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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1369769
審判番号 不服2020-464  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-14 
確定日 2021-01-04 
事件の表示 特願2015- 8601「エレクトロクロミック素子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月25日出願公開、特開2016-133648〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)1月20日の出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 9月12日付け:拒絶理由通知書
平成30年11月19日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 4月17日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月12日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年10月 7日付け:拒絶査定(原査定)
令和 2年 1月14日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和2年1月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和2年1月14日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
令和2年1月14日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)。

(本件補正前)
「第1の支持体上に形成した第1の電極層と、
前記第1の電極層に対向するように設けられた第2の支持体上に形成された第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に設けられた電解質層と、
前記第1の電極層及び前記第2の電極層のいずれか一方に接するように設けられたエレクトロクロミック層と、を有するエレクトロクロミック素子であって、
前記エレクトロクロミック層を有する側の電極層よりも低抵抗な材料からなる補助電極を、前記補助電極が前記エレクトロクロミック層を有する側の前記電極層に接するように有しており、
前記補助電極が、前記エレクトロクロミック層を有する側の前記支持体の表面に埋設されるとともに、前記補助電極の表面及び前記エレクトロクロミック層を有する側の支持体の表面とが成す面が平滑であり、
前記補助電極の平均幅が、5μm?50μmであり、
前記補助電極の平均厚みが、0.5μm?10μmである
ことを特徴とするエレクトロクロミック素子。」

(本件補正後)
「第1の支持体上に形成した第1の電極層と、
前記第1の電極層に対向するように設けられた第2の支持体上に形成された第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に設けられた電解質層と、
前記第1の電極層及び前記第2の電極層のいずれか一方に接するように設けられたエレクトロクロミック層と、を有するエレクトロクロミック素子であって、
前記第1の支持体及び前記第2の支持体の少なくとも一方の、互いに対向する側の面に補助電極が埋設される凹部を有し、
前記エレクトロクロミック層を有する側の電極層よりも低抵抗な材料からなる補助電極を、前記補助電極が前記エレクトロクロミック層を有する側の前記電極層に接するように有しており、
前記補助電極が、前記エレクトロクロミック層を有する側の前記支持体の表面に形成された凹部に埋設されるとともに、前記補助電極の表面及び前記エレクトロクロミック層を有する側の支持体の表面とが成す面が平滑であり、
前記凹部のピッチが500μm?5000μmであり、
前記補助電極の平均幅が、5μm?50μmであり、
前記補助電極の平均厚みが、0.5μm?10μmであり、
調光眼鏡、調光ガラス、及び防眩ミラーのいずれかに用いられる
ことを特徴とするエレクトロクロミック素子。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1支持体」及び「第2支持体」について、「少なくとも一方の、互いに対向する側の面に補助電極が埋設される凹部を有し」、「凹部のピッチが500μm?5000μmであ」るとの限定を付加し、「エレクトロクロミック素子」について「調光眼鏡、調光ガラス、及び防眩ミラーのいずれかに用いられる」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記1の「(本件補正後)」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開昭63-158528号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審が付した。以下同様。)

(ア)「[産業上の利用分野]
本発明はエレクトロクロミック(EC)素子に係り、特に低抵抗導電層が透明電極に積層形成されたEC素子に関するものである。
[従来の技術]
EC素子は、液晶表示素子(LCD)に比して、駆動に大電流を要し、大面積のEC素子では応答速度が低下したり、着色濃度が不十分になったりするという問題点を有していた。
これは、EC素子の場合にも、少なくとも一方の電極は透明電極とせざるをえなく、SnO_(2)、In_(2)O_(3)-SnO_(2)等の透明電極を使用しているため、抵抗が高く、大面積のEC素子に要求される電荷が短時間で供給できないためである。このため、この透明電極の上又は下に低抵抗の金属等の導電性材料による低抵抗導電層を積層することが提案されている。
具体的には、基板上に低抵抗導電層を線状等に形成し、この上に透明電極を積層形成したり、逆に透明電極を形成した上に低抵抗導電層を線状等に積層形成したりする。
[発明の解決しようとする問題点]
このような低抵抗導電層を基板上または基板上の透明電極上に形成したEC素子は、低抵抗導電層が形成されていないEC素子に比して、抵抗が低下するため、応答速度は向上する。
さらに大面積のEC表示素子やEC調光素子では、その着消色により多くの電流が必要とされる。この要求に対して、前述の構成のEC素子では、EC素子のセル内に低抵抗導電層が形成されるため、その厚みは上下の基板間での短絡の防止という点からみてあまり厚くすることはできなく、低抵抗導電層の抵抗を下げるためにはその幅を広くする必要が生じた。しかし、低抵抗導電層の幅を広くすることは不要な非表示部分を増加させることとなる。このため、表示素子においてはEC素子特有の白い背景に黒い線が広い幅で見えてしまい見栄えが低下することになる。また、EC調光素子の場合には、見えない部分が増加し、やはり目ざわりなものとなる。
なお、LCDにおいても画素数の多い高密度の表示素子においては、その引き廻しのリードが細くなるため、一部のものでは低抵抗導電層を形成しているが、必要とされる電流がEC素子に比してはるかに少なく、はとんどこのような問題点を生じない。
このため、幅は従来と同等で、抵抗値が低い低抵抗導電層が望まれていた。」
(第1頁右下欄19行?第2頁左下欄7行)

