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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E21D
審判 全部申し立て 2項進歩性  E21D
管理番号 1368131
異議申立番号 異議2020-700630  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-24 
確定日 2020-11-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6653493号発明「トンネルの急速施工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6653493号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6653493号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年5月28に出願され、令和2年1月30日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年8月24日に特許異議申立人森貴子(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。


2.本件発明
特許第6653493号の請求項1?4の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
発破によって掘削されるトンネルの切羽の後方の退避位置にクラッシャーおよび連続ベルトコンベヤを設置しておき、掘削に伴って切羽付近で発生するズリをホイールローダーで運搬してクラッシャーに投入し、クラッシャーで破砕したズリを連続ベルトコンベヤで坑外に搬出するトンネルの急速施工方法であって、
前記ホイールローダーは、少なくとも第一ホイールローダーと第二ホイールローダーとからなり、
第一ホイールローダーは、切羽付近のズリをすくい上げて積み込み、積み込んだズリをクラッシャーまで運搬して、運搬したズリを直接クラッシャーに投入し、
第二ホイールローダーは、切羽付近のズリをすくい上げて積み込み、積み込んだズリを切羽とクラッシャーとの間に設けたズリ仮置場まで運搬して、運搬したズリを直接このズリ仮置場に仮置きするものであり、
第一ホイールローダーがズリをクラッシャーへ運搬または投入している間に第二ホールローダーが切羽付近でズリを積み込み、第二ホイールローダーがズリをズリ仮置場へ運搬または仮置きしている間に第一ホイールローダーがズリを切羽付近で積み込む一方、
第一ホイールローダーおよび第二ホイールローダーによるズリの積み込みを補助するためのズリ集積機械としてズリかき用バックホウを切羽付近に配置し、このズリかき用バックホウで切羽付近のズリをかき集めることによって、第一ホイールローダーおよび第二ホイールローダーがズリを積み込みやすくしたことを特徴とするトンネルの急速施工方法。
【請求項2】
第一ホイールローダーと第二ホイールローダーの少なくとも一方は、次回のズリ出し作業工程の開始までに、ズリ仮置場に仮置きしたズリをクラッシャーまで運搬して、運搬したズリをクラッシャーに投入することを特徴とする請求項1に記載のトンネルの急速施工方法。
【請求項3】
切羽付近のズリを完全に除去し終えた時点の前後の所定期間に、次工程で使用する機械を切羽付近に搬入することを特徴とする請求項1または2に記載のトンネルの急速施工方法。
【請求項4】
ズリ仮置場をクラッシャーの近傍に設けたことを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載のトンネルの急速施工方法。」


3.申立理由の概要
申立人は、主たる証拠として特開2015-30982号公報(以下「文献1」という。)を、従たる証拠として特開2005-207039号公報(以下「文献2」という。)、特開平6-280479号公報(以下「文献3」という。)、特開2001-49993号公報(以下「文献4」という。)、特開2002-21467号公報(以下「文献5」という。)、特開2002-70486号公報(以下「文献6」という。)を提出し、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、また、請求項1?4の記載は不明確であって、請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであるから、請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨、主張する。


4.文献の記載
(1)文献1
文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は決定で付した。以下同様。)
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ズリの撤去作業を担う各種作業設備の合理的な運用により、求められる必要ズリ出し量を確保して、急速施工を円滑かつ確実に進めることが可能で、短工期を実現できるトンネル施工方法に関する。」

