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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1370003
異議申立番号 異議2020-700155  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-05 
確定日 2020-11-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6572566号発明「粘着シート及び電子機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6572566号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について、訂正することを認める。 特許第6572566号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6572566号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年3月12日〔優先権主張:平成26年3月13日(JP)日本国〕に特願2015-49468号として特許出願され、令和元年8月23日に特許権の設定登録がなされ、同年9月11日に特許掲載公報が発行され、その特許に対し、令和2年3月5日に特許異議申立人である前田洋志(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
令和2年 5月27日付け 取消理由通知
同年 8月 7日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 8月18日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、申立人は、令和2年8月18日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和2年8月7日になされた訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は『特許第6572566号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1からなるものである(なお、訂正に関連する箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に「電子機器を構成する部品の固定に使用する粘着シートであって、基材の片面または両面に、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力が6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下である粘着剤層(A)を有し、前記粘着剤層(A)はアクリル重合体(a1)、粘着付与剤(a2)及び架橋剤(a3)を含有するものであり、前記アクリル重合体(a1)はビニル単量体成分の重合体であって、酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して1質量%?30質量%の範囲で使用し、水酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して0.01質量%?0.2質量%の範囲で使用し、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートを50質量%?98質量%の範囲で使用するものであり、平均質量分子量は80万以上であり、前記粘着付与剤(a2)は重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シート。」とあるのを、
訂正後の請求項1で「電子機器を構成する部品の固定に使用する粘着シートであって、基材の片面または両面に、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力が6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が43.8質量%?70質量%である粘着剤層(A)を有し、前記粘着剤層(A)はアクリル重合体(a1)、粘着付与剤(a2)及び架橋剤(a3)を含有するものであり、
前記アクリル重合体(a1)はビニル単量体成分の重合体であって、酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して1質量%?30質量%の範囲で使用し、水酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して0.01質量%?0.2質量%の範囲で使用し、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートを50質量%?98質量%の範囲で使用し、前記水酸基を有するビニル単量体として4-ヒドロキシブチルアクリレートを含有するものであり、平均質量分子量は80万以上であり、前記粘着付与剤(a2)は重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シート。」との記載に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?8も同様に訂正する。

(2)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?8について、その請求項2?8はいずれも請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、訂正前の請求項1?8に対応する訂正後の請求項1?8は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載に「り、ゲル分率が43.8質量%?70質量%であ」との記載を追加することにより、訂正前の請求項1に記載された「粘着剤層(A)」の技術的範囲を更に限定するとともに、訂正前の請求項1の記載に「し、前記水酸基を有するビニル単量体として4-ヒドロキシブチルアクリレートを含有」との記載を追加することにより、訂正前の請求項1に記載された「水酸基を有するビニル単量体」の技術的範囲を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項1は、上記ア.に示したように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項1は、本件特許明細書の段落0060の「粘着剤層(A)の架橋度合いの指標としては…ゲル分率が挙げられる。前記ゲル分率としては、20質量%?70質量%の範囲であることが好ましく」との記載、及び同段落0176の「表2…実施例8…ゲル分率(質量%)…43.8」との記載、並びに同段落0034の「前記水酸基を有するビニル単量体としては、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを使用することが好ましく」との記載に基づいて導き出されるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正による訂正後の請求項1?8に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】電子機器を構成する部品の固定に使用する粘着シートであって、基材の片面または両面に、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力が6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が43.8質量%?70質量%である粘着剤層(A)を有し、前記粘着剤層(A)はアクリル重合体(a1)、粘着付与剤(a2)及び架橋剤(a3)を含有するものであり、
前記アクリル重合体(a1)はビニル単量体成分の重合体であって、酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して1質量%?30質量%の範囲で使用し、水酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して0.01質量%?0.2質量%の範囲で使用し、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートを50質量%?98質量%の範囲で使用し、前記水酸基を有するビニル単量体として4-ヒドロキシブチルアクリレートを含有するものであり、平均質量分子量は80万以上であり、前記粘着付与剤(a2)は重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シート。
【請求項2】前記粘着剤層(A)が1μm?100μmの範囲の厚さを有するものである請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】前記基材が発泡体基材である請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】前記発泡体基材が、1500μm以下の厚さを有するものである請求項3に記載の粘着シート。
【請求項5】前記アクリル重合体(a1)が、前記ビニル単量体成分の全量に対する、(メタ)アクリル単量体以外のビニル単量体の含有量が合計5質量%以下、及び、ホモポリマーのガラス転移温度が100℃以上のアルキル(メタ)アクリレートの含有割合が合計1質量%以下である請求項3または4に記載の粘着シート。
【請求項6】前記粘着付与樹脂(a2)が、重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる2種以上を含有するものである請求項3?5のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項7】携帯電子機器を構成するきょう体またはレンズの固定に使用する請求項1?6のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項8】電子機器を構成する2以上の部品を、請求項1?7のいずれか1項に記載の粘着シートを用い固定することによって得られる電子機器。」

