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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09K 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09K |
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管理番号 | 1368097 |
異議申立番号 | 異議2020-700055 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-01-31 |
確定日 | 2020-10-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6559410号発明「研磨用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6559410号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5、8、9〕、6及び7について訂正することを認める。 特許第6559410号の請求項1?9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6559410号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成26年9月30日に出願され、令和元年7月26日にその特許権の設定登録がされ、同年8月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年1月31日に特許異議申立人相見彩(以下、単に「申立人」ともいう。)は特許異議の申立てを行い、当審は、同年4月3日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、同年6月19日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。その訂正の請求に対して、同年8月7日に、申立人は意見書を提出した。 第2 訂正の可否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1?4のとおりである。なお、訂正前の請求項1?9について、請求項3?5、8、9は、それぞれ請求項1を直接または間接的に引用しているものであって、下記訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また、請求項3?5、8、9は、それぞれ請求項2を直接または間接的に引用しているものであって、上記訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?5、8及び9に対応する訂正後の請求項1?5、8及び9は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「沈降シリカ、ゲル法シリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含む、」と記載されているのを 「沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「沈降シリカ、ゲル法シリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含む、」と記載されているのを 「沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6に 「沈降シリカ、ゲル法シリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカまたはこれらの シリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含む、」と記載されているのを 「沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項7に 「沈降シリカ、ゲル法シリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含む、」と記載されているのを 「沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について (1)訂正事項1について 訂正事項1は、本件明細書の【0016】の「沈降シリカ、ゲル法シリカ、またはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子を用いることがより好ましい。」という記載に基づき、訂正前の請求項1における「沈降シリカ、ゲル法シリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカまたはこれらのシリカ」という択一的記載の要素の中から、「乾燥シリカ、爆発法シリカ」という要素を削除するものである。 また、訂正事項1は、本件明細書の【0025】の「ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、砥粒として、シリカ砥粒Aとは異なる他の成分(以下、砥粒Bともいう。)を含有していてもよい。上記砥粒Bの例としては、シリカ以外の材質からなる粒子(以下、非シリカ粒子ともいう。)およびシリカ砥粒Aと異なるシリカ粒子が挙げられる。」という記載、同【0026】の「シリカ砥粒Aと異なるシリカ粒子の例として、コロイダルシリカが挙げられる。」という記載、及び、同【0028】の「砥粒Bの平均粒子径は、シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満であることが好ましく」という記載に基づき、訂正前の請求項1に係る研磨用組成物において、シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満であるコロイダルシリカ砥粒をさらに含むことを特定するものである。 そうすると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1と同様に、訂正前の請求項2における「沈降シリカ、ゲル法シリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカまたはこれらのシリカ」という択一的記載の要素の中から、「乾燥シリカ、爆発法シリカ」という要素を削除するものである。 