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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A21D
管理番号 1368638
審判番号 不服2019-6096  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-10 
確定日 2020-11-25 
事件の表示 特願2014- 4770「低タンパク質小麦粉使用パン類製造用小麦粉ミックス及びパン類の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月23日出願公開、特開2014-198038〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月15日(国内優先権主張 平成25年3月15日)を出願日とする出願であって、出願語の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成29年 9月 8日付け :拒絶理由通知
同年 9月29日 :意見書の提出
平成30年 2月26日付け :拒絶理由通知
同年 3月12日 :意見書、手続補正書の提出
同年 7月18日付け :拒絶理由通知
同年10月22日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 3月 8日付け :拒絶査定
令和 元年 5月10日 :審判請求書の提出
令和 2年 3月19日付け :拒絶理由通知
令和 2年 5月18日 :意見書の提出

第2 本願発明
この出願の請求項1?3に係る発明は、平成30年10月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
タンパク質含有量7.5?10.5%の中力小麦粉と、超強力小麦粉を配合したパン類製造用小麦粉ミックスにおいて、該小麦粉ミックス85?97重量部に対して、米デンプン中のアミロース含量が3?17%である低アミロース米粉15?3重量部を配合するか、或いは、該小麦粉ミックス95?97重量部に対して、米デンプン中のアミロース含量が3?17%である低アミロース米のα化米粉5?3重量部を配合し、かつ、該小麦粉ミックスと低アミロース米粉、或いは、該小麦粉ミックスと低アミロース米のα化米粉の合計量が、100重量部となるように配合したことを特徴とする製パン性及び製造したパン類の食味について改質したパン類製造用小麦粉ミックス。」

第3 当審拒絶理由について
当審が令和 2年 3月19日付けで通知した拒絶理由は、以下の理由1を含むものである。
[理由1]本願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2000-350559号公報
刊行物2:応用糖質科学、2012年2月、第2巻第1号、p.12-17
刊行物3:特開昭54-105255号公報

なお、刊行物2?3は、本願出願時の周知技術を示すための文献である。

第4 刊行物に記載された事項
1 刊行物1
この出願の出願前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 超強力小麦粉を1%以上含有することを特徴とする改質小麦粉。
【請求項2】 超強力小麦粉を10%以上含有することを特徴とする改質小麦粉。
【請求項3】 超強力小麦粉が市販のパン用小麦粉のl.2倍以上のミキシング時間を有する小麦粉であることを特徴とする請求項1又は2記載の改質小麦粉。
【請求項4】 超強力小麦粉が市販のパン用小麦粉のl.5倍以上のミキシング時間を有する小麦粉であることを特徴とする請求項1又は2記載の改質小麦粉。
【請求項5】 請求項1,2,3又は4記載の改質小麦粉を用いて製造されたことを特徴とする小麦粉食品。
【請求項6】 小麦粉食品がパン類、菓子類、麺類であることを特徴とする請求項5記載の小麦粉食品。」

(1b)「【0002】
【従来の技術】これまで、日本においては、パン、中華麺用の高品質の小麦粉の生産が十分でないため、カナダ、米国等からかなりの量の高品質の強力小麦を輸入して使用している。しかしながら、一方で、ポストハーべストの問題や国内自給率向上等の観点から、国内小麦粉を使用してパン、中華麺等を生産する努力がなされており、潜在的な国内産強力小麦粉の需要はかなりのものがあると考えられている。
【0003】このように国産強力小麦粉の需要は、大きいと考えられるが、その供給状況は、気候等が強力小麦品種の栽培に適してないこと、国内で栽培可能な強力小麦粉用の優良品種が十分揃っていないことから、輸入小麦粉に比べ十分でないのが現状である。
・・・
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の問題を解決するための国内で安定生産が可能である、うどん用の中力粉、パン用の強力粉等に適当量の超強力粉を混合することによって高品質の強力粉を作出できるのではないかと考え、小麦粉の改質について鋭意研究した結果、本発明を完成した。」

