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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1369763
審判番号 不服2019-14994  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-08 
確定日 2021-01-04 
事件の表示 特願2017-553307「非発光性側壁再結合を低減させるLED構造」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月14日国際公開、WO2016/111789、平成30年 2月22日国内公表、特表2018-505567〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年12月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年1月6日、2015年9月14日、ともに米国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続は次のとおりである。

平成30年 7月13日付け 拒絶理由通知(同年同月23日発送)
同年10月18日 手続補正・意見書提出
平成31年 3月11日付け 拒絶理由通知(同年同月18日発送)
令和 元年 6月18日 手続補正・意見書提出
同年 6月28日付け 補正の却下の決定・拒絶査定
(同年7月8日謄本送達)
同年11月 8日 手続補正・審判請求
同年12月20日 手続補正(方式)
令和 2年 5月12日 上申書提出

第2 補正の却下の決定
令和元年11月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、本件補正前後で特許請求の範囲の記載は以下のとおりである(下線は当審で付加。以下同様。)。
(1)補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲(平成30年10月18日にされた手続補正により補正されたもの)の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
pnダイオード層を備える発光ダイオード(LED)であって、
前記pnダイオード層は、
第1のドーパント型でドープされた上部ドープ層と、
前記第1のドーパント型と反対の第2のドーパント型でドープされた下部ドープ層と、
前記上部ドープ層と前記下部ドープ層との間の活性層と、
前記上部ドープ層、前記活性層及び前記下部ドープ層に広がるpnダイオード層側壁と、
前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がる拡散不活性化層と、を含み、
前記拡散不活性化層は、前記下部ドープ層及び前記活性層の側壁を完全に覆い、前記pnダイオード層の上面に達しないように構成され、前記拡散不活性化層は、前記pnダイオード層側壁の全てにまで広がっていない、発光ダイオード(LED)。
【請求項2】
前記活性層は、内側部分と、前記拡散不活性化層と重なり、前記内側部分を囲む外側部分とを有する、請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項3】
前記拡散不活性化層は、pドーパントを含む、請求項2に記載の発光ダイオード。
【請求項4】
前記活性層の前記外側部分は、前記活性層の前記内側部分より大きいバンドギャップを有する、請求項3に記載の発光ダイオード。
【請求項5】
前記pドーパントは、Mg又はZnである、請求項4に記載の発光ダイオード。
・・・(中略)・・・
【請求項9】
前記pnダイオード層は、100μmより小さい最大横方向寸法を有する、請求項3に記載の発光ダイオード。
・・・(中略)・・・
【請求項14】
前記活性層の反対側に上部クラッド層及び下部クラッド層をさらに備え、前記上部クラッド層、前記活性層及び前記下部クラッド層は、前記拡散不活性化層と重なるところで混合している、請求項3に記載の発光ダイオード。」

(2)補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
pnダイオード層を備える発光ダイオード(LED)であって、
前記pnダイオード層は、
第1のドーパント型でドープされた上部ドープ層と、
前記第1のドーパント型と反対の第2のドーパント型でドープされた下部ドープ層と、
前記上部ドープ層と前記下部ドープ層との間の活性層と、
前記活性層の対向する両側の上部クラッド層及び下部クラッド層であって、前記上部クラッド層は、前記上部ドープ層と前記活性層との間にあり、前記下部クラッド層は、前記下部ドープ層と前記活性層との間にある、上部クラッド層及び下部クラッド層と、
前記上部ドープ層、前記上部クラッド層、前記活性層、前記下部クラッド層及び前記下部ドープ層に広がるpnダイオード層側壁と、
前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がるpドーパントを含む拡散不活性化層と、を含み、
前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記下部ドープ層及び前記活性層の側壁を完全に覆い、前記pnダイオード層の上面に達せず、前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記pnダイオード層側壁の全てにまで広がっていないように構成され、
前記上部クラッド層、前記活性層及び前記下部クラッド層は、前記pドーパントを含む拡散不活性化層と重なるところで混合しており、
前記pnダイオード層は、100μmより小さい最大横方向寸法を有する、発光ダイオード(LED)。
(以下略)」

2 補正事項の整理
本件補正の、請求項1についての補正事項は以下のとおりである。
〈補正事項1〉
補正前の請求項1の「前記pnダイオード層は、第1のドーパント型でドープされた上部ドープ層と、前記第1のドーパント型と反対の第2のドーパント型でドープされた下部ドープ層と、前記上部ドープ層と前記下部ドープ層との間の活性層と、前記上部ドープ層、前記活性層及び前記下部ドープ層に広がるpnダイオード層側壁と、前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がる拡散不活性化層と、を含み」を、補正後の請求項1の「前記pnダイオード層は、第1のドーパント型でドープされた上部ドープ層と、前記第1のドーパント型と反対の第2のドーパント型でドープされた下部ドープ層と、前記上部ドープ層と前記下部ドープ層との間の活性層と、前記活性層の対向する両側の上部クラッド層及び下部クラッド層であって、前記上部クラッド層は、前記上部ドープ層と前記活性層との間にあり、前記下部クラッド層は、前記下部ドープ層と前記活性層との間にある、上部クラッド層及び下部クラッド層と、前記上部ドープ層、前記上部クラッド層、前記活性層、前記下部クラッド層及び前記下部ドープ層に広がるpnダイオード層側壁と、前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がるpドーパントを含む拡散不活性化層と、を含み」と補正すること。
〈補正事項2〉
補正前の請求項1の「前記拡散不活性化層は、前記下部ドープ層及び前記活性層の側壁を完全に覆い、前記pnダイオード層の上面に達しないように構成され、前記拡散不活性化層は、前記pnダイオード層側壁の全てにまで広がっていない」を、補正後の請求項1の「前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記下部ドープ層及び前記活性層の側壁を完全に覆い、前記pnダイオード層の上面に達せず、前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記pnダイオード層側壁の全てにまで広がっていないように構成され」と補正すること。
〈補正事項3〉
補正後の請求項1において、「前記上部クラッド層、前記活性層及び前記下部クラッド層は、前記pドーパントを含む拡散不活性化層と重なるところで混合しており、」との文言を追加すること。
〈補正事項4〉
補正後の請求項1において、「前記pnダイオード層は、100μmより小さい最大横方向寸法を有する、」との文言を追加すること。

