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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C23C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
管理番号 1368087
異議申立番号 異議2019-700706  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-05 
確定日 2020-10-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6484382号発明「合金部材、セルスタック及びセルスタック装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6484382号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6484382号の請求項6ないし9に係る特許を維持する。 特許第6484382号の請求項1ないし5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6484382号(以下「本件特許」という。)についての出願は,平成30年10月22日に出願され,平成31年 2月22日にその特許権の設定の登録がされ,同年 3月13日に特許掲載公報が発行された。その後,訂正前の請求項1?6(全請求項)に係る特許に対し,令和1年 9月5日差出で,特許異議申立人 亀崎伸宏(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ,同年12月26日付けで取消理由が通知され,これに対して,令和 2年 3月 9日差出で意見書の提出とともに訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたものである。
なお,本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)について申立人に意見を求めたが,意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容(下線は訂正箇所を示す。以下同じ。)
(1)訂正事項1?5
訂正前の請求項1?5を削除する。

(2)訂正事項6
訂正前の請求項6における
「電気化学セルと、
請求項1乃至4のいずれかに記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、
セルスタック装置。」を,
「電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。」
と訂正して,訂正後の請求項6とする。

(3)訂正事項7
訂正前の請求項6における
「電気化学セルと、
請求項1乃至4のいずれかに記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、
セルスタック装置。」を,
「電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記被覆膜における前記低平衡酸素圧元素のカチオン比は、0.05以上であり、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。」
と訂正して,新たな請求項7とする。

(4)訂正事項8
訂正前の請求項6における
「電気化学セルと、
請求項1乃至4のいずれかに記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、
セルスタック装置。」を,
「電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記被覆膜は、前記低平衡酸素圧元素として、マンガンを含有し、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。」
と訂正して,新たな請求項8とする。

(5)訂正事項9
訂正前の請求項6における
「電気化学セルと、
請求項1乃至4のいずれかに記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、
セルスタック装置。」を,
「電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記被覆膜は、前記低平衡酸素圧元素として、マンガンより平衡酸素圧の低い元素を含有し、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。」
と訂正して,新たな請求項9とする。

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び,特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1?5について
訂正事項1?5は,それぞれ,請求項1?5を削除するものであるから,いずれも「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり,また,願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載された範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張,又は変更するものでもない。

(2)訂正事項6?9について
訂正事項6は,訂正前の請求項6を,同請求項6が引用する請求項1の発明特定事項を繰り入れて新たな独立請求項6としたうえで,訂正前の請求項6が,「アンカー部」が「凹部に配置され」ていることを特定している点を,訂正後では「前記凹部に充填され」と特定することにより,「アンカー部」が凹部の全体に埋められている旨を明らかにするものであるから,「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして,訂正事項6は,当初明細書等の段落【0072】,【0084】?【0086】,図6?11を根拠として,訂正前の請求項6の発明特定事項を更に技術的に特定するものであるから,明細書等に記載された範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張,又は変更するものでもない。

(3)訂正事項7?9について
訂正事項7?9は,各々,訂正前の請求項6を,同請求項6が引用する請求項1及び請求項2?4の発明特定事項を繰り入れて新たな独立請求項7?9としたうえで,訂正前の請求項6が,「アンカー部」が「凹部に配置され」ていることを特定している点を,訂正後では「前記凹部に充填され」と特定することにより,「アンカー部」が凹部の全体に埋められている旨を明らかにするものであるから,いずれも「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして,訂正事項7?9は,当初明細書等の段落【0072】,【0084】?【0086】,図6?11を根拠として,訂正前の請求項6の発明特定事項を更に技術的に特定するものであるから,明細書等に記載された範囲内の訂正であって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張,又は変更するものでもない。


3 一群の請求項について
訂正前の請求項2?6はいずれも請求項1を引用するものであるから,訂正前の請求項1?6は一群の請求項である。
そして,本件訂正に関しては,特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから,本件訂正請求は,訂正後の請求項〔1?9〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

4 独立特許要件について
訂正前の全ての請求項1?6に対して特許異議の申立てがされている本件においては,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない旨の要件は適用されない。

5 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正は,特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,並びに,同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1?9〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり,本件訂正請求は適法なものである。よって,本件特許に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。
【請求項7】
電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記被覆膜における前記低平衡酸素圧元素のカチオン比は、0.05以上であり、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。
【請求項8】
電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記被覆膜は、前記低平衡酸素圧元素として、マンガンを含有し、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。
【請求項9】
電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記被覆膜は、前記低平衡酸素圧元素として、マンガンより平衡酸素圧の低い元素を含有し、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。」

第4 申立理由及び取消理由の概要
1 申立人が主張する特許異議の申立ての理由の概要
(1)申立理由1(新規性:取消理由1として採用。)
ア 訂正前の請求項1?4に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

