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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1368962 |
異議申立番号 | 異議2019-700924 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-11-20 |
確定日 | 2020-10-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6516974号発明「ゴム組成物及びゴム製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6516974号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4,11〕について訂正することを認める。 特許第6516974号の請求項1-11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯及び証拠方法 1 手続の経緯 特許第6516974号(以下、「本件」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成26年4月25日(優先権主張 平成25年6月14日)を出願日とする特許出願であって、平成31年4月26日に特許権の設定登録がされ、令和1年5月22日にその特許掲載公報が発行され、令和1年11月20日に、その請求項1?11に係る発明の特許に対し、藤井正剛(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 手続の経緯は以下のとおりである。 令和1年11月20日 特許異議申立書 令和2年 2月21日付け 取消理由通知書 同年 4月22日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 6月11日 通知書(申立人あて) (なお、上記通知書に対し、申立人から意見書の提出はなかった。) 2 証拠方法 (1)申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2006-249358号公報 甲第2号証:特開平09-025374号公報 甲第3号証:特開2017-081545号公報 甲第4号証:フィラーハンドブック 再版第2刷、日本ゴム協会ゴム工業技術委員会,第11分科会白色充てん剤特別委員会編、株式会社大成社(昭和62年6月25日) 甲第5号証:武島俊達作成の発表資料「ゼオライトの高度利用と汚染対策」、2011地球環境保護 土壌・地下水浄化技術展(平成23年8月31日) 甲第6号証:特開2013-091746号公報 甲第7号証:新東北化学工業株式会社ウェブサイト ゼオライトについて(http://www.s-zeolite.com/zeolite.html)(令和1年10月17日出力) 甲第8号証:児玉総治著「無機フィラー配合加硫ゴムの動的粘弾性」、日本ゴム協会誌、第74巻、第6号、218?222頁(2001年) 甲第9号証:JSR EP エチレン・プロピレンゴムのカタログ、JSR株式会社(平成26年3月) (以下、「甲1」?「甲9」という。) (2)特許権者が令和2年4月22日に提出した意見書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 乙第1号証:フィラー活用事典、フィラー研究会編、株式会社大成社、10?16頁(平成6年5月31日) 乙第2号証:特開2013-184318号公報 乙第3号証:特開2009-173883号公報 乙第4号証:特開2013-185225号公報 乙第5号証:特開2006-152466号公報 乙第6号証:特開平08-269319号公報 乙第7号証:特開平08-072394号公報 (以下、「乙1」?「乙7」という。) 第2 訂正の適否についての判断 特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和2年4月22日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項4,11について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 1 訂正の内容 ・訂正事項1 訂正前の請求項4に「EPDMポリマー100質量部に対する電気絶縁性のフィラーの合計配合量が、80?150質量部」とあるのを、「EPDMポリマー100質量部に対する電気絶縁性のフィラーの合計配合量が、90?142質量部」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項11も同様に訂正する。)。 また、本件訂正前の請求項11は、訂正前の請求項4を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項4,11は、一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項〔4,11〕に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ・訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項4の「80?150質量部」との記載が、引用する請求項1の規定「87?145質量部」を超えているとの指摘に対して、引用する請求項1の規定の範囲内「90?142質量部」にする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると認められる。 そして、訂正事項1は、訂正前の請求項4に記載されたEPDMポリマー100質量部に対する電気絶縁性のフィラーの合計配合量を、本件明細書の段落【0021】におけるさらに好ましい範囲に特定するものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?11に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1?11に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明11」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。 「【請求項1】 必須成分としてEPDMポリマー100質量部、カーボンブラック66?93質量部、電気絶縁性のフィラー87?145質量部、及び軟化剤31?76質量部を含み、さらに全硫黄量が1.3?1.8質量部となるように硫黄系加硫剤及び加硫促進剤を含み、前記フィラーのうち板状フィラーは任意成分として含むが、前記フィラーのうちの10質量%以上は不定形又は紡錘状フィラーであるゴム組成物であって、その加硫物が下記の数式2及び数式3(回帰式)を満足するゴム組成物。 (M_(30)〈100℃〉/M_(30)〈23℃〉-1)×100≧-15%・・・数式2 ここで、 M_(30)〈23℃〉:23℃での引張試験において伸び30%のときの引張応力 M_(30)〈100℃〉:100℃での引張試験において伸び30%のときの引張応力 39.2≧Z=a1×S×1000+a2×Wc×D/1000+a3×Wha/Ha+a4×Whb/Hb≧27.5・・・数式3 ここで、 Z:回帰式の値 S:全硫黄量/ゴム組成物の総充填量 全硫黄量は、硫黄系加硫剤に含まれる硫黄量と、加硫時に加硫促進剤から放出される硫黄量と、さらに他の配合剤に硫黄が含まれる場合にはその硫黄量との合計である。 Wc:カーボンブラック配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) D:カーボンブラックのDBP吸収量(A法、cm^(3)/100g) Wha:不定形又は紡錘状フィラーの配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) Ha:不定形又は紡錘状フィラーの比表面積(m^(2)/g) Whb:板状フィラーの配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) Hb:板状フィラーの比表面積(m^(2)/g) a1,a2,a3,a4:回帰係数 a1=5.5 a2=0.45 a3=0.21 a4=-0.65 【請求項2】 ゴム組成物の総充填量におけるカーボンブラックの配合比率が、10?28質量%である請求項1記載のゴム組成物。 【請求項3】 ゴム組成物の総充填量における全硫黄量の配合比率が、0.35?0.60質量%である請求項1記載のゴム組成物。 