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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B60K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B60K |
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管理番号 | 1368971 |
異議申立番号 | 異議2019-700486 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-06-18 |
確定日 | 2020-10-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6439108号発明「電子システム及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6439108号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6439108号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6439108号の請求項1ないし8の特許に係る出願は、平成23年3月16日に出願された特願2011-57467号の一部を平成27年9月2日に新たな特許出願とした特願2015-172495号の一部を平成28年8月16日に新たな特許出願としたものであって、平成30年11月30日にその特許権の設定登録がされ、平成30年12月19日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年6月18日に特許異議申立人西口豊美(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和元年10月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和元年12月4日に特許権者から訂正の請求及び意見書の提出がされ、その訂正の請求に対して異議申立人から令和2年2月18日付け意見書が提出され、令和2年3月30日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、その指定期間内である令和2年5月25日に特許権者から意見書の提出がされ、その意見書について、令和2年7月14日付けで異議申立人に対し審尋がされ、この審尋に対して異議申立人から令和2年8月11日付け回答書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 令和元年12月4日の訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の内容は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許権者は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、 「車両において取得した情報をオブジェクトに表示させる機能を備えたシステムであって、 車両において取得した情報を表示させるメーターオブジェクトを内部に表示可能な相互に同一又は類似形状の外郭を複数備え、当該複数の外郭内間で異なる種類のメーターオブジェクトを表示する待ち受け画面を複数備え、当該複数の待ち受け画面からユーザによって1種類の待ち受け画面を選択させる第一の選択機能と、 当該待ち受け画面内に表示する前記外郭の数よりも多い数の種類のメーターオブジェクトから前記待ち受け画面内の外郭内に表示する前記メーターオブジェクトを選択させる第二の選択機能の、二重の選択機能を備えること を特徴とするシステム。」とあるのを、 「車両において取得した情報を相互に同一又は類似形状の外郭を有するメーターオブジェクトに表示させる機能を備えたシステムであって、 車両において取得した情報を表示させる前記メーターオブジェクトを内部に表示可能な領域を複数備え、当該複数の領域内間で異なる種類の前記メーターオブジェクトを表示する待ち受け画面を複数備え、当該複数の待ち受け画面からユーザによって1種類の待ち受け画面を選択させる第一の選択機能と、 当該待ち受け画面内に表示する前記領域の数よりも多い数の種類の前記メーターオブジェクトから前記待ち受け画面内の前記領域内に表示する前記メーターオブジェクトを選択させる第二の選択機能の、二重の選択機能を備えること を特徴とするシステム。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし8も同様に訂正する。)ことを請求する。(下線部は、訂正箇所を特許権者が付したものである。) 2.訂正事項1の適否について (1)一群の請求項について 本件訂正前の請求項2ないし8は、いずれも訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項2ないし8は、訂正事項によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。 よって、訂正事項1の訂正は、当該一群の請求項〔1?8〕に対し請求されたものである。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正の目的の適否 訂正前の請求項1の「オブジェクト」を「メーターオブジェクト」とする訂正は、オブジェクトの種類を明確にするものである。 また、訂正前の請求項1の「メーターオブジェクト」について、「相互に同一又は類似形状の外郭を有する」と限定する訂正は、メーターオブジェクトと外郭との関係を明確にするものであり、この明確化にともない訂正前の「待ち受け画面」の「外郭」を「領域」とする訂正は、メーターオブジェクトと待ち受け画面との関係を明確にするものである。 同様に、訂正後の請求項2ないし8は、訂正後の請求項1の記載を引用することにより、訂正後の請求項2ないし8に係る発明を明確にするものである。 したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第三号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無 (ア)訂正前の請求項1の「メーターオブジェクト」が「相互に同一又は類似形状の外郭を有する」点に関して、本件特許明細書には次の記載がある。 「【0014】 第10の手段では第8又は第9のいずれかの手段に加えて、前記メーターオブジェクトの外郭は相互に同一又は類似形状であって、前記制御手段は前記画面に複数の前記変動表示部が表示される場合に同サイズで表示させることをその要旨とする。 このような構成では、複数のメーターオブジェクトが画面に表示される場合には異なる運転情報を表示するものであっても同サイズで表示されることとなる。