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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1369702 |
審判番号 | 不服2020-6182 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-05-07 |
確定日 | 2021-01-21 |
事件の表示 | 特願2015-252528号「多芯プラスチック光ファイバケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年6月29日出願公開、特開2017-116750号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年12月24日を出願日とするものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和元年 7月24日付け:拒絶理由通知書 令和元年 9月20日 :意見書、手続補正書の提出 令和2年 2月 4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和2年 5月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願請求項1ないし4に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明4」とそれぞれいう。)は、令和2年5月7日付け手続補正書により補正(以下、この補正を「本件補正」という。)がされた特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明1は次のとおりのものである。 「【請求項1】 裸線と、前記裸線の外側に設けられた保護層と、前記保護層の外側に設けられた被覆層と、を有する多芯プラスチック光ファイバケーブルであって、 前記裸線が、ポリメチルメタクルリレート系樹脂からなる芯と、前記芯の周りを取り囲んだ鞘と、を含み、 前記芯の本数が7?10000本であり、 前記鞘を形成する樹脂(鞘樹脂)が、(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位とを重合単位の主成分とする共重合体を含み、前記共重合体中の(A)と(B)との質量比(B)/(A)が1.4?1.7、(A)と(C)との質量比(C)/(A)が0.75?0.95であり、且つ、前記共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を含み、 前記保護層が、ビニリデンフルオライド単位20?35モル%、テトラフルオロエチレン単位57?70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位8?16モル%からなる共重合体を含み、 前記被覆層が、ポリアミド樹脂を含み、 前記裸線と前記保護層とを含む素線と、前記被覆層との接着力が50N以上である、 多芯プラスチック光ファイバケーブル。」 なお、本願発明2?4は、本願発明1を減縮した発明である。 第3 原査定の概要 原査定は、本件補正前の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件補正前の請求項2、3、4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 引用文献1:特開2012-27304号公報 引用文献2:特開2005-164715号公報(原査定が提示した引用文献4である。) 第4 引用文献及び引用発明 1.引用文献1及び引用発明 (1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2012-27304号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、プラスチック光ファイバ素線及びケーブルに関する。」 イ 「【0007】 [2]前記共重合体の末端にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を有することを特徴とする[1]に記載のプラスチック光ファイバ素線。 [3]前記共重合体の炭素数1×10^(6)個当たりに含まれるカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方の数が3?1000個であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のプラスチック光ファイバ素線。 [4]前記共重合体が150?200℃の範囲に融点を有し、ナトリウムD線で20℃で測定した屈折率が1.37?1.41であり、メルトフローレート(230℃、荷重3.8kg、オリフィスの直径2mm、長さ8mm)が5?100g/10分であることを特徴とする[1]から[3]のいずれか1項に記載のプラスチック光ファイバ素線。 【0008】 [5]前記共重合体の23℃におけるショアD硬度の値がASTM D2240に準拠して測定して場合に50?90であることを特徴とする[1]から[4]のいずれか1項に記載のプラスチック光ファイバ素線。 [6]前記プラスチック光ファイバ素線の径方向断面形状が略円形状であることを特徴とする[1]から[5]のいずれか1項に記載のプラスチック光ファイバ素線。 [7]前記芯が、前記プラスチック光ファイバ素線の中心軸を中心とした略円周上に配置されていることを特徴とする[1]から[6]のいずれか1項に記載のプラスチック光ファイバ素線。 [8][1]から[7]のいずれか1項に記載のプラスチック光ファイバ素線の外側に熱可塑性樹脂から形成される被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブル。 [9][8]に記載のプラスチック光ファイバケーブルを約120?130℃条件下で熱処理してなるプラスチック光ファイバケーブル。」 ウ 「【0011】 本実施形態のプラスチック光ファイバケーブルは、1本の芯を有する単芯プラスチック光ファイバケーブル又は複数の芯を有する多芯プラスチック光ファイバケーブルである。該プラスチック光ファイバケーブルは、芯と、芯の外周に被覆形成された鞘層と、鞘層の外周に被覆形成された被覆層の3層とを備えている。この場合、芯と鞘層を合わせてプラスチック光ファイバ素線という。被覆層の外側にさらに外被覆層を設けても良い。これにより屋外での長期使用や接触する化学薬品の影響からプラスチック光ファイバ素線をより確実に保護することができる。 【0012】 芯を構成する樹脂(以下、『芯樹脂』ともいう。)は、ポリメチルメタクリレート系樹脂を使用する。ポリメチルメタクリレート系樹脂とは、メチルメタクリレートの単独重合体、或いはメチルメタクリレート成分を50重量%以上含んだ共重合体をいう。メチルメタクリレート成分と共重合可能な成分としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのメタクリル酸エステル類、イソプロピルマレイミドのようなマレイミド類、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンなどがあげられ、これらの中から一種以上適宜選択して共重合させたものが好ましい。ポリメチルメタクリレート系樹脂の分子量は、メルトフローの観点から、重量平均分子量として8万?20万程度のものが成形しやすいので好ましく、特に10万?12万が好ましい。また芯樹脂には、その透明性を損なわない範囲で添加剤等を含ませてもよい。 【0013】 鞘層は芯の外側に被覆形成される。鞘層を設けることで、鞘層と芯との界面での反射により曲がった光ファイバ内を光信号が伝播される。該鞘層は少なくとも1層の鞘層からなる。該鞘層が2層以上の場合には内側に位置する鞘層を構成する樹脂よりも外側に位置する鞘層を構成する樹脂の屈折率を低くすれば、臨界角を超えて鞘層を突き抜けた光の一部を鞘層と鞘層との界面反射により回収することが可能になるので好ましい。本実施形態のプラスチック光ファイバ素線は、芯に接する鞘層を構成する樹脂(以下、『第1鞘樹脂』ともいう。)に、(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位を重合単位の主成分とする共重合体であって、且つ、共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を有する共重合体を用いる。尚、共重合体の末端のみにカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を有する場合も共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を有する共重合体に含むものとする。又、カーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方とは、カーボネート基とハロホルミル基の両方を有する場合も含む。 【0014】 ここで、『主成分』とは、前記(A)?(C)成分以外の成分の量が相対的に少ないことを意味し、前記共重合体中の前記(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位の合計含有量が70質量%以上であれば十分である。前記共重合体中の(A)?(C)の合計含有量はより好ましくは80重量%以上、更に好ましくは85重量%以上、特に好ましくは90重量%以上であるが、本願発明の効果を損なわない範囲で、上記(A)?(C)に(A)?(C)と共重合可能な他の単量体を共重合させてもよい。(A)?(C)と共重合可能な他の単量体としては、例えば、ヘキサフルオロイソブテン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等のオレフィン系が挙げられる。 【0015】 更に、本実施形態では、鞘層を形成する共重合体として、前記共重合体中の(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位との質量比(B)/(A)が1.4?1.7であり、(A)エチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位との質量比(C)/(A)が0.75?0.95である共重合体を使用する。 前記共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を有し、且つ、前記共重合体中の(A)?(C)の質量比が上記範囲の共重合体をポリメチルメタクリレート系樹脂からなる芯の鞘層として使用すると、120?130℃という高温環境下で熱処理を行った際の伝送損失の低下を抑制し得る。特にカーボネート基を使用すると、熱処理による伝送損失の低下が極めて少なくなり、好ましい。更に前記共重合体の末端にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方が存在すると、熱処理による伝送損失の低下が極めて少なくなり、好ましい。」 