第4 取消理由通知の概要
本件特許の訂正前の請求項1?8に係る発明に対して、当審が令和2年5月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

〔理由1〕本件特許の請求項1?2及び8に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
刊行物1:特開2010-65095号公報(甲第1号証に同じ。)
よって、本件特許の請求項1?2及び8に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?3に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1:特開2010-65095号公報(甲第1号証に同じ。)
刊行物2:特開2013-56968号公報(甲第2号証に同じ。)
刊行物3:特開2009-74060号公報(甲第3号証に同じ。)
よって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由3〕本件特許の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
(あ)理由5に示したように、本件特許の請求項1の「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力」という「機能・特性等」に係る事項は明確ではないから、当該「機能・特性等」に係る事項で特定された物をどのように作るか理解できないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たし得る記載になっているとは認められない。
よって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由4〕本件特許の請求項1?8に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
(い)本件特許明細書の段落0175の実施例1?10の「試験結果」により、「引張強さ」に比例して「静荷重保持力」が必ず増大するという傾向を示さないことが具体的に裏付けられているので、本件特許明細書の実施例1?10の具体例以外のものにまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(う)本件請求項1に記載された、酸基を有するビニル単量体の「1質量%?30質量%の範囲」という広範な数値範囲の全て、水酸基を有するビニル単量体の「0.01質量%?0.2質量%の範囲」という広範な数値範囲の全て、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートを50質量%?98質量%の範囲」という広範な数値範囲の全て、平均質量分子量が「80万以上」という広範な数値範囲の全て、及び粘着付与剤(a2)の「5?60質量部」という広範な数値範囲の全てが、上記『静荷重保持力に優れた粘着シートの提供』という課題を解決できると認識できる範囲にあるとはいえず、本件特許明細書の実施例1?10の具体例以外のものにまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由5〕本件特許の請求項1?8に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
(え)本件特許の請求項1の「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力」という「機能・特性等」の定義ないし意味するところについて、本件特許明細書の段落0175?0176の表1?表2においては、実施例1(厚さ65μm)の500%の値が19.9N/cm^(2)であり、実施例10(厚さ80μm)の500%の値が23.1N/cm^(2)であることが示されているので、当該「応力」が、一義的に定まる性質にあるものとして理解することができず「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確」であるといわざるを得ない。
よって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開2010-65095号公報(甲第1号証に同じ。)
刊行物2:特開2013-56968号公報(甲第2号証に同じ。)
刊行物3:特開2009-74060号公報(甲第3号証に同じ。)

上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1及び6
「【請求項1】GPC法によりポリスチレン換算分子量として測定された重量平均分子量が50万?150万であるアクリル酸エステル系樹脂と、アルコール性水酸基を有し且つ軟化点が140?170℃である粘着付与樹脂と、テルペンフェノール樹脂とを含み、ゲル分率が5?40重量%であることを特徴とする粘着剤。…
【請求項6】基材の両面に、請求項1に記載の粘着剤からなる粘着剤層が積層一体化されてなることを特徴とする両面粘着シート。」