(イ)「 第1図は1本発明のEC素子の基本的構造を示す断面図である。
第1図において、一方の基板1A上には、透明電極2A、さらにその上にEC物質層3が形成されており、他方の基板1B上には、電極2Bが形成されている。本発明では、これらの電極の形成された基板1A、1Bには、溝4A、4Bが形成され、これらの溝の中には低抵抗導電層5A、5Bが形成されている。これらの2枚の基板1A、1Bは、その間に電解質6を挟持するように電極面が相対向するように配置され、周辺がシール材7でシールされている。」
(第2頁右下欄6行?17行)

(ウ)「 この低抵抗導電層は、透明電極が形成される基板に形成された溝に埋め込まれ形成されたものであり、表示素子のように表示パターンがある場合には、そのパターンに合せて形成すればよいし、調光素子のように全面ベタパターンの場合には通常、線状、格子状、亀甲状等の形状に形成されればよい。
この低抵抗導電層の幅と厚み(深さ)は基板の厚みと要求される抵抗値とEC素子の大きさとによって適宜定められればよく、幅は0.1?10mm程度、厚みは0.02?1mm程度とされればよい。例えば比較的小型の10cm角程度のEC素子では幅は 1mm以下とされるほうが好ましいが、90cm角というような大型のEC調光素子の場合には数mm程度あってもあまり問題とならない。
この低抵抗導電層を形成するための溝中に埋設される導電性材料は、金属、導電ペースト等透明電極よりも低抵抗で、導電性を生じさせるものであれば使用できる。」
(第3頁右上欄4行?15行)

(エ)「 本発明のEC素子は、特に透過型の調光素子に好適であり、両方の基板ともに溝を形成し、低抵抗導電層を形成することにより、大きな面積であっても高速で応答するEC素子を容易に製造することができる。この窓ガラス等の調光用EC素子は、たとえ、線状や格子状に低抵抗導電層が形成されていてもそれは網入ガラスや線入ガラスのように見えるのみであり、美観を損ねにくい。このため、本発明は、このような調光素子用に特に好適である。
実施例を示し、更に詳細に説明する。
[実施例]
実施例1
400X800mmのガラス基板に底辺が0.5mm、深さ0.5mmの逆三角形状の溝をダイアモンド砥石により100mm間隔で8本形成した。この溝付きの基板の溝に銀ペーストをスクリーン印刷により印刷し、510℃で焼成して低抵抗導電層を形成した。次いで、ITO膜を面抵抗が10Ω/口となるように蒸着して透明電極付きの基板を製造した。
このガラス基板のITO膜上に、WO_(3)を450nm蒸着して第1の基板を製造した。」
(第5頁右上欄18行?左下欄18行)

(オ)第1図は次のものである。

(カ)上記(エ)の実施例及び第1図の記載によれば、「低抵抗導電層5A」は「透明電極2A」と接している。

(キ)上記記載及び図面から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(括弧書きは、参考までに、記載の根拠を示したものである。)

「エレクトロクロミック素子であって、(上記(ア))
一方の基板1A上には、透明電極2A、さらにその上にEC物質層3が形成されており、他方の基板1B上には、電極2Bが形成され、(上記(イ))
これらの電極の形成された基板1A、1Bには、溝4A、4Bが形成され、これらの溝の中には低抵抗導電層5A、5Bが形成され、(上記(イ))
低抵抗導電層5Aは透明電極2Aと接し、(上記(カ))
これらの2枚の基板1A、1Bは、その間に電解質6を挟持するように電極面が相対向するように配置され、周辺がシール材7でシールされ、(上記(イ))
この低抵抗導電層の幅と厚みは基板の厚みと要求される抵抗値とEC素子の大きさとによって適宜定められればよく、幅は0.1?10mm程度、厚みは0.02?1mm程度とされればよく、(上記(ウ))
この低抵抗導電層を形成するための溝中に埋設される導電性材料は、金属、導電ペースト等透明電極よりも低抵抗であって、(上記(ウ))
窓ガラス等の調光用EC素子に使用される、(上記(エ))
エレクトロクロミック素子」

