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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1369899
審判番号 不服2020-5507  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-23 
確定日 2021-01-26 
事件の表示 特願2017-531985「磁気共鳴映像法のための強磁性増強」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月10日国際公開、WO2016/037042、平成29年 9月21日国内公表、特表2017-527425、請求項の数(23)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」と記す。)は、2015年(平成27年)9月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年9月5日、米国 2015年1月30日、米国 2015年2月3日、米国 2015年6月12日、米国)を国際出願日とする出願であって、令和元年12月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年4月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、令和2年8月24日付けで拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)がされ、同年11月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和元年12月12日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-13,15-29に係る発明は、以下の引用文献A-Gに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開平01-064637号公報
B.特表2001-511597号公報(周知技術を示す文献)
C.特開2000-157510号公報
D.特開平10-127604号公報
E.特開2001-137212号公報(周知技術を示す文献)
F.特開平08-031635号公報
G.特開昭63-065848号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1:(新規性)本件出願の請求項1-3,7-9,11,12,15-17,22-24,26,27に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2:(進歩性)本件出願の請求項1-9,11,12,15-29に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由3:(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の請求項10,13,14の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由4:(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の請求項10,13,14の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

引 用 例 等 文 献 一 覧
1.特開2005-118098号公報(当審において新たに引用した文献)
2.特開平5-182821号公報(当審において新たに引用した文献)
3.特開平10-127604号公報(拒絶査定時の引用文献D)

第4 本願発明
本願請求項1-23に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」-「本願発明23」という。)は、令和2年11月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-23に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-23は以下のとおりの発明である。(下線は、請求人が付与したものであり、補正箇所を表している。)

