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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C10M
管理番号 1368902
審判番号 不服2019-12085  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-12 
確定日 2020-12-24 
事件の表示 特願2016-543019「潤滑組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月2日国際公開、WO2015/097152、平成29年1月5日国内公表、特表2017-500426、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)12月22日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年(平成25年)12月24日(以下「本願優先日」という。) 米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年10月19日付けで拒絶理由が通知され、同年12月6日に意見書の提出とともに手続補正され、令和元年5月15日付けで拒絶査定され(謄本発送は、同月20日)、同年9月12日に審判請求がされると同時に手続補正がされ、同年11月18日に請求人から上申書が提出されたものである。

第2 本願請求項に係る発明(本願発明)及び明細書の記載について
1 本願発明
本願発明は、令和元年9月12日に補正された特許請求の範囲の請求項1?13の記載により特定される以下のとおりのものである(以下、「本願発明1」?「本願発明13」といい、まとめて「本願発明」という。なお、下線は補正箇所であり、請求人が付したもの。)。
「【請求項1】
(i)4mm^(2)/秒以下の100℃における動粘度、少なくとも130の粘度指数、及び20重量%以下のノアック蒸発損失を有する少なくとも1種類のモノエステル又は複数のモノエステルの混合物を含む基油;並びに
(ii)(a)1種類以上の櫛型ポリマー;
(b)下記の式(1):
【化1】

(式中、R^(1)は水素原子又はメチル基であり、R^(2)は16個以上の炭素原子を有する直鎖又は分岐の炭化水素基である)
によって表される1?70モル%の1種類以上の(メタ)アクリレート構造単位を有するポリ(メタ)アクリレートポリマー;
(c)スチレン-ジエン水素化コポリマー;及び
(d)これらの混合物;
から選択されるポリマー粘度指数向上剤;
を含み、
前記少なくとも1種類のモノエステルが一価アルコールとモノカルボン酸の反応生成物であり、一価アルコールは16?36個の間の炭素原子を有する少なくとも1種類の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールであり、モノカルボン酸は5?10個の間の炭素原子を有する少なくとも1種類の飽和直鎖脂肪族モノカルボン酸であり、基油がフィッシャー・トロプシュ誘導基油を更に含む、エンジンのクランクケース内で用いるための潤滑組成物。
【請求項2】
モノエステル又は複数のモノエステルの混合物が3.3mm^(2)/秒以下の100℃における動粘度を有する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
モノエステル又は複数のモノエステルの混合物が15重量%以下のノアック蒸発損失を有する、請求項1又は2に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
少なくとも1種類のモノエステル又は複数のモノエステルの混合物が、潤滑組成物の重量基準で少なくとも10重量%の合計レベルで存在する、請求項1?3のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
少なくとも1種類のモノエステル又は複数のモノエステルの混合物が、潤滑組成物の重量基準で最高で75重量%の合計レベルで存在する、請求項1?4のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
ポリマー粘度指数向上剤が櫛型ポリマーである、請求項1?5のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
ポリマー粘度指数向上剤が、潤滑組成物の重量基準で0.1重量%?7重量%の固体ポリマー量で存在する、請求項1?6のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項8】
少なくとも1種類のモノエステル又は複数のモノエステルの混合物が少なくとも90の非極性指数を有する、請求項1?7のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項9】
少なくとも1種類のモノエステル又は複数のモノエステルの混合物が-30℃以下の流動点を有する、請求項1?8のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項10】
