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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1368949
審判番号 不服2019-13159  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-02 
確定日 2020-12-02 
事件の表示 特願2016-521446「LTEおよび外部WIFI帯域幅アグリゲーション」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月24日国際公開、WO2014/204716、平成28年 8月 8日国内公表、特表2016-523482〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2014年(平成26年)6月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年6月18日 米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 2月17日 :手続補正書の提出
平成28年 2月18日 :手続補正書の提出
平成29年 5月24日 :手続補正書の提出
平成30年 7月 4日付け :拒絶理由通知書
平成30年12月10日 :意見書,手続補正書の提出
令和 1年 5月30日付け :拒絶査定
令和 1年10月 2日 :拒絶査定不服審判の請求,手続補正書の提出

第2 令和 1年10月 2日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和 1年10月 2日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本願発明と補正後の発明(補正の概要)

本件補正は、平成30年12月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された

「 フェムトセルにおいてワイヤレス通信トラフィックをアグリゲートするための方法であって、
フェムトセルにおいて、ネットワークインターフェースを通して前記フェムトセルに接続されたワイヤレストランシーバからモバイルデバイス向けのデータパケットのストリームを受信することと、
前記フェムトセルによって、前記フェムトセルから前記モバイルデバイスに前記データパケットのストリームのデータパケットを送るための送信モードを選択することと、前記選択することは、前記データパケットのストリームからの前記データパケットを前記モバイルデバイスに送信するために、第1の送信モード、第2の送信モード、あるいは第3の送信モードを使用するのかを決定することを備え、
前記第1の送信モードは、前記フェムトセルのロングタームエボリューション(LTE)インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信することを備え、
前記第2の送信モードは、前記データパケットを、前記ワイヤレストランシーバのWiFi(登録商標)インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信するために前記モバイルデバイスへの送信のための前記ワイヤレストランシーバに送ることを備え、
前記第3の送信モードは、前記LTEインターフェースを介して前記モバイルデバイスに前記データパケットの第1の部分を送信すること、および前記データパケットの第2の部分を前記WiFiインターフェースを介して前記モバイルデバイスへの送信のために前記ワイヤレストランシーバに送ることを備え、
前記選択された送信モードに従って前記データパケットを送ることと
を備える、方法。
」(以下,「本願発明」という。)

を,

「 フェムトセルにおいてワイヤレス通信トラフィックをアグリゲートするための方法であって、
フェムトセルにおいて、ネットワークインターフェースを通して前記フェムトセルに接続されたワイヤレストランシーバからモバイルデバイス向けのデータパケットのストリームを受信することと、
前記フェムトセルによって、前記フェムトセルから前記モバイルデバイスに前記データパケットのストリームのデータパケットを送るための送信モードを選択することと、前記選択することは、前記データパケットのストリームからの前記データパケットを前記モバイルデバイスに送信するために、第1の送信モード、第2の送信モード、あるいは第3の送信モードを使用するのかを決定することを備え、
前記第1の送信モードは、前記フェムトセルのロングタームエボリューション(LTE)インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信することを備え、
前記第2の送信モードは、前記データパケットを、前記ワイヤレストランシーバのWiFi(登録商標)インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信するために前記モバイルデバイスへの送信のための前記ワイヤレストランシーバに送ることを備え、
前記第3の送信モードは、前記LTEインターフェースを介して前記モバイルデバイスに前記データパケットの第1の部分を送信すること、および前記データパケットの第2の部分を前記WiFiインターフェースを介して前記モバイルデバイスへの送信のために前記ワイヤレストランシーバに送ることを備え、
前記選択された送信モードに従って前記データパケットを送ることと
を備え、
ここにおいて、前記LTEインターフェースを介して送信された前記第1の部分と、前記WiFiインターフェースを介して送信された前記第2の部分とは、前記モバイルデバイスのアグリゲーション層によってバッファリングされる、方法。
」(以下,「補正後の発明」という。)

に変更することを含むものである。([当審注]:下線部は補正箇所を示す。)