(1c)「【0008】本発明で超強力小麦粉を添加して改質する小麦粉としては、高品質の外麦強力粉よりグルテン強度の弱い小麦粉すべてが含まれる。日本の小麦では、チホク、ホクシン、タイセツ、ホロシリ、タクネ、ハルヒカリ、ハルユタカ、春のあけぼの、ナンブコムギ、コユキコムギ、農林61号、西海180号等が挙げられるが、品種、系統には特に限定はない。また、穂発芽等により低アミロ化しグルテンの劣化した小麦粉やそば、ライ麦、ライ小麦、大麦、トウモロコシ、あわ、ひえ、きび等の、もともと生地の柔らかい雑穀類の粉の改質にも本発明は有効である。本発明の改質小麦粉とは、超強力粉を1%以上、更に好ましくは10%以上含有する粉のことであり、超強力粉を混合する粉は小麦粉、上記各種穀類粉等の1種又は2種以上であり、特に限定はない。
【0009】本発明でいう小麦粉の改質とは、超強力粉をグルテン等のタンパク質の弱い粉に適量混合しエキステングラフでの抗張力を高くすることである。超強力粉の添加量としては、日本の代表的うどん用の小麦のチホク、ホクシン、農林61号からの中力粉の場合、10%?40%添加が適当であり、更に好ましくは20%?30%である。ハルヒカリ、ハルユタカ、春のあけぼの等の国産強力粉の場合、10%?20%添加が適当である。いずれにしろ、混合粉生地の物性を見ながら、最適な添加量を各混合組み合わせにより決定すればよい。
【0010】上記の適量の超強力小麦粉を国産の各種小麦粉に添加することによって混合粉のミキシング時間は市販強力粉並の時間まで長くなり、物性的性質もほぼ市販強力粉並に改質される。
【0011】超強力粉を一部添加することによってグルテン等タンパクの弱い粉の性質が改質される理由については、詳細は不明であるが、本来強力粉以上にエクステンソグラフの抗張力の非常に大きい超強力粉を混合することによって、弱い粉のグルテン分子の一部に超強力粉のグルテンが入り、グルテン分子が高分子化し生地の弾性的性質が改善されると推定される。」

(1d)「【0013】〔実施例〕次に表1?4に示す実施例(比較例を含む)に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0014】(1)実施例1?4、比較例1、2について
表1に示す配合で種々の量の超強力粉を混合した小麦粉について、ノータイ法で製パンを行ない山型食パンを製造し、製パンの評価を行なった。なお、本発明のすべての実施例、比較例において、配合は小麦粉100に対する重量部で示した。製パン評価は、5人のパネラーによる生地の分割、成型時の状態、内相、食感等の評価と菜種置換法による比容積により行った。
【0015】以下に、製パン工程を示す。
・ミキシング:全原料をミキサーに入れ、ミキシングピーク時間後10秒程度後までミキシングする
・分割、丸目:生地量100gずつ手分割、丸目
・べンチ :30℃、20分
・成型 :モルダー、シーターにて成型
・ホイロ :温度38℃、湿度85%、70分
・焼成 :200℃、25分
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

・・・
【0020】表1の結果から、中力粉(ホクシン)に超強力粉(Windcat)を混合した場合5%程度でもやや製パン性が改善され、10%以上添加した場合には、比較例のホクシン100%の小麦粉に比べ製パン性の改善が顕著であり、比容積は10%添加でほぼ市販外麦強力粉に近い値となり、20%以上では市販外麦強力粉以上であった。
【0021】(2)実施例5?10、比較例3?5について
表2に示す配合で、中力粉(ホクシン)に種々の種類の超強力粉を混合した小麦粉について、ス卜レート法で製パンを行い、山型食パンを製造し、表1と同様の製パン評価を行った。製パンエ程は、以下に示す工程以外ノータイム法と同様に行った。
・ミキシング後の発酵:30℃,90分
・ホイロ :温度38℃、湿度85%、55分
【0022】表2の結果から、中力粉(ホクシン)に30%各種超強力粉を添加した混合粉では、いずれの小麦粉でも、その製パン性は、比較例3のホクシン100%の小麦粉に比べ非常に優れており、市販外麦強力粉と同等かそれ以上の製パン性を示した。これより、超強力的性質を示す小麦粉であれば、品種、系統にあまり関係なく改善効果があることが判る。
【0023】(3)実施例11?15、比較例6?10
表3に示すように低アミロ化して製パン性の低下した小麦粉と通常製パン性が極端に悪い雑穀粉に超強力粉(Windcat )をそれぞれ40%、80%添加した混合粉について、実施例1?4、比較例1、2と同条件で製パン評価を行い比較例と比較した。
【0024】表3の結果から、各種低アミロ化した小麦粉、雑穀粉に適当量超強力粉(Windcat )粉を混合した混合粉の製パン性は全般に良好であり、市販外麦強力粉を添加した混合粉に比べその評価は良好であった。特に雑穀入りの混合粉では、通常比容積大のパンを製造することは非常に難しいと言われているが、超強力粉の混合によりかなり比容積大のパンが製造できることが判った。」)(審決注:原文では丸数字:(1)?(3)と表記する。)