摘記1b:段落0001、0006及び0010
「【0001】本発明は、被着体が変形しても剥離されにくい粘着剤層を形成することのできる粘着剤、該粘着剤からなる粘着剤層を含有してなる両面粘着シート、及び、該両面粘着シートを介して表示パネルとバックライトとが貼着されてなる表示装置に関する。…
【0006】そして、液晶表示装置を構成する部材が、その薄型化によって反りなどの変形を受けやすくなっていることから、液晶表示装置の小型化・薄型化に対応する両面粘着シートとしては、液晶パネルやバックライトの変形に伴って発生する剥離応力に耐えうるものであることが必要である。…
【0010】本発明は、被着体が変形しても剥離されにくい粘着剤層を形成することができ且つ粘着剤層の厚みを10μm程度まで薄層化させても充分な粘着力を発現する粘着剤、該粘着剤からなる粘着剤層を含有してなる両面粘着シート、及び、該両面粘着シートを介して表示パネルとバックライトとが貼着されてなる信頼性に優れた液晶表示装置を提供する。」

摘記1c:段落0014、0022、0030及び0041
「【0014】上記アクリル酸エステル系樹脂中におけるアクリル酸エチル成分の含有量は、少ないと、形成される粘着剤層が、被着体の変形に伴って生じる剥離応力によって被着体から剥離し易くなることがあり、多いと、粘着剤の粘度が高くなりすぎて塗工性が低下し、或いは、形成される粘着剤層が硬くなりすぎることがあるので、5?30重量%が好ましく、8?25重量%がより好ましい。…
【0022】水酸基含有アクリル酸エステルモノマー成分及び水酸基含有メタクリル酸エステルモノマー成分の総含有量は、アクリル酸エステル系樹脂中、0.01?0.5重量%が好ましく、0.05?0.3重量%がより好ましい。…
【0030】上記アルコール性水酸基を有する粘着付与樹脂としては、特に限定されず、例えば、ロジンエステル系樹脂、水素化テルペンフェノール樹脂などが挙げられ、ロジンエステル系樹脂が好ましく、重合ロジンエステル樹脂がより好ましい。…
【0041】又、上記粘着剤では、架橋剤を添加して粘着剤を構成する樹脂の主鎖間に架橋構造を形成するのが好ましい。架橋剤の種類や量を適宜、調整することによって、粘着剤のゲル分率を所望の範囲に調整することが容易になる。上記架橋剤としては、特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート型架橋剤などが挙げられ、イソシアネート系架橋剤が好ましい。これは、イソシアネート系架橋剤中のイソシアネート基と、上述の粘着付与樹脂中のアルコール性水酸基とが反応してウレタン結合が形成される。従って、粘着剤により形成される粘着剤層を、被着体の変形に伴って生じる剥離応力により被着体から剥離されにくいものにすることができるからである。又、上記粘着剤を用いて後述するように両面粘着シートを作製した場合、架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を用いた粘着剤は、基材との密着性に優れているので好ましい。」

摘記1d:段落0064及び0084
「【0064】(両面粘着シートの製造)上記のようにして得られたアクリル酸エステル系樹脂溶液に、アクリル酸エステル系樹脂固形分100重量部に対して、表1、2に示す所定量の、重合ロジンエステル樹脂A(水酸基価:46、軟化点:152℃)、水添ロジンエステル樹脂B(荒川化学社製 商品名「パインクリスタルKE359」、水酸基価:40、軟化点:100℃)、不均化ロジンエステル樹脂C(荒川化学社製 商品名「スーパーエステルA125」、水酸基価:15、軟化点:125℃)、重合ロジンエステル樹脂D(荒川化学社製 商品名「ペンセルD125」、水酸基価:32、軟化点:125℃)、重合ロジンエステル樹脂E(荒川化学社製 商品名「ペンセルD135」、水酸基価:40、軟化点:135℃)、重合ロジンエステル樹脂F(荒川化学社製 商品名「ペンセルD160」、水酸基価:41、軟化点:160℃)、テルペンフェノール樹脂G(ヤスハラケミカル社製 商品名「マイティーエースG150」、軟化点:150℃)、テルペンフェノール樹脂H(ヤスハラケミカル社製 商品名「YSポリスターT130」、軟化点:130℃)、及び、石油樹脂(三井石油化学社製 商品名「FTR6100」、軟化点:100℃)を添加し、酢酸エチルを加えて攪拌し、更に、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製 商品名「コロネートL45」)を表1、2に示す所定量添加して攪拌することにより、固形分20重量%の粘着剤溶液を得た。なお、表1、2中におけるイソシアネート系架橋剤の量は、イソシアネート系架橋剤の固形分の重量部を示す。…
【0084】【表1】



