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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1368969
異議申立番号 異議2019-700987  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-04 
確定日 2020-10-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6523954号発明「粉末組成物、該粉末組成物の製造方法及び飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6523954号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正することを認める。 特許第6523954号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6523954号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2014年6月25日(優先権主張 2013年6月26日 日本国)を国際出願日とするものであって、令和1年5月10日に特許権の設定登録がされ、同年6月5日にその特許公報が発行され、その後、同年12月4日に、特許異議申立人 神谷 高伸(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和2年2月3日付けで当審から取消理由が通知され、同年4月6日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年5月25日付けで当審から特許法120条の5第5項に基づく通知書が出され、特許異議申立人から令和2年7月6日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
令和2年4月6日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

1 訂正の内容
本件訂正の内容は以下の訂正事項1?6のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の明細書の【0091】の「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB11」との記載を訂正後に「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7」とする。

(2)訂正事項2
訂正前の明細書の【0092】の「(ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB11)」との記載を訂正後に「(ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)」とする。

(3)訂正事項3
訂正前の明細書の【0095】の「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB11」との記載を訂正後に「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7」とする。


そして、訂正事項1?3は、いずれも、訂正請求書において、請求項1?8に係る明細書の訂正であるとしている。

(4)訂正事項4、5、6
訂正事項4、5、6は、それぞれ、訂正前の明細書の【0091】、【0092】、【0095】を、訂正事項1、2、3のとおりに訂正するもので、請求項9に係る明細書の訂正であるとしている。

なお、訂正前の請求項1?8について、請求項2?8は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、上記のとおり、訂正事項1?3は、いずれも、請求項1?8に関する明細書の訂正であるから、請求項1?8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、上記のとおり、訂正事項4?6は、いずれも、請求項9に関する明細書の訂正であるから、請求項9は、特許法第120条の5第4項に規定する請求項である。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 目的の適否について
(ア)「明瞭でない記載の釈明」を目的とした訂正が認められる前提
訂正が、明瞭でない記載の釈明を目的としたものとして認められるには、明細書自体の不明瞭な記載等の記載上の不備について本来の意味を明らかにするものであることが必要である。

(イ)判断
そこで、上記のことを前提として、訂正前の明細書の【0091】の「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB11」(下線は当審にて追加。以下同様。)との記載の「HLB」の値を、訂正後に「HLB7」に訂正する訂正事項1について、以下に検討する。

(ウ)本件明細書に示された、ショ糖脂肪酸エステルの具体例である「ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-・・・70」三菱化学フーズ社製」に関しては、【0060】の実施例1における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)」との記載、【0063】の実施例3における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)」との記載、【0073】の実施例4の[試験例3]における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)」との記載、【0082】の実施例4の[試験例5]における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)」との記載、【0084】の実施例6における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-1170」三菱化学フーズ社製、HLB11)」との記載、【0095】の実施例13における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-370」三菱化学フーズ社製、HLB3)」との記載にあるように、「S-・・・70」の「・・・」に相当する数字が、HLBの値を表していることが理解できる。

(エ)しかしながら、訂正事項1に係る訂正前の「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB11」との記載については、「S-・・・70」の「・・・」に相当する数字が、HLBの値を表しておらず、他の多くのショ糖ステアリン酸エステルの表記と整合しておらず、不明瞭であるといえる。

(オ)そして、商標名が正確に記載されていることは、【0097】の実施例14における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖パルミチン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルP-1570」三菱化学フーズ社製)」との記載や【0086】の実施例8における「ショ糖ラウリル酸エステル(「リョートー(登録商標)シュガーエステルL-195」三菱化学フーズ社製、HLB1)」との他の記載及び上記多数の記載から理解できる。

さらに、特許権者の提出した乙第1号証から、リョートー(登録商標)シュガーエステルの種類と内容に関して、S-370、S-570、S-770、S-1170、P-1570、L-195が、それぞれ、HLBの値で3、5、7、11、15、1を有していること、数字の最初の一桁又は二桁がHLBの値を示していることが理解できる。

(カ)したがって、上記訂正前の不明瞭な記載を訂正後に「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7」との記載に訂正し、商標名とHLBの値を整合させることは、不明瞭な記載を本来の記載に訂正するものであるといえ、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項について
本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、正しい商標名のショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製のHLBの値を類推できる本来の値である商標と整合した「7」に訂正したものにすぎず、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
また、上記訂正は、明細書の記載を本来の記載に訂正したものであって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2、3について
ア 前記1(2)(3)のとおり、訂正事項2、3の訂正の内容は、【0091】に対する訂正事項1と同じ内容を、それぞれ、【0092】、【0095】に対して行うものである。

イ したがって、訂正事項2、3は、上記(1)で検討したのと同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2,3は、上記(1)で検討したのと同様に、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項2及び3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項4、5、6について
ア 訂正事項4、5、6は、いずれも、請求項1?8に関する訂正事項1、2、3と分けて請求項9に関する明細書の訂正であることを明示したものにすぎず、訂正の内容は、それぞれ、訂正事項1、2、3と同じである。

イ 訂正事項4?6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

よって、訂正明細書のとおり、訂正することを認める。

第3 特許請求の範囲の記載
本件訂正により特許請求の範囲の記載は訂正されておらず、登録時の特許請求の範囲の請求項1?8、9に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明8」、「本件特許発明9」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8、9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物であって、
前記脂溶性物質の含有量が10質量%以上49.95質量%以下であり、カゼインナトリウムの含有量が1.0質量%以下であり、ポークエキス及び乳清タンパク質を含有せず、
前記澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であり、前記脂溶性物質と前記澱粉加水分解物の含有量の比率(質量比)が脂溶性物質:澱粉加水分解物=1:1?1:4の範囲であり、粉末組成物中の前記低分子界面活性剤の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記脂溶性物質が植物性油脂及び/又はその加工油脂であり、前記低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする粉末組成物。
【請求項2】
前記低分子界面活性剤の含有量が1.0質量%以上である請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項3】
前記澱粉加水分解物の重量平均分子量が9000以下である、請求項1または2に記載の粉末組成物。
【請求項4】
前記澱粉加水分解物の重量平均分子量が50000以上である、請求項1または2に記載の粉末組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載の粉末組成物を含有する、飲料。
【請求項6】
さらに、乳成分を含有する、請求項5に記載の飲料。
【請求項7】
さらに、静菌性乳化剤を含有する請求項5または6に記載の飲料。
【請求項8】
コーヒーまたは紅茶飲料である、請求項5?7のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項9】
脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物の製造方法であって、
前記粉末組成物は前記脂溶性物質の含有量が10質量%以上49.95質量%以下であり、カゼインナトリウムの含有量が1.0質量%以下であり、ポークエキス及び乳清タンパク質を含有せず、
前記澱粉加水分解物として、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する、分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であり、前記脂溶性物質と前記澱粉加水分解物の含有量の比率(質量比)が脂溶性物質:澱粉加水分解物=1:1?1:4の範囲であり、粉末組成物中の前記低分子界面活性剤の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記脂溶性物質が植物性油脂及び/又はその加工油脂であり、前記低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである澱粉加水分解物を用い、
前記澱粉加水分解物、脂溶性物質、低分子界面活性剤及び水を混合して混合液を調製し、
前記混合液を乳化して乳化液を得た後、
前記乳化液を噴霧乾燥または凍結乾燥することを特徴とする、粉末組成物の製造方法。」

第4 取消理由及び特許異議申立理由
1 特許異議申立人が申し立てた理由
(1)サポート要件
異議理由1-1:本件特許発明1?9は、「低分子界面活性剤」として、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである」と記載されているのに対して、甲第1号証?甲第4号証からみて、低分子界面活性剤の種類によって水への溶解性や乳化安定性に差があり、HLB値も目安にすぎないし、高HLBのものと低HLBのものとでは乳化安定性が異なるところ、発明の詳細な説明においては、ショ糖脂肪酸エステルの実験データしか開示されておらず、ショ糖脂肪酸エステル以外の低分子界面活性剤を使用した態様まで本件特許発明1?9は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

異議理由1-2:本件特許発明1?9は、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」る場合と、澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%超の場合(甲第5号証?甲第7号証から澱粉加水分解物Bのパインデックス#100が、平均分子量8500であり、15%超の場合に該当すると主張)が同等の効果を奏されていることが記載されているので、「15%以下」の場合に実施例と同等の効果が得られると理解できず、本件特許発明1?9は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2)実施可能要件
異議理由2-1:本件特許発明に関して、「低分子界面活性剤」は、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである」のに対して、下記甲第1号証?甲第4号証からみて、低分子界面活性剤の種類によって水への溶解性や乳化安定性に差があり、HLB値も目安にすぎないし、高HLBのものと低HLBのものとでは乳化安定性が異なるところ、発明の詳細な説明においては、ショ糖脂肪酸エステルの実験データしか開示されておらず、本願の発明の詳細な説明の記載は、ショ糖脂肪酸エステル以外の低分子界面活性剤を使用した態様まで本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

異議理由2-2:本件特許発明に関して、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」る場合と、澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%超の場合(下記甲第5号証?甲第7号証から澱粉加水分解物Bのパインデックス#100が、平均分子量8500であり、15%超の場合に該当すると主張)が同等の効果を奏されていることが記載されているので、「15%以下」の場合に実施例と同等の効果が得られると理解できず、本願の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

2 当審が通知した取消理由
理由:訂正前の請求項1?9に係る特許は、「低分子界面活性剤」として、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである」と記載されているのに対して、発明の詳細な説明に実質的な裏付けをもって記載されているのは、HLBが5あるいは11のショ糖脂肪酸エステルを単独又は実質的な主成分として用いた場合だけであると考えられるから、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