3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
(1)補正の目的について
補正事項1ないし補正事項3は、補正前の請求項3(さらに、間接的に請求項1及び請求項2を引用)を引用する請求項14について、上部クラッド層、下部クラッド層、活性層、上部ドープ層及び下部ドープ層の相互の位置関係を技術的に限定して、補正後の請求項1としたものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものである。
また、補正事項4は、補正前の「pnダイオード層」について、「100μmより小さい最大横方向寸法を有する」ものとして技術的に限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項の追加の有無について
補正事項1ないし補正事項3に係る事項は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の段落【0046】?【0048】、及び図6F等に記載されているといえる。
また、補正事項4に係る事項は、当初明細書等の段落【0011】に記載されているといえる。
よって、補正事項1ないし補正事項4は、いずれも当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、前記補正事項1ないし補正事項4は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(3)小括
上記のとおり、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから、以下においては、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかについて検討する。

4 独立特許要件についての検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである(再掲。以下「本願補正発明」という。)。
「【請求項1】
pnダイオード層を備える発光ダイオード(LED)であって、
前記pnダイオード層は、
第1のドーパント型でドープされた上部ドープ層と、
前記第1のドーパント型と反対の第2のドーパント型でドープされた下部ドープ層と、
前記上部ドープ層と前記下部ドープ層との間の活性層と、
前記活性層の対向する両側の上部クラッド層及び下部クラッド層であって、前記上部クラッド層は、前記上部ドープ層と前記活性層との間にあり、前記下部クラッド層は、前記下部ドープ層と前記活性層との間にある、上部クラッド層及び下部クラッド層と、
前記上部ドープ層、前記上部クラッド層、前記活性層、前記下部クラッド層及び前記下部ドープ層に広がるpnダイオード層側壁と、
前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がるpドーパントを含む拡散不活性化層と、を含み、
前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記下部ドープ層及び前記活性層の側壁を完全に覆い、前記pnダイオード層の上面に達せず、前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記pnダイオード層側壁の全てにまで広がっていないように構成され、
前記上部クラッド層、前記活性層及び前記下部クラッド層は、前記pドーパントを含む拡散不活性化層と重なるところで混合しており、
前記pnダイオード層は、100μmより小さい最大横方向寸法を有する、発光ダイオード(LED)。」

(2)刊行物等に記載された発明
ア 引用例1: 特開2013-110374号公報
(ア)原査定の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2013-110374号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
a
「【技術分野】
【0001】
本技術は、例えば発光領域2500μm^(2)以下の微小なLED(Light Emitting Diode)に好適な発光素子およびその製造方法、並びに発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発光素子の微小化が進むにつれ、活性層の端面での非発光再結合が発光効率に与える影響が大きくなる。非発光再結合とは、正孔と電子とが結合してキャリアが発光せずに熱になってしまう現象であり、活性層の端面で生じ易い。この非発光再結合は活性層の端面が製造工程で損傷することにより、あるいは、活性層自体の有するダングリングボンドや端面に吸着された不純物等が原因となって生じる。発光素子の微小化に伴い、このような端面での非発光再結合に起因した非発光部分の面積の割合が増加し、発光効率が低下するという問題が生じていた。
【0006】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、活性層端面での非発光再結合が抑制され、発光効率の向上した発光素子およびその製造方法、並びに発光装置を提供することにある。」

b
「【0013】
〔第1の実施の形態〕
図1は本開示の第1の実施の形態に係る発光素子(発光素子1)の構成を表したものである。図1(A)は発光素子1の上面(平面)、図1(B)は図1(A)のB-B線に沿った断面の構成をそれぞれ表している。発光素子1は例えば四角柱状の積層体10を有し、この積層体10は光取り出し面(積層体10の表面)を除いて絶縁膜31に囲まれている。この絶縁膜31と積層体10の端面10E(側面)との間には結晶化膜21が介在している。発光素子1では、この結晶化膜21により再結合抑制構造が構成されている。
【0014】
積層体10はLEDであり、n側電極11、バッファ層(図示せず)、n型クラッド層12(第1導電型半導体層)、活性層13、p型クラッド層14(第2導電型半導体層)、コンタクト層(図示せず)およびp側電極15をこの順に有している。発光素子1では、活性層13からこのバンドギャップに相当する波長の光が出射され、p型クラッド層14の、活性層13との対向面と反対側の面(図1(B)紙面上方向)からこの光が取り出されるようになっている。即ち、p型クラッド層14が光取り出し面を有しており、活性層13の面と直交する方向(Z軸方向)に出射光が取り出される。n側電極11は、p側電極15と共に半導体層(n型クラッド層12、活性層13およびp型クラッド層14)に電流を注入するためのものであり、例えばn型クラッド層12側から金(Au)とゲルマニウム(Ge)との合金(AuGe)、ニッケル(Ni)および金がこの順に積層されたものからなる(AuGe/Ni/Au)。p側電極15は例えば、p型クラッド層14側からチタン(Ti)、白金(Pt)および金の積層構造を有している(Ti/Pt/Au)。n型クラッド層12は、例えば厚み1000nm?2000nm、キャリア濃度1×10^(18)cm^(3)程度のn型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる。活性層13は厚み3nm?10nmのInGaPからなる井戸層と厚み10nm?100nmの(Al_(0.6)Ga_(0.4))_(0.5)In_(0.5)Pからなる障壁層とを10QW交互に積層してなる量子井戸構造を有している。p型クラッド層14は例えば厚み300nm?1000nm、キャリア濃度1×10^(17)?1×10^(18)cm^(3)のp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる。積層体10は例えば平面視で1辺が15μmの正方形であり、活性層13(発光領域)の面積は225μm^(2)である。
【0015】
・・・(中略)・・・
【0040】
〔変形例2〕
上記実施の形態の変形例2に係る発光素子(発光素子1B)は、積層体10の周縁に絶縁部(第1絶縁部12I、第2絶縁部14I)を有するものである。その点を除き、発光素子1Bは上記第1の実施の形態の発光素子1と同様の構成を有し、その作用および効果も同様である。図12(A)は発光素子1Bの上面(平面)構成、図12(B)は図12(A)のB-B線に沿った断面構成を表している。
【0041】
第1絶縁部12I、第2絶縁部14Iは、それぞれn型クラッド層12、p型クラッド層14の周縁に例えば10?10000nmの幅(Y軸方向)に渡り設けられている。この第1絶縁部12I、第2絶縁部14Iの幅は、素子サイズやn型クラッド層12、活性層13およびp型クラッド層14の組成や厚みにより適宜調整される。第1絶縁部12I、第2絶縁部14Iは、電流注入領域を形成するための所謂、電流狭窄部である。この第1絶縁部12I、第2絶縁部14Iにはキャリアが注入されないため、端面10Eでの非発光再結合を結晶化膜21と共に、より効果的に抑えることができる。」