画面サイズは変わらないので画面に表示されるメーターオブジェクトが増えれば一画面に収めるためにメーターオブジェクトのサイズは徐々に小さく表示されることとなる。横方向に直列に配置されることが見やすさの点で好ましいが、表示されるメーターオブジェクトが増えた場合にはなるべく大きなサイズを確保するために二列以上に配列するようにしてもよい。」 「【0029】 図5(a)に示すように、複数の運転情報として5種類の燃費(瞬間燃費、今回燃費、全道路平均燃費、高速道平均燃費、一般道平均燃費)と冷却水温度の変化に応じた変動表示をさせるための第1のメーターオブジェクト40が用意されている。つまり、第1のメーターオブジェクト40は1つで複数の運転情報を表示させることができるオブジェクトである。第1のメーターオブジェクト40のディスプレイ部14で実際に展開される表示画像は図9(a)である(但し、白黒表示で彩度は現れていない。以下同様)。 第1のメーターオブジェクト40は、円形の包囲リング41を外郭として有している。包囲リング41は実際の画像としてはあたかも金属でできているかのような金属反射部分を有する装飾が施されている。包囲リング41には12時の位置から30度ずつずれた位置にビスオブジェクト41aが配置されている(計12個)。包囲リング41に包囲された円形の内部領域は中央位置で上下に二分割されている。上側領域40aは扇状の窓孔状のイメージの扇状表示部42が設けられている。扇状表示部42内において第1のメーターオブジェクト40の中央から外方に向かって延出された指針オブジェクト43が表示されている。コントローラMCは指針オブジェクト43に運転情報の値に応じて扇状表示部42内を中央を基部位置として左右方向に揺動するような変動表示をさせる。指針オブジェクト43の示唆する位置としては図上左側が値が低く(L)右側ほど値が高い(H)状態である。扇状表示部42の外周位置には簡略な指針オブジェクト43の位置を示す指標となるブロックオブジェクト44が表示されている。第1のメーターオブジェクト40は5種類の燃費と冷却水温度の計6種類の異なる運転情報について共通するため目盛が意味する数値は運転情報によって異なる。コントローラMCは第1のメーターオブジェクト40の下側領域40bに現在選択されている運転情報における取得された値をその単位とともに表示させる。例えば図5では瞬間燃費が「60km/l」と表示されており、この瞬間の燃費がリッター当たり60kmであることが数値として正確にわかる。 る。」 上記記載には、「メーターオブジェクト」が「相互に同一又は類似形状の外郭を有する」ことが記載されている。 (イ)「待ち受け画面」の複数の「領域」に関して、明細書及び図面には次の記載がある。 「【0041】 次に、本実施の形態で用意されている待ち受け画面のための待ち受け用画像の構成について説明する。本実施の形態では上記の第1?第7のメーターオブジェクト40,45,47,49,51,55、58、グラフオブジェクト61、エンジンオブジェクト65、第1の表オブジェクト71、第2の表オブジェクト72と組み合わせてディスプレイ部14上に表示させるための4種類の待ち受け用画像について説明する。 図12?図15は待ち受け用画像P1にこれらオブジェクトを組み合わせて作成された待ち受け画面である。図12は第2、第5及び第6のメーターオブジェクト45,51,55と組み合わされ、図13はグラフオブジェクト61と組み合わされ、図14はエンジンオブジェクト65と第1の表オブジェクト71と組み合わされ、図15は第2の表オブジェクト72と組み合わされている。 待ち受け用画像P1の画面上部領域には横方向に一列に時刻オブジェクト75、各種ステータスアイコン76、速度オブジェクト77、コンパスアイコン78が配置されている。時刻オブジェクト75は現在時刻を表示する。各種ステータスアイコン76は車両の存在位置に基づいて得られる状態を表示する。速度オブジェクト77は当該車両の現在の車速を表示する。コンパスアイコン78は車両の進行方向の方位を表示する指標となるとともに、後述するようにディスプレイ部14上のコンパスアイコン78をGUI操作することで表示画面の切替えを行う切替え入力部とされている。画面の下部領域には無線文字警報表示スペース79が設けられている(図上二点鎖線で囲まれた領域)。コントローラMCは無線文字警報表示スペース79に目標物データやレーダーの検出データ等に応じて無線文字警報スペース79にテロップ形式で警告表示を表示させる。警告表示は無線文字警報表示スペース79のみに現れるため、その上方位置で変動するオブジェクトの変動表示を妨げるものではない。警告表示としてはマイクロ波検出器32や無線受信器33によって受信した所定のマイクロ波や無線波、あるいは前もって取得したループコイル等の機器の位置情報等に基づきそれら情報に対応した所定の(ここでは例えば「LHsystem」)表示が行われる。 【0042】 ここに図2(当審注:図2は図12の誤記)のように3種類のオブジェクトを表示させる場合の表示態様は横方向に同じ外形サイズで一列に配置される。選択されたオブジェクトが第1?第7のメーターオブジェクト40,45,47,49,51,55、58であれば、いずれも包囲リング41の外形寸法のまったく同じ状態でいわゆる「3連メーター風」に表示されることとなる。 待ち受け用画像P1に3種類を選択的に表示させる場合にはどのような運転情報を表示させているかをユーザーに伝えるために、コントローラMCは運転情報表示領域80(図上二点鎖線で囲まれた領域)に対して表示されるオブジェクトごとにそのオブジェクトが表示する運転情報の内容を和名で表示させる。図14(a)では一例として選択表示された第2、第5及び第6のメーターオブジェクト45,51,55に対応して「燃料流量」「エンジン負荷率」「スロットル開度」が運転情報表示領域80位置に表示されることとなる。 図12?図15のディスプレイ部14で実際に展開される表示画像は図18?図21である。」 上記の段落【0041】及び【0042】の記載を踏まえ、【図12】をみると、待ち受け用画像P1の横方向に一列に時刻オブジェクト75、各種ステータスアイコン76、速度オブジェクト77、コンパスアイコン78が配置された画面上部領域と、運転情報表示領域80及び無線情報刑法表示スペースが設けられた画面の下部領域との間に、3つのメーターオブジェクトを表示している領域が看取できる。 したがって、「待ち受け画面」の複数の「領域」は、上記記載事項及び図面の図示内容の範囲内のものである。 ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、上記(1)のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 また訂正事項1は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2ないし8についても実質的に訂正するものではあるが、訂正前の請求項2ないし8との関係において、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 エ 令和2年2月18日付け意見書における異議申立人の意見について 異議申立人は、上記意見書で、訂正事項1による訂正は、(ア)特許請求の範囲の減縮を目的としたものではなく、その技術的範囲を変更するものであり(以下、「主張1」という。)