「 【請求項1】
磁気共鳴映像法システムにおける使用のための磁気システムであって、
第1のB_(0)磁石と、第2のB_(0)磁石とを含み、前記磁気共鳴映像法システムのためのB_(0)磁場に寄与する磁場を生成するように構成される、2平面B_(0)磁石と、
前記磁気共鳴映像法システムの撮像領域内の磁束密度を増大させるために、前記2平面B_(0)磁石によって生成される前記磁場の少なくとも一部を取り込んで方向付けるように構成される、少なくとも1つの強磁性コンポーネントと、
前記磁気共鳴映像法システムが異なる場所に輸送されることを可能にする少なくとも1つの機構とを含み、
該少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、C形状の強磁性構造を含み、該C形状の強磁性構造は、該強磁性構造の1つの側のみに沿って磁束のための戻り経路を提供し、
前記2平面B_(0)磁石及び前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、0.1T以下の強度の前記B_(0)磁場を生成するように構成される、
磁気システム。
【請求項2】
B_(0)磁石は、作動させられるときに、前記磁気共鳴映像法システムのために前記B_(0)磁場に寄与する磁場を生成するように構成される、少なくとも1つの電磁石を含む、請求項1に記載の磁気システム。
【請求項3】
当該磁気システムは、0.1T以下であり且つ20mT以上である強度にある前記B_(0)磁場を生成するように構成される、請求項1に記載の磁気システム。
【請求項4】
当該磁気システムは、20mT以下であり且つ10mT以上である強度にある前記B_(0)磁場を生成するように構成される、請求項1に記載の磁気システム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電磁石は、前記磁場を生成するよう、銅又はアルミニウム導体を使用して巻回される少なくとも1つの電磁石コイルを含み、当該磁気システムは、0.1T以下であり且つ20mT以上である強度にある前記B_(0)磁場を生成するように構成される、請求項1に記載の磁気システム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの電磁石は、2平面構成において配置される第1のB_(0)コイルと第2のB_(0)コイルとを含む一対のB_(0)コイルを含み、前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、前記第1のB_(0)コイルと前記第2のB_(0)コイルとの間の前記撮像領域において前記B_(0)磁場の磁場強度を増大させ且つ/或いは前記B_(0)磁場の同質性を変更するように構成される、請求項2に記載の磁気システム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、強磁性構造を含み、該強磁性構造は、該強磁性構造を通じて前記第1のB_(0)コイル及び前記第2のB_(0)コイルによって生成される磁束のための少なくとも1つの戻り経路を提供する磁性回路を形成するよう前記第1のB_(0)コイル及び前記第2のB_(0)コイルに接続される、請求項6に記載の磁気システム。
【請求項8】
前記強磁性構造は、少なくとも1つの面取りされた隅部を含み、該少なくとも1つの面取りされた隅部は、該少なくとも1つの面取りされた隅部の回りの磁気抵抗を減少させる、請求項7に記載の磁気システム。
【請求項9】
前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、前記磁束が前記強磁性構造から出る場所を変更するよう、前記第1のB_(0)コイル及び/又は前記第2のB_(0)コイルに隣接して配置される少なくとも1つの強磁性コンポーネントを更に含む、請求項7に記載の磁気システム。
【請求項10】
前記強磁性構造は、第1の強磁性材料を含み、前記第1のB_(0)コイル及び/又は前記第2のB_(0)コイルに隣接して配置される前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、前記第1の強磁性材料とは異なる第2の強磁性材料を含む、請求項9に記載の磁気システム。
【請求項11】
前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、1つ又はそれよりも多くの中実な強磁性コンポーネントを含む、請求項6に記載の磁気システム。
【請求項12】
前記磁気システムは、少なくとも1つのラミネートパネルを含み、該少なくとも1つのラミネートパネルは、その上に加工される少なくとも1つの電磁石コンポーネントを有する、請求項6に記載の磁気システム。
【請求項13】
前記少なくとも1つのラミネートパネルは、その上に形成される少なくとも1つのB_(0)コイル、少なくとも1つのシムコイル、及び/又は少なくとも1つの勾配コイルを含む、請求項12に記載の磁気システム。
【請求項14】
前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、前記第1のB_(0)コイル及び/又は前記第2のB_(0)コイルに隣接して配置される少なくとも1つのシムリングを含む、請求項6に記載の磁気システム。
【請求項15】
前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、前記第1のB_(0)コイル及び/又は前記第2のB_(0)コイルに隣接して配置される複数の強磁性シム部品を含む、請求項7に記載の磁気システム。
【請求項16】
前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、前記第1のB_(0)コイル及び/又は前記第2のB_(0)コイルに隣接して配置される少なくとも1つの強磁性極部品を含む、請求項6に記載の磁気システム。
【請求項17】
前記少なくとも1つの強磁性極部品は、非長方形の形状を有する極部品を含む、請求項16に記載の磁気システム。
【請求項18】
前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、前記第1のB_(0)コイル及び/又は前記第2のB_(0)コイルのための支持をもたらす支持構造を提供するように構成される、請求項6に記載の磁気システム。
【請求項19】
前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、前記少なくとも1つの強磁性コンポーネント内に生成される渦電流を減少させるよう複数の電気的に絶縁されたセグメントを含む、請求項6に記載の磁気システム。
【請求項20】
前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、前記少なくとも1つの強磁性コンポーネントの重量を減少させるよう、不均一な厚さを有する、請求項6に記載の磁気システム。
【請求項21】
前記B_(0)磁石は、前記磁気共鳴映像法システムのための前記B_(0)磁場に寄与する磁場を生成する少なくとも1つの永久磁石を含む、請求項1に記載の磁気システム。
【請求項22】
前記少なくとも1つのラミネートパネルは、x方向、y方向、及びz方向においてそれぞれ空間符号化をもたらすよう、少なくとも1つのx勾配コイルと、少なくとも1つのy勾配コイルと、少なくとも1つのz勾配コイルとを含む、請求項13に記載の磁気システム。
【請求項23】
前記少なくとも1つのラミネートパネルは、前記B_(0)磁場に寄与するように構成される少なくとも1つのB_(0)コイルを含み、前記少なくとも1つのラミネートパネルは、2平面構成において配置される第1のラミネートパネル及び第2のラミネートパネルを含む、請求項22に記載の磁気システム。」

第5 当審拒絶理由通知における理由3及び理由4について
令和2年8月24日付け当審拒絶理由通知で通知した理由3及び理由4において、補正前の請求項10,13,14は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない旨通知したが、これらの請求項は、前記令和2年11月24日提出の手続補正書により削除されたから、令和2年8月24日付け拒絶理由通知の理由3及び理由4は解消した。

第6 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
令和2年8月24日付けの拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同じ。)
(1)「【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に関し、特に、傾斜磁場を印加した場合に静磁場発生装置の磁気特性の対称性に優れたMR装置に関する。」