c
「【0043】
〔第2の実施の形態〕
図14は、本技術の第2の実施の形態に係る発光素子(発光素子2)の構成を表すものであり、図14(A)は上面(平面)、図14(B)は図14(A)のB-B線に沿った断面の構成を表している。この発光素子2では、端面10Eの近傍に結晶化膜(図1 結晶化膜21)に代え、拡散部10Dが設けられている。即ち、発光素子2では、この拡散部10Dにより再結合抑制構造が構成されている。この点を除き、発光素子2は上記第1の実施の形態の発光素子1と同様の構成を有している。
【0044】
拡散部10Dは端面10Eで生じる非発光再結合を抑制するためのものであり、積層体10の周縁、即ち端面10Eの内側に設けられている。この拡散部10Dは、少なくとも活性層13の周縁に存在すればよいが、積層体10全体の周縁に存在していてもよい(図14)。拡散部10Dは例えば、10?5000nmの幅(Y軸方向)で設けられ、活性層13のバンドギャップを拡張するための拡散物質dを含有している。拡散物質dは、例えば、亜鉛(Zn)またはマグネシウム(Mg)等である。なお、拡散部10Dの幅は素子サイズやn型クラッド層12、活性層13およびp型クラッド層14の組成や厚みにより適宜調整される。この活性層13の周縁(拡散部10D)と中央部とのバンドギャップの大きさの差により、バンドシュリンクおよびディープレベルの発生を抑え、端面10Eでの非発光再結合を防止することができる。よって、発光素子2の発光領域を広げて発光効率を向上させることが可能となる。また、バンドギャップが拡大した拡散部10Dでは、その透明度が増す。従って、半導体材料自体の光吸収による取り出し光の低下を抑えることが可能となる。
【0045】
このような発光素子2は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0046】
まず、拡散物質dを含んだ結晶化膜21Cを、上記結晶化膜21と同様にして形成した後(図2(C))、p型クラッド層14の表面の結晶化膜21Cをドライエッチングまたはウェットエッチング等の方法により除去する(図15(A))。このとき、図16に表したように、p型クラッド層14の表面の端部には結晶化膜21が残っていてもよい。次いで、例えば、400?600℃の熱処理により結晶化膜21Cから端面10Eを介して活性層13の周縁に拡散物質dを拡散させ、拡散部10Dを形成する(図15(B))。結晶化膜21Cに代えて、ZnO膜あるいはSiN、SiO等の絶縁膜31を介してZnを拡散させるようにしてもよい。
【0047】
拡散部10Dを形成した後、結晶化膜21Cを例えばドライエッチングまたはウェットエッチング等の方法により除去する(図15(C))。拡散物質dを含む結晶化膜21Cを除去することにより、発光素子2の駆動時に拡散物質dが拡散してドリフトが発生することを防ぐことができる。以降、p側電極15およびn側電極11等の形成工程は発光素子1と同様に行うことにより、図14に示した発光素子2が完成する。結晶化膜21Cを用いることにより、積層体10の周縁に効率よく拡散部10Dを形成することができる。」

d
「【0048】
また、発光素子2は例えば、以下のような方法で製造することも可能である。まず、発光素子1と同様にして結晶成長基板41上に、n型クラッド層12、活性層13、p型クラッド層14を成膜する(図2(A))。次いで、p型クラッド層14の表面にマスク43、拡散源層22をこの順に形成する(図17(A)、図17(B))。拡散源層22は、活性層13のバンドギャップを拡張するための拡散物質dを含むものであり、例えば蒸着法、スパッタ法あるいはMOCVD法等により形成する。続いて、例えば熱処理等によりマスク43の開口からp型クラッド層14を介して活性層13に拡散物質dを拡散させ、拡散部10Dを形成する(図17(C))。
【0049】
拡散部10Dを形成した後、拡散源層22およびマスク43を除去する。続いて、発光素子1と同様にしてp側電極15およびn側電極11等を形成した後、拡散部10Dが端面10Eの内側になるよう積層体10を成形することにより発光素子2が完成する。
【0050】
・・・(中略)・・・
【0051】
更に、p型クラッド層14の第1絶縁部14Iを用いて、拡散部10Dを形成するようにしてもよい。まず、図19(A)に表したように、p型クラッド層14の所望の位置2箇所(内周と外周)に例えばインプラにより第1絶縁部14Iを形成する。この2箇所の第1絶縁部14Iの間の領域が拡散部10D形成領域となる。次いで、p型クラッド層14の表面に、開口部分が拡散部10D形成領域に対応するようマスク43を形成した後、マスク43上に拡散源層22を形成する(図19(B))。マスク43を使用せずに上記のように(図18)、パターニングした拡散源層22を用いるようにしてもよい。拡散源層22を形成した後、例えば熱処理等を行うことにより拡散部10Dを形成する(図19(C))。」