イ 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である国際公開第2011/021470号(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(ア)「[0022] 本発明によれば、透明絶縁体の表面に設けられた溝に金属電極膜を形成し、溝の外部にはみ出した金属電極膜を研磨により除去するようにしたため、金属電極膜と透明絶縁体の表面との段差を小さくすることができ、その上に形成される透明導電膜が段差で損傷されることがない。したがって、製造工程の複雑化と高価格化を招くことなく、高透過率と低抵抗を兼備し、信頼性の高い透明導電性基板を得ることができる。
・・・(中略)・・・
[0025] 透明導電性基板2は、図1(a)に示すように、透明基板201、金属電極膜203、透明導電膜204、及び保護膜205等から構成される。
[0026] 透明基板201は、本発明における透明絶縁体に該当し、その表面に金属電極膜203を形成する為の格子状の溝201aが形成されている。透明基板201の材料としては、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英等の電子デバイスに使用されている硬質の材料を用いることができる。
[0027] 溝201aの形成方法としては、透明基板201の表面にレジストをパターニングした後、エッチング法を用いて形成することができる。レジストのパターニング方法としては、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等のダイレクトパターニング法や、フォトリソグラフィ法等を用いて形成することができる。尚、溝201aのパターン形状は、格子状に限定されることなく、例えばストライプ状であってもよい。
[0028] 金属電極膜203は、図1(b)に示すように、透明基板201の溝201aに形成され、透明導電膜204を低抵抗化するものである。 」

(イ)「[0043] 電極膜303としては、ECD素子の場合は、ITO電極上にアンチモンをドープした酸化スズ層を有する電極を用いることができる。ED素子の場合は、銀電極や銀パラジウム電極等の金属電極を用いることができる。
[0044] 尚、ECD素子とは、電極膜の表面の酸化還元反応による光吸収状態の可逆変化を利用したエレクトロクロミック表示素子を指し、ED素子とは、金属(例えば銀)または金属を化学構造中に有する化合物を含む電解質から、電極膜の表面への金属の析出と電解液への溶解とを利用するエレクトロデポジション表示素子を指し、いずれも電気化学表示素子である。ECD素子、及びED素子ともに表示原理としては、電極膜の表面での酸化還元反応を利用し、反応物質単独での光吸収の変化を利用したものであり、LCDのように偏光板やバックライトといった部材が不要であり、低コスト化、及び省プロセス化等に対して非常に有利な表示素子である。 」

(ウ)「[0067] 最初に、厚み0.7mmの無アルカリガラス基板の表面に、スパッタリング法を用いてCrを厚さ100nmで成膜した後、Cr膜をフォトリソグラフィ法を用いてパターニングした。続いて、パターン化されたCr膜をレジストとして、無アルカリガラス基板をエッチングし、その表面に格子状の溝201aを形成した。尚、エッチング液としては、バッファードフッ酸(BHF)を用いた。その後、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)と硝酸の混合液に浸漬し、レジスト(Cr膜)を除去し、格子状の溝201aが形成された無アルカリガラス基板(図4(a):透明基板201)を製作した。尚、溝201aの形状は、幅10μm、深さ2μm、ピッチ200μmの格子状とした。」

(エ)図1は次のものである。

(オ)上記(ア)、(イ)及び(エ)によれば、引用文献2には、「エレクトロクロミック表示素子」に適用可能な「透明導電性基板」に関し、「金属電極膜203」が「透明基板201の溝201aに形成され、透明導電膜204を低抵抗化するものであ」るものにおいて(図1(a)及び図1(b)参照。)、「透明絶縁体の表面に設けられた溝に金属電極膜を形成し、溝の外部にはみ出した金属電極膜を研磨により除去するようにしたため、金属電極膜と透明絶縁体の表面との段差を小さくすることができ、その上に形成される透明導電膜が段差で損傷されることがない。」点について記載されている。

(カ)上記(ウ)によれば、引用文献2には、「溝201a」が「幅10μm、深さ2μm、ピッチ200μm」である点について記載されている。

ウ 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2002/0044331号明細書(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(ア)「[0003] This invention relates to busbars utilized in electrically powered cells. In particular, this invention relates to edge and internal busbars utilized in electrochromic devices.・・・(中略)・・・」
(仮訳:「[0003] 本発明は、電気動力セルで利用されるバスバーに関するものである。特に、本発明は、エレクトロクロミックデバイスに使用されるエッジ及び内部バスバーに関するものである。・・・(中略)・・・」)