上記刊行物2には、次の記載がある。
摘記2a:請求項1及び4
「【請求項1】樹脂フィルム層と着色層とを有する着色基材の少なくとも一面に粘着剤層が設けられた着色粘着テープであって、
前記樹脂フィルム層の厚みが1?5μm、前記着色層の厚みが0.5?5μmであり、
前記着色層が、ガラス転移温度が-30℃?10℃のポリエステルウレタン樹脂を主たるバインダー樹脂とするポリエステルウレタン系インキからなり、
テープの総厚みが15μm以下であることを特徴とする着色粘着テープ。…
【請求項4】前記粘着層の厚みが0.5?5μmである請求項1?3のいずれかに記載の着色粘着テープ。」

上記刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:段落0020
「【0020】上記粘着体部分の厚さは、60μm以下であり、好ましくは10?60μm、より好ましくは25?60μmであり、さらに好ましくは40?60μmである。」

(2)刊行物1に記載された発明
摘記1aの「GPC法によりポリスチレン換算分子量として測定された重量平均分子量が50万?150万であるアクリル酸エステル系樹脂と、アルコール性水酸基を有し且つ軟化点が140?170℃である粘着付与樹脂と、テルペンフェノール樹脂とを含み、ゲル分率が5?40重量%であることを特徴とする粘着剤。…基材の両面に、請求項1に記載の粘着剤からなる粘着剤層が積層一体化されてなることを特徴とする両面粘着シート。」との記載、
摘記1bの「本発明は、被着体が変形しても剥離されにくい粘着剤層を形成することのできる粘着剤、該粘着剤からなる粘着剤層を含有してなる両面粘着シート、及び、該両面粘着シートを介して表示パネルとバックライトとが貼着されてなる表示装置に関する。」との記載、及び
摘記1dの表1の実施例7の記載からみて、刊行物1には、
『基材の両面に、アクリル酸エチル20.0重量部、アクリル酸-n-ブチル20.0重量部、アクリル酸-2-エチルヘキシル55.0重量部、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル0.05重量部、及びアクリル酸5.0重量部とを重合して得られた重量平均分子量が87万であるアクリル酸エステル系樹脂と、軟化点が152℃である重合ロジンエステル樹脂A10重量部と、軟化点が150℃であるテルペンフェノール樹脂C10重量部と、イソシアネート系架橋剤3.0重量部とを含み、被着体が変形しても剥離されにくい粘着剤層を形成することのできる、ゲル分率が10重量%である粘着剤からなる粘着剤層が積層一体化されてなる、表示パネルとバックライトとを貼着させるための両面粘着シート。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)本件特許の請求項1に係る発明について
ア.対比
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「基材の両面に」は、本1発明の「基材の片面または両面に」に相当する。
刊1発明の「アクリル酸-n-ブチル20.0重量部」及び「アクリル酸-2-エチルヘキシル55.0重量部」は、本1発明の「アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートを50質量%?98質量%の範囲で使用し」に相当し、
刊1発明の「アクリル酸-2-ヒドロキシエチル0.05重量部」及び「アクリル酸5.0重量部」は、本1発明の「水酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して0.01質量%?0.2質量%の範囲で使用し」及び「酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して1質量%?30質量%の範囲で使用し」に相当し、
刊1発明の「重量平均分子量が87万である」は、本1発明の「平均質量分子量は80万以上であり」に相当するところ、
刊1発明の「アクリル酸エチル20.0重量部、アクリル酸-n-ブチル20.0重量部、アクリル酸-2-エチルヘキシル55.0重量部、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル0.05重量部、及びアクリル酸5.0重量部とを重合して得られた重量平均分子量が87万であるアクリル酸エステル系樹脂」は、本1発明の「アクリル重合体(a1)」及び「前記アクリル重合体(a1)はビニル単量体成分の重合体であって、酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して1質量%?30質量%の範囲で使用し、水酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して0.01質量%?0.2質量%の範囲で使用し、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートを50質量%?98質量%の範囲で使用…するものであり、平均質量分子量は80万以上であり」に相当する。
刊1発明の「軟化点が152℃である重合ロジンエステル樹脂A10重量部」及び「軟化点が150℃であるテルペンフェノール樹脂C10重量部」は、摘記1cの「粘着付与樹脂としては…ロジンエステル系樹脂、水素化テルペンフェノール樹脂などが挙げられ」との記載にあるように「粘着付与樹脂」として使用されるものであるから、本1発明の「粘着付与剤(a2)」及び「前記粘着付与剤(a2)は重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用する」に相当する。
刊1発明の「イソシアネート系架橋剤3.0重量部」は、本1発明の「架橋剤(a3)」に相当する。
刊1発明の「被着体が変形しても剥離されにくい粘着剤層を形成することのできる、ゲル分率が10重量%である粘着剤からなる粘着剤層」は、本1発明の「粘着剤層(A)」に相当する。
刊1発明の「表示パネルとバックライトとを貼着させるための両面粘着シート」は、本1発明の「電子機器を構成する部品の固定に使用する粘着シート」に相当する。

