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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1368121
異議申立番号 異議2020-700458  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-07 
確定日 2020-11-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6627936号発明「静電チャック装置および静電チャック装置の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6627936号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6627936号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は,平成30年8月30日に出願され,令和元年12月13日にその特許権の設定登録がされ,令和2年1月8日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,令和2年7月7日に特許異議申立人 金 海松は,特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6627936号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
板状試料を載置する載置面を有する基材,および,前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極を有する静電チャック部と,
前記静電チャック部を冷却する冷却用ベース部と,
前記静電チャック部と前記冷却用ベース部の間に介在する接着剤層と,を備え,
前記基材の厚さ方向の断面形状は,前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まず,
前記冷却用ベース部の一主面を基準とする前記凹面または前記凸面の中心の高さと,前記冷却用ベース部の一主面を基準とする前記凹面または前記凸面の外周の高さとの差の絶対値が,1μm以上かつ30μm以下である静電チャック装置。
【請求項2】
前記載置面の表面粗さが,40nm未満である請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
板状試料を載置する載置面を有する基材,および,前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極を有する静電チャック部と前記静電チャック部を冷却する冷却用ベース部を,接着剤を介して接着する工程と,
前記冷却用ベース部と接着した前記静電チャック部の前記基材の前記載置面を,前記基材の厚さ方向における断面形状が前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まないように加工する工程と,を有する静電チャック装置の製造方法。
【請求項4】
前記冷却用ベース部を,接着剤を介して接着する工程に続いて,前記静電チャック部,前記接着剤および前記冷却用ベース部からなる積層体の側面および裏面をマスキングし,前記基材の前記載置面のみを露出させる工程を有する請求項3に記載の静電チャック装置の製造方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人 金 海松は,主たる証拠として特許第6119430号公報(以下「甲第1号証」という。)を提出し,請求項1ないし4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
また,特許異議申立人 金 海松は,本件特許の請求項1ないし4に係る発明は,特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
さらに,特許異議申立人 金 海松は,本件特許の請求項1ないし4に係る発明は,特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
さらに,特許異議申立人 金 海松は,本件特許の請求項1ないし4に係る発明は,特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4 特許法第29条第2項について
1 甲第1号証の記載及び甲1発明
(1)甲第1号証には,以下の事項が記載されている。(下線は,当審で付した。以下同じ。)

「【請求項1】
一主面を板状試料を載置する載置面とした基材と,前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極とを有する静電チャック部を備えた静電チャック装置において,
前記一主面上の周縁部に環状突起部を設け,前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域に前記環状突起部と同一の高さの複数の突起部を設け,
前記環状突起部の上端部及び前記複数の突起部の上端部は,前記一主面の中心部を底面とする凹面上に位置しており,
前記静電チャック部の他の主面側に冷却用ベース部を設け,
前記環状突起部の前記冷却用ベース部の一主面からの高さと,前記領域の中央近傍に位置する前記突起部の前記冷却用ベース部の一主面からの高さとの差は,1μm以上かつ30μm以下であり,
前記基材は,電気抵抗が1×10^(14)Ω・cm以上であることを特徴とする静電チャック装置。」

「【0010】
本発明は,上記の事情に鑑みてなされたものであって,板状試料を吸着する際や脱離する際に該板状試料が変形する虞がなく,板状試料の温度が均一化され,しかも,パーティクルが発生し難い静電チャック装置を提供することを目的とする。」

「【0012】
すなわち,本発明の静電チャック装置は,一主面を板状試料を載置する載置面とした基材と,前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極とを有する静電チャック部を備えた静電チャック装置において,前記一主面上の周縁部に環状突起部を設け,前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域に前記環状突起部と同一の高さの複数の突起部を設け,前記環状突起部の上端部及び前記複数の突起部の上端部は,前記一主面の中心部を底面とする凹面上に位置していることを特徴とする。
【0013】
この静電チャック装置では,基材の一主面上の周縁部に環状突起部を設け,この一主面上の環状突起部に囲まれた領域に環状突起部と同一の高さの複数の突起部を設け,これら環状突起部の上端部及び複数の突起部の上端部を,一主面の中心部を底面とする凹面上に位置したことにより,板状試料と環状突起部及び複数の突起部との接触が板状試料の全面にて確実に行われ,よって,板状試料を吸着する際や脱離する際に該板状試料が変形する虞がなく,この板状試料の温度が均一化される。
また,環状突起部の上端部と複数の突起部の上端部とで板状試料を密着状態で支持することにより,これらの上端部と板状試料との接触面が摺れる虞がなくなり,パーティクルが発生し難くなる。」

「【0028】
[第1の実施形態]
図1は,本発明の第1の実施形態の静電チャック装置を示す断面図,図2は同静電チャック装置の静電チャック部の周縁部近傍を示す部分拡大断面図である。
この静電チャック装置1は,円板状の静電チャック部2と,この静電チャック部2を所望の温度に冷却する厚みのある円板状の冷却用ベース部3と,これら静電チャック部2と冷却用ベース部3とを接着一体化する有機系接着剤層4とにより主として構成されている。
【0029】
静電チャック部2は,上面(一主面)が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面とされた載置板(基材)11と,この載置板11と一体化され該載置板11を支持する支持板12と,これら載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用内部電極13及び静電吸着用内部電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と,支持板12を貫通するようにして設けられ静電吸着用内部電極13に直流電圧を印加する給電用端子15とにより構成されている。
【0030】
そして,この載置板11の表面(一主面)11a上の周縁部には,この周縁部を一周するように,断面四角形状の環状突起部21が設けられており,さらに,この表面11a上の環状突起部21に囲まれた領域には,環状突起部21と高さが同一であり横断面が円形状かつ縦断面が略矩形状の複数の突起部22が設けられている。そして,環状突起部21の上端部21a及び複数の突起部22各々の上端部22aは,表面11aの中心点に底面が位置する凹面23上に位置している。」