e ここで、図14及び図19は以下のものである。
【図14】

【図19】

(イ)上記(ア)c、dに記載された「第2の実施の形態に係る発光素子(発光素子2)」については、「この発光素子2では、端面10Eの近傍に結晶化膜(図1 結晶化膜21)に代え、拡散部10Dが設けられている。即ち、発光素子2では、この拡散部10Dにより再結合抑制構造が構成されている。この点を除き、発光素子2は上記第1の実施の形態の発光素子1と同様の構成を有している。」(段落【0043】)との記載から、上記(ア)bに記載された「第1の実施の形態に係る発光素子(発光素子1)」とは、「結晶化膜21」に係る構成以外は、同様のものであるといえる。

(ウ)上記(イ)及び段落【0014】の記載から、発光素子2においては、n型クラッド層12は、n型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなり、活性層13はInGaP井戸層と(Al_(0.6)Ga_(0.4))_(0.5)In_(0.5)P障壁層とからなる量子井戸構造を有しており、p型クラッド層14はp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなるものといえる。

(エ)上記(ア)dとともに図19を参照すると、図19(C)に続く工程の後には、段落【0049】に記載されているものと同様に、「拡散部10Dが端面10Eの内側になるよう積層体10を成形することにより発光素子2が完成する」ものと解され、その結果、p型クラッド層の端面において、拡散部10Dが形成されない部分が生ずることがわかる。

(オ)引用発明
以上(ア)?(ウ)を総合すると、引用例1には、図14に示される「発光素子2」について、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「活性層端面での非発光再結合が抑制され、発光効率の向上した発光素子2であって、
(段落【0006】、上記(イ))
発光素子2は例えば四角柱状の積層体10を有し、
積層体10は光取り出し面(積層体10の表面)を除いて絶縁膜31に囲まれており、
(段落【0013】、上記(イ))
積層体10はLEDであり、n側電極11、バッファ層、n型クラッド層12、活性層13、p型クラッド層14、コンタクト層およびp側電極15をこの順に有しており、
発光素子2では、活性層13からこのバンドギャップに相当する波長の光が出射され、p型クラッド層14の、活性層13との対向面と反対側の面からこの光が取り出され、即ち、p型クラッド層14が光取り出し面を有しており、
(段落【0014】、上記(イ))
n型クラッド層12は、n型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなり、活性層13はInGaP井戸層と(Al_(0.6)Ga_(0.4))_(0.5)In_(0.5)P障壁層とからなる量子井戸構造を有しており、p型クラッド層14はp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなり、
(上記(イ)、(ウ))
積層体10は例えば平面視で1辺が15μmの正方形であり、
(段落【0014】、上記(イ))
拡散部10Dが積層体10の周縁、即ち端面10Eの内側に設けられており、拡散部10Dは、端面10Eで生じる非発光再結合を抑制するためのものであり、少なくとも活性層13の周縁に存在すればよいが、積層体10全体の周縁に存在していてもよく、
拡散部10Dは例えば、10?5000nmの幅で設けられ、活性層13のバンドギャップを拡張するための拡散物質dを含有しているおり、拡散物質dは、例えば、亜鉛(Zn)またはマグネシウム(Mg)等であり、
活性層13の周縁(拡散部10D)と中央部とのバンドギャップの大きさの差により、バンドシュリンクおよびディープレベルの発生を抑え、端面10Eでの非発光再結合を防止することができるものである、
(段落【0044】)
発光素子2。」

(カ)さらに、上記(ア)d及び(エ)から、引用例1には以下の技術事項(以下「引用例1技術事項」という。)が記載されているといえる。
「引用発明に係る発光素子2において、p型クラッド層の端面において、第1絶縁部14Iが形成されることで、拡散部10Dが形成されない部分を設けること。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明1とを比較する。
ア 引用発明の「コンタクト層」と、本願補正発明の「第1のドーパント型でドープされた上部ドープ層」とは、「上部層」である点で一致する。

イ 引用発明の「バッファ層」と、本願補正発明の「前記第1のドーパント型と反対の第2のドーパント型でドープされた下部ドープ層」とは、「下部層」である点で一致する。

ウ 引用発明においては、「n側電極11、バッファ層、n型クラッド層12、活性層13、p型クラッド層14、コンタクト層およびp側電極15をこの順に有して」いるから、前記ア、イを考慮すると、当該「活性層13」と、本願補正発明の「前記上部ドープ層と前記下部ドープ層との間の活性層」とは、「前記上部層と前記下部層との間の活性層」である点で一致する。

エ 前記ア?ウを考慮すると、引用発明の「n型クラッド層12」及び「p型クラッド層14」と、本願補正発明の「前記活性層の対向する両側の上部クラッド層及び下部クラッド層であって、前記上部クラッド層は、前記上部ドープ層と前記活性層との間にあり、前記下部クラッド層は、前記下部ドープ層と前記活性層との間にある、上部クラッド層及び下部クラッド層」とは、「前記活性層の対向する両側の上部クラッド層及び下部クラッド層であって、前記上部クラッド層は、前記上部層と前記活性層との間にあり、前記下部クラッド層は、前記下部層と前記活性層との間にある、上部クラッド層及び下部クラッド層」である(引用発明の「n型クラッド層12」及び「p型クラッド層14」が、それぞれ、本願補正発明の「上部クラッド層」及び「下部クラッド層」に対応する。)点で一致する。