また、訂正事項2は、訂正前の請求項2に係る研磨用組成物において、シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満であるコロイダルシリカ砥粒をさらに含むことを特定するものである. そうすると、訂正事事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正事項1と同様に、訂正前の請求項6における「沈降シリカ、ゲル法シリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカまたはこれらのシリカ」という択一的記載の要素の中から、「乾燥シリカ、爆発法シリカ」という要素を削除するものである。 また、訂正事項3は、訂正前の請求項6に係る研磨用組成物の製造方法において、シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満であるコロイダルシリカ砥粒をさらに含むことを特定するものである。 そうすると、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正事項1と同様に、訂正前の請求項7における「沈降シリカ、ゲル法シリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカまたはこれらのシリカ」という択一的記載の要素の中から、「乾燥シリカ、爆発法シリカ」という要素を削除するものである。 また、訂正事項4は、訂正前の請求項7に係る研磨用組成物の製造方法において、シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満であるコロイダルシリカ砥粒をさらに含むことを特定するものである。 そうすると、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)小括 上記のとおり、訂正事項1?4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5、8、9〕、6及び7について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?9に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明9」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 仕上げ研磨工程の前工程で用いられる研磨用組成物であって、 砥粒、酸および水を含み、 前記砥粒は、以下の条件: 比表面積が2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である; 平均粒子径が150nm以上15000nm以下である;および 沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、研磨用組成物。 【請求項2】 ニッケルリンめっきが施されたディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、 砥粒、酸および水を含み、 前記砥粒は、以下の条件: 比表面積が2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である; 平均粒子径が150nm以上15000nm以下である;および 沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、研磨用組成物。 【請求項3】 前記シリカ砥粒Aの比表面積は、10m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。 【請求項4】 前記シリカ砥粒Aの平均粒子径は、150nm以上7000nm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。 【請求項5】 さらに酸化剤を含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。 【請求項6】 仕上げ研磨工程の前工程で用いられる研磨用組成物を製造する方法であって、 前記製造方法は、砥粒、酸および水を混合することを包含し、 ここで、前記砥粒は、以下の条件: 比表面積が2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である; 平均粒子径が150nm以上15000nm以下である;および 沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、研磨用組成物の製造方法。 【請求項7】 ニッケルリンめっきが施されたディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物を製造する方法であって、 前記製造方法は、砥粒、酸および水を混合することを包含し、 ここで、前記砥粒は、以下の条件: 比表面積が2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である; 平均粒子径が150nm以上15000nm以下である;および 沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、研磨用組成物の製造方法。 【請求項8】 基板の製造方法であって、 前記基板の原材料である研磨対象物に請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨用組成物を供給して該研磨対象物を研磨する研磨工程Aを包含し、 前記研磨工程Aの後に、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨用組成物を前記研磨対象物に供給して該研磨対象物を研磨する仕上げ研磨工程をさらに含む、基板製造方法。 【請求項9】 ニッケルリンめっきが施されたディスク基板の製造方法であって、 前記基板の原材料である研磨対象物に請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨用組成物を供給して該研磨対象物を研磨する研磨工程Aを包含する、基板製造方法。」 第4 取消理由の概要 1 訂正前の請求項1?9に係る特許に対して、当審が令和2年4月3日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次の(1)?(3)のとおりであり、理由1、2において引用された引用文献は下記「2」のとおりである(申立人の提出した甲各号証は、「甲1」などという。)。 (1)理由1(新規性) 本件発明1?9は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、請求項1?9に係る特許は、取り消されるべきものである。 (2)理由2(進歩性) 本件発明1?9は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記2の引用文献に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3)理由3(サポート要件) 砥粒として、乾燥シリカ及び爆発法シリカを含む本件の特許請求の範囲の請求項1?9の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 2 引用文献 甲1:特開2014-029754号公報 甲3:赤崎忠行、福永登志一、「ゲル法シリカの特徴と応用」、東ソー研究・技術報告、東ソー株式会社、平成13年12月31日、Vol 45、65?69頁 甲6:小林昭、河西敏雄、超精密生産技術体系(第1巻 基本技術)、株式会社フジ・テクノシステム、1995年10月22日、初版第1刷、412?414頁 第5 取消理由通知に記載した取消理由の理由1、2についての当審の判断 1 引用文献の記載 (1)甲1の記載 甲1には、「磁気ディスク基板の製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (1)シリカ粒子A及び水を含有する研磨液組成物Aを被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして前記研磨対象面を研磨する工程; (2)工程(1)で得られた基板を洗浄する工程;及び、 (3)シリカ粒子B及び水を含有する研磨液組成物Bを工程(2)で得られた基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして前記研磨対象面を研磨する工程; を有し、 前記工程(1)と(3)は別の研磨機で行い、 前記シリカ粒子Aは、電子顕微鏡観察で得られる粒子の絶対最大長の平均が80?500nmであり、前記絶対最大長を直径とする円の面積bを電子顕微鏡観察で得られる該粒子の投影面積aで除して100を乗じた面積比(b/a×100)の平均が110?200%であり、 前記シリカ粒子Aが、前記面積比(b/a×100)が110?200%であるシリカ粒子を、全シリカ粒子Aに対して50質量%以上含有する、磁気ディスク基板の製造方法。 ・・・(略)・・・ 【請求項5】 シリカ粒子Aが水ガラス法で製造されたシリカ粒子である、請求項1から4のいずれかに記載の磁気ディスク基板の製造方法。 ・・・(略)・・・ 【請求項8】 シリカ粒子Aが下記粒子A1及び粒子A2を含み、A1/A2の質量比率が5/95?95/5の範囲にあり、シリカ粒子Aにおける前記粒子A1及びA2の合計量が80質量%以上である、請求項1から7のいずれかに記載の磁気ディスク基板の製造方法。 A1)粒径が5倍以上異なる2種以上の粒子が凝集、融着した粒子 A2)粒径が1.5倍以内の2種以上の粒子が凝集、融着した粒子」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、磁気ディスク基板の製造方法及び磁気ディスク基板の研磨方法に関する。」 「【0011】 そこで、本発明は、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間が短縮でき、かつ、アルミナ粒子を用いたときよりも基板への残留砥粒(突起欠陥)を大幅に低減できる磁気ディスク基板の製造方法を提供する。」 「【発明の効果】 【0014】 本発明の製造方法は、アルミナ粒子を使用しないから粗研磨後及び仕上げ研磨後の突起欠陥を大幅に低減できる。また、本発明の製造方法によれば、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間が短縮できる。その結果、基板品質が向上した磁気ディスク基板を生産性よく製造できるという効果が奏されうる。」 「【0017】 本発明の製造方法によって粗研磨において少ない研磨量で突起欠陥の除去と長波長うねりの低減ができる理由の詳細は明らかではないが、以下のように推定される。粗研磨時に特定の非球状シリカ粒子を用いることで研磨中の研磨パッドと基板の被研磨面の間に生じる粒子濃縮状態において粒子全体が固定化され、パッドの砥粒保持性が向上し、砥粒の切削距離が拡大する。これにより従来のシリカ粒子を使用した場合に比べ、広範囲にわたって均一に研磨圧がかかり、基板上の凸部が均一に研磨される。また、研磨時に研磨パッドと基板の間で起こる振動も少なくなり長波長うねりが低減すると推定している。また、アルミナ粒子を使用しないことにより、粗研磨で取り除くべき研磨量を低減することができ、シリカ粒子自体の研磨速度はアルミナ粒子に比べて遅いが、それ以上に研磨時間を短縮できる。粗研磨で取り除くべき研磨量は、最低限のものでよく、研磨時間を長くしても長波長うねりにとってそれ以上の大きな改善はなく、むしろ、研磨時に研磨パッドと基板の間で起こる振動の影響で長波長うねりにとっては効果的とばかりはいえない。但し、本発明はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。」 「【0021】 [磁気ディスク基板の製造方法] 一般に、磁気ディスクは、精研削工程を経たガラス基板やNi-Pメッキ工程を経たアルミニウム合金基板を、粗研磨工程及び仕上げ研磨工程にて研磨した後、記録部形成工程にて磁気ディスク化することにより製造される。本発明は、一態様において、下記(1) ?(3)の工程を有する磁気ディスク基板の製造方法に関する。 (1)シリカ粒子A及び水を含有する研磨液組成物Aを被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして前記研磨対象面を研磨する工程。 (2)工程(1)で得られた基板を洗浄する工程。 (3)シリカ粒子B及び水を含有する研磨液組成物Bを工程(2)で得られた基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして前記研磨対象面を研磨する工程。 【0022】 [工程(1):粗研磨工程] 工程(1)は、シリカ粒子A及び水を含む研磨液組成物Aを被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして前記研磨対象面を研磨する工程である。工程(1)で使用される研磨機としては、特に限定されず、磁気ディスク基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。 【0023】 [工程(1):被研磨基板] 工程(1)で粗研磨される被研磨基板は、磁気ディスク基板又は磁気ディスク基板に用いられる基板であり、例えば、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板や、珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、結晶化ガラス、強化ガラス等のガラス基板が挙げられる。中でも、本発明で使用される被研磨基板としては、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板が好ましい。