「【0038】
この環状突起部21の上端部21a及び複数の突起部22それぞれの上端部22aを凹面23に位置したことにより,板状試料Wが環状突起部21及び複数の突起部22に密着状態で支持されることとなり,板状試料Wと環状突起部21及び複数の突起部22との間に隙間や摺れ等が生じなくなる。よって,パーティクルが発生し難くなる。
この環状突起部21では,板状試料Wを載置して封止した際のリーク量を外周部のそれぞれの位置で一定とするために,この上端部21aの表面粗さRaを0.001μm以上かつ0.050μm以下とすることが好ましい。」

「【0042】
また,冷却用ベース部3の上面(一主面)3aから環状突起部21の上端部21aまでの高さと,上面3aから表面11aの中央近傍に位置する突起部22の上端部22aまでの高さとの差は,1μm以上かつ30μm以下であることが好ましく,5μm以上かつ15μm以下であることがより好ましい。」

「【0052】
冷却用ベース部3は,静電チャック部2を冷却して所望の温度に保持するためのもので,厚みのある円板状のものである。
この冷却用ベース部3としては,例えば,その内部に水を循環させる流路31が形成された水冷ベース等が好適である。」

「【0065】
次に,この静電チャック装置1の製造方法について説明する。 まず,酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al_(2)O_(3)-SiC)複合焼結体または酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))焼結体により,載置板11及び支持板12となる一対の板状体を作製する。
例えば,炭化ケイ素粉末及び酸化アルミニウム粉末を含む混合粉末または酸化イットリウム粉末を所望の形状に成形し,その後,1400℃?2000℃程度の温度,非酸化性雰囲気下,好ましくは不活性雰囲気下にて所定時間,焼成することにより,一対の板状体を得ることができる。」

「【0067】
次いで,一方の板状体上の静電吸着用内部電極形成層及び絶縁材層の上に,他方の板状体を重ね合わせ,これらを高温,高圧下にてホットプレスして一体化する。このホットプレスにおける雰囲気は,真空,あるいはAr,He,N2等の不活性雰囲気が好ましい。また,ホットプレスにおける一軸加圧の際の圧力は5?10MPaが好ましく,温度は1400℃?1850℃が好ましい。
【0068】
このホットプレスにより,静電吸着用内部電極形成層が焼成されて導電性複合焼結体からなる静電吸着用内部電極13となり,同時に,これらの板状体が載置板11及び支持板12となって,静電吸着用内部電極13及び絶縁材層14と接合一体化され,静電チャックとなる。
【0069】
次いで,冷却用ベース部3上の所定領域に,複数種の高さのスペーサをそれぞれ固定する。
ここでは,スペーサの上端部が,冷却用ベース部3上の中心部から周縁部に向かって凹面23と同一形状となるように,スペーサの高さ及び位置を設定する。
次いで,シリコーン系樹脂組成物からなる接着剤を塗布する。この接着剤の塗布量は,静電チャックと冷却用ベース部3とがスペーサにより所望の形状を保持した状態で接合一体化できるように調整する。
この接着剤の塗布方法としては,ヘラ等を用いて手動で塗布する他,バーコート法,スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0070】
塗布後,静電チャックと,シリコーン系樹脂組成物及びスペーサを有する冷却用ベース部3とを重ね合わせる。
また,立設した給電用端子15及び碍子16を,冷却用ベース部3中に穿孔された給電用端子収容孔(図示略)に挿入し嵌め込む。
次いで,静電チャックを冷却用ベース部3に対して所定の圧力にて押圧し,静電チャックの底面の中央部が冷却用ベース部3の上面に密着するまで落し込み,押し出された余分な接着剤を除去する。
これにより,静電チャックは曲げ加工されて,中心部に位置する部分を底面とする凹面23が形成された静電チャック部2となる。」

「【0072】
本実施形態の静電チャック装置1によれば,載置板11の表面11a上の周縁部に環状突起部21が設けられ,この表面11a上の環状突起部21に囲まれた領域に環状突起部21と高さが同一の複数の突起部22が設けられ,これら環状突起部21の上端部21a及び複数の突起部22各々の上端部22aが表面11aの中心部を底面とする凹面23上に位置しているので,板状試料Wを吸着する際や脱離する際に板状試料Wが変形する虞がなく,この板状試料Wの温度を均一化することができる。
また,環状突起部21の上端部21aと複数の突起部22各々の上端部22aとで板状試料Wを密着状態で支持するので,これら上端部21a,22aと板状試料Wとの接触面が摺れる虞がなく,パーティクルを発生し難くすることができる。」

「【図1】



(2)甲第1号証の記載について検討する。
ア 甲第1号証の請求項1及び段落0028から,「静電チャック装置1」は,「静電チャック部2」と,静電チャック部の他の主面側に設けられた「冷却用ベース部3」とを備えている。
ここで,甲第1号証の段落0028の,「静電チャック部2を所望の温度に冷却する厚みのある円板状の冷却用ベース部3」との記載から,「冷却用ベース部3」は「静電チャック部2」を冷却するものであることは明らかである。

イ 甲第1号証の段落0028の,「これら静電チャック部2と冷却用ベース部3とを接着一体化する有機系接着剤層4」との記載,及び,図1から,「静電チャック装置1」は,「静電チャック部2」と「冷却用ベース部3」とを接着一体化する「有機系接着剤層4」を備えており,ここで,「有機系接着剤層4」が,「静電チャック部2」と「冷却用ベース部3」の間に介在していることは明らかである。

