという、新たな理由を主張するためのものであり採用することができない。

よって、甲第5号証を証拠とする、新規性についての特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(イ)進歩性について
a 引用文献1(甲第1号証)及び甲第5号証に基づく進歩性について
仮に、甲第5号証が、上記訂正事項1、2に対応した、封止用熱硬化性樹脂シートが、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む技術を示す文献であるとして以下、進歩性を検討する。
引用文献1の段落【0022】に記載されてるように、引用発明1は「グリシジル基含有のアクリル系共重合体」と「ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂」が3次元ネットワークを形成することにより、「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」が、硬化後に封止材として耐熱性、強度(強靱性)、接着性に優れた性能を発揮させるものである。
そうすると、引用発明1は3次元ネットワークを形成するためのものであり、上記技術を適用して、その硬化物が海島構造となるように試みる理由はなく、本件発明1-5は、引用発明1及び甲第5号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
同様に、本件発明6は、引用発明2及び甲第5号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 引用文献1(甲第1号証)、甲第7号証及び甲第8号証に基づく進歩性について
甲第7号証及び甲第8号証には、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との組成物において、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂がマトリックス部(海相)を形成し、熱硬化性樹脂がドメイン部(島相)を形成した構造を取り得る周知技術が記載されている。
しかしながら、引用文献1の段落【0022】に記載されてるように、引用発明1は「グリシジル基含有のアクリル系共重合体」と「ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂」が3次元ネットワークを形成することにより、「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」が、硬化後に封止材として耐熱性、強度(強靱性)、接着性に優れた性能を発揮させるものである。
そうすると、引用発明1は3次元ネットワークを形成するためのものであり、これに代えて、上記周知技術を適用して、その硬化物を海島構造にするのは動機付けがない。
したがって、本件発明1-5は、引用発明1及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
同様に、本件発明6は、引用発明2及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

よって、甲第1号証、甲第7号証及び甲第8号証を証拠とする、進歩性についての特許異議申立人の主張を採用することができない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号について
特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第2号証のFig.2に示された電子顕微鏡写真より、アクリルポリマーが海相であり、エポキシ樹脂が島相である海島構造において、島相の最大粒子径が約0.5?1.5μm程度であることが理解できるので、甲1-1発明におけるドメイン部においても、島相の最大径が約0.5?1.5μm程度である蓋然性が高いと認められから、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明である旨を主張している。(第24頁第12行-第26頁第7行)

しかしながら、上記「第4 3(1) イ」に示したように、引用発明1の「シート状電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」を加熱硬化したものは、「グリシジル基含有のアクリル系共重合体」と「ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂」が一体となって結合した3次元ネットワークを形成しているといえるので、上記主張を採用することができない。

2 特許法第29条第2項について
特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第3号証、甲第4号証の記載事項によると、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂とからなる硬化性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂の酸価が25又は40mgKOH/gより大きいと保存性が悪化することが理解できるので、本件発明5は、甲1-1発明、甲第3号証、第4号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。(第27頁第1行-第28頁第19行)

しかしながら、上記「第4 3(5)」に、本件発明5は、引用発明1及び引用文献3(甲第3号証)に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと示したことと同様の理由により、本件発明5は、甲1-1発明、甲第3号証、第4号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、上記主張を採用することができない。

3 特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立人は特許異議申立書において、
「本件特許明細書等には、熱可塑性樹脂の含有量が10重量%以上となるように熱可塑性樹脂を配合するだけで、マトリックス部が熱可塑性樹脂となり、熱硬化性樹脂であるドメイン部より柔らかい構造となる硬化物については開示されているが、その他どのような組成等にすることで、マトリックス部が熱可塑性樹脂となり、熱硬化性樹脂であるドメイン部より柔らかい構造とすることができるのか、その作成方法が不明である。
さらに、マトリックス部がドメイン部より柔らかい又は硬い構造をどのように作り分けることができるのかについても不明であるから、本件特許1等の発明を実施するためには、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤を必要とするものである。
したがって、本件特許請求項1?6に記載された発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。」(第31頁第9-22行)と主張している。