甲第1号証:戸田 義郎 外2名編、「食品用乳化剤-基礎と応用-」、株式会社光琳、平成9年4月1日、26?33、51?57頁
甲第2号証:日高 徹、「食品用乳化剤 第2版」、株式会社幸書房、1991年3月1日、36?47頁
甲第3号証:山下 聖一 編、「食品乳化剤と乳化技術」、渡辺 隆夫、“基礎編 第1章 食品用乳化剤の基礎”、工業技術会株式会社・有限会社研修社、1995年7月20日、1?14頁
甲第4号証:日高 徹 外2名編、「食品用乳化剤と乳化技術」、衛生技術会、渡辺 隆夫、“第4章 ショ糖脂肪酸エステル”、昭和54年12月30日、112?137頁
甲第5号証:特許第4506072号公報
甲第6号証:「糖化製品の一覧表」、松谷化学工業株式会社
甲第7号証:「パインデックス-澱粉分解物-概要と基礎資料」、松谷化学工業株式会社糖化製造部、1?14頁

第5 当審の判断
取消理由通知に記載した取消理由について
理由(特許法第36条第6項第1号)について
(1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題
【0002】【0004】【0005】の【背景技術】の記載及び【0007】?【0008】の【発明が解決しようとする課題】の記載及び明細書全体の記載からみて、本件特許発明1?4の課題は、汎用的な粉末化基材を用いて、噴霧乾燥法に適し、長期間の乳化安定性に優れた飲料を提供可能な、粉末油脂組成物を提供することにあり、本件特許発明5?8の課題は、該粉末油脂組成物を含有する飲料の提供にあり、本件特許発明9の課題は、上記粉末油脂組成物の製造方法を提供することにあると認める。

(3)特許請求の範囲の記載
請求項1には、前記第2のとおり、「脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物」について、「脂溶性物質の含有量が10質量%以上49.95質量%以下であ」ること、「カゼインナトリウムの含有量が1.0質量%以下であり、ポークエキス及び乳清タンパク質を含有」しないこと、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」ること、「前記脂溶性物質と前記澱粉加水分解物の含有量の比率(質量比)が脂溶性物質:澱粉加水分解物=1:1?1:4の範囲であ」ること、「粉末組成物中の前記低分子界面活性剤の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であ」ること、「脂溶性物質が植物性油脂及び/又はその加工油脂であ」ること、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つであること」を特定した物の発明が記載されている。
また、請求項2は、請求項1において、「低分子界面活性剤の含有量が1.0質量%以上である」こと、請求項3は、請求項1?2において、「澱粉加水分解物の重量平均分子量が9000以下である」こと、請求項4は、請求項1?2において、「澱粉加水分解物の重量平均分子量が50000以上である」ことが、それぞれ、特定された粉末組成物の発明が記載されている。
さらに、請求項5には、請求項1?4の粉末組成物を含有する飲料が、請求項6には、請求項5において、「さらに、乳成分を含有する」ことが、請求項7には、請求項5?6において、「さらに静菌性乳化剤を含有する」ことが、請求項8には、請求項5?7において、「コーヒーまたは紅茶飲料である」ことが、それぞれ特定された飲料の発明が記載されている。
そして、請求項9には、「脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物の製造方法」について、「脂溶性物質の含有量が10質量%以上49.95質量%以下であ」ること、「カゼインナトリウムの含有量が1.0質量%以下であり、ポークエキス及び乳清タンパク質を含有」しないこと、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」ること、「前記脂溶性物質と前記澱粉加水分解物の含有量の比率(質量比)が脂溶性物質:澱粉加水分解物=1:1?1:4の範囲であ」ること、「粉末組成物中の前記低分子界面活性剤の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であ」ること、「脂溶性物質が植物性油脂及び/又はその加工油脂であ」ること、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである澱粉加水分解物を用い」ること、「前記澱粉加水分解物、脂溶性物質、低分子界面活性剤及び水を混合して混合液を調製」すること、「前記混合液を乳化して乳化液を得た後、前記乳化液を噴霧乾燥または凍結乾燥すること」を特定した製造方法の発明が記載されている。

(4)発明の詳細な説明の記載
ア 一方、発明の詳細な説明には、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除くと、脂溶性物質については、【0014】?【0017】に、澱粉加水分解物については、【0018】?【0024】に記載があり、【0019】には、「【0019】本発明で用いる澱粉加水分解物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する、分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合(以下、単に「ピーク面積割合」と称す場合がある。)が、15%以下であることを特徴とする。このピーク面積の割合は、通常15%以下であり、中でも10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。ピーク面積割合が上限以下であることにより、低分子界面活性剤との相互作用の影響が少なく、全体の乳化安定性が良好となる。ピーク面積割合は小さいほど好ましく、その下限については特に制限はない。」と記載され、【0021】には、澱粉加水分解物の製造方法として、「【0021】ピーク面積割合が15%以下である澱粉加水分解物は、例えば、逆浸透膜やナノろ過膜、限外ろ過膜、精密ろ過膜などを用いた膜分離や、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムによる分画処理、α-アミラーゼやβ-アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の澱粉分解酵素による低分子化処理等を併用することにより、澱粉加水分解物を分別精製して分子量8500以上18500以下の成分を除去することにより製造することができる。また、ピーク面積割合が15%以下である澱粉加水分解物として、松谷化学工業社製「パインデックス#3」、「パインデックス#100」、日本食品化工社製「フジオリゴG67」、三和澱粉工業社製「サンデック#30」「サンデック#70」「サンデック#150」「サンデック#180」「サンデック#250」「サンデック#300」などが市販されており、これらを用いることができる。」との記載がある。
そして、「低分子界面活性剤」については、【0025】?【0031】に記載があり、分子構造、分子量について好ましい範囲として「【0025】・・・低分子界面活性剤とは、分子構造内に親水性部分と親油性部分をもち、両親媒性で界面活性を持つ物質であり、分子量が5000以下の物質であることが好ましい。低分子界面活性剤にはタンパク質や多糖類、合成ポリマーなどの高分子は含まれない。【0026】本発明で用いる低分子界面活性剤は、粉体、固体、液体、ペーストなど、いずれの形態でもよいが、水に溶解することが好ましい。また、低分子界面活性剤の分子量は3000以下がより好ましく、2000以下が最も好ましい。低分子界面活性剤の分子量が小さいほど、重量あたりのモル数が大きく、より乳化安定性に寄与する分子数が増えるため、好ましい。低分子界面活性剤の分子量の下限としては特に制限はないが、分子構造内に親水性部分と親油性部分を含むために通常その分子量は200以上である。」と記載され、好ましい低分子界面活性剤の種類とHLBの範囲、親水性の低分子界面活性剤と疎水性の低分子界面活性剤の併用について、「【0028】低分子界面活性剤としては、中でも、飲食品に使用可能な食品用乳化剤が好ましく、食品用乳化剤の中でも、飲食可能な安全性が確認されているもので、かつ水に溶解するものが好ましい。【0029】食品用乳化剤としては、例えば、レシチンおよびリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、サポニンが挙げられ、中でも、水への溶解性が高いことから、リゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベートが好ましく、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルがさらに好ましく、ショ糖脂肪酸エステルが最も好ましい。【0030】ショ糖脂肪酸エステルとしては、水中油型エマルションの乳化を安定化するという観点からHLBが5以上のものが好ましく、7以上がより好ましく、また18以下のものが好ましく、11以下のものがより好ましい。また、油滴界面に効率よく吸着し、界面膜を強化するという観点からショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は12以上が好ましく、14以上がより好ましく、20以下が好ましく、18以下がより好ましい。【0031】また、低分子界面活性剤として、脂溶性物質の物性、相状態を制御可能な、比較的疎水性の低分子界面活性剤を、水に溶解する親水性の低分子界面活性剤とともに、併用することが好ましい。疎水性の低分子界面活性剤としては、中でも、飲食品に使用可能な食品用乳化剤が好ましく、食品用乳化剤の中でも、飲食可能な安全性が確認されているもので、かつ脂溶性物質に分散、溶解するものが好ましい。そのような疎水性の食品用乳化剤としては、例えば、レシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられ、中でも、脂溶性物質への作用が大きいことから、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、がさらに好ましく、ショ糖脂肪酸エステルが最も好ましい。ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、脂溶性物質の物性、相状態を効果的に制御するという観点からHLBが5以下のものが好ましく、4以下がより好ましく、また0以上のものが好ましく、1以上のものがより好ましく、2?3が最も好ましい。また、脂溶性物質の相状態、すなわち結晶状態を安定化するという観点からショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は12以上が好ましく、16以上がより好ましく、18以上が最も好ましい。」との記載がある。

イ そして、具体的記載としては、保存時の経時的な層分離の度合いによる乳化安定性の評価や、保存後のエマルションの平均粒子径増加率の評価のために粉末組成物を製造した実施例1では、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)が用いられており、実施例2?4でも「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)が用いられている。
また、カゼインナトリウムの添加量の影響を確認する試験例5でも、「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)が用いられている。
さらに、実施例6では、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)が1.25質量%用いられ、実施例7?10には、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)が1.25質量%用いられることを前提に、モノグリセリン脂肪酸エステルを0.1質量%、ショ糖ラウリン酸エステル(「リョートー(登録商標)シュガーエステルL-195」三菱化学フーズ社製、HLB1)を0.1質量%、ショ糖ステアリン酸エステル(「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-370」、HLB3)を0.1質量%、ポリグリセリンベヘニン酸エステル(「リョートー(登録商標)ポリグリエステルB-100D」三菱化学フーズ社製、HLB3)を0.1質量%、それぞれ加えた例が記載されている。
また、実施例11では、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)1.25質量%、実施例12及び実施例13では、実施例11において、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-370」三菱化学フーズ社製、HLB3)0.08質量%を分散した硬化ヤシ油を用いること、実施例14では、実施例1において、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖パルミチン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルP-1570」三菱化学フーズ社製)0.03質量%を混合することが記載されている。

