• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  A23K
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A23K
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  A23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23K
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A23K
管理番号 1368094
異議申立番号 異議2019-700815  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-10 
確定日 2020-10-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6499816号発明「マグロ類養殖魚及びその用途、並びにマグロ類養殖魚の作出方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6499816号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12、18、19〕、〔13-17〕、20、21について訂正することを認める。 特許第6499816号の請求項1ないし3、6ないし21に係る特許を維持する。 特許第6499816号の請求項4及び5に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6499816号の請求項1ないし21に係る特許についての出願は、平成30年8月21日に出願(優先権主張平成29年8月22日)され、平成31年3月22日にその特許権の設定登録がされ、平成31年4月10日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和1年10月10日 : 特許異議申立人小原淳史(以下「申立人」と いう。)による請求項1ないし21に係る特 許に対する特許異議の申立て
令和1年12月11日付け: 取消理由通知書
令和2年 2月17日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年 4月 3日 : 申立人による意見書の提出
令和2年 5月29日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
令和2年 7月15日付け: 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年 8月19日付け: 特許権者による手続補正書及び上申書の提出

なお、令和2年7月15日付けで訂正の請求がされたので、令和2年2月17日にされた先の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

また、申立人は令和2年4月3日提出の意見書において、令和2年2月17日に行った訂正請求により訂正された請求項1ないし21に係る発明について意見を述べているところ、上記令和2年7月15日に提出された訂正請求書による特許請求の範囲に係る訂正は、令和2年2月17日に行った訂正請求により訂正された請求項1ないし21と比較すると、実質的に、請求項4及び請求項5を削除した内容であり、上記令和2年7月15日に提出された訂正請求書による特許請求の範囲に係る訂正についても既に申立人は実質的に意見を述べているということができるから、特許法第120条の5第5項ただし書に規定される「特別の事情があるとき」にあたることから、申立人に意見書を提出する機会を与える必要はないものである。


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年8月19日付け手続補正書により補正された令和2年7月15日提出の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1の「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓とのいずれか一方を有する、マグロ類養殖魚。」との記載を、「セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有する、マグロ類養殖魚。」
と訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、6?12、18及び19も同様に訂正する。)

(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)訂正事項1-3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4)訂正事項1-4
特許請求の範囲の請求項6が引用する請求項を、「請求項1?請求項5のいずれか1項」から「請求項1?請求項3のいずれか1項」へ訂正する。
(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7?12、18及び19も同様に訂正する。)

(5)訂正事項1-5
特許請求の範囲の請求項10が引用する請求項を、「請求項1?請求項9のいずれか1項」から「請求項1?請求項3又は請求項6?請求項9のいずれか1項」へ訂正する。
(請求項10の記載を直接的又は間接的に引用する請求項11、12、18及び19も同様に訂正する。)

(6)訂正事項1-6
特許請求の範囲の請求項11が引用する請求項を、「請求項1?請求項10のいずれか1項」から「請求項1?請求項3又は請求項6?請求項10のいずれか1項」へ訂正する。
(請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12、18及び19も同様に訂正する。)

(7)訂正事項1-7
特許請求の範囲の請求項18が引用する請求項を、「請求項1?請求項12のいずれか1項」から「請求項1?請求項3又は請求項6?請求項12のいずれか1項」へ訂正する。
(請求項18の記載を直接的又は間接的に引用する請求項19も同様に訂正する。)

(8)訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項13の「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓との少なくとも一方を有するマグロ類養殖魚の可食部。」との記載を、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有するか、又は、セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有するかのいずれかであるマグロ類養殖魚の可食部。」と訂正する。
(請求項13の記載を直接的又は間接的に引用する請求項14?17も同様に訂正する。)

(9)訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項16の「セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓」との記載を、「セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓」と訂正する。
(請求項16の記載を直接的に引用する請求項17も同様に訂正する。)

(10)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項20の「セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓」との記載を、「セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓」と訂正する。

(11)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項21の「セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓」との記載を、「セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1-1
ア 訂正の目的について
訂正事項1-1に係る訂正は、訂正前の請求項1において、マグロ類養殖魚が「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓とのいずれか一方を有する」ものであり、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」と「セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓」との択一的な記載であったところ、これを「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」のみに限定した上で、さらにこの筋肉が「アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である」との限定を加える訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

同様に、訂正事項1-1に係る訂正後の請求項2、3、6?12、18及び19の訂正は、訂正後の請求項1を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項1-1に係る訂正のうち、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」の限定については、訂正前の請求項1における択一的な構成のうちの一方であるから、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、上記「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」がさらに「アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である」との限定については、本件特許明細書の段落【0090】?【0115】に記載されている実施例1において、個体No.1?No.8の養殖クロマグロの筋肉のセレン含有量が100gあたり35?41μg(段落【0101】、表2参照)といずれも55μg以下であり、かつこれら同一の個体において筋肉のアンセリン含有量が100gあたり0.091g(91mg)?0.114g(114mg)(段落【0111】、表6参照)といずれも91mg以上であったことが記載されており、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
上記アのとおり、訂正事項1-1は、訂正前の請求項1に記載されていたマグロ類養殖魚の部位を限定し、さらに限定された部位をアンセリン含有量でさらに限定して、特許請求の範囲の減縮をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項1-2、訂正事項1-3
ア 訂正の目的について
訂正事項1-2は、訂正前の請求項4を削除する訂正であり、訂正事項1-3は、訂正前の請求項5を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項1-2及び訂正事項1-3は、訂正前の請求項4及び5を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1-2及び訂正事項1-3に係る訂正は、訂正前の請求項4及び5を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項1-4
ア 訂正の目的について
訂正事項1-4は、訂正前の請求項6が請求項1?請求項5のいずれか1項を引用するものであったところ、引用する請求項を請求項1?請求項3のいずれか1項に限定するものであるとともに、訂正事項1-2及び訂正事項1-3に係る訂正により請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

同様に、訂正事項1-4に係る訂正後の請求項7?12、18及び19の訂正は、訂正後の請求項6を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項1-4に係る訂正は、上記アのとおり、訂正後の請求項6が引用する請求項を限定するとともに、請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1-4に係る訂正は、上記アのとおり、訂正後の請求項6が引用する請求項を限定するとともに、請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項1-5
ア 訂正の目的について
訂正事項1-5は、訂正前の請求項10が請求項1?請求項9のいずれか1項を引用するものであったところ、引用する請求項を請求項1?請求項3又は請求項6?請求項9のいずれか1項に限定するものであるとともに、訂正事項1-2及び訂正事項1-3に係る訂正により請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

同様に、訂正事項1-5に係る訂正後の請求項11、12、18及び19の訂正は、訂正後の請求項10を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項1-5に係る訂正は、上記アのとおり、訂正後の請求項10が引用する請求項を限定するとともに、請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1-5に係る訂正は、上記アのとおり、訂正後の請求項10が引用する請求項を限定するとともに、請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項1-6
ア 訂正の目的について
訂正事項1-6は、訂正前の請求項11が請求項1?請求項10のいずれか1項を引用するものであったところ、引用する請求項を請求項1?請求項3又は請求項6?請求項10のいずれか1項に限定するものであるとともに、訂正事項1-2及び訂正事項1-3に係る訂正により請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

同様に、訂正事項1-6に係る訂正後の請求項12、18及び19の訂正は、訂正後の請求項11を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項1-6に係る訂正は、上記アのとおり、訂正後の請求項11が引用する請求項を限定するとともに、請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1-6に係る訂正は、上記アのとおり、訂正後の請求項11が引用する請求項を限定するとともに、請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項1-7
ア 訂正の目的について
訂正事項1-7は、訂正前の請求項18が請求項1?請求項12のいずれか1項を引用するものであったところ、引用する請求項を請求項1?請求項3又は請求項6?請求項12のいずれか1項に限定するものであるとともに、訂正事項1-2及び訂正事項1-3に係る訂正により請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

同様に、訂正事項1-7に係る訂正後の請求項19の訂正は、訂正後の請求項18を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項1-7に係る訂正は、上記アのとおり、訂正後の請求項18が引用する請求項を限定するとともに、請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1-7に係る訂正は、上記アのとおり、訂正後の請求項18が引用する請求項を限定するとともに、請求項4及び請求項5が削除されたことと整合させるためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項2-1
ア 訂正の目的について
訂正事項2-1は、訂正前の請求項13の可食部に係るマグロ類養殖魚が「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓との少なくとも一方を有する」ものであり、該マグロ類養殖魚は「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」(態様1)、「セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓」(態様2)及び「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉とセレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓との両方」(態様3)のいずれかを有するとの3通りの態様の択一的な記載であったところ、態様3及び態様1の2通りの態様の択一的な記載に限定した上で、態様3の肝臓のセレン含有量が「100gあたり561μg以下である」との限定を加え、また、態様1の筋肉がさらに「アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である」との限定を加えたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

同様に、訂正事項2-1に係る訂正後の請求項14?17の訂正は、訂正後の請求項13を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項2-1に係る訂正において、マグロ類養殖魚が「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」を有し、さらに「セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓」を有することについては、明細書の段落【0116】?【0118】に記載されている実施例2において、「配合飼料切替群」の「切替え後4.5ヶ月」の筋肉及び肝臓のセレン含有量の数値として、筋肉のセレン含有量が100gあたり55μg、肝臓のセレン含有量が100gあたり561μgが記載されており、また、「切替え後7.5ヶ月」の筋肉のセレン含有量が100gあたり47μg、肝臓のセレン含有量が100gあたり419μgが記載されており(段落【0117】、表7参照)、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

また、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」がさらに「アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である」との限定については、上記(1)イに示したとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2-1に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項2-2
ア 訂正の目的について
訂正事項2-2に係る訂正は、訂正前の請求項16において、肝臓におけるセレン含有量が「100gあたり1400μg以下」であったのを「100gあたり561μg以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

同様に、訂正事項2-2に係る訂正後の請求項17の訂正は、訂正後の請求項16を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項2-2に係る訂正において、マグロ類養殖魚の肝臓が「セレン含有量が100gあたり561μg以下である」ことについては、上記(7)イに示したとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2-2に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項20の「セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓」との記載を、「セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項3に係る訂正において、マグロ類養殖魚の筋肉が「セレン含有量が100gあたり55μg以下である」とともに、さらにその肝臓が「セレン含有量が100gあたり561μg以下である」ことについては、上記(7)イに示したとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項21の「セレン含有量が100gあたり1400μg以下である肝臓」との記載を、「セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項4に係る訂正において、マグロ類養殖魚の筋肉が「セレン含有量が100gあたり55μg以下である」とともに、さらにその肝臓が「セレン含有量が100gあたり561μg以下である」ことについては、上記(7)イに示したとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(11)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1-1ないし4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 一群の請求項について
(1)訂正前の請求項1?12、18及び19について、請求項2?12、18及び19はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1-1ないし1-7によって記載が訂正される請求項1、4ないし6、10、11及び18に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?12、18及び19に対応する訂正後の請求項1?12、18及び19は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
よって、訂正事項1-1ないし1-7に係る訂正は、一群の請求項[1-12、18、19]に対して請求されたものである。

