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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
管理番号 1368059
異議申立番号 異議2019-700883  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-08 
確定日 2020-09-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6511203号発明「コンクリート組成物、及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6511203号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕、10について訂正することを認める。 特許第6511203号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6511203号は、国際出願日2018年(平成30年)4月11日(優先権主張 平成29年6月29日)にされた特許出願とみなす特願2018-549360号の特許請求の範囲に記載された請求項1?10に係る発明について、平成31年4月12日に特許権の設定登録がされ、令和元年5月15日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、その全請求項に係る特許に対して、同年11月8日付けで特許異議申立人岩崎精孝(以下、「申立人」という。)により、甲第1?11号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、令和2年2月17日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月2日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)がされ、同年5月27日に申立人より意見書の提出がされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:堀口賢一他、「低炭素型コンクリートを使用したコンクリート二次製品の開発」、コンクリート工学年次論文集、Vol.38、No.1、2016、213-218頁
甲第2号証の1:「高性能AE減水剤(増粘剤一液タイプ)フローリックSF500F・FR」についてのカタログ、株式会社フローリック、2015年10月
甲第2号証の2?4:「一般強度領域の中・高流度コンクリートに適用する「化学混和剤フローリックSF500Fシリーズ」」、NETISのウェブサイト(http://www.netis.mlit.go.jp/NetisRev/)に公開されている情報、2019年10月18日の印刷物
甲第3号証:「マスターグレニウム6500/6550」についてのカタログ、BASFジャパン株式会社 建設化学品事業部、ポゾリス ソリューションズ株式会社、2017年4月
甲第4号証:「普通強度範囲における増粘剤一液型高性能AE減水剤を用いた高流動コンクリートの実用化に関する研究、古川雄太他、東急建設技術研究所報 No.40、2015年2月28日、1-6頁
甲第5号証:特開2017-75071号公報
甲第6号証:特開2012-214317号公報
甲第7号証:特開2015-131747号公報
甲第8号証:特開2016-185888号公報
甲第9号証:特開2016-199445号公報
甲第10号証:特開2014-201478号公報
甲第11号証:「石灰石骨材がコンクリートの諸特性に及ぼす影響」、多田克彦他、コンクリート工学、Vol.50、No.10、2012年10月、904-911頁

第2 訂正請求について

1.訂正の内容
本件訂正請求による本件訂正の内容は、訂正事項1?4よりなるものであって、以下のとおりである(下線は当審で付した)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された、
「高炉スラグと、膨張材及びセメントの少なくともいずれかと、水とを含有するコンクリート組成物」を「高炉スラグと、膨張材と、シリカフュームと、混和剤と、水とを含有し、さらにセメントを含有することがあるコンクリート組成物」に訂正し、「前記水の単位水量が、130kg/m^(3)以下であり、」を「前記水の単位水量が、80?130kg/m^(3)以下であり、 前記膨張材の含有量が、3?50kg/m^(3)であり、 前記シリカフュームの含有量が、80?130kg/m^(3)であり、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に記載された、
「前記膨張材の含有量が、3kg/m^(3)以上である」を、 「前記膨張材の含有量が、5?50kg/m^(3)である」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に記載された、
「前記膨張材の含有量が、5kg/m^(3)以上である」を
「前記膨張材の含有量が、10?40kg/m^(3)である」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に記載された、
「高炉スラグと、膨張材及びセメントの少なくともいずれかと、水とを含有するコンクリート組成物」を「高炉スラグと、膨張材と、シリカフュームと、混和剤と、水とを含有し、さらにセメントを含有することがあるコンクリート組成物」に訂正し、「前記水の単位水量が、130kg/m^(3)以下であり、」を「前記水の単位水量が、80?130kg/m^(3)以下であり、 前記膨張材の含有量が、3?50kg/m^(3)であり、 前記シリカフュームの含有量が、80?130kg/m^(3)であり、」に訂正する。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項2?9が、何れも訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正事項1?3の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1?9について請求されたものである。また、訂正前の請求項10は独立項であり、訂正事項4の特許請求の範囲の訂正は、単独の請求項10について請求されたものである。