イ 「【0015】
本実施形態に係るトンネル施工方法は、切羽1の発破を繰り返すことで、順次トンネル2を掘進していく。トンネル2内部には図1及び図2に示すように、発破作業によって、切羽1付近にズリZが発生する。
【0016】
ズリZは、ズリZの除去作業によって、切羽1付近から除去される。切羽1を含む発破の影響範囲Rでは、発破作業時には、ズリZの除去作業は実施されず、また、ズリZの除去作業時には、発破作業は実施されない。すなわち、本実施形態のトンネル施工方法では、発破作業と当該発破作業で発生した切羽1付近のズリZの除去作業とを1サイクルとして、これら作業を交互に繰り返すことにより、トンネル2を掘進していく。
【0017】
切羽1付近から除去したズリZは、発破の影響範囲R以遠に運び出され、切羽1とは反対側のトンネル口(図中、右側:図示せず)側に設備される搬出用コンベア3によって、トンネル2外方へ搬出される。発破の影響範囲R以遠では、発破作業と切り離して、言い換えれば発破作業の最中であっても、ズリZを継続的に搬出することが可能である。
【0018】
ズリZを切羽1付近から除去し、トンネル2外方へ搬出するズリ出し作業は、トンネル2内に設備される各種作業設備を利用して行われる。
【0019】
図1及び図2に示すように、ズリ出し作業を行う各種作業設備には、トンネル2内に設定されるベッセル置き場4と、ベッセル置き場4に設けられるベッセル5と、切羽1付近で作業を行う走行式ズリ積み込み機6,7と、クラッシャ8と、走行式運搬機9,10が含まれる。
【0020】
ベッセル5は、ズリ積み込み用の剛強な容器である。例えば、直方体状の外形形態で形成される。図3及び図4に示すように、ベッセル5には、その上向き開口部5aから内部にズリZが投入される。ベッセル5を傾けることで、ズリZは、上向き開口部5aから払い出される。
【0021】
図1及び図2に示すように、ベッセル置き場4は、ベッセル5を置いておく場所である。ベッセル置き場4には、多数のベッセル5が整列して設けられる。図中、白抜き表示のベッセル5は、空のベッセル(以下、「空ベッセル」という)であり、黒ベタ表示のベッセル5は、ズリZを積み込んだベッセル(以下、「充填ベッセル」という)である。
【0022】
ベッセル置き場4は、発破の影響範囲R以遠に設定される。ベッセル置き場4は、トンネル掘進の進行に従い、トンネル2の奥に向かって移設可能であって、これによりベッセル置き場4と切羽1付近との距離がほぼ一定に保たれる。図示例では、ベッセル置き場4は、トンネル2の幅方向中央部分を通路として空けて、トンネル2の幅方向両側部分に設定されている。
【0023】
図1?図4に示すように、発破の影響範囲Rに含まれる切羽1付近には、前後進可能な走行式ズリ積み込み機6,7が配備される。ズリ積み込み機6,7は、かき寄せ部11と、バケット部12と、コンベア部13を備える。かき寄せ部11は、切羽1付近のズリZをかき寄せ、バケット部12は、ズリZをすくい取ってコンベア部13に投下し、コンベア部13は、ズリZを搬送して、ベッセル5への積み込みを行うようになっている。
【0024】
ズリ積み込み機6,7は、クローラなどの前後進自在な走行部14を備える。ズリ積み込み機6,7は、発破時には走行部14で移動して、発破の影響範囲R以遠に退避する。従って、発破作業時には、ズリ積み込み機6,7は待機状態となる。発破作業の完了後、切羽1付近に移動して、ズリZの積み込み作業を再開する。
【0025】
図1,図2及び図5に示すように、ベッセル置き場4以遠、すなわち発破の影響範囲Rの遠方には、ズリZを破砕するクラッシャ8が配備される。クラッシャ8には、これに隣接して、ベッセル5からズリZを受け入れ、クラッシャ8へズリZを供給するズリ供給装置15が併設される。クラッシャ8は、破砕部16と、コンベア部17を備える。
【0026】
破砕部16は、ズリ供給装置15から供給されるズリZを破砕してコンベア部17に投下し、コンベア部17は、破砕されたズリZを搬送して、搬出用コンベア3に移載するようになっている。クラッシャ8は、移設可能に、クローラなどの前後進自在な走行部18を備える。クラッシャ8は、トンネル掘進の進行に従い、走行部18によってトンネル2の奥に向かって移設され、これによりクラッシャ8と切羽1付近との距離がほぼ一定に保たれる。
【0027】
図1,図2及び図6に示すように、クラッシャ8には、切羽1とは反対側のトンネル口側に隣接して、搬出用コンベア3が配備される。搬出用コンベア3は、クラッシャ8付近からトンネル口外方へわたって延設され、クラッシャ8から受け入れた破砕後のズリZをトンネル2外方へ搬出する。
【0028】
搬出用コンベア3も、移設可能に、クローラなどの前後進自在な走行部19を備える。搬出用コンベア3も、トンネル掘進の進行に従い、走行部19によってトンネル2の奥に向かって移設され、これによりクラッシャ8との位置関係がほぼ一定に保たれる。
【0029】
図1?図4に示すように、トンネル2内には、トンネル口から切羽1付近を含む発破の影響範囲Rにわたる当該トンネル2の全域で、自在に前後進する走行式運搬機9,10が配備される。図示例では、運搬機9,10はタイヤ20で走行される。
【0030】
運搬機9,10は、ベッセル5を1個ずつ、着脱自在に保持して運搬する。運搬機9,10は、いずれかのベッセル5に接近してこれを保持して持ち上げ、走行して当該ベッセル5を運搬し、適宜位置で停止してベッセル5を降ろし、その後、当該ベッセル5に対する保持を解除する一連の動作によって、ベッセル5を一個ずつ運搬する。」