オ 引用発明の「積層体10」は、本願補正発明の「pnダイオード層」に相当する。

カ 上記ア?オを考慮すると、引用発明における「積層体10の周縁、即ち端面10E」と、本願補正発明の「前記上部ドープ層、前記上部クラッド層、前記活性層、前記下部クラッド層及び前記下部ドープ層に広がるpnダイオード層側壁」とは、「前記上部層、前記上部クラッド層、前記活性層、前記下部クラッド層及び前記下部層に広がるpnダイオード層側壁」である点で一致する。

キ 引用発明の「拡散部10Dが積層体10の周縁、即ち端面10Eの内側に設けられており、拡散部10Dは、端面10Eで生じる非発光再結合を抑制するためのものであり、」「拡散部10Dは例えば、10?5000nmの幅で設けられ、活性層13のバンドギャップを拡張するための拡散物質dを含有して」おり、「拡散物質dは、例えば、亜鉛(Zn)またはマグネシウム(Mg)等であ」るとの構成を備える「拡散部10D」と、本願補正発明の「前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がるpドーパントを含む拡散不活性化層」とは、「前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がるドーパントを含む拡散不活性化層」である点で一致する。

ク 引用発明の「積層体10は例えば平面視で1辺が15μmの正方形であ」ることは、本願補正発明の「前記pnダイオード層は、100μmより小さい最大横方向寸法を有する」ことに相当する。

ケ 引用発明の「拡散部10Dが積層体10の周縁、即ち端面10Eの内側に設けられており、拡散部10Dは、端面10Eで生じる非発光再結合を抑制するためのものであり、少なくとも活性層13の周縁に存在すればよいが、積層体10全体の周縁に存在していてもよく」との構成において、「積層体10全体の周縁に存在してい」るとしたものと、本願補正発明の「前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記下部ドープ層及び前記活性層の側壁を完全に覆い、前記pnダイオード層の上面に達せず、前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記pnダイオード層側壁の全てにまで広がっていないように構成され」るものとは、前記キも考慮すると、「前記ドーパントを含む拡散不活性化層は、前記下部層及び前記活性層の側壁を完全に覆うように構成され」る点で一致する。

コ 引用発明の「発光素子2」は、本願補正発明の「発光ダイオード(LED)」に相当する。

サ 一致点
したがって、引用発明と本願補正発明とは、次の点で一致する。
「pnダイオード層を備える発光ダイオード(LED)であって、
前記pnダイオード層は、
上部層と、
下部層と、
前記上部層と前記下部層との間の活性層と、
前記活性層の対向する両側の上部クラッド層及び下部クラッド層であって、前記上部クラッド層は、前記上部層と前記活性層との間にあり、前記下部クラッド層は、前記下部層と前記活性層との間にある、上部クラッド層及び下部クラッド層と、
前記上部層、前記上部クラッド層、前記活性層、前記下部クラッド層及び前記下部層に広がるpnダイオード層側壁と、
前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がるドーパントを含む拡散不活性化層と、を含み、
前記ドーパントを含む拡散不活性化層は、前記下部層及び前記活性層の側壁を完全に覆うように構成され、
前記pnダイオード層は、100μmより小さい最大横方向寸法を有する、発光ダイオード(LED)。」

シ 相違点
一方両者は、次の各点で相違する。
《相違点1》
本願補正発明は、「第1のドーパント型でドープされた上部ドープ層と、前記第1のドーパント型と反対の第2のドーパント型でドープされた下部ドープ層と」を含み、また、「pnダイオード層」に含まれる各構成について、当該「上部ドープ層」及び「下部ドープ層」との関係においてその位置が特定されているのに対して、引用発明は、「コンタクト層」及び「バッファ層」を備えるものの、「コンタクト層」が「第1のドーパント型でドープされ」、「バッファ層」が「前記第1のドーパント型と反対の第2のドーパント型でドープされ」ていることまで特定されておらず、また、これに伴い、各「ドープ層」との関係において、他の各構成の位置が特定されるものでもない点。

《相違点2》
本願補正発明は、「前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がるpドーパントを含む拡散不活性化層」を備えるのに対し、引用発明は、「前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がるドーパントを含む拡散不活性化層」に対応する構成は備えるものの、当該「ドーパント」が「pドーパント」であることまでは特定されていない点。

《相違点3》
本願補正発明においては、「前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記下部ドープ層及び前記活性層の側壁を完全に覆い、前記pnダイオード層の上面に達せず、前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記pnダイオード層側壁の全てにまで広がっていないように構成され」ているのに対して、引用発明においては、「前記ドーパントを含む拡散不活性化層は、前記下部層及び前記活性層の側壁を完全に覆うように構成され」るものの、当該「拡散不活性化層」が「前記pnダイオード層の上面に達せず、前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記pnダイオード層側壁の全てにまで広がっていないように構成され」るものではない点。

《相違点4》
本願補正発明は、「前記上部クラッド層、前記活性層及び前記下部クラッド層は、前記pドーパントを含む拡散不活性化層と重なるところで混合しており」との構成を備えるのに対し、引用発明は、「拡散部10Dは例えば、・・・、活性層13のバンドギャップを拡張するための拡散物質dを含有している。拡散物質dは、例えば、亜鉛(Zn)またはマグネシウム(Mg)等であり、活性層13の周縁(拡散部10D)と中央部とのバンドギャップの大きさの差により、バンドシュリンクおよびディープレベルの発生を抑え」る構成は備えるものの、上記本願補正発明に係る構成を備えることは明らかでない点。