(イ)「[0257] As shown in FIG. 21, the “effective height” of the grid may be reduced by embedding the grid conductor partially in the TC and substrate. Internal busbar conductors 2102 are embedded in substrate 2101. The formation of internal busbar conductor 2102 may be done by any convenient way such as, for example, by etching or ablating away a desired pattern in the substrate and then depositing the desired grid material. The effective height of the grid may be reduced by embedding it partially in the glass as well as the TC. One can etch or ablate away consecutively the TC coating and the substrate, followed by depositing the desired grid material. Alternatively, one can deposit the grid onto, or embed the grid into, the glass before the TC is deposited. The portion of busbar conductors 2102 that are above the surface plane of substrate 2101 is removed until the surface and the busbar conductors are at substantially the same plane 2103.」
(仮訳:「[0257] 図21に示すように、グリッドの“有効高さ”は、グリッド状の導体を部分的にTCと基板内に埋め込むことによって低減することができる。内部バスバー導体2102は基板2101内に埋設される。内部バスバー導体2102の形成は、例えば、エッチング又は基板に所望のパターンを切除する、所望のグリッド材料を堆積させることによるなど、任意の便利な方法によって行うことができる。グリッドの有効高さは、ガラスだけでなく、TCにそれを部分的に埋め込むことによって低減することができる。1つのTCコーティングおよび基板は、次いで所望のグリッド材料を堆積させることにより連続的にエッチングまたは削摩することができる。代替的に、TCが堆積される前に、またはグリッドを、ガラス上にグリッドを付着させることができる。基板2101の表面の上方にあるバスバー導電2102の一部は、その表面まで除去され、バスバー導体は実質的に同一平面2103にある。」)

(ウ)FIG.21は次のものである。


(エ)上記(ア)?(ウ)によれば、引用文献3には、「electrochromic devices」(エレクトロクロミックデバイス)に適用される「electrically powered cells」(電気駆動セル)において、「busbar conductors 2102」(バスバー導体2102)の表面が、「substrate 2101」(基板2101)の「same plane 2103」(同一面2103)にある点について記載されている。

エ 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2010-108684号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(ア)「【0015】
本発明によれば、透明導電性基板の高透過率と低抵抗を満たす為に、金属電極膜のアスペクト比(膜厚/線幅)を大きくした場合に生じる、金属電極膜と透明基板との段差を、透明絶縁膜で埋めることにより、透明導電膜が該段差で損傷を受けることを防止することができる。さらに金属電極膜のパターン形状を、縦横にそれぞれ延在する縦パターンおよび横パターンからなる格子状に形成することにより、金属電極膜に接続される透明導電膜の表面電位が略均一となり、表示濃度のムラを抑えることができる。これらにより、高透過率と低抵抗を兼備した優れた特性を備え、高品位な画像を表示することができる透明導電性基板を得ることができる。
【0016】
また、このような透明導電性基板と、該透明導電性基板に対向し電解液を挟んで、基板の表面に電極膜が形成された電極基板と、を備えた構成の電気化学表示素子とすることにより、表示エリア全面渡って表示濃度が均一で表示ムラが無く、画像欠陥の少ない画像を表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面に基づいて、本発明に係る透明導電性基板、及び電気化学表示素子の実施の形態を説明する。尚、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。また、以下の説明において、「透明」とは、可視光域(波長400NM?700NM)での透過率が70%以上を指す。
【0018】
最初に本発明の実施形態に係る透明導電性基板の概略構成を図1を用いて説明する。図1は、透明導電性基板2の概略構成を示す断面模式図である。
【0019】
透明導電性基板2は、図1に示すように、透明基板201、金属電極膜203、透明絶縁膜202、透明導電膜204、及び樹脂膜206等から構成される。」

(イ)「【0031】
次に、本発明の実施形態に係る電気化学表示素子の構成を図4を用いて説明する。図4は、電気化学表示素子1の概略構成を示す断面模式図である。
【0032】
電気化学表示素子1の要部は、図2に示すように、透明導電性基板2、電極基板3、及び電解液6等から構成される。
【0033】
電極基板3は、基板301、及び基板301の表面に形成された電極膜303等から構成される。
【0034】
電気化学表示素子1は、観察側に透明導電性基板2が、非観察側に電極基板3が配され、透明導電性基板2の透明導電膜204と電極基板3の電極膜303とが対向するように配置されている。
【0035】
透明導電膜204と電極膜303との間には、ECD素子の場合は、エレクトロクロミック色素と電解液6が充填されており、ED素子の場合には、銀、または銀を化学構造物中に有する化合物を含有した電解液6が充填されている。」