イ 訂正前の請求項1?3に係る発明は,甲第2号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性:取消理由2として採用。)
ア 訂正前の請求項5,6に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第3?6号証)に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

イ 訂正前の請求項4?6に係る発明は,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第3?6号証)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(サポート要件:取消理由として不採用。)
訂正前の請求項1?6の記載は,下記ア?ウの点で,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないから,訂正前の請求項1?6に係る特許は,同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
ア 「アンカー部」の形状(長さや幅)について限定がなく,発明の課題が解決できない形態を含んでいる。

イ 「マンガンを含む酸化物」について,Mnの価数によっては,それ以上酸素を取り込むことができず,「被覆膜212を透過してくる酸素をアンカー部213に優先的に取り込む」ことができないものも含まれる。

ウ 「低平衡酸素圧元素」について,その価数により,酸素を取り込む効果は異なり,効果を奏しない形態を含んでいる。

(4)申立理由4(明確性:取消理由3として採用。)
訂正前の請求項1?6の記載は,下記アの点で,特許を受けようとする発明が明確でなく,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないから,訂正前の請求項1?6に係る特許は,同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
ア 「アンカー部」との記載は,それ自体で明確ではなく,また,定義が存在せず,出願時の技術常識をもってしても,特許を受けようとする発明が明確に把握できない。

(5)申立理由5(実施可能要件:取消理由として不採用。)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,下記ア,イの点で,当業者が訂正前の請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから,訂正前の請求項1?6に係る特許は,同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
ア 「アンカー部」の形状を特定する記載がなく,当業者は,どのような形状のアンカー部を形成すればよいか,理解できない。

イ 「マンガンを含む酸化物」を特定する記載がなく,当業者は,どのような「マンガンを含む酸化物」を用いればよいか,理解できない。

2 当審が通知した取消理由の概要
(1)取消理由1(新規性:上記1(1)アを採用,訂正前の請求項5について職権で追加。)
訂正前の請求項1ないし5に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)取消理由2(進歩性:上記1(2)アを採用,訂正前の請求項1?4について職権で追加。)
訂正前の請求項1ないし5に係る発明は,甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)取消理由3(明確性:上記1(4)を採用,「凹部」について職権で追加。)
訂正前の請求項1?6の記載は下記ア,イの点で,特許を受けようとする発明が明確でなく,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないから,訂正前の請求項1?6に係る特許は,同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
ア 「凹部」について,故意に凹部を形成したもののみならず,物体の表面に存在する自然な凹凸の凹部が含まれることもあり得,訂正前の請求項1?6に記載された「凹部」の外延が明確でないものとなる。

イ 「アンカー部」について,凹部の態様によっては,アンカー効果の有無や,「アンカー部」自体の有無が確認できないものまで含まれることになり,その外延が明確でないものとなる。

(4)取消理由4(委任省令要件:職権で追加。)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は下記ア,イの点で,特許法第36条第4項第1号の規定による委任省令で定められるところにより記載されたものではないから,訂正前の請求項1?6に係る特許は,同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
ア 「アンカー部」について,「基材210のうちアンカー部213を取り囲む領域が酸化することを抑制する」と,どのようにして「アンカー部213の形態を長期間に亘って維持」できるのかが不明である。

イ 「被覆膜」について,「被覆膜212を透過する酸素を被覆膜212の内部に取り込む」ことにより,被覆膜自体が酸素の影響による形状の変化(肥大化)を起こして剥離しやすくなると考えられるところ,どのようにしてアンカー効果を長期間に亘って得ることができるのかが不明である。

3 証拠方法
甲第1号証:Lei Chen et al., "Strontium transport and conductivity of Mn_(1.5)Co_(1.5)O_(4 )coated Haynes 230 and Crofer 22 APU under simulated solid oxide fuel cell condition", Solid State Ionics 204-205(2011), pp.111-119. (以下「甲1」という。)
甲第2号証:Chun-Lin Chu et al., "Oxidation behavior of metallic interconnect coated with La-Sr-Mn film by screen painting and plasma sputtering", International Journal of Hydrogen Energy 34(2009), p.422-434. (以下「甲2」という。)
甲第3号証:特許第5395303号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特許第5315476号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2015-35418号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:国際公開第2013/172451号(以下「甲6」という。)
甲第7号証:田川博章「固体酸化物燃料電池と地球環境」,アグネ承風社,2010年7月25日第1版,第40?43頁(以下「甲7」という。)
甲第8号証:Maria J. Balart et al., "Melt Protection of Mg-Al Based Alloys", Metals 6, 131(2016), p.1-11. (以下「甲8」という。)

第5 当審の判断
当審は,本件特許について,上記第4の2に示した取消理由は解消しており,また,上記第4の1に示したその余の申立理由によっても,取り消すことはできないものと判断する。詳細は次のとおりである。

