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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B01D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B01D |
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管理番号 | 1368109 |
異議申立番号 | 異議2020-700499 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-07-17 |
確定日 | 2020-10-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6633342号発明「凝集剤注入支援装置及び制御方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6633342号の請求項1?10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6633342号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成27年10月20日に出願され、令和 1年12月20日にその特許権の設定登録がされ、令和 2年 1月22日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和 2年 7月17日付けで、特許異議申立人 小川 鐵夫(以下、「申立人」という。)により甲第1?12号証を証拠方法として特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 凝集剤を注入し、被処理水中の不要物を凝集及び沈殿させる凝集沈殿工程と、前記凝集沈殿工程において沈殿した汚泥を濃縮し、前記汚泥から水分を分離する排水処理工程と、を含み、前記排水処理工程において前記汚泥から分離された前記水分であって、前記凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水を前記凝集沈殿工程に返送し、前記凝集沈殿工程に送られてくる原水に前記返送水を加えて前記被処理水とする水処理プロセスにおいて、前記凝集沈殿工程における前記凝集剤の注入量を制御する装置であって、 前記凝集沈殿工程における被処理水の水質に関する水質情報を取得する取得部と、 前記取得部によって取得された前記水質情報に基づいて前記凝集剤の注入量を制御する制御部と、 を備える凝集剤注入支援装置。 【請求項2】 前記取得部は、前記被処理水の流動電流値を前記水質情報として取得し、 前記制御部は、前記水質情報が示す流動電流値に応じて前記凝集剤の注入量を制御する、 請求項1に記載の凝集剤注入支援装置。 【請求項3】 前記取得部は、前記被処理水のpH又は導電率を前記水質情報の一部として取得し、 前記制御部は、前記被処理水のpH又は導電率を用いて正規化された流動電流値に基づいて前記凝集剤の注入量を制御する、 請求項2に記載の凝集剤注入支援装置。 【請求項4】 前記取得部は、前記凝集剤が注入された後の被処理水について前記水質情報を取得し、 前記制御部は、前記水質情報が示す前記被処理水の水質の変化に応じて、前記被処理水の水質が所定の目標値に近づくように前記凝集剤の注入量を制御する、 請求項1から3のいずれか一項に記載の凝集剤注入支援装置。 【請求項5】 前記取得部は、前記凝集剤が注入される前の被処理水について前記水質情報を取得し、 前記制御部は、前記水質情報に基づいて前記返送水の返送の有無を検出し、前記返送水の返送が行われている間、前記水質情報が示す前記被処理水の水質に応じて前記凝集剤の注入量を制御する、 請求項1から3のいずれか一項に記載の凝集剤注入支援装置。 【請求項6】 前記取得部は、前記被処理水の導電率を前記水質情報として取得し、 前記制御部は、前記被処理水の導電率の変化に基づいて前記返送水の有無を検出する、 請求項5に記載の凝集剤注入支援装置。 【請求項7】 前記取得部は、前記被処理水のpHを前記水質情報として取得し、 前記制御部は、前記被処理水のpHの変化に基づいて前記返送水の有無を検出する、 請求項5又は6に記載の凝集剤注入支援装置。 【請求項8】 前記取得部は、前記返送水の流量を前記水質情報として取得し、 前記制御部は、前記返送水の流量の変化に基づいて前記返送水の有無を検出する、 請求項5から7のいずれか一項に記載の凝集剤注入支援装置。 【請求項9】 前記凝集沈殿工程において、前記凝集剤に加え、酸剤又はアルカリ剤のpH調整剤が前記被処理水に注入される場合、 前記制御部は、前記水質情報に基づいて、前記被処理水のpHが所定の範囲内となるように前記pH調整剤の注入量を制御する、 請求項1から8のいずれか一項に記載の凝集剤注入支援装置。 【請求項10】 凝集剤を注入し、被処理水中の不要物を凝集及び沈殿させる凝集沈殿工程と、前記凝集沈殿工程において沈殿した汚泥を濃縮し、前記汚泥から水分を分離する排水処理工程と、を含み、前記排水処理工程において前記汚泥から分離された前記水分であって、前記凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水を前記凝集沈殿工程に返送し、前記凝集沈殿工程に送られてくる原水に前記返送水を加えて前記被処理水とする水処理プロセスにおいて、前記凝集沈殿工程における前記凝集剤の注入量を制御する制御方法であって、 前記凝集沈殿工程における被処理水の水質に関する水質情報を取得する取得ステップと、 前記取得ステップにおいて取得された前記水質情報に基づいて前記凝集剤の注入量を制御する制御ステップと、 を有する制御方法。」 第3 特許異議申立理由の概要 1 各甲号証 甲第1号証:特開2010-158632号公報 甲第2号証:特開2008-23417号公報 甲第3号証:特許第3859402号公報 甲第4号証:特開2007-237027号公報 甲第5号証:特開平1-231990号公報 甲第6号証:財団法人水道技術研究センター編,「新しい浄水技術 産官学共同プロジェクトの成果」,1版1刷,技報堂出版株式会社,2005年 3月28日,p.251-257 甲第7号証:特開2001-327806号公報 甲第8号証:特開2002-239307号公報 甲第9号証:特開2004-223357号公報 甲第10号証:特開2008-161809号公報 甲第11号証:特開2008-196862号公報 甲第12号証:特開2011-156529号公報 2 甲第1号証に基づく特許異議申立理由 本件発明1?4、10と甲第1号証に記載された発明との間には、甲第3?6号証の記載によれば、実質的な相違点が存在しないから、本件発明1?4、10は甲第1号証に記載された発明である。 また、仮に、本件発明1?4、10と甲第1号証に記載された発明との間に実質的な相違点が存在するとしても、本件発明1?4、10は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4、10に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または第2項の規定に違反してされたものである。 本件発明5?9は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、または、甲第1号証に記載された発明及び甲第7?12号証に記載された本件特許の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明5?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 3 甲第2号証に基づく特許異議申立理由 本件発明1?10は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、または、甲第2号証に記載された発明及び甲第3?12号証に記載された本件特許の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 第4 特許異議申立理由についての当審の判断 1 甲第1号証に基づく特許異議申立理由について (1)各甲号証の記載事項 (1-1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 (ア)本件特許の出願日前に頒布された甲第1号証には、以下(1a)?