してみると、本1発明と刊1発明は『電子機器を構成する部品の固定に使用する粘着シートであって、基材の片面または両面に、粘着剤層(A)を有し、前記粘着剤層(A)はアクリル重合体(a1)、粘着付与剤(a2)及び架橋剤(a3)を含有するものであり、前記アクリル重合体(a1)はビニル単量体成分の重合体であって、酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して1質量%?30質量%の範囲で使用し、水酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して0.01質量%?0.2質量%の範囲で使用し、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートを50質量%?98質量%の範囲で使用するものであり、平均質量分子量は80万以上であり、前記粘着付与剤(a2)は重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シート。』という点において一致し、次の(α)?(γ)の3つの点において相違する。

(α)粘着剤層(A)の「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力」が、本1発明は「6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下」であるのに対して、刊1発明は、当該応力の値が不明である点。

(β)粘着剤層(A)の「ゲル分率」が、本1発明は「43.8質量%?70質量%」であるのに対して、刊1発明は「10重量%」である点。

(γ)水酸基を有するビニル単量体として、本1発明は「4-ヒドロキシブチルアクリレートを含有する」のに対して、刊1発明は「4-ヒドロキシブチルアクリレートを含有する」ものではない点。

イ.判断
上記ア.に示したとおり、本1発明と刊1発明は、(α)?(γ)の3つの点において相違する。
したがって、本1発明は、刊行物1に実質的に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

次に、事案に鑑み、まず、上記(β)の相違点について検討する。
刊行物1の請求項1(摘記1a)には「ゲル分率が5?40重量%であることを特徴とする粘着剤。」との記載がなされており、本1発明の「43.8質量%?70質量%」と重複しない。
そして、刊行物1に記載された発明は「ゲル分率が5?40重量%である」ことを特徴とするものであるから、刊1発明の「10重量%」というゲル分率の値を、本1発明の「43.8質量%?70質量%」というゲル分率の値にすることに、動機付けがあるとはいえない。
してみると、刊行物1?3に記載された全ての技術事項を参酌しても、上記(β)の相違点に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易であるとはいえない。
また、本件特許明細書の段落0060の「ゲル分率としては、20質量%?70質量%の範囲であることが好ましく、…より一層優れた静荷重保持力を備えた粘着シートを得るうえでより好ましい。」との記載からみて、上記(β)の相違点に係る構成を具備することが、技術的に無意味な構成要件の付加に相当するものとは認められない。
したがって、上記(α)及び(γ)の相違点について検討するまでもなく、本1発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないとはいえない。

(4)本件特許の請求項2?8に係る発明について
本件特許の請求項2?8に係る発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、本1発明の新規性及び進歩性が刊行物1?3によって否定できない以上、当該請求項2及び8に係る発明が、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、また、当該請求項2?8に係る発明が特許法第29条第2項により特許を受けることができないともいえない。