少なくとも1種類のモノエステル又は複数のモノエステルの混合物が、3.0cSt以下の100℃における動粘度、及び/又は少なくとも140の粘度指数、及び/又は-35℃以下の流動点、及び/又は15.0重量%以下のノアック蒸発損失を有する、請求項1?9のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項11】
アルコールが、主炭素鎖上のβ位において分岐しており、20個の炭素原子を含むアルコールを含む、請求項1?10のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項12】
酸がペンタン酸及び/又はヘプタン酸である、請求項1?11のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項13】
燃料経済性を向上させるための、エンジンのクランクケース内における請求項1?12のいずれか一項に記載の潤滑組成物の使用。」
2 本願明細書の記載
本願明細書には、次の記載がある。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、向上した燃料経済性を与えるためにエンジンのクランクケース内で用いるための潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
政府の規制及び市場の需要は、輸送産業における化石燃料の節約を重要視し続けている。CO_(2)放出の減少の目標を満足するために、より燃料効率の良い乗物に対する需要が増加している。したがって、燃料経済性(FE)の漸進的な改良は、自動車部門において非常に重要である。潤滑剤は乗物の燃料消費の減少において重要な役割を果たす可能性があり、内燃エンジン内に含める潤滑剤組成物の燃料経済性を向上させる必要性が継続して存在する。
【0003】
潤滑エンジンオイルの燃料経済性を向上させるために種々の試みが行われている。燃料経済性を向上させるための1つの技術は、基油の粘度を減少させることと粘度指数向上剤を加えることを組み合わせることによって、製品の動粘度を減少させ、粘度指数を向上させる、即ちマルチグレード化することである。例えばOW-20配合物をブレンドするために用いることができる多くの粘度調整剤及び基油が存在する。しかしながら、粘度調整剤と基油の従来の組み合わせによって非常に高いVI及び許容できる揮発性を達成することは不可能である。」
(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
組成物が高いVI、低い粘度、及び許容しうる揮発特性、並びに向上した燃料経済の利益を与える、エンジンのクランクケース内において用いるための潤滑組成物を提供する必要性が存在する。」
(3)「【0041】
PAOの製造の高いコストの観点から、PAO基油よりもフィッシャー・トロプシュ誘導基油を用いることが強く指向されている。而して好ましくは、基油は、50重量%より多く、好ましくは60重量%より多く、より好ましくは70重量%より多く、更により好ましくは80重量%より多く、最も好ましくは90重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含む。特に好ましい態様においては、基油の5重量%以下、好ましくは2重量%以下はフィッシャー・トロプシュ誘導基油でない。基油の100重量%が1種類以上のフィッシャー・トロプシュ誘導基油をベースとすることが更により好ましい。」
(4)「 【0134】
本発明の潤滑組成物の向上した燃料経済性を示すために、実施例5?9を下表2に示す種々の試験方法にかけた。
【0135】
【表2-1】

【0136】
【表2-2】


(5)「【0137】
議論:
表2から、与えられたHTHS-150(2.6)に関して、ポリマーVI向上剤を加えるとVIが増加し、HTHS-100が減少することが分かる。
【0138】
櫛型ポリマー(例えばViscoplex 3-210)又は最適の構造を有するポリ(メタ)アクリレートポリマー(例えばAclube 5110)を選択することによって、VIはより高くなり、HTHS-100はより低くなる。これは、(比較実施例7及び実施例10から明らかなように)向上した燃料経済性を示す。
【0139】
モノエステルを加えると(実施例4及び5、並びに実施例7及び8)、VIは更に増加し、HTHS-100は減少する。これは、(実施例8を比較実施例7と比べることによって明らかなように)向上した燃料経済性を示す。
【0140】
エンジンは150℃よりも100℃に近い温度で運転されるので、潤滑剤は運転条件においてより低粘度であり、したがって向上した燃料経済性を与える。」

第3 原査定について
1 原審の判断の概要
原査定における判断の概要は、本願発明は、本願優先日前に頒布された引用文献1(特表2011-518910号公報)に記載された発明及び同引用文献2(特表2010-532805号公報)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
2 引用刊行物の記載事項
(1)引用文献1の記載事項
原査定において引用された引用文献1には、次の記載がある。
ア 1頁の項目(87)
「(87)国際公開番号 WO2009/130445」
イ 「【請求項1】