、(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない(以下、「主張2」という。)旨を主張するが、以下に示すように、これら主張は、いずれも当を得たものではないから、採用できない。 (ア)主張1について 異議申立人は、一般的に「外部を囲むかこい」を意味する「外郭」なる語句を、「領有している区域」等を意味する「領域」なる語句に訂正することを含む訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではなく、その技術的範囲を変更するものである旨を主張する。 しかし、特許法第120条の5第1項は、そのただし書において、訂正は、特許請求の範囲の減縮(同項第1号)、誤記又は誤訳の訂正(同項第2号)、明瞭でない記載の釈明(同項第3号)を目的とするものに限る旨を規定するところ、上記(2)ア及びウで示したとおり、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第三号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、主張1は当を得たものではない。 (イ)主張2について 異議申立人は、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲を「メーターオブジェクト」に係るものに限定していることを踏まえると、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない旨を主張する。 しかし、上記(2)イ(ア)で示したとおり、訂正前の請求項1の「メーターオブジェクト」が「相互に同一又は類似形状の外郭を有する」点は、本件特許明細書の段落【0014】及び【0029】に記載されており、また、上記(2)イ(イ)で示したとおり、「待ち受け画面」の複数の「領域」については、本件特許明細書の段落【0041】及び【0042】に記載されているから、主張2も当を得たものではない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件発明について 特許第6439108号の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、本件訂正請求により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるものである。 「【請求項1】 車両において取得した情報を相互に同一又は類似形状の外郭を有するメーターオブジェクトに表示させる機能を備えたシステムであって、 車両において取得した情報を表示させる前記メーターオブジェクトを内部に表示可能な領域を複数備え、当該複数の領域内間で異なる種類の前記メーターオブジェクトを表示する待ち受け画面を複数備え、当該複数の待ち受け画面からユーザによって1種類の待ち受け画面を選択させる第一の選択機能と、 当該待ち受け画面内に表示する前記領域の数よりも多い数の種類の前記メーターオブジェクトから前記待ち受け画面内の前記領域内に表示する前記メーターオブジェクトを選択させる第二の選択機能の、二重の選択機能を備えること を特徴とするシステム。 【請求項2】 前記メーターオブジェクトとして、当該メーターオブジェクト1つで複数の取得した情報を表示させるメーターオブジェクトを備えること を特徴とする請求項1に記載のシステム。 【請求項3】 前記メーターオブジェクトとして、当該メーターオブジェクトの内部領域を上下に二分割して表示するメーターオブジェクトを備えること を特徴とする請求項1または2に記載のシステム。 【請求項4】 前記メーターオブジェクトとして、扇状の窓孔状の表示部を備え、当該扇状の周方向に沿って小さく分割された小扇状形状の指標オブジェクトを取得した情報の変化に応じて増減させることで背景に対して色の異なる面積を変化させるよう変動表示をさせるメーターオブジェクトを備えること を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシステム。 【請求項5】 前記メーターオブジェクトとして、取得した情報に基づいて所定の距離の変化とその間の燃費の変化の2つの情報について数値として変動表示をさせるためのメーターオブジェクトを備えること を特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシステム。 【請求項6】 前記複数の種類の待ち受け画面として、取得した現在の情報をその項目名と数値の組で表示し前記メーターオブジェクトの表示はしない待ち受け画面と、前記メーターオブジェクトを有する待ち受け画面とを備えること を特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のシステム。 【請求項7】 前記複数の種類の待ち受け画面として、取得した現在の情報をグラフで表示する待ち受け画面と、前記メーターオブジェクトを有する待ち受け画面とを備えること を特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のシステム。 【請求項8】 請求項1から7のいずれかに記載のシステムの機能をコンピュータに実現させるためのプログラム。」 2.取消理由の概要 令和元年10月7日付けで通知した取消理由及び令和2年3月30日付けで通知した取消理由<決定の予告>の概要は以下のとおりである。 (1)(サポート要件)本件特許出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、前記要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (2)(明確性要件)本件特許出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、前記要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (3)(進歩性要件)本件発明1ないし8は、その原出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その原出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 3.