(5)対比・判断
ア 本件特許の出願時の技術常識であるといえる、特許異議申立人の提出した甲第1号証:戸田 義郎 外2名編、「食品用乳化剤-基礎と応用-」、株式会社光琳、平成9年4月1日、26?33、51?57頁には、モノグリセド誘導体(有機酸モノグリセリド)に関して、28頁?31頁に、有機酸モノグリセリドは、各化合物によって、化学的性質、溶解性、界面化学的性質が異なることが記載され、31頁?33頁に、有機酸モノグリセリドの食品への作用、効果が各化合物によって異なることが記載されている。
また、51頁?57頁に、ショ糖エステルが親水性から疎水性まで巾広い界面活性剤であること、ショ糖エステルの溶解性は、HLBによって水への溶解性が異なり、いずれも油脂には溶解し難いことが記載されている。
イ また、本件特許の出願時の技術常識であるといえる、異議申立人の提出した甲第2号証:日高 徹、「食品用乳化剤 第2版」、株式会社幸書房、1991年3月1日、36?47頁には、モノグリセリド誘導体に関して、37頁?43頁に、モノグリセリド有機酸エステルには、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリドがあり、それぞれ化合物自体の色や状態、水やアルコール、油脂に対する溶解性、分散性に相違のあることが記載されており、44頁?46頁に、ポリグリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンの重合度、脂肪酸の種類、エステル化の度合により、非常に多くの種類があり、溶解度も異なる旨記載されている。
ウ さらに、本件特許の出願時の技術常識であるといえる、異議申立人の提出した甲第3号証:山下 聖一 編「食品乳化剤と乳化技術」、渡辺 隆夫、“基礎編 第1章 食品用乳化剤の基礎”、工業技術会株式会社・有限会社研修社、1995年7月20日、1?14頁には、乳化剤(界面活性剤)に関して、8?9頁に、乳化剤の種類として、ショ糖脂肪酸エステルであっても脂肪酸の種類、エステル化度、の違いによりその性質が大きく異なること、ポリグリセリン脂肪酸エステルもグリセリンの重合度、脂肪酸の種類、エステル化度の違いで性質が異なること、モノグリセリドも脂肪酸の違い等により種類が多いことが記載され、HLBの値が乳化剤の親水性と親油性のバランスを示す数値の目安といえるものの、乳化剤の種類、特に親水基の構造や、脂肪酸組成が異なると、その作用・効果が大変異なる場合が多く、一つの尺度で作用・効果を推定することは困難であることが記載されている。
エ そして、本件特許の出願時の技術常識であるといえる、異議申立人の提出した甲第4号証:日高 徹 外2名編、「食品用乳化剤と乳化技術」、衛生技術会、渡辺 隆夫、“第4章 ショ糖脂肪酸エステル”、昭和54年12月30日、112?137頁には、ショ糖脂肪酸エステルに関して、125?126頁に、ショ糖エステルのHLB値は、性質の目安にはなるが絶対的なものではなく、脂肪酸の種類によっても同じ性質ではないこと、油脂含量の多さや乳化の型によっても乳化の作用が異なり適切な乳化剤が異なることが記載されている。

オ 確かに、上記ア?エに記載されるように、モノグリセリド有機酸エステルやショ糖脂肪酸エステルは、化合物によって、その乳化の作用が異なること、モノグリセリド有機酸エステルが有機酸の種類により化合物自体の色や状態、水やアルコール、油脂に対する溶解性、分散性に相違のあること、ショ糖脂肪酸エステルが脂肪酸の種類、エステル化度の違いで、ポリグリセリン脂肪酸エステルがグリセリンの重合度、脂肪酸の種類、エステル化度の違いで性質が異なること、HLBの値が乳化剤の親水性と親油性のバランスを示す数値の目安といえるものの、乳化剤の種類、特に親水基の構造や、脂肪酸組成が異なると、その作用・効果が大変異なる場合が多く、一つの尺度で作用・効果を推定することは困難であることは窺える。

カ しかしながら、本件特許発明は、カゼインナトリウムを一定以下とし、ポークエキス及び乳清タンパク質を含有しないことを前提にした脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物において、前記脂溶性物質の含有量、前記脂溶性物質と前記澱粉加水分解物の含有量の比率(質量比)、粉末組成物中の前記低分子界面活性剤の含有量、前記脂溶性物質、前記低分子界面活性剤の種類を限定した上で、「前記澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下である」ということを技術思想とする発明であり、上記のとおり、低分子界面活性剤の種類によって、水や油脂に対する溶解性、分散性、乳化の作用が異なるとしても、本件明細書【0019】に、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であることにより、低分子界面活性剤との相互作用の影響が少なく、全体の乳化安定性が良好になるという技術的意義の記載があること、【0025】?【0031】の低分子界面活性剤についての分子構造、分子量について好ましい範囲、好ましい低分子界面活性剤の種類とHLBの範囲、親水性の低分子界面活性剤と疎水性の低分子界面活性剤の併用、ショ糖脂肪酸エステルの場合の好ましいHLBの範囲の記載があることから、当業者であれば、低分子界面活性剤に依存して程度は異なっても、一定程度、汎用的な粉末化基材を用いて、噴霧乾燥法に適し、長期間の乳化安定性に優れた飲料を提供可能な、粉末油脂組成物を提供し、本件特許発明1の課題を解決できると認識できるといえる。

キ また、本件明細書には、実施例において、ショ糖ステアリン酸エステルのHLBが、5、7、11のものを用いた例や、併用の例とはいえ、HLBが1のショ糖ラウリン酸エステル、HLB3のショ糖ステアリン酸エステル、ポリグリセリンベヘニン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルP-1570」(商標名からHLBが15と推定される)があり、いずれも優れた乳化安定性を得ているのであるから、化合物によって、HLBの値が絶対的なものではないにしても、さまざまな水への溶解性をもった低分子界面活性剤を併用手段も含めて検討すれば当業者であれば本件特許発明1の課題を解決できると認識できるともいえる。

ク さらに、甲第4号証125頁左欄では、HLB値に関して、本件特許発明1の低分子界面活性剤に挙げられる、グリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステル等が同一のHLB値であれば同一の性質を示すわけではないことを述べているにすぎず、一つの尺度や目安として使用できることも同時に記載され、そのことを前提としているといえる。
また、甲第4号証125頁右欄では、乳化作用に関して、ショ糖エステルの乳化力は他の界面活性剤に比較して特に優れているとはいえないことが指摘されているのであるから、ショ糖脂肪酸エステルを中心とした具体例によって優れた乳化安定性が得られたことを示すことによって、技術常識として知られた他の低分子界面活性剤においても、一定程度、汎用的な粉末化基材を用いて、噴霧乾燥法に適し、長期間の乳化安定性に優れた飲料を提供可能な、粉末油脂組成物を提供でき、当業者であれば本件特許発明1の課題を解決できると認識できるともいえる。

ケ 本件特許発明2?9に関して、上記(3)に記載したとおり、本件特許発明1の特定事項に対して、さらに、本件特許発明2?4では、「低分子界面活性剤の含有量が1.0質量%以上である」こと、「澱粉加水分解物の重量平均分子量が9000以下である」こと、「澱粉加水分解物の重量平均分子量が50000以上である」ことが、それぞれ、特定された粉末組成物の発明が記載され、本件特許発明5?8では、「請求項1?4の粉末組成物を含有する」飲料が、「さらに、乳成分を含有する」ことが、「さらに静菌性乳化剤を含有する」ことが、「コーヒーまたは紅茶飲料である」ことが、それぞれ、特定された飲料の発明が記載され、本件特許発明9では、本件特許発明1を粉末組成物の製造方法として記載し、さらに「前記澱粉加水分解物、脂溶性物質、低分子界面活性剤及び水を混合して混合液を調製」すること、「前記混合液を乳化して乳化液を得た後、前記乳化液を噴霧乾燥または凍結乾燥すること」を特定している。
上記特定事項は、【0036】【0024】【0046】?【0055】【0041】?【0045】に関連する記載があるから、当業者であれば本件特許発明1で検討したのと同様に、本件特許発明の課題が解決できていると認識できる。

(6)取消理由に関する判断のまとめ
したがって、請求項1?9に係る特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえ、取消理由は解消している。

取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての検討
1 サポート要件について
(1)特許異議申立人は、異議申立書19?20頁において、前記異議理由1-2に記載したように、本件特許発明1?9は、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」る場合と、澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%超の場合(甲第5号証?甲第7号証から澱粉加水分解物Bのパインデックス#100が、平均分子量8500であり、15%超の場合に該当すると主張)が同等の効果を奏されていることが記載されているので、上記澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下である構成は効果を奏するのに必要な構成ではなく、重量平均分子量が多様なものが包含される上記特定が「15%以下」の場合であれば実施例と同等の効果が得られると理解できず、本件特許発明1?9は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。

しかしながら、甲第5号証からパインデックス#100の平均分子量が8500であるとしても、甲第6号証、甲第7号証は、公知資料であるとは認められないし、同一商標のものが同じ分子量分布を持っているとは限らないため、特許異議申立人の主張は、前提において失当である。
そして、少なくとも本件明細書において使用したパインデックス#100は、ピーク面積割合が13.3%であったことが【表1】に明記されているのであるから当業者はそのように理解するといえるし、そのような分布に調整したとも理解できる。
また、平均分子量が8500である場合に、澱粉加水分解物の分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であるとは考えにくいという主張は推測にすぎず、その範囲外に2つのピークを有するなどピーク面積の割合が15%以下になることは十分に可能性があることである。
さらに、本件明細書において、ピーク面積割合が15%以下である澱粉加水分解物A、B、満たさない澱粉加水分解物Cを用いた実施例の結果から乳化安定性の結果に差があることが示されているのであるから、ピーク面積割合が15%以下であれば当業者が本件特許発明の課題が解決できると認識でき、サポート要件を欠如しているということはできない。