(2)訂正前の請求項13?17について、請求項14?17はそれぞれ請求項13を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項2-1及び2-2によって記載が訂正される請求項13及び16に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項13?17に対応する訂正後の請求項13?17は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
よって、訂正事項2-1及び訂正事項2-2に係る訂正は、一群の請求項[13-17]に対して請求されたものである。

4 独立特許要件について
本件においては、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1-1ないし4は、いずれも特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であり、訂正事項1-1ないし4により特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正後の請求項1?21に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

5 まとめ
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-12、18、19]、[13-17]、20及び21について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された本件特許の請求項1?21に係る発明(以下「本件訂正発明1?21」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?21に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有する、マグロ類養殖魚。
【請求項2】
配合飼料を含む餌料で飼育管理されることにより得られた、請求項1記載のマグロ類養殖魚。
【請求項3】
総魚体重が20kg以上である請求項1又は請求項2記載のマグロ類養殖魚。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
マグロ属、ソウダガツオ属、ハガツオ属、スマ属、又はカツオ属のマグロ類である請求項1?請求項3のいずれか1項記載のマグロ類養殖魚。
【請求項7】
前記マグロ類はビンナガ、クロマグロ、ミナミマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ、ハガツオ又はスマである請求項6記載のマグロ類養殖魚。
【請求項8】
北半球を生息域とする魚類を主食とするマグロ類である請求項6又は請求項7項記載のマグロ類養殖魚。
【請求項9】
ビンナガ、クロマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ、ハガツオ又はスマである請求項8記載のマグロ類養殖魚。
【請求項10】
鰓、内臓、尾部及び頭部からなる群より選択される部位の少なくとも1つが除去されている請求項1?請求項3又は請求項6?請求項9のいずれか1項記載のマグロ類養殖魚。
【請求項11】
鰓及び内臓が除去された形態である請求項1?請求項3又は請求項6?請求項10のいずれか1項記載のマグロ類養殖魚。
【請求項12】
全重量が17kg以上である請求項11記載のマグロ類養殖魚。
【請求項13】
セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有するか、又は、セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有するかのいずれかであるマグロ類養殖魚の可食部。
【請求項14】
魚肉又は内臓の少なくとも一部である請求項13記載のマグロ類養殖魚の可食部。
【請求項15】
赤身又は脂身である請求項13記載のマグロ類養殖魚の可食部。
【請求項16】
セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉又は、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓である請求項14記載のマグロ類養殖魚の可食部。
【請求項17】
請求項13?請求項16のいずれか1項記載のマグロ類養殖魚の可食部と、
前記可食部を収容する容器と、
を含む、マグロ類養殖魚の加工食品。
【請求項18】
30重量%以上をイワシ魚粉で構成された魚粉、及び油脂を含む内包と、
前記内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの物質で構成される外皮と、
を含む配合飼料を、少なくとも30日間継続して給餌することを含む、請求項1?請求項3又は請求項6?請求項12のいずれか1項記載のマグロ類養殖魚の飼育方法。
【請求項19】
請求項18記載のマグロ類養殖魚の飼育方法で得られたマグロ類養殖魚を用意すること、
用意されたマグロ類養殖魚から、可食部を採取すること、
前記可食部を容器に収容すること、
を含む、マグロ類養殖魚の加工食品の製造方法。
【請求項20】
セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有する、マグロ類養殖魚。
【請求項21】
セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有するマグロ類養殖魚の可食部。


第4 証拠一覧、異議申立理由の概要、及び取消理由の概要、及び証拠の記

1 証拠一覧
(1)特許異議申立書とともに提出された証拠は、以下のとおりである。
・甲第1号証:武田道夫他、「マグロ類の水銀およびセレン含有に関する研 究-VII.キハダ筋肉およびマグロ・カジキ類の肝臓・脾 臓のセレン量」、The Journal of the Shimonoseki
University of Fisheries、Vol.26(3)、pp.267-279(1978)
・甲第2号証:山下由美子他、「魚類の低酸素適応におけるセレンの役割」 、アクアネット、2014.1、pp.46-51
・甲第3号証:Giuseppa Di Bella et al.「Trace elements in Thunnus
thynnus from Mediterranean Sea and benefit-risk
assessment for consumers」
Food Additives & Contamminants;PartB, 2015、Vol.8、
No.3、pp.175-181
・甲第4号証:山下由美子、山下倫明、斎藤洋昭「I.メチル水銀およびセ レンの分布と蓄積 1章 魚介類におけるメチル水銀、セレ ンおよび高度不飽和脂肪酸の含有量」、山下倫明他編、水産 学シリーズ179 日本水産学会監修、魚食と健康メチル水 銀の生物影響、第9-28頁、2014年3月、恒星社厚生 閣
・甲第5号証:日比谷京編、「魚類組織図説-正常組織と病理組織」、講談 社、1982年9月10日発行、第84頁
・甲第6号証:特開2017-035078号公報
・甲第7号証:特開2006-223164号公報
・甲第8号証:PCT/JP2018/030843に対する国際調査機関 の見解書

(2)当審が職権で探知した証拠は、次のとおりである。
・文献1:特開2014-045750号公報

(3)特許異議申立人による令和2年4月3日付け意見書とともに提出された参考資料
・参考資料1:小野征一郎編著、「マグロの科学-その生産から消費まで-
」、成山堂書店、2004年、表紙、目次、第199?21
3頁、第232頁及び奥付
・参考資料2:村井武四他、「養成および天然クロマグロ幼魚の筋肉ならび に肝臓中のニンヒドリン呈色物質」、
Bulletin of the Japanase Society of Scientific
Fisheries, 48(11), pp.1633-1637, 1982
・参考資料3:「Nutrient Requirements and Feeding of Finfish for
Aquaculture」, Edited by C.D.WEBSTER et al., 2002,
p.27
・参考資料4:鳥居享司、「オーストラリアにおけるミナミマグロ養殖業の 実態分析」、クロマグロ等の魚類養殖産業支援型研究拠点: 21世紀COEプログラム2003?2004(平成15? 16)年度中間成果報告書,pp.215-220(2005-03-01)
・参考資料5:新宮千臣、「ミナミマグロの分布と回遊に関する研究」、
遠洋水研報第3号、昭和45年7月、pp.57-113
・参考資料6:石井元、「養殖マグロの現状と刺身マグロの需給」、水産振 興、第五三八号、一般財団法人東京水産振興会、平成24年 10月1日発行
・参考資料7:Ky Trung Le et al.,「Toxic effects of exessive levels of dietary selenium in juvenile yellowtail
kingfish(Seriola lalandi)」、Aquaculture、No.433(2014) pp.229-234
・参考資料8:水産学シリーズ172「沿岸漁獲物の高品質化-短期蓄養と 流通システム-」、日本水産学会監修、恒星社厚生閣、
2012年4月刊行
・参考資料9:https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010028361、
国立研究開発法人水産研究・教育機構のホームページ写し

2 異議申立理由、及び取消理由の要旨
(1)申立人による異議申立理由
申立人による異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
新規性
(ア)甲第1号証を引用例とした新規性
請求項1、3?9、13?16、20及び21に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(イ)甲第2号証を引用例とした新規性
請求項1、2、6?9、13?16に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(ウ)甲第3号証を引用例とした新規性
請求項1、3?9、13?16に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(エ)甲第4号証を引用例とした新規性
請求項1、2、6?9、13?16、20及び21に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

進歩性
(ア)甲第1号証を主たる引用例とした進歩性
請求項2、10、11及び17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知の事項に基いて、請求項12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(イ)甲第2号証を主たる引用例とした進歩性
請求項10、11及び17に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知の事項に基いて、請求項20及び21に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(ウ)甲第3号証を主たる引用例とした進歩性
請求項2、10、11及び17に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び周知の事項に基いて、請求項12に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、請求項20及び21に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(エ)甲第4号証を主たる引用例とした進歩性
請求項10、11及び17に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(オ)甲第6号証を主たる引用例とした進歩性
請求項18及び19に係る発明は、甲第6号証に記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)令和2年5月29日付けの取消理由(決定の予告)
当審が令和2年5月29日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)(以下「本件取消理由」という。)の要旨は、次のとおりである
ア 取消理由1(新規性)
甲第6号証を引用例とした新規性
令和2年2月17日付け訂正請求により訂正された請求項4?12、18及び19に係る発明は、甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
イ 取消理由2(進歩性)
(ア)甲第6号証を主たる引用例とした進歩性
令和2年2月17日付け訂正請求により訂正された請求項4?12、18及び19に係る発明は、甲第6号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(イ)甲第4号証を主たる引用例とした進歩性
令和2年2月17日付け訂正請求により訂正された請求項4?12に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

3 証拠の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載(下線は当審において付した。以下、同様。)
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「2・1 試料
筋肉組織材料として、1973年中・西部太平洋および東インド洋で漁獲されたキハダ,Thunnus albacares, 39尾の背肉および血合肉を使用した。その詳細は既報^(4))に報告されている。
内臓試料としては、生物学的組成変換反応が最も活発に行われる組織として肝臓を選んだ。また, 血液代謝に関係があり, 異常に高い水銀レベルを示すことがある牌臓も試料とした。これらの内臓を採取した試料魚は1973年および1974年に東インド洋で漁獲されたマグロ類29尾(キハダ, Thunnus albacares, 11; ビンナガ, Thunnus alalunga, 4; メバチ, Thnnus obesus, 14)およびカジキ類10尾(クロカジキ, Makaira mazara, 5; シロカジキ, Makaira indica, 2; マカジキ, Tetrapturus andax, 2; バショウカジキ, Istiophorus ptatyterus, 1)で, 詳細は前報^(5))に示されている。」(第268頁第7?15行)

(イ)「3・1 キハダの背肉と血合肉のセレン量の関係
試料魚の体重範囲は4.2?65.5kgであり、平均体重は35.0kgであった。背肉および血合肉のセレン量の範囲と平均値を、先に報告した総水銀量^(4))(T-TG)およびメチル水銀量^(8))(MeHg)と共に第1表に示す。」(第268頁第26?28行)

(ウ)Table.1

(

)
(第268頁第1表、なお、同表中のセレン量に関する部分の抜粋仮訳(申立人による)を、括弧書きで付記した。)

(エ)「血合肉の平均セレン量(5.24μg/g)は背肉のそれ(0.54μg/g)の約10倍であり、両筋肉組織にほぼ同じレベルで含まれた水銀に比べて興味深い。背肉のセレン量と血合肉のそれとの関係を第1図に示す。」(第269頁第1?2行)

(オ)「3・2 キハダ筋肉のセレン量と成長度との関係
背肉および血合肉のセレン量と尾叉長との関係を第5図および第6図に示す。得られたr_(0)はそれぞれ-0.16および0.02で、いずれの場合も、セレン量と成長度との間に有意の相関は認められなかった。」(第272頁第2?4行)

(カ)「3・3 マグロ類の肝臓と牌臓のセレン量
測定値の範囲、平均値および試料魚の体重を第2表に示す。セレン量の最高値は44.30(メバチ牌臓)、最低値は11.07μg/g(メバチ肝臓)であった。また、マグロ類の平均セレン量は肝臓では21.49、牌臓では27.07μg/gであった。
肝臓および牌臓のセレン量と体重の関係をそれぞれ、第8図および第9図に示す。セレン量と体重の間の相関係数r_(0)は、肝臓で0.05、牌臓で0.30であり、ともに有意の相関は認められなかった。」(第273頁第1?6行)

(キ)Table 2.