(1c)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 監視制御手段から入力される水質,運転条件を格納する水質,プロセスデータベースと、上水処理施設の各処理工程を運転する上で制約条件となる水質項目又は運転条件の項目と値を格納する制約条件データベースと、取水量の計画値を記録した取水計画データベースと、前記上水処理施設の各処理工程における濁質除去性能に関するデータを格納した処理性能データベースと、使用する資源やエネルギー量をCO_(2)の発生量に換算するための原単位が記録されているCO_(2)排出量原単位データベースと、実測データがない将来の運転について前記水質,プロセスデータベースから最新の水質,運転条件を取得し、前記取水計画データベースから計画水量を取得して該水質,運転条件,計画水量に応じた処理性能に関する情報を前記処理性能データベースから取得し、ろ過池への濁質負荷と廃水処理施設への負荷量を算出し、運転条件,処理水量,水質の値を各日時に対して出力する濁質負荷量評価部と、該濁質負荷量評価部で出力された水質,運転条件と前記制約条件データベースに格納された水質,プロセスデータを比較して制約条件を満足するように、かつ前記負荷量が前記CO_(2)排出量原単位データベースに記録されている原単位で換算されるCO_(2)排出量が最小となる運転条件を検索する制御量評価部を備えた上水施設の監視制御システム。」 (1b)「【0016】 本発明の実施例1を図1から図6により説明する。図1は、本実施例の監視制御システムの構成図である。 【0017】 本実施例の監視制御システムは、図1に示すように、制御LAN3により接続された管理サーバ1,監視制御手段2,上水処理施設10で構成されている。 【0018】 監視制御の対象となる上水処理施設10は、取水施設11,浄水施設12,送水施設13,給配水施設14、および排水処理施設15を有している。 【0019】 上水の原水を取水施設11から取込み、浄水施設12の着水井21で受ける。着水井21で受けられた上水は、混和池22に送られる。混和池22では、PAC注入設備28から原水にPAC(ポリ塩化アルミニウム)が注入され、急速撹拌により原水とPACを十分混和させる。凝集剤であるPACは、濁質成分を除去するために注入される。注入率は、管理サーバ1で設定される。 【0020】 PAC注入後、濁質は、凝集沈殿池23において、マイクロフロック形成,フロック成長,フロックの沈降分離の過程を経て、水中から大部分が除去される。沈殿したフロックは、定期的またはフロックの蓄積量を指標として引き抜かれ、排水処理施設15に移送される。凝集沈殿池23では濁質は完全には除去されないが、通常、濁度が1度程度になるように管理されている。 【0021】 着水井21には計測手段26Aが、凝集沈殿池23には計測手段26Bが、ろ過池24には計測手段26Cが、排水処理施設15には計測手段26Dがそれぞれ設置されている。 … 【0023】 ろ過池24は、ろ過砂やアンスラサイト等で形成されたろ層で構成され、濁質を除去する。…このとき発生する汚泥を含む洗浄水は、排水処理施設15へ送られる。 … 【0025】 排水処理施設15は、調整槽,濃縮設備,脱水設備で構成される。浄水施設12から排出された濁質を多く含む排水は、一旦、調整槽に蓄えられる。通常、濃縮には沈降濃縮方式が採用されるが、遠心分離を用いるなどの機械的な方法でもよい。一方、脱水には、自然乾燥方式と機械脱水方式があり、機械脱水方式としては、遠心脱水,ベルトプレス,スクリュープレス等様々な方式の装置がある。 … 【0027】 管理サーバ1は、例えばパーソナルコンピュータ等の計算機や計算機上のソフトウェアからなる。監視制御手段2は、制御LAN3経由で上水処理施設10におけるモニタリング情報を監視し、管理サーバ1からの制御指令に従って実際の施設におけるアクチュエータ等の機器運転を実行する。制御LAN3を介して監視制御手段2,管理サーバ1へ送られる監視情報としては、例えば、濁度やpH等の水質計測情報,流量,損失水頭,水圧,薬剤注入量がある。 【0028】 図2は、本実施例の管理サーバ1の詳細を示す構成図で、図2に示すように、管理サーバ1は、CPU30,水質,プロセスデータベース34,制約条件データベース35,CO_(2)排出量原単位データベース36,取水計画データベース37,処理性能データベース38,ネットワークインターフェース(IF)32,データ入出力端末33、及びメモリ31を備えている。 【0029】 メモリ31には、濁質負荷量評価プログラム40、および制御量評価プログラム41が記憶されており、CPU30は、このプログラムを実行して各評価を行う。 【0030】 評価を行うとき、ネットワークインターフェース32は、制御LAN3に接続された監視制御手段2と通信し、水質,プロセスデータベース34に水質,プロセス運転情報である運転条件,電力量が計測日時と紐付けされて格納される。又、処理水量,凝集剤注入率,ろ過池洗浄回数,排水処理施設の汚泥負荷量,過去の類似の原水,運転条件における除去性能などを格納してもよい。これらのデータは計測手段26により計測されるか、ユーザがオフラインで分析実施後、水質,プロセスデータベース34に入力する。 … 【0055】 図6に制御量評価プログラム41における処理フローを示す。制御量評価プログラム41は、濁質負荷量と制約条件に基づき、ろ過池洗浄操作時期を設定し、薬剤注入,洗浄,排水処理によるCO_(2)排出量を算出する。運転条件を変化させた評価を行い、CO_(2)排出量が最小となる運転条件を探索する。」 (1c)「 」 (イ)前記(ア)(1a)によれば、甲第1号証には「上水施設の監視制御システム」が記載されており、前記(ア)(1b)、(1c)によれば、前記「上水施設の監視制御システム」は、制御LANにより接続された管理サーバ、監視制御手段、上水処理施設で構成されているものであって、監視制御の対象となる上水処理施設は、取水施設、浄水施設、送水施設、給配水施設、および排水処理施設を有しているものであり、上水の原水を取水施設から取込み、浄水施設の着水井で受け、着水井で受けられた上水は、混和池に送られ、混和池では、PAC注入設備から原水にPAC(ポリ塩化アルミニウム)が注入され、急速撹拌により原水とPACを十分混和させるものであり、凝集剤であるPACの注入率は、管理サーバで設定されるものであり、PAC注入後、濁質は、凝集沈殿池において、マイクロフロック形成、フロック成長、フロックの沈降分離の過程を経て、水中から大部分が除去され、沈殿したフロックは、定期的またはフロックの蓄積量を指標として引き抜かれ、排水処理施設に移送され、凝集沈殿池では、通常、濁度が1度程度になるように管理されているものである。 そして、着水井、凝集沈殿池、ろ過池、排水処理施設には計測手段がそれぞれ設置されており、ろ過池は、ろ過砂やアンスラサイト等で形成されたろ層で構成され、濁質を除去するものであり、ろ過池で発生する汚泥を含む洗浄水は、排水処理施設へ送られるものであり、排水処理施設は、調整槽、濃縮設備、脱水設備で構成され、浄水施設から排出された濁質を多く含む排水は、一旦、調整槽に蓄えられ、通常、濃縮には沈降濃縮方式が採用され、脱水の機械脱水方式として、遠心脱水、ベルトプレス、スクリュープレス等が用いられるものであり、更に前記(1c)によれば、排水処理施設から着水井に返送水が返送されることが窺える。 また、管理サーバは、例えばパーソナルコンピュータ等の計算機や計算機上のソフトウェアからなり、監視制御手段は、制御LAN経由で上水処理施設におけるモニタリング情報を監視し、管理サーバからの制御指令に従って実際の施設におけるアクチュエータ等の機器運転を実行するものであり、制御LANを介して監視制御手段、管理サーバへ送られる監視情報としては、例えば、濁度やpH等の水質計測情報、流量、損失水頭、水圧、薬剤注入量があるものであり、管理サーバは、CPU、水質、プロセスデータベース、制約条件データベース、CO_(2)排出量原単位データベース、取水計画データベース、処理性能データベース、ネットワークインターフェース、データ入出力端末、及びメモリを備え、メモリには、濁質負荷量評価プログラム、および制御量評価プログラムが記憶されており、CPUは、このプログラムを実行して各評価を行うものであり、評価を行うとき、ネットワークインターフェースは、制御LANに接続された監視制御手段と通信し、水質、プロセスデータベースに水質、プロセス運転情報である運転条件、電力量が計測日時と紐付けされて格納され、又、処理水量、凝集剤注入率、ろ過池洗浄回数、排水処理施設の汚泥負荷量、過去の類似の原水、運転条件における除去性能などを格納してもよいものであり、これらのデータは計測手段により計測されるか、ユーザがオフラインで分析実施後、水質,プロセスデータベースに入力するものであり、制御量評価プログラムは、濁質負荷量と制約条件に基づき、ろ過池洗浄操作時期を設定し、薬剤注入、洗浄、排水処理によるCO_(2)排出量を算出し、運転条件を変化させた評価を行い、CO_(2)排出量が最小となる運転条件を探索するものである。 (ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「制御LANにより接続された管理サーバ、監視制御手段、上水処理施設で構成され、監視制御の対象となる上水処理施設は、取水施設、浄水施設、送水施設、給配水施設、および排水処理施設を有しているものであり、上水の原水を取水施設から取込み、浄水施設の着水井で受け、着水井で受けられた上水は、混和池に送られ、混和池では、PAC注入設備から原水にPAC(ポリ塩化アルミニウム)が注入され、急速撹拌により原水とPACを十分混和させるものであり、凝集剤であるPACの注入率は、管理サーバで設定されるものであり、PAC注入後、濁質は、凝集沈殿池において、マイクロフロック形成、フロック成長、フロックの沈降分離の過程を経て、水中から大部分が除去され、沈殿したフロックは、定期的またはフロックの蓄積量を指標として引き抜かれ、排水処理施設に移送され、凝集沈殿池では、通常、濁度が1度程度になるように管理される、上水施設の監視制御システムであって、 着水井、凝集沈殿池、ろ過池、排水処理施設には計測手段がそれぞれ設置されており、ろ過池は、ろ過砂やアンスラサイト等で形成されたろ層で構成され、濁質を除去するものであり、ろ過池で発生する汚泥を含む洗浄水は、排水処理施設へ送られるものであり、排水処理施設は、調整槽、濃縮設備、脱水設備で構成され、浄水施設から排出された濁質を多く含む排水は、一旦、調整槽に蓄えられ、通常、濃縮には沈降濃縮方式が採用され、脱水の機械脱水方式として、遠心脱水、ベルトプレス、スクリュープレス等が用いられ、排水処理施設から着水井に返送水が返送され、 管理サーバは、例えばパーソナルコンピュータ等の計算機や計算機上のソフトウェアからなり、監視制御手段は、制御LAN経由で上水処理施設におけるモニタリング情報を監視し、管理サーバからの制御指令に従って実際の施設におけるアクチュエータ等の機器運転を実行するものであり、制御LANを介して監視制御手段、管理サーバへ送られる監視情報としては、例えば、濁度やpH等の水質計測情報、流量、損失水頭、水圧、薬剤注入量があり、管理サーバは、CPU、水質、プロセスデータベース、制約条件データベース、CO_(2)排出量原単位データベース、取水計画データベース、処理性能データベース、ネットワークインターフェース、データ入出力端末、及びメモリを備え、メモリには、濁質負荷量評価プログラム、および制御量評価プログラムが記憶されており、CPUは、このプログラムを実行して各評価を行うものであり、 評価を行うとき、ネットワークインターフェースは、制御LANに接続された監視制御手段と通信し、水質、プロセスデータベースに水質、プロセス運転情報である運転条件、電力量が計測日時と紐付けされて格納され、又、処理水量、凝集剤注入率、ろ過池洗浄回数、排水処理施設の汚泥負荷量、過去の類似の原水、運転条件における除去性能などを格納してもよいものであり、これらのデータは計測手段により計測されるか、ユーザがオフラインで分析実施後、水質、プロセスデータベースに入力するものであり、制御量評価プログラムは、濁質負荷量と制約条件に基づき、ろ過池洗浄操作時期を設定し、薬剤注入、洗浄、排水処理によるCO_(2)排出量を算出し、運転条件を変化させた評価を行い、CO_(2)排出量が最小となる運転条件を探索するものである、上水施設の監視制御システム。」(以下、「甲1発明」という。) 「制御LANにより接続された管理サーバ、監視制御手段、上水処理施設で構成され、監視制御の対象となる上水処理施設は、取水施設、浄水施設、送水施設、給配水施設、および排水処理施設を有しているものであり、上水の原水を取水施設から取込み、浄水施設の着水井で受け、着水井で受けられた上水は、混和池に送られ、混和池では、PAC注入設備から原水にPAC(ポリ塩化アルミニウム)が注入され、急速撹拌により原水とPACを十分混和させるものであり、凝集剤であるPACの注入率は、管理サーバで設定されるものであり、PAC注入後、濁質は、凝集沈殿池において、マイクロフロック形成、フロック成長、フロックの沈降分離の過程を経て、水中から大部分が除去され、沈殿したフロックは、定期的またはフロックの蓄積量を指標として引き抜かれ、排水処理施設に移送され、凝集沈殿池では、通常、濁度が1度程度になるように管理される、上水施設の監視制御システムによる、CO_(2)排出量の評価方法であって、 着水井、凝集沈殿池、ろ過池、排水処理施設には計測手段がそれぞれ設置されており、ろ過池は、ろ過砂やアンスラサイト等で形成されたろ層で構成され、濁質を除去するものであり、ろ過池で発生する汚泥を含む洗浄水は、排水処理施設へ送られるものであり、排水処理施設は、調整槽、濃縮設備、脱水設備で構成され、浄水施設から排出された濁質を多く含む排水は、一旦、調整槽に蓄えられ、通常、濃縮には沈降濃縮方式が採用され、脱水の機械脱水方式として、遠心脱水、ベルトプレス、スクリュープレス等が用いられ、排水処理施設から着水井に返送水が返送され、 管理サーバは、例えばパーソナルコンピュータ等の計算機や計算機上のソフトウェアからなり、監視制御手段は、制御LAN経由で上水処理施設におけるモニタリング情報を監視し、管理サーバからの制御指令に従って実際の施設におけるアクチュエータ等の機器運転を実行するものであり、制御LANを介して監視制御手段、管理サーバへ送られる監視情報としては、例えば、濁度やpH等の水質計測情報、流量、損失水頭、水圧、薬剤注入量があり、管理サーバは、CPU、水質、プロセスデータベース、制約条件データベース、CO_(2)排出量原単位データベース、取水計画データベース、処理性能データベース、ネットワークインターフェース、データ入出力端末、及びメモリを備え、メモリには、濁質負荷量評価プログラム、および制御量評価プログラムが記憶されており、CPUは、このプログラムを実行して各評価を行うものであり、 評価を行うとき、ネットワークインターフェースは、制御LANに接続された監視制御手段と通信し、水質、プロセスデータベースに水質、プロセス運転情報である運転条件、電力量が計測日時と紐付けされて格納され、又、処理水量、凝集剤注入率、ろ過池洗浄回数、排水処理施設の汚泥負荷量、過去の類似の原水、運転条件における除去性能などを格納してもよいものであり、これらのデータは計測手段により計測されるか、ユーザがオフラインで分析実施後、水質、プロセスデータベースに入力するものであり、制御量評価プログラムは、濁質負荷量と制約条件に基づき、ろ過池洗浄操作時期を設定し、薬剤注入、洗浄、排水処理によるCO_(2)排出量を算出し、運転条件を変化させた評価を行い、CO_(2)排出量が最小となる運転条件を探索するものである、上水施設の監視制御システムによる、CO_(2)排出量の評価方法。」(以下、「甲1’発明」という。) (1-2)甲第3号証の記載事項 本件特許の出願日前に頒布された甲第3号証には、以下(3a)?(3b)の記載がある。 (3a)「【0002】 【従来の技術】 従来、浄水処理施設としては、例えば図4に示すものがある。図4において、原水1は着水井2に受水した後に凝集沈殿池3に導き、凝集剤を添加して原水中の懸濁成分を凝集沈殿させる。凝集沈殿池3の上澄水は砂ろ過池4へ導き、ろ過した処理水を消毒槽5に導き、塩素消毒した後に水道水として供給する。 【0003】 砂ろ過池4の逆洗時には、処理水を洗浄水として逆洗を行ない、洗浄排水は排水池6を着水井2に返送する。…排水池6は汚泥の沈降堆積を防ぐために攪拌機による攪拌を常時に行なっている場合が多い。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 上記した構成において、排水池6に貯留した洗浄排水を着水井2に返送する場合に、返送水は高濁度でマンガン等の濃度も高いので、一時的に浄水処理系統に悪影響を及ぼす恐れがある。さらに、砂ろ過池4で除去したクリプトスポリジウム等の病原性微生物も返送水とともに着水井に返送されるので、これらの病原性微生物が浄水処理系統内で循環し、濃縮される恐れもある。」 (3b)「【図4】 」 (1-3)甲第4号証の記載事項 本件特許の出願日前に頒布された甲第4号証には、以下(4a)?(4b)の記載がある。 (4a)「【0002】 浄水処理における汚泥を処理することにより発生する汚泥濃縮工程の上澄水や脱水工程の濾水などの分離水は、その一部又は全量が原水側に返送され再利用されている。図20に、このような返送水系を備えた浄水処理システムを示す。図20に示すシステムは、塩素注入により生じていたトリハロメタンなどの塩素化合物の生成を抑制したいわゆる高度処理システムである。1は着水井、2は凝集沈澱処理槽、3は砂濾過槽、4はオゾン処理槽、5は活性炭濾過槽である。このシステムに於いては、着水井1から供給された原水に硫酸バンド(硫酸アルミニウム)やポリ塩化アルミニウム(PAC)などの凝集剤が加えられ、原水中の浮遊物は凝集沈澱処理槽2において凝集物として沈殿除去される。上澄水に残留した凝集物は砂濾過池3にてさらに濾過除去された後、その濾水はオゾン処理槽4にてオゾン処理され、水中に存在する有機物はオゾン分解される。