ウ 甲第1号証の段落0029の,「静電チャック部2は,上面(一主面)が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面とされた載置板(基材)11と,この載置板11と一体化され該載置板11を支持する支持板12と,これら載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用内部電極13」「とにより構成されている。」という記載,及び請求項1の記載から,「静電チャック部2」は,「上面(一主面)が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面とされた載置板(基材)11」と「静電吸着用内部電極13」を備える。
ここで,甲第1号証の請求項1及び段落0012の,「前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極」という記載から,「静電吸着用内部電極13」が,「板状試料W」を該「載置面」に「静電吸着する」ものであることは明らかである。

エ 甲第1号証の請求項1及び段落0030,0038の記載から,「載置板11」の一主面には,「環状突起部21」及び「複数の突起部22」が設けられており,ここで,「環状突起部21の上端部21a」及び「複数の突起部22各々の上端部22a」は,「板状試料Wを密着状態で支持」するものであり,「環状突起部21の上端部21a」及び「複数の突起部22各々の上端部22a」が,「表面11aの中心部を底面とする凹面23上に位置している」と認められる。
そして,甲第1号証の請求項1及び段落0042から,「冷却用ベース部3の上面(一主面)3aから環状突起部21の上端部21aまでの高さと,上面3aから表面11aの中央近傍に位置する突起部22の上端部22aまでの高さとの差は,1μm以上かつ30μm以下である」と認められる。

オ 甲第1号証の段落0065-0068の記載から,「静電チャック」が,「載置板11」と「静電吸着用内部電極13」とを備えていることは明らかである。
そして,甲第1号証の段落0069,0070には,「冷却用ベース部3」に「シリコーン系樹脂組成物からなる接着剤」を塗布し,「静電チャック」と「シリコーン系樹脂組成物及びスペーサを有する冷却用ベース部3とを重ね合わせ」,「次いで,静電チャックを冷却用ベース部3に対して所定の圧力にて押圧し,静電チャックの底面の中央部が冷却用ベース部3の上面に密着するまで落し込み,押し出された余分な接着剤を除去する」ことにより,「静電チャックは曲げ加工されて,中心部に位置する部分を底面とする凹面23が形成された静電チャック部2となる」「静電チャック装置の製造方法」が記載されている。

(3)甲第1号証の記載,特に請求項1及び上記ア-エの記載から,甲第1号証には,以下の発明(以下「甲1発明a」という。)が記載されていると認められる。

「 一主面を板状試料を載置する載置面とした載置板と,前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極とを有する静電チャック部と,
前記静電チャック部の他の主面側に,静電チャック部を冷却する冷却用ベース部と,
静電チャック部と冷却用ベース部の間に介在する有機系接着剤層とを備え,
前記載置板の前記一主面上の周縁部に環状突起部を設け,前記一主面上の前記環状突起部に囲まれた領域に前記環状突起部と同一の高さの複数の突起部を設け,
前記環状突起部の上端部及び前記複数の突起部の上端部は,前記一主面の中心部を底面とする凹面上に位置しており,
前記環状突起部の前記冷却用ベース部の一主面からの高さと,前記領域の中央近傍に位置する前記突起部の前記冷却用ベース部の一主面からの高さとの差は,1μm以上かつ30μm以下であることが好ましい,
静電チャック装置。」


(4)また,甲第1号証の記載,特に上記オの記載から,甲第1号証には,以下の発明(以下「甲1発明b」という。)が記載されていると認められる。

「 板状試料を載置する載置面を有する載置板,及び,板状試料を載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極を有する静電チャックと,シリコーン系樹脂組成物からなる接着剤及び静電チャック部を冷却する冷却用ベース部とを重ね合わせ,
静電チャックを冷却用ベース部に対して所定の圧力にて押圧し,静電チャックの底面の中央部が冷却用ベース部の上面に密着するまで落し込み,押し出された余分な接着剤を除去することにより,静電チャックは曲げ加工されて,中心部に位置する部分を底面とする凹面が形成された静電チャック部となる,静電チャック装置の製造方法。」

2 本件発明1について
(1)対比
ア 本件発明1と甲1発明aとを対比する。
(ア)甲1発明aの「一主面を板状試料を載置する載置面とした載置板」,「前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極とを有する静電チャック部」が,本件発明1の「板状試料を載置する載置面を有する基材」,「前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極を有する静電チャック部」に,それぞれ相当する。
そして,甲1発明aの「静電チャック部を冷却する冷却用ベース部」,「静電チャック部と冷却用ベース部の間に介在する有機系接着剤層」が,本件発明1の「前記静電チャック部を冷却する冷却用ベース部」,「前記静電チャック部と前記冷却用ベース部の間に介在する接着剤層」に,それぞれ相当する。

(イ)甲1発明aの「載置板」の「一主面」上に設けられた「環状突起部」と「複数の突起部」は,その「環状突起部の上端部」及び「複数の突起部の上端部」が「前記一主面の中心部を底面とする凹面上に位置」しており,ここで,甲第1号証の図1の記載も参酌すると,「載置板」の「厚さ方向の断面形状」は,「前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面をなし」ているといえる。
すると,甲1発明aの「前記環状突起部の上端部及び前記複数の突起部の上端部は,前記一主面の中心部を底面とする凹面上に位置して」いる点は,本件発明1の「前記基材の厚さ方向の断面形状は,前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面をな」す点で一致する。
また,甲第1号証の図1の記載も参酌すると,「環状突起部」は「載置板11」の外周に,中央近傍に位置する「突起部」は「載置板11」の中心に存在するから,甲1発明aの「前記環状突起部の前記冷却用ベース部の一主面からの高さと,前記領域の中央近傍に位置する前記突起部の前記冷却用ベース部の一主面からの高さとの差」は,本件発明1の「前記冷却用ベース部の一主面を基準とする前記凹面の中心の高さと,前記冷却用ベース部の一主面を基準とする前記凹面の外周の高さとの差の絶対値」に対応する。

