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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1368751
審判番号 不服2020-2745  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-28 
確定日 2020-12-15 
事件の表示 特願2016- 553「トナー、トナー収容ユニット及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月15日出願公開、特開2017-107139、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016-553号(以下「本件出願」という。)は、平成28年(2016年)1月5日(優先権主張 平成27年(2015年)1月5日、平成27年(2015年)11月30日)を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和元年 9月25日付け:拒絶理由通知書
令和元年11月28日 :意見書・手続補正書
令和元年11月29日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 2月28日 :審判請求書・手続補正書

2 原査定の概要
(1)新規性
本件出願の請求項1?6に係る発明は、本件出願の優先権主張の基礎となる最先の出願(以下「最先出願」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献2?4に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)進歩性
本件出願の請求項1?6に係る発明は、最先出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献2?4に記載された発明に基づいて、最先出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献2:特開2006-84743号公報
引用文献3:特開2012-53196号公報
引用文献4:特開2013-145362号公報
(当合議体注:引用文献2?4は、いずれも主引用例として引用されたものである。)

(3)サポート要件
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
トナーの分子量分布の一部の領域だけ規定しても、他の分子量領域の分布も、トナーの特性に大きな影響を与えることから、請求項1?6に係る発明では、必ずしも、課題を解決できるトナーにはならず、本願の請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は、令和2年2月28日にした手続補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1?請求項6に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
少なくとも結着樹脂を含有するトナーであって、
前記トナーの示差走査熱量測定(DSC)において、1回目の昇温で40℃?70℃の範囲にガラス転移点が見られ、前記1回目の昇温でのガラス転移点をX℃としたとき、2回目の昇温のガラス転移点がX?X-20℃の範囲に見られず、
前記トナーのTHF可溶成分のGPCにより測定される分子量分布において、分子量が300以上5000以下の範囲における任意の分子量Mを選んだとき、前記分子量Mの±300の範囲における以下に定義されるピーク強度の最大値と最小値の差が30以下であり、
前記結着樹脂はポリエステル樹脂であることを特徴とするトナー。
ピーク強度:GPC測定により、縦軸が強度、横軸が分子量の分子量分布曲線でプロットし、分子量が20000以下の範囲において最大となる強度の値を100としたときの相対的な値
【請求項2】
分取GPCにより、分子量が300以上5000以下における任意の分子量Mの±300の範囲において、ピーク強度の最大値と最小値の差が30以下である成分を分取した際に、分取された成分のうちいずれかの成分中に、下記モノマーAを含む物質が含有されていることを特徴とする請求項1に記載のトナー。
モノマーA:分子量210以下であり、かつ酸官能基を有するモノマー
【請求項3】
前記モノマーAが、イソフタル酸、テレフタル酸及びフタル酸からなる芳香族ジカルボン酸の群並びにコハク酸、グルタル酸、アジピン酸及びセバシン酸からなる脂肪族ジカルボン酸の群から選択されるジカルボン酸であることを特徴とする請求項2に記載のトナー。
【請求項4】
前記結着樹脂が、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール及び1,9-ノナンジオールからなる脂肪族ジオールの群から選択される1種以上と、フマル酸、セバシン酸及びドデカンジカルボン酸からなる脂肪族ジカルボン酸の群から選択される1種以上とからなるポリエステル樹脂を含むことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のトナー。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載のトナーを収容したことを特徴とするトナー収容ユニット。
【請求項6】
静電潜像担持体と、
前記静電潜像担持体上に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
前記静電潜像をトナーを用いて現像して可視像を形成する現像手段と、
前記可視像を記録媒体上に転写する転写手段と、
該記録媒体上に転写された転写像を定着させる定着手段とを少なくとも有し、
前記トナーが、請求項1?4のいずれかに記載のトナーであることを特徴とする画像形成装置。」