2.訂正要件の判断
(1)訂正事項1、4について
訂正事項1、4は、「コンクリート組成物」含有する成分について、「膨張材」と、「シリカフューム」と、「混和剤」とを必須成分とし、水の単位水量について下限を特定し、膨張材及びシリカフュームの含有量について特定するものであり、本件明細書【0012】?【0014】の膨張材についての記載、同じく【0020】?【0021】のシリカフュームについての記載、同じく【0029】の混和剤についての記載、表2、5、7、特に実施例18、26、29、30等の記載に基づくものである。
よって、訂正事項1、4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、膨張材の含有量について特定するものであり、本件明細書【0012】?【0014】の膨張材についての記載、表2、5、7、特に実施例25?28等の記載に基づくものである。
よって、訂正事項2、3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては全ての請求項に対してされているので、本件訂正請求において、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?9〕、10について訂正することを認める。

第3 本件発明について
上記第2のとおり本件訂正請求は認容されるから、本件特許に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?10の記載により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」、これらをまとめて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
高炉スラグと、膨張材と、シリカフュームと、混和剤と、水とを含有し、さらにセメントを含有することがあるコンクリート組成物であって、
前記高炉スラグの含有量が、前記コンクリート組成物全体に対して、200kg/m^(3)?500kg/m^(3)であり、
前記水の単位水量が、80?130kg/m^(3)以下であり、
前記膨張材の含有量が、3?50kg/m^(3)であり、
前記シリカフュームの含有量が、80?130kg/m^(3)であり、
前記セメントの含有量が、前記高炉スラグに対して22質量%以下であり、
スランプフロー値が40cm以上であることを特徴とするコンクリート組成物。
【請求項2】
前記スランプフロー値が、50cm以上である請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項3】
前記水の単位水量が、100kg/m^(3)以下である請求項1から2のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項4】
前記膨張材の含有量が、5?50kg/m^(3)である請求項1から3のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項5】
前記膨張材の含有量が、10?40kg/m^(3)である請求項1から4のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項6】
フェロニッケルスラグを更に含有する請求項1から5のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項7】
前記セメントの含有量が、前記高炉スラグに対して0質量%である請求項1から6のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項8】
石灰石を更に含有する請求項1から7のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項9】
前記膨張材が、石灰系膨張材である請求項1から8のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項10】
高炉スラグと、膨張材と、シリカフュームと、混和剤と、水とを含有し、さらにセメントを含有することがあるコンクリート組成物の製造方法であって、
前記高炉スラグの含有量が、前記コンクリート組成物全体に対して、200kg/m^(3)?500kg/m^(3)であり、
前記水の単位水量が、80?130kg/m^(3)以下であり、
前記膨張材の含有量が、3?50kg/m^(3)であり、
前記シリカフュームの含有量が、80?130kg/m^(3)であり、
前記セメントの含有量が、前記高炉スラグに対して22質量%以下であり、
スランプフロー値が40cm以上であることを特徴とするコンクリート組成物の製造方法。」

第4 取消理由について

1.令和2年2月17日付けの取消理由通知書で通知した取消理由の概要
(1)取消理由1
本件特許の訂正前の請求項1、2、4、5、7、9、10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。

(2)取消理由2
本件特許の訂正前の請求項1?10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?11号証に記載された周知慣用技術に基づいて、本件特許に係る優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものである。

(3)取消理由3
本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
流動性に係る数値であるスランプフロー値を所望の程度に調整するための手段が不明であるため、
混和剤の使用の有無を考慮したときに、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?10の記載において流動性を高めたコンクリート組成物を構成するための要件が不足しており、
結合材成分と流動性との関係を考慮したときに、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?10の記載は、流動性に関する技術的意義を有した発明特定事項について理解できるものとはなっていないため、
本件特許に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

(4)取消理由4
本件特許は、明細書の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
流動性に係る数値であるスランプフロー値を所望の程度に調整するための手段が不明であるため、
混和剤の使用の有無を考慮したときに、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が明確かつ十分ではなく、本件特許に係る発明の実施に過度の試行錯誤を要するものであり、
結合材成分と流動性との関係を考慮したときに、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許に係る発明の流動性を高めたコンクリート組成物について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分なものではない。

2.取消理由についての判断
(1)取消理由1及び2について
ア.甲第1号証の記載事項
以下の(ア)?(オ)の記載がある(下線は当審で付した)。

(ア)「要旨:本研究では,混和材を多く使用する低炭素型コンクリートを用いて二次製品であるセグメントを製作することを目的に,強度特性,実大セグメントの製作性と構造性能,耐久性を実験により確認した。その結果,蒸気養生することで圧縮強度を安定的に発現させることができ,また,通常のコンクリートと同等の製作性,構造性能を有していることがわかった。」(第213頁・要旨欄第1?4行目)

