• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B28B
管理番号 1369372
審判番号 不服2019-2959  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-04 
確定日 2020-12-14 
事件の表示 特願2016-520610「石膏プラスターボードを生産するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月16日国際公開、WO2015/051822、平成28年11月24日国内公表、特表2016-536159〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2013年(平成25年)10月7日を国際出願日とする出願であって、平成29年8月18日付けで拒絶理由が通知され、同年11月21日に意見書、手続補正書及び誤訳訂正書が提出され、平成30年3月28日付けで拒絶理由が通知され、同年6月28日に意見書が提出され、同年10月26日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成31年3月4日に審判が請求され、平成31年3月14日に上申書が提出され、令和2年3月17日発信の当審からの電話問い合わせに対して同年4月28日に上申書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願に係る発明は、平成29年11月21日付けの手続補正により補正されたとおりのものであるところ、その請求項1は、以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】
トリミングデバイスを使用して、プラスターボードトリミング工程の石膏プラスターボード残余物から入手される生のバンドラ屑を供給するステップと;
石膏プラスターボードを生産するために石膏スラリーに生のバンドラ屑の少なくとも一部を加えるステップと:
を含む、石膏プラスターボードを生産するための方法であって、
生のバンドラ屑が、疎水性剤がシリコーン油である含浸プラスターボードの生産工程から入手される、
前記方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定は、
「この出願については、平成30年 3月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。」
というものである。
その「理由1」とは、
「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(進歩性)について
・請求項 1-3,5-7,9,11-14
・引用文献等 1-6」
というものである。
原査定の備考には、
「…引用文献1には、前記廃材粉末が、「トリミングデバイス」を使用して得られる「バンドラ」屑であることについて記載されていない。

してみると、引用文献1の廃材粉末として、石膏ボードの裁断時等に発生する廃材を用いること、及び、その裁断手段としてバンドラ鋸を用いることは、周知技術を寄せ集めたにすぎず、当業者が容易になし得ることである。」
と記載がされている。
この備考の記載における「引用文献1」は、上記理由1の「引用文献等:1」の「特開平10-330174号公報」(以下、「引用例」という。)である。
そうすると、原査定の拒絶の理由は、本願発明については、本願発明は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであると認められる。

第4 当審の判断
当審は、原査定の上記理由のとおり、本願発明は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、と判断する。
以下、詳述する。

1 引用例に記載された事項
引用例は、その出願前に頒布されたことが明らかな、「気泡入り石膏ボード」(発明の名称)について記載する特許文献であり、そこには以下の記載がある(審決注:下線は当審が付与した。以下、同じ)。

「【0007】
【課題を解決するための手段】…本発明は、石膏ボードを構成する石膏芯材中に、気泡と整泡剤とが混在していることを特徴とする気泡入り石膏ボードである。本発明者等は、前記課題を鑑みて鋭意研究したところ、整泡剤として消泡効果又は破泡効果を有する化合物をスラリー中に添加することにより、スラリー中の微細な気泡群同士の結合が促進され、瞬時により大きな気泡を形成し、且つ該化合物の発泡抑制作用によってミキサー内で破泡して生じた起泡剤が、撹拌中に再発泡するのを抑え、コア中に均一で大きな気泡を得ることが可能となり、原紙に対する接着性を有し且つ強度の向上した軽量な石膏ボードが得られるとの知見を得て本発明を完成した。
【0008】
【発明の実施の形態】…本発明においていう整泡剤とは、消泡効果又は破泡効果を有する化合物を意味し、消泡効果を有する化合物には、一般にいう消泡剤、即ち高級脂肪酸誘導体等の有機系化合物、アルコール類、シリコーン油、パラフィン等に加えて、これらを使用して完成した水硬性物質(石膏或いはセメント類)製品、或いはその廃材粉末、及びペースト類等が挙げられる。

【0010】…整泡剤が固形状であるときは、粒状とし(その粒径は微細であることが望ましい)、単独若しくは焼石膏等の粉状物に加え、ミキサー内に投入できる。
【0011】本発明の石膏ボードの製造方法は、以上のように特定量の整泡剤を使用する以外は従来の公知の石膏ボードの製造方法と実質的に変わるところはない。即ち、焼石膏、接着剤、種々の添加剤及び水と、軽量化を図るために予め発泡した泡とをミキサーで混練し、得られるスラリーを上下の原紙間に流し込み、次いで、厚みや幅を決定する成型機を通過させ、硬化後粗切断して強制乾燥機を通し、しかる後に、製品寸法に裁断して製造される。