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、最先出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、特開2006-84743号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等に好適に用いられるトナー、並びに、該トナーを用いた現像剤、トナー入り容器、プロセスカートリッジ、画像形成装置及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法による画像形成は、一般に、感光体(静電荷像担持体)上に静電荷像を形成し、該静電荷像を現像剤で現像して可視像(トナー像)とした後、該可視像を紙等の記録媒体に転写し定着することにより定着像とする一連のプロセスにより行われる(特許文献1?2参照)。
・・・中略・・・
【0006】
低温定着性の改善を目的として、例えば、バインダー中にガラス転移温度がシャープメルト性を有する特定の非オレフィン型結晶性重合体を添加する方法(特許文献3参照)、同様にシャープメルト性を有する結晶性ポリエステルを用いる方法(特許文献4参照)、結着樹脂として結晶性樹脂と非晶性樹脂とを含有し、これらが互いに不相溶であるトナー(特許文献5参照)などが提案されている。
しかし、これらの方法では、十分な低温定着性を得ることができず、仮に、シャープメルト性により、画像の低温定着化に寄与するトナーを得ることができたとしても、ガラス転移温度を低下させ過ぎると、耐熱保存性が悪化することがある。また、分子量を小さくして樹脂の軟化温度を低下させ過ぎると、ホットオフセット発生温度が低下するという問題があり、画像の低温定着化と耐熱保存性との両立を図ることが困難である。
【0007】
したがって、耐ホットオフセット性が良好であり、優れた低温定着性と耐熱保存性とを両立し、高画質が得られるトナー及び該トナーを用いた関連技術は、未だ提供されていないのが現状である。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、耐ホットオフセット性が良好であり、優れた低温定着性と耐熱保存性とを両立し、高画質が得られるトナー、並びに、該トナーを用い、高画質化が可能な、現像剤、トナー入り容器、プロセスカートリッジ、画像形成装置及び画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
トナーの熱特性としては、ガラス転移温度、融点、軟化点などが挙げられ、該熱特性はトナーを構成する樹脂の種類により異なる。トナーの定着時には樹脂のガラス転移温度が低温であるほど加熱時の流動が起こりやすく、トナーが軟化しやすくなるため低温定着性に優れる。しかし、ガラス転移温度が低くなり過ぎると、トナーの粉体としての性質、すなわち粉体流動性や耐熱保存性が悪化する。
【0011】
本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、複数の樹脂をトナーに含有し、これらを互いに相溶させると、それぞれの樹脂が相溶前とは異なる熱特性を示し、熱溶融後のトナーのガラス転移温度が低下し、トナーの低温定着化に有効であることを知見した。また、前記樹脂の相溶性は、熱溶融前後のトナーのガラス転移温度の差により異なり、該差を一定の範囲内に収めることにより、トナーの溶融が効率的に行われ、低温定着性と耐熱保存性とを両立するトナーが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> -20℃から昇温速度10℃/minにて150℃まで加熱した熱溶融前のガラス転移温度をT1とし、-20℃から昇温速度10℃/minにて150℃まで加熱した後、降温速度10℃/minにて-20℃まで冷却し、更に昇温速度10℃/minにて加熱した熱溶融後のガラス転移温度をT2としたとき、10℃<(T1-T2)<60℃を満たすことを特徴とするトナーである。
・・・中略・・・
【0014】
本発明のトナーは、熱溶融前のガラス転移温度をT1とし、-20℃から昇温速度10℃/minにて150℃まで加熱した後、降温速度10℃/minにて-20℃まで冷却し、更に昇温速度10℃/minにて加熱した熱溶融後のガラス転移温度をT2としたとき、10℃<(T1-T2)<60℃を満たす。該トナーは、前記ガラス転移温度T1とT2との差が、前記数式を満たすので、トナーに含まれる複数の樹脂が互いに適度に相溶し、低温定着性と耐熱保存性とを両立する。該トナーを用いて画像形成を行うと、低温定着条件下で高画質が得られる。
・・・中略・・・
【0017】
また、前記トナーが、活性水素基含有化合物及び該活性水素基含有化合物と反応可能な重合体を水系媒体中で反応させてなる場合には、耐凝集性、帯電性、流動性、転写性、定着性等の諸特性に優れる。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、耐ホットオフセット性が良好であり、優れた低温定着性と耐熱保存性とを両立し、高画質が得られるトナー、並びに、該トナーを用い、高画質化が可能な、現像剤、トナー入り容器、プロセスカートリッジ、画像形成装置及び画像形成方法を提供することができる。」

ウ 「【0101】
前記結着樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、30?70℃が好ましく、40?65℃がより好ましい。前記トナーでは、架橋反応、伸長反応したポリエステル樹脂が共存していることにより、従来のポリエステル系トナーと比較してガラス転移温度が低くても良好な保存性を示すものである。
前記ガラス転移温度(Tg)が、30℃未満であると、トナーの耐熱保存性が悪化することがあり、70℃を超えると、低温定着性が十分でないことがある。
【0102】
前記ガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計(「DSC-60」;島津製作所製など)を用いて、以下の方法により測定することができる。まず、試料約10mgをアルミニウム製の試料容器に入れ、試料容器をホルダーユニットにのせ、電気炉中にセットする。-20℃から昇温速度10℃/minで150℃まで加熱した後、降温速度10℃/minで-20℃まで試料を冷却し、更に150℃まで昇温速度10℃/minで加熱して示差走査熱量計(DSC)によりDSC曲線を計測する。得られたDSC曲線から、「DSC-60」システム中の解析システムを用いて、ガラス転移温度(Tg)近傍の吸熱カーブの接線とベースラインとの接点からガラス転移温度(Tg)を算出することができる。」

エ 「【実施例】
【0171】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0172】
前記トナー材料として、樹脂1?8を合成した。
-樹脂1?2の合成-
窒素導入管、脱水管、攪拌機、及び熱伝対の付いた5リットル容の四つ口フラスコに、表1に示す原料を入れ、160℃で5時間にわたって反応させた後、200℃に昇温して1時間反応させ、8.3kPaにて更に1時間反応させて樹脂1及び樹脂2を合成した。
【0173】
-樹脂3の合成-
窒素導入管、脱水管、攪拌機、及び熱伝対の付いた5リットル容の四つ口フラスコに、表1に示す原料を入れ、160℃で5時間にわたって反応させた後、200℃に昇温して1時間反応させて樹脂3を合成した。
【0174】
【表1】

【0175】
-樹脂4?6の合成-
100℃の熱水を通した精留塔を備えた脱水管、窒素導入管、攪拌機、及び熱伝対の付いた5リットル容の四つ口フラスコに、表2に示す無水トリメリット酸以外の原料及び酸化ジブチル錫0.1質量部を入れ、180℃から230℃まで8時間かけて昇温し、反応させた。更に、8.3kPaにて1時間反応させた後、無水トリメリット酸を添加し、220℃、40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応させて、樹脂4、樹脂5、及び樹脂6を合成した。
【0176】
【表2】