1 新規性,進歩性(取消理由1,2,申立理由1,2)について
(1)引用文献
ア 甲1は,「固体酸化物燃料電池を模した条件下でのMn_(1.5)Co_(1.5)O_(4)によりコートされたHaynes230およびCrofer22APUのストロンチウム移動および伝導性(申立人訳)」と題する技術論文であって,次の記載がある。下線は当審が付した(以下同様)。

(ア)第111頁左欄11?14行
「…, electrical conductivity of SOFC interconnects or current collector has been investigated extensively.
Fe-Cr and Ni-Cr chromia forming alloys are being considered as the cathode interconnect materials for stationary SOFC power plants, …」
(申立人訳:SOFCインターコネクタや集電体の電気伝導性が,広範囲にわたって調べられた。
Fe-CrおよびNi-Cr系のクロミアを形成する合金は,定置式のSOFCパワープラントのための空気極インターコネクタの材料として考慮されている。)

(イ)第111頁右欄7?13行
「Both Fe-Cr and Ni-Cr interconnects need to be coated to prevent cell contamination by volatile Cr species [11-14]. Spinel coatings such as (MnCo)_(3)O_(4 )(MCO) have demonstrated efficacy in retarding oxidation and inhibiting chromia vaporization for ferritic steels [15-17]. MCO coatings also suppressed the electrical resistance increase of interconnects made of ferritic stainless steels such as AL441SS [18], 430SS [16],and Crofer 22 APU [19].」
(申立人訳:Fe-CrおよびNi-Cr系のインターコネクタは,共に,揮発性Cr種によるセルのコンタミネーションを防止するために,コートされる必要がある。(MnCo)_(3)O_(4)(MCO)のようなスピネルコーティングは,フェライト系ステンレスのために,酸化を遅らせると共にクロミアの蒸発を抑制するという点で,有効性を示している。MCOは,また,AL441SS,430SSおよびCrofer22APUといったフェライト系ステンレス製のインターコネクタの電気抵抗の増加を抑制した。)

(ウ)第112頁左欄27?28行
「Crofer 22 APU (0.5mm thick) in thin sheet form was used as the ferritic stainless steel substrate.」
(申立人訳:薄いシート状のCrofer22APU(厚さ0.5mm)が,フェライト系ステンレス基材として使用された。)

(エ)第112頁左欄46?48行
「The double-coated samples are designated as LSCF/MCO and LSM/MCO, respectively, where the MCO coating is in contact with the alloy substrate.」
(申立人訳:二重コーティングされたサンプルを,それぞれLSCF((La,Sr)(Co,Fe)O_(3))/MCO及びLSM((La,Sr)MnO_(3))/MCOと称し,MCOコーティングは合金基材と接触している。)

(オ)第115頁右欄14?15行
「EMPA element maps of the LSCF/MCO-H230 and LSCF/MCO-Crofer 22 APU samples are shown in Fig.8 and Fig.9 respectively.」
(申立人訳:LSCF/MCO-H230及びLSCF/MCO-Crofer22APUのサンプルのEMPA(電子線微小分析)元素マップが,それぞれ図8及び図9に示される。)

(カ)第115頁22?24行
「…, the LSCF/MCO-Crofer 22 APU interface chemistry also distinctly differs from that of LSCF/MCO-H230 in that the MCO-Crofer22 interfacial region exhibited enrichment Mn as revealed by the Mn maps.」
(申立人訳:LSCF/MCO-Crofer22APUの界面の化学構造は,Mnマップから明らかなように,MCO-Crofer22の境界領域がMnを豊富に含んでいるという点でも,LSCF/MCO-H230のそれと明らかに相違している。)

(キ)第117頁 図9「

」(申立人訳:ASRのために800℃の空気中で1100時間テストされたLSCF/MCO/Crofer22のEPMAマップ)

イ 上記アによれば,甲1には次の事項が記載されているものと認められる。

(ア)甲1では,SOFC(固体酸化物燃料電池)用インターコネクタについて調べられており,クロミア(酸化クロム)を形成する,Fe-Cr系の合金を用いてインターコネクタを形成することが検討されている。そして,フェライト系ステンレスでは,(MnCo)_(3)O_(4)(MCO)のようなスピネルコーティングでコートすることが有効であり,インターコネクタの電気抵抗の増加を抑制することもできる(上記ア(ア)(イ))。

(イ)薄いシート状のCrofer22APU(厚さ0.5mm)をフェライト系ステンレス基材として使用し,MCOコーティングが基材と接触している,LSCF/MCO-Crofer22APUと称する二重コーティングされたサンプルが示されている(上記ア(ウ)(エ))。

(ウ)上記サンプルのEMPA(電子線微小分析)元素マップが図9に示され,そのMnマップから,LSCF/MCO-Crofer22APUの界面の化学構造は,MCO-Crofer22の境界領域がMnを豊富に含んでいる(上記ア(オ)(カ))。