2.理由3(実施可能要件)及び理由5(明確性要件)について
令和2年8月7日付けの意見書の第6頁第14?16行では『なお、「歪み量500%」における引張強さの測定値につき、実施例10の「23.1」は実施例1の「19.9」と同じ値であるところ誤記していたことを申し述べます。』との釈明がなされている。
してみると、上記第4の〔理由5〕の(え)の記載不備につき、本件特許の請求項1の「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力」という「機能・特性等」の定義ないし意味するところが「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確」であるとまではいえないから、上記〔理由5〕の明確性要件について、理由があるとはいえない。
同様に、上記第4の〔理由3〕の(あ)の記載不備につき、本件特許の請求項1の「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力」という「機能・特性等」で特定された物をどのように作るか理解できないとまではいえないから、上記〔理由3〕の実施可能要件について、理由があるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるとはいえず、同条第6項第2号の記載を満たさない特許出願に対してなされたものであるともいえない。

3.理由4(サポート要件)について
本件訂正の訂正事項1により、本件特許の請求項1及びその従属項に係る発明の発明特定事項として、粘着剤層(A)の「ゲル分率が43.8質量%?70質量%である」ことと、水酸基を有するビニル単量体として「4-ヒドロキシブチルアクリレートを含有する」ことが発明特定事項として追加された。
そして、本件特許明細書の段落0007の記載から把握される『静荷重保持力に優れた粘着シートの提供』という本件特許発明の解決しようとする課題に照らし、同段落0175?0177の表1?表3には、上記「ゲル分率が43.8質量%?70質量%である」という発明特定事項を満たさない比較例2(ゲル分率が31.0質量%)のもの、及び上記「4-ヒドロキシブチルアクリレートを含有する」という発明特定事項を満たさない比較例1(水酸基を有するビニル単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレートを使用)のものが、当該課題を解決できると認識できる「試験結果」になっていないのに対して、上記2つの発明特定事項の両方を満たす実施例1?10のものが、当該課題を解決できると認識できる「試験結果」になっている。
さらに、令和2年8月7日付けの意見書の第4頁第24?32行では『本件特許発明においては、静荷重保持力を優れたものにするために、被着体に対して接着性を発揮可能となる柔らかさ(伸び、タック性)だけでなく、一定荷重を受けても変形しない硬さを有すること、即ち硬さと柔らかさ(伸び)とのバランスが重要であり、これを所定の数値範囲の「応力」と、所定の数値範囲の「ゲル分率」と、粘着剤層の組成とによって実現しています。引張強さと静荷重保持力との間に比例関係が成立することは、当該本件特許発明の課題の解決に必須ではなく、あくまでも訂正後の請求項1に規定する応力の範囲内にあれば(当該請求項1の構成を満たせば)、本件特許発明の課題を解決し得ることは当業者であれば理解できると考えます。』との主張がなされている。
してみると、本件訂正の訂正事項1により追加された上記「ゲル分率が43.8質量%?70質量%である」という発明特定事項、及び上記「4-ヒドロキシブチルアクリレートを含有する」という発明特定事項の2つを満たせば、上記第4の〔理由4〕の(い)及び(う)の指摘事項に拘わらず、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
したがって、本件特許の請求項1?8に係る発明の特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではないとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。

4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(新規性)について
申立人が主張する申立理由1(新規性)の要旨は、本件特許の請求項1、2、5?8に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)に違反するというものである(申立書の第21頁第第16行及び第33頁第26行参照)。
ここで、甲第1号証に基づく理由は、上記第4〔理由1〕において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。
次に、甲第2号証に基づく理由について、甲第2号証の請求項1(摘記2a)には「樹脂フィルム層と着色層とを有する着色基材の少なくとも一面に粘着剤層が設けられた着色粘着テープであって、前記樹脂フィルム層の厚みが1?5μm、前記着色層の厚みが0.5?5μmであり、前記着色層が、ガラス転移温度が-30℃?10℃のポリエステルウレタン樹脂を主たるバインダー樹脂とするポリエステルウレタン系インキからなり、テープの総厚みが15μm以下であることを特徴とする着色粘着テープ。」についての発明が記載されている。
しかしながら、甲第2号証の刊行物(上記刊行物2)には、本1発明の「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力が6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が43.8質量%?70質量%である粘着剤層(A)」についての記載がない。
そして、上記1.(4)に示した理由と同様に、本件特許明細書の段落0060の「ゲル分率としては、20質量%?70質量%の範囲であることが好ましく、…より一層優れた静荷重保持力を備えた粘着シートを得るうえでより好ましい。」との記載からみて、本1発明の「ゲル分率が43.8質量%?70質量%である」という構成を具備することが、技術的に無意味な構成要件の付加に相当するものとは認められない。
してみると、本1発明と甲第2号証の刊行物に記載の発明は、実質的な差異といえる相違点が存在することから、両者が実質的に同一であるとはいえない。
したがって、本1発明は、甲第2号証の刊行物に実質的に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、甲第2号証に基づく申立理由1(新規性)の理由に理由があるとはいえない。