2 補正の適否

(1)補正の目的要件
補正前の請求項1に係る発明は、「フェムトセルにおいてワイヤレス通信トラフィックアグリゲートするための方法」であって、フェムトセルで行われる動作を発明特定事項とするものである。
一方、請求項1についての上記補正は,「ここにおいて、前記LTEインターフェースを介して送信された前記第1の部分と、前記WiFiインターフェースを介して送信された前記第2の部分とは、前記モバイルデバイスのアグリゲーション層によってバッファリングされる、」という事項を追加するものであり、当該事項は、モバイルデバイスで行われる動作を特定するものである。

そうすると、当該事項は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を更に限定するものではないから、上記補正の目的は特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、・・・ものに限る。)」に該当しない。また上記補正の目的は特許法第17条の2第5項に規定される他のいずれの事項にも該当しない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。

(2)独立特許要件

上記(1)のとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、更に進めて、仮に本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとして、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)についても、以下に検討する。

ア 補正後の発明

補正後の発明は,上記「1 本願発明と補正後の発明」の項の「補正後の発明」のとおりのものと認める。

イ 引用発明等

原査定の拒絶の理由に引用された、小島祐治,須加純一,川崎健,奥田将人,B-17-22 フェムト基地局によるLTE-WLANリンクアグリゲーション実現方式,電子情報通信学会2013年総合大会講演論文集 通信1,日本,電子情報通信学会,2013年3月19日,第666頁(以下,「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。

(ア) 「1.はじめに
第3.9世代移動通信システム(3.9G)であるLTE(Long Term Evolution)では,家庭内のカバレッジを補完するため小型基地局(フエムト基地局)の導入が計画されている.一方,家庭には既に無線LAN(WLAN)が普及しており,現在,3G,LTE等のセルラー式無線通信方式とWLANの両方を備えるスマートホンが市場で急成長している.本稿では,各回線の無線受信品質及び輻輳の状況に応じて,端末とフェムト基地局が連携してシームレスにLTEとWLANの一方,又は同時に両方を使用することで,スループットの向上を図るリンクアグリゲーション(LA)のネットワーク方式及び実装アーキテクチャを提案する.

2.ネットワーク方式
フェムト基地局は,ホームルータ(HR)及びWLANが導入済みのホームネットワーク(HN)へ,図1のように追加で導入されるケースが多いと予想される.提案方式は,HR/WLANを非搭載のフェムト基地局が,LTEとWLANを同時に使用するLAを提供できるようにする.
家庭での利用形態を考えると,スマートホンやタブレットPCは,モバイルオペレータのネットワーク(EPC)及びサービスに加えて,HNにも他の宅内機器(Blu-ray Disc Recorder等)と同様にアクセスできる必要がある. (中略) LIPAでは,端末がEPCへ接続するPDN(Packet data network) connectionとは別にLIPA PDN connectionを確立することで,HNへのアクセスを可能とする.提案方式は,上記Multiple PDNをサポートした上で,どのPDNでもLAを可能とする.
(中略)

3.実装アーキテクチャ
端末は多様なベンダが提供しており,フェムト基地局より高い移植性が求められる.そこで,以下では,特にAndroid端末(Linux kernel 2.6)における実装アーキを示す.
図2のように,受信時の順序整列,及び送信時のパケッ卜振り分け先の判断/送信を行うLA制御ソフトをUser Spaceに設け,他のAppとのパケット送受信のために,標準的な仮想ネットワークドライバであるTUNを利用する.これにより,ベンダ依存の可能性もある実ドライバの改造を不要とする.
EPC PDN及びLIPA PDNにアサインされたIPアドレスと同一のIPアドレスを持つTUNを2個設け,ルーティングテーブル上.実ドライバより先にヒットさせることで,LA制御ソフトが, App発信パケットをTUN経由で受信し,"GREヘッダ+仮想IPアドレス(VIP)"を付与し,振り分け先(LTE又はWLAN)から送信できるようにする.







