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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1368664
審判番号 不服2020-1962  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-13 
確定日 2020-11-26 
事件の表示 特願2015-120319「両面粘着剤層付偏光フィルムおよび画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月 5日出願公開、特開2017- 3906〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-120319号(以下「本件出願」という。)は、平成27年6月15日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成31年 4月15日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月11日 :意見書
令和 元年11月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 2月13日 :審判請求書
令和 2年 2月13日 :手続補正書
令和 2年 5月 7日 :上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年2月13日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び7の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
画像表示装置において最も視認側に設けられる偏光フィルム並びに当該偏光フィルムの視認側に配置される粘着剤層Aおよび前記粘着剤層Aの反対側に配置される粘着剤層Bを有し、前記粘着剤層AにセパレータSA、前記粘着剤層BにセパレータSBを備えている両面粘着剤層付偏光フィルムであって、
前記偏光フィルムは、厚み15μm以下の偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有する片保護偏光フィルムであり、前記偏光子の側に粘着剤層Bが配置されており、
前記粘着剤層Aの厚みは25μm以上であり、
前記粘着剤層Bの厚みは25μm以下であることを特徴とすることをする両面粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項2】
・・・中略・・・
【請求項7】
前記セパレータSAは、厚みが40μm以上であり、かつ、セパレータ剥離力が0.1N/50mm以上であることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の両面粘着剤層付偏光フィルム。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「 【請求項1】
画像表示装置において最も視認側に設けられる偏光フィルム並びに当該偏光フィルムの視認側に配置される粘着剤層Aおよび前記粘着剤層Aの反対側に配置される粘着剤層Bを有し、前記粘着剤層AにセパレータSA、前記粘着剤層BにセパレータSBを備えている両面粘着剤層付偏光フィルムであって、
前記偏光フィルムは、厚み15μm以下の偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有する片保護偏光フィルムであり、前記偏光子の側に粘着剤層Bが配置されており、
前記粘着剤層Aの厚みは25μm以上であり、
前記粘着剤層Bの厚みは25μm以下であり、
前記セパレータSAは、厚みが40μm以上であり、かつ、セパレータ剥離力が0.1?2N/50mmであることを特徴とすることをする両面粘着剤層付偏光フィルム。」

2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項7に係る発明における、発明を特定するために必要な事項である、「セパレータSA」の「セパレータ剥離力」を、本件出願の明細書の【0077】の記載に基づいて、「0.1N/50mm以上」から「0.1?2N/50mm」へと限定する補正事項を含むものである。
また、本件補正前の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0010】)。
そうしてみると、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものであり、また、同条第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の限定的減縮)を目的とする補正を含むものである。
そこで、本件補正後発明が特許法17条の2条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