上記被研磨基板の形状には特に制限はなく、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状であればよい。中でも、ディスク状の被研磨基板が適している。ディスク状の被研磨基板の場合、その外径は例えば2?95mm程度であり、その厚みは例えば0.5?2mm程度である。 【0024】 [工程(1):研磨液組成物A] 本明細書において、研磨液組成物Aとは、前記工程(1)の粗研磨に使用される研磨液組成物である。研磨液組成物Aは、水、及び、突起欠陥低減の観点から砥粒としてシリカ粒子Aを含有する。また、研磨液組成物Aは、突起欠陥低減の観点からアルミナ砥粒を含まないことが好ましい。本明細書において「アルミナ砥粒を含まない」とは、一又は複数の実施形態において、アルミナ粒子を含まないこと、実質的にアルミナ粒子を含まないこと、砥粒として機能する量のアルミナ粒子を含まないこと、又は、研磨結果に影響を与える量のアルミナ粒子を含まないこと、を含みうる。具体的なアルミナ粒子の含有量は、特に限定されるわけではないが、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、実質的に0%であることがさらにより好ましい。 【0025】 [工程(1):シリカ粒子A] 研磨液組成物Aは、突起欠陥低減の観点から砥粒としてシリカ粒子Aを含有する。一又は複数の実施形態において、研磨液組成物Aに含まれるシリカ粒子をシリカ粒子Aという。シリカ粒子Aのシリカとしては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、表面修飾したシリカ等が挙げられる。粗研磨時の長波長うねり低減の観点、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間短縮の観点及び仕上げ研磨時の長波長うねりと突起欠陥低減の観点から、コロイダルシリカが好ましく、下記のパラメータを満たす特定の形状をもったコロイダルシリカがより好ましい。また、シリカ粒子Aは、粗研磨時の長波長うねり低減の観点、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間短縮の観点及び仕上げ研磨時の長波長うねりと突起欠陥低減の観点から、火炎溶融法やゾルゲル法で製造されたものでなく、水ガラス法で製造されたシリカ粒子であることが好ましい。 【0026】 [工程(1):シリカ粒子Aの平均粒子径(D50)] 本発明のシリカ粒子Aの平均粒子径(D50)は、レーザー光散乱法で測定した体積平均粒子径(D50)である。シリカ粒子Aの平均粒子径(D50)は、粗研磨時の長波長うねり低減の観点、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間短縮の観点及び仕上げ研磨時の長波長うねりと突起欠陥低減の観点から、50nm以上が好ましく、より好ましくは60nm以上、さらに好ましくは100nm以上、さらにより好ましくは110nm以上である。シリカ粒子Aの平均粒子径(D50)は、同様の観点から、500nm以下が好ましく、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは300nm以下、さらにより好ましくは200nm以下、さらにより好ましくは150nm以下である。また、シリカ粒子Aの平均粒子径(D50)は、同様の観点から、好ましくは50?500nmであり、より好ましくは60?400nm、さらに好ましくは100?300nm、さらにより好ましくは110?200nm、さらにより好ましくは110?150nmである。シリカ粒子の平均粒子径(D50)が前記範囲内であると、研磨切削時の物理研磨力が強く、効果的に長波長うねりが低減されると考えられる。また、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間短縮の観点及び長波長うねり低減の観点から、シリカ粒子Aの平均粒子径(D50)は50nm以上が好ましく、より好ましくは60nm以上、さらに好ましくは65nm以上、さらにより好ましくは70nm以上である。同様の観点から、500nm以下が好ましく、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは300nm以下、さらにより好ましくは200nm以下、さらにより好ましくは180nm以下である。また、シリカ粒子Aの平均粒子径(D50)は、同様の観点から、好ましくは50?500nmであり、より好ましくは60?400nm、さらに好ましくは65?300nm、さらにより好ましくは70?200nm、さらにより好ましくは70?180nmである。また、シリカ粒子Aの平均粒子径(D50)は粗研磨後の長波長うねりを低減する観点及び仕上げ研磨後の突起欠陥及び長波長うねりの低減の観点から、50nm以上が好ましく、より好ましくは60nm以上、さらに好ましくは65nm以上である。同様の観点から、500nm以下が好ましく、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは73nm以下である。また、シリカ粒子Aの平均粒子径(D50)は、同様の観点から、好ましくは50?500nmであり、より好ましくは60?300nm、さらに好ましくは65?73nmである。なお、平均粒子径(D50)は、実施例に記載の方法により求めることができる。」 「【0032】 [工程(1):シリカ粒子AのBET比表面積] シリカ粒子AのBET比表面積は、粗研磨時の長波長うねり低減の観点、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間短縮の観点及び仕上げ研磨時の長波長うねりと突起欠陥低減の観点から、10?200m^(2)/gが好ましく、より好ましくは20?100m^(2)/g、さらに好ましくは30?80m^(2)/gである。」 「【0039】 [工程(1):研磨液組成物A中の酸] 研磨液組成物Aは、研磨速度の向上の観点から、酸を含有することが好ましい。研磨液組成物Aにおける酸の使用は、酸及び又はその塩の使用を含む。使用される酸としては、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1,-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸等の有機ホスホン酸、グルタミン酸、ピコリン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、オキサロ酢酸等のカルボン酸等が挙げられる。