(2)申立理由2(進歩性)について
申立人が主張する申立理由2(進歩性)の要旨は、本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、又は甲第3号証及び甲第1号証に基づけば、容易に想到し得るから、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)に違反するというものである(申立書の第21頁第第17行、第33頁第27行、及び第44頁第11?12行参照)。
そして、甲第1?3号証に基づく理由は、上記第4〔理由2〕において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(3)申立理由3(サポート要件)について
ア.申立理由3(サポート要件)の概要
申立人が主張する申立理由3(サポート要件)の要旨は、次の(その4)?(その7)の点で、本件特許の請求項1?8に係る発明は、審査基準におけるサポート要件違反の類型(4)(発明の課題を解決するのに必須の発明特定事項を欠いている発明)に該当し、特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)に違反するというものである〔ここで、申立人は、(α)本件特許発明における「基材の片面または両面に、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力が6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下である粘着剤層(A)を有し」という発明特定事項を(B)と略称しているところ、以下においては、当該(B)という略称を踏襲して表記する。〕。
(その4)本件特許発明における(B)を満たすためには、シクロヘキシルアクリレートを、ビニル単量体成分の全量に対して、4質量%以上使用することが必須であると考えられるのに対して、本件特許発明は当該事項を発明特定事項としていない(申立書の第45頁)。
(その5)本件特許発明における(B)を満たすためには、(メタ)アクリル単量体以外のビニル単量体の含有量が、ビニル単量体成分の全量に対して1質量%以下であることが必須であると考えられるのに対して、本件特許発明は当該事項を発明特定事項としていない(申立書の第46頁)。
(その6)本件特許発明における(B)を満たすためには、アクリル重合体(a1)は、平均質量分子量が160万程度であることが必須であると考えられるのに対して、本件特許発明は当該事項を発明特定事項としていない(申立書の第47頁)。
(その7)本件特許発明における(B)における「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ」は粘着剤層の厚さが50μmの場合の数値であるのに、本件特許発明は粘着剤層の厚さが50μmであることを発明特定事項としていない(申立書の第48頁)。

イ.(その4)の点について
本件特許明細書をみても、本件特許発明における(B)を満たすためには、シクロヘキシルアクリレートを、ビニル単量体成分の全量に対して、4質量%以上使用することが必須であるとはいえない。また、本件特許明細書には、この点を充足しなくても課題を解決できる具体例が記載されている。すなわち、段落0137の「調製例4」で製造された「アクリル重合体(A-4)」は「シクロヘキシルアクリレートを使用しない」ものであり、同段落0154の「実施例4」のものは、当該「アクリル重合体(A-4)」を用いているが、本件特許の所定の課題を解決できているものである。このため、上記(その4)の理由によっては、本件特許がサポート要件に違反してなされたものであるとはいえない。

ウ.(その5)の点について
本件特許明細書をみても、本件特許発明における(B)を満たすためには、(メタ)アクリル単量体以外のビニル単量体の含有量が、ビニル単量体成分の全量に対して1質量%以下であることが必須であるとはいえない。また、一般に、所望とする目的や効果を損なわない範囲で任意の成分を共重合することができることが当業界の技術常識であり、かつ、本件特許明細書の段落0029には「前記ビニル単量体成分としては…酢酸ビニルやスチレン等の(メタ)アクリル単量体以外のビニル単量体含有量が5質量%以下…である。」との記載もあるので、(メタ)アクリル単量体以外のビニル単量体の含有量が「1質量%以下」でなくとも課題を解決できると認識できる。このため、上記(その5)の理由によっては、本件特許がサポート要件に違反してなされたものであるとはいえない。