上記主張について検討する。
本件特許の明細書には次の記載がある。
「【0020】
図2に、熱硬化性樹脂シート11の硬化物を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して得られた観察像を示す。上段の左に配置された観察像において、観察像の上部に、マトリックス部である色の濃い部分と、ドメイン部である色の薄い部分を確認できる。上段の右に配置された観察像においても、観察像の上部に、マトリックス部である色の濃い部分と、ドメイン部である色の薄い部分を確認できる。なお、円形の物体はフィラーである。
【0021】
図2に示すように、熱硬化性樹脂シート11の硬化物は、マトリックス部(以下、海相ともいう)及びマトリックス部中に分散されたドメイン部(以下、島相ともいう)を含む海島構造と、マトリックス部中に分散されたフィラーとを含む。マトリックス部は、ドメイン部より柔らかい。
なお、硬化物は、例えば、熱硬化性樹脂シート11を150℃、1時間で加熱して硬化させることにより得られる。
【0022】
熱硬化性樹脂シート11は、被着体と電子デバイスとの間の空隙に熱硬化性樹脂シート11を構成する材料が流入し難い。この理由は不明であるものの、熱硬化性樹脂シート11を使用して得られた封止体を加熱することにより、ドメイン部及びドメイン部より柔らかいマトリックス部を含む海島構造の形成が進行するため、熱硬化性樹脂シート11を構成する材料が過度に流動しないためと推測される。
【0023】
マトリックス部及びドメイン部の柔らかさは、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)によって知ることができる。」

「【0113】
実施例1、実施例7?9及び比較例1で使用した成分について説明する。
エポキシ樹脂:新日鐵化学社製のYSLV-80XY(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキン当量:200g/eq.、軟化点:80℃)
フェノール樹脂:群栄化学社製のLVR8210DL(ノボラック型フェノール樹脂、水酸基当量:104g/eq.、軟化点:60℃)
熱可塑性樹脂1:根上工業社製のME-2000M(カルボキシル基含有のアクリル酸エステル共重合体、重量平均分子量:約60万、Tg:-35℃、酸価:20mgKOH/g)
熱可塑性樹脂2:根上工業社製のHME-2006(カルボキシル基含有のアクリル酸エステル共重合体、重量平均分子量:約84万、Tg:-47℃、酸価:32mgKOH/g)
熱可塑性樹脂3:ナガセケムテックス社製のSG-280(カルボキシル基含有のアクリル酸エステル共重合体、重量平均分子量:約90万、Tg:-29℃、酸価:30mgKOH/g)
熱可塑性樹脂4:根上工業社製のNSC-010(カルボキシル基含有のアクリル酸エステル共重合体、重量平均分子量:約93万、Tg:-13℃、酸価:5mgKOH/g)
カーボンブラック:三菱化学社製の#20
フィラー1:電気化学工業社製のFB-5SDC(球状シリカ、平均粒径5μm)
フィラー2:アドマテックス社製のSO-25R(球状シリカ、平均粒径0.5μm)
硬化促進剤:四国化成工業社製の2PHZ-PW(2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール)
【0114】
[熱硬化性樹脂シートの作製]
表1に記載の配合比に従い、各成分を溶剤としてのメチルエチルケトンに溶解、分散させ、濃度90重量%のワニスを得た。このワニスを、シリコーン離型処理した厚さが38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、110℃で5分間乾燥させた。これにより、厚さ65μmのシートを得た。このシートを4層積層させて厚さ260μmの熱硬化性樹脂シートを得た。
【0115】
[硬化物の作製]
加熱オーブンを用いて、150℃、1時間で熱硬化性樹脂シートを加熱して硬化させることにより硬化物を得た。
【0116】
[試験片の作製]
フィラー1、フィラー2及びカーボンブラックを配合しない点以外は、熱硬化性樹脂シートと同様の方法で、試験用樹脂シートを作製した。加熱オーブンを用いて、150℃、1時間で試験用樹脂シートを加熱して硬化させることにより試験片を得た。
なお、試験片を作成した理由は、海島構造を観察するためである。硬化物を観察しても海島構造を確認できるが、試験片を観察することで海島構造を容易に確認できる。」

「【0122】
(試験片の相分離)
試験片の切断面をTEMで観察することにより、相分離の有無を確認した。(図10及び図11参照)。
【0123】
(試験片のAFM観察)
試験片の切断面をAFMで観察することにより、海相及び島相について、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のうちどちらが主成分であるのかを確認した。」