(4)判断
ア 相違点1について検討する。
引用発明においては、「積層体10はLEDであり、n側電極11、バッファ層、n型クラッド層12、活性層13、p型クラッド層14、コンタクト層およびp側電極15をこの順に有して」いるものであるから、LEDとして動作する上で、「n側電極11」から「n型クラッド層12」に至る導電経路、及び、「p型クラッド層14」から「p側電極15」に至る導電経路が形成されていることは当然であり、そのために、「n側電極11」と「n型クラッド層12」の間にある「バッファ層」がn型にドーピングされており、また、「p型クラッド層14」と「p側電極15」の間にある「コンタクト層」が(n型とは反対の)p型にドーピングされていることは、当業者に明らかな事項である。仮にそうでないとしても、上記のとおりにすることは当業者が適宜になしえたことである。
よって、引用発明は、相違点1に係る構成を実質的に備え、仮にそうでないとしても、相違点1に係る構成を備えるものとすることは適宜になしえたことである。

イ 相違点2について検討する。
引用発明においては、n型クラッド層12は、n型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなり、活性層13はInGaP井戸層と(Al_(0.6)Ga_(0.4))_(0.5)In_(0.5)P障壁層とからなる量子井戸構造を有しており、p型クラッド層14はp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなり、」すなわち、当該各半導体層は3-5族半導体材料により構成されているところ、「拡散部10Dは例えば、・・・、活性層13のバンドギャップを拡張するための拡散物質dを含有している。拡散物質dは、例えば、亜鉛(Zn)またはマグネシウム(Mg)等であ」る。
ここで、例えば、以下の周知文献1にも記載されているように、一般に、3-5族半導体材料において、Zn及びMgがpドーパントとして作用することは、周知の事項である。
よって、引用発明は、相違点2に係る構成を実質的に備え、仮にそうでないとしても、相違点2に係る構成を備えるものとすることは適宜になしえたことである。

周知文献1:特開平2-114675号公報
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平2-114675号公報(以下「周知文献1」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
「〔実施例〕
以下第1導電型としてn型、第2導電型としてp型について説明する。
第1図は本発明素子の構造を示す断面図である。図において、9はZn拡散領域、31はSiN_(x)の選択拡散膜で、他の記号は前出のものを使用する。基板2は第1導電型のn-InP、第1クラッド層3は第1導電型のn-InP、活性層4は第1導電型あるいは第2導電型のp-(またはn-)In_(1-x)Ga_(x)As_(1-y)P_(y)、第2クラッド層5は第2導電型のp-InP、コンタクト層6は第2導電型のp-In_(1-z)Ga_(z)As_(1-w)P_(w)、絶縁膜7はSiN_(x)、選択拡散膜31はSiN_(x)の材料を使用する。上記端面でのp-n接合位置をバンドギャップの大きい第1導電型の第1クラッド層3内に形成することを特徴としている。
本構造は図中に斜線を施したように、p型不純物であるZnをコンタクト層6側から選択拡散を行い、p-n接合が第1クラッド層3中に形成されるように拡散を行っている。」
(2ページ右下欄10行?3ページ左上欄8行)
「また、p型拡散不純物としてZn使用したが、その他にCd、Mgでも差し支えない。」
(4ページ左上欄11?12行)

ウ 相違点3について検討する。
(ア)一般に、LEDを構成する層構造の端面において、不純物を導入した部分を設けるにあたり、当該不純物を導入した部分を、前記層構造のうち一方の導電型不純物層(例えばクラッド層)及び活性層にわたる程度の部分にとどめ、全ての層にわたって設けないことは、前記周知文献1及び以下の周知文献2のほか、引用例1技術事項(前記(2)ア(カ))にも示されているように、周知の技術である。
a 周知文献1(特開平2-114675号公報)には、さらに次の記載がある。
「上記端面でのp-n接合位置をバンドギャップの大きい第1導電型の第1クラッド層3内に形成することを特徴としている。
本構造は図中に斜線を施したように、p型不純物であるZnをコンタクト層6側から選択拡散を行い、p-n接合が第1クラッド層3中に形成されるように拡散を行っている。バンドギャップの大きい所にp-n接合が形成されているため端面での降伏電圧はバルク中の活性層4内または第1クラッド層3との界面における降伏電圧より高く端面でのリーク電流が激減し、長期間の通電においても端面での逆耐圧劣化がなくなる。逆耐圧特性の信頼度に優れた素子が得られる。」(3ページ左上欄4?16行)