エ 「【0022】 鞘層が2層以上の場合には、第1鞘層を構成する樹脂よりも外側に位置する鞘層を構成する樹脂として、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる3元共重合体またはヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる2元共重合体を使用することが好ましい。(以下、鞘層が2層以上の場合には芯に近い鞘層から順に第1鞘層、第2鞘層・・・とする。) 【0023】 最外鞘層を構成する樹脂としては、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる3元共重合体またはヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる2元共重合体が好ましく、より好ましくはテトラフルオロエチレン成分が0モル%を超え55モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が8?25モル%、ビニリデンフルオライド成分が30?92モル%を含む共重合体からなる樹脂である。テトラフルオロエチレン成分が28モル%を超え40モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が8?22モル%、ビニリデンフルオライド成分が40?62モル%を含む共重合体からなる樹脂が更に好ましい。特に好ましくはテトラフルオロエチレン成分が28モル%を超え35モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が9?13モル%、ビニリデンフルオライド成分が52?60モル%の樹脂である。該樹脂はナイロン12の被覆層と非常に強固に接着し、その引き抜き強度が強くピストニングを抑制する効果がある。本実施形態において、被覆層樹脂はポリアミド系樹脂が好ましく、その中でもナイロン12がより好ましい。」 (当審注:「・・・ピストニングを抑制する効果ある。」は、「・・・ピストニングを抑制する効果がある。」の明らかな誤記と認められるので、誤記を正した上で、認定した。) (2)上記(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、引用発明の認定に用いた段落番号等を、参考までに、括弧内に付してある。 「芯と、芯の外周に被覆形成された鞘層と、鞘層の外周に被覆形成された被覆層の3層とを備えている多芯プラスチック光ファイバケーブルであって、前記芯と前記鞘層を合わせてプラスチック光ファイバ素線といい(【0011】)、 前記芯を構成する樹脂は、ポリメチルメタクリレート系樹脂であり(【0012】)、 前記芯に接する鞘層を構成する樹脂(第1鞘樹脂)は、(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位を重合単位の主成分とする共重合体であって、且つ、共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を有する共重合体を用い(【0013】)、 更に、鞘層を形成する共重合体として、前記共重合体中の(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位との質量比(B)/(A)が1.4?1.7であり、(A)エチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位との質量比(C)/(A)が0.75?0.95である共重合体を使用し(【0015】)、 前記鞘層が2層以上の場合には、第1鞘層を構成する樹脂よりも外側に位置する鞘層を構成する樹脂として、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる3元共重合体を使用することが好ましく、鞘層が2層以上の場合には芯に近い鞘層から順に第1鞘層、第2鞘層とし(【0022】)、最も外側の鞘層を最外鞘層とし、 前記最外鞘層を構成する樹脂としては、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる3元共重合体が好ましく、より好ましくはテトラフルオロエチレン成分が0モル%を超え55モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が8?25モル%、ビニリデンフルオライド成分が30?92モル%を含む共重合体からなる樹脂であり、テトラフルオロエチレン成分が28モル%を超え40モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が8?22モル%、ビニリデンフルオライド成分が40?62モル%を含む共重合体からなる樹脂が更に好ましく、特に好ましくはテトラフルオロエチレン成分が28モル%を超え35モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が9?13モル%、ビニリデンフルオライド成分が52?60モル%の樹脂であり、該樹脂はナイロン12の被覆層と非常に強固に接着し、その引き抜き強度が強くピストニングを抑制する効果があり、被覆層樹脂はポリアミド系樹脂が好ましく、その中でもナイロン12がより好ましい(【0023】)、 多芯プラスチック光ファイバケーブル。」 2.引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2005-164715号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、曲げ伝送損失ならびに高温環境下における寸法安定性に優れたプラスチック光ファイバ素線並びにプラスチック光ファイバケーブルの製造方法に関する。」 