通知した取消理由についての判断 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 本件発明1において、本件訂正請求前の「車両において取得した情報を表示させるメーターオブジェクトを内部に表示可能な相互に同一又は類似形状の外郭を複数備え、当該複数の外郭内間で異なる種類のメーターオブジェクトを表示する待ち受け画面を複数備え、」との記載は、「車両において取得した情報を表示させる前記メーターオブジェクトを内部に表示可能な領域を複数備え、当該複数の領域内間で異なる種類のメーターオブジェクトを表示する待ち受け画面を複数備え、」との記載に訂正されたところ、この訂正された記載に関連し、明細書の発明の詳細な説明には、特に「複数備え、」に関し次の記載がある。 「【0046】 本発明を、以下のように具体化して実施してもよい。 ・上記実施の形態では「マルチメーター選択」によって3種類の運転情報に応じたオブジェクトを選択するようになっていたが、例えば2種類でも、4種類以上であっても構わない。 ・上記実施の形態では「マルチメーター選択」によって待ち受け画面上に表示された3種類オブジェクトの外形サイズは各メーターオブジェクトでは同じ大きさで現されていたが、例えば同じでなく主となるメーターオブジェクトだけを大きく表示することも可能である。 ・上記実施の形態では「マルチメーター選択」によって12種類の運転情報に対応したオブジェクトからオブジェクトを選択するようになっていたが、これら以外に例えばGPS測位によってのみ取得できる運転情報を選択させるように、車両診断用コネクタ22以外から取得した運転情報を選択対象としてもよい。逆にメーターオブジェクトからのみ選択できるようにしてもよい。また、運転情報としては上記実施の形態で挙げた以外の運転情報を採用してもよい。 ・上記実施の形態では待ち受け用画像P1によって4種類の待ち受け画面が作成されることとなっていたが、これら4種類以外の待ち受け画面を作成することも自由である。 ・上記実施の形態ではグラフオブジェクト61とエンジンオブジェクト65は図12のような複数のメーターオブジェクトとの組み合わせはなく、単独での変動表示部として表示させていたが、これらもメーターオブジェクトとともに図12のように他のメーターオブジェクトに代わって同時に表示される複数の変動表示部としてもよい。 但し、グラフオブジェクト61を単独で待ち受け画面に表示させた場合はよいが、「マルチメーター選択」によって3種類のうちの1つとして選択した場合にはかなり小さくなってしまう。そのため、「マルチメーター選択」によって選択される場合にはグラフオブジェクト61の全体ではなく、現在の地点を含む狭い領域のみを表示させるようにすることがより好ましい。 ・グラフオブジェクト61は上記実施の形態では縦軸を速度とし、横軸をエンジン回転数としたが、これに限られるものではない。縦軸を燃料流量とし、横軸を運転時間としたり、縦軸をエンジン負荷率とし、横軸をエンジン回転数とするなど、相関関係のある情報同士であれば適宜組み合わせることは自由である。 ・グラフオブジェクト61上における現在位置の表現手法として上記では現在位置指示ライン62a,62bの交差位置Pを使用したが、例えば、現在位置を過去の履歴の光点と色を変えたり、画素数を多くして大きく表現するなどの他の手法で示すようにしてもよい。 ・上記実施の形態ではグラフオブジェクト61上に1秒ごとに取得した車速とエンジン回転数をプロットさせるようにしたが、他のタイミングであってもよい。但し、運転情報の変動を的確に視認できる時間間隔が望ましい。 ・グラフオブジェクト61上の履歴は上記実施の形態では500点以上は過去のものから消去させていたが、画面の大きさや1光点あたりの占める画素数に応じて適宜変更することは自由である。 ・グラフオブジェクト61上の履歴について、上記のように同時に存在する個数を限定するのではなく1つの点の画面上の存在時間を限定して(例えば5分?10分程度)で過去の履歴を消去させるようにしてもよい。 ・グラフオブジェクト61における運転状況のスケールアップは上記実施の形態では2段階であったが、それ以上の多段階でスケールアップあるいはスケールダウンさせるように設定してもよい。このように段階的なスケールアップあるいはスケールダウンのほうが頻繁にスケールが変わらずに見やすくて好ましいが、無段階にスケールアップあるいはスケールダウンさせるような表示も可能である。 ・ 上記グラフオブジェクト61での履歴はマニュアル、AT車を問わず変速機構のある車両用の一例として示したが、連続可変トランスミッション(Continuously Variable Transmission:CVT)のように変速比を連続的に変化させるようなトランスミッションを備えた車両についても同様に履歴を取得することが可能である。 ・ 上記実施の形態ではエンジンオブジェクト65のピストンオブジェクト67の色を変化させてエンジン負荷率を表現していたが、ピストンオブジェクト67以外の部分の色を変化させるようにしてもよい。 ・上記実施の形態のエンジンオブジェクト65ではエンジン回転数の変化をピストンオブジェクト67とインペラオブジェクト70で表現するようにしていたが、その他の車両の特定部位、例えばクランクシャフトの回転速度変化、吸排気バルブオブジェクトの往復動の速度変化、その他カムやカムシャフト、タイヤの回転度変化に適用するようにしてもよい。 ・本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において変更した態様で実施することは自由である。」 そうすると、【図12】ないし【図14】の4種類の待ち受け画面について、「上記実施の形態では『マルチメーター選択』によって3種類の運転情報に応じたオブジェクトを選択するようになっていたが、例えば2種類でも、4種類以上であっても構わない。」及び「上記実施の形態では待ち受け用画像P1によって4種類の待ち受け画面が作成されることとなっていたが、これら4種類以外の待ち受け画面を作成することも自由である。」との記載を併せてみれば、「車両において取得した情報を表示させる前記メーターオブジェクトを内部に表示可能な領域を複数備え、当該複数の領域内間で異なる種類のメーターオブジェクトを表示する待ち受け画面を複数備え、」については、本件特許明細書及び図面に実質的に記載された事項の範囲内のものといえる。 ゆえに、本件発明1ないし8は、発明の詳細な説明に記載したものである。 したがって、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものであるから、同法第113条第4号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。 (2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について 本件発明1において、本件訂正請求前の「車両において取得した情報をオブジェクトに表示させる機能を備えたシステムであって」との記載は、「車両において取得した情報を相互に同一又は類似形状の外郭を有するメーターオブジェクトに表示させる機能を備えたシステムであって」との記載に訂正されたため、本件訂正請求前は不明確であった「オブジェクト」が包含するものが、本件発明1では「メータオブジェクト」であることが明確となった。 