3 独立特許要件違反についての判断
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2014-115468号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面透明板またはタッチパネルと画像表示セルとの間に配置して用いられる粘着剤付き光学フィルムであって、
偏光板を含む光学フィルム;前記光学フィルムの画像表示セルと貼り合せられる側の面に設けられた第一粘着剤層;および前記光学フィルムの透明板またはタッチパネルと貼り合せられる側の面に設けられた第二粘着剤層、を備え、
さらに前記第一粘着剤層および前記第二の粘着剤層のそれぞれには、保護シートが剥離可能に貼着されており、
前記第二粘着剤層の厚みが30μm以上である、両面粘着剤付き光学フィルム。
【請求項2】
前記第一粘着剤層の厚みが3?30μmである、請求項1に記載の両面粘着剤付き光学フィルム。
・・・中略・・・
【請求項8】
画像表示装置を製造する方法であって、
前記画像表示装置は、画像表示セル上に第一粘着剤層を介して偏光板を含む光学フィルムが配置され、前記偏光板上に第二粘着剤層を介して前面透明板またはタッチパネルが配置されており、
請求項1?7のいずれか1項に記載の両面粘着剤付き光学フィルムの第一粘着剤層に貼着された保護シートが剥離された後、前記光学フィルムと前記画像表示セルとが前記第一粘着剤層を介して貼り合せられる第一貼合工程;および
前記第二粘着剤層に貼着された保護シートが剥離された後、前記光学フィルムと前記前面透明板またはタッチパネルとが前記第二粘着剤層を介して貼り合せられる第二貼合工程、
を有する、画像表示装置の製造方法。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示パネルの前面に透明板またはタッチパネルを備える画像表示装置の形成に用いられる粘着剤付き光学フィルムに関する。さらに、本発明は当該粘着剤付き光学フィルムを用いた画像表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、カーナビゲーション装置、パソコン用モニタ、テレビ等の各種画像表示装置として、液晶表示装置や有機EL表示装置が広く用いられている。液晶表示装置は、その表示原理から、画像表示セルの視認側表面に偏光板が配置されている。また、有機EL表示装置では、外光が金属電極(陰極)で反射されて鏡面のように視認されることを抑制するために、画像表示セルの視認側表面に円偏光板(偏光板と1/4波長板の積層体)が配置される場合がある。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
層間充填剤として、液状の光硬化性樹脂を用いる方法では、液状樹脂のはみ出しに伴う汚染が生じる等の問題がある。一方、粘着シートを用いる方法では、貼り合せの前に粘着シートを画像表示装置のサイズと合致するようにカットする必要があることに加えて、所望位置に精度よく貼り合せることが容易でなく、作業性が良好とはいえない。
【0010】
前面透明板の画像表示パネル側の面の周縁部には、装飾や光遮蔽を目的とした印刷が施されることが多い。周縁部に印刷が施されると、印刷部分の境界に、10μm?数十μm程度の段差が生じるが、層間充填剤としてシート状粘着剤を用いた際は、この印刷段差部に気泡が生じ易いとの問題も生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
層間充填構造を採用する画像表示装置において、画像表示パネルと前面部材との貼り合せに関わる上記の諸問題は、偏光板の両面に粘着剤層が設けられた両面粘着剤付きの偏光板を用いることによって解決される。
【0012】
すなわち、本発明は、前面透明板またはタッチパネルと画像表示セルとの間に配置して用いられる両面粘着剤付き光学フィルムに関する。本発明の両面粘着剤付き光学フィルムは、偏光板を含む光学フィルムの画像表示セルと貼り合せられる側の面に設けられた第一粘着剤層を備え、当該光学フィルムの透明板またはタッチパネルと貼り合せられる側の面に第二粘着剤層を備える。第一粘着剤層および第二の粘着剤層のそれぞれには、保護シートが剥離可能に貼着されている。第一粘着剤層の厚みは3?30μmであることが好ましく、第二粘着剤層の厚みは30μm以上であることが好ましい。
【0013】
一実施形態において、第二粘着剤層は、25℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)Pa?1.0×10^(7)Paであり、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(2)Pa?1×10^(5)Paである。貯蔵弾性率に上記温度依存性を持たせる目的で、第二粘着剤層は、軟化点が50℃?150℃の粘着付与剤を含有していてもよい。また、貯蔵弾性率に上記温度依存性を持たせる目的で、第二粘着剤層を構成する粘着剤は、ベースポリマーが、分枝
を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルをモノマー単位として含有するものであってもよい。
【0014】
一実施形態において、第二粘着剤層を構成する粘着剤は、光硬化性モノマーまたは光硬化性オリゴマーを含有する光硬化性粘着剤である。当該実施形態において、第二粘着剤層は、活性光線が照射され硬化された場合に、硬化後の80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(3)Pa?1.0×10^(6)Paであることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明は、上記両面粘着剤付き光学フィルムを用いた画像表示装置の製造方法に関する。当該実施形態において、画像表示装置は、画像表示セル上に第一粘着剤層を介して偏光板を含む光学フィルムが配置され、前記偏光板上に第二粘着剤層を介して前面透明板またはタッチパネルが配置されている。
【0016】
本発明の画像表示装置の製造方法は、下記の工程を有する:
(1)上記両面粘着剤付き光学フィルムの第一粘着剤層に貼着された保護シートが剥離された後、光学フィルムと前記画像表示セルとが前記第一粘着剤層を介して貼り合せられる第一貼合工程、および
(2)第二粘着剤層に貼着された保護シートが剥離された後、光学フィルムと前記前面透明板またはタッチパネルとが前記第二粘着剤層を介して貼り合せられる第二貼合工程。
なお、上記第一貼合工程と第二貼合工程は、どちらが先に行われてもよく、両者が同時に行われてもよい。
【0017】
第二粘着剤層を構成する粘着剤が、光硬化性モノマーまたは光硬化性オリゴマーを含有する光硬化性粘着剤である場合、上記の第二貼合工程後に、前記前面透明板またはタッチパネル側から活性光線が照射され、第二粘着剤層が硬化されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の両面粘着剤付き光学フィルムは、画像表示セルとの貼り合せのための第一粘着剤層に加えて、前面透明板やタッチパネル等の前面透明部材と貼り合せるための第二の粘着剤層を備える。このような構成によれば、画像表示パネルと前面透明部材とを貼り合せて層間充填構造とする際に、別途の液状接着剤や粘着シートを設ける必要がない。そのため、液状樹脂や粘着シートのはみ出しによる汚染が防止されることに加えて、製造プロセスが簡略化される。
【0019】
また、第二粘着剤層の貯蔵弾性率に所定の温度依存性を持たせることで、前面透明部材の貼り合せの際の80℃付近での貯蔵弾性率を小さくして、粘着剤に段差追従性を持たせ、気泡の発生を抑制することができる。また、画像表示装置の使用環境温度における貯蔵弾性率を大きくして、実使用時の部材の位置ズレや粘着剤のはみ出し等の不具合を抑制することができる。
【0020】
さらに、第二粘着剤層として光硬化性粘着剤を用い、前面透明部材との貼り合せ後に光硬化を行うことで貯蔵弾性率を大きくすれば、画像表示装置が高温環境に晒された場合も粘着剤の流動が抑制される。そのため、段差付近での気泡の発生や剥離を抑制することが可能となる。」