イ 以上のことから,本件発明1と甲1発明aとの一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点>
「 板状試料を載置する載置面を有する基材,および,前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極を有する静電チャック部と,
前記静電チャック部を冷却する冷却用ベース部と,
前記静電チャック部と前記冷却用ベース部の間に介在する接着剤層と,を備え,
前記基材の厚さ方向の断面形状は,前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まず,
前記冷却用ベース部の一主面を基準とする前記凹面または前記凸面の中心の高さと,前記冷却用ベース部の一主面を基準とする前記凹面または前記凸面の外周の高さとの差の絶対値が,1μm以上かつ30μm以下である静電チャック装置。」

<相違点>
基材の厚さ方向の断面形状について,本件発明1では,「変曲点を含まず」と特定されているのに対し,甲1発明aでは,そのように特定されていない点。

(2) 当審の判断
甲第1号証には,基材の厚さ方向の断面形状における「変曲点」について,記載も示唆も何らされていない。
また,基材の厚さ方向の断面形状が,載置面の中心から載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面をなしている場合において,「変曲点を含ま」ないようにすることが,当該技術分野の技術常識であるという証拠はない。
そうすると,甲1発明aにおいて,基材の厚さ方向の断面形状について,「変曲点を含まず」と特定することに,何ら動機付けはない。
よって,甲1発明aから,上記相違点に係る本件発明1の構成とすることを,当業者が容易になし得たとはいえない。

したがって,本件発明1は,上記甲第1号証に記載された技術的事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明2について
本件発明2は,本件発明1に対して,技術的事項を追加したものである。
よって,上記2(2)に示した理由と同様の理由により,上記甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

4 本件発明3について
(1)対比
ア 本件発明3と甲1発明bとを対比する。

(ア)甲1発明bの「板状試料を載置する載置面を有する載置板」が,本件発明3の「板状試料を載置する載置面を有する基材」に相当する。
そして,甲1発明bの「板状試料を載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極を有する静電チャック」が,本件発明3の「静電チャック部」と,「前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極を有する」点で一致する。
そして,甲1発明bの「静電チャック部を冷却する冷却用ベース部」が,本件発明3の「前記静電チャック部を冷却する冷却用ベース部」に相当する。

(イ)甲1発明bにおける,「板状試料を載置する載置面を有する載置板,および,板状試料を載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極を有する静電チャックと,シリコーン系樹脂組成物からなる接着剤及び静電チャック部を冷却する冷却用ベース部とを重ね合わせ,静電チャックを冷却用ベース部に対して所定の圧力にて押圧し,静電チャックの底面の中央部が冷却用ベース部の上面に密着するまで落し込」むことにより,「静電チャック」と「冷却用ベース部」とが「シリコーン系樹脂組成物からなる接着剤」により接着されることは明らかであるから,甲1発明bは,本件発明3の「板状試料を載置する載置面を有する基材,および,前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極を有する静電チャック部と前記静電チャック部を冷却する冷却用ベース部を,接着剤を介して接着する工程」を備えているといえる。

(ウ)甲1発明bにおける「中心部に位置する部分を底面とする凹面が形成された静電チャック部」は,甲第1号証の図1の記載も参酌すると,「基材」の「厚さ方向の断面形状」が,「前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面をなし」ているといえる。
そして,甲1発明bにおいて,「静電チャックを冷却用ベース部に対して所定の圧力にて押圧」することにより,「静電チャックは曲げ加工されて,中心部に位置する部分を底面とする凹面が形成された静電チャック部となる」から,甲1発明bは,本件発明3の「前記静電チャック部の前記基材の前記載置面を,前記基材の厚さ方向における断面形状が前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面」「をな」す「ように加工する工程」を備えているといえる。

イ 以上のことから,本件発明3と甲1発明bとの一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点>
「 板状試料を載置する載置面を有する基材,および,前記板状試料を前記載置面に静電吸着する静電吸着用内部電極を有する静電チャック部と前記静電チャック部を冷却する冷却用ベース部を,接着剤を介して接着する工程と,
前記静電チャック部の前記基材の前記載置面を,前記基材の厚さ方向における断面形状が前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面をなすように加工する工程と,を有する静電チャック装置の製造方法。」

<相違点>
(相違点1)
加工する工程について,本件発明3では,「前記冷却用ベース部と接着した前記静電チャック部の前記基材の前記載置面を」「加工する」のに対し,甲1発明bでは,そのように特定されていない点。

(相違点2)
加工する工程について,本件発明3では,「変曲点を含まないように加工」すると特定されているのに対し,甲1発明bでは,そのように特定されていない点。

(2)当審の判断
ア 相違点2について
事案に鑑み,相違点2について最初に検討する。

(ア)甲第1号証には,「基材の厚さ方向のにおける断面形状」における「変曲点」について,記載も示唆も何らされていない。
また,基材の厚さ方向の断面形状が,載置面の中心から載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面をなしている場合において,「変曲点」を含まないようにすることが,当該技術分野の技術常識であるという証拠はない。
そうすると,甲1発明bにおいて,「変曲点を含まないように加工する」と特定することに,何ら動機付けはない。
よって,甲1発明bから,上記相違点2に係る本件発明3の構成とすることを,当業者が容易になし得たとはいえない。

(イ)上記(ア)のとおりであるから,他の相違点については検討するまでもなく,本件発明3は,上記甲第1号証に記載された技術的事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本件発明4について
本件発明4は,本件発明3に対して,技術的事項を追加したものである。
よって,上記4(2)に示した理由と同様の理由により,上記甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