さらに、本件発明1において、本件訂正請求前の「車両において取得した情報を表示させるメーターオブジェクトを内部に表示可能な相互に同一又は類似形状の外郭を複数備え、当該複数の外郭内間で異なる種類のメーターオブジェクトを表示する待ち受け画面」との記載は、「車両において取得した情報を表示させる前記メーターオブジェクトを内部に表示可能な領域を複数備え、当該複数の領域内間で異なる種類の前記メーターオブジェクトを表示する待ち受け画面」との記載に訂正されたため、本件訂正請求前は不明確であった「メータオブジェクト」と「外郭」との相互関係についても、明確となった。 ゆえに、本件発明1に係る請求項1の記載は明確であり、請求項1を直接的または間接的に引用する本件発明2ないし6も明確である。 したがって、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているものであるから、同法第113条第4号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。 (3)特許法第29条第2項(進歩性要件)について (3-1)取消理由通知<決定の予告>で引用した甲第2号証ないし甲第5号証の記載 ア 甲第2号証(特開2005-88673号公報 )の記載 甲第2号証には、「ディスプレイを備えた車両用計器、そのディスプレイに表示される画像の提供方法、およびその提供装置」に関し、図面とともに、次の記載がある。(なお、下線は当審で付した。) (ア)「【0005】 しかし、従来のディスプレイを有する車両用計器1においては、ディスプレイ5に表示される画像はあらかじめ登録されている画像しか表示されず、表示されている画像は必ずしもユーザ好みの画像ではなかった。 【0006】 本発明は、上記点に鑑み、ディスプレイにユーザの希望に沿った画像を表示することができる車両用計器を提供することを目的とする。」 (イ)「【0012】 また、請求項4に示すように、ディスプレイ(5)(11a、11b、12a、12b、13a、13b)にスピードメータ、タコメータ、フューエルゲージ等の計器部の画像を表示させることもできる。このような車両用計器では、ディスプレイに表示する背景画像だけでなく、さらに計器部の形状もユーザの好みのものに変更することができる。」 (ウ)「【0021】 (第1実施形態) 図1に本実施形態における車両用計器1の正面図を示す。なお、これらの図では、図6、7に示す車両用計器1と同様の構成部には、それらと同一の符号を付している。 【0022】 この車両用計器1は、図1に示すように、計器盤2と、計器盤2に設置されたディスプレイ5と、ディスプレイ5と接続されている図示しない制御部とを有した構成となっており、ディスプレイ5にスピードメータ、タコメータ、燃料計、水温計等の計器部11a、11b、12a、12b、13a、13bが表示されるようになっている。 【0023】 ディスプレイ5は、例えばTFT(薄膜トランジスタ)液晶モニタ、有機EL表示モニタ等である。 【0024】 制御部は、CPUや記憶手段としてのROM、RAM等を有している。この制御部に表示用画像のデータが記憶されており、この制御部により、記憶されているデータに基づいてディスプレイ5に画像が表示される。 【0025】 また、制御部は、外部からデータが入力される入力部を有しており、車両外部の機器(例えば、後述するサーバ21)と、直接もしくは車両自体が有する通信手段とを介して、接続されることで、車両用計器の外部から画像データが入力されるようになっている。そして、制御部は、あらかじめ記憶されている画像データを外部から入力された画像データに書き換えることができる。 【0026】 このような構成の車両用計器1は、車両用計器1の外部から画像データを受信し、制御部で、あらかじめ記憶されている画像データを受信した新たな画像データに書き換えることで、ディスプレイ5に新たな画像を表示できるようになっている。また、記憶手段に変更用画像をいくつか記憶できるようになっており、ユーザがこの変更用画像の中から任意に選択することで、選択した画像がディスプレイ5に表示されるようになっている。 【0027】 これにより、本実施形態では、ディスプレイ5に表示される情報の表示のさせ方を変更することができる。すなわち、図1の左側に示すスピード、燃料、水温等を表示するアナログメータ11a、12a、13aを、図1の右側に示すデジタルメータ11b、12b、13bに変更したり、その反対に、デジタルメータ11b、12b、13bをアナログメータ11a、12a、13aに変更したりすることができる。 【0028】 また、図1の左側に示すように、スピードメータ、タコメータ、燃料計、水温計等の計器部(メータ)の表示される数を4つ(図1の左側)から、3つ(図1の右側)に変更することもできる。このようにメータの構成を変更したり、また、メータの目盛り、指針、書体、配色、背景等の形態を変更したりすることができる。 【0029】 この結果、本実施形態では、このようにディスプレイ5に表示される表示内容(画像)を変更することができるので、ディスプレイ5にユーザの希望に沿った画像を表示することができる。したがって、ユーザに対して、高い満足度を提供することができる。」 (エ)「【0032】 サーバ21は、サービスの提供者である車両用計器メーカや車両販売店等が用いる装置である。サーバ21は、記憶手段としてのデータベースを備えており、このデータベースに種々のメータの意匠が記憶されている。具体的には、3眼、4眼等のメータ構成や、メータの目盛り、指針、書体、配色、背景等の各構成要素が記憶されている。データベースには、新しい意匠を記憶させることができるようになっている。」 (オ)「【0040】 図3に示すように、ステップ31では、ユーザがユーザ端末22を使用して、サーバ21に接続する。すなわち、ユーザ端末22からサーバ21に対して、ホームページのメインメニューが要求される。 【0041】 これを受けて、ステップ41で、サーバ21からユーザ端末22に対してメインメニューが送信される。これにより、ユーザ端末22にメインメニュー画面が表示される。 【0042】 ユーザは、ユーザ端末22に表示されたメインメニューからメータ構成の選択画面を選択する。これにより、ステップ32で、ユーザ端末22からサーバ21に対してメータ構成の選択画面が要求される。 【0043】 これを受けて、ステップ42で、メータ構成の選択画面がサーバ21からユーザ端末22に向けて送信される。すなわち、メータの構成を示す画像の一覧表が送信される。これにより、ユーザ端末22にメータ構成の選択画面が表示される。このとき、この選択画面には、メータ構成、すなわち、スピードメータ等のメータの数、各メータの表示方法(デジタル式、アナログ式)、各メータの形態(形状等)の選択肢が表示されている。