ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01R |
---|---|
管理番号 | 1368658 |
審判番号 | 不服2019-16689 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-10 |
確定日 | 2020-11-26 |
事件の表示 | 特願2018-121397「異方性導電フィルム及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月22日出願公開、特開2018-186090〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 出願の経緯 本願は、平成25年8月28日(優先権主張平成24年8月29日)に出願した特願2013-177080号(以下「原々出願」という。)の一部を、平成28年10月7日に特願2016-198884号(以下「原出願」という。)として新たな特許出願をし、更にその一部を平成30年6月26日に新たな特許出願としたものであって、平成30年6月27日に出願審査請求と同時に手続補正され、平成31年3月12日付けで拒絶理由が通知され、令和1年5月17日に提出期間を2ヶ月延長する旨の期間延長請求書が提出され、令和1年7月17日に手続補正されたが、令和1年9月3日付け(発送日:令和1年9月10日)で拒絶査定がされ、これに対し、令和1年12月10日に拒絶査定不服の審判請求が提出されると同時に手続補正され、令和2年3月12日付けで当審より拒絶理由が通知され、令和2年5月14日に意見書が提出されたものである。 第2 原出願について 1 原出願の出願の経緯 原出願については、平成29年6月26日付けで拒絶理由が通知され、平成29年8月31日付けで意見書及び手続補正書が提出され、 平成29年11月27日付けで、理由1(新規事項:特許法第17条の2第3項)、理由2(進歩性:特許法第29条第2項)及び理由3(サポート要件:特許法第36条第6項第1号)による拒絶理由(最後の拒絶理由)が通知され、平成30年1月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、 上記平成30年1月26日付けの手続補正書による手続補正は、平成30年3月5日付けで決定をもって却下されるとともに、同日付けで、上記平成29年11月27日付け拒絶理由通知書に記載した上記理由1?3によって拒絶査定がされ、当該拒絶査定は確定している。 2 原出願の拒絶査定の理由2について 原出願の上記拒絶査定の理由のうち、理由2の概要は、以下のとおりである。 平成29年8月31日付け手続補正書でした補正後の原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項は、原々出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であるとはいえず、同様に、上記手続補正後の原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項は、原々出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であるとはいえないから、原出願は、分割出願の要件を満たしておらず、その結果、出願日の遡及を認めることはできない。 そして、原出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1?4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 1.特開2016-103476号公報 2.特表2002-519473号公報 3.特開2014-130824号公報 4.特開2008-34232号公報 3 原出願の出願日について 上記「2」によると、原出願の手続において、原出願が原々出願に対し分割要件を満たさないとの判断が示されて、その判断の下で原出願の拒絶査定が確定しているといえる(特許庁,「特許・実用新案審査ハンドブック」,第VI部 第1章 「6102 孫出願の審査に当たっての留意事項」の(2)の(i)を参照。)。 したがって、原出願は、原々出願の出願日である平成25年8月28日まで出願日が遡及するものではなく、原出願の出願日は、原出願の実際の出願日である平成28年10月7日となる。 第3 本願発明 本願の請求項1?8に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、令和1年12月10日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明1は次のとおりである。 「【請求項1】 熱可塑性樹脂を含む絶縁性樹脂層と、その一方の表面に単層で形成された複数の導電性粒子から構成されている導電性粒子群とを有する異方性導電フィルムであって、 前記導電性粒子群は不連続的な独立した規則的パターンを有し、 前記熱可塑性樹脂は、絶縁性樹脂層において、少なくとも前記導電性粒子群のある位置に存在しており、 前記導電性粒子群を構成する複数の導電性粒子は各々非接触で且つ距離が設けられており、導電性粒子群内における導電性粒子の粒子間距離が0.5?10μmである異方性導電フィルム。」 第4 本願の出願日について 前記「第2」に記載したように、原出願の出願日は平成28年10月7日となるから、仮に、本願が原出願に対し分割要件の全てを満たすとともに、本願が原々出願に対し分割要件のうち実体的要件の全てを満たしたとしても、本願の出願日は、原出願の出願日である平成28年10月7日までしか遡及しない。 