15質量%以上の少なくとも1種のモノエステルおよび20質量%以下の添加剤を含んでなるエンジン潤滑油であって、該少なくとも1種のモノエステル、または2種以上が存在する場合には該モノエステルの混合物が、100℃で3.3以下の動粘度、130以上の粘度指数、および15質量%以下のノアク蒸発損失を有する、エンジン潤滑油。」
ウ 「【0002】
環境上の、法的な、そして経済的な圧力のために、エンジン潤滑油は、向上したエンジン効率、すなわちより大きなmpgもしくはkplおよびより少ないエンジン排気、ならびに潤滑油交換の頻度の減少、すなわちより少ないオイルの使用量、に貢献することが求められている。
【0003】
しかしながら、これらの要求は、特に石油系オイル、例えば鉱物油を潤滑油として用いる場合には満足させるのが難しく、何故ならば、これらの要求は、そのようなオイルによって示される粘度と揮発特性に対する相反する要求を課すためである。例えば、エンジンオイルは、一方で、高い運転温度での良好な潤滑を確実にしながら、低い周囲温度において容易なコールドスタートを可能にすることが求められる。このことは、異なる粘度の潤滑油原料を混合することによって得ることができる。しかしながら、このような配合は、成分潤滑油原料の本質的に異なる粘度指数のために、運転温度範囲の要求に合致させるには十分ではない。このことは粘度指数向上剤の、多くの場合には、比較的に多量の使用をもたらす。このような粘度指数向上剤は、しばしば重合体の性質であり、そして、特に高性能車両においては、運転温度とエンジン内の流体のせん断によって分解される可能性があり、粘度の潜在的な低下やエンジン故障を招く。
【0004】
他の取り組みでは、合成潤滑油原料、例えば特別に処理された鉱物油、α-オレフィンオリゴマーおよびポリマー(これ以降、ポリ-α-オレフィン)ならびに、例えばモノエステル、ジエステル、ポリオールエステルおよび複合エステルを含むエステルを、適当な添加剤、例えば粘度指数向上剤のあり、もしくはなしで用いている。」
エ 「【0019】
本明細書中で説明し、そして特許請求した本発明に関して、文脈から定められる通り、本明細書中で用いられる用語「質量%」は、エンジン潤滑油の総質量の百分率として称される成分の質量%を示している。特定の成分について言及している場合には、例えばノアク蒸発損失では、用語「質量%」は、その成分の総質量に対する質量%を示している。
【0020】
このエンジン潤滑油は、高性能用途における4ストロークエンジン用として特に有用である。好ましくは、前記エンジン潤滑油は、90質量%以下の前記少なくとも1種のモノエステルを含んでいる。本発明の1つの態様では、前記エンジンオイルは、前記少なくとも1種のモノエステルおよび前記添加剤から本質的になっている。
【0021】
このエンジン潤滑油は、慣用の車両における4ストロークエンジン用として特に有用である。好ましくは、前記エンジン潤滑油は、少なくとも20質量%、より好ましくは少なくとも25質量%の前記少なくとも1種のモノエステルを含んでいる。前記エンジン潤滑油は、75質量%以下、より好ましくは50質量%以下、そして更には40質量%以下の前記少なくとも1種のモノエステルを含んでいることができる。本発明の1つの態様では、前記エンジン潤滑油は、約30質量%の前記少なくとも1種のモノエステルを含んでいる。」
オ 「【0036】
前記エンジン潤滑油が、前記少なくとも1種のモノエステルと前記添加剤から本質的になるのでない場合には、前記エンジン潤滑油の残りは、API群III、III+(ガスツーリキッド(GTL)を含む)、IV、IV+およびV潤滑油およびそれらの2種もしくは3種以上の混合物から選ばれる潤滑油成分を含んでいる。好適な群III潤滑油の例としては、鉱物油が挙げられる。好適な群IV潤滑油の例としては、C_(8)?C_(12)のα-オレフィンから誘導され、そして100℃で3.6cSt?8cStの範囲の動粘度を有するポリ-α-オレフィンが挙げられる。群V潤滑油の例としては、アルキルナフタレン、アルキルベンゼンおよびエステル、例えば一価アルコールおよび/もしくはポリオールとモノカルボン酸もしくはポリカルボン酸から誘導されるエステル、が挙げられる。このエステルは、前記少なくとも1種のモノエステルとは異なるモノエステル、ポリオールエステルまたは複合エステルであることができる。好ましくは、このエステルは前記少なくとも1種のモノエステルとは異なるモノエステルである。好ましくは、前記少なくとも1種のモノエステルとは異なるこのモノエステルは、100℃で4?6cStの範囲の動粘度を有している。好ましくは、前記少なくとも1種のモノエステルとは異なるこのモノエステルは、少なくとも130のNPIを有している。好ましくは、前記少なくとも1種のモノエステルとは異なるこのモノエステルは、10%以下、好ましくは7%以下、特には5%以下のノアク蒸発損失を有している。好ましくは、前記少なくとも1種のモノエステルとは異なるこのモノエステルは、一価アルコールとモノカルボン酸との反応生成物であり、前記一価アルコールは、16?36個の範囲の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールであり、そして前記モノカルボン酸は、少なくとも10個の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族モノカルボン酸である。