(イ)「1.はじめに
近年,地球温暖化対策のひとつとして,各方面において二酸化炭素排出量を抑制することが試みられている。コンクリートの分野では,産業副産物である高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどの製造時の二酸化炭素排出原単位が,ポルトランドセメントのそれよりも小さいため,これらのコンクリート用混和材を積極的に使用することで,二酸化炭素排出量の削減に寄与できる。このような観点から,高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどの混和材を,従来の混合セメントよりも多く使用したコンクリート(以下,低炭素型コンクリート)の研究・開発が進められている^(1), 2))。
このように,混和材の使用量を高めた低炭素型コンクリートは,より一層の二酸化炭素排出量の削減が期待できるが,その一方で圧縮強度などの強度発現が遅れ,型枠の脱型に通常よりも長い時間を要するなどの課題もある。これに対して,コンクリート二次製品は従来から型枠の早期転用を図るために,蒸気養生などの給熱養生を行って強度発現を早めており,低炭素型コンクリートの用途に向いていると考えられる。そこで本研究では,低炭素型コンクリートをコンクリート二次製品,特にシールドトンネルで使用されるコンクリート製セグメント(以下,セグメント)に適用することを目指して,蒸気養生することを前提とした低炭素型コンクリートの強度特性,実大セグメントの製作性と構造性能,ならびに耐久性を実験により確認した。
本研究では,低炭素型コンクリートの結合材として高炉スラグ微粉末,消石灰,膨張材を使用し,より一層の二酸化炭素排出量の低減を図るため,ポルトランドセメントを使用しない配合を基本とした。また,強度発現を促すための養生方法は,実際のセグメント製作で用いられるのと同じ蒸気養生とした。圧縮強度としては,セグメント用コンクリートの許容応力度が42?60N/mm^(2)であることから^(3)),材齢28日で45?65N/mm^(2)程度を発現する配合の選定を目指した。」(第213頁・左欄1行目?右欄3行目)

(ウ)「2. 実験内容
2.1配合および使用材料
表-1,表-2にコンクリートの配合と使用材料を示す。
目標とするスランプは3±1.5cm,またはスランプフローの場合は65±5cmないし55±10cmとした。一般的なセグメントは,スランプ3cm程度の硬練りコンクリートで製造されているため,低炭素型コンクリートでも当初はスランプ3±1.5cmの硬練り仕様を考えた。しかし,低炭素型コンクリートで圧縮強度60N/mm^(2)程度の高強度を発現させるためには,高炉スラグ微粉末などの粉体量を通常のコンクリートよりも多くしなくてはならないため,コンクリートの粘性が高くなり,セグメントの打込みやコテ仕上げが困難になる場合があると考えられた。そのため,水結合材比の低い配合は高流動仕様とした。
・・・本研究でも低炭素型コンクリートをnon-AEコンクリートとし,混和剤には高性能減水剤を使用した。
結合材としては,高炉スラグ微粉末,消石灰,膨張材を使用したが,このうち消石灰と膨張材は高炉スラグ微粉末の潜在水硬性を促すためのアルカリ刺激材の役割を担っている。高炉スラグ微粉末には,水和反応初期の強度発現を促すために,無水せっこうが添加された市販品を使用した。」(第213頁・右欄4行?最下行)

(エ)「

」(第214頁 表-1)

(オ)「

」(第214頁 表-2)

イ.甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記摘示(ア)、(イ)より、高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどの製造時の二酸化炭素排出原単位が,ポルトランドセメントのそれよりも小さいことに着目し、これら混和材を多くして二酸化炭素排出量を削減した低炭素型コンクリートの発明が開示されている。そして、具体的には、上記摘示(イ)、(ウ)より、結合材として高炉スラグ微粉末、消石灰、膨張材を使用して、ポルトランドセメントを使用しない配合を基本とすること、高強度を発現させるため、高炉スラグ微粉末などの粉体量を通常のコンクリートよりも多くしたときに、打込みやコテ仕上げが困難になる虞のある水結合材比の低い配合は高流動仕様とすることから、甲第1号証には、低環境負荷であり、高強度であり、流動性が良好なコンクリート組成物を得ることを目的とした発明が、少なくとも記載されているといえる。
そして、甲第1号証の上記摘示(エ)の表-1「配合No.8」には、上記摘示(オ)表-2の使用材料も参照して、目標スランプフローが「55±10cm」であり、水を「130kg/m^(3)」、結合材として、高炉スラグ微粉末を「491kg/m^(3)」、消石灰を「44kg/m^(3)」、ポルトランドセメントを「0kg/m^(3)」、石灰系膨張材を「30kg/m^(3)」配合したコンクリート組成物について記載されており、その他の成分も書き下すと、甲第1号証には「配合No.8」として、
「結合材として、高炉スラグ微粉末491kg/m^(3)と、消石灰44kg/m^(3)と、ポルトランドセメント0kg/m^(3)と、石灰系膨張材30kg/m^(3)とを含有し、水130kg/m^(3)を含有し、さらに、細骨材859kg/m^(3)と、粗骨材875kg/m^(3)と、混和剤6.50kg/m^(3)とを含有するコンクリート組成物であって、
水結合材比(W/B)が23.0%であり、目標スランプフロー値が55±10cmであるコンクリート組成物。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)及びその製造方法の発明(以下、「引用発明1’」という。)が記載されていると認められる。