その後、粒状活性炭を濾過層に用いた活性炭濾過槽5を通過させて分解物等が除去された後、処理水に後塩素が注入されて浄水とされる。 【0003】 一方、凝集沈澱処理槽2において沈殿除去された凝集物は、砂濾過槽3の逆洗水とともに排泥池6に集められ、次いで濃縮槽7にて再度沈澱させられる。濃縮槽7において生じた沈殿物は、脱水槽8で脱水されて脱水ケーキとして搬出され、その脱水濾液は濃縮槽7で生じた上澄水とともにリターン水として原水側に返送される。また、活性炭濾過槽6の逆洗水はそのまま原水側に返送される。 【0004】 この高度処理システムでは、トリハロメタンなどの塩素化合物の生成を抑制するために、凝集剤投入前に注入する塩素(前塩素)量をできる限り少なくするように制御されている。このため、凝集沈澱処理槽2でMnが十分に除去されず、浄水中にMnが流出しやすい状況にある。さらに、返送水中のMn濃度は高くなっており、このような高濃度のMnを含むリターン水を原水として利用すると、MnやFeが浄水中に残留し、色度障害や配管の閉塞を招く可能性を高める結果となっている。」 (4b)「 」 (1-4)甲第5号証の記載事項 本件特許の出願日前に頒布された甲第5号証には、以下(5a)の記載がある。 (5a)「ところで、急速ろ過池を使用する浄水場では、ろ過の継続にともなってろ過砂がめづまりを起こすため、定期的に大量の浄水でろ過池を逆洗する必要がある。この逆洗には、多くの場合、残留塩素を含む浄水を使用し、洗浄に使用された後の洗浄排水は、原水に戻されて再利用されるのが一般的である。 このような浄水場全体の水運用に関する制御は水運用制御装置によって行われている。しかし、残留塩素を含むろ過池の洗浄排水を排水返送水として原水とともに再利用する場合は、排水返送水に含まれる塩素と、原水中の塩素消費物質が塩素注入点に達するまでの間に反応するので、塩素注入点における処理水中の塩素要求量は、処理水に対する排水返送水の比率変化とともに変動する。このため洗浄排水の返送は塩素注入制御に対して外乱となり、処理水の水質を不安定にしていた。」(1頁右下欄19行?2頁左上欄15行) (1-5)甲第6号証の記載事項 本件特許の出願日前に頒布された甲第6号証には、以下(6a)?(6b)の記載がある。 (6a)「4.1.1 浄水場における水と固形物の収支 濁質を多く含む河川水や湖沼・ダム水を水源とする原水は,浄水処理の過程で水と汚泥に分離される。凝集沈澱池からの排出汚泥は,重力濃縮,脱水,乾燥などの処理工程を経てケーキとして搬出され,埋立て廃棄処分あるいは再利用される。砂ろ過池の洗浄排水,汚泥濃縮槽からの上澄水,汚泥脱水ろ液は,返送水として再び着水井へ戻される。」(251頁2行?7行) (6b)「4.1.2 返送水の性状と課題 (1)返送水の性状 河川水を水源とする大規模浄水場の返送水の水質は,年間を通して変動が小さく安定しており,原水水質との差異が少ない。これに対して湖沼・ダムを水源とする中規模浄水場の返送水の水質は,季節変動と日変動がともに大きく,原水に比べて濁度,鉄,マンガンなどの濃度が高い傾向にある。… … (2)返送水の課題 河川水を水源とする浄水場では,返送水の水質は,原水水質とあまり変わらず変動幅も小さいので,返送水が浄水処理プロセスに及ぼす影響は小さい。一方,ダム水を水源とする浄水場では,返送水の水質は,原水水質よりもかなり悪く変動幅も大きいので,返送水が浄水処理プロセスに及ぼす影響は大きいと懸念される。ダム水源の場合には濁質フロックの沈降性が悪いために沈澱池で除去されずに砂ろ過池に流入する濁質量が多いので,砂ろ過池の洗浄排水とともに多量の濁質が着水井に返送されることが大きな要因である。返送水の水質を改善するためには,使用する凝集剤の変更・改良などによるフロック沈降性の向上や,沈降分離以外の濁質除去技術の適用などを検討することが必要である。」(252頁下から8行?253頁12行) (2)対比・判断 (2-1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明において、「混和池で」、「PAC注入設備から原水にPAC(ポリ塩化アルミニウム)が注入され、急速撹拌により原水とPACを十分混和させ」、「PAC注入後、濁質は、凝集沈殿池において、マイクロフロック形成、フロック成長、フロックの沈降分離の過程を経て、水中から大部分が除去され、沈殿したフロックは、定期的またはフロックの蓄積量を指標として引き抜かれ、排水処理施設に移送され」ることは、本件発明1における、「凝集剤を注入し、被処理水中の不要物を凝集及び沈殿させる凝集沈殿工程」に相当し、甲1発明において、「排水処理施設」が、「調整槽、濃縮設備、脱水設備で構成され、浄水施設から排出された濁質を多く含む排水」が、「一旦、調整槽に蓄えられ、通常、濃縮には沈降濃縮方式が採用され、脱水の機械脱水方式として、遠心脱水、ベルトプレス、スクリュープレス等が用いられ」ることは、本件発明1において、「前記凝集沈殿工程において沈殿した汚泥を濃縮し、前記汚泥から水分を分離する排水処理工程」に相当する。 また、甲1発明において、「排水処理施設から着水井に返送水が返送され」ることは、本件発明1において、「返送水を前記凝集沈殿工程に返送し、前記凝集沈殿工程に送られてくる原水に前記返送水を加えて前記被処理水とする」ことに相当し、甲1発明における「監視制御手段」は、上水処理施設におけるモニタリング情報を監視し、管理サーバからの制御指令に従って実際の施設におけるアクチュエータ等の機器運転を実行するものであり、監視情報として、濁度やpH等の水質計測情報、流量、損失水頭、水圧、薬剤注入量があるのであるから、本件発明1における、「水処理プロセスにおいて、前記凝集沈殿工程における前記凝集剤の注入量を制御する装置」に相当し、甲1発明に係る「上水施設の監視制御システム」は、本件発明1に係る「凝集剤注入支援装置」に相当する。 (イ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「凝集剤を注入し、被処理水中の不要物を凝集及び沈殿させる凝集沈殿工程と、前記凝集沈殿工程において沈殿した汚泥を濃縮し、前記汚泥から水分を分離する排水処理工程と、を含み、返送水を前記凝集沈殿工程に返送し、前記凝集沈殿工程に送られてくる原水に前記返送水を加えて前記被処理水とする水処理プロセスにおいて、前記凝集沈殿工程における前記凝集剤の注入量を制御する装置である、凝集剤注入支援装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1-1:本件発明1は、「返送水」が、「排水処理工程において汚泥から分離された水分であって、凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有していない点。 ・相違点1-2:本件発明1は、「凝集剤注入支援装置」が、「凝集沈殿工程における被処理水の水質に関する水質情報を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記水質情報に基づいて前記凝集剤の注入量を制御する制御部と、を備える」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有していない点。 イ 判断 (ア)まず、前記ア(イ)の相違点1-1から検討する。 申立人は、甲1発明の「返送水」について、未反応の凝集剤が処理水に残留することは一般的なことであり、甲1発明の「返送水」においても、未反応のPAC(凝集剤)が当然に残留していると考えるのが自然であり、PACは水中においてその一部がアルミニウムイオン、水酸化物イオン、及び塩化物イオンに解離するので、PACが加わることによって水の導電率は上昇するから、甲1発明の「返送水」は、その流入によって被処理水の導電率を増加させるものである旨、甲1発明のように、排水処理設備においてフロックから分離された水分である「返送水」に、汚泥のうちの粒子径が小さい成分が残留することも一般的なことであり、また、甲第6号証によれば、甲1発明においても、通常、「返送水」の濁度は原水よりも高いことが想定され、甲1発明の「返送水」は、その流入によって被処理水の濁度を増加させるものである旨、甲1発明の「返送水」においてPAC及び汚泥が残留しており、これによって被処理水の濁度及び導電率を増加させることは、甲第3?5号証に記載された周知技術を参照することでも明らかである旨を主張している(異議申立書40頁24行?42頁5行)。 (イ)そこで、前記(ア)の主張について検討すると、前記(1)(1-1)(ア)(1b)(【0019】、【0025】)によれば、甲第1号証には、「原水」及び「返送水」の濁度が記載されるものではなく、これらの濁度は明らかでないので、甲1発明における「返送水」が、「その流入によって被処理水の濁度」「を増加させる返送水」であるとはいえない。 