(1e)「【0028】
【発明の効果】以上説明したように本発明の超強力小麦粉含有改質小麦粉とそれを用いた小麦粉食品によれば、主に、グルテンの弱い小麦の性質を改質することができる。本発明により、高品質の強力粉の十分生産できない国や地域においても、国内産や地域産の麦を有効に利用して、強力的性質の小麦粉を作出することが簡単に可能になる。その結果、従来外麦強力粉を主に用いて製造されていたパン類、菓子類、麺類を国内産、地域産の小麦を用いて製造することが可能になり、国内産、地域産小麦の需要拡大に多大の寄与が期待される。」

2 刊行物2
この出願の出願前に頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている。

(2a)「1.はじめに
日本は食料の過半を海外に依存しており,カロリーベースの食糧自給率は約40%と低い。・・・・。一方,日本の粉としての利用は主に和菓子や米菓等の材料用に限られている。このため,国産の米をパンや麺に利用することや,食糧の自給率と自給力を高めるための技術開発,次世代の技術革新につながる画期的な品質素材の開発(品質の多様化)が必要である。」(第12頁左欄第1行?第16行)

(2b)「2.米粉と米粉パンの種類
一般的に知られていてスーパー等で手軽に購入できる米粉は,菓子の製造に使われるうるち米の粉の1つである上新粉である。上新粉の用途は団子やせんべい等の菓子・米菓用途がほとんどであり,小麦粉のように広範囲に加工利用されることはなく,米粉パン適性も高くない。本稿で記す米粉は,米粉パン等の米粉利用に適するように開発された米粉である。
・・・ところが、米粉はよく膨らんでソフトなパンを作るために重要な働きをする,グルテンが含まれていない。そこで,米粉パンは,(1)米粉に小麦由来のグルテンを2割程度添加する(グルテン添加米粉パン),(2)小麦粉に米粉を5?50%程度混合する(米粉混成パン),(3)米粉の一部を前もって糊化させる,ないしは米粉にグアガム等の増粘多糖を添加する(100%米粉パン),により製造している。」(第12頁左欄下から14行?同頁右欄第10行))(審決注:原文では丸数字:(1)?(3)と表記する。)

(2c)「3.アミロースやタンパク質等の成分と米粉パン特性の関係
・・・
3.2 米粉混成パンとアミロース含有率
大手製パン企業が主に製造販売する米粉パンは,米粉混成パン(米粉混成小麦粉パン)である。米粉混成パンに適するアミロース含有率は基本的にはグルテン添加米粉パンの場合と同じであるが,米粉の占める割合が相対的に少ないためアミロース含有率の影響は少ない傾向がある(図2)。すなわち,添加する低アミロース米品種のアミロース含有率や米粉の量にもよるが,低アミロース米品種を用いても腰折れは少なく,モチモチ感は十分に認められる。また,アミロース含有率が21?25%程度のやや高アミロース米品種の米粉を使用する場合も,製造直後ではパサパサ感や硬さはそれほどでもない結果が得られている。しかし,一般的に米粉パンで問題となっている日持ちの悪さや硬くなりやすい特性が,顕著になりやすい。特に,15℃以下のやや低めの温度で貯蔵した場合には注意が必要である。

」(第12頁右欄第11行?第14頁左欄第3行、図2)


3 刊行物3
この出願の出願前に頒布された刊行物3には、以下の事項が記載されている。

(3a)「2.特許請求の範囲
中種生地の混捏,発酵工程,本捏生地の混捏,発酵工程,仕上,焙炉,焼成工程の各工程から成る中種法による製パン方法において、小麦粉95?80重量%、米粉5?20重量%および適量のイースト,水等から成る中種生地に対して、クロレラ熱水抽出液0.8?2.5重量%,グリセリン脂肪酸エステル,蔗糖脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステルの中から選ばれた一種以上の乳化剤0.2?1.0重量%を添加混入することを特徴とする中種法による品質改良された米粉含有パン類の製造方法。」