上記(ア)の記載及び当業者の技術常識を考慮すると,次のことがいえる。

a 上記「1.はじめに」には、「3G,LTE等のセルラー式無線通信方式とWLANの両方を備えるスマートホンが市場で急成長している.」、「各回線の無線受信品質及び輻輳の状況に応じて,端末とフェムト基地局が連携してシームレスにLTEとWLANの一方,又は同時に両方を使用することで,スループットの向上を図るリンクアグリゲーション(LA)のネットワーク方式及び実装アーキテクチャを提案する.」との記載があり、上記「2.ネットワーク方式」には、「提案方式は,HR/WLANを非搭載のフェムト基地局が,LTEとWLANを同時に使用するLAを提供できるようにする.」との記載がある。そして、端末とフェムト基地局が連携してスループットの向上を図るリンクアグリゲーション(LA)のネットワーク方式とは、HR/WLANを非搭載のフェムト基地局がLTEとWLANを同時に使用するLAを提供できるようにするものであるから、フェムト基地局においてスループットの向上を図るリンクアグリゲーションのネットワーク方式を提供するものであるといえる。
そうすると、引用例には「フェムト基地局においてスループットの向上を図るリンクアグリゲーションのネットワーク方式」であって、「フェムト基地局」と連携する「端末はスマートフォンを含む」ものが記載されていると認められる。
また、該ネットワーク方式の「各回線の無線受信品質及び輻輳の状況に応じて,端末とフェムト基地局が連携してシームレスにLTEとWLANの一方,又は同時に両方を使用する」ことが記載されていると認められる。

b 上記「2.ネットワーク方式」には、「スマートホンやタブレットPCは,モバイルオペレータのネットワーク(EPC)及びサービスに・・・同様にアクセスできる必要がある.」、「LIPAでは,端末がEPCへ接続するPDN(Packet data network) connectionとは別にLIPA PDN connectionを確立することで,HNへのアクセスを可能とする.提案方式は,上記Multiple PDNをサポートした上で,どのPDNでもLAを可能とする.」との記載があり、また、上記「3.実装アーキテクチャ」には、「図2のように,受信時の順序整列,及び送信時のパケッ卜振り分け先の判断/送信を行うLA制御ソフトをUserSpaceに設け,他のAppとのパケット送受信のために,標準的な仮想ネットワークドライバであるTUNを利用する.」との記載がある。そして、これらの記載を考慮すると、「図1」からは、「端末はEPCやPDNとアクセス可能であって、該端末はEPCからのパケットをホームルータ、フェムト基地局及び/又はWLAN-APを介し、LTE-inf、WLAN-infの一方、又は同時に両方を使用し、受信する」ものであることが見て取れる。
そうすると、引用例には、「フェムト基地局に接続されたホームルータから端末向けのパケットを受信する」こと、「フェムト基地局は、LTEを使用しパケットを端末に送信する」こと、「フェムト基地局は、WLAN-APを介しWLANを使用してパケットを端末に送信する」ことが、記載されていると認められる。

c 上記「3.実装アーキテクチャ」には、「図2のように,受信時の順序整列,及び送信時のパケッ卜振り分け先の判断/送信を行うLA制御ソフトをUser Spaceに設け,他のAppとのパケット送受信のために,標準的な仮想ネットワークドライバであるTUNを利用する.」との記載がある。そして該記載を考慮すると、「図2」からは、端末が受信時にWLAN-inf及びLTE-infからのパケットをLA制御ソフトにおいてデカプセル化(順序整列)するものであることが見て取れる。
そうすると、引用例には、「端末は、WLAN-inf及びLTE-infから受信するパケットをLA制御ソフトにおいてデカプセル化(順序整列)する」こと、が記載されていると認められる。

以上を総合すると,引用例には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 フェムト基地局においてスループットの向上を図るリンクアグリゲーションのネットワーク方式であって,
フェムト基地局に接続されたホームルータから端末向けのパケットを受信することと、
各回線の無線受信品質及び輻輳の状況に応じて,端末とフェムト基地局が連携してシームレスにLTEとWLANの一方,又は同時に両方を使用するものであって、
フェムト基地局は、LTEを使用しパケットを端末に送信する、
フェムト基地局は、WLAN-APを介しWLANを使用してパケットを端末に送信する、
前記端末は、前記WLAN-inf及び前記LTE-infから受信するパケットをLA制御ソフトにおいてデカプセル化(順序整列)する、
前記端末は、スマートフォンを含む、
方式。」

[周知技術1]