このため、仮に、甲1発明における「返送水」が、「排水処理工程において汚泥から分離された水分であって、凝集剤の一部が残留して」いるものであり、残留する凝集剤により、「その流入によって被処理水の」「導電率を増加させる返送水」であるといえ、また、排水処理設備においてフロックから分離された水分である「返送水」に、汚泥のうちの粒子径が小さい成分が残留することが一般的であるとしても、甲1発明における「返送水」が、「排水処理工程において汚泥から分離された水分であって、凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」であるということはできない。 (ウ)また、甲第6号証をみると、前記(1)(1-5)(6a)?(6b)によれば、濁質を多く含む河川水や湖沼・ダム水を水源とする原水は、浄水処理の過程で水と汚泥に分離されるものであり、砂ろ過池の洗浄排水、汚泥濃縮槽からの上澄水、汚泥脱水ろ液は、「返送水」として再び着水井へ戻されるのであるところ、河川水を水源とする大規模浄水場の「返送水」の水質は、年間を通して変動が小さく安定しており、原水水質との差異が少ないのに対して、湖沼・ダムを水源とする中規模浄水場の「返送水」の水質は、季節変動と日変動がともに大きく、原水に比べて濁度、鉄、マンガンなどの濃度が高い傾向にあるため、河川水を水源とする浄水場では、「返送水」の水質は、原水水質とあまり変わらず変動幅も小さいので、「返送水」が浄水処理プロセスに及ぼす影響は小さい一方、ダム水を水源とする浄水場では、「返送水」の水質は、原水水質よりもかなり悪く変動幅も大きいので、「返送水」が浄水処理プロセスに及ぼす影響は大きいと懸念されることが分かる。 そして、河川水を水源とする浄水場では、「返送水」の濁度、鉄、マンガンなどの濃度といった水質は、原水水質とあまり変わらず変動幅も小さいので、「返送水」が浄水処理プロセスに及ぼす影響は小さいことからみれば、河川水を水源とする浄水場における「返送水」は、必ずしも、「その流入によって被処理水の濁度」「を増加させる」ものとはいえないと解するのが合理的である。 (エ)一方、甲1発明における「原水」の水源は明らかでなく、このことと、前記(ウ)とを合わせ考えると、甲1発明における「返送水」が、「その流入によって被処理水の濁度」「を増加させる返送水」であるとまではいえないから、前記甲第6号証の記載に基づいて、甲1発明における「返送水」が、「排水処理工程において汚泥から分離された水分であって、凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」であるということもできない。 (オ)更に、前記(1)(1-2)(3a)?(3b)によれば、甲第3号証には、原水を着水井に受水した後に凝集沈殿池に導き、凝集剤を添加して原水中の懸濁成分を凝集沈殿させ、凝集沈殿池の上澄水を砂ろ過池へ導き、ろ過した処理水を消毒槽に導き、塩素消毒した後に水道水として供給し、砂ろ過池の逆洗時の洗浄排水は排水池に貯留し、貯留した洗浄排水を着水井に返送する場合に、返送水は高濁度でマンガン等の濃度も高いので、一時的に浄水処理系統に悪影響を及ぼす恐れがあり、さらに、砂ろ過池で除去したクリプトスポリジウム等の病原性微生物も返送水とともに着水井に返送されるので、これらの病原性微生物が浄水処理系統内で循環し、濃縮される恐れもあることが記載されており、同(1-3)(4a)?(4b)によれば、甲第4号証には、凝集沈澱処理槽において沈殿除去された凝集物が、砂濾過槽の逆洗水とともに排泥池に集められ、次いで濃縮槽にて再度沈澱させられ、濃縮槽において生じた沈殿物が、脱水槽で脱水されて脱水ケーキとして搬出され、その脱水濾液は濃縮槽で生じた上澄水とともにリターン水として原水側に返送される高度処理システムでは、トリハロメタンなどの塩素化合物の生成を抑制するために、凝集剤投入前に注入する塩素(前塩素)量をできる限り少なくするように制御されているため、凝集沈澱処理槽でMnが十分に除去されず、返送水中のMn濃度が高くなっており、このような高濃度のMnを含むリターン水を原水として利用すると、MnやFeが浄水中に残留し、色度障害や配管の閉塞を招く可能性を高める結果となることが記載されており、同(1-4)(5a)によれば、甲第5号証には、急速ろ過池を使用する浄水場では、ろ過の継続にともなってろ過砂がめづまりを起こすため、定期的に大量の浄水でろ過池を逆洗する必要があり、この逆洗には、多くの場合、残留塩素を含む浄水を使用し、洗浄に使用された後の洗浄排水は、原水に戻されて再利用されるのが一般的であるが、残留塩素を含むろ過池の洗浄排水を排水返送水として原水とともに再利用する場合は、排水返送水に含まれる塩素と、原水中の塩素消費物質が塩素注入点に達するまでの間に反応するので、塩素注入点における処理水中の塩素要求量は、処理水に対する排水返送水の比率変化とともに変動し、このため洗浄排水の返送は塩素注入制御に対して外乱となり、処理水の水質を不安定にしていたことが記載されている。 ところが、これらの記載は、いずれも、凝集沈殿工程において沈殿した汚泥を濃縮し、前記汚泥から水分を分離する排水処理工程において汚泥から分離された水分が、その流入によって被処理水の濁度を増加させるものであることを開示するものではないから、甲第3?5号証に記載された周知技術を参照しても、甲1発明における「返送水」が、「排水処理工程において汚泥から分離された水分であって、凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」であるとはいえない。 したがって、申立人の前記(ア)の主張はいずれも採用できない。 よって、前記相違点1-1は実質的な相違点であるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。 (カ)加えて、甲第3号証の前記(3a)?(3b)によれば、「返送水」が高濁度でマンガン等の濃度も高いとき、一時的に浄水処理系統に悪影響を及ぼす恐れがあるし、甲第6号証の前記(6a)?(6b)によれば、「返送水」の水質が原水水質よりも悪いと、「返送水」が浄水処理プロセスに及ぼす影響が大きいと懸念されるのであるから、むしろ、甲1発明において、「返送水」を、「その流入によって被処理水の濁度」「を増加させる」ものとするべき積極的な理由はないと解するのが相当である。そうである以上、甲1発明において、「返送水」を、「排水処理工程において汚泥から分離された水分であって、凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」とする動機付けは存在しないというほかない。 してみれば、甲1発明において、「返送水」を、「排水処理工程において汚泥から分離された水分であって、凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」である、との前記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2-2)本件発明2?9について (ア)本件発明2?9は、いずれも、直接的または間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明2?9のいずれかと甲1発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記相違点1-1の点で相違する。 (イ)すると、前記(2-1)イ(オ)、(カ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2?4が甲1発明であるとはいえないし、本件発明2?4を、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (ウ)また、前記(2-1)イ(オ)、(カ)に記載した事項は、甲第7?12号証の記載事項に左右されるものでもないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明5?9を、甲1発明に基づいて、または、甲1発明及び甲第7?12号証に記載された本件特許の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2-3)本件発明10について (ア)前記(2-1)ア(ア)と同様にして本件発明10と甲1’発明とを対比すると、本件発明10と甲1’発明とは、少なくとも以下の点で相違する。 ・相違点1-1’:本件発明10は、「制御方法」の「返送水」が、「排水処理工程において汚泥から分離された水分であって、凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲1’発明には前記発明特定事項が記載されていない点。 (イ)そして、前記(ア)の相違点1-1’は、「返送水」が、「排水処理工程において汚泥から分離された水分であって、凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」である、との発明特定事項に係るものである点で、前記相違点1-1と実質的に同じものであり、前記(2-1)イ(オ)、(カ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明10が甲1’発明であるとはいえないし、本件発明10を、甲1’発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)小括 したがって、本件発明1?4、10は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないし、本件発明5?9は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、または、甲第1号証に記載された発明及び甲第7?12号証に記載された本件特許の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないので、前記第3の2の特許異議申立理由はいずれも理由がない。 2 甲第2号証に基づく特許異議申立理由について (1)甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明 (ア)本件特許の出願日前に頒布された甲第2号証には、以下(2a)?(2c)の記載がある。 (2a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 表流水及び地下水から選ばれる水源から取水される原水を含み、且つマンガン及びニッケルの少なくとも一方を含有する被処理水を、浄水処理する浄水処理装置であって、 前記被処理水にアルカリ剤を添加して当該被処理水のpHが高くなるように調整するpH調整手段と、 前記アルカリ剤が添加された被処理水を固液分離する第1の固液分離手段と、 を備えることを特徴とする浄水処理装置。 … 【請求項5】 表流水及び地下水から選ばれる水源から取水される原水を含み、且つマンガン及びニッケルの少なくとも一方を含有する被処理水を、浄水処理する方法であって、 前記被処理水にアルカリ剤を添加して当該被処理水のpHを高めるpH調整工程と、 pH調整後の被処理水を固液分離処理する固液分離工程と、 を備えることを特徴とする浄水処理方法。」 (2b)「【0021】 (第1実施形態) 図1は、本発明に係る浄水処理装置の第1実施形態を示す概略構成図である。図1に示す浄水処理装置10は、着水井1、凝集剤混和槽(凝集剤混和手段)2、沈殿槽(第2の固液分離手段)3、ろ過装置4、アルカリ剤混和槽(pH調整手段)5及び脱水機(第1の固液分離手段)6を備えている。 【0022】 着水井1は、河川や地下水などの水源から直接又は取水場を経て供給される原水の水位動揺を安定させるための槽である。 【0023】 凝集剤混和槽2は、被処理水と凝集剤とを混和するための槽である。 【0024】 沈殿槽3は、凝集剤混和槽2からの被処理水を、分離汚泥と分離液とに分離するための槽である。沈殿槽3の底部にはSS濃度が高められた分離汚泥を排出するためのラインL1が接続されている。一方、分離液は、いわゆる上澄み液であり、SSの含有量が十分に低減されている。沈殿槽3は、分離液をろ過装置4に供給するためのラインL2を備えている。なお、本明細書において「ライン」とは、管路を意味するものとする。 【0025】 ろ過装置4は、沈殿槽3で沈殿しなかったSSを除去するための装置である。ろ過装置4の内部には微細なSSを付着させる砂層(図示せず)が設けられている。ろ過装置4は、ろ過水を排出するためのラインL3を備えている。… … 【0027】 ろ過装置4は、通常の運転時と水の流れが逆方向となるように、ラインL3から水を供給する送水ポンプ(図示せず)を備えている。ろ過装置4には、除去されたSSを含有する逆洗排水を排出するラインL15が接続されている。 【0028】 逆洗排水は、ラインL15を通じて排水槽15に供給されるようになっている。排水槽15は、ろ過装置4からの逆洗排水を、排水槽汚泥と排水槽処理液とに分離するための槽である。排水槽汚泥は、ラインL16を通じて後述の排泥槽11に供給されるようになっている。一方、排水槽処理液は、返送ライン(返送路)L6に接続されたラインL17を通じて、返送水に添加できるようになっている。 … 【0030】 排泥槽11は、沈殿槽3からの分離汚泥及び排水槽15からの排水槽汚泥を、排泥槽汚泥と排泥槽処理液とに分離するための槽である。排泥槽汚泥は、ラインL11を通じて後述の汚泥濃縮槽12に供給されるようになっている。一方、排泥槽処理液は、返送ラインL6に接続されたラインL12を通じて、返送水に添加できるようになっている。 【0031】 汚泥濃縮槽12は、排泥槽11からの排泥槽汚泥を、濃縮汚泥と汚泥濃縮槽処理液とに分離するための槽である。濃縮汚泥は、ラインL13を通じてアルカリ剤混和槽5に供給されるようになっている。一方、汚泥濃縮槽処理液は、返送ラインL6に接続されたラインL14を通じて、返送水に添加できるようになっている。濃縮手段は、排泥槽11、汚泥濃縮槽12及びこれらを接続するラインにより構成されている。… … 【0034】 脱水機6は、アルカリ剤混和槽5からの分離汚泥の固液分離処理を行うためのものである。脱水機6からは、分離汚泥に含まれる固形物(脱水汚泥)が取り除かれた脱水分離液が排出される。… … 【0036】 ラインL5には、脱水分離液の少なくとも一部を着水井1に返送するための返送ライン(返送路)L6が接続されている。返送ラインL6で返送される水は、返送水と称されるものである。返送水は、着水井1において原水と混合され、再び被処理水の一部として凝集剤混和槽2に供給される。 【0037】 次に、浄水処理装置10を用いた被処理水の浄化処理方法について説明する。 【0038】 着水井1において原水と返送水とを混合し、この混合水(被処理水)を凝集剤混和槽2に導入する。凝集剤混和槽2において、被処理水に対して所定量の凝集剤を添加する。凝集剤の添加は、凝集剤混和槽2内の被処理水を攪拌しながら行うことが好ましい(凝集剤混和工程)。 【0039】 凝集剤の添加量は、被処理水の濁度又はSS濃度に応じて設定すればよい。 … 【0043】 凝集剤混和槽2で凝集剤が添加された被処理水を沈殿槽3に導入する。沈殿槽3において、被処理水に含まれるSSを沈降させ、沈殿槽3の底部に汚泥を沈殿させる。これにより、SS濃度が高められた分離汚泥を得る(汚泥濃縮工程)。沈殿槽3の底部に接続されたラインL1から沈殿した汚泥を分離汚泥として排出する。 【0044】 ラインL1を通じ、分離汚泥をアルカリ剤混和槽5に導入する。アルカリ剤混和槽5において、分離汚泥に対してアルカリ剤を添加する。… … 【0047】 アルカリ剤混和槽5においてpHを調整した分離汚泥を脱水機6に導入する。脱水機6における脱水処理によって、分離汚泥を脱水汚泥と脱水分離液とに分離する(固液分離工程)。脱水機6に接続されたラインL4から脱水汚泥を排出する。ここで排出される脱水汚泥とともに、マンガン等を排出することができる。 【0048】 このとき、マンガン等は脱水汚泥に吸着しているものと考えられる。これにより、マンガン等の含有量が十分に低減した脱水分離液を得ることができる。脱水分離液を公用水域に放流する場合は、排水基準値である、マンガン濃度10mg/L以下、鉄濃度10mg/L以下に低減する必要がある。一方、脱水分離液を着水井1へと返送する場合には、浄水工程の負荷をできる限り低減するためにも、マンガン、ニッケルの除去率を高める運転を行うことが好ましい。これらの物質の除去率は、被処理液のpH、SS濃度等に依存し、pH、SS濃度を調整することで、高いマンガン、ニッケル等の除去が達成される。 … 【0051】 本実施形態に係る浄水処理装置によれば、分離汚泥に含まれるマンガン等の除去処理を十分に効率的に行うことができる。すなわち、アルカリ剤混和槽5におけるpH調整及び脱水機6における固液分離処理という、極めて簡便的な処理によって、マンガン等の除去を行うことができる。 … 【0055】 更に、浄水処理装置10は、アルカリ剤混和槽5において濃縮汚泥と脱水助剤とを混和可能である。これにより、脱水機6における優れた脱水性(高い脱水速度、高いSS除去率、脱水汚泥の低い含水率)が実現可能となる。」 (2c)「【図1】 」 (イ)前記(ア)(2a)によれば、甲第2号証には「浄水処理装置」及び「浄水処理方法」が記載されており、前記(ア)(2b)、(2c)によれば、前記「浄水処理装置」は、着水井、凝集剤混和槽、沈殿槽、ろ過装置、アルカリ剤混和槽及び脱水機を備え、着水井は、河川や地下水などの水源から直接又は取水場を経て供給される原水の水位動揺を安定させるための槽であり、凝集剤混和槽は、被処理水と凝集剤とを混和するための槽であり、沈殿槽は、凝集剤混和槽からの被処理水を、分離汚泥と分離液とに分離するための槽であり、ろ過装置は、沈殿槽で沈殿しなかったSSを除去するための装置であって、通常の運転時と水の流れが逆方向となるように水を供給する送水ポンプを備え、逆洗排水は排水槽に供給されるようになっており、排水槽は、ろ過装置からの逆洗排水を、排水槽汚泥と排水槽処理液とに分離するための槽であり、排水槽汚泥は排泥槽に供給されるようになっている一方、排水槽処理液は返送水に添加できるようになっているものである。 