【請求項4】 EPDMポリマー100質量部に対する電気絶縁性のフィラーの合計配合量が、90?142質量部である請求項1記載のゴム組成物。 【請求項5】 不定形又は紡錘状フィラーと板状フィラーとの配合比が、95:5?10:90である請求項1記載のゴム組成物。 【請求項6】 不定形又は紡錘状フィラーが、重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムの群から選ばれた1種又は2種のものである請求項5記載のゴム組成物。 【請求項7】 板状フィラーが、微粉タルク、ハードクレー、表面処理クレー及び焼成クレーの群から選ばれた1種又は2種以上のものである請求項5記載のゴム組成物。 【請求項8】 カーボンブラックのDBP吸収量が、100?160cm^(3)/100gである請求項1記載のゴム組成物。 【請求項9】 EPDMポリマーの125℃におけるムーニー粘度ML_(1+4)が40?200である請求項1記載のゴム組成物。 【請求項10】 フィラーはカーボンブラックより多く配合された請求項1記載のゴム組成物。 【請求項11】 請求項1?10のいずれか一項に記載のゴム組成物を加硫してなるゴム製品。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 1 取消理由通知の概要 当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)取消理由1a 本件訂正前の請求項1?11の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでなく、これらの発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 本件訂正前の請求項1に記載される「板状フィラー」及び「不定形フィラー」がそれぞれ如何なるフィラーを包含するのか、明確でない。 その結果、各形状のフィラーが明確でないため、数式3(回帰式)の各項が如何なる値を示すのか、明確でない。 (2)取消理由1b 本件訂正前の請求項4,11の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでなく、これらの発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 本件訂正前の請求項4の記載は、「EPDMポリマー100質量部に対する電気絶縁性のフィラーの合計配合量が、80?150質量部である」と規定するものであるところ、本件訂正前の請求項4が引用する請求項1の記載は、該配合量が「87?145質量部」であると規定しており、その数値範囲が狭いものであるから、本件訂正前の請求項4が請求項1を引用することは適切でない。 2 特許異議申立理由の概要 申立人が特許異議申立書で申立てた取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)申立理由1 本件訂正前の請求項1?4,6,8?11に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2 本件訂正前の請求項1?11に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由3 本件明細書の発明の詳細な説明には、記載不備があり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件訂正前の請求項1?11に係る発明についての特許は、上記要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立理由4 本件訂正前の請求項1?11の記載は、いずれも記載不備であり、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項に規定する要件を満たしておらず、それらの請求項に係る発明についての特許は、上記要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (5)申立理由5a(取消理由1aと同旨) 本件訂正前の請求項1?11の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、これらの発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 本件訂正前の請求項1に記載される「板状フィラー」の用語が明確でない。 その結果、板状フィラーが明確でないため、数式3(回帰式)の値Zを算出できるのかが明確でない。 (6)申立理由5b 本件訂正前の請求項11の記載は、同項に記載された特許を受けようとする発明が、プロダクトバイプロセスの形式で記載されており、不可能・非実際的事情が説明されていないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、この発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 当審は、当審が通知した取消理由1a,1b及び申立人が主張する各申立理由は、いずれも理由がなく、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 取消理由について (1)取消理由1aについて 取消理由1aは、「板状フィラー」、「不定形フィラー」、「数式3(回帰式)」に関するものである。 ア 乙号証の記載事項 (ア)乙1の記載事項について 乙1には以下の記載がある。 (乙1a)「3.フィラーの分類 フィラーの分類にはいくつかの方法があるが,通常,組成別,形状別,用途(機能)別の分類法がよく使われる。・・・また形状別分類はフィラーの機能や充填効果が形状によって支配される場合が多いので重要な分類法である(表2)。ただし同じ物質でも形状が異なるケースも多いので注意が必要である。」(第10頁右欄第30行?第11頁左欄第7行) (乙1b)「 」(第11頁中段) (乙1c)「フィラー粒子の形状を表現する場合,一般に球状(粒状),板状,針状(棒状)といった定性的な表現法が簡便にされる。」(第14頁右欄第19行?第22行) (イ)乙2の記載事項について 乙2には以下の記載がある。 (乙2a)「【0179】 板状の絶縁性充填材としては、薄片状、鱗片状のタルク、マイカ、クレー、カオリン、ガラスフレーク等が例示され、特に好ましくはガラスフレークである。・・・」 (ウ)乙3の記載事項について 乙3には以下の記載がある。 (乙3a)「【請求項1】 小板状基材が硫酸バリウムと少なくとも2種の金属酸化物および/または金属水酸化物とで被覆されていることを特徴とするフィラー顔料。 【請求項2】 前記基材が天然または合成の雲母、ドープされたまたはドープされていないAl_(2)O_(3)薄片、ドープされたまたはドープされていないSiO_(2)薄片、タルク、カオリン、ドープされたまたはドープされていないガラス薄片あるいはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載のフィラー顔料。」 (エ)乙4の記載事項について 乙4には以下の記載がある。 (乙4a)「【0024】 「平均粒径を3?7μm」としたのは、3μmより小さいと、表層の内側部分において、上述した分子鎖が流動方向に沿って強く配向することを抑制する効果が低下して、表層部分が剥がれ易くなるからである。逆に7μmを超えると、液晶性ポリエステル樹脂の流れが粉末の背後に回り込み難くなり、粉末の背後から下流側に向かって筋状の溝が生じると共に、粉末の背後面が露呈し易くなるからである。また上記中性重質炭酸カルシウムの粉末を「不定形粒子」としたのは、天然原石の石灰石を機械的に粉砕した粉末であるため、形状が不定形となるからである。」 (オ)乙5の記載事項について 乙5には以下の記載がある。 (乙5a)「【0003】 炭酸カルシウムを大別すると、天然産の重質炭酸カルシウムと化学的に合成される軽質炭酸カルシウムに分けられる。 重質炭酸カルシウムは、鉱山から産出した石灰石を機械的に乾式粉砕しただけでは、塗工用顔料として使用する事はごく希であり、一般にはさらに顔料分散液として湿式粉砕して使用されている。従って、重質炭酸カルシウムは機械的に乾式粉砕した粒子径が粗大である為、湿式粉砕した時の粒度分布が広い顔料になってしまうことは避けられず、その形状は不定形である。」 (カ)乙6の記載事項について 乙6には以下の記載がある。 (乙6a)「【0009】本発明に用いる表面処理炭酸カルシウムとは、炭酸カルシウムとして風化貝殻、風化海産微生物殻、粗晶質石灰石、風化方解石、大理石等を回転衝撃粉砕機で微粉砕し、空気分級機で分級する乾式法や、フレットミル或いは振動ミルなど水系で微粉砕し、分級精製する湿式法により得られる特定な粒形を有しない不定形重質炭酸カルシウムや、緻密質石灰石を焼成炉で焼成し、炭酸ガスと生石灰に分解し、生石灰に水を加えて水化精製し石灰乳とした後、これに炭酸ガスを吹込み回分式で反応させる石灰乳-炭酸ガス反応法や、炭酸ガス気流中に石灰乳を噴霧し向流や並流の形で接触させる連続式反応法や、可溶性塩反応法により得られる立方形沈降炭酸カルシウムを用い、上記炭酸カルシウムの製造過程で、もしくは製品に、通常の湿式あるいは乾式の手法により、脂肪酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩を用いて混合処理することにより得られるものである。・・・」 (キ)乙7の記載事項について 乙7には以下の記載がある。 (乙7a)「【0015】原紙に添加する填料は軽質炭酸カルシウムである。天然に産出する重質炭酸カルシウムは粉砕機により粉砕されるため形状が不定形となり、粒度分布も広くなり、均質で平滑な表面を得ることは難しい。前記軽質炭酸カルシウムを填料に使用することで、原紙の白色度を高め、平滑な表面を得ることが可能であり、複数のマ-キングに対して高画質な印字を可能とする。軽質炭酸カルシウムの粒径は0.1?10μm程度で、その形状は紡錐型、立方型、針状型、柱状型、イガグリ状型、球形、平板状などがあり、また結晶系はカルサイト型、アラゴナイト型等の結晶系を有する軽質炭酸カルシウムが好ましい。」 イ 「板状フィラー」に関する判断 まず、取消理由1aのうち「板状フィラー」について検討する。 この点について、本件明細書には、「板状フィラーとしては、特に限定されないが、微紛タルク、ハードクレー、表面処理クレー、焼成クレー等を例示でき、この群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。」(段落【0020】)という記載がされているだけであり、薄片状、鱗片状のフィラーも含みうるのか明らかではない。 そこで、本件出願時の技術常識をみていくことにする。 乙1には、フィラーの分類にはいくつかの方法があるが、通常、組成別、形状別、用途(機能)別の分類法がよく使われること(記載事項(乙1a))、フィラー粒子の形状を表現する場合、一般に球状(粒状)、板状、針状(棒状)といった定性的な表現法が簡便にされること(記載事項(乙1c))が記載されており、これらの記載によると、フィラーを球状(粒状)、板状、針状(棒状)といった形状別に大別して定性的に表現することは本件出願時の技術常識である。 そうすると、本件発明における「板状フィラー」は、「板状」という形状に大別されたフィラーと解するのが自然である。 そして、乙1には、「板状」のものとして、タルク、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、各種金属片、黒鉛、BN(六方晶)、MIO(板状酸化鉄)、板状炭カル、板状水酸化アルミニウムが例示されており(記載事項(乙1b))、ガラス薄片であるガラスフレークが「板状」のものとされているから、「薄片状」は、大別された形状である「板状」の一種であると解される。このことは、乙3において、Al_(2)O_(3)薄片、SiO_(2)薄片、ガラス薄片が「板状」とされていることからも認められる(記載事項(乙3a))。 さらに、乙2には、板状の絶縁性充填材としては、薄片状、鱗片状のタルク、マイカ、クレー、カオリン、ガラスフレーク等が例示されることが記載されており(記載事項(乙2a))、鱗片状のタルク等が「板状」の絶縁性充填材とされていることから、「鱗片状」も、大別された形状である「板状」の一種であると解される。 したがって、「板状フィラー」は、「薄片状フィラー」や「鱗片状フィラー」も含むものであり、如何なるフィラーを包含するのか明確でないとはいえない。 ウ 「不定形フィラー」に関する判断 次に、取消理由1aのうち「不定形フィラー」について検討する。 この点について、本件明細書には、「不定形フィラーとしては、特に限定されないが、重質炭酸カルシウム等を例示できる。」(段落【0019】)という記載がされているだけであり、どういった形状のフィラーを含むのか明らかではない。 そこで、本件出願時の技術常識をみていくことにする。 乙4には、中性重質炭酸カルシウムの粉末を「不定形粒子」としたのは、天然原石の石灰石を機械的に粉砕した粉末であるため、形状が不定形となるからであることが記載され(記載事項(乙4a))、乙5には、重質炭酸カルシウムは機械的に乾式粉砕した粒子径が粗大である為、湿式粉砕した時の粒度分布が広い顔料になってしまうことは避けられず、その形状は不定形であることが記載され(記載事項(乙5a))、乙6には、炭酸カルシウムとして風化貝殻、風化海産微生物殻、粗晶質石灰石、風化方解石、大理石等を回転衝撃粉砕機で微粉砕し、空気分級機で分級する乾式法や、フレットミル或いは振動ミルなど水系で微粉砕し、分級精製する湿式法により得られる特定な粒形を有しない不定形重質炭酸カルシウムが記載され(記載事項(乙6a))、乙7には、天然に産出する重質炭酸カルシウムは粉砕機により粉砕されるため形状が不定形となることが記載されており(記載事項(乙7a))、これら乙4?乙7の記載からすれば、「不定形フィラー」とは、原料を粉砕するという方法で製造された粒子であるために特定の粒子径状を有しない状態のフィラーをいうものであり、これは本件出願時の技術常識である。 そうすると、請求項1に記載された「不定形フィラー」は、上記のとおり、本件明細書において、乙4?乙7と同じ重質炭酸カルシウムを挙げていることからも明らかなとおり、上記本件出願時の技術常識に基づくものであり、すなわち、原料を粉砕するという方法で製造された粒子であるために特定の粒子形状を有しない状態のフィラーであるといえる。 一方、甲4の表33には、カルシウム・マグネシウム炭酸塩である白艶華Aが「立方体+薄片状」であることが記載されているが、同表33には、表面処理炭酸カルシウム(カルシウム炭酸塩)である白艶華CC、白艶華DD、白艶華U、白艶華Oおよびカルモスが「立方体」であり、塩基性炭マグ(塩基性のマグネシウム炭酸塩)が「薄片状」であることも記載されていることを考えると、白艶華Aの形状についての「立方体+薄片状」という表記は、「立方体」のカルシウム炭酸塩と「薄片状」のマグネシウム炭酸塩との混合物であることを示していることは明らかである。 同様に、白艶華AAの形状についての「紡錘形+薄片状」という表記は、「紡錘形」の炭酸カルシウムと「薄片状」のマグネシウム炭酸塩との混合物であることを示していることは明らかである。 つまり、白艶華Aや白艶華AAは、製造時点で粒子形状が定まっていて立方体、紡錘形、薄片状などのように明確に表記され得るフィラー同士の混合物である。甲4では、このような混合物フィラーを「不定形フィラー」とは言っていないし、他の甲号証にもそのように言う用例は見当たらない。 そうすると、本件発明1における上記本件出願時の技術常識に基づく「不定形フィラー」が、白艶華Aや白艶華AAのような混合物フィラーを包含しないことは明確である。 したがって、「不定形フィラー」が如何なるフィラーを包含するのか明確でないとはいえない。 エ 「数式3(回帰式)」に関する判断 最後に、取消理由1aのうち「数式3(回帰式)」について検討する。 上記イ及びウに示したとおり、「板状フィラー」及び「不定形フィラー」がそれぞれ如何なるフィラーを包含するのか明確でないとはいえないため、数式3(回帰式)の各項が如何なる値を示すのかも明確でないとはいえない。 オ まとめ 以上のとおりであるから、取消理由1aは解消したことは明らかである。 (2)取消理由1bについて ア 判断 取消理由1bは、上記「第4 1(2)」で述べたとおり、本件訂正前の請求項4の記載は、「EPDMポリマー100質量部に対する電気絶縁性のフィラーの合計配合量が、80?150質量部である」と規定するものであるところ、本件訂正前の請求項4が引用する請求項1の記載は、該配合量が「87?145質量部」であると規定しており、その数値範囲が狭いものであるから、本件訂正前の請求項4が請求項1を引用することは適切でない、というものである。 本件訂正前の請求項4の上記記載は、本件訂正により、引用する請求項1の規定の範囲内「90?142質量部」に訂正され、その引用関係は適切となった。 イ まとめ 以上のとおりであるから、取消理由1bは解消したことは明らかである。 2 取消理由通知において採用しなかった申立人がした申立理由について (1)申立理由1について ア 甲号証の記載事項 (ア)甲1の記載事項について 甲1には以下の記載がある。 (甲1a)「【0001】 本発明は、スポンジゴム成形用組成物、スポンジゴム成形体、及びウェザーストリップに関する。