ウ 「【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】両面粘着剤付き光学フィルムの一実施形態を模式的に表す断面図である。
【図2】両面粘着剤付き光学フィルムの一実施形態を模式的に表す断面図である。
【図3】画像表示装置の一実施形態を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の両面粘着剤付き光学フィルムは、偏光板を含む光学フィルムの一方の面に第一粘着剤層を備え、他方の面に第二粘着剤層を備える。第一粘着剤層は、画像表示セルと光学フィルムとの貼り合せに用いられる粘着剤層であり、第二粘着剤層は、前面透明部材(前面透明板またはタッチパネル)と光学フィルムとの貼り合せに用いられる粘着剤層である。
【0023】
以下では、適宜図面を参照しながら、本発明の詳細を説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる両面粘着剤付き光学フィルム50を模式的に表す断面図であり、図3は、本発明の一実施形態にかかる画像表示装置100を模式的に表す断面図である。
【0024】
図1に示す両面粘着剤付き光学フィルム50は、光学フィルム10として偏光板11を備える。両面粘着剤付き光学フィルム50は、光学フィルム10の一方の面に第一粘着剤層21を備え、他方の面に第二粘着剤層22を備える。第一粘着剤層21上には、第一保護シート31が剥離可能に貼着されており、第二粘着剤層22上には、第二保護シート32が剥離可能に貼着されている。
【0025】
図3に示す画像表示装置100では、光学フィルム10の一方の面が、第一粘着剤層21を介して画像表示セル60と貼り合せられており、光学フィルム10の他方の面が第二粘着剤層22を介して前面透明部材70と貼り合せられている。
【0026】
[光学フィルム]
光学フィルム10を構成する偏光板11としては、偏光子の片面または両面に、必要に応じて適宜の透明保護フィルムが貼り合せられたものが一般に用いられる。偏光子は、特に限定されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。
【0027】
偏光子の保護フィルムとしての透明保護フィルムには、セルロース系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、フェニルマレイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性および光学等方性に優れるものが好ましく用いられる。なお、偏光子の両面に透明保護フィルムが設けられる場合、その表裏で同じポリマー材料からなる保護フィルムが用いられてもよく、異なるポリマー材料等からなる保護フィルムが用いられてもよい。また、液晶セルの光学補償や視野角拡大等を目的として、位相差板(延伸フィルム)等の光学異方性フィルムを偏光子の保護フィルムとして用いることもできる。
・・・中略・・・
【0028】
図2に示すように、光学フィルム10は、偏光板11の一方または両方の面に、必要に応じて適宜の接着剤層や粘着剤層(不図示)を介して、他のフィルム13,14が積層されていてもよい。このようなフィルム13,14としては、位相差板、視野角拡大フィルム、視野角制限(覗き見防止)フィルム、輝度向上フィルム等の画像表示装置の形成に用いられるものが使用され、その種類は特に制限されない。
【0029】
例えば、液晶表示装置では、液晶セルから視認側に射出される光の偏光状態を適宜に変換して、視野角特性を向上させる等の目的で、画像表示セル(液晶セル)60と偏光板11との間のフィルム13として光学補償フィルムが用いられる場合がある。
・・・中略・・・
【0033】
[第一粘着剤層]
光学フィルム10の一方の面には、画像表示セル60との貼り合せに用いるための第一粘着剤層21が設けられる。第一粘着剤層21の厚さは、使用目的や接着力等に応じて適宜に決定できるが、本発明においては、3μm?30μmが好ましく、5μm?27μmがより好ましく、10μm?25μmがさらに好ましい。第一粘着剤層の厚みが前記範囲であれば、耐久性に優れると共に、気泡の混入等の不具合を抑制することができる。
【0034】
第一粘着剤層を構成する粘着剤としては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系等のポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性および接着性等の粘着特性を示し、耐候性や耐熱性等にも優れるという点からは、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
・・・中略・・・
【0039】
[第二粘着剤層]
光学フィルム10の他方の面には、前面透明部材70との貼り合せに用いるための第二粘着剤層22が設けられる。このように、画像表示セルとの貼り合せに用いられる第一粘着剤層21の反対面に、前面透明部材との貼り合せのための第二粘着剤層22が設けられた両面粘着剤付き光学フィルムを用いれば、層間充填構造とする際に、光学フィルム10上に、液状接着剤や別途のシート状粘着剤層を付設する工程を設ける必要がない。そのため、画像表示装置の製造工程を簡略化できると共に、接着剤(粘着剤)のはみ出しによる汚染が防止される。
【0040】
<厚み>