また、排泥槽は、沈殿槽からの分離汚泥及び排水槽からの排水槽汚泥を、排泥槽汚泥と排泥槽処理液とに分離するための槽であり、排泥槽汚泥は、汚泥濃縮槽に供給されるようになっている一方、排泥槽処理液は返送水に添加できるようになっているものであり、汚泥濃縮槽は、排泥槽からの排泥槽汚泥を、濃縮汚泥と汚泥濃縮槽処理液とに分離するための槽であり、濃縮汚泥はアルカリ剤混和槽に供給されるようになっている一方、汚泥濃縮槽処理液は返送水に添加できるようになっているものであり、濃縮手段は、排泥槽、汚泥濃縮槽及びこれらを接続するラインにより構成されているものである。 更に、脱水機は、アルカリ剤混和槽からの分離汚泥の固液分離処理を行うためのものであり、脱水機からは、分離汚泥に含まれる固形物(脱水汚泥)が取り除かれた脱水分離液が排出されるものであり、脱水分離液の少なくとも一部は着水井に返送され、返送水は、着水井において原水と混合され、再び被処理水の一部として凝集剤混和槽に供給されるものである。 そして、前記「浄水処理装置」を用いた被処理水の「浄水処理方法」は、着水井において原水と返送水とを混合し、この混合水(被処理水)を凝集剤混和槽に導入し、凝集剤混和槽において、被処理水に対して所定量の凝集剤を添加するものであり、凝集剤の添加量は、被処理水の濁度又はSS濃度に応じて設定すればよいものであり、次に、凝集剤混和槽で凝集剤が添加された被処理水を沈殿槽に導入するものであり、沈殿槽において、被処理水に含まれるSSを沈降させ、沈殿槽の底部に汚泥を沈殿させ、これにより、SS濃度が高められた分離汚泥を得るものであり、沈殿槽から沈殿した汚泥を分離汚泥として排出し、分離汚泥をアルカリ剤混和槽に導入し、アルカリ剤混和槽において、分離汚泥に対してアルカリ剤を添加し、アルカリ剤混和槽においてpHを調整した分離汚泥を脱水機に導入し、脱水機における脱水処理によって、分離汚泥を脱水汚泥と脱水分離液とに分離し、脱水機から脱水汚泥を排出するものであるが、このとき、マンガン等は脱水汚泥に吸着しているものと考えられることから、マンガン等の含有量が十分に低減した脱水分離液を得ることができるものであり、脱水分離液を着水井へと返送する場合には、浄水工程の負荷をできる限り低減するためにも、マンガン、ニッケルの除去率を高める運転を行うことが好ましいものであり、前記「浄水処理装置」によれば、極めて簡便的な処理によって、マンガン等の除去を行うことができ、更に、脱水機における優れた脱水性(高い脱水速度、高いSS除去率、脱水汚泥の低い含水率)が実現可能となるものである。 (ウ)前記(イ)によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「着水井、凝集剤混和槽、沈殿槽、ろ過装置、アルカリ剤混和槽及び脱水機を備える浄水処理装置であり、 着水井は、河川や地下水などの水源から直接又は取水場を経て供給される原水の水位動揺を安定させるための槽であり、凝集剤混和槽は、被処理水と凝集剤とを混和するための槽であり、沈殿槽は、凝集剤混和槽からの被処理水を、分離汚泥と分離液とに分離するための槽であり、ろ過装置は、沈殿槽で沈殿しなかったSSを除去するための装置であって、通常の運転時と水の流れが逆方向となるように水を供給する送水ポンプを備え、逆洗排水は排水槽に供給されるようになっており、排水槽は、ろ過装置からの逆洗排水を、排水槽汚泥と排水槽処理液とに分離するための槽であり、排水槽汚泥は排泥槽に供給されるようになっている一方、排水槽処理液は返送水に添加できるようになっているものであり、 排泥槽は、沈殿槽からの分離汚泥及び排水槽からの排水槽汚泥を、排泥槽汚泥と排泥槽処理液とに分離するための槽であり、排泥槽汚泥は、汚泥濃縮槽に供給されるようになっている一方、排泥槽処理液は返送水に添加できるようになっているものであり、汚泥濃縮槽は、排泥槽からの排泥槽汚泥を、濃縮汚泥と汚泥濃縮槽処理液とに分離するための槽であり、濃縮汚泥はアルカリ剤混和槽に供給されるようになっている一方、汚泥濃縮槽処理液は返送水に添加できるようになっているものであり、濃縮手段は、排泥槽、汚泥濃縮槽及びこれらを接続するラインにより構成されているものであり、 更に、脱水機は、アルカリ剤混和槽からの分離汚泥の固液分離処理を行うためのものであり、脱水機からは、分離汚泥に含まれる固形物(脱水汚泥)が取り除かれた脱水分離液が排出されるものであり、脱水分離液の少なくとも一部は着水井に返送され、返送水は、着水井において原水と混合され、再び被処理水の一部として凝集剤混和槽に供給されるものであり、 着水井において原水と返送水とを混合し、この混合水(被処理水)を凝集剤混和槽に導入し、凝集剤混和槽において、被処理水に対して所定量の凝集剤を添加し、凝集剤の添加量は、被処理水の濁度又はSS濃度に応じて設定すればよいものであり、次に、凝集剤混和槽で凝集剤が添加された被処理水を沈殿槽に導入し、沈殿槽において、被処理水に含まれるSSを沈降させ、沈殿槽の底部に汚泥を沈殿させ、これにより、SS濃度が高められた分離汚泥を得て、沈殿した汚泥を分離汚泥として排出し、分離汚泥をアルカリ剤混和槽に導入し、アルカリ剤混和槽において、分離汚泥に対してアルカリ剤を添加し、アルカリ剤混和槽においてpHを調整した分離汚泥を脱水機に導入し、脱水機における脱水処理によって、分離汚泥を脱水汚泥と脱水分離液とに分離し、脱水機から脱水汚泥を排出するものであり、 このとき、マンガン等は脱水汚泥に吸着しているものと考えられることから、マンガン等の含有量が十分に低減した脱水分離液を得ることができ、脱水分離液を着水井へと返送する場合には、浄水工程の負荷をできる限り低減するためにも、マンガン、ニッケルの除去率を高める運転を行うことが好ましいものであり、極めて簡便的な処理によって、マンガン等の除去を行うことができ、更に、脱水機における優れた脱水性(高い脱水速度、高いSS除去率、脱水汚泥の低い含水率)が実現可能となる、浄水処理装置。」(以下、「甲2発明」という。) 「着水井、凝集剤混和槽、沈殿槽、ろ過装置、アルカリ剤混和槽及び脱水機を備える浄水処理装置であり、 着水井は、河川や地下水などの水源から直接又は取水場を経て供給される原水の水位動揺を安定させるための槽であり、凝集剤混和槽は、被処理水と凝集剤とを混和するための槽であり、沈殿槽は、凝集剤混和槽からの被処理水を、分離汚泥と分離液とに分離するための槽であり、ろ過装置は、沈殿槽で沈殿しなかったSSを除去するための装置であって、通常の運転時と水の流れが逆方向となるように水を供給する送水ポンプを備え、逆洗排水は排水槽に供給されるようになっており、排水槽は、ろ過装置からの逆洗排水を、排水槽汚泥と排水槽処理液とに分離するための槽であり、排水槽汚泥は排泥槽に供給されるようになっている一方、排水槽処理液は返送水に添加できるようになっているものであり、 排泥槽は、沈殿槽からの分離汚泥及び排水槽からの排水槽汚泥を、排泥槽汚泥と排泥槽処理液とに分離するための槽であり、排泥槽汚泥は、汚泥濃縮槽に供給されるようになっている一方、排泥槽処理液は返送水に添加できるようになっているものであり、汚泥濃縮槽は、排泥槽からの排泥槽汚泥を、濃縮汚泥と汚泥濃縮槽処理液とに分離するための槽であり、濃縮汚泥はアルカリ剤混和槽に供給されるようになっている一方、汚泥濃縮槽処理液は返送水に添加できるようになっているものであり、濃縮手段は、排泥槽、汚泥濃縮槽及びこれらを接続するラインにより構成されているものであり、 更に、脱水機は、アルカリ剤混和槽からの分離汚泥の固液分離処理を行うためのものであり、脱水機からは、分離汚泥に含まれる固形物(脱水汚泥)が取り除かれた脱水分離液が排出されるものであり、脱水分離液の少なくとも一部は着水井に返送され、返送水は、着水井において原水と混合され、再び被処理水の一部として凝集剤混和槽に供給される浄水処理装置を用いた、被処理水の浄化処理方法であって、 着水井において原水と返送水とを混合し、この混合水(被処理水)を凝集剤混和槽に導入し、凝集剤混和槽において、被処理水に対して所定量の凝集剤を添加し、凝集剤の添加量は、被処理水の濁度又はSS濃度に応じて設定すればよいものであり、次に、凝集剤混和槽で凝集剤が添加された被処理水を沈殿槽に導入し、沈殿槽において、被処理水に含まれるSSを沈降させ、沈殿槽の底部に汚泥を沈殿させ、これにより、SS濃度が高められた分離汚泥を得て、沈殿した汚泥を分離汚泥として排出し、分離汚泥をアルカリ剤混和槽に導入し、アルカリ剤混和槽において、分離汚泥に対してアルカリ剤を添加し、アルカリ剤混和槽においてpHを調整した分離汚泥を脱水機に導入し、脱水機における脱水処理によって、分離汚泥を脱水汚泥と脱水分離液とに分離し、脱水機から脱水汚泥を排出するものであり、 このとき、マンガン等は脱水汚泥に吸着しているものと考えられることから、マンガン等の含有量が十分に低減した脱水分離液を得ることができ、脱水分離液を着水井へと返送する場合には、浄水工程の負荷をできる限り低減するためにも、マンガン、ニッケルの除去率を高める運転を行うことが好ましいものであり、極めて簡便的な処理によって、マンガン等の除去を行うことができ、更に、脱水機における優れた脱水性(高い脱水速度、高いSS除去率、脱水汚泥の低い含水率)が実現可能となる、浄水処理方法。」