(2)したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。

2 実施可能要件について
(1)特許異議申立人は、異議申立書15?18頁において、前記異議理由2-1に記載したように、本件特許発明に関して、「低分子界面活性剤」は、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである」のに対して、甲第1号証?甲第4号証からみて、低分子界面活性剤の種類によって水への溶解性や乳化安定性に差があり、HLB値も目安にすぎないし、高HLBのものと低HLBのものとでは乳化安定性が異なるところ、発明の詳細な説明においては、ショ糖脂肪酸エステルの実験データしか開示されておらず、本願の発明の詳細な説明の記載は、ショ糖脂肪酸エステル以外の低分子界面活性剤を使用した態様まで本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張している。

前記取消理由に関する判断において述べたように甲第1?4号証に記載されるように、低分子界面活性剤の種類によってその乳化の作用が異なり、HLBの値が乳化剤の親水性と親油性のバランスを示す数値の目安といえるものの、一つの尺度で作用・効果を推定することは困難であることは窺えるものの、本件特許発明の技術思想、低分子界面活性剤の種類によって、水や油脂に対する溶解性、分散性、乳化の作用が異なるとしても、本件明細書【0019】に、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であることにより、低分子界面活性剤との相互作用の影響が少なく、全体の乳化安定性が良好になるという技術的意義の記載があること、【0025】?【0031】の低分子界面活性剤についての分子構造、分子量について好ましい範囲、好ましい低分子界面活性剤の種類とHLBの範囲、親水性の低分子界面活性剤と疎水性の低分子界面活性剤の併用、ショ糖脂肪酸エステルの場合の好ましいHLBの範囲の記載があることから本件特許発明を過度な試行錯誤なく当業者が実施できるといえる。
そして、本件明細書には、実施例において、ショ糖ステアリン酸エステルのHLBが、5、7、11のものを用いた例や、併用の例とはいえ、HLBが1のショ糖ラウリン酸エステル、HLB3のショ糖ステアリン酸エステル、ポリグリセリンベヘニン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルP-1570」(商標名からHLBが15と推定される)があり、いずれも優れた乳化安定性を得ているのであるから、化合物によって、HLBの値が絶対的なものではないにしても、さまざまな水への溶解性をもった低分子界面活性剤を併用手段も含めて検討すれば、本件特許発明を過度な試行錯誤なく当業者が実施できるといえる。
さらに、甲第4号証125頁左欄では、HLB値に関して、本件特許発明1の低分子界面活性剤に挙げられる、グリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステル等が同一のHLB値であれば同一の性質を示すわけではないことを述べているにすぎず、一つの尺度や目安として使用できることも同時に記載され、そのことを前提としているといえる。
また、甲第4号証125頁右欄では、乳化作用に関して、ショ糖エステルの乳化力は他の界面活性剤に比較して特に優れているとはいえないことが指摘されているのであるから、ショ糖脂肪酸エステルを中心とした具体例によって優れた乳化安定性が得られたことを示すことによって、技術常識として知られた他の低分子界面活性剤においても、本件特許発明の乳化安定性に優れた粉末油脂組成物を製造し、使用できるともいえる。

(2)特許異議申立人は、異議申立書19?20頁において、前記異議理由2-2に記載したように、本件特許発明1?9は、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」る場合と、澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%超の場合(甲第5号証?甲第7号証から澱粉加水分解物Bのパインデックス#100が、平均分子量8500であり、15%超の場合に該当すると主張)が同等の効果を奏されていることが記載されているので、上記澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下である構成は効果を奏するのに必要な構成ではなく、重量平均分子量が多様なものが包含される上記特定が「15%以下」の場合であれば実施例と同等の効果が得られると理解できず、本願の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張している。

しかしながら、上記1で検討のとおり、上記甲第5号証からパインデックス#100の平均分子量が8500であるとしても、甲第6号証、甲第7号証は、公知資料であるとは認められないし、同一商標のものが同じ分子量分布を持っているとは限らず、本件明細書において使用したパインデックス#100は、ピーク面積割合が13.3%であったことが【表1】に明記されているのであるから当業者はそのように理解するといえる。また、そのような分布に調整したとも理解できる。
また、平均分子量が8500である場合に、澱粉加水分解物の分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であるとは考えにくいという主張は推測にすぎず、その範囲外に2つのピークを有するなどピーク面積の割合が15%以下になることは十分に可能性があることである。
さらに、本件明細書において、ピーク面積割合が15%以下である澱粉加水分解物A、B、満たさない澱粉加水分解物Cを用いた実施例の結果から乳化安定性の結果に差があることが示されているのであるから、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載しているといえ、本願の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を欠如しているということはできない。

(3)したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たすものである。

特許異議申立人の意見書における主張について
特許異議申立人は、サポート要件に関して、意見書4?5頁において、本件特許発明における課題が解決されるか否かは、低分子界面活性剤と澱粉分解物との相互作用の大きさに依存し、低分子界面活性剤の種類に影響を受けるので、本件明細書の実施例のHLB5,7,11のショ糖脂肪酸エステルを単独又は主成分と同程度に水への溶解性が高い低分子界面活性剤を使用する必要がある旨主張している。
しかしながら、低分子界面活性剤の種類によって低分子界面活性剤と澱粉分解物との相互作用に一定の差異があるとしても、サポート要件の判断においては、本件特許発明が一定程度課題を解決すれば良いのであって、特許請求の範囲で例示された低分子界面活性剤同士が同程度の水への溶解性や同程度の乳化安定性を有していなければならないわけではない。
上述のとおり、本件明細書には、発明特定事項の技術的意義の記載、低分子界面活性剤についての分子構造、分子量についての好ましい範囲、好ましい低分子界面活性剤の種類とHLBの範囲、親水性の低分子界面活性剤と疎水性の低分子界面活性剤の併用、ショ糖脂肪酸エステルの場合の好ましいHLBの範囲の記載があり、実施例においては、ショ糖ステアリン酸エステルのHLBが、5,7,11のものを用いた例や、併用の例とはいえ、HLBが1のショ糖ラウリン酸エステル、HLB3のショ糖ステアリン酸エステル、ポリグリセリンベヘニン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル(商標名からHLBが15と推定される)があり、いずれの実施例でも優れた乳化安定性を得ていることが示されている。
したがって、本件特許明細書の記載や前述の甲第4号証の技術常識を考慮すれば、課題を解決できると認識できるといえ、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