第二粘着剤層22の厚さは、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。第二粘着剤層の厚みが前記範囲より小さいと、光学フィルムと前面透明部材との貼り合せの際に、気泡が混入し易くなる傾向がある。
【0041】
特に、図3に模式的に示すように、前面透明部材70の画像表示パネル60側の面の周縁部に印刷部70aが設けられている場合は、第二粘着剤層の厚みが小さいと、粘着剤層が印刷段差に追従できず、印刷部70a付近に気泡が混入し易くなる傾向がある。そのため、光学フィルム10と貼り合せられる面に印刷部70aのような非平坦部を有する前面透明部材70が用いられる場合、第二粘着剤層の厚みは、非平坦部(印刷部)70aの厚みd_(a)の1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、2.0倍以上がさらに好ましい。
【0042】
第二粘着剤層22の厚さの上限は特に限定されないが、画像表示装置の軽量化・薄型化の観点や、粘着剤層形成の容易性、ハンドリング性等を勘案すると、300μm以下が好ましく、250μm以下がさらに好ましい。
・・・中略・・・
【0085】
[保護シート]
第一粘着剤層21および第二粘着剤層22のそれぞれには、保護シート31,32が剥離可能に貼着される。保護シート31,32は、粘着剤付き光学フィルム55が実用に供され、画像表示セル60や前面透明部材70と貼り合せられるまでの間、粘着剤層21,22の露出面を保護する目的で用いられる。
【0086】
保護シート31,32の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム、紙、布、不織布等の多孔質材料、ネット、発泡シート、金属箔、およびこれらのラミネート体等の適宜な薄葉体等が挙げられるが、表面平滑性に優れる点からプラスチックフィルムが好適に用いられる。
・・・中略・・・
【0088】
保護シート31,32の厚みは、通常5?200μm、好ましくは10?150μm程度である。保護シートは、必要に応じて、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系もしくは脂肪酸アミド系の離型剤、シリカ粉等による離型および防汚処理や、塗布型、練り込み型、蒸着型等の帯電防止処理もすることもできる。特に、保護シートの表面にシリコーン処理、長鎖アルキル処理、フッ素処理等の剥離処理を適宜おこなうことにより、実用に供する際に、粘着剤層21,22からの剥離性をより高めることができる。
【0089】
なお、光学フィルム10上に粘着剤層21,22を転写する際に用いられたセパレータ等を、そのまま粘着剤付き光学フィルムの保護シート31,32として用いることができる。
・・・中略・・・
【0098】
[画像表示装置]
本発明の両面粘着剤付き光学フィルムは、図3に模式的に示すように、偏光板を含む光学フィルム10の一方の面に液晶セルや有機ELセル等の画像表示セル60を備え、他方の面(視認側)にタッチパネルや前面透明板等の前面透明部材70を備える画像表示装置100の形成に好適に用いられる。当該画像表示装置において、画像表示セル60は、第一粘着剤層21を介して光学フィルム10と貼り合せられ、前面透明部材70は、第二粘着剤層22を介して光学フィルム10と貼り合せられる。
【0099】
前面透明部材70としては、前面透明板(ウインドウ層)やタッチパネル等が挙げられる。前面透明板としては、適宜の機械強度および厚みを有する透明板が用いられる。このような透明板としては、例えばアクリル系樹脂やポリカーボネート系樹脂のような透明樹脂板、あるいはガラス板等が用いられる。タッチパネルとしては、抵抗膜方式、静電容量方式、光学方式、超音波方式等、任意の方式のタッチパネルが用いられる。
【0100】
画像表示装置の形成において、両面粘着剤付き光学フィルム50は、画像表示のサイズに合わせた製品サイズに事前にカットされたものが好適に用いられる。画像表示セル60と両面粘着剤付き光学フィルム55との貼り合せ方法、および前面透明部材70と両面粘着剤付き光学フィルム55との貼り合せ方法は特に限定されず、第一粘着剤層21および第二粘着剤層22のそれぞれの表面に貼着された保護シート31,32を剥離した後、各種公知の方法により貼り合せることができる。
【0101】
本発明の両面粘着剤付き光学フィルムは、第一粘着剤層と第二の粘着剤層を備えるため、画像表示装置形成のための貼り合せ工程において、別途の液状接着剤や粘着シートを設ける必要がない。そのため、液状樹脂や粘着シートのはみ出しによる汚染が防止されることに加えて、製造プロセスが簡略化される。
【0102】
貼り合せの順序は特に限定されず、画像表示セル60と両面粘着剤付き光学フィルム55の第一粘着剤層21との貼り合せが先に行われてもよく、前面透明部材70と両面粘着剤付き光学フィルム55の第二粘着剤層22との貼り合せが先に行われてもよい。また、両者の貼り合せを同時に行うこともできる。貼り合せの作業性や、光学フィルムの軸精度を高める観点からは、第一粘着剤層21の表面から保護シート31が剥離された後、光学フィルム10と画像表示セル60とが第一粘着剤層を介して貼り合せられる第一貼合工程が行われ、その後に、第二粘着剤層22の表面から保護シート32が剥離され、光学フィルム10と前面透明部材70とが第二粘着剤層22を介して貼り合せられる第二貼合工程が行われることが好ましい。」