(

)
(第275頁第2表のうち、Yellowfin tuna(Thunnus albacares)の部分。なお、当該抜粋部分の仮訳(申立人による)を、括弧書きで付記した。)

(ク)上記第1表には、背肉のSeが0.24-1.04μg/gの範囲であるキハダが記載されているから、少なくともSeの値が最小値である0.24μg/gのキハダが記載されているといえる。
また、上記第2表には、肝臓のSeが11.76-35.93μg/gの範囲であるキハダが記載されているといえる。
そして、1「μg/g」=100「μg/100g」との単位換算を踏まえれば、上記第1表には、背肉のセレン含有量が、100gあたり24μgであるキハダが記載されているといえる。また、上記第2表には、肝臓のセレン含有量が、100gあたり1176-3593μgの幅を示す範囲にあるキハダが記載されているといえる。

イ 甲第1号証に記載された発明及び事項
(ア)上記アの記載からみて、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「筋肉組織である背肉のセレン含有量が、100gあたり24μgである西部太平洋および東インド洋で漁獲されたキハダ」

(イ)上記アの記載からみて、甲第1号証には、以下の事項(以下「甲1記載事項」という。)が記載されているといえる。
「内臓組織である肝臓のセレン含有量が、100gあたり1176-3593μgの幅を示す範囲にある東インド洋で漁獲されたキハダ」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「魚類普通筋では、マグロ類、カジキ類に多く、メカジキ0.22μg Se/g、メバチ0.20μg Se/g、クロマグロ0.18μg Se/g、ビンナガ0.14μg Se/gおよびキハダ0.13μg Se/gであった。」(第46頁右欄第7?11行)

(イ)「養殖と天然のブリの血合肉におけるセレン含量を分析した結果、天然魚ではセレン含量に大きなばらつきがあったが、養殖魚は天然魚よりもセレン含量が低かった(図2)。また、養殖魚では、ミオグロビン量も低く、セレン含量が高い試料ほど、血合肉の褐変(ミオグロビンのメト化率)の度合いは低かった(18頁の写真2)。このことから、養殖魚のセレンや鉄の要求量は十分満たされていない可能性が考えられる。ブリやクロマグロ、マダイなどの養殖魚は、高品質の天然魚に比べて品質が劣り、価格が低く抑えられる傾向があるが、この原因の一つとして、養殖魚ではセレン欠乏によって肉質劣化が早い点があると考えられた。」(第50頁左欄第9?28行)

(ウ) そして、1「μg/g」=100「μg/100g」との単位換算を踏まえれば、上記(ア)のクロマグロ0.18μg Se/g、ビンナガ0.14μg Se/gおよびキハダ0.13μg Se/gは、それぞれ、クロマグロ18「μg/100g」、ビンナガ14「μg/100g」およびキハダ13「μg/100g」であることとなる。

イ 甲第2号証に記載された発明
上記アの記載からみて、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「普通筋のセレン含有量が、100gあたりクロマグロ18μg、ビンナガ14μgおよびキハダ13μgであるマグロ類」

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている(括弧内は申立人が作成した仮訳である。以下同様。)。
(ア)「Sample collection
A number of 23 bluefin tuna fished (13 males and 10 females) were captured from May to August 2013 in the Mediterranean Sea by fishing boat. The specimens had length from 200 to 280 cm and weight from 130 to 290 kg. From each sample an approximate amount of about 2-3 kg of muscle tissue from the region around abdominal cavity was taken.
(サンプル採取
地中海で2013年5月から8月にかけて、クロマグロ23匹(オス13匹、メス10匹)が漁船によって捕獲された。標本の長さは200?280cm、体重は130?290kgであった。各サンプルから、腹腔周囲の領域から約2?3kgの筋肉組織を採取した。)」(第176頁左欄第20?27行)

(イ)「Traces elements in tuna fish
Concentration ranges and mean values ±SD (mg kg^(-1) ww) of each element in gamete and muscle samples of Thunnus thynnus from Mediterranean Sea were reported in Table 4
(マグロの微量元素
地中海からのThunnus thynnus(タイセイヨウクロマグロ)の配偶子および筋肉サンプルの各元素の濃度範囲と平均値±SD(mgkg^(-1)ww)を表4に報告した。)」(第178頁左欄第15?19行)

(ウ)Table.4

(

)
(第179頁表4、なお、同表中の筋肉のセレン量に関する部分の抜粋仮訳(申立人による)を、括弧書きで付記した。)

(エ)上記(イ)及び(ウ)に示される、表4のオスの筋肉におけるセレン含有量の最小値及び最大値から、少なくとも、筋肉のセレンの含有量が、0.27mg/kg、0.43mg/kgおよび0.33mg/kgである地中海のタイセイヨウクロマグロが実在することが記載されているといえる。

(オ)そして、単位1「mg/kg」=100「μg/100g」との単位換算を踏まえると、上記(エ)における、筋肉のセレンの含有量が、0.27mg/kg、0.43mg/kgおよび0.33mg/kgである地中海のタイセイヨウクロマグロは、ぞれぞれ、筋肉のセレンの含有量が、27「μg/100g」、43「μg/100g」および33「μg/100g」である地中海のタイセイヨウクロマグロであることとなる。

イ 甲第3号証に記載された発明
上記アの記載からみて、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「筋肉のセレン含有量が、100gあたり27μg、43μg及び33μgである地中海のタイセイヨウクロマグロ。」

(4)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である、甲第4号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「2・3メチル水銀の分布および含有量
国内産の主要な魚類の可食部(大型の魚類は筋肉,小型魚は皮つきフィレーまたは全魚体)における水銀量を表1-1に示した.分析された魚種のうち,メカジキ肉のメチル水銀含量(水銀当たり)は,平均1.1mgHg/kg(総水銀含量1.3mgHg/kg)と最も高く,クロマグロ,ミナミマグロ,メバチ,キンメダイ,ヨシキリザメが0.5mgHg/kgを超えていた.」(第13頁第15-20行)

(イ)第14-15頁の「表1・1魚介類の筋肉に含まれる総水銀,メチル水銀,脂質,EPA+DHAおよび総セレンの含量」の表には、魚種名が「ミナミマグロ,養殖」の行には、総セレンの欄について、試料数の欄は「20」、平均値(mg/kg)の欄は「0.58」、最小値-最大値(mg/kg)の欄は「0.36-0.74」と示されている。

(ウ)第20-21頁の「表1・3動物組織におけるセレノネイン,総セレンおよび総水銀含量」の表には、魚種が「クロマグロ(養殖)」であり、組織が「肝膵臓」の行には、総セレンmg/kgの欄について、「13.0±3.0」と記載されている。
また、魚種が「クロマグロ(養殖)」であり、組織が「普通筋」の行には、総セレンmg/kgの欄について、「0.60±0.09」と記載されている。
そして、表1・3の脚注には「数値は,平均値±標準偏差を示す.」と記載されている。

(エ)上記(イ)から、筋肉に含まれる総セレン含量が、最小値0.36-最大値0.74mg/kgの範囲で20匹の養殖ミナミマグロが存在し、20匹中少なくとも1匹は、総セレン含量が最小値の0.36mg/kgである筋肉を有する養殖ミナミマグロが存在することが理解できる。そして、1mg/kgは、100μg/100gであるから、少なくとも一匹の総セレン含量が100gあたり36μgである筋肉を有する養殖ミナミマグロが記載されているといえる。

(オ)上記(ウ)から、複数の養殖クロマグロの肝膵臓に含まれる総セレン含量の平均値が13.0mg/kgであり、少なくとも1匹は、総セレン含量が平均値の13.0mg/kg以下である肝脾臓を有する養殖ミナミマグロが存在することが理解できる。そして、1mg/kgは、100μg/100gであるから、少なくとも一匹の総セレン含量が100gあたり1300μg以下である肝膵臓を有する養殖クロマグロが記載されているといえる。

(カ)上記(ウ)から、複数の養殖クロマグロの普通筋に含まれる総セレン含量について、平均0.60±標準偏差0.09mg/kgであり、1mg/kgは、100μg/100gであるから、複数の養殖クロマグロの普通筋に含まれる総セレン含量が100gあたり平均60±標準偏差9μgの分布を有することが記載されているといえる。

イ 甲4号証に記載された発明及び事項
(ア)上記ア(エ)から、甲第4号証には、以下の発明(以下「甲4発明1」という。)が記載されている。
「総セレン含量が100gあたり36μgである筋肉を有する養殖ミナミマグロ。」
(イ)上記ア(オ)から、甲第4号証には、以下の事項(以下「甲4記載事項」という。)が記載されている。
「総セレン含量が100gあたり1300μg以下である肝膵臓を有する養殖クロマグロ。」

(5)甲第5号証
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。
「なお、硬骨魚類の肝臓は,独立の器官として存在している場合が多いが,コイ,キス,マダイ,クロダイ,ベラ,カワハギ,コチなどでは,元来独立に分化した膵臓組織が門脈枝に沿って肝臓内に侵入している。このような状態のものを肝膵臓hepatopancreasと呼ぶ(図VII-3-1参照)。」(第84頁右欄第4-9行)

(6)甲第6号証
ア 甲第6号証の記載
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、マグロ類養殖魚及びその用途、並びにマグロ類養殖魚の飼育方法に関する。」

(イ)「【0005】
本発明は以下のとおりである。
[1]筋肉、肝臓及び眼球からなる群より選択される少なくとも1つが100gあたり2mg以上のビタミンEを含む、マグロ類養殖魚。
・・・(中略)・・・
[21]魚粉及び油脂を含む内包と、内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの加熱ゲルである外皮と、を含み、内包におけるビタミンE含有量が飼料全体に対して500ppm以上である配合飼料を、少なくとも60日間継続して給餌することを含む、マグロ類養殖魚の飼育方法。」