中でも、粗研磨時の長波長うねり低減の観点、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間短縮の観点及び仕上げ研磨時の長波長うねりと突起欠陥低減の観点から、リン酸、硫酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びそれらの塩がより好ましく、硫酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)及びそれらの塩がさらに好ましく、硫酸がさらにより好ましい。」 「【0043】 [工程(1):研磨液組成物A中の酸化剤] 前記研磨液組成物Aは、粗研磨時の長波長うねり低減の観点、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間短縮の観点及び仕上げ研磨時の長波長うねりと突起欠陥低減の観点から、酸化剤を含有することが好ましい。酸化剤としては、研磨速度及び残留アルミナ低減の観点から、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)等が好ましく、研磨速度向上の観点、表面に金属イオンが付着せず汎用に使用され安価であるという観点から、過酸化水素がより好ましい。これらの酸化剤は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。」 「【0071】 [工程(3):仕上げ研磨工程] 工程(3)は、シリカ粒子及び水を含有する研磨液組成物Bを工程(2)で得られた基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして前記研磨対象面を研磨する工程である。工程(3)で使用される研磨機は、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間短縮の観点、研磨後の長波長うねりを低減する観点、突起欠陥低減の観点、及び、その他の表面欠陥を効率よく低減するため粗研磨とポア径の異なるパッドを使用する観点から、工程(1)で用いた研磨機とは別の研磨機である。工程(3)で使用される研磨液組成物Bの供給速度、研磨液組成物Bを研磨機へ供給する方法は、前述した研磨液組成物Aの場合と同様とすることができる。 【0072】 本発明の磁気ディスク基板の製造方法は、工程(1)の粗研磨工程、工程(2)の洗浄工程、及び、工程(3)の仕上げ研磨工程を含むことにより、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間が短縮され、粗研磨後の長波長うねり及び突起欠陥が低減され、仕上げ研磨後の長波長うねり及び突起欠陥が低減された基板を効率的に製造することができる。 【0073】 [工程(3):研磨液組成物B] 工程(3)で使用される研磨液組成物Bは、仕上げ研磨後の長波長うねりと突起欠陥低減突起欠陥低減の観点から砥粒としてシリカ粒子(シリカ粒子B)を含有する。使用されるシリカ粒子Bは、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間短縮の観点、並びに、仕上げ研磨後の長波長うねり及び突起欠陥を低減する観点から、好ましくはコロイダルシリカである。また、研磨液組成物Bは、粗研磨と仕上げ研磨の総研磨時間短縮の観点、並びに、仕上げ研磨後の長波長うねり及び突起欠陥を低減する観点から、アルミナ砥粒を含まないことが好ましい。」 (2)甲3の記載 「2.湿式法シリカの製造方法 表1にその代表的な商品とメーカーを示す。また概略製造工程フローを図1に示す。 湿式法シリカは沈降(沈澱)法シリカとゲル法シリカに類別されるが、一般的にケイ酸ナトリウムと鉱酸(通常は硫酸)の中和反応によりシリカが合成される。」(65頁左欄15?20行) 「(1)沈降法シリカ 比較的高温,アルカリ性のpH領域で反応を進める。その結果、シリカ一次粒子の成長が早く進行し、一次粒子がフロック状に凝集し沈降する事から、沈降法シリカと呼ばれる。」(66頁左欄1?5行) 「(2)ゲル法シリカ ー般的にシリカゲルとも表現されるが、乾燥剤やクロマトグラフィー充填剤等に利用されている粒状ものと区別する意味で、本稿では微粒子フィラーとして利用されているものをゲル法シリカと表現する。 生成の過程は図2のDの経路をたどる。ケイ酸ナトリウムと鉱酸(通常は硫酸)の中和反応を酸性のpH領域で進行させる事により、一次粒子の成長を抑えた状態で凝集を起こす。この時、凝集体が形成する3次元網目構造により、反応液全体は一魂のゲルとなる。」(66頁右欄4?8行) (3)甲6の記載 「2.現在使用されている研磨スラリーの分類 2.1 シリカ系研磨スラリー(SiO_(2)) 2.1.1 ケイ酸ナトリウム(水ガラス)を原料とするもの NaSiO_(3)+H_(2)O→SiO_(2)+NaO→凝集体→沈降→乾燥粉体 ↓ ↓ イオン交換 沈降性シリカ ↓ 核ゾル(=5nm)→粒子成長→濃縮→コロイダルシリカ (10?100nm) (狭義) 出発物質がケイ酸ナトリウムであることから,比較的安価にSiO_(2)粒子を得ることができる。」(412頁左欄21?33行) 3 甲1に記載された発明(甲1発明) 甲1には、「磁気ディスク基板の製造方法及び磁気ディスク基板の研磨方法」(【0001】)について記載されているところ、【0021】には、「一般に、磁気ディスクは、精研削工程を経たガラス基板やNi-Pメッキ工程を経たアルミニウム合金基板を、粗研磨工程及び仕上げ研磨工程にて研磨した後、記録部形成工程にて磁気ディスク化することにより製造される。」と記載されており、甲1に記載された「磁気ディスク基板」には、「ガラス基板やNi-Pメッキ工程を経たアルミニウム合金基板」が含まれるといえる。 また、【0021】には、「(1)シリカ粒子A及び水を含有する研磨液組成物Aを被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして前記研磨対象面を研磨する工程」(以下、単に「工程(1)」ともいう。)が記載され、【0022】には、「工程(1)」は「粗研磨工程」であることが記載され、【0025】には、「シリカ粒子A」は、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、表面修飾したシリカ等であって、水ガラス法で製造されたシリカ粒子であることが好ましいことが記載されている。 そして、【0026】には、「シリカ粒子A」のレーザー光散乱法で測定した体積平均粒子径(D50)は、50nm以上が好ましく、500nm以下が好ましいことが記載されている。 また、【0032】には、「シリカ粒子A」のBET比表面積は、10?200m^(2)/gであることが好ましいことが記載されている。 さらに、【0039】には、「研磨液組成物A」は、酸を含有することが好ましいことが記載されている。 