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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1369259
審判番号 不服2019-12987  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-30 
確定日 2021-01-12 
事件の表示 特願2018-246259「アルミニウム電解コンデンサ用セパレータ及びアルミニウム電解コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔令和2年7月9日出願公開、特開2020-107769、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年12月27日の出願であって、平成31年2月5日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月16日に意見書が提出され、令和1年6月3日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がされ、令和2年7月14日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月23日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、令和2年9月23日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし本願発明3はそれぞれ以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
一対の電極の間に介在するアルミニウム電解コンデンサ用セパレータであって、
前記一対の電極である陽極箔と陰極箔間に幅18mmの前記セパレータを介在させて巻回して得た直径6mm高さ18mmの素子の底面を電解液である1-エチル-2,3-ジメチル-4,5-ジヒドロイミダソリウム=水素=フタラートの25質量%γ-ブチロラクトン溶液に3mm浸したときに、LCRメーターを用いて、120Hz、20℃で測定した静電容量が、定格静電容量の90%以上になるまでの時間を測定した含浸速度が50秒以下である
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項2】
一対の電極と、前記一対の電極の間にセパレータを介在させてなるアルミニウム電解コンデンサであって、
請求項1記載のセパレータを用いることを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ。
【請求項3】
前記一対の電極における陰極材料として導電性高分子を用いることを特徴とする請求項2記載のアルミニウム電解コンデンサ。」

第3 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

理由1.(新規性)この出願の請求項1ないし3に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2.(進歩性)この出願の請求項1ないし3に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特許第6411620号公報

第4 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特許第6411620号公報)には、「固体電解コンデンサ又はハイブリッド電解コンデンサ用セパレータ及び固体電解コンデンサ又はハイブリッド電解コンデンサ」について、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)

(1)「【0001】
本発明は、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータおよび該セパレータを用いたアルミニウム電解コンデンサに関するものである。」

(2)「【0034】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、導電性高分子の重合液や分散液に対する耐性を有したまま、固体電解コンデンサに求められる厚さにおいて機械的強度を維持し、かつ、導電性高分子の重合液や分散液の含浸性を改善することで、さらなるESRの低減および静電容量の向上を実現したアルミニウム電解コンデンサ用セパレータおよびアルミニウム電解コンデンサを提供することを目的とする。」

(3)「【0036】
すなわち、本発明は、一対の電極の間に介在する、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータであって、該セパレータは、セルロース繊維と合成繊維とからなり、該セルロース繊維を40?80質量%、該合成繊維を20?60質量%含有し、かつ、空隙率が65?85%、圧縮含浸率が30% 以上であることを特徴とする。」

(4)「【0039】
また本発明のアルミニウム電解コンデンサは、セパレータとして上記のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータを用いたことを特徴とする。そして、上記アルミニウム電解コンデンサは、陰極材料として導電性高分子を用いることを特徴とする。」

(5)「【0049】
そこで、本発明の実施の形態に係るセパレータは、所定の圧縮含浸率を確保する構成としている。すなわち、本実施の形態に係るセパレータは、一対の電極の間に介在するアルミニウム電解コンデンサ用セパレータであって、該セパレータはセルロース繊維と合成繊維からなり、該セルロース繊維を40?80質量%、該合成繊維を20?60質量%含有し、かつ、空隙率が65?85%、圧縮含浸率が30%以上である。
【0050】
本実施の形態に係るセパレータは、圧縮含浸率を30%以上とすることで、固体電解コンデンサのESRを低減し、静電容量を向上している。セパレータの圧縮含浸率は50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。一方、圧縮含浸率が30%未満では、コンデンサ素子形成時、素子内部まで導電性高分子層を均一に形成できないため、コンデンサのESRの低減および静電容量を向上させることができない。」

(6)「【0098】
具体的な固体電解コンデンサの作製方法は、以下の通りである。
エッチング処理および酸化皮膜形成処理を行った陽極箔と陰極箔とが接触しないようにセパレータを介在させて巻回し、コンデンサ素子を作製した。作製したコンデンサ素子は、再化成処理後、乾燥させた。」