第6 むすび
したがって、請求項1?9に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
粉末組成物、該粉末組成物の製造方法及び飲料
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に飲料に好適に用いられる、脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物と、この粉末組成物の製造方法に関する。本発明はまた、この粉末組成物を含有する飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品分野において広い用途で用いられる脂溶性物質を含有する水分散性の粉末として、従来、乳化効果や膜形成のために用いられてきた乳タンパク質(脱脂乳、カゼインおよびその塩など)を用いることなく、同等以上の安定性や分散性を有する、無タンパク粉末油脂組成物の製造技術が知られている。
【0003】
例えば、食用油脂と、オクテニルコハク酸エステル化澱粉と、トレハロースとを主成分として含有することを特徴とする無タンパク粉末油脂組成物(特許文献1);融点20度以上の食用油脂、オクテニルコハク酸エステル化でんぷん、ラクトースおよびデキストリンを主成分として含有することを特徴とする無タンパク粉末油脂組成物(特許文献2);グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよびレシチンからなる群から選ばれる1種または2種以上の常温でペースト状もしくは液状の乳化剤20?80質量%、ならびに澱粉もしくはその加水分解物と有機酸グリセリン脂肪酸エステル(質量比100:0.1?50)、および/または乳化性澱粉誘導体もしくはその加水分解物からなる粉末化剤80?20質量%を含むことを特徴とする粉末乳化剤(特許文献3);食用油脂100質量部に対して、ヘミセルロース6.6?10質量部および高度分岐環状デキストリン34?60質量部を含有する粉末油脂組成物(特許文献4);A成分としてα-化デンプン系粉末に、B成分として油性成分を吸着させてなる油性粉末であって、前記のα-化デンプン系粉末は、粒度が10?80メッシュ、嵩比重が0.01?0.8g/cm^(3)、吸油量が1.5?1.7ml/gであり、油性成分の保持能力が2級?5級であることを特徴とする油性粉末(特許文献5);油性成分とアラビアガムおよび糖類を含み、油性成分とアラビアガムとの質量比が2:1?1:5で、かつアラビアガムと糖類との質量比が5:1?1:100であることを特徴とする粉末油脂組成物(特許文献6);水系において自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質又は糖ポリマーの粒子を形成する糖ポリマーと、油脂成分と、賦形剤とを含んで構成され、水と混和された際、前記閉鎖小胞体又は前記糖ポリマーの粒子の作用でO/W型乳化物を形成するものである粉末油脂組成物(特許文献7);がある。
【0004】
これらの文献では、用いる粉末化基材や粉末製造方法が特徴とされている。しかしながら、特徴的な粉末化基材は、溶解時の粘性や特有の臭気により、用いた食品の味質に影響を与えたり、特殊かつ高価なものであり、汎用性の面やコスト削減の面では実用化が難しい。また、粉末製造方法が特徴的な場合は、大量生産に適した既設の噴霧乾燥設備が使用できず、新たな製造設備や製造上の工夫が必要となるなど、製造コストが高くなるという問題点があった。
【0005】
一方、中鎖飽和脂肪酸トリグリセリドおよび/またはこれらの中鎖飽和脂肪酸トリグリセリドを主成分とした食用油脂と、澱粉加水分解物及び有機酸モノグリセリドを主成分としてなる粉末油脂組成物において、澱粉加水分解物のデキストロース当量が2?30であることを特徴とする粉末油脂組成物(特許文献8);脂溶性素材を油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性素材分散油と、糖質を水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して油脂-糖質被覆分散液を作製し、任意に乾燥することにより油脂一糖質被覆分散液又は油脂-糖質粉末素材とすることを特徴とする油脂一糖質素材の製造方法において、糖質として、グルコース当量(DE)5?15の澱粉加水分解物を用いる製造方法(特許文献9);などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開平11-318332号公報
【特許文献2】日本国特開2003-73691号公報
【特許文献3】日本国特開平6-245719号公報
【特許文献4】日本国特開2006-14629号公報
【特許文献5】日本国特開2000-109882号公報
【特許文献6】日本国特開2000-119686号公報
【特許文献7】国際公開第2012/081546号
【特許文献8】日本国特開平6-33087号公報
【特許文献9】日本国特開2008-188010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、デキストロース当量(=グルコース当量)とは、汎用的に使用される粉末化基材である澱粉加水分解物を分類するために、還元末端数によって求められる澱粉の分解度を示す指標である。しかしながら複雑な分子量分布を持つ澱粉加水分解物は、同じデキストロース当量であっても、含まれる分解物の分子量組成は異なることがあり、油脂および有機酸モノグリセリドのような低分子界面活性剤との相互作用を本質的に理解する上では、適切なパラメーターとはいえない。したがって汎用的な粉末化基材、噴霧乾燥という製造手法で、無タンパク粉末油脂組成物を作成するには、さらなる検討が必要であった。
【0008】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、汎用的な粉末化基材を用いて、特に噴霧乾燥法に適し、かつ、長期間の乳化安定性に優れた飲料を提供可能な、粉末油脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の澱粉加水分解物を使用することにより、上記課題を解決できることが分かり、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は下記に存する。
〔1〕
脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物であって、
前記澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であることを特徴とする粉末組成物。
〔2〕
前記脂溶性物質が食用油脂である、上記〔1〕に記載の粉末組成物。
〔3〕
前記低分子界面活性剤が食品用乳化剤である、上記〔1〕または〔2〕に記載の粉末組成物。
〔4〕
前記澱粉加水分解物の重量平均分子量が9000以下である、上記〔1〕?〔3〕のいずれか一に記載の粉末組成物。
〔5〕
前記澱粉加水分解物の重量平均分子量が50000以上である、上記〔1〕?〔3〕のいずれか一に記載の粉末組成物。
〔6〕
実質的にカゼインナトリウムを含有しない、上記〔1〕?〔5〕のいずれか一に記載の粉末組成物。
〔7〕
上記〔1〕?〔6〕のいずれか一に記載の粉末組成物を含有する、飲料。
〔8〕
さらに、乳成分を含有する、上記〔7〕に記載の飲料。
〔9〕
さらに、静菌性乳化剤を含有する上記〔7〕または〔8〕に記載の飲料。
〔10〕
コーヒーまたは紅茶飲料である、上記〔7〕?〔9〕のいずれか一に記載の飲料。
〔11〕
脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物の製造方法であって、
前記澱粉加水分解物として、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する、分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下である澱粉加水分解物を用い、
前記澱粉加水分解物、脂溶性物質、低分子界面活性剤及び水を混合して混合液を調製し、
前記混合液を乳化して乳化液を得た後、
前記乳化液を噴霧乾燥または凍結乾燥することを特徴とする、粉末組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、汎用的な粉末化基材を用いて、長期間の乳化安定性に優れた飲料を提供可能な、粉末組成物を提供することができる。また、本発明の粉末組成物は、噴霧乾燥法による製造に適しており、大量生産に適した既設の噴霧乾燥設備を用いて、新たな製造設備や製造上の工夫を必要とすることなく、良好な無タンパク粉末油脂組成物として使用可能な粉末組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
ここで、本明細書において“質量%”と“重量%”、“質量ppm”と“重量ppm”、及び“質量部”と“重量部”とは、それぞれ同義である。また、単に“ppm”と記載した場合は、“重量ppm”のことを示す。
【0013】
本発明の粉末組成物は、脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物であって、該澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する、分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が、15%以下であることを特徴とする。
【0014】
[脂溶性物質]
脂溶性物質としては、疎水性かつ親油性であり、水に不溶又は難溶で、有機溶媒に可溶又は分散しやすい物質であれば、特に制限はない。本発明の粉末組成物は、特に飲料に好適に用いられることから、脂溶性物質としては食用可能なものが好ましい。
【0015】
本発明において使用できる脂溶性物質は液状に限定されず、半固体状、固体状であってもよく、これらは溶融することにより使用可能である。
【0016】
本発明で用いることができる脂溶性物質としては、例えば、
ナタネ油、コーン油、大豆油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ヒマワリ油、サフラワー油、マカデミア種子油、ツバキ種子油、茶実油、米糠油、オリーブ油、綿実油等の植物性油脂;
牛脂、乳脂、豚脂、羊脂、魚油等の動物性油脂;
これら植物性油脂又は動物性油脂の液状又は固体状物を精製や脱臭、分別、硬化、エステル交換といった油脂加工した加工油脂(上記植物性油脂、動物性油脂及びその加工油脂等を「食用油脂」という。);
スクワレン、スクワラン、流動パラフィン等の炭化水素;
コレステロール、植物ステロール等のステロール類;
ホホバ油等の高級アルコール;
ビタミンE、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK、ベータカロチン、アルファカロチン等の油溶性ビタミン;
油溶性色素;
油溶性香料;
糖脂質、リン脂質等の複合脂質;
αおよびγリノレン酸、リノール酸、アラキドン酸、DHA、EPA等の多価不飽和脂肪酸などの不飽和脂肪酸;
ワックス類
等が挙げられる。
これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらのうち、食用可能な脂溶性物質として、食用油脂、ステロール類、油溶性色素、油溶性香料、油溶性ビタミン、不飽和脂肪酸が好ましい。
【0017】
食用油脂としては、特に上昇融点が25?45℃であることが、濃厚な油脂の風味を感じることができるため好ましい。
また、食用油脂の中でもパーム核油、ヤシ油が好ましく、特に硬化したパーム核油、硬化したヤシ油が好ましい。
パーム核油、ヤシ油としては、構成脂肪酸のうち、炭素数が12以下の脂肪酸の割合が50質量%以上であることが好ましく、酸化安定性の面から、不飽和脂肪酸の割合が15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが最も好ましい。
【0018】
[澱粉加水分解物]
澱粉加水分解物とは、澱粉中のアミロースやアミロペクチン等の多糖類を、熱、酸、アルカリ、酵素等で加水分解したものの総称であり、デキストリンとも呼ばれ、グルコースがα-1,4または1,6結合で連なった多糖類が主成分である。
澱粉加水分解物としては、可溶性澱粉、薄手のり澱粉、アミロデキストリン、白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリテシュガム、エリトロデキストリン、アクロデキストリン、マルトデキストリン等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
澱粉加水分解物の原料となる澱粉は、澱粉を含有する植物から採取される。この際、植物の品種としては、農産物として大量生産される品種が経済的に有利である。また、植物の品種により、澱粉中に含まれるアミロースとアミロペクチンの比率が異なる。アミロースはグルコースがα-1,4結合で直鎖状につながった構造を主としており、アミロペクチンはグルコースがα-1,6結合で分岐しながらつながった構造を主としている。一般的には、アミロースは低分子界面活性剤との相互作用が強いため、デキストリンのDE値が8より大のように加水分解度が高い場合には、澱粉の由来植物の品種に特に制限はないが、DEが8以下のように加水分解度が低い場合は、よりアミロペクチンの比率が高い澱粉を持つ由来植物が好ましく、そのような植物として、ワキシー種、すなわちワキシーコーンやもち米など、または、タピオカ、甘薯が好ましく、それらを1種類用いてもよいし、2種類以上を混合し、原料澱粉として用いてもよい。
【0019】
本発明で用いる澱粉加水分解物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する、分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合(以下、単に「ピーク面積割合」と称す場合がある。)が、15%以下であることを特徴とする。
このピーク面積の割合は、通常15%以下であり、中でも10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。ピーク面積割合が上限以下であることにより、低分子界面活性剤との相互作用の影響が少なく、全体の乳化安定性が良好となる。ピーク面積割合は小さいほど好ましく、その下限については特に制限はない。
【0020】
ここで、ゲル浸透クロマトグラフィーによる分子量分布の測定は、GPC装置を用いて通常、以下の条件で実施される。
カラム:TSKgelG2500PWXL、GMPWXL(東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
移動相:0.2M 硝酸ナトリウム水溶液
流速:1.0ml/min
検出器:示差屈折率計
サンプル注入量:200μl
検量線:プルラン標準品(分子量2,350,000?5,900の間の9種類)、及びグルコース(分子量180)
また、ピーク面積割合は、上記の方法で求めた分子量分布の測定結果を、微分分子量分布曲線に変換した後、分子量8500以上18500以下に相当するピーク面積を合計し、総ピーク面積に対する割合として算出することができる。
【0021】
ピーク面積割合が15%以下である澱粉加水分解物は、例えば、逆浸透膜やナノろ過膜、限外ろ過膜、精密ろ過膜などを用いた膜分離や、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムによる分画処理、α-アミラーゼやβ-アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の澱粉分解酵素による低分子化処理等を併用することにより、澱粉加水分解物を分別精製して分子量8500以上18500以下の成分を除去することにより製造することができる。
また、ピーク面積割合が15%以下である澱粉加水分解物として、松谷化学工業社製「パインデックス#3」、「パインデックス#100」、日本食品化工社製「フジオリゴG67」、三和澱粉工業社製「サンデック#30」「サンデック#70」「サンデック#150」「サンデック#180」「サンデック#250」「サンデック#300」などが市販されており、これらを用いることができる。
【0022】
本発明で用いる澱粉加水分解物は、上記のピーク面積割合が15%以下のものであればよく、粉末状態でも、液体状態でもよい。また、澱粉加水分解物の他の物性としては特に制限はないが、好適物性として以下のようなものが挙げられる。
【0023】
デキストロース当量は、レーンエイノン法、またはソモギー法で測定される澱粉の加水分解度を示す指標である。本発明で用いる澱粉加水分解物のデキストロース当量は、8以下、好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下、或いは、15以上、好ましくは18以上、さらに好ましくは20以上であることが、乳化安定性の面で好適である。
【0024】
また、重量平均分子量(Mw)は、上記のGPC測定の結果から、Mw=ΣHi×Mi/Σ(Hi)(Hi:ピーク高さ、Mi:分子量)により求められる。本発明で用いる澱粉加水分解物の重量平均分子量は、9000以下であるか、12000以上であることが好ましい。特に、7000以下であることが好ましく、6000以下であることがより好ましく、5000以下であることがさらに好ましい。また、15000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましく、50000以上であることがさらに好ましく、60000以上であることが特に好ましく、70000以上であることが最好ましい。中でも、1000?5000、或いは70000?300000であることが好ましい。澱粉加水分解物の重量平均分子量がこの範囲であることが、上記のピーク面積割合が15%以下のものを得るために好適である。
【0025】
[低分子界面活性剤]
低分子界面活性剤とは、分子構造内に親水性部分と親油性部分をもち、両親媒性で界面活性を持つ物質であり、分子量が5000以下の物質であることが好ましい。低分子界面活性剤にはタンパク質や多糖類、合成ポリマーなどの高分子は含まれない。
【0026】
本発明で用いる低分子界面活性剤は、粉体、固体、液体、ペーストなど、いずれの形態でもよいが、水に溶解することが好ましい。また、低分子界面活性剤の分子量は3000以下がより好ましく、2000以下が最も好ましい。低分子界面活性剤の分子量が小さいほど、重量あたりのモル数が大きく、より乳化安定性に寄与する分子数が増えるため、好ましい。低分子界面活性剤の分子量の下限としては特に制限はないが、分子構造内に親水性部分と親油性部分を含むために通常その分子量は200以上である。
【0027】
低分子界面活性剤としては、例えば、親水性部分がイオン性(カチオン性・アニオン性・両イオン性)であるレシチンおよびリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、脂肪酸塩、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン;親水性部分が非イオン性(ノニオン性)であるショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ジグリセリン脂肪酸エステル、トリグリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステルなど)、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、サポニン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