エ 「【実施例】
【0108】
以下に実施例および比較例を挙げてさらに説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0109】
[実施例1]
<偏光板>
ヨウ素が含浸された厚み25μmの延伸ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の両面に透明保護フィルムが貼り合せられた偏光板(偏光度99.995%)を用いた。偏光子の一方の面(画像表示セル側)の透明保護フィルムは、厚さ40μmのトリアセチルセルロースフィルムからなる位相差フィルムであり、他方の面(視認側)の透明保護フィルムは、厚さ60μmのトリアセチルセルロースフィルムであった。
【0110】
<セル側粘着剤層(第一粘着剤層)の形成>
(ベースポリマーの調製)
温度計、攪拌機、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えたセパラブルフラスコに、ブチルアクリレート97部、アクリル酸3部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.2部および酢酸エチル233部投入した後、窒素ガスを流し、攪拌しながら約1時間窒素置換を行った。その後、60℃にフラスコを加熱し、7時間反応させて、重量平均分子量(Mw)が110万のアクリル系ポリマーを得た。
【0111】
(粘着剤組成物の調製)
上記アクリル系ポリマー溶液(固形分を100重量部とする)に、イソシアネート系架橋剤としてトリメチロールプロパントリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製「コロネートL」)0.8重量部、シランカップリング剤(信越化学(株)製「KBM-403」)0.1部を加えて粘着剤組成物(溶液)を調製した。
【0112】
(粘着剤層の形成および架橋)
セパレータ(表面が離型処理された厚み38μmのポリエチレンテレフタレート系フィルム)上に、上記の粘着剤組成物溶液を、乾燥後の厚みが20μmとなるように塗布し、100℃で3分間乾燥させて溶媒を除去して、粘着剤層を得た。その後、50℃で48時間加熱して、架橋処理を行った。(以下、この粘着剤層を「粘着剤層A」と称する)
【0113】
<視認側粘着剤層(第二粘着剤層)の形成>
(ベースポリマーの調製)
ベースポリマーとして、ブチルアクリレート(BA)とメチルメタクリレート(MMA)のブロック共重合体(BA/MMA=2/1、重量平均分子量10万)が用いられた。(以下、このベースポリマーを「ポリマー1」と称する)
【0114】
(粘着剤組成物の調製)
上記のポリマー1を80重量部、および可塑剤を20重量部、120重量部のトルエンに溶解して、粘着剤組成物(溶液)を調製した。可塑剤としては、重量分子量約3000のアクリルオリゴマー(東亜合成(株)製「ARUFON UP-1000」)が用いられた。
【0115】
(粘着剤層の形成)
セパレータ上に、上記の粘着剤組成物溶液を、乾燥後の厚みが150μmとなるように塗布し、100℃で3分間乾燥させて溶媒を除去して、粘着剤層を得た。(以下、この粘着剤層を「粘着剤層B1」と称する)
【0116】
<両面粘着剤付き光学フィルムの作製>
上記偏光板の一方の面にセル側粘着剤層として上記の粘着剤層Aを貼り合せた。その後、偏光板の他方の面に視認側粘着剤層として上記の粘着剤層B1を貼り合せた後、セパレータを剥離し、その上に粘着剤層B1を貼り合せて、粘着剤層B1が2層(合計厚み300μm)の粘着剤層とした。
【0117】
このようにして、偏光板(光学フィルム)の一方の面に、厚み20μmの粘着剤層、他方の面に、厚み300μmの粘着剤層が貼り合せられ、各粘着剤層上にセパレータが剥離可能に貼着された両面粘着剤付き光学フィルムを得た。
【0118】
<カッティング>
上記の両面粘着剤付き光学フィルムを、48mm×98mmのサイズにトムソン刃で打ち抜いた。同一サイズに打ち抜かれた両面粘着剤付き光学フィルムを50枚積み重ね、その上下から万力状の治具にてフィルムを保持し、光学フィルムの端面から粘着剤層がはみ出るように加圧した。この状態で、光学フィルムの端面から0.5mm内側を、回転刃を用いて光学フィルムおよびセパレータと共に粘着剤層ごと切削した。その後、上記圧力を解放し、製品サイズにカットされた両面粘着剤付き偏光板を得た。
【0119】
<評価用疑似画像表示装置の作製>
両面粘着剤付き偏光板の一方の面(粘着剤層A側)に平坦なガラス板(0.7mm×50mm×100mm)が貼り合せられ、他方の面(粘着剤層B側)には、黒色インク(厚み10μm)が周縁部に枠状に印刷されたガラス板(0.7mm×50mm×100mm、インク印刷幅:端部から10mm)が貼り合せられ、評価用疑似画像表示装置が作製された。
【0120】
まず、両面粘着剤付き偏光板の粘着剤層A側のセパレータを剥離した後、平坦なガラス板の一面に、粘着剤層がガラス面に接するように載置して貼り合せた。その後、粘着剤層B側の離型フィルムを剥離し、印刷されたガラス板の印刷面と粘着剤層が接するよう載置した後、真空熱圧着装置で熱圧着して貼り合せを行った(温度80℃、圧力0.1MPa、圧力保持時間5秒)。その後、オートクレーブ処理を行った(50℃、0.5MPa、30分)。」
・・・中略・・・
【0144】
比較例1,2では、粘着剤層B(第二粘着剤層)の厚みが小さいため、前面透明板のインク印刷部を起点とする気泡の混入が確認された。また、比較例3,4では、貼り合わせ工程が煩雑となることに加えて、端部からの接着剤のはみ出しが生じていた。
【0145】
これに対して、本発明の両面粘着剤付き光学フィルムを用いた各実施例では、前面透明部材の貼り合せを簡便な工程で行うことができると共に、前面透明部材としてインク印刷部を有するガラス板が用いられた場合でも、気泡の混入がなく、良好な貼り合わせを行うことができた。
【0146】
実施例1,実施例7?14の対比から、粘着剤中に粘着付与剤が添加されることで、室温での貯蔵弾性率が適宜に調整されると共に、貯蔵弾性率に種々の温度依存性を付与できることがわかる。
【0147】
実施例2と実施例2aとの対比から、貼り合わせの後に硬化性粘着剤の光硬化が行われることにより、表示装置が加熱環境に暴露された場合の気泡(ディレイバブル)の発生が抑制されることがわかる。このように、層間充填材として硬化型の粘着剤を用いることによって、貼り合せ時は貯蔵弾性率が相対的に小さいために接着性や貼り合せ作業性が高められ、その後の硬化によって弾性率が高められるために、接着の長期信頼性を実現できることがわかる。」