原査定の拒絶の理由に引用された、特開2013-106234号公報(以下,「周知例1」という。)には,以下の事項が記載されている。

(イ)「【0015】
ここで、実施例1における回線終端装置100_(1)は、無線機能部110_(1)と、有線機能部120_(1)とを有する。無線機能部110_(1)は、回線終端装置100_(1)とは異なるタイミングで起動することができる。例えば、無線機能部110_(1)は、回線終端装置100_(1)が起動した場合であっても、同時に起動せずに停止したままであることが可能である。
【0016】
かかる無線機能部110_(1)は、起動中である場合に、無線信号の受信可能範囲(セル)内に位置するモバイル無線LAN端末と無線通信を行うことにより、モバイル無線LAN端末と通信ネットワークNとの間における通信を可能にする。例えば、図1に示した例において、モバイル無線LAN端末H11_(1)及びモバイル無線LAN端末A11は、無線機能部110_(1)によって形成されるセル内に位置するものとする。かかる場合に、無線機能部110_(1)は、モバイル無線LAN端末H11_(1)やモバイル無線LAN端末A11から無線通信によりアクセスされた場合に、これらの端末と通信ネットワークNに接続との間における通信を可能にする。これにより、実施例1に係るネットワークシステム1では、モバイル無線LAN端末H11_(1)だけでなくモバイル無線LAN端末A11についても、無線機能部110_(1)を介して通信ネットワークNと接続することができる。このように、実施例1における無線機能部110_(1)は、公衆無線LANのアクセスポイントとして機能する。
(中略)
【0021】
そして、実施例1に係るネットワークシステム1は、回線終端装置100と無線機能部制御サーバ10とによる処理によって、ユーザ宅H10に設置されている無線機能部110を安定して動作する無線ルータとして他のユーザに利用させることを可能にする。この点について、以下に説明する。
(中略)




原査定の拒絶の理由に引用された、特開2013-13071号公報(以下,「周知例2」という。)には,以下の事項が記載されている。

(ウ)「【0002】
家庭やオフィスにおいて、パーソナルコンピュータやゲーム機等の無線LANクライアント(以下、単に「クライアント」又は「ステーション」とも呼ぶ)をネットワークに接続させるために、無線LANアクセスポイント(以下、単に「アクセスポイント」とも呼ぶ)が広く利用されている。アクセスポイントがルータと接続されることにより、クライアントは、アクセスポイント及びルータを介してインターネットに接続することができる。ルータは、例えば、ホームゲートウェイとしてISP(Internet Services Provider)事業者により提供される。或いは、ルータ機能とアクセスポイント機能の両方を有する無線LANルータが用いられる場合もある。」

上記(イ)には「無線機能部110_(1)は、起動中である場合に、無線信号の受信可能範囲(セル)内に位置するモバイル無線LAN端末と無線通信を行う」、「無線機能部110を安定して動作する無線ルータとして他のユーザに利用させる」、上記(ウ)には、「ルータ機能とアクセスポイント機能の両方を有する無線LANルータが用いられる」との記載がある。
例えばこれらの記載にもあるように,「ルータ機能とアクセスポイント機能の両方を有する無線LANルータ。」は,周知技術である。

[周知技術2]

原査定において周知技術を示す文献として例示された、国際公開第2012/166975号公報(以下,「周知例3」という。)には,以下の事項が記載されている。

(エ)「(前略)
Because the base station receives radio link quality reports from the user equipment and/or the small-node devices, the base station is a natural choice for the data partition decision (i.e., deciding what data should be offloaded). However, other network nodes can also make this decision. With regard to Figure 3, a decision has been made to offload some data but also have other data not be offloaded. The non-offloaded data is designated as Data#1, which is transferred from the access gateway apparatus 300 to the base station 200 in backhaul connection 740 and then transmitted to user equipment 100 in BS2UE connection 720 in downlink (DL), and vice versa in uplink (UL). This data flow is thus be transmitted in a conventional fashion. In addition to Data #1, offloaded Data #2 is transferred from core network 400 to small-node device 500 in backhaul connection 750 and then transmitted to user equipment 100 in D2UE connection 710 in DL, and vice versa n UL.
(後略)」(12ページ20行目?13ページ4行目)