より詳細に述べると、本発明は、メタリック塗料塗装体と長期間当接させても当接箇所に黒化現象を発生させないスポンジゴム成形体を製造するためのスポンジゴム成形用組成物、及びスポンジゴム成形体、並びに斯かるスポンジゴム成形体から成る自動車用ウェザーストリップに関する。」 (甲1b)「【0043】 前述したメタリック塗料に使用されているアルミニウム箔或いはフレークの黒化現象を防止するには、前述した無機系、或いは有機系発泡剤が、スポンジ製造工程中の熱分解により発生するアンモニア及び反応系に残留している無機系、又は有機系発泡剤、発泡助剤としての尿素等アルミニウムを腐食させるガス、化合物を除去することである。」 【0044】 発明者等は、従来から吸着剤として使用されているゼオライト、活性炭等無機系多孔質吸着剤を、スポンジゴム成形体を製造する工程でゴム配合物に添加して、熱分解の初期段階でその吸着効果を確認した。その結果、ゼオライト、活性炭、セピオライト、ハイドロタルサイト等無機系多孔質吸着剤、特に、アンモニアの場合、それが塩基性であることから、表面を改質して酸性官能基を付加した無機系多孔質吸着剤が効果的であることを確認し、本発明を完成した。」 (甲1c)「【0046】 本発明で使用する無機系多孔質吸着剤の配合量は、通常のゴム用添加剤を配合したスポンジゴム用組成物に、5?200phr、好ましくは60?150phr、最も好ましくは90?120phrである。ただし、この配合比率は、発泡剤、発泡助剤の種類、発生ガスの吸着量、未加硫生地の粘度、諸物性を勘案して決定されるべきである。」 (甲1d)「【0059】 以下、発明を実施するための最良の形態を、参考例及び実施例をもって説明する。 【実施例1】 【0060】 下記の組成によりコ-ナ用ウェザーストリップを製造するための配合物を、ゼオライト無添加で製造した。 成 分 部 EPDM(日本合成ゴム(株)製「EPDM EP35」) 100 カーボンブラック(東海カーボン製「FEF」) 70 軽質炭酸カルシウム(白石工業製) 30 パラフィン系プロセスオイル(出光製) 50 ステアリン酸(日本油脂製) 1 亜鉛華(正同化学製) 5 発泡剤(ADCA)(永和化成製「AC#3」) 3 発泡助剤(永和化成製「M3」) 1.5 ゼオライト 100 硫黄(鶴見化学) 1.5 加硫促進剤(シクロへキシルベンゾチアジルスルホンアミド) 1.8 加硫促進剤(ジンクジブチルチオカーバメート) 0.3」 (イ)甲2の記載事項について 甲2には以下の記載がある。 (甲2a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ラジエーターホースに関するものである。更に詳しくは、本発明は、エチレン-α-オレフィン-非共役ジエン共重合体ゴムをゴム成分として用いたラジエーターホースであって、ラジエーターホースと接触する金属製のクランプに腐食が発生するという問題を解消したラジエーターホースに関するものである。」 (甲2b)「【0010】加硫ゴムの好ましい具体例としては、下記(A)?(C)を含むゴム組成物を加硫して得られ、(A)の含有量は100重量部であり、(A)?(C)の合計量は300?400重量部であり、かつ(A)?(C)の合計量中の(C)の割合が5?20重量%であるものをあげることができる。 (A):エチレン-α-オレフィン-非共役ジエン共重合体ゴム (B):下記(C)以外の添加剤 (C):無機充填剤 【0011】ここで、(B)の具体例としては、カーボンブラック、軟化剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進剤及び硫黄を含む成分をあげることができる。」 (甲2c)「【0013】軟化剤としては、プロセスオイルなどを例示することができる。軟化剤の好ましい使用量は(A)100重量部に対して30?150重量部である。該使用量が過少であると加工性が低下することがあり、一方該使用量が過多であると加硫ゴムの硬度が低下することがある。」 (甲2d)「【0018】(C)無機充填剤の具体例としては、クレー、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、ウオラストナイト、ゼオライトなどを例示することができる。」 (ウ)甲3の記載事項について 甲3には以下の記載がある。なお、甲3は、本件出願日以降に公開された参考文献である。 (甲3a)「【0099】 前記硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤とは、例えば、加硫条件(例えば150℃、1.5MPa)またはそれ以下の温度および圧力下で活性硫黄を放出しない硫黄原子含有加硫促進剤を指す。この硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤は、換言すれば、例えば、加硫条件(例えば150℃、1.5MPa)またはそれ以下の温度および圧力下において加硫剤としての機能を発揮しない硫黄原子含有加硫促進剤である。 【0100】 硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤としては、-S_(n)-(n≧2)を有さない、チアゾール系加硫促進剤(2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、2-メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩(ZnMBT)、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩(CMBT)など)や、スルフェンアミド系加硫促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-べンゾチアゾリルスルフェンアミドなど)、加硫促進剤テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤(ピペリジニウムペンタメチレンジチオカルバメート(PPDC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEDC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnBDC)、N-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEPDC)、N-ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(ZnPDC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaBDC)、ジメチルジチオカルバミン酸銅(CuMDC)、ジメチルジチオカルバミン酸鉄(FeMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル(TeEDC)など)などが挙げられる。なお、チアゾール系加硫促進剤であるジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)は、-S_(n)-(n≧2)を有しており、硫黄を放出する加硫促進剤であるが、一般的な配合量では天然ゴムやブタジエンゴムに対して加硫剤としての機能を発揮しないため、硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤と同等に用いることができる。」 (エ)甲4の記載事項について 甲4には以下の記載がある。 (甲4a)「 」(甲4の中段) (オ)甲5の記載事項について 甲5には以下の記載がある。 (甲5a)「 」(第5頁) (カ)甲6の記載事項について 甲6には以下の記載がある。 (甲6a)「【0017】 加硫剤と硫黄化合物を除いた配合量の4水準、硫黄配合量の6水準、硫黄化合物の種類として3?5水準、硫黄化合物の配合量の4水準、全硫黄配合量の12水準をそれぞれ組み合わせて検討した。硫黄化合物としては、モルホリン・ジスルフィド(バルノックR)、加硫時に硫黄を放出する加硫促進剤であるチウラム系加硫促進剤(ノクセラーTET-G、ノクセラーTRA、ノクセラーTT)、チアゾール系加硫促進剤(ノクセラーMDB-P)を使用し、3種類から5種類の組み合わせで検討した。 表1に各加硫促進剤およびバルノックRの硫黄含有率を括弧内に示し、それらの硫黄含有率に相当する配合量をカッコ内に併記した。 加硫剤と硫黄化合物を除いた配合量の4水準は、表2記載のカーボンブラック量と軟化剤量をそれぞれ組み合わせ、その他の配合剤を加えたものである。 