b 周知文献2:特開平9-162441号公報
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平2-114675号公報(以下「周知文献1」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
(a)「【0002】
【発明が解決しようとする課題】従来、化合物半導体発光素子では、発光の効率を上げるためダブルヘテロ構造をとることが多く、そのために、薄膜を何層も積層する必要がある。この薄膜の形成には、量産性の観点から有機金属気相成長法(MOCVD法)が用いられることが多い。MOCVD法ではGaAlあるいはInPなどの基板上に所望の膜を成長させるが、その基板から素子となるチップを切出すには、碧開やダイシング等の手法が用いられる。LEDなどでは、このチップの上面の一部分と下面全面とに電極を形成し、上面から光を取出す構造とし、発光層となるいわゆる活性層に電流を流し光を取出す。
【0003】しかし、チップ内では、チップ中心から側端面まで同じ構造となっているため、チップ上面の電極から流れ込んだ電流はチップ側端面部分まで広がって流れる。しかし、このような側端面部分は欠陥等が多く、発光に寄与しないリーク電流として流れる電流が多くなり、素子の発光効率を落とす原因となっていた。
・・・(中略)・・・
【0016】以上のようにMOCVD基板に、選択的にイオン注入等を行い高抵抗領域を作成した上で、アニールを行い高抵抗領域と内部導伝領域との界面のダメージ緩和を行った後、高抵抗部分に沿ってチップを切出す。これにより、電流の流れる部分が側端面に露出せず、リーク電流が大幅に抑制される。また、従来素子の場合、通電を続けると、エポキシ樹脂と素子の密着性が悪いために、空気中の酸素や水分の影響を受け、酸化し、着色する。このようになると、この部分から劣化が進み、信頼性が落ち、発光の出力も落ちてくる。この点、本発明によれば、発光層側面が結晶成長をした膜中にあるため、空気との接触はなく、側端面劣化も抑制でき、信頼性が大幅に向上する。
・・・(中略)・・・
【0017】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。まず、赤色?緑色LEDの本発明による構造の一例を図1(a)、従来構造の一例を同図(b)に示す。従来構造、本発明による構造ともSiがドープされたn型のGaAs基板1上にSiがドープされたn型のGaAsバッファ層2、SiがドープされたIn0.5 (Ga1-x Alx )0.5 P(0≦y≦1)からなるn型のクラッド層3、In0.5 (Ga1-y Aly )0.5 P(0≦y≦1)からなる発光層4、ZnがドープされたIn0.5 (Ga1-x Alx )0.5 Pからなるp型のクラッド層5、Znがドープされたp型GaAsからなるコンタクト層6が順に積層され、さらに、基板1の裏面とコンタクト層6の上面から電極7、8が取出された構造となっている。
【0018】そして、本発明による構造では、端面部分がプロトン、あるいは他のイオンの注入による高抵抗領域9が形成されている。この高抵抗領域9はn型クラッド層3に形成された第1の部分93と発光層4に形成された第2の部分94とp型クラッド層5に形成された第3の部分95とコンタクト層6に形成された第4の部分96とを含むもので、例えばイオン注入及びその後のアニールによって形成される。これらの処理は、チップ切出し前に行われるが、イオン注入の際にはコンタクト層6表面にパターニングを施して、選択的に行われる。その後、例えば、500℃以上1000℃以下、10分以上40分以下、という条件でアニールを施し、各層3?6の高抵抗領域7と内部との界面部分における結晶の回復を図る。」
(b)以上の記載から、高抵抗領域9がバッファ層2及び基板1には形成されていないことは明らかである。

(イ)そして、引用発明において、「拡散部10Dは、端面10Eで生じる非発光再結合を抑制するためのものであり、少なくとも活性層13の周縁に存在すればよいが、積層体10全体の周縁に存在していてもよ」いものであるところ、当該「少なくとも活性層13の周縁に存在」する形態として、上記周知技術の形態を採用して、相違点3に係る、「拡散不活性化層」が「前記pnダイオード層の上面に達せず、前記pドーパントを含む拡散不活性化層は、前記pnダイオード層側壁の全てにまで広がっていないように構成され」るようにすることは、当業者が適宜になしえたことである。

(ウ)また、引用発明が、上下各「ドープ層」及び「pドーパント」を備え、あるいは、備えることを当業者が適宜になしえたことは、上記ア及びイにおいて検討したとおりである。

(エ)よって、引用発明において、相違点3に係る構成を備えることは、当業者が適宜になしえたことである。

エ 相違点4について検討する。
(ア)相違点4に係る、本願補正発明の「前記上部クラッド層、前記活性層及び前記下部クラッド層は、前記pドーパントを含む拡散不活性化層と重なるところで混合して」いることに関して、本願明細書には以下の記載がある。
「不活性化層602の拡散及び形成は、以前に暴露されたpn接合(及び活性層108)を、LEDの内側にずらさせる。結果的に、pn接合は表面と交差せず、損傷のない材料から形成される。一特定の実施形態では、相互混合されたヘテロ構造が生成される。具体的に、この実施形態では、AlInGaPヘテロ構造は、整然とした合金結晶構造(GaAlP-InP単層超格子を(111)結晶面上に含むCuPt型オーダー)を自発的に生成する条件下及び基板配向下で成長される。整然とした合金クラッド層106(例えば、n型AlInGaP)、量子井戸層108(InGaP)、及びクラッド層110(例えば、p型AlGaInP)は、より低いバンドギャップエネルギーによって特徴づけられる。上記の拡散処理はこの合金をランダム化し得るため、バンドギャップエネルギーを上昇させる。ランダム化された側壁は、より高いバンドギャップエネルギーを有して、側壁再結合を抑制する電位障壁を自然に形成する。」(段落【0046】)

(イ)上記(ア)から、本願補正発明に係る「混合している」とは、LEDを構成する各半導体層が「相互混合」し、「ランダム化」することで「バンドギャップエネルギーを上昇させた」状態にあるものと解される。

(ウ)上記本願明細書に記載されたことと同様に、3-5族化合物半導体を用いたLEDにおいて、上記本願明細書に記載されたことと同様に、LEDを構成する層構造に対して、ZnやMg等の不純物を導入することで、前記層構造において、構成材料の混合によりバンドギャップが広がることは、例えば、以下の周知文献3及び4にも示されているように、周知の技術事項である。