(ウ)「【0054】
<飼育方法>
本発明の一実施形態における飼育方法は、魚粉、油脂を含む内包と、内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの加熱ゲルである外皮と、を含み、内包におけるビタミンE含有量が飼料全体に対して500ppm以上である配合飼料を、養殖魚としてのマグロ類に対して、少なくとも60日間継続して給餌することを含み、必要に応じて、他の工程を含むことができる。
本飼育方法では、ビタミンEを含む特定の内包と特定の外皮とを備えた二重構造の配合飼料を、少なくとも60日間継続してマグロ類に給餌するので、ビタミンEが富化された本発明の実施形態におけるビタミンE富化養殖魚を効率よく得ることができる。この観点から、本明細書において「ビタミンE富化養殖魚の飼育方法」は、「ビタミンE富化養殖魚の製造方法」とは同義であり、互いに読み替えることができる。
【0055】
本形態の飼育方法に用いられる配合飼料は、外皮とビタミンEを含有する内包とを含む二重構造を有する。本明細書では、本形態の飼育方法に用いられるこの配合飼料を、ビタミンE富化養殖魚育成飼料と称する場合がある。
ビタミンE富化養殖魚育成飼料の内包は、魚粉と油脂を主成分とし、ビタミンEを所定量含有し、更に、養魚用の栄養成分として知られているビタミンE以外のその他の栄養成分を添加してもよい。その他の栄養成分としては、ミネラル、ビタミンC等のビタミンを挙げることができる。
・・・(中略)・・・
【0061】
内包の必須成分である魚粉としては、養魚用飼料原料として通常用いられている各種魚粉、オキアミなどの甲殻類の粉末などが利用できる。魚粉含有量は、内包全体の重量の30?70重量%、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上、最も好ましくは45重量%以上とすることができる。内包には、形状を維持する観点から、結着性のある多糖類、硬化油、乳化剤などの賦形剤を添加しておくのが好ましい。
【0062】
ビタミンE富化養殖魚育成飼料の外皮は、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの原料から得られる加熱ゲルである。加熱によりゲルを形成するタンパク質原料及び/又は多糖類原料を含有する原料(以下、外皮用組成物と称する)を用いる。外皮用組成物が加熱によりゲル化し、一定の弾力性、伸展性、粘着性を示す。このような加熱ゲルを用いることにより、内包が確実に包被される。
加熱によるゲルとは、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つである原料を60℃以上に加熱する、若しくは、60℃以上に加熱後冷却することによりできるゲルと、澱粉等の多糖類に水分を加えて60℃以上に加熱することにより糊化してできるゲルとを意味する。」

(エ)「【0080】
本発明の一実施形態にかかるマグロ類養殖魚の飼育方法は、上述のビタミンE富化養殖魚育成飼料を、少なくとも60日間継続してマグロ類に対して給餌することを含む。ビタミンE富化養殖魚育成飼料による飼育を少なくとも60日継続することにより、飼育対象であるマグロ類に、ビタミンEが良好に魚体に蓄積することができ、また、蓄積されたビタミンEの作用により飼育期間にわたって健康な状態を維持することができる。飼育管理された養殖魚であることは、飼育期間に給餌されたビタミンE富化養殖魚育成飼料の成分のうち、生餌には含まれていない成分であって魚体に残留可能な特徴的な成分、例えば植物油等を確認することにより、確認することができる。」

(オ)「【0092】
[実施例1]
(1)ビタミンE富化養殖魚育成飼料の作製
魚粉35?40重量%、澱粉(エーテル化タピオカ澱粉:ヒドロキシプロピル澱粉、日澱化学社、G-800)17?23重量%、小麦粉7重量%、澱粉(酢酸タピオカ澱粉:日澱化学社、Z-300)2重量%、魚油2重量%、食塩3重量%、砂糖2.5重量%、グルテン1重量%、水残部を、エクストルーダにより、スクリュー回転数450rpm、吐出温度90℃、出口圧力50bar(5MPa)の条件で混合し、外皮用組成物とした。
魚粉59重量%、魚油36重量%、硬化油1.965重量%、ビタミン類2重量%、ミネラル1重量%、α-トコフェロール0.035重量%を、エクストルーダを用い60℃で混合し、内包とした。ビタミン類としては、α-トコフェロール換算で3.03重量%のビタミンEを含むものを用いた。」

イ 甲第6号証に記載された発明
上記ア(ア)?(オ)からみて、甲第6号証には、以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。
「養魚用飼料原料として通常用いられている各種魚粉及び油脂を含む内包と、前記内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの加熱ゲルである外皮とを含み、外皮中の魚粉が35?40重量%、内包中の魚粉が59重量%である配合飼料を、少なくとも60日間継続して給餌する、マグロ類養殖魚の飼育方法。」

(7)甲第7号証
ア 甲第7号証の記載
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された甲第7号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明はマグロ属魚類用飼料、マグロ属魚類用摂餌促進物質及びマグロ属魚類釣獲用の擬似餌に関する。その目的は、マグロ属魚類の摂餌率を向上させることにある。即ち、消化性の高いマグロ属魚類用飼料及び栄養価・嗜好性に優れたマグロ属魚類用摂餌促進物質を提供するとともに、該マグロ属魚類用摂餌促進物質を添加・展着することによりマグロ属魚類延縄漁業,曳縄漁業などにおける効果的なマグロ属魚類釣獲用擬似餌を提供することにある。」

(イ)「【0011】
本発明は、優れたクロマグロの種苗生産や飼育技術を持ち、そのような環境を用いて鋭意研究を行うことができる本発明者らにおいてのみ成し得るものであり、即ち、消化性の高いマグロ属魚類用飼料及び栄養価・嗜好性の優れたマグロ属魚類摂餌促進物質を提供することにより、マグロ属魚類の摂餌率を向上させることを目的とする。さらに、マグロ属魚類養殖において、生餌と略同等の、成長率、肥満率、生残率を実現することが可能である。また、嗜好性の優れたマグロ属魚類用摂餌促進物質を用いることにより、マグロ属魚類延縄漁業,曳縄漁業などにおける、嚥下効果の高い効果的なマグロ属魚類釣獲用擬似餌を提供することにある。」

(ウ)「【0015】
本発明に係る酵素処理魚粉は、タンパク源としてマグロ属魚類用飼料に含有される。前記酵素処理魚粉を製造するために用いられる酵素は特に限定されないが、好ましくは、ペプチダーゼ、プロテアーゼ又はプロテイナーゼの生物由来酵素が用いられる。
本発明に係る酵素処理魚粉は特に限定されないが、好ましくは、ニシン目ニシン科(Clupeidae)、ニシン目カタクチイワシ科(Engraulidae)、スズキ目アジ科(Carangidae)又はスズキ目サバ科(Scombridae)から選択される1種以上の魚粉から製造される。
例えば、マイワシ(Sardinops melanostictus)やカタクチイワシ(Engraulis japonicus)、アンチョビー(ニシン目カタクチイワシ科(Engraulidae)に属する)などのイワシ類、マサバ(Scomber japonicus)やゴマサバ(Scomber australasicus)などのサバ類、マアジ(Trachurus japonicus)、マルアジ(Decapterus maruadsi)のアジ類又は大西洋ニシン(Clupeaharengus)などニシン類が挙げられる。
また、上記魚類の漁獲海域は特に限定されないが、ペルー・チリ付近の太平洋東部沿岸で漁獲されたものが多く用いられる。
このうちアジ類が40%?100%含有される魚粉からなる酵素処理魚粉は、アミノ酸バランスや保存性に優れているため、特に好ましく用いられる。
前記酵素処理魚粉として、例えば、酵素処理魚粉BIO-CP(商品名:BIO-CP/ナガセ生化学品販売(株))が挙げられる。」

イ 上記アからみて、甲第7号証には、以下の事項(以下「甲7技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
「マグロ属魚類養殖用飼料に含有される魚粉を、イワシ魚粉を選択するとともに、1種以上の魚粉から製造すること。」

(8)甲第8号証
ア 甲第8号証の記載
甲第8号証には、セレン含有量が0.057ppm(100gあたり57μg)である筋肉を有するクロマグロについて、肝臓におけるセレン含有量もある程度低くなっている蓋然性が高い旨の見解が、示されている(補充欄、最下段落)。

(9)参考資料1
ア 参考資料1の記載
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である参考資料1には、次の事項が記載されている。
(ア)「一般に赤身魚では著量のヒスチジンが注目されるが、マグロ類においてもヒスチジンが多く、また同じイミダゾール化合物であるアンセリンも多い。」(第211頁下から3行?末行)

(イ)「ヒスチジンおよびアンセリンは、マグロ類の活発な回遊行動を支える筋肉の緩衝能物質として重要な役割をもつ(6.1.3筋肉のpH値と緩衝能参照)。」(第212頁下から6行?下から5行)

(ウ)表6.7


(エ)表6.7の「魚介類筋肉の遊離アミノ酸および関連化合物の組成(筋肉100g当たりmg)」には、キハダ、メバチ及びミナミマグロの普通肉のアンセリン含有量が、それぞれ、593mg、1260mg及び636mgであり、表層血合肉のアンセリン含有量が、それぞれ、184mg、434mg及び110mgであることが示されている(第212頁)。

(10)参考資料2
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である参考資料2には、次の事項が記載されている。
ア 参考資料2の記載
(ア)「成体のクロマグロ筋肉中にも高い含量のアンセリンが認められたにもかかわらず、今回使用した体重1kg以下のヨコワではいずれの部位でも全く認められなかった。」(第1634頁右欄下から4行?末行)

(11)参考資料3
ア 参考資料3の記載
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である参考資料3には、次の事項が記載されている。
(ア)「Selenium in wheat appears to be 100% available ; however, only about 33-50% is available in fish meal, possibly due to selenium being bound to mercury and other heavy metals.
(小麦に含まれるセレンは100%利用可能だが、魚粉に含まれるセレンは33-50%しか利用できない。)」(第27頁第14?16行)

(12)参考資料4
ア 参考資料4の記載
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である参考資料4には、次の事項が記載されている。
(ア)「2ヵ月から6ヵ月すると20kg?30kg前後にまで成長するため取り上げを行う。」(第216頁右欄末行?第217頁左欄第1行)

(13)参考資料5
ア 参考資料5の記載
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である参考資料5には、次の事項が記載されている。
(ア)「一方、濠州マグロの多くは肥満度が高く肉食が鮮明でよいために高値で取り扱われている。」(第61頁第1?2 行)

(イ)第111?113頁の「附表 オーストラリヤにより標識放流されたミナミマグロの日本船による再補状況、1963-67」からは、体重が20kg?30kgのミナミマグロの尾叉長として、100cm以上である個体が存在することが看て取れる。

(14)参考資料6
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である参考資料6には、次の事項が記載されている。
ア 参考資料6の記載
(ア)「国内養殖マグロの加工・処理の過程での歩留まりは、GG(Gilled and Gutted:鰓と内臓をとったもの)で八七%、ドレスで八〇%といわれる。」(第14頁第14?15行)