なお、カーボンブラックは、よう素吸着量が44mg/g、DBP吸収量が115cm3/100gのFEFを使用した。また、軟化剤は動粘度が380mm2/S(JISK2283に準じて測定)のパラフィン系オイルを使用した。」 (キ)甲7の記載事項について 甲7には以下の記載がある。なお、甲7は、本件出願日以降に出力された参考文献である。 (甲7a)「 」(第2頁中段) (ク)甲8の記載事項について 甲8には以下の記載がある。 (甲8a)「無機フィラーは増量剤としてや,成形性,機械的性質の改善だけでなく,電気的性質や難燃性,防音・制振性などの機能性の付与を目的に用いられている.フィラーの補強効果には,ポリマーマトリックス-フィラー間の界面相互作用が大きく影響するといわれているが,この界面相互作用の評価には,フィラーゲルを測定する方法があるが,動的粘弾性試験によっても調べることができる. また,プラスチックでは,タルクのような板状フィラーを用いると,粒状フィラーより損失正接が大きくなり,制振性を示すことが認められているように^(2)),加硫ゴムでもシリカのような粒状フィラーと板状フィラーでは,動的粘弾性に及ぼす影響が異なることが考えられる. ここでは,シリカと,補強効果に乏しい炭酸カルシウム,および板状でゴム補強効果を示すカオリンクレー,タルクを配合した加硫ゴムの動的粘弾性試験を行い,フィラー間の相違やマトリックスポリマーとフィラー間の相互作用について,カーボンブラックと対比して調べた結果について述べる.」(第218頁「1.はじめに」欄の第5行?第22行) (甲8b)「図1には,フィラーの体積分率(V_(f))が0.18(シリカ,N330で50phr,その他は70phr)の場合のSBRの貯蔵弾性率(E’)と損失正接(tanδ)の温度分散を示した.E’は,ガラス領域では,炭酸カルシウム,シリカ,N330,クレー,タルクの順に大きく,プラスチックと同様に,板状フィラーのほうが高くなっている.一方,ゴム状領域では,シリカ>>タルク,クレー>N330>炭酸カルシウムの順で,静的引張試験の伸長モジュラスの大きさは順とは異なっており,動的弾性率ではN330よりシリカの方が向上効果が大きい.」(第218頁「3.温度分散曲線」欄の第1行?第10行) (甲8c)「 」(第219頁上段) (ケ)甲9の記載事項について 甲9には以下の記載がある。 (甲9a)「 」(第7頁?第8頁) イ 甲1に記載された発明 甲1には、アルミニウムを腐食させるガス、化合物を除去するために、ゼオライト等の無機系多孔質吸着剤を5?200phr配合したスポンジゴム用組成物が記載されており(記載事項(甲1a)?(甲1c))、その具体例の実施例1として、EPDM(日本合成ゴム(株)製「EPDM EP35」)100部、カーボンブラック(東海カーボン製「FEF」)70部、軽質炭酸カルシウム(白石工業製)30部、パラフィン系プロセスオイル(出光製)50部、ステアリン酸(日本油脂製)1部、亜鉛華(正同化学製)5部、発泡剤(ADCA)(永和化成製「AC#3」)3部、発泡助剤(永和化成製「M3」)1.5部、ゼオライト100部、硫黄(鶴見化学)1.5部、加硫促進剤(シクロへキシルベンゾチアジルスルホンアミド)1.8部、加硫促進剤(ジンクジブチルチオカーバメート)0.3部の組成のコーナ用ウェザーストリップを製造するための配合物が記載されている(記載事項(甲1d))。 そうすると、甲1には、上記実施例1に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。 「EPDM(日本合成ゴム(株)製「EPDM EP35」)100部、カーボンブラック(東海カーボン製「FEF」)70部、軽質炭酸カルシウム(白石工業製)30部、パラフィン系プロセスオイル(出光製)50部、ステアリン酸(日本油脂製)1部、亜鉛華(正同化学製)5部、発泡剤(ADCA)(永和化成製「AC#3」)3部、発泡助剤(永和化成製「M3」)1.5部、ゼオライト100部、硫黄(鶴見化学)1.5部、加硫促進剤(シクロへキシルベンゾチアジルスルホンアミド)1.8部、加硫促進剤(ジンクジブチルチオカーバメート)0.3部を含むスポンジゴム用組成物」(以下、「甲1発明」という。) ウ 対比・判断 (ア)本件発明1について a 対比 甲1発明の「スポンジゴム用組成物」は、ゴム組成物であるから、本件発明1の「ゴム組成物」に相当する。 甲1発明の「EPDM(日本合成ゴム(株)製「EPDM EP35」)100部」について、「EPDM」はエチレン・プロピレン・共役ジエンのポリマーであるから、本件発明1の「EPDMポリマー」に相当し、その含有量「100部」も、phr(per hundred rubber)単位における重量基準となるものであるから、本件発明1の「100質量部」と一致する。 甲1発明の「カーボンブラック(東海カーボン製「FEF」)70部」について、「カーボンブラック」は、本件発明1の「カーボンブラック」に相当し、その含有量「70部」も、本件発明1の「66?93質量部」に相当する。 甲1発明の「パラフィン系プロセスオイル(出光製)50部」について、「パラフィン系プロセスオイル」は軟化剤として当業者に周知のものであるから(記載事項(甲2c))、本件発明1の「軟化剤」に相当し、その含有量「50部」も、本件発明1の「31?76質量部」に相当する。 甲1発明の「軽質炭酸カルシウム(白石工業製)30部」、「ゼオライト100部」について、「軽質炭酸カルシウム」、「ゼオライト」はいずれも無機充填剤(フィラー)として当業者に周知のものであるから(記載事項(甲2d))、本件発明1の「フィラー」に相当し、その合計の含有量「130部」も、本件発明1の「87?145質量部」に相当する。 甲1発明の「硫黄(鶴見化学)」は、本件発明1の「硫黄系加硫剤」に相当し、甲1発明の「加硫促進剤(シクロへキシルベンゾチアジルスルホンアミド)」、「加硫促進剤(ジンクジブチルチオカーバメート)」は、本件発明1の「加硫促進剤」に相当する。 また、甲1発明の全硫黄量(硫黄系加硫剤に含まれる硫黄量と、加硫時に加硫促進剤から放出される硫黄量と、さらに他の配合剤に硫黄が含まれる場合にはその硫黄量との合計)について、甲1発明のゴム用組成物には、上記「硫黄(鶴見化学)」、「加硫促進剤(シクロへキシルベンゾチアジルスルホンアミド)」、「加硫促進剤(ジンクジブチルチオカーバメート)」以外に硫黄原子が含まれる成分は含有しておらず、「加硫促進剤(シクロへキシルベンゾチアジルスルホンアミド)」、「加硫促進剤(ジンクジブチルチオカーバメート)」についても、-S_(n)-(n≧2)を有さない硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤であるから(記載事項(甲3a))、甲1発明の全硫黄量は、「硫黄(鶴見化学)」の含有量である1.5部であり、これは本件発明1の「1.3?1.8質量部」に相当する。 さらに、甲1発明の「軽質炭酸カルシウム」は、甲4によると紡錘状フィラーであるから(記載事項(甲4a))、「ゼオライト」との合計量130部のうち、23質量%は少なくとも紡錘状フィラーであり、これは本件発明1の「フィラーのうち10質量%以上は不定形又は紡錘状フィラーである」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「必須成分としてEPDMポリマー100質量部、カーボンブラック66?93質量部、フィラー87?145質量部、及び軟化剤31?76質量部を含み、さらに全硫黄量が1.3?1.8質量部となるように硫黄系加硫剤及び加硫促進剤を含み、前記フィラーのうちの10質量%以上は不定形又は紡錘状フィラーであるゴム組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 「フィラー」につき、本件発明1では、電気絶縁性であるのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点 (相違点2) 「フィラー」につき、本件発明1では、フィラーのうち板状フィラーを任意成分として含むのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点 (相違点3) 「ゴム組成物」につき、本件発明1では、その加硫物が下記の数式2を満足するのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点 (M_(30)〈100℃〉/M_(30)〈23℃〉-1)×100≧-15%・・・数式2 ここで、 M_(30)〈23℃〉:23℃での引張試験において伸び30%のときの引張応力 M_(30)〈100℃〉:100℃での引張試験において伸び30%のときの引張応力 (相違点4) 「ゴム組成物」につき、本件発明1では、その加硫物が下記の数式3(回帰式)を満足するのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点 39.2≧Z=a1×S×1000+a2×Wc×D/1000+a3×Wha/Ha+a4×Whb/Hb≧27.5・・・数式3 ここで、 Z:回帰式の値 S:全硫黄量/ゴム組成物の総充填量 全硫黄量は、硫黄系加硫剤に含まれる硫黄量と、加硫時に加硫促進剤から放出される硫黄量と、さらに他の配合剤に硫黄が含まれる場合にはその硫黄量との合計である。 