そうすると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 (甲1発明) 「ガラス基板やNi-Pメッキ工程を経たアルミニウム合金基板の粗研磨工程に用いられるシリカ粒子A、酸及び水を含有する研磨液組成物Aであって、 シリカ粒子Aのレーザー光散乱法で測定した体積平均粒子径(D50)は、50nm以上500nm以下であり、 シリカ粒子AのBET比表面積は、10?200m^(2)/gであり、 シリカ粒子Aは、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、表面修飾したシリカ、水ガラス法で製造されたシリカ粒子等である研磨液組成物A」 3 対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「粗研磨工程」、「酸」、「水」及び「研磨液組成物A」は、本件発明1の「仕上げ研磨工程の前工程」、「酸」、「水」及び「研磨用組成物」にそれぞれ相当する。 本件発明1の「砥粒」と、甲1発明の「シリカ粒子A」は、いずれも「砥粒」である点で共通し、比表面積及び平均粒子径の範囲は、一部重複する。 また、本件発明1においては、シリカ粒子Aの「比表面積」及び「平均粒子径」の測定方法については特定されておらず、それぞれ、甲1に記載されたものと差異は見出せない。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「仕上げ研磨工程の前工程で用いられる研磨用組成物であって、 砥粒、酸および水を含み、 前記砥粒は、以下の条件: 比表面積が2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である;および 平均粒子径が150nm以上15000nm以下である; を満たすシリカ砥粒Aを含む、研磨用組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 [相違点1] シリカ砥粒Aについて、本件発明1は、「沈降シリカ、ゲル法シリカ、またはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である」のに対し、甲1発明の「シリカ粒子」は、「コロイダルシリカ、フュームドシリカ、表面修飾したシリカ、水ガラス法で製造されたシリカ粒子等であ」る点。 [相違点2] シリカ砥粒Aの比表面積について、本件発明1は、「2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下」であるのに対し、甲1発明の「シリカ粒子」の比表面積は、「10?200m^(2)/g」である点。 [相違点3] シリカ砥粒Aの平均粒子径について、本件発明1は、「150nm以上15000nm以下」であるのに対し、甲1発明の「シリカ粒子」の平均粒子径は、「50nm以上500nm以下」である点。 [相違点4] 砥粒について、本件発明1は、「さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である」のに対し、甲1発明は、そのような規定はされていない点。 ここで、事案に鑑み、まず、相違点4について判断する。 [相違点4について] 甲1発明において、砥粒は「シリカ粒子A」のみであるところ、「シリカ粒子A」に加えて、さらに、別の「コロイダルシリカ砥粒」を含ませることについては、甲1には記載も示唆もない。 そして、甲1発明において、「シリカ粒子A」に加えて、別の「コロイダルシリカ砥粒」を含ませた場合に、甲1発明の「研磨液組成物A」がどのような特性を有するものとなるのかは、当業者にとって明らかではないことから、甲1発明において、「シリカ粒子A」に加えて、さらに、別の「コロイダルシリカ砥粒」を含ませる動機付けは見出すことができない。 なお、申立人は、令和2年8月7日付けの意見書において、甲1の請求項8を引用して、コロイダルシリカを用いることは、当業者において適宜選択可能である旨主張しているので、念のため、該請求項8の記載について検討する。 該請求項8には、「シリカ粒子Aが下記粒子A1及び粒子A2を含み、A1/A2の質量比率が5/95?95/5の範囲にあり、シリカ粒子Aにおける前記粒子A1及びA2の合計量が80質量%以上である、請求項1から7のいずれかに記載の磁気ディスク基板の製造方法。 A1)粒径が5倍以上異なる2種以上の粒子が凝集、融着した粒子 A2)粒径が1.5倍以内の2種以上の粒子が凝集、融着した粒子」と記載されていることから、甲1発明の「シリカ粒子A」は、「A1)粒径が5倍以上異なる2種以上の粒子が凝集、融着した粒子」(以下、「A1粒子」という。)及び「A2)粒径が1.5倍以内の2種以上の粒子が凝集、融着した粒子」(以下、「A2粒子」という。)を含むことになるところ、いずれの粒子も同じシリカ粒子であるから、一方を「フュームドシリカ、表面修飾したシリカ、水ガラス法で製造されたシリカ粒子」であって、他方をそれとは異なる「コロイダルシリカ」とすることを当業者が容易に想到しえることであるということはできない。 また、仮に、「シリカ粒子A」がコロイダルシリカであれば、いずれか一方の粒子は、本件発明1における「シリカ砥粒A」に相当するものであって、他方の粒子は、本件発明1における「コロイダルシリカ砥粒」に相当するものであるということはできるとしても、「A1粒子」と「A2粒子」のそれぞれの平均粒子径は不明であるから、「コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満」という、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得るものである、ということはできない。 そして、本件発明1は、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、すなわち、「シリカ粒子A」に加えて、「コロイダルシリカ砥粒」を含むことで、【0032】に記載されるような「高い研磨レートを実現しつつ、研磨対象面の面精度を向上させる効果(例えば、長波長うねりの抑制効果、表面粗さの低減効果等)が好適に発揮される」という、甲1発明からは当業者が予測しえない格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は実施例において確認されているものである。 以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1において、ニッケルリンめっきが施されたディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物である点が特定されたものであるところ、本件発明1と同様な理由から、本件発明2は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいえない。 (3)本件発明3について 本件発明3は、本件発明1、2において、シリカ砥粒Aの比表面積は、10m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である点が特定されたものであるところ、本件発明1と同様な理由から、本件発明3は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいえない。 (4)本件発明4について 本件発明4は、本件発明1?3において、シリカ砥粒Aの平均粒子径は、150nm以上7000nm以下である点が特定されたものであるところ、本件発明1と同様な理由から、本件発明4は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいえない。 (5)本件発明5について 本件発明5は、本件発明1?4において、酸化剤を含有する点が特定されたものであるところ、本件発明1と同様な理由から、本件発明5は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいえない。 (6)本件発明6、7について 本件発明6、7は、本件発明1の形式を、単に製造方法としたものであるから、本件発明1と同様な理由から、本件発明6、7は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいえない。 (7)本件発明8について 本件発明8は、本件発明1?5において、研磨工程Aの後に、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨用組成物を研磨対象物に供給して該研磨対象物を研磨する仕上げ研磨工程をさらに含む点が特定されたものであるところ、本件発明1と同様な理由から、本件発明8は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいえない。 (8)本件発明9について 本件発明9は、本件発明1?5において、ニッケルリンめっきが施されたディスク基板の製造方法としたものであるところ、これは、ニッケルリンめっきが施されたディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物である本件発明2の形式を、単に製造方法としたものに過ぎないことから、本件発明1と同様な理由から、本件発明9は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいえない。 第6 取消理由通知に記載した取消理由の理由3(サポート要件)についての当審の判断 訂正によって、砥粒から乾燥シリカ、爆発法シリカは除かれたことにより、上記理由3は解消した。 第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立人は、甲2(特開2002-180034号公報)を主たる引用例として、本件発明1?9は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張しているので、甲2を主たる引用例とした場合について、本件発明1?9の進歩性(特許法第29条第2項)について検討することとする。 2 甲2の記載 甲2には次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 体積換算の95%累積平均径(D95)と体積換算の50%累積平均径(D50)の比(D95/D50)の値が、1.2から3.0の範囲にあることを特徴とする研磨材スラリー。」 「【請求項3】 研磨材の主成分が、酸化セリウム、酸化珪素、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、炭化珪素、ダイヤモンドからなる群のうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨材スラリー。」 「【請求項15】 溶媒が水、炭素数1?10の1価アルコール類、グリコール類、炭素数1?10の多価アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランおよびジオキサンからなる群から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の研磨材スラリー。」 「【0055】本発明の研磨材スラリーは、一般に使用する基板には制限されないが、好ましくは、光学レンズ用ガラス基板、光ディスクや磁気ディスク用ガラス基板、プラズマディスプレー用ガラス基板、薄膜トランジスタ(TFT)型LCDやねじれネマチック(TN)型LCDなどの液晶用ガラス基板、液晶テレビ用カラーフィルター、LSIフォトマスク用等のガラス基板などの、各種光学、エレクトロニクス関連ガラス材料や一般のガラス製品等の仕上げ研磨に用いられる。」 3 甲2に記載された発明(甲2発明) 甲2の請求項1を引用する請求項3を引用する請求項15には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「体積換算の95%累積平均径(D95)と体積換算の50%累積平均径(D50)の比(D95/D50)の値が、1.2から3.0の範囲にあり、 研磨材の主成分が、酸化セリウム、酸化珪素、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、炭化珪素、ダイヤモンドからなる群のうち少なくとも一つであり、 溶媒が水、炭素数1?10の1価アルコール類、グリコール類、炭素数1?10の多価アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランおよびジオキサンからなる群から選ばれた少なくとも1つである研磨材スラリー。」 4 対比・判断 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「研磨材」、「水」及び「研磨材スラリー」は、本件発明1の「砥粒」、「水」及び「研磨用組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、 「研磨用組成物であって、 砥粒、および水を含む研磨用組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 [相違点2-1] 研磨用組成物の用途について、本件発明1は「仕上げ研磨工程の前工程で用いられる」のに対し、甲2発明の研磨材スラリーの用途は規定されていない点。 [相違点2-2] 研磨用組成物に含まれる成分について、本件発明1は「酸」を含むのに対し、甲2発明の研磨材スラリーに酸が含まれることは規定されていない点。 [相違点2-3] 砥粒について、本件発明1では「比表面積が2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である;平均粒子径が150nm以上15000nm以下である;および沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である砥粒A」を含み、「さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である」のに対し、甲2発明の研磨材は、「酸化セリウム、酸化珪素、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、炭化珪素、ダイヤモンドからなる群のうち少なくとも一つ」である点。 ここで、事案に鑑み、まず、相違点2-3について検討する。 甲2には、本件発明1における「砥粒A」及び「コロイダルシリカ」を研磨材として用いることについては、いずれも記載も示唆もなく、甲2発明の研磨材として、上記「砥粒A」及び「コロイダルシリカ」を用いる動機付けは見出せない。 また、申立人は甲2発明及び甲1の記載に基づく進歩性を主張しているところ、仮に、甲1に「砥粒A」に関する記載があるとしても、上記第5で検討したように、甲1には、本件発明1における「コロイダルシリカ」については記載も示唆もないのであるから、相違点2-3に係る本件発明1の特定事項は、甲2発明及び甲1の記載に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである、とはいえない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができものである、とすることはできない。 本件発明2?9についても同様に、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができものである、とすることはできない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 仕上げ研磨工程の前工程で用いられる研磨用組成物であって、 砥粒、酸および水を含み、 前記砥粒は、以下の条件: 比表面積が2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である; 平均粒子径が150nm以上15000nm以下である;および 沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、研磨用組成物。 【請求項2】 ニッケルリンめっきが施されたディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、 砥粒、酸および水を含み、 前記砥粒は、以下の条件: 比表面積が2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である; 平均粒子径が150nm以上15000nm以下である;および 沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、研磨用組成物。 【請求項3】 前記シリカ砥粒Aの比表面積は、10m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。 【請求項4】 前記シリカ砥粒Aの平均粒子径は、150nm以上7000nm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。 【請求項5】 さらに酸化剤を含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。 【請求項6】 仕上げ研磨工程の前工程で用いられる研磨用組成物を製造する方法であって、 前記製造方法は、砥粒、酸および水を混合することを包含し、 ここで、前記砥粒は、以下の条件: 比表面積が2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である; 平均粒子径が150nm以上15000nm以下である;および 沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、研磨用組成物の製造方法。 【請求項7】 ニッケルリンめっきが施されたディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物を製造する方法であって、 前記製造方法は、砥粒、酸および水を混合することを包含し、 ここで、前記砥粒は、以下の条件: 比表面積が2m^(2)/g以上60m^(2)/g以下である; 平均粒子径が150nm以上15000nm以下である;および 沈降シリカ、ゲル法シリカまたはこれらのシリカを原材料とするシリカ粒子である; を満たすシリカ砥粒Aを含み、 前記砥粒は、さらにコロイダルシリカ砥粒を含み、 前記コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、前記シリカ砥粒Aの平均粒子径の1.0倍未満である、研磨用組成物の製造方法。 【請求項8】 基板の製造方法であって、 前記基板の原材料である研磨対象物に請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨用組成物を供給して該研磨対象物を研磨する研磨工程Aを包含し、 前記研磨工程Aの後に、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨用組成物を前記研磨対象物に供給して該研磨対象物を研磨する仕上げ研磨工程をさらに含む、基板製造方法。 【請求項9】 ニッケルリンめっきが施されたディスク基板の製造方法であって、 前記基板の原材料である研磨対象物に請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨用組成物を供給して該研磨対象物を研磨する研磨工程Aを包含する、基板製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-09-30 |
出願番号 | 特願2014-201431(P2014-201431) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C09K)
P 1 651・ 113- YAA (C09K) P 1 651・ 537- YAA (C09K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 柴田 啓二 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
瀬下 浩一 川端 修 |
登録日 | 2019-07-26 |
登録番号 | 特許第6559410号(P6559410) |
権利者 | 株式会社フジミインコーポレーテッド |
発明の名称 | 研磨用組成物 |
代理人 | 梅原 めぐみ |
代理人 | 梅原 めぐみ |
代理人 | 大井 道子 |
代理人 | 大井 道子 |
代理人 | 谷 征史 |
代理人 | 谷 征史 |
代理人 | 安部 誠 |
代理人 | 安部 誠 |