オ 図1




カ 図3




(2)引用発明
引用文献1の【図1】及びその説明(【0024】、【0033】、【0040】)から理解される「両面粘着剤付き光学フィルム」は、【0025】に記載のとおりの態様で用いられるものである。
ここで、上記「両面粘着剤付き光学フィルム」の「第一粘着剤層21」及び「第二粘着剤層22」の最も好ましい厚さは、それぞれ【0033】及び【0040】に記載のとおりであり、また、「第一保護シート31」及び「第二保護シート32」の使用目的及び厚さについては、【0085】及び【0088】に記載のとおりである。
そして、【0026】の「光学フィルム10を構成する偏光板11としては、偏光子の片面または両面に、必要に応じて適宜の透明保護フィルムが貼り合せられたものが一般に用いられる。」という選択的記載に接した当業者ならば、「偏光子の片面に,透明保護フィルムが貼り合せられた」「偏光板11」の態様を把握できる。
以上勘案すれば、引用文献1には、次の「両面粘着剤付き光学フィルム」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、以下では、用語を統一するとともに、便宜のため、部材番号の省略、序数詞の追加を行った箇所がある。

「光学フィルム10として偏光板11を備え、光学フィルム10の一方の面に第一粘着剤層21を備え、他方の面に第二粘着剤層22を備え、第一粘着剤層21上には、第一保護シート31が剥離可能に貼着されており、第二粘着剤層22上には、第二保護シート32が剥離可能に貼着され、
画像表示装置100では、光学フィルム10の一方の面が、第一粘着剤層21を介して画像表示セル60と貼り合せられ、光学フィルム10の他方の面が第二粘着剤層22を介して前面透明部材70と貼り合せられる両面粘着剤付き光学フィルム50であって、
偏光板11は、偏光子の片面に,透明保護フィルムが貼り合せられたものであり、
第一粘着剤層21の厚さは10μm?25μm、第二粘着剤層22の厚さは50μm以上であり、
第一保護シート31及び第二保護シート32は、粘着剤付き光学フィルム55が実用に供され、画像表示セル60や前面透明部材70と貼り合せられるまでの間、第一粘着剤層21及び第二粘着剤層22の露出面を保護する目的で用いられ、
第一保護シート31及び第二保護シート32の厚みは10?150μmである、
両面粘着剤付き光学フィルム50。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 両面粘着剤付き光学フィルム
引用発明の「両面粘着剤付き光学フィルム」は、「光学フィルム10として偏光板11を備え、光学フィルム10の一方の面に第一粘着剤層21を備え、他方の面に第二粘着剤層22を備え、第一粘着剤層21上には、第一保護シート31が剥離可能に貼着されており、第二粘着剤層22上には、第二保護シート32が剥離可能に貼着され、画像表示装置100では、光学フィルム10の一方の面が第一粘着剤層21を介して画像表示セル60と貼り合せられ、光学フィルム10の他方の面が第二粘着剤層22を介して前面透明部材70と貼り合せられる」ものである。
上記の構成からみて、引用発明の「両面粘着剤付き光学フィルム」は、「画像表示装置100」において最も視認側に設けられる「偏光板11」、「偏光板11」の視認側に配置される「第二粘着剤層22」、及び「第二粘着剤層22」の反対側に配置される「第一粘着剤層21」を有し,「第二粘着剤層22」に「第二保護シート32」,「第一粘着剤層21」に「第一保護シート31」を備えたものといえる(当合議体注:【図1】及び【図3】からも確認できる事項である。)。
そうしてみると、引用発明の「偏光板11」、「第二粘着剤層22」、「第一粘着剤層21」、「第二保護シート32」、「第一保護シート31」及び「両面粘着剤付き光学フィルム」は、それぞれ本件補正後発明の「偏光フィルム」、「粘着剤層A」、「粘着剤層B」、「セパレータSA」、「セパレータSB」及び「両面粘着剤層付偏光フィルム」に相当する。また、引用発明の「両面粘着剤付き光学フィルム」は、本件補正後発明の「両面粘着剤層付偏光フィルム」における、「画像表示装置において最も視認側に設けられる偏光フィルム並びに当該偏光フィルムの視認側に配置される粘着剤層Aおよび前記粘着剤層Aの反対側に配置される粘着剤層Bを有し、前記粘着剤層AにセパレータSA、前記粘着剤層BにセパレータSBを備えている」という要件を満たす。