必要であるならば、前記アルコールおよび/または酸の混合物を、エステル化プロセスにおいて用いることができる。あるいは、前記少なくとも1種のモノエステルとは異なるこのモノエステルは、一価アルコールとモノカルボン酸との反応生成物であり、前記一価アルコールは、少なくとも10個の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールであり、そして前記モノカルボン酸は、16?36個の範囲の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族モノカルボン酸である。必要であるならば、前記アルコールおよび/または酸の混合物を、エステル化反応において用いることができる。」
カ 「【0043】
・・・GTL系原料は、天然ガス(すなわち、メタンおよびより高級なアルカン)の合成ガス(一酸化炭素および水素)への、そして次いでオリゴマー化(例えば、フィッシャー?トロプシュ法)を経由したより高分子量分子への転換によって作られ、この高分子量分子は、水素化分解されて所望の潤滑油沸点/粘度範囲にあるイソパラフィンを生成する。GTL系原料は、ほんの僅かに商業化されているだけであり、そして従って自由に入手できるそれらに関するデータはほとんど、もしくは全くない。知られている限り、このようなGTL系原料は、ポリ-α-オレフィンと同様の粘度等級を有しているであろう。」
キ 「【0068】
前記のように、本発明の前記エンジン潤滑油は、20質量%以下の添加剤を含んでいる。好ましくは、前記エンジン潤滑油は、15質量%以下の添加剤、より好ましくは10質量%以下の添加剤を含んでいる。
【0069】
典型的には、前記添加剤は、下記の通りである。
a)粘度指数向上剤、例えば、アルキルメタクリレート共重合体、オレフィン共重合体(OCP)、およびそれらの混合物であり、有効量、典型的には0.1質量%?6質量%の範囲で加えられる。
b)酸化防止剤、例えば、フェノール系酸化防止剤、例えばヒンダードフェノール、およびアルキル化ジフェニルアミンおよびそれらの混合物であり、有効量、典型的には0.5質量%?1質量%の範囲で加えられる。
c)金属不活性化剤、例えば、金属ジアルキルジチオホスファート、チアジアゾール、およびトリアゾール(これらはまた、腐食防止剤および極圧添加剤としても機能することができる)であり、有効量、典型的には0.01質量%?0.5質量%の範囲で加えられる。
【0070】
d)流動点降下剤であり、有効量、典型的には0.1質量%?1.0質量%の範囲で加えられる。
e)極圧添加剤、例えばジアリールジチオリン酸亜鉛(ZDDP)であり、有効量、典型的には0.5質量%?3.0質量%の範囲で加えられる。
f)摩擦調整剤、例えばグリセロールモノオレートであり、有効量、典型的には0.3質量%?1.3質量%の範囲で加えられる。
【0071】
g)消泡剤、例えばジメチルポリシロキサン、ポリアクリレートであり、有効量、典型的には1ppm?100ppmの範囲で加えられる。
h)多機能添加剤、例えばDDI(洗浄-分散-抑制剤)パッケージ、および
i)そのような添加剤の2種または3種以上の混合物。
【0072】
前記モノエステルおよび所望による他のエステルが、有意量、好ましくはエンジン潤滑油の主成分として存在している、本発明によるエンジン潤滑油中においては、このようなエンジン潤滑油は、粘度指数向上剤などの特定の添加剤を含んでいなくともよい。
【0073】
エンジン潤滑油中に用いられる添加剤の組合せおよびそれらの量は、非常に著しく変わる可能性があるが、しかしながら、本発明による前記エンジン潤滑油中に含まれる全ての添加剤の総量は、前述したように、上限が20質量%、より好ましくは15質量%、そして更に好ましくは10質量%の制限を受ける。
【0074】
本発明には、本明細書に記載した前記エンジン潤滑油の4ストロークエンジンの潤滑における使用および、4ストロークエンジンの潤滑の方法であって、本明細書に記載した前記エンジン潤滑油で前記エンジンを潤滑することを含む、4ストロークエンジンの潤滑の方法が含まれている。
【0075】
本発明は、更に、SAE0Wエンジン潤滑油を含んでおり、前記エンジン潤滑油は、本明細書に記載した少なくとも1種のモノエステルを含んでいる。本明細書に記載した特徴および態様は、必要に応じて変更を加えて、前記SAE0Wエンジン潤滑油に適用される。」
ク 「【実施例】
【0076】
本発明は、ここに更に以下の例を参照して説明される。

下記の表1中で特定した試料1?4は、本発明による前記エンジン潤滑油中での使用に好適なモノエステルである。これらの試料の性質を、表3中に与えた。
【0077】
下記の表2中で特定した試料5?9は、本発明による前記エンジン潤滑油を構成するモノエステルとの組み合わせての使用に好適なジエステルである。試料5?9の性質を、表3中に与えた。
【0078】
下記の表2中で特定した試料10は、前記少なくとも1種のモノエステルとは異なるモノエステルであり、本発明による前記エンジン潤滑油を構成するモノエステルとの組合せで使用される。試料10の性質は、表3中に与えた。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