エ.(その6)の点について
本件特許明細書をみても、本件特許発明における(B)を満たすためには、アクリル重合体(a1)は、平均質量分子量が160万程度であることが必須であるとはいえない。また、本件特許明細書には、この点を充足しなくても課題を解決できる具体例が記載されている。すなわち、本件特許明細書の段落0141の「調製例8」で製造された「アクリル重合体(A-8)」は「重量平均分子量81万」のものであり、同段落0158の「実施例8」のものは、当該「アクリル重合体(A-8)」を用いているが、本件特許の所定の課題を解決できているものである。このため、上記(その6)の理由によっては、本件特許がサポート要件に違反してなされたものであるとはいえない。

オ.(その7)の点について
本件特許明細書をみても、本件特許発明における(B)における「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ」は粘着剤層の厚さが50μmであることが必須であるとはいえない。また、本件特許明細書には、この点を充足しなくても課題を解決できる具体例が記載されている。すなわち、本件特許明細書の段落0160の「実施例10…乾燥後の粘着剤層の厚さを65μmから80μmに変更すること以外は、実施例1と同様の方法」との記載があるので、粘着剤層の厚さが「50μm」以外であっても課題を解決できると認識できる。このため、上記(その7)の理由によっては、本件特許がサポート要件に違反してなされたものであるとはいえない。

カ.サポート要件のまとめ
以上総括するに、上記(その4)?(その7)の理由によっては、本件特許がサポート要件に違反してなされたものであるとはいえない。
また、上記3.に示したように、本件訂正の訂正事項1により追加された上記「ゲル分率が43.8質量%?70質量%である」という発明特定事項、及び上記「4-ヒドロキシブチルアクリレートを含有する」という発明特定事項の2つを満たせば、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではないとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、訂正後の請求項1?8に係る発明の特許を取り消すことができなない。
また、他に訂正後の請求項1?8に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 電子機器を構成する部品の固定に使用する粘着シートであって、基材の片面または両面に、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく応力が6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が43.8質量%?70質量%である粘着剤層(A)を有し、前記粘着剤層(A)はアクリル重合体(a1)、粘着付与剤(a2)及び架橋剤(a3)を含有するものであり、
前記アクリル重合体(a1)はビニル単量体成分の重合体であって、酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して1質量%?30質量%の範囲で使用し、水酸基を有するビニル単量体を前記ビニル単量体成分の全量に対して0.01質量%?0.2質量%の範囲で使用し、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートを50質量%?98質量%の範囲で使用し、前記水酸基を有するビニル単量体として4-ヒドロキシブチルアクリレートを含有するものであり、平均質量分子量は80万以上であり、前記粘着付与剤(a2)は重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記粘着剤層(A)が1μm?100μmの範囲の厚さを有するものである請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記基材が発泡体基材である請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記発泡体基材が、1500μm以下の厚さを有するものである請求項3に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記アクリル重合体(a1)が、前記ビニル単量体成分の全量に対する、(メタ)アクリル単量体以外のビニル単量体の含有量が合計5質量%以下、及び、ホモポリマーのガラス転移温度が100℃以上のアルキル(メタ)アクリレートの含有割合が合計1質量%以下である請求項3または4に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着付与樹脂(a2)が、重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる2種以上を含有するものである請求項3?5のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項7】
携帯電子機器を構成するきょう体またはレンズの固定に使用する請求項1?6のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項8】
電子機器を構成する2以上の部品を、請求項1?7のいずれか1項に記載の粘着シートを用い固定することによって得られる電子機器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-11-11 
出願番号 特願2015-49468(P2015-49468)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 磯貝 香苗  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 木村 敏康
瀬下 浩一
登録日 2019-08-23 
登録番号 特許第6572566号(P6572566)
権利者 DIC株式会社
発明の名称 粘着シート及び電子機器  
代理人 岩本 明洋  
代理人 大野 孝幸  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 大野 孝幸  
代理人 岩本 明洋  
代理人 小川 眞治  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 廣田 浩一  
代理人 小川 眞治  
代理人 流 良広  
代理人 流 良広  
代理人 廣田 浩一  
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