イ 片保護偏光フィルム
引用発明の「偏光板11」は、「偏光子の片面に、透明保護フィルムが貼り合せられたものであ」る。
上記の構成からみて、引用発明の「偏光板11」は、本件補正後発明の「偏光フィルム」における、「偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有する片保護偏光フィルムであり」という要件を満たす。

ウ 粘着剤層A及び粘着剤層Bの厚み
引用発明の「両面粘着剤付き光学フィルム」は、「第一粘着剤層21の厚さは10μm?25μm、第二粘着剤層22の厚さは50μm以上であ」る。
そうしてみると、引用発明の「第二粘着剤層22」は、本件補正後発明の「粘着剤層A」における、「厚みは25μm以上であり」という要件を満たす。また、引用発明の「第一粘着剤層21」は、本件補正後発明の「粘着剤層B」における、「厚みは25μm以下であり」という要件を満たす。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「画像表示装置において最も視認側に設けられる偏光フィルム並びに当該偏光フィルムの視認側に配置される粘着剤層Aおよび前記粘着剤層Aの反対側に配置される粘着剤層Bを有し、前記粘着剤層AにセパレータSA、前記粘着剤層BにセパレータSBを備えている両面粘着剤層付偏光フィルムであって、
前記偏光フィルムは、偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有する片保護偏光フィルムであり、
前記粘着剤層Aの厚みは25μm以上であり、
前記粘着剤層Bの厚みは25μm以下である、
両面粘着剤層付偏光フィルム。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「偏光子」が、本件補正後発明では、「厚み15μm以下」であるのに対して、引用発明では厚みが特定されていない点。

(相違点2)
「偏光フィルム」が、本件補正後発明では、「偏光子の側に粘着剤層Bが配置され」たものであるのに対して、引用発明では、「偏光子」の側に配置されたものが、「第二粘着剤層22」か「第一粘着剤層21」か分からない点。

(相違点3)
「セパレータSA」が、本件補正後発明では、「厚みが40μm以上であり、かつ、セパレータ剥離力が0.1?2N/50mmである」のに対して、引用発明では、「厚みは10?150μm」とされ、セパレータ剥離力は明らかではない点。

(5)判断
ア 相違点1について
画像表示装置の薄型化のために、偏光子等の光学フィルム(光学部材)を薄型化することは常套手段であって、厚みが15μm以下である薄型の偏光子は、例えば、特開2012-247574号公報(以下「引用文献2」という。)の【請求項4】及び【0089】、特開2011-227450号公報(以下「引用文献3」という。)の【0032】及び特開2014-119501号公報(以下「引用文献4」という。)の【0020】等に記載されているように、本件出願前の周知技術である。
ここで、引用文献1には、「偏光子」の厚みについて、実施例(厚みが25μm)以外に特段記載はないが、「厚み15μm以下」の薄型偏光子を使用することを排除する記載はない。そうすると、引用発明において、画像表示装置の薄型化のために、引用発明の「偏光子」として、厚みが「15μm以下」の薄型の偏光子を採用し、相違点1に係る本件補正後発明の構成を具備したものとすることは、上記周知技術を心得た当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 相違点2について
引用文献2の【0002】及び【0011】には、液晶セルに貼着されるものであって、粘着剤層、偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し、粘着剤層が、前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられた粘着型偏光板が記載されている。また、引用文献2の実施例1(【0115】、【0120】?【0125】等)には、上記粘着型偏光板を具体化したものとして、4μm厚のPVA層からなる薄型偏光膜に、40μm厚のトリアセチルセルロースフィルム(透明保護フィルム)を貼り合わせた、薄型偏光板(1)の前記偏光膜の側に粘着剤層を転写して作製された粘着型偏光板が記載されており、これを液晶パネルに貼り付けて性能評価を行ったことが記載されている。
以上によれば、引用文献2には、「粘着型偏光板を画像表示装置に貼着する際、片保護偏光フィルムの透明保護フィルム側が画像表示装置の視認側を向くように、粘着剤層を介して貼着する」という技術的事項が記載(以下「引用文献2の技術的事項」という。)されていると認められる。
ここで、引用発明の「偏光板を含む光学フィルム」と、引用文献2に記載された「偏光板」は、ともに偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを具備し、粘着剤層を介して液晶表示装置の視認側に貼り合わせられる、偏光光学素子である点において共通する。そうしてみると、引用文献2に記載された上記技術的事項にしたがって、引用発明において、「偏光板を含む光学フィルム」を、「透明保護フィルム」の側を、液晶表示装置の視認側として、「第一粘着剤層」を介して貼り合わせる構成となし、相違点2に係る本件補正後発明の構成を具備したものとすることは、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(当合議体注:機械的強度、熱安定性、水分遮断性等の観点からみても、「保護フィルム」として比較的有利な配置は視認側であり、このような観点からみても、当業者は、相違点2に係る本件補正後発明の構成を採用すると考えられる。)