(以下、「甲2’発明」という。) (2)対比・判断 (2-1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明において、「凝集剤混和槽において、被処理水に対して所定量の凝集剤を添加し」、「次に、凝集剤混和槽で凝集剤が添加された被処理水を沈殿槽に導入し、沈殿槽において、被処理水に含まれるSSを沈降させ、沈殿槽の底部に汚泥を沈殿させ、これにより、SS濃度が高められた分離汚泥を得て、沈殿した汚泥を分離汚泥として排出」することは、本件発明1における、「凝集剤を注入し、被処理水中の不要物を凝集及び沈殿させる凝集沈殿工程」に相当し、甲2発明において、「排泥槽」で、「沈殿槽からの分離汚泥及び排水槽からの排水槽汚泥を、排泥槽汚泥と排泥槽処理液とに分離」して、「排泥槽汚泥」を「汚泥濃縮槽に供給」し、「汚泥濃縮槽」で、「排泥槽からの排泥槽汚泥を、濃縮汚泥と汚泥濃縮槽処理液とに分離」して、「濃縮汚泥」を「アルカリ剤混和槽に供給」し、「脱水機」で、「アルカリ剤混和槽からの分離汚泥の固液分離処理を行」うことは、本件発明1における、「前記凝集沈殿工程において沈殿した汚泥を濃縮し、前記汚泥から水分を分離する排水処理工程」に相当する。 また、甲2発明において、「排泥槽処理液」を「返送水に添加」し、「汚泥濃縮槽処理液」を「返送水に添加」し、「脱水分離液の少なくとも一部は着水井に返送され、返送水は、着水井において原水と混合され、再び被処理水の一部として凝集剤混和槽に供給される」ことは、本件発明1において、「前記排水処理工程において前記汚泥から分離された前記水分であ」る「返送水を前記凝集沈殿工程に返送し、前記凝集沈殿工程に送られてくる原水に前記返送水を加えて前記被処理水とする」ことに相当する。 (イ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、 「凝集剤を注入し、被処理水中の不要物を凝集及び沈殿させる凝集沈殿工程と、前記凝集沈殿工程において沈殿した汚泥を濃縮し、前記汚泥から水分を分離する排水処理工程と、を含み、前記排水処理工程において前記汚泥から分離された前記水分である返送水を前記凝集沈殿工程に返送し、前記凝集沈殿工程に送られてくる原水に前記返送水を加えて前記被処理水とする、装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点2-1:本件発明1は、「返送水」が、「凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は前記発明特定事項を有しない点。 ・相違点2-2:本件発明1は、「装置」が、「水処理プロセスにおいて、凝集沈殿工程における凝集剤の注入量を制御する装置であって、前記凝集沈殿工程における被処理水の水質に関する水質情報を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記水質情報に基づいて前記凝集剤の注入量を制御する制御部と、を備える凝集剤注入支援装置」であるのに対して、甲2発明は、「凝集剤の添加量は、被処理水の濁度又はSS濃度に応じて設定すればよい」ものであり、「装置」が前記「制御部」を備える「凝集剤注入支援装置」ではない点。 イ 判断 (ア)まず、前記ア(イ)の相違点2-1から検討する。 申立人は、甲2発明の「返送水」について、前記1(2)(2-1)イ(ア)と同様の主張をするものであるが(異議申立書53頁3行?54頁2行)、申立人の前記1(2)(2-1)イ(ア)の主張はいずれも採用できないことは同(オ)に記載のとおりであり、同様の理由により、甲2発明の「返送水」についての申立人の主張も採用できないので、甲2発明における「返送水」が、「凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」であるということはできないから、前記相違点2-1は実質的な相違点である。 (イ)そして、前記1(2)(2-1)イ(カ)に記載したのと同様の理由により、甲2発明において、「返送水」を、「凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」とする動機付けは存在しないから、甲2発明において、「返送水」を、「凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」である、との前記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2-2)本件発明2?9について (ア)本件発明2?9は、いずれも、直接的または間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明2?9のいずれかと甲2発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記相違点2-1の点で相違する。 (イ)すると、前記(2-1)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明2?4を、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (ウ)また、前記(2-1)イ(イ)に記載した事項は、甲第7?12号証の記載事項に左右されるものでもないから、本件発明5?9を、甲2発明に基づいて、または、甲2発明及び甲第3?12号証に記載された本件特許の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2-3)本件発明10について (ア)前記(2-1)ア(ア)と同様にして本件発明10と甲2’発明とを対比すると、本件発明10と甲2’発明とは、少なくとも以下の点で相違する。 ・相違点2-1’:本件発明10は、「返送水」が、「凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲2’発明は前記発明特定事項を有しない点。 (イ)そして、前記(ア)の相違点2-1’は、「返送水」が、「凝集剤の一部が残留しており、その流入によって被処理水の濁度及び導電率を増加させる返送水」である、との発明特定事項に係るものである点で、前記相違点2-1と実質的に同じものであり、前記(2-1)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明10を、甲2’発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)小括 したがって、本件発明1?10は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、または、甲第2号証に記載された発明及び甲第3?12号証に記載された本件特許の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、前記第3の3の特許異議申立理由は理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?10に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件発明1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-10-12 |
出願番号 | 特願2015-206435(P2015-206435) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(B01D)
P 1 651・ 121- Y (B01D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 富永 正史 |
特許庁審判長 |
日比野 隆治 |
特許庁審判官 |
馳平 憲一 金 公彦 |
登録日 | 2019-12-20 |
登録番号 | 特許第6633342号(P6633342) |
権利者 | 東芝インフラシステムズ株式会社 株式会社東芝 |
発明の名称 | 凝集剤注入支援装置及び制御方法 |
代理人 | 特許業務法人 志賀国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 志賀国際特許事務所 |