(2)「【0020】
本発明の第1の実施の形態の静磁場発生装置を備えたMRI装置について、図面を用いて説明する。
【0021】
本実施の形態のMRI装置は、図1に示したように、被検体401を配置する撮像領域に均一な静磁場空間を発生させる静磁場発生装置402を有している。静磁場発生装置402は、図2に斜視図を、図3に断面図を示したように、球状の撮像領域30にz方向の静磁場を発生させるため、撮像領域30を挟んで上下に配置された一対の静磁場発生コイル32と、静磁場を均一にするために静磁場発生コイル30の内側にそれぞれ配置された磁極板31と、磁極板31を連結して磁気回路を構成する継鉄35ならびに鉄柱33とを含む。磁極板31は、強磁性体である鉄製であり、本実施の形態では磁極板31と継鉄35と鉄柱33が一体に構成されている。磁極板31の表面には、静磁場の均一度を高めるために溝237が形成されている。
【0022】
鉄柱33は、撮像領域30の周囲を広く開放された空間とするために、磁極板31の片側に配置されている。これにより、磁極板31、継鉄35ならびに鉄柱33で構成される磁気回路は、左右非対称なC字型となっている。【0023】
なお、撮像領域30の大きさは、一例としては30cm程度であり、静磁場の強度は、例えば0.2Tから1.5T程度、その均一度は、例えば0.5?30ppmとなるように設計することができる。
【0024】
静磁場発生コイル32は、通常のコイルまたは、クライオスタット内に収容した超電導コイルを用いることができる。静磁場発生コイル32の内周側には磁極板31を取り囲むように、継鉄35と連結した磁極突起部36が備えられている。磁極突起部36の内側には、傾斜磁場発生コイル34が配置される。傾斜磁場発生コイル34は、被検体からのNMR信号に対して位置情報を付加するための傾斜磁場を撮影領域30に印加する。傾斜磁場の大きさは、例えば10mT/m?50mT/m、スリューレート50?300T/m/s程度にすることができる。
【0025】
本実施の形態ではさらに、磁極板31と傾斜磁場発生コイル32との間の空間に、高透磁率部材37と永久磁石38とを配置する。高透磁率部材37は、傾斜磁場発生コイル34側に配置され磁極板31を構成する強磁性体よりも透磁率が高い部材である。傾斜磁場コイル32の発生する傾斜磁場の磁束は、磁極板31よりも透磁率が高い高透磁率部材37を通過するため、傾斜磁場が磁極板31に到達するのを防ぐ作用をする。なお、高透磁率部材37は、渦電流が生じるのを防ぐため電気抵抗値が高いものであることが望ましい。例えば、高透磁率部材37として、積層珪素鋼鈑や、絶縁鉄粉を樹脂で固め板状にしたものを好適に用いることができる。高透磁率部材37が厚すぎると、磁極板31の溝237による場均一度の調整が困難になるので、50mm程度以下にすることが望ましいが、逆に薄すぎると傾斜磁場の磁束が高透磁率部材37を通り抜けて磁極板31に到達してしまうので、約5mmから50mmの間の厚さにすることが望ましい。
【0026】
永久磁石38は、厚さ方向(z方向)に着磁された板状の磁石であり、高透磁率部材37の磁極板31側の面に貼り付けられている。永久磁石38は、通常に製造されたものであればよいが、なるべく薄く、軽いものが望ましいので、最大エネルギー積が大きいNb-Fe-B系等の希土類系の永久磁石を用いることが望ましい。」

(3)「【図2】



(4)「【図3】



(5)【図2】及び【図3】から、上下に配置された一対の静磁場発生コイル32は、各平面上で円形であること、継鉄35の角部が面取りされて丸い形状になっていること、及び継鉄35と鉄柱33がC形状をなすことが見てとれる。