例えば、これらが組み合わされた種々のメータ構成パターンが用意されており、この中からユーザが任意で選択できるようになっている。 【0044】 ユーザは、この種々のメータ構成パターンの中から、自分が希望するメータ構成パターンを選び出し、ユーザ端末22に対して、選択結果を入力する。これにより、ステップ33で、ユーザ端末22からサーバ21に向けて選択結果が送信される。そして、サーバ21がこの選択結果を受信する。 【0045】 続いて、ユーザは、メータの目盛り、指針、書体、配色、背景等の各構成要素の選択を行うため、ユーザ端末22でその画面を選択する。これにより、ステップ34で、ユーザ端末22からサーバ21に向けて各構成要素の選択画面が要求される。 【0046】 これを受けて、ステップ43で、サーバ21からユーザ端末22に向けて、選択可能な各構成要素の選択画面が送信される。すなわち、選択可能な各構成要素を示す画像の一覧表が送信される。 【0047】 このとき、送信される各構成要素の画像は、サーバ21が、メータ構成パターンの選択結果を受けて、その選択されたメータ構成パターンに応じて、データベースの中から抽出したものである。この抽出された画像は、各構成要素を組み合わせた後において、メータの視認性が良好なもの(低くならないもの)である。 【0048】 ステップ35では、ユーザ端末22に各構成要素の選択画面が表示されるので、ユーザ端末22に表示された各構成要素をそれぞれ選択する処理を行う。」 (カ)「【0060】 図1に示す車両用計器においては、ディスプレイ5に表示される内容(メータ等)を任意に変更できるようになっている。仮に、ディスプレイ5に表示される内容を、ユーザが任意に変更できるようにすると、総走行距離など法規上ユーザが自由に変更してはならない部分まで、ユーザが勝手に変更する恐れがある。つまり、勝手に表示内容を変更できるという認識をユーザが有していると、総走行距離等の改変にまでつながってしまう恐れがある。」 (キ) 図1には、計器部11a、12a、13aは、2つの大きな円形状(11a)及び2つの小さな円形状(12a、13a)の輪郭を、また、計器部11b、12b、13bは、大きな半円形状(11b)及び2つの長方形状(12b、13b)の輪郭を有していることが示されている。 これら記載事項及び図示内容を総合すると、甲第2号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「車両のスピードメータ、タコメータ、燃料計、水温計等を、2つの大きな円形状(11a)及び2つの小さな円形状(12a、13a)の輪郭、及び、大きな半円形状(11b)及び2つの長方形状(12b、13b)の輪郭を有する計器部の画像に表示させることができる車両用計器であって、 車両のスピードメータ、タコメータ、燃料計、水温計等を表示させる前記計器部の画像を内部に表示させる部分を4つあるいは3つ備え、当該4つあるいは3つの部分内間で異なる種類の計器部の画像を内部に表示する種々のメータ構成パターンを備え、当該種々のメータ構成パターンの中からユーザーが任意に選択でき、 上記メータ構成パターンに表示するメータの目盛り、指針、書体、配色、背景等の各構成要素を選択できる、車両用計器。」 イ 甲第3号証(特開2008-268770号公報 )の記載 甲第3号証には、「表示装置」に関し、図面(特に図4を参照)とともに、次の記載がある。 「【0022】 図4(a)に示すように、モードM10では、液晶パネル11は、平均燃費情報11aに加えて、当該自動車の累積走行距離情報11bとを表示する。図4(b)に示すように、モードM20では、液晶パネル11は、走行可能距離情報11cに加えて、当該自動車の累積走行距離情報11bとを表示する。図4(c)に示すように、モードM30では、液晶パネル11は、外気温情報11dに加えて、当該自動車の累積走行距離情報11bとを表示する。このように、第1操作スイッチ12を短押しする毎に、液晶パネル11の表示する情報が切り替えられるが、累積走行距離情報11bは常時表示されるように構成される。」 上記記載及び図示内容を総合すると、甲第3号証には次の技術事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されている。 「自動車の表示装置において、平均燃費情報11aに加えて、累積可能距離情報11bを、内部領域を上下に2分割して表示する液晶パネル11。」 ウ 甲第4号証(特開2009-101749号公報)の記載 甲第4号証には、「車載機、そのメータ表示方法」に関し、図面(特に図8を参照)とともに、次の記載がある。 (ア)「【0009】 なお、本実施形態は、図8に示すように、扇型の円弧上に目盛りが刻まれたメータ画像300を表示するものである。メータ画像300のうち、目盛り301が刻まれた、メータの背景部分を「目盛り盤」という。また、扇形である目盛り盤の中心Oを「目盛り盤中心」という。また、目盛り301に付された値302を「目盛り値」という。目盛り値302は、時計回り方向に増加するものとする。また、目盛り値の範囲のうちで警戒すべき範囲を示す部分304を「警戒ゾーン」という。 【0010】 また、本実施形態で表示されるメータは、測定値を示すために、目盛り盤上に、「測定値指示画像303」を描画する。測定値指示画像303は、目盛り盤中心Oを中心位置とした所定の幅を備えた円弧状の画像であり、測定値305の増加とともに、目盛りの最小値の部分から徐々に時計回り方向に広がる。測定値指示画像303と背景画像との境界306により、測定値305が示される。」 (イ)図8から、測定値指示画像303は、扇状の窓孔状の表示部を有していること、背景画像に対して色の異なる面積を変化させることが看取できる。 上記記載及び図示内容を総合すると、甲第4号証には次の技術事項(以下「甲4記載事項」という。)が記載されている。 「車載機において、メータを表示する画像として、扇状の窓孔状の表示部と、測定値305の増加とともに、目盛りの最小値の部分から徐々に測定値指示画像303を時計回り方向に広げ、背景画像に対して色の異なる面積を変化させること。」 エ 甲第5号証(特開平9-189577号公報)の記載 甲第5号証には、「車両情報表示装置」に関し、図面(特に図13、図16を参照)とともに、次の記載がある。 「【0062】路面温度表示装置60は、演算部63で演算した経過的運転データと、赤外線センサ61が検出した路面温度とを、表示部16にグラフ表示する(図12)。このグラフ表示では、縦軸を路面温度、横軸を走行時間(図13(A))、走行距離(図13(B))、気圧(図13(C))の各値として表示を行なうことにより、乗員が車両走行時に、車両の走行時間による路面温度の変化、車両の走行距離による路面温度の変化、車両走行時の気圧(高度)変化に対する路面温度の変化を見て、グラフの傾きや路面温度の値で路面凍結の予知判断を行なうことができる。 