* 商業的に供給されたイソノニルアルコールであり、85質量%未満のイソノニルアルコールを含んでいる。
** 商業的に供給されたイソノニルアルコールであり、85質量%以上のイソノニルアルコールを含んでいる。
【0082】
【表3】

【0083】
** 約-36℃で沈殿物が形成され始め、そして蓄積され続けた。-48℃で、この試料はなお液体層を有しており、それは流動性であった。
【0084】
本発明のモノエステルは、表3中に示した性質を有している。これらのモノエステルは、低揮発性と組み合わせて、低粘度を有しており、従って低い粘性抵抗を示し、これは向上された燃料効率をもたらす。また、これらのモノエステルの極性は許容可能であり、それはシール適合性の問題および耐摩耗性添加剤との競合からの潜在的な磨耗の問題を回避させる。更に、このモノエステルは高い粘度指数を有している。」
(2)引用文献2の記載事項
原査定において引用された引用文献2には、次の記載がある。
ア 「【請求項1】
主鎖中に、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、8?17個の炭素原子を有するスチレンモノマー、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に1?11個の炭素原子を有するビニルエステル、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有するビニルエーテル、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルマレエート、およびこれらのモノマーの混合物からなる群から選択される低分子モノマーに由来する繰り返し単位と、を含む櫛形ポリマーであって、モル分岐度が0.1?10モル%の範囲内であり、前記繰り返し単位の質量に対して、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、8?17個の炭素原子を有するスチレンモノマー、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に1?11個の炭素原子を有するビニルエステル、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有するビニルエーテル、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルマレエート、およびこれらのモノマーの混合物からなる群から選択される低分子モノマーに由来する繰り返し単位と、を合計少なくとも80質量%含む櫛形ポリマーを、車両の燃料消費量を減少させるために用いる使用。」
イ 「【0007】
広く普及している種類の市販の粘度指数(VI)向上剤は、水素化スチレン-ジエンコポリマー(HSD)のものである。これらのHSDは、(-B-A)_(n)星型(US4116917、ShellOilCompany)の形態、ならびにA-BジブロックおよびA-B-Aトリブロックコポリマー(US3772196およびUS4788316、ShellOilCompany)の形態で存在しうる。これらの式において、Aは水素化ポリイソプレンのブロックであり、Bはジビニルベンゼン架橋ポリスチレン環またはポリスチレンのブロックである。・・・」
ウ 「【0008】
さらに、ポリアルキル(メタ)アクリレート(PAMA)は、粘度指数(VI)を改善するためにも使用することができる。例えば、EP0621293およびEP0699694(RoehmGmbH)は、有利な櫛形ポリマーを記載している。・・・」
3 当審の判断
(1)引用発明の認定
ア 前記2(1)クに摘記した「試料2」に注目すると、引用文献1の段落【0076】に記載されているように「本発明による前記エンジン潤滑油中での使用に好適なモノエステル」であって、同【表1】からヘプタン酸と2-オクチルドデカノール-1とのモノエステルであることが把握できる。また、引用文献1の段落【0075】から当該モノエステルは、SAE0Wエンジン潤滑油に含有させて用いられるものである。
イ そして、上記アの「試料2」について、同【表3】を参照すると、次の発明(以下「引用発明」という。)が読み取れる。
「2.9cStの100℃における粘度、159の粘度指数、及び10質量%のノアック蒸発損失を有するヘプタン酸と2-オクチルドデカノール-1とのモノエステルを含有するSAE0Wエンジン潤滑油。」
(2)本願発明1との対比
引用発明を本願発明1と対比する。引用発明の「ヘプタン酸と2-オクチルドデカノール-1とのモノエステル」は、本願発明1の「モノエステル」に相当するものであり、以下、単に「モノエステル」と記載する。
ア モノエステルに関し、センチストークス(cSt)は、動粘度の単位であって、mm^(2)/秒と同義であるから、引用発明の「100℃における粘度」の「2.9cSt」は、本願発明1の「4mm^(2)/秒以下の100℃における動粘度」を充足する。
イ モノエステルに関し、引用発明の「159の粘度指数」は、本願発明1の「少なくとも130の粘度指数」を充足する。
ウ モノエステルに関し、質量%と重量%は同義であるから、引用発明の「10質量%のノアック蒸発損失」は、本願発明1の「20重量%以下のノアック蒸発損失」を充足する。