(当審訳:
基地局はユーザ装置及び/又は小ノードデバイスから無線リンク品質報告を受信するため、データ分割の決定(すなわち、どのデータをオフロードすべきかの決定)を行う候補としては、基地局が自然である。しかし、他のネットワークノードがこの決定を行ってもよい。図3を参照し、あるデータをオフロードし、他のデータをオフロードしない決定がなされたとする。非オフロードデータはデータ#1として指定され、バックホール接続740によりアクセスゲートウェイ装置300から基地局200へと転送され、そしてBS2UE接続720により下りリンク(DL)でユーザ装置100へと送信される。逆の上りリンク(UL)についても同様である。このデータフローは従来どおりに送信される。データ#1に加え、オフロードデータ#2はバックホール接続750によりコアネットワーク400から小ノードデバイス500へと転送され、そして、D2UE接続710によりDLでユーザ装置100へと転送される。逆のULについても同様である。)

原査定において周知技術を示す文献として例示された、国際公開第2012/168996号(以下,「周知例4」という。)には,以下の事項が記載されている。

(オ)「[0011]
以下、実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る基地局を説明する図である。図1には、基地局1,2および無線端末3が示してある。基地局2は、例えば、基地局1の隣接基地局である。無線端末3は、例えば、携帯電話である。図1に示すように、基地局1は、送信部1aおよび転送部1bを有している。
[0012]
送信部1aは、CAにより、無線端末3にデータ送信を行う。転送部1bは、他の基地局2において、無線端末3へのデータ送信が行われるように、送信部1aで無線端末3にCA送信されるデータの一部を基地局2へ転送する。
[0013]
基地局2は、受信部2aおよび送信部2bを有している。受信部2aは、基地局1 の転送部1bから転送されるデータを受信する。すなわち、受信部2aは、基地局1が無線端末3にCA送信するデータの一部を、基地局1から受信する。送信部2bは、受信部2aの受信したデータを無線端末3に送信する。」

上記(エ)及び(オ)の記載並びに当業者の技術常識を考慮すると,「基地局において、データを分割し、データの一部を他の基地局に転送し、分割したデータを無線端末に送信する。」ことは,周知技術である。

ウ 対比・判断

補正後の発明と引用発明とを対比すると,以下のことがいえる。

(ア)補正後の発明の「フェムトセル」は、本願明細書の段落【0002】にあるように「モバイル通信ネットワーク用のワイヤレス基地局として働く」ものであるから、引用発明の「フェムト基地局」は、補正後の発明の「フェムトセル」に相当する。そして、引用発明の「フェムト基地局」は、リンクアグリゲーションのネットワーク方式において、LTE,WLANを用いて端末にパケットを送信するものであるから、該「フェムト基地局」は「ワイヤレス通信トラフィック」を発生するものであることは明らかであり、引用発明の「リンクアグリゲーション」は、補正後の発明の「アグリゲート」に相当する。また、引用発明の「方式」は、補正後の発明の「方法」に相当する。
したがって、引用発明の「フェムト基地局においてスループットの向上を図るリンクアグリゲーションのネットワーク方式」のうちフェムト基地局の動作に係る部分は、補正後の発明と同様に「フェムトセルにおいてワイヤレス通信トラフィックをアグリゲートするための方法」であるといえる。

(イ)引用発明の「端末」は、「スマートフォン」を含むものであるから、補正後の発明の「モバイルデバイス」に相当する。引用発明の「パケット」は、PDNに対応するパケットを意味することが明らかであるから、補正後の発明の「データパケット」に相当する。そして、引用発明の「フェムト基地局」は、接続されたホームルータから端末向けのパケットを受信するものであるから、ホームルータからパケットを受信するためのネットワークインターフェースをフェムト基地局との間に有していることは自明である。また、引用発明のホームルータからの端末向けの「パケット」は、LTE及びWLANを経由するものであり、引用発明の「端末は」、LTEを使用したパケット及びWLANを使用したパケットの両方のパケットを使用するものであるから、該「端末」は単一のパケットのみを受信するものでなく複数のパケットを受信するもの、すなわち「パケットストリーム」を受信するものであるといえる。そして、補正後の発明の「フェムトセルに接続されたワイヤレストランシーバ」と、引用発明の「ホームルータ」は、どちらも、「モバイルデバイス」向けにパケットを送受信するものであるから、「トランシーバ」といえるという点で共通する。
そうすると、補正後の発明の「フェムトセルにおいて、ネットワークインターフェースを通して前記フェムトセルに接続されたワイヤレストランシーバからモバイルデバイス向けのデータパケットのストリームを受信する」と、引用発明の「フェムト基地局に接続されたホームルータから端末向けのパケットを受信する」は、「フェムトセルにおいて、ネットワークインターフェースを通して前記フェムトセルに接続されたトランシーバからモバイルデバイス向けのデータパケットのストリームを受信する」点で共通する。