(ウ)図1は次のものである。


(エ)図4は次のものである。

(オ)上記(ア)?(エ)によれば、引用文献4には、「ECD素子」に適用できる「透明導電性基板」において、「金属電極膜と透明基板との段差を、透明絶縁膜で埋めることにより、透明導電膜が該段差で損傷を受けることを防止することができ」、「このような透明導電性基板と、該透明導電性基板に対向し電解液を挟んで、基板の表面に電極膜が形成された電極基板と、を備えた構成の電気化学表示素子とすることにより、表示エリア全面渡って表示濃度が均一で表示ムラが無く」なる点について記載されている。

オ 本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2010-134015号公報(以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(ア)「【0018】
以下、本発明に係る調光素子の実施例について図面を参照しつつ説明する。なお、図面は、本発明の調光素子の特徴を説明するために、強調したい部分が寸法的に拡大され、かつ、模式的に説明されている。
【0019】
まず、本発明の調光素子は、図1?図3に示すように、透明導電層11と、該透明導電層11よりも抵抗率が小さい導電性材料からなる線幅Dが1μm以上50μm以下の範囲内、厚みtが200Å(0.02μm)以上である線状導電層が網目状に配列した導電ネットワーク12と、が高分子透明フィルムのような可撓性透明基板の上に積層された透明電極基板10を少なくとも一方の電極としている。
【0020】
ここで、各層の積層順序は、例えば、図1に示すように、可撓性透明基板10の上に、透明導電層11と、導電ネットワーク12とが順次積層された積層構造体であっても、また、図2に示すように、可撓性透明基板10の上に導電ネットワーク12と、透明導電層11とが順次積層された積層構造体であってもよい。
また、導電ネットワーク12が透明導電層11の間に介在されてサンドイッチ状となって可撓性透明基板10の上に積層されていてもよい。
また、ITO膜は高分子フィルムに直接成膜されていてもよいが、高分子フィルムとITO膜との間にアンダーコート層を介在させてもよく、このようなアンダーコート層を形成することにより高分子フィルムに対する透明導電膜の密着性を高め、透明導電膜の剥離を一層防止することができる。
【0021】
ここで、導電ネットワーク12とは、線幅Wが1μm以上50μm以下の範囲内であり、厚みtが200Å(0.02μm)以上である線状の導電層が網目状に配列した構造体である。このような構造体は、金属の多数の帯が縦、横又は斜め等に交差して互いの交差点が電気的に接続された構造体であり、例えば、図3に示すような互いに直交した縦条と横条とから構成され、交差点が電気的に接続されている格子を含む。
【0022】
本発明に係る導電ネットワーク12は、金属細線が網目状に配列されて形成されているので、断線箇所が少ない場合には、周囲の他の回路が断線部位を含む駆動ユニットの補完をすることができるものである。このような観点から本発明に係る導電ネットワーク12とは、マスク部20の形状が正方形の格子模様である図3に示す模様に限定されず、マスク部20の形状が長方形、六角形(ハニカム状)、三角形などの多角形が包含される。また、マスク部20は、円形、楕円形をなどの曲線部を含む構成でもよい。
このような調光素子の一例では、図5に示すように、透明電極基板1上に酸化型若しくは還元型エレクトロクロミック層2を有する発色極3と、電解質4とを構成に含み、電解質4が対向電極5と発色極3との間に介在している。」

(イ)「【0041】
導電ネットワーク13は、基本的には、透明電極基板としての透明性を確保しつつ、大面積の調光素子の駆動単位を小さくすること、及びそれに伴い一部の細線が断線しても他の回路から駆動電圧の補完が可能であることが必要である。細線の幅を太くすれば細線の断線の確率は低下し、また、細線の数を増やせば、細線の一部が断線した場合の迂回回路も充実して駆動電圧の補完が可能である。しかしながら、細線の幅を太くすればするほど、また、細線の数を増やせば増やすほど透明電極基板としての透明性の確保が困難となる。
本発明において、可撓性透明電極基板の全面積Saに対する導電ネットワークが積層されていない部分の面積Stで定義される開口率A(=St/Sa)が80%以上であることが好ましい。
本発明に係る導電ネットワーク13では、通常、100μm以上のピッチWを有している。導電ネットワーク13の形体が互いに直交する格子模様である場合、線幅DとピッチWと、開口率Aとの関係は表1のとおりとなる。
【0042】
【表1】


(※当審注:【0041】内の「導電ネットワーク13」の記載は「導電ネットワーク12」の誤記であると認める。)

(ウ)図2は次のものである。

(エ)図3は次のものである。

(オ)上記(ア)?(エ)によれば、引用文献5には、「調光素子」(「エレクトロクロミック」デバイス)に適用される「可撓性透明基板」において、該「可撓性透明基板」に形成した「導電ネットワーク12」の「ピッチ」を「50μm」?「10000μm」とした点及び「線幅D」を「1μm」?「50μm」とした点(【0042】【表1】参照。)について記載されている。