また、同じく「配合No.10」として、甲第1号証には、
「結合材として、高炉スラグ微粉末491kg/m^(3)と、消石灰33kg/m^(3)と、ポルトランドセメント41kg/m^(3)と、石灰系膨張材0kg/m^(3)とを含有し、水130kg/m^(3)を含有し、さらに、細骨材861kg/m^(3)と、粗骨材877kg/m^(3)と、混和剤6.22kg/m^(3)とを含有するコンクリート組成物であって、
水結合材比(W/B)が23.0%であり、目標スランプフロー値が55±10cmであるコンクリート組成物。」
の発明(以下、「引用発明2」という。)及びその製造方法の発明(以下、「引用発明2’」という。)が記載されていると認められる。

さらに、同じく「配合No.1」として、甲第1号証には、
「結合材として、高炉スラグ微粉末391kg/m^(3)と、消石灰29kg/m^(3)と、ポルトランドセメント0kg/m^(3)と、石灰系膨張材30kg/m^(3)とを含有し、水90kg/m^(3)を含有し、さらに、細骨材868kg/m^(3)と、粗骨材1082kg/m^(3)と、混和剤6.30kg/m^(3)とを含有するコンクリート組成物であって、
水結合材比(W/B)が20.0%であり、目標スランプ値が3±1.5cmであるコンクリート組成物。」
の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

ウ.本件発明1について
(ア)引用発明1との対比・判断
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「高炉スラグ微粉末」、「石灰系膨張材」、「ポルトランドセメント」、「水」、「混和剤」が本件発明1の「高炉スラグ」、「膨張材」、「セメント」、「水」、「混和剤」にそれぞれ相当することは自明であり、
引用発明1においてポルトランドセメントの含有量が0kg/m^(3)であることは、高炉スラグ微粉末に対して0質量%に換算されるから、本件発明1の「セメントの含有量」が、「高炉スラグに対して」「22質量%以下」であることに相当し、
引用発明1の「目標スランプフロー値が55±10cmである」ことは、本件発明1の「スランプフロー値が40cm以上であること」に相当し、
本件発明1において、通常のコンクリート組成物に用いられる細骨材、粗骨材等のその他の成分については、特に制限なく目的に応じて適宜選択されるものとなっていること(本件明細書【0019】等)から、両者は、
「高炉スラグと、膨張材と、混和剤と、水とを含有するコンクリート組成物であって、
前記高炉スラグの含有量が、前記コンクリート組成物全体に対して、200kg/m^(3)?500kg/m^(3)であり、
前記水の単位水量が、80?130kg/m^(3)以下であり、
前記膨張材の含有量が3?50kg/m^(3)であり、
前記セメントの含有量が、前記高炉スラグに対して22質量%以下であり、
スランプフロー値が40cm以上であるコンクリート組成物」の点で一致し、
本件発明1は、シリカフュームを含有し、その含有量が80?130kg/m^(3)であるのに対し、引用発明1は、シリカフュームを含有することについて明示されていない点で、相違する(以下、「相違点1」という。)。