なお、表2中、BPA-POは、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物であり、BPA-EOは、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物である。
【0177】
-樹脂7?8の合成-
窒素導入管、脱水管、攪拌機、及び熱伝対の付いた5リットル容の四つ口フラスコに、表3に示す無水トリメリット酸以外の原料及び酸化ジブチル錫0.2質量部を入れ、225℃にて8時間かけて反応させた。更に、8.3kPaにて1時間反応させた後、210℃にて無水トリメリット酸を添加し、所望の軟化点に達するまで反応させて樹脂7及び樹脂8を合成した。
【0178】
【表3】

なお、表3中、BPA-POは、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物であり、BPA-EOは、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物である。
【0179】
得られた樹脂1?8のうち、結晶性樹脂である樹脂1?3について、DSCの吸熱ピーク温度、オルトジクロロベンゼン可溶分のGPCによる分子量分布における、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、Mw/Mn、及び赤外吸収スペクトルにおいて、オレフィンのδCH(面外変角振動)に基づく吸収を測定した。結果を表4に示す。
【0180】
【表4】

【0181】
(実施例1)
-トナー材料の溶解乃至分散液の調製-
--マスターバッチ(MB)の調製--
前記着色剤としてのカーボンブラック(「リーガル400R」;キャボット社製)40質量部、ポリエステル樹脂(「RS801」;三洋化成工業製、酸価=10、重量平均分子量(Mw)=20,000、ガラス転移温度(Tg)=64℃)60質量部、及び水30質量部をヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)で混合し、顔料凝集体中に水がしみ込んだ混合物を得た。該混合物を二本ロールで130℃にて45分混練した後、圧延冷却し、パルペライザー(ホソカワミクロン社製)で直径1mmの大きさに粉砕して、マスターバッチを調製した。
【0182】
--有機溶剤相の調製--
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器中に、前記樹脂1を440質量部、前記樹脂4を194質量部、カルナウバワックス110質量部、及び酢酸エチル1806質量部を仕込み、撹拌下、80℃まで昇温し、80℃のまま5時間保持した後、1時間かけて30℃まで冷却した。次いで、反応容器中に、前記マスターバッチ495質量部、及び酢酸エチル495質量部を仕込み、1時間混合して原料溶解液を得た。
得られた原料溶解液1324質量部を反応容器に移し、ビーズミル(「ウルトラビスコミル」;アイメックス社製)を用いて、送液速度1kg/hr、ディスク周速度6m/秒、及び0.5mmジルコニアビーズを80体積%充填した条件で3パスして、カーボンブラック、及びカルナウバワックスの分散を行った。次いで、該ワックス分散液に前記樹脂4の65質量%酢酸エチル溶液1324質量部を添加した。上記同様の条件のビーズミルで1パスし、分散させ、有機溶剤相を調製した。
得られた有機溶剤相の固形分濃度(130℃、30分)は、50質量%であった。
【0183】
-プレポリマーの合成-
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応容器中に、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物682質量部、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物81質量部、テレフタル酸283質量部、無水トリメリット酸22質量部、及びジブチルチンオキサイド2質量部を仕込み、常圧下で、230℃にて8時間反応させた。次いで、10?15mHgの減圧下で、5時間反応させて、中間体ポリエステルを合成した。
得られた中間体ポリエステルは、数平均分子量(Mn)が2,100、重量平均分子量(Mw)が9,500、ガラス転移温度(Tg)が55℃、酸価が0.5、水酸基価が49であった。
次に、冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応容器中に、前記中間体ポリエステル411質量部、イソホロンジイソシアネート89質量部、及び酢酸エチル500質量部を仕込み、100℃にて5時間反応させて、プレポリマー(前記活性水素基含有化合物と反応可能な重合体)を合成した。
得られたプレポリマーの遊離イソシアネート含有量は、1.53質量%であった。
【0184】
-ケチミン(前記活性水素基含有化合物)の合成-
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器中に、イソホロンジアミン170質量部及びメチルエチルケトン75質量部を仕込み、50℃にて5時間反応を行い、ケチミン化合物(前記活性水素基含有化合物)を合成した。
得られたケチミン化合物(前記活性水素機含有化合物)のアミン価は418であった。
【0185】
反応容器中に、前記有機溶剤相716質量部、前記プレポリマー86質量部、及び前記ケチミン化合物3.7質量部を仕込み、TK式ホモミキサー(特殊機化製)を用いて5,000rpmにて1分間混合して、トナー材料の溶解乃至分散液を得た。
【0186】
-水系媒体の調製-
--微粒子分散液の調製--