(3)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。

ア 本件補正発明の「第1の支持体上に形成した第1の電極層と、」との特定事項について
引用発明の「基板1A」及び「透明電極2A」は、それぞれ、本件補正発明の「第1の支持体」及び「第1の電極層」に相当する。
よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

イ 本件補正発明の「前記第1の電極層に対向するように設けられた第2の支持体上に形成された第2の電極層と、」との特定事項について
引用発明の「基板1B」及び「透明電極2B」は、それぞれ、本件補正発明の「第2の支持体」及び「第2の電極層」に相当する。
よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

ウ 本件補正発明の「前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に設けられた電解質層と、」との特定事項について
引用発明の「電解質6」は、本件補正発明の「電解質層」に相当する。
よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

エ 本件補正発明の「前記第1の電極層及び前記第2の電極層のいずれか一方に接するように設けられたエレクトロクロミック層と、を有するエレクトロクロミック素子であって、」との特定事項について
引用発明の「EC物質層3」は、本件補正発明の「エレクトロクロミック層」に相当する。また、引用発明は「基板1A上には、透明電極2A、さらにその上にEC物質層3が形成され」るものである。
よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

オ 本件補正発明の「前記第1の支持体及び前記第2の支持体の少なくとも一方の、互いに対向する側の面に補助電極が埋設される凹部を有し、」との特定事項について
引用発明の「低抵抗導電層5A」及び「溝4A」は、それぞれ、本件補正発明の「補助電極」及び「凹部」に相当する。また、引用発明は「溝」(「溝4A」)「の中に」「低抵抗導電層5A」「が形成され」るものである。
よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

カ 本件補正発明の「前記エレクトロクロミック層を有する側の電極層よりも低抵抗な材料からなる補助電極を、前記補助電極が前記エレクトロクロミック層を有する側の前記電極層に接するように有しており、」との特定事項について
引用発明において「低抵抗導電層を形成するための溝中に埋設される導電性材料は、金属、導電ペースト等透明電極よりも低抵抗であ」るから、「EC物質層3」が形成される側の基板に形成される「低抵抗導電層5A」は「透明電極2A」より「低抵抗」であり、かつ、「低抵抗導電層5Aは透明電極2Aと接」するものである。
よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

キ 本件補正発明の「前記補助電極が、前記エレクトロクロミック層を有する側の前記支持体の表面に形成された凹部に埋設されるとともに、前記補助電極の表面及び前記エレクトロクロミック層を有する側の支持体の表面とが成す面が平滑であり、」との特定事項について
上記オに記載したように、引用発明は「溝」(「溝4A」)「の中に」「低抵抗導電層5A」「が形成され」るものであるが、引用発明の「透明電極2A」の表面と「基板1A」の表面が平滑であるか不明である。
よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項のうち、「前記補助電極が、前記エレクトロクロミック層を有する側の前記支持体の表面に形成された凹部に埋設され」るとの特定事項を備える。

ク 本件補正発明の「前記凹部のピッチが500μm?5000μmであり、」「前記補助電極の平均幅が、5μm?50μmであり、」「前記補助電極の平均厚みが、0.5μm?10μmであり、」との特定事項について
引用発明において、「低抵抗導電層」の「幅は0.1?10mm程度、厚みは0.02?1mm程度」である。
よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備えない。

ケ 本件補正発明の「調光眼鏡、調光ガラス、及び防眩ミラーのいずれかに用いられる」との特定事項について
引用発明は「窓ガラス等の調光用EC素子に使用される」ものである。
よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

コ 本件補正発明の「エレクトロクロミック素子」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

サ 以上ア?コにより、本件補正発明と引用発明は、下記の点で一致している。

[一致点]
「第1の支持体上に形成した第1の電極層と、
前記第1の電極層に対向するように設けられた第2の支持体上に形成された第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に設けられた電解質層と、
前記第1の電極層及び前記第2の電極層のいずれか一方に接するように設けられたエレクトロクロミック層と、を有するエレクトロクロミック素子であって、
前記第1の支持体及び前記第2の支持体の少なくとも一方の、互いに対向する側の面に補助電極が埋設される凹部を有し、
前記エレクトロクロミック層を有する側の電極層よりも低抵抗な材料からなる補助電極を、前記補助電極が前記エレクトロクロミック層を有する側の前記電極層に接するように有しており、
前記補助電極が、前記エレクトロクロミック層を有する側の前記支持体の表面に形成された凹部に埋設され、
調光眼鏡、調光ガラス、及び防眩ミラーのいずれかに用いられる
エレクトロクロミック素子。」

他方、本件補正発明と引用発明は、下記の点で相違又は一応相違する。

[相違点1]
「前記補助電極の表面及び前記エレクトロクロミック層を有する側の支持体の表面とが成す面」につき、本件補正発明においては、「平滑であ」るのに対し、引用発明においては、「平滑であ」るか不明である点