(6)前記引用文献1の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「静磁場発生装置を備えたMRI装置において、
MRI装置は、被検体401を配置する撮像領域に均一な静磁場空間を発生させる静磁場発生装置402を有しており、
静磁場発生装置402は、球状の撮像領域30にz方向の静磁場を発生させるため、撮像領域30を挟んで上下に配置された一対の静磁場発生コイル32と、静磁場を均一にするために静磁場発生コイル32の内側にそれぞれ配置された磁極板31と、磁極板31を連結して磁気回路を構成する継鉄35ならびに鉄柱33とを含み、
上下に配置された一対の静磁場発生コイル32は、各平面上で円形であり、 継鉄35の角部が面取りされて丸い形状になっており、継鉄35と鉄柱33がC形状をなし、
磁極板31は、強磁性体である鉄製であり、磁極板31と継鉄35と鉄柱33が一体に構成されており、磁極板31の表面には、静磁場の均一度を高めるために溝237が形成されており、
静磁場の強度は、例えば0.2Tから1.5T程度であり、
静磁場発生コイル32は、通常のコイルまたは、クライオスタット内に収容した超電導コイルを用いることができ、静磁場発生コイル32の内周側には磁極板31を取り囲むように、継鉄35と連結した磁極突起部36が備えられており、磁極突起部36の内側には、傾斜磁場発生コイル34が配置され、磁極板31と傾斜磁場発生コイル32との間の空間に、積層珪素鋼鈑からなる高透磁率部材37と永久磁石38とを配置する、
MRI装置。」

2.引用文献2について
令和2年8月24日付けの拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
(1)「【0002】
【従来の技術】MRIは、強力な磁界を形成する磁界発生装置の空隙内に、被検者の一部または全部を挿入して、対象物の断層イメージを得てその組織の性質まで描き出すことができる装置である。
【0003】上記MRI用の磁界発生装置において、空隙は被検者の一部または全部が挿入できるだけの広さが必要であり、かつ鮮明な断層イメージを得るために、通常、空隙内の撮像視野内には、0.02?2.0Tでかつ1×10^(-4)以下の精度を有する安定した強力な均一磁界を形成することが要求される。」

(2)「【0011】
【課題を解決するための手段】この発明は、MRI用磁界発生装置において、上記目的を達成するために種々検討した結果、空隙を形成して対向する一対の磁極片を、それぞれ複数枚のけい素鋼板を所要方向に積層して一体化した複数個のブロック状磁極片用部材で形成した積層けい素鋼板層の上にソフトフェライトを積層した2層で構成することによって、磁界強度および磁界均一度を低下させることなく、傾斜磁界コイルによる渦電流、並びに残磁現象を低減でき、さらに加工、製造が容易となることを知見した。」

(3)上記引用文献2の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「MRI用の磁界発生装置において、
空隙内の撮像視野内には、0.02?2.0Tでかつ1×10^(-4)以下の精度を有する安定した強力な均一磁界を形成し、
空隙を形成して対向する一対の磁極片を、それぞれ複数枚のけい素鋼板を所要方向に積層して一体化した複数個のブロック状磁極片用部材で形成した積層けい素鋼板層の上にソフトフェライトを積層した2層で構成することによって、磁界強度および磁界均一度を低下させることなく、傾斜磁界コイルによる渦電流、並びに残磁現象を低減する、
MRI用の磁界発生装置。」

3.引用文献3について
令和2年8月24日付けの拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
(1)「【0026】たとえ上述したMRI磁石構造体によって比較的均一な静磁場が得られるとしても、当該磁場を若干補正する必要が出てくる場合もある。この場合は、図2に示すように公知の手法によって静磁場を調整するための一つ又はそれ以上のシムコイル38及び/又はシムリング40といった少なくとも一つのMRI静磁場補正手段を用いる。シムコイル38は例えば非超電導磁石(常電導磁石)であって、被検体撮影領域中の磁場を調整すべくその位置及び通電量が制御される。高透磁性のリングを構成するシムリング40は、その位置のみが調整可能であるとともに、これは被検体撮影領域付近の磁(束)場を補正するように作用する。
【0027】明らかに、シムリング40及び/又はシムコイル38のサイズ、放射状位置、及び間隔を可変とすることにより被検体撮影領域における磁場の均一性およびその補正態様は変化する。さらにまた、シムコイル及び/又はシムリングは、図2に示すように上部磁極と共に配置しても良い。上部又は下部磁極の配置箇所において、シムコイル38及びシムリング40はそれ自体またはその組み合わせによって利用される。シムコイル及びシムリングをいずれかの磁極とともに単独で、又は両磁極とともに単独で使用することは想定されている。」