(3b)「そうした中で、基本原料としての小麦粉の一部若しくは全部を他の穀類粉末で置き換えたパン製品も数多く作られているが、このような小麦粉以外の穀類粉末は、一般的には原料小麦粉の代用原料的色彩が強く,従来製造されたパン製品は、通常の小麦粉を原料としたパン製品と違つた、特殊な品質,性状を有するものが多い。例えば、小麦粉に対して、ライ麦粉12?25%、大麦粉5?15%、オートおよびジヤガイモ粉1?6%程度、それぞれ添加したパン製品等が実際に製造されている。
ところで、小麦粉原料の一部を米粉で置き換えた所謂米粉含有パンおよび米粉のみから成る米パンも、これらのパンと同様に、従来公知の製品であるが、米粉は、上記のような麦穀粉と異つて、グルテンを全く形成せず、しかも米粉中の澱粉成分に起因する製品の老化し易さ、米粉特有の物性等が原因して、麦類穀粉を原料としたパン製品と比較して、品質的な面で種々の問題点があつて、従来、米粉含有パンは依然として、「特殊製品」の域を出ることはできなかつた。
このような米粉含有パンの品質上の問題点に対して、従来、数多くの解決策が考えられ、米粉含有パンの品質改良化の技術が実際に開発されている。」(第2頁左上欄第2行?同頁右上欄第6行)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
上記摘記(1a)の請求項6の記載に基づけば、刊行物1には、「パン類を製造するための、超強力小麦粉を1%以上含有する改質小麦粉。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2 本願発明との対比
引用発明の「改質小麦粉」は「パン類を製造するための」ものであるから、本願発明の「パン類製造用小麦粉ミックス」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「小麦粉と超強力小麦粉を配合したパン類製造用小麦粉ミックス。」である点において一致し、以下の点において相違する。

<相違点1>
超強力粉を配合する小麦粉が、本願発明では、「タンパク質含有量7.5?10.5%の中力粉麦粉」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点

<相違点2>
本願発明では、「小麦粉ミックス」に、
「該小麦粉ミックス85?97重量部に対して、米デンプン中のアミロース含量が3?17%である低アミロース米粉15?3重量部を配合」するか、
「該小麦粉ミックス95?97重量部に対して、米デンプン中のアミロース含量が3?17%である低アミロース米のα化米粉5?3重量部を配合」し、かつ、「該小麦粉ミックスと低アミロース米粉、或いは、該小麦粉ミックスと低アミロース米のα化米粉の合計量が、100重量部となるように配合」し、「製パン性及び製造したパン類の食味について改質した」ことが特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点

3 判断
(1)相違点1について
引用発明において、超強力小麦粉を加える対象である小麦粉について、刊行物1には、摘記(1c)に、「超強力小麦粉を添加して改質する小麦粉としては、高品質の外麦強力粉よりグルテン強度の弱い小麦粉すべてが含まれる。」とされ、その具体的実施態様である摘記(1d)の実施例においては、中力粉(ホクシン)を用いており、一般に中力粉はタンパク質含有量約8.0?10.5%の小麦粉であるから(梶原慶春、浅田和宏著、パンづくりに困ったら読む本、株式会社池田書店、2012年9月25日発行、第124-125頁)、これは、本願発明の「タンパク質含有量7.5?10.5%の中力粉麦粉」に相当する。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではないか、当業者が容易になし得た技術的事項である。