(15)参考資料7
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である参考資料7には、次の事項が記載されている。
ア 参考資料7の記載
(ア)「The Se concentrations in liver and muscle tissues showed a strong linear positive relationship with the levels of Se in diets.
(肝臓と筋肉組織中のSe濃度は飼料中のSeレベルと正の直線関係がある)」(第229頁Abstractの第6?7行)

(16)参考資料8
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である参考資料8には、次の事項が記載されている。
ア 参考資料8の記載
(ア)「養殖ブリの血合筋のセレン含量は天然魚と比べて低いことから、養殖魚はセレン欠乏症になりやすいと推定される。」(第21頁第13?15行)

(17)参考資料9
ア 参考資料9の記載
参考資料9には、「タイトル」の欄に「マグロ類由来セレン化合物セレノネインの抗酸化能」と、また「成果の内容・特徴」のところに「成果の内容・特徴 2)セレノネインの投与によって、セレノネインは赤血球、肝膵臓、骨格筋などに蓄積した。」と記載されている。

(18)文献1
ア 文献1の記載
本件特許出願の優先日(平成29年8月22日)前に頒布された刊行物である文献1には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、少なくとも内包と外皮からなる二重構造を有し、内包として魚粉と油脂を含有する飼料に関する。特に、油脂を高濃度で摂餌させる必要があるマグロなどの養殖魚を飼育するための養魚用飼料に関する。」

(イ)「【0016】
本発明において内包に含まれる蛋白質原料としては、飼料原料として用いることができる蛋白質原料であれば何でもよいが、具体的には、魚粉、チキンミール、フェザーミール、オキアミミール、大豆油かす、濃縮大豆蛋白質、コーングルテンミールなどを用いることができる。
本発明では、これら蛋白質原料を内包として用いる際に微粉砕する。魚粉を例に、微粉砕魚粉の製造について以下に説明する。
魚粉とは、魚から油脂を分離した後、乾燥して砕き、粉末化したものであり、通常多獲魚が原料とされる。具体的には、アジ、イワシ、サバ、ニシン、シシャモ、イカナゴ及びタラなどから選択された1種又は2種以上の魚を原料とするものが例示されるが、これら以外の魚を原料とするものでもよい。油脂の分離は煮熟、圧搾によって行われる。乾燥はスチームまたは熱風によって行われる。粉末化は粉砕して行われる。粉砕は粉砕機など物理的な力を用いて行うことができ、篩によって粒度を揃えるためにふるい分けられる。物理的な力には、ハンマーなどによる機械的な打擲、魚粉に振動を与えること、押し出し機などによる擂り潰し、などを含む。粉砕が十分でない粒子については再度粉砕機によって粉砕されうる。これらの工程を経て製造された魚粉は粒子の形状は不規則であり、中央値は170μm?100μm、平均値は250μm?130μmである。粒子をこれ以上に細かくしようとすると、粉砕片が拡散して収率が低下したり、熱が発生して成分が変性したり、篩の目詰まりが起きやすく作業性が低下したりするため、通常行わない。」

(ウ)「【0026】
本発明の飼料は蛋白質原料と液状油を含有する飼料であればどのような飼料にも応用することができる。特に、油漏れが環境汚染につながる養殖魚用飼料として好ましい。魚種は問わず、全ての魚種用飼料に用いることができる。特に、マグロ類、ブリ、カンパチ、ヒラマサ等のブリ類、トラウト、ギンザケ、アトランティックサーモン等のサケ類、その他マダイ、ヒラメ、トラフグ、ハタ、クエ、スズキ、バラマンディなどの飼料として好ましいものである。さらに、クロマグロ、ミナミマグロ、キハダマグロ、メバチマグロ等のマグロ類などの弾力性、柔軟性のある飼料の嗜好性が高い大型養殖魚により適している。稚魚用の飼料には消化吸収を高めるために微粉砕した魚粉等を原料として用いられることがあるが、本発明のような二重構造の飼料は、元々大きな魚の育成用に製造されるものである。本発明により、蛋白質、脂質含量がより高い配合飼料を製造することができ、大型魚の育成に適している。」

イ 上記アからみて、文献1には、以下の事項(以下「文献1技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
「マグロなどの養殖魚を飼育するための養魚用飼料に用いられる魚粉として、イワシを原料とするものを選択するとともに、1種又は2種以上の魚を原料とする魚粉を用いること。」

第5 当審の判断
1 本件取消理由について
本件取消理由は、その内容からみて、令和2年2月17日付け訂正請求により訂正された請求項4及び5、並びに請求項4又は5を引用する場合の請求項6?12、18及び19に係る特許に対するものであるところ、本件訂正請求による訂正は、令和2年2月17日に行った訂正請求により訂正された請求項1ないし21と比較すると、実質的に、請求項4及び請求項5を削除するとともに、訂正後の請求項6?12、18及び19は、請求項1を直接又は間接的に引用し、請求項4及び5を引用しないものであり、かつ、本件訂正は認められるものである。
そして、本件訂正請求により請求項4及び5は削除されており、また、本件訂正後の請求項6?12、18及び19は請求項1を直接又は間接的に引用し、請求項4又は5を引用しないものとされたから、本件訂正後の請求項6?12、18及び19は、実質的に本件取消理由を通知していない発明に係るものに減縮された。
そうすると、本件訂正発明1?3、6?21に係る特許は、本件取消理由によっては、取り消すことはできない。
また、本件訂正発明4及び5は本件訂正によって削除されている。

2 本件取消理由に採用しなかった異議申立理由について
(1)甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比する。
a 甲1発明における「筋肉組織である背肉」は、本件訂正発明1における「筋肉」に相当する。
b 甲1発明における「セレン含有量が、100gあたり24μg」である「筋肉組織である背肉」は、本件訂正発明1における「セレン含有量が100gあたり55μg以下」である「筋肉」に相当する。
c 甲1発明における「西部太平洋および東インド洋で漁獲されたキハダ」と、本件訂正発明1における「マグロ類養殖魚」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
d 上記a?cから、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉を有するマグロ類魚」

・相違点1
本件訂正発明1においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉」を有するのに対し、甲1発明は、筋肉のアンセリン含有量について特定されていない点。

・相違点2
本件訂正発明1は「マグロ類養殖魚」であるのに対し、甲1発明はマグロ類養殖魚ではない点。

(イ)判断
魚体の組成は飼料によって変わるものであり、相違点1と相違点2は密接に関連するから、あわせて検討する。

a 新規性について
上記相違点1及び2は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1と甲1発明とは同一ではない。
よって、本件訂正発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。

b 進歩性について
甲第1?8号証、参考資料1?9及び文献1のいずれにも、マグロ類養殖魚において、筋肉のアンセリン含有量を100gあたり91mg以上とすることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明において、セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類養殖魚としつつ、筋肉のアンセリン含有量を100gあたり91mg以上とすることは、当業者が容易に想到できたということはできない。
他に、甲1発明及び周知技術に基づいて、上記相違点1及び2に係る本件訂正発明1の構成を当業者が容易に想到し得たと認めるべき特段の事情もない。
よって、甲1発明及び周知技術に基づいて、上記相違点1及び2に係る本件訂正発明1の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件訂正発明1は、甲1発明に基いて、または、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

c 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明2、3、6?12について
本件訂正発明2、3、6?12は、本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えるものであるから、本件訂正発明1と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明13について
(ア)対比
本件訂正発明13と甲1発明を対比する。
a 甲1発明における「筋肉組織である背肉」は、本件訂正発明1における「筋肉」に相当する。
b 甲1発明における「セレン含有量が、100gあたり24μg」である「筋肉組織である背肉」は、本件訂正発明1における「セレン含有量が100gあたり55μg以下」である「筋肉」に相当する。
c 甲1発明における「西部太平洋および東インド洋で漁獲されたキハダ」と本件訂正発明1における「マグロ類養殖魚の可食部」とは「マグロ類魚」である点で共通する。
d 上記a?cから、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類魚。」

・相違点A
本件訂正発明13においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有するか、又は、セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有するかのいずれか」であるのに対して、甲1発明は、肝臓のセレン含有量、または、筋肉のアンセリン含有量について特定されていない点。

・相違点B
本件訂正発明13においては、マグロ類魚が「マグロ類養殖魚」であるのに対して、甲1発明はマグロ類養殖魚ではない点。

・相違点C
本件訂正発明13は「可食部」であるのに対して、甲1発明は可食部ではない点。

(イ)判断
魚体の組成は飼料によって変わるものであり、相違点Aと相違点Bは密接に関連するから、あわせて検討する。

a 新規性について
上記相違点A及びBは実質的な相違点であるから、本件訂正発明13と甲1発明とは同一ではない。
よって、本件訂正発明13は甲第1号証に記載された発明ではない。

b 進歩性について
甲第1?8号証、参考資料1?9及び文献1のいずれにも、マグロ類養殖魚において、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓を有することは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明において、セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類養殖魚としつつ、肝臓のセレン含有量を100gあたり561μg以下とすることは、当業者が容易に想到できたということはできない。
また、甲第1?8号証、参考資料1?9及び文献1のいずれにも、マグロ類養殖魚において、筋肉のアンセリン含有量を100gあたり91mg以上とすることは記載も示唆もされていない 。
そうすると、甲1発明において、セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類養殖魚としつつ、筋肉のアンセリン含有量を100gあたり91mg以上とすることは、当業者が容易に想到できたということはできない。
他に、甲1発明に基いて、または、甲1発明及び周知技術に基いて、上記相違点A及びBに係る本件訂正発明13の構成を当業者が容易に想到し得たと認めるべき特段の事情もない。
よって、甲1発明に基いて、または、甲1発明及び周知技術に基いて、上記相違点A及びBに係る本件訂正発明13の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明13は、甲1発明に基いて、または、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

c 以上のとおりであるから、本件訂正発明13は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件訂正発明14?17について
本件訂正発明14?17は、本件訂正発明13の全ての発明特定事項を含み、さらに限定するものであるから、本件訂正発明13と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件訂正発明20について
本件訂正発明20と甲1発明を対比する。
(ア)対比
a 甲1発明における「筋肉組織である背肉」は、本件訂正発明20における「筋肉」に相当する。
b 甲1発明における「セレン含有量が、100gあたり24μg」である「筋肉組織である背肉」は、本件訂正発明20における「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」に相当する。
c 甲1発明における「西部太平洋および東インド洋で漁獲されたキハダ」と本件訂正発明20における「マグロ類養殖魚」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
d 上記a?cから、本件訂正発明20と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類魚。」

・相違点ア
本件訂正発明20においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有する」のに対して、甲1発明は、肝臓のセレン含有量について特定されていない点。