(2)上記引用文献3の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「MRI磁石構造体において、静磁場を調整するための一つ又はそれ以上のシムコイル38及び/又はシムリング40といった少なくとも一つのMRI静磁場補正手段を用いた、MRI磁石構造体。」

第7 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1を、引用発明1と比較する。
ア 引用発明1における「MRI装置」は、本願発明1における「磁気共鳴映像法システム」に相当する。
イ 引用発明1における「静磁場発生装置」は、「MRI装置」を構成するものであるから、本願発明1における「磁気共鳴映像法システムにおける使用のための磁気システム」に相当する。
ウ 引用発明1における「静磁場発生装置402」が発生させる「被検体401を配置する撮像領域」の「静磁場」は、本願発明1における「磁気共鳴映像法システムのためのB_(0)磁場」に相当する。
エ 引用発明1における「撮像領域30にz方向の静磁場を発生させる」「撮像領域30を挟んで上下に配置された一対の静磁場発生コイル32」は、「各平面上で円形であ」ることから、本願発明1における「磁気共鳴映像法システムのためのB_(0)磁場に寄与する磁場を生成するように構成される」「第1のB_(0)磁石と、第2のB_(0)磁石とを含」む「2平面B_(0)磁石」に相当する。
オ 引用発明1における「静磁場を均一にするために静磁場発生コイル32の内側にそれぞれ配置された磁極板31と、磁極板31を連結して磁気回路を構成する継鉄35ならびに鉄柱33」は、「継鉄35と鉄柱33がC形状をなし」ていることから、本願発明1における「C形状の強磁性構造を含み、該C形状の強磁性構造は、該強磁性構造の1つの側のみに沿って磁束のための戻り経路を提供」する「1つの強磁性コンポーネント」に相当する。

すると、本願発明1と、引用発明1とは、次の点で一致する。
<一致点>
「磁気共鳴映像法システムにおける使用のための磁気システムであって、
第1のB_(0)磁石と、第2のB_(0)磁石とを含み、前記磁気共鳴映像法システムのためのB0磁場に寄与する磁場を生成するように構成される、2平面B_(0)磁石と、
前記磁気共鳴映像法システムの撮像領域内の磁束密度を増大させるために、前記2平面B_(0)磁石によって生成される前記磁場の少なくとも一部を取り込んで方向付けるように構成される、少なくとも1つの強磁性コンポーネントと、
を含み、
該少なくとも1つの強磁性コンポーネントは、C形状の強磁性構造を含み、該C形状の強磁性構造は、該強磁性構造の1つの側のみに沿って磁束のための戻り経路を提供し、
磁気システム。」

一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
C形状の強磁性構造を含む強磁性コンポーネントを備えた磁気共鳴映像法システムにおいて、本願発明1は「前記磁気共鳴映像法システムが異なる場所に輸送されることを可能にする少なくとも1つの機構」を備えるのに対し、引用発明1は、据え付け型のシステムであり、そのような機構を備えていない点。
<相違点2>
2平面B_(0)磁石及び少なくとも1つの強磁性コンポーネントにおいて、本願発明1は「0.1T以下の強度の前記B_(0)磁場を生成するように構成される」のに対し、引用発明1は例えば0.2Tから1.5T程度の静磁場を発生するよう構成される点。

(2)相違点についての判断
前記相違点1について検討すると、前記相違点1に係る本願発明1のC形状の強磁性構造を含む強磁性コンポーネントを備えた磁気共鳴映像法システムにおいて「前記磁気共鳴映像法システムが異なる場所に輸送されることを可能にする少なくとも1つの機構」を備える構成は、上記引用文献1-3には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1-3に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-23について
本願発明2も、本願発明1の前記相違点1に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1-3に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

第8 原査定についての判断
令和2年11月24日付けの手続補正により、補正後の請求項1-23は、「磁気共鳴映像法システムが異なる場所に輸送されることを可能にする少なくとも1つの機構」を備えるという技術的事項を有するものとなった。当該技術的事項は、原査定における引用文献A-Gには記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1-23は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Gに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-01-06 
出願番号 特願2017-531985(P2017-531985)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
P 1 8・ 537- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊知地 和之  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
伊藤 幸仙
発明の名称 磁気共鳴映像法のための強磁性増強  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  

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