(2)相違点2について
刊行物1の摘記(1b)?(1e)から、引用発明は、従来のパン用小麦粉として市販されてきた外麦強力粉と同等かそれ以上の品質を有するパン用改質小麦粉であるといえる。
一方、刊行物2の摘記(2a)?(2c)には、我が国の食料の自給力を高めるために米粉を利用する取り組みが進められており、その一つとして、小麦粉に米粉を5?50%程度混合する(米粉混成パン)する方法により、米粉を有効利用することが記載され、具体的な例として、アミロース含有率が8.5%?32.1%までの種々のアミロース含量を有する米粉を用いて米粉混成パンを製造した例が記載されている他、刊行物3の摘記(3a)?(3c)には、パン製造用の小麦粉の一部を米粉に置き換えることがそれぞれ記載されている。
これらの記載からすると、パン製造用の小麦粉に、米粉を添加すること、及び添加する米粉として、種々のアミロース含量を有するものを用いることは本願出願日前に周知の技術的事項であるといえるから、米粉の有効利用を進めることを目的に、従来のパン用小麦粉として市販されてきた外麦強力粉と同等以上の品質を有する引用発明の小麦粉ミックスの一部を米粉に置換することは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、一般に米粉のアミロース含量は0?36%の範囲であるから(刊行物2の図1,2、高橋 誠ら、米の品種特性が米粉パン品質に及ぼす影響、日本食品科学工学会誌、2009年、第56巻第7号、第394-402頁の第397頁左欄1.、大坪 研一ら、第1特集 食品加工素材としての米粉 新潟県の米粉用途別推奨指標の策定について、食品工業、2012年、第55巻第22号、第52頁の題48頁右欄第1-4行)、アミロース含量3?17%は、米粉のアミロース含量範囲のほぼ半分を網羅する一般的な範囲であるところ、上記のようにして得られたパン類製造用小麦粉ミックスの中には、アミロース含量が3?17%である低アミロース米粉を含有するものが含有されているといえる。
本願発明には「製パン性及び製造したパン類の食味について改質した」と特定されているが、このような性質は、パンを製造する際、どのような小麦粉を原料とするかによると考えられるところ、引用発明の小麦粉ミックスの一部を低アミロース米粉に置換すれば、本願発明と同様の製パン性や食味といった性質が得られると考えられる。
したがって、相違点2は当業者が容易になしえることである。

そして、超強力粉を配合する小麦粉に関する相違点1およびパン用改質小麦粉に対する低アミロース米粉の添加に関する相違点2の判断を総合的に判断しても、当業者が容易になし得る技術的事項であるといえる。

(3)効果について
本願発明の効果は、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】【0017】の記載、段落【0037】?【0059】の実施例及び段落【0060】の記載、及び平成30年10月22日付けの意見書、令和元年5月10日付けの意見書の内容からすると、中力小麦粉のような、低タンパク質含有小麦粉を使用しても外麦小麦粉(パン製造用小麦粉:強力小麦粉)を使用して製造したパン類と比べて遜色のない、ソフトでしっとりとした口どけのよいパン類が得られるというものである。

この点について検討するに、上記発明の詳細な説明の記載及び意見書において、当該効果が具体的に得られていることが示されているのは、米デンプン中のアミロース含量が3?17%である低アミロース米粉のうち、ミルキープリンセス(アミロース含量6.0%)と、ミルキークイーン(アミロース含量9.0%)を用いた場合のみである。
ここで、一般に、アミロース含量6?10%程度のものは低アミロース米、アミロース含量16?22%程度のものは中アミロース米(コシヒカリ等のうるち一般品種を含む)、アミロース含量30?36%程度のものは高アミロース米に分類されることが技術常識であるところ(高橋 誠ら、米の品種特性が米粉パン品質に及ぼす影響、日本食品科学工学会誌、2009年、第56巻第7号、第394-402頁の第397頁左欄1.、大坪 研一ら、第1特集 食品加工素材としての米粉 新潟県の米粉用途別推奨指標の策定について、食品工業、2012年、第55巻第22号、第52頁の題48頁右欄第1-4行)、ミルキープリンセス(アミロース含量6.0%)及びミルキークイーン(アミロース含量9.0%)は、そのアミロース含量からみて、いわゆる低アミロース米に該当するものである。

他方で本願発明の「アミロース含量3?17%」という範囲には、一般に中アミロース米に分類されるようなアミロース含量も包含されているところ、上記発明の詳細な説明の記載及び意見書において、アミロース含量3?17%の上限側付近の中アミロース米に分類される米粉を用いても本願発明の効果が得られることが具体的に示された例はない。
そして、中アミロース米は低アミロース米とは異なる性質を有していると認められるが、段落【0046】の【表5】及び段落【0047】の【表6】で比較例3として記載されている混合物を用いた場合を見ると、一般に中アミロース米に分類されるアミロース含量が18.0%の「うるち米粉」を用いた場合に、しっとり感やソフト感が劣ったパンが得られたことが示されている。
このことからすると、一般に低アミロース米に分類される6%と9%のアミロース含量の米粉を用いた具体例から、本願発明の「アミロース含量が3?17%」のうち、一般に中アミロース米に分類されるようなアミロース含量の米粉を用いる場合にまで、上記本願発明の効果を奏するパン製造用小麦粉ミックスが得られる当業者の予測を超える顕著なものとして理解できるとはいえない。