【0013】
【実施例】次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
実施例1?8
焼石膏100重量部、水85重量部、減水剤0.3重量部、メチルセルローズ1重量部及び硬化促進剤3.0重量部に、それぞれ下記記載の整泡剤(消泡剤又は破泡剤)と起泡剤とを慣用のピンミキサーを用いて混練したスラリーを使用して、常法により石膏ボードを製造した。…
【0015】
実施例3
整泡剤:撥水性石膏ボードの粉末(註1) 1重量部
起泡剤:アルキルエーテル硫酸塩(東邦化学製) 0.05重量部
註1)撥水性石膏ボード中の撥水剤はパラフィンエマルションで、使用量は焼石膏100重量部に対して3重量部である。」

2 引用例に記載された発明
引用例には、「気泡と整泡剤とが混在していることを特徴とする気泡入り石膏ボード」(【0007】)であって、その「整泡剤」を、「一般にいう消泡剤、即ち高級脂肪酸誘導体等の有機系化合物、アルコール類、シリコーン油、パラフィン等…を使用して完成した水硬性物質(石膏…)製品…の廃材粉末」(【0008】)など、例えば、「整泡剤」を一般にいう消泡剤、即ちシリコーン油、パラフィン等を使用して完成した石膏製品の廃材粉末、とする石膏ボードが記載されていることが認められる。
その石膏ボードの製造方法については、「特定量の整泡剤を使用する以外は従来の公知の石膏ボードの製造方法と実質的に変わるところはない。」(【0011】)とされ、従来の公知の石膏ボードの製造方法とは、
「焼石膏、接着剤、種々の添加剤及び水と、軽量化を図るために予め発泡した泡とをミキサーで混練し、得られるスラリーを上下の原紙間に流し込み、次いで、厚みや幅を決定する成型機を通過させ、硬化後粗切断して強制乾燥機を通し、しかる後に、製品寸法に裁断」(【0011】)する方法と認められる。
そして、実施例においては「整泡剤(消泡剤又は破泡剤)と起泡剤とを慣用のピンミキサーを用いて混練したスラリーを使用」(【0013】)することが記載されていることから、引用例には気泡入り石膏ボードの製造方法として、
「焼石膏、接着剤、種々の添加剤及び水と、軽量化を図るために予め発泡した泡とをミキサーで混練し、得られるスラリーを上下の原紙間に流し込み、次いで、厚みや幅を決定する成型機を通過させ、硬化後粗切断して強制乾燥機を通し、しかる後に、製品寸法に裁断する石膏ボードの製造方法において、
シリコーン油、パラフィン等を使用して完成した石膏製品の廃材粉末を混練したスラリーを使用する石膏ボードの製造方法」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 本願発明と引用発明との対比
本願発明の「生のバンドラ屑」は、「トリミングデバイスを使用して、プラスターボードトリミング工程の石膏プラスターボード残余物から入手される」ものであって、プラスターボードトリミング工程は、乾燥工程を経た石膏ボード製品のサイズを調整する工程であると認められるから、
引用発明の「シリコーン油、パラフィン等を使用して完成した石膏製品の廃材粉末」と、本願発明の「生のバンドラ屑」とは、「石膏製品の残余物から入手される屑」である点で、共通する。
また、引用発明の「シリコーン油、パラフィン等を使用して完成した石膏製品の廃材粉末」のうち「シリコーン油」を含む態様は、本願発明の「生のバンドラ屑」が「疎水性剤がシリコーン油である含浸プラスターボードの生産工程から入手される」ものであることから、「シリコーン油」を含む点でも、共通する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「シリコーン油を含む石膏製品の残余物から入手される屑を供給するステップと;
石膏ボードを生産するために石膏スラリーに上記シリコーン油を含む石膏製品の残余物から入手される屑の少なくとも一部を加えるステップと:
を含む、石膏ボードを生産するための方法」
である点で一致し、以下の点で相違するといえる。
(相違点)
「シリコーン油を含む石膏製品の残余物」が、本願発明においては、「疎水性剤がシリコーン油である含浸プラスターボードの生産工程から入手される」もので、「トリミングデバイスを使用して、プラスターボードトリミング工程からの」ものである、「生のバンドラ屑」であるのに対して、引用発明においては、そのような生産工程のそのような工程からのものか、不明である点