Wc:カーボンブラック配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) D:カーボンブラックのDBP吸収量(A法、cm^(3)/100g) Wha:不定形又は紡錘状フィラーの配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) Ha:不定形又は紡錘状フィラーの比表面積(m^(2)/g) Whb:板状フィラーの配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) Hb:板状フィラーの比表面積(m^(2)/g) a1,a2,a3,a4:回帰係数 a1=5.5 a2=0.45 a3=0.21 a4=-0.65 b 判断 事案に鑑み、相違点4から検討する。 甲1発明のゴム組成物について、数式3(回帰式)の値Zを計算する。 まず、「a1×S×1000」の項について、甲1発明において、全硫黄量/ゴム組成物の総充填量は、約0.0041(=1.5/(100+70+30+50+1+5+3+1.5+100+1.5+1.8+0.3))であるから、「a1×S×1000」は、約22.55(5.5×0.0041×1000)と算出される。 次に、「a2×Wc×D/1000」の項について、甲1発明におけるゴム組成物は、カーボンブラックを、EPDM100部に対して70部含有するものの、上記カーボンブラックのDBP吸収量は不明であるから、「a2×Wc×D/1000」を算出することができない。 同様に、「a3×Wha/Ha」の項について、甲1発明におけるゴム組成物は、軽質炭酸カルシウムを、EPDM100部に対して30部含有するものの、上記軽質炭酸カルシウムの比表面積は不明であるから、「a3×Wha/Ha」を算出することができない。 また、甲1発明におけるゴム組成物は、ゼオライトを、EPDM100部に対して100部含有するものの、ゼオライトは、天然ゼオライト(不定形)か合成ゼオライト(球形)か人工ゼオライト(球形)かによってその形状は異なるものであるから(記載事項(甲5a))、甲1発明におけるゼオライトが、どのような形状をしているのか特定することはできず、不定形フィラーとして、「a3×Wha/Ha」の項に該当するものなのかも判断することはできない。 最後に、「a4×Whb/Hb」の項について、甲1発明におけるゴム組成物には、板状フィラーは含まれていないから、「a4×Whb/Hb」は0である。 したがって、甲1発明におけるゴム組成物の回帰式の値Zは、「a2×Wc×D/1000」の項の値と、「a3×Wha/Ha」の項の値が不明であるから、本件発明1の「39.2≧Z≧27.5」の範囲と実質的に相違しないとはいえない。 以上によれば、相違点4は実質的な相違点である。 したがって、相違点1?3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 c 申立人の主張 申立人は、上記bの「a2×Wc×D/1000」の項について、甲6(記載事項(甲6a))をみれば、甲1発明のカーボンブラック(東海カーボン製「FEF」)のDBP吸収量は、115cm^(3)/100gである旨主張している。 しかしながら、甲6には、東海カーボン製のカーボンブラックについての記載はない。さらに、カーボンブラックにおける「FEF」についても、「fast extruding furnace black」というファーネスブラックの一種であることを意味しているだけであり、特定のカーボンブラックを意味しているものではなく、甲6の記載から、甲1発明のカーボンブラックのDBP吸収量が特定の値に定まるものではない。 また、申立人は、上記bの「a3×Wha/Ha」の項について、軽質炭酸カルシウムの比表面積は、甲4(記載事項(甲4a))の記載から、5.5m^(2)/gである旨主張していると解されるが、同じ軽質炭酸カルシウムでも、その製造条件等によって比表面積は変化するものであることは当業者の技術常識であり、ある特定の軽質炭酸カルシウムの比表面積が5.5m^(2)/gだからといって、甲1発明における軽質炭酸カルシウムの比表面積も5.5m^(2)/gであるとはいえない。 さらに、申立人は、ゼオライトについても、一例として、甲7(記載事項(甲7a))には、天然ゼオライトの比表面積が、275m^(2)/g(250?300m^(2)/gの中央値)であると記載されている旨主張しているが、上記bで述べたとおり、甲1発明におけるゼオライトが、天然ゼオライトであると特定されているわけではないし、比表面積を中央値とする根拠もない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 d 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (イ)本件発明2?4,6,8?11について 本件発明2?4,6,8?11は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、本件発明2?4,6,8?11は、甲1に記載された発明ではない。 エ まとめ 以上のとおりであるから、申立理由1によっては、本件発明1?4,6,8?11に係る特許を取り消すことはできない。 (2)申立理由2について 申立理由2は、本件発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、というものである。以下に検討する。 ア 本件発明1について (ア)対比 上記2(1)ウ(ア)aで述べたとおり、本件発明1と甲1発明とは、相違点1?4で相違する。 以下に相違点4を再掲する。 (相違点4) 「ゴム組成物」につき、本件発明1では、その加硫物が下記の数式3(回帰式)を満足するのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点 39.2≧Z=a1×S×1000+a2×Wc×D/1000+a3×Wha/Ha+a4×Whb/Hb≧27.5・・・数式3 ここで、 Z:回帰式の値 S:全硫黄量/ゴム組成物の総充填量 全硫黄量は、硫黄系加硫剤に含まれる硫黄量と、加硫時に加硫促進剤から放出される硫黄量と、さらに他の配合剤に硫黄が含まれる場合にはその硫黄量との合計である。 Wc:カーボンブラック配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) D:カーボンブラックのDBP吸収量(A法、cm^(3)/100g) Wha:不定形又は紡錘状フィラーの配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) Ha:不定形又は紡錘状フィラーの比表面積(m^(2)/g) Whb:板状フィラーの配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) Hb:板状フィラーの比表面積(m^(2)/g) a1,a2,a3,a4:回帰係数 a1=5.5 a2=0.45 a3=0.21 a4=-0.65 (イ)判断 上記2(1)ア(ア)によれば、甲1には、アルミニウムを腐食させるガス、化合物を除去するために、ゼオライト等の無機系多孔質吸着剤を5?200phr配合したスポンジゴム用組成物の記載があり、その具体例の実施例1として、EPDM等を含有する配合物の記載はある。 しかしながら、甲1発明のゴム用組成物が、体積抵抗値が高いこと、高温での剛性の変化が小さいことの記載はなく、当然、そのようなゴム用組成物を得るための数式3(回帰式)に関する記載はなく、本件発明1で特定する数式3(回帰式)の範囲にさせる記載もない。 そうすると、甲1発明において、相違点4である「加硫物が数式3(回帰式)を満足する」ものとする動機付けはない。 