(4)審判請求人の主張について
(4-1)審判請求人の主張の概要
審判請求人は、令和2年5月18日付け意見書において、以下のア?ウを主張している。

ア 一致点、相違点の認定の誤りについて(令和2年5月18日付け意見書1.5.1(i))
審判請求人は、引用発明の「パン用ミックス粉」は、「小麦粉」と「超強力小麦粉」からなる「パン用ミックス粉」であるのに対して、本願発明の「パン用ミックス粉」は、「小麦粉」と「超強力小麦粉」及び「低アミロース米粉」からなる「パン用ミックス粉」であるから、本願発明と引用発明の相違は、低アミロース米粉が配合されているかどうかという「パン用ミックス粉」の配合成分の相違にあり、当該相違を無視して、(ア)本願発明1と刊行物1の発明の一致点として、『本願発明1と引用発明とは、「小麦粉と超強力小麦粉を配合したパン類製造用小麦粉ミックス」である点において一致し』と認定した点、(イ)相違点1として「タンパク質含有量7.5?10.5%の中力小麦粉」なる特定があるかないかを認定した点、(ウ)相違点2として「低アミロース米粉」の「低アミロース米のアミロース含量」や「その配合割合」の特定があるかないかを認定した点は、それぞれ誤りである旨主張している。

イ 相違点の容易想到性について(令和2年5月18日付け意見書1.5.1(ii))
(ア)審判請求人は、本願発明と引用発明の相違は、低アミロース米粉が配合されているかどうかという「パン用ミックス粉」の配合成分の相違にあり、相違点1のように、「タンパク質含有量7.5?10.5%」という特定があるかないかという点にあるものではないから、本願発明と引用発明との相違点を採用することが、当業者が容易に想到できた技術的事項であるとはいえない旨主張している。
(イ)また、審判請求人は、刊行物2?4には、本願発明で構成要件とする、「低タンパク質含有小麦粉」に、「超強力小麦粉」を配合した「パン類製造用小麦粉ミックス」について記載するものではないから、該「低タンパク質含有小麦粉」に、「超強力小麦粉」を配合した「パン類製造用小麦粉ミックス」の改善のために、更に、「低アミロース米粉」を配合することを構成要件とする、本願発明の構成及び効果を、当業者が容易に想到することができないものである旨主張している。

ウ 本願発明の効果の認定について(令和2年5月18日付け意見書1.5.1(iii))
審判請求人は、本願発明における「米デンプン中のアミロース含量が3?17%である低アミロース米粉」とのアミロース含量の特定は、「低アミロース米粉」をより明確に特定するために、この分野で、「低アミロース米」として取り扱われている「アミロース含量」を特定したものであり、該アミロース含量の特定が、低アミロース米粉のうちの特別のアミロース含量を特定しているものでないことや、本願発明の実施例においては、「低アミロース米粉」として、ミルキープリンセス(アミロース含量6.0%)の場合を例示して、その効果を示しており、当業者であれば、該実施例の結果から、「低アミロース米粉」を用いた場合の効果を、把握することができることは明らかであって、本願発明の効果を、実施例で用いた特定のアミロース含量の場合に限定して認定すべき根拠はなく、当審拒絶理由における『したがって、本願発明1の効果が、本願発明1の範囲全てにおいて格別顕著なものとはいえない。』旨の認定は、根拠がなく、理由がない旨主張している。