低分子界面活性剤としては、中でも、飲食品に使用可能な食品用乳化剤が好ましく、食品用乳化剤の中でも、飲食可能な安全性が確認されているもので、かつ水に溶解するものが好ましい。
【0029】
食品用乳化剤としては、例えば、レシチンおよびリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、サポニンが挙げられ、中でも、水への溶解性が高いことから、リゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベートが好ましく、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルがさらに好ましく、ショ糖脂肪酸エステルが最も好ましい。
【0030】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、水中油型エマルションの乳化を安定化するという観点からHLBが5以上のものが好ましく、7以上がより好ましく、また18以下のものが好ましく、11以下のものがより好ましい。また、油滴界面に効率よく吸着し、界面膜を強化するという観点からショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は12以上が好ましく、14以上がより好ましく、20以下が好ましく、18以下がより好ましい。
【0031】
また、低分子界面活性剤として、脂溶性物質の物性、相状態を制御可能な、比較的疎水性の低分子界面活性剤を、水に溶解する親水性の低分子界面活性剤とともに、併用することが好ましい。
疎水性の低分子界面活性剤としては、中でも、飲食品に使用可能な食品用乳化剤が好ましく、食品用乳化剤の中でも、飲食可能な安全性が確認されているもので、かつ脂溶性物質に分散、溶解するものが好ましい。
そのような疎水性の食品用乳化剤としては、例えば、レシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられ、中でも、脂溶性物質への作用が大きいことから、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、がさらに好ましく、ショ糖脂肪酸エステルが最も好ましい。
ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、脂溶性物質の物性、相状態を効果的に制御するという観点からHLBが5以下のものが好ましく、4以下がより好ましく、また0以上のものが好ましく、1以上のものがより好ましく、2?3が最も好ましい。また、脂溶性物質の相状態、すなわち結晶状態を安定化するという観点からショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は12以上が好ましく、16以上がより好ましく、18以上が最も好ましい。
【0032】
[その他の成分]
本発明の粉末組成物は、上記の脂溶性物質、澱粉加水分解物、及び低分子界面活性剤を必須成分として含有するものであるが、本発明の効果を妨げない範囲で、脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤以外の成分、例えば、タンパク質、糖質、香気成分、固結防止剤などが含まれていてもよい。従って、後述の本発明の粉末組成物を製造するための混合液には、これらの他の成分が含まれていてもよい。
【0033】
本発明の粉末組成物が含有し得る他の成分としては、例えば、カゼイン、カゼインナトリウム、乳清タンパク質、脱脂粉乳、牛乳などの乳製品由来のタンパク質やゼラチンなどの動物性タンパク質、分離大豆タンパク質、コーンあるいは小麦より抽出したタンパク質などの植物性タンパク質;澱粉および加工澱粉、大豆多糖類、アラビアガム等、微生物や植物、合成などによって得られる食物繊維やガム質、オリゴ糖といった多糖類、砂糖や乳糖といった二糖類、ブドウ糖や果糖といった単糖類、あるいはこれらの混合物などの糖質;リンゴ、バナナ、ブドウ、ミカンなどを搾汁して得られる果汁;香料;ビタミンB群などに代表されるビタミン、鉄やマグネシウム、カルシウムといったミネラル;クエン酸やリンゴ酸、乳酸などの有機酸、外観を改良するための着色料;風味を改良するためのフレーバー類;炭酸マグネシウム、微粒二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、クエン酸鉄アンモニウム、フェロシアン化物、無水リン酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウムなどの固結防止剤などを挙げることができるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0034】
本発明の粉末組成物は、実質的にカゼインナトリウムを含有しないことが、飲料としたときの乳化安定性において好ましい。ここでいうカゼインナトリウムとは、牛等の哺乳動物の乳より酸や発酵、酵素処理等で沈殿等を行うことで分離したカゼインに対し、ナトリウム塩であるアルカリ等を添加し、カゼインナトリウムとしたものをいい、特に精製、乾燥され、さらに包装、流通されたものを示す。
カゼインナトリウムを含有しないとは、粉末組成物中において、カゼインナトリウムの含有量が、低分子界面活性剤を1としたとき、質量比で、0.1以下であること、好ましくは0.05以下であること、さらに好ましくは0.01以下であること、最も好ましくは0.005以下であることを意味する。または、粉末組成物中において、カゼインナトリウムの含有量が、1.0質量%以下であること、好ましくは0.5質量%以下であること、さらに好ましくは0.3質量%以下であること、特に好ましくは0.1質量%以下であることを意味し、最も好ましくは全く含有しないことを意味する。
【0035】
なお、本発明の粉末組成物は、水を含む場合もあるが、本発明の粉末組成物は、粉末であることから、水を含有する場合であっても粉末としての形態を維持するために、水の含有量は好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、最も好ましくは3.0質量%以下である。
【0036】
[成分組成]
本発明の粉末組成物の各成分の好ましい含有量は、以下の通りである。
組成物中の脂溶性物質の含有量:10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
組成物中の澱粉加水分解物の含有量:30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
組成物中の低分子界面活性剤の含有量:0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましく、10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が特に好ましい。
また、組成物中の脂溶性物質と澱粉加水分解物の含有割合は、脂溶性物質:澱粉加水分解物(質量比)=1:0.43?1:9の範囲であることが好ましく、1:1?1:4であることがより好ましく、低分子界面活性剤と澱粉加水分解物の含有割合は、低分子界面活性剤:澱粉加水分解物(質量比)=1:3?1:900の範囲であることが好ましく、1:10?1:160であることがより好ましい。
【0037】
組成物中の脂溶性物質の含有量が、上記下限以上の範囲であることにより、粉末組成物のコストあたりの脂溶性物質量が適切で経済的であり、上記上限以下の範囲であることにより、乳化安定化が良好で、粉末化の際や粉末組成物を溶解した際に乳化が壊れにくく、また、相対的に他の成分の含有量が適切となり、他の成分による機能を十分に得ることができる。
【0038】
組成物中の澱粉加水分解物の含有量が、上記下限以上の範囲であることにより粉末化が良好となり、得られた粉末組成物は付着性が低く、流動性がよい、取扱いの良好な粉末となり、上記上限以下の範囲であることにより、粉末組成物のコストあたりの脂溶性物質量が適切で経済的であり、また、相対的に他の成分の含有量が適切となり、他の成分による機能を十分に得ることができる。
【0039】
組成物中の低分子界面活性剤の含有量が、上記下限以上の範囲であることにより、乳化安定化が良好となり、粉末化の際や、粉末組成物を溶解した際に乳化が壊れにくく、上記上限以下の範囲であることにより、低分子界面活性剤自体の味が強くなることがなく、食品に用いた場合には風味を損ねにくい。また低分子界面活性剤は高価であるため、上記上限以下の範囲であることにより、粉末組成物自体の価格が適切となり経済的であり、また、相対的に他の成分の含有量が適切となり、他の成分による機能を十分に得ることができる。
【0040】
また、脂溶性物質に対する澱粉加水分解物の含有割合が、上記下限以上の範囲であることにより粉末化が良好となり、得られた粉末組成物は付着性が低く、流動性がよい、取扱いの良好な粉末となり、上記上限以下の範囲であることにより、粉末組成物のコストあたりの脂溶性物質量が適切で経済的である。
低分子界面活性剤に対する澱粉加水分解物の含有割合が、上記下限以上の範囲であることにより、低分子界面活性剤自体の味が適切であり、食品に用いた場合には風味を損ねにくい。また、低分子界面活性剤は高価であるため、上記上限以下の範囲であることにより、粉末組成物自体の価格が適切となり経済的であり、乳化安定化も良好であり、粉末化の際や、粉末組成物を溶解した際に乳化が壊れにくい。
【0041】
[粉末組成物の製造方法]
本発明の粉末組成物を製造する方法は特に制限はないが、好ましくは本発明の粉末組成物の製造方法に従って、ピーク面積割合が15%以下の澱粉加水分解物、脂溶性物質、低分子界面活性剤及び水を混合して混合液を調製し、この混合液を乳化して乳化液を得た後、得られた乳化液を噴霧乾燥、または凍結乾燥することにより製造される。
【0042】
澱粉加水分解物、脂溶性物質、低分子界面活性剤及び水を混合して混合液を調製する際、水は、次工程で得られる乳化液の粘度及び固形分量が、後述の噴霧乾燥、または凍結乾燥に適した好適な粘度及び固形分量となるように用いることが好ましい。
【0043】
澱粉加水分解物、脂溶性物質、低分子界面活性剤及び水を混合して得られた混合液を乳化する方法としては、通常食品に用いられる均質乳化方法であれば特に制限なく採用することができ、例えば、ホモジナイザーを用いる方法や、コロイドミルを用いる方法、ホモミキサーを用いる方法などいずれも適用可能である。
【0044】
乳化液の乾燥方法としては、噴霧乾燥法、気流乾燥法、ドラム乾燥法、円筒乾燥法、真空凍結乾燥法などの凍結乾燥法、真空乾燥法などを用いることができるが、大量生産に適した噴霧乾燥法が好ましい。
噴霧乾燥法により乳化液中の水分を除去して粉末組成物を製造する場合、必要に応じて乳化液を加熱してもよい。また、噴霧乾燥に供される乳化液は、噴霧時点の温度における粘度が5?200mPa・sであることが、乳化効率、乳化安定性及び噴霧乾燥工程における乳化液のノズルからの吐出性の点で好ましい。また、乳化液の固形分量は、噴霧乾燥時におけるノズルからの吐出性を確保するために、質量基準で5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。
【0045】
乳化液の噴霧乾燥で得られた粉末組成物は、必要に応じて、粉砕、分級、造粒などを行ってもよい。
【0046】
[飲料]
本発明の粉末組成物は、特に制限はないが、好ましくは飲食品に含有され、さらに好ましくは飲料に含有される。
【0047】
具体的には本発明の粉末組成物は、コーヒー飲料、紅茶飲料、紅茶以外の各種の茶飲料などの飲料に含有され、好ましくはミルクコーヒー、カフェオレ、ミルク紅茶などの乳飲料に使用される。乳飲料は、乳成分である乳脂肪、乳蛋白質等を含有する飲料である。
【0048】
本発明の粉末組成物を含む飲料は、例えば次のようにして製造される。まず、本発明の粉末組成物、乳成分、コーヒー、紅茶または茶抽出物、乳化剤、必要に応じて水などを混合して混合液を調製する。この混合液には、この他、砂糖、香料、ビタミン、重曹などのpH調整剤、甘味料、増粘安定剤、酸化防止剤、酵素などの公知の配合剤を加えてもよい。油分は粉末組成物として添加されるので、乳成分としては脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、WPC、WPI、MPC、TMP、バターミルクパウダー、乳糖、乳清ミネラルなどの乳蛋白質や乳糖、乳由来のミネラルなどの無脂乳固形分を含有する原料を用いることが好ましい。ただし、必要に応じて、牛乳、濃縮乳、全脂粉乳、フレッシュクリーム、チーズ等の乳成分、バターやバターオイル等の乳脂を加えてもよい。
【0049】
次いで、得られた混合液を撹拌して乳化する。乳化方法としては、通常食品に用いられる均質乳化方法であれば特に制限なく使用することができ、例えば、ホモジナイザーを用いる方法や、コロイドミルを用いる方法、ホモミキサーを用いる方法などいずれも用いることができる。この均質乳化処理は、通常40?80℃の加温条件下で行われ、ホモジナイザーを用いた乳化工程は、通常5?200MPa、好ましくは10?100MPaの高圧条件で行なわれる。
【0050】
この均質乳化処理後には、UHT殺菌、レトルト殺菌などの殺菌処理を行う。通常レトルト殺菌は、121℃、20?40分の条件で行われる。一方、PETボトル用飲料などに用いられるUHT殺菌は、より高温、例えば殺菌温度130?150℃で、且つ121℃での殺菌価(Fo)が10?50に相当する超高温殺菌である。UHT殺菌は飲料に直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式や飲料を水蒸気中に噴射して加熱するスチームインフュージョン式などの直接加熱方式、プレートやチューブなど表面熱交換器を用いる間接加熱方式など公知の方法で行うことができ、例えばプレート式殺菌装置を用いることができる。
尚、製造された本発明の飲料は、容器詰め飲料に好適であり、例えば、缶飲料、ペットボトル飲料として用いられることができる。
【0051】
このようにして製造される本発明の飲料中の本発明の粉末組成物の含有量は、同時に添加される乳成分、コーヒー、紅茶または茶抽出物の量によって異なるが、通常0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
また、乳成分を含む乳飲料の場合、乳飲料中の乳成分の含有量は、牛乳換算で5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、60質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが、より好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
乳飲料中の乳成分と本発明の粉末組成物の含有割合は、乳成分:粉末組成物(質量比)=1:0.01?100であることが好ましい。この範囲よりも粉末組成物が少ないと乳化安定性への寄与がなく、粉末組成物の効果を発揮することが困難であり、多いと充分な乳の風味が得られないため、乳飲料として不適である。
【0053】
飲料に乳化剤を添加する場合、乳化剤としては、食品に使用可能な乳化剤であれば特に制限はなく使用することができる。例示するならば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート(ポリオキシエチレンソルビタン酸エステル)、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリド、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、などの脂肪酸エステル類、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、酵素分解レシチン、レシチン、サポニンなどが挙げられる。これらの中では、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート(ポリオキシエチレンソルビタン酸エステル)が好ましく、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステルが、乳飲料の乳化安定性がよいため更に好ましい。
【0054】
また、上記乳化剤において、飲料における危害菌である耐熱性菌に対して効果を持つ食品用乳化剤(すなわち、静菌性乳化剤)を単独、または併用して用いることもできる。耐熱性菌に対して効果を持つ食品用乳化剤としては、その効果を有する食品用乳化剤であれば、特に制限なく使用することができるが、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリドが好ましく、特に構成する脂肪酸の炭素数が14?22のショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリドがより好ましく、構成する脂肪酸の炭素数が16?18のショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルがさらに好ましく、これらは菌に対する有効性が高いため好適である。使用するショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノエステル含量が50質量%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であることが、菌に対する有効性が高いため好適である。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリンの平均重合度が2?5であることが好ましく、さらに2?3であることが、菌に対する有効性が高いため最も好ましい。
【0055】
乳化剤の乳飲料における含有量は、通常0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましい。
【0056】
このようにして得られる本発明の粉末組成物を含有する飲料は、特に乳化安定性の点から、実質的にカゼインナトリウムを含有せず、静菌性乳化剤を含有する飲料であることが好ましい。すなわち、粉末組成物中に実質的にカゼインナトリウムを含有させないことが好ましく、さらには、飲料の製造においてもカゼインナトリウムを実質的に含有させないことが好ましい。尚、実質的に含有しないとは、組成物中または飲料中において、カゼインナトリウムの含有量が0.3質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下、特に好ましくは0.001質量%以下であることを意味する。最も好ましくは全く含有しないことである。
本発明の粉末組成物を含有する飲料は、静菌性を有しながらも、高い乳化安定性を有する飲料である。
【実施例】
【0057】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0058】
なお、実施例1?4及び比較例1?2で用いた澱粉加水分解物の物性は以下の通りである。
【0059】
【表1】