(エ)図9の左上の図から,上方からの3つの層(各々「上層」,「中層」,「下層」という。)が積層して構成されている様子を見て取ることができ,上記上層,中層,下層は,それぞれ,LSCF,MCO,Crofer22APUに該当するものであると理解することができるほか,上記中層と下層の界面,すなわち,MCOとCrofer22APU基材の界面,もしくは,Crofer22APU基材の表面に,凹凸形状が存在する様子を見て取ることができる(上記ア(キ))。

(オ)図9のCrマップ,Mnマップを見ると,Crofer22APUとMCOの界面に形成された凹凸形状に略沿った同じ領域に,クロミア(酸化クロム)とMnを含む領域が存在しているということができる(上記ア(キ))。

(カ)上記(ア)?(オ)の検討から,図9に記載されたインターコネクタのサンプルに注目すると,当該サンプルが燃料電池のセルスタック装置を構成することは明らかであるから,甲1には,次のセルスタック装置が記載されているものと認められる。

「表面に凹凸形状を有し,フェライト系ステンレスであるCrofer22APUによって構成される基材と,
前記凹凸形状に略沿うように充填された,クロミア(酸化クロム)とマンガンを含む界面領域と,
前記界面領域を覆うLSCF/MCO二重コート層と,
を有するインターコネクタ用合金部材を備える,セルスタック装置」
(以下「甲1発明」という。)

ウ 甲2は,「スクリーンペインティングおよびプラズマスパッタリングによりLa-Sr-Mnフィルムを用いてコートされた金属製インターコネクタの酸化挙動(申立人訳)」と題する技術論文であって,次の記載がある。
(ア)第422頁要約1?6行
「Two Fe-based alloys, specific company developed and designated as Crofer22APU and ZMG232, has been extensively evaluated and considered as outstanding metallic interconnect materials. Both these alloys contain significant and minute amounts of elemental Cr and La, respectively. In this study, they are coated with films of La-Sr-Mn (LSM) using two methods, screen painting and plasma sputtering, to determine the effect of LSM on corrosion resistance and electrical resistivity of Crofer22APU and ZMG232.」
(申立人訳:特定の会社が開発しCrofer22APUおよびZMG232と呼ぶ2つのFeベースの合金が,広く評価され,金属インターコネクタの優れた材料として考えられてきた。これらの合金の両方は,それぞれ多量および微量のCrおよびLaを含有する。本研究では,Crofer22APUおよびZMG232の腐食耐性および電気抵抗に関するLa-Sr-Mn(LSM)の効果を見極めるために,それらがスクリーンペインティングおよびプラズマスパッタリングという2つの方法を用いて,LSMのフィルムによりコートされた。)

(イ)第423頁 表1「

」(当審訳:合金の化学組成(重量%)

(ウ)第428頁左欄6?8行
「Fig. 11(a) shows the microstructure and elemental distribution at the interface of LSM-coated Crofer22 APU sintered.」
(申立人訳:図11(a)は,LSMコートされた焼結されたCrofer22APUのインターフェースにおける微構造および元素分布を示す。)

(エ)第428頁左欄11?14行
「From elemental distributions of Cr, Mn, Fe, La, Sr and O shown in Fig.11(a), it is estimated that there is interfacial oxide layer between LSM and alloy which consists of Cr_(2)O_(3) and Cr-Mn complex oxide.」
(申立人訳:図11(a)に示されたCr,Mn,Fe,La,Sr,Oの元素分析から,LSMと合金との間に,Cr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなる界面酸化物が存在することが推定される。)

(オ)第428頁左欄15?17行
「The cross-sectional EMPA composition maps of LSM-coated ZMG232 are shown in Fig. 11(b).」
(申立人訳:LSMコートされたZMG232の断面EPMA組成マップが,図11(b)に示される。)

(カ)第428頁左欄19行?右欄3行
「The inserted XRD pattern is obtained from the surface area (pointed by an arrow), showing existence of La_(2)O_(3), SrMnO_(3), MnO_(2) or Cr_(2)O_(3) compounds.」
(申立人訳:挿入されたXRDパターンが表面エリア(矢印で示される)から得られ,これは,La_(2)O_(3),SrMnO_(3),MnO_(2)またはCr_(2)O_(3)の存在を示している。)

(キ)第428頁右欄5?8行
「The layer beneath LSM film shows a strong accumulation of Cr, O and Mn, as well as of Fe in the bottom paret of the film at the oxide film/metal substrate interface.」
(申立人訳:酸化物フィルムと金属基材とのインターフェースにおけるフィルムの底部でのFeの強い集積と共に,LSMフィルムの下方の層は,Cr,OおよびMnの強い集積を示している。)

(ク)第429?430頁 図11「


」(申立人訳:Cr,O,Fe,La,SrおよびMnからなる化合物を示す,LSMコートされた合金の断面視でのBEI(反射電子像),XRDおよびEPMA(電子線マイクロアナライザ)。(a)Crofer22APUおよび(b)同等のZMG232。両者は,スクリーンペインティングにより準備され,1100℃ 2.5時間で焼成された。)