[相違点2]
「凹部」及び「補助電極」につき、本件補正発明においては、「前記凹部のピッチが500μm?5000μmであり、」「前記補助電極の平均幅が、5μm?50μmであり、」「前記補助電極の平均厚みが、0.5μm?10μmであ」るのに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点

(4)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献1の第1図の記載、及び、一般的に導電性基板において透明電極が基板の平坦面に設けられる等の技術常識に照らせば、引用発明の「低抵抗導電層5A」の表面と「基板1A」の表面は平坦であると解するのが相当である。仮にそこまでは言えないとしても、引用文献2(上記(2)イ(オ))、引用文献3(上記(2)ウ(エ))及び引用文献4(上記(2)エ(オ))に記載されるように、エレクトロクロミック素子に適用される導電性基板において、基板上に設けられた金属電極膜の表面と該基板の表面との段差を小さくしたり(段差による金属電極膜の損傷を防ぐためには、段差がない、すなわち平坦である方が良いことは明らか。)、同一面とすることが明示されているのであるから、引用発明の「低抵抗導電層5A」の表面と「基板1A」の表面を平坦とすることに困難はない。その際、当該平坦な面が滑らかである方が、金属電極膜の損傷をより防ぐことができることもまた明らかであるから、「低抵抗導電層5A」の表面と「基板1A」の表面を「平滑」にすることは当業者にとって設計事項にすぎない。

イ 相違点2について
引用発明における「低抵抗導電層」の「幅は0.1?10mm程度、厚みは0.02?1mm程度」であるものの、引用発明において「低抵抗導電層の幅と厚みは基板の厚みと要求される抵抗値とEC素子の大きさとによって適宜定められればよ」いものである。
一方、本件出願時に公知であった引用文献2(上記(2)イ(カ))には、「溝201a」(本件補正発明の「凹部」に相当)が「幅10μm、深さ2μm、ピッチ200μm」である点について記載され、本件出願時に公知であった引用文献5(上記(2)オ(オ))には「導電ネットワーク12」(本件補正発明の「補助電極」に相当)の「ピッチ」が「50μm」?「10000μm」である点及び「線幅D」が「1μm」?「50μm」である点について記載されていることから、本件出願時において導電性基板に形成される溝(及び該溝に形成される金属電極膜)のサイズをマイクロメートルのオーダーとすることは技術常識であったと言える。
そうすると、当業者であるなら該技術常識に照らし、引用発明において「溝4A」及び「低抵抗導電層5A」のサイズをマイクロメーターのオーダーとすることは容易であるといえる。そして、引用文献5の【0042】【表1】(上記(2)オ(イ))からは、「導電ネットワーク12」の「ピッチ」について「50μm」?「10000μm」の範囲で、「線幅D」について「1μm」?「50μm」の範囲で、当業者は様々な組み合わせを検討している事が理解でき、このような事情も考慮すれば、「凹部のピッチ」、「補助電極の平均幅」、「補助電極の平均厚み」のサイズを本件補正発明のようにしたことについても、数値の通常の最適化又は好適化にすぎない。

ウ 本件補正発明の効果について
本件補正発明の「発色ムラがなく、応答速度の優れた、エレクトロクロミック素子を提供することができる。」(【0009】)という効果は、「凹部」及び「補助電極」のサイズについて通常の最適化又は好適化をすることによって得られるものに過ぎず、顕著なものということはできない。