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器中に、水683質量部、メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩(「エレミノールRS-30」;三洋化成工業製)11質量部、スチレン79質量部、メタクリル酸79質量部、アクリル酸ブチル105質量部、ジビニルベンゼン13質量部、及び過硫酸アンモニウム1質量部を仕込み、400回転/分で15分間撹拌し、白色の乳濁液を得た。該乳濁液を加熱して、系内温度75℃まで昇温して5時間反応させた。次いで、1質量%過硫酸アンモニウム水溶液30質量部を添加し、75℃にて5時間熟成して、ビニル系樹脂粒子(スチレン-メタクリル酸-アクリル酸ブチル-メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩の共重合体)の水性分散液(微粒子分散液)を調製した。
得られた微粒子分散液に含まれる微粒子の体積平均粒径を、レーザー光散乱法を用いた粒径分布測定装置(「LA-920」;堀場製作所社製)により測定したところ、105nmであった。また、該微粒子分散液の一部を乾燥して樹脂分を単離し、該樹脂分のガラス転移温度(Tg)を測定したところ、95℃であり、重量平均分子量(Mw)を測定したところ980,000であり、数平均分子量は140,000であった。
【0187】
水990質量部、前記微粒子分散液80質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの48.5質量%水溶液(「エレミノールMON-7」;三洋化成工業製)40質量部、及び酢酸エチル90質量部を、混合撹拌し、乳白色の液体(水系媒体)を得た。
【0188】
-乳化・分散-
前記水系媒体1200質量部に、前記油相混合液809質量部を加え、前記TK式ホモミキサーで、回転数13,000rpmにて20分間混合して、分散液(乳化スラリー)を調製した。
【0189】
次に、撹拌機及び温度計をセットした反応容器中に、前記乳化スラリーを仕込み、30℃にて8時間脱溶剤した後、45℃にて4時間熟成を行い、分散スラリーを得た。
得られた分散スラリーは、マルチサイザーII(ベックマン・コールター社製)で測定した体積平均粒径が5.7μm、個数平均粒径が5.0μmであった。
【0190】
-洗浄・乾燥-
前記分散スラリー100質量部を減圧濾過した後、濾過ケーキにイオン交換水300質量部を添加し、TK式ホモミキサーで混合(回転数12,000rpmにて10分間)した後濾過する操作を3回行い最終濾過ケーキを得た。
得られた最終濾過ケーキを循風乾燥機にて45℃で48時間乾燥し、目開き75μmメッシュで篩い、実施例1のトナー母体粒子を得た。
【0191】
-外添剤処理-
得られた実施例1のトナー母体粒子100質量部に対し、外添剤としての疎水性シリカ1.0質量部と、疎水化酸化チタン0.5質量部をヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)を用いて混合処理し、実施例1のトナーを製造した。
【0192】
(実施例2)
実施例1において、前記樹脂4を前記樹脂5に代えた以外は、実施例1と同様な方法により実施例2のトナーを製造した。
【0193】
(実施例3)
実施例1において、前記樹脂1を前記樹脂2に代えた以外は、実施例1と同様な方法により実施例3のトナーを製造した。
【0194】
(実施例4)
実施例1において、前記樹脂1を前記樹脂2に、前記樹脂4を前記樹脂5に、それぞれ代えた以外は、実施例1と同様な方法により実施例4のトナーを製造した。
【0195】
(実施例5)
実施例1において、前記樹脂4を前記樹脂3に代えた以外は、実施例1と同様な方法により実施例5のトナーを製造した。
【0196】
(比較例1)
実施例1において、前記樹脂4を前記樹脂7に代えた以外は、実施例1と同様な方法により比較例1のトナーを製造した。
【0197】
(比較例2)
実施例1において、前記樹脂4を前記樹脂8に代えた以外は、実施例1と同様な方法により比較例2のトナーを製造した。
【0198】
(比較例3)
実施例1において、前記樹脂1を前記樹脂3に代えた以外は、実施例1と同様な方法により比較例3のトナーを製造した。
【0199】
得られた実施例1?5及び比較例1?3のトナーについて、熱溶融前におけるガラス転移温度T1、融点ピークTm、及び融点ピークの吸熱量Q1、熱溶融後におけるガラス転移温度T2及び融点ピークの吸熱量Q2をそれぞれ下記方法により測定した。結果を表5に示す。
【0200】
<熱溶融前のガラス転移温度T1、融点ピークTm、及び融点ピークの吸熱量Q1>
示差走査熱量計(「DSC-60」;島津製作所製)を用いて下記方法により測定した。
まず、各トナー(試料)約10mgをアルミニウム製の試料容器に入れ、試料容器をホルダーユニットに載せ、電気炉中にセットした。次いで、-20℃から昇温速度10℃/minにて150℃まで加熱し、示差走査熱量計(「DSC-60」;島津製作所製)によりDSC曲線を計測した。得られたDSC曲線から、「DSC-60」システム中の解析システムを用いて、ガラス転移温度Tg近傍の吸熱カーブの接線とベースラインとの接点からガラス転移温度T1を、吸熱カーブの頂点から融点ピーク温度Tmを、ベースラインと吸熱ピークで囲まれた面積値から吸熱量Q1を、それぞれ算出した。
【0201】
<熱溶融後のガラス転移温度T1、融点ピークTm、及び融点ピークの吸熱量Q1>(当合議体注:「熱溶融後のガラス転移温度T1、融点ピークTm、及び融点ピークの吸熱量Q1」は、「熱溶融後のガラス転移温度T2、及び融点ピークの吸熱量Q2」の誤記である。)
示差走査熱量計(「DSC-60」;島津製作所製)を用いて下記方法により測定した。
まず、各トナー(試料)約10mgをアルミニウム製の試料容器に入れ、該試料容器をホルダーユニットに載せ、電気炉中にセットした。次いで、-20℃から昇温速度10℃/minにて150℃まで加熱した後、降温速度10℃/minで-20℃まで冷却し、更に昇温速度10℃/minで加熱したとき、示差走査熱量計(「DSC-60」;島津製作所製)によりDSC曲線を計測した。得られたDSC曲線から、「DSC-60」システム中の解析システムを用いて、ガラス転移温度Tg近傍の吸熱カーブの接線とベースラインとの接点からガラス転移温度T2を、ベースラインと吸熱ピークで囲まれた面積値から吸熱量Q2を、それぞれ算出した。
・・・中略・・・
【0208】
【表5】