また、上記2(1)ア(イ)によれば、甲2には、ラジエーターホースと接触する金属製のクランプに腐食が発生するという問題を解消したラジエーターホースに関し、加硫ゴムの好ましい具体例としては、(A):エチレン-α-オレフィン-非共役ジエン共重合体ゴム、(B):下記(C)以外の添加剤、(C):無機充填剤を含むゴム組成物を加硫して得られるものであること、(B)の具体例としては、カーボンブラック、軟化剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進剤及び硫黄を含む成分をあげることができること、(C)無機充填剤の具体例としては、クレー、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、ウオラストナイト、ゼオライトなどを例示することができることが記載されている(記載事項(甲2a)?(甲2d))。 しかしながら、甲2には、本件発明1で定義される数式3(回帰式)の値Zが39.2≧Z≧27.5を満足することの記載はない。 そうすると、いくら甲2の記載をみても、甲1発明において、相違点4に関する構成を導くことはできない。 よって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (ウ)申立人の主張 申立人は、甲8に、粒状フィラーと板状フィラーとでは動的粘弾性に及ぼす影響が異なること、炭酸カルシウムが、温度変化による弾性の変化(貯蔵弾性率E’)が小さいことが記載され(記載事項(甲8a)?(甲8c))、貯蔵弾性率が小さいことは、剛性の温度依存性が小さいことに他ならないこと、そうすると、剛性の温度依存性を調整する目的で、使用するフィラーの形状を特定したり、フィラーの形状別に配合比を調整したり、あるいはフィラーの形状ごとに独立変数Wha/HaおよびWhb/Hbを設定して回帰係数を規定し、数式2の剛性変化率と高い相関関係にある数式3(回帰式)の値Zを特定の範囲とすることは、当業者の設計事項であるという主張をする。 しかしながら、甲8には、ガラス領域では、炭酸カルシウムがクレーやタルクよりも貯蔵弾性率E’が小さいことが記載されているだけで(記載事項(甲8b))、剛性の温度依存性については明示されていない。また、申立人は、ガラス領域における貯蔵弾性率が小さいと剛性の温度依存性が小さくなるとする根拠は何も示していない。また、仮に上記甲8の記載から、フィラーの形状を特定すること、フィラーの形状別に配合比を調整することがいえたとしても、Wha/Haのような変数を設定して回帰係数を規定し、剛性変化率と相関関係にある数式3を設定することまでが設計事項であるとはいえない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 イ 本件発明2?11について 本件発明2?11は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記アで述べた理由と同じ理由により当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ まとめ 以上のとおりであるから、申立理由2によっては、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。 (3)申立理由3について ア 申立人の主張 申立人は、数式3(回帰式)の規定について、本件明細書の段落【0010】に、「すなわち、後述する実施例及び比較例の結果から、S、Wc・D、Wha/Ha、Whb/Hbを個々の独立変数として用いて、重回帰分析を最小二乗法で行い、回帰係数a1,a2,a3,a4が求められ、Zが27.5以上、39.2以下であるものが好ましいゴム組成物として特定された。」と記載されているだけであり、回帰式の値Zを上記範囲とすることがどのような技術上の意義を有し、どのような技術的貢献をもたらしたかは記載されていないから、本件発明1?11は、いわゆる委任省令要件違反に該当する旨主張している。 イ 申立人の主張に対する検討 本件発明において、数式3(回帰式)の値Zを39.2≧Z≧27.5と特定することの、発明の技術上の意義について検討する。 申立人も主張するとおり、本件明細書の段落【0010】には、「Zが27.5以上、39.2以下であるものが好ましいゴム組成物として特定された。」と記載されており、さらに、【図2】には、数式3(回帰式)の値と剛性変化率との相関関係が示され、数式3(回帰式)の値が27.5以上、39.2以下であれば、剛性変化率が-15%以上となることから、数式3(回帰式)の値Zを39.2≧Z≧27.5と特定することにより、高温での剛性の変化が小さいゴム組成物及びゴム製品が得られるという技術上の意義を有するものと解される。 そして、本件明細書の【実施例】には、数式3(回帰式)の値Zが39.2≧Z≧27.5の範囲内ではない例のうち、Zが27.5未満である例として、Zが26.0,25.0である比較例5,6が記載されており、これと実施例1,2とを比較すると、前者は、剛性低下率が-17.8%,-18.6%であるのに対し、後者は、剛性低下率が-12.7%,-14.3%であり、前者と比較して後者が、剛性の変化が小さい点において優れていることが具体的に示されているといえる。 以上のとおり、本件明細書には、回帰式の値Zを39.2≧Z≧27.5と特定することについて、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているといえる。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 ウ まとめ 以上のとおりであるから、申立理由3によっては、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。 (4)申立理由4について ア 特許法第36条第6項第1号について 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。 そこで、この点について、以下に検討する。 イ 本件発明の課題について 本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0007】等の記載から、「製造が容易な硫黄加硫系で、体積固有抵抗値が高く、高温での剛性の変化が小さいゴム組成物及びゴム製品を提供すること」であると解される。 ウ 本件発明1について 本件明細書の段落【0008】には、「電気絶縁性のいわゆる白色フィラーについて検討したところ、白色フィラーの粒形の違いが剛性の温度依存性に影響すること、より具体的には板状又は針状フィラーよりも無定形又は紡錘状フィラーの方が剛性の温度依存性が抑えられること」、同【0018】には、「電気絶縁性のフィラーには、一般に白色フィラーと呼ばれているものを使用することができるが、それに限定されるものではない」こと、さらに、「白色フィラーは、その粒形によって、不定形フィラー、紡錘状フィラー、板状フィラー、針状フィラー等に区別して取り扱われて」いることが記載され、同【0017】には、「カーボンブラックは、・・・アグリゲートの発達度合いであるストラクチャーを表す、DBP吸収量(JISK6217-2001準拠)が100?160cm^(3)/100gであるものが高補強性と高電気抵抗のバランスから好ましい。この値が100cm^(3)/100gでは、ゴムを補強する作用が小さくなって引張り強さが低下し、160cm^(3)/100gを超えると、ゴムの体積固有抵抗値を低くする傾向となる」こと、さらに、「カーボンブラックの配合比率は、特に限定されないが、ゴム組成物の総充填量において10?28質量%が好ましく、18?26質量%がさらに好ましい。この比率が10質量%未満では、ゴムを補強する作用が小さくなって引張り強さが低下し、26質量%を超えると、ゴムの体積固有抵抗値を低くする傾向となる」ことが記載されている。 これらの記載から、上記イの課題である高温での剛性変化については、電気絶縁性フィラーの種類ではなく粒形が影響し、上記イの課題である体積固有抵抗値については、カーボンブラックのDBP吸収量や配合量が影響するものと解される。 そして、本件明細書の段落【0010】には、「実施例及び比較例の結果から、S、Wc・D、Wha/Ha、Whb/Hbを個々の独立変数として用いて、重回帰分析を最小二乗法で行い、回帰係数a1,a2,a3,a4が求められ、Zが27.5以上、39.2以下であるものが好ましいゴム組成物として特定された」ことが記載され、本件明細書の【実施例】には、電気絶縁性フィラーの粒形と関係する数式3(回帰式)の値Zが31.2,28.9である実施例1,2が、上記範囲を満たさない26.0,25.0である比較例5,6と比較して剛性低下率が小さいことが具体的に示されており、数式3(回帰式)の値Zを特定の範囲とすることにより、高温での剛性変化が小さい(数式2を満足する)という課題を解決しているといえる。このことは、【図2】において、数式3(回帰式)の値と剛性変化率の相関関係が示され、数式3(回帰式)を満足することにより、剛性変化率が小さい(数式2を満足する)ことからも認められる。 