【0063】また、路面温度表示装置60では、上述の検出路面温度の推移に関する路面凍結の予告警報基準(グラフの傾きや路面温度の値で規定できる)を予め定め、検出路面温度の推移が上記予告警報基準に達したときに路面凍結の予告警報表示を行なうことができる。 【0064】従って、本実施形態の路面温度表示モードによれば、下記、の作用がある。 【0065】車両走行時に、車両の経過的運転情報(走行時間、走行距離、気圧等)に対する、路面温度の推移が表示される。これにより、乗員は走行環境における路面温度の近い将来の変化を予測することができ、危険予知判断を行なうことができる。 【0066】車両の経過的運転情報に対する検出路面温度の傾きや、凍結路面温度等の予告警報基準を予め定めておくことにより、路面凍結の予告警報表示を行なうことができる。 【0067】(E) 走行抵抗表示モード(図14?図16) 車両情報表示装置10は、車速を検出する車速センサ71を有している。そして、制御装置11は、走行抵抗表示装置70を構成し、車速と走行抵抗の関係を回帰分析し、この回帰分析結果である走行抵抗表示を表示部16に表示するとともに、車速センサ71の検出車速に対応する走行抵抗を表示部16に表示せしめる。」 上記記載及び図示内容を総合すると、甲第5号証には次の技術事項(以下「甲5記載事項」という。)が記載されている。 「車両情報表示装置において、車速センサの検出車速に対応する走行抵抗をグラフで表示すること。」 (3-2)対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と引用発明とを対比する。 まず、本件発明1は、「待ち受け画面」を備えるものであるが、一般に待ち受け画面とは、「携帯電話で、通話などの操作をしていない状態のディスプレーに表示される画面。」(デジタル大辞泉 https://kotobank.jp/word/待受け画面-634574)を意味すること及び本件特許明細書の段落【0004】の「・・・一方、車両には例えばナビゲーション装置やマイクロ波検出器(レーダー探知機)のような車両用情報表示装置が搭載されることがあり、これら車両用情報表示装置の待ち受け用の画面に車両の運転情報を表示させることが想定される。・・・」との記載を踏まえると、本件発明1の「車両において取得した情報を相互に同一又は類似形状の外郭を有するメーターオブジェクトに表示させる機能を備えたシステム」とは、ナビゲーション装置やマイクロ波検出器(レーダー探知機)のような車両用情報表示装置を対象としたシステムであり、また、本件発明1の「待ち受け画面」とは、前記ナビゲーション装置やマイクロ波検出器(レーダー探知機)のような車両用情報表示装置で、その車両用情報(ナビゲーション情報やレーダー探知情報)の表示に係る操作をしていない状態のディスプレーに表示される画面を意味すると解すべきである。 一方、引用発明は、「車両のスピードメータ、タコメータ、燃料計、水温計等」といった、車両の運転操作に係る車両情報を表示する「車両用計器」の発明であって、前記「車両のスピードメータ、タコメータ、燃料計、水温計等」は、基本的に常時表示されるものである。 ここで、引用発明の「車両のスピードメータ、タコメータ、燃料計、水温計等」に表示される情報は、その機能・作用及びその技術的意義を踏まえると、本件発明1の「車両において取得した情報」に対応し、同様に、「2つの大きな円形状(11a)及び2つの小さな円形状(12a、13a)の輪郭」は「相互に同一又は類似形状の外郭」に、「計器部の画像」は「メーターオブジェクト」に、「表示させることができる」は「表示させる機能を備えた」に、「表示させる部分」は「表示可能な領域」に、「4つあるいは3つ備え」は「複数備え」にそれぞれ対応する。 そして、引用発明の「メータ構成パターン」は「異なる種類の計器部の画像を内部に表示する」ものであり、本件発明1の「待ち受け画面」は「異なる種類のメーターオブジェクトを表示する」ものであることを踏まえると、引用発明の「メータ構成パターン」と本件発明1の「待ち受け画面」とは、「画面」という限りにおいて一致する。 同様に、引用発明の「種々のメータ構成パターンの中からユーザーが任意に選択でき」と本件発明1の「ユーザによって1種類の待ち受け画面を選択させる第一の選択機能」とは、「ユーザによって1種類の画面を選択させる第一の選択機能」という限りにおいて一致し、引用発明の「車両用計器」と本件発明1の「システム」とは、「装置」という限りにおいて一致する。 そうすると、両者には次の一致点、相違点がある。 [一致点] 「車両において取得した情報を相互に同一又は類似形状の外郭を有するメーターオブジェクトに表示させる機能を備えた装置であって、 車両において取得した情報を表示させる前記メーターオブジェクトを内部に表示可能な領域を複数備え、当該複数の領域内間で異なる種類のメーターオブジェクトを表示する画面を複数備え、当該複数の画面からユーザによって1種類の画面を選択させる第一の選択機能を備える、 装置。」 [相違点] 本件発明1は、「待ち受け画面」を備える「システム」であって、「当該待ち受け画面内に表示する前記領域の数よりも多い数の種類の前記メーターオブジェクトから前記待ち受け画面内の前記領域内に表示する前記メーターオブジェクトを選択させる第二の選択機能の、二重の選択機能を備える」ものであるのに対し、引用発明は、「車両用計器」であって、「上記メータ構成パターンに表示するメータの目盛り、指針、書体、配色、背景等の各構成要素を選択できる」ものである点。 上記[相違点]について検討する。 既に示したとおり、引用発明は、「車両用計器」であって、その「車両のスピードメータ、タコメータ、燃料計、水温計等」は、基本的に常時表示されるものである。 一方、引用発明において、「待ち受け画面」が表示され得るか否かに関して、甲第2号証には、「待ち受け画面」を表示させることは記載されていないし、これを示唆する記載もない。 また、上記(3-1)イないしエで示した甲3記載事項ないし甲5記載事項は、「待ち受け画面」を備える「システム」や「当該待ち受け画面内に表示する前記領域の数よりも多い数の種類の前記メーターオブジェクトから前記待ち受け画面内の前記領域内に表示する前記メーターオブジェクトを選択させる第二の選択機能の、二重の選択機能を備える」こと(以下、「本件発明1事項」という。)を開示ないし示唆するものではないし、甲第3号証ないし甲第5号証のその余の記載を参照しても、これらの証拠に上記本件発明1特定事項が記載ないし示唆されているとはいえない。 さらに、令和2年8月11日付け回答書に添付された参考資料1:米国特許出願公開第2010/0302018号明細書及び参考資料2:米国特許出願公開第2007/0006101号明細書にも、上記本件発明1事項は記載されていないし、これを示唆する記載もない。 