(ウ)引用発明は「無線受信品質及び輻輳の状況に応じて,端末とフェムト基地局が連携してシームレスにLTEとWLANの一方,又は同時に両方を使用するものであって、フェムト基地局は、LTEを使用しパケットを端末に送信する、フェムト基地局は、WLAN-APを介しWLANを使用してパケットを端末に送信する、」ものであるから、フェムト基地局は、「LTEを用いてパケットを端末に送信する」、「WLAN-APを介しWLANを使用してパケットを端末に送信する」、「(WLAN及びLTEを)同時に使用する(ことによりパケットを端末に送信する)」ものであって、これらをそれぞれ、「第1の送信モード」、「第2の送信モード」、「第3の送信モード」と称することは任意である。また、フェムト基地局がLTE-inf及びWLAN-APとのインターフェースを有することは自明であり、フェムト基地局は、どのインターフェースを用いてパケットを端末に送信するかを選択、決定するものであるといえる。
そうすると、補正後の発明の「前記フェムトセルによって、前記フェムトセルから前記モバイルデバイスに前記データパケットのストリームのデータパケットを送るための送信モードを選択することと、前記選択することは、前記データパケットのストリームからの前記データパケットを前記モバイルデバイスに送信するために、第1の送信モード、第2の送信モード、あるいは第3の送信モードを使用するのかを決定することを備え、前記第1の送信モードは、前記フェムトセルのロングタームエボリューション(LTE)インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信することを備え、前記第2の送信モードは、前記データパケットを、前記ワイヤレストランシーバのWiFi(登録商標)インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信するために前記モバイルデバイスへの送信のための前記ワイヤレストランシーバに送ることを備え、前記第3の送信モードは、前記LTEインターフェースを介して前記モバイルデバイスに前記データパケットの第1の部分を送信すること、および前記データパケットの第2の部分を前記WiFiインターフェースを介して前記モバイルデバイスへの送信のために前記ワイヤレストランシーバに送ることを備え、」と、引用発明の「フェムト基地局は、無線受信品質及び輻輳の状況に応じて,端末とフェムト基地局が連携してシームレスにLTEとWLANの一方,又は同時に両方を使用するものであって、フェムト基地局は、LTEを使用しパケットを端末に送信する、フェムト基地局は、WLAN-APを介しWLANを使用してパケットを端末に送信する、」は、「前記フェムトセルによって、前記フェムトセルから前記モバイルデバイスに前記データパケットのストリームのデータパケットを送るための送信モードを選択することと、前記選択することは、前記データパケットのストリームからの前記データパケットを前記モバイルデバイスに送信するために、第1の送信モード、第2の送信モード、あるいは第3の送信モードを使用するのかを決定することを備え、前記第1の送信モードは、前記フェムトセルのロングタームエボリューション(LTE)インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信することを備え、前記第2の送信モードは、前記データパケットを、前記インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信するために前記モバイルデバイスへの送信のために送ることを備え、前記第3の送信モードは、前記LTEインターフェースを介して前記モバイルデバイスに前記データパケットを送信すること、および前記データパケットを前記インターフェースを介して前記モバイルデバイスへの送信のために送ることを備え、」の点で共通する。

以上を総合すると,補正後の発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(一致点)