6 特許異議申立人の主張について
(1)本件発明3,4について
ア 特許異議申立人 金 海松は,特許異議申立書において,
「静電チャック装置において,板状試料が載置される面が凹面となっている場合,その凹面に変曲点が存在すると変曲点において板状試料が載置される面と板状試料との間に隙間が形成されることは,当業者であれば容易に理解される。また,板状試料が載置される面と板状試料との間に隙間が形成されている場合と,これらの間に隙間が形成されていない場合とでは,板状試料が載置される面と板状試料の間における熱の伝わり方が異なることは自明であり,この隙間の有無によって,板状試料の温度の均一性が阻害されることも自明である。すなわち,凹面に変曲点が存在すれば,板状試料の温度の均一性が阻害されることは当業者にとって自明である。したがって,静電チャックの製造方法において,周知の課題であり,かつ,甲第1号証において自明の課題である,載置される板状試料の温度を均一化するため,板状試料が載置される面を変曲点が含まれないように加工し,板状試料との間に隙間が形成されないようにすることは,当業者が容易に想到し得る事項であると考えられる。」と主張している。

イ 加えて,特許異議申立人 金 海松は,特許異議申立書において,
「また,本件特許発明3では,静電チャック部と冷却用ベース部とを接着剤を介して接着したのち,載置面の形状を凹面または凸面に加工する。一方,甲1発明bでは,静電チャック部と冷却用ベース部とを接着剤を介して接着するとき,静電チャックを冷却用ベース部に対して所定の圧力にて押圧することで,載置面の形状を凹面に加工する。このように,本件特許発明3と,甲1発明bとでは,載置面の形状を凹面に加工するタイミングが,静電チャック部と冷却用ベース部とを接着する工程に対して異なっている。しかしながら,上述したように,載置面に載置される板状試料の表面温度を均一化することは,静電チャック装置の製造方法においては周知の課題であり,凹面において変曲点が形成されれば隙間ができること,および,隙間ができれば板状試料が載置される面と板状試料との間における熱の伝わり方の違いにより板状試料の温度の均一性が阻害される課題は当業者にとって自明の課題であることから,甲第1号証において,凹面を形成する工程のあとに変曲点が形成され得る工程が設定されているのであれば,変曲点が形成され得る工程の後に凹面を形成する工程を設定することで,凹面が変曲点を含まないようにすることは,当業者であれば容易に想到することである。まして,本件特許発明3は,甲第1号証の製造方法に対して,凹面を形成する工程と,変曲点が形成され得る工程との順番を入れ替えたに過ぎず,単なる設計的事項に過ぎない。すなわち,甲第1号証の記載に基づいて,静電チャック部と冷却用ベース部とを接着する工程と,載置面の形状を凹面に加工する工程との順番を入れ替えることは,設計的事項に過ぎないと解することができる(特許・実用新案審査基準,第III部特許要件第2章新規性進歩性(特許法第29条第1項・第2項)第2節進歩性3.1.2動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素(1)設計変更等(iv)一定の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用)。」と主張している。

ウ 上記アについて検討する。
甲第1号証には,「変曲点」について何ら記載も示唆もされておらず,また,当該技術分野において,「静電チャックを冷却用ベース部に対して所定の圧力にて押圧し,静電チャックの底面の中央部が冷却用ベース部の上面に密着するまで落し込み,押し出された余分な接着剤を除去することにより,静電チャックは曲げ加工されて,中心部に位置する部分を底面とする凹面」を形成した場合に,板状試料を載置する載置面を有する基材の厚さ方向の断面形状が,「変曲点」を含まないものとすることが技術常識とも認められないから,甲1発明bにおいて,「板状試料が載置される面を変曲点が含まれないように加工」することが,当業者が容易に想到しうる事項であるとはいえない。
すると,特許異議申立人が主張するように,当該技術分野において,載置される板状試料の温度を均一化することが周知の課題であったとしても,板状試料が載置される面を変曲点が含まれないように加工し,板状試料との間に隙間が形成されないようにすることが,当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

エ 上記イについて検討する。
甲1発明bにおいては,「静電チャックを冷却用ベース部に対して所定の圧力にて押圧し,静電チャックの底面の中央部が冷却用ベース部の上面に密着するまで落し込み,押し出された余分な接着剤を除去することにより,静電チャックは曲げ加工され」るものであるから,「静電チャックの底面の中央部が冷却用ベース部の上面に密着するまで落し込」む工程と,「静電チャックは曲げ加工され」る工程,すなわち,「接着する工程」と「凹面を形成する工程」は,一体不可分の工程であると認められ,その工程の順番を入れ替えることはできないから,特許異議申立人の主張は前提を欠き,採用することができない。

(2)本件発明1,2について
ア 特許異議申立人 金 海松は,特許異議申立書において,
「本件特許発明1の構成(A5)には,板状試料が載置される面には変曲点が含まれないと記載されている。一方,甲1発明aの構成(a5)には,変曲点についての記載はない。しかしながら,上記「(イ-3)検討」で述べたように,本件特許発明1の解決課題である「板状試料の表面混度を均ーにすることができる静電チャック装置・・・を提供する」(本件特許の明細書段落0012)ことは,静電チャック装置における周知の課題であり,凹面において変曲点が形成されれば隙間ができること,および,隙間ができれば板状試料が載置される面と板状試料との間における熱の伝わり方の違いにより板状試料の温度の均一性が阻害される課題は当業者にとって自明の課題である。これらのことから,載置される板状試料の温度を均一化するため,甲第1号証に記載の「凹面23」を板状試料との間に隙間が形成されないように,変曲点を含まない形状とすることは,当業者が容易に想到し得る事項であると考えられる。
また,本件特許発明1の構成を得る方法として,本件特許発明3が開示されている。上記「(イ-3)検討」で述べたように,本件特許発明3が,当業者が容易に想到し得る事項である以上,その製造方法により得られる本件特許発明1も自ずと容易に想到し得る事項である。」と主張している。

イ 甲第1号証には,「変曲点」について何ら記載も示唆もされておらず,また,当該技術分野において,「変曲点」を含まない形状とすることが,ただちに,板状試料の温度の均一化につながることが技術常識とも認められないから,基板の厚さ方向の断面形状を「変曲点を含まない形状」とすることが,当業者が容易に相当しうる事項であるとはいえない。
また,上記4及び上記(1)で検討したように,本件発明3が,当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