・相違点イ
本件訂正発明20は「マグロ類養殖魚」であるのに対して、甲1発明はマグロ類養殖魚ではない点。

(イ)判断
魚体の組成は飼料によって変わるものであり、相違点アと相違点イは密接に関連するから、あわせて検討する。

a 新規性について
上記相違点ア及びイは実質的な相違点であるから、本件訂正発明20と甲1発明とは同一ではない。
よって、本件訂正発明20は甲第1号証に記載された発明ではない。

b 進歩性について
マグロ類養殖魚において、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓を有することは、甲第1?8号証、参考資料1?9及び文献1のいずれにも、記載も示唆もされていない。
他に、甲1発明に基いて、または、甲1発明及び周知技術に基いて、上記相違点ア及びイに係る本件訂正発明20の構成を当業者が容易に想到し得たと認めるべき特段の事情もない。
よって、甲1発明に基いて、または、甲1発明及び周知技術に基いて、上記相違点ア及びイに係る本件訂正発明20の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件訂正発明20は、甲1発明に基いて、または、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

c 以上のとおりであるから、本件訂正発明20は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲1発明に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件訂正発明21について
(ア)対比
本件訂正発明21と甲1発明を対比する。
a 甲1発明における「筋肉組織である背肉」は、本件訂正発明21における「筋肉」に相当する。
b 甲1発明における「セレン含有量が、100gあたり24μg」である「筋肉組織である背肉」は、本件訂正発明21における「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」に相当する。
c 甲1発明における「西部太平洋および東インド洋で漁獲されたキハダ」が可食部を有することは明らかであるから、本件訂正発明21における「マグロ類養殖魚の可食部」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
d 上記a?cから、本件訂正発明21と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類魚。」

・相違点α
本件訂正発明21においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有する」のに対して、甲1発明は、肝臓のセレン含有量について特定されていない点。

・相違点β
本件訂正発明21においては、マグロ類魚が「マグロ類養殖魚」であるのに対して、甲1発明においてはマグロ類養殖魚ではない点。

・相違点γ
本件訂正発明21は「可食部」であるのに対して、甲1発明は可食部ではない点。

(イ)判断
魚体の組成は飼料によって変わるものであり、相違点αと相違点βは密接に関連するから、あわせて検討する。

相違点α及びβは、上記オ(ア)に示した相違点ア及びイと同様であり、相違点ア及びイについての新規性及び進歩性の判断は上記オ(イ)に示したとおりである。

よって、本件訂正発明21は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲2発明を対比する。
a 甲2発明における「普通筋」は、本件訂正発明1における「筋肉」に相当する。
b 甲2発明における「セレン含有量が、100gあたり」「18μg」、「14μg」および「13μg」である「普通筋」は、本件訂正発明1における「セレン含有量が100gあたり55μg以下」である「筋肉」に相当する。
c 甲2発明における「クロマグロ」、「ビンナガ」および「キハダ」である「マグロ類」と、本件訂正発明1における「マグロ類養殖魚」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
d 上記a?cから、本件訂正発明1と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉を有するマグロ類魚」

・相違点1-2
本件訂正発明1においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有する」のに対し、甲2発明は、筋肉のアンセリン含有量について特定されていない点。

・相違点2-2
本件訂正発明1は「マグロ類養殖魚」であるのに対し、甲2発明はマグロ類養殖魚ではない点。

(イ)判断
相違点1-2及び2-2は、上記(1)ア(ア)に示した相違点1及び2と同様であり、相違点1及び2についての新規性及び進歩性の判断は上記(1)ア(イ)に示したとおりである。
よって、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明に基いて、または、甲2発明に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明2、6?11について
本件訂正発明2、6?11は、本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えるものであるから、本件訂正発明1と同じ理由により、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明に基いて、または、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明13について
(ア)対比
本件訂正発明13と甲2発明を対比する。
a 甲2発明における「普通筋」は、本件訂正発明13における「筋肉」に相当する。
b 甲2発明における「セレン含有量が、100gあたり」「18μg」、「14μg」および「13μg」である「普通筋」は、本件訂正発明13における「セレン含有量が100gあたり55μg以下」である「筋肉」に相当する。
c 甲2発明における「クロマグロ」、「ビンナガ」および「キハダ」である「マグロ類」は、可食部を有することは明らかであるから、本件訂正発明13における「マグロ類養殖魚の可食部」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
d 上記a?cから、本件訂正発明13と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類魚。」

・相違点A-2
本件訂正発明13においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有するか、又は、セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有するかのいずれか」であるのに対して、甲2発明は、肝臓のセレン含有量、または、筋肉のアンセリン含有量について特定されていない点。

・相違点B-2
本件訂正発明13においては、マグロ類魚が「マグロ類養殖魚」であるのに対して、甲2発明はマグロ類養殖魚ではない点。

・相違点C-2
本件訂正発明13は「可食部」であるのに対して、甲2発明は可食部ではない点。

(イ)判断
相違点A-2及びB-2は、上記(1)ウ(ア)に示した相違点A及びBと同様であり、相違点A及びBについての新規性及び進歩性の判断は上記(1)ウ(イ)に示したとおりである。
よって、本件訂正発明13は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明に基いて、または、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件訂正発明14?17について
本件訂正発明14?17は、本件訂正発明13の全ての発明特定事項を含み、さらに限定するものであるから、本件訂正発明13と同じ理由により、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明に基いて、または、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件訂正発明20について
(ア)対比
本件訂正発明20と甲2発明を対比する。
a 甲2発明における「普通筋」は、本件訂正発明20における「筋肉」に相当する。
b 甲2発明における「セレン含有量が、100gあたり」「18μg」、「14μg」および「13μg」である「普通筋」は、本件訂正発明20における「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」に相当する。
c 甲2発明における「クロマグロ」、「ビンナガ」および「キハダ」である「マグロ類」と、本件訂正発明20における「マグロ類養殖魚」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
d 上記a?cから、本件訂正発明20と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類魚。」

・相違点ア-2
本件訂正発明20においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有する」のに対して、甲2発明は、肝臓のセレン含有量について特定されていない点。

・相違点イ-2
本件訂正発明20は「マグロ類養殖魚」であるのに対して、甲2発明はマグロ類養殖魚ではない点。

(イ)判断
相違点ア-2及びイ-2は、上記(1)オ(ア)に示した相違点ア及びイと同様であり、相違点ア及びイについての進歩性の判断は上記(1)オ(イ)に示したとおりである。
よって、本件訂正発明20は、甲第2号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件訂正発明21について
(ア)対比
a 甲2発明における「普通筋」は、本件訂正発明21における「筋肉」に相当する。
b 甲2発明における「セレン含有量が、100gあたり」「18μg」、「14μg」および「13μg」である「普通筋」は、本件訂正発明21における「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」に相当する。
c 甲2発明における「クロマグロ」、「ビンナガ」および「キハダ」である「マグロ類」は、可食部を有することは明らかであるから、本件訂正発明21における「マグロ類養殖魚の可食部」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
d 上記a?cから、本件訂正発明21と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類魚。」

・相違点α-2
本件訂正発明21においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有する」のに対して、甲2発明は、肝臓のセレン含有量について特定されていない点。

・相違点β-2
本件訂正発明21においては、マグロ類魚が「マグロ類養殖魚」であるのに対して、甲2発明はマグロ類養殖魚ではない点。

・相違点γ-2
本件訂正発明21は「可食部」であるのに対して、甲2発明は可食部ではない点。

(イ)判断
相違点α-2及びβ-2は、上記(1)カ(ア)に示した相違点α及びβと同様であり、相違点α及びβについての進歩性の判断は上記(1)カ(イ)に示したとおりである。
よって、本件訂正発明21は、甲第2号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲第3号証を主引例とする新規性及び進歩性
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲3発明を対比する。
a 甲3発明における「セレン含有量が、100gあたり」「27μg」、「43μg」および「33μg」である「筋肉」は、本件訂正発明1における「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」に相当する。
b 甲3発明における「地中海のタイセイヨウクロマグロ」と、本件訂正発明1における「マグロ類養殖魚」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
c 上記a及びbから、本件訂正発明1と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉を有するマグロ類魚」

・相違点1-3
本件訂正発明1においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有する」のに対し、甲3発明は、筋肉のアンセリン含有量について特定されていない点。

・相違点2-3
本件訂正発明1は「マグロ類養殖魚」であるのに対し、甲3発明はマグロ類養殖魚ではない点。

(イ)判断
相違点1-3及び2-3は、上記(1)ア(ア)に示した相違点1及び2と同様であり、相違点1及び2についての新規性及び進歩性の判断は上記(1)ア(イ)に示したとおりである。
よって、本件訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、または、甲3発明に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明2、3、6?12について
本件訂正発明2、3、6?12は、本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えるものであるから、本件訂正発明1と同じ理由により、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、または、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明13について
(ア)対比
本件訂正発明13と甲3発明を対比する。
a 甲3発明における「セレン含有量が、100gあたり」「27μg」、「43μg」および「33μg」である「筋肉」は、本件訂正発明13における「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」に相当する。
b 甲3発明における「地中海のタイセイヨウクロマグロ」は、本件訂正発明13における「マグロ類養殖魚の可食部」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
c 上記a及びbから、本件訂正発明13と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類魚。」

・相違点A-3
本件訂正発明13においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有するか、又は、セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有するかのいずれか」であるのに対して、甲3発明は、肝臓のセレン含有量、または、筋肉のアンセリン含有量について特定されていない点。

・相違点B-3
本件訂正発明13においては、マグロ類魚が「マグロ類養殖魚」であるのに対し、甲3発明はマグロ類養殖魚ではない点。

・相違点C-3
本件訂正発明13は「可食部」であるのに対して、甲3発明は可食部ではない点。

(イ)判断
相違点A-3及びB-3は、上記(1)ウ(ア)に示した相違点A及びBと同様であり、相違点A及びBについての新規性及び進歩性の判断は上記(1)ウ(イ)に示したとおりである。
よって、本件訂正発明13は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、または、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件訂正発明14?17について
本件訂正発明14?17は、本件訂正発明13の全ての発明特定事項を含み、さらに限定するものであるから、本件訂正発明13と同じ理由により、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、または、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件訂正発明20について
(ア)対比
本件訂正発明20と甲3発明を対比する。
a 甲3発明における「セレン含有量が、100gあたり」「27μg」、「43μg」および「33μg」である「筋肉」は、本件訂正発明20における「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」に相当する。
b 甲3発明における「地中海のタイセイヨウクロマグロ」と、本件訂正発明20における「マグロ類養殖魚」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
c 上記a及びbから、本件訂正発明20と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類魚。」

・相違点ア-3
本件訂正発明20においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有する」のに対して、甲3発明は、肝臓のセレン含有量について特定されていない点。