相違点1について検討するに、甲第1号証には、シリカフュームを添加することについては記載も示唆もない。
高強度コンクリート用のセメント組成物に、水硬性結合材としてシリカフュームを加えること自体は、例えば、甲第7号証の特許請求の範囲、【0027】に記載されているように、周知慣用の手段であると認められる。しかし、引用発明1はセメントを含んでおらず、引用発明1にシリカフュームを加えることの動機付けを見いだすことはできない。このことは、甲第2?6、8?11号証を参酌しても同様である。
よって、本件発明1は、引用発明1ではなく、引用発明1に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(イ)引用発明2との対比・判断
本件発明1と引用発明2とを対比すると、上記(ア)と同様であり、
引用発明2においてポルトランドセメントの含有量が41kg/m^(3)であることは、高炉スラグ微粉末に対して8.4質量%に換算されるから、本件発明1の「セメントの含有量」が、「高炉スラグに対して」「22質量%以下」であることに相当する。
そうすると、両者は、
「高炉スラグと、膨張材と、混和剤と、水とを含有し、さらにセメントを含有するコンクリート組成物であって、
前記高炉スラグの含有量が、前記コンクリート組成物全体に対して、200kg/m^(3)?500kg/m^(3)であり、
前記水の単位水量が、80?130kg/m^(3)以下であり、
前記セメントの含有量が、前記高炉スラグに対して22質量%以下であり、
スランプフロー値が40cm以上であるコンクリート組成物」の点で一致し、
本件発明1は、シリカフュームを含有し、その含有量が80?130kg/m^(3)であるのに対し、引用発明2は、シリカフュームを含有することについて明示されていない点(以下、「相違点1’」という。)、
本件発明1は、膨張材を含有し、その含有量が3?50kg/m^(3)であるのに対し、引用発明2は、膨張材を含有しない点(以下、「相違点2」という。)で相違する。
相違点1’及び2についてまとめて検討するに、甲第1号証には、シリカフュームと膨張材とを併用することについて記載も示唆もない。
高強度コンクリート用のセメント組成物に、水硬性結合材としてシリカフュームを加えること自体は、例えば、甲第7号証の特許請求の範囲、【0027】に記載されているように、周知慣用の手段であると認められる。しかし、甲第1号証に記載された発明は、上記ア(イ)の摘示に、「結合材として・・・膨張材を使用し、・・・ポルトランドセメントを使用しない配合を基本」とするものであるから、引用発明2において、ポルトランドセメントを使用したままで膨張材を使用することには動機付けがないし、さらにシリカフュームを併用することにも動機付けがない。このことは、甲第2?6、8?11号証を参酌しても同様である。
よって、本件発明1は、引用発明2ではなく、引用発明2に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(ウ)引用発明3との対比・判断
本件発明1と引用発明3とを対比すると、上記(ア)と同様で少なくとも相違点1と同様の相違点があり、引用発明3はポルトランドセメントを含有しないものであるから、上記(ア)で検討したと同様に、そこにシリカフュームを加えることについての動機付けを見いだすことはできない。
よって、本件発明1は、引用発明3ではなく、引用発明3に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(エ)小括
上記(ア)?(ウ)のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?11号証に記載された周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

エ.本件発明2?9について
本件発明2?9は、いずれも本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付したものであるから、本件発明1と同様、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?11号証に記載された周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

オ.本件発明10について
本件発明10と引用発明1’とを対比すると、相違点1と同様の相違点があり、本件発明10と引用発明2’とを対比すると、相違点1’及び2と同様の相違点がある。
これらの相違点については、上記ウ.(ア)及び(イ)で検討したと同様であるから、本件発明10は、本件発明1と同様、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?11号証に記載された周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

カ.小括
以上のとおりであるから、取消理由1及び2は理由がない。

(2)取消理由3及び4について
混和剤の使用の有無に関しては、本件訂正により、本件発明のコンクリート組成物は混和剤を含有するものとして特定されたから、この点についての理由は解消した。
結合材成分と流動性との関係については、本件明細書【0013】、【0020】、【0021】の記載及び実施例等に基づき、本件訂正により、本件発明で特定された含有量の膨張材及びシリカフュームが高炉スラグの結合材性能発現に寄与することが理解できることに加え、本件明細書【0017】の記載及び実施例等に基づき、本件発明で特定された単位水量の水により、所望の程度に流動性を実現できることが理解できるから、この点についての理由も解消している。
よって、取消理由3及び4は理由がない。