ウ 相違点3について
相違点3に係る、セパレータの厚み及びセパレータ剥離力は、例えば、特開2004-10647号公報(【0028】?【0030】、以下「引用文献14」という。)、特開2012-184439号公報(【0037】?【0038】、【0131】、以下「引用文献15」という。)及び特開2007-9138号公報(【0105】及び【0115】、以下「引用文献16」という。)に例示されるように、セパレータとして一般的な数値範囲のものといえる。
したがって、引用発明の「両面粘着剤付き光学フィルム」を具体化するに際し、「第一保護シート」及び「第二保護シート」として、厚み及び剥離力が、上記一般的な数値範囲内のものを採用し、相違点3に係る本件補正後発明の構成を具備したものとすることは、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)発明の効果について
本件補正後発明の効果として、本件出願の明細書には以下の記載がある。
ア 「本発明の両面粘着剤層付偏光フィルムは、偏光フィルムの片面に透明基体等の部材に貼り合わせる粘着剤層Aを有し、その反対側に表示部に貼り合わせる粘着剤層Bを有する両面粘着剤層付偏光フィルムであり、偏光フィルムの視認側にも粘着剤層Aを有するため、画像表示装置の作製において工程の簡略化を図ることができる。また、両面に粘着剤層を予め設けた偏光フィルムによれば、これを所定サイズに加工することにより、生産性の向上と品質の向上を達成することができる。」(【0027】)
イ 「また本発明の両面粘着剤層付偏光フィルムにおいて、視認側の粘着剤層Aの厚さは、その反対側の粘着剤層Bの厚さ以上であり、前記粘着剤層AにはセパレータSA、前記粘着剤層BにはセパレータSBが備えられている。また、かかる構成によって、本発明の両面粘着剤層付偏光フィルムによれば、片保護偏光フィルムによって薄型化を図っているにも拘わらずカールの発生を抑制することができる。また、本発明の両面粘着剤層付偏光フィルムは、表示部表面への貼り合わせのために粘着剤層B側のセパレータSBが剥離された場合にも、粘着剤層Aそのものの強度および粘着剤層Aに付帯しているセパレータSAの強度により補強されるため、カールの発生を抑制することができる。また、本発明の両面粘着剤層付偏光フィルムを粘着剤層Bを介して表示部表面へ貼り合わせた後に、リワークが必要になった場合にも、本発明の両面粘着剤層付偏光フィルムは、粘着剤層Aそのものの強度および粘着剤層Aに付帯しているセパレータSAの強度により補強されるため、リワークを良好に行うことができる。」(【0028】)
しかしながら、上記アの効果は、引用発明も奏する効果であり、上記イの効果は、前記(5)ア?ウで述べたとおり創意工夫してなるものが奏する効果にとどまる。

(7)請求人の主張について
請求人は、令和2年2月13日付け審判請求書及び同年5月7日付け上申書において、概略、以下の点を主張している。
ア 引用文献1には、片保護偏光フィルム及び薄型偏光子についての具体的な開示、薄型化を図るとともに、カールの発生を抑制し、かつリワーク性を向上するという本願発明の課題が記載されていない点。
イ 引用文献1に片保護偏光フィルムの具体的な開示がない以上、当業者は、引用発明において、片保護偏光フィルムをどのように配置するかという技術的思想を想起することはない点。
ウ 引用文献14?16に記載の発明は、基材レスの両面粘着テープに関する発明であって、引用発明の第二保護シート(セパレータ)の剥離力の一般的な数値範囲を示すものではない点。

上記主張について検討する。
[主張アについて]
引用文献1の【0026】の記載に接した当業者ならば、片保護偏光フィルムの態様を把握できる。また、厚み15μm以下の薄型偏光子の点、及び発明の効果の点については、前記(5)ア及び(6)で述べたとおりである。

[主張イについて]
上記(5)イで述べたとおりである。
なお、引用発明1に片保護偏光フィルムが実質的に開示されている以上、当業者がその配置を検討することは、必然である。

[主張ウについて]
引用発明の「第二保護シート」の剥離力を選択する際に、引用文献14?16が参考にできない特段の理由はない。なお、引用文献15の【0049】の記載からは、同文献に記載されたセパレータ剥離力の一般的な数値範囲が、基材の有無にかかわらないことが理解される。
以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用できない。

(8)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件補正は同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件出願前に日本国内及び外国において頒布された刊行物である、特開2014-115468号公報(引用文献1)に記載された発明、特開2012-247574号公報(引用文献2)に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]3(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]3で検討した本件補正後発明から、「前記セパレータSAは、厚みが40μm以上であり、かつ、セパレータ剥離力が0.1?2N/50mm」という構成を省いたものである。そして、本願発明の構成を全て具備し、前記構成を具備したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]3で述べたとおり、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると、本願発明も、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-09-25 
結審通知日 2020-09-29 
審決日 2020-10-12 
出願番号 特願2015-120319(P2015-120319)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 説志  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 神尾 寧
里村 利光
発明の名称 両面粘着剤層付偏光フィルムおよび画像表示装置  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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