ウ 「【0037】
ズリ運搬処理は、一方の組のズリ積み込み機6及び走行式運搬機9が実行する。一方の組の走行式運搬機(第1運搬機という)9は、ズリZを積み込む前の空ベッセル5を運搬し、一方の組のズリ積み込み機(第1ズリ積み込み機)6に供給する。空ベッセル5は、ベッセル置き場4から持ち運んだもの、あるいは既に保持しているものの、いずれであってもよい。
【0038】
第1ズリ積み込み機6は、切羽1付近で、かき寄せてすくい上げたズリZを、空ベッセル5に積み込む。次いで、第1運搬機9は、第1ズリ積み込み機6でズリZを積み込んだ充填ベッセル5を運搬してクラッシャ8に接近し、ズリ供給装置15へズリZを受け渡す。
【0039】
ズリ供給装置15を介してズリZの供給を受けたクラッシャ8は、ズリZを破砕し、破砕したズリZを搬出用コンベア3に移載する。搬出用コンベア3は、クラッシャ8で破砕されたズリZをトンネル2外方へ向かって連続的に搬出する。ズリZをズリ供給装置15へ受け渡した第1運搬機9は、その後、空になった空ベッセル5をクラッシャ8位置から第1ズリ積み込み機6に戻す。
【0040】
発破作業時を除き、第1運搬機9は、上述した手順を第1ズリ積み込み機6とクラッシャ8の間を往復して繰り返し、ズリ運搬処理を行う。このズリ運搬処理では、第1運搬機9は、ベッセル5を交換することなく、同一のベッセル5を保持し続けて作業を行うことが好ましい。
【0041】
ズリ仮置き処理は、他方の組のズリ積み込み機7及び走行式運搬機10が実行する。他方の組の走行式運搬機(第2運搬機という)10は、ベッセル置き場4から、ズリZを積み込む前のいずれかの空のベッセル5を運搬し、他方の組のズリ積み込み機(第2ズリ積み込み機)7に供給する。第2ズリ積み込み機7は、第1ズリ積み込み機6と同様に、切羽1付近で、かき寄せてすくい上げたズリZを、空ベッセル5に積み込む。
【0042】
次いで、第2運搬機10は、第2ズリ積み込み機7でズリZを積み込んだ充填ベッセル5を運搬してベッセル置き場4に移動する。ベッセル置き場4に達した第2運搬機10は、充填ベッセル5をベッセル置き場4に仮置きする。その後、第2運搬機10は、当該充填ベッセル5の保持を解除し、ベッセル置き場4で移動して別の空ベッセル5に接近し、これを保持して第2ズリ積み込み機7へ運搬する。
【0043】
発破作業時を除き、第2運搬機10は、上述した手順を第2ズリ積み込み機7とベッセル置き場4の間を往復して繰り返し、ズリ仮置き処理を行う。」