・相違点イ-3
本件訂正発明20は「マグロ類養殖魚」であるのに対して、甲3発明はマグロ類養殖魚ではない点。

(イ)判断
相違点ア-3及びイ-3は、上記(1)オ(ア)に示した相違点ア及びイと同様であり、相違点ア及びイについての進歩性の判断は上記(1)オ(イ)に示したとおりである。
よって、本件訂正発明20は、甲第3号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件訂正発明21について
(ア)対比
a 甲3発明における「セレン含有量が、100gあたり」「27μg」、「43μg」および「33μg」である「筋肉」は、本件訂正発明21における「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」に相当する。
b 甲3発明における「地中海のタイセイヨウクロマグロ」は、可食部を有することは明らかであるから、本件訂正発明21における「マグロ類養殖魚の可食部」とは、「マグロ類魚」である点で共通する。
c 上記a及びbから、本件訂正発明21と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類魚。」

・相違点α-3
本件訂正発明21においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有する」のに対して、甲3発明は、肝臓のセレン含有量について特定されていない点。

・相違点β-3
本件訂正発明21においては、マグロ類魚が「マグロ類養殖魚」であるのに対し、甲3発明はマグロ類養殖魚ではない点。

・相違点γ-3
本件訂正発明21は「可食部」であるのに対して、甲3発明は可食部ではない点。

(イ)判断
相違点α-3及びβ-3は、上記(1)カ(ア)に示した相違点α及びβと同様であり、相違点α及びβについての進歩性の判断は上記(1)カ(イ)に示したとおりである。
よって、本件訂正発明21は、甲第3号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)甲第4号証を主引例とする新規性及び進歩性
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲4発明を対比する。
a 甲4発明における「総セレン含量が100gあたり36μgである筋肉」は、本件訂正発明1における「セレン含有量が100gあたり55μg以下」である「筋肉」に相当する。
b 甲4発明における「養殖ミナミマグロ」は、本件訂正発明1における「マグロ類養殖魚」に相当する。
c 上記a及びbから、本件訂正発明1と甲4発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉を有するマグロ類養殖魚」

・相違点1-4
本件訂正発明1においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有する」のに対し、甲4発明は、筋肉のアンセリン含有量について特定されていない点。

(イ)判断
a 新規性について
上記相違点1-4は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1と甲4発明とは同一ではない。
よって、本件訂正発明1は甲第4号証に記載された発明ではない。

b 進歩性について
甲第1?8号証、参考資料1?9及び文献1のいずれにも、マグロ類養殖魚において、筋肉のアンセリン含有量を100gあたり91mg以上とすることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲4発明において、セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有しつつ、筋肉のアンセリン含有量を100gあたり91mg以上とすることは、当業者が容易に想到できたということはできない。
他に、甲4発明及び周知技術に基づいて、上記相違点1-4に係る本件訂正発明1の構成を当業者が容易に想到し得たと認めるべき特段の事情もない。
よって、甲4発明及び周知技術に基づいて、上記相違点1-4に係る本件訂正発明1の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件訂正発明1は、甲4発明に基いて、または、甲4発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

c 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲第4号証に記載された発明ではなく、また、甲第4号証に記載された発明に基いて、または、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明2、6?11について
本件訂正発明2、6?11は、本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えるものであるから、本件訂正発明1と同じ理由により、甲第4号証に記載された発明ではなく、また、甲第4号証に記載された発明に基いて、または、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明13について
(ア)対比
本件訂正発明13と甲4発明を対比する。
a 甲4発明における「総セレン含量が100gあたり36μgである筋肉」は、本件訂正発明13における「セレン含有量が100gあたり55μg以下」である「筋肉」に相当する。
b 甲4発明における「養殖ミナミマグロ」は、本件訂正発明13における「マグロ類養殖魚」に相当する。
c 上記a及びbから、本件訂正発明13と甲4発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類養殖魚。」

・相違点A-4
本件訂正発明13においては、「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有するか、又は、セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有するかのいずれか」であるのに対して、甲4発明は肝臓のセレン含有量、または、筋肉のアンセリン含有量について特定されていない点。

・相違点B-4
本件訂正発明13は「可食部」であるのに対して、甲4発明は可食部ではない点。

(イ)判断
a 新規性について
上記相違点A-4は実質的な相違点であるから、本件訂正発明13と甲4発明とは同一ではない。
よって、本件訂正発明13は甲第4号証に記載された発明ではない。

b 進歩性について
上記相違点A-4について検討する。
甲第1?8号証、参考資料1?9及び文献1のいずれにも、マグロ類養殖魚において、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓を有することは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲4発明において、セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有しつつ、肝臓のセレン含有量を100gあたり561μg以下とすることは、当業者が容易に想到できたということはできない。
また、甲第1?8号証、参考資料1?9及び文献1のいずれにも、マグロ類養殖魚において、筋肉のアンセリン含有量を100gあたり91mg以上とすることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲4発明において、セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有しつつ、筋肉のアンセリン含有量を100gあたり91mg以上とすることは、当業者が容易に想到できたということはできない。
他に、甲4発明に基いて、または、甲4発明及び周知技術に基いて、上記相違点A-4に係る本件訂正発明13の構成を当業者が容易に想到し得たと認めるべき特段の事情もない。
よって、甲4発明に基いて、または、甲4発明及び周知技術に基いて、上記相違点A-4に係る本件訂正発明13の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明13は、甲4発明に基いて、または、甲4発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

c 以上のとおりであるから、本件訂正発明13は、甲第4号証に記載された発明ではなく、また、甲第4号証に記載された発明に基いて、または、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件訂正発明14?17について
本件訂正発明14?17は、本件訂正発明13の全ての発明特定事項を含み、さらに限定するものであるから、本件訂正発明13と同じ理由により、甲第4号証に記載された発明ではなく、また、甲第4号証に記載された発明に基いて、または、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件訂正発明20について
(ア)対比
本件訂正発明20と甲4発明を対比する。
a 甲4発明における「総セレン含量が100gあたり36μgである筋肉」は、本件訂正発明20における「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」に相当する。
b 甲4発明における「養殖ミナミマグロ」は、本件訂正発明20における「マグロ類養殖魚」に相当する。
c 上記a及びbから、本件訂正発明20と甲4発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類養殖魚。」

・相違点ア-4
本件訂正発明20においては、マグロ類養殖魚が「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有する」のに対して、甲4発明では、肝臓のセレン含有量について特定されていない点。

(イ)判断
a 新規性について
上記相違点ア-4は実質的な相違点であるから、本件訂正発明20と甲4発明とは同一ではない。
よって、本件訂正発明20は甲第4号証に記載された発明ではない。

b 進歩性について
甲第1?8号証、参考資料1?9及び文献1のいずれにも、マグロ類養殖魚において、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓を有することは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲4発明において、セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有しつつ、肝臓のセレン含有量を100gあたり561μg以下とすることは、当業者が容易に想到できたということはできない。
他に、甲4発明に基いて、または、甲4発明及び周知技術に基いて、上記相違点ア-4に係る本件訂正発明20の構成を当業者が容易に想到し得たと認めるべき特段の事情もない。
よって、甲4発明に基いて、または、甲4発明及び周知技術に基いて、上記相違点ア-4に係る本件訂正発明20の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。

c 以上のとおりであるから、本件訂正発明20は、甲第4号証に記載された発明ではなく、また、甲第4号証に記載された発明に基いて、または、甲4発明に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件訂正発明21について
(ア)対比
a 甲4発明における「総セレン含量が100gあたり36μgである筋肉」は、本件訂正発明21における「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉」に相当する。
b 甲4発明における「養殖ミナミマグロ」は、本件訂正発明21における「マグロ類養殖魚」に相当する。
c 上記a及びbから、本件訂正発明21と甲4発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「セレン含有量が100gあたり55μg以下の筋肉を有するマグロ類養殖魚。」

・相違点α-4
本件訂正発明21においては、マグロ類養殖魚が「セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有する」のに対して、甲4発明は、肝臓のセレン含有量について特定されていない点。

・相違点β-4
本件訂正発明21は「可食部」であるのに対して、甲4発明は可食部ではない点。

(イ)判断
相違点α-4は、上記オ(ア)に示した相違点ア-4と同様であり、相違点ア-4についての新規性及び進歩性の判断は上記オ(イ)に示したとおりである。

よって、本件訂正発明21は、甲第4号証に記載された発明ではなく、また、甲第4号証に記載された発明に基いて、または、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)甲第6号証を主引例とする進歩性
ア 本件訂正発明18について
(ア)対比
請求項1を引用する本件訂正発明18と甲6発明を対比する。
請求項1を引用する本件訂正発明18は以下のとおりのものである。
「30重量%以上をイワシ魚粉で構成された魚粉、及び油脂を含む内包と、
前記内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの物質で構成される外皮と、
を含む配合飼料を、少なくとも30日間継続して給餌することを含む、セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有する、マグロ類養殖魚の飼育方法。」

a 甲6発明における「養魚用飼料原料として通常用いられている各種魚粉及び油脂を含む内包」と、請求項1を引用する本件訂正発明18における「30重量%以上をイワシ魚粉で構成された魚粉、及び油脂を含む内包」とは、「魚粉、及び油脂を含む内包」である点で共通する。

b 甲6発明における「前記内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの加熱ゲルである外皮」は、請求項1を引用する本件訂正発明18における「前記内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの物質で構成される外皮」に相当する。

c 上記a及びbから、甲6発明における「養魚用飼料原料として通常用いられている各種魚粉及び油脂を含む内包と、前記内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの加熱ゲルである外皮とを含み、外皮中の魚粉が35?40重量%、内包中の魚粉が59重量%である配合飼料」と、請求項1を引用する本件訂正発明18における「30重量%以上をイワシ魚粉で構成された魚粉、及び油脂を含む内包と、前記内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの物質で構成される外皮と、を含む配合飼料」とは、「魚粉、及び油脂を含む内包と、前記内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの物質で構成される外皮と、を含む配合飼料」である点で共通する。

d 甲6発明における「少なくとも60日間継続して給餌する」ことは、30日以上継続して給餌していることが明らかであるから、請求項1を引用する本件訂正発明18における「少なくとも30日間継続して給餌する」ことに相当する。

e 甲6発明における「マグロ類養殖魚の飼育方法」と、請求項1を引用する本件訂正発明18に
おける「セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有する、マグロ類養殖魚の飼育方法」とは、「マグロ類養殖魚の飼育方法」である点で共通する。

f してみると、請求項1を引用する本件訂正発明18と甲6発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
・一致点
「魚粉、及び油脂を含む内包と、
前記内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの物質で構成される外皮と、
を含む配合飼料を、少なくとも30日間継続して給餌することを含む、
マグロ類養殖魚の飼育方法。」

・相違点X
請求項1を引用する本件訂正発明18においては、マグロ類養殖魚が「セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有する」のに対して、甲6発明においては、マグロ類養殖魚の筋肉のセレン含有量についてもアンセリン含有量についても特定されていない点。