ゆえに、引用発明における「メータ構成パターン」を「待ち受け画面」に変更する動機付けとなる事由は、甲第2号証ないし甲第5号証や参考資料1、参考資料2の記載を参酌したとしても、存在しないといわざると得ないから、引用発明の構成を、上記[相違点]に係る本件発明1の発明特定事項に変更することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 そして、本件発明1は、本件特許明細書の段落【0004】に記載された「複数の車両の運転情報を任意に選択でき、選択した運転情報を同時に目視することのできる電子システム及びプログラムを提供する」という課題を解決し、段落【0022】に記載された「ユーザーは車両にもともと搭載されているメーター以外から複数の車両の運転情報を同時にかつ任意に得ることができるため、ユーザーの所望に応じた精密な車両の運転状態を判断する指標が得られることとなる」という格別の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、引用発明、甲3記載事項ないし甲5記載事項、参考文献1及び参考文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることできたものであるとはいえない。 イ 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8は、本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明、甲3記載事項ないし甲5記載事項、参考文献1及び参考文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることできたものであるとはいえない。 ウ.小括 したがって、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。 4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証:特開2009-154647号には、「A:各種測定装置85で取得した情報を、スピードメータ等の画像として表示させる機能を備えたシステムであって、B:車両において取得したスピード等の情報を表示させるスピードメータ等を内部に表示可能な相互に同一又は類似形状の画面31?33を画定する枠を複数備え、E:ワイド画面30に表示する2?5個の画面31?33を画定する枠よりも多い数の種類の画像301?307から画像31?33に表示する画像301?307を選択させる機能(S51?S57)を備えたシステム。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されており、本件発明1ないし8は、甲1発明、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。 しかしながら、甲第1号証にも、上記本件発明1事項は記載されていないし、これを示唆する記載もないから、たとえ、甲第1号証に上記甲1発明が記載されているとしても、本件発明1ないし8は、甲1発明、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、上記主張は、当を得たものではなく、採用できない。 第4 結語 以上のとおりであるから、本件発明1ないし8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができず、また、他に本件発明1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 車両において取得した情報を相互に同一又は類似形状の外郭を有するメーターオブジェクトに表示させる機能を備えたシステムであって、 車両において取得した情報を表示させる前記メーターオブジェクトを内部に表示可能な領域を複数備え、当該複数の領域内間で異なる種類の前記メーターオブジェクトを表示する待ち受け画面を複数備え、当該複数の待ち受け画面からユーザによって1種類の待ち受け画面を選択させる第一の選択機能と、 当該待ち受け画面内に表示する前記領域の数よりも多い数の種類の前記メーターオブジェクトから前記待ち受け画面内の前記領域内に表示する前記メーターオブジェクトを選択させる第二の選択機能の、二重の選択機能を備えること を特徴とするシステム。 【請求項2】 前記メーターオブジェクトとして、当該メーターオブジェクト1つで複数の取得した情報を表示させるメーターオブジェクトを備えること を特徴とする請求項1に記載のシステム。 【請求項3】 前記メーターオブジェクトとして、当該メーターオブジェクトの内部領域を上下に二分割して表示するメーターオブジェクトを備えること を特徴とする請求項1または2に記載のシステム。 【請求項4】 前記メーターオブジェクトとして、扇状の窓孔状の表示部を備え、当該扇状の周方向に沿って小さく分割された小扇状形状の指標オブジェクトを取得した情報の変化に応じて増減させることで背景に対して色の異なる面積を変化させるよう変動表示をさせるメーターオブジェクトを備えること を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシステム。 【請求項5】 前記メーターオブジェクトとして、取得した情報に基づいて所定の距離の変化とその間の燃費の変化の2つの情報について数値として変動表示をさせるためのメーターオブジェクトを備えること を特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシステム。 【請求項6】 前記複数の種類の待ち受け画面として、取得した現在の情報をその項目名と数値の組で表示し前記メーターオブジェクトの表示はしない待ち受け画面と、前記メーターオブジェクトを有する待ち受け画面とを備えること を特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のシステム。 【請求項7】 前記複数の種類の待ち受け画面として、取得した現在の情報をグラフで表示する待ち受け画面と、前記メーターオブジェクトを有する待ち受け画面とを備えること を特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のシステム。 【請求項8】 請求項1から7のいずれかに記載のシステムの機能をコンピュータに実現させるためのプログラム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-10-01 |
出願番号 | 特願2016-159421(P2016-159421) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B60K)
P 1 651・ 537- YAA (B60K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 木村 麻乃 |
特許庁審判長 |
北村 英隆 |
特許庁審判官 |
渡邊 豊英 金澤 俊郎 |
登録日 | 2018-11-30 |
登録番号 | 特許第6439108号(P6439108) |
権利者 | 株式会社ユピテル |
発明の名称 | 電子システム及びプログラム |