エ 上記ウによれば,甲2には次の事項が記載されているものと認められる。
(ア)甲2では,金属インターコネクタの優れた材料であるCrofer22APU及びZMG232(いずれも,合金組成としてCrを含有する。)に,La-Sr-Mn(LSM)のフィルムをコートしたものについて調べられている(上記ウ(ア),(イ))。

(イ)図11(a)の一番上の微構造を示す写真によれば,上から順に,LSM(コート),界面酸化物及び合金(Crofer22APU)の3層構造が存在し,元素分析から,界面酸化物はCr_(2)O_(3)およびCr-Mn複合酸化物からなるものと推定されること,及び,合金表面には凹凸形状が存在することを見て取ることができる(上記ウ(ウ),(エ),(ク))。

(ウ)図11(b)の一番上の微構造を示す写真によれば,上記(イ)と同様に,LSM(コート),界面酸化物及び合金(ZMG232)の3層構造が存在し,XRDパターン(MnO_(2)の存在を示している。)及び元素分析(Cr,O及びMnの強い集積を示している。)から,上記界面酸化物がCrを含む酸化物およびMnを含む酸化物であると推定されること,及び,合金表面には凹凸形状が存在することを見て取ることができる(上記ウ(オ)?(ク))。

(エ)上記(ア)?(ウ)の検討から,図11(a)(b)の微構造を示す写真に注目すると,当該微構造を示す合金部材が燃料電池のセルスタック装置を構成することは明らかであるから,甲2には,次のセルスタック装置が記載されているものと認められる。

「表面に凹凸形状を有し,クロムを含有する合金材料であるCrofer22APU又はZMG232によって構成される基材と,
前記凹凸形状に沿って存在する,Crを含む酸化物およびMnを含む酸化物を含有する界面酸化物と,
前記界面酸化物を覆うLSMコートと,
を有するインターコネクタ用合金部材を備える,セルスタック装置」
(以下「甲2発明」という。)

オ 甲3?8には,各々,次の記載がある。
(ア)甲3は,「集電部材及び燃料電池」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。
「【請求項9】
請求項1に記載の集電部材と、
燃料極と空気極と固体電解質層とをそれぞれ有する第1及び第2発電部と、を備え、
前記集電部材は、前記第1発電部の前記空気極と前記第2発電部の前記燃料極とに電気的に接続されている、燃料電池。」

(イ)甲4は,「集電部材及び燃料電池」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。
「【請求項10】
請求項1に記載の集電部材と、
燃料極と空気極と固体電解質層とをそれぞれ有する第1及び第2発電部と、を備え、
前記集電部材は、前記第1発電部の前記空気極と前記第2発電部の前記燃料極とに電気的に接続されている、燃料電池。」

(ウ)甲5は,「燃料電池のスタック構造体」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。
「【0063】
(スタック構造体の全体構成の一例)
次に、上述したセル100を用いた本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)のスタック構造体について説明する。図19に示すように、このスタック構造体は、多数のセル100と、多数のセル100のそれぞれに燃料ガスを供給するための燃料ガスのマニホールド200と、を備えている。マニホールド200の全体は、ステンレス鋼等の鉄とクロムを含む材料で構成されている。
【0064】
マニホールド200の天板(換言すれば、ガスタンクの天板(平板))は、多数のセル100を支持するための平板状の支持板210を兼ねている。従って、支持板210も、ステンレス鋼等の鉄とクロムを含む材料で構成されている。また、マニホールド200には、外部からマニホールド200の内部空間に燃料ガスを導入するための導入通路220が設けられている。各セル100が支持板210の表面から第1長手方向(x軸方向)に沿ってそれぞれ突出し且つ複数のセル100がスタック状に整列するように、各セル100の第1長手方向の一端部が支持板210に接合・支持されている(接合構造の詳細は後述する)。各セル100の第1長手方向の他端部は、自由端となっている。従って、このスタック構造は、「片持ちスタック構造」と表現することができる。」

(エ)甲6は,「導電部材およびセルスタックならびに電気化学モジュール,電気化学装置」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。
「[0017] セルスタック2を構成する各燃料電池セル3の下端部は、ガスタンク6に、ガラス等のシール材(図示せず)により固定されており、これにより、ガスタンク6の燃料ガスを、燃料電池セル3の内部に設けられたガス流路12を介して燃料電池セル3の燃料極層8に供給することができる。」