【0209】
【表6】

【0210】
次に、外添剤処理済の実施例1?5及び比較例1?3の各トナー5質量%と、シリコーン樹脂で被覆した平均粒径40μmの銅-亜鉛フェライトキャリア95質量%とから常法により実施例1?5及び比較例1?3の各現像剤を製造した。
【0211】
得られた各現像剤を用いて、以下のようにして、(a)定着性(オフセット未発生温度及び定着下限温度)、(b)耐熱保存性、及び(c)総合評価を測定した。結果を表7に示す。
【0212】
(a)定着性(オフセット未発生温度及び定着下限温度)
図4に示すベルト定着装置110を備えた画像形成装置を用いて、定着性(オフセット未発生温度及び定着下限温度)を評価した。
ベルト式定着装置110は、加熱ローラ121と、定着ローラ122と、加圧ローラ124と、定着ベルト123とを備えている。
定着ベルト123は、内部に回転可能に配置された加熱ローラ121と定着ローラ122とによって張架され、加熱ローラ121により所定の温度に加熱されている。加熱ローラ121は、内部には加熱源125が内蔵されており、加熱ローラ121の近傍に取り付けられた温度センサ127により温度調節自在に設計されている。定着ローラ122は、定着ベルト123の内側に、かつ定着ベルト123の内面に当接しながら回転可能に配置されている。加圧ローラ124は、定着ベルト123の外側に、かつ定着ベルト123の外面に、定着ローラ122を圧接するようにして当接し、回転可能に配置されている。
定着ベルト装置110では、まず、定着処理すべきトナー像が形成された記録媒体(シート)Pが加熱ローラ121まで搬送される。そして、内蔵されている加熱源125の働きにより所定の温度に加熱された加熱ローラ121及び定着ベルト123によりシートP上のトナーTが加熱されて溶融状態となる。この状態において、該シートPが定着ローラ122及び加圧ローラ124間に形成されたニップ部に挿入される。該ニップ部に挿入されたシートPは、定着ローラ122及び加圧ローラ124の回転に連動して回転する定着ベルト123の表面に当接され、加圧ローラ124の押圧力により前記ニップ部を通過する際に押圧され、トナーTがシートP上に定着される。次いで、トナーTが定着されたシートPは、定着ローラ122及び加圧ローラ124間を通過し、定着ベルト123から剥離され、ガイドGを経てトレイ(不図示)に搬送される。なお、定着ベルト123はクリーニングローラ126で清浄化される。
【0213】
図4に示すベルト式定着装置においては、定着ローラ122、加圧ローラ124、加熱ローラ121及び定着ベルト123により、ベルト張力1.5kg/片、ベルト速度170mm/sec及びニップ部幅10mmの定着条件にて定着が行われた。
定着ローラ122は、直径38mm、アスカーC硬度が約30度のシリコーン発砲体製のローラである。加圧ローラ124は、直径48mmの芯金(鉄製、肉厚1mm)上にPFAチューブを被覆し、該PFA層の表面に厚さ1mmのシリコーンゴム層を被覆した直径50mm、アスカーC硬度が約75度のローラである。加熱ローラ121は、直径30mm、肉厚2mmのアルミニウム製のローラである。定着ベルト123は、ベルト直径60mm及びベルト幅310mmであり、約40μm厚みのニッケル製ベルト基体表面に厚さ約150μmのシリコーンゴム製の離型層を有し、加熱ローラ121及び定着ローラ122に張架されている。
【0214】
<オフセット未発生温度>
図4に示すベルト定着装置を備えた画像形成装置を用いてオフセット未発生温度を測定した。即ち、画像形成は、カラー複写機(「プリテール550」;株式会社リコー製)を用いて、転写紙(「タイプ 6200」;株式会社リコー製)に、イエロー、マゼンタ、シアン、及びブラックの各単色、及び中間色としてレッド、ブルー、及びグリーンのベタ画像を各単色で、1.0±0.1mg/cm^(2)のトナーが現像されるように調整した。得られた画像を定着ベルト(加熱ローラ)の温度を変えて図4のベルト定着装置を用いて定着し、オフセットの発生しない定着温度(オフセット未発生温度)を測定した。
【0215】
<定着下限温度>
図4に示すベルト定着装置を備えた画像形成装置を用いて、画像は、カラー複写機(「プリテール550」;株式会社リコー製)を用いて、転写紙(「タイプ 6200」;株式会社リコー製)をセットし、複写テストを行った。得られた定着画像をパットで擦った後の画像濃度の残存率が70%以上となる定着ロール温度をもって定着下限温度とした。また、下記基準に基づいて、低温定着性を評価した。
〔評価基準〕
◎:定着下限温度100℃未満
○:定着下限温度100℃以上110℃未満
△:定着下限温度110℃以上120℃未満
×:定着下限温度120℃以上
【0216】
(b)耐熱保存性(針入度)
50mlのガラス容器に各トナーを充填し、50℃の恒温槽に20時間放置した。このトナーを室温に冷却し、針入度試験(JIS K2235?1991)により針入度を測定し、下記基準に基づいて、耐熱保存性を評価した。なお、前記針入度の値が大きいほど耐熱保存性が優れていることを示す。
〔評価基準〕
◎:針入度20mm以上
○:針入度15mm以上20mm未満
△:針入度10mm以上15mm未満
×:針入度10mm未満
【0217】
(c)総合評価
前記総ての性能評価の結果から、下記基準に基づき総合評価を行った。
〔評価基準〕
◎:総合的に極めて優れている状態
○:総合的に優れている状態
△:総合的に普通である状態
×:総合的に不良である状態
【0218】
【表7】