エ 請求人の主張について
請求人は令和2年1月14日に提出された審判請求書において、以下のように主張する。

[主張1]
「補正後の本願発明のエレクトロクロミック素子は、補助電極の平均幅が、5μm?50μmであり、前記補助電極の平均厚みが、0.5μm?10μmであり、補助電極が埋設される凹部のピッチが500μm?5000μmであることにより、エレクトロクロミック素子の応答性及び視認性を向上させると共に、エレクトロクロミック層の厚みを抑えることができるという優れた技術的効果が得られるものです(本願明細書の段落[0026]、[0027]参照)。このことは、本願明細書の実施例の結果から明らかに認められます。
これに対して、本願の補助電極に相当する引用文献1の低抵抗導電層の幅は0.1?10mm(100μm?10mm)程度、厚みは0.02?1mm(20μm?1000μm)程度であると記載され(引用文献1の第3頁右上欄第6行目乃至第7行目参照)、引用文献1の実施例1では幅0.5mm(500μm)、深さ0.5mm(500μm)の溝、実施例3では幅1mm(1000μm)、深さ0.3?0.5mm(300μm?500μm)の溝、実施例4では幅1mm(1000μm)、深さ0.5mm(500μm)の溝がそれぞれ設けられています。更に、引用文献1の実施例1?7の溝(凹部)のピッチは100mmであり(引用文献1の第5頁左下欄参照)、本願発明の溝(凹部)のピッチ500μm?5000μm(0.5mm?5mm)に比べて、大幅に大きいことが明らかです。これら引用文献1の実施例は、いずれも本願の補助電極の平均幅の範囲、及び補助電極の平均厚みの範囲を満たさず、本願発明の比較例に該当し、いずれも本願発明の優れた技術的効果が得られません。
また、引用文献2には、溝のピッチが200μm(実施例1)、100μm(実施例2)と記載されており、本願発明の溝(凹部)のピッチ500μm?5000μm(0.5mm?5mm)に比べて、小さいことが明らかです。
更に、引用文献3?4には、補助電極の平均幅が、5μm?50μmであり、前記補助電極の平均厚みが、0.5μm?10μmであること、補助電極が埋設される凹部のピッチが500μm?5000μmであること、及びこれらによる有利な効果について記載も示唆もされていません。」
(審判請求書第9頁26行?第10頁24行)

[主張2]
「これに対して、引用文献1のエレクトロクロミック素子は、大面積の表示素子や調光素子を想定しています。即ち、引用文献1の第2頁の左上欄には、「[従来の技術]EC素子は、液晶表示素子(LCD)に比して、駆動に大電流を要し、大面積のEC素子では応答速度が低下したり、着色濃度が不十分になったりするという問題点を有していた。」と記載されています。また、引用文献1の第2頁の右上欄には、「[発明の解決しようとする問題点]このような低抵抗導電層を基板上または基板上の透明電極上に形成したEC素子は、低抵抗導電層が形成されていないEC素子に比して抵抗が低下するため、応答速度は向上する。さらに大面積のEC表示素子やEC調光素子では、その着消色により多くの電流が必要となる。・・・」と記載されています。
また、引用文献2に記載の発明は、透明導電膜を有する透明導電性基板を要するデバイスとして、大型のフラットパネルディスプレイや太陽電池を想定しており、「しかしながら、近年のITOに代表される透明導電膜においては、高い透過率を維持しながら電気抵抗を低減させることは材料固有の抵抗率の限界から難しく、大型化の一途をたどるディスプレイデバイスや太陽電池への対応が困難になりつつある」(引用文献2の段落[0002]参照)。更に、引用文献2に記載の発明の課題は、「製造工程の複雑化と高価格化を招くことなく、高透過率と低抵抗を兼備し、信頼性の高い透明導電性基板の製造方法、透明導電性基板、及び電気化学表示素子を提供する」こと(引用文献2の段落[0010]参照)であり、“高透過率”とあるものの、本願発明の課題である「視認性向上」については記載も示唆もされていません。したがって、引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の発明とを結び付ける動機づけは存在しません。」
(審判請求書第11頁1行?22行)

以下、上記主張1について検討する。
引用発明において、本件補正発明における「凹部」及び「補助電極」の数値限定を採用する点及び該数値限定を採用することによる効果については、上記イ及びウで検討したとおりである。

次に、上記主張2について検討する。
請求人は「引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の発明とを結び付ける動機づけは存在しません。」と主張するが、引用文献2に記載された「透明導電性基板」は「エレクトロクロミック表示素子」に適用可能なものであって(上記(2)イ(イ)を参照。)、引用発明と技術分野が一致するものである。また、引用発明と引用文献2に記載された発明とは、「エレクトロクロミック表示素子に適用可能な透明導電性基板において、透明基板に溝を形成して金属電極膜(低抵抗導電層)を埋め込み、その上に形成された透明導電膜(透明電極)を低抵抗化するものである点」で作用・機能も共通している。そうすると、当業者であれば、引用発明に引用文献2に記載の技術事項を採用する動機付けがあったというべきである。

以上の理由により、請求人の上記主張1及び主張2は採用できない。

(5)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年1月14日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和元年6月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1の「(本件補正前)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない
というものである。

3 進歩性について
(1)引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「第1支持体」及び「第2支持体」について、「少なくとも一方の、互いに対向する側の面に補助電極が埋設される凹部を有し」、「凹部のピッチが500μm?5000μmであ」るとの限定を削除し、「エレクトロクロミック素子」について「調光眼鏡、調光ガラス、及び防眩ミラーのいずれかに用いられる」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-10-26 
結審通知日 2020-10-27 
審決日 2020-11-09 
出願番号 特願2015-8601(P2015-8601)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀部 修平  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 瀬川 勝久
佐藤 洋允
発明の名称 エレクトロクロミック素子及びその製造方法  
代理人 廣田 浩一  

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