7 まとめ
以上のとおり,本件発明1-4は,甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 特許法第36条第6項第1号についての当審の判断
1 本件発明の特徴について
(1)請求項1,2について
ア 本願の発明の詳細な説明の段落0009に,「そのため,静電チャック部全体が凹面を形成しているものの,その凹面に変曲点が存在する。凹面に変曲点が存在すると,板状試料を吸着する際に,板状試料と凹面の間に隙間が生じて,板状試料の温度も均一化され難くなるという課題があった。」と,段落0013に「上記課題を解決すべく,本発明者等が鋭意検討した結果,板状試料の表面温度を均一にすることができない原因の1つとしては,静電チャック部の載置板の表面に変曲点が存在すると,板状試料を吸着する際に,板状試料と載置板の表面の間に隙間が生じて,板状試料の温度も均一化され難くなることが分かった。そこで,以下の態様の静電チャック装置によれば,板状試料の温度を均一化できることを見出し,本発明を完成させた。」と記載されているように,本願の発明の課題は,静電チャック部の載置板が凹面を形成している際,凹面の表面に変曲点が存在することにより,板状試料の温度が均一化され難くなるというものであることが把握できる。
そして,本件発明1には,「前記基材の厚さ方向の断面形状は,前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まず」という,上記本願の発明の課題を解決する手段が反映されていることは明らかである。
すると,本件発明1が,本願の発明の詳細な説明において,「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるとはいえない。

イ なお,本願の発明の詳細な説明の段落0104には,「比較例2」として,「静電チャック部の載置板の載置面に研削加工および研磨加工を施し,載置板の厚さ方向の断面形状が,凹面の中心(載置面の中心)から凹面の外周(載置面の外周に相当)に向かって,冷却用ベース部の一主面を基準とする高さが次第に高くなるように湾曲する曲面状をなすようにする際に,実施例1よりも凹面の中心と凹面の外周の高低差が大きくなるようにしたこと以外は,実施例1と同様にして,比較例2の静電チャック装置を得た。」と記載されている。
ここで,「比較例2」は実施例ではないから,「比較例2」の「凹面の中心と凹面の外周の高低差」,すなわち,「冷却用ベース部の一主面を基準とする凹面または凸面の中心の高さと,冷却用ベース部の一主面を基準とする凹面または凸面の外周の高さとの差の絶対値」が,本件発明1の範囲である「1μm以上かつ30μm以下」を満たすものでないことは明らかである。
すると,「比較例2」は,静電チャック部の載置板の表面に変曲点が存在することにより,板状試料の温度が均一化され難くなるという本願の発明の課題とは異なる要因により,試料の面内温度特性が悪くなるものであり,「比較例2」の存在を根拠として,出願時の技術常識に照らして,本件発明1の範囲まで,本願発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。

ウ 特許異議申立人 金 海松は,特許異議申立書において,
「本件請求項1に係る発明は,「静電チャック装置」であって,本件請求項1には,「静電チャック部」が備える「前記基材の厚さ方向の断面形状は,前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まず,」と記載されている。しかしながら,本件特許の明細書に記載されている表1(段落0110)には,載置面が凹面であり,かつ,変曲点を含まないにもかかわらず,試料の面内温度特性が,試料の面内温度特性を均ーであるとする実施例1,2(面内温度特性(℃):土3.0℃)より悪い比較例2が記載されている。なお,後述の「(4-3)(ア)(ア-1)」に記載のとおり,本件請求項1における「冷却用ベース部の一主面を基準とする凹面または凸面の中心の高さと,冷却用ベース部の一主面を基準とする凹面または凸面の外周の高さとの差の絶対値が,1μm以上かつ30μm以下である。」と,表1の「平面度」とは,全く異なるものである。これらのことから,本件請求項1の構成だけでは,「板状試料の表面温度を均ーにすることができる静電チャック装置」(本件特許の明細書段落0012)となり得ず,本件請求項1に係る発明が「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているため,本件請求項1に係る発明は,特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。また,本件請求項1を直接的に引用して記載する本件請求項2に係る発明も「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えており,特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。」と主張する。

エ しかしながら,上記ア,イで検討したように,本件発明1が,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとまではいえない。
また,本件発明1を引用する本件発明2も,同様に,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとまではいえない。
したがって,特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(2)請求項3,4について
ア 上記(1)アで検討したように,本願の発明の課題は,載置板の表面の凹面に変曲点が存在することにより,板状試料の温度が均一化され難くなるというものであることが把握でき,ここで,本件発明3には,「前記冷却用ベース部と接着した前記静電チャック部の前記基材の前記載置面を,前記基材の厚さ方向における断面形状が前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まないように加工する工程と」という,上記本願の発明の課題を解決する手段が反映されていることは明らかである。
そして,本願の発明の詳細な説明,特に段落0065-0086には,基材の厚さ方向の断面形状は,前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まないように加工する具体的な製造方法も記載されており,出願時の技術常識に照らして,本件発明3の範囲まで,本願発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。
また,上記(1)イで検討したように,「比較例2」は,静電チャック部の載置板の表面に変曲点が存在することにより,板状試料の温度が均一化され難くなるという本願の発明の課題とは異なる要因により,試料の面内温度特性が悪くなるものであり,「比較例2」の存在を根拠として,出願時の技術常識に照らして,本件発明1の範囲まで,本願発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。