第5 拒絶の理由 令和2年3月12日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。 本願発明1?8は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明と同一であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。 引用文献1:特開2014-63729号公報 第6 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1の記載事項等 原出願の出願日である平成28年10月7日より前の平成26年4月10日に頒布された刊行物であり、原々出願の公開公報である引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。) (1)「【請求項8】 熱可塑性樹脂希釈液の乾燥塗膜に、該熱可塑性樹脂希釈液の乾燥被膜で被覆された被覆導電性粒子が単層で固着されている導電性粒子含有層と、絶縁性樹脂層とが積層している異方性導電フィルム。」 (2)「【請求項10】 被覆導電性粒子の粒子間距離が1?6μmである請求項8又は9に記載の異方性導電フィルム。 【請求項11】 複数の導電性粒子が、規則的なパターンで導電性粒子群を形成している請求項8?10載のいずれかに記載の異方性導電フィルム。」 (3)「【0014】 <<本発明の異方性導電フィルムの製造方法A>> 図1は、本発明の一実施例の異方性導電フィルムの製造方法の工程説明図である。以下に工程毎に説明する。 【0015】 <粒子分散液の調製工程> まず、図1(a)に示すように、この実施例では、まず、乾燥により被膜を形成する熱可塑性樹脂希釈液2中に、導電性粒子3が分散している粒子分散液1を調製する。」 (4)「【0020】 熱可塑性樹脂希釈液2における熱可塑性樹脂の固形分濃度は、異方性導電フィルムにおける導電性粒子の粒子間距離を所定の大きさにするために適宜設定することができる。本発明の異方性導電フィルムにおいて、導電性粒子3が熱可塑性樹脂の乾燥被膜6bで被覆された被覆導電性粒子4の粒子間距離L2(図1(c))は、絶縁性確保の点から、0.5?10μmが好ましく、1?6μmがより好ましいので、熱可塑性樹脂希釈液2における熱可塑性樹脂の固形分濃度は、0.1?30wt%が好ましく、2?15wt%がより好ましい。」 (5)「【0025】 <粒子分散液の塗膜乾燥工程> 次に、剥離基材5上の粒子分散液1の塗膜を乾燥させる。これにより剥離基材5上の熱可塑性樹脂希釈液の乾燥塗膜6aに、その熱可塑性樹脂希釈液の乾燥被膜6bで導電性粒子3が被覆された被覆導電性粒子4が、粒子同士が塗膜の厚さ方向に重なり合わない単層で固着した導電性粒子含有層7が形成される(同図(c))。この導電性粒子含有層7においては、被覆導電性粒子4が熱可塑性樹脂希釈液の乾燥塗膜6a上に一様に分散し、それらの粒子間距離のばらつきが著しく抑制されたものとなる。」 (6)「【0027】 <絶縁性樹脂層の積層工程> 次に、導電性粒子含有層7上に絶縁性樹脂層8を積層することにより、導電性粒子含有層7と絶縁性樹脂層8が積層している実施例の異方性導電フィルム10を得ることができる(同図(d))。」 (7)「【0033】 <<本発明の異方性導電フィルムの製造方法B>> 本発明の異方性導電フィルムは、導電性粒子含有層を規則的なパターンを有する転写型、例えば、図3A又は図3Bに示すような転写型30A、30Bを用いて形成することで製造することもできる。粒子間距離の確保が容易となり、また、粒子間距離ピッチを広くすることが可能となる。 【0034】 図3Aは、線状の溝31が形成されている転写型30Aの平面図であり、図3Bは、正方形の島状の凹部32が形成されている転写型30Bの平面図である。これらの転写型のA-A断面の溝31又は凹部32の形状は、図3Cに示すように、転写型40(転写型3Aと3Bとを併せて転写型40を称する)の片面に例えば幅5?200μmで深さ5?40μmの矩形形状(以下窪み41と称する)である。このような転写型を用いて異方性導電フィルムを製造する場合には、好ましくは以下に説明するような工程を経る。断面図をベースに説明する。なお、転写型の形状は任意に設計できるが、短絡防止をより確実にするため、複数の導電性粒子から導電性粒子群を構成し、そのような導電性粒子群を線状・島状・点状などの、不連続的な独立したパターン形状で形成することが望ましい。また、この形状は直線には限定されない。パターン形状における最短距離は、被膜粒子が1?2個存在できるスペースであればよい。被膜粒子が1個入る程度のスペースでは、粒子が存在しなくなる欠落領域の出現頻度が高まるためである。このようにパターンを用いることは、確実な絶縁領域を確保する上で信頼性の向上に効果的に作用することになる。また、生産上の観点からも、パターンを用いることで検査そのものが行いやすくなり、不良抽出が容易になることで品質向上につながるメリットがある。 【0035】 <粒子分散液の調製工程> まず、図1(a)に示すように、この実施例でも、まず、乾燥により被膜を形成する熱可塑性樹脂希釈液2中に、導電性粒子3が分散している粒子分散液1を調製する。 【0036】 <転写型への粒子分散液の塗布工程> 転写型40上に、所定厚の粒子分散液1の塗膜を形成し、公知のワイパーで転写型40の表面上の粒子分散液1を掻き取る(図4A)。これにより、窪み41中に導電性粒子3が分散している熱可塑性樹脂希釈液2が充填される。窪み41中に入り込む導電性粒子3の数は、導電性粒子3のサイズ、窪み41の幅や深さ、粒子分散液中の導電性粒子3の濃度等に応じて異なるが、通常は複数の導電性粒子3が単層で充填され、導電性粒子群43が構成される。 