上記(1)によれば、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータおよび該セパレータを用いたアルミニウム電解コンデンサが記載されている。
上記(3)及び(5)によれば、上記アルミニウム電解コンデンサ用セパレータは、一対の電極の間に介在する。また、上記(6)によれば、該一対の電極は、陽極箔と陰極箔とからなる。
上記(3)及び(5)によれば、上記アルミニウム電解コンデンサ用セパレータは、セルロース繊維と合成繊維とからなり、該セルロース繊維を40?80質量%、該合成繊維を20?60質量%含有し、かつ、空隙率が65?85%、圧縮含浸率が30% 以上である。
上記(4)によれば、上記アルミニウム電解コンデンサは、陰極材料として導電性高分子を用いる。
上記(2)及び(5)によれば、ESRの低減および静電容量の向上を目的とし、圧縮含浸率を30%以上とすることで、固体電解コンデンサのESRを低減し、静電容量を向上している。

以上を総合すると、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「陽極箔と陰極箔とからなる一対の電極の間に介在するアルミニウム電解コンデンサ用セパレータであって、
該セパレータはセルロース繊維と合成繊維からなり、該セルロース繊維を40?80質量%、該合成繊維を20?60質量%含有し、かつ、空隙率が65?85%、圧縮含浸率が30%以上である、
アルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明における「陽極箔と陰極箔とからなる一対の電極」は、本願発明における「一対の電極」に相当する。
イ 引用発明と本願発明1は、「アルミニウム電解コンデンサ用セパレータ」である点、及び、当該セパレータが「一対の電極の間に介在する」点で共通する。
ただし、本願発明1のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータが「前記一対の電極である陽極箔と陰極箔間に幅18mmの前記セパレータを介在させて巻回して得た直径6mm高さ18mmの素子の底面を電解液である1-エチル-2,3-ジメチル-4,5-ジヒドロイミダソリウム=水素=フタラートの25質量%γ-ブチロラクトン溶液に3mm浸したときに、LCRメーターを用いて、120Hz、20℃で測定した静電容量が、定格静電容量の90%以上になるまでの時間を測定した含浸速度が50秒以下である」のに対して、引用発明のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータはその旨の特定がない点で相違する。

したがって、本願発明1と引用発明は、
「一対の電極の間に介在するアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願発明1は「前記一対の電極である陽極箔と陰極箔間に幅18mmの前記セパレータを介在させて巻回して得た直径6mm高さ18mmの素子の底面を電解液である1-エチル-2,3-ジメチル-4,5-ジヒドロイミダソリウム=水素=フタラートの25質量%γ-ブチロラクトン溶液に3mm浸したときに、LCRメーターを用いて、120Hz、20℃で測定した静電容量が、定格静電容量の90%以上になるまでの時間を測定した含浸速度が50秒以下である」のに対して、引用発明はその旨の特定がない点。

(2)判断
ア 特許法第29条第1項(新規性)について
本願発明1と引用発明は、上記相違点で相違するから、本願発明1は引用発明であるとはいえない。
したがって、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