イ 特許異議申立人 金 海松は,特許異議申立書において,
「本件請求項3に係る発明は,「静電チャック装置の製造方法」であって,本件請求項3には,「前記静電チャック部と前記静電チャック部を冷却する冷却用ベース部を,接着剤を介して接着」したのち,「前記載置面を,前記基材の厚さ方向における断面形状が前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まないように加工する」ことが記載されている。しかしながら,上述した表1の比較例2のように,載置面が凹面であり,かつ,変曲点を含まないように加工しただけでは,「板状試料の表面温度を均ーにすることができる静電チャック装置・・・の製造方法」(本件特許の明細書段落0012)となり得ず,本件請求項3に係る発明が「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えている。したがって,本件請求項3に係る発明は,特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。また,本件請求項3を直接的に引用して記載する本件請求項4に係る発明も「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えており,特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。」と主張する。

ウ しかしながら,上記アで検討したように,本件発明3及び本件発明3を引用する本件発明4が,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとまではいえない。
したがって,特許異議申立人の主張を採用することはできない。

2 「変曲点」を含まない載置面の形状について
(1)本願の発明の詳細な説明の段落0063に,「本実施形態の静電チャック装置1によれば,載置板11の厚さ方向の断面形状が,載置面11aの中心11bから載置面11aの外周11cに向かって次第に湾曲する曲面状である凹面23をなし,かつ,変曲点を含まず,冷却用ベース部3の一主面3aを基準とする凹面23の中心23aの高さと,冷却用ベース部3の一主面3aを基準とする凹面23の外周23bの高さとの差が,1μm以上かつ30μm以下であるため,板状試料Wと凹面23との局所的な接触を防止するとともに,静電吸着時に,板状試料Wが凹面23の形状に追随して変形し,板状試料Wが凹面23に隙間なく密着するため,凹面23に対する板状試料Wの吸着力が向上する。これにより,静電チャック装置1に吸着した板状試料Wの表面温度を均一にすることができる。」と記載されているように,板状試料が凹面の形状に追随して変形することは,出願時の技術常識であると認められる。

(2)特許異議申立人 金 海松は,特許異議申立書において,
「また,本件請求項1,3に記載の「変曲点」は,本件特許の明細書において,「載置板11の載置面11aの表面プロファイルを,三次元測定機(商品名:RVA800A,株式会社東京精密製)を用い,測定点を,載置面11aの中心,半径30mmの同心円周上で45゜毎(0゜,45°,90°135°,180゜,225°,270°,315°の8方位)に8箇所,半径60mmの同心円周上で45°毎に8箇所,半径90mmの同心円周上で45°毎に8箇所,半径120mmの同心円周上で45°毎に8箇所,半径145mmの同心円周上で45°毎に8箇所測定し,上記の8方位のうち同方位の隣り合う2点(例えば,半径30mmの点と半径60mmの点)の高さの差(半径が大きい点の高さ(例えば,半径60mmの点の高さ)-半径が小さい点の高さ(例えば,半径30mmの点の高さ))を2回算出し,その算出値の符号がその前の値と比較して反転する点とする。」(本件特許の明細書段落0027など)と定義されている。この定義に従うと,下図(図1)に示すような断面形状の載置面も,変曲点がない載置面と解することができるが,このような形状では,板状試料を載置面に載置しても,載置面と板状試料との間に隙間が形成されるため,板状試料の表面温度を均ーにすることはできない。
図1

したがって,本件請求項1,3に係る発明が「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えており,本件請求項1,3は,第36条第6項第1号の要件を満たしていない。また,本件請求項1を直接的に引用して記載する本件請求項2,および,本件請求項3を直接的に引用して記載する本件請求項4に係る発明も「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えており,特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。」と主張する。

(3)しかしながら,上記(1)で検討したように,板状試料が凹面の形状に追随して変形することは,出願時の技術常識であると認められ,上記(2)図1に記載された,特許異議申立人が主張するような断面形状の載置面においても,板状試料がその形状に追随して変形することにより,変曲点を含む場合と比較して,板状試料の表面温度を均一にすることができるといる。
したがって,特許異議申立人の主張を採用することはできない。
本件発明1を引用する本件発明2,及び,本件発明3を引用する本件発明4も同様である。

3 まとめ
以上から,本件発明1-4が,特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるとはいえない。

第6 特許法第36条第6項第2号についての当審の判断
1 載置面の形状について
(1)本件発明1における,「静電チャック部」が備える「前記基材の厚さ方向の断面形状は,前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まず,」との記載からは,「載置面」が「前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面」であると解される一方,「載置面」は,数学上の概念ではなく,実在物である以上,必ず表面粗さを有するものといえる。
そして,最大で40nm未満の表面粗さによって生じる載置面の表面の凹凸が,本件発明1で特定する「変曲点」に該当しないことは,技術常識に照らして,当業者に明らかであると認められる。

(2)特許異議申立人 金 海松は,特許異議申立書において,
「本件請求項1に係る発明は,「静電チャック装置」であって,本件請求項1には,「静電チャック部」が備える「前記基材の厚さ方向の断面形状は,前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まず,」と記載されている。この記載から,本件請求項1に係る発明では,平板試料が載置される載置面は,変曲点を含まない平坦面であると解される。一方,本件請求項1に従属する本件請求項2には,「載置面の表面粗さが,40nm未満である」と記載されており,載置面には最大で40nm未満の表面粗さが存在することが示されている。すなわち,本件請求項2に係る発明では,載置面に一定程度の凸凹があるとされており,本件請求項2に係る発明の載置面は,変曲点を含む凸凹がある面であると解される。したがって,載置面が変曲点を含まない平坦面であると解される本件請求項1に係る発明と,変曲点を含む凸凹がある面であると解される本件請求項2に係る発明とは,両立し得ない。したがって,本件請求項1に係る発明,または,請求項2に係る発明は,明確ではなく,特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。」と主張する。

(3)しかしながら,上記(1)で検討したように,本件発明2における,最大で40nm未満の表面粗さによって生じる載置面の表面の凹凸が,本件発明1で特定する「変曲点」に該当しないことは,技術常識に照らして,当業者に明らかであると認められ,本件発明1と本件発明2とが,両立しないとはいえない。
したがって,特許異議申立人の主張を採用することはできない。