・相違点Y
「魚粉」が、請求項1を引用する本件訂正発明18においては「30重量%以上をイワシ魚粉で構成された魚粉」であるのに対して、甲6発明においては、「養魚用飼料原料として通常用いられている各種魚粉」であって、「30重量%以上をイワシ魚粉で構成された魚粉」であることを特定していない点。

(イ)判断
相違点Xについて検討する。
マグロ類養殖魚において、セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有するものとすることは、甲第1?8号証、参考資料1?9及び文献1のいずれにも、記載も示唆もされていない。
そのため、甲6号証において、甲第1?8号証、参考資料1?9及び文献1のいずれを参照しても、当業者にとって、上記相違点Xに係る本件訂正発明18の構成に至ることが、容易であったということはできない。

他に、甲6発明及び周知技術に基づいて、上記相違点Xに係る本件訂正発明18の構成を当業者が容易に想到し得たと認めるべき特段の事情もない。
よって、甲6発明及び周知技術に基づいて、上記相違点Xに係る本件訂正発明18の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。

(ウ)以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明18は、甲第6号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明19について
本件訂正発明19は、本件訂正発明18の全ての発明特定事項を含むものであるから、本件訂正発明18と同じ理由により、甲第6号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)小括
以上の通りであるから、申立人による異議申立理由によっては、本件訂正発明1?3、6?21を取り消すことはできない。

3 異議申立人の主張について
(1)筋肉のアンセリン含有量についての異議申立人の主張(異議申立人の意見書第4頁下から11行?第5頁下から3行)
上記2(1)ア?エ、上記2(2)ア?エ、上記2(3)ア?エ、上記2(4)ア?エ、及び、上記2(5)で判断した、マグロ類養殖魚の筋肉中のアンセリン含有量を100gあたり91mg以上とすることを含む、各相違点に係る構成に関し、異議申立人は意見書において、「参考資料1に記載のマグロ類魚類の筋肉中のアンセリン量は、いずれも訂正発明1において、特許権者が主張している100gあたり91mg以上の範囲に含まれるものである。なお、参考資料1に記載のデータは、養殖魚ではなく天然魚のデータであると思われる。上記のように筋肉中のアンセリン量は、魚類の成長とともに増加する。従って、天然と養殖の別なく、マグロ類魚類においてアンセリン量は成長により増加し、参考資料1の記載のデータのようになると考えられる。」旨を主張している(意見書第5頁第19?24行)。
しかしながら、異議申立人が提出した参考資料1は、マグロにおける普通肉のアンセリン含有量について100gあたり593、1260、636mg、表層血合肉のアンセリン含有量について100gあたり184mg、434mg及び110mgという数値は示しているものの、マグロ類養殖魚についてのものであるかどうか明らかでなく、また、セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉を有するマグロ類養殖魚において、アンセリン含有率が参考資料1のデータを示すことは開示も示唆も無い。
また、参考資料2には「またアンセリンはメバチ・ミナミマグロ・キハダおよびカツオの筋肉中で非常に高いがブリでは皆無であると報告されている。しかし成体のマグロ筋肉中に高い含量のアンセリンが認められたにもかかわらず、今回使用した体重1kg以下のヨコワではいずれの部位でも全く認められなかった。」と記載されているが、マグロ類養殖魚の成体においてどの程度のアンセリン含有量であるのかは明らかでなく、マグロ類養殖魚の筋肉のアンセリン含有量が成長により増加したときに参考資料1のデータの量にまで増加することを示しているということはできない。
一方、本願明細書の表6においては、生餌を用いたマグロ類養殖魚(比較例)のアンセリン含有量は平均0.036(g/100g)以下、すなわち、100gあたり36mg以下であり、マグロ類養殖魚のアンセリン含有量が100gあたり91mg以上であることが一般的であるということはできない。
そして、セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉を有するマグロ類養殖魚において、当該筋肉のアンセリン含有量がどのようになるかを開示または示唆する証拠はない。
そのため、マグロ類養殖魚において、筋肉のセレン含有量を100gあたり55μg以下とし、かつ、筋肉のアンセリン含有量を100gあたり91mg以上とすることについては、申立人が意見書で言及する参考資料1及び2、並びに本件異議申立におけるその他の証拠にも記載されておらず、示唆されているということもできない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

(2)肝臓のセレン含有量について(異議申立人の意見書第9頁下から17行?第11頁第16行)
上記2(1)ウ?カ、上記2(2)ウ?カ、上記2(3)ウ?カ、及び上記2(4)ウ?カで判断した、マグロ類養殖魚の肝臓中のセレン含有量を100gあたり561μg以下とすることを含む、各相違点に係る構成に関し、異議申立人は意見書において、参考資料7、甲第2号証、参考資料8を引用し「従来より、筋肉中及び肝臓中に蓄積しているセレンが外部の餌由来であるあることは、公知である。・・・このように、体内のセレン含有量は餌として摂取したセレンの量により決まり、マグロの体内に供給されるセレン量を減らすか、又は無くすことにより、体内中のセレン量が低減化されることは、公知であった。従って、セレンが給餌されない期間が長ければ長いほど、体内中のセレン量が減ることは、容易に想到可能である。上記のことから、低セレンマグロ類養殖魚飼育飼料を与えたマグロのセレン含有量が100gあたり561μg以下まで低減されることは容易に想到し得る。」旨を主張している(意見書第9頁下から5行?第10頁第15行)。
しかしながら、異議申立人が提出した甲第2号証、参考資料3、参考資料7及び参考資料8には、マグロ類養殖魚において肝臓のセレン含有量を100gあたり561μg以下とすることは記載も示唆もされていない。
甲第2号証には、筋肉のセレン含有量について記載はあるものの、マグロ類養殖魚の肝臓のセレン含有量についての定量的な記載は無い。参考資料3には、魚粉のセレンは摂取率が低いことが記載されているものの、マグロ類養殖魚の肝臓のセレン含有量についての定量的な記載はない。また、参考資料7には、飼料中のセレンが少なければ、筋肉と肝臓のセレン含有量が低くなるという一般的なことが記載されているものの、マグロ類養殖魚の肝臓のセレン含有量の具体的な量は記載されていない。また、参考資料8には、養殖ブリは血合筋で天然魚よりもセレン含有量が低いので、セレン欠乏症となりやすいことが記載されているものの、養殖マグロの肝臓中のセレン含有量について具体的な記載はされておらず、また、セレン欠乏症の利点も記載されていないことからすれば、養殖魚についてはセレン欠乏症を避けるために体内のセレン含有量を増やすことを示唆しているとも解し得る。
そうすると、マグロ類養殖魚の肝臓のセレン含有量が100gあたり561μg以下となるように育成することはいずれの証拠にも開示も示唆もないから、低セレンマグロ類養殖魚飼育飼料を与えて、マグロの肝臓のセレン含有量を100gあたり561μg以下まで低減することを当業者が容易に想到し得たということはできない。
そして、セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉を有するマグロ類養殖魚において、肝臓のセレン含有量を100gあたり55μg以下とすることを開示または示唆する証拠はない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

(3)小括
よって、申立人の意見書における主張を考慮しても、上記「1」「2」の判断を変更すべき事情は見いだせない。


第6 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1?3、6?21に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由により取り消すことはできない。さらに、他に本件訂正発明1?3、6?21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項4及び5に係る発明は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てのうち、請求項4及び5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有する、マグロ類養殖魚。
【請求項2】
配合飼料を含む餌料で飼育管理されることにより得られた、請求項1記載のマグロ類養殖魚。
【請求項3】
総魚体重が20kg以上である請求項1又は請求項2記載のマグロ類養殖魚。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
マグロ属、ソウダガツオ属、ハガツオ属、スマ属、又はカツオ属のマグロ類である請求項1?請求項3のいずれか1項記載のマグロ類養殖魚。
【請求項7】
前記マグロ類はビンナガ、クロマグロ、ミナミマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ、ハガツオ又はスマである請求項6記載のマグロ類養殖魚。
【請求項8】
北半球を生息域とする魚類を主食とするマグロ類である請求項6又は請求項7項記載のマグロ類養殖魚。
【請求項9】
ビンナガ、クロマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ、ハガツオ又はスマである請求項8記載のマグロ類養殖魚。
【請求項10】
鰓、内臓、尾部及び頭部からなる群より選択される部位の少なくとも1つが除去されている請求項1?請求項3又は請求項6?請求項9のいずれか1項記載のマグロ類養殖魚。
【請求項11】
鰓及び内臓が除去された形態である請求項1?請求項3又は請求項6?請求項10のいずれか1項記載のマグロ類養殖魚。
【請求項12】
全重量が17kg以上である請求項11記載のマグロ類養殖魚。
【請求項13】
セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有するか、又は、セレン含有量が100gあたり55μg以下であり、かつ、アンセリン含有量が100gあたり91mg以上である筋肉を有するかのいずれかであるマグロ類養殖魚の可食部。
【請求項14】
魚肉又は内臓の少なくとも一部である請求項13記載のマグロ類養殖魚の可食部。
【請求項15】
赤身又は脂身である請求項13記載のマグロ類養殖魚の可食部。
【請求項16】
セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉又は、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓である請求項14記載のマグロ類養殖魚の可食部。
【請求項17】
請求項13?請求項16のいずれか1項記載のマグロ類養殖魚の可食部と、
前記可食部を収容する容器と、
を含む、マグロ類養殖魚の加工食品。
【請求項18】
30重量%以上をイワシ魚粉で構成された魚粉、及び油脂を含む内包と、
前記内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの物質で構成される外皮と、
を含む配合飼料を、少なくとも30日間継続して給餌することを含む、請求項1?請求項3又は請求項6?請求項12のいずれか1項記載のマグロ類養殖魚の飼育方法。
【請求項19】
請求項18記載のマグロ類養殖魚の飼育方法で得られたマグロ類養殖魚を用意すること、
用意されたマグロ類養殖魚から、可食部を採取すること、
前記可食部を容器に収容すること、
を含む、マグロ類養殖魚の加工食品の製造方法。
【請求項20】
セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有する、マグロ類養殖魚。
【請求項21】
セレン含有量が100gあたり55μg以下である筋肉と、セレン含有量が100gあたり561μg以下である肝臓との両方を有するマグロ類養殖魚の可食部。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-25 
出願番号 特願2019-502827(P2019-502827)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23K)
P 1 651・ 841- YAA (A23K)
P 1 651・ 851- YAA (A23K)
P 1 651・ 855- YAA (A23K)
P 1 651・ 854- YAA (A23K)
P 1 651・ 113- YAA (A23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 有家 秀郎
秋田 将行
登録日 2019-03-22 
登録番号 特許第6499816号(P6499816)
権利者 日本水産株式会社
発明の名称 マグロ類養殖魚及びその用途、並びにマグロ類養殖魚の作出方法  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