「【0077】 (実施例1) コア材としてPMMA(屈折率1.492)、第1クラッド材として、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(3FM)/2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(17FM)/メタクリル酸メチル(MMA)=50/30/20(質量%)の共重合体(屈折率1.417)、第2クラッド材料として、VdF/TFE/HFPの共重合体(20/60/20(質量%)、屈折率1.350、ショアD硬度は58(23℃)、38(90℃))を用いた。これらの重合体を溶融して、220℃の紡糸ヘッドに供給し、同心円状複合ノズルを用いて溶融複合紡糸した後、140℃の熱風加熱炉中で繊維軸方向に2倍に延伸し、第1クラッドと第2クラッドの厚みが各10μm、直径1mmのPOF素線を得た。このPOF素線を、ポリスチレン製のボビン(熱変形温度105℃)に300gfの張力をかけた状態で巻き取った。なお、このPOF素線の延伸率は2.0であった。」 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「『芯』と『芯の外周に被覆形成された鞘層』のうち『前記芯に接する鞘層』である『第1鞘層』とからなる構造」は、本願発明1の「裸線」に相当するといえる。 イ 引用発明の「最外鞘層」は、「最も外側の鞘層」であるから、上記アにも照らせば、本願発明1の「前記裸線の外側に設けられた保護層」とは、「前記裸線の外側に設けられた」裸線外側配置層である点で一致するといえる。 ウ 引用発明の「鞘層の外周に被覆形成された被覆層」は、上記イにも照らせば、本願発明1の「前記保護層の外側に設けられた被覆層」とは、前記裸線外側配置層「の外側に設けられた被覆層」である点で一致するといえる。 エ 引用発明は、「前記芯を構成する樹脂は、ポリメチルメタクリレート系樹脂であ」るから、引用発明は、本願発明1の「ポリメチルメタクルリレート系樹脂からなる芯」との特定事項を備える。 引用発明の「第1鞘層」は、「前記芯に接する鞘層」を構成するとともに「芯の外周に被覆形成され」ているから、本願発明1の「前記芯の回りを取り囲んだ鞘」であるといえる。 そして、引用発明は、上記アのとおり、「芯」と「第1鞘層」とからなる構造が、本願発明1でいう「裸線」といえるものである。 そうすると、引用発明は、本願発明1の「前記裸線が、ポリメチルメタクルリレート系樹脂からなる芯と、前記芯の周りを取り囲んだ鞘と、を含み、」との特定事項を備える。 オ 引用発明の「第1鞘層」は、「(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位を重合単位の主成分とする共重合体であって、且つ、共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を有する共重合体を用い」てなるとともに、「前記共重合体中の(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位との質量比(B)/(A)が1.4?1.7であり、(A)エチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位との質量比(C)/(A)が0.75?0.95である」。 そうすると、引用発明は、本願発明1の「前記鞘を形成する樹脂(鞘樹脂)が、(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位とを重合単位の主成分とする共重合体を含み、前記共重合体中の(A)と(B)との質量比(B)/(A)が1.4?1.7、(A)と(C)との質量比(C)/(A)が0.75?0.95であり、且つ、前記共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を含み、」との特定事項を備える。 カ 引用発明の「被覆層」は、「ポリアミド系樹脂が好ましく、その中でもナイロン12がより好ましい」ものであるから、本願発明1でいう「ポリアミド系樹脂を含」むものである。 キ 引用発明の「多芯プラスチック光ファイバケーブル」は、本願発明1の「多芯プラスチック光ファイバケーブル」に相当する。 ク 以上アないしキでの検討によれば、本願発明1と引用発明とは、 「裸線と、前記裸線の外側に設けられた裸線外側配置層と、前記裸線外側配置層の外側に設けられた被覆層と、を有する多芯プラスチック光ファイバケーブルであって、 前記裸線が、ポリメチルメタクルリレート系樹脂からなる芯と、前記芯の周りを取り囲んだ鞘と、を含み、 前記鞘を形成する樹脂(鞘樹脂)が、(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位とを重合単位の主成分とする共重合体を含み、前記共重合体中の(A)と(B)との質量比(B)/(A)が1.4?1.7、(A)と(C)との質量比(C)/(A)が0.75?0.95であり、且つ、前記共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を含み、 前記被覆層が、ポリアミド樹脂を含む、 多芯プラスチック光ファイバケーブル。」 である点で一致し、下記各点で相違する。 (相違点1) 「多芯プラスチック光ファイバケーブル」の「芯の本数」が、本願発明1は、「7?10000本であ」るのに対して、引用発明は、明らかでない点。 (相違点2) 「前記裸線の外側に設けられた裸線外側配置層」が、本願発明1は、「保護層」であって、「ビニリデンフルオライド単位20?35モル%、テトラフルオロエチレン単位57?70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位8?16モル%からなる共重合体を含」むのに対して、引用発明は、「最外鞘層」であって、「テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる3元共重合体が好ましく、より好ましくはテトラフルオロエチレン成分が0モル%を超え55モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が8?25モル%、ビニリデンフルオライド成分が30?92モル%を含む共重合体からなる樹脂であり、テトラフルオロエチレン成分が28モル%を超え40モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が8?22モル%、ビニリデンフルオライド成分が40?62モル%を含む共重合体からなる樹脂が更に好ましく、特に好ましくはテトラフルオロエチレン成分が28モル%を超え35モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が9?13モル%、ビニリデンフルオライド成分が52?60モル%の樹脂」からなる点。 (相違点3) 本願発明1は、「前記裸線と前記保護層とを含む素線と、前記被覆層との接着力が50N以上である」のに対して、引用発明は、「最外鞘層を構成する樹脂」「はナイロン12の被覆層と非常に強固に接着し、その引き抜き強度が強くピストニングを抑制する効果」があるとされるが、具体的な接着力が明らかでない点。 (2)判断 事案に鑑み、上記相違点2及び3について検討する。 ア 相違点2で認定したとおり、引用発明の「最外鞘層」は、本願発明1の「保護層」にただちに相当するものではないが、引用発明の「最外鞘層」における「テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる3元共重合体」の成分比を、相違点2に係る本願発明1の構成のようにすれば、引用発明において、相違点2に係る構成に至るとみる余地が生じることになる。そこで、そのような変更が可能であるか否かについて、以下に検討する。 イ まず、引用発明の技術的意義についてみると、引用発明は、「ピストニング抑制の為の熱処理にかかる時間は少なければ少ないほど好ましい。熱処理時間を少なくする方法としては熱処理の温度を上げる方法が考えられるが、特許文献1に記載のプラスチック光ファイバケーブルでは120?130℃といった高温条件下で熱処理した場合、熱処理時間の短縮は可能だが、伝送損失が大幅に低下してしまうという問題があった。」(引用文献1の【0004】)という課題を解決するために、引用発明に特定された芯及び鞘層を用いることにより(同【0005】)、「120?130℃の高温環境下で熱処理を行った際の伝送損失の低下を抑制することが可能である為、ピストニングが小さく、且つ、伝送損失の小さいプラスチック光ファイバ素線を短時間で作製することが出来る。」(同【0048】)という作用効果を奏するものであると認められる。 このような引用発明の技術的意義からすれば、引用発明は、「ピストニング抑制」をすることを念頭においた発明であるということができる。 ウ 次に、引用発明につき、相違点2の容易想到性の判断において問題となる構成は、上記アのとおり、引用発明の「最外鞘層」を構成する樹脂である「テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる3元共重合体」に係る構成である。 しかるに、かかる構成は、引用発明において、「前記最外鞘層を構成する樹脂としては、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる3元共重合体が好ましく、より好ましくはテトラフルオロエチレン成分が0モル%を超え55モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が8?25モル%、ビニリデンフルオライド成分が30?92モル%を含む共重合体からなる樹脂であり、テトラフルオロエチレン成分が28モル%を超え40モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が8?22モル%、ビニリデンフルオライド成分が40?62モル%を含む共重合体からなる樹脂が更に好ましく、特に好ましくはテトラフルオロエチレン成分が28モル%を超え35モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が9?13モル%、ビニリデンフルオライド成分が52?60モル%の樹脂であり、該樹脂はナイロン12の被覆層と非常に強固に接着し、その引き抜き強度が強くピストニングを抑制する効果があ」ると特定されているように、ピストニング抑制に関連するものであり、そのピストニング抑制の度合いは、当該3元共重合体の具体的組成に依存すると認められる。 エ 以上を踏まえ、相違点2の容易想到性を検討する。 引用発明及び引用文献1の記載に接した当業者は、最外鞘層を構成する樹脂であるテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとビニリデンフルオライドからなる3元共重合体につき、実施に当たり、その具体的組成を設計するものといえる。 しかるに、上記ウのとおり、その具体的組成は、ピストニング抑制の度合いに影響するものであるところ、上記イのとおり、引用発明は、ピストニング抑制をすることを念頭においたものである。