【0219】
表7の結果から以下のことが明らかである。即ち、実施例1?5については、低温定着性及び耐熱保存性の評価結果が良好であり、総合評価が良好である。特に、実施例3?5では、低温定着性に優れ、実施例1?4では、耐熱保存性に優れたトナーが得られた。一方、比較例1?3では、耐熱保存性は比較的良好であるものの、低温定着性に劣るため、総合評価が不良(×)となった。」

(2)引用文献2に記載された発明
上記エによれば、引用文献2の【0191】には、実施例1として、「トナー母体粒子100質量部に対し」、「疎水性シリカ1 .0質量部と、疎水化酸化チタン0 .5質量部を混合処理し」、製造した実施例1の「トナー」が記載されている。そして、引用文献2の【0181】?【0190】の記載から、「トナー母体粒子」は、「油相混合液」及び「水系媒体」から得られるものと理解され、「油相混合液」及び「水系媒体」は、それぞれ引用文献2の【0181】?【0185】及び【0186】?【0187】に記載された工程にて調整されたものである。なお、引用発明の認定にあたり、「トナー材料の溶解乃至分散液」及び「油相混合液」は、後者に用語を統一した。
くわえて、引用文献2の【0023】には、上記「トナー」の効果が記載されている。
以上勘案すると、引用文献2には、実施例1として、次の「トナー」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「四つ口フラスコに、1,4-ブタンジオール38.9質量部、1,6-ヘキサンジオール5.5質量部、フマル酸55.6質量部及びハイドロキノン0.08質量部を入れ、160℃で5時間にわたって反応させた後、200℃に昇温して1時間反応させ、8.3kPaにて更に1時間反応させて樹脂1を合成し、
四つ口フラスコに、エチレングリコール16.3質量部、ネオペンチルグリコール26.3質量部、テレフタル酸76.7質量部及び酸化ジブチル錫0.1質量部を入れ、180℃から230℃まで8時間かけて昇温し、8.3kPaにて1時間反応させた後、無水トリメリット酸6.9質量部を添加し、220℃、40kPaにて反応させて、樹脂4を合成し、
カーボンブラック40質量部、ポリエステル樹脂60質量部、及び水30質量部をヘンシェルミキサーで混合し、顔料凝集体中に水がしみ込んだ混合物を得、混練した後、圧延冷却し、粉砕して、マスターバッチを調製し、
反応容器中に、前記樹脂1を440質量部、前記樹脂4を194質量部、カルナウバワックス110質量部、及び酢酸エチル1806質量部を仕込み、80℃まで昇温し、80℃のまま5時間保持した後、1時間かけて30℃まで冷却し、反応容器中に、前記マスターバッチ495質量部、及び酢酸エチル495質量部を仕込み、1時間混合して原料溶解液を得、原料溶解液1324質量部を反応容器に移し、カーボンブラック、及びカルナウバワックスの分散を行い、該ワックス分散液に前記樹脂4の65質量%酢酸エチル溶液1324質量部を添加し、分散させ、有機溶剤相を調製し、
反応容器中に、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物682質量部、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物81質量部、テレフタル酸283質量部、無水トリメリット酸22質量部、及びジブチルチンオキサイド2質量部を仕込み、常圧下で、230℃にて8時間反応させ、10?15mHgの減圧下で、5時間反応させて、中間体ポリエステルを合成し、次に、前記中間体ポリエステル411質量部、イソホロンジイソシアネート89質量部、及び酢酸エチル500質量部を仕込み、100℃にて5時間反応させて、プレポリマーを合成し、
イソホロンジアミン170質量部及びメチルエチルケトン75質量部を仕込み、50℃にて5時間反応を行い、ケチミン化合物を合成し、
反応容器中に、前記有機溶剤相716質量部、前記プレポリマー86質量部、及び前記ケチミン化合物3.7質量部を仕込み、混合して、油相混合液を得、
反応容器中に、水683質量部、メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩11質量部、スチレン79質量部、メタクリル酸79質量部、アクリル酸ブチル105質量部、ジビニルベンゼン13質量部、及び過硫酸アンモニウム1質量部を仕込み、撹拌し、白色の乳濁液を得、該乳濁液を系内温度75℃まで昇温して5時間反応させ、1質量%過硫酸アンモニウム水溶液30質量部を添加し、75℃にて5時間熟成して、ビニル系樹脂粒子の水性分散液(微粒子分散液)を調製し、
水990質量部、前記微粒子分散液80質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの48.5質量%水溶液40質量部、及び酢酸エチル90質量部を、混合撹拌し、乳白色の液体(水系媒体)を得、
前記水系媒体1200質量部に、前記油相混合液809質量部を加え、混合して、分散液(乳化スラリー)を調製し、30℃にて8時間脱溶剤した後、45℃にて4時間熟成を行い、分散スラリーを得、
前記分散スラリー100質量部を減圧濾過した後、濾過ケーキを得、45℃で48時間乾燥し、目開き75μmメッシュで篩い、トナー母体粒子を得、トナー母体粒子100質量部に対し、疎水性シリカ1.0質量部と、疎水化酸化チタン0.5質量部を混合処理し、製造したトナーであって、
示差走査熱量計を用いて下記方法により測定した熱溶融前におけるガラス転移温度T1が66.5℃、熱溶融後におけるガラス転移温度T2が40.2℃であり、T1-T2が26.3℃であり、
耐ホットオフセット性が良好であり、優れた低温定着性と耐熱保存性とを両立し、高画質が得られるトナー。
<熱溶融前のガラス転移温度T1>
トナー(試料)約10mgをアルミニウム製の試料容器に入れ、試料容器をホルダーユニットに載せ、電気炉中にセットし、-20℃から昇温速度10℃/minにて150℃まで加熱し、示差走査熱量計によりDSC曲線を計測し、得られたDSC曲線から、ガラス転移温度Tg近傍の吸熱カーブの接線とベースラインとの接点からガラス転移温度T1を算出。
<熱溶融後のガラス転移温度T2>
トナー(試料)約10mgをアルミニウム製の試料容器に入れ、該試料容器をホルダーユニットに載せ、電気炉中にセットし、-20℃から昇温速度10℃/minにて150℃まで加熱した後、降温速度10℃/minで-20℃まで冷却し、更に昇温速度10℃/minで加熱したとき、示差走査熱量計によりDSC曲線を計測し、得られたDSC曲線から、ガラス転移温度Tg近傍の吸熱カーブの接線とベースラインとの接点からガラス転移温度T2を算出。」