(オ)甲7は,固体酸化物燃料電池の解説書であって,次の記載がある。
(第40頁16?28行)
「酸化物,硫化物,炭化物などの金属の化合物が構成成分の非金属雰囲気中において安定に存在できる条件,あるいは化学反応の可能性を判定する尺度は,生成系と反応系のギブスエネルギー変化(あるいは化学ポテンシャルの差)である.ギブスエネルギー変化が負のとき,すなわちΔG<0の場合に反応は自発的に進行する.
反応性の判定,化合物の安定性(あるいは化合物の熱分解の性向)は,非金属成分の化学ポテンシャル-温度の関係図から容易に判定できる.図3.3に金属酸化物の生成の酸素の化学ポテンシャル(簡単に酸素ポテンシャルともいう)と温度の関係を示す.縦軸は酸素ポテンシャル(酸素1モル当りの反応のギブスエネルギー)である.価数の異なる酸化物の生成反応を酸素1モル当りとして表すと,金属の酸化のされ易さ,酸化物の安定性の序列になるからである.μ(O_(2))-T図は,作成者に因んでエリンガム図(Ellingham diagram)とも呼ばれる.」
また,図3.3としてエリンガム図が記載されている。

(カ)甲8は,「Mg-Alベース合金の融解保護(申立人訳)」と題する技術論文であって,図1としてエリンガム図が記載されている。

(2)請求項6に係る発明について
ア 甲1に記載された発明に基づく新規性
(ア)甲1発明の「フェライト系ステンレスであるCrofer22APUによって構成される基材」は,「Crofer22APU」がクロムを含有する鉄系合金であることよりみて,請求項6に係る発明の「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当する。そして,甲1発明の「表面」の「凹凸形状」は,その凹部に注目すると,請求項6に係る発明の「表面」の「凹部」に相当する。

(イ)甲1発明の「クロミア(酸化クロム)とマンガンを含む界面領域」は,マンガンを含む,酸化クロムの領域であるといえるから,請求項6に係る発明の「マンガンを含む酸化物を含有する」に相当し,したがって,甲1発明における「前記凹凸形状に略沿うように充填され」た「クロミア(酸化クロム)とマンガンを含む界面領域」は,請求項6に係る発明における「前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部」に相当する。

(ウ)甲1発明の「前記界面領域を覆うLSCF/MCO二重コート層」は,「界面領域」に接続して存在し,クロムよりも平衡酸素圧の低い元素であるマンガンを含有するものであるから,請求項6に係る発明の「クロムよりも平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜」に相当する。

(エ)甲1発明の「インターコネクタ用合金部材」は,燃料電池を構成する合金部材という限りにおいて,請求項6に係る発明の「合金部材」に相当する。

(オ)よって,請求項6に係る発明と甲1発明は,「表面に凹部を有し,クロムを含有する合金材料によって構成される基材と,前記凹部に充填され,マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と,前記アンカー部に接続され,クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材を備える,セルスタック装置」である点において,一応一致する。
しかしながら,合金部材の適用対象が,請求項6に係る発明は「インターコネクタ」であるのに対し,甲1発明は「電気化学セルの基端部を支持するマニホールド」である点で,両者は実質的に相違するものである。
したがって,請求項6に係る発明は,甲1に記載された発明ではない。

イ 甲2に記載された発明に基づく新規性
(ア)甲2発明の「クロムを含有する合金材料であるCrofer22APU又はZMG232によって構成される基材」は,請求項6に係る発明の「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当する。そして,甲2発明の「凹凸形状」は,その凹部に注目すると,請求項6に係る発明の「凹部」に相当する。

(イ)甲2発明の「前記凹凸形状に沿って存在する,Crを含む酸化物およびMを含む酸化物を含有する界面酸化物」は,クロムよりも平衡酸素圧の低い元素であるマンガンを含有するものであるから,「LSMコート」と共に,請求項6に係る発明の「クロムよりも平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜」に相当する。

(ウ)甲2発明の「インターコネクタ用合金部材」は,燃料電池を構成する合金部材という限りにおいて,請求項6に係る発明の「合金部材」に相当する。

(エ)よって,請求項6に係る発明と甲2発明は,「表面に凹部を有し,クロムを含有する合金材料によって構成される基材と,クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材を備える,セルスタック装置」である点において,一応一致する。
しかしながら,請求項6に係る発明は「前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部」を有するのに対し,甲2発明は「アンカー部」を有するかどうか不明である点において相違する(申立人は,甲2の図11(a)(b)によれば,凹部にマンガンを含む酸化物が配置されている旨主張するが,図面の記載からは判然としないから,採用できない。)。
また,合金の適用対象が,請求項6に係る発明は「インターコネクタ」であるのに対し,甲2発明は「電気化学セルの基端部を支持するマニホールド」である点で,両者は実質的に相違するものである。
したがって,請求項6に係る発明は,甲2に記載された発明ではない。