そうすると、当業者は、上記の具体的組成の設計にあたり、ピストニング抑制に貢献するような組成を選択するものといえる。 そして、そのような組成は、引用発明の「より好ましくはテトラフルオロエチレン成分が0モル%を超え55モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が8?25モル%、ビニリデンフルオライド成分が30?92モル%を含む共重合体からなる樹脂であ」り、「テトラフルオロエチレン成分が28モル%を超え40モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が8?22モル%、ビニリデンフルオライド成分が40?62モル%を含む共重合体からなる樹脂が更に好まし」く、「特に好ましくはテトラフルオロエチレン成分が28モル%を超え35モル%以下、ヘキサフルオロプロペン成分が9?13モル%、ビニリデンフルオライド成分が52?60モル%の樹脂である」との記載に照らせば、少なくとも、テトラフルオロエチレン成分の上限値を減少させる方向性をもつものであるといえる。 オ しかるところ、引用発明の最外鞘層の組成を本願発明1の保護層の組成となすためには、少なくとも、テトラフルオロエチレン成分を増加させる必要があるが、このようにすることは、上記エに見られる方向性に反するものといえる。 さらにいえば、このようにすることは、引用発明が、相違点3に係る構成に至りにくくなることをも意味する。 そして、引用文献1をみても、引用発明の最外鞘層の組成につき、上記エに見られる方向性に反して、テトラフルオロエチレン成分を増加させる技術的な必要性は見当たらない。 そうすると、引用文献1に接した当業者が、引用発明の最外鞘層の組成につき、あえて、上記エに見られる方向性に反して、テトラフルオロエチレン成分を増加させることを、容易に想到し得たとはいえず、よって、引用発明において、相違点2及び相違点3に係る構成を得ることを、容易に想到し得たとはいえない。 カ 以上のとおり、本願発明1は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、上記相違点2及び3の点で容易に想到し得たということができない。 さらに、引用文献2の「第2クラッド材料として、VdF/TFE/HFPの共重合体(20/60/20(質量%))」(上記「第4」「2.」【0077】)との記載をみても、当該組成比は、(特にヘキサフルオロプロピレン単位の点で)本願発明1の保護層における当該組成比とは相違しており、それはさておいても、上記エで検討したとおり、ピストニング抑制に貢献するような組成を選択することが、テトラフルオロエチレン成分が55モル%以下(つまり上限値が55%である)であるとする引用発明に対して、引用文献2に「第2クラッド材料として、VdF/TFE/HFPの共重合体(20/60/20(質量%))」であることが記載されているからといって、あえて上限値である55%を超えてまで、当該TFE(テトラフルオロエチレン)が60%であることを適用することが、さらなるピストニング抑制に貢献するような組成を選択することであると解することはできない。 したがって、本願発明1が、引用発明及び引用文献2に記載された事項から容易に想到し得たとはいえないから、引用文献2に記載された事項は上記判断を左右しない。 よって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用発明並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.本願発明2ないし4について 本願発明2?4は、本願発明1を減縮した発明である。 したがって、本願発明2?4は、本願発明1に対する上記1.と同じ理由により、当業者であっても引用発明並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第6 原査定についての判断 本件補正により、請求項1が、「保護層が、ビニリデンフルオライド単位20?62モル%、テトラフルオロエチレン単位28?70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位8?16モル%からなる共重合体を含」むとあったものを、「保護層が、ビニリデンフルオライド単位20?35モル%、テトラフルオロエチレン単位57?70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位8?16モル%からなる共重合体を含」むと補正(下線は本件補正前後で変更された箇所を示す。)された。そして、このことにより、上記第5の1.(1)のとおり、本願発明1は、引用発明に対して、テトラフルオロエチレン成分の数値限定を含む相違点2を有していることになり、当該相違点は、上記第5の1.(2)で検討したとおり、 相違点3と相俟って、容易に想到し得たものとはいえない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-01-06 |
出願番号 | 特願2015-252528(P2015-252528) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 岸 智史 |
特許庁審判長 |
山村 浩 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 野村 伸雄 |
発明の名称 | 多芯プラスチック光ファイバケーブル |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 大貫 敏史 |