イ 特許法第29条第2項(進歩性)について
引用文献1には、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータの含浸速度について何ら記載も示唆もされていない。
また、引用発明のセパレータは「セルロース繊維と合成繊維からなり、該セルロース繊維を40?80質量%、該合成繊維を20?60質量%含有し、かつ、空隙率が65?85%、圧縮含浸率が30%以上である」が、それを実施するための形態である実施例1ないし8のセパレータ原料及びその混合比(引用文献1の表1等参照)は、本願発明の実施例1ないし4(本願明細書の表1等参照)とは異なるものであるから、引用発明において「前記一対の電極である陽極箔と陰極箔間に幅18mmの前記セパレータを介在させて巻回して得た直径6mm高さ18mmの素子の底面を電解液である1-エチル-2,3-ジメチル-4,5-ジヒドロイミダソリウム=水素=フタラートの25質量%γ-ブチロラクトン溶液に3mm浸したときに、LCRメーターを用いて、120Hz、20℃で測定した静電容量が、定格静電容量の90%以上になるまでの時間を測定した含浸速度が50秒以下である」ことが自明であるといはいえない。
そして、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータを「前記一対の電極である陽極箔と陰極箔間に幅18mmの前記セパレータを介在させて巻回して得た直径6mm高さ18mmの素子の底面を電解液である1-エチル-2,3-ジメチル-4,5-ジヒドロイミダソリウム=水素=フタラートの25質量%γ-ブチロラクトン溶液に3mm浸したときに、LCRメーターを用いて、120Hz、20℃で測定した静電容量が、定格静電容量の90%以上になるまでの時間を測定した含浸速度が50秒以下である」ようにすることを示す他の文献は存在せず、周知技術又は技術常識であるとも認められない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2及び本願発明3について
上記「第4」で説示したとおり、引用文献1には、上記引用発明のセパレータを用いたアルミニウム電解コンデンサについても記載されている(上記「第4」の(1)参照。)。
また、引用文献1には、上記アルミニウム電解コンデンサは、陰極材料として導電性高分子を用いることも記載されている(上記「第4」の(4)参照。)。
しかしながら、本願発明2及び本願発明3も、本願発明1の「前記一対の電極である陽極箔と陰極箔間に幅18mmの前記セパレータを介在させて巻回して得た直径6mm高さ18mmの素子の底面を電解液である1-エチル-2,3-ジメチル-4,5-ジヒドロイミダソリウム=水素=フタラートの25質量%γ-ブチロラクトン溶液に3mm浸したときに、LCRメーターを用いて、120Hz、20℃で測定した静電容量が、定格静電容量の90%以上になるまでの時間を測定した含浸速度が50秒以下である」と同一の発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.まとめ
以上のとおり、本願発明1ないし本願発明3は、上記引用文献1に記載された発明ではなく、また、上記引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由(令和2年7月14日付け拒絶理由通知)について
1.特許法第36条第6項第2号(明確性)について
当審では、請求項1に「前記一対の電極間に前記セパレータを介在させて巻回して得た素子の底面を電解液に浸した含浸速度が50秒以下であること」と記載されているが、上記含浸速度が、どのような方法及び条件で測定された値であるのかが明確に特定されていないから、請求項1とその従属請求項である請求項2及び3に係る発明の技術的範囲が不明確であるとの拒絶の理由を通知した。
しかしながら、令和2年9月23日の手続補正によって「前記一対の電極である陽極箔と陰極箔間に幅18mmの前記セパレータを介在させて巻回して得た直径6mm高さ18mmの素子の底面を電解液である1-エチル-2,3-ジメチル-4,5-ジヒドロイミダソリウム=水素=フタラートの25質量%γ-ブチロラクトン溶液に3mm浸したときに、LCRメーターを用いて、120Hz、20℃で測定した静電容量が、定格静電容量の90%以上になるまでの時間を測定した」と補正されたことによって、含浸速度を測定する方法及び条件は明確になったため、この拒絶の理由は解消した。

2.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
当審では、請求項1に「前記一対の電極間に前記セパレータを介在させて巻回して得た素子の底面を電解液に浸した含浸速度が50秒以下であること」と記載されているが、発明の詳細な説明に記載された測定方法及び条件を、請求項1に係る範囲にまで拡張ないし一般化することはできないから、請求項1とその従属請求項である請求項2及び3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないとの拒絶の理由を通知した。
しかしながら、令和2年9月23日の手続補正によって「前記一対の電極である陽極箔と陰極箔間に幅18mmの前記セパレータを介在させて巻回して得た直径6mm高さ18mmの素子の底面を電解液である1-エチル-2,3-ジメチル-4,5-ジヒドロイミダソリウム=水素=フタラートの25質量%γ-ブチロラクトン溶液に3mm浸したときに、LCRメーターを用いて、120Hz、20℃で測定した静電容量が、定格静電容量の90%以上になるまでの時間を測定した」と補正されたことによって、発明の詳細な説明に記載された測定方法及び条件となったため、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし3に係る発明は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-12-18 
出願番号 特願2018-246259(P2018-246259)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01G)
P 1 8・ 537- WY (H01G)
P 1 8・ 113- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 國分 直樹
須原 宏光
発明の名称 アルミニウム電解コンデンサ用セパレータ及びアルミニウム電解コンデンサ  
代理人 特許業務法人信友国際特許事務所  

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