【0060】
[実施例1]
硬化ヤシ油(「硬化ヤシ油」不二製油社製)15質量%、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)1.0質量%、澱粉加水分解物A(松谷化学工業社製、パインデックス#3、コーンスターチ由来)34質量%および水50質量%を混合した。この混合液を50℃でホモミキサーを用いて分散させた後、高圧乳化機を用いて乳化し、得られた乳化液を噴霧乾燥機で乾燥して、粉末組成物(以下、「粉末組成物A-1」と称す。)を得た。
【0061】
[実施例2]
澱粉加水分解物Aを、澱粉加水分解物B(松谷化学工業社製、パインデックス#100、ワキシーコーンスターチ由来)に変更した以外は、実施例1と同様にして粉末組成物(以下、「粉末組成物B-1」と称す。)を得た。
【0062】
[比較例1]
澱粉加水分解物Aを、澱粉加水分解物C(松谷化学工業社製、パインデックス#2、コーンスターチ由来)に変更した以外は、実施例1と同様にして粉末組成物(以下、「粉末組成物C-1」と称す。)を得た。
【0063】
[実施例3]
硬化ヤシ油(「硬化ヤシ油」不二製油社製)20質量%、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)2.5質量%、澱粉加水分解物A27.5質量%および水50質量%を混合した。この混合液を50℃でホモミキサーを用いて分散させた後、高圧乳化機を用いて乳化し、得られた乳化液を噴霧乾燥機で乾燥して、粉末組成物(以下、「粉末組成物A-2」と称す。)を得た。
【0064】
[実施例4]
澱粉加水分解物Aを、澱粉加水分解物Bに変更した以外は、実施例3と同様にして粉末組成物(以下、「粉末組成物B-2」と称す。)を得た。
【0065】
[比較例2]
澱粉加水分解物Aを、澱粉加水分解物Cに変更した以外は、実施例3と同様にして粉末組成物(以下、「粉末組成物C-2」と称す。)を得た。
【0066】
[試験例1]
1.1gの粉末組成物A-1、B-1、C-1をそれぞれ100mlの水に溶解し、30℃又は50℃で保存したときの経時的な層分離の度合いを観察し、乳化安定性を以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
<乳化安定性の評価>
○: 層分離がない、または、ごくわずかに認められる。
△: 層分離が認められる。
×: 明確に層分離している。または、オイル粒やオイル層が多量に認められ、乳化が破壊されている。
【0067】
【表2】