【0037】 <導電性粒子群43の剥離フィルムへの転写、乾燥工程> 次に、転写型40の窪み41形成面に剥離フィルム50を載せ押圧して(図4B)、被覆導電粒子群43を剥離フィルム50上に転写し(図4C)、乾燥させる。これにより剥離フィルム50上に、導電性粒子3が熱可塑性樹脂44で固定された線状又は島状の被覆導電性粒子群パターン45が形成される(図4D)。 【0038】 <絶縁性樹脂層の積層工程> 次に、被覆導電性粒子群パターン45上に絶縁性樹脂層8を積層し、剥離フィルム50を取り去ることにより、被覆導電性粒子群パターン45と絶縁性樹脂層8とが積層している実施例の異方性導電フィルム46を得ることができる(図4E)。」 (8)上記(7)の段落【0035】?【0038】の記載と【図4D】及び【図4E】を合わせみれば、熱可塑性樹脂44は導電性粒子群43のある位置に存在していることが理解できる。 2 引用発明 上記1(1)?(7)の記載事項及び上記1(8)の認定事項を総合し、本願発明1の記載振りに則って整理すると、引用文献1には、以下の引用発明が記載されていると認められる。 [引用発明] 「複数の導電性粒子3が単層で充填された導電性粒子群43が熱可塑性樹脂44で固定された被覆導電性粒子群パターン45上に絶縁性樹脂層8を積層した異方性導電フィルム46であって、 前記被覆導電性粒子群パターン45は線状又は島状の、不連続的な独立した規則的なパターン形状で形成され、 前記熱可塑性樹脂44は前記導電性粒子群43のある位置に存在しており 、 前記導電性粒子群43を構成する複数の導電性粒子3は各々非接触で且つ距離が設けられており、導電性粒子群43内における導電性粒子3の粒子間距離が0.5?10μmである異方性導電フィルム46。」 第6 対比・判断 本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「熱可塑性樹脂44」は、異方導電性フィルムにおいて導電粒子を固定する樹脂は絶縁性であることが技術常識であるといえるので、引用発明の「熱可塑性樹脂44」及び「絶縁性樹脂層8」は、本願発明1の「熱可塑性樹脂を含む絶縁性樹脂」に相当する。 引用発明の「複数の導電性粒子3が単層で充填された導電性粒子群43」は、その製造方法(引用文献1の段落【0036】参照。)からみて、熱可塑性樹脂44の表面に位置するといえるので、本願発明1の絶縁樹脂層の「一方の表面に単層で形成された複数の導電性粒子から構成されている導電性粒子群」に相当する。 引用発明の「異方導電性フィルム46」は、本願発明1の「異方導電性フィルム」に相当する。 引用発明の「被覆導電性粒子群パターン45」は「導電性粒子群43」を有するので、引用発明の「前記被覆導電性粒子群パターン45は線状又は島状の、不連続的な独立した規則的なパターン形状で形成され」ることは、本願発明1の「前記導電性粒子群は不連続的な独立した規則的パターンを有」することに相当する。 引用発明の「前記熱可塑性樹脂44は前記導電性粒子群43のある位置に存在」することは、本願発明1の「前記熱可塑性樹脂は、絶縁性樹脂層において、少なくとも前記導電性粒子群のある位置に存在」することに相当する。 引用発明の「前記導電性粒子群43を構成する複数の導電性粒子3は各々非接触で且つ距離が設けられており、導電性粒子群43内における導電性粒子3の粒子間距離が0.5?10μmである」ことは、本願発明1の「前記導電性粒子群を構成する複数の導電性粒子は各々非接触で且つ距離が設けられており、導電性粒子群内における導電性粒子の粒子間距離が0.5?10μmである」ことに相当する。 以上のことから、本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。 「熱可塑性樹脂を含む絶縁性樹脂層と、その一方の表面に単層で形成された複数の導電性粒子から構成されている導電性粒子群とを有する異方性導電フィルムであって、 前記導電性粒子群は不連続的な独立した規則的パターンを有し、 前記熱可塑性樹脂は、絶縁性樹脂層において、少なくとも前記導電性粒子群のある位置に存在しており、 前記導電性粒子群を構成する複数の導電性粒子は各々非接触で且つ距離が設けられており、導電性粒子群内における導電性粒子の粒子間 距離が0.5?10μmである異方性導電フィルム。」 そうすると、引用発明は、本願発明1の発明特定事項を全て備えている。 したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明(引用発明)である。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本願発明2?8について検討するまでもなく、 本件審判の請求は、成り立たない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-09-28 |
結審通知日 | 2020-09-29 |
審決日 | 2020-10-12 |
出願番号 | 特願2018-121397(P2018-121397) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(H01R)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高橋 学 |
特許庁審判長 |
平田 信勝 |
特許庁審判官 |
内田 博之 尾崎 和寛 |
発明の名称 | 異方性導電フィルム及びその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人田治米国際特許事務所 |