2 載置面の定義について
(1)本願の発明の詳細な説明の段落0025の,「載置板11の載置面11a上の周縁部には,この周縁部を一周するように,断面四角形状の環状突起部21が設けられており,さらに,この載置面11a上の環状突起部21に囲まれた領域には,環状突起部21と高さが同一であり横断面が円形状かつ縦断面が略矩形状の複数の突起部22が設けられている。そして,図2に示すように,環状突起部21の上端部21aおよび複数の突起部22各々の上端部22aは,載置面11aの中心11bに底面が位置する凹面23上に位置している。」,段落0026の,「図1に示すように,載置板11の厚さ方向の断面形状は,載置面11aの中心11bから載置面11aの外周11cに向かって次第に湾曲する曲面状である凹面23をなしている。詳細には,載置板11の厚さ方向の断面形状は,載置面11aの中心11b(凹面23の中心23a)から載置面11aの外周11c(凹面23の外周23b)に向かって,冷却用ベース部3の上面(一主面)3aを基準とする高さが次第に高くなるように湾曲する曲面状である凹面23をなしている。すなわち,載置面11aは凹面23をなしている。」旨の記載,及び,段落0079の「本実施形態の静電チャック装置100が,上述の第1の実施形態の静電チャック装置1と異なる点は,図3に示すように,載置板11の厚さ方向の断面形状が,載置面11aの中心11bから載置面11aの外周11cに向かって次第に湾曲する曲面状である凸面101をなしている点である。詳細には,載置板11の厚さ方向の断面形状は,載置面11aの中心11b(凸面101の中心101a)から載置面11aの外周11c(凸面101の外周101b)に向かって,冷却用ベース部3の上面(一主面)3aを基準とする高さが次第に低くなるように湾曲する曲面状である凸面101をなしている。すなわち,載置面11aは凸面101をなしている。」旨の記載,図1-3の記載を参酌すれば,「載置面11a」が,「環状突起部21」の「上端部21a」や「突起部22」の「上端部22a」及びそれらを結ぶ「凹面23」や「凸面101」を示していることは明らかである。

(2)特許異議申立人 金 海松は,特許異議申立書において,
「また,本件請求項1には,「前記基材の厚さ方向の断面形状は,前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まず,」と記載されており,本件請求項3には,「前記冷却用ベース部と接着した前記静電チャック部の前記基材の前記載置面を,前記基材の厚さ方向における断面形状が前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まないように加工する」と記載されている。しかしながら,本件特許の明細書に記載されている「載置板(基材)11」のように,一主面に環状突起部21や突起部22が形成されている場合,載置面が基材のどの面を指しているのか,本件特許の発明の詳細な説明に記載されていない。このため,本件請求項1?4に係る発明を特定することはできない。したがって,本件請求項1?4に係る発明は明確ではなく,特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。」と主張する。

(3)しかしながら,上記(1)で検討したように,本願の発明の詳細な説明において載置面は明確であり,本件発明1-4の「載置面」の定義が不明確であるとはいえない。
したがって,特許異議申立人の主張を採用することはできない。

3 まとめ
以上から,本件発明1-4が,特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであるとはいえない。

第7 特許法第36条第4項第1号についての当審の判断
1 上記第6において検討したように,「載置面」は明確である。
そして,変曲点の有無をどのように判定するのかは,本願の発明の詳細な説明の段落0010や0027等に記載されているといえ,本件特許の発明の詳細な説明が,本件発明1-4を当業者が実施できるように記載されていないとはいえない。

2 特許異議申立人 金 海松は,特許異議申立書において,
「本件請求項1には,「前記基材の厚さ方向の断面形状は,前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まず,」と記載されており,本件請求項3には,「前記冷却用ベース部と接着した前記静電チャック部の前記基材の前記載置面を,前記基材の厚さ方向における断面形状が前記載置面の中心から前記載置面の外周に向かって次第に湾曲する曲面状である凹面または凸面をなし,かつ,変曲点を含まないように加工する」と記載されている。しかしながら,上記「3)特許法第36条第6項第2号」で述べたように,載置面が基材のどの面を指しているのか,本件特許の発明の詳細な説明に記載されていない。
さらに,本件請求項1には,載置面は,変曲点を含んでいないと記載されており,本件請求項3には,載置面を,変曲点を含まないように加工すると記載されており,本件特許の明細書段落0027には,変曲点の有無を判定する方法が記載されている。しかしながら,上述したように,載置面が基材のどの面を指しているか本件特許の発明の詳細な説明に記載されていないため載置面を特定できないことから,変曲点の有無をどのように判定するのか,本件特許の発明の詳細な説明に記載されていない。
したがって,本件特許の発明の詳細な説明は,本件請求項1,3に係る発明を当業者が実施できるように記載されておらず,特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。また,本件請求項1を直接的に引用して記載する本件請求項2に係る発明,および,本件請求項3を直接的に引用して記載する本件請求項4に係る発明についても,当業者が実施できるように記載されておらず,特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。」と主張する。

3 しかしながら,上記1において検討したように,変曲点の有無をどのように判定するのかは,本願の発明の詳細な説明に記載されているといえ,本件特許の発明の詳細な説明が,本件発明1-4を当業者が実施できるように記載されていないとはいえない。
したがって,特許異議申立人の主張を採用することはできない。

4 以上から,本件発明1-4が,特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるとはいえない。

第8 むすび
以上のとおり,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-10-30 
出願番号 特願2018-161547(P2018-161547)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮久保 博幸  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
小田 浩
登録日 2019-12-13 
登録番号 特許第6627936号(P6627936)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 静電チャック装置および静電チャック装置の製造方法  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 萩原 綾夏  
代理人 西澤 和純  
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