「 フェムトセルにおいてワイヤレス通信トラフィックをアグリゲートするための方法であって、
フェムトセルにおいて、ネットワークインターフェースを通して前記フェムトセルに接続されたトランシーバからモバイルデバイス向けのデータパケットのストリームを受信することと、
前記フェムトセルによって、前記フェムトセルから前記モバイルデバイスに前記データパケットのストリームのデータパケットを送るための送信モードを選択することと、前記選択することは、前記データパケットのストリームからの前記データパケットを前記モバイルデバイスに送信するために、第1の送信モード、第2の送信モード、あるいは第3の送信モードを使用するのかを決定することを備え、
前記第1の送信モードは、前記フェムトセルのロングタームエボリューション(LTE)インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信することを備え、
前記第2の送信モードは、前記データパケットを、インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信するために前記モバイルデバイスへの送信のために送ることを備え、
前記第3の送信モードは、前記LTEインターフェースを介して前記モバイルデバイスに前記データパケットを送信すること、および前記データパケットを前記インターフェースを介して前記モバイルデバイスへの送信のために送ることを備え、
前記選択された送信モードに従って前記データパケットを送ることと
を備える、方法。」

(相違点1)
「フェムトセルにおいて、ネットワークインターフェースを通して前記フェムトセルに接続されたトランシーバからモバイルデバイス向けのデータパケットのストリームを受信すること」に関し、「フェムトセルに接続されたトランシーバ」が、補正後の発明は「ワイヤレストランシーバ」であるのに対し、引用発明は「ホームルータ」であって、ワイヤレス通信機能を有しているのか特定されていない点。

(相違点2)
「前記第2の送信モードは、前記データパケットを、インターフェースを介して前記ストリームからの前記データパケットを送信するために前記モバイルデバイスへの送信のために送ること」及び「前記第3の送信モードは、・・・前記データパケットを前記インターフェースを介して前記モバイルデバイスへの送信のために送ること」に関し、補正後の発明は、「インターフェース」が「WiFiインターフェース」であり「前記データパケット」を「WiFiインターフェースを介してワイヤレストランシーバ」に送るのに対し、引用発明は該インターフェースが特定されておらず、「パケット」は「WLAN-AP」を介して送信されるものであって、「ワイヤレストランシーバ」に送られるものではない点。

(相違点3)
「第3の送信モードは、前記LTEインターフェースを介して前記モバイルデバイスに前記データパケットを送信すること、および前記データパケットを前記インターフェースを介して前記モバイルデバイスへの送信のために前記トランシーバに送ること」に関し、補正後の発明は、「LTEインターフェースを介して前記モバイルデバイスに前記データパケットの第1の部分を送信すること、および前記データパケットの第2の部分を前記WiFiインターフェースを介して前記モバイルデバイスへの送信のために前記ワイヤレストランシーバに送る」ものであるのに対し、引用発明は「WLAN-inf及びLTE-infを使用して送信されるパケット」について「第1の部分及び第2の部分」という明確な特定がされていない点。

(相違点4)
第1?3の送信モードで送信されるデータパケットに関し、補正後の発明は、「前記LTEインターフェースを介して送信された前記第1の部分と、前記WiFiインターフェースを介して送信された前記第2の部分とは、前記モバイルデバイスのアグリゲーション層によってバッファリングされる」ものであるとの発明特定事項を有するのに対し、引用発明では当該事項を明示していない点。

以下,上記各相違点について検討する。

(相違点1,2について)

上記[周知技術1]で述べたとおり、「ルータ機能とアクセスポイント機能の両方を有する無線LANルータ。」は周知技術であるから、引用発明においても、個別に設置される「ホームルータ」と「WLAN-AP」とに替えて、機能を集約した一台の装置とすることは格別困難なことではなく、また、その際、当該装置とフェムト基地局との間のインターフェースに無線を用いることも当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。したがって、引用発明の「ホームルータ」を「WLAN-AP」と一体化した「ワイヤレストランシーバ」とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
よって、相違点1,2は当業者が適宜なし得ることにすぎない。