(4-2)審判請求人の主張に対する当審の判断
アについて
(ア)本願請求項1には「中力小麦粉と、超強力小麦粉を配合したパン類製造用小麦粉ミックス」と記載されており、本願発明では低アミロース米粉が配合される前の、中力小麦粉と超強力小麦粉の混合物のことをパン類製造用小麦粉ミックスであると称しているのであって、当審が一致点として認定した「小麦粉と超強力小麦粉を配合したパン類製造用小麦粉ミックス。」も低アミロース米粉を配合しない状態の小麦粉ミックスを認定しているのであるから、一致点の認定に誤りはない。
仮に本願発明について低アミロース米粉を配合したものが「パン類製造用小麦粉ミックス」であるとしても、本願発明と引用発明は「中力小麦粉と、超強力小麦粉を配合した」限りにおいて「パン類製造用小麦粉ミックス」として一致しているのであり、上記第5の2では低アミロース米粉のアミロース含量の範囲や低アミロース米粉の配合割合の特定の有無のみならず、中力粉麦粉と超強力粉小麦粉の混合物に対して、低アミロース米粉を添加することを含めて相違点2とした上で、上記第5の3(2)において低アミロース米粉を含む米粉を配合することが容易である旨を判断しているのであるから、一致点の認定に誤りはない。
(イ)本願発明と引用発明を対比すると、審判請求人が主張する低アミロース米粉が配合されているかどうかという配合成分の相違を認定することとは独立に、超強力粉を配合する小麦粉が、本願発明では、「タンパク質含有量7.5?10.5%の中力粉麦粉」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点は相違点であるから、相違点1の認定に誤りはない。
(ウ)上記(ア)において述べたとおり、上記第5の2では低アミロース米粉のアミロース含量の範囲や低アミロース米粉の配合割合の特定の有無のみならず、中力粉麦粉と超強力粉小麦粉の混合物に対して、低アミロース米粉を添加することを含めて相違点2として認定しており、その上で、上記第5の3(2)において低アミロース米粉を含む米粉を配合することが容易である旨を判断しているのであるから、相違点2の認定に誤りはない。
(エ)また、認定した相違点1および相違点2を総合的に判断しているのであるから、上記相違点の認定自体にも誤りはない。

よって、上記審判請求人の主張アを採用することはできない。

イについて
(ア)上記第5の3(1)における相違点1についての判断は、引用発明において、超強力小麦粉を加える対象である小麦粉を「タンパク質含有量7.5?10.5%の中力粉麦粉」とすることが刊行物1の摘記(1d)から実質的な相違点でないか、または刊行物1の摘記(1c)及び(1d)から当業者が容易になし得た技術的事項であることを述べたにすぎず、審判請求人の主張する低アミロース米粉が配合されているかどうかという「パン用ミックス粉」の配合成分の相違についての判断とは技術的に別の事項である。
(イ)上記第5の3(2)において判断したとおり、相違点2について、刊行物2,3の記載からパン製造用の小麦粉に、米粉を添加すること、及び添加する米粉として、種々のアミロース含量を有するものを用いることは本願出願日前に周知の技術的事項であるといえる。
そして、引用発明は、従来のパン製造用小麦粉として市販されてきた外麦強力粉と同等以上のものとして使用できるパン製造用改質小麦粉の発明であるから、従来のパン製造用小麦粉の一部を米粉に置換することと同様に、引用発明のパン製造用改質小麦粉の一部を米粉に置換することは、当業者が容易に想到し得ることである。

よって、上記審判請求人の主張イを採用することはできない。

ウについて
上記第5の3(2)及び(3)において検討したとおり、3?17%というアミロース含量の範囲は、米粉のアミロース含量範囲のほぼ半分を網羅する一般的な範囲であって、一般に「低アミロース米」に分類されるアミロース含量の範囲だけでなく、一部「中アミロース米」に分類されるアミロース含量の範囲までをも包含しているところ、3?17%という幅広いアミロース含量全体にわたって、同様の作用効果が得られるという技術常識は存在せず、本願の発明の詳細な説明等においてアミロース含量6%及び9%の例が示されているからといって、中アミロース米のアミロース含量に相当するようなアミロース含量17%付近の場合にまで同様の効果が奏されるとはいえないのは、上述のとおりである。

よって、上記審判請求人の主張ウを採用することはできない。

4 まとめ
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明と刊行物2?3に記載された周知技術とに基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-09-17 
結審通知日 2020-09-24 
審決日 2020-10-09 
出願番号 特願2014-4770(P2014-4770)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 中島 庸子
安孫子 由美
発明の名称 低タンパク質小麦粉使用パン類製造用小麦粉ミックス及びパン類の製造方法  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 小澤 誠次  
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