エ 引用発明の「モノエステルを含有するSAE0Wエンジン潤滑油」は、本願発明1の「少なくとも1種類のモノエステル又は複数のモノエステルの混合物を含む基油」に相当する。
また、引用発明の「SAE0Wエンジン潤滑油」は、「エンジンのクランクケース内で用いるための潤滑組成物」であることは明らかである。
(3)一致点・相違点
そうすると、本願発明1と引用発明とは次のアの点で一致し、イの点で相違する。
ア 一致点
「4mm^(2)/秒以下の100℃における動粘度、少なくとも130の粘度指数、及び20重量%以下のノアック蒸発損失を有する少なくとも1種類のモノエステル又は複数のモノエステルの混合物を含む基油を含む、エンジンのクランクケース内で用いるための潤滑組成物」である点。
イ 相違点1
(ア)基油について、本願発明1においては、「フィッシャー・トロプシュ誘導基油を更に含む」のに対して、引用発明は「SAE0Wエンジン潤滑油」であるところ、「SAE0W」は潤滑油の性能を表すものであって、成分を示すものではないことから、引用発明にフィッシャー・トロプシュ誘導基油が含まれているかどうかは不明な点。
(イ)相違点2
本願発明1においては、請求項1において(ii)成分として規定された粘度指数向上剤を含むのに対して、引用発明は、そのような粘度指数向上剤を含まない点。
(4)相違点についての判断
まず、相違点1について検討する。
ア 前記2(1)オに摘記したように、引用文献1の段落【0036】には、「API群III、III+(ガスツーリキッド(GTL)を含む)、IV、IV+およびV潤滑油およびそれらの2種もしくは3種以上の混合物から選ばれる潤滑油成分を含んでいる。」と記載されるように、潤滑油成分として、多数の基油成分が挙げられている。
また、同段落には、「好適な群III潤滑油の例としては、鉱物油が挙げられる。好適な群IV潤滑油の例としては、C_(8)?C_(12)のα-オレフィンから誘導され、そして100℃で3.6cSt?8cStの範囲の動粘度を有するポリ-α-オレフィンが挙げられる。群V潤滑油の例としては、アルキルナフタレン、アルキルベンゼンおよびエステル、例えば一価アルコールおよび/もしくはポリオールとモノカルボン酸もしくはポリカルボン酸から誘導されるエステル、が挙げられる。」と記載されることからも明らかなように、通常、「ガスツーリキッド(GTL)」以外には、フィッシャー・トロプシュ誘導基油は含まれるものではない。
そして、「ガスツーリキッド(GTL)」について、引用文献1の段落【0043】には、「GTL系原料は、ほんの僅かに商業化されているだけであり、そして従って自由に入手できるそれらに関するデータはほとんど、もしくは全くない。」と記載されており、「ガスツーリキッド(GTL)」をエンジン潤滑油成分として用いた場合に、どのような特性を有するエンジン潤滑油が得られるかは明らかではないのであるから、引用文献1に接した当業者にとって、引用発明における潤滑油成分として、更に、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有させる動機付けはない、というべきである。
また、引用文献2を参酌しても、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
イ そして、前記第2、2(3)に摘記した本願明細書の段落【0041】に記載「PAOの製造の高いコストの観点から、PAO基油よりもフィッシャー・トロプシュ誘導基油を用いることが強く指向されている。」のように、本願発明1は、低コストで製造できるという効果を奏すると認められる。
ウ 以上から、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された事項から容易に発明をすることができた発明ということはできない。
(5)また、本願発明2?13は、いずれも本願発明1を包含し、更に限定を加えたものであるから、本願発明1と同様に引用発明及び引用文献2に記載された事項から容易に発明をすることができた発明ということはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することができない。
また、本願に他に拒絶の理由を発見しない。
したがって、結論のとおり審決する。



 
審決日 2020-12-09 
出願番号 特願2016-543019(P2016-543019)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C10M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 齊藤 光子井上 能宏三須 大樹上坊寺 宏枝  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 瀬下 浩一
門前 浩一
発明の名称 潤滑組成物  
代理人 山本 修  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 宮前 徹  
代理人 中西 基晴  
代理人 小野 新次郎  
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