エ 「【0049】
発破の影響範囲R、すなわち発破によって砕け散る石等が飛来する切羽1付近からの距離は、防護を施さない場合、遠く設定する必要があり、これら石等を避けることができる防護を施した場合には、切羽1からさほど離れる必要はなく、近くても良い。要するに、発破の影響範囲Rは、防護の有無によって、拡がったり、狭まったりする。防護は通常、鉄板等を用いた囲いなどで構成される。防護を施した場合には、ズリ積み込み機6,7や運搬機9,10等は、防護を施さない場合における発破の影響範囲R以遠に退避する必要はなく、当該防護の位置以遠まで退避すればよい。
【0050】
この発破作業時には、仮置きズリ運搬処理を実行する。第1及び第2運搬機9,10は共に、第2運搬機10がベッセル置き場4に仮置きした充填ベッセル5を、ベッセル置き場4からズリ供給装置15へ運搬して、クラッシャ8にズリを供給し、その後、空になった空ベッセル5をクラッシャ8位置からベッセル置き場4に戻す。第1及び第2運搬機9,10は、発破作業の期間中、この手順をベッセル置き場4とクラッシャ8の間を往復し
て繰り返し、仮置きズリ運搬処理を行う。
【0051】
これにより、発破作業時に、ベッセル置き場4に仮置きしたすべてのズリZがクラッシャ8で破砕され、搬出用コンベア3でトンネル2外方へ搬出される。従って、1回の発破作業で切羽1付近に発生したズリZがすべて、上述したズリ運搬処理、ズリ仮置き処理、並びに仮置きズリ運搬処理を通じて、1サイクルの間に処理されトンネル2外方へ搬出される。」

オ 上記アないしエからみて、文献1には次の発明(以下「文献1発明」という。)が記載されているものと認める。
「切羽1の発破を繰り返すことで、順次トンネル2を掘進していき、発破作業によって切羽1付近に発生したズリZは、発破の影響範囲R以遠に運び出され,搬出用コンベア3によって、トンネル2外方へ搬出される、急速施工が可能なトンネル施工方法であって、
ズリ出し作業を行う各種作業設備には、トンネル2内に設定されるベッセル置き場4と、ベッセル置き場4に設けられるベッセル5と、切羽1付近で作業を行う走行式ズリ積み込み機6,7と、クラッシャ8と、走行式運搬機9,10が含まれており、
ベッセル置き場4は、発破の影響範囲R以遠に設定され、
発破の影響範囲Rの遠方には、ズリZを破砕するクラッシャ8が配備され、
クラッシャ8には、これに隣接して、ベッセル5からズリZを受け入れ、クラッシャ8へズリZを供給するズリ供給装置15が併設され、
クラッシャ8は、破砕部16と、コンベア部17を備え、
破砕部16は、ズリ供給装置15から供給されるズリZを破砕してコンベア部17に投下し、コンベア部17は、破砕されたズリZを搬送して、搬出用コンベア3に移載するようになっており、
発破作業時を除き、
一方の組において、第1ズリ積み込み機6は、切羽1付近で、かき寄せてすくい上げたズリZを、空ベッセル5に積み込み、次いで、第1運搬機9は、第1ズリ積み込み機6でズリZを積み込んだ充填ベッセル5を運搬してクラッシャ8に接近し、ズリ供給装置15へズリZを受け渡す、ズリ運搬処理を行い、
他方の組において、第2ズリ積み込み機7は、切羽1付近で、かき寄せてすくい上げたズリZを、空ベッセル5に積み込み、次いで、第2運搬機10は、第2ズリ積み込み機7でズリZを積み込んだ充填ベッセル5を運搬してベッセル置き場4に移動し、充填ベッセル5をベッセル置き場4に仮置きする、ズリ仮置き処理を行い、
発破作業時には、第1及び第2運搬機9,10は共に、ベッセル置き場4に仮置きした充填ベッセル5を、ベッセル置き場4からズリ供給装置15へ運搬して、クラッシャ8にズリを供給する仮置きズリ運搬処理を実行する、
急速施工が可能なトンネル施工方法。」