2 対比及び判断
(1)対比
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 結着樹脂を含有するトナー
引用発明の「樹脂1」及び「樹脂4」は、技術的にみて、本願発明の「結着樹脂」に相当する。また、引用発明の「トナー」は、その文言の意味するとおり、本願発明の「トナー」に相当する。そして、引用発明の「樹脂1」は、「1,4-ブタンジオール」「1,6-ヘキサンジオール」、「フマル酸」及び「ハイドロキノン」からなり、「樹脂4」は、「エチレングリコール」「ネオペンチルグリコール」「テレフタル酸」「酸化ジブチル錫」及び「無水トリメリット酸」からなることから、いずれもポリエステル樹脂である。
そうしてみると、引用発明の「トナー」は、本願発明の「トナー」における、「少なくとも結着樹脂を含有する」及び「結着樹脂はポリエステル樹脂である」という要件を満たす。

イ ガラス転移点
引用発明の「熱溶融前におけるガラス転移温度T1」は、「66.5℃」であって、「示差走査熱量計」を用いた算出方法からみて、本願発明の「トナーの示差走査熱量測定(DSC)において、1回目の昇温」における「ガラス転移点」に相当し、「1回目の昇温で40℃?70℃の範囲にガラス転移点が見られ」るという要件を満たす。また、引用発明の「熱溶融後におけるガラス転移温度T2」は、「40.2℃」であって、「示差走査熱量計」を用いた算出方法からみて、本願発明の「2回目の昇温のガラス転移点」に相当する。そして、引用発明の「T1-T2が26.3℃であ」ることから、引用発明の「トナー」は、本願発明の「1回目の昇温でのガラス転移点をX℃としたとき、2回目の昇温のガラス転移点がX?X-20℃の範囲に見られず」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「少なくとも結着樹脂を含有するトナーであって、
前記トナーの示差走査熱量測定(DSC)において、1回目の昇温で40℃?70℃の範囲にガラス転移点が見られ、前記1回目の昇温でのガラス転移点をX℃としたとき、2回目の昇温のガラス転移点がX?X-20℃の範囲に見られず、
前記結着樹脂はポリエステル樹脂である、
トナー。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点)
本願発明は、「トナーのTHF可溶成分のGPCにより測定される分子量分布において、分子量が300以上5000以下の範囲における任意の分子量Mを選んだとき、前記分子量Mの±300の範囲における以下に定義されるピーク強度の最大値と最小値の差が30以下である。
ピーク強度:GPC測定により、縦軸が強度、横軸が分子量の分子量分布曲線でプロットし、分子量が20000以下の範囲において最大となる強度の値を100としたときの相対的な値」のに対し、引用発明では、「ピーク強度の最大値と最小値の差が30以下である」か明らかでない点。