(3)申立人の主張について
取消理由についての令和2年5月27日提出の意見書における申立人の主張について検討する。
取消理由2に関し、申立人は、シリカフュームは、コンクリートの混和材として周知慣用のものであり、その分量の選択は当業者が適宜なし得るし、膨張材とシリカフュームを併用することによる効果もスランプフローの差が僅かであるから、本件発明は進歩性を欠如している旨主張する。
しかし、シリカフュームをコンクリート用のセメント組成物に加えることが周知慣用技術であったとしても、甲第1号証に記載された発明において、シリカフュームを(膨張材とともに)加えることについて動機付けがないことは、上記(1)で検討したとおりであるから、申立人の主張を採用することはできない。
取消理由3、4に関し、申立人は、本件明細書の実施例1?33および比較例1?5のコンクリート組成物は、混和剤を含有しないものであるから、本件実施例における流動化の手段、流動性の高まりにつながる作用機序は依然として不明であり、裏付けとなっていないこと、また、膨張材の添加によりスランプフローが改善することは技術常識に反し、そのシリカフュームとの併用がスランプフローに有利な効果をもたらすとの主張に何らの根拠はないことを主張する。
これらの主張について検討するに、まず、本件明細書の実施例等に混和剤を添加することの明示の記載はないが、混和剤により流動性が調整できることは技術常識であるといえるので、実施例等に明示の記載がない点だけをもって、実施例等が裏付けとなっていないとまではいえない。次に、膨張材及びシリカフュームを含有することの技術的意義については、上記(2)でも検討したとおり、高炉スラグの結合材性能発現に寄与するものであり、加えて、所望の流動性の実現は、本件明細書【0017】の記載及び実施例等に基づき、本件発明で特定された単位水量の水にもよることが、本件明細書全体の記載を通じて理解できる。そうすると、本件明細書の実施例で良好とされる流動性については、一つには、適度な水の存在下、結合材性能の発現がなされたことによるものとして、理解されうるのであるから、申立人の主張は採用できない。

第5 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由
申立人の主張する異議申立理由については、すべて取消理由で採用しており、上記第4において検討したとおりであるから、いずれの特許異議申立理由についても理由はない。

第6.むすび
以上のとおり、請求項1?10に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグと、膨張材と、シリカフュームと、混和剤と、水とを含有し、さらにセメントを含有することがあるコンクリート組成物であって、
前記高炉スラグの含有量が、前記コンクリート組成物全体に対して、200kg/m^(3)?500kg/m^(3)であり、
前記水の単位水量が、80?130kg/m^(3)以下であり、
前記膨張材の含有量が3?50kg/m^(3)であり、
前記シリカフュームの含有量が80?130kg/m^(3)であり、
前記セメントの含有量が、前記高炉スラグに対して22質量%以下であり、
スランプフロー値が40cm以上であることを特徴とするコンクリート組成物。
【請求項2】
前記スランプフロー値が、50cm以上である請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項3】
前記水の単位水量が、100kg/m^(3)以下である請求項1から2のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項4】
前記膨張材の含有量が、5?50kg/m^(3)である請求項1から3のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項5】
前記膨張材の含有量が、10?40kg/m^(3)である請求項1から4のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項6】
フェロニッケルスラグを更に含有する請求項1から5のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項7】
前記セメントの含有量が、前記高炉スラグに対して0質量%である請求項1から6のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項8】
石灰石を更に含有する請求項1から7のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項9】
前記膨張材が、石灰系膨張材である請求項1から8のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【請求項10】
高炉スラグと、膨張材と、シリカフュームと、混和剤と、水とを含有し、さらにセメントを含有することがあるコンクリート組成物の製造方法であって、
前記高炉スラグの含有量が、前記コンクリート組成物全体に対して、200kg/m^(3)?500kg/m^(3)であり、
前記水の単位水量が、80?130kg/m^(3)以下であり、
前記膨張材の含有量が3?50kg/m^(3)であり、
前記シリカフュームの含有量が80?130kg/m^(3)であり、
前記セメントの含有量が、前記高炉スラグに対して22質量%以下であり、
スランプフロー値が40cm以上であることを特徴とするコンクリート組成物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-01 
出願番号 特願2018-549360(P2018-549360)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (C04B)
P 1 651・ 113- YAA (C04B)
P 1 651・ 536- YAA (C04B)
P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 121- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 有田 恭子西垣 歩美  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 村岡 一磨
菊地 則義
登録日 2019-04-12 
登録番号 特許第6511203号(P6511203)
権利者 国立大学法人 東京大学 三井住友建設株式会社 学校法人東京理科大学
発明の名称 コンクリート組成物、及びその製造方法  
代理人 廣田 浩一  
代理人 廣田 浩一  
代理人 流 良広  
代理人 廣田 浩一  
代理人 流 良広  
代理人 流 良広  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 流 良広  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 廣田 浩一  
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