(2)文献2
文献2には、図面と共に以下の事項が記載されている。
「【0014】
以下、本発明の第1の実施の形態を図1?図7に基づいて説明する。
このズリ積込み装置は、NATM工法によりトンネルを掘削する際に使用されるもので、図4?図7に示すように、トンネル1の先端の切羽部Mでは、まずホイールジャンボ9により爆薬装填孔が形成され、装填された火薬により爆破による掘削を行う。その後切羽部Mでは、バックホウ2によりズリの集積や大型ブレーカ装置により大塊の粉砕が行われ、ショベルカー3により掘削土砂(以下、ズリという)が搬出される。
【0015】
トンネル1の入口から切羽部M手前にわたって伸縮自在な延伸式のズリ排出コンベア装置(搬送体)4が配設されており、前記ショベルカー3により、可動支持体5のホッパ6にズリが投入される。前記可動支持体5には、ズリ排出コンベア装置4の先端部が保持されるとともに、クローラ式走行装置7により走行可能に構成され、ホッパ6の底部から振動フィーダ8を介してズリ搬出コンベア装置4に搬入される。これらトンネル1の先端側には、削岩作業の爆薬装填孔を形成したり爆薬を詰め込むホイールジャンボ9や、掘削岩盤面にコンクリートを吹きつける吹付機10が配置されている。吹付機10により、掘削したトンネルの坑壁にコンクリートを吹付けて坑壁の支持を行う。そして切羽面からたとえば100?200m後方には、本発明にかかるズリ積込み装置11が配置されるインバート掘削部12が設けられ、インバート掘削用の油圧式ブレーカ装置13などが配置されている。」


5.当審の判断
(1)29条2項(容易性)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と文献1発明とを対比する。
文献1発明の「第1運搬機9」、「第2運搬機10」、「第1運搬機9」と「第2運搬機10」とを合わせたものと、本件発明1の「第一ホイールローダー」、「第二ホイールローダー」、「ホイールローダー」とは、それぞれ「第一運搬機」、「第二運搬機」、「運搬機」で共通する。
また、文献1発明の「ズリZを積み込んだ充填ベッセル5」を「仮置きする」「ベッセル置き場4」、「急速施工が可能なトンネル施工方法」は、それぞれ本件発明1の「ズリ仮置き場」、「トンネルの急速施工方法」に相当する。
よって、本件発明1と文献1発明とは、
「発破によって掘削されるトンネルの切羽の後方の退避位置にクラッシャーおよび連続ベルトコンベヤを設置しておき、掘削に伴って切羽付近で発生するズリを運搬機で運搬してクラッシャーに投入し、クラッシャーで破砕したズリを連続ベルトコンベヤで坑外に搬出するトンネルの急速施工方法であって、
前記運搬機は、少なくとも第一運搬機と第二運搬機とからなり、
第一運搬機は、切羽付近でズリを積み込み、積み込んだズリをクラッシャーまで運搬して、運搬したズリをクラッシャーに投入し、
第二運搬機は、切羽付近でズリを積み込み、積み込んだズリを切羽とクラッシャーとの間に設けたズリ仮置場まで運搬して、運搬したズリをこのズリ仮置場に仮置きするものである、
トンネルの急速施工方法。」で一致するものの、以下の2点で相違している。

〔相違点1〕(第一、第二)運搬機が、本件発明1は、(第一、第二)ホイールローダーであって、ズリをすくい上げ、クラッシャーに直接投入し、又はズリ仮置場に直接仮置きするものであり、さらに、第一ホイールローダーがズリをクラッシャーへ運搬または投入している間に第二ホイールローダーが切羽付近でズリを積み込み、第二ホイールローダーがズリをズリ仮置場へ運搬または仮置きしている間に第一ホイールローダーがズリを切羽付近で積み込む、との作業のタイミングが特定されているのに対し、文献1発明は、充填ベッセル5を搬送する(第1、第2)運搬機であって、ズリのすくい上げは第1,第2ズリ積み込み機6,7が行っており、クラッシャーへの投入はズリ供給装置15を介して投入し、ズリ仮置場への仮置きは、ズリZを積み込んだ充填ベッセル5で仮置きするものであり、さらに、上記作業のタイミングの特定もない点。
〔相違点2〕文献1発明は、切羽付近に、本件発明1のズリの積み込みを補助するためのズリ集積機械としてズリかき用バックホウを配置しておらず、そのため、このズリかき用バックホウで切羽付近のズリをかき集めていない点。