(相違点3について)
引用発明は、スループットの向上を図るリンクアグリゲーションのネットワーク方式であり、そのために、端末は、WLAN-inf及びLTE-infからパケットを受信するものである。そして、上記のとおりスループットの向上を図るのが目的である以上、それぞれのインターフェースで送信されるパケットが重複するものでないことは自明であるから、フェムト基地局においてデータパケットを第1の部分、及び第2の部分として送信していると解するのが相当である。仮に引用発明から上記のことが言えなかったとしても、上記[周知技術2]で述べたとおり、「基地局において、データを分割し、データの一部を他の基地局に転送し、分割したデータを無線端末に送信する。」ことは周知技術であるから、引用発明においても、データをそれぞれ分割し送信すること、すなわち、第1の部分及び第2の部分として分割し送信することは、当業者において格別困難なことではない。
したがって、相違点3は当業者が容易になし得ることに過ぎない。

(相違点4について)
補正後の発明は、「フェムトセルにおいてワイヤレス通信トラフィックをアグリゲートするための方法」であるところ、補正後の発明の「前記LTEインターフェースを介して送信された前記第1の部分と、前記WiFiインターフェースを介して送信された前記第2の部分とは、前記モバイルデバイスのアグリゲーション層によってバッファリングされる」との発明特定事項は、「モバイルデバイス」の動作を特定する一方で、「フェムトセルにおいてワイヤワイヤレス通信トラフィックをアグリゲートするための方法」を何ら特定していないから、上記発明特定事項は、サブコンビネーションの発明である「フェムトセルにおいてワイヤレス通信トラフィックをアグリゲートするための方法」を特定するための意味を有しないものである。
したがって、相違点4は実質的な相違点ではない。

また、仮に上記発明特定事項が「フェムトセルにおいてワイヤワイヤレス通信トラフィックをアグリゲートするための方法」を特定するためのものであったとしても、引用発明は「前記端末は、前記WLAN-inf及び前記LTE-infから受信するパケットをLA制御ソフトにおいてデカプセル化(順序整列)する、」ものであり、受信時の順序整列をするために受信したパケットを一時的に保持する必要があることは当業者に自明であり、また、常套手段に過ぎないから、相違点4に係る構成は引用発明も当然に有している、或いは当業者が容易になし得ることにすぎない。

なお、請求人は、令和2年2月5日に提出した上申書にて、更にバッファのサイズを限定する補正案を提示しているが、バッファに係る事項は「フェムトセルにおいてワイヤレス通信トラフィックをアグリゲートするための方法」を特定するための意味を有しないものであり、また、バッファのサイズをどのようなものとするかは単なる設計的事項に過ぎないから、当該補正案によっても進歩性が生じるものではない。

そして,補正後の発明の作用効果も,引用発明及び周知技術1、2に基づいて当業者が予測できる範囲のものにすぎず,格別顕著なものとはいえない。

したがって,補正後の発明は,引用発明及び周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

3 結語

したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反するものであり、また、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

令和 1年10月 2日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年12月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明は,上記「第2 令和 1年10月 2日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「1 本願発明と補正後の発明(補正の概要)」の項の「本願発明」のとおりのものと認める。

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶理由は,

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

というものであり,請求項1に対して以下の1(引用例)が引用され、周知技術を示す文献として以下の2,3,5,6(周知例1,2,3,4)が例示されている。

1.小島祐治,須加純一,川崎健,奥田将人,B-17-22 フェムト基地局によるLTE-WLANリンクアグリゲーション実現方式,電子情報通信学会2013年総合大会講演論文集 通信1,日本,電子情報通信学会,2013年 3月19日,第666頁
2.特開2013-106234号公報
3.特開2013-13071号公報
5.国際公開第2012/166975号
6.国際公開第2012/168996号

3 引用発明等

引用発明及び周知技術1,2は,上記「第2 令和 1年10月 2日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明等」の項で認定したとおりである。

4 対比・判断

本願発明は,補正後の発明から当該補正に係る限定事項を省いたものである。そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する補正後の発明が、上記「第2 令和 1年10月 2日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2.補正の適否」の「(2)独立特許要件」の「ウ 対比・判断」に記載したとおり、引用発明及び周知技術1、2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術1、2に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-06-10 
結審通知日 2020-06-16 
審決日 2020-07-16 
出願番号 特願2016-521446(P2016-521446)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桑原 聡一  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 本郷 彰
相澤 祐介
発明の名称 LTEおよび外部WIFI帯域幅アグリゲーション  
代理人 井関 守三  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 岡田 貴志  

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