進歩性
上記ア,イの相違点のうち,共通のもの(合金の適用対象)について検討すると,甲1ないし甲2における合金部材は,燃料電池を構成する電気化学セルのインターコネクタに適用されるものである。
これに対し,マニホールドは,電気化学セルの基端部を支持するものであり,燃料電池を構成するものではあるものの,水素などの燃料ガスを各燃料電池セルに分配するように構成された,中空状の容器(本件特許明細書段落【0016】)であり,複数の燃料電池セルを電気的に接続する,集電部材すなわちインターコネクタ(同【0088】)とは異なるものであって,同じ合金材料であっても,必要とされる材料物性が異なるものである。そうすると,甲1ないし甲2における合金部材を,燃料電池を構成する電気化学セルのインターコネクタに代えてマニホールドに転用する動機づけを見い出すことができない。
よって,甲5ないし甲6に記載されているように,燃料電池を構成するマニホールドが知られていたとしても,そのことをもって,直ちにマニホールドに甲1ないし甲2における合金部材を適用することが容易に想起し得たものとは認められない(なお,甲3,甲4,甲7,甲8は,マニホールド自体の具体的開示がないものである。)。
したがって,請求項6に係る発明は,甲1に記載された発明,又は,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)請求項7?9に係る発明について
本件特許の請求項7?9に係る発明は,いずれも,請求項6に係る発明を更に技術的に特定したものであるから,甲1発明及び甲2発明との対比において,少なくとも,上記(2)ア,イと同様の相違点を有する。
したがって,上記(2)ウと同様の理由により,甲1に記載された発明,又は,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)新規性,進歩性(取消理由1,2,申立理由1,2)についての小括
以上のとおり,請求項6ないし9に係る発明は,甲1に記載された発明ではなく,当該発明から当業者が容易に発明できたものでもないから,当審が通知した取消理由1,2は解消した。
そして,上記に加え,請求項6ないし9に係る発明は,甲2に記載された発明ではなく,当該発明から当業者が容易に発明できたものでもないから,申立理由1,2は,成り立たない。

2 記載要件について
(1)明確性(取消理由3,申立理由4)について
ア 「凹部」について
凹部とは,一般には,凹んでいる部分のことであり,本件特許明細書においては,マニホールドを構成する基材の表面に形成され(段落【0060】),そこにアンカー部が係止されることで,アンカー効果(段落【0071】)が生まれるような部分であるといえる。
よって,当業者であれば,マニホールドを構成する基材の表面において,そこにアンカー部が係止されることで,アンカー効果が生まれる程度に凹んでいる部分が「凹部」であると理解することができるから,その外延は明確であるといえる。

イ 「アンカー部」について
本件訂正により,請求項6?9には「アンカー部」が「凹部」に「充填され」ていることが特定され,「凹部」と「アンカー部」とが同じ大きさ及び同じ形状であることが明らかにされた。
そして,当業者であれば,「アンカー部」とは,「凹部」に係止されることによって,接続されたコーティング膜を基材に固定する機能(すなわち,アンカー効果)を発揮するものであると理解することができるから,その外延は明確であるといえる。

(2)委任省令要件(取消理由4)について
ア 「アンカー部」について
「基材210のうちアンカー部213を取り囲む領域が酸化することを抑制する」と,どのようにして「アンカー部213の形態を長期間に亘って維持」できるのかについては,特許権者が釈明するとおり,アンカー部の酸化が進行すると,アンカー部の外延(当審注:「外縁」の誤記と認める。以下同じ。)」は基材の凹部によって拘束されているため,高密度化したアンカー部が形成されること,その後,アンカー部の酸化が更に進行しても,アンカー部の外延は基材の凹部によって当方的に拘束されているためアンカー部は相似拡大し,元のアンカー部の形状と略同じであることにより,アンカー部の酸化度合いに関わらずアンカー部の形状を保つことができ,アンカー効果を長期間に亘って維持することができるものと解される(意見書第3頁)。
したがって,発明の詳細な説明には,アンカー部がCrよりも平衡酸素圧の低い元素(低平衡酸素圧元素)であるMnの酸化物を含有することに関して,請求項6?9に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているといえる。

イ 「被覆膜」について
「被覆膜212を透過する酸素を被覆膜212の内部に取り込む」ことにより,被覆膜自体が酸素の影響による形状の変化(肥大化)を起こして剥離しやすくなると考えられるところ,どのようにしてアンカー効果を長期間に亘って得ることができるのかについては,特許権者が釈明するとおり,被覆膜は,厚み方向において形状が拘束されていないので,被覆膜の内部に酸素が取り込まれて被覆膜自体が若干肥大化するとしても,被覆膜が微小に厚くなるにすぎず,基材から剥離する要因とはならないものと解される(意見書第3?4頁)。
したがって,発明の詳細な説明には,被覆膜がCrよりも平衡酸素圧の低い元素(低平衡酸素圧元素)の酸化物を含有することに関して,請求項6?9に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているといえる。