(イ)判断
まず、上記(ア)の相違点1について検討する。
a 文献1発明は、「ズリの撤去作業を担う各種作業設備の合理的な運用」(文献1の段落【0001】)を課題とするものであるから、文献1発明において、各種作業設備である第1,第2ズリ積み込み機6,7、第1,第2運搬機9,10、ベッセル5等を組み合わせが最適なものと認められ、各種作業設備を、他の重機等に替える動機付けは存在しない。
また、図4に、一方の組の第1ズリ積み込み機6及び第1運搬機9と、他方の組の第2ズリ積み込み機7及び第2運搬機10とが並ぶことが示されていることからみても、文献1には、上記作業のタイミングを示唆する記載も見当たらない。

b 申立人は、文献1発明の第1,2運搬機9,10に、文献2に記載のショベルカー3を適用することは容易であって、ホイールローダーと実質的に相違するものではない旨、文献1?6に示されるように、積み込み・運搬する重機の組合せや選択は当業者が適宜採用し得る旨(特許異議申立書16頁)、主張する。
しかしながら、上記aのとおり、文献1発明の各種作業設備を他の重機等に替える動機付けは存在しない。
そして、ショベルカー3は、一般的に、土砂を直接すくい取って運搬するものではあるが、そのバケットの大きさからみて、他の運搬を主目的とする重機と比較して、移動できる土砂の量は少ないことから、文献1発明において、文献2に記載のショベルカー3を適用した場合、切羽付近でズリ3をかき寄せてすくい上げる第1,第2ズリ積み込み機6,7や、ズリZを積み込むベッセル5を用いるものではなくなるため、各種作業設備のうちの大部分の重機を替えることとなる上に、ズリZをかき寄せてすくい上げ、運搬する作業を急速施工することができるといえる根拠もない。

c 以上のことから、文献1発明に、文献2の記載事項や文献1?6に記載の重機の組み合わせ等を適用することにより、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、文献1発明及び文献1?6に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1にさらに限定事項を追加したものである。よって、上記アに示した理由と同様の理由により、本件発明2?4は、文献1発明及び文献1?6に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)36条6項2号(明確性)について
申立人は、概略、(i)請求項1に記載の「かき集めることによって、」「積みやすくした」、(ii)請求項3に記載の「次行程」、(iii)請求項4に記載の「近傍」が不明確である旨(特許異議申立書20?21頁)、主張する。
しかしながら、
(i)ズリをかき集めないものと比較し、ズリをかき集めることによって、ホイールローダーがズリを積みやすくなるという効果を奏することは明らかであって、その効果の程度が特定されていないとしても、「積みやすくした」との記載は明確であり、
(ii)「次行程」が、ズリの除去以外の次になされる行程を意味することは明らかであって、どのような行程か特定はなくとも、「次行程」との記載は明確であり、
(iii)さらに、「近傍」について発明の詳細な説明をみると、
「ズリ仮置場5をクラッシャーの前方近傍に設けることで、ズリ仮置場5からクラッシャー16までのズリ運搬距離が短くなり、以降の作業工程でこの間のズリ運搬時間を短縮することができる。」(段落【0027】)と記載される(段落【0041】にも同様な記載がある。)ように、ズリ運搬時間を短縮することができる程度の距離と解することができ、「近傍」との記載が不明確とはいえない。
よって、申立人の主張は採用することができない。


6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-10-29 
出願番号 特願2015-108829(P2015-108829)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E21D)
P 1 651・ 537- Y (E21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 須永 聡湯本 照基  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 西田 秀彦
住田 秀弘
登録日 2020-01-30 
登録番号 特許第6653493号(P6653493)
権利者 清水建設株式会社
発明の名称 トンネルの急速施工方法  

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