【0068】
[試験例2]
1.1gの粉末組成物A-2、B-2、C-2をそれぞれ100mlの水に溶解し、30℃又は50℃で保存したときの経時的な層分離の度合いを観察し、乳化安定性を、試験例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
また、1.1gの粉末組成物A-2、B-2、C-2をそれぞれ100mlの水に溶解した液を20℃、30℃、35℃、40℃、50℃で3日間保存したときのエマルションの平均粒子径増加率を以下の基準で評価した。平均粒子径は、ナノ粒子径分布測定装置(島津製作所社製SALD-7100)を用いて測定した。結果を表4に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
<保存後のエマルションの平均粒子径増加率>
◎: 増加率=保存後の平均粒子径/保存前の平均粒子径が、1.3未満である
○: 上記増加率が、1.3以上、1.5未満である
△: 上記増加率が、1.5以上、1.7未満である
×: 上記増加率が、1.7以上である
【0071】
【表4】

【0072】
[試験例3]
試験例1、2の結果から、いずれの粉末組成物も、粉末組成物を得る時点では差異はなく、水に粉末組成物を分散、溶解したエマルションで差異がみられたことから、保存後のエマルションの粒子径増加率が、粉末組成物を再度溶解した際の乳化安定性を反映していると考えられた。そのため、澱粉加水分解物を含有する乳化液を調製し、それを粉末化せず、試験例1、2と同濃度に水で希釈し、その希釈エマルションの粒子径増加率を確認した。
【0073】
具体的には、硬化ヤシ油(「硬化ヤシ油」不二製油社製)20質量%、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)2.5質量%、澱粉加水分解物D?I(三和澱粉工業社製、サンデックシリーズ、詳細を表5に示す)27.5質量%および水50質量%を混合した。この混合液を65℃でホモミキサーを用いて分散させた後、高圧乳化機を用いて乳化し、得られた乳化液のうち2.2gを100mlの水に分散した希釈乳化液を調製した。残りの乳化液は、噴霧乾燥機で乾燥して、各々、澱粉加水分解物の異なる粉末組成物を得た。各々を粉末組成物D?Iとする。
【0074】
得られた希釈乳化液を、25℃、35℃、40℃、55℃で1週間(1W)、および2週間(2W)保存したときの希釈乳化液の粒子のメジアン径増加率を以下の基準で評価した。メジアン径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、LA-950V2)を用いて測定した。結果を表6に示す。
【0075】
<保存後のエマルションの粒子のメジアン径増加率>
◎: 増加率=保存後の粒子のメジアン径/保存前の粒子のメジアン径が、2.5未満である
○: 上記増加率が、2.5以上、3.5未満である
△: 上記増加率が、3.5以上、4.5未満である
×: 上記増加率が、4.5以上である
【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
[参考例5]
硬化ヤシ油(「硬化ヤシ油」不二製油社製)20質量%、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)2.5質量%、カゼインナトリウム(Tatua社製)2.5質量%、澱粉加水分解物A27.5質量%および水47.5質量%を混合した。この混合液を50℃でホモミキサーを用いて分散させた後、高圧乳化機を用いて乳化し、得られた乳化液を噴霧乾燥機で乾燥して、粉末組成物(以下、「粉末組成物A-3」と称す。)を得た。
【0079】
[比較例3]
澱粉加水分解物Aを、澱粉加水分解物Cに変更した以外は、参考例5と同様にして粉末組成物(以下、「粉末組成物C-3」と称す。)を得た。
【0080】
[試験例4]
1.1gの粉末組成物A-3、C-3をそれぞれ100mlの水に溶解し、試験例1と同様に評価した。結果を表7に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
[試験例5]
試験例3と同様の方法で、カゼインナトリウムの添加量の影響を確認した。
具体的には、硬化ヤシ油(「硬化ヤシ油」不二製油社製)20質量%、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)2.5質量%、澱粉加水分解物H27.5質量%、および、0.001?1.0質量%のカゼインナトリウムを水で100質量%となるよう調製し、混合した。この混合液を65℃でホモミキサーを用いて分散させた後、高圧乳化機を用いて乳化し、得られた乳化液2.2gを100mlの水に分散した希釈エマルションを調製した。得られた希釈乳化液を、40℃で保存したときの経時的な層分離の度合いを観察し、乳化安定性を試験例1の基準で評価した。結果を表8に示す。
【0083】
【表8】

【0084】
[実施例6]
硬化ヤシ油(「硬化ヤシ油」不二製油社製)16質量%、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-1170」三菱化学フーズ社製、HLB11)1.25質量%、澱粉加水分解物A32.75質量%および水50質量%を混合した。この混合液を50℃でホモミキサーを用いて分散させた後、高圧乳化機を用いて乳化し、得られた乳化液を噴霧乾燥機で乾燥して、粉末組成物(以下、「粉末組成物A-4」と称す。)を得た。
【0085】
[実施例7]
硬化ヤシ油に対し、モノグリセリン脂肪酸エステルを0.1質量%加え、水を49.9質量%にした以外は、実施例6と同様にして、粉末組成物A-5を得た。
【0086】
[実施例8]
硬化ヤシ油に対し、ショ糖ラウリン酸エステル(「リョートー(登録商標)シュガーエステルL-195」三菱化学フーズ社製、HLB1)を0.1質量%加え、水を49.9質量%にした以外は、実施例6と同様にして、粉末組成物A-6を得た。
【0087】
[実施例9]
硬化ヤシ油に対し、ショ糖ステアリン酸エステル(「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-370」、HLB3)を0.1質量%加え、水を49.9質量%にした以外は、実施例6と同様にして、粉末組成物A-7を得た。
【0088】
[実施例10]
硬化ヤシ油に対し、ポリグリセリンベヘニン酸エステル(「リョートー(登録商標)ポリグリエステルB-100D」三菱化学フーズ社製、HLB3)を0.1質量%加え、水を49.9質量%にした以外は、実施例6と同様にして、粉末組成物A-8を得た。
【0089】
[試験例6]
1.1gの粉末組成物A-4?8をそれぞれ100mlの水に溶解し、30℃又は50℃で保存したときの経時的な層分離の度合いを観察し、乳化安定性を以下の基準で評価した。結果を表9に示す。
【0090】
【表9】

【0091】
[実施例11]
硬化ヤシ油(「硬化ヤシ油」不二製油社製)16質量%、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)1.25質量%、澱粉加水分解物A32.75質量%および水50質量%を混合した。この混合液を70℃でホモミキサーを用いて分散させた後、高圧乳化機を用いて乳化し、得られた乳化液を噴霧乾燥機で乾燥して、粉末組成物(以下、「粉末組成物A-9」と称す。)を得た。
【0092】
[実施例12]
あらかじめ、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-370」三菱化学フーズ社製、HLB3)0.08質量%を分散した硬化ヤシ油(「硬化ヤシ油」不二製油社製)16質量%に、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)1.25質量%、澱粉加水分解物A32.67質量%および水50質量%を混合した。この混合液を70℃でホモミキサーを用いて分散させた後、高圧乳化機を用いて乳化し、得られた乳化液を噴霧乾燥機で乾燥して、粉末組成物(以下、「粉末組成物A-10」と称す。)を得た。
【0093】
[試験例7]
2.0gの粉末組成物A-9、A-10をそれぞれ100mlの水に溶解し、20℃、25℃、30℃、40℃、50℃で3日間保存したときの平均粒子径増加率を試験例2と同様の基準で評価した。平均粒子径は、島津製作所社製SALD-7100を用いて測定した。
結果を表10に示す。
【0094】
【表10】

【0095】
[実施例13]
試験例3と同様の方法で、疎水性低分子界面活性剤添加の影響を確認した。
具体的には、あらかじめ、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-370」三菱化学フーズ社製、HLB3)0.08質量%を分散した硬化ヤシ油(「硬化ヤシ油」不二製油社製)16質量%に、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)1.25質量%、澱粉加水分解物A32.67質量%および水50質量%を混合した。この混合液を70℃でホモミキサーを用いて分散させた後、超高圧乳化機を用いて、100MPaで乳化し、得られた乳化液4.0gを100mlの水に分散した希釈乳化液を調製した。残りの乳化液は、噴霧乾燥機で乾燥して、粉末組成物A-11を得た。
得られた希釈乳化液を、20℃、25℃、30℃、40℃、50℃で4日間保存したときの平均粒子径増加率を試験例2と同様の基準で評価した。平均粒子径は、ナノ粒子径分布測定装置(島津製作所社製SALD-7100)を用いて測定した。結果を表11に示す。
【0096】
【表11】

【0097】
[実施例14]
インスタントティー0.15質量%、砂糖7.0質量%、脱脂粉乳1.9質量%、粉末組成物A-1を3.2質量%、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖パルミチン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルP-1570」三菱化学フーズ社製)0.03質量%、及び水(残部)を混合し、充分に撹拌して溶解させた後、高圧ホモジナイザーで乳化した。これを、UHT殺菌した後、PETボトルに充填し、乳成分を含有するPETボトル詰めミルクティーを得た。このミルクティーは冷蔵および室温2ヶ月保管後も良好な安定性であった。
【0098】
[実施例15]
粉末組成物A-1をA-10とした以外は、実施例13と同様にして、PETボトル詰めミルクティーを得た。このミルクティーは冷蔵および室温2ヶ月保管後も良好な安定性であった。
【0099】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2013年6月26日出願の日本特許出願(特願2013-134040)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-28 
出願番号 特願2015-524089(P2015-524089)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 白井 美香保星 功介  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 櫛引 智子
瀬良 聡機
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6523954号(P6523954)
権利者 三菱ケミカルフーズ株式会社
発明の名称 粉末組成物、該粉末組成物の製造方法及び飲料  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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