4 相違点について
(1)本願発明の「含浸プラスターボードの生産工程」における「トリミングデバイスを使用して、プラスターボードトリミング工程からの」「バンドラ屑」とは、「バンドラ鋸」などのトリミングデバイスにより含浸プラスターボードをトリムしたときに発生する切削屑またはそれを砕いた粉末の「ごみ」である(令和2年4月28日の上申書2.を参照)と認められる。
そして、本願発明の「疎水性剤がシリコーン油である含浸プラスターボード」とは、吸水性等を低減させるために、シリコーン油を疎水化剤として添加した石膏プラスターボードであることは、令和2年4月28日の上申書3.に主張されるとおりである。
(2)引用例の実施例3に「整泡剤」として、「撥水性石膏ボードの粉末」(撥水剤はパラフィンエマルション)(【0015】)を用いた例が記載されるとおり、引用発明の「シリコーン油、パラフィン等」は、石膏ボードに「撥水性」を付与するための剤(撥水剤、疎水化剤)として周知慣用の物質である(さらに必要であれば、原査定で引用した、特表2008-509824号【0002】?【0015】[背景]の欄。特に【0008】末文及び【0013】を参照)。
そうすると、引用発明の「シリコーン油、パラフィン等」の撥水剤「を使用して完成した石膏製品(石膏ボード)」は、本願発明の前記(1)のシリコーン油を疎水化剤として添加した石膏プラスターボード、即ち、「疎水性剤がシリコーン油である含浸プラスターボード」に相当すると解するのが合理的である。
そして、引用発明における「シリコーン油、パラフィン等を使用して完成した石膏製品」、即ち、「疎水性剤がシリコーン油である含浸プラスターボード」の「廃材粉末」として、前記従来の公知の石膏ボードの製造方法においてトリムしたときに発生することが知られる切削屑またはそれを砕いた粉末(バンドラ屑)のような適宜の廃材粉末を用いることは、当業者にとって何ら困難なこととはいえない。
(3)なお、本願発明の「生のバンドラ屑」の、「生の」屑とは、令和2年4月28日の上申書1.(1)のとおり、「焼成していない」屑をいう、と認められる。そして、請求人は、引用例には廃材粉末を焼成しない状態でスラリー材料に混ぜて使用することについて記載も示唆もない一方、石膏プラスターボードの廃材の再利用の際には、焼成されていない石膏をそのまま用いることは適切ではなく、焼成して化粧しっくいの形態にしてから用いる必要があるというのが当業者の技術常識であることを主張する。
しかし、引用発明の廃材粉末は、それに含まれる撥水剤の整泡作用を利用するものであるから、請求人の主張する化粧しっくいの形態にして再利用するという従来技術とは異なるものとして理解されるし、焼成処理すると撥水剤が消失(分解、変質)してしまうことなどが考えられるから、焼成はしていない屑、すなわち、「生の」屑であると解釈するのが妥当である。
よって、この点で両者が相違するとはいえない(したがって、令和2年4月28日の上申書1.(1)の補正案としても、上記判断は左右されない。)。

5 本願発明の効果について
本願発明の「生のバンドラ屑」を「添加物」(【0001】)として使用する作用効果について、発明の詳細な説明には、
「(生の)バンドラ屑の追加は、軽く、安定的な石膏プラスターボードが生産され得るように、細孔集積効果という結果になる。(紙が生産工程内で使用される場合)紙接着は、より高い重量を備え、または改良されてさえあるボードに匹敵する。」(【0011】)、
「発泡触媒としての(生の)バンドラ屑の追加を備える上記の解決策は、テストされた。結果は、より低い紙接着なしの、実質的なボード重量の減少であった(逆に、紙接着は、改良さえされた)。したがって、本発明は、低重量プラスターボードの生産を可能にする。」(【0031】)
などと記載されている(ただし、効果を確認できるデータはない。)。
しかし、「細孔集積効果」による低重量化、「紙接着」の改良に関し、引用例にはシリコーン油など整泡剤添加の効果として、
「スラリー中の微細な気泡群同士の結合が促進され、瞬時により大きな気泡を形成し、且つ該化合物の発泡抑制作用によってミキサー内で破泡して生じた起泡剤が、撹拌中に再発泡するのを抑え、コア中に均一で大きな気泡を得ることが可能となり、原紙に対する接着性を有し且つ強度の向上した軽量な石膏ボードが得られる」(【0007】)
と記載されている。
したがって、上記効果も引用発明の奏する効果から予測される範囲内のものであって、格別顕著なものということはできない。

6 まとめ
そうすると、本願発明は、その出願前に頒布された引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は、同法第49条第1項第2号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2020-07-14 
結審通知日 2020-07-15 
審決日 2020-07-29 
出願番号 特願2016-520610(P2016-520610)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B28B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 久子  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 川村 裕二
菊地 則義
発明の名称 石膏プラスターボードを生産するための方法  
代理人 葛和 清司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