さらに、同【実施例】には、DBP吸収量が152cm^(3)/100gであるカーボンブラックやDBP吸収量が115cm^(3)/100gであるカーボンブラックを合計で88質量部(実施例13,14),90質量部(実施例15)用いたものに対して、カーボンブラックの配合量が多い(比較例8)と、体積固有抵抗値が低くなることも具体的に示されており、カーボンブラックの配合量を特定の範囲とすることにより、体積固有抵抗値が大きいという課題を解決しているといえる。 そうすると、本件発明1の特定の成分を特定量含有し、数式3(回帰式)を満足することにより、体積固有抵抗値が高く、高温での剛性の変化が小さい(数式2を満足する)ゴム組成物が得られることが、本件明細書の記載から理解できるものといえる。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 エ 本件発明2?11について 本件発明2?11は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記ウで示したのと同様の理由により、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 オ 申立人の主張 申立人は、本件発明1では、フィラーについて、「前記フィラーのうち板状フィラーは任意成分として含むが、前記フィラーのうちの10質量%以上は不定形又は紡錘状フィラーである」ことのみが特定され、フィラーのうち90質量%までが「不定形又は紡錘状」以外のフィラーであってよいとされており、本件発明1の数式3(回帰式)は、当業者が、「不定形、紡錘状および板状」以外の粒子径状のフィラーについて特定を要しないことを理解できるように記載されていない旨主張している。 しかしながら、上記ウに示したとおり、本件明細書には、数式3(回帰式)を満足することにより、体積固有抵抗値が高く、高温での剛性の変化が小さいゴム組成物が得られることが理解できるように記載されているし、「不定形、紡錘状および板状」以外のフィラーを90質量%含む場合には課題を解決しない例や、その技術的根拠を申立人も示していないので、サポート要件を満足しないとはいえない。 また、申立人は、フィラーの種類を具体的に特定していない旨も主張しているが、上記ウに示したとおり、フィラーについては、その種類ではなく、その粒形の違いが剛性の温度依存性に影響するものであり、数式3(回帰式)はその粒形の違いが関係するものとして記載されているし、フィラーの種類が違う場合には課題を解決しない例や、その技術的根拠を申立人も示していないので、サポート要件を満足しないとはいえない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 カ まとめ 以上のとおりであるから、申立理由4によっては、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。 (5)申立理由5bについて 申立人は、本件発明11は、ゴム製品(物の発明)であるが、請求項11には、「ゴム組成物を加硫してなる」という、その物の製造方法が記載されているものと認められ、また、いわゆる不可能・非実際的事情の存在を認める理由も見いだせないから、明確でない旨主張している。 しかしながら、請求項11における「ゴム組成物を加硫してなる」との記載は、一見製造方法が記載されているといえるが、単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないから、当該ゴム製品を明確でないということはできない。 よって、申立人の主張は採用できない。 したがって、取消理由5bによっては、本件発明11に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び申立人が申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、請求項1?11に係る本件特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?11に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 必須成分としてEPDMポリマー100質量部、カーボンブラック66?93質量部、電気絶縁性のフィラー87?145質量部、及び軟化剤31?76質量部を含み、さらに全硫黄量が1.3?1.8質量部となるように硫黄系加硫剤及び加硫促進剤を含み、前記フィラーのうち板状フィラーは任意成分として含むが、前記フィラーのうちの10質量%以上は不定形又は紡錘状フィラーであるゴム組成物であって、その加硫物が下記の数式2及び数式3(回帰式)を満足するゴム組成物。 (M_(30)〈100℃〉/M_(30)〈23℃〉-1)×100≧-15%・・・数式2 ここで、 M_(30)〈23℃〉:23℃での引張試験において伸び30%のときの引張応力 M_(30)〈100℃〉:100℃での引張試験において伸び30%のときの引張応力 39.2≧Z=a1×S×1000+a2×Wc×D/1000+a3×Wha/Ha+a4×Whb/Hb≧27.5・・・数式3 ここで、 Z:回帰式の値 S:全硫黄量/ゴム組成物の総充填量 全硫黄量は、硫黄系加硫剤に含まれる硫黄量と、加硫時に加硫促進剤から放出される硫黄量と、さらに他の配合剤に硫黄が含まれる場合にはその硫黄量との合計である。 Wc:カーボンブラック配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) D:カーボンブラックのDBP吸収量(A法、cm^(3)/100g) Wha:不定形又は紡錘状フィラーの配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) Ha:不定形又は紡錘状フィラーの比表面積(m^(2)/g) Whb:板状フィラーの配合量(EPDMポリマー100質量部に対する質量部) Hb:板状フィラーの比表面積(m^(2)/g) a1,a2,a3,a4:回帰係数 a1=5.5 a2=0.45 a3=0.21 a4=-0.65 【請求項2】 ゴム組成物の総充填量におけるカーボンブラックの配合比率が、10?28質量%である請求項1記載のゴム組成物。 【請求項3】 ゴム組成物の総充填量における全硫黄量の配合比率が、0.35?0.60質量%である請求項1記載のゴム組成物。 【請求項4】 EPDMポリマー100質量部に対する電気絶縁性のフィラーの合計配合量が、90?142質量部である請求項1記載のゴム組成物。 【請求項5】 不定形又は紡錘状フィラーと板状フィラーとの配合比が、95:5?10:90である請求項1記載のゴム組成物。 【請求項6】 不定形又は紡錘状フィラーが、重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムの群から選ばれた1種又は2種のものである請求項5記載のゴム組成物。 【請求項7】 板状フィラーが、微粉タルク、ハードクレー、表面処理クレー及び焼成クレーの群から選ばれた1種又は2種以上のものである請求項5記載のゴム組成物。 【請求項8】 カーボンブラックのDBP吸収量が、100?160cm^(3)/100gである請求項1記載のゴム組成物。 【請求項9】 EPDMポリマーの125℃におけるムーニー粘度ML_(1+4)が40?200である請求項1記載のゴム組成物。 【請求項10】 フィラーはカーボンブラックより多く配合された請求項1記載のゴム組成物。 【請求項11】 請求項1?10のいずれか一項に記載のゴム組成物を加硫してなるゴム製品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-09-28 |
出願番号 | 特願2014-90898(P2014-90898) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L) P 1 651・ 121- YAA (C08L) P 1 651・ 537- YAA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 今井 督 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 安田 周史 |
登録日 | 2019-04-26 |
登録番号 | 特許第6516974号(P6516974) |
権利者 | 豊田合成株式会社 |
発明の名称 | ゴム組成物及びゴム製品 |
代理人 | 永田 元昭 |
代理人 | 永田 良昭 |
代理人 | 松原 等 |
代理人 | 松原 等 |
代理人 | 大田 英司 |
代理人 | 北村 吉章 |
代理人 | 西村 弘 |