a 周知文献3:特開平5-110202号公報
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平5-110202号公報(以下「周知文献3」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
「【0008】まず図1(a)に示す様にn型GaAs半導体基板1上にn型AlAs 802Å/n型GaAs 670Åの23周期からなるn型多層反射膜2、Al_(0.5) Ga_(0.5)As 1430Å/In_(0.2 )Ga_(0.8 )As 100Å/Al_(0.5 )Ga_(0.5 )As 1430Åからなる活性層構造3、P型GaAs 670Å/P型AlAs 802Å10周期からなるP型多層反射膜4、P型GaAs 30Åのキャップ層5を結晶成長する。ここで活性層構造3内部のIn_(0.2 )Ga_(0.8 )As層は歪単一量子井戸の活性層である。次に図1(b)に示す様に、通常のホトエッチング技術によってメサ円柱7を形成する。
・・・(中略)・・・
次に試料をZnAs_(2 )などと共に真空アンプルに封入してZn拡散を行なう。拡散の深さは、Al組成によって大きく変化するが、0.1?2μmの範囲が適当である。このZn拡散は拡散マスク8のためにメサ円柱7の側壁だけに行なう事が出来る。このとき、活性層構造3のIn_(0.2 )Ga_(0.8 )Asからなる量子井戸のメサ円柱7側壁近傍がZn拡散による無秩序化によってAl_(0.5 )Ga_(0.5 )Asとの混晶化が生じて、等価的に禁制帯幅が増大する。このためIn_(0.2 )Ga_(0.8 )As量子井戸のメサ円柱7側面での表面再結合は著るしく抑制される(以下略)」

b 周知文献4:特開平11-284280号公報
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平11-284280号公報(以下「周知文献4」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
「【0042】このZn拡散の手順をMOCVD法を用いた場合を例に挙げてさらに詳細に説明する。まず、成長温度650℃で、原料としてTMG(トリメチルガリウム)、DMZ(ジメチル亜鉛)、AsH_(3)を用いて、p型GaAs層を例えば1.5μm成長する。ここで、Zn濃度が2×10^(18)cm^(-3)となるように設定する。その後、成長温度のまま、TMG、DMZ、AsH_(3)の供給を断ち、H_(2)雰囲気中で20分間アニールをする。この間に、Znがp型GaAs層9からn型In_(0.5)(Ga_(0.3)Al_(0.7))_(0.5)Pクラッド層3の途中まで拡散していく。この拡散により、MQW活性層20と光ガイド層16、19からなる活性領域は、隣接しているp型In_(0.5)(Ga_(0.3)Al_(0.7))_(0.5)Pクラッド層5およびn型In_(0.5)(Ga_(0.3)Al_(0.7))_(0.5)Pクラッド層3と混晶化し、この結果として実効的なバンドギャップが増大して窓領域となる。」

(エ)引用発明においては、「n型クラッド層12は、n型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなり、活性層13はInGaP井戸層と(Al_(0.6)Ga_(0.4))_(0.5)In_(0.5)P障壁層とからなる量子井戸構造を有しており、p型クラッド層14はp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなり」、3-5族化合物半導体を用いているところ、「活性層13のバンドギャップを拡張するための拡散物質dを含有しており、拡散物質dは、例えば、亜鉛(Zn)またはマグネシウム(Mg)等であ」り、当該バンドギャップの拡張は、上記周知の技術事項と同様の作用によるといえる。それゆえ、引用発明においては、「拡散部10D」が設けられた各半導体層について混合していることで、相違点4に係る構成を実質的に備えるか、仮にそうでなくとも、相違点4に係る構成を備えるようにすることは、当業者が適宜になしえたことである。

(オ)また、引用発明が「pドーパント」を備え、あるいは、備えることを当業者が適宜になしえたことは、上記イにおいて検討したとおりである。

(カ)よって、引用発明は、相違点4に係る構成を実質的に備え、仮にそうでないとしても、相違点4に係る構成を備えることは、当業者が適宜になしえたことである。

オ 上記アないしエのとおり、引用発明において相違点1ないし4に係る構成を備えることは当業者が適宜になし得たことである。

(5)小括
よって、本願補正発明は、周知技術を勘案して引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年11月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年10月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
pnダイオード層を備える発光ダイオード(LED)であって、
前記pnダイオード層は、
第1のドーパント型でドープされた上部ドープ層と、
前記第1のドーパント型と反対の第2のドーパント型でドープされた下部ドープ層と、
前記上部ドープ層と前記下部ドープ層との間の活性層と、
前記上部ドープ層、前記活性層及び前記下部ドープ層に広がるpnダイオード層側壁と、
前記pnダイオード層側壁の内側であって、前記pnダイオード層側壁に広がる拡散不活性化層と、を含み、
前記拡散不活性化層は、前記下部ドープ層及び前記活性層の側壁を完全に覆い、前記pnダイオード層の上面に達しないように構成され、前記拡散不活性化層は、前記pnダイオード層側壁の全てにまで広がっていない、発光ダイオード(LED)。」

2 引用発明
引用発明は、前記第2の4「(2)刊行物等に記載された発明」アに記載したとおりのものである。

3 対比及び判断
前記第2「1 本件補正の内容」?第2「3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討」において記したように、本願補正発明は、補正前の請求項3(すなわち、間接的に請求項2、さらに請求項1を引用)を引用する請求項14について、上部クラッド層、下部クラッド層、活性層、上部ドープ層及び下部ドープ層の相互の位置関係を技術的に限定するとともに、補正前の「pnダイオード層」について、「100μmより小さい最大横方向寸法を有する」ものとして技術的に限定するものである。
換言すると、本願発明は、本願補正発明から、上記各限定を除くとともに、補正前の請求項14(及び補正前の請求項14が引用する補正前の請求項3)に係る限定を除いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、前記第2 4「(3)対比」?第2 4「(5)小括」において検討したとおり、周知技術を勘案し、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2020-07-22 
結審通知日 2020-07-27 
審決日 2020-08-20 
出願番号 特願2017-553307(P2017-553307)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大和田 有軌  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 吉野 三寛
近藤 幸浩
発明の名称 非発光性側壁再結合を低減させるLED構造  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 大塚 文昭  
代理人 西島 孝喜  
代理人 那須 威夫  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 岩崎 吉信  

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