(3)サポート要件(申立理由3),実施可能要件(申立理由5)について
ア 「アンカー部」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば,発明が解決しようとする課題は,耐久性を向上可能な合金部材,セルスタック及びセルスタック装置を提供することである(段落【0009】)。
そして,本件訂正により,請求項6?9には「アンカー部」が「凹部」に「充填され」ていることが特定され,「凹部」と「アンカー部」とが同じ大きさ及び同じ形状であることが明らかにされたところ,発明の詳細な説明には,そのような「アンカー部」が「凹部」に係止されることによって,接続されたコーティング膜を基材に固定する機能(すなわち,アンカー効果)を発揮することが記載されている(段落【0071】)。
したがって,当業者であれば,請求項6?9に記載された「アンカー部」が発明の詳細に記載された範囲を超えるものではなく,また,発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されていることを理解することができる。

イ 「マンガンを含む酸化物」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば,発明が解決しようとする課題は,耐久性を向上可能な合金部材,セルスタック及びセルスタック装置を提供することである(段落【0009】)。
そして,「マンガンを含む酸化物」について,発明の詳細な説明には,例えば,MnO,MnCr_(2)O_(4)などが挙げられるが,これに限られるものではないこと,Mnは,Crより平衡酸素圧の低い元素であり,Crよりも酸素との親和力が大きいため,被覆膜を透過してくる酸素を被覆膜やアンカー部の内部に取り込むことにより,アンカー部近傍の酸素分圧を低下させることができ,被覆膜が基材から剥離することを長期間に亘って抑制できることが記載されている(段落【0076】)。
したがって,当業者であれば,Crより平衡酸素圧の低い元素としてMnを用いるものであり,請求項6?9に記載された「マンガンを含む酸化物」が発明の詳細に記載された範囲を超えるものではなく,また,発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されていることを理解することができる。

ウ 「低平衡酸素圧元素」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば,発明が解決しようとする課題は,耐久性を向上可能な合金部材,セルスタック及びセルスタック装置を提供することである(段落【0009】)。
そして,「低平衡酸素圧元素」について,発明の詳細な説明には,被覆膜は,Crの平衡酸素圧より低い低平衡酸素圧元素を含有することが記載されるとともに,被覆膜を構成する材料としては,セラミックス材料を用いることができ,例示として,アルミナ,シリカ,結晶化ガラス(SiO_(2)-CaO系,SiO_(2)-BaO系,MgO-CaO系,MgO-B_(2)O_(3)系,SiO_(2)-B_(2)O_(3)系など)が挙げられるが,Crの揮発を抑制できればよく,これらに限られるものではないこと,低平衡酸素圧元素は,Crよりも酸素との親和力が大きいため,被覆膜を透過する酸素を被覆膜の内部に取り込むことにより,基材のうちアンカー部を取り囲む領域に含まれるCrの酸化を抑制することができ,被覆膜が基材から剥離することを長期間に亘って抑制できることが記載されている(段落【0065】,【0066】)。
したがって,当業者であれば,請求項6?9に記載された「低平衡酸素圧元素」とは,その価数にかかわらず,Crより平衡酸素圧の低い元素に限られることが理解できるから,請求項6?9に記載された「低平衡酸素圧元素」は発明の詳細に記載された範囲を超えるものではなく,また,発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているといえる。

(5)記載要件(取消理由3,4,申立理由3?5)についての小括
以上のとおり,請求項6?9の記載は,特許を受けようとする発明が明確であり,かつ,経済産業省令で定めるところにより記載されたものとなっているから,当審が通知した取消理由3,4は解消した。
そして,請求項6?9の記載は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,特許を受けようとする発明が明確であって,かつ,発明の詳細な説明の記載は,当業者が請求項6?9に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとなっているから,申立理由3?5は,成り立たない。

第6 むすび
以上のとおり,当審が通知した取消理由,及び,特許異議申立書に記載した申立理由によっては,請求項6ないし9に係る特許を取り消すことはできず,また,他に請求項6ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,請求項1ないし5に係る特許は,上記のとおり訂正により削除されたから,請求項1ないし5に係る特許異議の申立ては,その対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。
【請求項7】
電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記被覆膜における前記低平衡酸素圧元素のカチオン比は、0.05以上であり、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。
【請求項8】
電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記被覆膜は、前記低平衡酸素圧元素として、マンガンを含有し、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。
【請求項9】
電気化学セルと、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記凹部に充填され、マンガンを含む酸化物を含有するアンカー部と、前記アンカー部に接続され、クロムより平衡酸素圧の低い低平衡酸素圧元素を含有する被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記被覆膜は、前記低平衡酸素圧元素として、マンガンより平衡酸素圧の低い元素を含有し、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-14 
出願番号 特願2018-198664(P2018-198664)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C23C)
P 1 651・ 537- YAA (C23C)
P 1 651・ 113- YAA (C23C)
P 1 651・ 536- YAA (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
平塚 政宏
登録日 2019-02-22 
登録番号 特許第6484382号(P6484382)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 合金部材、セルスタック及びセルスタック装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
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