(3)判断
相違点について検討する。
ア 引用発明の「トナー」において、ピーク強度の最大値と最小値の差が30以下であると推認できるといえるかについて、検討する。
本件出願の明細書の記載を参照(段落【0020】)すると、「ピーク強度の最大値と最小値の差が30以下」とする方法として、本願発明は非結晶性の樹脂における低分子量成分を抑制すること、結着樹脂の末端親水基を親油基に置換する方法(末端のヒドロキシル基をフェノキシ酢酸や安息香酸で置換する等)や樹脂合成の反応条件を加速する方法(高温で長時間反応させ、減圧度を上げてモノマーを除去する等)などを行うことが記載されている。一方、引用発明の「トナー」は、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、フマル酸及びハイドロキノンからなるポリエステル樹脂及びエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、テレフタル酸、酸化ジブチル錫及び無水トリメリット酸からなるポリエステル樹脂を含有し、引用文献2の段落【0023】には、耐ホットオフセット性が良好であり、優れた低温定着性と耐熱保存性とを両立することは記載されているものの、その製造において、非結晶性の樹脂における低分子量成分を抑制すること、結着樹脂の末端親水基を親油基に置換する方法(末端のヒドロキシル基をフェノキシ酢酸や安息香酸で置換する等)や樹脂合成の反応条件を加速する方法(高温で長時間反応させ、減圧度を上げてモノマーを除去する等)などの「ピーク強度の最大値と最小値の差が30以下」とする調整を行っていないし、引用文献2には「ピーク強度の最大値と最小値の差が30以下」となることをうかがわせるような他の記載はない。
そして、トナーのTHF可溶成分のGPCにより測定される分子量分布において、分子量が300以上5000以下の範囲における任意の分子量Mを選んだとき、前記分子量Mの±300の範囲におけるピーク強度の最大値と最小値の差が30以下とすることが、本件優先日前において技術常識であったことを示す証拠もない。
したがって、引用発明のトナーが、相違点に係る本願発明の構成を具備すると推認することはできない。また、引用文献1に記載された技術事項及び技術常識を参酌しても、当業者が相違点に係る本願発明の構成に容易に想到し得たともいえない。

イ 以上アのとおりであるから、本願発明は、引用発明と同一の発明ということはできず、また、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものということもできない。
また、引用文献2に記載の他の実施例から、引用発明を認定したとしても判断は同様である。

ウ さらに、原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用され、最先出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2012-53196号公報(以下「引用文献3」という。)及び原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用され、最先出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2013-145362号公報(以下「引用文献4」という。)にも、上記相違点に係る本願発明の構成が記載されていない。そして、引用文献3又は4に記載された実施例に係るトナーから、引用発明を認定したとしても判断は同様である。

(4)請求項2?6に係る発明について
本件出願の請求項2?6に係る発明は、いずれも、本願発明に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明であるから、本願発明における全ての発明特定事項を具備するものである。
そうしてみると、前記(3)で述べたのと同じ理由により、これらの発明も、引用文献2?4に記載された発明と同一の発明ということはできず、また、引用文献2?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

3 サポート要件について
(1)本願発明の課題
本願明細書には、
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、低温定着性・帯電安定性・保存安定性を向上させたトナーを提供することを目的とする。」と記載されている。

(2)本願発明が課題を解決できることについて
本願明細書の【0230】?【0246】には、実施例2?9及び比較例1?5について、【表1】の「GPCピークの強度差」の欄が30以下、「1回目昇温のTg(℃)」の欄が40?70、「2回目昇温のTgがX?X-20℃の範囲に見られない」の欄が「○」である実施例2?9の評価は、【表2】に記載のとおり、「低温定着性」、「保存安定性」及び「帯電安定性」のいずれも良好であるのに対し、上記欄のいずれかが本願発明の範囲外である比較例1?5の評価は、「低温定着性」、「保存安定性」及び「帯電安定性」のいずれかが良好ではないことが記載されている。
そうすると、上記記載から、1回目昇温のTg(℃)が40?70℃であり、2回目昇温のTgがX?X-20℃の範囲に見られず、GPCピークの強度差が30以下であると、トナーの低温定着性、帯電安定性及び保存安定性は、良好であると理解できる。
そして、本願発明は、トナーであって、トナーの示差走査熱量測定(DSC)において、1回目の昇温で40℃?70℃の範囲にガラス転移点が見られ、前記1回目の昇温でのガラス転移点をX℃としたとき、2回目の昇温のガラス転移点がX?X-20℃の範囲に見られず、トナーのTHF可溶成分のGPCにより測定される分子量分布において、分子量が300以上5000以下の範囲における任意の分子量Mを選んだとき、前記分子量Mの±300の範囲におけるピーク強度の最大値と最小値の差が30以下であるから、本願発明の課題を解決できるものであると理解できる。

第3 原査定についての判断
1 理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
本件出願の請求項1?6に係る発明が、引用発明と同一ではなく、引用発明に基づいて容易に発明できたものということもできないことは、上記「第2」「2」「(3)」及び「(4)」で述べたとおりである。
よって、原査定における理由1及び2は、維持できない。

2 理由3(サポート要件)について
本件特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されており、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものであることは、上記「第2」「3」「(2)」で述べたとおりである。
よって、原査定における理由3は、維持できない。

第4 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1?6に係る発明は、引用文献2?4に記載された発明と同一の発明であるということはできないから、特許法29条1項3号に該当しない。また、本件出願の請求項1?6に係る発明は、引用文献2?4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないということもできない。さらに、本件出願の請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明の記載によりその発明の課題を解決することができることを当業者が認識できる範囲内のものであるから、特許法36条6項1号の規定に適合する。
したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2020-11-27 
出願番号 特願2016-553(P2016-553)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
P 1 8・ 537- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 神尾 寧
井口 猶二
発明の名称 トナー、トナー収容ユニット及び画像形成装置  
代理人 舘野 千惠子  
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