【表1】


上記記載より、実施例1、実施例7?9について、封止用熱硬化性樹脂シートの成分(段落【0113】)及び配合比(【表1】)について具体的に記載され、試験用樹脂シートを加熱オーブンを用いて、150℃、1時間で試験用樹脂シートを加熱して硬化させることにより試験片を得て(段落【0116】)、その試験片が海島構造であって、海相の主成分が熱可塑性樹脂、島相の主成分が熱硬化性樹脂であり(【表1】)、マトリックス部(海相)はドメイン部(島相)より柔らかいことが示されているので(段落【0021】)、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許の請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明1?6を取り消すことはできない。

4 特許法第36条第6項第1号について
(1)特許異議申立書の主張について
特許異議申立人は特許異議申立書において、
「本件特許発明の課題は『被着体と電子デバイスとの間の空隙に、封止用熱硬化性樹脂シートを構成する材料が流入し難い封止用熱硬化性樹脂シート及び中空パッケージの製造方法を提供することであ』り、前記課題を解決するための手段として、硬化物において、第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を備え、マトリックス部がドメイン部よりも柔らかい封止用熱硬化性樹脂シートを発明特定事項としている。
ここで、『マトリックス部がドメイン部よりも柔らかい』点に着目すると、本件特許明細書の実施例等では、何らその点について検討や評価等がなされていない。
してみると、発明特定事項である『マトリックス部がドメイン部よりも柔らかい』ことのみで、本件特許の課題を解決することができるか否かについては明らかでない。『マトリックス部がドメイン部よりも柔らかい』ことのみを発明特定事項としている、本件特許発明1等は、本件特許明細書等の記載から裏付けられているとはいえない。
したがって、本件特許請求項1?6に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」(第31頁第26行-第32頁第15行)と主張している。

しかしながら、本件特許の明細書の段落【0022】には「熱硬化性樹脂シート11は、被着体と電子デバイスとの間の空隙に熱硬化性樹脂シート11を構成する材料が流入し難い。この理由は不明であるものの、熱硬化性樹脂シート11を使用して得られた封止体を加熱することにより、ドメイン部及びドメイン部より柔らかいマトリックス部を含む海島構造の形成が進行するため、熱硬化性樹脂シート11を構成する材料が過度に流動しないためと推測される。」と、ドメイン部及びドメイン部より柔らかいマトリックス部を含む海島構造により、熱硬化性樹脂シートを構成する材料が過度に流動しないために上記課題が解決できることが記載されている。
したがって、請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである、
よって、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明1?6を取り消すことはできない。

(2)令和2年6月12日付けの意見書の主張について
特許異議申立人は令和2年6月12日付けの意見書において、次のように主張している。
ア 「(ア)マトリックス部(海相)およびドメイン部(島相)における各々の樹脂成分の種類について
本件明細書の記載では、マトリックス部(海相)を形成する樹脂の種類と、ドメイン部(島相)を形成する樹脂の種類とを特定することはできず、相対的な柔らかさも特定できないから、訂正発明1および6に記載の『マトリックス部がドメイン部よりも柔らか』いとはいえない。
したがって、訂正発明1およびそれを引用する訂正発明2?5並びに訂正発明6は、本件明細書に記載された発明とはいえない。」(第34頁第24行-第35頁第4行)として、
その理由について、「本件明細書には、AFMで測定した相対的に柔らかい海相(マトリックス部)が、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂であり、相対的に硬い島相(ドメイン部)が熱硬化性樹脂であることについて、具体的に認識し得る記載はない。」(第36頁第3-6行)と主張している。

しかしながら、上記「3 特許法第36条第4項第1号について」で示したように本件特許の明細書の記載から、本実施例1、実施例7-9について、試験片の切断面をAFMで観察することにより、海相及び島相について、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のうちどちらが主成分であるのかを確認し(段落【0123】)、海相の主成分が熱可塑性樹脂、島相の主成分が熱硬化性樹脂であり(【表1】)、熱可塑性樹脂としてカルボキシル基含有のアクリル酸エステル共重合体を用いていることが記載され(段落【0113】)、マトリックス部(海相)はドメイン部(島相)より柔らかいことが示されているので(段落【0021】)、本件特許の明細書には、AFMで測定した相対的に柔らかい海相(マトリックス部)が、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂であり、相対的に硬い島相(ドメイン部)が熱硬化性樹脂であることについて、具体的に記載されており、上記主張を採用することができない。

イ また、「(イ)『マトリックス部がドメイン部より柔らか』いなる事項が、特定できないため、訂正発明1?6は本件明細書に記載のない発明を包含する」(第36頁第13-15行)として、
その理由について、「本件明細書についてみると、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれについても、柔らかさを測定する温度は記載されていない。
また、技術常識および周知・慣用技術を参酌しても、本件明細書の記載内容では、柔らかさを測定する温度について、室温およびシートを用いたときの封止温度等の種々の温度を想定できる。このため、本件明細書の記載内容では、柔らかさを測定する温度を一義的に特定することができない。」(第37頁第23-第38頁第1行)と主張している。

しかしながら、上記「3 特許法第36条第4項第1号について」で示したように本件特許の明細書には、マトリックス部及びドメイン部の柔らかさを、原子間力顕微鏡(AFM)によって知ることが示され(段落【0023】)、試験用樹脂シートを加熱オーブンを用いて、150℃、1時間で試験用樹脂シートを加熱して硬化させることにより試験片を得て(段落【0116】)、その試験片の切断面をAFMで観察することにより、海相及び島相について、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のうちどちらが主成分であるのかを確認していることが記載されている(段落【0123】)。
そうすると、硬化後の試験片をAFMで観察しているのであるから、柔らかさを測定する温度は封止温度等ではないことは明らかである。そして、AFMで観察する際の温度条件について特に記載されていないことから、観察の際に試験片を加熱することなどなく、室温で観察していると解することができる。
したがって、上記主張を採用することができない。

ウ そして、「(ウ)ドメイン部の樹脂の種類が特定されていないため訂正発明1、2および4?6は本件明細書に記載のない発明を包含する点について
訂正発明1?2、4?6は、マトリックス部(海相)を構成する主成分である第1の樹脂成分として、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂が規定されている。
他方、ドメイン部(島)を構成する主成分について規定はない。」(第38頁第11-16行)と主張している。

しかしながら、本件特許の明細書の段落【0022】には「熱硬化性樹脂シート11は、被着体と電子デバイスとの間の空隙に熱硬化性樹脂シート11を構成する材料が流入し難い。この理由は不明であるものの、熱硬化性樹脂シート11を使用して得られた封止体を加熱することにより、ドメイン部及びドメイン部より柔らかいマトリックス部を含む海島構造の形成が進行するため、熱硬化性樹脂シート11を構成する材料が過度に流動しないためと推測される。」と、ドメイン部を構成する樹脂の種類について何ら言及することなく、ドメイン部及びドメイン部より柔らかいマトリックス部を含む海島構造により、熱硬化性樹脂シートを構成する材料が過度に流動しないことが記載されているので、訂正発明1、2および4?6においてドメイン部を構成する樹脂の種類について特定する必要はない。
したがって、上記主張を採用することができない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1-6に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1-6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空パッケージを製造するために使用する封止用熱硬化性樹脂シートであって、
前記封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物が、
第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を備え、
前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らかく、
前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む、ことを特徴とする封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項2】
前記硬化物が前記マトリックス部中に分散されたフィラーをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項3】
熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含み、
前記第1の樹脂成分は、前記熱可塑性樹脂であり、
前記第2の樹脂成分は、前記熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項4】
前記ドメイン部の最大粒径が0.01μm?5μmであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項5】
熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂の酸価が1mgKOH/g?100mgKOH/gであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の封止用熱硬化性樹脂シート。
【請求項6】
被着体及び前記被着体に実装された電子デバイスを備えるデバイス実装体、並びに前記デバイス実装体上に配置された封止用熱硬化性樹脂シートを備える積層体を加圧して、前記被着体、前記被着体に実装された前記電子デバイス及び前記電子デバイスを覆う前記封止用熱硬化性樹脂シートを備える封止体を形成する工程を含み、
前記封止用熱硬化性樹脂シートの硬化物が、
第1の樹脂成分を主成分として含むマトリックス部及び第2の樹脂成分を主成分として含むドメイン部を含む海島構造を備え、
前記マトリックス部が前記ドメイン部よりも柔らかく、
前記封止用熱硬化性樹脂シートが、前記第1の樹脂成分となる、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂を含む、中空パッケージの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-28 
出願番号 特願2014-227124(P2014-227124)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 536- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 洋介  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山田 正文
須原 宏光
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6431340号(P6431340)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 封止用熱硬化性樹脂シート及び中空パッケージの製造方法  
代理人 特許業務法人ユニアス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